IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭硝子株式会社の特許一覧

特開2024-99070薄膜トランジスタおよび薄膜トランジスタを製造する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099070
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】薄膜トランジスタおよび薄膜トランジスタを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/786 20060101AFI20240718BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20240718BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20240718BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
H01L29/78 618B
H01L29/78 618E
H01L29/78 620
H01L21/363
H01L21/306 B
C23C14/08 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021041813
(22)【出願日】2021-03-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】戸田 達也
【テーマコード(参考)】
4K029
5F043
5F103
5F110
【Fターム(参考)】
4K029AA08
4K029BA50
4K029BB02
4K029BB07
4K029BB10
4K029BD01
4K029CA05
4K029CA06
4K029DC35
4K029DC39
5F043AA20
5F043BB12
5F043DD07
5F043DD30
5F103AA08
5F103BB22
5F103DD30
5F103GG01
5F103GG03
5F103HH04
5F103LL13
5F103NN05
5F103NN06
5F103PP03
5F103RR05
5F110AA01
5F110AA14
5F110AA16
5F110AA30
5F110CC07
5F110DD01
5F110DD02
5F110DD12
5F110DD13
5F110DD14
5F110DD15
5F110DD17
5F110EE02
5F110EE03
5F110EE04
5F110EE06
5F110EE07
5F110EE14
5F110EE38
5F110EE43
5F110EE44
5F110FF01
5F110FF02
5F110FF03
5F110FF04
5F110FF09
5F110FF27
5F110FF28
5F110FF29
5F110FF30
5F110GG01
5F110GG06
5F110GG14
5F110GG15
5F110GG16
5F110GG17
5F110GG19
5F110GG25
5F110GG43
5F110GG58
5F110HK02
5F110HK03
5F110HK04
5F110HK06
5F110HK07
5F110HK21
5F110HK33
5F110NN03
5F110NN04
5F110NN22
5F110NN23
5F110NN24
5F110NN34
5F110NN35
5F110QQ05
5F110QQ09
(57)【要約】
【課題】適正にパターン化されたZnGaO系酸化物半導体層を有するTFTを提供する。
【解決手段】ボトムゲート型の薄膜トランジスタであって、ゲート電極の上に配置されたゲート絶縁膜と、該ゲート絶縁膜の上に配置された酸化物半導体層と、前記酸化物半導体層と電気的に接触する第1の電極および第2の電極と、を有し、前記酸化物半導体層は、複数の膜で構成され、前記ゲート電極から近い順に、第1の膜および第2の膜を有し、前記第1の膜は、Ga(ガリウム)とZn(亜鉛)の合計に対するZnのモル比が35%以上、50%未満のZnGaO系酸化物を有し、主として非晶質ZnGaOを含み、前記第2の膜は、前記第1の膜と実質的に同じ組成を有し、主としてZnGa構造のナノ結晶を含み、前記ナノ結晶の(220)面が、前記酸化物半導体層の厚さ方向に垂直に配向している、薄膜トランジスタ。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボトムゲート型の薄膜トランジスタであって、
ゲート電極の上に配置されたゲート絶縁膜と、
該ゲート絶縁膜の上に配置された酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層と電気的に接触する第1の電極および第2の電極と、
を有し、
前記酸化物半導体層は、複数の膜で構成され、前記ゲート電極から近い順に、第1の膜および第2の膜を有し、
前記第1の膜は、Ga(ガリウム)とZn(亜鉛)の合計に対するZnのモル比が35%以上、50%未満のZnGaO系酸化物を有し、主として非晶質ZnGaOを含み、
前記第2の膜は、前記第1の膜と実質的に同じ組成を有し、主としてZnGa構造のナノ結晶を含み、前記ナノ結晶の(220)面が、前記酸化物半導体層の厚さ方向に垂直に配向している、薄膜トランジスタ。
【請求項2】
前記第1の膜の厚さに対する前記第2の膜の厚さの比は、0.5~2.0の範囲である、請求項1に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記第1の膜の厚さは、20nm~60nmの範囲である、請求項1または2に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記第2の膜の厚さは、20nm~60nmの範囲である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記第1の膜および前記第2の膜は、GaとZnの合計に対するZnのモル比が40%以上である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の薄膜トランジスタ。
【請求項6】
ボトムゲート型の薄膜トランジスタを製造する方法であって、
(I)基板の上に、所定のパターンのゲート電極およびゲート絶縁膜を設置する工程と、
(II)前記ゲート絶縁膜の上に、2層構造の酸化物半導体層を設置する工程と、
(III)前記酸化物半導体層を湿式法によりパターン化する工程と、
(IV)前記パターン化された酸化物半導体層と電気的に接続された、第1の電極および第2の電極を設置する工程と、
を有し、
前記(II)の工程は、
(II-i)ZnGaO系酸化物のターゲットを用いたスパッタリングにより、Ga(ガリウム)とZn(亜鉛)の合計に対するZnのモル比が35%以上、50%未満のZnGaO系酸化物の第1の膜を設置する工程であって、前記第1の膜は、主として非晶質ZnGaOを含む、工程と、
(II-ii)ZnGaO系酸化物のターゲットを用いたスパッタリングにより、前記第1の膜の上に、第2の膜を設置する工程であって、前記第2の膜は、前記第1の膜と実質的に同じ組成を有するが、主としてZnGa構造のナノ結晶を含む、工程と、
を有する、方法。
【請求項7】
前記(II-i)の工程は、酸素濃度が1vol%以下の雰囲気において実施される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記(II-ii)の工程は、酸素濃度が10vol%以上の雰囲気において実施される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記(II-ii)の工程では、前記(II-i)において使用されたターゲットと同じターゲットが使用される、請求項6乃至8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
前記(I)および(II)の工程は、同一のチャンバ内で実施される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記(II)の工程は、前記基板を加熱せずに実施される、請求項6乃至10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
前記(III)の工程は、
(III-i)レジストをマスクとして用い、前記酸化物半導体層を湿式エッチング処理し、前記酸化物半導体層のパターンを形成する工程と、
(III-ii)剥離液を用いて、前記レジストを湿式除去する工程と、
を有する、請求項6乃至11のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜トランジスタおよび薄膜トランジスタを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、シリコンに代わる半導体材料として、酸化物半導体が注目されている。例えば、InGaZnO系の酸化物半導体(いわゆるIGZO)は、透明で移動度が高いという特徴を有するため、次世代の薄膜トランジスタ(TFT)における活性層としての適用が進められている。また、IGZOは、オフ電流が低いという特徴を有し、低消費電力ディスプレイへの適用も開始されている。
【0003】
一方で、IGZOは、オフ電流が増大する光リーク電流の問題や、光照射下における負電圧印加の際に、閾値電圧のマイナス方向へのシフトが生じる問題が知られている(例えば、非特許文献1)。このため、例えば、IGZOをTFTに適用した場合、リーク電流が増大し、ディスプレイの表示不良などの不具合が生じ得る。
【0004】
このような問題に対処するため、ZnGaに代表されるZnGaO系材料が新たに注目されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/150351号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.H.Kimら,Ultra-wide bandgap amorphous oxide semiconductors for NBIS-free thin-film transistors,APL Mat.7(2019)022501
【非特許文献2】Y.S.Shenら,Characterizations of Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistors of ZnGaO Grown on Sapphire Substrate,Jornal of The Electron Device Sosiety,5(2017)112
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、TFTにおいて酸化物半導体層のパターンを形成する場合、レジストで構成されたマスクを用いて、酸化物半導体層のエッチング処理(第1処理)を行い、その後、レジストを剥離除去する処理(第2処理)が必要となる。また、実用的な製造プロセスを考慮した場合、このような第1処理および第2処理は、湿式エッチング法で実施する必要がある。
【0008】
第1処理は、プラズマ処理による乾式エッチングで行われる場合もあるが、真空装置内で行うため、工程負荷が大きく、産業上は酸による湿式エッチングが望ましい。例えばIGZOでは、シュウ酸による湿式エッチングが行われる。また第2処理においても、酸素プラズマ処理によるレジスト除去は可能であるが、乾式エッチングと同様に工程負荷が大きく、レジスト残渣も発生するため、有機剥離液による剥離が望ましい。
【0009】
しかしながら、本願発明者の知見によれば、非晶質のZnGa層は、化学的耐久性に乏しく、第1処理において、酸によるエッチングは容易であるが、第2処理において、剥離液に溶解してしまうという問題がある。従って、非晶質のZnGa層をTFTの活性層として適用することは、難しいと考えられる。
【0010】
なお、一般に、薄膜の化学的耐久性は、結晶化により向上する。従って、このような問題に対処するため、ZnGa層を結晶化させることが考えられる。ちなみに、ZnGaは、スピネル型の結晶構造を取る。
【0011】
しかしながら、ZnGa結晶は、化学的耐久性が非常に高いことが知られている。実際に、本願発明者が、十分に結晶化したZnGa層の、酸によるエッチングを試みたところ、シュウ酸はおろか、加熱した王水系エッチャント(塩酸・硝酸の混酸)に含浸しても、ほとんどエッチングされなかった。そのため、例えば非特許文献2においては、塩素系プラズマ処理により、結晶化ZnGa層のエッチングが行われている。前述の通り、乾式法は工程負荷が大きく、産業上望ましくない。
【0012】
このように、実用的な製造プロセスを想定した場合、ZnGa層をパターン化して、TFTの活性層として適用するには、多くの課題が残る。
【0013】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、適正にパターン化されたZnGaO系酸化物半導体層を有するTFTを提供することを目的とする。また、本発明では、実用的なプロセスにより、パターン化されたZnGaO系酸化物半導体層を有するTFTを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、ボトムゲート型の薄膜トランジスタであって、
ゲート電極の上に配置されたゲート絶縁膜と、
該ゲート絶縁膜の上に配置された酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層と電気的に接触する第1の電極および第2の電極と、
を有し、
前記酸化物半導体層は、複数の膜で構成され、前記ゲート電極から近い順に、第1の膜および第2の膜を有し、
前記第1の膜は、Ga(ガリウム)とZn(亜鉛)の合計に対するZnのモル比が35%以上、50%未満のZnGaO系酸化物を有し、主として非晶質ZnGaOを含み、
前記第2の膜は、前記第1の膜と実質的に同じ組成を有し、主としてZnGa構造のナノ結晶を含み、前記ナノ結晶の(220)面が、前記酸化物半導体層の厚さ方向に垂直に配向している、薄膜トランジスタが提供される。
【0015】
また、本発明では、ボトムゲート型の薄膜トランジスタを製造する方法であって、
(I)基板の上に、所定のパターンのゲート電極およびゲート絶縁膜を設置する工程と、
(II)前記ゲート絶縁膜の上に、2層構造の酸化物半導体層を設置する工程と、
(III)前記酸化物半導体層を湿式法によりパターン化する工程と、
(IV)前記パターン化された酸化物半導体層と電気的に接続された、第1の電極および第2の電極を設置する工程と、
を有し、
前記(II)の工程は、
(II-i)ZnGaO系酸化物のターゲットを用いたスパッタリングにより、Ga(ガリウム)とZn(亜鉛)の合計に対するZnのモル比が35%以上、50%未満のZnGaO系酸化物の第1の膜を設置する工程であって、前記第1の膜は、主として非晶質ZnGaOを含む、工程と、
(II-ii)ZnGaO系酸化物のターゲットを用いたスパッタリングにより、前記第1の膜の上に、第2の膜を設置する工程であって、前記第2の膜は、前記第1の膜と実質的に同じ組成を有するが、主としてZnGa構造のナノ結晶を含む、工程と、
を有する、方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、適正にパターン化されたZnGaO系酸化物半導体層を有するTFTを提供することができる。また、本発明では、実用的なプロセスにより、パターン化されたZnGaO系酸化物半導体層を有するTFTを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】被処理基板の上に、パターン化された酸化物半導体層を形成するまでの工程の一例を模式的に示した図である。
図2】被処理基板の上に、パターン化された酸化物半導体層を形成するまでの工程の一例を模式的に示した図である。
図3】被処理基板の上に、パターン化された酸化物半導体層を形成するまでの工程の一例を模式的に示した図である。
図4】本発明の一実施形態によるTFTの構成の一例を模式的に示した断面図である。
図5】本発明の一実施形態によるTFTを製造する方法のフローの一例を模式的に示した図である。
図6】本発明の一実施形態によるTFTを製造する方法の一工程を模式的に示した図である。
図7】本発明の一実施形態によるTFTを製造する方法の一工程を模式的に示した図である。
図8】本発明の一実施形態によるTFTを製造する方法の一工程を模式的に示した図である。
図9】本発明の一実施形態によるTFTを製造する方法の一工程を模式的に示した図である。
図10】各サンプルにおけるX線回折2θ/θ測定の結果をまとめて示した図である。
図11】サンプル1Aの断面におけるTEM観察結果の一例を示した図である。
図12】サンプル11Aの断面におけるTEM観察結果の一例を示した図である。
図13】サンプル1Aの断面において得られた電子線回折分析結果の一例を示した図である。
図14】サンプル11Aの断面において得られた電子線回折分析結果の一例を示した図である。
図15】素子1の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
図16図15における枠内の拡大TEM写真である。
図17】素子1の酸化物半導体層の第1の膜の断面における電子線回折パターンを示した図である。
図18】素子1の酸化物半導体層の第2の膜の断面における電子線回折パターンを示した図である。
図19】素子1の酸化物半導体層の深さ方向におけるエネルギー分散型X線(EDX)分析結果を示した図である。
図20】素子1において得られた暗状態でのTFT特性を示した図である。
図21】素子11において得られた暗状態でのTFT特性を示した図である。
図22】素子12において得られた暗状態でのTFT特性を示した図である。
図23】素子1の光照射下負ゲートバイアス熱ストレス(NBTIS)試験におけるTFT特性の変化を示した図である。
図24】素子11のNBTIS試験におけるTFT特性の変化を示した図である。
図25】素子12のNBTIS試験におけるTFT特性の変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0019】
本発明の一実施形態によるTFTの特徴をより良く理解するため、まず、図1図3を参照して、従来の問題について説明する。
【0020】
図1図3には、被処理基板の上に、パターン化された酸化物半導体層を形成する工程を模式的に示す。
【0021】
図1に示すように、パターン化された酸化物半導体層を形成する際には、まず、被処理基板1の上に、パターン化される前の酸化物半導体層2が成膜される。また、酸化物半導体層2の上に、所望のパターンでレジスト3が設置される。
【0022】
次に、レジスト3をマスクとして、酸化物半導体層2がエッチング処理される(エッチング工程)。これにより、図2に示すような、レジスト3と酸化物半導体層2のパターンが形成される。
【0023】
次に、レジスト3が剥離除去され(剥離工程)、図3に示すような、酸化物半導体層2のパターンが得られる。
【0024】
ここで、実用的な製造プロセスを考慮した場合、酸化物半導体層2のエッチング処理およびレジスト3の剥離処理は、湿式法で実施することが望ましい。乾式法は複雑な構成の真空装置が必要な上、工程負荷が大きく生産コストが高くなるためである。
【0025】
しかしながら、本願発明者は、酸化物半導体層2が非晶質のZnGa層で構成される場合、レジスト3の剥離処理の際に、ZnGa層が剥離液に溶解することに気付いた。従って、湿式法では、剥離工程において、非晶質のZnGa層に対してレジスト3の剥離処理を実施することは難しいと考えられる。
【0026】
なお、このような問題に対処するため、ZnGa層を結晶化させることが考えられる。しかしながら、スピネル型構造であるZnGa結晶は、化学的耐久性が非常に高いことが知られており、本願発明者が十分に結晶化したZnGa層の酸によるエッチングを試みたところ、強酸である王水系エッチャント(塩酸・硝酸の混酸)を用いても、ZnGa結晶層はエッチングされなかった。このように、ZnGa層は、非晶質および結晶質のいずれにおいても、湿式法により適正にパターン化することは難しいという問題がある。このため、湿式法を含む実用的な製造プロセスで、ZnGa層を有するTFTを製造することは難しいと考えられる。
【0027】
本願発明者は、このような問題に気付き、湿式法を用いて、ZnGaO系の酸化物半導体層をパターン化する方策について、鋭意研究開発を実施してきた。そして、本願発明者は、ZnGaO系に含まれる亜鉛の量を、化学量論組成であるZnGa(Zn=33mol%)よりも高めた場合、結晶サイズが微細化され、特定の方向に強く配向されたZnGa構造のナノ結晶が得られることを見出した。
【0028】
また、本願発明者は、そのような微細な結晶により構成されるZnGaO系酸化物半導体の膜(以下、「ZnGaOナノ結晶化膜」と称する)は、前述の湿式エッチング工程により適正にエッチング加工できること、および前述の剥離工程において、剥離液に対して有意に耐性を有することを見出した。
【0029】
ただし、その後の研究により、ZnGaOナノ結晶化膜を活性層に用いたTFTは、ZnGaO非晶質膜を活性層に用いたTFTに比べ、電界効果移動度および光照射下での特性安定性に劣ることが判明した。
【0030】
この新たに生じた問題に対し、本願発明者は、さらなる検討を進めた。そして、活性層をZnGaO非晶質膜と、ZnGaOナノ結晶化膜からなる2層構造とすることにより、TFT特性および光照射下での特性安定性が有意に改善できることを見出し、本願発明に至った。
【0031】
すなわち、本発明の一実施形態では、ボトムゲート型の薄膜トランジスタであって、
ゲート電極の上に配置されたゲート絶縁膜と、
該ゲート絶縁膜の上に配置された酸化物半導体層と、
前記酸化物半導体層と電気的に接触する第1の電極および第2の電極と、
を有し、
前記酸化物半導体層は、複数の膜で構成され、前記ゲート電極から近い順に、第1の膜および第2の膜を有し、
前記第1の膜は、Ga(ガリウム)とZn(亜鉛)の合計に対するZnのモル比が35%以上、50%未満のZnGaO系酸化物を有し、主として非晶質ZnGaOを含み、
前記第2の膜は、前記第1の膜と実質的に同じ組成を有し、主としてZnGa構造のナノ結晶を含み、前記ナノ結晶の(220)面が、前記酸化物半導体層の厚さ方向に垂直に配向している、薄膜トランジスタが提供される。
【0032】
本願において、「ナノ結晶」とは、「シェラー径」が5nm以下の結晶を意味する。
【0033】
また、「シェラー径」とは、X線回折結果から、下記の(1)式(シェラーの式)により求められる結晶子径Lを意味し、

L=Kλ/(βcosθ) (1)式

ここで、Kはシェラー定数、λはX線波長、βは半値幅、θはピーク位置である。例えば、X線波長λが0.154nmのとき、シェラー定数Kは0.9となる。
【0034】
また、本願において、2つの膜の組成が「実質的に同じ」とは、一方の膜における各主要成分元素の濃度が、他方の膜における同じ主要成分元素の±濃度の2%以内に含まれることを意味する。ZnGaO系酸化物の場合、主要成分元素は、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)および酸素(O)である。
【0035】
本発明の一実施形態では、酸化物半導体層は、少なくとも2つの膜で構成される。すなわち、酸化物半導体層は、下側の第1の膜と、上側の第2の膜とを有する。
【0036】
第1の膜と第2の膜は、実質的に等しい組成を有する。すなわち、第1の膜および第2の膜は、それぞれ、Ga(ガリウム)とZn(亜鉛)の合計に対するZnのモル比(以下、「Zn/(Ga+Zn)」で表す)が35%以上、50%未満のZnGaO系酸化物で構成される。
【0037】
ただし、第1の膜は、ZnGaO非晶質膜である。「ZnGaO非晶質膜」とは、主として非晶質ZnGaOにより構成される膜という意味であり、具体的には、XRD2θ/θ測定において、膜に由来した回折ピークが確認されない膜、あるいは膜断面において、膜全体に占める非晶質相の割合が80%以上である膜として定義される。
【0038】
一方、第2の膜は、ZnGaOナノ結晶化膜である。「ZnGaOナノ結晶化膜」とは、主としてZnGa構造のナノ結晶により構成される膜という意味であり、具体的には、XRD2θ/θ測定において、前述のナノ結晶に当てはまる回折ピークが確認される膜、あるいは膜断面において、膜全体に占めるナノ結晶相の割合が80%以上である膜として定義される。
【0039】
すなわち、第1の膜は、ZnGaOナノ結晶を、第2の膜は非晶質ZnGaOをそれぞれ局所的に含んでも良いが、第1の膜に含まれるZnGaO非晶質相の割合は、第2の膜に比べて有意に高く、反対に第2の膜に含まれるZnGaOナノ結晶相の割合は、第1の膜に比べて有意に高い。
【0040】
ZnGaO系酸化物層において、Zn/(Ga+Zn)を35%以上とすることにより、前述のように、ZnGa(220)面が、厚さ方向に垂直に配向したナノ結晶が得られる。さらに、膜に含まれる非晶質相とナノ結晶相の割合は、成膜時の酸素流量比により任意に制御できる。具体的には、酸素分圧を1vol%以下にした場合、主として非晶質のZnGaOにより構成される第1の膜が得られる。逆に、酸素分圧を1vol%超にした場合、主としてZnGaOナノ結晶により構成される第2の膜が得られる。すなわち、成膜時の酸素流量比を変えることにより、単一のスパッタリングターゲットならびに成膜装置を用いて、第1および第2の膜からなる2層構造の酸化物半導体層を、連続的に形成することができる。
【0041】
なお、ZnGaO系酸化物において、Zn/(Ga+Zn)が50%を超えると、酸素分圧を1vol%以下にしても、ZnGaO非晶質膜を形成することは難しくなる。さらに後述するように、第1の膜および第2の膜において、Zn/(Ga+Zn)が50%を超えると、TFT特性ならびに光照射下での特性安定性が低下する。このため、本発明の一実施形態では、第1の膜および第2の膜は、Zn/(Ga+Zn)が50%未満となるように調整される。
【0042】
本発明の一実施形態によるTFTでは、酸化物半導体層の第1の膜は、ZnGaO非晶質膜である。このため、第1の膜は、前述の湿式エッチング工程により、適正にエッチングすることができる。
【0043】
また、第2の膜は、ZnGaOナノ結晶化膜である。前述のように、第2の膜は、湿式エッチング工程により、適正にパターン化することができる。第2の膜は、さらにその後の剥離工程において、剥離液に対して有意な耐性を有する。このため、第1の膜の上に第2の膜を設置することにより、酸化物半導体層を湿式エッチングする際に、第2の膜を、第1の膜のバリア層として利用することができる。従って、非晶質の第1の膜が剥離液により溶解するという問題を有意に抑制することができる。
【0044】
以上の効果により、本発明の一実施形態によるTFTでは、第1および第2の膜からなる2層構造の酸化物半導体層を、湿式処理を用いた実用的なプロセスにより、一括パターニングすることが可能である。
【0045】
また、本発明の一実施形態によるTFTでは、酸化物半導体層は、電界効果移動度並びに光照射下での特性安定性が比較的優れる非晶質の第1の膜を有する。前述のとおり、第1の膜と第2の膜からなる酸化物半導体層は、単一ターゲットおよび成膜装置による連続形成と、湿式法による一括パターニングが可能である。従って、本発明の一実施形態によるTFTでは、酸化物半導体層としてZnGaOナノ結晶化膜のみを適用した場合に比べて、大幅な工程追加を伴うことなく、TFT特性ならびに光照射下での特性安定性を有意に改善することができる。
【0046】
また、本発明の一実施形態では、ボトムゲート型の薄膜トランジスタを製造する方法であって、
(I)基板の上に、所定のパターンのゲート電極およびゲート絶縁膜を設置する工程と、
(II)前記ゲート絶縁膜の上に、2層構造の酸化物半導体層を設置する工程と、
(III)前記酸化物半導体層を湿式法によりパターン化する工程と、
(IV)前記パターン化された酸化物半導体層と電気的に接続された、第1の電極および第2の電極を設置する工程と、
を有し、
前記(II)の工程は、
(II-i)ZnGaO系酸化物のターゲットを用いたスパッタリングにより、Ga(ガリウム)とZn(亜鉛)の合計に対するZnのモル比が35%以上、50%未満のZnGaO系酸化物の第1の膜を設置する工程であって、前記第1の膜は、主として非晶質ZnGaOを含む、工程と、
(II-ii)ZnGaO系酸化物のターゲットを用いたスパッタリングにより、前記第1の膜の上に、第2の膜を設置する工程であって、前記第2の膜は、前記第1の膜と実質的に同じ組成を有するが、主としてZnGa構造のナノ結晶を有する、工程と、
を有する、方法が提供される。
【0047】
本発明の一実施形態による製造方法では、第1の膜および第2の膜は、同一の組成のターゲットを用いたスパッタリング法により成膜される。
【0048】
前述のように、ターゲットにおけるZn/(Ga+Zn)を35%以上とすることにより、酸素分圧が1vol%超の環境下で成膜した際に、膜に含まれる結晶を微細化させ、ZnGaOナノ結晶化膜を形成することができる。
【0049】
また、前述のように、ターゲットの組成が実質的に同じ場合であっても、スパッタの際の酸素分圧を制御することにより、膜に含まれるZnGaO非晶質相とZnGaOナノ結晶相の割合を任意に調整することができる。
【0050】
従って、本発明の一実施形態による製造方法では、同一の装置内で、同一のターゲットを用い、スパッタリング処理を行う際に、酸素分圧を切り換えることにより、第1の膜と第2の膜とを連続的に形成することができる。この場合、TFTの製造工程の効率化や製造コストの抑制が可能となる。
【0051】
本発明の一実施形態による製造方法では、レジストを介した湿式エッチング工程において、酸化物半導体層を適正にパターン化することができる。また、その後、剥離液を用いてレジストを除去する工程において、酸化物半導体層が剥離液に溶解するという問題も、有意に抑制することができる。また、第1の膜と第2の膜の積層膜は湿式法による一括パターニングが可能であるため、TFT製造工程の煩雑化による製造コスト上昇を伴わない。
【0052】
(本発明の一実施形態によるTFT)
次に、図面を参照して、本発明の一実施形態によるTFTの一構成例について、より具体的に説明する。
【0053】
図4には、本発明の一実施形態によるTFTの断面の一例を模式的に示す。
【0054】
図4に示すように、本発明の一実施形態によるTFT(以下、「第1のTFT」と称する)100は、ボトムゲート型のTFTとして構成される。
【0055】
具体的には、第1のTFT100は、基板110の上に、バリア層120、ゲート電極130、ゲート絶縁膜140、酸化物半導体層150、第1の電極(ソースまたはドレイン)160、第2の電極(ドレインまたはソース)162、およびパッシベーション層180の各層が配置されて構成される。
【0056】
基板110は、例えば、ガラス基板、セラミック基板、プラスチック基板、または樹脂基板などの絶縁基板である。また、基板110は、透明な基板であってもよい。
【0057】
バリア層120は、例えば、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、またはこれらの組み合わせなどで構成される。バリア層120は、多層構造であってもよい。
【0058】
ただし、バリア層120は必須の構成ではなく、不要な場合、省略してもよい。
【0059】
ゲート絶縁膜140は、例えば、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素、およびアルミナなど、無機絶縁材料で構成される。ゲート絶縁膜140は、多層構造であってもよい。
【0060】
酸化物半導体層150は、ZnGaO系酸化物で構成される。酸化物半導体層150の厚さは、例えば、40nm~100nmの範囲である。
【0061】
第1および第2の電極160、162、ならびにゲート電極130は、例えばチタン、モリブデン、アルミニウム、銅および銀のような金属、または他の導電性材料で構成される。第1および第2の電極160、162、ならびにゲート電極130は、多層構造であってもよい。
【0062】
パッシベーション層180は、素子を保護する役割を有し、例えば、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素、およびアルミナなどで構成される。パッシベーション層180は、多層構造であってもよい。
【0063】
ここで、第1のTFT100において、酸化物半導体層150は、前述の特徴を有する。
【0064】
すなわち、酸化物半導体層150は、少なくとも第1の膜152および第2の膜154を有する。第1の膜152は、Zn/(Ga+Zn)が35%以上、50%未満であり、主として非晶質ZnGaOにより構成されるという特徴を有する。また、第2の膜154は、Zn/(Ga+Zn)が35%以上、50%未満であり、主としてZnGa構造のナノ結晶により構成されるという特徴を有する。
【0065】
このため、酸化物半導体層150は、湿式エッチング法を含む実用的なプロセスにより、製造することができる。すなわち、酸化物半導体層150は、リソグラフィ法を用いた従来の湿式エッチング工程、およびフォトレジストに対する従来の湿式剥離工程を経て、一括パターニングすることができる。
【0066】
また、第1のTFT100では、酸化物半導体層150は、非晶質の第1の膜152を有する。このため、第1のTFT100では、酸化物半導体層150が第2の膜154のみで構成された場合に比べて、良好なTFT特性を得ることができる。
【0067】
なお、酸化物半導体層として、Zn/(Ga+Zn)=33%、すなわち化学量論組成のZnGaの層を形成した場合、層の厚さに垂直な方向における結晶面は、ZnGa[111]方向に配向される。
【0068】
これに対して、第1のTFT100では、酸化物半導体層150の第2の膜154に含まれるナノ結晶は、厚さに垂直な方向における結晶面がZnGa[220]方向に配向される。
【0069】
酸化物半導体層150において、第1の膜152の厚さは、例えば、20nm~60nmの範囲である。
【0070】
第2の膜154は、第1の膜152と同様の厚さを有しても、異なる厚さを有してもよい。ただし、第2の膜154の厚さが20nm未満では、十分な剥離液耐性を有しない。一方で、第1の膜152の厚さに対して第2の膜154の厚さが極端に厚くなると、第1のTFT100の特性が低下するおそれがある。従って、第1の膜152の厚さに対する第2の膜154の厚さは、0.5~2.0の範囲であることが好ましい。
【0071】
(本発明の一実施形態によるTFTの製造方法)
次に、図5を参照して、本発明の一実施形態によるTFTの製造方法について説明する。
【0072】
図5には、本発明の一実施形態によるTFTの製造方法(以下、「第1の製造方法」と称する)のフローを模式的に示す。
【0073】
図5に示すように、第1の製造方法は、
基板の上に、ゲート電極およびゲート絶縁膜を設置する工程(工程S110)と、
前記ゲート絶縁膜の上に、酸化物半導体層を設置する工程(工程S120)と、
前記酸化物半導体層をパターン化する工程(工程S130)と、
前記パターン化された酸化物半導体層の上に、第1の電極および第2の電極を設置する工程(工程S140)と、
を有する。
【0074】
以下、各工程について説明する。なお、ここでは、第1の製造方法により製造されるTFTとして、前述の第1のTFT100を想定する。従って、TFTの各部材を表す際には、図4に示した参照符号が使用される。
【0075】
(工程S110)
まず、基板110が準備される。基板110は、特に限られないが、例えば、ガラス基板などであってもよい。
【0076】
基板110の上には、単層または複層のバリア層120が設置されていてもよい。バリア層120は、例えば、窒化ケイ素および/または酸化ケイ素で構成されてもよい。
【0077】
次に、基板110(またはバリア層120)の上に、ゲート電極用の材料が設置される。
【0078】
ゲート電極用の材料は、例えば、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、アルミ(Al)、銅(Cu)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)またはそれらを含む複合材料および/または合金で構成されてもよい。
【0079】
ゲート電極用の材料の設置方法は、特に限られない。ゲート電極用の材料は、スパッタ法および蒸着法など、従来の成膜方法により形成されてもよい。
【0080】
その後、ゲート電極用の材料をパターン処理することにより、ゲート電極130が形成される。なお、ゲート電極130は、積層膜であってもよい。
【0081】
ゲート電極130の厚さは、例えば、30nmから600nmの範囲である。
【0082】
次に、ゲート電極130上にゲート絶縁膜140が成膜される。ゲート絶縁膜140は、酸化ケイ素や窒化ケイ素等で構成されてもよい。
【0083】
ゲート絶縁膜140の成膜方法は、特に限られない。ゲート絶縁膜140は、例えば、スパッタ法、パルスレーザーデポジション法、常圧CVD法、減圧CVD法、およびプラズマCVD法などの成膜技術を用いて成膜してもよい。ゲート絶縁膜140の厚さは、例えば、30nmから600nmの範囲である。
【0084】
その後、ゲート絶縁膜140に、ゲート電極130に対するコンタクトホールを形成してもよい。
【0085】
図6には、工程S110後に得られる断面構造の一例を模式的に示した。
【0086】
(工程S120)
次に、ゲート絶縁膜140の上に、未パターン化状態の酸化物半導体層(以下「未処理膜」と称する)が設置される。
【0087】
図7には、ゲート絶縁膜140の上に未処理膜149が設置された状態の一例を模式的に示す。
【0088】
未処理膜149は、下側の第1の未処理膜149Aと、上側の第2の未処理膜149Bとを有する。
【0089】
第1の未処理膜149Aおよび第2の未処理膜149Bは、いずれもZn/(Ga+Zn)が35%以上、50%未満のZnGaO系材料で構成される。ただし、第1の未処理膜149Aは、ZnGaO非晶質膜で構成される。一方、第2の未処理膜149Bは、ZnGaOナノ結晶化膜で構成される。
【0090】
未処理膜149は、例えば、スパッタリング法を用いて成膜される。スパッタリングターゲットとしては、例えば、Zn/(Ga+Zn)が35%以上、50%未満のZnGaO系材料が使用される。
【0091】
なお、第1の未処理膜149Aと第2の未処理膜149Bは、同一のターゲットを使用して、連続的に成膜されてもよい。
【0092】
この場合、スパッタリング処理の際の酸素分圧を制御することにより、同一の装置内で、同一のターゲットを用いて、第1の未処理膜149Aおよび第2の未処理膜149Bを連続的に形成することができる。
【0093】
例えば、第1の未処理膜149Aは、酸素濃度が1vol%以下の雰囲気で成膜される。一方、第2の未処理膜149Bは、酸素濃度が1vol%超の雰囲気で成膜される。第2の未処理膜149Bは、酸素濃度が5vol%以上、例えば10vol%以上の雰囲気で成膜されてもよい。
【0094】
ここで、第1の未処理膜149Aおよび第2の未処理膜149Bの成膜の際に、基板110は加熱しないことが好ましい。
【0095】
ZnGaO系酸化物中の亜鉛は、揮発しやすく、基板110を加熱した状態で第1の未処理膜149Aおよび第2の未処理膜149Bを成膜すると、亜鉛成分のみが揮発してしまう傾向があるためである。この場合、得られる第1の未処理膜149Aおよび第2の未処理膜149Bの組成が所望の範囲からずれてしまう可能性が高くなる。さらに、基板加熱により膜の結晶化が促進されてしまうため、基板110を加熱した状態で第1の未処理膜149Aを成膜した場合、酸素濃度が1vol%以下の雰囲気で成膜しても、非晶質膜が得られない。
【0096】
これに対して、基板110を加熱せずに第1の未処理膜149Aおよび第2の未処理膜149Bを成膜した場合、スパッタリングターゲットの組成とほぼ等しい組成かつ、非晶質膜である第1の未処理膜149Aと、ナノ結晶化膜である第2の未処理膜149Bを得ることができる。
【0097】
なお、前述のように、本工程で成膜される第2の未処理膜149Bにおいて、含まれるナノ結晶は、厚さに垂直な方向における結晶面がZnGa[220]方向に配向される。
【0098】
第1の未処理膜149Aの厚さは、例えば、20nm~60nmの範囲である。
【0099】
第2の未処理膜149Bは、第1の未処理膜149Aと同様の厚さを有しても、異なる厚さを有してもよい。ただし、第2の未処理膜149Bの厚さが20nm未満の場合、未処理膜149は十分な剥離液耐性を有しない。一方で、第1の未処理膜149Aの厚さに対して第2の未処理膜149Bの厚さが極端に厚くなると、製造されるTFTの特性が低下するおそれがある。従って、第1の未処理膜149Aの厚さに対する第2の未処理膜149Bの厚さは、0.5~2.0の範囲であることが好ましい。
【0100】
未処理膜149全体の厚さは、特に限られないが、例えば、40nm~100nmの範囲である。
【0101】
未処理膜149の成膜後、300℃以上で、基板110のアニール処理を実施してもよい。
【0102】
アニール温度は350~400℃が望ましい。これは350℃以上でのアニール処理により、次工程S130の剥離工程において、未処理膜149の剥離液耐性がさらに向上するからである。一方で、アニール温度が400℃を超えると、基板の変形によるパターンズレや、下層からの不純物拡散等が生じ得る。またアニール処理は、大気、酸素、窒素、真空、いずれの雰囲気内で行ってもよいが、生産コストの観点からは、真空装置や、雰囲気置換が必要ない大気雰囲気で実施することが望ましい。
【0103】
(工程S130)
次に、未処理膜149がパターン処理される。これにより、所定のパターンを有する酸化物半導体層150が得られる。
【0104】
ここで、未処理膜149は、第1の未処理膜149Aおよび第2の未処理膜149Bの2層構造を有する。第2の未処理膜149Bは、酸には可溶であるが、剥離液に対して耐性を有するナノ結晶化膜である。
【0105】
このため、第1の製造方法では、未処理膜149のパターン処理として、湿式法を適用することができる。すなわち、第1の製造方法では、未処理膜149のパターン処理において、前述の図1図3に示したような、湿式のエッチング工程および剥離工程による、一括パターニングを実施できる。
【0106】
未処理膜149のエッチャントは、特に限られないが、例えば、シュウ酸溶液が使用されてもよい。また、フォトレジストの剥離液には、例えば、ジメチルスルホキシドとN-メチル-2-ピロリドンの混合液などを使用することができる。これらのエッチャントおよび剥離液は、リソグラフィ法を用いた湿式パターン処理方法において、一般的に使用されるものである。
【0107】
図8には、未処理膜149がパターン化され、第1の膜152および第2の膜154を有する酸化物半導体層150が形成された状態を模式的に示す。
【0108】
(工程S140)
次に、酸化物半導体層150の上に、第1の電極160および第2の電極162用の導電膜が設置され、パターン化される。第1の電極160および第2の電極162は、それぞれ、例えばドレイン電極およびソース電極であり、あるいはその逆である。
【0109】
第1の電極160および第2の電極162の導電膜は、酸化物半導体層150の少なくとも一部とオーミック接触するように設置され、パターン化される。
【0110】
ここで、導電膜のパターン処理には、一般的なフォトリソグラフィプロセス/エッチングプロセスの組み合わせが使用できる。前述のように、酸化物半導体層150の第2の膜154は、電極のパターン処理の過程で使用される一般的なレジスト剥離液に対して、耐性を有するためである。
【0111】
第1の電極160および第2の電極162は、それぞれ、クロム、モリブデン、アルミ、銅、銀、タンタル、チタン、またはそれらを含む複合材料および/または合金であってもよい。また、第1の電極160および第2の電極162は、積層膜であってもよい。
【0112】
なお、第1の電極160および第2の電極162は、ゲート電極130と同様、透明導電膜とすることも可能である。
【0113】
図9には、酸化物半導体層150と接触するように、第1の電極160および第2の電極162が設置された状態を模式的に示す。
【0114】
その後、必要な場合、第1の電極160および第2の電極162の上に、パッシベーション層180が設置される(前述の図4参照)。
【0115】
パッシベーション層180は、スパッタ法、パルスレーザーデポジション法、常圧CVD法、減圧CVD法、プラズマCVD法などの成膜技術を用いて成膜してもよい。
【0116】
パッシベーション層180の厚さは、例えば、30nmから600nmの範囲である。
【0117】
その後、必要な場合、第1の電極160、第2の電極162、およびゲート電極130へのコンタクトが可能となるよう、パッシベーション層180およびゲート絶縁膜140を貫通するコンタクトホール185が形成されてもよい。
【0118】
以上の工程により、第1のTFT100を製造することができる。
【0119】
第1の製造方法では、未処理膜149をパターン処理する際に、従来の湿式法が適用できる。このため、第1の製造方法では、未処理膜149のパターン処理に乾式プロセスを適用する必要がなくなり、より生産性に優れるプロセスで、TFTを製造することができる。
【0120】
以上、本発明の一実施形態について説明した。しかしながら、上記記載は、単なる一例であって、本発明の一実施形態によるTFTおよびその製造方法は、前述のような特徴を有する2層構造の酸化物半導体層が使用される限り、別の構成を有してもよい。
【実施例0121】
次に、本発明の一実施例について説明する。なお、以下の記載において、例31は、実施例であり、例41~例42は、比較例である。
【0122】
(例1)
以下に示す方法で、厚さ0.7mm、20mm角の石英基板上にZnGaO系酸化物の層を形成した。
【0123】
0.5Paに減圧されたチャンバ内で、石英基板の一方の表面に、RFマグネトロンスパッタリング法により、ZnGaO系酸化物の層を成膜した。ターゲットには、直径が50.8mmのZnGaOターゲットを使用した。ZnGaOターゲットにおいて、Zn/(Ga+Zn)は、40%とした。
【0124】
供給ガスは、酸素とアルゴンの混合ガスとし、酸素分圧は、10vol%とした。RFパワーは、200Wとした。なお、成膜の際に、石英基板は加熱していない。
【0125】
ZnGaO系酸化物の層の厚さは、150nm(目標値)とした。
【0126】
成膜後に、ZnGaO系酸化物の層を有する石英基板(以降、「サンプル1」と称する)が得られた。
【0127】
(例11)
例1と同様の方法により、ZnGaO系酸化物の層を有する石英基板(以降、「サンプル11」と称する)を調製した。
【0128】
ただし、このサンプル11では、ターゲットとして、Zn/(Ga+Zn)が33%のZnGaOを使用した。
【0129】
(例12)
例1と同様の方法により、ZnGaO系酸化物の層を有する石英基板(以降、「サンプル12」と称する)を調製した。
【0130】
ただし、このサンプル12では、ターゲットとして、Zn/(Ga+Zn)が50%のZnGaOを使用した。
【0131】
(例13)
例1と同様の方法により、ZnGaO系酸化物の層を有する石英基板(以降、「サンプル13」と称する)を調製した。
【0132】
ただし、このサンプル13では、ターゲットとして、Zn/(Ga+Zn)が25%のZnGaOを使用した。
【0133】
(例21)
例1と同様の方法により、ZnGaO系酸化物の層を有する石英基板(以降、「サンプル21」と称する)を調製した。
【0134】
ただし、このサンプル21では、供給される混合ガスに含まれる酸素分圧を1vol%とした。
【0135】
(例22)
例11と同様の方法により、ZnGaO系酸化物の層を有する石英基板(以降、「サンプル22」と称する)を調製した。
【0136】
ただし、このサンプル22では、供給される混合ガスに含まれる酸素分圧を1vol%とした。
【0137】
(例23)
例12と同様の方法により、ZnGaO系酸化物の層を有する石英基板(以降、「サンプル23」と称する)を調製した。
【0138】
ただし、このサンプル23では、供給される混合ガスに含まれる酸素分圧を1vol%とした。
【0139】
(例24)
例13と同様の方法により、ZnGaO系酸化物の層を有する石英基板(以降、「サンプル24」と称する)を調製した。
【0140】
ただし、このサンプル24では、供給される混合ガスに含まれる酸素分圧を1vol%とした。
【0141】
(X線回折分析)
上記方法で調製された各サンプルを用いて、X線回折2θ/θ測定を行った。
【0142】
得られた回折結果をまとめて図10に示す。なお、図10では、サンプルの組成とサンプルを調製する際の酸素分圧との関係が把握できるよう、結果をマトリクスにして示した。なお、各結果において、2θが約20゜付近のピークは、ZnGaO系酸化物の層ではなく、石英基板に起因するものである。
【0143】
得られた結果から、酸素分圧が10vol%の場合、いずれのサンプルにおいても、ピークが認められており、結晶化膜であることがわかる。
【0144】
得られたピークは、いずれもZnGa由来のものであった。
【0145】
一方、酸素分圧が1vol%と低い場合、サンプル23を除き、いずれのサンプルにおいても、有意なピークは認められず、非晶質膜であることがわかる。なお、Zn量が高いサンプル23(Zn/(Ga+Zn)=50%)においては、酸素分圧が1vol%であっても、結晶化膜が得られることがわかった。
【0146】
サンプル11では、低角側から、それぞれ、ZnGaの(111)、(222)、(333)面に対応する2θ位置で、鋭いピークが観測された。すなわちサンプル11のZnGaO層は、厚さ方向に対し垂直な結晶面が、[111]方向に強く配向していることがわかった。また(1)式を用いて算出したサンプル11のシェラー径は、36nm程度であった。
【0147】
一方、サンプル11よりもZn比を高めたサンプル1およびサンプル12では、2θが31°付近に、ブロードなピークが検出された。この2θは、ZnGa(220)面に対応する。すなわち、サンプル1およびサンプル12では、酸化物層の厚さ方向に垂直な結晶面が、ZnGa[220]方向に配向しており、サンプル11とは配向性が異なっていることがわかった。またサンプル11と同様に算出した、サンプル1およびサンプル12のシェラー径は、約4nm程度であり、ナノ結晶が得られていることがわかった。
【0148】
さらに、サンプル11よりもZn比が低いサンプル13では、サンプル11と同様、ZnGa[111]に対応する2θの位置に、わずかなピークが検出された。すなわち、サンプル13は、酸化物層に含まれる結晶の配向方向は、サンプル11と同じであるものの、結晶性が低いと言える。
【0149】
上記の結果から、化学量論組成よりもZn比が高いZnGaO系酸化物層を含むサンプル1およびサンプル11では、ZnGaナノ結晶が得られ、該ナノ結晶は、酸化物層の厚さ方向に垂直な結晶面が[220]に配向していることが確認された。
【0150】
以下の表1には、各サンプルの作製条件およびX線回折分析の結果をまとめて示した。
【0151】
【表1】

(例1A)
前述の例1と同様の方法により、基板上にZnGaO系酸化物の層を形成した。
【0152】
ただし、この例1Aでは、基板として、膜厚150nmの熱酸化膜付きのSi基板(厚さ0.6mm、25mm角)を使用した。また、ZnGaO系酸化物の層の厚さは、50nm(目標値)とした。
【0153】
得られたサンプルを、「サンプル1A」と称する。
【0154】
(例11A)
例11Aでは、例1Aと同様の方法により、サンプル(「サンプル11A」と称する)を作製した。
【0155】
ただし、この例11Aでは、ZnGaO系酸化物の成膜条件として、前述の例11に記載の条件を採用した。従って、サンプル11Aは、サンプル11とは、基板およびZnGaO系酸化物の膜厚のみが異なっている。
【0156】
(透過型電子顕微鏡(TEM)観察および電子線回折分析)
サンプル1Aおよびサンプル11Aを用いて、TEM観察および電子線回折分析を実施した。
【0157】
図11および図12には、それぞれ、サンプル1Aおよびサンプル11AのZnGaO系酸化物層を、断面方向から観察したTEM像を示す。
【0158】
さらに、図13および図14には、それぞれ、図11および図12に示したZnGaO系酸化物層の断面TEM像に対応する電子線回折像を示す。これら断面方向の電子線回折像は、断面に垂直な(すなわち紙面奥行方向に平行な)結晶面での干渉により得られる。
【0159】
図11の断面TEM像に示すように、サンプル1Aでは、層の成膜初期(熱酸化シリコン膜との界面付近)から、緻密なナノ結晶が、比較的均一に形成されていることが分かる。一方、図12に示すように、サンプル11Aでは、成膜初期では非晶質のZnGaO系酸化物層が形成されており、膜厚の半分を過ぎたあたりから、部分的に比較的大きな結晶粒が成長していることがわかる。
【0160】
これは、スパッタ成膜に伴う基板温度の上昇により、結晶化が促進されたためであると考えられる。すなわち、サンプル11AのZnGaO系酸化物層に比べて、Zn比を増やしたサンプル1AのZnGaO系酸化物層は、より低いエネルギーで結晶化しているといえる。換言すれば、Zn比を増やしたことにより、層の結晶化が促進され、その結果、緻密なナノ結晶を含むZnGaO系酸化物層が得られたと考えられる。
【0161】
さらに、図13に示すように、サンプル1Aの断面における電子線回折像には、中心に位置する透過光を挟んで上下方向に、強い回折スポットの組が認められた。この方向は、ZnGaO系酸化物層の膜厚方向と同じである。またこれらの回折スポットは、ZnGa(220)面に対応することがわかった。すなわち、サンプル1AのZnGaO系酸化物層では、ZnGa(220)面が、膜厚方向に垂直に強く配向している。この結果は、同条件で成膜したサンプル1のXRD2θ/θ測定結果と一致している。配向性が強いということは、含まれる結晶面の向きが揃っていること、すなわち、結晶性が均一であることを意味する。
【0162】
一方、図14に示すように、サンプル11Aの断面における電子線回折像には、ZnGa[111]方向の結晶面に対応する回折スポットが認められたものの、図13に示したサンプル1Aの場合のような強い配向は認められなかった。サンプル11AのZnGaO系酸化物層は、サンプル1AのZnGaO系酸化物層に比べ配向性が弱いと言える。
【0163】
サンプル11Aと同条件でZnGaO系酸化物層を成膜したサンプル11では、前述のようにXRD2θ/θ測定において、ZnGaO系酸化物層の膜厚方向に垂直な結晶面が強く[111]配向していることが確認されており、断面電子線回折の結果と矛盾する。これは、サンプル11では、ZnGaO系酸化物層の膜厚が150nmであるのに対し、サンプル11Aの場合、膜厚が50nmと薄いためであると考えられる。図12の断面TEM像に示すように、サンプル11Aでは、成膜途中からZnGaO系酸化物層が結晶化しており、膜厚が厚くなるにつれて、[111]方向に配向成長していくと予想される。すなわち、化学量論組成のZnGa層を、室温成膜により結晶化させた場合、結晶性は膜厚に大きく依存する。
【0164】
このように、Zn/(Ga+Zn)をZnGaの化学量論組成である33%から、40%以上に増やすことにより、成膜初期から、緻密で均質なナノ結晶が形成されることが確認された。このようなZnGaO系酸化物層の構造的特徴は、本発明の効果を得るために重要な要素である。
【0165】
(例1B)
前述の例1と同様の方法により、基板上にZnGaO系酸化物の層を形成した。
【0166】
ただし、この例1Bでは、基板として、無アルカリガラス基板(厚さ0.7mm、40mm角)を使用した。
【0167】
得られたサンプルを、「サンプル1B」と称する。
【0168】
(例11B~例13B)
例11B~例13Bでは、それぞれ、例1Bと同様の方法により、サンプル(それぞれ、「サンプル11B」~「サンプル13B」と称する)を作製した。
【0169】
ただし、これらの例11B~例13Bでは、ZnGaO系酸化物の成膜条件として、それぞれ、前述の例11~例13に記載の条件を採用した。またZnGaO層の膜厚は、50nm(目標値)とした。さらに、サンプル11B~サンプル13Bは、成膜後に大気中で350℃、1時間のアニール処理を行った。従って、サンプル11Bは、サンプル11とは、基板およびZnGaO系酸化物層の膜厚、アニール処理の有無が異なっている。他のサンプル12Bおよびサンプル13Bにおいても同様である。
【0170】
(例21B~例24B)
例21B~例24Bでは、例1Bと同様の方法により、サンプル(それぞれ、「サンプル21B」~「サンプル24B」と称する)を作製した。
【0171】
ただし、これらの例21B~例24Bでは、ZnGaO系酸化物の成膜条件として、それぞれ、前述の例11~例14に記載の条件を採用した。
【0172】
(パターン処理可能性の評価)
次に、サンプル1B、サンプル11B~13B、およびサンプル21B~サンプル24Bを用いて、フォトリソグラフィ法による湿式パターン化処理を実施した。
【0173】
パターン処理は、前述の図1図3に示したような手順で実施した。
【0174】
すなわち、まず、それぞれのサンプルの上にパターン化されたレジストを設置し、このレジストをマスクとして、湿式エッチングを実施した。次に、湿式法で、レジストを剥離した。
【0175】
湿式エッチングは、40℃に加熱したシュウ酸溶液(ITO-07N;関東化学社製)中に、サンプルを浸漬させることにより実施した。また、レジストを剥離する際の剥離処理は、80℃に加熱した剥離液中に、サンプルを浸漬させることにより実施した。剥離液には、ジメチルスルホキシド(60wt%)とN-メチル-2-ピロリドン(40wt%)の混合液(剥離液104;東京応化工業株式会社製)を使用した。
【0176】
パターン処理後に、顕微鏡により、ZnGaO層の状態を評価した。
【0177】
以下の表2には、各サンプルにおいて得られた結果をまとめて示す。表2中の「湿式エッチング処理」の欄には、所望のパターンが適正に形成された場合を○とし、そうでない場合を×として判定した結果を示す。また、「湿式剥離処理」の欄には、剥離液含浸によるZnGaO層の消失や、損傷が認められた場合を×とし、そうでない場合を○として判定した結果を示す。
【0178】
【表2】

表2に示すように、サンプル21B~24Bについては、ZnGaO系酸化物層のZn/(Ga+Zn)の値に関わらず、適切な形状に湿式エッチングすることが可能であった。しかしながら、サンプル21B~24Bでは、その後の湿式剥離処理により、ZnGaO系酸化物層の溶解による消失や、部分的な損傷が確認された。
【0179】
前述のように、サンプル21、22、23では、XRD2θ/θ測定において回折ピークが確認されなかった。従って、同条件で成膜したサンプル21B、22B、23BのZnGaO系酸化物層は、非晶質であるため、酸による湿式エッチングは容易であるが、剥離液耐性を有しない。一方、サンプル24は、XRD2θ/θ測定において回折ピークが確認されていることから、サンプル24BのZnGaO系酸化物層は、結晶質を含むと考えられる。しかしながら、サンプル24BのZnGaO系酸化物層では、剥離液含浸後にパターンが消失しなかったものの、不均一な膜の凹凸、表面荒れが発生した。これは、ZnGaO系酸化物層の結晶化が不十分であり、結晶化していない非晶質領域が、部分的に剥離液に浸食されたためであると考えられる。
【0180】
10vol%の酸素分圧でZnGaO系酸化物層の成膜を行ったサンプル11Bでは、湿式エッチング後、本来エッチングされるはずの領域、すなわち図2におけるレジスト3が被覆されていない領域において、部分的にエッチング残りが確認された。また、湿式剥離処理後は、前述のサンプル24Bと同様に、不均一な膜の凹凸や、表面荒れが発生した。
【0181】
さらに、表2には示していないが、サンプル11BにおけるZnGaO系酸化物層の厚さをより厚くしたサンプル(サンプル11B'と称する)を作製し、同様のパターン処理を行った。その結果、サンプル11B'のZnGaO系酸化物層は、湿式エッチングにおいて、シュウ酸溶液はおろか、40℃に加熱した王水系エッチャント(混酸ITO-02;関東化学社製)に含浸させた場合も、ほとんどエッチングされなかった。
【0182】
前述の通り、従来のZnGaスピネル結晶層は、非常に高い化学的耐久性を有するため、酸によるエッチングが困難である。事実、サンプル11B'は強酸によるエッチングも不可であった。一方で、サンプル11AのTEM像(図12)に示したように、Zn/(Ga+Zn)=33%のZnGaO系酸化物層は、室温成膜で結晶化させた場合、結晶性が膜厚に方向に不均一となる。従って、膜厚が薄く、表層が十分に結晶化していないサンプル11BのZnGaO系酸化物層では、パターン処理の際に、非晶質領域が選択的に酸および剥離液に溶解する一方、粗大なZnGa結晶部は溶解されず、前述のようなエッチング残りや、表面荒れが発生したと考えられる。
【0183】
サンプル1Bおよびサンプル12Bは、ZnGaO系酸化物層の湿式エッチングが正常に行われ、かつ剥離液含浸による溶解や損傷も見られず、適切なパターンが得られた。一方、サンプル13Bは、湿式エッチングは問題なく行えたものの、湿式剥離処理後は、サンプル11Bおよび24Bと同様に、不均一な膜の凹凸や、表面荒れが発生した。
【0184】
上記の通り、サンプル1Bおよびサンプル12Bでのみ、「湿式エッチング処理」および「湿式剥離処理」により、適正にZnGaO系酸化物層のパターン処理を行えることが確認された。
【0185】
この結果は、前述のように、Zn/(Ga+Zn)を化学量論組成である33%から、40%以上に増やし、高酸素分圧で成膜した場合、緻密で均質なナノ結晶が得られるためであると考えられる。
【0186】
(例31)
(TFT素子の作製)
前述の第1の製造方法を用いて、図4に示したような断面構造を有するTFT素子を作製した。
【0187】
具体的には、まず、縦40mm、横40mm、厚さ0.5mmのガラス基板(無アルカリガラス)を準備した。次に、ガラス基板の上に、バリア膜を成膜した。バリア膜は、窒化ケイ素(下側)と、酸化ケイ素(上側)の2層構造とし、プラズマCVD法により成膜した。成膜の際に、ガラス基板を350℃に加熱した。窒化ケイ素層および酸化ケイ素層の厚さは、いずれも100nm(目標値)とした。
【0188】
次に、DCマグネトロンスパッタリング法により、バリア層の上にゲート電極用金属膜を形成した。金属膜は、金属チタン(Ti)とし、厚さは、100nm(目標値)とした。その後、金属膜を通常のフォトレジスト法、およびCF/Oプラズマ処理により、乾式エッチングし、パターン化されたゲート電極を形成した。
【0189】
次に、プラズマCVD法により、ゲート電極の上にゲート絶縁膜を形成した。ゲート絶縁膜は、酸化ケイ素とし、厚さは、200nm(目標値)とした。これにより、前述の図6に示したような層構成が得られた。
【0190】
次に、RFマグネトロンスパッタリング法により、ゲート絶縁膜の上に、酸化物半導体製の未処理膜を形成した。
【0191】
まず、第1の未処理膜を成膜した。
【0192】
ガラス基板を0.5Paに減圧されたチャンバに入れ、RFマグネトロンスパッタリング法により、ゲート絶縁膜の上にZnGaOの膜を成膜した。ターゲットには、直径が50.8mmのZnGaOターゲットを使用した。ZnGaOターゲットにおいて、Zn/(Ga+Zn)は、40%とした。
【0193】
供給ガスは、酸素とアルゴンの混合ガスとし、酸素分圧は、1vol%とした。RFパワーは、200Wとした。なお、成膜の際に、ガラス基板は加熱していない。
【0194】
ZnGaO系酸化物の層の厚さは、40nm(目標値)とした。
【0195】
次に、ガラス基板をチャンバに入れたまま、同一のターゲットを用いて、第1の未処理膜の上に、第2の未処理膜を成膜した。なお、第2の未処理膜を成膜する前に、一旦、放電は停止した。
【0196】
第2の未処理膜の成膜の際の酸素分圧は、10vol%とした。その他の条件は、第1の未処理膜の成膜の場合と同様である。第2の未処理膜の厚さは、40nm(目標値)とした。
【0197】
第2の未処理膜の成膜後に、ガラス基板を大気下、350℃で1時間アニールした。これにより、前述の図7に示したような層構成が得られた。
【0198】
次に、未処理膜をパターン処理し、酸化物半導体層を形成した。パターン処理は、以下の手順で実施した。
【0199】
まず、未処理膜の上にフォトレジスト層を塗布し、露光、現像工程を経て、フォトレジスト層をパターン化した。
【0200】
次に、ガラス基板をエッチング溶液中に浸漬し、未処理膜を湿式エッチングした。エッチング溶液には、40℃のシュウ酸溶液(ITO-07N;関東化学社製)を使用した。浸漬時間は、3分とした。その後、ガラス基板を80℃の剥離液中に3分間浸漬し、さらに、室温の同剥離液中に3分間浸漬し、フォトレジストを除去した。
【0201】
剥離液には、ジメチルスルホキシド(60wt%)とN-メチル-2-ピロリドン(40wt%)の混合液(剥離液104;東京応化工業株式会社製)を使用した。
【0202】
以上の湿式処理により、前述の図8に示したような、パターン化された酸化物半導体層が得られた。
【0203】
次に、DCマグネトロンスパッタリング法により、酸化物半導体層を覆うように、第1の電極および第2の電極用の金属膜を成膜した。金属膜は、金属アルミニウム(上層)と金属チタン(下層)の2層構造とした。上層の厚さは、150nm(目標値)とし、下層の厚さは、50nm(目標値)とした。
【0204】
その後、金属膜の上に設置したフォトレジスト層をパターン処理し、これをマスクとして、金属膜の上層の湿式エッチングを行った。エッチング溶液には、硝酸と酢酸とリン酸の混酸溶液(KSMF100;関東化学社製)を使用した。なお、金属膜の下層は、CF/Oガスを用いたドライエッチング法によりパターン化した。
【0205】
その後、前述の剥離液を使用して、フォトレジスト層を除去した。これにより、前述の図9に示したような、第1の電極および第2の電極を有する層構成が得られた。
【0206】
次に、プラズマCVD法により、第1の電極、第2の電極、および酸化物半導体層を覆うように、パッシベーション層を成膜した。
【0207】
パッシベーション層は、酸化ケイ素とし、厚さは、300nm(目標値)とした。
【0208】
その後、一般的なリソグラフィ法により、パッシベーション層およびゲート絶縁膜を貫通するコンタクトホールを形成した。
【0209】
以上の工程により、前述の図4に示したような構成を有するTFT素子が作製された。得られたTFT素子を、以下、「素子1」と称する。
【0210】
(例41)
例31と同様の方法により、TFT素子を作製した。ただし、この例41では、酸化物半導体層を単層とした。
【0211】
酸化物半導体層用の未処理膜は、以下のように成膜した。
【0212】
ガラス基板を0.5Paに減圧されたチャンバに入れ、RFマグネトロンスパッタリング法により、ゲート絶縁膜の上にZnGaOの膜を成膜した。ターゲットには、直径が50.8mmのZnGaOターゲットを使用した。ZnGaOターゲットにおいて、Zn/(Ga+Zn)は、40%とした。
【0213】
供給ガスは、酸素とアルゴンの混合ガスとし、酸素分圧は、10vol%とした。RFパワーは、200Wとした。なお、成膜の際に、ガラス基板は加熱していない。
【0214】
ZnGaO系酸化物の層の厚さは、50nm(目標値)とした。
【0215】
その後は、例31と同様の方法により、未処理膜をパターン処理し、酸化物半導体層を形成した。以降の作製条件は、例31の場合と同様である。
【0216】
得られたTFT素子を、以下、「素子11」と称する。
【0217】
(例42)
例41と同様の方法により、TFT素子を作製した。
【0218】
ただし、この例42では、未処理膜の成膜の際に、Zn/(Ga+Zn)が50%のターゲットを使用した。従って、得られた酸化物半導体層においても、Zn/(Ga+Zn)は、50%であった。
【0219】
得られたTFT素子を、以下、「素子12」と称する。
【0220】
(評価)
(酸化物半導体層の評価)
素子1を用いて、酸化物半導体層の形態を評価した。
【0221】
図15および図16には、透過型電子顕微鏡(TEM)観察により得られた、素子1の断面の一例を示す。図16は、図15における枠内の拡大写真である。
【0222】
これらの図から、ゲート絶縁膜の上の酸化物半導体層が、結晶性の異なる2層の薄膜により構成されていることがわかる。ここで、第1の電極および第2の電極のパターニング工程において、フォトレジスト層を除去する際、図9における酸化物半導体層150の、第1の電極160および第2の電極162に被覆されていない領域は、直接剥離液に晒される。一方、図15および図16における酸化物半導体層の厚みは、第2の電極が被覆している領域と、していない領域でほぼ変わらない。従って、この結果から酸化物半導体層を構成する上層の第2の膜(図9における154)が、十分な剥離液耐性を有していることが確認された。
【0223】
図17および図18には、それぞれ、素子1における酸化物半導体層の第1の膜および第2の膜の断面における電子線回折パターンを示す。
【0224】
図17に示すように、第1の膜からは、非晶質であることを示すハローパターンが得られた。
【0225】
一方、図18に示すように、第2の膜からは、結晶化していることを示す明白な回折パターンが認められた。また回折パターンの形態から、結晶種はZnGaと同定された。尚、図18中に示す、膜厚方向に並んだ1組の回折スポットは、図13中に示した回折スポットと同様、ZnGa(220)面に対応する。
【0226】
図19には、エネルギー分散型X線(EDX)分析により得られた、素子1の酸化物半導体層の深さ方向における、O、Si、Zn、Gaの原子濃度ライン分析結果を示す。なお、図19において、深さ0~約60nmの領域は、パッシベーション層に対応し、深さ約140nm以降の領域は、ゲート絶縁膜に対応する。
【0227】
図19から、深さ約60~約140nmの酸化物半導体層の領域では、Zn、Ga濃度がほぼ一定、かつZn:Ga比はおおよそターゲット組成と同じ2:3であることがわかる。この結果から、同一ターゲットを用いて、基板加熱を行うことなくスパッタ成膜を行った、結晶性の異なる2つの膜の組成は、実質的にターゲット組成と同じであることが確認された。
【0228】
(TFT特性の評価)
次に、素子1、素子11、および素子12を用いて、以下の評価を実施した。
【0229】
(暗状態での特性)
半導体パラメータアナライザ(B1500A;Keysight社製)を使用し、各素子におけるTFT伝達特性を評価した。ゲート電圧Vgを-15Vから+45Vまで段階的に変化させ、得られるドレイン電流値Idを測定した。ドレイン電圧Vdは、0.1Vとした。また測定は、プローブボックス内、暗状態で行い、ステージ温度は室温とした。
【0230】
図20図22には、それぞれ、素子1、素子11および素子12において得られたTFT伝達特性を示す。
【0231】
図20図22から、それぞれの素子における閾値電圧Vthおよび電界効果移動度を算定した。なお、閾値電圧Vthは、ドレイン電流Idが1nAとなるときのゲート電圧Vgと定義した。
【0232】
評価の結果、素子1において、閾値電圧Vthは、6.2Vであり、電界効果移動度は、8.2cm/V・secであった。一方、素子11において、閾値電圧Vthは、7.8Vであり、電界効果移動度は、6.7cm/V・secであった。また、素子12において、閾値電圧Vthは、7.1Vであり、電界効果移動度は4.6cm/V・secであった。
【0233】
このように、素子1、素子12、素子13のいずれにおいても、正常なスイッチング特性が得られた。すなわち、Zn/(Ga+Zn)が40%以上のZnGaO系酸化物のナノ結晶化膜を活性層に用いた場合、あるいは非晶質膜との積層膜を活性層に用いた場合、湿式法により活性層のパターニングを行っても、正常にTFT動作することが確かめられた。また、素子11と素子12のTFT特性の比較から、活性層のZn/(Ga+Zn)が50%以上の場合、電界効果移動度が低下することがわかった。
【0234】
また、素子1と素子12のTFT特性の比較から、Zn/(Ga+Zn)が同じであっても、活性層を非晶質膜とナノ結晶化膜の二層構造とすることにより、より高い電界効果移動度を得られることが確かめられた。
【0235】
(光照射下負ゲートバイアス熱ストレス試験)
次に、素子1、素子11、および素子12に対する、光照射下負ゲートバイアス熱ストレス(Negative Bias Temperature Illumination Stress:NBTIS)試験を実施した。
【0236】
このNBTIS試験では、各素子に対して、所定の時間、光照射された温度負荷環境下において、ゲート電極に負電圧が印加される。このようなNBTIS試験では、実際のディスプレイの駆動状態における、TFT特性の劣化を迅速に評価することができる。
【0237】
具体的には、以下の方法で試験を行った。
【0238】
まず、以下の条件で、素子1の光照射下での初期特性を測定する:
光照射オン;
ステージ温度85℃;
ドレイン電圧Vd=0.1V;
ゲート電圧Vgを+45Vから-15Vまで段階的に掃引;
得られたゲート電圧Vgとドレイン電流Idの関係から、閾値電圧(Vth(0)とする)を求める。
【0239】
次に、光照射をオンおよびステージ温度を85℃に維持したまま、10秒間、ドレイン電圧Vdを0Vとし、ゲート電圧Vgを-30Vに保持する。
【0240】
その後、初期特性測定の場合と同様の方法で、10秒間のストレス負荷後のTFT特性を測定する。
【0241】
以下同様に、90秒間、ドレイン電圧Vdを0Vとし、ゲート電圧Vgを-30Vに保持する。その後、TFT特性を測定し、累計100秒間のストレス負荷後のTFT特性を測定する。
【0242】
このような操作を、累計ストレス時間500秒と1000秒において実施し、1000秒後のTFT特性における閾値電圧Vth(1000)を求める。

得られた結果から、以下の(2)式により、累計1000間のNBTIS試験による閾値電圧シフト量ΔVthを算定した:

ΔVth=Vth(1000)-Vth(0) (2)式

TFT特性の測定とストレス電圧の印加には、前述の半導体パラメータアナライザを使用した。光源には、白色LED光源を用い、素子表面における照度が10,000lxになるように、光量を調整し、素子表面側から照射した。
【0243】
図23には、NBTIS試験における素子1のTFT特性の変化を示す。また、図24および図25には、それぞれ、NBTIS試験における素子11および素子12のTFT特性の変化を示す。
【0244】
図24に示すように、NBTIS試験により、素子11の閾値電圧はマイナス方向にシフトし、1000秒後の閾値電圧シフト量ΔVthは、-2.6Vであった。同様に、図25に示すように、素子12の場合、より大きな閾値電圧シフトが見られ、ΔVthは、-4.3Vであった。すなわち、素子11と素子12のNBTIS試験結果の比較から、活性層のZn/(Ga+Zn)が50%以上の場合、光照射下のTFT特性安定性が低下することがわかった。
【0245】
また、図23に示すように、素子1では、合計1000秒間のNBTIS試験中、あまりTFT特性が変化していないことがわかる。1000秒後の閾値電圧シフト量ΔVthは、-0.4Vと十分に低い値を示した。
【0246】
このように、酸化物半導体層を、ZnGaO非晶質膜と、ZnGaOナノ結晶化膜との2層構造とした場合、酸化物半導体層をZnGaOナノ結晶化膜の単層で構成した場合に比べて、大幅にTFT作製工程を追加することなく、TFT特性ならびに光照射下での特性安定性を、有意に向上できることがわかった。
【符号の説明】
【0247】
1 被処理基板
2 酸化物半導体層(パターン化前)
3 レジスト
100 第1のTFT
110 基板
120 バリア層
130 ゲート電極
140 ゲート絶縁膜
149 未処理膜
149A 第1の未処理膜
149B 第2の未処理膜
150 酸化物半導体層
152 第1の膜
154 第2の膜
160 第1の電極
162 第2の電極
180 パッシベーション層
185 コンタクトホール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25