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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098824
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】多孔質セラミックス体及び分離膜
(51)【国際特許分類】
   C04B 38/00 20060101AFI20240717BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240717BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240717BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240717BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C04B38/00 303Z
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002562
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 翔太
【テーマコード(参考)】
4D006
4G019
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006GA41
4D006HA77
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA12
4D006MA26
4D006MB03
4D006MC01
4D006MC03X
4D006MC07
4D006NA39
4D006NA45
4G019FA11
4G019FA13
(57)【要約】
【課題】流体の圧力損失を低減可能な多孔質セラミックス体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、金属酸化物を含む多孔質セラミックス体であって、細孔径が0.038~2.47μmの細孔分布において、log微分細孔容量の累積90%相当径Db90と、log微分細孔容量の累積10%相当径Db10の差が0.3μm以上である多孔質セラミックス体である。前記Db90とDb10の差が1.60μm以下であることや、2以上の層を有する積層体であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物を含む多孔質セラミックス体であって、
細孔径が0.038~2.47μmの細孔分布において、log微分細孔容量の累積90%相当径Db90と、log微分細孔容量の累積10%相当径Db10の差が0.3μm以上である多孔質セラミックス体。
【請求項2】
前記Db90とDb10の差が1.60μm以下である請求項1に記載の多孔質セラミックス体。
【請求項3】
2以上の層を有する積層体である請求項1に記載の多孔質セラミックス体。
【請求項4】
細孔径が0.053~200μmの細孔の累積細孔面積Atに対する、細孔径が0.195~200μmの細孔の累積細孔面積Atの比:At/Atが、0.59超、0.78未満である請求項3に記載の多孔質セラミックス体。
【請求項5】
前記At/Atが、0.61以上、0.75以下である請求項4に記載の多孔質セラミックス体。
【請求項6】
前記Db90とDb10の差が0.90μm以上、1.60μm以下である請求項3または4に記載の多孔質セラミックス体。
【請求項7】
前記金属酸化物がアルミナを含む請求項3または4に記載の多孔質セラミックス体。
【請求項8】
チューブ状またはモノリス状である請求項3または4に記載の多孔質セラミックス体。
【請求項9】
請求項3または4に記載の多孔質セラミックス体を含む分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミックス体及び分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質セラミックス体は、精密濾過膜、限外濾過膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、ガス分離膜などの、気体又は液体である流体の分離、濃縮または濾過等の機能を有する膜として様々な分野で利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ガスを透過する多孔質である支持体と、前記支持体上に形成されたガス分離膜であるゼオライト膜とを備えたゼオライト膜複合体が開示されており、当該複合体にCOとCHとの比が50:50の混合ガスを導入したところ、CO/CHのパーミアンス比が1810となるように、混合ガスからCOを抽出できたことが記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2019/077862
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多孔質セラミックス体を用いて流体の分離等を行う場合、多孔質セラミックス体に流体が流れやすいこと、すなわち流体の圧力損失が小さいことが重要である。前記特許文献1では、支持体上にガス分離膜を形成した複合体が開示されるが、流体の圧力損失を低減することについて検討されていない。
【0006】
そこで、本発明は、流体の圧力損失を低減可能な多孔質セラミックス体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が検討したところ、細孔径の小さな範囲の細孔分布を適切に調整することで、流体の圧力損失を低減できることを見出した。上記課題を達成した本発明は以下の通りである。
【0008】
[1]金属酸化物を含む多孔質セラミックス体であって、
細孔径が0.038~2.47μmの細孔分布において、log微分細孔容量の累積90%相当径Db90と、log微分細孔容量の累積10%相当径Db10の差が0.3μm以上である多孔質セラミックス体。
[2]前記Db90とDb10の差が1.60μm以下である[1]に記載の多孔質セラミックス体。
[3]2以上の層を有する積層体である[1]または[2]に記載の多孔質セラミックス体。
[4]細孔径が0.053~200μmの細孔の累積細孔面積Atに対する、細孔径が0.195~200μmの細孔の累積細孔面積Atの比:At/Atが、0.59超、0.78未満である[3]に記載の多孔質セラミックス体。
[5]前記At/Atが、0.61以上、0.75以下である[4]に記載の多孔質セラミックス体。
[6]前記Db90とDb10の差が0.90μm以上、1.60μm以下である[3]~[5]のいずれかに記載の多孔質セラミックス体。
[7]前記金属酸化物がアルミナを含む[3]~[6]のいずれかに記載の多孔質セラミックス体。
[8]チューブ状またはモノリス状である[3]~[7]のいずれかに記載の多孔質セラミックス体。
[9][3]~[8]のいずれかに記載の多孔質セラミックス体を含む分離膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流体の圧力損失が低減された多孔質セラミックス体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の多孔質セラミックス体は、金属酸化物を含み、細孔径が0.038~2.47μmの細孔分布において、log微分細孔容量の累積90%相当径Db90と、log微分細孔容量の累積10%相当径Db10の差が0.3μm以上である多孔質セラミックス体である。
【0011】
細孔径が0.038~2.47μmの範囲の細孔分布は、多孔質セラミックス体の機能膜を支持する層に起因する細孔径を含有する範囲であり、圧力損失を低減する上で重要である。log微分細孔容量とは、Vを細孔容量、Dを細孔径、dVを測定ポイント間の細孔容量の差分値、d(logD)を細孔径の対数の差分値と表した場合に、dV/d(logD)で表わされる。細孔径が0.038~2.47μmの範囲で計測した細孔分布において、log微分細孔容量の累積90%に相当する細孔径Db90と、log微分細孔容量の累積10%に相当する細孔径Db10との差が0.3μm以上であることは、機能膜を支持する層の細孔分布がブロードである事を意味しており、その結果、流体の流路が閉塞することがなく、圧力損失を低減できる。前記Db90とDb10の差は、0.6μm以上が好ましく、0.90μm以上がより好ましく、1.0μm以上が更に好ましい。
【0012】
またDb90とDb10の差が大きすぎると、細孔径の小さな細孔と、細孔径の大きな細孔が隣り合った連結部で、流体の抵抗が高くなり、透過性能が低下しやすい。そこで、Db90とDb10の差は、1.60μm以下が好ましく、1.40μm以下がより好ましく、1.30μm以下が更に好ましい。
【0013】
Db90とDb10の差が0.90μm以上、1.60μm以下であることが好ましく、0.90μm以上、1.55μm以下がより好ましく、前記多孔質セラミックス体を透過する流体の透過性能が高く、かつ流体の流速を低流速から高流速に切り替えた場合の透過性能の上昇効果が高くなる観点から、0.90μm以上、1.30μm以下であることが特に好ましい。
【0014】
また、横軸を0.038~2.47μmの範囲の細孔直径、縦軸を累積細孔容量の絶対値(mL/g)とするグラフにおいて、細孔直径がDb90である点の座標と、細孔直径がDb10である点の座標を結んだ直線の傾きmは、0.01以上であることが好ましく、より好ましくは0.03以上であり、更に好ましくは0.060以上であり、また0.80以下が好ましく、より好ましくは0.5以下であり、更に好ましくは0.3以下であり、特に0.10以下が好ましい。前記傾きmは、0.060以上、0.10以下であることが特に好ましい。前記傾きmが上記範囲にあるということは、機能層を支持する層の細孔分布がブロードである事を意味しており、その結果、流体の流路が閉塞することがなく、圧力損失を低減できる。
【0015】
前記多孔質セラミックス体は、2以上の層を有する積層体であることが好ましく、このような場合に細孔径が0.053~200μmの細孔の累積細孔面積Atに対する、細孔径が0.195~200μmの細孔の累積細孔面積Atの比:At/Atが、0.59超、0.78未満であることがより好ましい。累積細孔面積Atは、対象とする細孔径の下限が0.053μm以上であり、非常に小さな細孔径の細孔まで含めた細孔面積である。これに対して、累積細孔面積Atで対象となる細孔は、細孔径が0.195μm以上の細孔であり、測定対象の細孔径の下限が前記Atよりも大きい。つまり、At/Atは、細孔径が0.053μm以上、0.195μm未満である非常に小さな細孔の影響を反映した値である。At/Atが前記範囲であると、前記多孔質セラミックス体を透過する流体の透過性能が高く、かつ流体の流速を低流速から高流速に切り替えた場合の透過性能の上昇効果が高くなるため好ましい。At/Atは、0.61以上がより好ましく、更に好ましくは0.63以上であり、また0.75以下がより好ましく、更に好ましくは0.72以下である。At/Atは、0.61以上、0.75以下が特に好ましく、0.63以上、0.72以下が最も好ましい。
【0016】
At/Atの値が前記範囲であれば、At及びAtのそれぞれの値は特に限定されないが、例えばAtは例えば0.08~0.30m/gであり、Atは例えば0.05~0.20m/gである。
【0017】
上記したlog微分細孔容量及び累積細孔面積は、前記多孔質セラミックス体を水銀圧入法で測定することにより得ることができる。
【0018】
前記多孔質セラミックス体が2層以上の積層体である場合、上記したDb90とDb10の差の要件に加えて、基材となる平均細孔径が4~25μm(好ましくは5~15μm)の層aと、層aよりも平均細孔径が小さく平均細孔径が0.21~1.5μm(好ましくは0.21~1.0μm)である層bを含むことが好ましい。層bにおいて上記したDb90とDb10の差の要件を満たしていることが好ましい。前記した層bの平均細孔径とは、前記多孔質セラミックス体の内、層aの細孔を除いた層bの細孔のlog微分細孔容量の累積50%相当径を意味し、層aの平均細孔径は、層aのlog微分細孔容量の累積50%相当径を意味する。前記層aと層bは、他の層を介することなく、直接積層されていることが好ましい。層bは1層で構成されていてもよく、2層以上の複数の層で構成されていてもよい。
【0019】
層bにおいて、細孔径0.038~200μmの範囲の累積log微分細孔容量に対する0.038~2.47μmの範囲の累積log微分細孔容量が80%以上であることが好ましく、より好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90%以上である。
【0020】
層aのlog微分細孔容量のピークの細孔径、すなわちlog微分細孔容量の値が最大となる細孔径DLD-maxは、細孔径0.038~200μmの内、5~25μmの範囲に存在していることが好ましい。
【0021】
層bのlog微分細孔容量のピークの細孔径、すなわちlog微分細孔容量の値が最大となる細孔径DLD-maxは、細孔径0.038~200μmの内、0.038~2.47μmの範囲に存在していることが好ましい。
【0022】
前記多孔質セラミックス体が、2層以上の積層体である場合に、上記したAt/Atの要件、Db90とDb10の差の要件、傾きmの要件、並びに層a及びbの要件を、それぞれの要件の好ましい範囲も含めて、任意に組み合わせて満たすことも好ましい。
【0023】
前記多孔質セラミックス体に含まれる金属酸化物は、例えばLiO、BeO、B、NaO、MgO、Al、SiO、KO、CaO、ScO、TiO、V、Cr、ZnO、Ga、GeO、As、RbO、SrO、Y、ZrO、Nb、AgO、CdO、In、SnO、Sb、TeO、CsO、BaO、La、Ta、WO、HgO、TlO、PbO、PbO、及びThOよりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、金属酸化物としてAl、ZrO、MgO、Cr、及びYの少なくとも1種が含まれることが好ましく、Alが含まれることがより好ましい。なお、本明細書における「金属」とは、Si等の半金属も含む意味で用いる。
【0024】
前記多孔質セラミックス体が、2層以上の積層体であり、前記層a及び層bを含む場合、層a及び層bのいずれにも、Al(アルミナ)が含まれていることが好ましく、層aにはAlと、Al以外の1種以上の金属酸化物が含まれていることがより好ましい。層aに含まれることが好ましいAl以外の1種以上の金属酸化物は、上記で例示した金属酸化物から任意に選択することができ、層aはAlとSiOを含むガラスであることが特に好ましい。
【0025】
前記多孔質セラミックス体の形状は特に限定されず、例えば板状、チューブ状、又はモノリス状などが挙げられ、特にチューブ状又はモノリス状であることが好ましい。なお、モノリス状とは、軸方向に貫通した孔を複数有する柱(円柱、角柱、楕円柱など)形状を意味する。前記多孔質セラミックス体がチューブ状であって前記層a及び層bを含む場合、層bはチューブの内周面のみ、外周面のみ、又は内周面と外周面の両方に形成されていることが好ましく、内周面のみ又は外周面のみに形成されていることがより好ましく、内周面のみに形成されていることが更に好ましい。前記多孔質セラミックス体がモノリス状であって前記層a及び層bを含む場合、モノリス形状が有する各貫通孔の内部表面のみに層bが形成されていることが好ましい。
【0026】
前記多孔質セラミックス体の厚み(平均値)は、例えば450~10000μmであり、より好ましくは500~6000μmである。前記多孔質セラミックス体がモノリス状である場合の厚みとは、軸に垂直な平面での、隣り合う貫通孔の最近接距離の平均値であってもよい。前記層aの厚みは400~8000μmであることが好ましく、層bの厚みは3~300μmであることが好ましい。
また、前記多孔質セラミックス体の長手方向の長さは例えば50~5000mmである。長手方向の長さとは、例えば板状の場合には長辺の長さ、チューブ状またはモノリス状の場合には軸方向の長さを意味する。
【0027】
なお、層bの厚みは、以下の手順で求めることができる。まず、前記層aと層bの積層方向に平行な断面の画像を取得する。前記画像において、前記層bの、層a側表面の合計長さが、前記層aのDLD-maxの100倍以上となるように画像を取得して、画像解析により層bのみを抽出する。そして、得られた画像を一定間隔で区切って190か所以上の領域とし、各領域の面積を求めて、区切った間隔の長さで除した値を各領域における層bの厚みとし、測定した全領域についての厚みの平均値を求める。ただし、区切った間隔の長さは層aのDLD-maxの1.8倍以下の長さとする。
【0028】
前記多孔質セラミックス体は、流体の圧力損失を低減することができ、後記する実施例で評価されるパーミアンスを1.0×10-4/(m・sec・Pa)以上にすることができ、好ましくは2.0×10-4/(m・sec・Pa)以上であり、より好ましくは5.0×10-4/(m・sec・Pa)以上であり、更に好ましくは6.0×10-4/(m・sec・Pa)以上であり、上限は特に限定されないが、例えば9.0×10-4/(m・sec・Pa)であってもよい。
【0029】
また、後記する実施例に従って、前記多孔質セラミックス体を流れる流体の流速が2.0m/hの時のパーミアンスを、0.5m/hの時のパーミアンスで除して得られるパーミアンス上昇率を、1.03以上とすることができ、1.05以上が好ましく、1.06以上がより好ましく、また上限は特に限定されないが1.15以下であってもよい。
【0030】
次に、本発明の多孔質セラミックス体の製造方法について説明する。本発明の多孔質セラミックス体は、撥水撥油処理した多孔質基材を用意し、体積基準の累積90%相当径D90と累積10%相当径D10との差が4.8μm以上、33.0μm以下である金属酸化物を含むスラリーを脱泡処理して、脱泡処理したスラリーを前記基材の撥水撥油処理された表面に塗布及び熱処理することによって製造できる。前記金属酸化物の体積基準の累積90%相当径D90と累積10%相当径D10との差が好ましい範囲としては、15.0μm以上、33.0μm以下である。
【0031】
多孔質基材を撥水撥油処理し、撥水撥油処理面にスラリーを塗布することで、基材の孔にスラリーが入りこむことを防止でき、上記したDb90とDb10の差を0.3μm以上にできる。
【0032】
撥水撥油処理の方法は、スプレーコート、ディップコート、バーコート、吸引コート、超音波噴霧、刷毛塗り、スキージ塗布、吹き付け塗布等が挙げられる。撥水剤及び撥油剤の組成は限定されないが、例えばパラフィン系撥水撥油剤、フッ素系撥水撥油剤、ポリシロキサン系撥水撥油剤を用いることができる。フッ素系撥水撥油剤としては、パーフルオロアルキル基を有するもの、パーフルオロポリエーテル構造を有するものなどが挙げられる。
【0033】
多孔質基材としては、例えば上述の層aのDLD-max及び材質を有する多孔質体を用いることができる。このような基材は、例えばアルミナとSiOを含む市販品の基材を用いることができ、萩ガラス社製のアルミナ基材A-12などが挙げられる。
【0034】
次に、撥水撥油処理された多孔質基材の表面に、金属酸化物を含むスラリーを、脱泡処理した後に塗布する。スラリーに含まれる金属酸化物の粒度分布は、当該スラリーから得られる多孔質層の細孔分布に影響する。体積基準の累積90%相当径D90と累積10%相当径D10との差が4.8μm~33.0μmである金属酸化物を用いることで、本発明の多孔質セラミックス体においてDb90とDb10の差を0.3μm以上とすることができる。また、スラリーに脱泡処理を行わない場合には、気泡が入り込むことで細孔分布に影響がでるため、Db90とDb10の差を0.3μm以上とすることができない。
【0035】
金属酸化物の粒度分布は、例えばレーザ回折・散乱式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0036】
スラリーに含まれる金属酸化物は、本発明の多孔質セラミックス体に含まれる金属酸化物として例示したものから選択することができ、特にAl、ZrO、MgO、Cr、及びYの少なくとも1種が含まれることが好ましく、Alが含まれることがより好ましい。スラリー中の金属酸化物濃度は、例えば2質量%以上、15質量%以下であり、好ましくは4質量%以上、13質量%以下である。
【0037】
スラリーには、金属酸化物の他、溶剤及び増粘剤が含まれることが好ましい。
溶剤としては、水または有機系溶剤が挙げられる。
増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。前記増粘剤のスラリー中の濃度は、例えば0.5質量%以上、5質量%以下であり、好ましくは1質量%以上、3質量%以下である。
【0038】
スラリーの脱泡処理は、真空脱泡装置、撹拌脱泡装置、公転自転撹拌脱泡装置などを用いることができ、真空処理を行いながら、自転、及び公転で攪拌・脱泡処理が行える公転自転撹拌脱泡装置が好ましく、市販の公転自転撹拌脱泡装置(カクハンター、SK-1100TV、株式会社写真化学社製)等を用いることができる。真空処理は特に制限はないが、1kPa以上5kPa以下が好ましい。脱泡処理したスラリーを、多孔質基材の撥水撥油処理面に塗布する方法としては、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、バーコート法、スピンコート法、スリットコート法、刷毛塗り等が挙げられる。スラリーを塗布した後は、熱処理すればよく、熱処理温度は例えば1000℃以上、1500℃以下であり、熱処理時間は例えば1時間以上、8時間以下である。
【0039】
本発明の多孔質セラミックス体は、必要に応じて更に機能膜を積層して、精密濾過膜、限外濾過膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、ガス等の分離膜として用いることができる。
【0040】
上記記載の機能膜は、ゼオライト、MOF(Metal Organic Frameworks)、多孔質シリカ膜等の機能膜を適宜選択して用いることができる。
【実施例0041】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
実施例1
基材として、アルミナとSiOを含む萩ガラス社製アルミナ基材A-12を用いた。前記基材A-12の形状は、内径が7.0mm、外径が9.5mm、長さが10cmの円筒形であった。株式会社コロンブス製の撥水剤SHコンク(フッ素樹脂と石油系炭化水素を含む)に前記基材A-12をディップし、常温で12時間以上乾燥させた。次に、住友化学株式会社製のアルミナ粉末AA-18と、増粘剤として信越化学工業株式会社製のヒドロキシプロピルメチルセルロース65SH-30000を、それぞれ、5wt%、1.5wt%の濃度で水に混合したのち、公転自転撹拌脱泡装置(カクハンター、SK-1100TV、株式会社写真化学社製、4.0kPa、公転9、自転2、300秒、2回)にて脱泡処理を行い、スラリーを用意した。なお、前記アルミナ粉末AA-18の体積基準の累積90%相当径D90と累積10%相当径D10との差は14.0μmであった。前記基材A-12の内周面に前記スラリーが入り込まないように、前記基材A-12の上端及び下端を封止して、前記スラリーで前記基材A-12をディップコートした。その後、前記外周面に前記スラリーが塗布された前記基材A-12を1200℃で3時間熱処理した。
【0043】
実施例2
アルミナ粉末を、デンカ株式会社製DAW-07とした以外は実施例1と同様の方法で実施例2の多孔質セラミックス積層体を得た。なお、前記アルミナ粉末DAW-07のD90とD10との差は32.7μmであった。
【0044】
実施例3
アルミナ粉末を、デンカ株式会社製DAW-10とした以外は実施例1と同様の方法で実施例3の多孔質セラミックス積層体を得た。なお、前記アルミナ粉末DAW-10のD90とD10との差は20.2μmであった。
【0045】
実施例4
アルミナ粉末を、住友化学株式会社製ALM-41-01とした以外は実施例1と同様の方法で実施例4の多孔質セラミックス積層体を得た。なお、前記アルミナ粉末ALM-41-01のD90とD10との差は4.8μmであった。
【0046】
比較例1
アルミナ粉末を、住友化学株式会社製AA-03とし、スラリーの脱泡処理を行わなかった以外は実施例1と同様の方法で比較例1の多孔質セラミックス積層体を得た。なお、前記アルミナ粉末AA03のD90とD10との差は1.8μmであった。
【0047】
上記実施例及び比較例で得られた多孔質セラミックス積層体を以下の方法で評価した。
【0048】
(1)パーミアンスの測定
円筒形の多孔質セラミックス積層体試料の外側から空気を1.0m/hの一定流速で流し、試料の内側から透過した空気を下流に流した。この時、上流側と下流側の圧力差を測定した。測定した結果を下記の式で変換し、パーミアンスを得た。なお、パーミアンスの値が高い程、圧力損失が低いことを意味する。
【0049】
【数1】
【0050】
(2)流体の流速上昇時のパーミアンス上昇率評価
円筒形の試料の外側から空気を0.5m/h、及び2.0m/hの一定流速で流し、試料の内側から透過した空気を下流に流した。この時、上流側と下流側の圧力差を測定した。測定した結果から上記(1)と同様の式を用いてそれぞれのパーミアンスを得た。高流速2.0m/hの際のパーミアンスを、低流速0.5m/hの際のパーミアンスで除して、パーミアンスの上昇率を評価した。上昇率の値が高い程、流速上昇時のパーミアンス上昇効果が高いことを示す。
【0051】
(3)細孔分布の測定
まず、試料を120℃で4時間乾燥後、オートポアIV9520(micromeritics社製)を用いて水銀圧入法により測定した。
測定条件の詳細は以下の通りである。
Hg Surface Tension:480.000dynes/cm
Hg Density:13.5335g/mL
Adv. Contact Angle:140.000degrees
Rec. Contact Angle:140.000degrees
Pen. Constant:11.007μL/pF
Pen. Weight:1.0000g
Stem Volume:0.3920mL
Max. Head Pressure:4.4500psia
Pen. Volume:1.0000mL
Assembly Weight:141.0000g
Low Pressure(Evacuation Pressure):50μmHg
Evacuation Time:10secs
Mercury Filling Pressure:1.03psia
Equilibration Time:10secs
High Pressure(Evacuation Time):10secs
Maximum Intrusion Volume:0mL/g
【0052】
(3-1)細孔径0.038μmから細孔径2.47μmまでの各細孔径におけるlog微分細孔容量(dV/d(logD):Log Differential Intrusion、単位:mL/g)を、細孔径0.038μmから細孔径2.47μmまで合計していき、合計した累積log微分細孔容量を100%とした場合の、累積log微分細孔容量が90%以上となった時の細孔径Db90と、累積log微分細孔容量が10%以上となった時の細孔径Db10の差を算出した。
【0053】
(3-2)また、細孔径0.038μmから細孔径2.47μmまでの各細孔径におけるlog微分細孔容量(dV/d(logD):Log Differential Intrusion、単位:mL/g)の累積値を縦軸、細孔径を横軸とした際の、上記累積log微分細孔容量が90%である点の座標と、累積log微分細孔容量が10%である点の座標の2点を結んだ直線の傾きmを算出した。
【0054】
(3-3)更に、細孔径0.195~200μmの累積細孔面積(Cumulative pore area、単位:m/g)Atを、細孔径0.053~200μmの累積細孔面積Atで割ることで、累積細孔面積の比At/Atを算出した。
【0055】
(4)粒度分布測定
実施例および比較例で使用したアルミナについて、粒度分布を、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック社製、マイクロトラックMT3000II、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.2wt%水溶液)を用いて測定し、体積基準の累積90%相当径D90と累積10%相当径D10との差を算出した。
【0056】
結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
なお、表1におけるDb90とDb10の傾きとは、上記(3-2)の測定方法により得られた値mを意味する。
【0059】
更に、実施例及び比較例について以下の測定も行った。
(5)層a及び層bの細孔分布測定
上記(3)項に示した水銀圧入法による測定では、スラリーが塗布された基材A-12を測定した他、層aに相当する基材A-12のみも測定した。横軸を細孔径とするlog微分細孔容量分布において、基材A-12のみの測定では1つのピークが観測され、スラリーが塗布された基材A-12の測定では2つのピークが観察された。基材A-12のみの測定で観測されたピークにより基材(層a)のDLD-maxを評価し、スラリーが塗布された基材A-12の観測において観察された2つのピークのうち、低細孔径側のピークにより、スラリーにより形成された層(層b)のDLD-maxが評価した。log微分細孔容量分布で細孔径0.038~200μmの内、基材A-12の細孔を含む細孔径範囲を除いた累積log微分細孔容量の値で、0.038~2.47μmの累積log微分細孔容量を割った値を、層bの0.038~2.47μmに占める累積log微分細孔容量の割合とした。
【0060】
(6)層(b)の厚み測定
円筒形の多孔質セラミックス積層体を樹脂に埋め込み、研磨して、軸方向に垂直な断面(すなわち、層a及び層bの積層方向に並行な断面)を出して、走査型電子顕微鏡(SEM、Scanning Electron Microscope)にて観察した。層bの、層a側表面の合計長さが円周方向に1.5mm以上となるように画像を取得し、画像解析により層bのみを抽出した。得られた画像を8μmピッチで区切って190か所以上の領域とし、それぞれについて面積を求めて8μmで除算した値を各領域における厚みとした。複数領域の厚みを平均して、層bの厚みとした。
【0061】
上記(5)に従って測定した結果、アルミナ粉末を含むスラリーにより形成された層(層b)の平均細孔径は、実施例1:0.800μm、実施例2:0.335μm、実施例3:0.282μm、実施例4:0.370μm、比較例1:0.205μmであり、また、すべての実施例及び比較例において、層bのDLD-maxは0.038~2.47μmの範囲に存在していた。また多孔質セラミックス積層体を測定したlog微分細孔容量分布の0.038~200μmの内、基材A-12由来の細孔径範囲を除いた累積log微分細孔容量で、0.038~2.47μmの累積log微分細孔容量を割った値、すなわち層bの細孔径0.038~2.47μmの累積log微分細孔容量が、0.038~200μmの累積log微分細孔容量に占める割合は、すべての実施例、比較例で90%以上であった。また、層aのDLD-maxは14.7μmであり、平均細孔径は5μm~25μmの範囲内であった。
【0062】
上記(6)に従って測定した結果、アルミナ粉末を含むスラリーにより形成された層(層b)の平均厚みは、実施例1:32.8μm、実施例2:25.9μm、実施例3:27.1μm、実施例4:22.5μm、比較例1:24.6μmであった。