(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098254
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】サンプル選択装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G16C 20/70 20190101AFI20240716BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20240716BHJP
【FI】
G16C20/70
G06N20/00 130
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001642
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 智紀
(57)【要約】
【課題】既存の学習用データにデータ追加した際に偏りが生じにくいサンプルを選択可能なサンプル選択装置及び方法を提供する。
【解決手段】サンプル選択装置1は、複合材料の既存の配合情報及び追加候補となる配合情報を含む多次元データからなる組成データ33を読み込むデータ読込処理部21と、データ読込処理部21が読み込んだ組成データ33を次元削減して2次元データ34に変換するデータ変換処理部22と、追加候補の配合情報に対応する2次元データ34の2つの評価値が、既存の配合情報に対応する2次元データ34の2つの評価値と一致するかを判定し、当該判定で一致しないと判定されたとき、追加候補の配合情報をサンプルとして選択するサンプル選択処理部24と、を備えた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料の既存の配合情報及び追加候補となる配合情報を含む多次元データからなる組成データを読み込むデータ読込処理部と、
前記データ読込処理部が読み込んだ前記組成データを次元削減して2次元データに変換するデータ変換処理部と、
前記追加候補の配合情報に対応する前記2次元データの2つの評価値が、前記既存の配合情報に対応する前記2次元データの2つの評価値と一致するかを判定し、当該判定で一致しないと判定されたとき、前記追加候補の配合情報をサンプルとして選択するサンプル選択処理部と、を備えた、
サンプル選択装置。
【請求項2】
前記サンプル選択処理部は、前記追加候補の配合情報に対応する前記2次元データの2つの評価値と、前記既存の配合情報に対応する前記2次元データの2つの評価値との差が、予め設定された閾値未満であるとき、両評価値が一致すると判定するように構成され、
前記サンプル選択処理部は、2つの評価軸のそれぞれについて、最大値と最小値との差を求め、当該差の1%を前記閾値として用いる、
請求項1に記載のサンプル選択装置。
【請求項3】
前記2次元データの2つの評価軸から構成される平面空間上にプロットされた前記既存の配合情報に対応する既存点のクラスタリング処理を行い、既存点のクラスタを複数抽出するクラスタ抽出処理部をさらに備え、
前記サンプル選択処理部は、前記平面空間上にプロットされた前記追加候補の配合情報に対応する追加候補点が、前記平面空間上で複数の前記クラスタに囲まれた領域である選択領域内にあるとき、前記追加候補の配合情報をサンプルとして選択する、
請求項1に記載のサンプル選択装置。
【請求項4】
前記選択領域は、前記クラスタを構成する既存点が含まれるように前記クラスタ毎に設定された円形状のクラスタ領域と、前記クラスタ領域の間の領域である中間領域とを含み、全ての前記クラスタ領域を含むように、隣り合うクラスタ領域を接線で接続して形成される領域である、
請求項3に記載のサンプル選択装置。
【請求項5】
前記サンプル選択処理部は、前記追加候補点が、前記中間領域にあるとき、前記追加候補の配合情報をサンプルとして選択する、
請求項4に記載のサンプル選択装置。
【請求項6】
前記データ変換処理部は、主成分分析により次元削減を行う、
請求項1に記載のサンプル選択装置。
【請求項7】
前記複合材料が、電線の被覆材料又は磁性材料である、
請求項1に記載のサンプル選択装置。
【請求項8】
複合材料の既存の配合情報及び追加候補となる配合情報を含む多次元データからなる組成データを読み込むデータ読込工程と、
前記データ読込工程で読み込んだ前記組成データを次元削減して2次元データに変換するデータ変換工程と、
前記追加候補の配合情報に対応する前記2次元データの2つの評価値が、前記既存の配合情報に対応する前記2次元データの2つの評価値と一致するかを判定し、当該判定で一致しないと判定されたとき、前記追加候補の配合情報をサンプルとして選択するサンプル選択工程と、を備えた、
サンプル選択方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル選択装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、データマイニングなどの情報科学を利用して新材料や代替材料を効率的に探索するマテリアルズインフォマティクス(Materials Informatics)が注目されている。また、日本では、マテリアルズインテグレーション(Materials Integration)による材料開発が検討されている。マテリアルズインテグレーションとは、材料科学の成果に、理論、実験、解析、シミュレーション、データベースなどの科学技術を融合して、材料の研究開発を支援することを目指す総合的な材料技術ツールと定義されている。
【0003】
電線の被覆材料として用いられる樹脂組成物等の複合材料を設計する際には、耐久物性等の物性を精度よく予測することが望まれる場合がある。物性の予測の際には、複合材料の配合情報を含む組成データ、及び複合材料の特性の情報を含む特性データを含む学習用データを用い、機械学習により組成データと特性データとの相関性を示す回帰モデルを作成し、当該回帰モデルを用いて、所望の組成データに対応する特性データを予測する。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のように機械学習を用いた予測を行う場合、使用する学習用データに含まれる情報に偏りがあると、予測の精度が低下してしまうという問題がある。そのため、新たにサンプルを作製して既存の学習用データにデータ追加を行うに際しては、学習用データに偏りが生じないようにサンプルの組成(配合割合)を選択することが望まれる。
【0007】
しかしながら、例えば、電線の被覆材料として用いられる樹脂組成物には、ベースポリマに加えて、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、銅害防止剤、滑剤、着色剤、架橋助剤等の非常に多くの材料が使用されており、偏りの有無を判断することが困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、既存の学習用データにデータ追加した際に偏りが生じにくいサンプルを選択可能なサンプル選択装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複合材料の既存の配合情報及び追加候補となる配合情報を含む多次元データからなる組成データを読み込むデータ読込処理部と、前記データ読込処理部が読み込んだ前記組成データを次元削減して2次元データに変換するデータ変換処理部と、前記追加候補の配合情報に対応する前記2次元データの2つの評価値が、前記既存の配合情報に対応する前記2次元データの2つの評価値と一致するかを判定し、当該判定で一致しないと判定されたとき、前記追加候補の配合情報をサンプルとして選択するサンプル選択処理部と、を備えた、サンプル選択装置を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、複合材料の既存の配合情報及び追加候補となる配合情報を含む多次元データからなる組成データを読み込むデータ読込工程と、前記データ読込工程で読み込んだ前記組成データを次元削減して2次元データに変換するデータ変換工程と、前記追加候補の配合情報に対応する前記2次元データの2つの評価値が、前記既存の配合情報に対応する前記2次元データの2つの評価値と一致するかを判定し、当該判定で一致しないと判定されたとき、前記追加候補の配合情報をサンプルとして選択するサンプル選択工程と、を備えた、サンプル選択方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、既存の学習用データにデータ追加した際に偏りが生じにくいサンプルを選択可能なサンプル選択装置及び方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態に係るサンプル選択装置の概略構成図である。
【
図2】(a)はデータ読込処理を説明する図であり、(b)は組成データの一例を示す図である。
【
図3】(a)はデータ変換処理を説明する図であり、(b)は2次元データの一例を示す図である。
【
図5】本発明の一実施の形態に係るサンプル選択方法のフロー図である。
【
図6】(a)はデータ読込処理、(b)はデータ変換処理、(c)はクラスタ抽出処理のフロー図である。
【
図8】目的変数を初期引張強さ、初期伸びとしたそれぞれの場合についての検討結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0014】
図1は、本実施の形態に係るサンプル選択装置1の概略構成図である。サンプル選択装置1は、機械学習に用いる学習用データにデータ追加を行うにあたって、サンプルの適切な配合情報(配合割合)を選択するための装置である。本実施の形態では、複数の材料を複合して形成される複合材料を対象とする。対象となる複合材料は、例えば、電線の被覆材料又はフェライト磁石等の磁性材料である。
【0015】
図1に示すように、サンプル選択装置1は、少なくとも、制御部2と、記憶部3と、図示しない通信部とを有している。制御部2は、サンプル選択装置1の全体を統括的に制御しており、記憶部3は、制御部2による後述する各種処理に必要な情報等を記憶する。サンプル選択装置1は、例えば、パーソナルコンピュータやサーバ装置等のコンピュータであり、CPU等の演算素子、RAMやROM等のメモリ、ハードディスク等の記憶装置、LANカード等の通信デバイスである通信インターフェースを備えている。
【0016】
制御部2は、データ読込処理部21、データ変換処理部22、クラスタ抽出処理部23、及びサンプル選択処理部24を有している。各部の詳細については後述する。記憶部3は、メモリや記憶装置の所定の記憶領域により実現されている。また、サンプル選択装置1は、表示器4と、入力装置5と、を有している。表示器4は、例えば液晶ディスプレイ等であり、入力装置5は、例えばキーボードやマウス等である。なお、表示器4をタッチパネルで構成し、表示器4が入力装置5を兼ねる構成としてもよい。また、表示器4や入力装置5は、サンプル選択装置1と別体に構成され、無線通信等によりサンプル選択装置1と相互に通信可能に構成されていてもよい。この場合、表示器4または入力装置5は、タブレットやスマートフォン等の携帯端末で構成されていてもよい。
【0017】
(データ読込処理部21)
データ読込処理部21は、複合材料の既存の配合情報及び追加候補となる配合情報を含む多次元データからなる組成データ33を読み込むデータ読込処理を行う。
【0018】
本実施の形態では、データ読込処理部21は、既存の配合情報を読み込んで既存組成データ31として記憶部3に記憶する。既存組成データ31は、例えば、物性予測等のために機械学習に用いる既存の学習用データの一部である。データ読込処理部21は、既存の学習用データから組成に関する情報を抽出して、抽出した情報を既存組成データ31として記憶部3に記憶してもよい。なお、既存組成データ31が予め記憶部3に記憶されている場合には、既存組成データ31の読み込みを省略することができる。また、データ読込処理部21は、追加候補となる配合情報を読み込んで追加候補組成データ32として記憶部3に記憶する。追加候補組成データ32は、例えば、入力装置5から入力される。
【0019】
そして、
図2(a)に示すように、データ読込処理部21は、読み込んだ既存組成データ31と追加候補組成データ32とを連結することで、組成データ33を生成し、記憶部3に記憶する。
図2(b)に示すように、組成データ33は、既存の配合情報(既存組成データ31)と追加候補となる配合情報(追加候補組成データ32)の両方を含んでおり、ポリマやフィラー、添加剤等の配合割合(配合量)の情報を含んでいる。機械学習の際には、各ポリマ、各フィラー、各添加剤の配合量のそれぞれがパラメータとなることから、組成データ33は多くのパラメータを含む多次元データであるといえる。
【0020】
なお、本実施の形態では、既存組成データ31と追加候補組成データ32とから組成データ33を生成したが、これに限らず、外部装置等で予め作成された組成データ33を読み込むようにデータ読込処理部21を構成してもよい。
【0021】
(データ変換処理部22)
データ変換処理部22は、データ読込処理部21が読み込んだ組成データ33を次元削減して2次元データ34に変換するデータ変換処理を行う。データ変換処理では、
図3(a)に示すように、データ変換処理部22に組成データ33が入力され、データ変換処理部22は組成データ33の次元削減を行って2次元データ34を生成し、生成した2次元データ34を記憶部3に記憶する。本実施の形態では、次元削減の手法として、主成分分析を用いた。ただし、これに限らず、他の既知の次元削減の手法を用いてもよい。
【0022】
図3(b)は、2次元データ34の一例を示す図である。
図3(b)に示すように、2次元データ34は、それぞれのデータを主成分分析等で設定された2つの評価軸から構成される平面空間上に投影した際の評価値(平面空間上の座標)の情報を含んでおり、2次元のデータとなっている。本実施の形態では、評価値の小数点第2位で四捨五入(あるいは切り捨て、あるいは切り上げ)し、評価値を小数点第1位までの表示とした。
【0023】
(クラスタ抽出処理部23)
クラスタ抽出処理部23は、2次元データ34の2つの評価軸から構成される平面空間上にプロットされた既存の配合情報に対応する既存点6のクラスタリング処理を行い、既存点6のクラスタを複数抽出するクラスタ抽出処理を行う。
【0024】
図4に示すように、クラスタ抽出処理部23は、2つの評価軸から構成される平面空間上に既存点6と、追加候補の配合情報に対応する追加候補点7とをプロットする。そして、クラスタ抽出処理部23は、既知の手法を用いてクラスタリング処理を行い、既存点6のクラスタを抽出する。クラスタリング処理を行う際の具体的な手法は特に限定されないが、例えば、各既存点6間の距離(ユーグリッド距離、マンハッタン距離、マハラノビス距離等)を演算し、距離が閾値よりも小さい場合に同じクラスタに含める手法等を用いることができる。
図4の例では、3つのクラスタが抽出されている。
【0025】
クラスタ抽出処理部23は、既存点6のクラスタを抽出した後、クラスタを構成する既存点6が含まれるように、クラスタ毎に円形状のクラスタ領域81を設定する。クラスタ領域81は、クラスタを構成する既存点6の全てが含まれるように設定され、その直径及び中心位置は、既存点6の分散度合を考慮して適宜設定されるとよい。例えば、クラスタ領域81は、クラスタを構成する既存点6の全てが含まれる最も小さい直径の円形状に設定することができる。以下、クラスタ領域81の間の領域(
図4にハッチングで示される領域)を中間領域82という。
【0026】
また、クラスタ抽出処理部23は、全てのクラスタ領域81を含むように、隣り合うクラスタ領域81を接線8aで接続して形成される選択領域8を設定する。選択領域8は、クラスタ領域81と中間領域82とを含む領域である。選択領域8の外側の領域は、既存の配合情報(既存組成データ31)からはかけ離れた配合割合となる領域であるといえる。そのため、本実施の形態では、選択領域8内に含まれる。
【0027】
(サンプル選択処理部24)
サンプル選択処理部24は、追加候補の配合情報をサンプルとして選択するか否かを決定するサンプル選択処理を行う。サンプル選択処理では、追加候補の配合情報に対応する2次元データ34の2つの評価値(すなわち、
図4における追加候補点7の座標。以下、追加候補点7の評価値と呼称する。)が、既存の配合情報に対応する2次元データ34の2つの評価値(すなわち、
図4における既存点6の座標。以下、既存点6の評価値と呼称する。)と一致するかを判定する。
【0028】
本実施の形態では、2つの評価軸のそれぞれについて、最大値と最小値との差を求め、当該差の1%を閾値として用い、2つの評価軸のそれぞれについて、追加候補点7と既存点6の評価値の差が、評価軸毎に設定された閾値未満であるときに、追加候補点7の評価値が既存点6の評価値に一致すると判定するようにサンプル選択処理部24を構成した。
【0029】
そして、サンプル選択処理部24は、判定の結果、追加候補点7の評価値と既存点6の評価値とが一致しないと判定されたとき、追加候補の配合情報をサンプルとして選択する。つまり、サンプル選択処理部24は、判定の結果、追加候補点7の評価値と既存点6の評価値とが一致すると判定されたとき、追加候補の配合情報をサンプルとして選択しない。
【0030】
追加候補点7の評価値と既存点6の評価値とが一致するということは、追加候補の配合情報をサンプルとして採用しても、既存のデータと同様のデータとなってしまうことを意味しており、情報の偏りが生じるおそれがあることを意味している。本実施の形態によれば、既存のデータと同様のデータとなってしまうサンプルが選択されることを抑制でき、当該サンプルを作製してデータ追加を行った際に情報の偏りが生じてしまうことを抑制できる。
【0031】
さらに、本実施の形態では、サンプル選択処理部24は、追加候補点7が選択領域8内にあるときのみ、追加候補の配合情報をサンプルとして選択する。これにより、既存の配合情報とかけ離れた配合割合となるサンプルを除外することができる。その結果、不適切なデータが機械学習のための学習用データに含まれてしまうことを抑制でき、予測精度の低下を抑制可能になる。
【0032】
なお、追加候補点7がクラスタ領域81にあるということは、追加候補の配合情報が、既存の配合情報に比較的似ていることを意味している。よって、よりデータのバリエーションを増やして機械学習による予測精度を向上するために、サンプル選択処理部24は、追加候補点7が、中間領域82にあるときのみ、追加候補の配合情報をサンプルとして選択するよう構成されてもよい。
【0033】
また、サンプル選択処理部24は、追加候補の配合情報をサンプルとして選択するか否かを、表示器4に表示する等して、サンプル選択装置1の使用者に提示するよう構成されることが望ましい。
【0034】
(サンプル選択方法)
図5は、本実施の形態に係るサンプル選択方法のフロー図である。
図5に示すように、まず、ステップS1にて、データ読込処理を行う。データ読込処理は、本発明のデータ読込工程に相当する。データ読込処理では、
図6(a)に示すように、まず、ステップS11にて、データ読込処理部21が、機械学習に用いている既存の学習用データから、組成に関するデータを抽出し、ステップS12にて、抽出したデータを既存組成データ31として記憶部3に記憶する。その後、ステップS13にて、データ読込処理部21が、入力装置5等を用いた追加候補の組成のデータ入力を受け付け、ステップS14にて、入力されたデータを追加候補組成データ32として記憶部3に記憶する。その後、ステップS15にて、データ読込処理部21が、既存組成データ31に追加候補組成データ32を追加して組成データ33を作成し、ステップS16にて、作成した組成データ33を記憶部3に記憶する。その後、リターンし、
図5のステップS2に進む。
【0035】
ステップS2では、データ変換処理を行う。データ変換処理は、本発明のデータ処理工程に相当する。データ変換処理では、
図6(b)に示すように、ステップS21にて、データ変換処理部22が、主成分分析等の適宜な手法を用いて組成データ33の次元削減を行い、組成データ33を2次元データ34に変換する。その後、ステップS22にて、2次元データ34を記憶部3に記憶する。その後、リターンし、
図5のステップS3に進む。
【0036】
ステップS3では、クラスタ抽出処理を行う。クラスタ抽出処理では、
図6(c)に示すように、ステップS31にて、クラスタ抽出処理部23が、既存点6と追加候補点7を、2次元データ34の2つの評価軸で構成される平面上にプロットし、ステップS32にて、既存点6のクラスタを抽出する。その後、ステップS33にて、クラスタ抽出処理部23が、クラスタ領域81を設定すると共に、設定したクラスタ領域81を基に選択領域8を設定する(
図4参照)。その後、リターンし、
図5のステップS4に進む。
【0037】
ステップS4では、サンプル選択処理を行う。サンプル選択処理は、本発明のサンプル選択工程に相当する。サンプル選択処理では、
図7に示すように、ステップS41にて、サンプル選択処理部24が、追加候補点7の評価値と既存点6の評価値とが一致するかを判定する。ステップS41でYES(Y)と判定された場合、ステップS44にて、追加候補をサンプルに選択しないと判定し、ステップS45に進む。ステップS41でNO(N)と判定された場合、ステップS42にて、サンプル選択処理部24が、追加候補点7が選択領域8内にあるかを判定する。ステップS42でYES(Y)と判定された場合、ステップS43にて、追加候補をサンプルに選択すると判定し、ステップS45に進む。ステップS42でNO(N)と判定された場合、ステップS44にて、追加候補をサンプルに選択しないと判定し、ステップS45に進む。ステップS45では、サンプル選択処理部24が、ステップS43,S44での判定結果を表示器4に表示する。その後、リターンし、
図5のステップS1に戻る。
【0038】
(本実施の形態により選択したサンプルの使用による効果の検討)
既存の学習用データのみを用いた比較例と、既存の学習用データに、本実施の形態で選択したサンプルで得たデータを追加した実施例のそれぞれについて、推定精度の検討を行った。比較例の学習用データのサンプルサイズは281個とし、説明変数の数は73とした。実施例では、比較例で用いた学習用データにデータ追加を行い、サンプルサイズを342個とし、説明変数の数は74とした。検討においては、データの70%を学習用データとして用いて回帰モデルを作成すると共に、30%をテスト用のデータとして検証を行い、MAPE(平均絶対パーセント誤差)を算出すると共に、決定係数R
2を算出した。回帰手法はガウス過程回帰(GPR)を用いた。目的変数を初期引張強さ、初期伸びとしたそれぞれの場合についての検討結果を
図8にまとめて示す。
【0039】
図8に示すように、目的変数を初期引張強さ、初期伸びとした何れの場合においても、決定係数R
2については、比較例に対して実施例の値が高くなっており、予測精度が向上しているといえる。MAPEについては、目的変数を初期引張強さとした場合では比較例と実施例で同等の値であったが、目的変数を初期伸びとした場合には、比較例に対して実施例の値が低くなっており、予測精度が向上していることが確認できた。
【0040】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係るサンプル選択装置1では、複合材料の既存の配合情報及び追加候補となる配合情報を含む多次元データからなる組成データ33を読み込むデータ読込処理部21と、データ読込処理部21が読み込んだ組成データ33を次元削減して2次元データ34に変換するデータ変換処理部22と、追加候補の配合情報に対応する2次元データ34の2つの評価値が、既存の配合情報に対応する2次元データ34の2つの評価値と一致するかを判定し、当該判定で一致しないと判定されたとき、追加候補の配合情報をサンプルとして選択するサンプル選択処理部24と、を備えている。
【0041】
これにより、既存の学習用データにデータ追加した際に偏りが生じにくいサンプルを選択することが可能になる。つまり、本実施の形態によれば、学習用データに偏りが生じないようにサンプルの組成(配合割合)を選択することが可能になる。その結果、選択されたサンプルにより得たデータを学習用データに追加することで、情報の偏りを抑制した学習用データを得ることが可能になり、当該学習用データを用いた物性等の予測精度を向上できる。
【0042】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0043】
[1]複合材料の既存の配合情報及び追加候補となる配合情報を含む多次元データからなる組成データ(33)を読み込むデータ読込処理部(21)と、前記データ読込処理部(21)が読み込んだ前記組成データ(33)を次元削減して2次元データ(34)に変換するデータ変換処理部(22)と、前記追加候補の配合情報に対応する前記2次元データ(34)の2つの評価値が、前記既存の配合情報に対応する前記2次元データ(34)の2つの評価値と一致するかを判定し、当該判定で一致しないと判定されたとき、前記追加候補の配合情報をサンプルとして選択するサンプル選択処理部(24)と、を備えた、サンプル選択装置(1)。
【0044】
[2]前記サンプル選択処理部(24)は、前記追加候補の配合情報に対応する前記2次元データ(34)の2つの評価値と、前記既存の配合情報に対応する前記2次元データ(34)の2つの評価値との差が、予め設定された閾値未満であるとき、両評価値が一致すると判定するように構成され、前記サンプル選択処理部(24)は、2つの評価軸のそれぞれについて、最大値と最小値との差を求め、当該差の1%を前記閾値として用いる、[1]に記載のサンプル選択装置(1)。
【0045】
[3]前記2次元データ(34)の2つの評価軸から構成される平面空間上にプロットされた前記既存の配合情報に対応する既存点(6)のクラスタリング処理を行い、既存点(6)のクラスタを複数抽出するクラスタ抽出処理部(23)をさらに備え、前記サンプル選択処理部(34)は、前記平面空間上にプロットされた前記追加候補の配合情報に対応する追加候補点(7)が、前記平面空間上で複数の前記クラスタに囲まれた領域である選択領域(8)内にあるとき、前記追加候補の配合情報をサンプルとして選択する、[1]または[2]に記載のサンプル選択装置(1)。
【0046】
[4]前記選択領域(8)は、前記クラスタを構成する既存点が含まれるように前記クラスタ毎に設定された円形状のクラスタ領域(81)と、前記クラスタ領域(81)の間の領域である中間領域(82)とを含み、全ての前記クラスタ領域(81)を含むように、隣り合うクラスタ領域(81)を接線(8a)で接続して形成される領域である、[3]に記載のサンプル選択装置(1)。
【0047】
[5]前記サンプル選択処理部(24)は、前記追加候補点(7)が、前記中間領域(82)にあるとき、前記追加候補の配合情報をサンプルとして選択する、[4]に記載のサンプル選択装置(1)。
【0048】
[6]前記データ変換処理部(22)は、主成分分析により次元削減を行う、[1]乃至[5]の何れか1項に記載のサンプル選択装置(1)。
【0049】
[7]前記複合材料が、電線の被覆材料又は磁性材料である、[1]乃至[6]の何れか1項に記載のサンプル選択装置(1)。
【0050】
[8]複合材料の既存の配合情報及び追加候補となる配合情報を含む多次元データからなる組成データ(33)を読み込むデータ読込工程と、前記データ読込工程で読み込んだ前記組成データ(33)を次元削減して2次元データ(34)に変換するデータ変換工程と、前記追加候補の配合情報に対応する前記2次元データ(34)の2つの評価値が、前記既存の配合情報に対応する前記2次元データ(34)の2つの評価値と一致するかを判定し、当該判定で一致しないと判定されたとき、前記追加候補の配合情報をサンプルとして選択するサンプル選択工程と、を備えた、サンプル選択方法。
【0051】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1…サンプル選択装置
2…制御部
21…データ読込処理部
22…データ変換処理部
23…クラスタ抽出処理部
24…サンプル選択処理部
3…記憶部
31…既存組成データ
32…追加候補組成データ
33…組成データ
34…2次元データ
4…表示器
5…入力装置
6…既存点
7…追加候補点
8…選択領域
8a 接線
81…クラスタ領域
82…中間領域