(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098908
(43)【公開日】2024-07-24
(54)【発明の名称】音場再現装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04R 3/12 20060101AFI20240717BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20240717BHJP
H04S 7/00 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
H04R3/12 Z
H04R3/00 310
H04S7/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002716
(22)【出願日】2023-01-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100121119
【弁理士】
【氏名又は名称】花村 泰伸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽
【テーマコード(参考)】
5D162
5D220
【Fターム(参考)】
5D162AA05
5D162CD00
5D220AA05
5D220AA16
5D220AB06
(57)【要約】
【課題】所望の音場を再現する際に、スピーカの設置性を向上させると共に、音波の到来方向の制約を緩和する。
【解決手段】音場再現装置1は、円筒上の長手方向に平行に配置された複数のラインアレイスピーカ102により構成される円筒アレイスピーカ101が、聴取者103を取り囲むように配置された状態において、駆動信号算出部10、空間周波数領域逆フーリエ変換部11及び時間周波数領域逆フーリエ変換部12により求めたスピーカ駆動信号を、円筒アレイスピーカ101を構成する個々のスピーカへ出力する。駆動信号算出部10は、所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を入力し、式:
により、駆動信号の円筒調和スペクトルD~
m(k
x,ω)を求める。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒上の長手方向に平行に配置された複数のラインアレイスピーカにより構成される円筒アレイスピーカを用いて、所望音源により形成される音場を再現するための駆動信号を生成する音場再現装置において、
前記複数のラインアレイスピーカのそれぞれがxyz空間上のx軸と平行に配置され、(X,Φ,R)を、前記xyz空間上のx軸である円筒軸の座標値X、z軸を基準とした前記円筒の周方向の角度Φ及び前記円筒の半径方向の距離Rからなる円筒座標系における位置とし、
k
xをx軸方向の波数、ωを角周波数、mを円筒調和スペクトルの次数、r=(x,φ,r)を受音点の前記円筒座標系における位置、r
0=(x
0,φ
0,R
0)を前記ラインアレイスピーカを構成する個々のスピーカの点音源の前記円筒座標系における位置、r-r
0を前記点音源から前記受音点までのベクトル、H
m
(2)をm次第2種ハンケル関数とし、
P
d~
m(k
x,ω)を前記所望音源により形成される所望音場の円筒調和スペクトル、G~
m(k
x,r-r
0,ω)をベクトルr-r
0で表現される方向及び距離の伝達関数の円筒調和スペクトル、D~
m(k
x,ω)を前記駆動信号の円筒調和スペクトルとして、
前記所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)及び前記伝達関数の円筒調和スペクトルG~
m(k
x,r-r
0,ω)に基づいて、前記駆動信号の円筒調和スペクトルD~
m(k
x,ω)を算出する駆動信号算出部と、
前記駆動信号算出部により算出された前記駆動信号の円筒調和スペクトルD~
m(k
x,ω)に対し、x軸方向に離散逆フーリエ変換を行うと共に、前記角度Φ方向に離散逆フーリエ変換を行い、時間周波数領域の駆動信号を求める空間周波数領域逆フーリエ変換部と、
前記空間周波数領域逆フーリエ変換部により求めた前記時間周波数領域の駆動信号に対し、周波数方向に離散逆フーリエ変換を行い、時間領域の駆動信号を求める時間周波数領域逆フーリエ変換部と、を備え、
前記駆動信号算出部は、
前記伝達関数の円筒調和スペクトルG~
m(k
x,r-r
0,ω)として、前記x軸方向の波数k
x、前記ベクトルr-r
0、前記角周波数ω及び前記円筒調和スペクトルの次数mの組み合わせ毎に、以下の式:
により得られるデータ系列が格納されたメモリと、
前記x軸方向の波数k
x、前記角周波数ω及び前記円筒調和スペクトルの次数mの組み合わせ毎のデータ系列からなる前記所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を入力し、前記メモリから前記伝達関数の円筒調和スペクトルG~
m(k
x,r-r
0,ω)を読み出し、2πR
0に前記伝達関数の円筒調和スペクトルG~
m(k
x,r-r
0,ω)を乗算し、以下の除算式:
により、前記x軸方向の波数k
x、前記角周波数ω及び前記円筒調和スペクトルの次数mの組み合わせ毎のデータ系列からなる前記駆動信号の円筒調和スペクトルD~
m(k
x,ω)を求める除算部と、
を備えたことを特徴とする音場再現装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音場再現装置において、
前記所望音場における予め設定された位置r
s=(x
s,φ
s,r
s)に点音源が配置され、前記点音源が音源信号S(ω)にて駆動された音場を再現する場合に、
さらに、前記位置r
s=(x
s,φ
s,r
s)及び前記音源信号S(ω)を入力し、以下の式:
により、前記所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を算出する円筒調和スペクトル算出部を備え、
前記駆動信号算出部に備えた前記除算部は、
前記円筒調和スペクトル算出部により算出された前記所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を入力し、前記除算式により、前記駆動信号の円筒調和スペクトルD~
m(k
x,ω)を求める、ことを特徴とする音場再現装置。
【請求項3】
請求項1に記載の音場再現装置において、
前記所望音場として水平角Θ
s及び天頂角φ
sの方向から強さS(ω)の平面波が到来す音場を再現する場合に、
さらに、前記水平角Θ
s及び前記天頂角φ
s並びに前記平面波の強さS(ω)を入力し、以下の式:
により、前記所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を算出する円筒調和スペクトル算出部を備え、
前記駆動信号算出部に備えた前記除算部は、
前記円筒調和スペクトル算出部により算出された前記所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を入力し、前記除算式により、前記駆動信号の円筒調和スペクトルD~
m(k
x,ω)を求める、ことを特徴とする音場再現装置。
【請求項4】
コンピュータを、請求項1から3までのいずれか一項に記載の音場再現装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のラインアレイスピーカを用いた音場再現装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多数のスピーカを用いて、ある空間に任意の音場を形成する音場再現技術に関する研究が進められている。音場再現の主要な技術としては、波面合成法(WFS:Wave Field Synthesis)、境界音場制御(BoSC:Boundary Surface Control)、高次アンビソニックス(HOA:Higher Order Ambisonics)、スペクトル除算法(SDM:Spectral Division Method)等が知られている。
【0003】
図11は、波面合成法(WFS)におけるスピーカアレイの配置例を示す図である。WFSは、レイリー積分に基づいた手法であり、直線状または平面状に配置されたスピーカアレイ100-1を用いて、所望音場の境界平面上の音圧または音圧勾配を再現することで、境界外部から到来する音源による波面を形成するものである。
【0004】
図12は、境界音場制御(BoSC)におけるスピーカアレイの配置例を示す図である。BoSCは、キルヒホッフ・ヘルムホルツ積分方程式に基づいた手法である。BoSCは、音場を再現したい領域の外部に、領域内部に向けて聴取者を囲むようにスピーカアレイ100-2を配置し、逆システムを用いてその領域の境界面上の音圧及び音圧勾配を制御することで、領域内部に所望音場を再現するものである。
【0005】
図13は、高次アンビソニックス(HOA)におけるスピーカアレイの配置例を示す図である。HOAは、球面調和関数を用いて所望音場を表現し、球面内部に向けて聴取者を囲むように配置した球面のスピーカアレイ100-3を用いて、再現音場の球面調和係数を所望音場の球面調和係数とマッチングさせることで、音場を再現する手法である。HOAの詳細については、例えば非特許文献1を参照されたい
【0006】
図14は、スペクトル除算法(SDM)におけるスピーカアレイの配置例を示す図である。SDMは、角度スペクトルを用いて所望音場を表現し、直線状または平面状に配置されたスピーカアレイ100-4を用いて、再現音場の角度スペクトルを所望音場の角度スペクトルとマッチングさせることで、音場を再現する手法である。SDMの詳細については、例えば非特許文献2を参照されたい。
【0007】
〔SDMにおける駆動信号の算出方法〕
以下、一般的なSDMを用いた音場再現法について説明する。
図15は、SDMにおけるスピーカアレイの配置と再現音場を示す図である。
【0008】
xyz空間上のz=0平面上の直線y=y
0上にスピーカを密に配置し(以下、「ラインアレイスピーカ」という。)、座標r
0=(x
0,y
0,0)に配置されている音源の角周波数ωの駆動信号をD(r
0,ω)とする。この場合の座標r=(x,y
ref,0)の点における音圧P(r,ω)は、以下の式にて表される。
【数1】
【0009】
ここで、G(r-r
0,ω)は、ベクトルr-r
0で表現される方向及び距離の伝達関数である。再現音場として自由音場を想定し、個々のスピーカが点音源と見なせる場合、G(r-r
0,ω)は3次元の自由音場グリーン関数で表現され、以下の式にて表される。
【数2】
kは波数である。
【0010】
音圧P(r,ω)は、点r
0に配置された駆動信号D(r
0,ω)及び伝達関数G(r-r
0,ω)をr
0に沿って空間上で畳み込みしたものと解釈でき、y=y
refにおいてx軸方向に沿ってフーリエ変換することにより、以下の角度スペクトル表現P^(k
x,y
ref,ω)が得られる。以下の説明において、全てが同一平面(z=0平面)上であるとし、z座標の表記は省くものとする。
【数3】
【0011】
P^(kx,yref,ω)は、音圧P(r,ω)をy=yrefで空間フーリエ変換することにより得られる角度スペクトルである。また、D^(kx,y0,ω)は、駆動信号D(r0,ω)をy=y0上で空間フーリエ変換することにより得られる角度スペクトルである。さらに、G^(kx,yref-y0,ω)は、伝達関数G(r-r0,ω)をy=yref上で空間フーリエ変換することにより得られる角度スペクトルである。kxはx軸方向の波数である。
【0012】
ここで、角度スペクトルG^(k
x,y
ref-y
0,ω)は、以下の式にて表される。
【数4】
【0013】
H0
(2)()は0次第2種ハンケル関数であり、K0()は0次変形ベッセル関数である。前記式(4)は、0>k2-kx
2のとき、音源近傍のみに伝搬するエバネッセント波を表しており、エバネッセント波の再現は数値的に不安定になり易いため、一般には省かれることが多い。以下では、0≦k2-kx
2であることを前提に説明する。
【0014】
ここで、波面を再現したい所望音場のy=y
desにおける音圧分布を空間フーリエ変換することにより得られる角度スペクトルをP^
d(k
x,y
des,ω)とすると、所望音場の波面を再現するための駆動信号の角度スペクトルD^(k
x,y
0,ω)は、以下の式にて表される。
【数5】
【0015】
以上より、所望境界y=ydesにおける音圧の角度スペクトルP^d(kx,ydes,ω)を得ることができれば、ラインアレイスピーカを用いて所望音場を合成するための駆動信号の角度スペクトルを取得することができる。
【0016】
所望音場のある点に点音源が配置されている単純な音場を再現する例について説明する。所望音場の座標r
s=(x
s,y
s)に配置された点音源が角周波数ωにおいてS(ω)で駆動された場合、所望音場のy=y
desでの角度スペクトルP^
d(k
x,y
des,ω)は、以下の式にて表される。
【数6】
【0017】
したがって、駆動信号の角度スペクトルD^(k
x,y
0,ω)は、以下の式にて表される。
【数7】
【0018】
さらに、この駆動信号の角度スペクトルD^(kx,y0,ω)をx軸空間方向及び周波数方向で逆フーリエ変換することで、ラインアレイスピーカを構成する各点音源の駆動信号の時系列表現が得られる。
【0019】
以上の例によると、SDMを用いることにより、ユーザが指定する座標に配置される点音源によって形成される音場を再現することができる。ここで導出した駆動信号は、ラインアレイスピーカを用いて、スピーカと同じ高さの水平面上での音場を再現することを想定している。しかし、前述の非特許文献2では、平面上に音源を配置した平面アレイスピーカを想定し、駆動信号の導出法を3次元に拡張することで、高さ方向も含めた音場再現が可能であると説明されている。
【0020】
〔HOAにおける駆動信号の算出方法〕
次に、HOAを用いた音場再現法について説明する。
図16は、HOAにおけるスピーカアレイの配置と再現音場を示す図である。
【0021】
3次元空間において、半径R
0の球面上にスピーカを密に配置し(以下、「球面アレイスピーカ」という。)、極座標r
0=(Θ
0,φ
0,R
0)に配置されているスピーカの角周波数ωの駆動信号をD(r
0,ω)とする。この場合、球面アレイスピーカ内部の空間の極座標r=(Θ,φ,r)における音圧P(r,ω)は、以下の式にて表される。
【数8】
【0022】
ここで、dA(r0)は点r0における球面上の面要素、G(r-r0,ω)はベクトルr-r0で表現される方向及び距離の伝達関数を表している。
【0023】
再現音場として自由音場を想定し、個々のスピーカが点音源と見なせる場合、G(r-r
0,ω)は3次元の自由音場グリーン関数で表現され、以下の式にて表される。
【数9】
kは波数である。
【0024】
前記式(8)は、球面上の駆動信号D(r
0,ω)と伝達関数G(r-r
0,ω)の球面上の畳み込みと解釈でき、音圧P(r,ω)を球面調和関数により級数展開すると、畳み込み定理より、その球面調和スペクトル
は、以下の式にて表される。
【数10】
【0025】
n,mはそれぞれ球面調和展開の次数及び位数、
は駆動信号D(r
0,ω)の球面調和スペクトルを表している。また、
は、球面スピーカアレイの北極r
N=(0,0,R
0)に配置されたスピーカからの伝達関数を座標系原点で球面調和関数により級数展開したときのn次0位の球面調和スペクトルを表しており、具体的には以下の式にて表される。
【数11】
h
n
(2)(r)はn次の2種球ハンケル関数、Y
n
m(Θ,φ)はn次m位の球面調和関数である。
【0026】
ここで、再現したい所望音場の音圧分布を座標系原点周りで球面調和展開することにより得られる球面調和スペクトルをP
n^
m(ω)とすると、所望音場の波面を再現するための駆動信号の球面調和スペクトル
は、以下の式にて表される。
【数12】
【0027】
所望音場のある点に点音源が配置されている単純な音場を再現する例について説明する。所望音場の座標r
s=(Θ
s,φ
s,r
s)に配置された点音源が角周波数ωにおいてS(ω)で駆動された場合、所望音場の球面調和スペクトル
は、以下の式にて表される。
【数13】
【0028】
したがって、このときの駆動信号の球面調和スペクトル
は、以下の式にて表すことができる。
【数14】
【0029】
さらに、この駆動信号の球面調和スペクトル
を空間方向に球面調和関数による逆展開及び周波数方向に逆フーリエ変換することで、球面アレイスピーカを構成する各点音源の駆動信号の時系列表現が得られる。
【0030】
以上の例によると、HOAを用いることにより、ユーザが指定する座標に配置される点音源によって形成される音場を再現することができる。
【0031】
また、前述のSDM、HOA等以外を用いることで音場を再現する手法も知られている。例えば、円筒状に配置されたマイクロホンアレイを用いて音場をキャプチャし、このキャプチャした音場を、1次元の直線スピーカアレイを用いて再現する方法がある(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【非特許文献】
【0033】
【非特許文献1】J.Ahrens and S.Spors,“A Modal Analysis of Spatial Discretization of Spherical Loudspeaker Distributions Used for Sound Field Synthesis”, IEEE Trans. Audio, Speech, Lang. Process., vol. 20, no.9, pp.2564-2574, Nov.2012.
【非特許文献2】J.Ahrens and S.Spors,“Sound field reproduction using planar and linear arrays of loudspeakers”, IEEE Trans. Audio, Speech, Lang. Process., vol.18, no.8, pp.2038-2050, Nov.2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
前述のSDMを用いた音場再現法または前述のHOAを用いた音場再現法を利用することにより、3次元空間における音場再現を実現することが可能である。
【0035】
しかしながら、SDMを用いた音場再現法では、平面上に密に配置したスピーカを用いて所望音場を再現するが、平面上にスピーカを並べることで、装置の規模が肥大化するという問題があった。また、再現される音波が、平面アレイスピーカの配置された面の側から到来するものに制約されてしまうという問題もあった。
【0036】
一方、HOAを用いた音場再現法では、聴取者を取り囲む球面上にスピーカアレイを配置するため、再現する音波の到来方向に制約はないが、スピーカアレイの設置性に難があるという問題があった。
【0037】
そこで、本発明は前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、所望の音場を再現する際に、スピーカの設置性を向上させると共に、音波の到来方向の制約を緩和する音場再現装置及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0038】
前記課題を解決するために、請求項1の音場再現装置は、円筒上の長手方向に平行に配置された複数のラインアレイスピーカにより構成される円筒アレイスピーカを用いて、所望音源により形成される音場を再現するための駆動信号を生成する音場再現装置において、前記複数のラインアレイスピーカのそれぞれがxyz空間上のx軸と平行に配置され、(X,Φ,R)を、前記xyz空間上のx軸である円筒軸の座標値X、z軸を基準とした前記円筒の周方向の角度Φ及び前記円筒の半径方向の距離Rからなる円筒座標系における位置とし、k
xをx軸方向の波数、ωを角周波数、mを円筒調和スペクトルの次数、r=(x,φ,r)を受音点の前記円筒座標系における位置、r
0=(x
0,φ
0,R
0)を前記ラインアレイスピーカを構成する個々のスピーカの点音源の前記円筒座標系における位置、r-r
0を前記点音源から前記受音点までのベクトル、H
m
(2)をm次第2種ハンケル関数とし、P
d~
m(k
x,ω)を前記所望音源により形成される所望音場の円筒調和スペクトル、G~
m(k
x,r-r
0,ω)をベクトルr-r
0で表現される方向及び距離の伝達関数の円筒調和スペクトル、D~
m(k
x,ω)を前記駆動信号の円筒調和スペクトルとして、前記所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)及び前記伝達関数の円筒調和スペクトルG~
m(k
x,r-r
0,ω)に基づいて、前記駆動信号の円筒調和スペクトルD~
m(k
x,ω)を算出する駆動信号算出部と、前記駆動信号算出部により算出された前記駆動信号の円筒調和スペクトルD~
m(k
x,ω)に対し、x軸方向に離散逆フーリエ変換を行うと共に、前記角度Φ方向に離散逆フーリエ変換を行い、時間周波数領域の駆動信号を求める空間周波数領域逆フーリエ変換部と、前記空間周波数領域逆フーリエ変換部により求めた前記時間周波数領域の駆動信号に対し、周波数方向に離散逆フーリエ変換を行い、時間領域の駆動信号を求める時間周波数領域逆フーリエ変換部と、を備え、前記駆動信号算出部が、前記伝達関数の円筒調和スペクトルG~
m(k
x,r-r
0,ω)として、前記x軸方向の波数k
x、前記ベクトルr-r
0、前記角周波数ω及び前記円筒調和スペクトルの次数mの組み合わせ毎に、以下の式:
により得られるデータ系列が格納されたメモリと、前記x軸方向の波数k
x、前記角周波数ω及び前記円筒調和スペクトルの次数mの組み合わせ毎のデータ系列からなる前記所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を入力し、前記メモリから前記伝達関数の円筒調和スペクトルG~
m(k
x,r-r
0,ω)を読み出し、2πR
0に前記伝達関数の円筒調和スペクトルG~
m(k
x,r-r
0,ω)を乗算し、以下の除算式:
により、前記x軸方向の波数k
x、前記角周波数ω及び前記円筒調和スペクトルの次数mの組み合わせ毎のデータ系列からなる前記駆動信号の円筒調和スペクトルD~
m(k
x,ω)を求める除算部と、を備えたことを特徴とする。
【0039】
また、請求項2の音場再現装置は、請求項1に記載の音場再現装置において、前記所望音場における予め設定された位置r
s=(x
s,φ
s,r
s)に点音源が配置され、前記点音源が音源信号S(ω)にて駆動された音場を再現する場合に、さらに、前記位置r
s=(x
s,φ
s,r
s)及び前記音源信号S(ω)を入力し、以下の式:
により、前記所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を算出する円筒調和スペクトル算出部を備え、前記駆動信号算出部に備えた前記除算部が、前記円筒調和スペクトル算出部により算出された前記所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を入力し、前記除算式により、前記駆動信号の円筒調和スペクトルD~
m(k
x,ω)を求める、ことを特徴とする。
【0040】
また、請求項3の音場再現装置は、請求項1に記載の音場再現装置において、前記所望音場として水平角Θ
s及び天頂角φ
sの方向から強さS(ω)の平面波が到来す音場を再現する場合に、さらに、前記水平角Θ
s及び前記天頂角φ
s並びに前記平面波の強さS(ω)を入力し、以下の式:
により、前記所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を算出する円筒調和スペクトル算出部を備え、前記駆動信号算出部に備えた前記除算部が、前記円筒調和スペクトル算出部により算出された前記所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を入力し、前記除算式により、前記駆動信号の円筒調和スペクトルD~
m(k
x,ω)を求める、ことを特徴とする。
【0041】
さらに、請求項4のプログラムは、コンピュータを、請求項1から3までのいずれか一項に記載の音場再現装置として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0042】
以上のように、本発明によれば、所望の音場を再現する際に、スピーカの設置性を向上させると共に、音波の到来方向の制約を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の実施形態にて用いる円筒アレイスピーカの配置例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態における音場の点音源aの位置r
0及び駆動信号D、並びに受音点bの位置r及び音圧P等を説明する図である。
【
図3】本発明の実施形態による音場再現装置の構成例を示すブロック図である。
【
図4】駆動信号算出部の構成例を示すブロック図である。
【
図5】駆動信号算出部の処理例を示すフローチャートである。
【
図6】メモリに格納された所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)等のデータ構成例を示す図である。
【
図7】メモリに格納された伝達関数の円筒調和スペクトルG~
m(k
x,r-r
0,ω)等のデータ構成例を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態による他の音場再現装置の構成例を示すブロック図である。
【
図9】円筒調和スペクトル算出部の第1の処理例を示すフローチャートである。
【
図10】円筒調和スペクトル算出部の第2の処理例を示すフローチャートである。
【
図11】波面合成法(WFS)におけるスピーカアレイの配置例を示す図である。
【
図12】境界音場制御(BoSC)におけるスピーカアレイの配置例を示す図である。
【
図13】高次アンビソニックス(HOA)におけるスピーカアレイの配置例を示す図である。
【
図14】スペクトル除算法(SDM)におけるスピーカアレイの配置例を示す図である。
【
図15】SDMにおけるスピーカアレイの配置と再現音場を示す図である。
【
図16】HOAにおけるスピーカアレイの配置と再現音場を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて詳細に説明する。本発明の実施形態は、聴取者を取り囲むように、複数のラインアレイスピーカを円筒上の長手方向に平行に配置し、複数のラインアレイスピーカにより任意の音場を合成するものである。
【0045】
〔音場再現法〕
まず、本発明の実施形態による音場再現法について説明する。
図1は、本発明の実施形態にて用いる円筒アレイスピーカの配置例を示す図である。本発明の実施形態にて用いる円筒アレイスピーカ101は、円筒上の長手方向に平行に配置された複数のラインアレイスピーカ102により構成され、聴取者103を取り囲むように配置される。複数のラインアレイスピーカ102のそれぞれは、複数のスピーカを直線上に並べたユニットの形態で構成される。ラインアレイスピーカ102を構成する複数のスピーカの数は、ラインアレイスピーカ102間において同じである。
【0046】
本発明の実施形態では、ユニット化された複数のラインアレイスピーカ102を円筒上に並べて円筒アレイスピーカ101を構成し、円筒アレイスピーカ101を用いて任意の音場を合成する。
【0047】
これにより、単体のスピーカが球面上に分散配置されるHOAを用いた音場再現法に比べ、スピーカの設置性を向上させることができる。また、音波の到来方向が平面アレイスピーカの配置された面の側に制約されるSDMを用いた音場再現法に比べ、再現可能な音波の到来方向の制約を受けることがないという利点がある。
【0048】
尚、
図1の例では、複数のラインアレイスピーカ102は、円筒上の長手方向に平行に配置されるようにしたが、等間隔に配置されるようにしてもよいし、等間隔でなくてもよい。
【0049】
図2は、本発明の実施形態における音場の点音源aの位置r
0及び駆動信号D、並びに受音点bの位置r及び音圧P等を説明する図である。
【0050】
図1と同様に、xyz空間において、x軸を円筒軸とした半径R
0の円筒上の長手方向に密にラインアレイスピーカ102が複数配置された円筒アレイスピーカ101が構成されているものとする。つまり、円筒アレイスピーカ101は、x軸方向に伸びた半径R
0の円筒上の中空に配置されており、複数のラインアレイスピーカ102は、x軸に平行に配置されている。例えば、x=0のyz平面上における円筒の円周に設けられたa’の位置のスピーカ、点音源aの位置のスピーカ等により1つのラインアレイスピーカ102が構成される。
【0051】
円筒座標系を(X,Φ,R)で表現するものとし、Xを、x軸における原点からの距離を示す座標値、Φを、z軸を基準とした円筒の周方向の(y軸方向への)角度(x軸周りの角度)、Rを、円筒の半径方向の距離(x軸に対する垂線の距離)とする。
【0052】
円筒座標系で表現したr
0=(x
0,φ
0,R
0)に配置された点音源aが駆動信号D(x
0,φ
0,ω)で駆動される場合、r=(x,φ,r)の受音点bにおける音圧P(r,ω)は、以下で表される。
【数15】
【0053】
ここで、G(r-r
0,ω)は、点音源aから受音点bまでのベクトルr-r
0で表現される方向及び距離の伝達関数である。再現音場として自由音場を想定し、個々のスピーカが点音源と見なせる場合、G(r-r
0,ω)は3次元の自由音場グリーン関数で表現され、以下の式にて表される。
【数16】
kは波数である。
【0054】
前記式(15)の音圧P(r,ω)は、円筒面上の駆動信号D(r
0,ω)及び伝達関数G(r-r
0,ω)の空間上の畳み込みによって得られるものと解釈できる。音圧P(r,ω)をx軸方向にフーリエ変換し、Φ方向にフーリエ級数展開することで、畳み込み定理により、その円筒調和スペクトルP~
m(k
x,ω)は、以下の式にて表される。
【数17】
【0055】
mは円筒調和スペクトルの次数、D~
m(k
x,ω)は駆動信号D(r
0,ω)の円筒調和スペクトルを表している。G~
m(k
x,r-r
0,ω)は、r
N=(0,0,R
0)に配置されたスピーカからの伝達関数を座標系原点で円筒調和関数による級数展開したときの円筒調和スペクトルを表しており、具体的には以下の式にて表される。
【数18】
H
m
(2)()はm次第2種ハンケル関数である。
【0056】
ここで、波面を再現したい所望音場の音圧分布を、座標系原点周りで円筒調和関数による級数展開することにより得られる円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)とすると、所望音場の波面を再現するための駆動信号の円筒調和スペクトルD~
m(k
x,ω)は、以下の式にて表される。
【数19】
【0057】
(点音源の音場を再現する例)
次に、所望音場のある点に点音源が配置されている単純な音場を再現する例について説明する。
【0058】
所望音場のr
s=(x
S,φ
S,r
S)に配置された点音源が角周波数ωにおいてS(ω)で駆動された場合、所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)は、以下の式で表される。
【数20】
【0059】
前記式(20)で算出された円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を前記式(19)に代入することにより、駆動信号の円筒調和スペクトルD~m(kx,ω)が得られる。
【0060】
(平面波が到来する音場を再現する例)
次に、所望音場としてある方向から平面波が到来する音場を再現する例について説明する。
【0061】
水平角Θ
s及び天頂角φ
sの方向から強さS(ω)の平面波が到来する場合、所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)は、以下の式にて表される。
【数21】
【0062】
前記式(21)で算出された円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を前記式(19)に代入することにより、駆動信号の円筒調和スペクトルD~m(kx,ω)が得られる。
【0063】
(中空の円筒マイクロホンアレイにより収録された音圧を用いて音場を再現する例)
次に、x軸方向に伸びた半径Rdの円筒上に配置された中空の円筒マイクロホンアレイによって収録された音圧から、収録した音場の円筒調和スペクトルを取得する方法の一例について説明する。
【0064】
マイクロホンは、x軸方向及びx軸周りのΦ方向に対して連続的に配置されており、x,φ及び時刻tに対して音圧pd(x,φ,t)が取得されるとする。また、マイクロホンは、波長に対して大きさが無視できるほど小さく、音響的に透明であるとみなし、音源は、マイクロホンアレイの外部のみに存在するものとする。
【0065】
この場合、x軸周りの所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)は、マイクロホンアレイで取得した音圧分布を、時間方向にフーリエ変換することで周波数領域に変換し、得られた周波数毎にx軸方向にフーリエ変換及びΦ方向にフーリエ級数展開し、ベッセル関数で正規化することで取得することができる。所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)は、以下の式で表される。
【数22】
F
ωは時間方向のフーリエ変換、F
xはx軸方向のフーリエ変換、J
m()はm次ベッセル関数を表している。
【0066】
前記式(22)で算出された円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を前記式(19)に代入することにより、駆動信号の円筒調和スペクトルD~m(kx,ω)が得られる。
【0067】
このように、前記式(20)~(22)の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を前記式(19)に代入することで得られた駆動信号の円筒調和スペクトルD~m(kx,ω)を、x軸方向に逆フーリエ変換し、Φ方向に円筒調和関数により逆展開し、周波数方向に逆フーリエ変換することで、円筒アレイスピーカ101を構成する各音源の駆動信号の時系列表現が得られる。
【0068】
このように、前記式(19)の駆動信号にて円筒アレイスピーカ101を駆動することにより、所望音場を再現することができる。
【0069】
以上の定式化の処理は、全て連続時間及び連続空間で行ったが、実際の円筒アレイスピーカ101及び計算機での実装を想定すると、両ドメインを離散化及び有限長への打ち切りをする必要がある。フーリエ変換及び逆フーリエ変換の各処理については、適宜DFT(離散フーリエ変換)(FFT(高速フーリエ変換))及びIDFT(離散逆フーリエ変換)(IFFT(逆高速フーリエ変換))への置き換えを行うものとする。また、円筒調和スペクトルの次数mは、理論上無限次まで扱う必要があるが、実際には有限次での打ち切りを行うものとする。
【0070】
尚、時間方向に離散化された音圧信号は、所定のサンプリング周波数及びバッファサイズにてバッファリングして取得されるものとする。バッファリングして取得された音圧信号は、所定のDFT(FFT)長で窓掛けした上でDFT(FFT)され、周波数領域に変換される。ここで、DFT(FFT)長は、前述のバッファサイズよりも長く設定するものとする。
【0071】
ストリーム上に信号が取得される場合は、連続して取得されるバッファサイズ毎の信号に対して所定の長さでオーバーラップ加算しながら処理してもよい。また、このときの窓関数の形状については、オーバーラップ長に応じて適切に選択するものとする。
【0072】
〔音場再現装置〕
次に、本発明の実施形態による音場再現装置について説明する。
図3は、本発明の実施形態による音場再現装置の構成例を示すブロック図である。この音場再現装置1は、
図1及び
図2にて説明した音場再現法を実現する装置であり、駆動信号算出部10、空間周波数領域逆フーリエ変換部11及び時間周波数領域逆フーリエ変換部12を備えている。
【0073】
駆動信号算出部10は、任意の次数Mで打ち切られた所望音場の座標系原点周りの円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を入力する。例えば、円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)の次数m=0,1,・・・とすると、次数m=0,1,・・・,M(Mは0以上の整数)の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)が入力される。円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)は、例えばマイクロホンアレイを用いた測定により取得され、予め設定されているものとする。また、円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)は、計算機を用いた解析的または数値的な計算により取得され、予め設定されているものとしてもよい。
【0074】
駆動信号算出部10は、2πR0に対し、前記式(18)の予め設定された伝達関数の円筒調和スペクトルG~m(kx,r-r0,ω)を乗算し、前記式(19)の除算式により、円筒アレイスピーカ101の駆動信号の円筒調和スペクトルD~m(kx,ω)を算出する。そして、駆動信号算出部10は、駆動信号の円筒調和スペクトルD~m(kx,ω)をスピーカ駆動信号として空間周波数領域逆フーリエ変換部11に出力する。
【0075】
ここで、駆動信号の円筒調和スペクトルD~m(kx,ω)の次数mは、入力された所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)の次数m=0,1,・・・,Mと同一とする。伝達関数の円筒調和スペクトルG~m(kx,r-r0,ω)についても同様とする。駆動信号算出部10の詳細については後述する。
【0076】
空間周波数領域逆フーリエ変換部11は、駆動信号算出部10から、スピーカ駆動信号である駆動信号の円筒調和スペクトルD~m(kx,ω)を入力する。
【0077】
空間周波数領域逆フーリエ変換部11は、駆動信号の円筒調和スペクトルD~m(kx,ω)に対して、円筒アレイスピーカ101を構成する複数のラインアレイスピーカ102のそれぞれにつき、予め設定された当該ラインアレイスピーカ102を構成するx軸方向に配置された音源(スピーカ)の数及び音源間の設置間隔に基づいて、x軸方向に離散逆フーリエ変換を行い、また、予め設定された円筒アレイスピーカ101を構成する複数のラインアレイスピーカ102の数及びx軸周りのΦ方向におけるラインアレイスピーカ102間の設置間隔に基づいて、Φ方向に離散逆フーリエ変換を行うことで、時間周波数領域で表現された円筒アレイスピーカ101を構成する個々の音源の駆動信号を算出する。
【0078】
空間周波数領域逆フーリエ変換部11は、個々の音源の時間周波数領域の駆動信号を、スピーカ駆動信号として時間周波数領域逆フーリエ変換部12に出力する。
【0079】
時間周波数領域逆フーリエ変換部12は、空間周波数領域逆フーリエ変換部11からスピーカ駆動信号である個々の音源毎の時間周波数領域の駆動信号を入力する。
【0080】
時間周波数領域逆フーリエ変換部12は、時間周波数領域の駆動信号に対して、予め設定されたサンプリング周波数及び離散逆フーリエ変換のタップ数に基づいて、周波数方向に離散逆フーリエ変換を行うことで、時間領域で表現された円筒アレイスピーカ101を構成する個々の音源の駆動信号を算出する。
【0081】
時間周波数領域逆フーリエ変換部12は、個々の音源の時間領域の駆動信号をスピーカ駆動信号として、対応する円筒アレイスピーカ101を構成する個々のスピーカへ出力する。
【0082】
(駆動信号算出部10)
次に、
図3に示した駆動信号算出部10について詳細に説明する。
図4は、駆動信号算出部10の構成例を示すブロック図であり、
図5は、駆動信号算出部10の処理例を示すフローチャートである。
【0083】
この駆動信号算出部10は、メモリ20,21及び除算部22を備えている。駆動信号算出部10の図示しない入力部は、所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を入力し(ステップS501)、円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)をメモリ20に格納する。所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)は、(kx,ω,m)の組み合わせ毎のデータ系列として入力される。
【0084】
図6は、メモリ20に格納された所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)等のデータ構成例を示す図である。メモリ20には、x軸方向の波数k
x、角周波数ω及び円筒調和スペクトルの次数m、並びに当該(k
x,ω,m)に対応する所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を組として、複数の組のデータが格納されている。
【0085】
図4及び
図5に戻って、除算部22は、ステップS501から移行して、メモリ20から所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を読み出すと共に、メモリ21から伝達関数の円筒調和スペクトルG~
m(k
x,r-r
0,ω)を読み出す(ステップS502)。メモリ21には、予め設定された伝達関数の円筒調和スペクトルG~
m(k
x,r-r
0,ω)が格納されているものとする。前述のとおり、rは、受音点bの円筒座標系における位置であり、r
0は、個々のスピーカである音源の円筒座標系における位置である。
【0086】
所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)は、(kx,ω,m)の組み合わせ毎のデータ系列として、メモリ20から読み出される。また、伝達関数の円筒調和スペクトルG~m(kx,r-r0,ω)は、(kx,r-r0,ω,m)の組み合わせ毎のデータ系列として、メモリ21から読み出される。
【0087】
図7は、メモリ21に格納された伝達関数の円筒調和スペクトルG~
m(k
x,r-r
0,ω)等のデータ構成例を示す図である。メモリ21には、x軸方向の波数k
x、ベクトルr-r
0、角周波数ω及び円筒調和スペクトルの次数m、並びに当該(k
x,r-r
0,ω,m)に対応する伝達関数の円筒調和スペクトルG~
m(k
x,r-r
0,ω)を組として、複数の組のデータが格納されている。
【0088】
図4及び
図5に戻って、除算部22は、ステップS502から移行して、2πR
0に対し、メモリ21から読み出された伝達関数の円筒調和スペクトルG~
m(k
x,r-r
0,ω)を乗算することで、乗算結果2πR
0G~
m(k
x,r-r
0,ω)を求める。
【0089】
除算部22は、前記式(19)のとおり、(kx,ω,m)の組み合わせ毎に、所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を乗算結果2πR0G~m(kx,r-r0,ω)で除算することで、駆動信号の円筒調和スペクトルD~m(kx,ω)を求める(ステップS503)。駆動信号の円筒調和スペクトルD~m(kx,ω)は、(kx,ω,m)の組み合わせ毎のデータ系列として算出される。
【0090】
除算部22は、駆動信号の円筒調和スペクトルD~m(kx,ω)を、スピーカ駆動信号として空間周波数領域逆フーリエ変換部11に出力する(ステップS504)。
【0091】
以上のように、本発明の実施形態の音場再現装置1によれば、円筒上の長手方向に平行に配置された複数のラインアレイスピーカ102により構成される円筒アレイスピーカ101を、聴取者103を取り囲むように配置した状態において、駆動信号算出部10、空間周波数領域逆フーリエ変換部11及び時間周波数領域逆フーリエ変換部12により求めたスピーカ駆動信号を、円筒アレイスピーカ101を構成する個々のスピーカへ出力するようにした。
【0092】
具体的には、駆動信号算出部10は、所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を入力し、2πR0に対し、設定された伝達関数の円筒調和スペクトルG~m(kx,r-r0,ω)を乗算する。そして、駆動信号算出部10は、前記式(19)の除算式により、所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を乗算結果2πR0G~m(kx,r-r0,ω)で除算することで、駆動信号の円筒調和スペクトルD~m(kx,ω)を求める。
【0093】
空間周波数領域逆フーリエ変換部11は、駆動信号算出部10により求めた駆動信号の円筒調和スペクトルD~m(kx,ω)に対して、予め設定されたラインアレイスピーカ102を構成するx軸方向に配置された音源(スピーカ)の数及び音源間の設置間隔に基づいて、x軸方向に離散逆フーリエ変換を行い、また、予め設定された複数のラインアレイスピーカ102の数及びラインアレイスピーカ102間の設置間隔に基づいて、Φ方向に離散逆フーリエ変換を行うことで、時間周波数領域の駆動信号を算出する。
【0094】
時間周波数領域逆フーリエ変換部12は、空間周波数領域逆フーリエ変換部11により算出された時間周波数領域の駆動信号に対して、予め設定されたサンプリング周波数及び離散逆フーリエ変換のタップ数に基づいて、周波数方向に離散逆フーリエ変換を行うことで、時間領域の駆動信号を、円筒アレイスピーカ101を構成する個々のスピーカへ出力する。
【0095】
これにより、所望の音場を再現する際に、スピーカの設置性を向上させると共に、音波の到来方向の制約を緩和することができる。例えば、単体のスピーカが球面上に分散配置されるHOAを用いた音場再現法に比べ、スピーカの設置性を向上させることができる。また、音波の到来方向が平面アレイスピーカの配置された面の側に制約されるSDMを用いた音場再現法に比べ、再現可能な音波の到来方向の制約を受けることがない。
【0096】
〔音場再現装置/他の例〕
次に、本発明の実施形態による他の音場再現装置について説明する。
図3に示した音場再現装置1において、駆動信号算出部10に入力される所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)は、マイクロホンアレイを用いた測定によって得られる場合と、計算機を用いた解析的または数値的な計算によって得られる場合との2通りが考えられる。本発明による他の音場再現装置では、計算機を用いて、例えば前記式(20)または前記式(21)の解析的または数値的な計算により、所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を求める。
【0097】
図8は、本発明の実施形態による他の音場再現装置の構成例を示すブロック図である。この音場再現装置2は、
図1及び
図2にて説明した音場再現法を実現する装置であり、円筒調和スペクトル算出部13、駆動信号算出部10、空間周波数領域逆フーリエ変換部11及び時間周波数領域逆フーリエ変換部12を備えている。
【0098】
図3に示した音場再現装置1と
図8に示す音場再現装置2とを比較すると、両音場再現装置1,2は、駆動信号算出部10、空間周波数領域逆フーリエ変換部11及び時間周波数領域逆フーリエ変換部12を備えている点で共通する。
【0099】
一方、音場再現装置2は、駆動信号算出部10、空間周波数領域逆フーリエ変換部11及び時間周波数領域逆フーリエ変換部12に加え、さらに円筒調和スペクトル算出部13を備えている点で、円筒調和スペクトル算出部13を備えていない音場再現装置1と相違する。
図8において、
図3と共通する部分には
図3と同一の符号を付し、その詳しい説明は省略する。
【0100】
(点音源の音場を再現する例)
まず、r
s=(x
S,φ
S,r
S)に配置された点音源がS(ω)で駆動されたときの点音源の音場を再現する例について説明する。
図9は、円筒調和スペクトル算出部13の第1の処理例を示すフローチャートであり、点音源の音場を再現する場合を示している。
【0101】
円筒調和スペクトル算出部13は、点音源の位置rs=(xS,φS,rS)を入力すると共に、音源信号S(ω)を入力する(ステップS901)。
【0102】
円筒調和スペクトル算出部13は、前記式(20)により、点音源の位置rs=(xS,φS,rS)、音源信号S(ω)、波数k、x軸方向の波数kx及び円筒調和スペクトルの次数mを用いて、任意の次数Mで打ち切られた所望音場の座標系原点周りの円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を算出する(ステップS902)。この所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)は、(kx,ω,m)の組み合わせ毎のデータ系列である。
【0103】
具体的には、円筒調和スペクトル算出部13は、前記式(20)のとおり、-j(虚数単位)を4で除算して得られた除算結果-j/4、√(k2-kx
2)rsを変数としたm次第2種ハンケル関数Hm
(2)(√(k2-kx
2)rs)、eを-i(kxxS+mφS)乗して得られたべき乗結果e-i(kxxs+mφs)、及びS(ω)を乗算することで、(kx,ω,m)の組み合わせ毎の所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を求める。
【0104】
円筒調和スペクトル算出部13は、所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を駆動信号算出部10に出力する(ステップS903)。
【0105】
(平面波が到来する音場を再現する例)
次に、水平角Θ
s及び天頂角φ
sの方向から強さS(ω)の平面波が到来する音場を再現する例について説明する。
図10は、円筒調和スペクトル算出部13の第2の処理例を示すフローチャートであり、平面波が到来する音場を再現する場合を示している。
【0106】
円筒調和スペクトル算出部13は、平面波の到来方向(Θs,φs)を入力すると共に、音源信号S(ω)を入力する(ステップS1001)。
【0107】
円筒調和スペクトル算出部13は、前記式(21)により、平面波の到来方向(Θs,φs)、音源信号S(ω)、波数k、x軸方向の波数kx及び円筒調和スペクトルの次数mを用いて、任意の次数Mで打ち切られた所望音場の座標系原点周りの円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を算出する(ステップS1002)。この所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)は、(kx,ω,m)の組み合わせ毎のデータ系列である。
【0108】
具体的には、円筒調和スペクトル算出部13は、前記式(21)のとおり、kx=kcosΘsの場合、i(虚数単位)をm乗して得られた第1のべき乗結果、eを-imφs乗して得られた第2のべき乗結果、eをikx乗して得られた第3のべき乗結果、及びS(ω)を乗算することで、(kx,ω,m)の組み合わせ毎の所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を求める。また、円筒調和スペクトル算出部13は、kx=kcosΘs以外の場合、所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)=0とする。
【0109】
円筒調和スペクトル算出部13は、所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を駆動信号算出部10に出力する(ステップS1003)。
【0110】
(中空の円筒マイクロホンアレイにより収録された音圧を用いて音場を再現する例)
尚、マイクロホンアレイにより収録された音圧を用いて音場を再現するようにしてもよい。その一例として、前述の中空の円筒マイクロホンアレイを用いた場合について説明する。この例は、x軸方向に伸びた半径Rdの円筒上に配置された中空の円筒マイクロホンアレイによって収録された音圧pd(x,φ,t)を用いるものである。
【0111】
円筒調和スペクトル算出部13は、中空の円筒マイクロホンアレイによって収録された音圧pd(x,φ,t)を入力する。
【0112】
円筒調和スペクトル算出部13は、前記式(22)により、音圧pd(x,φ,t)、円筒の半径Rd、波数k、x軸方向の波数kx及び円筒調和スペクトルの次数mを用いて、任意の次数Mで打ち切られた所望音場の座標系原点周りの円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を算出する。この所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)は、(kx,ω,m)の組み合わせ毎のデータ系列である。
【0113】
具体的には、円筒調和スペクトル算出部13は、前記式(22)のとおり、音圧pd(x,φ,t)を時間方向にフーリエ変換することで周波数領域の信号を求め、周波数領域の信号をx軸方向にフーリエ変換し、このフーリエ変換の結果に対し、eを-jmφ乗して得られたべき乗結果e-jmφを乗算し、この乗算結果をφ=0~2πで積分し、1/2πに積分結果を乗算することでに第1の結果を求める。また、円筒調和スペクトル算出部13は、√(k2-kx
2)Rdを変数としたm次ベッセル関数Jm(√(k2-kx
2)Rd)を、第2の結果として求める。そして、円筒調和スペクトル算出部13は、第1の結果を第2の結果で除算することで、(kx,ω,m)の組み合わせ毎の所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を求める。
【0114】
円筒調和スペクトル算出部13は、所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を駆動信号算出部10に出力する。
【0115】
以上のように、本発明の実施形態の音場再現装置2によれば、円筒上の長手方向に平行に配置された複数のラインアレイスピーカ102により構成される円筒アレイスピーカ101を、聴取者103を取り囲むように配置した状態において、円筒調和スペクトル算出部13、駆動信号算出部10、空間周波数領域逆フーリエ変換部11及び時間周波数領域逆フーリエ変換部12により求めたスピーカ駆動信号を、円筒アレイスピーカ101を構成する個々のスピーカへ出力するようにした。
【0116】
例えば点音源の音場を再現する場合、円筒調和スペクトル算出部13は、点音源の位置rs=(xS,φS,rS)及び音源信号S(ω)を入力し、前記式(20)により、所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を算出する。
【0117】
また、例えば平面波が到来する音場を再現する場合、円筒調和スペクトル算出部13は、平面波の到来方向(Θs,φs)及び音源信号S(ω)を入力し、前記式(21)により、所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を算出する。
【0118】
また、例えば中空の円筒マイクロホンアレイにより収録された音圧を用いて音場を再現する場合、円筒調和スペクトル算出部13は、中空の円筒マイクロホンアレイによって収録された音圧pd(x,φ,t)を入力し、前記式(22)により、所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を算出する。
【0119】
駆動信号算出部10は、円筒調和スペクトル算出部13により算出された所望音場の円筒調和スペクトルP
d~
m(k
x,ω)を入力し、
図3に示した駆動信号算出部10と同様の処理を行う。空間周波数領域逆フーリエ変換部11及び時間周波数領域逆フーリエ変換部12も、
図3に示した構成部と同様の処理を行う。
【0120】
これにより、前述の音場再現装置1と同様に、所望の音場を再現する際に、スピーカの設置性を向上させると共に、音波の到来方向の制約を緩和することができる。また、点音源の音場を再現する場合または平面波が到来する音場を再現する場合には、マイクロホンアレイを用いて実際に測定を行うことなく、計算機を用いた前記式(20)または前記式(21)の計算により所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を求めることができる。このため、所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)を得るための手間を省くことができる。
【0121】
以上、実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その技術思想を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【0122】
前述の例では、点音源の音場を再現する場合、平面波が到来する音場を再現する場合等について説明した。本発明は、これら以外に、複数の音源が存在する音場を再現する場合、または点音源及び平面波が共存する音場を再現する場合にも適用があり、それぞれの条件下で算出された円筒調和スペクトルを加算したものを、所望音場の円筒調和スペクトルPd~m(kx,ω)とすればよい。
【0123】
尚、本発明の実施形態による音場再現装置1,2のハードウェア構成としては、通常のコンピュータを使用することができる。音場再現装置1,2は、CPU、RAM等の揮発性の記憶媒体、ROM等の不揮発性の記憶媒体、及びインターフェース等を備えたコンピュータによって構成される。
【0124】
音場再現装置1に備えた駆動信号算出部10、空間周波数領域逆フーリエ変換部11及び時間周波数領域逆フーリエ変換部12の各機能は、これらの機能を記述したプログラムをCPUに実行させることによりそれぞれ実現される。
【0125】
また、音場再現装置2に備えた円筒調和スペクトル算出部13、駆動信号算出部10、空間周波数領域逆フーリエ変換部11及び時間周波数領域逆フーリエ変換部12の各機能も、これらの機能を記述したプログラムをCPUに実行させることによりそれぞれ実現される。
【0126】
これらのプログラムは、前記記憶媒体に格納されており、CPUに読み出されて実行される。また、これらのプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク等)、光ディスク(CD-ROM、DVD等)、半導体メモリ等の記憶媒体に格納して頒布することもでき、ネットワークを介して送受信することもできる。
【符号の説明】
【0127】
1,2 音場再現装置
10 駆動信号算出部
11 空間周波数領域逆フーリエ変換部
12 時間周波数領域逆フーリエ変換部
13 円筒調和スペクトル算出部
20,21 メモリ
22 除算部
100 スピーカアレイ
101 円筒アレイスピーカ
102 ラインアレイスピーカ
103 聴取者