(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098171
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸放出材
(51)【国際特許分類】
B01J 20/22 20060101AFI20240716BHJP
【FI】
B01J20/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001448
(22)【出願日】2023-01-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「NEDO先導研究プログラム/未踏チャレンジ2050/二酸化炭素回収と資源化の複合化技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】津野地 直
【テーマコード(参考)】
4G066
【Fターム(参考)】
4G066AA61C
4G066AB10B
4G066AB13B
4G066BA36
4G066CA35
4G066DA03
4G066FA37
4G066GA01
4G066GA06
(57)【要約】
【課題】吸着させた二酸化炭素の放出に大量のエネルギーを要しない二酸化炭素吸放出材を提供する。
【解決手段】二酸化炭素吸放出材は、Si/Al比が90以上であるFAU骨格のアルミノシリケートにジエチレントリアミンが担持されている。また、ジエチレントリアミンを20~60重量%含有することが好ましく、30~50重量%含有することがより好ましい。二酸化炭素吸放出材は、吸着したCO
2を温和な条件で放出する特性を有するため、DACへの適用が期待できる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si/Al比が90以上であるFAU骨格のアルミノシリケートにジエチレントリアミンが担持されている、
ことを特徴とする二酸化炭素吸放出材。
【請求項2】
前記ジエチレントリアミンを20~60重量%含有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素吸放出材。
【請求項3】
前記ジエチレントリアミンを30~50重量%含有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素吸放出材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸放出材に関する。
【背景技術】
【0002】
地球での環境問題の代表例として地球温暖化が挙げられ、その原因となる温室効果ガスにはCO2が含まれている。二酸化炭素の排出量は人類の発展と共に増加し、現状の排出傾向がそのまま進行すると、2100年に大気中の二酸化炭素濃度が530~980ppmとなると予測されており、この二酸化炭素濃度の上昇によって、1990年から2100年にかけて1.4から6.1℃の世界平均気温変化を引き起こす可能性がある。
【0003】
地球温暖化を抑制するために、大気中の二酸化炭素を直接回収する技術(DAC:Direct Air Capture)が注目されている。二酸化炭素吸着材として、例えば特許文献1~3のように、シリカやアルミナ、ケイ酸カルシウム等の多孔質材料にアミンを担持させたアミン系吸着材が提案されている。そして、吸着した二酸化炭素の利活用、吸着材の再利用が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-164656号公報
【特許文献2】特開2018-202275号公報
【特許文献3】特開2012-139622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アミン系吸着材は、水蒸気共存下でも吸着能力を示すことから、二酸化炭素回収分野において有望視されているものの、吸着後の二酸化炭素を放出させるには、80~120℃での加熱が必要であり、エネルギーを大量に消費してしまう。エネルギー問題の観点から、吸着した二酸化炭素の利活用、吸着材の再利用を困難にしている。
【0006】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、吸着させた二酸化炭素の放出に大量のエネルギーを要しない二酸化炭素吸放出材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る二酸化炭素吸放出材は、
Si/Al比が90以上であるFAU骨格のアルミノシリケートにジエチレントリアミンが担持されている、
ことを特徴とする。
【0008】
また、前記ジエチレントリアミンを20~60重量%含有することが好ましい。
【0009】
また、前記ジエチレントリアミンを30~50重量%含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吸着させた二酸化炭素の放出に大量のエネルギーを要しない二酸化炭素吸放出材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】Si/Al比が異なる各種FAU型ゼオライトのXRDパターンを示す図である。
【
図2】
図2(A)は、FAU300にPEIを担持させた二酸化炭素吸放出材のXRDパターン、
図2(B)は、FAU300にDETAを担持させた二酸化炭素吸放出材のXRDパターンを示す図である。
【
図3】DETA、PEIを担持した二酸化炭素吸放出材のSEM像を示す写真である。
【
図4】PEI40/FAU300のTG曲線を示す図である。
【
図5】Si/Al比が異なる二酸化炭素吸放出材のCO
2吸着容量を示すグラフ(
図5(A))、CO
2吸着速度を示すグラフ(
図5(B))である。
【
図6】DETA50/FAU300およびブランクのCO
2吸着破過曲線を示す図である。
【
図7】
図7(A)は、湿度条件下におけるDETA50/FAU300のCO
2吸着容量および脱着量を示すグラフ、
図7(B)は湿度条件下におけるPEI50/FAU300のCO
2吸着容量および脱着量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施の形態に係る二酸化炭素吸放出材は、FAU骨格のアルミノシリケートにジエチレントリアミン(以下、DETA)が担持されている。ここで、FAU骨格とは、国際ゼオライト学会で定義されるIUPAC準拠の構造コードで規定される結晶構造を示す。
【0013】
アルミノシリケートのSi/Al比は90以上である。Si/Al比が小さい場合、二酸化炭素の吸着容量が低下してしまう。アルミノシリケートにおけるAl成分は、酸塩基サイトの濃度に影響を与える。そして、吸着される二酸化炭素、担持されているDETAはそれぞれ酸性、塩基性の性質をもつので、アルミノシリケートの酸塩基サイトの濃度の相違によって二酸化炭素の吸着容量に影響を与えるためと考えられる。
【0014】
アルミノシリケートに担持されているDETAは第1級アミン、第2級アミンを有し、これらの吸着サイトにて二酸化炭素を吸着させる。二酸化炭素吸放出材に占めるDETAの含有量は20~60重量%であることが好ましく、30~50重量%であることがより好ましい。DETAの含有量が少ない場合、二酸化炭素の吸着サイトが少なくなるので、二酸化炭素の吸着容量が減少する。一方、DETAの含有量が多い場合、DETAによってアルミノシリケートの細孔が塞がれてしまうことから、二酸化炭素と接触可能な吸着サイトが減少するため、二酸化炭素の吸着容量が減少してしまう。
【0015】
二酸化炭素吸放出材は、FAU骨格のアルミノシリケートを用いて含浸法により製造することができる。具体的には、FAU骨格のアルミノシリケートをエタノール等の溶媒に分散させ、所定量のDETAを加えて攪拌する。そして、完全に乾燥させて溶媒を除去することで二酸化炭素吸放出材を製造し得る。なお、アルミノシリケートとDETAとの配合比を80:20~40:60とすることで、DETAを20~60重量%含有する二酸化炭素吸放出材が得られる。
【0016】
本実施の形態に係る二酸化炭素吸放出材は、良好な吸着性能を有するとともに、温和な条件にて、400ppmの濃度で吸着した二酸化炭素を放出する特性を有する。例えば、室温程度の空気を通じることでも、吸着した二酸化炭素の30~75%程度を放出させることが可能である。したがって、二酸化炭素を吸着させた後、放出させるために高エネルギーやその要因となる追加加熱機器を要しない。そして、二酸化炭素吸放出材は、二酸化炭素の放出後に再利用が可能である。このように、二酸化炭素吸放出材は、吸着した二酸化炭素を温和な条件で放出する特性を有するため、DACへの適用が期待できる。
【実施例0017】
(Si/Al比が異なるFAU型ゼオライトの調製)
Si/Al比が2.75のゼオライト(HSZ-360HUA、Si/Al=2.75、東ソー株式会社製)、およびSi/Al比が5のFAU型ゼオライト(HSZ-350HOA、東ソー株式会社製)を用いて、以下のように脱アルミニウム処理を行うことで、Si/Al比が25.5、99.6、300のFAU型ゼオライトを準備した。
【0018】
市販のFAU型ゼオライトを硫酸水溶液に拡散し、60℃で4時間処理することで脱アルミニウム処理を行った。濾過で分離した固体を60℃の純水で洗浄し、125℃で一晩乾燥することで、Si/Al比を調整したFAU型ゼオライトを得た。Si/Al比は硫酸濃度を異ならせることで調整した。これらSi/Al比が2.75、5、25.5、99.6、300であるFAU型ゼオライトをそれぞれFAU2.75、FAU5、FAU27.5、FAU99.6、FAU300と記す。
【0019】
FAU2.75、FAU5、FAU27.5、FAU99.6、FAU300のXRDパターンを
図1に示す。いずれもFAU構造に対応するピーク以外は検出されず、FAU型ゼオライトであることを確認した。
【0020】
(二酸化炭素吸放出材の調製)
準備したFAU型ゼオライトを用い、以下のように含浸法によってアミンを担持させ、二酸化炭素吸放出材を製造した。準備したFAU型ゼオライトをエタノールに加え、攪拌して分散させた。その後、計算量のアミンを加え、更に2時間攪拌した。この溶液を70℃で一晩乾燥させた。完全に乾燥させた後、固体粉末を回収し、FAU型ゼオライトにアミンを担持させた二酸化炭素吸放出材を得た。
【0021】
なお、アミンとして、モノエタノールアミン(MEA)、エチレンジアミン(EDA)、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ポリエチレンイミン(PEI)を用い、アミンの含有量が20、30、40、50、60、70重量%になるようそれぞれ二酸化炭素吸放出材を製造した。
【0022】
以下、二酸化炭素吸放出材については、XY/FAUZとそれぞれ示し、Xがアミンの種別、Yがアミンの含有量、ZがSi/Al比を表す。例として、Si/Al比が300のFAU型ゼオライトであってDETA含有量が40重量%である二酸化炭素吸放出材は、DETA40/FAU300と記される。
【0023】
FAU300にDETA、PEIを異なる含有量で担持させた二酸化炭素吸放出材のXRDパターンを
図2(A)、(B)に、SEM像を
図3に示している。
図2(A)、(B)から、ピーク強度の低下を除き、アミンを含有していないFAU型ゼオライトと回折パターンは一致しており、FAU型構造を維持していることが確認できる。また、
図3のSEM像からいずれの二酸化炭素吸放出材の粒子径もほぼ同じである。DETAを担持した二酸化炭素吸放出材は、FAU300と比較して、表面形態に差は見られない。一方、PEIを担持した二酸化炭素吸放出材では、表面形態に変化が観察され、PEI含有量が高いほど粒子表面にPEIが重なっていることが確認できる。
【0024】
(乾燥条件下でのCO2吸着特性の検証手法)
以下のようにして、熱重量測定システム(TGシステム)を用い、乾燥条件下において、製造した二酸化炭素吸放出材のCO2吸着容量を求めた。
【0025】
5mgの二酸化炭素吸放出材を熱重量測定装置のサンプルパンに充填した。そして、二酸化炭素吸放出材の重量減少がなくなるまで窒素(80℃)を導入して前処理を行った。30℃まで温度を下げた後、窒素で希釈して400ppmに調整した二酸化炭素を300mL/分で導入した。
【0026】
図4に、一例としてPEI40/FAU300のTG曲線を示している。CO
2吸着による二酸化炭素吸放出材の重量増からCO
2吸着容量を求めた。吸着速度は、吸着曲線の傾きから求めた。
【0027】
(アミン種が及ぼす影響の検証)
上記の手法により、FAU300に各種アミンを担持させた二酸化炭素吸放出材のCO2吸着容量、吸着速度を求めた。その結果を表1に示す。
【0028】
【0029】
MEA40/FAU300とEDA40/FAU300では、吸着容量がかなり低かった。第1級アミンの低い塩基性、過剰なアミン、および、メソ細孔の完全閉塞が原因と考えられる。
【0030】
また、TETA40/FAU300およびTEPA40/FAU300も吸着容量は低かった。TETAとTEPAは分子量が大きすぎるため、FAU300への分散が阻害され、また分子がFAU300の表面に付着して細孔を塞ぐ傾向があり、その結果、吸着容量が低下したと考えられる。
【0031】
DETA40/FAU300、PEI40/FAU300の吸着容量が他に比べて高かった。DETAは、他の線状アミンよりも優れた性能を示しており、これは、適度な数の第1級アミンおよび第2級アミンサイトを有すること、並びに、比較的分子サイズが小さいことに起因すると考えられる。また、PEIは分岐構造を持つため、CO2吸着活性部位が多く存在しているためと考えられる。
【0032】
上記の結果から、以下の実験では、DETA、PEIを担持した二酸化炭素吸放出材を用いた。
【0033】
(アミン含有量が及ぼす影響の検証)
上記の手法により、DETA、PEIの含有量が異なる二酸化炭素吸放出材のCO2吸着容量、吸着速度を求めた。その結果を表2に示す。
【0034】
【0035】
DETA、PEIを担持した二酸化炭素吸放出材は、アミン含有率が高くなるにつれて吸着容量が増加し、アミン含有量40重量%で最大となり、それよりアミン含有量が高くなると減少した。過剰なアミンの担持は、FAU型ゼオライト構造の細孔で凝集して細孔を閉塞させてしまうため、CO2の拡散を妨げ、吸着容量を減少させたものと考えられる。
【0036】
(Si/Al比が及ぼす影響の検証)
上記の手法により、DETA、PEIの含有量が一定で、Si/Al比が異なる二酸化炭素吸放出材のCO
2吸着容量、吸着速度を求めた。その結果を表3、及び、
図5に示す。
【0037】
【0038】
DETAを担持させた二酸化炭素吸放出材においては、Si/Al比の増加に伴いCO2の吸着容量も増加する傾向を示した。これは、Alの減少に基づく酸性度の低下によって、CO2吸着容量を増加させたものと考えられる。また、PEIを担持させた二酸化炭素吸放出材においては、Si/Al比による吸着量の大きな変化はなかった。
【0039】
(湿度条件下でのCO2吸着、放出の検証手法)
続いて、以下のようにして、触媒分析装置を用い、湿度条件における二酸化炭素吸放出材のCO2吸着容量、脱着量を求めた。
【0040】
1.予備活性化工程
50mgの二酸化炭素吸放出材をシリカウールで挟み、装置の試料ホルダーにセットした。そして、80℃の空気(20%O2:80%N2、30sccm)を30分間流すことで前処理性を行った。
2.吸着工程
前処理後、25℃での相対湿度60%に維持された水蒸気ならびに空気(100sccm)で希釈して400ppmに調整したCO2を4時間流した。
3.脱着工程1
吸着工程後、二酸化炭素吸放出材に弱く結合しているCO2の放出量を測定するため、室温で100sccmの上記と同濃度の水蒸気を含んだ空気(20%O2:80%N2)を導入した。脱着したCO2は触媒分析装置に接続された質量分析計で検出し、定量した。
4.脱着工程2
その後、二酸化炭素吸放出材に強く結合しているCO2の放出量を測定するため、水蒸気を含んだ空気ガスを80℃、30分間導入した。
【0041】
一例として、
図6に、DETA50/FAU300およびブランクの吸着工程および脱着工程1での破過曲線を示している。ブランクの破過曲線は、400ppmのCO
2を導入すると急速に飽和濃度に近づく。一方、二酸化炭素吸放出材の破過曲線ではCO
2導入から飽和濃度に達するまでに時間を要する。このブランクと二酸化炭素吸放出材とのプロファイルの面積の比較に基づいてCO
2吸着容量を求めた。
【0042】
上記の手法により、Si/Al比が300の二酸化炭素吸放出材を用い、吸着工程におけるCO
2吸着容量、脱着工程1における脱着量を求めた。その結果を表4及び
図7に示す。
【0043】
【0044】
DETAを担持した二酸化炭素吸放出材は、乾燥条件下と同程度の吸着能力を有している。また、CO2脱着量が比較的多く、捕捉されたCO2分子の多くが弱く結合していることが示唆される。高温での熱処理を必要とせずに、吸着したCO2の多くを放出できることがわかる。
【0045】
一方、PEIを担持した二酸化炭素吸放出材では、PEI含有量が50wt%までは乾燥条件よりも大幅に吸着容量が大きくなったが、60wt%では著しく低下した。そして、脱着量が少ないことから、ほとんどのCO2分子が二酸化炭素吸放出材に強く結合しており、吸着したCO2を容易に放出させることは困難と言える。
【0046】
(安定性の検証)
DETA40/FAU300およびDETA50/FAU300を用い、上記の予備活性化工程、吸着工程、脱着工程1、脱着工程2を1サイクルとして、10サイクルを行い、それぞれCO2吸着容量および脱着量を求めた。DETA40/FAU300の結果を表5に、DETA50/FAU300の結果を表6に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
DETA40/FAU300およびDETA50/FAU300はいずれも、吸着、脱着を10サイクル行ってもCO2吸着容量を維持している。また、CO2脱着量も同様であり、DETAを担持した二酸化炭素吸放出材は、湿度条件下においても再生安定性を備えている。