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  • 特開-有機性廃水の処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099192
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】有機性廃水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20240718BHJP
【FI】
C02F3/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002953
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113000
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100151909
【弁理士】
【氏名又は名称】坂元 徹
(72)【発明者】
【氏名】山本 登
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 陽介
【テーマコード(参考)】
4D028
【Fターム(参考)】
4D028BC18
4D028BD16
4D028BE08
4D028CA11
4D028CC14
(57)【要約】
【課題】余剰汚泥の発生量を減らすことができる有機性廃水の処理方法を提供する。
【解決手段】本発明の有機性廃水の処理方法は、有機性廃水を生物処理し汚泥及び処理水を含む混合物を得る工程(1)と、工程(1)で得られた混合物から汚泥を分離する工程(2)と、工程(2)で分離された汚泥の少なくとも一部を可溶化処理する工程(3)と、工程(3)で可溶化処理された可溶化処理汚泥の少なくとも一部を工程(1)に供給する工程(4)とを含み、工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量が、工程(1)における生物処理される有機性廃水の全酸素要求量1トン当たり5.5m以上であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)、(2)、(3)及び(4)を含み、かつ工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量が、工程(1)における生物処理される有機性廃水の全酸素要求量1トン当たり5.5m以上であることを特徴とする有機性廃水の処理方法。
(1):有機性廃水を生物処理し汚泥及び処理水を含む混合物を得る工程
(2):前記工程(1)で得られた混合物から汚泥を分離する工程
(3):前記工程(2)で分離された汚泥の少なくとも一部を可溶化処理する工程
(4):前記工程(3)で可溶化処理された可溶化処理汚泥の少なくとも一部を工程(1)に供給する工程
【請求項2】
前記工程(1)、(2)、(3)及び(4)を連続式で行い、かつ前記工程(2)の分離を沈降分離により行い、前記沈降分離における汚泥界面高に基づいて、前記工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量及び工程(1)における生物処理される有機性廃水の全酸素要求量からなる群より選ばれる少なくとも1種を調整する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記汚泥界面高を界面検出手段を用いて検出し、前記界面検出手段で検出された汚泥界面高に基づいて、前記調整を行う請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記調整を、前記工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量を調整することにより行う請求項2又は3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機性廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、食品、飲料水、医薬品及び農薬等の製造にあたっては、有機物を含む廃水が大量に発生する。発生した廃水の処理方法として、活性汚泥法が知られており、例えば、特許文献1には、有機性廃水を生物処理し、得られた汚泥を可溶化処理して生物処理に戻す処理方法において、可溶化処理に付す汚泥量を、汚泥を処理しない通常の活性汚泥処理時の余剰汚泥量基準で調整し、かつ生物処理に戻す汚泥のMLSS濃度を調整することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-202469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、余剰汚泥の発生量を減らすことができる有機性廃水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の通りである。
〔1〕 以下の工程(1)、(2)、(3)及び(4)を含み、かつ工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量が、工程(1)における生物処理される有機性廃水の全酸素要求量1トン当たり5.5m3以上であることを特徴とする有機性廃水の処理方法。
(1):有機性廃水を生物処理し汚泥及び処理水を含む混合物を得る工程
(2):前記工程(1)で得られた混合物から汚泥を分離する工程
(3):前記工程(2)で分離された汚泥の少なくとも一部を可溶化処理する工程
(4):前記工程(3)で可溶化処理された可溶化処理汚泥の少なくとも一部を工程(1)に供給する工程
〔2〕 前記工程(1)、(2)、(3)及び(4)を連続式で行い、かつ前記工程(2)の分離を沈降分離により行い、前記沈降分離における汚泥界面高に基づいて、前記工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量及び工程(1)における生物処理される有機性廃水の全酸素要求量からなる群より選ばれる少なくとも1種を調整する〔1〕に記載の方法:
〔3〕 前記汚泥界面高を界面検出手段を用いて検出し、前記界面検出手段で検出された汚泥界面高に基づいて、前記調整を行う〔2〕に記載の方法:
〔4〕 前記調整を、前記工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量を調整することにより行う〔2〕又は〔3〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、有機性廃水の処理において余剰汚泥の発生量を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明を実施する場合のフローの例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の有機性廃水の処理方法は、以下に述べる工程(1)、(2)、(3)及び(4)を含む。
【0009】
本発明においては、工程(1)として、有機性廃水を生物処理し汚泥及び処理水を含む混合物を得る。
【0010】
有機性廃水としては、生物処理により分解できる有機物を含有する廃水であれば特に制限されるものではないが、例えば、工場からの廃水及び生活廃水が挙げられる。有機物としては、例えば、含窒素有機物及び含硫黄有機物が挙げられる。工場としては、例えば、医薬品、農薬、石油化学品等を製造する化学工場、食品・飲料工場、電子部品工場及び製紙工場が挙げられる。生物処理に付される有機性廃水は、工場からの廃水又は生活廃水を水(例えば、工業用水等)により希釈した廃水であってもよく、二種類以上の廃水の混合物であってもよい。また、有機性廃水は、生物処理に付される前に、前処理がされていてもよい。前処理としては、例えば、中和;油水分離;固液分離;及びこれらの2つ以上の組合せが挙げられる。
【0011】
全酸素要求量(TOD;Total Oxygen Demand。以下、全酸素要求量のことをTODということがある。)とは、処理される有機性廃水に含まれる被酸化性物質の総量を酸素量として表現する指標である。工程(1)において生物処理に付される有機性廃水のTOD濃度は、100~5000mg/Lが好ましく、500~3000mg/Lがより好ましい。
【0012】
生物処理は、有機性廃水を微生物の浄化作用を利用して廃水中の有機物を生分解させることができる処理であれば特に限定されず、例えば、好気性処理、嫌気性処理、好気性処理と無酸素処理との組合せが挙げられ、中でも、好気性処理、好気性処理と無酸素処理との組合せが好ましい。好気性処理は、例えば、微生物を含む曝気槽に有機性廃水と酸素とを供給することにより行うことができる。微生物としては、活性汚泥を使用することができる。酸素としては、酸素含有ガスを使用することができ、酸素含有ガスとしては、純酸素や、純酸素を窒素等のガスで希釈したものや、空気を使用することができる。好気性処理は、撹拌しながら行ってもよい。好気性処理の時間は、5~24時間が好ましい。好気性処理の温度は、15~40℃が好ましい。好気性処理は、連続式、回分式、半回分式のいずれで行ってもよいが、連続式が好ましい。好気性処理と無酸素処理とを組み合わせる場合、好気性処理の後、得られた混合物について、酸素を供給しない無酸素処理を行うことにより生物処理を実施することができる。無酸素処理は、例えば、酸素の供給なしに混合物を撹拌することにより行うことができる。無酸素処理の時間は、5~24時間が好ましい。無酸素処理の温度は、15~40℃が好ましい。連続式で生物処理を行う場合は、例えば、第一の反応槽で好気性処理を行った後、得られた混合物を第二の反応槽に供給し、酸素を供給せずに撹拌処理をすることにより生物処理を行うことができる。
【0013】
生物処理における汚泥濃度(Mixed Liquor Suspended Solid;以下、汚泥濃度のことをMLSSということがある)は、1000~10000mg/Lが好ましく、3000~8000mg/Lがより好ましい。
【0014】
有機性廃水を生物処理することにより、かかる処理により発生する汚泥及び処理後の水を含む混合物が得られる。
【0015】
本発明においては、工程(2)として、前記工程(1)で得られた混合物から汚泥を分離する。
【0016】
汚泥の分離方法としては、例えば、沈降分離、膜分離が挙げられ、中でも、沈降分離が好ましい。分離の時間は、5~30時間が好ましい。分離の温度は、15~40℃が好ましい。分離は、連続式、回分式、半回分式のいずれで行ってもよいが、連続式が好ましい。連続式で汚泥の分離を行う場合は、例えば、前記工程(1)で得られた混合物を沈殿槽に供給し、上澄みの水を処理水として沈殿槽から流出させ、沈降した汚泥を沈殿槽から抜き出すことにより行うことができる。汚泥の分離において、汚泥の沈降性が良好なほど、固液分離が速やかに行われ、処理効率が向上し、また、分離された水の水質が良好なものとなる。分離された水の水質が良好なほど、廃棄の際の環境負荷を低減させることができる。分離を沈降分離により行う場合、沈殿槽を用いることができる。かかる沈殿槽は、目視により汚泥と上澄みの水との層分離、すなわち、汚泥界面高が観察できるような手段(例えば、透明なアクリル製の窓部の設置、アクリル製の沈殿槽の使用)や、汚泥界面高を検出する界面検出手段を備えていてもよい。前記界面検出手段としては、例えば、導電率測定界面検出器、界面検出センサが挙げられる。
【0017】
工程(2)の分離を沈降分離により行う場合、沈降した汚泥層の汚泥濃度(MLSS)は、1000~40000mg/Lが好ましく、7000~20000mg/Lがより好ましい。
【0018】
本発明においては、工程(3)として、前記工程(2)で分離された汚泥の少なくとも一部を可溶化処理する。
【0019】
可溶化処理の方法としては、例えば、塩基と混合する方法、酸と混合する方法、酸化剤と混合する方法が挙げられ、中でも、塩基と混合する方法が好ましい。塩基、酸又は酸化剤と混合する場合、例えば、前記工程(2)で分離された汚泥の少なくとも一部と、塩基水溶液、酸水溶液又は酸化剤水溶液とを混合することにより可溶化処理を行うことができる。塩基水溶液における塩基濃度は、10~40重量%が好ましい。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムが挙げられる。酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウムが挙げられる。可溶化処理の時間は、2時間以上が好ましく、4~24時間がより好ましい。可溶化処理の温度は、20~130℃が好ましい。可溶化処理時のpHは、可溶化処理を酸と混合することにより行う場合、3以下が好ましく、可溶化処理を塩基と混合することにより行う場合、12以上が好ましい。塩基、酸又は酸化剤の使用量は、可溶化処理に付される汚泥に対して、0.2~10重量%が好ましい。可溶化処理は、連続式、回分式、半回分式のいずれで行ってもよいが、連続式が好ましい。可溶化処理は撹拌しながら行うことが好ましく、撹拌する場合の撹拌動力は、可溶化処理される混合物の単位容積あたり、0.3kW/m3以上が好ましい。可溶化処理の条件としては、pH=12以上で4時間以上撹拌しながら処理することが特に好ましい。
【0020】
本発明においては、工程(4)として、前記工程(3)で可溶化処理された可溶化処理汚泥の少なくとも一部を工程(1)に供給する。
【0021】
工程(4)において、工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量は、工程(1)において生物処理される有機性廃水の全酸素要求量1トン当たり5.5m3以上であり、好ましくは5.8m3以上であり、より好ましくは7.0m3以上であり、さらに好ましくは8.0m3以上である。工程(1)において生物処理される有機性廃水の全酸素要求量1トン当たりの、工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量の上限は、特に限定されないが、例えば、15m3以下である。工程(1)に供給される可溶化処理汚泥としては、可溶化処理後に中和された可溶化処理汚泥を用いてもよいし、可溶化処理後の可溶化処理汚泥をそのまま用いてもよい。可溶化処理後の可溶化処理汚泥をそのまま用いる場合、工程(1)の生物処理時、例えば、前記曝気槽内で中和あるいはpH調整してもよい。連続式で工程(1)を実施する場合、工程(1)において生物処理される有機性廃水の全酸素要求量1トン当たりの、工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量は、有機性廃水の供給流量及びTOD濃度並びに可溶化処理汚泥量の供給流量により調整することができる。回分式で工程(1)を実施する場合、工程(1)において生物処理される有機性廃水の全酸素要求量1トン当たりの、工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量は、有機性廃水の仕込み量及びTOD濃度並びに可溶化処理汚泥量の仕込み量により調整することができる。半回分式で工程(1)を実施する場合、工程(1)において生物処理される有機性廃水の全酸素要求量1トン当たりの、工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量は、有機性廃水の仕込み量及びTOD濃度並びに可溶化処理汚泥量のトータルの供給量により調整することができる。
【0022】
前記工程(1)、(2)、(3)及び(4)は、連続式、回分式、半回分式又はこれらの組合せにより行うことができ、生産性及び操作性の観点から、連続的に行うのが好ましい。前記工程(1)、(2)、(3)及び(4)を連続式で行う場合、工程(1)において生物処理される有機性廃水の全酸素要求量の容積負荷は、0.0010~0.010トン/日/m3が好ましく、0.0020~0.0075トン/日/m3がより好ましい。単位時間当たりに工程(3)の可溶化処理に付される汚泥量は、単位時間当たりに工程(1)において生物処理される有機性廃水の全酸素要求量1トン当たり5.5m3以上が好ましく、より好ましくは5.8m3以上であり、さらに好ましくは7.0m3以上であり、さらにより好ましくは8.0m3以上である。
【0023】
前記工程(2)で分離された汚泥は、一部を可溶化処理することなく工程(1)に供給してもよい(以下、可溶化処理することなく工程(1)に供給される、前記工程(2)で分離された汚泥を、「返送汚泥」ということがある。)。前記工程(2)で分離された汚泥から、工程(3)の可溶化処理に付された汚泥及び返送汚泥を除いた残りの汚泥は、余剰汚泥として処分することができる。かかる処分の方法としては、例えば、焼却処理が挙げられる。余剰汚泥の発生量を低減させることにより、処分にかかる環境負荷、例えば、焼却処分により発生するCO2の排出量を低減させることができる。前記工程(1)、(2)、(3)及び(4)を連続式で行い、前記工程(2)で分離された汚泥の一部を可溶化処理することなく工程(1)に供給する場合、単位時間当たりに工程(1)の生物処理に付される返送汚泥量は、単位時間当たりに工程(1)において生物処理される有機性廃水の全酸素要求量1トン当たり、100~1000m3の範囲が好ましく、200~500m3の範囲がより好ましい。
【0024】
前記工程(1)、(2)、(3)及び(4)を連続式で行う場合、前記工程(3)の可溶化処理は、例えば、可溶化処理を行う反応槽に、前記工程(2)で分離された汚泥の少なくとも一部と、塩基水溶液、酸水溶液又は酸化剤水溶液とを供給することにより行うことができる。単位時間当たりに工程(3)の可溶化処理に付される汚泥量に対する、単位時間当たりに工程(3)の可溶化処理に供給される塩基水溶液、酸水溶液又は酸化剤水溶液の供給量は、塩基水溶液における塩基濃度、酸水溶液における酸濃度又は酸化剤水溶液における酸化剤濃度に合わせて適宜調整される。
【0025】
前記工程(1)、(2)、(3)及び(4)を連続式で行い、かつ前記工程(2)の分離を沈降分離により行う場合、沈降分離における汚泥界面高に基づいて、前記工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量及び工程(1)における生物処理される有機性廃水の全酸素要求量からなる群より選ばれる少なくとも1種を調整することにより、安定して余剰汚泥の発生量を低減させて有機性廃水を処理することができる。例えば、汚泥界面高が上昇した場合、前記工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量を増加させる、あるいは工程(1)における生物処理される有機性廃水の全酸素要求量を低下させる、あるいはそれらの両方を行うことにより、沈殿槽内の汚泥量を低減させ、ひいては産業廃棄物である余剰汚泥量を低減させることができ、処分にかかる環境負荷、例えば余剰汚泥量の焼却処分により発生するCO2の排出量削減にも寄与することができる。沈殿槽内の汚泥量の低減は、汚泥界面高の低下により確認することができる。例えば、汚泥界面高が低下した場合、前記工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量を低下させる、あるいは工程(1)における生物処理される有機性廃水の全酸素要求量を増加させる、あるいはそれらの両方を行うことにより、沈殿槽内の汚泥量を増加させ、ひいては工程(1)の生物処理におけるSRT(汚泥滞留時間)及び沈殿槽内のSRT(汚泥滞留時間)の確保により、工程(1)の生物処理において微生物が増殖する前に汚泥が余剰汚泥として抜き出されることを抑制し、工程(1)の生物処理における微生物増殖が確実に行われ、工程(1)の生物処理の安定化を図ることができる。沈殿槽内の汚泥量の増加は、汚泥界面高の上昇により確認することができる。汚泥界面高を界面検出手段を用いて検出する場合、界面検出手段で検出された汚泥界面高に基づいて、前記工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量及び工程(1)における生物処理される有機性廃水の全酸素要求量からなる群より選ばれる少なくとも1種を調整することができる。界面検出手段としては、例えば、上述のものが挙げられる。本発明においては、前記工程(2)の分離を、沈降分離により行い、沈降分離における汚泥界面高に基づいて、前記工程(4)における工程(1)に供給される可溶化処理汚泥量を調整することが好ましい。
【0026】
次に、図1を参照して、本発明にかかる有機性廃水の処理方法の一実施形態について説明する。なお、図1は、本実施形態の有機性廃水の処理方法を実施する場合の製造フローの一例を示す図である。
【0027】
図1において、活性汚泥処理槽4は、曝気槽2と、無酸素槽3とを備える。曝気槽2と無酸素槽3とは、仕切り板Tで仕切られており、空間Sを介して連結されている。曝気槽2は、有機性廃水を供給するための有機性廃水供給ライン1と、返送汚泥を供給するための返送汚泥供給ライン9と、可溶化処理汚泥を供給するための可溶化処理汚泥供給ライン13とを備える。無酸素槽3は、生物処理により発生する汚泥及び処理後の水を含む混合物を沈殿槽6に供給するための生物処理後混合物供給ライン5を備える。沈殿槽6は、生物処理後の汚泥及び処理後の水を含む混合物から分離された上澄み水を排出するための処理水排出ライン7と、かかる混合物から分離された汚泥を抜き出すための汚泥排出ライン8とを備える。汚泥排出ライン8は、返送汚泥供給ライン9と、余剰汚泥を抜き出すための余剰汚泥回収ライン10と、可溶化処理槽12に備えられた、汚泥を供給するための汚泥供給ライン11とに分岐して接続されている。可溶化処理槽12は、前記可溶化処理汚泥供給ライン13を備えている。
【0028】
曝気槽2に、有機性廃水供給ライン1から有機性廃水が供給され、さらに、曝気槽2に接続された酸素供給ライン(図示せず)から酸素が供給され、曝気槽2内に存在する微生物と接触することにより、有機性廃水の好気性処理がなされる。この際、曝気槽2内は、所定の処理温度に調整される。
好気性処理により得られた混合物は、オーバーフローして空間Sを通って無酸素槽3に供給され、撹拌することにより無酸素処理がなされる。この際、無酸素槽3内は、所定の処理温度に調整される。
無酸素処理により得られた汚泥及び水を含む混合物は、無酸素槽3から生物処理後混合物供給ライン5を通じて抜き出され、沈殿槽6に供給され、沈降分離される。この際、沈殿槽6内は、所定の処理温度に調整される。
沈降分離により得られた上澄み水は、処理水排出ライン7から排出される。沈降分離により得られた汚泥は、汚泥排出ライン8から抜き出され、一部は返送汚泥として返送汚泥供給ライン9を通じて曝気槽2に供給され、一部は可溶化処理槽12に汚泥供給ライン11を通じて供給され、残りは余剰汚泥回収ライン10を通じて回収される。
可溶化処理槽12に供給された汚泥は、可溶化処理槽12に接続された可溶化処理剤供給ライン(図示せず)から供給された塩基、酸又は酸化剤と混合することにより、可溶化処理がなされる。この際、可溶化処理槽12内は、所定の処理温度に調整される。
可溶化処理により得られた可溶化処理汚泥は、可溶化処理汚泥供給ライン13を通じて抜き出され、必要に応じて中和槽(図示せず)に供給して中和した後、曝気槽2に供給される。
【0029】
本発明の処理方法で用いることのできる装置はこれらに限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で、任意に設計変更することは可能である。また、図1における図示は省略しているが、通常用いられる加熱装置、冷却装置、温度計、圧力計、圧力調整弁、ポンプ、撹拌機等が適宜設置されうる。
【実施例0030】
以下、本発明の実施例及び比較例を示すが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。
【0031】
なお、TOD濃度、MLSS、BOD汚泥転換率、30分静置した場合の汚泥沈殿率(以下、SV30と記す。)、汚泥容量指標(以下、SVIと記す。)、処理水透視度及びTOD除去率の測定及び算出は、以下の条件で行った。
【0032】
[TOD濃度]
有機性廃水を定性濾紙(ADANTEC No.2)を用いて吸引ろ過し、得られたろ液について、全酸素消費量自動測定装置(TOD計)TOD-810C(東レエンジニアリング(株)製)を用いて、JIS K 0102に準じた方法によりTOD濃度(mg/L)を測定した。
【0033】
[MLSS]
定性濾紙(ADANTEC No.2)を105℃で2時間乾燥した後、デシケーター内で30分放冷し、重量a(mg)を測定した。得られた濾紙を用いて、槽あるいはラインから抜き出した汚泥を含むサンプル10mLを吸引ろ過し、ろ残を濾紙とともに105℃で2時間乾燥した後、デシケーター内で30分放冷し、ろ残と濾紙の合計重量b(mg)を測定した。下式によりMLSSを算出した。
MLSS(mg/L)=(〔合計重量b〕-〔重量a〕)/10×103
【0034】
[BOD汚泥転換率]
下式によりBOD汚泥転換率を算出した。
BOD汚泥転換率(%)=(W-X)/(Y+Z)×100
W:測定日の実験系汚泥総量
X:測定日の前日に測定した実験系汚泥総量
Y:測定日前日から測定日までの一日当たりの被試験水BOD量
Z:測定日前日から測定日までの一日当たりの可溶化処理後汚泥BOD量
W、X、Y及びZは、下式により算出した。
測定日の実験系汚泥総量:W(g)
=(〔測定時の曝気槽内MLSS(mg/L)〕×〔曝気槽容量(L)〕)+(〔測定時の無酸素槽内MLSS(mg/L)〕×〔無酸素槽容量(L)〕)+(〔測定時の沈殿槽内MLSS(mg/L)〕×〔沈殿槽有効容積(L)〕)/1000
測定日の前日に測定した実験系汚泥総量:X(g)
=(〔測定時の1日前の曝気槽内MLSS(mg/L)〕×〔曝気槽容量(L)〕)+(〔測定時の1日前の無酸素槽内MLSS(mg/L)〕×〔無酸素槽容量(L)〕)+(〔測定時の1日前の沈殿槽内MLSS(mg/L)〕×〔沈殿槽有効容積(L)〕)/1000
測定日前日から測定日までの一日当たりの被試験水BOD量:Y(g)
=〔測定時の1日前から測定時までの間に生物処理に付した有機性廃水のBOD濃度(g/L)〕×〔測定時の1日前から測定時までの間に生物処理に付した有機性廃水の処理量(L)〕
測定日前日から測定日までの一日当たりの可溶化処理後汚泥BOD量:Z(g)
=〔測定時の1日前から測定時までの間に生物処理に供給される可溶化処理汚泥のBOD濃度(g/L)〕×〔測定時の1日前から測定時までの間に生物処理に供給される可溶化処理汚泥の処理量(L)〕
BOD汚泥転換率は、週に一度、W、X、Y及びZを測定し、それらの測定値から測定日におけるBOD汚泥転換率を算出し、運転期間中の平均値を求め、BOD汚泥転換率とした。
BOD濃度の測定は、JIS K 0102に準じた方法により行った。
なお、BODとは、生物化学的酸素要求量のことをいう。
BOD汚泥転換率とは、被試験水のBOD量の内、微生物群の増殖に変換された量の割合を示す。通常であれば、被試験水のBODが微生物群の増殖に変換され、即ち余剰汚泥量が増加することになるが、BOD汚泥転換率の数値が低いということは、供給された可溶化処理後汚泥により、BOD量に対する微生物群の増殖、すなわち実験系汚泥総量が抑制され、ひいては余剰汚泥の発生抑制につながり、結果、余剰汚泥削減効果があることを示す。
【0035】
[SV30]
曝気槽から抜き出した、汚泥を含む混合物100mLを均一に撹拌後100mLのメスシリンダーに入れ、30分静置した。下式によりSV30を算出した。
SV30(%)=〔30分静置後の汚泥層の体積(mL)〕/100×100
数値が低いほど、汚泥の沈降性が高いことを示す。
【0036】
[SVI]
SVI(mL/g)=SV30/〔SV30の測定に用いた汚泥を含む混合物のMLSS(mg/L)〕×104
【0037】
[処理水透視度]
底部に2重十字線が描かれた透視度計(標準型、柴田科学社製)に、沈殿槽から回収した処理水を底部からの水位が30cmとなるように入れ、2重十字線が明確に確認できる水位まで処理水を抜き、メスシリンダー底部から水面までの高さを計測し、下式により処理水透視度[%]を算出した。数値が高いほど水の透視度が高く、処理水の水質が良好であることを表す。
処理水透視度[%]=〔2重十字線が明確に確認できる水位まで処理水を抜いた後のメスシリンダー底部から水面までの高さ(cm)〕/30×100
[TOD除去率]
20mLの有機性廃水及び沈殿槽から回収した処理水をそれぞれ純水で10倍に希釈し、得られたそれぞれの希釈液について、全酸素消費量自動測定装置(TOD計) TOD-810C(東レエンジニアリング(株)製)を用いて、JIS K 0102に準じた方法によりTOD濃度(mg/L) を測定した。下式によりTOD除去率を算出した。
TOD除去率(%)=(1-P/Q)×100
P:沈殿槽から回収した処理水のTOD濃度(mg/L)
Q:有機性廃水のTOD濃度(mg/L)
【0038】
また、表1における、生物処理される有機性廃水の全酸素要求量1トン当たりの、生物処理に供給される可溶化処理汚泥量(〔可溶化処理汚泥量〕/〔有機性廃水のTOD〕(m3/t))は、下式により算出した。
〔可溶化処理汚泥量〕/〔有機性廃水のTOD〕(m3/t)
=C×106/(A×B)
A:有機性廃水のTOD濃度(mg/L)
B:有機性廃水の曝気槽への供給流量(L/min)
C:可溶化処理汚泥の曝気槽への供給流量(L/min)
【0039】
比較例1
本比較例においては、概略的には、図1を参照しながら、有機性廃水の処理を行った。より詳細には、以下の通りである。
工場廃水と工業用水とを混合し、表1に示すTOD濃度の有機性廃水を調製した。得られた有機性廃水のpHは7~8であった。
本比較例において有機性廃水を処理するために、図1に示す装置を用いた。曝気槽2として容量54Lの流通式反応槽を用い、無酸素槽3として容量54Lの流通式反応槽を用い、沈殿槽6として有効容積51L(円錐部と円柱部とを有する直径35cm、h1=50cm、h2=10cmの槽)の流通式反応槽を用いた。汚泥供給ライン11上に設けたバルブ(図示せず)を閉じ、可溶化処理槽12に沈殿槽6から抜き出した汚泥が供給されないようにして有機性廃水の処理を行った。
曝気槽2に活性汚泥を仕込み、上記で調整した有機性廃水の曝気槽2への供給流量、及び曝気槽2中のMLSSを表1に示す条件とし、曝気槽2の下部に挿入した曝気バー(図示せず)から空気を20mL/minで供給し、28℃で曝気処理を行った。
得られた曝気処理後の混合物をオーバーフローさせて空間Sを通して無酸素槽3に供給し、無酸素槽3から生物処理後混合物供給ライン5を通して混合物を抜き出し、曝気槽2に仕込んだ活性汚泥と同じ活性汚泥を予め仕込んだ沈殿槽6に供給した。沈殿槽6内の汚泥層のMLSSは表1に示す値であった。
沈殿槽6内で沈降分離を行いながら、沈殿槽6の底部に接続した汚泥排出ライン8上に設けたバルブ(図示せず)を開け、沈殿槽から抜き出した汚泥のうち、返送汚泥については、曝気槽2への供給流量が表1に示す条件となるようにポンプ(図示せず)で調整して返送汚泥供給ライン9を通して曝気槽2に供給し、余剰汚泥は余剰汚泥回収ライン10から回収した。また、沈殿槽6の上部に設けた処理水排出ライン7から、沈殿槽6内で沈降分離された上澄みの水をオーバーフローさせて処理水として回収した。
2日間連続して運転を行い、上記の分析条件でBOD汚泥転換率、SV30、SVI、処理水透視度及びTOD除去率の分析を行った。結果を表1に示す。
【0040】
実施例1
本実施例においては、概略的には、図1を参照しながら上述した実施形態に従って、有機性廃水の処理を行った。より詳細には、以下の通りである。
工場廃水と工業用水とを混合し、表1に示すTOD濃度の有機性廃水を調製した。得られた有機性廃水のpHは7~8であった。
本実施例において有機性廃水を処理するために、図1に示す装置を用いた。曝気槽2として容量54Lの流通式反応槽を用い、無酸素槽3として容量54Lの流通式反応槽を用い、沈殿槽6として有効容積51L(円錐部と円柱部とを有する直径35cm、h1=50cm、h2=10cmの槽)の流通式反応槽を用い、可溶化処理槽12として撹拌機(図示せず)を設置した容量1Lの流通式反応槽を用いた。
曝気槽2に活性汚泥を仕込み、上記で調整した有機性廃水の曝気槽2への供給流量、及び曝気槽2中のMLSSを表1に示す条件とし、曝気槽2の下部に挿入した曝気バー(図示せず)から空気を20mL/minで供給し、28℃で曝気処理を行った。
得られた曝気処理後の混合物をオーバーフローさせて空間Sを通して無酸素槽3に供給し、無酸素槽3から生物処理後混合物供給ライン5を通して混合物を抜き出し、曝気槽2に仕込んだ活性汚泥と同じ活性汚泥を予め仕込んだ沈殿槽6に供給した。沈殿槽6内のMLSSは表1に示す値であった。
沈殿槽6内で沈降分離を行いながら、沈殿槽6の底部に接続した汚泥排出ライン8上に設けたバルブ(図示せず)を開け、沈殿槽6から抜き出した汚泥のうち、返送汚泥については曝気槽2への供給流量が表1に示す条件となるようにポンプ(図示せず)で調整し、返送汚泥供給ライン9を通して曝気槽2に供給した。可溶化処理に付される汚泥については可溶化処理槽12への供給流量が表1に示す条件となるようにポンプ(図示せず)で調整し、汚泥供給ライン11を通して可溶化処理槽12に供給した。余剰汚泥は余剰汚泥回収ライン10から回収した。また、沈殿槽6の上部に設けた処理水排出ライン7から、沈殿槽6内で沈降分離された上澄みの水をオーバーフローさせて処理水として回収した。
可溶化処理槽12には、可溶化処理槽12に接続した可溶化処理剤供給ライン(図示せず)から27重量%の水酸化ナトリウム水溶液を供給し、撹拌機で撹拌しながら、室温下、pH≧13.0、滞留時間4時間の条件で可溶化処理を行った。
可溶化処理槽12に接続された可溶化処理汚泥供給ライン13から可溶化処理後の汚泥を抜き出し、中和槽(図示せず)に供給して硫酸で中和した後、表1に示す条件で中和後の可溶化処理汚泥を曝気槽2に供給した。
17日間連続して運転を行い、上記の分析条件でBOD汚泥転換率、処理水透視度及びTOD除去率の分析を行った。結果を表1に示す。
【0041】
実施例2
表1に示す条件にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で有機性廃水の処理を行った。28日間連続して運転を行い、上記の分析条件でBOD汚泥転換率、処理水透視度及びTOD除去率の分析を行った。結果を表1に示す。
【0042】
実施例3
表1に示す条件にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で有機性廃水の処理を行った。28日間連続して運転を行い、上記の分析条件でBOD汚泥転換率、SV30、SVI、処理水透視度及びTOD除去率の分析を行った。結果を表1に示す。
28日間の運転により、沈殿槽6内の汚泥界面高は、11.5cm上昇した。
【0043】
実施例4
実施例3の連続運転後、曝気槽2に供給される中和後の可溶化処理汚泥の供給流量を表1に示す流量に増加させ、運転を継続した。継続運転中、曝気槽2に供給される有機性廃水のTOD濃度及び供給流量は表1に示す条件とした。また、可溶化処理槽12に接続された可溶化処理汚泥供給ライン13の位置を調整することにより、可溶化処理の滞留時間が4時間となるようにした。27日間連続して運転を継続し、上記の分析条件でBOD汚泥転換率、SV30、SVI、処理水透視度及びTOD除去率の分析を行った。結果を表1に示す。
【0044】
実施例5
表1に示す条件にしたこと以外は、実施例1と同様の方法で有機性廃水の処理を行った。なお、可溶化処理の滞留時間は4時間とした。16日間連続して運転を行い、上記の分析条件でBOD汚泥転換率、SV30、SVI、処理水透視度及びTOD除去率の分析を行った。結果を表1に示す。
【0045】
比較例2
実施例5の連続運転後、汚泥供給ライン11上に設けたバルブ(図示せず)を閉じ、可溶化処理槽12に沈殿槽6から抜き出した汚泥が供給されないようにして有機性廃水の処理を継続した。6日間連続して運転を行い、上記の分析条件でBOD汚泥転換率を分析したところ、15%であった。
【0046】
【表1】
【0047】
表1の結果から、有機性廃水の全酸素要求量に対する可溶化処理汚泥量を所定の範囲として生物処理を行った場合には、余剰汚泥の発生量の低減を達成できることが分かる。また、汚泥の沈降性及び処理水の透視度の改善も達成できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、有機性廃水の処理において余剰汚泥の発生量を低減させることができる。
【符号の説明】
【0049】
1:有機性廃水供給ライン、2:曝気槽、3:無酸素槽、4:活性汚泥処理槽、5:生物処理後混合物供給ライン、6:沈殿槽、7:処理水排出ライン、8:汚泥排出ライン、9:返送汚泥供給ライン、10:余剰汚泥回収ライン、11:汚泥供給ライン、12:可溶化処理槽、13:可溶化処理汚泥供給ライン、h1:沈殿槽6の円錐部と円柱部の境界部から処理水排出ライン7の接続部までの高さ、h2:沈殿槽6の円錐部の下端から円錐部と円柱部の境界面までの高さ、S:空間、T:仕切り板
図1