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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009866
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】熱伝導シート
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20240116BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240116BHJP
   C08L 101/12 20060101ALI20240116BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
H01L23/36 D
C08L101/00
C08L101/12
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023172212
(22)【出願日】2023-10-03
(62)【分割の表示】P 2019033087の分割
【原出願日】2019-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】松下 みずき
(72)【発明者】
【氏名】村上 康之
(57)【要約】
【課題】両主面が平滑であり、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートの提供。
【解決手段】樹脂および粒子状フィラーを含み、厚み方向の熱伝導率が15W/m・K以上であり、厚みの標準偏差が3.5μm以下であり、両主面の表面粗さSaがいずれも3.0μm以下である、熱伝導シート。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂および粒子状フィラーを含み、
厚み方向の熱伝導率が25W/m・K以上であり、
厚みの標準偏差が3.5μm以下であり、
両主面の表面粗さSaがいずれも3.00μm以下であり、
前記樹脂は、液状樹脂と固体樹脂の双方を含み、
前記樹脂中における前記液状樹脂の含有割合が70質量%以上95質量%以下である、熱伝導シート。
【請求項2】
平均厚みが250μm以下である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
前記粒子状フィラーの含有割合が30体積%以上55体積%以下である、請求項1または2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記粒子状フィラーの体積平均粒子径が30μm以上150μm以下である、請求項1から3のいずれかに記載の熱伝導シート。
【請求項5】
一方の主面の表面粗さSaと他方の主面の表面粗さSaとの差の絶対値が0.40μm以下である、請求項1から4のいずれかに記載の熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シートおよび熱伝導シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル(PDP)や集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、熱伝導性を有するシート状の部材(熱伝導シート)が用いられている。例えば、発熱体と放熱体の間に、樹脂および粒子状フィラーを含む熱伝導シートを挟持し、この熱伝導シートを介して発熱体と放熱体とを密着させることで、発熱体から放熱体へと伝熱を行う。そして、従来から、熱伝導シートの諸特性を高めるための試みがなされている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0004】
特許文献1では、樹脂成形体をスライド面によってスライド可能に支持すると共に、スライド面から先端部が突出された一つの刃をスライド面を挟んだ樹脂成形体と反対側から支持した状態で、樹脂成形体をスライド面に押圧しながらスライドさせて、樹脂成形体を一つの刃のみによってスライスすることで熱伝導シートを得る方法が開示されている。そして、特許文献1によれば、上述した方法により得られる熱伝導シートの厚み精度を高めることができる。
【0005】
特許文献2では、樹脂および粒子状炭素材料を含む1次シートを厚み方向に積層する等して得られる積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスした後、スライスにより得られたシートを加圧することで熱伝導シートを得る方法が開示されている。そして、特許文献2によれば、上述した方法により得られる熱伝導シートは、比較的低い挟持圧力での使用に際しても優れた熱伝導性を発揮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5621306号明細書
【特許文献2】特開2018-67695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、近年、熱伝導シートを介して発熱体と放熱体を良好に密着させつつ、発熱体から放熱体への伝熱を均一に行う観点から、熱伝導シートの両主面を平滑にすると共に、熱伝導シートの厚み精度を高めることが求められている。
しかしながら、上記従来の手法では、両主面が平滑であり、均一な厚みを有する熱伝導シートを作製しつつ、当該熱伝導シートに、厚み方向に優れた熱伝導性を発揮させることが困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、両主面が平滑であり、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シート、および当該熱伝導シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。まず、本発明者らは、上記特許文献1に記載されたカンナを用いたスライス時の加圧により、熱伝導シートの厚み精度の向上を試みた。しかしながら、本発明者らの検討によれば、カンナを用いたスライス時にシートを加圧すると、両主面の平滑性が十分に確保し難いことが明らかとなった。その上で、本発明者は、樹脂および粒子状フィラーを含む熱伝導シートにおいて、厚みの標準偏差を所定の値以下としつつ、厚み方向の熱伝導率を所定の値以上とし、両主面の表面粗さSaをいずれも所定の値以下とすれば、両主面が平滑であり、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートは、樹脂および粒子状フィラーを含み、厚み方向の熱伝導率が15W/m・K以上であり、厚みの標準偏差が3.5μm以下であり、両主面の表面粗さSaがいずれも3.00μm以下である、ことを特徴とする。このように、樹脂および粒子状フィラーを含み、そして、厚み方向の熱伝導率が上記値以上であり、厚みの標準偏差が上記値以下であり、且つ、両主面の表面粗さSaがいずれも上記値以下である熱伝導シートは、両主面が平滑であり、十分な厚み精度を有すると共に、厚み方向に良好に伝熱させることができる。
なお、本発明において、「厚み方向の熱伝導率」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて算出することができる。
また、本発明において、「厚みの標準偏差」は、熱伝導シートの任意の5点における厚みを測定し、これらの測定値から得られる値であり、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて算出することができる。
さらに、本発明において、「両主面の表面粗さSa」は、国際規格ISO 25178に準拠して得られる値であり、本明細書の実施例に記載の方法を用いて算出することができる。
なお、本発明において「両主面」とは、熱伝導シートにおける最大面積を有する面およびその面に対向する面を指す。
【0011】
ここで、本発明の熱伝導シートは、平均厚みが250μm以下であることが好ましい。熱伝導シートの平均厚みが上記値以下であれば、当該熱伝導シートの厚み方向に、一層良好に伝熱させることができる。
なお、本発明において、「平均厚み」は、熱伝導シートの任意の5点における厚みを測定し、これらの測定値から得られる値であり、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて算出することができる。
【0012】
また、本発明の熱伝導シートは、前記粒子状フィラーの含有割合が30体積%以上55体積%以下であることが好ましい。粒子状フィラーが熱伝導シート中に占める体積割合が上記範囲内であれば、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まり、当該熱伝導シートの厚み方向に、一層良好に伝熱させることができると共に、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、厚み精度を更に向上させることができる。
【0013】
また、本発明の熱伝導シートは、前記粒子状フィラーの体積平均粒子径が30μm以上150μm以下であることが好ましい。粒子状フィラーの体積平均粒子径が上記範囲内であれば、当該熱伝導シートの厚み方向に、一層良好に伝熱させることができると共に、熱伝導シートの主面平滑性および厚み精度を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「体積平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠して測定することができ、レーザー回折法で測定された粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を表す。
【0014】
さらに、本発明の熱伝導シートは、一方の主面の表面粗さSaと他方の主面の表面粗さSaとの差の絶対値が0.40μm以下であることが好ましい。熱伝導シートの一方の主面の表面粗さSaと他方の主面の表面粗さSaとの差の絶対値が上記値以下であれば、ロボットアームでのつかみ易さ等のハンドリング性を向上させることができる。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートの製造方法は、樹脂および粒子状フィラーを含むブロック体をスライド面によってスライド可能に支持すると共に、前記スライド面から先端部が突出された刃を支持した状態で、前記ブロック体を前記スライド面に押圧しながらスライドさせて、前記ブロック体を前記刃によってスライスする工程を含み、前記刃は、前記ブロック体と接触する第1おもて面と、前記第1おもて面に対して交差する裏面と、前記第1おもて面と前記裏面との交差角部よりなる刃先と、前記第1おもて面の前記刃先側とは反対側の端縁から延在して前記第1おもて面よりも前記裏面側に位置する第2おもて面とを備え、前記第1おもて面の長さが0.8mm以上であり、前記第1おもて面の表面粗さSaが1.00μm以下である、ことを特徴とする。このように、樹脂および粒子状フィラーを含むブロック体を、第1おもて面の長さおよび表面粗さSaが上記範囲内である刃を用いて、所定の方法でスライスすれば、両主面が平滑であり、十分な厚み精度を有すると共に、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートを得ることができる。
また、本発明において、「第1おもて面の表面粗さSa」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
なお、本明細書では、ブロック体のスライス時において、「ブロック体に接する切削部位が設けられている側の面」を「おもて面」とし、ブロック体から熱伝導シートが排出される側の面(最初にブロック体に接する切削部位が設けられているおもて面とは反対側の面)を「裏面」とする。
【0016】
ここで、本発明の熱伝導シートの製造方法は、前記第2おもて面の表面粗さSaが1.00μm以下であることが好ましい。上記値以下の第2おもて面の表面粗さSaであれば、ブロック体をスライスして得られる熱伝導シートの表面の平滑性をより確実に確保することができる。
なお、本発明において、「第2おもて面の表面粗さSa」は、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて算出することができる。
【0017】
そして、本発明の熱伝導シートの製造方法は、前記スライスする工程に先んじて、樹脂および粒子状フィラーを含む1次シートを、厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記1次シートを折畳または捲回して、前記ブロック体を得る工程を更に備えることができる。
なお、本明細書において、「積層」、「折畳」、または「捲回」を、纏めて「積層等」と略記する場合がある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、両主面が平滑であり、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シート、および当該熱伝導シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に従う熱伝導シートの製造方法の一例を用いて熱伝導シートを製造する過程を示す説明図である。
図2】スライド角度βでブロック体(積層体)をスライスする様子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の熱伝導シートは、例えば、発熱体に放熱体を取り付ける際に発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の熱伝導シートは、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。
そして、本発明の熱伝導シートは、例えば、本発明の熱伝導シートの製造方法に従って製造することができる。
【0021】
(熱伝導シート)
本発明の熱伝導シートは、樹脂および粒子状フィラーを含み、任意に添加剤を更に含み得る。また、本発明の熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が15W/m・K以上であり、厚みの標準偏差が3.5μm以下であり、両主面の表面粗さSaがいずれも3.00μm以下である。そして、本発明の熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が15W/m・K以上であり、且つ厚みの標準偏差が3.5μm以下であり、両主面の表面粗さSaがいずれも3.00μm以下であるため、両主面が平滑であり、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることができる。
【0022】
<樹脂>
熱伝導シートに含まれる樹脂としては、特に限定されず、任意の樹脂を用いることができる。例えば、樹脂としては、液状樹脂および固体樹脂の何れも用いることができる。なお、樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、熱伝導シートは、液状樹脂および固体樹脂の少なくとも一方を含むことができるが、熱伝導シートの厚み精度を更に向上させつつ、厚み方向に一層良好に伝熱させる観点から、熱伝導シートは、液状樹脂と固体樹脂の双方を含むことが好ましい。
【0023】
<<液状樹脂>>
そして、液状樹脂としては、常温常圧下で液体である限り、特に限定されることなく、例えば、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を用いることができる。
なお、本発明において、「常温」とは23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0024】
液状樹脂としては、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、液状樹脂としては、シリコーン樹脂およびフッ素樹脂が好ましく、フッ素樹脂がより好ましい。液状樹脂として、シリコーン樹脂とフッ素樹脂の少なくとも一方を用いれば、熱伝導シートの難燃性を向上させることができる。また、液状樹脂としてフッ素樹脂を用いれば、得られる熱伝導シートの耐熱性、耐油性、および耐薬品性を向上させることができる。
【0025】
<<固体樹脂>>
固体樹脂としては、常温常圧下で液体でない限り、特に限定されることなく、例えば、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂、常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0026】
[常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂]
常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸またはそのエステル、ポリアクリル酸またはそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム);アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明において、ゴムは、「樹脂」に含まれるものとする。
【0027】
[常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂]
常温常圧下で固体の熱硬化性樹脂としては、例えば、天然ゴム;ブタジエンゴム;イソプレンゴム;ニトリルゴム;水素化ニトリルゴム;クロロプレンゴム;エチレンプロピレンゴム;塩素化ポリエチレン;クロロスルホン化ポリエチレン;ブチルゴム;ハロゲン化ブチルゴム;ポリイソブチレンゴム;エポキシ樹脂;ポリイミド樹脂;ビスマレイミド樹脂;ベンゾシクロブテン樹脂;フェノール樹脂;不飽和ポリエステル;ジアリルフタレート樹脂;ポリイミドシリコーン樹脂;ポリウレタン;熱硬化型ポリフェニレンエーテル;熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル;などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
<<樹脂の含有割合>>
熱伝導シート中の樹脂の含有割合は、特に限定されないが、35質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることが更に好ましい。樹脂の含有割合が35質量%以上であれば、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、熱伝導シートの厚み精度を更に向上させることができる。一方、樹脂の含有割合が95質量%以下であれば、熱伝導シートの厚み方向に、一層良好に伝熱させることができる。
【0029】
<<液状樹脂の含有割合>>
また、樹脂中における液状樹脂の含有割合(換言すると、固形樹脂と液状樹脂の合計中に占める液状樹脂の割合)は、特に限定されないが、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以上であることが特に好ましく、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることが更に好ましく、80質量%以下であることが特に好ましい。樹脂中に占める液状樹脂の含有割合が30質量%以上であれば、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、厚み精度を更に向上させることができる。一方、樹脂中に占める液状樹脂の含有割合が95質量%以下であれば、1次シートに適した強度を付与するため、積層体をスライスしやすくなり、得られる熱伝導シートの厚み精度を更に向上させることができる。
【0030】
<粒子状フィラー>
熱伝導シートに含まれる粒子状フィラーとしては、熱伝導シートに熱伝導性を付与することができるものであれば特に限定されない。そして、このような粒子状フィラーとしては、高い熱伝導性を有する粒子状炭素材料を好適に使用することができる。なお、粒子状フィラーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
<<粒子状炭素材料>>
粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
上述した中でも、粒子状炭素材料としては、膨張化黒鉛を用いることが好ましい。膨張化黒鉛を用いることで、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まり、当該熱伝導シートの厚み方向に、一層良好に伝熱させることができる。ここで、膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0033】
<<粒子状フィラーの性状>>
粒子状フィラーは、体積平均粒子径が、30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましく、150μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることが更に好ましく、60μm以下であることが特に好ましい。粒子状フィラーの体積平均粒子径が30μm以上であれば、熱伝導シート中で粒子状フィラーの伝熱パスが良好に形成可能であるためと推察されるが、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まる。結果として、当該熱伝導シートの厚み方向に、一層良好に伝熱させることができる。一方、粒子状フィラーの体積平均粒子径が150μm以下であれば、熱伝導シートの主面平滑性および厚み精度を更に向上させることができる。
【0034】
また、粒子状フィラーは、アスペクト比(長径/短径)が、1超10以下であることが好ましく、1超5以下であることがより好ましい。粒子状フィラーのアスペクト比が1超10以下であれば、熱伝導シート中で粒子状フィラーが厚み方向に良好に配向し易くなるためと推察されるが、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まる。結果として、当該熱伝導シートの厚み方向に、一層良好に伝熱させることができる。
なお、本発明において、「アスペクト比」は、粒子状フィラーをSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状フィラーについて、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0035】
<<粒子状フィラーの含有割合>>
熱伝導シート中の粒子状フィラーの含有割合は、特に限定されないが、30体積%以上であることが好ましく、35体積%以上であることがより好ましく、40体積%以上であることが特に好ましく、55体積%以下であることが好ましく、50体積%以下であることがより好ましく、45体積%以下であることが更に好ましく、42体積%以下であることが特に好ましい。粒子状フィラーの含有割合が30体積%以上であれば、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まり、当該熱伝導シートの厚み方向に、一層良好に伝熱させることができる。一方、粒子状フィラーの含有割合が42体積%以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、厚み精度を更に向上させることができる。
【0036】
また、熱伝導シート中の粒子状フィラーの含有割合は、特に限定されないが、35質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることが特に好ましく、65質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。粒子状フィラーの含有割合が35質量%以上であれば、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まり、当該熱伝導シートの厚み方向に、一層良好に伝熱させることができる。一方、粒子状フィラーの含有割合が65質量%以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、熱伝導シートの厚み精度を更に向上させることができる。
【0037】
加えて、熱伝導シート中の粒子状フィラーの含有量は、特に限定されないが、樹脂100質量部当たり、60質量部以上であることが好ましく、70質量部以上であることがより好ましく、80質量部以上であることが特に好ましく、120質量部以下であることが好ましく、110質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることが特に好ましい。粒子状フィラーの含有量が樹脂100質量部当たり60質量部以上であれば、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が高まり、当該熱伝導シートの厚み方向に、一層良好に伝熱させることができる。一方、粒子状フィラーの含有量が樹脂100質量部当たり120質量部以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を確保しつつ、熱伝導シートの厚み精度を更に向上させることができる。
【0038】
<添加剤>
本発明の熱伝導シートには、必要に応じて、熱伝導シートの形成に使用され得る既知の添加剤を更に配合することができる。そして、熱伝導シートに配合し得る添加剤としては、特に限定されることなく、例えば、セバシン酸エステルといった脂肪酸エステルなどの可塑剤;赤リン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤などの難燃剤;ウレタンアクリレートなどの靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウムなどの吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物などの接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などの濡れ性向上剤;無機イオン交換体などのイオントラップ剤;等が挙げられる。なお、添加剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
そして、熱伝導シートが添加剤を更に含む場合は、添加剤の配合量は、例えば、上述した樹脂100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下とすることができ、10質量部以下とすることが好ましい。
【0040】
<熱伝導シートの性状>
熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が、15W/m・K以上であることが必要であり、20W/m・K以上であることがより好ましく、25W/m・K以上であることが更に好ましい。熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が15W/m・K未満であると、熱伝導シートの厚み方向に良好に伝熱させることができない。そして、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率の値の上限は、特に限定されないが、例えば、45W/m・K以下である。
なお、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率は、熱伝導シートの製造に用いる材料(樹脂、粒子状フィラー等)の種類および含有割合、ならびに熱伝導シートの製造条件等を変更することにより調整することができる。例えば、熱伝導シート中の粒子状フィラーの体積平均粒子径および/または含有割合を変更することで、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率を上昇させることができる。また、例えば、後述する本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて熱伝導シートを製造することで、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率を上昇させることができる。
【0041】
また、熱伝導シートは、厚みの標準偏差が、3.5μm以下であることが必要であり、3.0μm以下であることが好ましく、2.7μm以下であることがより好ましく、2.5μm以下であることが特に好ましい。厚みの標準偏差が3.5μm超であると、熱伝導シートの厚み精度が損なわれる。そのため、熱伝導シートを介して発熱体と放熱体を良好に密着させることが困難となり、また発熱体から放熱体への伝熱を均一に行うことができない。そして、熱伝導シートの厚みの標準偏差の値の下限は、特に限定されないが、例えば、1μm以上である。
なお、熱伝導シートの厚みの標準偏差は、熱伝導シートの製造に用いる材料(樹脂、粒子状フィラー等)の種類および含有割合、ならびに熱伝導シートの製造条件等を変更することにより調整することができる。例えば、後述する本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて熱伝導シートを製造することで、熱伝導シートの厚みの標準偏差を低下させることができる。より具体的には、本発明の熱伝導シートの製造方法において、ブロック体のアスカーC硬度、スライス時における加圧量、スライスに用いる刃の第1おもて面の長さなどを変更することで、熱伝導シートの厚みの標準偏差を低下させることができる。
【0042】
加えて、熱伝導シートは、平均厚みが、70μm以上であることが好ましく、80μm以上であることがより好ましく、250μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、160μm以下であることが更に好ましく、120μm以下であることが特に好ましい。平均厚みが70μm以上であれば、熱伝導シートの強度を確保することができ、250μm以下であれば、熱伝導シートの厚み方向に、一層良好に伝熱させることができる。
【0043】
また、熱伝導シートは、主面の面積を、例えば、30cm以上とすることができ、50cm以上とすることができ、80cm以上とすることができ、100cm以上とすることができ、1000cm以下とすることができる。
【0044】
そして、熱伝導シートは、両主面の表面粗さSaが、3.00μm以下であることが必要であり、2.80μm以下であることが好ましく、2.60μm以下であることがより好ましく、2.20μm以下であることが更に好ましく、2.00μm以下であることが特に好ましい。両主面の表面粗さSaが3.00μm超であると、界面抵抗が高くなり、熱伝導シートを発熱体および放熱体の間に挟み込んで使用した場合に、熱伝導シートを介して発熱体と放熱体を良好に密着させることが困難となり、発熱体から放熱体への伝熱を均一に行うことができない。そして、熱伝導シートの主面の表面粗さSaの値の下限は、特に限定されないが、例えば、1.0μm以上である。
なお、熱伝導シートの厚みの主面の表面粗さSaは、熱伝導シートの製造に用いる材料(樹脂、粒子状フィラー等)の種類および含有割合、ならびに熱伝導シートの製造条件等を変更することにより調整することができる。例えば、後述する本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて熱伝導シートを製造することで、熱伝導シートの表面粗さSaを低下させることができる。より具体的には、本発明の熱伝導シートの製造方法において、スライスに用いる刃の第1おもて面の長さ、スライスに用いる刃の第1おもて面の表面粗さ、スライスに用いる刃の第2おもて面の長さ、スライスに用いる刃の第2おもて面の表面粗さ、などを変更することで、熱伝導シートの主面の表面粗さSaを低下させることができる。
【0045】
加えて、熱伝導シートは、一方の主面の表面粗さSaと他方の主面の表面粗さSaとの差の絶対値が、0.40μm以下であることが好ましく、0.30μm以下であることがより好ましく、0.20μm以下であることが更に好ましく、0.10μm以下であることが特に好ましい。一方の主面の表面粗さSaと他方の主面の表面粗さSaとの差の絶対値が0.40μm以下であれば、ロボットアームでのつかみ易さ等のハンドリング性を向上させることができる。そして、一方の主面の表面粗さSaと他方の主面の表面粗さSaとの差の絶対値の下限は、特に限定されないが、例えば、0.01μm以上である。
【0046】
(熱伝導シートの製造方法)
上述した本発明の熱伝導シートは、例えば、本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて製造することができる。ここで、本発明の熱伝導シートの製造方法は、樹脂および粒子状フィラーを含むブロック体をスライド面によってスライド可能に支持すると共に、前記スライド面から先端部が突出された刃を支持した状態で、前記ブロック体を前記スライド面に押圧しながらスライドさせて、前記ブロック体を前記刃によってスライスする工程(スライス工程)を、少なくとも含む。
そして、本発明の熱伝導シートの製造方法によれば、両主面が平滑であり、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シートを得ることができる。
【0047】
<スライス工程>
スライス工程では、上述した通り、ブロック体をスライド面によってスライド可能に支持すると共に、スライド面から先端部が突出された刃を支持した状態で、ブロック体をスライド面に押圧しながらスライドさせて、ブロック体を第1おもて面の長さが0.8mm以上であり、第1おもて面の表面粗さSaが1.00μm以下である刃によって、スライスすることで、ブロック体から熱伝導シートを切り出す。
【0048】
<<ブロック体>>
ブロック体は、樹脂および粒子状フィラーを含み、任意に添加剤を更に含み得る。また、ブロック体は、アスカーC硬度が90以下であることが好ましい。さらに、ブロック体は、動摩擦係数が2.5以下であることが好ましい。
【0049】
[樹脂、粒子状フィラー、および添加剤]
ブロック体に含まれる樹脂および粒子状フィラー、並びに、任意に含まれる添加剤の好適な種類、性状および含有割合は、本発明の熱伝導シートについて上述した好適な種類、性状および含有割合と同様とすることができる。
【0050】
[アスカーC硬度]
ここで、ブロック体は、アスカーC硬度が、90以下であることが好ましく、85以下であることがより好ましく、80以下であることが特に好ましく、30以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましく、50以上であることが更に好ましく、60以上であることが特に好ましい。アスカーC硬度が90以下であれば、ブロック体に対して刃が入りやすいため、ブロック体をスライスして得られる熱伝導シートの厚み精度をより十分に確保することができる。一方、アスカーC硬度が30以上であれば、スライス中にブロック体の粘着性などから受ける刃先のブレを抑制する等して、厚み精度に一層優れる熱伝導シートを得ることができる。
なお、ブロック体のアスカーC硬度は、ブロック体の製造に用いる材料(樹脂、粒子状フィラー等)の種類および含有割合や、ブロック体の製造方法を変更することにより調整することができる。
なお、本発明において、「アスカーC硬度」は、日本ゴム協会規格(SRIS)のアスカーC法に準拠し、硬度計を用いて温度23℃で測定される値であり、例えば、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0051】
[動摩擦係数]
ここで、ブロック体は、動摩擦係数が、0.5以下であることが好ましく、0.3以下であることがより好ましく、0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。動摩擦係数が0.5以下であれば、ブロック体と刃の間に生じる摩擦を低減することができ、スムーズなスライスが可能になる。また、一般的に、摩擦係数は0.01以上である。
なお、ブロック体の動摩擦係数は、ブロック体の製造に用いる材料(樹脂、粒子状フィラー等)の種類および含有割合や、ブロック体の製造方法を変更することにより調整することができる。
なお、本発明において、「動摩擦係数」は、ASTM D1894に準拠して、例えば、表面性測定機TYPE:14FW(新東科学株式会社製)を用いて測定することができる。
【0052】
<<刃>>
上述したブロック体のスライスに用いる刃の形状は、刃先の両側が切刃となっている「両刃」であってもよく、刃の表側(おもて面側)のみが切刃となっている「片刃」であってもよいが、得られる熱伝導シートの厚み精度を十分に確保する観点からは、「片刃」が好ましい。
また、刃の形状は、刃先の最先端を通る中心軸に対して非対称な断面を有する「非対称刃」であってもよく、対称な断面を有する「対称刃」であってもよい。
また、刃を構成する枚数は、特に限定されず、例えば、1枚の刃からなる「1枚刃」で構成されていてもよく、2枚の刃からなる「2枚刃」で構成されていてもよい。図1には、カンナを用いてブロック体(積層体)をスライスする際の一例を示す。図1に示すように、刃が1枚で構成される場合は、1枚の刃10とで構成される。また、刃が2枚で構成される場合は、表刃および裏刃で構成される。表刃および裏刃は、スリット部から突出した刃先の最先端同士の高さが、同じでも異なってもよい。即ち、表刃および裏刃の先端部が揃っていても、上下にずれていてもよい。
上述したブロック体のスライスに用いる刃の材質は特に限定されないが、両主面の平滑性を十分に確保する観点からは、セラミック、超硬合金、高速度工具鋼(ハイス鋼)、スチール等の金属製であることが好ましく、刃物自体の硬度のバランス、刃物の加工しやすさの問題から超硬合金がより好ましい。
【0053】
上述したブロック体のスライスに用いる刃は、例えば、図1に示すように、ブロック体20と接触する第1おもて面10aと、第1おもて面10aに対して交差する裏面10cと、第1おもて面10aと裏面10cとの交差角部よりなる刃先10dと、第1おもて面10aの刃先10d側とは反対側の端縁10eから延在して第1おもて面10aよりも裏面10c側に位置する第2おもて面10bとを備える。
即ち、ブロック体のスライスに用いる刃は、第1おもて面と、第2おもて面とを備える。第1おもて面は、刃先側に形成され、スライス時において被スライス体であるブロック体と接触する面であり、第2おもて面は、第1おもて面に対して所定角度をなし、被スライス体であるブロック体と接触する面積を低減するために設けられた面である。
【0054】
また、刃の第1おもて面の長さが、上述した通り0.8mm以上であることが必要であり、1.0mm以上であることが好ましく、3.0mm以上であることがより好ましく、10.0mm以下であることが好ましく、5.0mm以下であることがより好ましい。
刃の第1おもて面の長さが0.8mm未満であると、ブロック体をスライスして得られる熱伝導シートの厚み精度が損なわれる。一方、第1おもて面の長さが10.0mm以下であると、ブロック体をスライスして得られる熱伝導シートの表面の平滑性を確保することができる。
さらに、刃の第1おもて面の表面粗さSaが、上述した1.00μm以下であることが必要であり、0.80μm以下であることが好ましく、0.40μm以上であることがより好ましく、0.50μm以上であることがより好ましい。
刃の第1おもて面の表面粗さSaが1.00μm超であると、ブロック体とおもて面の摩擦によりブロック体をスライスして得られる熱伝導シートのB面の平滑性が損なわれる。そして、刃の第1おもて面の表面粗さSaの下限は、特に限定されないが、例えば、0.30μm以上である。
【0055】
また、刃の第2おもて面の長さが、上述した通り20.0mm以上であることが好ましく、23.0mm以上であることがより好ましく、25.0mm以上であることが特に好ましく、50.0mm以下であることが好ましく、40.0mm以下であることがより好ましく、30.0mm以下であることがより好ましい。
刃の第2おもて面の長さが20.0mm以上であると、ブロック体をスライスして得られる熱伝導シートの強度を確保することができる。一方、第2おもて面の長さが50.0mm以下であると、ブロック体をスライスして得られる熱伝導シートの表面の平滑さを確保することができる。
さらに、刃の第2おもて面の表面粗さSaが、上述した1.00μm以下であることが好ましく、0.80μm以下であることがより好ましく、0.50μm以上であることが特に好ましい。
刃の第2おもて面の表面粗さSaが1.00μm以下であると、ブロック体をスライスして得られる熱伝導シートの表面の平滑性をより確実に確保することができる。
そして、刃の第2おもて面の表面粗さSaの下限は、特に限定されないが、例えば、0.50μm以上である。
【0056】
また、刃の第1の刃角(第1おもて面と裏面とがなす角)は、特に制限されることなく、例えば、10°~45°とすることができる。例えば、図1に例示するように、刃角θ1を上記範囲内とすることができる。
更に、刃の第2の刃角(第2おもて面と裏面とがなす角)は、特に制限されることなく、例えば、10°~30°とすることができる。例えば、図1に例示するように、刃角θ2を上記範囲内とすることができる。
【0057】
<<スライス>>
[スライス速度]
ブロック体(積層体)をスライスする速度(換言すれば、ブロック体と刃とを接触させる際の相対速度)が5m/分以上である必要がある。また、ブロック体(積層体)をスライスする速度は、特に制限されないが、12m/分以上であることが好ましく、30m/分以上であることがより好ましく、また、例えば、120m/分以下とすることが好ましい。
ブロック体(積層体)をスライスする速度が12m/分以上であると、生産性を向上させることができると共に、刃がブロック体を圧縮しながら進むことによる表面粗さの悪化を抑制することができる。また、ブロック体(積層体)をスライスする速度が120m/分以下であると、ブロック体と刃との衝突における衝撃が大きくなるのを抑制して、ブロック体(特に刃の入りの部分)をより均一にスライスすることができる。
【0058】
なお、スライス速度は、図1に示すように、固定した刃10に対してブロック体20を進入させる(切り込ませる)速度を変更することで制御してもよく;固定したブロック体に対して刃を進入させる(切り込ませる)速度を変更することで制御してもよく;刃およびブロック体を互いに進入させる(切り込ませる)相対速度を変更することで制御してもよい。また、作業性の観点からは、スライス速度の制御は機械制御で行うのが望ましい。
【0059】
[スライス方向]
上記スライスでは、ブロック体を積層方向に平行な面で(換言すれば、スライスして得られる熱伝導シートの主面が積層断面を有するように)スライスすることが好ましい。例えば、図1に示すように、ブロック体20を1次シート20aの積層方向Aに平行な面でスライスすれば、スライスして得られる熱伝導シートの厚み方向に所望の特性を発揮させることができるからである。
なお、本発明において、「積層方向に平行な面」には、積層方向と平行な方向に対して30°程度以内の傾きを有する面も含まれる。
【0060】
ここで、一例として、図1に示すカンナを用いてスライスする場合を説明する。
まず、ブロック体20の積層側面20bを、積層側面20bとカンナのスライド面30aとが平行となる方向にブロック体20をスライド可能にするよう、スライド面30aによって支持する。つまり、図1に従えば、水平に設置したカンナに対して積層方向Aも水平となり、積層側面20cが上向きおよび積層側面20bが下向きとなり、且つ、天面20dが刃10と向かい合うように、積層体1をスライド面30aに配置する。また、スライスするための刃10は、スライド面30aから先端部が任意の程度突出している。図1の例示では、刃角θ1を有する刃10の先端部が、角度αをもってスライド面30aから突出している。
そして、図1に従えば、スライド面30aに支持されたブロック体20を、積層側面20c側からスライド面30a側へと任意の圧力で押圧しながら、所定のスライス速度(スライド速度)にて、スライド面30aと平行方向(スライド方向、スライス方向)にスライドさせる。なお、このときスライドさせる速度は、上述した所定のスライス速度の通りである。
このようにブロック体20がスライドされることにより、所定のスライド速度にて、天面20dが刃10に進入していき、ブロック体20が積層方向Aに平行な面でスライスされる。
【0061】
ブロック体をスライド面に押圧する際の圧力が、0.05MPa以上であることが好ましく、0.10MPa以上であることがより好ましく、0.20MPa以上であることが特に好ましく、0.50MPa以下であることが好ましく、0.40MPa以下であることがより好ましく、0.30MPa以下であることが特に好ましい。
圧力が0.05MPa以上であると、ブロック体をスライスして得られる熱伝導シートの厚み精度を確保することができ、一方、圧力が0.50MPa以下であると、ブロック体が潰れるのを抑制することができる。
なお、ブロック体が、後述の積層工程により1次シートを積層等して得られる積層体である場合、ブロック体を容易にスライスして、得られる熱伝導シートの厚み精度を十分に確保する観点からは、積層体であるブロック体を、積層方向とは垂直な方向に圧力を負荷しながらスライスすることが好ましい。
【0062】
また、ブロック体を容易にスライスして、得られる熱伝導シートの厚み精度を十分に確保する観点からは、スライスする際のブロック体の温度は-20℃以上80℃以下とすることが好ましく、-10℃以上50℃以下とすることがより好ましい。
【0063】
[スライス角度]
ここで、ブロック体の積層方向と刃の延在方向とのなすスライス角度β(「入り角」や「侵入角」ということもある)は、0°~90°の範囲内とすることができる。
図2に従ってより具体的に説明すれば、図2(a)では、ブロック体20(積層体)における1次シートの積層方向Aと刃10の延在方向Eとが平行になるように、積層側面20fと刃10とが接触する(スライス角β=0°)。図(b)~(d)では、ブロック体20(積層体)における1次シートの積層方向Aと刃10の延在方向Eとが角度をなして、天面20dおよび積層側面20fが刃10に進入するように接触する(スライス角度β=15°、45°および75°)。そして、図2(e)では、ブロック体20(積層体)における1次シートの積層方向Aと刃10の延在方向Eとが直角をなすように、天面20dと刃10が接触する(スライス角度β=90°)。
初めの衝突時における衝撃を低減して、厚み面精度面精度を向上させる観点からは、スライス角度βは、0°超であることが好ましく、1°以上であることがより好ましく、5°以上であることが更に好ましく、30°以上であることが一層好ましく、40°以上であることが特に好ましい。同様に、上記観点からは、スライス角度βは、0°~90°の範囲内において、90°未満であることが好ましく、89°以下であることがより好ましく、85°以下であることが更に好ましく、60°以下であることが一層好ましく、50°以下であることが特に好ましい。そして、スライス角度βは45°であることがなお一層好ましい。
【0064】
なお、スライス角度は、固定した刃に対してブロック体を進入させる(切り込ませる)角度を変更することで制御してもよく、固定したブロック体に対して刃を進入させる(切り込ませる)角度を変更することで制御してもよく、刃およびブロック体を互いに近付ける進入させる(切り込ませる)相対角度を変更することで制御してもよい。
【0065】
以上説明したように、ブロック体をスライスする方法は、例えば、図1に示すように、ブロック体20をスライド面30aによってスライド可能に支持すると共に、スライド面30aから先端部が突出された刃10を支持した状態でブロック体20をスライド面30aに押圧しながらスライドさせる方法であれば、特に限定されない。
上述したように、ブロック体20は、スライド面20aに押圧されながら、例えば、1次シート20aの積層方向Aにスライドすることでスライスされて、熱伝導シート(不図示)が刃10の裏面10c側に新たに生成される。ここで、新たに生成された熱伝導シートの図1上側の主面をA面とし、図1下側の主面をB面とする。
本願発明によれば、少なくとも刃10の第1おもて面10aの長さおよび表面粗さSaが所定範囲内に調整され、好ましくは、刃10の第2おもて面10bの表面粗さSaが調整されているので、ブロック体20を、スライド面20aに押圧しながら、1次シート20aの積層方向Aにスライドした際に受けるダメージ(ブロック体20の図1下側表面(次に生成される熱伝導シートのB面)が段差30bや溝40における刃10の第2おもて面10bから受けるダメージ)を低減することができる。
なお、ブロック体20の図1下側表面(次に生成される熱伝導シートのB面)の平滑性が損なわれるのを抑制する観点からは、ブロック体20をスライド後の位置からスライド前の位置(図1のブロック体20の位置)に戻すには、ブロック体20がスライド面30aに当接しない状態で移動させることが好ましい。
【0066】
<その他の工程>
本発明の熱伝導シートの製造方法が、任意に含み得るその他の工程は、特に限定されない。
例えば、本発明の熱伝導シートの製造方法においては、上述したスライス工程の前に、樹脂および粒子状フィラーを含む1次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、この1次シートを折畳または捲回してブロック体を得る工程(積層工程)を実施することができる。
また、本発明の熱伝導シートの製造方法においては、上述したスライス工程の前に、ブロック体を加熱する工程(加熱工程)を実施することができる。
なお、本発明の熱伝導シートの製造方法においては、本発明の効果が著しく損なわれない限り、スライス工程の後に得られた熱伝導シートを厚み方向に加圧する工程(プレス工程)を実施していてもよい。しかしながら、得られる熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率の低下を抑制する観点からは、本発明の熱伝導シートの製造方法は、プレス工程を含まないことが好ましい。
以下、その他の工程としての積層工程および加熱工程について、詳述する。
【0067】
<<積層工程>>
上述した通り、積層工程では、1次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、この1次シートを折畳または捲回して、積層体であるブロック体を得る。
【0068】
[1次シート]
1次シートは、樹脂および粒子状フィラーを含み、任意に添加剤を更に含み得る。
【0069】
―樹脂、粒子状フィラー、および添加剤―
1次シートに含まれる樹脂および粒子状フィラー、並びに、任意に含まれる添加剤の好適な種類、性状および含有割合は、ブロック体、および本発明の熱伝導シートについて上述した好適な種類、性状および含有割合と同様とすることができる。
【0070】
―1次シートの性状―
1次シートは、引張強度が、0.3MPa以上であることが好ましく、1.0MPa以上であることがより好ましく、1.5MPa以上であることが更に好ましく、3.0MPa以下であることが好ましく、2.5MPa以下であることがより好ましく、2.0MPa以下であることが更に好ましい。引張強度が0.3MPa以上であれば、1次シートを積層等して得られるブロック体のアスカーC硬度が高まる。そのため、当該ブロック体をスライスする際の刃先のブレを抑制する等して、厚み精度に一層優れる熱伝導シートを得ることができる。一方、引張強度が3.0MPa以下であれば、1次シートを積層等して得られるブロック体のアスカーC硬度が過度に高まることもない。そのため、ブロック体のスライスが容易となり、得られる熱伝導シートの厚み精度(特に、スライス幅を小さくして熱伝導シートの厚みを低減した場合の厚み精度)を十分に確保することができる。
なお、1次シートの引張強度は、1次シートの製造に用いる材料(樹脂、粒子状フィラー等)の種類および含有割合や、1次シートの製造方法を変更することにより調整することができる。例えば、1次シート中の樹脂の含有割合を高めることで、1次シートの引張強度を上昇させることができる。
【0071】
また、1次シートの厚み(平均厚み)は、特に限定されることなく、例えば、0.05mm以上2mm以下とすることができる。
なお、1次シートの「厚み(平均厚み)」は、熱伝導シートの「平均厚み」と同様にして測定することができる。
【0072】
―1次シートの調製方法―
1次シートの調製方法は、特に限定されない。1次シートは、例えば、樹脂および粒子状フィラー、並びに、任意に用いられる添加剤を含む組成物を、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法で成形することにより得ることができる。
【0073】
[積層等によるブロック体の形成]
1次シートの積層等によるブロック体の形成は、特に限定されることなく、積層装置を用いて行ってもよく、手作業にて行ってもよい。また、熱伝導シートの折り畳みによるブロック体の形成は、特に限定されることなく、折り畳み機を用いて1次シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。さらに、1次シートの捲き回しによるブロック体の形成は、特に限定されることなく1次シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りに1次シートを捲き回すことにより行うことができる。
【0074】
<<加熱工程>>
ここで、例えば上述の積層工程を経て得られたブロック体は、そのままスライス工程に供してもよいが、当該ブロック体を更に加熱した後でスライス工程に供してもよい。加熱工程における加熱温度は、例えば、50℃以上170℃以下とすることができ、加熱時間は、例えば、1分以上8時間以下とすることができる。加熱工程を経ることにより、ブロック体の積層方向の密着性を調整することができる。例えば、ブロック体が熱可塑性樹脂を含む場合、加熱工程を実施することにより、ブロック体の積層方向の密着性を大きくすることができる。
【実施例0075】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例および比較例において、粒度分布および体積平均粒子径、粒子状フィラーの含有割合(体積分率)、刃の第1おもて面および第2おもて面の表面粗さSa、ブロック体のアスカーC硬度、並びに、熱伝導シートの平均厚み、厚みの標準偏差、表面粗さSa、および厚み方向の熱伝導率は、それぞれ以下の方法に従って測定または評価した。
【0076】
<体積平均粒子径>
熱伝導シート1gを溶媒としてのメチルエチルケトン中に入れ、熱伝導シートの樹脂成分等を溶解することにより、熱伝導シートに含まれる粒子状フィラー(膨張化黒鉛)を分離および分散させた懸濁液を得た。次に、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA960」)を用いて、当該懸濁液に含まれる粒子状フィラーの粒子径を測定した。そして、得られた粒子径を横軸とし、体積換算した粒子の頻度を縦軸とした粒度分布曲線を作成した。そして、当該粒度分布曲線において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(D50)を求め、当該粒子状フィラーの体積平均粒子径の値とした。
<粒子状フィラーの含有割合(体積分率)>
1次シート形成時に使用した各材料の重量を当該材料の比重で除した値を当該材料の体積とすることで、1次シート中の粒子状フィラーの含有割合(体積分率)を算出した。なお、樹脂の比重は液状樹脂、固体樹脂共に1.77、粒子状フィラー(膨張化黒鉛)の比重は2.25、添加剤の比重は1.17として計算を行った。
<刃の第1おもて面および第2おもて面の表面粗さSa>
刃の第1おもて面および第2おもて面の表面粗さSaは、三次元形状測定機(株式会社キーエンス製、製品名「ワンショット3D測定マクロスコープ」)を用いて測定した。40倍の倍率で測定し、観察範囲は5.7mm×7.6mmとした。
<ブロック体(積層体)のアスカーC硬度>
ブロック体(積層体)のアスカーC硬度の測定は、日本ゴム協会規格(SRIS)のアスカーC法に準拠し、硬度計(高分子計器社製、製品名「ASKER CL-150LJ」を使用して温度25℃で行った。具体的には、得られたブロック体(積層体)を温度25℃に保たれた恒温室内に48時間以上静置して、試験体とした。次に、積層面から針先の距離が2cmになるように硬度計を設置し、ダンパーを降ろして、ブロック体(積層体)とダンパーとを衝突させた。当該衝突から60秒後のブロック体(積層体)のアスカーC硬度を、硬度計(高分子計器社製、商品名「ASKER CL-150LJ」)を用いて2回測定し、測定結果の平均値を採用した。
<平均厚み>
膜厚計(ミツトヨ製、製品名「デジマチックインジケーター ID-C112XBS」)を用いて、熱伝導シートの略中心点および四隅(四角)の計五点における厚みを測定し、測定した厚みの平均値(μm)を求めた。
<厚みの標準偏差>
膜厚計(ミツトヨ製、製品名「デジマチックインジケーター ID-C112XBS」)を用いて、熱伝導シートの略中心点および四隅(四角)の計五点における厚みを測定し、測定した厚みの標準偏差(μm)を求めた。
<熱伝導シートの表面粗さSa>
熱伝導シートの表面粗さSaは、三次元形状測定機(株式会社キーエンス製、製品名「ワンショット3D測定マクロスコープ」)を用いて測定した。ここで、1cm角以上の任意の大きさの略正方形に切り取った熱伝導シートを試料とし、解析範囲は、1cm×1cmとし、当該試料の表面および裏面について、それぞれ三次元形状を測定した。そして、三次元形状の測定結果に対して更にソフトウェアでフィルター処理(2.5mm)を行い、うねり成分を取り除くことにより、表面粗さSa(μm)を自動計算した。なお、A面(新たな刃の投入により新たに生成された面)およびB面(前回の刃の投入により既に生成されている面)のそれぞれについて、表面粗さSaを測定した。
<厚み方向の熱伝導率>
熱伝導シートについて、厚み方向の熱拡散率α(m/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)、および比重ρ(g/m)を、それぞれ、以下の方法で測定した。
[厚み方向の熱拡散率α]
熱伝導シートの熱拡散率はISO22007-3の規定に基づき熱拡散・熱伝導率測定装置(アイフェイズ(株)製、ai-Phase Mobile 1u)を用いて測定した。
[定圧比熱Cp]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下、25℃における比熱を測定した。
[比重ρ(密度)]
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER-H」)を用いて測定した。
そして、各測定値を、下記式(I):
λ=α×Cp×ρ・・・(I)
に代入し、25℃における熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
<熱抵抗値>
熱伝導シートの熱抵抗値は、熱抵抗試験器(株式会社日立テクノロジーアンドサービス製、製品名「樹脂材料熱抵抗測定装置」)を用いて測定した。ここで、1cm角の略正方形に切り出した熱伝導シートを試料とし、試料温度50℃において、0.1MPa、及び0.9MPaの圧力を加えた時の熱抵抗値(℃/W)を測定した。熱抵抗値が小さいほど熱伝導シートが熱伝導性に優れ、例えば、発熱体と放熱体との間に介在させた際の放熱特性に優れていることを示す。
【0077】
(実施例1)
<1次シートの形成>
樹脂としての常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、製品名「ダイエルG-101」)70部および常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、製品名「ダイニオンFC2211」)30部、並びに、粒子状フィラーとしての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC300」、体積平均粒子径:50μm)90部を、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、得られた混合物を解砕機(大阪ケミカル社製、製品名「ワンダークラッシュミルD3V-10」)に投入して、10秒間解砕した。
解砕後の混合物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)製フィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形することにより、厚みが0.8mmの1次シートを得た。
<積層工程>
得られた1次シートを縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断し、1次シートの厚み方向に100枚積層し、更に、温度120℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレスすることにより、高さ約80mmのブロック体(積層体)を得た。そして、得られたブロック体のアスカーC硬度を測定した。結果を表1に示す。
<スライス工程>
その後、ブロック体(積層体)の側面(積層方向に沿う面)をスライド面に0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(株式会社丸仲鐵工所製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いて、ブロック体(積層体)の積層方向(換言すれば、積層された1次シートの主面の法線に一致する方向に)にスライスして、縦150mm×横150mm×厚み0.10mmの熱伝導シートを得た。なお、上記スライスは、ブロック体(積層体)がスライド面をスライド速度:1000mm/秒の条件でスライドすることにより行われた。木工用スライサーのスライス刃として下記性質の片刃Aを用いた。なお、ブロック体の温度を室温とした。
<<片刃Aの性質>>
刃角A(図1参照:第1おもて面10aと裏面10cとがなす角θ1):40°
刃角B(図1参照:第2おもて面10bと裏面10cとがなす角θ2):20°
刃部の最大厚み:9mm
材質:超硬合金(タングステンカーバイド)
ロックウェル硬度:90
刃面のシリコン加工:なし
先端の曲率半径R:10μm
第1おもて面の長さ:1.0mm
第1おもて面の表面粗さSa:0.43μm
第2おもて面の長さ:25.0mm
第2おもて面の表面粗さSa:0.61μm
そして、得られた熱伝導シートの平均厚み、厚みの標準偏差、表面粗さSa、および、厚み方向の熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例2)
実施例1において、片刃Aを用いる代わりに、下記性質の片刃Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<<片刃Bの性質>>
刃角A(図1参照:第1おもて面10aと裏面10cとがなす角θ1):40°
刃角B(図1参照:第2おもて面10bと裏面10cとがなす角θ2):20°
刃部の最大厚み:9mm
材質:超硬合金(タングステンカーバイド)
ロックウェル硬度:90
刃面のシリコン加工:なし
先端の曲率半径R:10μm
第1おもて面の長さ:3.0mm
第1おもて面の表面粗さSa:0.43μm
第2おもて面の長さ:23.0mm
第2おもて面の表面粗さSa:0.61μm
【0079】
(実施例3)
実施例1において、片刃Aを用いる代わりに、下記性質の片刃Cを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<<片刃Cの性質>>
刃角A(図1参照:第1おもて面10aと裏面10cとがなす角θ1):40°
刃角B(図1参照:第2おもて面10bと裏面10cとがなす角θ2):20°
刃部の最大厚み:9mm
材質:高速度工具鋼(ハイス鋼)
ロックウェル硬度:82
刃面のシリコン加工:なし
先端の曲率半径R:10μm
第1おもて面の長さ:1.0mm
第1おもて面の表面粗さSa:0.75μm
第2おもて面の長さ:25.0mm
第2おもて面の表面粗さSa:0.86μm
【0080】
(比較例1)
実施例1において、片刃Aを用いる代わりに、下記性質の片刃Dを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
<<片刃Dの性質>>
刃角A(図1参照:第1おもて面10aと裏面10cとがなす角θ1):40°
刃角B(図1参照:第2おもて面10bと裏面10cとがなす角θ2):20°
刃部の最大厚み:9mm
材質:高速度工具鋼(ハイス鋼)
ロックウェル硬度:82
刃面のシリコン加工:なし
先端の曲率半径R:10μm
第1おもて面の長さ:1.0mm
第1おもて面の表面粗さSa:1.25μm
第2おもて面の長さ:25.0mm
第2おもて面の表面粗さSa:0.94μm
【0081】
(比較例2)
実施例1において、ブロック体(積層体)の側面をスライド面に0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサーを用いて、ブロック体(積層体)の積層方向にスライスする代わりに、ブロック体(積層体)の側面をスライド面に0.3MPaの圧力で押し付けずに(即ち、ブロック体(積層体)の自重のみで)、木工用スライサーを用いて、ブロック体(積層体)の積層方向にスライスしたこと以外は、実施例1と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(比較例3)
実施例3において、1次シートの形成に際し、粒子状フィラーとしての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC300」、体積平均粒子径:50μm)90部を用いる代わりに、粒子状フィラーとしての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC100」、体積平均粒子径:200μm)50部を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
(比較例4)
実施例1において、1次シートの形成に際し、樹脂としての常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、製品名「ダイエルG-101」)70部および常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、製品名「ダイニオンFC2211」)30部、並びに、粒子状フィラーとしての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC300」、体積平均粒子径:50μm)90部を用いて、縦150mm×横150mm×厚み0.10mmの熱伝導シートを得る代わりに、樹脂としての常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、製品名「ダイエルG-101」)45部および常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(スリーエムジャパン株式会社製、製品名「ダイニオンFC2211」)40部、粒子状フィラーとしての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、製品名「EC100」、体積平均粒子径:200μm)85部、並びに、可塑剤としてのセバシン酸エステル(大八化学工業株式会社製、商品名「DOS」)5質量部を用いて、縦150mm×横150mm×厚み0.50mm(500μm)の二次シート(ブロック体をスライスしたもの)を得た後に、精密ホットプレス機(新東工業株式会社製、製品名「CYPT-20」)を用いて、プレス板を50℃に加熱し、2.6MPaの圧力で30秒間プレスする二次シートの加圧(後処理工程)を行って、縦150mm×横150mm×厚み0.125mm(125μm)の熱伝導シートを得たこと以外は、実施例1と同様にして、1次シート、ブロック体、および熱伝導シートを作製し、各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1より、実施例1~3の熱伝導シートは、両主面が平滑であることが分かる。また、実施例1~3の熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が小さく、厚み方向に良好に伝熱し得ることが分かる。さらに、実施例1~3の熱伝導シートは、厚みの標準偏差の値が小さいため、厚み精度に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、両主面が平滑であり、十分な厚み精度を有しつつ、厚み方向に良好に伝熱させることが可能な熱伝導シート、および当該熱伝導シートの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0087】
10 刃
10a 第1おもて面
10b 第2おもて面
10c 裏面
10d 刃先
10e 端縁
20 ブロック体
20a 一次シート
20b 積層側面
20c 積層側面
20d 天面
20e 底面
20f 積層側面
30 台
30a スライド面
30b 段差
40 溝
A 1次シート20aの積層方向
E 刃の延在方向
θ1 第1おもて面10aと裏面10cとがなす角(刃角A)
θ2 第2おもて面10bと裏面10cとがなす角(刃角B)
α 角度
β スライス角度
図1
図2