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特開2024-98864ガラスセラミックス組成物及びその製造方法、並びに、焼成体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098864
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】ガラスセラミックス組成物及びその製造方法、並びに、焼成体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 14/00 20060101AFI20240717BHJP
   C03C 8/02 20060101ALI20240717BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20240717BHJP
   H05K 1/03 20060101ALN20240717BHJP
【FI】
C03C14/00
C03C8/02
C03C3/091
H05K1/03 610D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002639
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 章弘
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA09
4G062AA10
4G062AA15
4G062BB05
4G062CC10
4G062DA06
4G062DB03
4G062DC04
4G062DD01
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA01
4G062EA02
4G062EB01
4G062EB02
4G062EC01
4G062EC02
4G062ED01
4G062EE03
4G062EF01
4G062EG01
4G062FA01
4G062FA10
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4G062FJ01
4G062FK01
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM13
4G062MM23
4G062MM27
4G062NN26
4G062NN33
4G062PP03
(57)【要約】
【課題】焼成した際に優れた強度を示すガラスセラミックス組成物を提供すること。
【解決手段】ガラスと、フィラーと、を含むガラスセラミックス組成物であって、前記フィラーの含有量が30質量%以上であり、前記フィラーの体積累計5%の粒径(D5)が1.0μm以下であり、前記フィラーのD5と前記フィラーの体積累計50%の粒径(D50)との比(D5/D50)が0.38以下である、ガラスセラミックス組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスと、フィラーと、を含むガラスセラミックス組成物であって、
前記フィラーの含有量が30質量%以上であり、
前記フィラーのD5が1.0μm以下であり、
前記フィラーのD5と前記フィラーのD50との比(D5/D50)が0.38以下である、ガラスセラミックス組成物。
ここで、D5は体積累計5%の粒径を表し、D50は体積累計50%の粒径を表す。
【請求項2】
前記フィラーが高強度フィラーを含む、請求項1に記載のガラスセラミックス組成物。
ここで、高強度フィラーとは、JIS R 1601:2008に準じて測定される3点曲げ強度が400MPa以上のフィラーである。
【請求項3】
前記高強度フィラーがアルミナフィラーを含む、請求項2に記載のガラスセラミックス組成物。
【請求項4】
前記フィラーは、体積基準の粒度分布曲線において2以上のピークを有し、
前記ピークのうち、最も微粒側に位置するピークは、前記高強度フィラーによるものである、請求項2または3に記載のガラスセラミックス組成物。
【請求項5】
前記フィラーのD90が3.0μm超である、請求項1または2に記載のガラスセラミックス組成物。
ここで、D90は体積累計90%の粒径を表す。
【請求項6】
前記フィラーのD50が1.0μm超3.0μm以下である、請求項1または2に記載のガラスセラミックス組成物。
【請求項7】
前記ガラスは非晶質である、請求項1または2に記載のガラスセラミックス組成物。
【請求項8】
前記ガラスがRO-CaO-Al-B-SiO系ガラス(ただし、ROはLiO、NaO及びKOから選ばれる少なくとも1種)である、請求項1または2に記載のガラスセラミックス組成物。
【請求項9】
前記ガラスは酸化物基準のモル%表示で、
SiOを60%以上70%以下、
を20%以上30%以下、
CaOを2%以上6%以下、
Alを2%超6%以下含有し、
LiO、NaO、およびKOの含有量の合計(LiO+NaO+KO)が0.3%以上1.0%以下である、請求項8に記載のガラスセラミックス組成物。
【請求項10】
20℃、1MHzにおける比誘電率が7.0未満である、請求項1または2に記載のガラスセラミックス組成物。
【請求項11】
ガラスセラミックス組成物の製造方法であって、
互いに粒度分布が異なる2種以上のフィラーを混合することで、D5が1.0μm以下であり、D5とD50との比(D5/D50)が0.38以下である混合フィラーを作製し、
前記混合フィラーの含有量を30質量%以上とし、前記混合フィラーとガラス粉末とを混合することを含む、ガラスセラミックス組成物の製造方法。
ここで、D5は体積累計5%の粒径を表し、D50は体積累計50%の粒径を表す。
【請求項12】
前記互いに粒度分布が異なる2種類以上のフィラーのうち少なくとも1種は、高強度フィラーである、請求項11に記載のガラスセラミックス組成物の製造方法。
ここで、高強度フィラーとは、JIS R 1601:2008に準じて測定される3点曲げ強度が400MPa以上のフィラーである。
【請求項13】
請求項1または2に記載のガラスセラミックス組成物を焼成することを含む、焼成体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスセラミックス組成物及びその製造方法、並びに、焼成体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスとアルミナなどのフィラーの混合物(ガラスセラミックス組成物)は、低温(例えば1000℃)で焼成できる。そのため、ガラスセラミックス組成物を使用すれば、低抗導体である銀や銅などの低融点金属を電極材料に使用し、同時焼成できるため、高周波特性に優れたセラミックス多層基板を製造できる。
【0003】
セラミックス多層基板は、層間の厚みを狭くして小型化するため、配線間の距離を狭くして緻密化するため、および高機能化するため等の種々の目的により、材料自体の誘電率の低減が求められている。
例えば、特許文献1では、低誘電率化及び低誘電損失化を実現するため、LiOと、酸化物基準のモル%表示で、SiOを60%~67%、Bを20%~29%、CaOを3%~9%、およびAlを3%~6%と、を含み、LiO、NaO、およびKOの含有量のモル比(LiO:NaO:KO)が1:0~1.9:0~0.9であるガラス組成物と、アルミナフィラーとを含有する複合粉末材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/153388号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、近年、セラミックス多層基板の用途として、超多素子アンテナや車載用ミリ波レーダーなどの用途も求められている。これらの用途では、屋外で使用されることや、激しい振動が加えられることがあるため、材料自体がより高い強度を示すことが求められている。
【0006】
しかしながら、従来の技術、例えば、ホウケイ酸ガラスにアルミナフィラーや石英フィラーを添加したガラスセラミックス組成物では、焼成して得られる焼成体の強度がおおむね250MPa未満であり、強度の観点で改善の余地があった。
【0007】
本発明は、焼成した際に優れた強度を示すガラスセラミックス組成物を提供することを課題とする。また、該ガラスセラミックス組成物の製造方法並びに焼成体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、所定の粒度分布を有するフィラーを特定量含有させることで、焼成した際に優れた強度を示すガラスセラミックス組成物が実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
<1>ガラスと、フィラーと、を含むガラスセラミックス組成物であって、
前記フィラーの含有量が30質量%以上であり、
前記フィラーのD5が1.0μm以下であり、
前記フィラーのD5と前記フィラーのD50との比(D5/D50)が0.38以下である、ガラスセラミックス組成物。
ここで、D5は体積累計5%の粒径を表し、D50は体積累計50%の粒径を表す。
<2>前記フィラーが高強度フィラーを含む、<1>に記載のガラスセラミックス組成物。
ここで、高強度フィラーとは、JIS R 1601:2008に準じて測定される3点曲げ強度が400MPa以上のフィラーである。
<3>前記高強度フィラーがアルミナフィラーを含む、<2>に記載のガラスセラミックス組成物。
<4>前記フィラーは、体積基準の粒度分布曲線において2以上のピークを有し、
前記ピークのうち、最も微粒側に位置するピークは、前記高強度フィラーによるものである、<2>または<3>に記載のガラスセラミックス組成物。
<5>前記フィラーのD90が3.0μm超である、<1>または<2>に記載のガラスセラミックス組成物。
ここで、D90は体積累計90%の粒径を表す。
<6>前記フィラーのD50が1.0μm超3.0μm以下である、<1>または<2>に記載のガラスセラミックス組成物。
<7>前記ガラスは非晶質である、<1>または<2>に記載のガラスセラミックス組成物。
<8>前記ガラスがRO-CaO-Al-B-SiO系ガラス(ただし、ROはLiO、NaO及びKOから選ばれる少なくとも1種)である、<1>または<2>に記載のガラスセラミックス組成物。
<9>前記ガラスは酸化物基準のモル%表示で、
SiOを60%以上70%以下、
を20%以上30%以下、
CaOを2%以上6%以下、
Alを2%超6%以下含有し、
LiO、NaO、およびKOの含有量の合計(LiO+NaO+KO)が0.3%以上1.0%以下である、<8>に記載のガラスセラミックス組成物。
<10>20℃、1MHzにおける比誘電率が7.0未満である、<1>または<2>に記載のガラスセラミックス組成物。
<11>ガラスセラミックス組成物の製造方法であって、
互いに粒度分布が異なる2種以上のフィラーを混合することで、D5が1.0μm以下であり、D5とD50との比(D5/D50)が0.38以下である混合フィラーを作製し、
前記混合フィラーの含有量を30質量%以上とし、前記混合フィラーとガラス粉末とを混合することを含む、ガラスセラミックス組成物の製造方法。
ここで、D5は体積累計5%の粒径を表し、D50は体積累計50%の粒径を表す。
<12>前記互いに粒度分布が異なる2種類以上のフィラーのうち少なくとも1種は、高強度フィラーである、<11>に記載のガラスセラミックス組成物の製造方法。
ここで、高強度フィラーとは、JIS R 1601:2008に準じて測定される3点曲げ強度が400MPa以上のフィラーである。
<13><1>または<2>に記載のガラスセラミックス組成物を焼成することを含む、焼成体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、焼成した際に優れた強度を示すガラスセラミックス組成物を提供できる。また、該ガラスセラミックス組成物の製造方法並びに焼成体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、例1~8のガラスセラミックス組成物のフィラーのD5/D50と、焼成体の強度の関係を示す図である。
図2図2は、アルミナフィラー(A1)の粒度分布を示すグラフである。
図3図3は、アルミナフィラー(A2)の粒度分布を示すグラフである。
図4図4は、例4のフィラーの粒度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0012】
<ガラスセラミックス組成物>
本実施形態のガラスセラミックス組成物は、ガラスと、フィラーとを含む。以下、各成分について説明する。
【0013】
[フィラー]
本実施形態において、フィラーはガラスセラミックス組成物の強度を高め、さらに誘電損失を低下させる成分である。
【0014】
本実施形態のガラスセラミックス組成物において、フィラーの含有量は30質量%以上である。フィラーの含有量が30質量%以上であることにより、焼成した際に優れた強度を示すガラスセラミックス組成物が得られる。フィラーの含有量は、35質量%以上がより好ましく、40質量%以上が特に好ましい。また、フィラーの含有量が60質量%以下であることが好ましい。フィラーの含有量を60質量%以下とすることにより、良好な焼結性を得ることができる。フィラーの含有量は、55質量%以下がより好ましい。
【0015】
本実施形態において、フィラーのD5は1.0μm以下であり、D5とD50との比(D5/D50)が、0.38以下である。
本発明者は、焼成した際に優れた強度を示すガラスセラミックス組成物を得るためには、フィラーをガラスセラミックス組成物の焼成体中に分散させることが重要であることを見出した。中でも、粒径の小さいフィラー(微粒フィラー)を分散させることが強度の向上に有効である。一方、微粒フィラーを多量に添加した場合、ガラスセラミックス組成物を焼成した際に、微粒フィラーが凝集し、二次粒子の形成に伴い、強度にばらつきが生じることが分かった。
そこで本発明では、フィラーのD5を1.0μm以下とすることで、微粒フィラーを一定量含ませつつ、D5/D50を0.38以下として、粒径の大きいフィラー(粗粒フィラー)も含有させる。これにより、焼成時の微粒フィラーの凝集が抑制し、均一に分散することで、ガラスセラミックス組成物を焼成した際の強度のばらつきを防ぎつつ、その強度を高め得る。
【0016】
フィラーのD5は、強度を向上させる観点から、0.95μm以下であることが好ましく、0.7μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらに好ましい。また、分散性の観点から、フィラーD5は、0.2μm以上であることが好ましい。
なお、本明細書において、D5は体積累計5%の粒径であり、具体的には、レーザー回折法により測定した体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して5%である粒径を指す。
【0017】
図1は、後述する例1~8のガラスセラミックス組成物のフィラーのD5/D50と、各例の焼成体の強度(3点曲げ強度)の関係を示す図である。図1に示すように、フィラーのD5/D50は値が小さいほど強度が高くなる傾向を示す。したがって、フィラーのD5/D50は0.35以下であることが好ましい。また、分散性の観点から、フィラーのD5/D50は0.07以上が好ましく、0.15以上がより好ましい。
なお、本明細書において、D50は体積累計50%の粒径であり、具体的には、レーザー回折法により測定した体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒径を指す。
【0018】
本実施形態において、フィラーのD50は、1.0μm超3.0μm以下であることが好ましい。フィラーのD50が上記範囲内であれば、焼成時の微粒フィラーの凝集による二次粒子の形成をさらに抑制でき、分散性の悪化による強度のばらつきを抑制できる。なお、二次粒子の形成の有無は、ガラスセラミックス組成物の焼成体を鏡面研磨した後、研磨面を走査型電子顕微鏡で観察することで判断できる。また、D50は、2.85μm以下がより好ましく、2.5μm以下がより好ましい。
【0019】
本実施形態において、フィラーのD90は、3.0μm超であることが好ましい。フィラーのD90が3.0μm超であることで、フィラーの表面積が小さくなり、分散性が向上し、これにより焼成体の強度が向上する。さらに、焼結性が向上し、緻密な焼成体が形成できる。フィラーのD90が、4.0μm以上であることがより好ましい。また、フィラーのD90の上限は、表面平滑性の観点や多層セラミックス基板作製時の電極間厚み制御の観点から、10.0μm以下であることが好ましく、7.0μm以下がより好ましく、5.0μm以下が特に好ましい。
なお、本明細書において、D90は体積累計90%の粒径であり、具体的には、レーザー回折法により測定した体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して90%である粒径を指す。
【0020】
上記フィラーのD5、D50、D90は、レーザー回析・散乱式の粒度分布測定器によって求められる。また、ガラスセラミックス組成物を焼成して得られる焼成体の断面を鏡面研磨した後、研磨面を走査型電子顕微鏡にて観察し、フィラーの面積比率を算出することによっても求められる。
【0021】
上記の通り、本実施形態のガラスセラミックス組成物は、微粒フィラーが分散することで、焼成した際に優れた強度が得られる。特に、粒径が0.5μm以下であるフィラーを含有することで、強度が向上する。したがって、本実施形態において、フィラー全量に対する粒径が0.5μm以下であるフィラーの含有量を5体積%以上とすることが好ましく、10体積%以上とすることがより好ましい。また、分散性の観点から、粒径が0.5μm以下のフィラーの含有量は80体積%以下が好ましく、60体積%以下がより好ましい。
【0022】
フィラーとしては、例えば、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、ステアタイト、フォルステライト、コージライト、ウィレマイト、αクォーツ、溶融石英、ムライト、インディアライト、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、セルシアン、ストロンチウムセルシアン、チタニア、ジルコニア含有複合酸化物、SiC、SiN、AlN等の非酸化物、チタン酸塩等高誘電体、ホウ酸アルミニウム等のフィラーが挙げられる。なお、これらは1種のみを用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0023】
また、上記のフィラーの中でも下記条件を満たす高強度フィラーを含むことが好ましい。
ここで、高強度フィラーとは、JIS R 1601:2008に準じて測定される3点曲げ強度が400MPa以上のフィラーである。
フィラーとして高強度フィラーを含むことで、焼成した際により優れた強度を示すガラスセラミックス組成物が得られる。これは、ガラスセラミックス組成物を焼成して得られる焼成体にクラックが発生した際、進展したクラックを高強度フィラーが止め得るためと考える。
【0024】
高強度フィラーの含有量は、フィラー全量に対し、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上が特に好ましい。また、フィラー全量に対する高強度フィラーの含有量の上限は、100質量%である。
【0025】
上記条件を満たす高強度フィラーとしては、例えば、アルミナ、ジルコニア、ホウ酸アルミニウム、SiC、SiN、AlN等の非酸化物等のフィラーが挙げられ、これらの中でも、誘電特性やガラスとの濡れ性の観点から、アルミナを含むことが好ましい。
【0026】
高強度フィラーとしてアルミナを含む場合、高強度フィラーの含有量に対して、アルミナの含有量が50質量%以上とすることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
【0027】
高強度フィラーとしてアルミナを含む場合、誘電特性の観点からアルミナの純度は高いほど好ましい。具体的には、アルミナ中のAl含有率は99.0質量%以上が好ましく、99.5質量%以上がより好ましく、99.9質量%以上がさらに好ましい。
【0028】
また、アルミナ中のAlは複数の結晶構造を有している場合があるが、誘電損失を低下させる観点からは、アルミナはコランダム結晶を多く含むことが好ましい。すなわち、アルミナは、コランダム結晶の割合が全結晶成分の割合に対して30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
当該割合は、X線結晶構造解析により求められる。
【0029】
また本実施形態において、フィラーは、体積基準の粒度分布曲線において2以上のピークを有し、該ピークのうち、最も微粒側に位置するピークは、高強度フィラーによるものであることが好ましい。微粒側の粒子が高強度フィラーであることで、焼成した際により優れた強度を示すガラスセラミックス組成物が得られる。
微粒側のフィラーおよび粗粒側のフィラーの組成は、本実施形態のガラスセラミックス組成物についてエネルギー分散型X線分光法、または電子線マイクロアナライザ等の組成分析機器を用いて確認できる。また、ガラスセラミックス組成物を焼成して得られる焼成体の断面を鏡面研磨した後、研磨面をエネルギー分散型X線分光法、または電子線マイクロアナライザ等の組成分析機器を用いて確認できる。
【0030】
[ガラス]
本実施形態において、ガラスはRO-CaO-Al-B-SiO系ガラス(ただし、ROはLiO、NaO及びKOから選ばれる少なくとも1種)であることが好ましい。
本実施形態において、ガラスがRO-CaO-Al-B-SiO系ガラスであることで、ガラスのフィラーに対する濡れ性が向上し、本実施形態のガラスセラミックス組成物を焼成したときに優れた強度を示す。
【0031】
ガラスとしては、具体的には例えば、酸化物基準のモル%表示で、
SiOを60%以上70%以下、
を20%以上30%以下、
CaOを2%以上6%以下、
Alを2%超6%以下含有し、
LiO、NaO、およびKOの含有量の合計(LiO+NaO+KO)が0.3%以上1.0%以下であるガラスが挙げられる。
以下、各成分の好ましい組成範囲の一実施形態について詳細に説明する。なお、各成分の組成範囲は、以下、特に断りがない場合、酸化物基準のモル%表示とする。
【0032】
SiOは低誘電率化および低誘電損失化させる成分である。また、化学的耐久性を向上させる成分である。そのため、ガラスにSiOを60%以上70%以下含有させることが好ましい。
SiOを60%以上含有させることで、比誘電率および誘電損失が大きくなることを抑制できる。SiOの含有量は、62%以上がより好ましく、63%以上がさらに好ましい。また、SiOの含有量が70%以下であると、十分な焼結性が得られ、優れた強度が得られる。SiOの含有量は、67%以下がより好ましい。
【0033】
は低誘電率化および低誘電損失化させる成分である。また、ガラスの焼成を促進する成分である。そのため、ガラスにBを20%以上30%以下含有させることが好ましい。
を20%以上含有させることで、十分な焼結性が得られ、優れた強度が得られる。Bの含有量は、23%以上がより好ましく、24%以上がさらに好ましい。また、Bが30%以下であれば、ガラスの吸湿性が高くなることを抑制し、化学的耐久性を向上できる。さらに、溶解時のガラスの分相を抑制できる。Bの含有量は26%以下がより好ましい。
【0034】
CaOは、焼成を促進する成分であり、さらに、フィラーとの濡れ性を向上させる成分である。フィラーとの濡れ性を確保することにより、本実施形態のガラスセラミックス組成物を焼成した際により優れた強度が得られる。そのため、CaOの含有量は2%以上6%以下であることが好ましい。
CaOの含有量が2%以上であることで、十分な焼結性が得られ、優れた強度が得られる。CaOの含有量は、3%以上がより好ましい。また、CaOの含有量が6%以下であれば、比誘電率および誘電損失が大きくなることを抑制できる。
【0035】
Alは化学的耐久性を向上し、ガラスを安定化させる成分であるため、ガラスに2%超6%以下含有させることが好ましい。
Alの含有量が2%超であることで、ガラスの分相を抑制し、均質なガラスを容易に製造できる。さらに、ガラスの吸湿性を下げ、化学的耐久性を向上できる。Alの含有量は、3%以上がより好ましい。また、Alの含有量が6%以下であれば、ホウ酸アルミニウム系結晶の析出を抑制できる。Alの含有量は、5.7%以下がより好ましく、5.5%以下がさらに好ましい。
【0036】
LiOはガラスセラミックス組成物の焼成を促進させる成分であり、さらにガラスセラミックス組成物を焼成する際の発泡を抑制する成分である。そのため、LiOの含有量は、0.1%以上1.0%以下であることが好ましい。LiOの含有量が0.1%以上であると、十分な焼結性が得られ、優れた強度が得られる。LiOの含有量は、0.3%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましい。また、比誘電率および誘電損失が大きくなることを抑制する観点から、LiOの含有量は、0.8%以下が好ましく、0.7%以下がより好ましい。
【0037】
NaOはLi同様にガラスセラミックス組成物の焼成を促進させる成分であり、さらにガラスセラミックスを焼成する際の発泡を抑制する成分である。また、LiOとの併用にて混合アルカリ効果が期待され、化学的耐久性等の向上が期待される。そのため、NaOを好ましくは0.9%以下、より好ましくは0.3%以下含有させてもよい。NaOの含有量を0.9%以下とすることで、誘電率および誘電損失が大きくなることを抑制できる。
また、NaOを含有する場合は、上記範囲に加え、LiO含有量に対して、±0.1%の範囲内とすることがより好ましい。
【0038】
OはLi同様にガラスセラミックス組成物の焼成を促進させる成分であり、さらにガラスセラミックス組成物を焼成する際の発泡を抑制する成分である。また、LiOとの併用にて混合アルカリ効果が期待され、化学的耐久性等の向上が期待される。そのため、KOを好ましくは0.9%以下、より好ましくは0.3%以下含有させもよい。KOの含有量を0.9%以下とすることで、比誘電率および誘電損失が大きくなることを抑制できる。また、KOは含有しなくてもよい。
また、KOを含有する場合は、上記範囲に加え、LiOの含有量に対して、±0.1%の範囲内とすることがより好ましい。
【0039】
また、本実施形態において、LiO、NaO、およびKOの含有量の合計(LiO+NaO+KO)は0.3~1.0%であることが好ましい。LiO+NaO+KO)は0.3%以上であることで、低温での焼結性がより向上する。また、ガラスセラミックス組成物を焼成する際の発泡を抑制できる。LiO+NaO+KOは、0.4%以上がより好ましく、0.5%以上がさらに好ましい。また、比誘電率および誘電損失が大きくなることを抑制する観点から、LiO+NaO+KOは、0.8%以下がより好ましく、0.7%以下がさらに好ましい。
【0040】
本実施形態のガラス組成物は、本発明の効果を奏する範囲の含有量であれば、上記以外の成分を含有してもよい。例えば、本実施形態のガラスはMgO、ZnO、CeO、ZrO、CuO、CuO、AgOおよび各種複合酸化物系着色顔料を含有してもよい。なお、これらはあくまで例示であり、本実施形態のガラス組成物が含有しうる他の成分はこれらに限定されない。
含有しうる他の成分の合計の含有量は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。
【0041】
本実施形態のガラスセラミックス組成物において、ガラスの含有量は40~70質量%であることが好ましい。
本実施形態のガラスセラミックス組成物において、ガラスの含有量を40質量%以上とすることにより、良好な焼結性を得ることができる。ガラスの含有量は、45質量%以上がより好ましい。また、本実施形態のガラスセラミックス組成物において、ガラスの含有量を70質量%以下とすることにより、フィラーを十分量含有でき、ガラスセラミックス組成物を焼成した際に十分な強度が得られる。ガラスの含有量は65質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
【0042】
(ガラスの物性)
本実施形態において、フィラーとの均質な混合性の観点から、ガラスは粉末状であることが好ましい。
【0043】
ガラスが粉末状である場合、ガラスのD10は、0.5μm以上2.0μm以下であることが好ましい。ガラスのD10が0.5μm以上であることによりガラス粉末の凝集を抑制できる。ガラスのD10は、0.7μm以上がより好ましい。
また、焼結性の観点から、ガラスのD10は、2.0μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましく、1.0μm以下がさらに好ましい。
【0044】
ガラスが粉末状である場合、ガラスのD50は、0.8μm以上3.0μm以下であることが好ましい。ガラスのD50が0.8μm以上であることによりガラス粉末の凝集や吸湿性を抑制できる。ガラスのD50は、1.0μm以上がより好ましい。
また、焼結性の観点から、ガラスのD50は、3.0μm以下が好ましく、2.0μm以下がより好ましく、1.5μm以下がさらに好ましい。
【0045】
ガラスが粉末状である場合、ガラスのD90は、1.5μm以上5.0μm以下であることが好ましい。ガラスのD90が1.5μm以上であることによりガラス粉末の凝集を抑制できる。ガラスのD90は、1.8μm以上がより好ましく、2.0μm以上がさらに好ましい。
また、焼結性や表面平滑性の観点や多層セラミックス基板作製時の電極間厚み制御の観点から、ガラスのD90は、5.0μm以下が好ましく、3.5μm以下がより好ましく、2.5μm以下がさらに好ましい。
【0046】
上記ガラスのD10、D50、D90は、レーザー回析・散乱式の粒度分布測定器によって求められる。
【0047】
また、本実施形態においてガラスは非晶質であることが好ましい。ここで、非晶質とは、1000℃以下に結晶化温度Tcを持たないことを意味する。結晶化温度Tcは、示差熱分析装置(DTA)によって測定できる。
本実施形態のガラスセラミックス組成物が非晶質であることで、ガラスが結晶化せずに均一に溶融するため、本実施形態のガラスセラミックス組成物を多層セラミックス基板の製造に用いたときに、基板の反りや変形を抑制でき、歩留まりの低下を防げる。さらに、厳密なプロセスコントロールの必要が無く、製造が容易となる。
【0048】
ガラスセラミックス組成物を焼成する際の適した温度は、ガラスの収縮開始温度Sp、軟化点Tsに依存する。なお収縮開始温度Spとは、ガラスの溶解収縮が起こり始める温度であり、示差熱分析(DTA)において第3変曲点を示す温度である。
【0049】
本実施形態において、ガラスの収縮開始温度Spは、650℃以上が好ましい。ガラスの収縮開始温度Spが650℃以上であると、ガラスセラミックス組成物の焼成時において、ガラスセラミックス組成物をスラリー化する際に用いた樹脂成分を十分に分解でき、緻密な焼成体を形成できる。ガラスの収縮開始温度Spは、より好ましくは700℃以上、さらに好ましくは750℃以上である。
また、ガラスセラミックス組成物の焼成温度を低温化する観点から、ガラスの収縮開始温度Spは好ましくは850℃以下、より好ましくは840℃以下、さらに好ましくは830℃以下である。
【0050】
同様の観点より、ガラスの軟化点Tsは、好ましくは800℃以上、より好ましくは820℃以上であり、さらに好ましくは840℃以上である。また、ガラスの軟化点Tsは、好ましくは920℃以下、より好ましくは910℃以下、さらに好ましくは900℃以下である。
【0051】
本実施形態において、ガラスの50~350℃における平均線熱膨張係数(α)は、20×10-7/K以上70×10-7/K以下であることが好ましい。平均線熱膨張係数(α)が上記範囲内であると、高強度フィラーとの線熱膨張係数差を最適な範囲とすることができる。平均線熱膨張係数(α)は、60×10-7/K以下であることがより好ましく、50×10-7/K以下がさらに好ましい。また、当該ガラスセラミックス組成物の焼成体を多層セラミックス基板として用いる際、半導体部品実装時の半導体部品との線熱膨張係数の整合性の観点から、平均線熱膨張係数(α)は、25×10-7/K以上であることがより好ましく、30×10-7/K以上がさらに好ましい。
平均線熱膨張係数(α)は、示差熱膨張計(TMA)を用いて30~360℃の範囲における線熱膨張係数を測定し、JIS R3102(1995年)により50~350℃の範囲における平均線熱膨張係数(α)を測定できる。
【0052】
(ガラスの製造方法)
本実施形態において、ガラスの製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下に示す方法が挙げられる。
【0053】
まず、原料を混合して原料混合物を準備する。原料は、通常の酸化物系ガラスの製造に用いる原料であれば特に限定されず、酸化物や炭酸塩等を使用できる。得られるガラスの組成が上記の範囲となるように、原料の種類および割合を適宜調整して原料混合物とする。
【0054】
次に、原料混合物を加熱して溶融物を得る。加熱の方法は特に限定されず、例えば、バッチ式の溶融炉や連続炉による加熱が挙げられる。
加熱する温度(溶融温度)は、1500℃以上が好ましく、1550℃以上がより好ましく、また、1700℃以下が好ましく、1650℃以下がより好ましい。
加熱する時間は、溶融方法によって適宜調整されるが、例えば、バッチ式の溶融炉で加熱する場合、加熱する時間は、90分以上が好ましく、100分以上がより好ましく、また、180分以下が好ましく、140分以下がより好ましい。
【0055】
その後、溶融物を冷却し固化することにより、ガラスが得られる。冷却方法は特に限定されない。例えば、ロールアウトマシン、プレスマシン等を用いて冷却でき、冷却液体への滴下等により急冷することもできる。
【0056】
こうして得られるガラスは、いかなる形態であってもよい。例えば、ブロック状、板状、薄い板状(フレーク状)、粉末状等であってもよい。
【0057】
なお、ガラスを粉末状にするには、上記で得られるガラスを粉砕して得られる。すなわちガラスの粒径は、粉砕の条件により調整できる。粉砕の方法としては、回転ボールミル、振動ボールミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、媒体撹拌ミル(ビーズミル)、ジョークラッシャー、ロールクラッシャーなどが挙げられる。
【0058】
本実施形態のガラスセラミックス組成物は、本発明の効果を奏する範囲の含有量であれば、上記フィラー及びガラス以外の他の成分を含有してもよい。
他の成分としては、例えば、焼成助剤として作用するガラスフリットや炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、無水ホウ酸、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。なお、上記ガラスフリットとは、焼成助剤として作用するものであるから、本実施形態におけるガラスとは異なるものである。
また、上記他の成分はあくまで例示であり、本実施形態のガラスセラミックス組成物が含有しうる他の成分はこれらに限定されない。
【0059】
本実施形態のガラスセラミックス組成物のガラス転移温度Tgは、500℃以上が好ましい。本実施形態のガラスセラミックス組成物のガラス転移温度Tgが500℃以上であることで、ガラスセラミックス組成物の焼成時において、ガラスセラミックス組成物のスラリー化に用いた樹脂成分が十分に分解され、緻密な焼成体が形成できる。本実施形態のガラスセラミックス組成物のガラス転移温度Tgは、より好ましくは650℃以上である。
また本実施形態のガラスセラミックス組成物のガラス転移温度Tgは、ガラスセラミックス組成物の焼成温度を低温化する観点から、好ましくは700℃以下である。
【0060】
同様の観点より、本実施形態のガラスセラミックス組成物の収縮開始温度Spは、好ましくは650℃以上、より好ましくは700℃以上、さらに好ましくは750℃以上であり、また、好ましくは900℃以下、より好ましくは870℃以下、さらに好ましくは860℃以下である。
【0061】
同様の観点より、本実施形態のガラスセラミックス組成物の軟化点Tsは、好ましくは800℃以上であり、より好ましくは820℃以上、さらに好ましくは840℃以上である。また、好ましくは910℃以下、より好ましくは905℃以下、さらに好ましくは900℃以下である。
【0062】
また、本実施形態のガラスセラミックス組成物のD10は、0.5μm以上2.0μm以下であることが好ましい。ガラスセラミックス組成物のD10が0.5μm以上であることによりスラリーやペーストにした際の増粘を抑制することができ、良好な成形性や印刷性が得られる。
また、焼結性や強度の観点から、ガラスセラミックス組成物のD10は、2.0μm以下が好ましく、1.5μm以下がより好ましく、1.0μm以下がさらに好ましい。
【0063】
本実施形態のガラスセラミックス組成物のD50は、1.0μm以上3.0μm以下であることが好ましい。ガラスセラミックス組成物のD50が1.0μm以上であることによりスラリーやペーストにした際の増粘を抑制することができ、良好な成形性や印刷性が得られる。ガラスセラミックス組成物のD50は、1.1μm以上がより好ましい。
また、焼結性や強度の観点から、ガラスセラミックス組成物のD50は、3.0μm以下が好ましく、2.5μm以下がより好ましく、2.0μm以下がさらに好ましい。
【0064】
本実施形態のガラスセラミックス組成物のD90は、1.5μm以上5.0μm以下であることが好ましい。ガラスセラミックスのD90が1.5μm以上であることによりスラリーやペーストにした際の増粘を抑制することができ、良好な成形性や印刷性が得られる。ガラスセラミックスのD90は、2.0μm以上がより好ましく、2.3μm以上がさらに好ましい。
また、焼結性や表面平滑性の観点や多層セラミックス基板作製時の電極間厚み制御の観点から、ガラスセラミックスのD90は、5.0μm以下が好ましく、4.0μm以下がより好ましく、3.5μm以下がさらに好ましく、3.1μm以下が特に好ましい。
【0065】
上記ガラスセラミックス組成物のD10、D50、D90は、レーザー回析・散乱式の粒度分布測定器によって求められる。
【0066】
本実施形態のガラスセラミックス組成物の50~350℃における平均線熱膨張係数(α)は、80×10-7/K以下であることが好ましい。平均線熱膨張係数(α)が上記範囲内であると、多層セラミックス基板上に実装される半導体素子との熱膨張の整合性が得られる。平均線熱膨張係数(α)は、70×10-7/K以下であることがより好ましく、65×10-7/K以下がさらに好ましく、60×10-7/K以下が特に好ましい。また、多層セラミックス基板に用いられる銀や銅といった金属導体との熱膨張の整合性の観点から、平均線熱膨張係数(α)は、35×10-7/K以上であることが好ましく、40×10-7/K以上がより好ましい。
【0067】
<ガラスセラミックス組成物の製造方法>
本実施形態に係るガラスセラミックス組成物の製造方法は、互いに粒度分布が異なる2種以上のフィラーを混合することで、D5が1.0μm以下であり、D5とD50との比(D5/D50)が0.38以下である混合フィラーを作製し、前記混合フィラーの含有量を30質量%以上とし、前記混合フィラーとガラス粉末とを混合することを含む。
【0068】
D5が1.0μm以下であり、D5/D50が0.38以下となる混合フィラーを作製し、該混合フィラーとガラス粉末を混合することで、焼成した際に優れた強度を示すガラスセラミックス組成物が得られる。
【0069】
フィラーの好ましい態様は、上記フィラーの好ましい態様と同様である。なお、互いに粒度分布の異なる2種以上のフィラーは、同じ種類のフィラーを用いてもよく、異なる種類のフィラーを用いてもよい。
異なる2種類以上のフィラーを用いて混合フィラーを作製する場合、強度の観点から、少なくとも1種のフィラーは上記高強度フィラーであることが好ましい。中でも、粒度分布のピークが最も微粒側に存在するフィラーを、上記高強度フィラーとすることが好ましい。微粒フィラーが高強度フィラーであることで、焼成した際により優れた強度を示すガラスセラミックス組成物が得られる。
また、強度の観点から、異なる2種類以上のフィラーのすべてが高強度フィラーであってもよい。
【0070】
ガラス粉末を構成するガラスの好ましい態様は、上記ガラスの好ましい態様と同様である。
【0071】
混合フィラーの含有量を30質量%以上としてガラス粉末と混合することで、焼成した際に優れた強度を示すガラスセラミックス組成物が得られる。混合フィラーの含有量は、35質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。また、焼結性の観点から、混合フィラーの含有量は60質量%以下が好ましい。
なお、混合フィラーとガラス粉末の混合の方法は特に限定されず、公知の混合方法を採用できる。
【0072】
<焼成体>
本実施形態に係る焼成体は、本実施形態に係るガラスセラミックス組成物を焼成してなる。
【0073】
本実施形態のガラスセラミックス組成物は、実施例の欄に記載の方法で焼成して測定された、870℃で40分間焼成して得られた焼成体の3点曲げ強度が、280MPa以上であることが好ましい。上記870℃で40分間焼成して得られた焼成体の3点曲げ強度が280MPa以上であることで、優れた強度を有することを意味する。3点曲げ強度は、300MPa以上であることがより好ましい。
【0074】
本実施形態のガラスセラミックス組成物は、実施例の欄に記載の方法で焼成して測定された、900℃で30分間焼成して得られた焼成体の3点曲げ強度が、280MPa以上であることが好ましい。上記900℃で30分間焼成して得られた焼成体の3点曲げ強度が280MPa以上であることで、優れた強度を有することを意味する。3点曲げ強度は、300MPa以上であることがより好ましい。
【0075】
3点曲げ強度は、JIS R 1601:2008に準拠して測定でき、詳しくは後述の実施例の方法によって測定できる。
3点曲げ強度を調整する方法としては、フィラーの含有量、D5およびD5/D50を調整する方法や焼成条件を調整、ガラス組成を調整する方法が挙げられる。
【0076】
本実施形態のガラスセラミックス組成物は、実施例の欄に記載の方法で焼成して測定された、870℃で40分間焼成して得られた焼成体(焼成体(A))の1MHzでの比誘電率が7.0未満であることが好ましい。上記焼成体(A)の1MHzでの比誘電率が7.0未満であることで、低損失な多層セラミックス基板を作製できる。上記焼成体の1MHzでの比誘電率は、6.5以下であることがより好ましい。
【0077】
本実施形態のガラスセラミックス組成物は、実施例の欄に記載の方法で焼成して測定された、900℃で30分間焼成して得られた焼成体(焼成体(B))の1MHzでの比誘電率が7.0未満であることが好ましい。上記焼成体(B)の1MHzでの比誘電率が7.0未満であることで、低損失な多層セラミックス基板を作製できる。上記焼成体の1MHzでの比誘電率は、6.5以下であることがより好ましい。
比誘電率を調整する方法としては、フィラーの含有量を調整する方法やガラス組成を調整する方法、フィラー種類を調整する方法が挙げられる。
【0078】
焼成体は、携帯電話、スマートフォンなどの通信デバイスにおける第五世代通信規格(通称5G)に対応するために、特にマイクロ波領域での誘電損失が低いことが望ましい。したがって、本実施形態のガラスセラミックス組成物を870℃で40分間焼成して得られた焼成体(焼成体(A))の高周波での比誘電率が7.0以下であることが好ましく、6.5以下であることがより好ましい。高周波での比誘電率の測定方法は、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
なお、本明細書において高周波とは、14GHz以上であり、14~16GHzの周波数範囲のすべてにおいて、比誘電率が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0079】
また、本実施形態のガラスセラミックス組成物を、900℃で30分間焼成して得られた焼成体(焼成体(B))の高周波での比誘電率が7.0以下であることが好ましく、6.5以下であることがより好ましい。
【0080】
本実施形態の焼成体の製造方法は、本実施形態のガラスセラミックス組成物を焼成することを含む。焼成の方法としては、特に限定されないが、例えばグリーンシート法が挙げられる。以下にグリーンシート法を簡単に説明する。
【0081】
グリーンシート法においては、本実施形態のガラスセラミックス組成物はまず樹脂と混合される。この際、必要に応じて可塑剤等の添加剤が添加されてもよい。次に、溶剤と混合されてスラリー化され、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム上にシート状に成形する。最後に、シート状に成形されたスラリーを乾燥し、溶剤が除去されてグリーンシートとなる。
【0082】
樹脂は特に限定はされず、通常グリーンシート法において用いられるものを用いればよいが、例えばポリビニルブチラール樹脂やアクリル樹脂等を使用できる。
可塑剤も特に限定はされず、通常グリーンシート法において用いられるものを用いればよいが、例えばフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ブチルベンジル等を用使用できる。
溶媒も特に限定されず、通常グリーンシート法において用いられるものを用いればよいが、例えばトルエン、キシレン、ブタノール等を使用できる。
スラリーの成型方法も特に限定されないが、例えばドクターブレード法が挙げられる。
【0083】
その後、グリーンシートが必要に応じて複数枚積層され、また、所望の形状に切断されて、焼成されることにより焼成体(基板)が得られる。
【0084】
なお、グリーンシートには、必要に応じて銀ペーストや銀導体等を用いたスクリーン印刷等によって配線パターンや貫通導体であるビアなどが形成してもよい。また、銀で形成された配線等を保護するためのオーバーコートガラスがスクリーン印刷等によって形成してもよい。
【0085】
焼成温度は、焼成時における銀の拡散による電気特性の低下や、酸化還元による茶変を抑制するために、好ましくは900℃以下である。また、十分に焼成を進行させる観点から、焼成温度は、好ましくは850℃以上、より好ましくは860℃以上である。
また、焼成時間は、例えば20~60分程度である。
【0086】
以上説明したように、本明細書には以下の構成が開示されている。
[1]ガラスと、フィラーと、を含むガラスセラミックス組成物であって、
前記フィラーの含有量が30質量%以上であり、
前記フィラーのD5が1.0μm以下であり、
前記フィラーのD5と前記フィラーのD50との比(D5/D50)が0.38以下である、ガラスセラミックス組成物。
ここで、D5は体積累計5%の粒径を表し、D50は体積累計50%の粒径を表す。
[2]前記フィラーが高強度フィラーを含む、[1]に記載のガラスセラミックス組成物。
ここで、高強度フィラーとは、JIS R 1601:2008に準じて測定される3点曲げ強度が400MPa以上のフィラーである。
[3]前記高強度フィラーがアルミナフィラーを含む、[2]に記載のガラスセラミックス組成物。
[4]前記フィラーは、体積基準の粒度分布曲線において2以上のピークを有し、
前記ピークのうち、最も微粒側に位置するピークは、前記高強度フィラーによるものである、[2]または[3]に記載のガラスセラミックス組成物。
[5]前記フィラーのD90が3.0μm超である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のガラスセラミックス組成物。
ここで、D90は体積累計90%の粒径を表す。
[6]前記フィラーのD50が1.0μm超3.0μm以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のガラスセラミックス組成物。
[7]前記ガラスは非晶質である、[1]~[6]のいずれか1つに記載のガラスセラミックス組成物。
[8]前記ガラスがRO-CaO-Al-B-SiO系ガラス(ただし、ROはLiO、NaO及びKOから選ばれる少なくとも1種)である、[1]~[7]のいずれか1つに記載のガラスセラミックス組成物。
[9]前記ガラスは酸化物基準のモル%表示で、
SiOを60%以上70%以下、
を20%以上30%以下、
CaOを2%以上6%以下、
Alを2%超6%以下含有し、
LiO、NaO、およびKOの含有量の合計(LiO+NaO+KO)が0.3%以上1.0%以下である、[8]に記載のガラスセラミックス組成物。
[10]20℃、1MHzにおける比誘電率が7.0未満である、[1]~[9]のいずれか1つに記載のガラスセラミックス組成物。
[11]ガラスセラミックス組成物の製造方法であって、
互いに粒度分布が異なる2種以上のフィラーを混合することで、D5が1.0μm以下であり、D5とD50との比(D5/D50)が0.38以下である混合フィラーを作製し、
前記混合フィラーの含有量を30質量%以上とし、前記混合フィラーとガラス粉末とを混合することを含む、ガラスセラミックス組成物の製造方法。
ここで、D5は体積累計5%の粒径を表し、D50は体積累計50%の粒径を表す。
[12]前記互いに粒度分布が異なる2種類以上のフィラーのうち少なくとも1種は、高強度フィラーである、[11]に記載のガラスセラミックス組成物の製造方法。
ここで、高強度フィラーとは、JIS R 1601:2008に準じて測定される3点曲げ強度が400MPa以上のフィラーである。
[13][1]~[10]のいずれか1つに記載のガラスセラミックス組成物を焼成することを含む、焼成体の製造方法。
【実施例0087】
以下、本発明に関して実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、下記例において、例1~6が実施例であり、例7~8が比較例である。
【0088】
[ガラスの製造]
表1に示したガラス組成となるようにガラス原料を調合して混合し、1550~1650℃の電気炉中で白金ルツボを用いて2時間溶融し、薄板状ガラスに成形してガラス板を得た。その後、D10、D50、D90が下記表1に示した値となるようにボールミルでガラス板を粉砕し、ガラス粉末を得た。
【0089】
[フィラーの製造]
フィラーとして、図2に示す粒度分布を有するアルミナフィラー(A1)と、図3に示す粒度分布を有するアルミナフィラー(A2)の2種類のフィラーを用意し、下記表1に示す質量比となるようにA1とA2とを混合した。
水に、混合フィラーと、セラミックス用界面活性剤(カルボン酸系共重合体)とを添加し、超音波ホモジナイザーを用いて分散液を作製した。得られた分散液について、レーザー回折粒度分布測定機(マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3300EX2)を用いて測定を行った。また、得られた体積基準の累積粒度分布曲線から、D5、D10、D50、D90をそれぞれ求めた。結果を表1に示す。
ここで、例4のフィラーの粒度分布を図4に示す。
【0090】
[ガラスセラミックス組成物の製造]
上記で得られたガラス粉末と、各フィラーとを、表1に記載の質量比で混合し、アルコール溶剤を用いた湿式ボールミルにて1時間混合し、脱水ろ過、乾燥させることで、各ガラスセラミックス組成物を得た。
【0091】
[評価]
〔軟化点Ts、結晶化温度Tc〕
各ガラスセラミックス組成物について、示差熱分析装置(DTA)(リガク社製、型番TG8110)を用いて軟化点Tsおよび結晶化温度Tc測定した。結果を表1に示す。なお、表中の[-]は、結晶化温度Tcが観察されなかったことを意味する。
【0092】
〔平均線熱膨張係数〕
各ガラスセラミックス組成物について、示差熱膨張計(TMA)を用いて30~360℃の範囲における線熱膨張係数を測定し、JIS R3102(1995年)により50~℃の範囲における平均線熱膨張係数を測定でした。なお、単位は10-7/Kとして表した。
【0093】
(電気特性評価)
〔焼成体の製造条件〕
上記で得られた例1~4および例6~8のガラスセラミックス組成物を、直径30mmの金型に3g入れ、200MPaの圧力で圧粉したものを、室温(20℃)から200℃/minで昇温し、870℃で40分間焼成することで焼成体を得た。
また、例5については、400℃/minで昇温し、900℃で30分間焼成すること以外は上記と同様の方法で焼成体を得た。
上記で得られた焼成体について下記の手順で、比誘電率および誘電損失を測定した。
【0094】
〔1MHzにおける比誘電率および誘電損失〕
上記で得られた焼成体について、LCRメーター(Agilent製、4192A)を用いて、JIS C 2138(2007)に準拠した方法で、1MHzにおける比誘電率および誘電損失を測定した。
【0095】
〔10GHz帯における比誘電率および誘電損失〕
上記で得られた焼成体についてキーサイト・テクノロジー社製PNAネットワークアナライザN5227Aを用いて、JIS R 1627(1996)に準ずる方法にて、表1に記載の測定周波数における比誘電率および誘電損失の測定を行った。
【0096】
(3点曲げ強度評価)
例1~4および例6~8のガラスセラミックス組成物を、まず、長さ55mm×幅9mmの金型に充填し、200MPaの圧力で圧粉成型して圧粉成型体を得た。ここで、ガラスセラミックス組成物(粉末)の量は圧粉後の高さが6mmになるように調整した。その後、室温(20℃)から200℃/minで昇温し、870℃で40分間焼成することで焼成体を得た。
また、例5について、400℃/minで昇温し、900℃で30分間焼成すること以外は上記と同様の方法で焼成体を得た。
得られた焼成体をJIS R 1601:2008に準ずる方法で切断研磨加工し、試験サンプルを作製した。
各試験サンプルについて、JIS R 1601:2008に準拠する3点曲げ強度評価を行った。すなわち、試験サンプルの一辺を2点で支持し、これと対向する辺における上記2点の中間位置に徐々に加重を加えて、試験サンプルが破壊されたときの荷重を測定し、これに基づいて3点曲げ強度(MPa)を算出した。当該曲げ強度を3点測定して平均値(平均曲げ強度)を求めた。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1の結果から、実施例である例1~6のガラスセラミックス組成物は、フィラーのD5が1.0μm以下であり、フィラーのD5とD50との比(D5/D50)が0.38以下であったため、ガラスセラミックス組成物を焼成体としたときに、優れた強度を示した。
また、比較例である例7は、フィラーのD5/D50が0.38超であったため、実施例と比較して焼成体の強度が低かった。また、比較例である例8は、フィラーのD5が1.0μm超であったため、ガラスセラミックス組成物を焼成体としたときに強度が低かった。
図1
図2
図3
図4