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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098588
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】燃料油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/19 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
C10L1/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002160
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 貞憲
【テーマコード(参考)】
4H013
【Fターム(参考)】
4H013CE03
(57)【要約】
【課題】脂肪酸アルキルエステルを含有することで優れた燃焼性能を有するとともに、常温通油性能をも有する燃料油組成物を提供する。
【解決手段】特定の性状を有する脂肪酸アルキルエステル及び分解軽油留分を、組成物全量基準の含有量として各々15.0容量%以上35.0容量%以下、20.0容量%以上40.0容量%以下で含み、(1)15℃における密度が0.8700g/cm以上0.8900g/cm以下、(2)50℃における動粘度が2.000mm/s以上4.500mm/s以下、(3)硫黄分含有量が0.400質量%以下、(4)3環以上の芳香族分含有量が2.9容量%以上及び(5)10%残油の残留炭素分が0.21質量%以上0.60質量%以下のいずれも満足する燃料油組成物及びその製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)~(a)をいずれも満足する脂肪酸アルキルエステルと、下記(b)~(b)をいずれも満足する分解軽油留分と、を含み、前記脂肪酸アルキルエステルが、炭素数8以上22以下の脂肪酸と炭素数1以上4以下のアルキルアルコールとのエステルであり、前記脂肪酸アルキルエステルの組成物全量基準の含有量が15.0容量%以上35.0容量%以下であり、前記分解軽油留分の組成物全量基準の含有量が20.0容量%以上40.0容量%以下である、下記(1)~(5)のいずれも満足する燃料油組成物。
(a)セタン価が49.0以上
(a)酸価が0.50mgKOH/g以下
(a)10%残油の残留炭素分が0.80質量%以上1.50質量%以下
(b)50℃における動粘度が1.700mm/s以上3.600mm/s以下
(b)硫黄分含有量が0.40質量%以下
(b)芳香族分含有量が50.0容量%以上
(b)3環以上の芳香族分含有量が5.0容量%以上
(1)15℃における密度が0.8700g/cm以上0.8900g/cm以下
(2)50℃における動粘度が2.000mm/s以上4.500mm/s以下
(3)硫黄分含有量が0.400質量%以下
(4)3環以上の芳香族分含有量が2.9容量%以上
(5)10%残油の残留炭素分が0.21質量%以上0.60質量%以下
【請求項2】
前記脂肪酸アルキルエステルが、脂肪酸メチルエステルである請求項1に記載の燃料油組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸が、炭素数8以上22以下の脂肪酸を二種以上含む混合脂肪酸である請求項1又は2に記載の燃料油組成物。
【請求項4】
前記混合脂肪酸が、動物油及び植物油から選ばれる少なくとも一種の原料から得られるものである請求項3に記載の燃料油組成物。
【請求項5】
前記原料が、廃食用油である請求項4に記載の燃料油組成物。
【請求項6】
内燃機に用いられる請求項1~5のいずれか1項に記載の燃料油組成物。
【請求項7】
炭素数8以上22以下の脂肪酸と炭素数1以上4以下のアルキルアルコールとのエステルであり、下記(a)~(a)をいずれも満足する脂肪酸アルキルエステルと、下記(b)~(b)をいずれも満足する分解軽油留分とを、前記脂肪酸アルキルエステルの組成物全量基準の含有量が15.0容量%以上35.0容量%以下、前記分解軽油留分の組成物全量基準の含有量が20.0容量%以上40.0容量%以下となるように混合する、下記(1)~(5)のいずれも満足する燃料油組成物の製造方法。
(a)セタン価が49.0以上
(a)酸価が0.50mgKOH/g以下
(a)10%残油の残留炭素分が0.80質量%以上1.50質量%以下
(b)50℃における動粘度が1.700mm/s以上3.600mm/s以下
(b)硫黄分含有量が0.40質量%以下
(b)芳香族分含有量が50.0容量%以上
(b)3環以上の芳香族分含有量が5.0容量%以上
(1)15℃における密度が0.8700g/cm以上0.8900g/cm以下
(2)50℃における動粘度が2.000mm/s以上4.500mm/s以下
(3)硫黄分含有量が0.400質量%以下
(4)3環以上の芳香族分含有量が2.9容量%以上
(5)10%残油の残留炭素分が0.21質量%以上0.60質量%以下
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
JIS K2205:1991の1種重油(以下、「A重油」とも称する。)、とりわけJIS K2205:1991の1種1号重油(以下「低硫黄A重油」とも称する。)は、灯油、軽油等と比べて単位体積当たりの発熱量が高く、燃料油使用量(体積)を低減することができ、またC重油(JIS K2205:1991の3種重油)と比べて硫黄分、窒素分、残留炭素分が少ないことから、環境負荷が小さいものである。さらにC重油とは異なり、加熱する必要がなく、常温で貯蔵及び使用が可能であり、かつ供給安定性にも優れていることから、船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機の燃料油として、また発電用ボイラ等の外燃機の燃料油として広く使用されている。
【0003】
船舶用の燃料油としては、ISO8217「Petroleum products-Fuels(class F)-Specification of marine fuels」を満足する燃料油等が知られている。そしてISO8217:2017では、脂肪酸メチルエステル(FAME)の最大含有量が7容量%以下の船舶留出油に関する追加規定(DFグレード:DFA、DFZ及びDFB)が追加された。脂肪酸メチルエステル(FAME)が含まれる燃料油組成物としては、例えば特許文献1~3に記載される組成物が知られている。上記特許文献1~3には、例えばミリスチン酸メチルエステル等の脂肪酸メチルエステルを含む菜種油のメチルエステル化物を、5~100容量%の含有量で含有する記載される内燃機用燃料油組成物及び外燃機用燃料油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-231119号公報
【特許文献2】特開2007-231120号公報
【特許文献3】特開2007-231121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1~3に記載される燃料油組成物に含まれる脂肪酸メチルエステル(FAME)等の脂肪酸アルキルエステルは、燃焼性能が高いことから、燃料油としての使用の検討が進んでいる基油の一つである。また、脂肪酸アルキルエステルとして動植物由来のものを使用する場合、二酸化炭素の排出が削減されることとなるため、二酸化炭素の排出削減による地球温暖化の抑制に寄与することができ、環境保護の観点から極めて有用である。よって、脂肪酸メチルエステル(FAME)等の脂肪酸アルキルエステルを基油として用いることで、燃焼性能の向上が期待でき、さらに動植物由来の脂肪酸アルキルエステルを採用すると、環境保護に寄与する基油となり得る。
【0006】
ところで、船舶に用いられる燃料油組成物、とりわけ船舶のディーゼルエンジン等に燃料油組成物を用いる場合、通常使用時にアスファルテンの凝集によるスラッジの生成等により燃料油フィルタの閉塞頻度が高くなりやすい。そして、船舶内の燃料油タンク等で長期貯蔵した後に使用すると、スラッジが生成しやすくなり、閉塞頻度はより高くなる傾向にある。
【0007】
船舶用の燃料油組成物として、既述のISO8217を満足する燃料油等が知られているが、燃料油フィルタの閉塞を生じる場合がある。閉塞頻度を低減する手法として、潜在セジメント(Total sediment aged、ISO 10307-2)を0.10質量%以下とする手法、実在セジメント(Total sediment by hot filtration、ISO 10307-1)を0.10質量%以下とする手法等が知られている。しかし、船舶用の燃料油、特に留出油については、常温貯蔵後の燃料油フィルタにおける通油性能が十分とはいえず、閉塞頻度をより低減し得る燃料油組成物が求められている。
【0008】
また、国内において、船舶用の燃料油組成物としては、全漁連漁船用燃料油規格において漁船用A重油の閉塞頻度を低減するべく、水でい分、ドライスラッジを所定含有量以下とすることが知られている。このように、国内外において用いられる船舶用の燃料油組成物には、閉塞頻度をより低減することが求められるようになっており、通油性能に関する要求は年々厳しくなっている。
【0009】
上記の特許文献1~3に記載される燃料油組成物は、排気ガス中の未燃物質(煙)及び粒子状物質(PM)の低減、発熱量の向上及び燃焼排出ガス中の煤濃度の低減、並びに硫黄分の低減及び残留炭素付与剤の配合に起因したスラッジ安定性の向上、に着目されている。しかし、燃焼性能の向上だけでなく、閉塞頻度を低減することによる通油性能の向上をも図ることについては、着目されておらず、特に通油性能については改善の余地がある。また、ISO8217では、脂肪酸メチルエステル(FAME)の含有量が7容量%以下の船舶留出油についての規格は設けられているが、7容量%を超える低硫黄A重油については何らの言及はない。そして、脂肪酸メチルエステル(FAME)等の脂肪酸アルキルエステルの含有量が7容量%を超える低硫黄A重油については、常温で貯蔵した後の使用に際し、燃料油フィルタの閉塞を生じやすく、燃料油フィルタの通油性能(以下、「常温通油性能」とも称する。)に優れているとまではいえない。そのため、常温貯蔵後の使用に際して、燃料油フィルタの閉塞頻度の低減による通油性能の向上について、更なる改良が求められている。
【0010】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、脂肪酸アルキルエステルを含有することで優れた燃焼性能を有するとともに、常温通油性能をも有する燃料油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意検討の結果、下記の発明により解決できることを見出した。すなわち、本発明は、下記の構成を有する燃料油組成物を提供するものである。
【0012】
[1]下記(a)~(a)をいずれも満足する脂肪酸アルキルエステルと、下記(b)~(b)をいずれも満足する分解軽油留分と、を含み、前記脂肪酸アルキルエステルが、炭素数8以上22以下の脂肪酸と炭素数1以上4以下のアルキルアルコールとのエステルであり、前記脂肪酸アルキルエステルの組成物全量基準の含有量が15.0容量%以上35.0容量%以下であり、前記分解軽油留分の組成物全量基準の含有量が20.0容量%以上40.0容量%以下である、下記(1)~(5)のいずれも満足する燃料油組成物。
(a)セタン価が49.0以上
(a)酸価が0.50mgKOH/g以下
(a)10%残油の残留炭素分が0.80質量%以上1.50質量%以下
(b)50℃における動粘度が1.700mm/s以上3.600mm/s以下
(b)硫黄分含有量が0.40質量%以下
(b)芳香族分含有量が50.0容量%以上
(b)3環以上の芳香族分含有量が5.0容量%以上
(1)15℃における密度が0.8700g/cm以上0.8900g/cm以下
(2)50℃における動粘度が2.000mm/s以上4.500mm/s以下
(3)硫黄分含有量が0.400質量%以下
(4)3環以上の芳香族分含有量が2.9容量%以上
(5)10%残油の残留炭素分が0.21質量%以上0.60質量%以下
[2]前記脂肪酸アルキルエステルが、脂肪酸メチルエステルである上記[1]に記載の燃料油組成物。
[3]前記脂肪酸が、炭素数8以上22以下の脂肪酸を二種以上含む混合脂肪酸である上記[1]又は[2]に記載の燃料油組成物。
[4]前記混合脂肪酸が、動物油及び植物油から選ばれる少なくとも一種の原料から得られるものである上記[3]に記載の燃料油組成物。
[5]前記原料が、廃食用油である上記[4]に記載の燃料油組成物。
[6]内燃機に用いられる上記[1]~[5]のいずれか1に記載の燃料油組成物。
[7]炭素数8以上22以下の脂肪酸と炭素数1以上4以下のアルキルアルコールとのエステルであり、下記(a)~(a)をいずれも満足する脂肪酸アルキルエステルと、下記(b)~(b)をいずれも満足する分解軽油留分とを、前記脂肪酸アルキルエステルの組成物全量基準の含有量が15.0容量%以上35.0容量%以下、前記分解軽油留分の組成物全量基準の含有量が20.0容量%以上40.0容量%以下となるように混合する、下記(1)~(5)のいずれも満足する燃料油組成物の製造方法。
(a)セタン価が49.0以上
(a)酸価が0.50mgKOH/g以下
(a)10%残油の残留炭素分が0.80質量%以上1.50質量%以下
(b)50℃における動粘度が1.700mm/s以上3.600mm/s以下
(b)硫黄分含有量が0.40質量%以下
(b)芳香族分含有量が50.0容量%以上
(b)3環以上の芳香族分含有量が5.0容量%以上
(1)15℃における密度が0.8700g/cm以上0.8900g/cm以下
(2)50℃における動粘度が2.000mm/s以上4.500mm/s以下
(3)硫黄分含有量が0.400質量%以下
(4)3環以上の芳香族分含有量が2.9容量%以上
(5)10%残油の残留炭素分が0.21質量%以上0.60質量%以下
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、脂肪酸アルキルエステルを含有することで優れた燃焼性能を有するとともに、常温通油性能をも有する燃料油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態(以後、単に「本実施形態」と称する場合がある。)に係る燃料油組成物について具体的に説明する。なお、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以下」、「以上」及び「~」に係る数値は任意に組み合わせできる数値であり、例えば、とある数値範囲について「A~B」及び「C~D」と記載されている場合、「A~D」、「C~B」といった数値範囲も含まれる。また実施例の数値は上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0015】
〔燃料油組成物〕
本実施形態の燃料油組成物は、下記(a)~(a)をいずれも満足する脂肪酸アルキルエステルと、下記(b)~(b)をいずれも満足する分解軽油留分と、を含み、前記脂肪酸アルキルエステルが、炭素数8以上22以下の脂肪酸と炭素数1以上4以下のアルキルアルコールとのエステルであり、前記脂肪酸アルキルエステルの組成物全量基準の含有量が15.0容量%以上35.0容量%以下であり、前記分解軽油留分の組成物全量基準の含有量が20.0容量%以上40.0容量%以下である、下記(1)~(5)のいずれも満足する燃料油組成物。
(a)セタン価が49.0以上
(a)酸価が0.50mgKOH/g以下
(a)10%残油の残留炭素分が0.80質量%以上1.50質量%以下
(b)50℃における動粘度が1.700mm/s以上3.600mm/s以下
(b)硫黄分含有量が0.40質量%以下
(b)芳香族分含有量が50.0容量%以上
(b)3環以上の芳香族分含有量が5.0容量%以上
(1)15℃における密度が0.8700g/cm以上0.8900g/cm以下
(2)50℃における動粘度が2.000mm/s以上4.500mm/s以下
(3)硫黄分含有量が0.400質量%以下
(4)3環以上の芳香族分含有量が2.9容量%以上
(5)10%残油の残留炭素分が0.21質量%以上0.60質量%以下
【0016】
(燃料油組成物の組成及び性状)
本実施形態の燃料油組成物は、以下の(1)~(5)で規定された組成及び性状をいずれも満足する。
(1)15℃における密度
本実施形態の燃料油組成物の15℃における密度は、0.8700g/cm以上0.8900g/cm以下である。15℃における密度が上記範囲内にないと、燃焼性能の低下、総発熱量の低下が生じる場合がある。
【0017】
常温通油性能及び燃焼性能の向上、さらに総発熱量の向上の観点から、本実施形態の燃料油組成物の15℃における密度としては、好ましくは0.8740g/cm以上、より好ましくは0.8750g/cm以上、更に好ましくは0.8770g/cm以上であり、上限として好ましくは0.8880g/cm以下、より好ましくは0.8850g/cm以下、更に好ましくは0.8830g/cm以下である。
本明細書において、15℃における密度は、JIS K 2249-1:2011(原油及び石油製品-密度の求め方- 第1部:振動法)に準じて測定される値である。
【0018】
(2)50℃における動粘度
本実施形態の燃料油組成物の50℃における動粘度は、2.000mm/s以上4.500mm/s以下である。50℃における動粘度が上記範囲内にないと、燃焼性能が低下する場合がある。また、ポンプ及び流量計等の各種機器の使用範囲に適合しにくくなり、また潤滑性を確保できず、燃料油組成物として使用することができなくなる場合もある。
【0019】
本実施形態の燃料油組成物の50℃における動粘度を上記範囲内としやすくすることで、燃焼性能を向上させて、各種機器の使用範囲に適合しやすくし、かつ潤滑性を向上させる観点から、50℃における動粘度は、好ましくは2.800mm/s以上、より好ましくは3.600mm/s以上、更に好ましくは3.680mm/s以上であり、上限として好ましくは4.300mm/s以下、より好ましくは4.100mm/s以下、更に好ましくは3.850mm/s以下である。
本明細書において、50℃における動粘度は、JIS K 2283:2000(原油及び石油製品の動粘度試験方法)に準じて測定される値である。
【0020】
(3)硫黄分含有量
本実施形態の燃料油組成物の硫黄分含有量は、0.400質量%以下である。硫黄分含有量が上記範囲内にないと、排ガス中の硫黄酸化物の上昇により腐食が生じ、また環境への負荷が高くなるため環境性能が低下する場合がある。腐食の発生の抑制及び環境性能の向上を考慮すると、硫黄分含有量は、好ましくは0.380質量%以下、より好ましくは0.350質量%以下、更に好ましくは0.300質量%以下である。また、硫黄分含有量の含有量は少なければ少ないほど好ましく、下限としては特に制限はないが、貯蔵安定性能の向上、潤滑性向上の観点から、通常0.05質量%以上である。
本明細書において、脂肪酸アルキルエステル以外の硫黄分含有量は、その含有量に応じて測定方法を選択して測定され、含有量が0.01~5質量%の場合はJIS K 2541-4:2003(原油及び石油製品-硫黄分試験方法- 第4部:放射線式励起法)に準じて測定される値である。
【0021】
(4)3環以上の芳香族分含有量
本実施形態の燃料油組成物の3環以上の芳香族分含有量は、2.9容量%以上である。芳香族分の含有量のうち、3環以上の芳香族分含有量が上記範囲内にないと、貯蔵安定性が低下する。とりわけ脂肪酸アルキルエステルの貯蔵安定性の低下を抑制して、燃料油組成物の貯蔵安定性を向上させる観点から、好ましくは3.0容量%以上、より好ましくは3.1質量%以上、更に好ましくは3.2容量%以上であり、上限としては特に制限はないが通常6.0容量%以下である。
本明細書において、芳香族分の含有量(1環芳香族分、2環芳香族及び3環以上の芳香族分)、また飽和分、オレフィン分の含有量は、JPI-5S-49-2007に規定される、石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフィー法(High Performance Liquid Chromatography法)により測定される値である。
【0022】
(5)10%残油の残留炭素分
本実施形態の燃料油組成物の10%残油の残留炭素分は、0.21質量%以上0.60質量%以下である。10%残油の残留炭素分が0.60質量%を超えると燃焼性能の維持が困難となり、またスラッジが生成しやすくなり、常温通油性能が低下する。また、0.21質量%以上とすることで、本実施形態の燃料油組成物はA重油として扱われ、軽油引取税の対象外とできるので、税制上のメリットが得られる。燃焼性能及び常温通油性能を向上させる観点から、また税制上のメリットを考慮すると、10%残油の残留炭素分は、好ましくは0.22質量%以上であり、上限として好ましくは0.50質量%以下、より好ましくは0.45質量%以下、更に好ましくは0.40質量%以下、より更に好ましくは0.38質量%以下である。
本明細書において、10%残油の残留炭素分は、JIS K 2270-2:2009(原油及び石油製品-残留炭素分の求め方- 第2部:ミクロ法)に準じ、附属書Aに準拠して調製した10%残油を用いて測定される値である。
【0023】
また、本実施形態の燃料油組成物は、上記(1)~(5)の性状及び組成に加えて、更に以下(6)~(12)から選ばれる少なくとも1つを満足することが好ましく、特に以下(6)~(12)のいずれも満足することが好ましい。
【0024】
(6)引火点
本実施形態の燃料油組成物の引火点は、取扱い上の安全性の観点から、好ましくは60.0℃以上、より好ましくは65.0℃以上、更に好ましくは70.0℃以上である。上限としては特に制限はないが、通常100.0℃以下である。
本明細書において、脂肪酸アルキルエステル以外の引火点は、JIS K 2265-3:2007(原油及び石油製品-引火点試験方法- 第3部:ペンスキーマルテンス密閉法)に準じて測定される値である。
【0025】
(7)セタン価
本実施形態の燃料油組成物のセタン価は、好ましくは39.0以上、より好ましくは40.0以上、更に好ましくは40.5以上、より更に好ましくは41.0以上であり、上限としては特に制限はないが、通常45.0以下である。セタン価が上記範囲内であると、燃焼性能が向上する。
本明細書において、セタン価は、JIS K 2280-4:2013(石油製品-オクタン価,セタン価及びセタン指数の求め方-第4部:セタン価)に準じて求められる値である。
【0026】
(8)水分含有率
本実施形態の燃料油組成物の水分含有率は、好ましくは0.10容量%以下、より好ましくは0.10容量%未満、更に好ましくは0.05容量%以下である。水分含有率が上記範囲内であると、常温貯蔵の際にアスファルテンと水のエマルジョンによるスラッジの生成、また氷結等の発生を抑制することで、燃料油フィルタにおける閉塞頻度を低減できるので、常温通油性能が向上する。
本明細書において、脂肪酸アルキルエステル以外の水分含有率は、JIS K 2275-1:2015(原油及び石油製品-水分の求め方- 第1部:蒸留法)に準じて測定される値である。
【0027】
(9)銅板腐食
本実施形態の燃料油組成物の銅板腐食は、銅板の判定における銅板の分類として、1以下(1a又は1b)であることが好ましく、中でも1aであることが好ましい。銅板腐食が1以下であれば、燃料油タンク、配管、ディーゼルエンジン、及び装備しているポンプ等の各種補機の腐食を防止できるため、内燃機及び外燃機等の各種機器のより安定した運転が可能となる。
本明細書において、銅板腐食は、JIS K 2513:2000(石油製品-銅板腐食試験方法-)に準じて測定されるものである。ここで、試験温度は50℃、試験時間は3時間とする。
【0028】
(10)酸価
本実施形態の燃料油組成物の酸価は、好ましくは0.05mgKOH/g以下、より好ましくは0.05mgKOH/g未満、更に好ましくは0.03mgKOH/g以下である。酸価は小さければ小さいほど好ましく、下限としては特に制限はなく、特に好ましくは0.0mgKOH/gである。酸価が上記範囲内であると、スラッジの生成抑制により燃料油フィルタにおける閉塞頻度を低減できるので、常温通油性能が向上し、また常温貯蔵した際の貯蔵タンク、配管等の部材の腐食等をより抑制することができる。
本明細書において、酸価は、JIS K 2501:2003(石油製品及び潤滑油-中和価試験方法)に準じて測定される値である。
【0029】
(11)流動点
本実施形態の燃料油組成物の流動点は、好ましくは-0.0℃以下、より好ましくは-2.5℃以下、より更に好ましくは-5.0以下であり、下限としては特に制限はないが、通常-35.0℃以上である。流動点が上記範囲内であると、低温時の貯蔵タンク内、また配管内における流動性が向上し、また取扱性が向上する。
本明細書において、流動点は、JIS K 2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準じて測定される値である。
【0030】
(12)窒素分含有量
本実施形態の燃料油組成物の窒素分含有量は、好ましくは200質量ppm以下、より好ましくは190質量ppm以下、更に好ましくは180質量ppm以下、より更に好ましくは175質量ppm以下であり、下限としては特に制限はないが、通常30質量ppm以上である。窒素分含有量が上記範囲内であると、NOx排出量を低減できるため、環境性能が向上する。
本明細書において、窒素分含有量は、JIS K 2609:1998(原油及び石油製品-窒素分試験方法)に準じて測定される値である。
【0031】
(脂肪酸アルキルエステル)
本実施形態の燃料油組成物は、下記(a)~(a)をいずれも満足し、炭素数8以上22以下の脂肪酸と炭素数1以上4以下のアルキルアルコールとのエステルである脂肪酸アルキルエステルを、組成物全量基準の含有量として15.0容量%以上35.0容量%以下で含む。
(a)セタン価が49.0以上
(a)酸価が0.50mgKOH/g以下
(a)10%残油の残留炭素分が0.80質量%以上1.50質量%以下
【0032】
(a)セタン価
脂肪酸アルキルエステルのセタン価は、49.0以上である。脂肪酸アルキルエステルはセタン価が高い油種として知られており、脂肪酸アルキルエステルを使用することで、本実施形態の燃料油組成物のセタン価を向上させることができ、燃焼性能が向上する。そのため、脂肪酸アルキルエステルのセタン価が49.0未満であると、本実施形態の燃料油組成物のセタン価の向上効果が十分に得られず、燃焼性能が低下する場合がある。
燃焼性能の向上の観点から、脂肪酸アルキルエステルのセタン価は、好ましくは50.0以上、より好ましくは51.0以上である。上限としては特に制限はなく、通常70.0以下である。
【0033】
(a)酸価
脂肪酸アルキルエステルの酸価は、0.50mgKOH/g以下である。脂肪酸アルキルエステルの酸価が上記範囲内にないと、スラッジの生成抑制により燃料油フィルタにおける閉塞頻度が生じやすくなるため常温通油性能が低下し、また常温貯蔵した際の貯蔵タンク、配管等の部材の腐食等が発生する場合がある。常温通油性能を向上させて、かつ部材の腐食等を抑制する観点から、脂肪酸アルキルエステルの酸価は、好ましくは0.48mgKOH/g以下、より好ましくは0.47mgKOH/g以下、更に好ましくは0.46mgKOH/g以下であり、下限としては特に制限はなく、通常0.05mgKOH/g以上である。
【0034】
(a)10%残油の残留炭素分
脂肪酸アルキルエステルの10%残油の残留炭素分は、0.80質量%以上1.50質量%以下である。脂肪酸アルキルエステルの10%残油の残留炭素分が上記範囲内にないと、本実施形態の燃料油組成物の10%残油の残留炭素分を0.21質量%以上0.60質量%以下としにくくなるため、燃焼性能の維持が困難となる。また、燃料油フィルタにおける閉塞頻度を低減しにくくなり常温通油性能が低下する場合がある。
本実施形態の燃料油組成物の10%残油の残留炭素分を0.21質量%以上0.60質量%以下としやすくすることで、燃焼性能及び常温通油性能を向上させる観点から、脂肪酸アルキルエステルの10%残油の残留炭素分は、好ましくは0.85質量%以上、より好ましくは0.90質量%以上、更に好ましくは1.00質量%以上、より更に好ましくは1.05質量%以上であり、上限として好ましくは1.40質量%以下、より好ましくは1.30質量%以下、更に好ましくは1.20質量%以下、より更に好ましくは1.10質量%以下である。また、税制上のメリットを享受しやすくなる。
【0035】
(脂肪酸及びアルキルアルコール)
脂肪酸アルキルエステルは、広義には脂肪酸とアルキルアルコールとのエステルであり、本実施形態において用いられる脂肪酸アルキルエステルは、炭素数8以上22以下の脂肪酸と炭素数1以上4以下のアルキルアルコールとのエステルであり、かつ上記(a)~(a)をいずれも満足するものである。
【0036】
脂肪酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれを採用することができる。炭素数8以上22以下の脂肪酸のうち、飽和脂肪酸としては、例えばカプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸等が代表的に好ましく挙げられる。
【0037】
また、不飽和脂肪酸としては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸等の単価不飽和脂肪酸;リノール酸、リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサジエン酸、ミード酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサジエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の多価不飽和脂肪酸等が代表的に好ましく挙げられる。
【0038】
脂肪酸は、一種であってもよいし、二種以上含む混合脂肪酸であってもよく、脂肪酸アルキルエステルを上記(a)~(a)、さらに下記(a)~(a11)のいずれも満足するものとしやすくし、燃焼性能及び常温通油性能を向上させることを考慮すると、二種以上含む混合脂肪酸であることが好ましい。すなわち、後述するように二種以上含む混合脂肪酸を用いた、二種以上の脂肪酸アルキルエステルを用いることが好ましい。
また、上記の脂肪酸は代表的に直鎖脂肪酸を例示したものであるが、脂肪酸としては、炭素数が8以上22以下であれば、直鎖脂肪酸、分岐鎖脂肪酸のいずれであってもよい。
【0039】
炭素数1以上4以下のアルキルアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールが挙げられる。プロパノール及びブタノールは、直鎖を有するものであってもよいし、分岐鎖を有するものであってもよい。
脂肪酸アルキルエステルを上記(a)~(a)、さらに下記(a)~(a11)のいずれも満足するものとしやすくして、燃焼性能及び常温通油性能を向上させること、脂肪酸アルキルエステルの製造の容易性等を考慮すると、炭素数は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、すなわちより好ましくはメタノール、エタノールであり、特に好ましくはメタノールである。よって、本実施形態で用いられる脂肪酸アルキルエステルとしては、特に脂肪酸メチルエステルが好ましい。
【0040】
本実施形態において、脂肪酸アルキルエステルとしては、1種単独でもよいし、二種以上を組合せて用いてもよい。脂肪酸アルキルエステルを上記(a)~(a)、さらに下記(a)~(a11)のいずれも満足するものとしやすくして、燃焼性能及び常温通油性能を向上させることを考慮すると、二種以上を組合せて用いることが好ましい。
二種以上の組合せとしては、二種以上の脂肪酸と一種のアルキルアルコールとによる二種以上の脂肪酸アルキルエステル、一種の脂肪酸と二種以上のアルキルアルコールとによる二種以上の脂肪酸アルキルエステル、二種以上の脂肪酸と二種以上のアルキルアルコールとによる二種以上の脂肪酸アルキルエステルが挙げられ、本実施形態においてはいずれであってもよい。
【0041】
脂肪酸アルキルエステルを上記(a)~(a)、さらに下記(a)~(a11)のいずれも満足するものとしやすくして、燃焼性能及び常温通油性能を向上させることを考慮すると、二種以上の脂肪酸と一種のアルキルアルコールとによる二種以上の脂肪酸アルキルエステルを用いることが好ましい。二種以上の脂肪酸を用いる場合、例えば上記に例示した脂肪酸を混合して用いてもよいし、二種以上の脂肪酸を含有する混合脂肪酸を用いてもよい。
混合脂肪酸としては、例えば動物油、植物油等を原料として得られる脂肪酸が好ましく挙げられる。これらの動植物油を原料として得られる動植物由来の脂肪酸を採用することで、二酸化炭素の排出削減による地球温暖化の抑制に寄与することができ、環境保護の観点から極めて有用である。
【0042】
混合脂肪酸の原料となる動物油としては、牛脂、豚脂、羊脂、鯨油、魚油、肝油等が代表的に好ましく挙げられる。また、植物油としては、アマニ油、サフラワー油、ひまわり油、大豆油、コーン油、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、ヒマシ油、落花生油、ココヤシ油、パーム核油、菜種油、米ぬか油等が代表的に好ましく挙げられる。
動物油、植物油等の天然由来の原料を用いる場合、アルキルアルコールとのエステル化反応により脂肪酸アルキルエステルを調製する前に、必要に応じて前処理を行ってもよい。例えば蒸留、白土処理等といった精製による前処理を行い得る。
【0043】
二種以上の脂肪酸を用いる場合、二種以上の脂肪酸アルキルエステルには、炭素数18の不飽和脂肪酸とアルキルアルコールとの脂肪酸アルキルエステルを含むことが好ましく、炭素数18の不飽和脂肪酸の中でも、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸の脂肪酸アルキルエステル、すなわちオレイン酸アルキルエステル、リノール酸アルキルエステル及びリノレン酸アルキルエステルを含むことがより好ましい。
この場合、脂肪酸アルキルエステルに含まれる、炭素数18の不飽和脂肪酸とアルキルアルコールとの脂肪酸アルキルエステルの合計含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上であり、上限としては特に制限はないが95質量%以下とするとよい。炭素数18の脂肪酸の合計含有量が上記範囲内であると、脂肪酸アルキルエステルを上記(a)~(a)、さらに下記(a)~(a11)のいずれも満足するものとしやすくできるため、燃焼性能及び常温通油性能が向上する。
【0044】
上記混合脂肪酸の原料としては、植物油が好ましく、中でも菜種油が好ましい。また、混合脂肪酸の原料としては、廃食用油であることが好ましく、植物油を含む廃食用油がより好ましく、植物油が菜種油を含む、すなわち菜種油を含む廃食用油が更に好ましい。動植物油について、廃食用油を採用することで、食料との競合を避けることができ、また廃棄物の再利用による環境保護を図ることができる。
廃食用油は、上記の動物油、植物油等の天然由来の原料と同様に、アルキルアルコールとのエステル化反応により脂肪酸アルキルエステルを調製する前に、必要に応じて前処理を行ってもよい。例えば蒸留、白土処理等といった精製による前処理を行い得る。
【0045】
本実施形態において、混合脂肪酸として動植物由来の脂肪酸を用いる場合、炭素数8以上22以下の脂肪酸以外の脂肪酸、すなわち炭素数7以下及び23以上の脂肪酸を含む場合もある。この場合、混合脂肪酸に含まれる炭素数8以上22以下の脂肪酸の含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは92質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。すなわち、炭素数8以上22以下の脂肪酸以外の脂肪酸の含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下であり、下限としては少なければ少ないほど好ましく特に制限はないが、通常0.5質量%以上である。
【0046】
脂肪酸アルキルエステルは、上記(a)~(a)の性状及び組成に加えて、更に以下(a)~(a11)から選ばれる少なくとも1つを満足することが好ましく、以下(a)~(a11)のいずれも満足することが好ましい。
【0047】
(a)15℃における密度
脂肪酸アルキルエステルの15℃における密度は、好ましくは0.8700g/cm以上、より好ましくは0.8800g/cm以上、0.8830g/cm以上であり、上限として好ましくは0.9000g/cm以下、より好ましくは0.8900g/cm以下、更に好ましくは0.8880g/cm以下である。15℃における密度が上記範囲内であると、本実施形態の燃料油組成物の15℃における密度を0.8700g/cm以上0.8900g/cm以下としやすくなるので、燃焼性能及び常温通油性能が向上し、また総発熱量が向上する。
【0048】
(a)50℃における動粘度
脂肪酸アルキルエステルの50℃における動粘度は、好ましくは3.000mm/s以上、より好ましくは3.200mm/s以上、更に好ましくは3.500mm/s以上であり、上限として好ましくは4.500mm/s以下、より好ましくは4.200mm/s以下、更に好ましくは3.800mm/s以下である。50℃における動粘度が上記範囲内であると、本実施形態の燃料油組成物の50℃における動粘度を2.000mm/s以上4.500mm/s以下としやすくなるので、燃焼性能が向上し、またポンプ及び流量計等の各種機器の使用範囲に適合しやすくなり、また潤滑性が向上する。
【0049】
(a)硫黄分含有量
脂肪酸アルキルエステルの硫黄分含有量は、好ましくは3質量ppm以下、より好ましくは2.5質量ppm以下であり、下限としては小さければ小さいほど好ましいため、特に制限はない。硫黄分含有量が上記範囲内であると、本実施形態の燃料油組成物の硫黄分含有量を0.400質量%以下としやすくなるので、腐食の発生をより抑制することができ、また環境性能が向上する。
本明細書において、脂肪酸アルキルエステルの硫黄分含有量は、JIS K 2541-6:2013(原油及び石油製品-硫黄分試験方法- 第6部:紫外蛍光法)に準じて測定される値である。
【0050】
(a)引火点
脂肪酸アルキルエステルの引火点は、取扱い上の安全性の観点から、好ましくは100.0℃以上、より好ましくは130.0℃以上、更に好ましくは150.0℃以上である。上限としては特に制限はないが、通常200.0℃以下である。
本明細書において、脂肪酸アルキルエステルの引火点は、JIS K 2265-2:2007(原油及び石油製品-引火点試験方法- 第2部:迅速平衡密閉法)に準じて測定される値である。
【0051】
(a)水分含有率
脂肪酸アルキルエステルの水分含有率は、好ましくは1000mg/kg以下、より好ましくは500mg/kg以下、更に好ましくは250mg/kg以下であり、下限としては少なければ少ないほど好ましく特に制限はないが、通常100mg/kg以上である。水分含有率が上記範囲内であると、スラッジの生成、また氷結等の発生を抑制し、閉塞頻度を低減できるので、常温通油性能が向上する。
本明細書において、脂肪酸アルキルエステルの水分含有率は、JIS K 2275-2:2015(原油及び石油製品-水分の求め方- 第2部:カールフィッシャー式容量滴定法)に準じて測定される値である。
【0052】
(a)銅板腐食
脂肪酸アルキルエステルの銅板腐食は、銅板の判定における銅板の分類として、1以下(1a又は1b)であることが好ましく、中でも1aであることが好ましい。銅板腐食が1以下であれば、各種補機の腐食を防止できるため、内燃機及び外燃機等の各種機器のより安定した運転が可能となる。
【0053】
(a10)流動点
脂肪酸アルキルエステルの流動点は、好ましくは-0.0℃以下、より好ましくは-2.5℃以下であり、下限としては特に制限はないが、通常-20.0℃以上である。流動点が上記範囲内であると、低温時の貯蔵タンク内、また配管内における流動性が向上し、また取扱性が向上する。
【0054】
(a11)組成分析
脂肪酸アルキルエステルの組成分析は、水素炎イオン化検出器(FID)によるガスクロマトグラフィー分析により、基準油脂分析試験法(日本油化学会1993年制定)「2.4.21.3-77脂肪酸組成(FID昇温ガスロマトグラフ法)」に準じて行うことができる。
脂肪酸アルキルエステルとしては、既述のように炭素数18の不飽和脂肪酸、中でもオレイン酸、リノール酸及びリノレン酸を少なくとも含む混合脂肪酸と、アルキルアルコールとの脂肪酸アルキルエステルを含むことが好ましい。脂肪酸アルキルエステル全量基準のオレイン酸、リノール酸及びリノレン酸を少なくとも含む混合脂肪酸と、アルキルアルコールとの脂肪酸アルキルエステルの合計含有量は、既述のように好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上であり、上限としては特に制限はないが95質量%以下とするとよい。
【0055】
脂肪酸アルキルエステルが二種以上の脂肪酸アルキルエステルを含む場合、既述のように少なくともオレイン酸アルキルエステル、リノール酸アルキルエステル及びリノレン酸アルキルエステル(炭素数18の不飽和脂肪酸とアルキルアルコールとの脂肪酸アルキルエステル)を含むことが好ましい。
また、更にステアリン酸アルキルエステル(炭素数18の飽和脂肪酸とアルキルアルコールとの脂肪酸アルキルエステル)を含むことがより好ましく、更にパルミチン酸アルキルエステル(炭素数16の飽和脂肪酸とアルキルアルコールとの脂肪酸アルキルエステル)を含むことが更に好ましく、更にアラキジン酸アルキルエステル及びエルカ酸アルキルエステル(炭素数20及び22の飽和脂肪酸とアルキルアルコールとの脂肪酸アルキルエステル)並びにエイコセン酸アルキルエステル及びベヘン酸アルキルエステル(炭素数20及び22の不飽和脂肪酸とアルキルアルコールとの脂肪酸アルキルエステル)を含むことがより更に好ましく、更にカプリル酸アルキルエステル、カプリン酸アルキルエステル、ラウリン酸アルキルエステル及びミリスチン酸アルキルエステルから選ばれる少なくとも一種を含むことがより更に好ましい。
【0056】
(脂肪酸アルキルエステルの含有量)
脂肪酸アルキルエステルの組成物全量基準の含有量は、15.0容量%以上35.0容量%以下である。脂肪酸アルキルエステルの含有量が15.0容量%未満であると燃焼性能が低下し、35.0容量%を超えると常温通油性能が低下する。燃焼性能及び常温通油性能を向上させる観点から、脂肪酸アルキルエステルの組成物全量基準の含有量は、好ましくは17.5容量%以上であり、上限として好ましくは32.5容量%以下である。
【0057】
(分解軽油留分)
本実施形態の燃料油組成物は、分解軽油留分を、組成物全量基準で20.0容量%以上40.0容量%以下の含有量で含む。分解軽油留分とは、常圧蒸留残渣油及び/又は減圧蒸留残渣油を流動接触分解して得られる接触分解軽油留分のことである。本実施形態で用いられる分解軽油留分は、上記の留分の中でも、以下(b)~(b)の性状及び組成を満足するものである。
(b)50℃における動粘度が1.700mm/s以上3.600mm/s以下
(b)硫黄分含有量が0.40質量%以下
(b)芳香族分含有量が50.0容量%以上
(b)3環以上の芳香族分含有量が5.0容量%以上
【0058】
(b)50℃における動粘度
分解軽油留分の50℃における動粘度は、1.700mm/s以上3.600mm/s以下である。50℃における動粘度が上記範囲内にないと、本実施形態の燃料油組成物の50℃における動粘度を2.000mm/s以上4.500mm/s以下としにくくなるので、燃焼性能が低下、またポンプ及び流量計等の各種機器の使用範囲に適合しにくくなる、また潤滑性が低下する場合がある。
本実施形態の燃料油組成物の50℃における動粘度を上記範囲内としやすくすることで、燃焼性能を向上させて、各種機器の使用範囲に適合しやすくし、かつ潤滑性を向上させる観点から、好ましくは1.900mm/s以上、より好ましくは2.100mm/s以上であり、上限として好ましくは3.400mm/s以下、より好ましくは3.200mm/s以下である。
【0059】
(b)硫黄分含有量
分解軽油留分の硫黄分含有量は、0.400質量%以下である。硫黄分含有量が上記範囲内にないと、本実施形態の燃料油組成物の硫黄分含有量を0.400質量%以下としにくくなるので、腐食の発生を抑制しにくくなり、環境性能が低下する場合がある。
本実施形態の燃料油組成物の硫黄分含有量を0.400質量%以下としやすくすることで、腐食の発生を抑制し、環境性能を向上させることを考慮すると、分解軽油留分の硫黄分含有量は、好ましくは0.300質量%以下、更に好ましくは0.250質量%以下であり、下限としては少なければ少ないほど好ましく、特に制限はないが通常0.05質量%以上である。
【0060】
(b)芳香族分含有量
分解軽油留分の芳香族分含有量は、50.0容量%以上である。ここで、芳香族分含有量は、1環芳香族分、2環芳香族分及び3環以上の芳香族分の合計含有量のことである。芳香族分含有量が上記範囲内にないと、スラッジの発生による燃料油フィルタ閉塞を抑制することができず、通常通油性能が低下し、また燃焼性能が低下する場合がある。
スラッジの発生による燃料油フィルタ閉塞をより抑制することで、通常通油性能を向上させ、また燃焼性能を向上させる観点から、好ましくは60.0容量%以上、より好ましくは65.0容量%以上であり、上限として好ましくは85.0容量%以下である。
【0061】
(b)3環以上の芳香族分含有量
分解軽油留分の3環以上の芳香族分含有量は、5.0容量%以上である。3環以上の芳香族分含有量が上記範囲内にないと、本実施形態の燃料油組成物の3環以上の芳香族分含有量を2.9容量%以上としにくくなるので、貯蔵安定性が低下する場合がある。
本実施形態の燃料油組成物3環以上の芳香族分含有量を2.9容量%以上としやすくすることで、貯蔵安定性を向上させる観点から、好ましくは6.0容量%以上、より好ましくは7.0容量%以上であり、上限としては特に制限はなく、通常15.0容量%以下である。
【0062】
分解軽油留分は、上記(b)~(b)の性状及び組成に加えて、更に以下(b)~(b14)から選ばれる少なくとも1つを満足することが好ましく、以下(b)~(b14)のいずれも満足することが好ましい。
【0063】
(b)15℃における密度
分解軽油留分の15℃における密度は、好ましくは0.9000g/cm以上、より好ましくは0.9100g/cm以上、更に好ましくは0.9120g/cm以上であ
り、上限として好ましくは0.9400g/cm以下、より好ましくは0.9300g/cm以下、更に好ましくは0.9200g/cm以下である。15℃における密度が上記範囲内にあると、本実施形態の燃料油組成物の15℃における動粘度を0.8700g/cm以上0.8900g/cm以下としやすくなるため、常温通油性能及び燃焼性能が向上し、さらに総発熱量が向上する。
【0064】
(b)引火点
分解軽油留分の引火点は、取扱い上の安全性の向上の観点から、好ましくは65.0℃以上、より好ましくは70.0℃以上である。
【0065】
(b)10%残油の残留炭素分
分解軽油留分の10%残油の残留炭素分は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、上限として好ましくは0.20質量%以下である。10%残油の残留炭素分が上記範囲内であると、本実施形態の燃料油組成物の10%残油の残留炭素分を0.21質量%以上0.60質量%以下としやすくなるので、燃焼性能及び常温通油性能が向上する。また税制上のメリットを享受しやすくなる。
【0066】
(b)セタン価
分解軽油留分のセタン価は、好ましくは20.0以上、より好ましくは25.0以上であり、上限としては特に制限はなく、通常50.0以下である。セタン価が上記範囲内であると、燃焼性能が向上する。
【0067】
(b)水分含有率
分解軽油留分の水分含有率は、好ましくは0.10容量%以下、より好ましくは0.10容量%未満、更に好ましくは0.05容量%以下である。水分含有率が上記範囲内であると、スラッジの生成、また氷結等の発生を抑制し、閉塞頻度を低減できるので、常温通油性能が向上する。
【0068】
(b10)銅板腐食
分解軽油留分の銅板腐食は、銅板の判定における銅板の分類として、1以下(1a又は1b)であることが好ましく、中でも1aであることが好ましい。銅板腐食が1以下であれば、各種補機の腐食を防止できるため、内燃機及び外燃機等の各種機器のより安定した運転が可能となる。
【0069】
(b11)酸価
分解軽油留分の酸価は、好ましくは0.05mgKOH/g以下、より好ましくは0.05mgKOH/g未満、更に好ましくは0.03mgKOH/g以下である。酸価は小さければ小さいほど好ましく、下限としては特に制限はなく、特に好ましくは0.0mgKOH/gである。酸価が上記範囲内であると、常温通油性能が向上し、また部材の腐食等を抑制することができる。
【0070】
(b12)流動点
分解軽油留分の流動点は、好ましくは-10.0℃以下、より好ましくは-12.5℃以下、更に好ましくは-15.0℃以下であり、下限としては特に制限はないが、通常-35.0℃以上である。流動点が上記範囲内であると、低温時の貯蔵タンク内、また配管内における流動性が向上し、また取扱性が向上する。
【0071】
(b13)窒素分含有量
分解軽油留分の窒素分含有量は、好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは400質量ppm以下、更に好ましくは300質量ppm以下であり、下限としては特に制限はないが、通常50質量ppm以上である。窒素分含有量が上記範囲内であると、NOx排出量を低減できるため、環境性能が向上する。
【0072】
(b14)蒸留性状
分解軽油留分の蒸留性状として、10容量%留出温度は、好ましくは170.0℃以上、より好ましくは180.0℃以上、更に好ましくは195.0℃以上であり、上限として好ましくは230.0℃以下、より好ましくは220.0℃以下、更に好ましくは210.0℃以下である。50容量%留出温度は、好ましくは240.0℃以上、より好ましくは250.0℃以上、更に好ましくは260.0℃以上であり、上限として好ましくは300.0℃以下、より好ましくは285.0℃以下、更に好ましくは270.0℃以下である。また、90容量%留出温度は、好ましくは310.0℃以上、より好ましくは320.0℃以上、更に好ましくは330.0℃以上であり、上限として好ましくは370.0℃以下、より好ましくは355.0℃以下、更に好ましくは340.0℃以下である。分解軽油留分の蒸留性状として、上記10容量%留出温度、50容量%留出温度及び90容量%留出温度であると、低沸点成分及び高沸点成分による効果が抑制されて燃焼性能が向上する。
本明細書において、蒸留性状の10容量%留出温度、50容量%留出温度及び90容量%留出温度は、JIS K2254:2018(石油製品-蒸留性状の求め方-(常圧法))に準じて測定される値である。
【0073】
(分解軽油留分の含有量)
分解軽油留分の組成物全量基準の含有量は、20.0容量%以上40.0容量%以下である。分解軽油留分の含有量が20.0容量%未満であると常温通油性能が低下し、40.0容量%を超えると燃焼性能が低下する。燃焼性能及び常温通油性能を向上させる観点から、分解軽油留分の組成物全量基準の含有量は、好ましくは22.5容量%以上であり、上限として好ましくは37.5容量%以下である。
【0074】
(その他の軽油留分及び灯油留分)
本実施形態の燃料油組成物は、上記分解軽油留分の他、直脱軽油留分、直留軽油留分、減圧軽油留分、脱硫軽油留分、脱硫分解軽油留分等の軽油留分、また直留灯油留分、脱硫灯油留分等の灯油留分を含有することもできる。これらの軽油留分及び灯油留分の中でも、脂肪酸アルキルエステル、分解軽油留分と組み合わせることで、燃焼性能及び常温通油性能を向上させる観点から、直脱軽油留分が好ましい。
・直脱軽油留分(常圧蒸留残渣油及び/又は減圧蒸留残渣油を直接脱硫装置で脱硫処理して得られる軽油留分)
・直留軽油留分(原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られる軽油留分)
・減圧軽油留分(常圧蒸留残渣油を減圧蒸留装置で減圧蒸留して得られる軽油留分)
・脱硫軽油留分(直留軽油留分及び/又は減圧軽油留分を脱硫して得られる軽油留分)
・脱硫分解軽油留分(常圧蒸留残渣油及び/又は減圧蒸留残渣油を流動接触分解して得られる接触分解軽油留分を脱硫処理して得られる軽油留分)
・直留灯油留分(原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られる灯油留分)
・脱硫灯油留分(直留灯油留分を脱硫して得られる灯油留分)
【0075】
(その他の軽油留分が有する性状)
本実施形態で用いられ得る上記のその他の軽油留分が有する性状としては、下記の性状を有していることが好ましい。その他の軽油留分が下記の性状を有することで、優れた燃焼性能及び常温通油性能が得られやすくなる。
50℃における動粘度は、好ましくは2.900mm/s以上、より好ましくは4.000mm/s以上、上限として好ましくは5.000mm/s以下、より好ましくは4.400mm/s以下である。
硫黄分含有量は、好ましくは0.40質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下であり、下限としては少なければ少ないほど好ましく、通常0.01質量%である。
芳香族分含有量は、好ましくは40.0容量%以上、より好ましくは42.0容量%以下であり、上限としては特に制限はなく、通常65.0容量%以下である。
3環以上の芳香族分含有量は、好ましくは2.0容量%以上、より好ましくは2.3容量%以上であり、上限としては特に制限はなく、通常5.0容量%以下である。
15℃における密度は、好ましくは0.8300g/cm以上、より好ましくは0.8400g/cm以上であり、上限として好ましくは0.8900g/cm以下、より好ましくは0.8800g/cm以下である。
引火点は、好ましくは60.0℃以上、より好ましくは65.0℃以上である。
10%残油の残留炭素分は、好ましくは0.01質量%以上であり、上限として好ましくは0.20質量%以下である。
セタン価は、好ましくは30.0以上、より好ましくは35.0以上であり、上限としては特に制限はなく、通常70.0以下である。
水分含有率は、好ましくは0.10容量%以下、より好ましくは0.10容量%未満、更に好ましくは0.05容量%以下である。
銅板腐食は、銅板の判定における銅板の分類として、1以下(1a又は1b)であることが好ましく、中でも1aであることが好ましい。
酸価は、好ましくは0.05mgKOH/g以下、より好ましくは0.05mgKOH/g未満、更に好ましくは0.03mgKOH/g以下である。酸価は小さければ小さいほど好ましく、下限としては特に制限はなく、特に好ましくは0.0mgKOH/gである。
流動点は、好ましくは-0.0℃以下、より好ましくは-2.5℃以下である。
窒素分含有量は、好ましくは500質量ppm以下、より好ましくは400質量ppm以下、更に好ましくは300質量ppm以下であり、下限としては特に制限はないが、通常50質量ppm以上である。
蒸留性状としては、10容量%留出温度は、好ましくは170.0℃以上、より好ましくは180.0℃以上であり、上限として好ましくは270.0℃以下、より好ましくは260.0℃以下である。50容量%留出温度は、好ましくは250.0℃以上、より好ましくは265.0℃以上であり、上限として好ましくは310.0℃以下、より好ましくは300.0℃以下である。また、90容量%留出温度は、好ましくは310.0℃以上、より好ましくは330.0℃以上であり、上限として好ましくは370.0℃以下、より好ましくは355.0℃以下である。
【0076】
(その他の重油留分)
本実施形態の燃料油組成物は、常圧蒸留残渣油、減圧蒸留残渣油、直脱重油留分及び分解重油を含有することもできる。これらの重油留分の中でも、脂肪酸アルキルエステル、分解軽油留分と組み合わせることで、燃焼性能及び常温通油性能を向上させる観点から、常圧蒸留残渣油が好ましい。
・常圧蒸留残渣油(原油を常圧蒸留装置で常圧蒸留して得られる残渣油)
・減圧蒸留残渣油(常圧蒸留残渣油を減圧蒸留装置で減圧蒸留して得られる残渣油)
・直脱重油留分(常圧蒸留残渣油及び/又は減圧蒸留残渣油を直接脱硫装置で脱硫して得られる重油留分)
・分解重油留分(直脱重油留分を流動接触分解して得られる重油分)
【0077】
(その他の重油留分が有する性状)
本実施形態で用いられ得る上記のその他の重油留分が有する性状としては、下記の性状を有していることが好ましい。その他の重油留分が下記の性状を有することで、優れた燃焼性能及び常温通油性能が得られやすくなる。
50℃における動粘度は、好ましくは190.0mm/s以下、より好ましくは185.0mm/s以下、また下限としては特に制限はなく、通常30.00mm/s以上である。
硫黄分含有量は、好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.75質量%以下、下限値としては特に制限はなく、通常0.50質量%以上である。
15℃における密度は、好ましくは0.8800g/cm以上、より好ましくは0.9000g/cm以上であり、また上限として好ましくは0.9700g/cm以下、より好ましくは0.9600g/cm以下である。
また、残留炭素分は、好ましくは12.0質量%以下、より好ましくは9.0質量%以下、更に好ましくは7.5質量%以下であり、下限として好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上である。本明細書において、残留炭素分は、JIS K 2270-2:2009(原油及び石油製品-残留炭素分の求め方- 第2部:ミクロ法)に準じて測定される値である。
【0078】
(各種添加剤)
本実施形態の燃料油組成物には、上記の諸性状を維持しうる範囲で、必要に応じ、各種添加剤として、酸化防止剤、低温流動性向上剤、潤滑性向上剤、セタン価向上剤、燃焼促進剤、清浄剤、スラッジ分散剤、防カビ剤等の各種添加剤を適宜選択して配合することができる。また、軽油引取税の観点よりクマリンを配合してもよい。
【0079】
(用途)
本実施形態の燃料油組成物は、内燃機、外燃機のいずれにも使用することができるが、燃焼性能及び常温通油性能に優れるという特性を考慮すると、内燃機に使用することが好ましい。また、本実施形態の燃料油組成物の上記特性を考慮すると、内燃機の中でも、特に船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機に好適に用いられる。
【0080】
〔燃料油組成物の製造方法〕
本実施形態の燃料油組成物は、上記脂肪酸アルキルエステル及び分解軽油留分、また必要に応じてその他軽油留分及び灯油留分並びに重油留分、各種添加剤を、脂肪酸アルキルエステル及び分解軽油留分の組成物全量基準の含有量を、各々15.0容量%以上35.0容量%以下、および20.0容量%以上40.0容量%以下となるように混合することで、製造することができる。
【0081】
脂肪酸アルキルエステル、分解軽油留分、また必要に応じてその他軽油留分及び灯油留分並びに重油留分、各種添加剤の配合順序は特に制限はなく、例えば、脂肪酸アルキルエステルに、分解軽油留分、さらにその他軽油留分及び重油留分、各種添加剤を逐次添加して混合してもよいし、脂肪酸アルキルエステル、分解軽油留分、また必要に応じてその他軽油留分及び灯油留分並びに重油留分、各種添加剤を同時に混合してもよいし(一括混合)、脂肪酸アルキルエステルと分解軽油留分とを予め混合した後、必要に応じてその他軽油留分及び灯油留分並びに重油留分、各種添加剤を混合してもよい。
【実施例0082】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。なお、各基材の性状は、上記のとおり、下記の方法に従って求めた。
【0083】
〔性状と組成の測定〕
実施例及び比較例で使用した脂肪酸アルキルエステル、分解軽油留分、直脱軽油留分、直留軽油留分、常圧蒸留残渣油の各種基材の性状及び組成、実施例及び比較例の燃料油組成物の性状及び組成は以下の方法により測定した。脂肪酸アルキルエステルの性状及び組成を第1表に、他の各種基材の性状及び組成を第2表に示す。また、燃料油組成物の性状及び組成を第3表に示す。
・(1)(a)(b)15℃における密度:JIS K 2249-1:2011(原油及び石油製品-密度の求め方- 第1部:振動法)に準じて測定した。
・(2)(a)(b)50℃における動粘度:JIS K 2283:2000(原油及び石油製品の動粘度試験方法)に準じて測定した。
・(3)(a)(b)硫黄分含有量:燃料油組成物、分解軽油留分、直脱軽油留分、直留軽油留分及び常圧蒸留残渣油の硫黄分含有量はJIS K 2541-4:2003(原油及び石油製品-硫黄分試験方法- 第4部:放射線式励起法)に準じて測定し、脂肪酸アルキルエステルの硫黄分含有量はJIS K 2541-6:2013(原油及び石油製品-硫黄分試験方法- 第6部:紫外蛍光法)に準じて測定される値である。
・(4)(b)(b)芳香族分含有量(1環芳香族分、2環芳香族分及び3環芳香族分)、飽和分含有量及びオレフィン分含有量:JPI-5S-49-2007に規定される、石油製品-炭化水素タイプ試験方法-高速液体クロマトグラフィー法(High Performance Liquid Chromatography法)により測定した。
・(5)(a)(b)10%残油の残留炭素分:JIS K 2270-2:2009(原油及び石油製品-残留炭素分の求め方- 第2部:ミクロ法)に準じ、附属書Aに準拠して調製した10%残油を用いて測定される値である。
・(6)(a)(b)引火点:燃料油組成物、分解軽油留分、直脱軽油留分、直留軽油留分及び常圧蒸留残渣油の引火点はJIS K 2265-3:2007(原油及び石油製品-引火点試験方法- 第3部:ペンスキーマルテンス密閉法)に準じて測定し、脂肪酸アルキルエステルの引火点はJIS K 2265-2:2007(原油及び石油製品-引火点試験方法- 第2部:迅速平衡密閉法)に準じて測定した。
・(7)(a)(b)セタン価:JIS K 2280-4:2013(石油製品-オクタン価,セタン価及びセタン指数の求め方-第4部:セタン価)に準じて測定される値である。
・(8)(a)(b)水分含有率:燃料油組成物、分解軽油留分、直脱軽油留分、直留軽油留分及び常圧蒸留残渣油の水分含有率はJIS K 2275-1:2015(原油及び石油製品-水分の求め方- 第1部:蒸留法)に準じて測定し、脂肪酸アルキルエステルの水分含有率はJIS K 2275-3:2015(原油及び石油製品-水分の求め方- 第3部:カールフィッシャー式電量滴定法)に準じて測定した。
・(9)(a)(b10)銅板腐食:JIS K 2513:2000(石油製品-銅板腐食試験法-)に準じて測定した。試験温度は50℃、試験時間は3時間とした。
・(10)(a)(b11)酸価:JIS K 2501:2003(石油製品及び潤滑油-中和価試験方法)に準じて測定した。
・(11)(a10)(b12)流動点:JIS K2269:1987(原油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準じて測定した。
・(12)(b13)窒素分含有量:JIS K 2609:1998(原油及び石油製品-窒素分試験方法)に準じて測定した。
・(a11)脂肪酸アルキルエステルの組成分析:水素炎イオン化検出器(FID)によるガスクロマトグラフィー分析により、基準油脂分析試験法(日本油化学会1993年制定)「2.4.21.3-77脂肪酸組成(FID昇温ガスロマトグラフ法)」に準じて測定した。
・(b14)蒸留性状(10容量%留出温度、50容量%留出温度及び90容量%留出温度):JIS K2254:2018(石油製品-蒸留性状の求め方-(常圧法))に準じて測定した。
【0084】
〔性能の評価基準〕
以下の1~4の各性能の評価を行い、一番悪い評価を総合評価として評価した。C評価であれば不合格である。各性能の評価を、第3表に示す。
【0085】
1.燃焼性能
実施例及び比較例の燃料油組成物のセタン価の参考例のセタン価に対する増加分(Δセタン価)について、以下の基準で評価した。
A:セタン価の増加分(Δセタン価)が2.5以上
B:セタン価の増加分(Δセタン価)が2.0以上2.5未満
C:セタン価の増加分(Δセタン価)が2.0未満
【0086】
2.常温通油性能
18L缶(ブリキ製)の上部に開放部(φ32.5mm)を設け、空気の流通を可能とした容器に、実施例及び比較例の燃料油組成物3Lをいれて、90日間暗所常温(空調による温度調整は行わず、期間中の常温は16.0~28.0℃であった。)で保管した。保管後の燃料油組成物を、特開2007-197512号公報に記載される通油性試験装置を用いて、通油性試験を行った。10分間の燃料油組成物の通油量について、下記の基準で評価した。
A:通油量が1.10L以上
B:通油量が0.70L以上1.10L未満
C:通油量が0.70L未満
【0087】
3.低温流動性能
実施例及び比較例の流動点について、以下の基準で評価した。
A:流動点が-2.5℃以下
B:流動点が-2.5℃超5.0℃以下
C:流動点が5.0℃超
【0088】
4.環境性能
硫黄分含有量に基づき、以下の基準で評価した。
A:硫黄分含有量が0.300質量%以下
B:硫黄分含有量が0.300質量%超0.400質量%以下
C:硫黄分含有量が0.400質量%超
【0089】
〔実施例1~3、比較例1~7及び参考例〕
第1表及び第2表に示す性状及び組成を有する各種基材を、第3表に示す割合で混合し、実施例1~3、比較例1~7及び参考例の燃料油組成物を調製した。
得られた各燃料油組成物について、上記の方法に基づき、燃焼性能、常温通油性能、低温流動性能及び環境性能を上記方法により評価した。その結果を第3表に示す。
【0090】
【表1】

*1、基材1(脂肪酸アルキルエステル1)及び基材2(脂肪酸アルキルエステル2)は、いずれも菜種油を含む廃食用油を用いて得られた脂肪酸メチルエステルである。
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
〔性能の評価結果〕
第3表に示されるように、本実施形態の燃料油組成物は、燃焼性能、常温通油性能、低温流動性能及び環境性能の評価がいずれも良好であり、特に船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機への使用にも耐え得るものであることが確認された。
一方、特定の脂肪酸アルキルエステル1を含むものの含有量が少ない比較例1の燃料油組成物は燃焼性能の点で劣り、含有量が多い比較例2の燃料油組成物は常温通油性能の点で劣っている。特定の脂肪酸アルキルエステル1を含まず、10%残油の残留炭素分が小さい脂肪酸アルキルエステル2を含む比較例5~7の燃料油組成物はいずれも常温通油性能の点で劣るものであることが確認された。また、分解軽油留分の含有量が少ない比較例3の燃料油組成物は常温通油性能の点で劣り、含有量が多い比較例4の燃料油組成物は燃焼性能に劣ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本実施形態の燃料油組成物は、脂肪酸アルキルエステルを含有することで優れた燃焼性能を有するとともに、常温通油性能をも有し、さらに低温流動性能及び環境性能にも優れるものであり、内燃機及び外燃機に好適に用いられ、中でも船舶用ディーゼルエンジン等の内燃機に好適に用いられる。