(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098454
(43)【公開日】2024-07-23
(54)【発明の名称】発光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/16 20100101AFI20240716BHJP
H01L 33/30 20100101ALI20240716BHJP
【FI】
H01L33/16
H01L33/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002002
(22)【出願日】2023-01-10
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 栞里
(72)【発明者】
【氏名】門脇 嘉孝
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA03
5F241AA04
5F241CA05
5F241CA08
5F241CA12
5F241CA22
5F241CA34
5F241CA65
5F241CA66
5F241CA77
5F241CA92
5F241CA93
5F241CB15
5F241FF16
(57)【要約】
【課題】高い発光出力および発光効率を有する発光素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による発光素子は、n型半導体層と、前記n型半導体層上の、In、Asを少なくとも含むInAsSbP活性層と、前記InAsSbP活性層上の、前記InAsSbP活性層と格子整合するp型半導体層と、前記p型半導体層上の、前記p型半導体層と格子整合しないp型InGaAs窓層と、を有し、前記p型半導体層の膜厚が20nm以上520nm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型半導体層と、
前記n型半導体層上の、In、Asを少なくとも含むInAsSbP活性層と、
前記InAsSbP活性層上の、前記InAsSbP活性層と格子整合するp型半導体層と、
前記p型半導体層上の、前記p型半導体層と格子整合しないp型InGaAs窓層と、を有し、
前記p型半導体層の膜厚が20nm以上520nm以下である発光素子。
【請求項2】
前記InAsSbP活性層は量子井戸構造を有し、前記量子井戸構造の平均格子定数が0.5988以上0.6153以下である請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記p型半導体層は、p型AlInAs電子ブロック層を有し、
前記p型AlInAs電子ブロック層は、膜厚が5nm以上60nm以下で、AlxIn1-xAs(0.05≦x≦0.4)である請求項1に記載の発光素子。
【請求項4】
前記p型半導体層は、前記InAsSbP活性層側に前記p型AlInAs電子ブロック層を有し、前記InAsSbP活性層と反対側にp型InAsクラッド層を有する請求項3に記載の発光素子。
【請求項5】
前記p型InGaAs窓層は、InwGa1-wAs(0≦w≦0.2)である請求項1に記載の発光素子。
【請求項6】
成長用基板上に、n型半導体層を形成する工程と、
前記n型半導体層上にIn、Asを少なくとも含むInAsSbP活性層を形成する工程と、
前記InAsSbP活性層上に、前記InAsSbP活性層と格子整合するp型半導体層を形成する工程と、
前記p型半導体層上に、前記p型半導体層と格子整合しないp型InGaAs窓層を形成する工程と、を有し、前記p型半導体層の膜厚を20nm以上520nm以下とする発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記p型半導体層は、p型AlInAs電子ブロック層を有し、
前記p型AlInAs電子ブロック層は、膜厚が5nm以上60nm以下のp型AlxIn1-xAs(0.05≦x≦0.4)である、請求項6に記載の発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中赤外領域(例えば、波長3μmから5μm)の波長域を有する発光素子は、センサやガス分析などの用途で、幅広く用いられている。
【0003】
このような発光素子の活性層には、In、As及びSbを含むInGaAsSb系III-V族半導体が用いられる。また、従来は、InAsSb層などのInGaAsSb系III-V族半導体層をエピタキシャル成長させる場合、格子整合させるために、InAs基板やGaSb基板が成長用基板として用いられていたが、近年は、InAsSb層などと格子整合しない安価なGaAs基板の使用も検討されている。
【0004】
特許文献1には、成長用基板上に、InAsySb1-y層(0<y<1)を発光層として含む活性層を有し、成長用基板をそのまま用いた発光素子と、支持基板を接合した後に成長用基板をエッチング除去した接合型の発光素子が記載されている。
【0005】
特許文献1には、膜厚が5nm以上40nm以下であるAlxIn1-xAs電子ブロック層(0.05≦x≦0.4)を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、本明細書において窓層とは、電極と接しており、0.5μm以上の厚さを有し、かつ、発光中心波長に対応するバンドギャップよりも大きいバンドギャップを持つ層を指す。窓層は、発光素子の光取り出し側にある場合と、窓層上に反射電極を設けたことで発光素子の光取り出し側でなくなった場合とがある。
【0008】
従来技術にあっては、活性層を挟み活性層にキャリアを供給するp型層(p型クラッド層ともいう)とn型層(n型クラッド層ともいう)には、InAs層が使用されていた。InAsのバンドギャップは0.354eV(300K)であり、バンドギャップに対応する波長は約3500nmである。そのため、2700~3500nm程度の発光中心波長(λc)をもつ発光素子において、活性層と格子定数が整合する組成として例えばInAs層を厚く形成すると、発光した光がInAs層の内部で吸収され出力が低下する問題があった。また、高キャリア濃度のp型InAs層は、3500nm以上の波長でも透過率が低い傾向があった。
【0009】
このとき、窓層に用いる組成としては、活性層と格子定数が整合しつつ発光波長の光を透過するようなバンドギャップをもつようにGaAsSbやAlAsSbなどSbを含むものが選択肢として挙げられる。しかしながら、Sbが高価である点からコスト面で問題がある。また、Sbを使用した長波長帯LEDは順方向電圧(Vf)が他のLEDに比べて小さくなるために消費電力が減少する点では好ましいものの、電圧負荷に対して壊れやすくなるために、一般的なLEDドライバー回路で使用することが困難となり、低電圧で制御可能な高価な回路が必要となる。
【0010】
本発明は、かかる実状に鑑みて為されたものであって、その目的は、高い発光出力および発光効率を有する発光素子およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明者が鋭意研究した結果、以下の発明を完成させた。
すなわち、上記目的を達成するための本発明に係る発光素子の要旨構成は、以下のとおりである。
【0012】
(1) n型半導体層と、
前記n型半導体層上の、In、Asを少なくとも含むInAsSbP活性層と、
前記InAsSbP活性層上の、前記InAsSbP活性層と格子整合するp型半導体層と、
前記p型半導体層上の、前記p型半導体層と格子整合しないp型InGaAs窓層と、を有し、
前記p型半導体層の膜厚が20nm以上520nm以下である発光素子。
【0013】
(2) 前記InAsSbP活性層は量子井戸構造を有し、前記量子井戸構造の平均格子定数が0.5988以上0.6153以下である(1)に記載の発光素子。
【0014】
(3) 前記p型半導体層は、p型AlInAs電子ブロック層を有し、
前記p型AlInAs電子ブロック層は、膜厚が5nm以上60nm以下で、AlxIn1-xAs(0.05≦x≦0.4)である(1)又は(2)に記載の発光素子。
【0015】
(4) 前記p型半導体層は、前記InAsSbP活性層側に前記p型AlInAs電子ブロック層を有し、前記InAsSbP活性層と反対側にp型InAsクラッド層を有する(3)に記載の発光素子。
【0016】
(5) 前記p型InGaAs窓層は、InwGa1-wAs(0≦w≦0.2)である(1)~(4)のいずれか一項に記載の発光素子。
【0017】
(6) 成長用基板上に、n型半導体層を形成する工程と、
前記n型半導体層上にIn、Asを少なくとも含むInAsSbP活性層を形成する工程と、
前記InAsSbP活性層上に、前記InAsSbP活性層と格子整合するp型半導体層を形成する工程と、
前記p型半導体層上に、前記p型半導体層と格子整合しないp型InGaAs窓層を形成する工程と、を有し、前記p型半導体層の膜厚を20nm以上520nm以下とする発光素子の製造方法。
【0018】
(7) 前記p型半導体層は、p型AlInAs電子ブロック層を有し、
前記p型AlInAs電子ブロック層は、膜厚が5nm以上60nm以下のp型AlxIn1-xAs(0.05≦x≦0.4)である、(6)に記載の発光素子の製造方法。
【0019】
なお、本明細書において「格子整合する」とは、後述のとおり格子不整合度が3%以下であることをいい、「格子整合しない」とは格子不整合度が3%超えであることをいう。
【発明の効果】
【0020】
発光出力及び発光効率が高い発光素子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明による発光素子の第1実施形態を説明する断面模式図である。
【
図2】本発明による発光素子の第2実施形態を説明する断面模式図である。
【
図3】本発明による発光素子の第2の実施形態の製造方法の一例を説明する断面模式図である。
【
図4】
図3に引き続く製造方法の一例を説明する断面模式図である。
【
図5】
図4に引き続く製造方法の一例を説明する断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に従う実施形態の説明に先立ち、以下の点について予め説明する。
【0023】
本実施形態におけるIn、Asを少なくとも含むInAsSbP層とは、InxAs1-xSbyP1-y層(0<x<1、0≦y≦1)とも表記される化合物を意味するものとする。なお、AlInAs層やInGaAs層と表記する場合はSbは組成比に含まないことを意味するが、当該層の成長時においてSb原料ガスを使用していなければよく、チャンバー内のSbの残存や隣接するSbを含む層からの拡散による不可避的な不純物元素としてSbが含まれることは許容される。
【0024】
本実施形態におけるGaAsは、本発明の効果を奏する範囲で不純物元素を含むことは許容される。
【0025】
本発明における構成においてはp型とn型のそれぞれにおいて、ECVプロファイラーによるキャリア濃度の値とSIMS分析による不純物濃度の値との差が小さいため、それらを区別せず扱うものとする。例えばZn等の不純物濃度の値は、ECVプロファイラーによる測定値(ECV測定値)を、そのまま使用してよいものとする。なお、ECVプロファイラーとは、電解液を接触させ電気化学的接合を用いてC-V測定を行い、キャリア濃度計測を行う計測手法である。なお、各層および各領域のキャリア濃度または不純物濃度の値は、各測定における、各層および各領域の厚さ方向の中央における値とする。
【0026】
エピタキシャル成長により形成される各層の厚さは、SEM(走査型電子顕微鏡)またはTEM(透過型電子顕微鏡)による成長層の断面観察から算出できる。膜厚が10nm以上の場合にはSEMを使用し、膜厚が10nm未満の場合にはTEMを使用することが好ましい。
【0027】
本明細書において、「格子整合する」とは格子不整合度が3%以下であることをいい、「格子整合しない」とは格子不整合度が3%超えであることをいう。格子不整合度は、下地となる第一層の格子定数をa1、第一層上に形成される第二層の格子定数をa2としたときに、以下の式(1)で表される。
|a2-a1|/a1 ・・・(式1)
【0028】
本発明では、発光素子は、中赤外領域(例えば、波長2700nm~5000nm)の波長域を有する。2700nm~3500nm程度の発光中心波長(λc)をもつ発光素子において、特に効果的であり、3500nm~5000nmの発光中心波長(λc)をもつ発光素子においても有効である。
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。また、各図において、説明
の便宜上、基板及び各層の縦横の比率を実際の比率から誇張して示す。
【0030】
(第1実施形態)
図1を参照して、本発明に従う発光素子の第1実施形態である発光素子100の一例を説明する。発光素子100は、n型半導体層141と、n型半導体層141の上に形成されたIn、Asを少なくとも含むInAsSbP活性層145と、InAsSbP活性層145の上に形成されたp型半導体層148(
図1の例ではp型AlInAs電子ブロック層146とクラッド層147を含めた層)と、p型半導体層148の上に形成されたp型InGaAs窓層150と、を有する。そして、p型半導体層148は、膜厚が20nm以上520nm以下である。
【0031】
p型AlInAs電子ブロック層146は、膜厚が5nm以上40nm以下であるp型AlInAs電子ブロック層146(0.05≦x≦0.4)であってよい。また、p型AlInAs電子ブロック層146とp型InGaAs窓層150との間には、クラッド層147が有ってもよく、クラッド層147はp型ドーパントをドーピングしたInAs層であってよい。また、図示しないが、n型半導体層141と活性層145との間およびp型AlInAs電子ブロック層146とInAsSbP活性層145との間には、薄いアンドープのガイド層が有っても良い。
【0032】
本明細書において、基板105上に形成された半導体層をまとめて半導体積層体140と呼称する。
図1では成長用基板105の裏面に裏面電極195が設けられている。さらに、p型InGaAs窓層150上の一部に上部電極191が設けられている。また、図示しないが、p型InGaAs窓層150は、上面電極側に高キャリア濃度のp型コンタクト領域を有していても良い。
【0033】
ここで、発光素子100において、InAsSbP活性層145とp型半導体層148とは格子整合する。一方、p型半導体層148とp型InGaAs窓層150とは格子整合しない。通常の発光素子であれば格子整合しない層を設けることを避けるが、本発明ではp型InGaAs窓層150として格子整合しない層をあえて形成する。まず、Sbを使用しない層を形成することで、低コストかつ順方向電圧が低くなりすぎないようにできると考えられる。また、p型半導体層148とp型InGaAs窓層150との界面で転位欠陥が発生するため、そこで非発光性再結合としてホールが消費されてしまう。しかし、ホール供給源としてp型半導体層148が本発明の厚さで配置されることで、InAsSbP活性層145へのホール供給は問題なくなると考えられる。さらに、p型InGaAs窓層150は発光波長に対する透過率が高い(井戸層よりもバンドギャップが0.5eV以上大きい)材料とすることができるため、光の取り出し効率が向上すると考えられる。なお、p型InGaAs窓層150の形成において、p型半導体層148との界面付近にInGaAs窓層の主とする成長温度よりも低温で成長させた領域(低温成長層)を設けてもよい。このように格子不整合となる界面を設けることで、発光出力の向上と、順方向電圧の増加分を上回る発光出力の増加に伴う発光効率の向上との両方を見出し本発明者らは、本発明を完成させた。
【0034】
また、本発明では、当該界面よりも発光層側にあるp型半導体層148は、1×1018atoms/cm3以上にホールキャリア濃度の高い層とすることができる。当該界面においてキャリアの流れが阻害されるために、p型半導体層148がInAsSbP活性層145にキャリアを十分に供給するためには、p型半導体層148の厚さが特定の範囲にあることが必要となる。p型半導体層148の厚さは20nm以上520nm以下であり、20nm以上100nm以下であることが好ましく、20nm以上60nm以下であることがさらに好ましい。以下、発光素子100の個々の構成について詳細を説明する。
【0035】
<n型半導体層>
-組成-
n型半導体層141の組成はInAsSbP活性層145の組成と格子整合する組成であることが好ましい。n型半導体層141の組成はp型AlInAs電子ブロック層146よりもAl組成比が小さい(すなわち、バンドギャップが小さい)AlInAsとすることが好ましく、InAsとすることがより好ましい。InAsを用いた場合、InAsの格子定数は0.60584のため、InAsSbP活性層145の組成がInAs0.95Sb0.05のとき格子不整合度は0.1%、InAs0.88Sb0.12のとき格子不整合度は0.1%である。
【0036】
-膜厚-
n型半導体層141の膜厚は500nm以上6000nm以下とすることが好ましい。成長用基板105とInAsSbP活性層145の格子定数が異なる場合、n型半導体層141の膜厚が500nmよりも薄いと欠陥がInAsSbP活性層145に伝搬してしまう。加えて、n型半導体層141の膜厚が500nmよりも薄いと十分な量のキャリアがInAsSbP活性層145に供給されずに発光出力が小さくなるため、好ましくない。一方で、n型半導体層141の膜厚が6000nmよりも厚い場合においても、大幅な特性改善は見込めず、また成長時間が長時間になり原料代も増加することから、生産性に問題があるため、好ましくない。
【0037】
-ドーパント-
n型半導体層141のECV測定により測定されるキャリア濃度、または、n型不純物の不純物濃度は1×1018atoms/cm3以上3×1019atoms/cm3以下であることが好ましい。また、n型半導体層141は、n型クラッド領域と、n型クラッド領域よりも高キャリア濃度で高い導電性を有し電極の形成に有利なn型コンタクト領域と、を有していることも好ましい。n型コンタクト領域では、ECV測定により測定されるキャリア濃度、または、n型不純物の不純物濃度は8×1018atoms/cm3以上3×1019atoms/cm3以下であることが好ましい。また、n型クラッド領域では、ECV測定により測定されるキャリア濃度、または、n型不純物の不純物濃度は1×1018atoms/cm3以上8×1018atoms/cm3以下であることが好ましい。なお、ECV測定により測定されるn型キャリア濃度を示す場合、p型と区別するためにn型キャリア濃度を「マイナス」表記する。
【0038】
<n側ガイド層>
n型半導体層141とInAsSbP活性層145との間には、アンドープのガイド層があってもよい。アンドープのガイド層は厚さを1nm以上100nm以下とすることが好ましい。n型半導体層141とInAsSbP活性層145との間のガイド層は、InAsSbP活性層145の障壁層またはn型半導体層141と組成を同じくし、かつ、n型不純物をドーピングしない層とすることが好ましい。このガイド層は、n型半導体層141からn型不純物がInAsSbP活性層145に拡散するのを抑制する。
【0039】
<InAsSbP活性層>
InAsSbP活性層145は発光層となるInAs
ySb
1-y層145w(0<y<1)を含む。
図1では、InAsSbP活性層145がInAs
zP
1-z層145b(0<z<1)をさらに有し、InAs
ySb
1-y層145wを井戸層とし、InAs
zP
1-z層145bを障壁層とする量子井戸構造を例示的に図示しているが、InAsSbP活性層145はInAs
ySb
1-y層145wの単層構造でもよい。InAsSbP活性層145は、結晶欠陥抑制による光出力向上のため、
図1のように多重量子井戸(MQW)構造を具えることが好ましい。この多重量子井戸構造は、上記井戸層及び障壁層を交互に繰り返した構造により形成することができる。
【0040】
-InAsSbP活性層の組成と発光ピーク波長-
井戸層となるInAsySb1-y層145wのAs組成yは0.7≦y<1.0とすることが好ましく、0.80≦y≦0.95とすることがより好ましい。また、障壁層となるInAszP1-z層145bのAs組成zは0.50≦z<1.0とすることが好ましく、0.8≦z≦0.95とすることがより好ましい。なお、量子井戸構造の場合であれば組成変更に加えて井戸層と障壁層との組成の差を調整して、井戸層にひずみを加えることも好ましい。上記のInAsSbP活性層145の組成変更により、発光素子100の発光ピーク波長を1700nm~12000nm(1.7μm~12μm)とすることができる。
【0041】
本発明に係る発光素子は、中赤外領域(例えば、波長2700nmから5000nm)の波長域を有する。InAsの透過率を考慮すると、2700~3500nm程度の発光中心波長(λc)をもつ発光素子において特に効果的であり、3500nm~5000nmの発光中心波長(λc)をもつ発光素子においても有効である。また、InAsSbP活性層145は量子井戸構造を有し、量子井戸構造の平均格子定数が0.5988以上、0.6153以下であることが好ましい。
【0042】
―層の組成比(固相比)の求め方と、格子定数の求め方―
井戸層および障壁層の組成比と膜厚より、InAsSbP活性層145の平均格子定数を、本明細書では以下のようにして求めた。まず、X線回折装置によるω/2θスキャンを行い、基板上に5μm積層したInAsのピーク位置を基準に、井戸層と障壁層を20.5組積層したInAsSbP活性層145の組成比(以後、固相比とも記載する)を、解析ソフト(Jordan Valley RADS)を使用してフィッティングにより算出した。そして、そこで求めた固相比を用いベガード則により格子定数を求めた。以下に、具体的な格子定数の求め方の計算例を説明する。本明細書では、公知の刊行物「E・フレッド・シューベルト,“発光ダイオード”,株式会社朝倉書店,2010年1月25日初版第1刷,p.344-p.345」及び当該文献における
図12.6、「永井治男,安達定雄,福井孝志,“III-V族半導体混晶”コロナ社,1993年7月30日,p.39,初版第2刷」に即して計算し、各組成の既知の格子定数は下記の値を採用した。
InAsの格子定数:0.60584
InPの格子定数:0.58686
InSbの格子定数:0.64794
【0043】
[計算例1]
InAs0.95Sb0.5/InAs0.92P0.08の組成で積層し、20.5組で作成した活性層及び障壁層の格子定数は、解析ソフトによるフィッティングから以下の値で求められる。
【0044】
井戸層InAs0.95Sb0.5のSb固相比は0.0464であり、As固相比は0.9536である。ベガード則からInAs0.95Sb0.05の格子定数は0.6078である。次に、障壁層InAs0.92P0.08のAs固相比は0.9187であり、P固相比は0.0813である。ベガード則からInAs0.92P0.08の格子定数は0.6043である。井戸層と障壁層の膜厚がそれぞれ10nmと30nmの場合、膜厚を考慮した平均格子定数は0.6052となる(0.6078×10/40+0.6043×30/40=0.6052)。
【0045】
[計算例2]
InAs0.88Sb0.12/InAs0.88P0.12の組成で積層し、20.5組で作成した活性層及び障壁層の格子定数は、解析ソフトによるフィッティングから以下の値で求められる。
【0046】
井戸層InAs0.88Sb0.12のSb固相比は0.1183であり、As固相比は0.8817である。ベガード則からInAs0.88Sb0.12の格子定数は0.6108である。次に、障壁層InAs0.88P0.12のAs固相比は0.8823であり、P固相比は0.1177である。ベガード則からInAs0.88P0.12の格子定数は0.6036である。井戸層と障壁層の膜厚がそれぞれ10nmと30nmの場合、膜厚を考慮した平均格子定数は0.6054となる(0.6108×10/40+0.6036×30/40=0.6054)。
【0047】
なお、後述の実施例1~4において、λc:3200nmであり、InAs0.95Sb0.05の井戸層を有する活性層の格子定数は、0.6052である。また、実施例5において、λc:3800nmであり、InAs0.88Sb0.12の井戸層を有する活性層の格子定数は、0.6054である。
【0048】
<p型半導体層>
p型半導体層148は、InAsSbP活性層145とp型InGaAs窓層150の間に存在し、InAsSbP活性層145と格子整合するp型の半導体層の総称であり、p型InGaAs窓層150を除いたp型の層の合計部分である。p型AlInAs電子ブロック層146とクラッド層147がある場合は、p型AlInAs電子ブロック層146とクラッド層147とを合計してp型半導体層148と呼称する。p型半導体層148の厚さは、20nm以上520nm以下であり、30nm以上100nm以下であることがより好ましい。20nmより薄いと、InAsSbP活性層145にホールを供給するp型半導体層148の厚さが薄すぎるために、十分な量のホールがInAsSbP活性層145に供給されずに発光出力が小さくなるためである。520nmより厚いと、本発明の出力向上の効果が弱まるためである。
【0049】
<<p型AlInAs電子ブロック層>>
p型半導体層148は、p型AlInAs電子ブロック層146を有することが好ましい。また、p型AlInAs電子ブロック層146は、膜厚が5nm以上60nm以下のp型AlxIn1-xAs(0.05≦x≦0.4)であることが好ましい。発光素子100において、InAsSbP活性層145の上に、膜厚が5nm以上60nm以下のp型AlxIn1-xAs(0.05≦x≦0.4)を設けることにより、発光効率を向上させることができる。
【0050】
-組成-
p型AlInAs電子ブロック層146の組成は、AlxIn1-xAs(0.05≦x≦0.40)であることが好ましく、AlxIn1-xAs(0.10≦x≦0.35)であることがより好ましい。Al組成xを0.05以上とすることでp型AlInAs電子ブロック層146による発光効率を向上させることができ、0.40以下とすることで、順方向電圧が高くなって発光効率が低下することを抑制することができるためである。
【0051】
InAsSbP活性層145とAlInAs電子ブロック層146とは、格子整合するように組成を調整する。上記のAl組成xでは、x=0.05のときベガード則から格子定数は0.6039、x=0.4のとき格子定数は0.5899となる。例えば、InAsSbP活性層145(InAs0.95Sb0.05/InAs0.92P0.08)の平均格子定数と、Al組成x=0.4のp型AlInAs電子ブロック層146との格子不整合度は2.5%、Al組成x=0.05のp型AlInAs電子ブロック層146との格子不整合度は0.2%となる。また、InAsSbP活性層145(InAs0.88Sb0.12/InAs0.88P0.12)の平均格子定数と、Al組成x=0.4のp型AlInAs電子ブロック層146との格子不整合度は2.6%、Al組成x=0.05のp型AlInAs電子ブロック層146との格子不整合度は0.2%となる。
【0052】
組成比(固相比)xは、X線回折装置によるω/2θスキャンを行い、解析ソフト(Jordan Valley RADS)を使用してフィッティングにより算出できる。
【0053】
-膜厚-
p型AlInAs電子ブロック層146の膜厚は5nm以上60nm以下であることが好ましく、10nm以上35nm以下であることがより好ましい。60nmより厚いと順方向電圧が高くなって発光効率が低下し、5nmより薄いと、p型AlInAs電子ブロック層146による発光効率向上の効果が出ない場合があるためである。
【0054】
-ドーパント-
p型AlInAs電子ブロック層146はp型ドーパントをドーピングされる。また、p型ドーパントはZnが特に好ましい。なお、ECV測定により測定されるキャリア濃度又はSIMS分析により測定されるp型ドーパントの不純物濃度を1×1018atoms/cm3以上8×1018atoms/cm3以下とすれば、発光効率のさらなる向上効果を確実に得ることができ、より好ましくは2×1018atoms/cm3以上である。
【0055】
<<クラッド層>>
-組成-
クラッド層147はInAsSbP活性層145と格子整合するように組成を調整する。クラッド層147は、p型AlInAs電子ブロック層146よりもAl組成比が小さい(すなわちバンドギャップが小さい)組成であるAlInAsとすることが好ましく、InAsとすることがより好ましい。例えば、クラッド層147をInAsとした場合、クラッド層147は格子定数が0.6058となるため、上記のInAsSbP活性層145の組成がInAs0.95Sb0.05のとき格子不整合度は0.1%であり、InAs0.88Sb0.12のとき格子不整合度は0.1%である。
【0056】
組成比(固相比)は、X線回折装置によるω/2θスキャンを行い、解析ソフト(Jordan Valley RADS)を使用してフィッティングにより算出できる。
【0057】
-膜厚-
クラッド層147の膜厚は0nm以上500nm以下とすることが好ましい。500nmより厚いとInAsSbP活性層145で発光した光が吸収され発光素子の発光出力が低下してしまう。なお、クラッド層147の膜厚が0nmの場合は十分な厚さのp型AlInAs電子ブロック層146を設けておけばよい。クラッド層147の膜厚とp型AlInAs電子ブロック層146の膜厚は、後述するp型半導体層148の厚さを満たすような厚さがないと十分な量のホールがInAsSbP活性層145に供給されなくなるためである。
【0058】
-ドーパント-
クラッド層147を設ける場合、クラッド層147はp型ドーパントをドープする必要がある。アンドープの場合、ホール供給の役割を果たさず発光に寄与しないためである。ECV測定により測定されるキャリア濃度、または、SIMS分析により測定されるp型ドーパントの不純物濃度は1×1018atoms/cm3以上6×1018atoms/cm3以下とすることが好ましい。
【0059】
<p型InGaAs窓層>
-組成-
p型InGaAs窓層150の組成は、発光波長に対する透明性の観点から、InwGa1-wAs(0≦w≦0.2)であることが好ましい。組成比(固相比)wは、X線回折装置によるω/2θスキャンを行い、解析ソフト(Jordan Valley RADS)を使用してフィッティングにより算出できる。
【0060】
p型InGaAs窓層150とp型半導体層148とは、格子整合しない。p型AlInAs電子ブロック層146の直上にp型InGaAs窓層150が形成される場合、AlInAs電子ブロック層146はAlxIn1-xAs(x=0.05)のとき、ベガード則から格子定数は0.6039、AlxIn1-xAs(x=0.4)のとき格子定数は0.5899となり、Znドープp型InGaAs窓層150はGaAsのとき格子定数は0.5657であるため、Al0.05In0.95As電子ブロック層とZnドープp型GaAs窓層との格子不整合度は6.3%であり、Al0.4In0.6As電子ブロック層とZnドープp型GaAs窓層との格子不整合度は4.1%である。p型InAsクラッド層の直上にp型GaAs窓層が形成される場合も、InAsの格子定数0.60584であるため、格子不整合度は6.6%である。Al組成比w=0.2のときも、格子不整合度は3%を超える。
【0061】
-膜厚-
p型InGaAs窓層150の膜厚は500nm以上2000nm以下であることが好ましい。p型InGaAs窓層150がこれより厚すぎると、電流がLEDチップの端まで広がり表面再結合が増加したり、素子のオーミック抵抗が増加してしまうことで発光効率が低下する。p型InGaAs窓層150がこれより薄すぎると、電極の真下で発光してしまうため光の取り出しを妨げてしまう。
【0062】
-ドーパント-
p型InGaAs窓層150のECV測定により測定されるキャリア濃度、または、p型不純物の不純物濃度は1×1018atoms/cm3以上3×1019atoms/cm3以下であることが好ましい。p型InGaAs窓層150は、電極を形成する側において、p型InGaAs窓層の主領域よりもキャリア濃度を高めることで高い導電性を有し電極の形成に有利なp型コンタクト領域を有していることも好ましい。p型InGaAs窓層150のp型コンタクト領域のキャリア濃度、または、p型不純物の不純物濃度は8×1018atoms/cm3以上3×1019atoms/cm3以下であることが好ましい。
【0063】
―基板―
なおここで、発光素子100に適用可能な基板について詳細に説明する。基板は、InAsSbP活性層145を含む半導体積層体140を機械的に形状維持できる程度の厚さを有する基板であればよく、発光素子100の半導体積層体140を形成する際のエピタキシャル成長に供する成長用基板105であってもよい。成長用基板105としては、GaAs、InP、InAs、GaSb、InSbなどの化合物基板を使用することができ、GaAs基板を用いることが好ましい。GaAs基板を用いる場合、成長用基板105とn型半導体層141との間に格子不整合を緩和するためのバッファ層を設けることも好ましく、そのバッファ層は低温で成長させたInAsバッファ層とすることができる。また、成長用基板105をGaAsとし、上記のp型InGaAs窓層150をGaAsとすることで、歪が緩和されて成長用基板105の反りが低減する。この成長用基板105の反りの低減効果は、電極形成や後述の第二実施形態における支持基板との接合の工程に有効である。
【0064】
(発光素子の製造方法)
以下において、これまでに説明した発光素子100の製造方法の実施形態の一例を説明する。発光素子100は、半導体積層体140の各半導体層をエピタキシャル成長させるための成長用基板105がn型又はアンドープであれば、成長用基板105上にn型半導体層141を形成する工程と、n型半導体層141上にIn、Asを少なくとも含むInAsSbP活性層145を形成する工程と、InAsSbP活性層145上にp型半導体層148を形成する工程と、p型半導体層148上にp型InGaAs窓層150を形成する工程と、p型半導体層148上に、p型半導体層148と格子整合しないp型InGaAs窓層150を形成する工程と、を経て製造することが出来る。また、このときp型半導体層148の膜厚は20nm以上520nm以下である。
【0065】
また、p型半導体層148を形成する工程は、p型AlInAs電子ブロック層146を形成する工程を含むことが好ましく、p型AlInAs電子ブロック層146上にクラッド層147を形成する工程をさらに含むことも好ましい。
【0066】
一方、半導体積層体140の各半導体層をエピタキシャル成長させるための成長用基板105がp型であれば、成長用基板上にp型InGaAs窓層150を形成する工程と、p型InGaAs窓層150上にp型半導体層148を形成する工程と、p型半導体層148上にInAsSbP活性層145を形成する工程と、InAsSbP活性層145上にn型半導体層141を形成する工程と、を経て製造することもできる。
【0067】
-半導体積層体の成長法-
各半導体層は、エピタキシャル成長により形成することができ、例えば、有機金属気相
成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法や分子線エピタキシ(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法などの公知の薄膜成長方法により形成することができる。例えば、In源としてトリメチルインジウム(TMIn)、Ga源としてトリメチルガリウム(TMGa)やトリエチルガリウム(TEGa)、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMAl)、As源としてアルシン(AsH3)やターシャルブチルアルシン(TBAs)、Sb源としてトリメチルアンチモン(TMSb)、トリエチルアンチモン(TESb)、トリスジメチルアミノアンチモン(TDMASb)、P源としてホスフィン(PH3)やターシャルブチルホスフィン(TBP)を所定の混合比で用い、これらの原料ガスを、キャリアガスを用いつつ気相成長させることにより、成長時間に応じて所望の厚みで形成することができる。各層をp型又はn型にドーピングする場合は、所望に応じたドーパント源のガスをさらに用いればよい。例えばZnをドーピングする場合、DEZn(ジエチル亜鉛)ガスなどを用いればよい。なお、InAsはアンドープでもn型となる。
【0068】
-半導体積層体における他の半導体層-
また、半導体積層体140は、n型半導体層141とInAsSbP活性層145との間や、InAsSbP活性層145とp型半導体層148との間に、アンドープのガイド層(例えばアンドープのInAs層)を形成する工程を備えてもよい。
【0069】
-電極-
さらに、
図1に示すように、p型InGaAs窓層150上に上部電極191を形成し、成長用基板105の裏面に裏面電極195を設けてもよい。上部電極191はオーミック電極の配線部及びパッド部を含んでもよく、図示しないがパッド部はボンディング用の金属層や半田を有していてもよい。上部電極191及び裏面電極195に用いる金属材料および形成方法は公知のものを用いることができる。金属材料としては、Ti、Pt、Au、Ag、Al、Zn、Niなどを使用できる。
【0070】
(第2実施形態)
図2を参照して、本発明の第2実施形態に従う発光素子200を説明する。発光素子200は、支持基板を接合したうえで成長用基板を除去することにより得られる接合型の発光素子である。先に述べたとおり、発光素子100と同一の構成要素には原則として数字三桁のうち、下二桁で同一の参照番号を付して、重複する説明を省略する。この発光素子200は、支持基板280と、支持基板280の表面に設けられた金属接合層279と、金属反射層271と、金属反射層271上の、貫通孔を具える透明絶縁層261及び当該貫通孔に設けられたオーミック電極部265を有する配電部260と、配電部260上に設けられた半導体積層体240とを少なくとも備える。
【0071】
発光素子200における半導体積層体240は、支持基板280と反対側から順にn型半導体層241、InAsSbP活性層245、p型半導体層248及びp型InGaAs窓層250を有する。p型半導体層248は、p型AlInAs電子ブロック層246及びクラッド層247を有してもよい。
【0072】
成長用基板と異なる支持基板280としては、成長用基板より安価で熱伝導性が高いことが好ましく、例えば、Si、Ge、GaAsなどの化合物基板のほか、銅合金やモリブデン、タングステン、コバールなどの熱膨張係数を抑制可能な金属を使用した金属基板や、AlNなどのセラミック基板に金属を付けたサブマウント基板を使用することができる。加工性や価格の面からSi基板を支持基板280に用いることも好ましい。
【0073】
支持基板280を接合したうえで、後述の成長用基板を除去する接合型の本実施形態においても、上述する厚さを有するp型半導体層248と、p型半導体層248上の、前記p型半導体層248と格子整合しないp型InGaAs窓層250を備えることで、発光効率を向上させることができる。以下、発光素子200とその製造方法の実施形態の一例を、
図3~
図5を参照しつつ、より詳細に説明する。
【0074】
まずは成長用基板205を用意する。そして、
図3を参照し、半導体積層体240を形成する。このとき、成長用基板205上に、図示しないエッチングストップ層を形成してもよい。半導体積層体240は既述の半導体積層体140と同様である。
【0075】
<配電部の形成>
p型InGaAs窓層250上(p型コンタクト領域を設ける場合はp型InGaAs窓層のp型コンタクト領域上)に、貫通孔を具える透明絶縁層261及び貫通孔に設けられたオーミック電極部265を備える配電部260を形成する。配電部260を形成する具体的手法は任意であるが、配電部260を形成するための具体的な態様の一例を
図4及び
図5を参照して以下に説明する。
【0076】
まず透明絶縁層261を半導体積層体240上に成膜する。成膜法としては、プラズマCVD法及びスパッタ法などの、公知の手法が適用可能である。その後、透明絶縁層261上にフォトマスクを用いて配電部のレジストパターンを形成する。次いで、レジストパターンを利用してエッチングにより透明絶縁層261の一部を除去し、貫通孔を形成する。貫通孔が設けられることにより、半導体積層体240の最表面の一部領域は露出する。その後、オーミック電極部265を成膜し、次いでレジストパターンを利用してリフトオフすれば、配電部260を形成することができる。配電部260には、透明絶縁層261及びオーミック電極部265が並列して配設されることになる。なお、図面では簡略化のためオーミック電極部265は貫通孔を充填するよう図示しているものの、これに限定されず、透明絶縁層261とオーミック電極部265との間に間隙が生じてもよい。
【0077】
オーミック電極部265は、所定のパターンで島状に分散させて形成することができる。オーミック電極部265として、例えばAu、AuZn、AuBe、AuTiなどを用いることができ、これらの積層構造を用いることも好ましい。例えば、Ti/Auをオーミック電極部265とすることができる。オーミック電極部265の膜厚(又は合計膜厚)は制限されないが、例えば300~1300nm、より好ましくは350nm~800nmとすることができる。
【0078】
また、透明絶縁層261としては、SiO2、SiN、ITO、Al2O3及びAlNなどの単層または複合層を用いることができる。
【0079】
<金属反射層の形成>
図4に示すように、配電部260上に金属反射層271を形成することも好ましい。金属反射層271は、複数層の金属層を含むことができるが、金属反射層271を構成する金属には、Auの他、Al、Pt、Ti、Agなどを用いることができる。例えば、金属反射層271はAuのみからなる単一層であってもよいし、金属反射層271にAu金属層が2層以上含まれていてもよい。金属反射層271は、金属反射層271の組成においてAuを50質量%以上有することが好ましい。後続の工程における金属接合層279との接合を確実に行うため、金属反射層171の最表層(半導体積層体240と反対側の面)を、Au金属層とすることが好ましい。
【0080】
例えば、配電部260(上記間隙が設けられている場合は間隙を含む)上に、Al、Au、Pt、Auの順に各金属層を成膜し、金属反射層271を形成することができる。金属反射層271におけるAu金属層の1層の厚みを、例えば400nm~2000nmとすることができ、Au以外の金属からなる金属層の厚みを、例えば5nm~200nmとすることができる。蒸着法などの一般的な手法を用いることにより、金属反射層271を成膜して形成することができる。
【0081】
<支持基板との接合>
支持基板との接合について、
図4を参照して説明する。半導体積層体240及び配電部260を、少なくとも金属接合層279を介して支持基板280と接合する。金属反射層271を設けることで、金属反射層271と金属接合層279とを接合してよい。金属接合層279と、金属反射層271とを対向配置して貼り合せ、250℃~500℃程度の温度で加熱圧縮接合を行うことで、両者の接合を行うことができる。
【0082】
<<金属接合層>>
Ti、Pt、Auなどの金属や、Auと共晶合金を形成する金属(Snなど)や半田を用いて金属接合層279を形成することができ、これらを積層して金属接合層279を形成することが好ましい。例えば、支持基板280の表面から順に、厚み400nm~800nmのTi、厚み5nm~20nmのPt、厚み700~1200nmのAuを積層して金属接合層279を形成することができる。例えば、金属反射層271と金属接合層279とで接合する場合に、金属接合層279の最表層をAu金属とし、金属反射層271の最表層もAuとして、Au-Au拡散によるAu同士での接合を行うことができる。
【0083】
<<支持基板>>
支持基板280は、成長用基板205とは異種の基板であればよく、先に述べた半導体基板、金属基板、セラミックス基板がベースとなったサブマウント基板などを用いることができる。上述した接合法を用いるため、支持基板280は、本実施形態において形成する各半導体層と格子不整合してもよい。なお、支持基板280は、用途によっては絶縁性でもよいものの、導電性基板であることが好ましい。加工性や価格の面からSi基板を支持基板280に用いることが好ましい。Si基板を用いることで、導電性支持基板280の厚みを、従来よりも大幅に小さくすることもでき、種々の半導体デバイスとの組み合わせた実装にも適している。また、Si基板はInAs基板に比べて放熱性の点でも有利である。
【0084】
<成長用基板の除去>
成長用基板の除去については
図5を参照して説明する。支持基板280を接合した後、成長用基板205を除去する。成長用基板205がGaAs基板である場合、例えば、アンモニア-過酸化水素混合液を用いて成長用基板205をウェットエッチングすることができる。エッチングストップ層を用いる場合は、成長用基板205の除去に引き続き、エッチングストップ層を順次除去してもよい。また、エッチングストップを一部残すことで、上部電極291に対するコンタクト抵抗を低減するn型コンタクト層として使用しても良い。
【0085】
-電極形成工程-
さらに、参照した
図2に示すように、半導体積層体240上に上部電極291を形成し、支持基板280の裏面に裏面電極295を形成してもよい。上部電極291は、配線部及びパッド部を含んでもよい。上部電極291及び裏面電極295の形成は公知の手法を用いることができ、例えばスパッタ法、電子ビーム蒸着法(蒸着法とも記載する)、又は抵抗加熱法などを用いることができる。電極のパターン形成には、金属マスクを用いる方法のほか、フォトリソグラフ法とリフトオフ法や金属のエッチングを組み合わせて用いる方法がある。
【0086】
以上の製造方法により
図2に示す発光素子200を得ることができる。これらの実施形態は例示であり限定されるものではなく、メサエッチングにおいて素子の側面に傾斜を設けてもよく、電極形状は上面二電極でもよく、フリップチップでもよく、適宜変更が可能である。
【実施例0087】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら
限定されるものではない。
【0088】
[実験例1]
(実施例1)
MOCVD法を用いて、まず、Siドープのn型GaAs成長用基板(基板厚:350μm)の(100)面上に、n型半導体層としてTeドープのn型InAs層(膜厚:5.2μm)を形成した。n型半導体層の成長用基板側は高キャリア濃度のn型コンタクト領域(膜厚:0.3μm)とした。次に、アンドープのInAsガイド層(膜厚:75nm)形成した。次に、発光中心波長が3200nmとなる量子井戸構造の活性層(合計膜厚:830nm)を形成した。次に、Znドープのp型Al0.14In0.86As電子ブロック層(膜厚15nm)、Znドープのp型InAsクラッド層(膜厚:500nm)、Cドープのp型GaAs窓層(膜厚:1000nm)を順次形成した。p型GaAs窓層の表面側は高キャリア濃度のp型コンタクト領域(膜厚:100nm)とした。量子井戸構造の活性層は、アンドープのInAs0.92P0.08障壁層(膜厚:30nm)とInAs0.95Sb0.05井戸層(膜厚:10nm)を順に20層ずつ交互に積層した後で、InAs0.92P0.08障壁層を成長し、最後の障壁層を含めて20.5組とした。活性層の格子定数は0.6052である。p型Al0.14In0.86As電子ブロック層の格子定数は0.5999であり活性層との格子定数差は0.9%、p型InAsクラッド層の格子定数は0.6058であり活性層との格子定数差は0.1%であり、いずれも格子整合する。上記のp型Al0.14In0.86As電子ブロック層とp型InAsクラッド層とを合計して、「活性層と格子整合するp型半導体層」と呼称する。一方、p型GaAs窓層の格子定数は0.5657であり、活性層と格子整合するp型半導体層(p型GaAs窓層と接する層としてのp型InAsクラッド層)と、p型GaAs窓層との格子定数差は6.6%であり、格子整合しない。仮に、p型半導体層においてp型GaAs窓層と接する層がp型Al0.14In0.86As電子ブロック層である場合も、p型Al0.14In0.86As電子ブロック層とp型GaAs窓層との格子定数差は5.7%であり、格子整合しない。以下の表1に、各層の組成と厚さ、およびドーパントの種類と濃度(ECV測定によるキャリア濃度)ついて記載する。各層の形成にあたり選択した原料ガスは、In源としてトリメチルインジウム(TMIn)、Ga源としてトリメチルガリウム(TMGa)、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMAl)、As源としてアルシン(AsH3)、Sb源としてトリエチルアンチモン(TESb)、P源としてホスフィン(PH3)とした。また、ドーパントガスとして、四臭化炭素(CBr4)、DEZn(ジエチル亜鉛)およびDETe(ジエチルテルル)を使用した。
【0089】
各層の組成の測定にはBRUKER社製のJV-QC3 XRD装置を使用した。各層の組成は、解析ソフト(Jordan Valley RADS)を使用してフィッティングにより算出した。各層の厚さは、SEM(走査型電子顕微鏡)またはTEM(透過型電子顕微鏡)による成長層の断面観察から算出した。ECV測定によるキャリア濃度(cm-3)測定は、Onto Innovation社製のECVpro-UVを用いて、電解液を半導体層に接触させ電気化学的接合(ショットキー接合)を形成し、エッチングと容量測定を交互に繰り返すことで深さ方向の測定を行った。
【0090】
【0091】
次に、プラズマCVD法によりp型GaAs窓層上の全面にSiO2からなる透明絶縁層(膜厚:550nm)を形成した。その上に配電部パターンをレジストにより形成し、レジストに覆われない領域のSiO2をエッチングで除去してCドープのp型GaAs窓層を露出させた。次に、オーミック金属部してTi(膜厚:10nm)、Au(膜厚:530nm)を蒸着法を用いて成膜し、配電部パターンのレジストをその上に成膜された金属と共に除去することで、露出したCドープのp型GaAs窓層上に形成されたオーミック金属部のみを残し、オーミック金属部と透明絶縁層とが並列して配設される配電部とした。次に、配電部上に金属反射層(Al(膜厚:10nm/Au(膜厚:650nm)/Pt(膜厚:100nm/Au(膜厚:900nm))を蒸着法により形成した。
【0092】
次に、支持基板(Si基板)上に金属接合層(Ti(膜厚:650nm)/Pt(膜厚:20nm)/Au(膜厚:900nm))を蒸着法により形成した。次に、金属反射層と金属接合層を対向配置して、300℃で加熱圧縮接合を行った。次に、成長用基板をアンモニア-過酸化水素混合液を用いてウェットエッチングして除去し、n型半導体層を露出させた。次に、n型半導体層上に、Ti(膜厚:150nm)/Au(膜厚:1250nm)を蒸着法を用いて形成しn型オーミック電極とした。次に、n型オーミック電極上にPad電極(Ti(膜厚:150nm)/Pt(膜厚:100nm)/Au(膜厚:2500nm))を蒸着法を用いて形成し、n型オーミック電極とPad電極を合わせて上部電極とした。なお、電極のパターン形成には、レジストを用いたリフトオフ法を用いた。
【0093】
次に、メサエッチングにより各素子間(幅:60μm)の半導体積層体を除去してダイシングラインを形成した。そして、支持基板の裏面側に裏面電極(Ti(膜厚:10nm)/Pt(膜厚:50nm)/Au(膜厚:200nm))を蒸着法により形成し、300℃で1分間熱処理することで合金化を行った。次に、8℃±1℃に保った硝酸溶液中にウエハ全体を5秒間浸し、上部電極が形成された領域以外の半導体積層体の表面の粗面化を行った。その後、アンモニア水中に1分間浸漬した後、純水で1分間洗浄を行った。最後に、ダイシングによるチップ個片化を行い、実施例1に係る半導体発光素子を作製した。なお、チップサイズは500μm×500μmである。得られた発光素子における各層の膜厚を表1に示し、特にp型Al0.14In0.86As電子ブロック層の膜厚をT1、p型InAsクラッド層の膜厚をT2、p型GaAs窓層の膜厚をT3と表記した。
【0094】
(実施例2)
p型InAsクラッド層の厚さを500nmから30nmに変更し、活性層と格子整合するp型半導体層の厚さが45nmである以外は、実施例1と同様にして実施例2に係る発光素子を得た。
【0095】
(実施例3)
p型InAsクラッド層の厚さを500nmから0nmに変更し、p型AlInAs電子ブロック層の厚さを45nmにすることで、活性層と格子整合するp型半導体層の厚さを45nmとした以外は、実施例1と同様にして実施例3に係る発光素子を得た。
【0096】
(実施例4)
p型InAsクラッド層の厚さを500nmから0nmに変更し、p型AlInAs電子ブロック層の厚さを30nmにすることで、活性層と格子整合するp型半導体層の厚さを30nmとした以外は、実施例1と同様にして実施例4に係る発光素子を得た。
【0097】
(比較例1)
p型InAsクラッド層の厚さを500nmから1000nmに変更し、活性層と格子整合するp型半導体層の厚さが1015nmである以外は、実施例1と同様にして比較例1に係る発光素子を得た。
【0098】
(比較例2)
p型InAsクラッド層の厚さを500nmから0nmに変更し、活性層と格子整合するp型半導体層の厚さが15nmである以外は、実施例1と同様にして比較例2に係る発光素子を得た。
【0099】
(比較例3)
p型InAsクラッド層の厚さを500nmから1000nmに変更することで活性層と格子整合するp型半導体層の厚さが1015nmとし、p型GaAs窓層の厚さを0nmとする以外は、実施例1と同様にして比較例3に係る発光素子を得た。
【0100】
(比較例4)
p型GaAs窓層の厚さを1000nmから0nmに変更した以外は、実施例1と同様にして比較例4に係る発光素子を得た。
【0101】
(比較例5)
p型InAsクラッド層の厚さを500nmから30nmに変更することで活性層と格子整合するp型半導体層の厚さが45nmとし、p型GaAs窓層の厚さを0nmとする以外は、実施例1と同様にして比較例5に係る発光素子を得た。
【0102】
(比較例6)
p型GaAs窓層を除くp型半導体層の厚さを0nmとし、p型半導体層の代わりにアンドープのInAs層を30nm形成した以外は、実施例1と同様にして比較例6に係る発光素子を得た。
【0103】
<評価:発光出力評価>
上記の実施例及び比較例から得られた半導体発光素子に、定電流電圧電源を用い300mAの電流を流した。このときの順方向電圧Vf(V)および積分球による発光出力Po(W)を測定した。結果を表2に示す。発光効率WPE(%)の値は発光出力(W)を印加電力(順方向電圧(V)×電流0.3(A))で割った計算値である。
【0104】
【0105】
以上の結果より、本発明条件を満たす実施例1~4では最適な膜厚でInAsSbP活性層と格子整合するp型半導体層を設け、その上にp型半導体層と格子整合しないp型GaAs窓層を用いることにより、InAsSbP活性層で発光した光が吸収されずにp型GaAs窓層の側面やn型半導体層から外部に光取り出しされて発光出力を増大させることができることが確認できた。
【0106】
p型GaAs窓層を用いた本実施例では、ホール供給層とp型GaAs窓層の間に格子不整合があり、格子不整合がある界面においてホールの流れが阻害されるため、p型GaAs窓層を持たない比較例3~5に比べて順方向電圧の値が大きく上昇している。しかしながら、印加電力に対する発光出力の値(発光効率)の値は高くなっている。p型GaAs窓層を用いることにより、光が吸収されずにp型GaAs窓層から外部に光取り出しされる効率が向上し、順方向電圧の増加分を上回る発光出力の増加が得られたと考えられる。
【0107】
[実験例2]
以下、狙いの発光中心波長を3200nmではなく3800nmに代え、活性層の組成を替えて試験を行った。
【0108】
(実施例5)
活性層の井戸層のSb固相比を0.05から0.12に変更し、障壁層のP固相比を0.08から0.12に変更し、p型AlInAs電子ブロック層のAl固相比を0.14から0.15に変更し、p型InAsクラッド層の厚さを500nmから30nmにすることでp型GaAs窓層を除くP型半導体層の厚さを45nmとした以外は、実施例1と同様にして実施例5に係る発光素子を得た。活性層の格子定数は0.6054である。p型Al0.15In0.85As電子ブロック層の格子定数は0.5999であり活性層との格子定数差は0.9%、p型InAsクラッド層の格子定数は0.6058であり活性層と格の子定数差は0.1%であり、いずれも格子整合する。上記のp型Al0.15In0.85As電子ブロック層とp型InAsクラッド層とを合計して、活性層と格子整合するp型半導体層と呼称する。p型GaAs窓層の格子定数は0.5657であり、活性層と格子整合するp型半導体層におけるp型GaAs窓層と接する層(上記ではp型InAsクラッド層)と、p型GaAs窓層との格子定数差は6.6%であり、格子整合しない。以下の表2に、各層の組成と厚さ、およびドーパントの種類と濃度(ECV測定によるキャリア濃度)ついて記載する。
【0109】
【0110】
(比較例7)
p型GaAs窓層を除くp型半導体層の厚さを0nmとし、p型半導体層の代わりにアンドープのInAs層を30nm形成した以外は、実施例5と同様にして比較例7に係る発光素子を得た。
【0111】
(比較例8)
p型InAsクラッド層の厚さを30nmから1000nmに変更することでp型GaAs窓層を除くp型半導体層の厚さが1015nmとし、p型GaAs窓層の厚さを0nmにする以外は、実施例5と同様にして比較例8に係る発光素子を得た。
【0112】
<評価:発光出力評価>
実験例1と同様にして、半導体発光素子に、定電流電圧電源を用い300mAの電流を流し、このときの順方向電圧Vf(V)および積分球による発光出力Po(mW)を測定した。実施例5および比較例7、8の測定結果を表4に示す。
【0113】
【0114】
以上の結果より、最適な膜厚で活性層と格子整合するp型半導体層を設け、その上にp型半導体層と格子整合しないp型GaAs窓層を用いることにより、発光出力および発光効率を増大させることができることが確認できた。以上のようにして、発光出力および発光効率が高い発光素子およびその製造方法を提供することができる。
本発明によれば、In、Asを少なくとも含むInAsSbP半導体層を備える半導体光デバイスの光デバイス特性を改善することのできる、半導体光デバイスの製造方法を提供することができる。さらに本発明は、半導体積層体の製造方法及び半導体積層体に適用できる。