(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099263
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】骨接合用プレート
(51)【国際特許分類】
A61B 17/80 20060101AFI20240718BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20240718BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20240718BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
A61B17/80
A61L27/12
A61L27/18
A61L27/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003078
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】317011595
【氏名又は名称】帝人メディカルテクノロジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】安川 和宏
(72)【発明者】
【氏名】武石 俊作
(72)【発明者】
【氏名】中野 貴由
(72)【発明者】
【氏名】石本 卓也
(72)【発明者】
【氏名】松垣 あいら
【テーマコード(参考)】
4C081
4C160
【Fターム(参考)】
4C081AB02
4C081BA16
4C081CA171
4C081CF031
4C081DA01
4C160LL29
4C160LL33
(57)【要約】
【課題】骨折部位における骨組織の配向性と強度の回復を促進させる。
【解決手段】骨接合用のプレートであって、その表面の少なくとも一部に、互いに接触しない複数の帯状凹部を有し、当該帯状凹部の各々の幅が50μm以上500μm以下で深さが30μm以上300μm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨接合用のプレートであって、その表面の少なくとも一部に、互いに接触しない複数の帯状凹部を有し、当該帯状凹部の各々の幅が50μm以上500μm以下で深さが30μm以上300μm以下である、骨接合用プレート。
【請求項2】
当該帯状凹部が同じ方向に延びている、請求項1に記載の骨接合用プレート。
【請求項3】
当該帯状凹部の幅が80μm以上450μm以下である、請求項1に記載の骨接合用プレート。
【請求項4】
当該帯状凹部の深さが80μm以上120μm以下である、請求項1に記載の骨接合用プレート。
【請求項5】
生体材料及び/又は生体吸収性材料からなる、請求項1に記載の骨接合用プレート。
【請求項6】
生体材料及び/又は生体吸収性材料がポリ乳酸とハイドロキシアパタイトの複合材料である、請求項5に記載の骨接合用プレート。
【請求項7】
当該プレートを骨に固定するための穴部を有する、請求項1に記載の骨接合用プレート。
【請求項8】
当該プレートの当該帯状凹部を有する面を骨表面と接触させて使用される、請求項1に記載の骨接合用プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨折等の治療のために骨に取り付けて用いる骨接合用プレートに関する。
【背景技術】
【0002】
骨折等の後の骨治癒の過程では、骨密度とともに骨の微細構造の回復が鍵を握る。そして、骨の微細構造の回復に関連して、骨基質を構成するアパタイト及びコラーゲン繊維が示す配向性が、骨の力学的機能の発揮に重要で、正常骨ではアパタイト結晶c軸はコラーゲン繊維に沿った配向性を示す。しかしながら、骨治癒の早期に於いてこういった配向性の自発的な再構築は困難であり、骨の配向性は骨密度に大幅に遅れて回復することが知られている(非特許文献1)。そのため、骨治癒の早期に於いて配向性を有する骨微細構造の再生を人為的に誘導する医療器具が求められる。
【0003】
斯かる医療器具の一態様として、骨折等の治療のために骨に取り付けて用いる器具が広く使用されている。そのような器具の具体例としては、ネジ、ピン及びプレートを挙げることができる。骨接合用プレートは、平らな表面をしたものが一般的であるが、その表面に溝を形成した溝付きプレートも考案されている。
【0004】
特許文献1には、幅及び深さが各々ナノスケール(1nm~1000nm)の帯状の溝を複数、互いに接触しないよう平行に形成した骨接合用プレートが記載されている。本文献の骨接合用プレートは、骨芽細胞等の細胞の増殖や分化が溝に沿うように制御できるため、治癒の方向性を制御することが可能となるとされている。
【0005】
特許文献2には、幅及び深さが各々30μm以上300μm以下の格子状の溝を表面に形成した骨接合用プレートが記載されている。本文献の骨接合用プレートは、サイズが100μm程度である骨芽細胞を効果的に浸潤させることができるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】まてりあ第59巻第11号(2020)594-599
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-078904号公報
【特許文献2】国際公開第2012/102205号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
骨折は通常、ギプスで固定することで元に戻る。その際まず骨密度の回復に数週間、その後骨組織の配向性の回復にさらに数週間を要し、短期間に骨密度と配向性の回復が誘導される器具が求められている。
【0009】
上記背景技術に記載した従来の溝付きの骨接合用プレートは、骨芽細胞の溝に沿った増殖や浸潤効果が謳われているが、溝に接しない骨芽細胞の増殖や浸潤の方向、アパタイトやコラーゲン繊維の配向性の有無は不明である。骨組織の配向性や骨の力学的強度の短期間での回復を可能とする骨接合用プレートは、知られていない。
【0010】
本発明の目的は、骨組織の配向性及び骨の強度の回復を促進させることが可能な骨接合用プレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は鋭意検討の結果、骨接合用プレートの表面の少なくとも一部に、互いに接触しない複数の帯状凹部を設け、当該凹部の各々の幅を50μm以上500μm以下、深さを30μm以上300μm以下に限定することにより、骨組織の配向性及び骨の強度の回復を促進させることが可能な骨接合用プレートを得られることに想到し、本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明は例えば以下の概念を包含する。
[項1]骨接合用のプレートであって、その表面の少なくとも一部に、互いに接触しない複数の帯状凹部を有し、当該帯状凹部の各々の幅が50μm以上500μm以下で深さが30μm以上300μm以下である、骨接合用プレート。
[項2]当該帯状凹部が同じ方向に延びている、項1に記載の骨接合用プレート。
[項3]当該帯状凹部の幅が80μm以上450μm以下である、項1又は項2に記載の骨接合用プレート。
[項4]当該帯状凹部の深さが80μm以上120μm以下である、項1~3の何れか一項に記載の骨接合用プレート。
[項5]生体材料及び/又は生体吸収性材料からなる、項1~4の何れか一項に記載の骨接合用プレート。
[項6]生体材料及び/又は生体吸収性材料がポリ乳酸とハイドロキシアパタイトの複合材料である、項5に記載の骨接合用プレート。
[項7]当該プレートを骨に固定するための穴部を有する、項1~6の何れか一項に記載の骨接合用プレート。
[項8]当該プレートの当該帯状凹部を有する面を骨表面と接触させて使用される、項1~7の何れか一項に記載の骨接合用プレート。
【発明の効果】
【0013】
本発明の骨接合用プレートによれば、骨組織の配向性及び骨の強度の回復を促進させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る骨接合用プレートの構成の一例を模式的に示す図である。具体的に、
図1(a)は骨接合用プレートの平面図であり、
図1(b)は
図1(a)の骨接合用プレートのD-D’における部分断面図である。なお、本
図1(a)及び(b)は、本発明の実施例における骨接合用プレートの構成の説明にも用いる。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る骨接合用プレートを骨に装着した状態の一例を説明するための模式図である。なお、本
図2は、本発明の実施例における骨接合用プレートを骨に装着した状態の説明にも用いる。
【
図3】
図3は、本発明の実施例における骨接合用プレート装着後の骨組織の配向性の解析方法を説明するための図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例における骨接合用プレート装着後の骨組織の配向性の測定結果を示すグラフである。
【
図5】
図5(a)及び(b)は、本発明の参考例における脛骨横欠損部の再生骨の強度の解析結果を示すグラフである。具体的に、
図5(a)は3点曲げにおける最大荷重(N)を示すグラフであり、
図5(b)はナノインデンテーションにおけるヤング率(GPa)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体的な実施の形態に即して、適宜図を参照しながら詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施の形態及び図に束縛されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。また、各図は説明の便宜のために一部の構造をデフォルメして示しているところ、本発明の実施の形態における実際の構造はこれとは異なる場合があることにも留意されたい、
【0016】
本発明の一実施形態は、骨接合用プレートに関する。本骨接合用プレートは、その表面の少なくとも一部に、互いに接触しない複数の帯状凹部を有し、当該帯状凹部の各々の幅が各々所定の範囲内であることを特徴とする。
【0017】
本実施形態に係る骨接合用プレートの構成の一例を
図1(a)及び(b)に模式的に示す。具体的に、
図1(a)は骨接合用プレートの平面図であり、
図1(b)は
図1(a)の骨接合用プレートのD-D’における部分断面図である。
図1(a)及び(b)に示す骨接合用プレート1は、基部2、帯状凹部形成部3、骨装着部4、及び穴部5を有する。但し、本実施形態に係る骨接合用プレートの構成は、
図1(a)及び(b)に示すものに限定されるものではない。
【0018】
基部2は、骨接合用プレート1の主構造となる板状の部材である。本開示において「主構造」とは、形状を構成する主な構造のことをいい、骨接合用プレートの機械的強度を担う構造であるともいうことができる。
【0019】
基部2の形状は特に制限されず、任意の形状とすることができる。基部2の平面形状の例としては、これらに限定されるものではないが、矩形(三角形、四角形(方形)、多角形等)、円形、楕円形、円弧形等が挙げられる。基部2の立体形状も特に制限されず、平板状であってもよいが、湾曲や凹凸を有していてもよい。
図1(a)等では例として長方形の平面形状を有する平板状の基部2を示しているが、これに限定されるものではない。斯かる基部2の形状は、骨接合用プレート1を使用する患部や骨の形状等に応じて、適宜選択することが可能である。
【0020】
基部2の大きさも特に制限されず、骨接合用プレート1を使用する患部や骨の形状等に応じて、適宜選択することが可能である。一態様によれば、基部2の平面形状の寸法は、これに限定されるものではないが、最短部が例えば1.5mm以上、中でも2mm以上とすることができ、また、最長部が例えば10cm以下、中でも7.5cm以下とすることができる。一態様によれば、基部2の断面形状の厚みは、これに限定されるものではないが、下限が例えば0.2mm以上、中でも0.3mm以上とすることができ、また、上限が例えば5mm以下、中でも3mm以下とすることができる。基部2の断面形状の厚みは、基部2の平面形状の全体にわたって同一又は略同一であってもよく、少なくとも一部において異なっていてもよいが、平面形状の全体にわたって同一又は略同一であることが好ましい。
【0021】
基部2の素材は制限されず、金属、高分子等の任意の素材とすることができる。基部2の素材は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。中でも、基部2の素材としては、その一部または全部が、生体吸収性材料及び/又は生体材料であることが好ましい。
【0022】
本開示において「生体吸収性材料」とは、生体内において材料が分解し、その分解産物が無毒で代謝系に取込まれ、生体に吸収又は排泄される高分子材料を意味する。その例としては、キチン等の多糖類、コラーゲン等の蛋白質、このほかポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ヒドロキシアパタイトなどの無機素材、これら2種以上の混合物が挙げられる。中でも好ましいものとして、脂肪族ポリエステル、リン酸カルシウム類、これらの混合物を挙げることができる。脂肪族ポリエステルの種類は特に制限されないが、好ましくはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、及びそれらの共重合体、並びにそれらの混合物が挙げられる。中でも好ましくはポリ乳酸、特にポリ-L-乳酸を挙げることができる。リン酸塩類の種類も特に制限されないが、例としてはリン酸三カルシウム、ハイドロキシアパタイトを挙げることができる。
【0023】
本開示において「生体材料」とは、生体に直接接触する材料や生きている細胞に接触する材料のことで、例として、人工骨、人工関節、人工歯根等に用いられ、生体材料で使用される素材の例として、ハイドロキシアパタイト、ポリエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、チタン合金、ステンレス類(SUS316ステンレス等)、Co-Cr合金、アルミナ、リン酸三カルシウム、結晶化ガラス、酸化亜鉛-ポリアクリル酸、酸化亜鉛-ユージノール、リン酸亜鉛、ガラス-アクリル酸共重合体が挙げられる。なお、生体吸収性材料として使用される素材の一部又は全部は、生体材料としても使用される素材である。
【0024】
中でも基部2の素材としては、ポリ-L-乳酸又はその共重合体とリン酸カルシウムとの複合材料であることが好ましく、ポリ-L-乳酸とハイドロキシアパタイトの複合材料であることがより好ましい。
【0025】
基部2は、その表面を覆う被覆膜を備えていてもよい。基部2の表面に被覆膜を設ける場合、基部2の全表面に被覆膜を形成してもよいが、一部の表面のみに被覆膜を形成してもよい。また、基部2の被覆膜に合わせて、後述する帯状凹部形成部3、骨装着部4、及び/又は穴部5の表面にも被覆膜を形成してもよく、しなくてもよい。被覆膜の素材は特に制限されないが、例としてはポリエチレンオキシド等のポリアルキレンオキシド類、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、ポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン) 等のリン脂質ポリマー、ハイドロキシアパタイト等のバイオセラミックス等が挙げられる。これらの被覆膜の素材は、何れか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。被覆膜の厚みも特に制限されないが、例えば5μm以上、又は20μm以上、また、例えば500μm以下、又は200μm以下とすることができる。
【0026】
帯状凹部形成部3は、少なくとも使用時に骨と接する基部2の表面の少なくとも一部に設けられる。帯状凹部形成部3の形状、大きさ、及び基部2に対する配置は特に制限されない。
図1(b)では、基部2の長軸方向中央に方形の帯状凹部形成部3を設けた例を示しているが、これに限定されるものではない。
【0027】
図1(b)に示すように、帯状凹部形成部3内には、複数の帯状凹部6が、互いに接触しないように形成される。本開示において「帯状凹部」とは、平面視したときに枝分かれせず連続する凹部のことを意味する。帯状凹部は、溝状の構造と表現することもできる。
【0028】
各帯状凹部6の平面形状は特に制限されない。直線状であってもよく、その一部又は全体に屈曲又は湾曲を有する曲線状であってもよい。一態様によれば、各帯状凹部6の平面形状は、制限されるものではないが、直線状であることが好ましい。一態様によれば、各帯状凹部6の平面形状は、制限されるものではないが、再生を促す骨組織の配向性に応じた形状とすることが好ましい。なお、複数の帯状凹部6の平面形状は、互いに同一又は略同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。一態様によれば、複数の帯状凹部6の平面形状は、制限されるものではないが、互いに同一又は略同一であることが好ましい。
【0029】
各帯状凹部6は、互いに接触しないように配置される。本開示において、複数の帯状凹部6が「互いに接触しない」とは、複数の帯状凹部同士が交差したり合流したりせずに配置されていることをいう。一態様によれば、複数の帯状凹部6は、特に制限されないが、同じ方向に延びていることが好ましい。一態様によれば、複数の帯状凹部6は、特に制限されないが、平行又は略平行に配置されることが好ましい。
【0030】
各帯状凹部6の長手方向に対し直交する断面の形状は、特に制限されない。例としては、これらに限定されるものではないが、矩形(三角形、四角形(方形)、多角形等)、円弧形が挙げられる。
図1(b)では例として四角形(方形)の断面形状を有する帯状凹部6を示しているが、これに限定されるものではない。一態様によれば、各帯状凹部6の断面形状は、四角形状が好ましい。各帯状凹部6の断面形状は、各帯状凹部6の長手方向に沿って同一又は略同一であってもよく、少なくとも一部において異なっていてもよいが、長手方向の全体にわたって同一又は略同一であることが好ましい。複数の帯状凹部6の断面形状は、互いに同一又は略同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。一態様によれば、複数の帯状凹部6の断面形状は、制限されるものではないが、互いに同一又は略同一であることが好ましい。
【0031】
各帯状凹部6の幅は、50μm以上500μm以下である。具体的に、各帯状凹部6の幅の下限は、通常50μm以上であるが、中でも60μm以上、又は70μm以上、又は80μm以上、又は90μm以上であることが好ましい。一方、各帯状凹部6の幅の上限は、通常500μm以下であるが、中でも450μm以下、又は420μm以下であることが好ましい。なお、本開示において各帯状凹部6の「幅」とは、基部2の表面における各帯状凹部6の長手方向に対し直交する開口断面の開口切片長を指す。各帯状凹部6の幅は、各帯状凹部6の長手方向に沿って同一又は略同一であってもよく、少なくとも一部において異なっていてもよいが、長手方向の全体にわたって同一又は略同一であることが好ましい。また、複数の帯状凹部6の幅は、互いに同一又は略同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。一態様によれば、複数の帯状凹部6の幅は、制限されるものではないが、互いに同一又は略同一であることが好ましい。
【0032】
各帯状凹部6の深さは、30μm以上300μm以下である。具体的に、各帯状凹部6の深さの下限は、通常30μm以上であるが、中でも50μm以上、又は60μm以上、又は70μm以上、又は80μm以上であることが好ましい。一方、各帯状凹部6の深さの上限は、通常300μm以下であるが、中でも250μm以下、又は200μm以下であることが好ましい。更には、各帯状凹部6の深さの上限を、例えば180μm以下、又は160μm以下、又は140μm以下、又は120μm以下とすることもできる。なお、本開示において各帯状凹部6の「深さ」とは、基部2の表面における各帯状凹部6の長手方向に対し直交する開口断面の最深部の深さを指す。各帯状凹部6の深さは、各帯状凹部6の長手方向に沿って同一又は略同一であってもよく、少なくとも一部において異なっていてもよいが、長手方向の全体にわたって同一又は略同一であることが好ましい。また、複数の帯状凹部6の深さは、互いに同一又は略同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。一態様によれば、複数の帯状凹部6の深さは、制限されるものではないが、互いに同一又は略同一であることが好ましい。
【0033】
隣接する帯状凹部6の間隔(高さの基準を当該帯状凹部6の底部とした場合には、凸部の幅ということもできる。)は、特に制限されないが、各帯状凹部の幅とほぼ同じとすることが好ましい。具体的に、隣接する帯状凹部6の各間隔の下限は、例えば50μm以上、又は60μm以上、又は70μm以上、又は80μm以上、又は90μm以上であることが好ましい。一方、隣接する帯状凹部6の各間隔の上限は、例えば500μm以下、又は450μm以下、又は420μm以下であることが好ましい。隣接する帯状凹部6の各間隔は、各帯状凹部6の長手方向に沿って同一又は略同一であってもよく、少なくとも一部において異なっていてもよいが、長手方向の全体にわたって同一又は略同一であることが好ましい。また、複数組の隣接する帯状凹部6の間隔は、互いに同一又は略同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。一態様によれば、複数組の隣接する帯状凹部6の間隔は、制限されるものではないが、互いに同一又は略同一であることが好ましい。
【0034】
骨装着部4は、基部2の一部に設けられ、骨接合用プレート1を骨に固定するためのネジ等の固定具を嵌入するための穴部5が形成される部位である。骨装着部4の形状は限定されず、基部2の一部をそのまま骨装着部4としてもよいが、患部や骨の形状や固定具の種類及び形状等に適した形状にしてもよい。穴部5の形状も特に制限されず、患部や骨の形状や固定具の種類及び形状等に適した任意の形状とすることができる。骨装着部4及び穴部5の各々の数も制限されず、各々1つずつでも2つ以上でもよい。また、各骨装着部4に対して設けられる穴部5の数も制限されず、1つであってもよく、2以上であってもよい。各骨装着部4及び各穴部5の基部2に対する配置も任意である。
図1(a)では、基部2の超軸方向の両端に一つずつ計二つの略円形の骨装着部4を設け、各骨装着部4の中心に一つずつ計二つの円形の穴部5を形成した骨接合用プレート1を示しているが、これに制限されない。
【0035】
本実施形態の骨接合用プレート1は、帯状凹部形成部3を骨表面と接触させた状態で限定されるものではないが、以下の手順で作製することができる。所望の素材からなる所望の形状の部材を、適宜常法により成形加工して基部2を作製する。成形加工時に基部2に骨装着部4及び/又は穴部5を形成してもよい。また、適宜常法により基部2に被覆膜を形成してもよい。その後、基部2の帯状凹部形成部3に当たる領域に、帯状凹部6を形成する。帯状凹部6を形成する手法は特に制限されず、任意の手法を利用することができる。例としては、レーザーや刃物による切削、金型による押圧及びイオンや薬液によるエッチングなどを挙げることができる。
【0036】
本実施形態の骨接合用プレート1は、帯状凹部6を有する面を、骨折部位や骨欠損部位等の骨患部部位の表面と接触させて使用される。本実施形態に係る骨接合用プレートを骨に装着した状態の一例を
図2に模式的に示す。但し、本実施形態に係る骨接合用プレートを骨に装着した状態は、
図2に示すものに限定されるものではない。
図2に示すように、骨接合用プレート1は、帯状凹部6が形成された帯状凹部形成部3の存在する面を、骨9の患部部位9’の表面と接触させた状態で配置される。更に、各骨装着部4の各穴部5に嵌合された固定具(ネジ等)8によって、骨接合用プレート1が骨9に固定される。
【0037】
このように骨接合用プレート1の帯状凹部6を有する面が、骨折部位や骨欠損部位等の骨患部部位の表面と接触した状態で、適宜周囲の組織や皮膚を縫合し、一定期間(制限されるものではないが、例えば7日以上、又は20日以上、また、例えば200日以内、又は100日以内)に亘って維持することにより、帯状凹部6の周囲に骨組織の再生が誘導されると共に、骨組織の配向性及び骨の強度の回復が促進される。
【0038】
以上説明した本実施形態の骨接合用プレートによれば、骨欠損部における骨芽細胞の増殖や分化に伴う骨組織の配向性と強度の回復が促進され、骨折を速やかに治癒することが可能となる。なお、本開示において「配向性」とは、骨組織の主成分であるアパタイト結晶とコラーゲン線維の配列が特定の方向に配列することを意味する。
【実施例0039】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
まず、以下の手順でプレートを作製した。まず、ポリ-L-乳酸とハイドロキシアパタイトの複合材料(帝人メディカルテクノロジー株式会社製スーパーフィクソーブMX40)からなる部材を加工して、
図1(a)に示す形状の基材2、即ち、中央に長方形の形状を有し、その長軸方向の両端に各々、円形の骨装着部4が設けられ、各骨装着部4の中央に穴部5が形成された形状の基材2を作成した。なお、各骨装着部4の直径は4.5mm、各穴部5の直径は1.5mm、二つの穴部5の中央間の距離は6mm、基材2の中央部(二つの骨装着部4に挟まれた部分)の長軸方向の長さは4mm、短軸方向の長さは2.3mmであった。
【0041】
得られた基材2を用いて、以下の4種類の骨接合用プレートを各々複数作製した。基材2の中央部(二つの骨装着部4に挟まれた部分)の片面に、長軸方向の長さ4mm、短軸方向の長さ2.3mmの帯状凹部形成部3を設定し、
図1(b)に示す形状の互いに接触しない複数の同形状の帯状凹部6を等間隔で平行に形成し、本発明の一実施形態に相当する骨接合用プレート1を作成した。帯状凹部の幅、深さ、及び間隔(それぞれ
図1(b)の「w」、「d」、及び「i」に相当)は、下記表1に示すように設定した。特に帯状凹部の幅については100μm、200μm、及び400μmの三種類を設定し、三種類の骨接合用プレート1を作製した(それぞれ適宜「100」、「200」、及び「400」と略称する。)。また、比較例として、帯状凹部6を形成しない基材2をそのまま骨接合用プレートとして用いた(適宜「フラット」と略称する。)。
【0042】
【0043】
10週齢雄SDラット(日本SLC社)の左右の脛骨それぞれに、500μmのドリルで骨の長軸方向(すなわち配向方向)に対し直交する方向の欠損(横欠損)を導入した。
図2に示すように、この骨欠損部位9’を覆って跨ぐよう、上記の各骨接合用プレート1の帯状凹部6の溝の方向が骨9の配向方向(すなわち横欠損の方向と直交する方向)となるように骨接合用プレート1を脛骨9にあてがい、2つの穴部5にチタン製ネジ8を嵌合させて骨接合用プレート1を脛骨9に固定した。これを6匹のラットA~Fの左右の脛骨に対し、上記作製の4種類の骨接合用プレート「100」、「200」、「400」、及び「フラット」を用いて、下記表2に示す組み合わせとなるよう埋入した。
【0044】
【0045】
埋入の6週間後に、プレートが固定された脛骨を摘出し、プレートと骨との接面付近の骨組織の配向性を解析した。解析は、微小領域X線回折法(μXRD法)で行い、
図3に示すように、骨9の接面から200μmの領域(
図3)に、骨9の長軸方向と直交する方向にX線(機器:(株)リガク製R-Axis BQ、線源:Mo-Kα(波長:0.71069Å)、コリメータ系:200μm、照射時間:1800秒)を照射することで行った。配向性の程度は、生体アパタイトの(310)面と(002)面の回折強度比で評価した。その結果を
図4に示す。
【0046】
各骨接合用プレートによる処置後の骨組織の配向性の解析結果を
図4のグラフに示す。横軸は各骨接合用プレートの種類であり、縦軸は(310)面と(002)面の回折強度比の平均値を表す。
図4に示すように、本発明の骨接合用プレートに相当する帯状凹部を形成した骨接合用プレート「100」、「200」、及び「400」では、帯状凹部を形成しなかった骨接合用プレート「フラット」と比較して、短期間で高いアパタイトの配向性が達成された。
【0047】
[参考例]
10週齢雄SDラット(日本SLC社)の脛骨に、直径0.5mmのドリルで、骨の長軸方向(すなわち配向方向)と直交する方向に、長さ3mm、幅及び深さとも260μm±71μmの欠損(横欠損)を導入しこれを対象群とし、さらに骨の長軸方向と同方向に長さ1mm、幅及び深さとも270μm±76μmの欠損(縦欠損)を導入しこれを配向性誘導欠損導入群とした。導入の4週間後に、脛骨を摘出し、横欠損部の再生骨の配向性と強度を解析した。配向性の解析は、微小領域X線回折法(μXRD法)(機器:(株)リガク製R-Axis BQ、線源:Mo-Kα(波長:0.71069Å)、コリメータ系:50μm、照射時間:3600秒)により行った。強度の評価としては、曲げ最大荷重及びヤング率を測定した。曲げ最大荷重は、3点曲げ試験(機器:Instron社製Instron 5565、試験条件:脛骨の欠損部が下になるように設置し欠損部の反対側から曲げ荷重を負荷、クロスヘッドスピードは1mm/分、支点間距離は16mm)により測定した。ヤング率は、ナノインデンテーション(機器:Elionix社製ENT 1100a、試験条件:エメリー氏とバフ研磨により測定面を鏡面にし、試験温度25℃、最大荷重6mN、荷重ステップ500/秒、荷重保持時間180秒)により測定した。
【0048】
図5(a)及び(b)は、本発明の参考例における脛骨横欠損部の再生骨の強度の解析結果を示すグラフである。具体的に、
図5(a)は3点曲げにおける最大荷重(N)を示すグラフであり、
図5(b)はナノインデンテーションにおけるヤング率(GPa)を示すグラフである。骨の長軸方向に欠損を導入することにより、横欠損部位の骨再生において、
図5(a)に示すように、短期間で帯状凹部の帯の方向にコラーゲン繊維の配向性が達成された。また、
図5(b)に示すように、短期間で骨強度の向上が達成された。横欠損は通常の骨折で起こる欠損であり、縦欠損は本発明の骨接合プレートにおける互いに接触しない複数の帯状凹部と位置付けることができる。すなわち、本発明の骨接合プレートとすることで、骨欠損部におけるコラーゲン繊維の配向性と強度の速やかな向上が達成される。
【0049】
従来の溝付きプレートでは、骨芽細胞等骨再生に関与する細胞の増殖や浸潤が溝に沿って起こることが記載されているものの、溝に接しない骨芽細胞の増殖や浸潤の方向、アパタイトやコラーゲン繊維の配向性の有無、特には溝に接しない場所におけるそれらの配向性の有無と有りの場合の方向は不明で、関連して短期間で骨組織の配向性ひいては骨強度の回復をもたらすプレートは存在していなかった。本発明の骨接合用プレートとすることで、上記実施例や参考例の結果として示したように、アパタイト、コラーゲン繊維とも短期間で配向性が達成され、骨強度の短期間での回復も達成された。