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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098787
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20240717BHJP
   G02B 1/111 20150101ALI20240717BHJP
   G02B 1/10 20150101ALI20240717BHJP
【FI】
B32B9/00 A
G02B1/111
G02B1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002499
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西原 光一
【テーマコード(参考)】
2K009
4F100
【Fターム(参考)】
2K009AA02
2K009CC03
2K009CC42
2K009DD05
2K009EE02
4F100AA17B
4F100AA19B
4F100AA20B
4F100AA21B
4F100AA28B
4F100AH06B
4F100AK42A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100DJ00B
4F100EH46
4F100EJ42
4F100EJ54
4F100EJ54B
4F100GB32
4F100GB41
4F100JB04B
4F100JL07
4F100JN06
4F100JN18B
4F100YY00B
(57)【要約】      (修正有)
【課題】反射防止性および防曇性、さらには耐湿熱性を全て備えた積層体を提供する。
【解決手段】基材の少なくとも片面側に、無機酸化物を主材とし、空気を含有する空気含有層を備えた積層体であって、前記空気含有層の最表面の水滴接触角が20度以下であり、波長550nmの光屈折率が1.24未満である、積層体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面側に、空気含有層を備えた積層体であって、
前記空気含有層の最表面の水滴接触角が20度以下であり、且つ、波長550nmの光屈折率が1.24未満である、積層体。
【請求項2】
前記空気含有層の主材が、金属又は半金属の酸化物である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記金属又は半金属の酸化物は、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム及び酸化スズのうちの何れか一種又は二種以上である、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記空気含有層は、空隙を有する多孔質層である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項5】
前記空気含有層は、加水分解性シラン化合物及び/又はその多量体を含む組成物からなる、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項6】
前記空気含有層の空隙率は、10%以上70%以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の積層体の製造方法であって、
基材の少なくとも片面側に、空気含有層を形成する工程と、不活性ガス雰囲気において、前記空気含有層に対して真空紫外光(VUV)を照射する工程とを含む、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気含有層を備えた積層体に関する。詳しくは、反射防止性および防曇性を備えた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
空気含有層を備えた積層体は、層内の空気によって低屈折率などの特性を有するため、幅広い産業分野で利用されている。例えば、多孔質酸化ケイ素膜は低屈折率及び透明性に優れるため、反射防止膜、光導波路、レンズ等として利用されており、電子機器ディスプレイや自動車パネル、照明用灯具、太陽光利用装置、カメラレンズなどの反射防止層、光導波路のクラッド層などに、当該積層体を利用することが検討されている。
【0003】
空気含有層を備えた積層体を用いた製品は、屋内や屋外の様々な環境下で使用されることが想定される。例えば、自動車のヘッドランプ等の照明用灯具や筐体の内部に使用されるカメラレンズにおいては、外気と内部の温度差により、外気と接触している面が冷やされ、水分が結露することで曇りが生じることがある。その結果、曇りによって光が散乱するため、視認性が悪化するとともに、低屈折率を利用した反射防止や光透過性といった光学的な性能が低下することが懸念される。
【0004】
この問題を解決する手段として、空気含有層を備えた積層体に防曇性を付与する技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、多孔質酸化ケイ素膜にアニオン系界面活性剤およびシリカ微粒子を含み、かつ、アニオン系界面活性剤を1~1000ppm含む防曇性多孔質酸化ケイ素膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-182134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された多孔質酸化ケイ素膜は、界面活性剤を添加することで防曇性を膜に付与している。しかし、高湿熱条件の下に置いた場合、界面活性剤が流動して、低屈折率を生み出している細孔を埋めて反射防止性が低下する可能性があった。
本発明の目的は、反射防止性および防曇性、さらには耐湿熱性を全て備えた積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が提案する積層体及びその製造方法は、上記課題を解決するために、次の構成を有する。
【0008】
[1] 本発明の第1の態様は、基材の少なくとも片面側に、空気含有層を備えた積層体であって、前記空気含有層の最表面の水滴接触角が20度以下であり、且つ、波長550nmの光屈折率が1.24未満である、積層体である。
【0009】
[2] 本発明の第2の態様は、前記第1の態様において、前記空気含有層の主材が、金属又は半金属の酸化物である、積層体である。
[3] 本発明の第3の態様は、前記第2の態様において、前記金属又は半金属の酸化物は、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム及び酸化スズのうちの何れか一種又は二種以上である、積層体である。
【0010】
[4] 本発明の第4の態様は、前記第1~第3のいずれか一の態様において、前記空気含有層が、空隙を有する多孔質層である、積層体である。
[5] 本発明の第5の態様は、前記第1~第3のいずれか一の態様において、前記空気含有層が、加水分解性シラン化合物及び/又はその多量体を含む組成物からなる、積層体である。
[6] 本発明の第6の態様は、前記第1~第5のいずれか一の態様において、前記空気含有層の空隙率が10%以上70%以下である、積層体である。
【0011】
[7] 本発明の第7の態様は、前記第1~第6のいずれか一の態様の積層体の製造方法であって、
基材の少なくとも片面側に空気含有層を形成する工程と、不活性ガス雰囲気において、前記空気含有層に対して真空紫外光(VUV)を照射する工程とを含む、積層体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明が提案する積層体、並びに本発明が提案する製造方法で製造される積層体は、反射防止性および防曇性、さらには耐湿熱性を全て備えた積層体とすることができる。
なお、本発明において「耐湿熱性」とは、温度60℃、相対湿度90%で24時間保管したときに、最小反射率が1%を超えないことをいう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。ただし、本発明が、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<<積層体>>
本発明の実施形態の一例に係る積層体(「本積層体」と称する)は、基材の少なくとも片面側に、空気含有層を備えた積層体である。
【0015】
本積層体は、基材の片面側に空気含有層を備えていても、基材の両面側に空気含有層を備えていてもよい。また、基材と空気含有層との間に、他の層が介在してもよい。
【0016】
<空気含有層>
空気含有層は、空気を含有する層であり、当該層は本積層体の反射防止性および防曇性に寄与する。
空気含有層は、金属又は半金属の酸化物を主材とし、層内部に空気を含有する構成であるのが好ましい。
【0017】
ここで、前記「主材」とは、空気含有層を構成する材料の中で最も含有質量の多い材料を意味する。具体的な質量割合を規定するものではないが、目安としては、空気含有層の全成分を100質量%としたとき、50質量%以上、中でも60質量%以上、その中でも70質量%以上を占めるものを想定することができる。
【0018】
(金属又は半金属の酸化物)
空気含有層の主材をなす前記「金属又は半金属の酸化物」とは、金属元素又は半金属元素と酸素との結合を有する化合物をいい、無機化合物、有機化合物のいずれであってもよい。
中でも、空気含有層の主材は、後述する本積層体の製造方法において、真空紫外光(VUV)の照射により、結合が開裂して再結合したり、活性酸素種が導入されたりして、空気含有層の表面を親水化して防曇性を高めることができるものが好ましい。上記の観点から、真空紫外光(例えば、波長172nmのVUV光を用いる場合は697kJ/mol、波長185nmのVUV光を用いる場合は532kJ/mol)よりも結合エネルギーが小さい結合を含む金属又は半金属の酸化物が好ましい。また、反射防止性の観点からは、屈折率が2.0以下の金属又は半金属の酸化物が好ましい。
かかる観点から、前記金属又は半金属の酸化物として、酸化ケイ素(屈折率1.46、Si-Oの結合エネルギー:430kJ/mol)、酸化アルミニウム(屈折率1.63、Al-Oの結合エネルギー:341kJ/mol)、酸化スズ(屈折率2.0、Sn-Oの結合エネルギー:274kJ/mol)、酸窒化ケイ素(屈折率1.5~2.0、Si-Oの結合エネルギー:430kJ/mol、Si-Nの結合エネルギー:220kJ/mol)等を好ましく例示することができる。
なお、金属又は半金属の酸化物は、2種類以上の酸化物の混合物であっても、2種類以上の酸化物の複合体であってもよい。当該複合体としては、シリカーアルミナセラミック(屈折率1.5~1.6、結合エネルギー:251~430kJ/mol)等を挙げることができる。
中でも、反射防止性の観点から、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム及び酸化スズのうちの何れか一種又は二種以上が好ましく、屈折率がより小さい酸化ケイ素が特に好ましい。
【0019】
前記空気含有層における金属又は半金属の酸化物の含有量は、空気含有層の50~100質量%であるのが好ましく、中でも60質量%以上或いは99質量%以下、さらにその中でも70質量%以上或いは95質量%以下であるのがより好ましい。
金属又は半金属の酸化物の含有量が上記下限値以上であれば、屈折率が低くなりやくなり、反射防止性を高めることができる。一方、上記上限値以下であれば、膜の機械強度が高くなる。
【0020】
(空気)
空気含有層に空気を導入する方法としては、例えば、空気含有層を多孔質構造とする方法、例えば金属又は半金属の酸化物の粒子が、粒子間に空隙が生じるように結合した構造、言い換えれば、最密でない状態で結合した構造を備えるようにする方法や、ゾルゲル法等により多孔質膜を形成する方法を挙げることができる。別の方法として、内部に空気を有する中空粒子や多孔質粒子を含有させる方法を挙げることができる。但し、これらの方法に限定するものではない。
なお、空気含有層が中空粒子や多孔質粒子を含有する場合、中空粒子や多孔質粒子が最密状に存在しても、最密でない状態で存在してもよい。
【0021】
空気含有層が、空隙を有する多孔質構造を有する場合、その空隙は、トンネル状や独立空孔がつながった連結孔であるのが通常である。但し、空隙の詳細な構造は特に限定するものではない。
また、空隙の大きさや空隙率を調整することで、屈折率、誘電率、密度を調整することができ、それらを調整することで、光学用途の他にも、様々な用途にも応用することができる。
空隙の大きさや空隙率は、ゾルゲル法においては材料種や配合比、粒子を含有する方法においては粒径や配合比などにより調整することができる。但し、それらに限定するものではない。
【0022】
空気含有層における空隙の大きさは、0.1~60nmであるのが好ましく、中でも1nm以上或いは40nm以下、その中でも1nm以上或いは30nm以下、その中でも2nm以上或いは10nm以下であるのがさらに好ましい。
空隙の大きさが上記下限値以上であれば、より低屈折率な膜が形成されやすく透明性も高くなる。一方、空隙の大きさが上記上限値以下であれば、表面に欠陥が発生するのを抑制することができ、表面の凹凸を無くし、光の散乱等でヘーズが大きくなることを防ぐことができる。また、膜の機械強度の低下も防ぐことができる。
なお、本発明において「空隙の大きさ」とは、空気含有層を断面から観察した層中の空間の最大径の意味であり、透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)による観察像の解析により測定することができ、任意に10個以上の空隙の大きさを測定した場合の平均値である。
【0023】
空気含有層における空隙率、すなわち空気含有層の体積に占める、層内の空気言い換えれば空間部の体積合計の割合は、10%以上70%以下であるのが好ましく、中でも15%以上65%以下、その中でも20%以上60%以下であるのがさらに好ましい。
空気含有層の空隙率が上記下限値以上であれば、屈折率を低くすることができ、反射防止性を高めることができる。一方。上記上限値以下であれば、膜の機械強度が高くなる。
なお、前記空気含有層の空隙率は、ローレンツ・ローレンツの式による空隙率及び屈折率の関係式により求めることができる。空気含有層の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)または走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して、空隙率を求めてもよい。
【0024】
前記中空粒子又は多孔質粒子の平均粒径は、粒子の分散性の観点から、2nm以上であるのが好ましく、中でも10nm以上、その中でも15nm以上であるのがさらに好ましい。他方、膜表面の平滑性や透明性の観点から、100nm以下であるのが好ましく、中でも80nm以下、その中でも60nm以下であるのがさらに好ましい。
【0025】
(空気含有層の構成元素)
前記空気含有層の構成元素は、例えば、ケイ素(Si)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)などの金属元素又は半金属元素と、酸素(O)と、炭素(C)と、その他の元素例えば窒素(N)を挙げることができる。但し、その他の元素は含まなくてもよい。
【0026】
(最表面の組成)
前記空気含有層は、金属又は半金属の酸化物を主材として含むから、当該層の最表面を、X線光電子分光法(XPS)により測定して得られる金属元素又は半金属元素の含有率は、20atm%以上であるのが好ましく、25atm%以上であるのがより好ましく、30atm%以上であるのがより好ましい。
他方、前記空気含有層の最表面の金属元素又は半金属元素の含有率の下限値は特に限定されないが、反射防止性の観点から、40atm%以下が好ましい。
金属元素又は半金属元素の含有率を上記範囲内とするには、空気含有層中の金属又は半金属の酸化物の量を調整すればよい。
【0027】
前記空気含有層の最表面を、X線光電子分光法(XPS)により測定して得られる酸素(O)含有率は、40atm%以上であるのが好ましく、45atm%以上であるのがより好ましく、50atm%以上であるのがより好ましい。
前記空気含有層の最表面の酸素含有率が上記下限値以上であると、金属元素又は半金属元素の結合手のうち、酸素と結合している部分の割合が多くなるので、空気含有層の最表面が親水化され、防曇性を高めることができる。
他方、前記空気含有層の最表面の酸素含有率の下限値は特に限定されないが、防曇性の観点から、60atm%以下が好ましい。
酸素(O)含有率を上記範囲内とするには、空気含有層中の金属又は半金属の酸化物の量を調整するか、真空紫外光(VUV)の照射により、金属元素又は半金属元素と酸素との結合の開裂、再結合を起こして緻密な膜構造を形成するか、もしくは、活性酸素種を導入すればよい。但し、かかる方法に限定するものではない。
【0028】
真空紫外光(VUV)照射時の不活性ガスとして窒素を用いた場合は、前記空気含有層の最表面を、X線光電子分光法(XPS)により測定して得られる窒素(N)含有率は、0.1atm%以上であるのが好ましく、中でも0.15atm%以上、その中でも0.20atm%以上、その中でも0.25atm%以上であるのがさらに好ましい。
前記空気含有層の最表面の窒素含有率が上記下限値以上であれば、表面が十分に改質されていると評価することができる。
他方、前記空気含有層の最表面の窒素含有率の上限値は、屈折率を低くする観点から、20atm%以下であると考えられる。
窒素含有雰囲気下において、空気含有層に対して真空紫外光(VUV)を照射すると、窒素含有雰囲気中の窒素(N)が空気含有層表面に固定化され、空気含有層の最表面の窒素含有率を高めることができる。
【0029】
前記空気含有層の最表面を、X線光電子分光法(XPS)により測定して得られる炭素(C)含有率は、15atm%以下であるのが好ましく、14.5atm%以下であるのがより好ましく、14atm%以下であるのがさらに好ましい。空気含有層の最表面の炭素含有率が上記上限値以下であると、空気含有層の最表面における炭素-酸素結合が少なくなるので、反射防止性がより高くなる。また、空気含有層の最表面の金属元素又は半金属元素の結合手のうち、炭素と結合している部分が少なくなり、その分金属元素又は半金属元素と酸素との結合の割合が多くなるので、防曇性がより高くなる。
他方、前記空気含有層の最表面の炭素含有率の下限値は特に限定されないが、塗膜の靭性の観点から、5atm%以上が好ましい。
炭素(C)含有率を上記範囲内とするには、例えば真空紫外光(VUV)の照射により、金属元素又は半金属元素-C、金属元素又は半金属元素-OR結合を開裂させ、CO等に分解し気化すればよい。但し、かかる方法に限定するものではない。
【0030】
(最表面の物性)
前記空気含有層の最表面の水滴接触角は20度以下であるのが好ましく、15度以下であるのがより好ましく、12度以下であるのがさらに好ましい。
前記空気含有層の最表面の水滴接触角が上記上限値以下であれば、親水性表面によって微細な水滴が生じにくいため、防曇性が良好となる。
他方、前記空気含有層の最表面の水滴接触角は低いほど好ましく、0度以上であればよい。
【0031】
前記空気含有層の最表面の水滴接触角を上記範囲にするには、空気含有層の最表面の金属元素又は半金属元素と酸素との結合の割合を多くするか、空気含有層の最表面に極性官能基を付与し、当該極性官能基と空気(外気)中の水との水素結合を形成するようにすればよい。但し、この方法に限定するものではない。
前記空気含有層の最表面の水滴接触角は、後述する実施例に示した方法と同様の方法で測定することができる。
【0032】
(層厚)
前記空気含有層の厚みは、光の干渉作用による表面反射を抑制する観点から、フレネルの計算式から導かれる所定の厚みd=λ/(4n)(nは空気含有層の屈折率、dは空気含有層の膜厚、λは入射光の波長)を基準として設定するのが好ましい。
すなわち、上記計算式から算出される厚みd(nm)を基準として、前記空気含有層の厚みは、(d-40)nm以上(d+40)nm以下とするのが好ましく、中でも(d-30)nm以上或いは(d+30)nm以下、中でも(d-20)nm以上或いは(d+20)nm以下、中でも(d-10)nm以上或いは(d+10)nm以下とするのがさらに好ましい。
【0033】
具体的な一例を挙げると、例えば入射光550nm波長において、空気含有層の屈折率が1.24の場合、層厚を1/4波長、すなわち層厚を110nm前後にすると、最適な層厚になり、層表面からの反射光と層-基材界面からの反射光が互いに相殺的に干渉させ、振幅を打ち消しあって反射率が低減する。よって、空気含有層の厚みは、110nmを基準として、70nm~150nmにするのが好ましく、中でも80nm以上或いは140nm以下、その中でも90nm以上或いは130nm以下、その中でも100nm以上或いは120nm以下にすることがさらに好ましい。
【0034】
<基材>
本積層体の基材は、透明な基材であれば任意に選択して用いることが可能である。
ちなみに、高エネルギーの真空紫外光(VUV)は、空気含有層に吸収され、基材まで到達し難いため、この点からも、基材は透明であるのが好ましい。
【0035】
透明性の観点から、基材は、ガラス製基材又は樹脂基材が好ましい。
樹脂基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド(PI)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)等を挙げることができる。
【0036】
基材の厚さは、任意である。100μm以下のフィルム状であっても、それより厚いシート状であってもよい。
【0037】
また、本積層体の用途に応じて、基材の種類を選択するのが好ましい。例えば、ある特定波長において透過性が高い材料を適宜選択するのが好ましい。この際、当該特定波長は、可視光の範囲に限定されない。例えばレンズや、ディスプレイ、太陽電池、太陽熱発電などの光デバイス、建材や自動車の内外装の用途においては、可視光領域の波長の光に対して高い透過性を有することが好ましい。
通常は、全光線透過率が60%以上であるものが使用される。
【0038】
基材の形状は特に制限はない。基材は、前記空気含有層の性能を劣化させない限り、散乱やヘーズを有してもよく、基材表面に微細な凹凸形状を有してもよい。
基材は、コロナ処理、プラズマ処理、又は濡れ性を調整するためのコーティング処理等の表面処理を施してもよい。
【0039】
<本積層体の物性>
本積層体は、波長550nmの光屈折率が1.24未満であるのが好ましく、1.23以下であるのがより好ましい。
本積層体の、波長550nmの光屈折率が上記上限値以下であれば、種々の基材に対しても最小反射率を限りなく0%に近づけることができる。
他方、本積層体の、波長550nmの光屈折率の下限値は、1.10程度であると推定されるから、1.15以上であればよく、中でも1.18以上であればよい。
【0040】
本積層体の、波長550nmの光屈折率を上記範囲にするには、より屈折率が低い金属又は半金属の酸化物を主材とするか、空隙率を高くすればよい。
また、本積層体の、波長550nmの光屈折率は、後述する実施例に示した方法と同様の方法で測定することができる。
【0041】
<<製造方法>>
次に、本積層体の製造方法について説明する。
【0042】
本積層体の製造方法の一例として、基材の少なくとも片面側に、空気含有層を形成する工程と、空気含有層に対して真空紫外光(VUV)を照射する工程とを含む、積層体の製造方法を挙げることができる。
【0043】
<空気含有層の形成>
前記空気含有層は、金属元素又は半金属元素を含む化合物に、溶剤等を添加して塗工液とし、この塗工液を基材に塗布することで形成することができる。この際、空気含有層に空気を導入する方法としては、前述したように、例えば、金属又は半金属の酸化物からなる中空粒子や多孔質粒子を用いる方法、あるいは、ゾルゲル法等により多孔質膜を得る方法等を挙げることができる。
【0044】
以下、酸化ケイ素を主材とする空気含有層の形成方法の一例について説明する。
この形成方法は、酸化ケイ素を他の金属又は半金属の酸化物に置き換えることで、当該他の金属又は半金属の酸化物を主材とする空気含有層の形成方法にも適用可能である。但し、この形成方法に限定するものではない。
【0045】
(塗工液の調製)
空気含有層形成用塗工液は、例えば、アルコキシシラン、水及び有機溶媒に触媒を添加して、加水分解、縮合反応により得られるシリケートバインダー液に、シリカ微粒子を添加して調製することができる。
【0046】
前記シリケートバインダー液は、例えば加水分解性シラン化合物及び/又はその多量体を含む組成物から形成することができ、より詳しくは、例えば、加水分解性シラン化合物、加水分解性シラン化合物の多量体、水、及び有機溶媒を含む組成物を用いて製造することができる。但し、かかる組成物を用いる製造方法に限定するものではない。
【0047】
[加水分解性シラン化合物]
前記加水分解性シラン化合物は、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アミノキシ基、アミド基、ケトオキシム基、イソシアネート基、ハロゲン原子等の加水分解性基を有するシラン化合物である。加水分解性シラン化合物としては、加水分解性基の数により、1~4官能のものが知られている。
前記加水分解性シラン化合物としては、アルコキシシラン化合物を好適に用いることができる。
アルコキシ基(-OR)のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基を例示することができる。
アルコキシシラン化合物の代表例としては、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、テトラエトキシシラン(TEOS)等を挙げることができる、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)の市販品は、通常99質量%純度の溶液である。
【0048】
[加水分解性シラン化合物の多量体]
前記加水分解性シラン化合物の多量体は、上記のような単量体を縮合により多量化重合(オリゴマー化)したものである。この反応においては、先ず、アルコキシ基の加水分解によりシラノール基(-Si-OH)が形成される。同時にアルコール(R-OH)が生成する。次いで、シラノール基の(脱水)縮合によりシロキサン結合(-Si-O-Si-O-)が形成され、この縮合を繰り返してシロキサンオリゴマーが形成される。
アルコキシシラン化合物の多量体としては、アルコキシ基の加水分解性、縮合性などの面から、Rがメチル基であるテトラメトキシシランの多量体またはRがエチル基であるテトラエトキシシランの多量体が好ましい。
【0049】
多量体の構造には、直鎖状、分枝状、環状、網目状構造があるが、直鎖状構造を持つものとしてテトラアルコキシシランの多量体を示せば、次の一般式(I)で表される。
RO(Si(OR)O)R…(I)
一般式(I)中、Rはアルキル基であり、nは多量体の多量化度を表す。通常入手できる多量体はnが異なる多量体の組成物であり、従って、分子量分布を有する。なお、多量化度は平均したnで表される。
テトラアルコキシシラン等の4官能加水分解性シラン化合物またはその多量体の多量化度を「シリカ分」で表すこともある。「シリカ分」とは、その化合物から生成するシリカ(SiO)の質量割合であり、その化合物を安定に加水分解し、焼成して生成するシリカの量を測定することにより得られる。また、「シリカ分」はその化合物の1分子に対して生成するシリカの割合を示すものでもあり、次式(II)で計算される値である。
シリカ分(質量部)=多量化度×SiOの分子量/該化合物の分子量…(II)
【0050】
多量化度nは、通常2~100、好ましくは2~70、更に好ましくは2~50の多量体が使用される。斯かる多量体は、既に市販されているのでそれを利用するのが簡便である。多量化度nが大きくなるに従い、生成するシリケートオリゴマーの分子量が大きくなり、かつ分子量分布が広くなり、粘度が高くなる。
【0051】
加水分解性シラン化合物の多量体の市販品としては、三菱ケミカル社製のMKCシリケートMS51、MKCシリケートMS56、MKCシリケートMS57、MKCシリケートMS56S(いずれもテトラメトキシシランの多量体)、コルコート社製のメチルシリケート51(テトラメトキシシランの多量体)、メチルシリケート53A、エチルシリケート40、エチルシリケート48、多摩化学工業社製のエチルシリケート40、シリケート45(いずれもテトラエトキシシランの多量体)等が挙げることができる。
【0052】
前記シリケートバインダー液は、好ましくは2官能の加水分解性シラン化合物と加水分解性シラン化合物の多量体とを含み、且つ該加水分解性シラン化合物の多量体の含有量が、50質量%以上である加水分解性シラン組成物を用いて製造することができる。
この加水分解性シラン組成物中の多量体の割合は好ましくは、70質量%以上である。加水分解性シラン組成物中の多量体の割合が少な過ぎる場合は、本発明の目的を達成することは困難である。その理由は次のように推定される。
すなわち、単量体の受ける後述の加水分解および縮合反応により、OH基が減少することや、反応組成物中に分枝状、環状、網目状構造が増加することで、空気含有層と基材との密着性が低下するため、空気含有層が基材から剥離する傾向があるからである。また、2官能の加水分解性シラン化合物の割合が多すぎる場合は、上述のOH基の減少の他、疎水性が高まるので、空気含有層形成時に、はじきなどの現象で基材に塗工できなくなる傾向がある。
他方、加水分解性シラン組成物中の多量体の割合は、90質量%以下であることが好ましい。加水分解性シラン組成物中の多量体の割合がこの上限値以下であれば、ゲル化しにくく保存安定性が高い傾向がある。
加水分解性シラン組成物中の単量体である2官能の加水分解性シラン化合物の割合は、10質量%以上、30質量%以下が好ましい。
【0053】
[加水分解および縮合反応]
次に、加水分解および縮合反応の条件について説明する。
この反応は、上記の加水分解性シラン組成物を溶解した親水性溶媒溶液中に撹拌条件下で酸触媒水溶液を連続的に滴下して行う。
【0054】
親水性溶媒としては、加水分解性シラン化合物の多量体を溶解し得る限り、特に制限されない。一般的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピルセロソルブ類などのセロソルブ類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコールなどのグリコール類を使用することができる。これらの溶媒は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
親水性溶媒の使用量は、特に制限されないが、加水分解性シラン組成物100質量部に対して、0.1~100000質量部であるのが好ましく、中でも100質量部以上或いは10000質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0056】
酸触媒水溶液としては、塩酸や酢酸などの水溶液を例示することができる。加水分解性シラン化合物の加水分解および縮合反応は、酸触媒を使用せず、水のみで行うことも不可能ではないが、その場合は、加水分解反応に長時間を要するのみではなく、本発明の目的を達成することは困難である。その理由は次のように推定される。
すなわち、触媒を使用しない場合、中性付近での反応となり加水分解反応は非常に遅いが縮合反応は速やかに進行する条件であるため、加水分解反応が十分に進行していない状態から並行して縮合反応が起こり生成物の分子量分布が広くなるからである。また、加水分解が不十分で、生成物には多くの未反応アルコキシ基が残るため、シリケートバインダー液の保存安定性が悪く、ゲル化に至ることがある。
【0057】
酸触媒水溶液中の酸濃度は、0.0001~0.1質量%であるのが好ましく、中でも0.001質量%以上或いは0.01質量%以下であるのがさらに好ましい。酸触媒をこのような低濃度の水溶液として使用すると、反応系内に多量の水が同伴されることとなり、反応系内のpH調整が容易となり、その結果、競争反応である縮合反応の反応速度を抑制することができる。そのため、傾向としては、加水分解で生じたOH基が適切な速度で消失し、OH基を多量に備えた直鎖構造に富む反応組成物が得られ易くなる。
【0058】
酸触媒水溶液の酸濃度が上記下限よりも余りにも低い場合は、酸触媒を使用せずに反応を行った場合と同様に本発明の目的達成が困難となる傾向があり、逆に、酸触媒の濃度が上記上限よりも高過ぎる場合は、加水分解は速やかに進行するが縮合反応が遅いため、分子量の低い反応組成物しか得られず、基材密着性、耐擦傷性の効果が劇的に下がる傾向にある。
【0059】
酸触媒の使用量は、親水性溶媒溶液中の加水分解性シラン組成物の加水分解性基(代表的にはアルコキシ基)の総量100モルに対して、0.001~10ミリモルであるのが好ましく、中でも0.01ミリモル以上或いは10ミリモル以下であるのがさらに好ましい。
【0060】
酸触媒水溶液は連続的に滴下されるが、その滴下速度は反応系内の温度が急上昇しないように適宜選択される。酸触媒水溶液の滴下速度は、親水性溶媒溶液100ml当たり、1~10ml/分であるのが好ましく、中でも3ml/分以上或いは5ml/分以下であるのがさらに好ましい。滴下された触媒水溶液は撹拌により直ちに均一に拡散され均一な加水分解が行われる。なお、撹拌方法は通常の化学反応で採用されている方法を採用することができる。
【0061】
加水分解性シラン組成物中の加水分解性シラン化合物の加水分解および縮合反応は、実際には、逐次に且つ並行して行われる。
好ましい実施態様においては、OH基を多量に備えた直鎖構造に富む反応組成物を得るとの観点から、可能な限り加水分解と縮合反応とが各別に行われるように、次の3段階に分けて行うのが好ましい。
【0062】
(1)加水分解反応工程:
加水分解反応は、撹拌条件下に加水分解性シラン組成物の親水性溶媒溶液に酸触媒水溶液を滴下することによって行う。
反応温度は、5~50℃とするのが好ましく、中でも10℃以上或いは40℃以下とするのがさらに好ましい。反応温度が上記下限未満では加水分解反応が遅くなり過ぎ、上記上限超過では縮合反応の回避が困難となる。反応温度の制御は、反応器のジャケットに導通される冷媒の温度・循環量や酸触媒水溶液の滴下速度などによって行われる。親水性溶媒の沸点が低い場合は還流条件下に加水分解反応を行う。
反応時間は、1~60分であるのが好ましく、中でも5分以上或いは30分以下であるのがさらに好ましい。
【0063】
加水分解反応は発熱反応であり、反応液は通常1~15℃温度上昇する。加水分解反応が実質的に完了したことを確認するため、酸触媒水溶液の滴下終了後に反応温度が5~10℃低下するまで撹拌を続行するのが好ましい。
【0064】
(2)縮合反応工程:
前記工程に引き続き、必要に応じて反応温度を高め、撹拌条件下に縮合反応を行う。
反応温度は、40~80℃であるのが好ましく、中でも50℃以上或いは60℃以下であるのがさらに好ましい。反応温度が上記下限未満では縮合反応が遅くなり過ぎ、上記上限超過では過剰な縮合反応の回避が困難となる。
昇温速度は、通常0.1~10℃/分とすればよい。
反応時間は、通常1~120分とするのが好ましく、中でも5分以上或いは60分以内であるのがさらに好ましい。
【0065】
(3)縮合反応停止工程:
反応液を冷却して縮合反応を停止する。
冷却温度は通常10~30℃である。この際、縮合反応組成物の濃度低減のために溶媒を添加する冷却希釈により縮合反応を停止するのが効果的である。なお、溶媒は反応溶媒と同一のものが好適であるが、液性調整のため別の溶媒を使用してもよい。
【0066】
溶媒の添加量は、加水分解性シラン化合物、反応に供した溶媒および酸触媒水溶液の総量に対する溶媒の濃度として表した場合、通常50~150質量%の範囲である。
【0067】
前記の冷却希釈による縮合反応停止工程によれば、得られるシリケートバインダー液の保存安定性が高くなり、また、各用途の要求に合う濃度に調整し得るシリケートバインダー液の製造が可能になる。
【0068】
上記の縮合反応工程により、得られる反応生成物であるシリケートオリゴマーの質量平均分子量が決定される。質量平均分子量は、1000~5000であるのが好ましく、中でも2000以上或いは4000以下であるのがさらに好ましい。
斯かる分子量は平均多量化度nが2~100の多量体に相当する。
【0069】
上記の質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により下記の条件で測定された値である。
溶媒:テトラヒドロフラン
装置名:TOSOH HLC-8220GPC
カラム:TOSOH TSKgel Super HM-N(2本)とHZ1000(1本)を接続して使用
カラム温度:40℃
試料濃度:0.01質量%
流速:0.6ml/min
較正曲線:PEG(分子量20000、4000、1000、200の4点3次式近似による較正曲線を使用)
【0070】
このようにして得られるシリケートバインダー液のシリケートオリゴマー濃度は、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、8質量%以下が最も好ましい。シリケートオリゴマー濃度が高いと溶液の安定性が悪くなり、後述のシリカ微粒子と混合した時の分散性が均一になりにくい。一方、空気含有層の形成効率の面から、シリケートバインダー液のシリケートオリゴマー濃度は0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上がより好ましい。
このようなシリケートバインダー液は透明であり、カオリン濁度計を用いて測定した結果濁度は通常10以下である。
【0071】
[シリカ微粒子]
次に、上記のシリケートバインダー液に混合して空気含有層形成用塗工液を製造するためのシリカ微粒子について説明する。
【0072】
シリカ微粒子の平均粒子径は、通常5~100nmである。
シリカ微粒子としては、特に制限されず、凝集シリカ微粒子又は非凝集シリカ微粒子のいずれでもよいが、例えば、平均粒子径5~100nmの非凝集シリカ微粒子、平均粒子径10~100nmの中空状非凝集シリカ微粒子、平均一次粒径5~100nmの鎖状凝集シリカ微粒子の少なくとも一種からなるシリカ微粒子などが挙げることができる。これらは、形成される空気含有層の目的に応じて適宜選択される。
なお、本発明におけるシリカ微粒子の平均粒子径は、BET比表面積をもとに計算した値である。
【0073】
凝集シリカ微粒子の具体例としては、日産化学工業株式会社製の「スノーテックス(登録商標)-OUP」(平均粒子径:12nm)、「スノーテックス(登録商標)-UP」(平均粒子径:12nm)、「スノーテックス(登録商標)PS-M」(平均粒子径:25nm)、「スノーテックス(登録商標)PS-MO」(平均粒子径:25nm)、「スノーテックス(登録商標)PS-S」(平均粒子径:15nm)、「スノーテックス(登録商標)PS-SO」(平均粒子径:15nm)、「IPA-ST-UP」(平均粒子径:12nm)、日本国触媒化成工業株式会社製の「ファインカタロイドF-120」等が挙げることができる。球状非凝集シリカ微粒子の具体例としては、日産化学工業株式会社製の「スノーテックス(登録商標)-O」、「スノーテックス(登録商標)-O-40」、「スノーテックス(登録商標)-OL」、扶桑化学工業製の「クォートロン(登録商標)-PL-1」、「クォートロン(登録商標)-PL-3」、「クォートロン(登録商標)-PL-7」等が挙げることができる。
【0074】
[空気含有層形成用塗工液の製造方法]
空気含有層形成用塗工液は、前記の製造法で得られたシリケートバインダー液と上記のシリカ微粒子とを混合することにより製造することができる。
空気含有層形成用塗工液は、基材に塗布する際の塗工性、塗膜の膜厚や平滑性などを考慮して、適切な濃度に調整される。濃度調整は前述の親水性溶媒の添加により行われるが、この濃度調整はシリカ微粒子を混合する前に行うことも後に行うこともできる。
【0075】
空気含有層形成用塗工液のシリカ微粒子濃度は、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がより好ましい。シリカ微粒子濃度が30質量%を超えると、分散不良や粘度上昇が起こりやすく、表面平滑性のある膜が形成されにくい。一方、空気含有層の膜形成効率の面から、空気含有層形成用塗工液のシリカ微粒子濃度は1質量%以上であることが好ましい。
【0076】
また、シリケートバインダー液中のシリケートオリゴマーとシリカ微粒子との割合は、得られる空気含有層形成用塗工液を用いて空気含有層を形成した際に、空気含有層の空孔を閉塞しない限り特に限定されない。シリケートオリゴマーの割合が多過ぎると膜形成時に空孔ができにくくなるため、本来目的である光学性能に優れた空気含有層を形成しにくくなる。一方、シリケートオリゴマーが少なすぎると、シリカ微粒子同士の結合性が弱くなるため、機械強度が不足したり、基材との密着性が低くなるため、後工程や使用環境によっては傷ついたり、剥がれる恐れがある。
このような観点からシリケートバインダー液とシリカ微粒子とを混合する際のシリカ微粒子とシリケートオリゴマーとの混合比は、シリカ微粒子:シリケートオリゴマー=1:0.01~2(質量比)であることが好ましく、特に1:0.05~1(質量比)であることが好ましい。
【0077】
[他の添加物]
必要に応じて、適宜添加物を空気含有層形成用塗工液に配合してもよい。但し、界面活性剤などのように高温(60℃以上)で溶融乃至流動する成分は、高湿熱条件下で流動して、低屈折率を生み出している空孔を閉塞してしまう可能性があるため、実質的に配合しないことが好ましい。
なお、本発明において「実質的に配合しない」とは。本積層体の反射防止性、防曇性及び耐湿熱性を阻害する量で添加することを除外する意味であり、具体的には、当該成分の含有量が0質量部以上0.05質量部以下、より好ましくは0質量部以上0.01質量部以下、さらに好ましくは0質量部以上0.005質量部以下、よりさらに好ましくは0質量部以上0.001質量部以下であることをいう。
【0078】
(塗工方法)
基材への空気含有層形成用塗工液の塗工方法は、特に制限されず、ディップコート法、スピンコート法、ダイコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、カーテンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法を挙げることができる。
【0079】
基材への空気含有層形成用塗工液の塗布で形成されたウェット膜の乾燥は、溶媒を除去するために行われ、乾燥温度は通常50~80℃であり、熱風乾燥機などが好適に使用される。乾燥時間は通常1~10分、好ましくは1~5分である。
【0080】
<VUVの照射>
前述のように形成された空気含有層に対して、真空紫外光(VUV)を、不活性ガス雰囲気下で照射するのが好ましい。
前述のように形成された空気含有層に対して、高エネルギー波である真空紫外光(VUV)を、不活性ガス雰囲気下で照射すると、当該層が含有する金属元素又は半金属元素-酸素結合、金属元素又は半金属元素-炭素結合、炭素-酸素結合、炭素-水素結合などが開裂し、再結合(ガラス化、光ゾルゲル反応)が起こると共に、VUV照射工程中に発生する活性酸素種(原子状酸素、オゾン、OHラジカル)が空気含有層の最表面に導入されることで、金属元素又は非金属元素の結合手のうち、酸素と結合している部分の割合が多くなり、空気含有層の最表面が親水化し、防曇性を発現させることができる。
シリケートを用いることでバインダー自体もVUV光でガラス化され、塗膜の密着性や強度が向上するので、この点からも、シリケートが好ましい。
【0081】
本発明において「真空紫外光(VUV)」とは、波長200nm以下の真空紫外(Vacuum Ultra Violet:VUV)域の光を意味する。
また、「真空紫外光(VUV)を照射する」とは、波長200nm以下に最大強度ピークを有する光を照射することをいう。
【0082】
真空紫外光(VUV)の照射は、不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴンを挙げることができる。
これに対し、空気雰囲気下では、高エネルギー波である真空紫外光(VUV)が雰囲気に吸収されてしまい、被処理面に到達しない可能性がある。
雰囲気中の不活性ガスの含有量は90vol%以上であるのが好ましく、中でも95vol%以上、その中でも99vol%以上であるのがさらに好ましい。
【0083】
照射する真空紫外光(VUV)の照度は、生産性の観点から、120mW/cm以上であるのが好ましく、150mW/cm以上であるのがさらに好ましく、中でも170mW/cm以上であるのがより好ましい。
照射する真空紫外光(VUV)の積算光量(両側から照射する場合は片側の積算光量)は、防曇性を高める観点から、1000mJ/cm以上であるのが好ましく、2000mJ/cm以上であるのがさらに好ましく、中でも3000mJ/cm以上であるのがより好ましい。他方、生産性の観点から、12000mJ/cm以下であるのが好ましく、10000mJ/cm以下であるのがさらに好ましく、中でも8000mJ/cm以下であるのがより好ましい。
【0084】
<<用途>>
本積層体は、ヘッドランプ、内視鏡やカメラレンズ、フェイスシールドなどの構成材料として好適に使用することができる。そのほか、例えばディスプレイなどの電子材料、自動車パネル、照明用灯具、太陽光利用装置、眼鏡などの反射防止膜、導光板等としても有効に用いることができる。
【0085】
<<語句の説明など>>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0086】
本発明において、「α~β」(α,βは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「α以上β以下」の意と共に、「好ましくはαより大きい」或いは「好ましくはβより小さい」の意も包含する。
また、「α以上」(αは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはαより大きい」の意を包含し、「β以下」(βは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはβより小さい」の意も包含する。
【実施例0087】
以下、本発明の実施例の一例について説明する。但し、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0088】
[実施例1]
<シリケートバインダー液の調製>
(1)加水分解反応工程:
2Lのジャケット付き反応器に、信越シリコーン社製の商品「KBM22」(ジメチルメトキシシラン含量99質量%)50質量部、三菱ケミカル社製商品「シリケートMS51」(平均多量化度n:7、メチルシリケートオリゴマー(質量平均分子量842)含量99.8質量%)200質量部、エタノール500質量部を仕込み、反応上限温度を40℃に設定し、攪拌条件下、0.007質量%の塩酸水溶液330質量部を10分かけて滴下した。この時、発熱反応により5~10℃反応温度が上昇した。反応温度が5~10℃低下するまで撹拌を続行した。
なお、2官能の加水分解性シラン化合物中の多量体の割合(「KBM22」と「シリケートMS51」の合計量に対するシリケートMS51の割合)は80質量%であった。
【0089】
(2)縮合反応工程:
塩酸水溶液滴下後、撹拌条件下、30分かけて60℃に昇温し、60℃で30分間保持した。その後、室温まで冷却した。
【0090】
(3)縮合反応停止工程:
冷却後、エタノール1100質量部を混合し、30分攪拌することにより、アルコキシシラン組成物(A)からなるシリケートバインダー液2180質量部を得た。
【0091】
<空気含有層形成用塗工液の調製>
前記で得られたシリケートバインダー液2180質量部に、エタノール12000質量部を加え、30分攪拌することにより、アルコキシシラン組成物(B)14180質量部を得た。
上記で得られたアルコキシシラン組成物(B)14180質量部に、凝集シリカ微粒子(平均粒子径12nm)2040質量部(日産化学工業社製の商品「スノーテックス(登録商標)-OUP」)を加え、30分攪拌することにより、空気含有層形成用塗工液を得た。
【0092】
<空気含有層の形成>
ポリエチレンテレフタレート二軸延伸フィルム(三菱ケミカル社製、製品名「ダイアホイルT600タイプ」)上に、上記で調製した空気含有層形成用塗工液を、バーコーターで塗布厚さ(乾燥後)が100nmになるように、25℃で塗布し、70℃で1分加熱して乾燥させ、100nmの酸化ケイ素膜付きフィルムを得た。次に、エキシマ照射機(ウシオ電機社製、KE-AH-2330)を用いて、窒素:酸素=97:3の雰囲気下で、最大強度ピーク波長172nmの真空紫外光(VUV)を、照度170mW/cm、積算光量3350mJ/cmで照射することで、厚さ100nmの酸化ケイ素膜からなる空気含有層を有する積層体(積層体サンプル)を得た。
【0093】
[実施例2]
実施例1において、窒素:酸素=99:1の雰囲気下で、照度170mW/cm、積算光量5820mJ/cmの波長172nmの真空紫外光を照射した以外は、実施例1と同様の方法で、厚さ100nmの酸化ケイ素膜からなる空気含有層を有する積層体(積層体サンプル)を得た。
【0094】
[実施例3]
実施例1において、窒素:酸素=99.5:0.5の雰囲気下で照度170mW/cm、積算光量7920mJ/cmの波長172nmの真空紫外光(VUV)を照射した以外は、実施例1と同様の方法で、厚さ100nmの酸化ケイ素膜からなる空気含有層を有する積層体(積層体サンプル)を得た。
【0095】
[比較例1]
実施例1において、真空紫外光(VUV)の照射をしなかったこと以外は実施例1と同様の方法で、厚さ100nmの酸化ケイ素膜からなる空気含有層を有する積層体(積層体サンプル)を得た。
【0096】
[比較例2]
比較例1と同様に、100nmの酸化ケイ素膜付きフィルムを得た。さらに、特許文献1(特開2021-182134号公報)の実施例1と同様に、アニオン系界面活性剤(日油社製の商品「ラピゾールA-80(有効成分(ジ2-エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム)80質量%)」)を固形分0.2質量%となるようにエタノールで希釈し、前記で得られた酸化ケイ素膜上に滴下し、スピンコーターで1500rpmにて、30秒コートした。その後、溶媒を除去するために、低温恒温送風機(ヤマト科学社製)に入れ、120℃で1分間乾燥することで、積層体サンプルを得た。
【0097】
<評価項目>
[空隙率]
上記で得た積層体サンプルの空気含有層における空隙率を、次のようにして求めた。
上記実施例及び比較例とは別に、球状非凝集シリカの添加量を変更した空気含有層形成用塗工液を調製して、実施例1と同じ方法で酸化ケイ素膜付きフィルムを作製し、屈折率と空隙率の検量線を作成した。この検量線をもとに、実施例及び比較例の屈折率の実測値より空隙率を算出した。なお、空隙率100vol%の時、屈折率1.00とした。
【0098】
[水滴接触角の測定]
上記で得た積層体サンプルについて、初期(湿熱試験前)および湿熱試験後において、空気含有層の表面の水滴接触角を、接触角計(協和化学社製、Drop Master500)を用いて測定した(初期)。
また、上記で得た積層体サンプルを、温度60℃、相対湿度90%の環境に設定した恒温恒湿器(ESPEC社製PH-3KT)に24時間保持した後、初期と同様に、湿熱試験後の水滴接触角を測定した。
【0099】
[最小反射率の測定]
上記で得た積層体サンプルについて、初期(湿熱試験前)および湿熱試験後において、積層体の最小反射率を評価した。
評価するサンプルは、フィルム基材の裏面からの反射を抑えるため、裏面にデンカ社製ビニルテープ(黒)を貼り付けたものを準備し、干渉式膜厚測定装置(フィルメトリクス社製、F20)により反射率スペクトルを測定した。得られた反射率スペクトルより、可視光領域における最小反射率(%)を読みとった(初期)。
また、上記で得た積層体サンプルを、温度60℃、相対湿度90%の環境に設定した恒温恒湿器(ESPEC社製PH-3KT)に24時間保持した後、初期と同様に、湿熱試験後の最小反射率を測定した。
【0100】
[呼気防曇性の評価]
常温環境下で、上記で得た積層体サンプルの空気含有層の表面に息をかけ、曇りの状態を目視観察し、下記基準で評価した(初期)。
また、上記で得た積層体サンプルを温度60℃、相対湿度90%の環境に設定した恒温恒湿器(ESPEC社製PH-3KT)に24時間保持した後、初期と同様に、湿熱試験後の呼気防曇性を評価した。
〇(good):曇らず、膜を通しての像がはっきり見える
×(poor):曇って、膜を通しての像が全く見えない
【0101】
[光屈折率の測定]
上記で得た積層体サンプルの波長550nmでの光屈折率を、次のようにして測定した。
評価するサンプルは、フィルム基材の裏面からの反射を抑えるため、裏面にデンカ社製ビニルテープ(黒)を貼り付けたものを準備し、反射分光装置(大塚電子社製、OPTM)により反射率スペクトルを測定した。得られた反射率スペクトルより、550nmの屈折率および膜厚を解析した。なお、基材のみの誘電関数を別途測定し、解析に使用した。
【0102】
[空気含有層最表面の原子組成の測定]
上記で得た積層体サンプルの空気含有層の表面(1~10nm)の組成を、XPS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製K-Alpha)を用いて、X線(単色化Al Kα)を、分析領域400μmΦ、取り出し角(試料表面と検出器のなす角)90度の条件で照射することで、XPSスペクトルから原子%比(atm%)を得た。
また、得られた原子%比からSiに対するOの原子量比(O/Si比)を求めた。
【0103】
【表1】
【0104】
(考察)
実施例1~3の積層体は、基材の少なくとも片面側に空気含有層を備えており、且つ、空気含有層の最表面の水滴接触角が20度以下であり、波長550nmの光屈折率が1.24未満であり、反射防止性、防曇性、さらには耐湿熱性を全て備えた積層体であることが確認された。
上記実施例及び比較例の結果、並びに、これまで本発明者が行ってきた試験結果などから、基材の少なくとも片面側に空気含有層を備えた積層体であって、前記空気含有層の最表面の水滴接触角が20度以下であり、波長550nmの光屈折率が1.24未満であれば、反射防止性、防曇性、さらには耐湿熱性を全て備えた積層体とすることができると考えられる。
【0105】
実施例1~3の積層体は、窒素を含有する雰囲気においてVUV照射することで、空気含有層の最表面が親水化し、防曇性を得ることができた。この作用機序は、次のように考えられる。
窒素を含有する雰囲気において、空気含有層に対して、高エネルギーのVUV(波長172nm,光子エネルギー7.2eV=696kJ/mol)を照射した結果、当該層が含有するSi-O(430kJ/mol)、Si-C(318kJ/mol)、C-O(369kJ/mol)、C-H(412kJ/mol)等の結合が開裂し、再結合(ガラス化、光ゾルゲル反応)が起こり、また、VUV照射工程中に発生する活性酸素種(原子状酸素、オゾン、OHラジカル)が空気含有層の最表面に導入されることで、ケイ素の結合手のうち、酸素と結合している部分、すなわちSi-O結合の割合が多くなることで、空気含有層の最表面が親水化し、防曇性を発現したものと推察される。
【0106】
なお、上記実施例は、空気含有層が、金属又は半金属の酸化物を主材とする多孔質層からなるものであるが、空気含有層が、内部に空気を有する無機酸化物中空粒子を主材とする層であっても、空気含有層は空気を含有するため、前者と同様に反射防止性に優れたものとすることができるばかりか、真空紫外光(VUV)を照射することで、表面を親水化して防曇性を高める効果を同様に得ることができると考えられる。
【0107】
また、真空紫外光(VUV)を照射することで、結合の開裂・再結合及び活性酸素種の導入が生じる上記作用機序を考慮すると、結合エネルギーがVUV光(696kJ/mol)より小さい結合を含む金属又は半金属の酸化物であれば、酸化ケイ素と同様の効果が得られると推察される。また、反射防止性の観点からは、屈折率が2.0以下の無機酸化物が好ましいから、酸化アルミニウム(屈折率1.63)、酸化スズ(屈折率2.0)、酸窒化ケイ素(屈折率1.5~2.0)等や、シリカーアルミナセラミック(屈折率1.5~1.6)等の複合体であれば、酸化ケイ素(屈折率1.46)と同様の効果が得られるものと推察される。
【0108】
さらにまた、高エネルギー波である真空紫外光(VUV)は、空気雰囲気下では、当該雰囲気に吸収されてしまい、被処理面に到達しない可能性が高いため、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で真空紫外光(VUV)照射するのが好ましい。
かかる観点から、実施例では、窒素含有雰囲気下で真空紫外光(VUV)照射しているが、窒素含有雰囲気に変えて、他の不活性ガス含有雰囲気下で真空紫外光(VUV)照射しても同様の効果が得られると推察される。