(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098659
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】シランカップリング剤処理石英ガラスクロス及び製造方法、ならびにシランカップリング剤処理液
(51)【国際特許分類】
C03C 25/1095 20180101AFI20240717BHJP
D06M 13/513 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C03C25/1095
D06M13/513
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002269
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩原 利夫
(72)【発明者】
【氏名】糸川 肇
【テーマコード(参考)】
4G060
4L033
【Fターム(参考)】
4G060BC12
4G060BD15
4G060CB33
4L033AA09
4L033AB05
4L033AC15
4L033BA96
(57)【要約】
【課題】石英ガラスクロスの低い誘電正接を保ち、誘電正接の安定性に優れ、基板に用いた際の信頼性に優れる、シランカップリング剤処理石英ガラスクロス及び製造方法、ならびにシランカップリング剤処理液を提供する。
【解決手段】SiO2量が95質量%以上であり、
フィラメント径が3~20μmの石英ガラスフィラメントを、30~250本束ねた石英ガラスヤーンを製織した石英ガラスクロスを、シランカップリング剤処理したシランカップリング剤処理石英ガラスクロスであって、
シランカップリング剤処理石英ガラスクロスの抽出水のpHが6.0~8.0、
石英ガラスクロス上に存在するシランカップリング剤中の加水分解性基の割合が5質量%以下であり、
10GHzにおける誘電正接が0.0008以下である、シランカップリング剤処理石英ガラスクロス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2量が95質量%以上であり、
フィラメント径が3~20μmの石英ガラスフィラメントを、30~250本束ねた石英ガラスヤーンを製織した石英ガラスクロスを、シランカップリング剤処理したシランカップリング剤処理石英ガラスクロスであって、
シランカップリング剤処理石英ガラスクロスの抽出水のpHが6.0~8.0、
石英ガラスクロス上に存在するシランカップリング剤中の加水分解性基の割合が5質量%以下であり、
10GHzにおける誘電正接が0.0008以下である、シランカップリング剤処理石英ガラスクロス。
【請求項2】
SiO2量が95質量%以上であり、
フィラメント径が3~20μmの石英ガラスフィラメントを、30~250本束ねた石英ガラスヤーンを製織した石英ガラスクロスを、
(a)電気伝導度が100μS/cm以下である水、
(b)シランカップリング剤:水に対して0.01~3質量%、及び
(c)アンモニア、アミン化合物、酢酸、p-トルエンスルホン酸及び酸無水物から選択される1種又は2種以上の加水分解縮合触媒:0.01~5質量%
を含有するシランカップリング剤処理液で、80~180℃の温度で処理する工程を有する、シランカップリング剤処理石英ガラスクロスを製造する製造方法。
【請求項3】
シランカップリング剤処理液中に含まれるシランカップリング剤の20質量%以上が、加水分解されている、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
シランカップリング剤が、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリルアミドプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びトリフルオロプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項2又は3記載の製造方法。
【請求項5】
加水分解縮合触媒が沸点120℃以下の化合物である、請求項2又は3記載の製造方法。
【請求項6】
シランカップリング剤処理前の石英ガラスクロスの誘電正接に対して、シランカップリング剤処理後の石英ガラスクロスの誘電正接が1.5倍以下である、請求項2又は3記載の製造方法。
【請求項7】
シランカップリング剤処理前の石英ガラスクロスに存在する炭素量が、0.05質量%以下である、請求項2又は3記載の製造方法。
【請求項8】
(a)電気伝導度が100μS/cm以下である水、
(b)シランカップリング剤:水に対して0.01~3質量%、及び
(c)アンモニア、アミン化合物、酢酸、p-トルエンスルホン酸及び酸無水物から選択される1種又は2種以上の加水分解縮合触媒:0.01~5質量%
を含有するシランカップリング剤処理液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスクロスの低い誘電正接を保ったシランカップリング剤処理石英ガラスクロス及び製造方法、ならびにシランカップリング剤処理液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、高速通信化に伴い、使用されるプリント配線板において、高密度化、極薄化とともに、低誘電化、低誘電正接化が著しく進行している。このプリント配線板の絶縁材料としては、ガラスクロスをエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂(以下、「マトリックス樹脂」という。)に含浸させて得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させた積層板が広く使用されている。基板における信号の伝送ロスは、Ed wardA.Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδ、が示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど改善されることが知られており、特に上記の式より、伝送損失に対しては誘電正接の寄与が大きいことが知られている。そのため、ガラスクロスにおいては低い誘電正接が求められ、特許文献1~3に記載のように誘電特性が向上されたガラスクロスが提案されている。しかしながら、今後の5G通信用用途等において十分な伝送速度性能を達成する観点から、これら低誘電率・低誘電正接に優れる低誘電特性ガラスクロスでもなお改善の必要性がある。
【0003】
石英ガラスはSiO2が95質量%以上のガラスであり、非常に優れた電気特性を持っている。しかしながら、石英ガラスはその高い純度により空気中の水分を取り込み、SiOH基が生じやすく、全く同じ組成の石英ガラスであっても、石英ガラス中に含まれるSiOH基の量によって誘電正接が大きく変動する。特に、表面はSiOH基が生じやすく、表面SiOH基を減少させるかが重要となる。ガラスクロスの表面処理としてはシランカップリング剤による処理が一般的であり、特許文献4,5ではシランカップリング剤を界面活性剤による可溶化、二種類のシランカップリング剤を二回に分けて処理することで、続く樹脂含侵工程での樹脂とガラスクロスの親和性を上昇させ、基板の耐熱性を上昇させている。しかしながら、シランカップリング剤による誘電正接の変化についてはほとんど報告されておらず、特に、石英ガラスクロスの低い誘電正接を発揮できるシランカップリング処理が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-292567号公報
【特許文献2】特許第3896636号公報
【特許文献3】特許第6866178号公報
【特許文献4】特開2002-194670号公報
【特許文献5】特許第6844684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、石英ガラスクロスの低い誘電正接を保ち、誘電正接の安定性に優れ、基板に用いた際の信頼性に優れる、シランカップリング剤処理石英ガラスクロス及び製造方法、ならびにシランカップリング剤処理液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
シランカップリング剤によって、石英ガラスクロスの表面のSiOH基を減少させることができる一方、シランカップリング剤自体もケイ素化合物であるため、シランカップリング剤処理液にはSi-OMe基、Si-OEt基及びその加水分解物のSi-OH基が存在する。すなわち、シランカップリング剤によって、石英ガラスクロスの表面のSiOH基を減少させつつシランカップリング剤自体のSi-OMe基、Si-OEt基、SiOH基も余すことなく反応させる必要がある。Si-OH基はSi-OH基同士又はSi-OMe基、Si-OEt基と反応し、Si-O-Si結合を形成する。しかしながら、Si-OMe基やSi-OEt基同士では縮合反応を起こせないため、Si-OMe基、Si-OEt基がクロス表面に残存することとなる。クロス表面に残存したSi-OMe基、Si-OEt基は加水分解性があるため、シランカップリング剤処理後に徐々にSi-OH基へと変換されて石英ガラスクロスの誘電正接を悪化させる。また、ガラスクロスと反応できなかったシランカップリング剤も石英ガラスクロスの誘電正接を悪化させる。すなわち、シランカップリング剤処理液中のシランカップリング剤に含まれるSi-OMe基、Si-OEt基が一定量加水分解している必要がある。
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、シランカップリング剤処理石英ガラスクロスの抽出水のpH、石英ガラスクロス上に存在するシランカップリング剤中の加水分解性基の割合、10GHzにおける誘電正接が特定の範囲のシランカップリング剤処理石英ガラスクロスとすることで、上記課題を解決できることを知見した。
さらに、特定のシランカップリング剤処理液で、特定温度で処理する工程を有することで、石英ガラスクロスの表面のSiOH基を減少させつつ、シランカップリング剤同士が縮合して加水分解性基を残さずに表面処理ができることを見出した。これにより、石英ガラスクロスの低い誘電正接を保ち、誘電正接の安定性に優れ、基板に用いた際の信頼性に優れる石英ガラスクロスが得られる。
【0008】
従って、本発明は、シランカップリング剤処理石英ガラスクロス及び製造方法、ならびにシランカップリング剤処理液を提供する。
1.SiO2量が95質量%以上であり、
フィラメント径が3~20μmの石英ガラスフィラメントを、30~250本束ねた石英ガラスヤーンを製織した石英ガラスクロスを、シランカップリング剤処理したシランカップリング剤処理石英ガラスクロスであって、
シランカップリング剤処理石英ガラスクロスの抽出水のpHが6.0~8.0、
石英ガラスクロス上に存在するシランカップリング剤中の加水分解性基の割合が5質量%以下であり、
10GHzにおける誘電正接が0.0008以下である、シランカップリング剤処理石英ガラスクロス。
2.SiO2量が95質量%以上であり、
フィラメント径が3~20μmの石英ガラスフィラメントを、30~250本束ねた石英ガラスヤーンを製織した石英ガラスクロスを、
(a)電気伝導度が100μS/cm以下である水、
(b)シランカップリング剤:水に対して0.01~3質量%、及び
(c)アンモニア、アミン化合物、酢酸、p-トルエンスルホン酸及び酸無水物から選択される1種又は2種以上の加水分解縮合触媒:0.01~5質量%
を含有するシランカップリング剤処理液で、80~180℃の温度で処理する工程を有する、シランカップリング剤処理石英ガラスクロスを製造する製造方法。
3.シランカップリング剤処理液中に含まれるシランカップリング剤の20質量%以上が、加水分解されている、2記載の製造方法。
4.シランカップリング剤が、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリルアミドプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びトリフルオロプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される1種又は2種以上である、2又は3記載の製造方法。
5.加水分解縮合触媒が沸点120℃以下の化合物である、2~4のいずれかに記載の製造方法。
6.シランカップリング剤処理前の石英ガラスクロスの誘電正接に対して、シランカップリング剤処理後の石英ガラスクロスの誘電正接が1.5倍以下である、2~5のいずれかに記載の製造方法。
7.シランカップリング剤処理前の石英ガラスクロスに存在する炭素量が、0.05質量%以下である、2~6のいずれかに記載の製造方法。
8.(a)電気伝導度が100μS/cm以下である水、
(b)シランカップリング剤:水に対して0.01~3質量%、及び
(c)アンモニア、アミン化合物、酢酸、p-トルエンスルホン酸及び酸無水物から選択される1種又は2種以上の加水分解縮合触媒:0.01~5質量%
を含有するシランカップリング剤処理液。
【発明の効果】
【0009】
石英ガラスクロスの低い誘電正接を保ち、誘電正接の安定性に優れ、基板に用いた際の信頼性に優れる、シランカップリング剤処理石英ガラスクロス及び製造方法、ならびにシランカップリング剤処理液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
[シランカップリング剤処理石英ガラスクロス]
本発明のシランカップリング剤処理石英ガラスクロスは、SiO2量が95質量%以上であり、 フィラメント径が3~20μmの石英ガラスフィラメントを、30~250本束ねた石英ガラスヤーンを製織した石英ガラスクロスを、シランカップリング剤処理したシランカップリング剤処理石英ガラスクロスであって、シランカップリング剤処理石英ガラスクロスの抽出水のpHが6.0~8.0、石英ガラスクロス上に存在するシランカップリング剤中の加水分解性基の割合が5質量%以下であり、10GHzにおける誘電正接が0.0008以下である、シランカップリング剤処理石英ガラスクロスである。
【0011】
[石英ガラスクロス]
本発明の石英ガラスクロスはSiO2組成量が95質量%以上である。誘電正接等の電気特性や熱膨張等の物理特性の点から、97質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましく、99.9質量%以上がさらに好ましい。
【0012】
石英ガラスクロスの製造方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。直径50~500mmの石英ガラスを1,700~2,300℃にて溶融させ、糸状になったものを巻き取ることで、直径200±100μmの石英糸を得ることができる。溶融温度がこの範囲であれば安定的延伸化可能である。
【0013】
石英糸は強度が非常に弱いため、巻き取るためにコーティング剤のコーティングを行うことが好ましい。コーティング剤としては、UV硬化可能な硬化性に優れたアクリレート系樹脂が好ましい。コーティング膜厚みとしては、十分な補強効果が得られることから、5μm以上が好ましい。石英フィラメントは上記石英糸を、例えば、酸素と水素の混合火炎にて1700~2,300℃で、目的のフィラメント径にすることができる。本発明において、フィラメント径は3~20μmであり、3~8μmが好ましい。
【0014】
石英ガラスストランドは石英フィラメントを30~250本、好ましくは100~200本集束して製造でき、ストランドを集束させるために、集束剤を用いる。集束剤は澱粉を主原料とし、機能性付与のため、柔軟剤や潤滑剤を配合することができる。集束剤組成物は一般にサイズ剤と呼称される。石英ガラスヤーンは上記で作製したストランドに撚りをかけることで得られる。撚りの頻度としては、1mあたり10~30回が好ましい。
【0015】
石英ガラスクロスは石英ヤーンを製織することで得られる。本発明の石英ガラスクロスとしては特に限定されないが、目付量が10~100g/m2のものが好適に用いられる。製織方法は、特に限定はされないが、例えば、エアージェット織機、ウォータージェット織機、レピア織機、シャトル織機等による製織方法が挙げられる。エアージェット織機等で製織を行う場合は、さらなる潤滑性を得るために、ポリビニルアルコール(PVA)や澱粉を二次サイズ剤として付着させることができる。
【0016】
製織された後の石英ガラスクロスの表面には、上記のサイズ剤が表面に付着したままであり、残存したサイズ剤によって誘電特性が悪化する。また、石英ガラスクロスへのシランカップリング剤処理が不十分になり、樹脂との接着不良が発生する。そこで、一般的に付着したサイズ剤を除去するために製織後、脱油が行われる。脱油工程は水や有機溶剤による洗浄の方法や有機物を燃焼させて除去する処理と呼ばれる方法があり、より確実に脱油を行える点から、加熱処理が一般的である。この処理はフロー式やバッチ式の加熱炉を用いて行う方法が挙げられるが、フロー式は高温で一気にサイズ剤を焼き飛ばすため、ガラスクロスの強度低下やサイズ剤の焼け残りの問題があり、300~700℃で有機物をゆっくり燃焼させて除去するバッチ式が一般的である。
【0017】
この際、露点15℃以下の乾燥空気中で、石英ガラスクロスを加熱することで、石英ガラスクロスのSiOHが増加することを防ぎ、より誘電正接に優れるガラスクロスを得ることができる。露点15℃以下の気体中にする方法としては、コンプレッサーやエアドライヤー等で作製した乾燥空気を加熱炉内に導入する方法が挙げられる。導入する乾燥気体の露点は、15℃以下(容積絶対湿度;12.8g/m3)が好ましく、0℃(容積絶対湿度;4.85g/m3)以下がより好ましく、-20℃以下(容積絶対湿度;1.07g/m3)がさらに好ましく、-60℃(容積絶対湿度;0.0193g/m3)以下が特に好ましい。気体中での加熱工程では、SiO2+H2O⇔Si-OHの反応は、露点が低ければ低いほど平衡が左に傾き、石英ガラスクロスの誘電正接を低下させる。乾燥空気の導入量については特には限定されないが、炉内の露点を十分に低下させ、かつ炉内の温度を一定に保てる範囲として、一時間当たり乾燥炉の体積に対して0.5~20倍が好ましい。
【0018】
脱油後、シランカップリング剤処理前の石英ガラスクロスの上の炭素量は0.05質量%以下が好ましく、0.02質量%以下がより好ましい。下限は特に限定されず、0質量%でもよい。ここでいう炭素量は、実質的に石英ガラスクロスに残存するサイズ剤の燃え残りである。この燃え残りは水やメタノールでの除去が困難である。シランカップリング剤処理前の石英ガラスクロス上の炭素量が、0.05質量%を超えると、シランカップリング剤処理の際に、本発明におけるシランカップリング剤処理液を用いても石英ガラスクロス表面にサイズ剤の燃え残りによってカップリング剤が石英ガラスクロスの表面とうまく反応できず、反応できなかったカップリング剤が、石英ガラスクロス表面に固着して誘電正接が悪化するおそれがある。サイズ剤由来の残存炭素量の測定方法は後述する方法で測定できる。
【0019】
サイズ剤由来の残存炭素量を測定する場合は、
サイズ剤が付着した石英ガラスクロスを、2.2kWで燃焼した際のガス量から炭素量を測定し、下記式で算出する。
サイズ剤由来の炭素量=上記炭素量/サイズ剤が付着したガラスクロス質量×100%
詳細な測定条件は実施例に記載された方法である。
【0020】
ガラスクロスは一般的に後工程での樹脂の含侵性を上げるために、例えば、脱油処理前、又はシランカップリング剤処理時に開繊処理が施される。開繊処理の方法としては特には限定されないが、超音波を利用する開繊処理方法、高圧柱状水位流による方法、気水体積比を調整した気液混合ミストを利用する方法が挙げられ、ガラスクロスの種類によって適宜使い分けられる。開繊処理は、脱油処理前でも後でもよい。
【0021】
[シランカップリング剤処理液で処理する工程]
石英ガラスクロスは樹脂を塗工して基板とする際に、樹脂とガラスクロスの親和性を上昇させるために、シランカップリング処理が施される。本発明の目的とするシランカップリング剤処理石英ガラスクロスを得るためには、例えば、下記シランカップリング剤処理液で処理する工程を有することが好ましい。さらに、下記組成のシランカップリング剤処理液を用いることが好ましい。
(a)電気伝導度が100μS/cm以下である水、
(b)シランカップリング剤:水に対して0.01~3質量%、及び
(c)アンモニア、アミン化合物、酢酸、p-トルエンスルホン酸及び酸無水物から選択される1種又は2種以上の加水分解縮合触媒:0.01~5質量%
を含有するシランカップリング剤処理液。
【0022】
[(a)水]
本発明におけるシランカップリング剤処理液用の溶媒はコストや環境への負荷の観点から、水、特には精製水が好ましい。精製水の種類については特には限定されないが、蒸留水、イオン交換水、超純水、RO水が好適に使用される。精製水の電気伝導度は100μS/cm以下が好ましく、50μS/cm以下がより好ましく、10μS/cm以下がさらに好ましい。電気伝導度が100μS/cmを超えると、水中に含まれる金属イオンが触媒となり、望まないカップリング剤の過剰な縮合反応を起こしてシランカップリング剤処理液中でゲル化してしまい、石英ガラスクロスの処理が難しくなるばかりではなく、本来加水分解されるはずのシランカップリング剤中の加水分解性基が残存してしまう。また、加水分解縮合触媒存在下では金属イオンが水酸化物となり沈殿する。さらに100μS/cmを超えると、金属不純物が加水分解縮合触媒を吸着し、ガラスクロスの表面に固着することにより、ガラスクロスの抽出水のpHが酸性やアルカリ性に偏ってしまう。電気伝導度は電気伝導率測定装置で測定でき、特に超純水等の低い電気伝導度を測定する際は0.01μS/cm~500μS/cmの測定範囲を持ったものが好ましい。
【0023】
[(b)シランカップリング剤]
本発明におけるシランカップリング剤は加水分解を受けやすく、さらにガラスクロス表面に均一なシランカップリング剤の塗膜形成ができるトリアルコキシシランが好ましい。例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリルアミドプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びトリフルオロプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0024】
(b)シランカップリング剤の量は、水に対して0.01~3質量%が好ましく、0.02~2質量%がさらに好ましく、0.02~1質量%がより好ましい。樹脂との親和性及び基板の信頼性の点から、0.01質量%以上が好ましい。3質量%以下とすることで、誘電正接をより低くすることができる。
【0025】
[(c)加水分解縮合触媒]
本発明における加水分解縮合触媒は、シランカップリング剤処理液中のカップリング剤の加水分解性基を加水分解し、石英ガラスクロスにシランカップリング剤処理液を塗布後の加熱処理において、石英ガラスクロスの表面のSi-OHとの縮合及びシランカップリング剤同士の縮合を促進するものである。加水分解縮合触は、水溶性の高いものが好ましく、アンモニア、アミン化合物等の塩基性化合物、酢酸、p-トルエンスルホン酸、酸無水物等の酸性化合物が好ましい。また、石英ガラスクロス表面に加水分解縮合触媒が残存すると誘電正接が悪化してしまうため、沸点120℃以下の化合物であることがさらに好ましく、中でも、アンモニア又は酢酸がより好ましい。なお、沸点の測定方法としてはJIS K 2254による常圧法によって測定できる。3-アミノプロピルトリメトキシシランのようなカップリング剤自体が加水分解縮合触媒能を持つ場合、カップリング剤自体を加水分解縮合触媒と考えて加水分解縮合触媒を添加しなくてもよい。
【0026】
(c)加水分解縮合触媒の量は、水に対して0.01~5質量%が好ましく、0.05~1質量%がより好ましい。0.01質量%未満だとシランカップリング剤の加水分解及び縮合反応が進行せず、石英ガラス表面と反応ができなくなり誘電正接を悪化させるおそれがある。一方、5質量%を超えるとシランカップリング剤処理液中での加水分解及び縮合反応が過剰に進行し、石英ガラスクロスに処理する前にシランカップリング剤同士がゲル化してしまい、シランカップリング剤処理後にガラスクロスの表面に残存してしまうおそれがある。
【0027】
本発明におけるシランカップリング剤処理液の製造方法としては特に限定されないが、(a)水に対して(c)加水分解縮合触媒を添加して撹拌して均一化させた後に、(b)シランカップリング剤を添加する方法が挙げられる。シランカップリング剤は添加前にろ過してオリゴマーやポリマーを除去することが好ましい。特に、アミノ基を持ったシランカップリング剤は自己縮合性があるため、シランカップリング剤処理液に添加する前にオリゴマーやポリマー化して均一に分散できずに石英ガラスクロスに処理しても石英ガラスクロスの表面のSi-OH基と反応ができずに未反応の固着分となり、誘電正接を悪化させるおそれがある。また、シランカップリング剤の添加速度はシランカップリング剤処理液1Lに対して添加するカップリング剤を30秒以上かけて均一に添加することが好ましく、より好ましくは1分以上かけて添加する。30秒未満であると、シランカップリング剤処理液内の一部に局所的にカップリング剤濃度が高くなる個所が生じ、望まない縮合反応を起こし、石英ガラスクロスに処理した際に上手く反応が進行せず、誘電正接を悪化させるおそれがある。
【0028】
シランカップリング剤添加後の撹拌時間は、シランカップリング剤処理液が均一に分散すれば特に限定されないが、シランカップリング剤の加水分解を十分に進行させるために30分~3時間が好ましい。また振とう時の温度に関しては10~60℃が好ましい。10℃以下であるとシランカップリング剤の加水分解が進行遅くなるため好ましくなく、60℃以上だと過剰に加水分解及び縮合反応が進行するため好ましくない。
【0029】
本発明におけるシランカップリング剤処理液中のシランカップリング剤は、20質量%以上が加水分解されていることが好ましく、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上が加水分解されていることが好ましい。上限は特に限定されず、100質量%でもよい。このような範囲に調整するためには、上述した事前のシランカップリング剤のろ過に加えて添加する速度や温度をコントロールする方法が挙げられる。
【0030】
上記分解率の測定方法は、石英ガラスクロスに処理する直前のシランカップリング剤処理液を20mL採取し、n-デカンを10mL加え1分撹拌し、n-デカン層を採取し、ガスクロマトグラフィー、例えば、島津製作所社製ガスクロマトグラフィーGC-2014にて分析をする。同様に、採取したシランカップリング剤処理液20mL中に含まれるカップリング剤濃度と同mol数のカップリング剤を、加水分解を行わずにn-デカンを10mLに分散して同様にガスクロマトグラフィーで測定する。得られた結果から、下記の式で加水分解率を算出する。
加水分解無しのカップリング剤のピーク面積:W0
石英ガラスクロスを処理する直前のシランカップリング剤処理液中の、カップリング剤のピーク面積:W1
加水分解率(%)=100×(W0-W1)/W0
【0031】
上記のような範囲であれば、石英ガラスクロスの表面のSi-OHとの反応及びシランカップリング剤同士の縮合が均一に石英ガラスクロス表面を処理することができる。シランカップリング剤の加水分解が20質量%未満であると、加水分解性基が過剰になってしまい、加水分解性基同士では縮合反応が進行しないため、石英ガラスクロスの表面に加水分解性基が残存し、空気中で加水分解を起こし、Si-OHとなって誘電正接を悪化させるおそれがある。また、加水分解性基が過剰であると石英ガラスクロス表面と反応できなかったシランカップリング剤やそのオリゴマーが石英ガラス表面に固着してさらに誘電正接を悪化させるおそれがある。
【0032】
[シランカップリング剤処理]
石英ガラスクロスに対するシランカップリング剤処理液の処理方法は特に限定はされないが、処理液中に石英ガラス繊維を浸漬させる方法、ロールコートによる塗布する方法等が挙げられる。シランカップリング剤を一度に添加せず、徐々に添加することが好ましい。シランカップリング剤処理液はガラスクロスへ塗布する前に、さらにカップリング剤のオリゴマーやポリマーを除去するためにろ過してすることが好ましい。
【0033】
シランカップリング剤処理液で石英ガラスクロスを処理した後、加熱工程によってカップリング剤と石英ガラスクロスの表面のSi-OHとの反応及びシランカップリング剤同士の縮合を進行させる。加熱方法としては、特に制限されないが、例えば、熱風加熱、赤外線加熱、ホットロールによる加熱等が挙げられる。中でも、より早く水及び加水分解縮合触媒を揮発させるために、空気が一部分に滞留しない熱風加熱が好ましい。加熱温度は80~180℃が好ましく、90~130℃がより好ましい。また加熱時間は加熱温度に対して加熱温度(℃)×加熱時間(min)で表される加熱量(℃・min)が、50℃・min以上が好ましく、100℃・min以上がより好ましい。上限は特に限定されない。このような加熱条件であれば、石英ガラスクロスの表面のSi-OH基との反応及びシランカップリング剤同士の縮合のためのエネルギーを十分に与え、均一に石英ガラスクロス表面をシランカップリング剤処理することができ、石英ガラスクロスの誘電正接を低く保つことができる。加熱温度が80℃未満であると、カップリング剤の反応が進まないだけではなく、溶剤の水や加水分解縮合触媒も揮発しないためおそれがある。また、180℃を超えると、シランカップリング剤の反応が急激に進行し、均一にシランカップリング剤処理ができずにシランカップリング剤のSi-OH基が残存してしまうおそれがある。
【0034】
シランカップリング剤処理後のカップリング剤の付着量は0.01~1質量%が好ましい。0.01質量%未満だと、後工程で樹脂を塗布して基板を作製する際に樹脂との親和性が悪くなり、基板の信頼性を著しく低下させるおそれがある。1質量%を超えると、石英ガラスクロスに対するカップリング剤の量が過剰になり、誘電正接を悪化させるおそれがある。なお、カップリング剤の付着量は、JIS R 3420に記載の強熱減量から算出できる。シランカップリング剤処理後の石英ガラスクロスの強度は特には限定されないが、シランカップリング剤処理前に対して1倍以上が、後工程で樹脂を塗工する際に好ましい。
【0035】
シランカップリング剤処理石英ガラスクロスの物性
[シランカップリング剤処理石英ガラスクロスの抽出水のpH]
本発明において加水分解縮合触媒は酸又は塩基を用いているため、加熱工程で加水分解縮合触媒が揮発している必要がある。すなわちシランカップリング剤処理石英ガラスクロスの表面のpHは6.0~8.0であり、6.5~7.8が好ましい。このような範囲であれば、加水分解縮合触媒による誘電正接の悪化を防ぐことができるだけではなく、樹脂を塗布した際に樹脂の劣化を防ぐことができる。シランカップリング剤処理石英ガラスクロスの抽出水のpHは、該ガラスクロスを塩化カリウム溶液で抽出し、抽出液のpHを測定することで測定できる。詳細条件は、実施例に記載された方法である。
【0036】
[シランカップリング剤処理石英ガラスクロスをメタノールで洗浄した際に抽出される炭素量]
【0037】
本発明のシランカップリング剤処理石英ガラスクロスのシランカップリング剤処理石英ガラスクロスをメタノールで洗浄した際に抽出される炭素量は、0.10質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.03以下がさらに好ましい。下限は特に限定されず、0質量%でもよい。本発明では、サイズ剤由来の炭素量と未反応のカップリング剤由来の炭素量を個別に測定することで、カップリング剤の適切な処理方法を見出している。なお、シランカップリング剤処理前の石英ガラスクロス上に存在するサイズ剤由来の燃え残り由来の炭素は、メタノール洗浄では除去できないため、ここでメタノール抽出される炭素は、実質的に石英ガラスクロス表面に存在するガラスクロスと未反応の物理吸着したシランカップリング剤といえる。本発明における、シランカップリング剤処理液を用いて処理されたシランカップリング剤処理石英ガラスクロスは、これらの量を減少させることができ、石英ガラスクロスの誘電正接を低く保つことができる。
【0038】
メタノール抽出及び炭素量測定は以下の通りである。
シランカップリング剤処理石英ガラスクロス500mgをビーカーに入れ500mLのメタノールを入れた後、室温で5分間超音波洗浄後、ろ過してさらに2回100mLのメタノールで洗浄して、105℃で1時間乾燥させたメタノール洗浄シランカップリング剤処理石英ガラスクロスを得る。
シランカップリング剤処理石英ガラスクロスと、メタノール洗浄シランカップリング剤処理石英ガラスクロスについて、それぞれ2.2kWで燃焼した際のガス量から炭素量を測定する。詳細な測定条件は実施例に記載された方法である。下記式に基づき、シランカップリング剤処理石英ガラスクロスのメタノール抽出における炭素量を算出する。
シランカップリング剤処理石英ガラスクロスをメタノールで洗浄した際に抽出される炭素量(%)=
[(シランカップリング剤処理石英ガラスクロスの炭素量)-(メタノール洗浄シランカップリング剤処理石英ガラスクロスの炭素量)]/シランカップリング剤処理石英ガラスクロス全体の質量×100
【0039】
[石英ガラスクロス上のシランカップリング剤中の加水分解性基の量]
本発明における、シランカップリング処理を施した石英ガラスクロスは、シランカップリング剤の加水分解性基を極端に少なくすることができる。シランカップリング剤の加水分解性基が石英ガラスクロス上で残存していると経時で加水分解を起こしSiOHが生成し、誘電正接に悪影響を与える。本発明における石英ガラスクロス上に存在するシランカップリング剤の未反応の加水分解性基の量はシランカップリング剤の付着量に対して5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく1質量%以下がより好ましい。下限は特に限定されず、0質量%とすることもできる。
【0040】
シランカップリング剤処理石英ガラスクロスにおいて、石英ガラスクロス上に存在するシランカップリング剤中の加水分解性基の量は、以下のように算出できる。
シランカップリング剤処理後の石英ガラスクロスを5g採取し、1N(mol/L)のKOHが含まれたイソプロピルアルコールを20mL加え、オイルバスで加熱して100~150℃で留分を採取する。この際に留分に含まれる物質は、イソプピルアルコールとシランカップリング剤に存在する未反応の加水分解性基(メトキシ基又はエトキシ基)が、KOHと反応して生じるアルコール(メタノール又はエタノール)である。この留分を、1μLをガスクロマトグラフィーによって測定し、イソプロピルアルコールを標準物質として生じたメタノール又はエタノールの濃度(μg/mL)を算出する。
石英ガラスクロスに対する未反応の加水分解基の量(%)=(メタノール又はエタノールの濃度(μg/mL)×20mL)/5g
石英ガラスクロス上のシランカップリング剤中の加水分解性基の量(%)=石英ガラスクロスに対する未反応の加水分解基の量(%)/シランカップリング剤の付着量(%)
上記の方法によって実際の未反応の加水分解性基の量を直接的に定量することができる。なお、シランカップリング剤の付着量は、JIS R 3420の強熱減量の測定方法にしたがって測定する。
【0041】
[誘電正接]
本発明のシランカップリング剤処理石英ガラスクロスは、石英ガラスクロスの表面のSi-OH及びシランカップリング剤が均一に反応しつつ、表面に未反応のカップリング剤や残存する加水分解縮合触媒が非常に少ないため優れた誘電正接を有する。本発明のシランカップリング剤処理ガラスクロスの10GHzにおける誘電正接は0.0008以下であり、0.0006以下がより好ましく、0.0003以下がさらに好ましい。誘電正接の測定方法は共振法に基づくものであり、具体的には、後述する実施例の記載に基づくものである。また、シランカップリング剤処理前の石英ガラスクロスの誘電正接に対して、シランカップリング剤処理後の石英ガラスクロスの誘電正接が、1.5倍以下が好ましく、1.3倍以下がより好ましい。
【0042】
さらに、本発明によって得られるシランカップリング剤処理石英ガラスクロスは表面に残存するシランカップリング剤由来の加水分解性が、シランカップリング剤の付着量に対して5質量%以下であるため、経時での誘電正接の悪化および基板の信頼性悪化を防ぐことができる。具体的には、シランカップリング剤処理石英ガラスクロスを30℃、80%の環境で30日保持後に誘電正接を測定することで確認することができる。
【0043】
信頼性評価は、30℃、80%RHの環境で30日保持後のシランカップリング剤処理石英ガラスクロスを用いて下記に示す式で得られる「誘電正接の経時変化」で確認することができる。本発明においては、誘電正接の経時変化は1.3倍以下が好ましく、1.2倍以下がより好ましく、1.1以下がさらに好ましい。
誘電正接の経時変化=(保持後のガラスクロスの誘電正接)/(保持前のガラスクロスの誘電正接)なお、保存後のシランカップリング剤処理石英ガラスクロスは、誘電正接測定前に、105℃・2時間乾燥した後、放冷する。
【実施例0044】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[石英ガラスクロスの調製]
SiO2が99.9質量%の石英ガラスインゴットを加熱延伸しながら直径200μmの石英糸を巻き取り、得られた石英糸を酸素と水素の混合火炎にて2,000℃で直径5.3μmの石英ガラスフィラメントを作製した。この石英フィラメント繊維に石英ガラス繊維集束剤(澱粉3.0質量%、牛脂0.5質量%、乳化剤0.1質量%、残部水)を、アプリケーターにて塗布した後に集束機により集束し、巻き取って石英ガラスフィラメント本数200本の石英ガラスストランドを作製した。巻き取った石英ガラスストランドに24T/mの撚りを掛け、石英ガラスヤーンを作製した。
【0045】
得られた石英ガラスヤーンに二次集束剤としてポリビニルアルコール(PVA)1.5質量%、澱粉1.5質量%からなる水溶液を塗布した後に、エアージェット織機を用いて、IPC規格1078石英ガラスクロスを製造した。得られた石英ガラスクロスを、株式会社いけうち社製PSNスリットノズルを用い、25℃、0.3MPaの水道水と0.3MPaに圧搾された空気を用い、気水体積比がV2/V1=35となるように開繊処理を行った。得られた開繊処理石英ガラスクロスを、ネムス社製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用い、500℃、36時間加熱してサイズ剤を除去し、脱サイズ済み石英ガラスクロスを得た。この際、CKD株式会社製 スーパーヒートレスドライヤー SHD3025で作製した露点-70℃の乾燥空気を、1時間当たり、電気炉の体積の10倍量送り込んで乾燥状態で加熱を行った。得られた石英ガラスクロスを、シランカップリング剤処理前(脱油後)石英ガラスクロス(SQ1)とした。
【0046】
[実施例1]
オルガノ社製ピュアライトPR-0250を用いて作製した電気伝導度0.067μS/cmの精製水に対して、加水分解縮合触媒として東京化成株式会社製の酢酸を0.1質量%添加し、300rpmで25℃、1分撹拌した。300rpmで撹拌している加水分解縮合触媒添加精製水に対して、予めADVANTEC社製メンブレンフィルターDISMIC 13Hでろ過した3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503信越化学株式会社)0.2質量%を、1分かけて添加した。その後、25℃で1時間撹拌した。得られたシランカップリング剤処理中に、SQ1を室温で10秒間浸漬後、150μmギャップで余分な処理液を除去した後に、強制熱風循環機構のついたヤマト社製送風定温恒温器DKN602を用いて、110℃×10分の条件で内部の空気を絶えず循環させながら加熱し、シランカップリング剤処理石英ガラスクロスを得た。
【0047】
[実施例2]
加水分解縮合触媒を、精製水に対して1質量%添加したこと以外は実施例1と同様に石英ガラスクロスを処理した。
【0048】
[実施例3]
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503信越化学株式会社)を、1質量%添加したこと以外は実施例1と同様に石英ガラスクロスを処理した。
【0049】
[実施例4]
加水分解縮合触媒を、アンモニア水(28質量%、東京化成株式会社製)へ変更したこと以外は、実施例1と同様に石英ガラスクロスを処理した。なおアンモニアの量が水に対して0.1質量%となる様に予め精製水の量を減らして配合した。
【0050】
[実施例5]
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503:信越化学株式会社)の代わりに、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-903:信越化学株式会社)を使用したこと以外は、実施例4と同様に石英ガラスクロスを処理した。
【0051】
[実施例6]
精製水に対して、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-903)をカップリング剤及び加水分解縮合触媒として0.2質量%添加したこと以外は、実施例1と同様に石英ガラスクロスを処理した。
【0052】
[比較例1]
加水分解縮合触媒を入れなかったこと以外は、実施例1と同様に石英ガラスクロスを処理した。
【0053】
[比較例2]
加水分解縮合触媒を、精製水に対して10質量%添加したこと以外は、実施例1と同様に石英ガラスクロスを処理した。
【0054】
[比較例3]
3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503)を、5質量%添加したこと以外は、実施例1と同様に石英ガラスクロスを処理した。
【0055】
[比較例4]
シランカップリング剤処理後の加熱温度を60℃にした以外は、実施例1と同様に石英ガラスクロスを処理した。
【0056】
[比較例5]
シランカップリング剤処理後の加熱温度を200℃にした以外は実施例1と同様に石英ガラスクロスを処理した。
【0057】
[比較例6]
加水分解縮合触媒を、硫酸(三菱ケミカル社製)へ変更した以外は、実施例1と同様に石英ガラスクロスを処理した。
【0058】
[比較例7]
加水分解縮合触媒を、水酸化カリウム(東京化成株式会社製)へ変更した以外は実施例1と同様に石英ガラスクロスを処理した。
【0059】
[比較例8]
シランカップリング剤処理液用の水を、電気伝導度105μS/cmの水道水へ変更した以外は実施例1と同様に石英ガラスクロスを処理した。
【0060】
上記で得られたシランカップリング剤処理後の石英ガラスクロス、シランカップリング剤処理後の石英ガラスクロスについて、下記方法で評価を行った。結果を表中に記載する。
【0061】
1.シランカップリング剤処理前の石英ガラスクロスの炭素量
石英ガラスクロスサンプルとして、シランカップリング剤処理前の石英ガラスクロスを用いて、炭素量を測定した。
[炭素量の測定]
1,000℃、2時間空焼きした磁製るつぼに、石英ガラスクロスサンプル100mg秤量し、助燃剤としてタングステン1.0gとスズコートされた銅1.5gを添加し、LECO社製炭素硫黄分析装置CS774を用いて2.2kWで燃焼した際のガス量から炭素量を測定した。
石英ガラスクロスサンプルの炭素量(質量=石英ガラスクロスサンプルの上記炭素量/石英ガラスクロスサンプル×100%
【0062】
2.シランカップリング剤処理液中のカップリング剤の加水分解率
実施例及び比較例で調整したシランカップリング剤処理液について直前のシランカップリング剤処理液を20mL採取し、n-デカンを10mL加え1分撹拌し、n-デカン層を採取し、島津製作所社製ガスクロマトグラフィーGC-2014にて分析をし、以下の式で加水分解率を算出した。またシランカップリング剤処理液20mL中に含まれるカップリング剤濃度と同mol数のカップリング剤を、加水分解を行わずにn-デカンを10mLに分散して同様にガスクロマトグラフィーで測定した。
加水分解無しのカップリング剤のピーク面積:W0
石英ガラスクロスへ処理する直前のシランカップリング剤処理液中のカップリング剤のピーク面積:W1
加水分解率(%)=100×(W0-W1)/W0
【0063】
3.シランカップリング剤処理石英ガラスクロスの抽出水のpH測定
オルガノ社製ピュアライトPR-0250と東京化成工業株式会社製塩化カリウムを用いて0.1mol/L濃度の塩化カリウム溶液を調整した。
シランカップリング剤処理石英ガラスクロス2gを採取し、1cm2以下に切断し、切断した試料とKCl溶液100mLを栓付フラスコに入れて密栓した後、手でフラスコを振とうし、試料とKCl溶液をなじませた後、ヤマト化学社製振とう器を用いて、100rpmで2時間振とうした。上澄み液をADVANTEC社製メンブレンフィルターDISMIC 13Hでろ過し、抽出液を得た。得られた抽出液をMETTLER TOLEDO社製卓上型pHメーターFP20キットを用いて測定した(室温)。
【0064】
4.シランカップリング剤処理石英ガラスクロスをメタノールで洗浄した際に抽出される炭素量
4-1.シランカップリング剤処理後の石英ガラスクロスのメタノール洗浄
シランカップリング剤処理石英ガラスクロス500mgをビーカーに入れ500mLのメタノールを入れた後、室温で5分間超音波洗浄後、ろ過してさらに2回100mLのメタノールで洗浄して105℃で1時間乾燥させたメタノール洗浄シランカップリング剤処理石英ガラスクロスを得た。
4-2.シランカップリング剤処理石英ガラスクロスをメタノールで洗浄した際に抽出される炭素量の算出
石英ガラスクロスサンプルとして、シランカップリング剤処理石英ガラスクロス、メタノール洗浄シランカップリング剤処理石英ガラスクロスを用いて、上記1の[炭素量の測定]を行った。得られた結果から、下記式に基づき、シランカップリング剤処理石英ガラスクロスをメタノールで洗浄した際に抽出される炭素量(%)を算出した。
シランカップリング剤処理石英ガラスクロスをメタノールで洗浄した際に抽出される炭素量(%)=
[(シランカップリング剤処理石英ガラスクロスの炭素量)-(メタノール洗浄シランカップリング剤処理石英ガラスクロスの炭素量)]/シランカップリング剤処理石英ガラスクロス全体の質量×100
【0065】
5.石英ガラスクロス上のシランカップリング剤中の加水分解性基の量
シランカップリング剤処理後の石英ガラスクロスを5g採取し、1N(mol/L)のKOHが含まれたイソプロピルアルコールを20mL加え、オイルバスで加熱して100~150℃で留分を採取した。この際に留分に含まれる物質はイソプピルアルコールとシランカップリング剤に存在する未反応の加水分解性基(メトキシ基又はエトキシ基)が、KOHと反応して生じるアルコール(メタノール又はエタノール)である。この留分を、1μLをガスクロマトグラフィーによって測定し、イソプロピルアルコールを標準物質として生じたメタノール又はエタノールの濃度(μg/mL)を算出する。
石英ガラスクロスに対する未反応の加水分解基の量(%)=(メタノール又はエタノールの濃度(μg/mL)×20mL)/5g
石英ガラスクロス上のシランカップリング剤中の加水分解性基の量(%)=石英ガラスクロスに対する未反応の加水分解基の量(%)/シランカップリング剤の付着量(%)
【0066】
6.シランカップリング剤の付着量
JIS R 3420の強熱減量の測定方法にしたがって測定した。
【0067】
7.誘電正接の測定
シランカップリング剤処理前後の石英ガラスクロスの誘電正接はエーイーティー社製空洞共振器(TE011モード)を用いて測定した。なお、ガラスクロスの厚みは理論膜厚を用いて測定しており、ガラスクロスの理論膜厚は
理論膜厚t(μm)=目付量(g/m2)/比重(g/cm3)
から算出した。
シランカップリング剤処理前(脱油後)石英ガラスクロスについても同様に測定を行った。
【0068】
8.誘電正接比
シランカップリング剤処理前後の石英ガラスクロスの誘電正接比を、下記式により算出した。
誘電正接比=シランカップリング剤処理後の石英ガラスクロス/シランカップリング剤処理前の石英ガラスクロス
【0069】
9.誘電正接の経時変化
シランカップリング剤処理石英ガラスクロスをエスペック社製小型環境試験機(SH-222)内で30℃、80%RHの条件下で30日保持し、105℃・2時間乾燥しデシケーターで放冷した後、5と同様に誘電正接を測定した。誘電正接の経時変化を下記式で示す。
誘電正接の経時変化=(保持後のガラスクロスの誘電正接)/(保持前のガラスクロスの誘電正接)
【0070】
10.基板の信頼性
実施例及び比較例で得られたシランカップリング剤処理済みクロスをSLK-3000(信越化学株式会社製 商品名)55質量%トルエン溶液に浸漬し、110℃、10分乾燥させてプリプレグ化した。プリプレグを3層重ねて真空プレスによって硬化させ基板を得た。得られた基板を100℃、2時間煮沸後表面の水分をふき取って260℃に加熱したはんだ浴の中に30秒沈めた後に、アセトンとドライアイスからなる-78℃の冷材に30秒沈めた。260℃のはんだ浴及び-78℃のアセトンに沈める操作を3セット行い、石英ガラスクロスと樹脂間に剥離のなかったものを「〇」、剥離のあったものを「×」とした)。上記7において保持前(初期)、30℃、80%RHの条件下で30日保持したシランカップリング剤処理石英ガラスクロスについて、それぞれ評価した。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
表中、KBM-503:3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、KBM-903:3-アミノプロピルトリメトキシシランを示す。
本発明の範囲内であれば、石英ガラスクロスの脱油後の低い誘電正接を保ったままシランカップリング剤処理を行うことができる。本発明によれば、石英ガラスクロスの誘電特性を悪化させずにシランカップリング剤処理を行うことができ、誘電正接の安定性に優れたシランカップリング剤処理石英ガラスクロスが得られる。また、本発明のシランカップリング剤処理石英ガラスクロスを用いることで、伝送損失及び信頼性に優れたプリント配線板を作製することができるという著大な効果を奏する。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。