(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098825
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】多孔質セラミックス積層体及び分離膜
(51)【国際特許分類】
C04B 38/00 20060101AFI20240717BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240717BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240717BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240717BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240717BHJP
C04B 35/10 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
C04B38/00 303Z
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02
C04B35/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002563
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内藤 翔太
【テーマコード(参考)】
4D006
4G019
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006GA41
4D006HA77
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA12
4D006MA26
4D006MB03
4D006MC01
4D006MC03X
4D006MC07
4D006NA39
4D006NA45
4G019FA13
(57)【要約】
【課題】流体の圧力損失を低減可能な多孔質セラミックス積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、金属酸化物を含む2以上の層が積層された多孔質セラミックス積層体であって、細孔径が0.51~13.35μmの細孔の累積log微分細孔容量Vaに対する、細孔径が0.0909~0.216μmの細孔の累積log微分細孔容量Vb1の比:Vb1/Vaが0.256未満である多孔質セラミックス積層体である。前記Vb1/Vaは0.0255以上であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物を含む2以上の層が積層された多孔質セラミックス積層体であって、
細孔径が0.51~13.35μmの細孔の累積log微分細孔容量Vaに対する、細孔径が0.0909~0.216μmの細孔の累積log微分細孔容量Vb1の比:Vb1/Vaが0.256未満である多孔質セラミックス積層体。
【請求項2】
前記Vb1/Vaが0.0255以上である請求項1に記載の多孔質セラミックス積層体。
【請求項3】
細孔径が0.0909μm~0.216μmの細孔の累積細孔面積Ab1が0.010m2/g以上、0.180m2/g以下である請求項1または2に記載の多孔質セラミックス積層体。
【請求項4】
細孔径が0.050μm~0.101μmの細孔の累積細孔面積Ab2が0.030m2/g以上、0.150m2/g以下である請求項3記載の多孔質セラミックス積層体。
【請求項5】
前記Vb1/Vaが0.028超、0.14以下である請求項4に記載の多孔質セラミックス積層体。
【請求項6】
前記金属酸化物がアルミナを含む請求項1または2に記載の多孔質セラミックス積層体。
【請求項7】
チューブ状またはモノリス状である請求項1または2に記載の多孔質セラミックス積層体。
【請求項8】
請求項1または2に記載の多孔質セラミックス積層体を含む分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミックス積層体及び分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質セラミックス体は、精密濾過膜、限外濾過膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、ガス分離膜などの、気体又は液体である流体の分離、濃縮または濾過等の機能を有する膜として様々な分野で利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、気孔率が20~50%、平均気孔径が5~15μmであるアルミナ質多孔体であって、チタン、マンガン及び銅からなる群より選択される少なくとも一種の金属酸化物を所定量含有するアルミナ質多孔体が開示されており、また、特許文献2には、気孔率が15~45%、平均気孔径が2~15μmであるアルミナ質多孔体であって、所定量の酸化チタンと、所定量の銅、マンガン、カルシウム及びストロンチウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素とを含有するアルミナ質多孔質体が開示されている。特許文献1、2に開示されるアルミナ質多孔体は、その表面に当該アルミナ質多孔体の平均気孔径より小さな平均気孔径を有する多孔質セラミック膜を積層し、二層以上の積層体であるセラミックフィルターを製造することができ、上記のアルミナ質多孔体をフィルターの基材として用いることで、アルカリ性溶液や酸性溶液に対して優れた耐食性を発揮し、長期間に渡って高い強度が維持できることが記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-228946号公報
【特許文献2】特開2010-228948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、多孔質セラミックス積層体を用いて流体の分離等を行う場合、多孔質セラミックス積層体に流体が流れやすいこと、すなわち流体の圧力損失が小さいことが重要である。しかし、上記特許文献1、2では、流体の圧力損失を低減できる多孔質セラミックス積層体について検討されていない。
【0006】
そこで、本発明は、流体の圧力損失を低減可能な多孔質セラミックス積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が検討したところ、所定の2つの細孔径範囲について累積log微分細孔容量を測定し、これらの比を適切に調整することで、流体の圧力損失を低減できることを見出した。上記課題を達成した本発明は以下の通りである。
【0008】
[1]金属酸化物を含む2以上の層が積層された多孔質セラミックス積層体であって、
細孔径が0.51~13.35μmの細孔の累積log微分細孔容量Vaに対する、細孔径が0.0909~0.216μmの細孔の累積log微分細孔容量Vb1の比:Vb1/Vaが0.256未満である多孔質セラミックス積層体。
[2]前記Vb1/Vaが0.0255以上である[1]に記載の多孔質セラミックス積層体。
[3]細孔径が0.0909μm~0.216μmの細孔の累積細孔面積Ab1が0.010m2/g以上、0.180m2/g以下である[1]または[2]に記載の多孔質セラミックス積層体。
[4]細孔径が0.050μm~0.101μmの細孔の累積細孔面積Ab2が0.030m2/g以上、0.150m2/g以下である[1]~[3]のいずれかに記載の多孔質セラミックス積層体。
[5]前記Vb1/Vaが0.028超、0.14以下である[1]~[4]のいずれかに記載の多孔質セラミックス積層体。
[6]前記金属酸化物がアルミナを含む[1]~[5]のいずれかに記載の多孔質セラミックス積層体。
[7]チューブ状またはモノリス状である[1]~[6]のいずれかに記載の多孔質セラミックス積層体。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の多孔質セラミックス積層体を含む分離膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流体の圧力損失が低減された多孔質セラミックス積層体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、金属酸化物を含む2以上の層が積層された多孔質セラミックス積層体であって、細孔径が0.51~13.35μmの細孔の累積log微分細孔容量Vaに対する、細孔径が0.0909~0.216μmの細孔の累積log微分細孔容量Vb1の比:Vb1/Vaが0.256未満である多孔質セラミックス積層体である。log微分細孔容量は、Vを細孔容量、Dを細孔径、dVを測定ポイント間の細孔容量の差分値、d(logD)を細孔径の対数の差分値と表した場合に、dV/d(logD)で表わされる。
【0011】
細孔径が0.51~13.35μmの細孔の累積log微分細孔容量Vaは主に基材(第1多孔質層)の細孔に由来し、細孔径が0.0909~0.216μmの細孔の累積log微分細孔容量Vb1は主に基材上に積層される第2多孔質層に由来する値である。当該数値の比であるVb1/Vaが0.256以上であると、基材(第1多孔質層)に対する第2多孔質層のガスの流路が長くなり、透過性能が低下する。Vb1/Vaは、0.2以下が好ましく、0.14以下がより好ましい。Vb1は0.0200mL/g以上、0.250mL/g以下が好ましく、0.0250mL/g以上、0.250mL/g以下がより好ましく、0.0280mL/g以上、0.120mL/g以下がさらに好ましい。Vaは0.900mL/g以上、1.2mL/g以下が好ましく、0.900mL/g以上、1.100mL/g以下がより好ましい。
【0012】
一方、Vb1/Vaが小さくなりすぎると、基材(第1多孔質層)に対する第2多孔質層のガス流路が少なくなり、透過性能が低下しやすくなるため、Vb1/Vaは0.0255以上であることが好ましく、0.028超であることがより好ましい。
【0013】
Vb1/Vaは、0.0255以上、0.2以下が特に好ましく、0.028超、0.14以下であることが最も好ましい。
【0014】
本発明の多孔質セラミックス積層体は、第2多孔質層に由来する細孔径の小さい範囲の累積細孔面積が所定範囲に調整されていることも好ましい。より具体的には、細孔径が0.0909μm~0.216μmの細孔の累積細孔面積Ab1が0.010m2/g以上、0.180m2/g以下であること、及び細孔径が0.050μm~0.101μmの細孔の累積細孔面積Ab2が0.030m2/g以上、0.160m2/g以下であることの少なくともいずれかの要件を満たすことが好ましく、少なくとも前記Ab1の要件を満たすことがより好ましく、前記Ab1及びAb2の両方の要件を同時に満たすことが更に好ましい。上記累積細孔面積Ab1の要件及びAb2の少なくともいずれかが、前記の範囲であると、前記多孔質セラミックス積層体に流れる流体の流速を、高流速から低流速に切り替えた際の透過性能の低下を抑制できる。
【0015】
細孔径が0.0909μm~0.216μmの細孔の累積細孔面積Ab1は、0.020m2/g以上がより好ましく、また0.150m2/g以下がより好ましく、0.130m2/g以下が更に好ましい。前記Ab1は、0.020m2/g以上、0.130m2/g以下が特に好ましい。
【0016】
細孔径が0.050μm~0.101μmの細孔の累積細孔面積Ab2は、0.10m2/g以下がより好ましく、0.075m2/g以下が更に好ましい。前記Ab2は、0.030m2/g以上、0.075m2/g以下が好ましく、0.030m2/g以上、0.060m2/g以下が特に好ましい。
【0017】
前記Ab1の好ましい上限及び好ましい下限並びに前記Ab2の好ましい上限及び好ましい下限は適宜組み合わせることができ、前記Ab1が0.020m2/g以上、0.130m2/g以下であり、かつ前記Ab2は、0.030m2/g以上、0.075m2/g以下であることも好ましい。
【0018】
上記したlog微分細孔容量及びその累積値、並びに累積細孔面積は、前記多孔質セラミックス積層体を水銀圧入法で測定することにより得ることができる。
【0019】
上記多孔質セラミックス積層体は、上述の通り、金属酸化物を含む2以上の層が積層されており、基材となる層a(第1多孔質層)であって、log微分細孔容量の値が最大となる細孔径DLD-maxが4~25μm(好ましくは5~15μm)の層aと、層aよりもDLD-maxが小さくDLD-maxが0.05~0.3μmである層b(第2多孔質層)の、これら2層を含むことが好ましい。前記層aと層bは、他の層を介することなく、直接積層されていることが好ましい。層b(第2多孔質層)は1層で構成されていてもよく、2層以上の複数の層で構成されていてもよい。
【0020】
多孔質セラミックス積層体に含まれる金属酸化物は、例えばLi2O、BeO、B2O3、Na2O、MgO、Al2O3、SiO2、K2O、CaO、ScO2、TiO2、V2O5、Cr2O3、ZnO、Ga2O3、GeO2、As2O5、Rb2O、SrO、Y2O3、ZrO2、Nb2O5、Ag2O、CdO、In2O3、SnO2、Sb2O5、TeO2、Cs2O、BaO、La2O3、Ta2O5、WO3、HgO、Tl2O、PbO、PbO2、及びThO2よりなる群から選ばれる少なくとも1種であり、金属酸化物としてAl2O3、ZrO2、MgO、Cr2O3、及びY2O3の少なくとも1種が含まれることが好ましく、Al2O3が含まれることがより好ましい。なお、本明細書における「金属」とは、Si等の半金属も含む意味で用いる。
【0021】
前記多孔質セラミックス積層体が、前記層a及び層bを含む場合、層a及び層bのいずれにも、Al2O3(アルミナ)が含まれていることが好ましく、層aにはAl2O3と、Al2O3以外の1種以上の金属酸化物が含まれていることがより好ましい。層aに含まれることが好ましいAl2O3以外の1種以上の金属酸化物は、上記で例示した金属酸化物から任意に選択することができ、層aはAl2O3とSiO2を含むガラスであることが特に好ましい。
【0022】
前記多孔質セラミックス積層体の形状は特に限定されず、例えば板状、チューブ状、又はモノリス状などが挙げられ、特にチューブ状又はモノリス状であることが好ましい。なお、モノリス状とは、軸方向に貫通した孔を複数有する柱(円柱、角柱、楕円柱など)形状を意味する。前記多孔質セラミックス積層体がチューブ状であって前記層a及び層bを含む場合、層bはチューブの内周面のみ、外周面のみ、又は内周面と外周面の両方に形成されていることが好ましく、内周面のみ又は外周面のみに形成されていることがより好ましく、内周面のみに形成されていることが更に好ましい。前記多孔質セラミックス積層体がモノリス状であって前記層a及び層bを含む場合、モノリス形状が有する各貫通孔の内部表面のみに層bが形成されていることが好ましい。
【0023】
前記多孔質セラミックス積層体の厚み(平均値)は、例えば450~10000μmであり、より好ましくは500~6000μmである。前記多孔質セラミックス積層体がモノリス状である場合の厚みとは、軸に垂直な平面での、隣り合う貫通孔の最近接距離の平均値であってもよい。前記層aの厚みは400~8000μmであることが好ましく、層bの厚みは3~300μmであることが好ましい。
また、前記多孔質セラミックス積層体の長手方向の長さは例えば50~5000mmである。長手方向の長さとは、例えば板状の場合には長辺の長さ、チューブ状またはモノリス状の場合には軸方向の長さを意味する。
【0024】
前記多孔質セラミックス積層体は、流体の圧力損失を低減することができ、後記する実施例で評価されるパーミアンスを1.25×10-4m3/(m2・sec・Pa)以上にすることができ、好ましくは1.5×10-4m3/(m2・sec・Pa)以上であり、より好ましくは3.0×10-4m3/(m2・sec・Pa)以上であり、更に好ましくは3.4×10-4m3/(m2・sec・Pa)以上であり、上限は特に限定されないが、例えば9.0×10-4m3/(m2・sec・Pa)であってもよい。
【0025】
また、後記する実施例に従って、前記多孔質セラミックス積層体を流れる流体の流速が0.5m3/hの時のパーミアンスを、2.0m3/hの時のパーミアンスで除して得られるパーミアンス上昇率(百分率)は、98%以上102%以下が好ましく、より好ましくは98.7%以上101.3%以下である。
【0026】
次に、本発明の多孔質セラミックス積層体の製造方法について説明する。本発明の多孔質セラミックス積層体は、細孔径0.51~200μmの累積細孔面積が0.050~0.070m2/gである多孔質基材を撥水撥油処理し、次に体積基準の累積50%相当径D50と累積10%相当径D10との差が0.27μm以上0.95μm以下の金属酸化物粒子と、分散剤を含み、金属酸化物粒子の濃度が3質量%以上、7質量%以下であるスラリーを用意し、該スラリーを前記基材の撥水撥油処理された表面に塗布し熱処理(焼成)するという塗布及び熱処理の工程を1回行うことで製造できる。
【0027】
多孔質基材を撥水撥油処理し、撥水撥油処理面にスラリーを塗布することで、基材の孔にスラリーが入りこむことを防止でき、前記Vb1/Vaを適切に調整できる。撥水撥油処理の方法は、スプレーコート、ディップコート、バーコート、吸引コート、超音波噴霧、刷毛塗り、スキージ塗布、吹き付け塗布等が挙げられる。撥水剤及び撥油剤の組成は限定されないが、例えばパラフィン系撥水撥油剤、フッ素系撥水撥油剤、ポリシロキサン系撥水撥油剤を用いることができる。フッ素系撥水撥油剤としては、パーフルオロアルキル基を有するもの、パーフルオロポリエーテル構造を有するものなどが挙げられる。
【0028】
多孔質基材としては、細孔径0.51~200μmの累積細孔面積が0.050~0.070m2/gである多孔質基材を用いる。前記範囲の累積細孔面積を有する多孔質基材を用いることで、前記累積log微分細孔容量Vaを適切に調整できる結果、Vb1/Vaを0.256未満にできる。このような基材は、例えばアルミナとSiO2を含む市販品の基材を用いることができ、萩ガラス社製のアルミナ基材A-12などが挙げられる。
【0029】
次に、撥水撥油処理された多孔質基材の表面に、体積基準の累積50%相当径D50と累積10%相当径D10との差が0.27μm以上0.95μm以下の金属酸化物粒子と、分散剤を含むスラリーを用意する。
【0030】
金属酸化物粒子の微粒側の状態を適切に調整する、より詳細にはD50とD10との差が0.27μm以上0.95μm以下の金属酸化物粒子を用いることで、前記0.0909~0.216μmの細孔の累積log微分細孔容量Vb1を適切に調整できる結果、Vb1/Vaを0.256未満にできる。このような金属酸化物粒子として市販品を用いてもよく、金属酸化物がアルミナである場合には、住友化学株式会社製AKP-700、AES-11などの市販のαアルミナを用いることができる。また、市販の金属酸化物粒子を篩によってD50とD10との差が0.27μm以上0.95μm以下となるように調整してもよい。
【0031】
金属酸化物の粒度分布は、例えばレーザ回折・散乱式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0032】
金属酸化物がαアルミナである場合には、αアルミナの前駆体をジェットミルでBET比表面積が0.1m2/g~0.3m2/gとなるように粉砕した後、1150℃~1300℃で1~4時間焼成して得られる、D50とD10との差が0.27μm以上0.95μm以下であるαアルミナを用いてもよい。
αアルミナ前駆体とは、例えば1000℃以上(好ましくは1150℃以上)の焼成後にαアルミナが得られる化合物であり、具体的には結晶相がα相のアルミナでもよく、γ相、χ相、θ相、δ相、ρ相、κ相である結晶質の中間アルミナ、非晶質の中間アルミナなどの中間アルミナなどがある。結晶相がギブサイト、ベーマイト、擬ベーマイト、バイヤライト、ノルストランダイト、ダイアスポアなどである結晶質の水酸化アルミニウム、非晶質の水酸化アルミニウムなどの水酸化アルミニウムなどを用いることもできる。
ジェットミル粉砕後のαアルミナ前駆体の焼成温度は、通常1150℃以上、好ましくは1170℃以上であり、1300℃以下、好ましくは1200℃以下である。焼成時間は、60分以上、好ましくは2時間以上であり、4時間以内であり、好ましくは3時間以内である。上記条件で焼成処理を行うことで、ジェットミルにより粉砕されたαアルミナ前駆体の表面のアモルファス層を、凝集を抑制しながら焼結させ、D50-D10が0.27μm以上0.95μm以下に調整されたαアルミナを得ることができる。
【0033】
前記分散剤は、スラリー中の金属酸化物粒子同士の凝集を抑制できる。分散剤は、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤のいずれを用いてもよい。中でも、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸アミン塩などのアニオン系界面活性剤が好ましく、サンノプコ社製のSNディスパーサント5020、SNディスパーサント5023、SNディスパーサント5027、SNディスパーサント5468、ノパルファD-6010、ノプコール5200、ノプコサントRFA、ノプコスパース6100、ノプコスパース6150などを用いることができる。前記分散剤のスラリー中の濃度は、例えば0.1質量%以上、3質量%以下であり、0.3質量%以上、1質量%以下であることが好ましい。
【0034】
スラリーに含まれる金属酸化物は、本発明の多孔質セラミックス積層体に含まれる金属酸化物として例示したものから選択することができ、特にAl2O3、ZrO2、MgO、Cr2O3、及びY2O3の少なくとも1種が含まれることが好ましく、Al2O3が含まれることがより好ましい。スラリー中の金属酸化物濃度は、3質量%以上、7質量%以下であり、このような濃度とすることで前記Vb1/Vaを適切に調整できる。
【0035】
スラリーには、金属酸化物及び分散剤の他、溶剤及び増粘剤が含まれることが好ましい。
溶剤としては、水または有機系溶剤が挙げられる。
増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアルキレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。前記増粘剤のスラリー中の濃度は、例えば0.5質量%以上、5質量%以下であり、好ましくは1質量%以上、3質量%以下である。
【0036】
スラリーを、多孔質基材の撥水撥油処理面に塗布する方法としては、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、バーコート法、スピンコート法、スリットコート法、刷毛塗り等が挙げられる。スラリーを塗布した後は、熱処理(焼成)を行う。熱処理温度は例えば1000℃以上、1500℃以下であり、熱処理時間は例えば1時間以上、8時間以下である。スラリーの塗布及び熱処理の一連の工程は1回のみ行う。スラリーの塗布及び熱処理を1回のみで行うことで、前記したVb1/Vaを適切に調整できる。
【0037】
本発明の多孔質セラミックス積層体は、必要に応じて更に機能膜を積層して、精密濾過膜、限外濾過膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、ガス等の分離膜として用いることができる。
【0038】
上記記載の機能膜は、ゼオライト、MOF(Metal Organic Frameworks)、多孔質シリカ膜等の機能膜を適宜選択して用いることができる。
【実施例0039】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0040】
実施例1
第1多孔質層(層a)として、アルミナとSiO2を含む萩ガラス社製アルミナ基材A-12を用いた。前記基材A-12の形状は、内径が7.0mm、外径が9.5mm、長さが10cmの円筒形であり、細孔径200~0.51μmの累積細孔面積は0.060m2/g(下記(3)の測定方法と同様にして、基材A-12のみを測定して得られた値)であった。株式会社コロンブス製の撥水剤SHコンク(フッ素樹脂と石油系炭化水素を含む)に前記基材A-12をディップし、常温で12時間以上乾燥させた。次に、住友化学株式会社製のアルミナ粉末AKP-700と、増粘剤として信越化学工業株式会社製のヒドロキシプロピルメチルセルロース65SH-30000と、分散剤としてSNディスパーサント5468をそれぞれ、5wt%、1.5wt%、0.5wt%の濃度で水に混合して層b形成用のスラリーを用意した。なお、前記アルミナ粉末AKP-700のD50とD10との差は0.65μmであった。前記基材A-12の内周面に前記スラリーが入り込まないように、前記基材A-12の上端及び下端を封止して、前記スラリーで前記基材A-12をディップコートした。その後、前記外周面に前記スラリーが塗布された前記基材A-12を1000℃で3時間熱処理(焼成)した。すなわち、前記スラリーのディップコート処理及び熱処理は1回行った。
【0041】
実施例2
アルミナ粉末をAES-11とし、熱処理温度を1200℃とした以外は実施例1と同様の方法で実施例2の多孔質セラミックス積層体を得た。なお、前記AES-11のD50とD10との差は0.27μmであった。
【0042】
実施例3
酸化アルミニウムを、ジェットミルを用いて比表面積が0.21m2/gとなるように粉砕した後、1170℃3hで焼成し、粒度分布のD50とD10との差が0.92μmのαアルミナ(1)を得た。アルミナ粉末を上記αアルミナ(1)とした以外は実施例2と同様の方法で実施例3の多孔質セラミックス積層体を得た。
【0043】
実施例4
スラリーが塗布された前記基材A-12の熱処理温度を1200℃とした以外は実施例3と同様の方法で実施例4の多孔質セラミックス積層体を得た。
【0044】
比較例1
第1多孔質層として、実施例1と同じアルミナ基材A-12を用いた。株式会社コロンブス製の撥水剤SHコンクに前記基材A-12をディップし、常温で12時間以上乾燥させた。次に、実施例3に記載のαアルミナ(1)と、増粘剤として信越化学工業株式会社製のヒドロキシプロピルメチルセルロース65SH-30000を、それぞれ、5wt%、1.5wt%の濃度で水に混合したのち、スラリーを用意した。前記基材A-12の内周面に前記スラリーが入り込まないように、前記基材A-12の上端及び下端を封止して、前記スラリーで前記基材A-12をディップコートした。その後、前記外周面に前記スラリーが塗布された前記基材A-12を1000℃で3時間熱処理した。前記の熱処理を行った基材A-12を一旦室温まで冷却した後、再び同じ条件でスラリーのディップコート及び熱処理を行った。すなわち、ディップコート処理及び熱処理を2回行った。
【0045】
上記実施例及び比較例で得られた多孔質セラミックス積層体を以下の方法で評価した。
【0046】
(1)パーミアンスの測定
円筒形の多孔質セラミックス積層体試料の外側から空気を1.0m3/hの一定流速で流し、試料の内側から透過した空気を下流に流した。この時、上流側と下流側の圧力差を測定した。測定した結果を下記の式で変換し、パーミアンスを得た。なお、パーミアンスの値が高い程、圧力損失が低いことを意味する。
【0047】
【0048】
(2)流体の流速低下時のパーミアンス維持率評価
円筒形の試料の外側から空気を0.5m3/h、及び2.0m3/hの一定流速で流し、試料の内側から透過した空気を下流に流した。この時、上流側と下流側の圧力差を測定した。測定した結果から上記(1)と同様の式を用いてそれぞれのパーミアンスを得た。0.5m3/hの低流速の際のパーミアンスを、2.0m3/hの際の高流速のパーミアンスで除して、パーミアンスの維持率(百分率)を評価した。維持率の値が100%に近い程、高流速から低流速に切り替えた際の透過性能のバラツキを抑制できる。
【0049】
(3)細孔分布の測定
まず、試料を120℃で4時間乾燥後、オートポアIV9520(micromeritics社製)を用いて水銀圧入法により測定した。
測定条件の詳細は以下の通りである。
Hg Surface Tension:480.000dynes/cm
Hg Density:13.5335g/mL
Adv. Contact Angle:140.000degrees
Rec. Contact Angle:140.000degrees
Pen. Constant:11.007μL/pF
Pen. Weight:1.0000g
Stem Volume:0.3920mL
Max. Head Pressure:4.4500psia
Pen. Volume:1.0000mL
Assembly Weight:141.0000g
Low Pressure(Evacuation Pressure):50μmHg
Evacuation Time:10secs
Mercury Filling Pressure:1.03psia
Equilibration Time:10secs
High Pressure(Evacuation Time):10secs
Maximum Intrusion Volume:0mL/g
(3-1)累積log微分細孔容量の測定
細孔径0.0909μmから0.216μmまでの各細孔径におけるlog微分細孔容量(dV/d(logD):Log Differential Intrusion、単位:mL/g)を、細孔径0.0909μmから細孔径0.216μmまで合計した累積log微分細孔容量Vb1と、細孔径0.51~13.35μmまでの各細孔径におけるlog微分細孔容量を合計した累積log微分細孔容量Vaを測定し、Vb1/Vaの値を求めた。
(3-2)累積細孔面積の測定
細孔径0.216μm~0.0909μmの累積細孔面積Ab1(Cumulative pore area、単位:m2/g)は、細孔径0.0909~200μmまでの累積細孔面積から、細孔径0.216~200μmまでの累積細孔面積を差し引くことにより算出した。
また、細孔径0.101μm~0.050μmの累積細孔面積は、細孔径0.050~200μmまでの累積細孔面積から、細孔径0.101~200μmまでの累積細孔面積を差し引くことにより算出した。
【0050】
(4)粒度分布測定
実施例および比較例で使用したアルミナについて、粒度分布を、レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック社製 マイクロトラックMT3000II、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.2wt%水溶液)を用いて測定し、体積基準の累積50%相当径D50と累積10%相当径D10との差を算出した。
【0051】
結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
更に、実施例及び比較例について以下の測定も行った。
【0054】
(5)層aと層bのDLD-maxの測定
なお、水銀圧入法による測定では、スラリーが塗布された後の基材A-12を測定した他、基材A-12のみも測定した。横軸を細孔径とするlog微分細孔容量分布において、基材A-12のみの測定では1つのピークが観測され、スラリーが塗布された基材A-12の測定では2つのピークが観察された。基材A-12のみの測定で観測されたピークにより基材(層a)のDLD-maxを評価し、スラリーが塗布された基材A-12の観測において観察された2つのピークのうち、低細孔径側のピークにより、スラリーにより形成された層(層b)のDLD-maxが評価した。
【0055】
上記(5)に従って測定した結果、アルミナ粉末を含むスラリーにより形成された層(層b)のDLD-maxは、実施例1:0.081μm、実施例2:0.24μm、実施例3:0.16μm、実施例4:0.16μm、比較例1:0.22μmであった。また、層aのDLD-maxは14.7μmであった。