(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099377
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及び液体を吐出する装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
B41J2/14
B41J2/14 301
B41J2/14 603
B41J2/14 607
B41J2/14 609
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003283
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】竹内 惇
(72)【発明者】
【氏名】楠 雅統
(72)【発明者】
【氏名】木名瀬 裕太
(72)【発明者】
【氏名】森 尚子
【テーマコード(参考)】
2C057
【Fターム(参考)】
2C057AF08
2C057AF10
2C057AF34
2C057AF40
2C057AG14
2C057AG75
2C057AN01
2C057AN05
(57)【要約】
【課題】単位面積当たりのノズル数を増やし、クロストークを抑制する。
【解決手段】液体を吐出する複数のノズル2と、複数のノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室4と、複数の圧力室の各ノズル連通壁110にそれぞれ設けられ、各圧力室内の液体を加圧する複数のアクチュエータ5と、複数の圧力室に連通する共通液室3とを備える液体吐出ヘッド1であって、共通液室は、複数の圧力室の各開口部4aに面して連通しており、共通液室を介して各開口部と対向する位置にダンパ部材61が設けられ、開口部4aとダンパ部材61との最小距離L1が、隣接する2つの圧力室における開口部の中心間距離L2以下である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルと、
前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室と、
前記複数の圧力室の各ノズル連通壁にそれぞれ設けられ、各圧力室内の液体を加圧する複数のアクチュエータと、
前記複数の圧力室に連通する共通液室とを備える液体吐出ヘッドであって、
前記複数の圧力室の前記共通液室側の各開口部と対向する位置にダンパ部材が設けられ、
前記開口部と前記ダンパ部材との最小距離が、隣接する2つの圧力室における前記開口部の中心間距離以下であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記最小距離は250[μm]以下であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記最小距離は10[μm]以上であることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記共通液室に液体を供給する供給流路を備え、
前記供給流路は、前記複数の圧力室からなる圧力室アレイの短手方向外方で、前記共通液室に連通していることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記共通液室に液体を供給する供給流路と、
前記共通液室から液体を排出する排出流路とを備えることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項6】
請求項5に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記供給流路は、前記複数の圧力室からなる圧力室アレイの短手方向外方で前記共通液室に連通し、
前記排出流路は、前記圧力室アレイの長手方向外方で前記共通液室に連通していることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項5に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記供給流路は、前記複数の圧力室からなる圧力室アレイの短手方向外方で前記共通液室に連通し、
前記排出流路は、前記圧力室アレイの短手方向外方で前記共通液室に連通していることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドにおいて、
前記開口部には流体抵抗部が設けられていることを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッドを備えることを特徴とする液体を吐出する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド及び液体を吐出する装置に関するものである。
【0002】
従来、液体を吐出する複数のノズルと、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室と、前記複数の圧力室の各ノズル連通壁にそれぞれ設けられ、各圧力室内の液体を加圧する複数のアクチュエータと、前記複数の圧力室に連通する共通液室とを備える液体吐出ヘッドが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数のノズル及びアクチュエータが形成されたノズルプレート(ノズル連通壁)と、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の円筒状の圧力室が形成された基板と、ダンパ部材とを備える液体吐出ヘッドが開示されている。アクチュエータは、ノズルと同軸の円環形状に形成され、各圧力室内の液体を加圧するように駆動する。ダンパ部材は、ノズルプレートが設けられる基板の面とは反対側の面に設けられる弾性部材であり、各圧力室と同じ内径をもつ円筒状の複数のダンパ室がそれぞれ各圧力室と対向して設けられている。共通液室は、ダンパ部材の各ダンパ室を介して各圧力室に連通している。各圧力室内で生じるアクチュエータ駆動による液体の圧力波は、ダンパ部材の弾性変形によって吸収され、これにより、圧力波が他の圧力室に伝搬するクロストークが抑制される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、複数の圧力室の各ノズル連通壁のそれぞれにアクチュエータが設けられる液体吐出ヘッドにおいて、従来の構成によれば、クロストークを抑制できる反面、単位面積当たりのノズル数を増やすことが困難であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、液体を吐出する複数のノズルと、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室と、前記複数の圧力室の各ノズル連通壁にそれぞれ設けられ、各圧力室内の液体を加圧する複数のアクチュエータと、前記複数の圧力室に連通する共通液室とを備える液体吐出ヘッドであって、前記複数の圧力室の前記共通液室側の各開口部と対向する位置にダンパ部材が設けられ、前記開口部と前記ダンパ部材との最小距離が、隣接する2つの圧力室における前記開口部の中心間距離以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、複数の圧力室の各ノズル連通壁のそれぞれにアクチュエータが設けられる液体吐出ヘッドにおいて、単位面積当たりのノズル数を増やし、クロストークを抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態におけるノズル振動方式の液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図。
【
図2】同液体吐出ヘッドのノズル面を模式的に示す斜視図。
【
図3】
図1中の符号Xで示す破線で囲った部分の拡大断面図。
【
図4】同液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図。
【
図5】同液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す正面図であり、A-A'断面の断面図。
【
図6】同液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す側面図であり、B-B'断面の断面図。
【
図7】ダンパ部によるクロストーク抑制効果をシミュレーションした結果を示すグラフ。
【
図8】複数の圧力室の各開口部とダンパフィルムとの間の最小距離L1を変化させたときの液体吐出速度の変化率をシミュレーションした結果を示すグラフ。
【
図9】変形例1における液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図。
【
図10】同液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す側面図であり、B-B'断面の断面図。
【
図11】変形例2における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す平面図であり、D-D'断面の断面図。
【
図12】同液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す側面図であり、B-B'断面の断面図。
【
図13】変形例3におけるヘッドユニットを構成する4つの液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図。
【
図14】同ヘッドユニットを構成する4つの液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す側面図であり、A-A'断面の断面図。
【
図15】変形例4における液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図。
【
図16】同液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す正面図であり、E-E'断面の断面図。
【
図17】同液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す側面図であり、F-F'断面の断面図。
【
図18】変形例5におけるヘッドユニットを構成する4つの液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図。
【
図19】同ヘッドユニットを構成する4つの液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す側面図であり、E-E'断面の断面図。
【
図20】変形例6における液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図。
【
図21】同液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す正面図であり、G-G'断面の断面図。
【
図22】同液体吐出ヘッドを4つ配設したヘッドユニットの内部構造を模式的に示す断面図。
【
図23】変形例7における液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図。
【
図24】同液体吐出ヘッドの内部構造を模式的に示す正面図であり、H-H'断面の断面図。
【
図25】同液体吐出ヘッドを4つ配設したヘッドユニットの内部構造を模式的に示す断面図。
【
図27】同印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図。
【
図30】本例の液体吐出ユニットの要部平面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を、液体を吐出する装置に設けられる液体吐出ヘッドに適用した一実施形態について説明する。
なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0009】
本実施形態における液体吐出ヘッドは、ノズルを有するノズル板に設けられるアクチュエータにより圧力室の圧力を変動させることにより圧力室内の液体をノズルから吐出するノズル振動方式の液体吐出ヘッドである。ノズル振動方式は、一般的なユニモルフ型ピエゾヘッド(圧力室のノズルに連通する連通口を有する壁部(ノズル連通壁)に対向する面を振動させて液体を吐出するもの)に比べて小さい力で液滴が飛ばせるという特徴があり、アクチュエータの省電力化を図ることができる。
【0010】
ノズル密度を高くすると電圧印加のための配線をレイアウトするスペースが限られ、基板表面での配線構築が困難となる。基板内に配線や駆動回路を構築することで、ノズル密度が高い構成でも、配線をレイアウトすることができる。一般に、アクチュエータとして用いられる圧電素子の材料として、圧電特性の高さから、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)が広く利用されている。ただし、配線や駆動回路が構築された基板上に圧電膜を成膜する場合、PZTの成膜・結晶化温度は600℃以上を要することから、圧電素子の材料としてPZTを用いると、基板内の駆動回路とその配線が高温に耐えられなくなる。そのため、基板内に配線や駆動回路を構築する構成では、圧電材料としては、PZTよりも成膜温度の低い圧電材料が求められ、PZTに比べ圧電特性の低い材料を選択することを余儀なくされる。しかしながら、上述したノズル振動方式は、一般的なユニモルフ型ピエゾヘッドに比べ小さい力で液滴が飛ばせるという特徴があるため、PZTに比べ圧電特性の低い材料を選択しても、良好に液体を吐出することが可能である。よって、非鉛材料など成膜・結晶化温度は低いがパワーの小さい圧電材料でも良好に液体を吐出することができる。これにより、基板内に配線や駆動回路を構築することができ、高密度化が可能となる。さらに、ノズル振動方式は、圧力室の容積を小さくできることから、ヘッドの小型化も可能となる。
【0011】
図1は、本実施形態におけるノズル振動方式の液体吐出ヘッドを模式的に示す断面図である。
図2は、本実施形態の液体吐出ヘッドのノズル面を模式的に示す斜視図である。
液体吐出ヘッド1は、ノズル板110と、圧力室基板100と、共通液室基板120とを備えている。そのほか、液体吐出ヘッド1は、後述するように、ダンパ部130、フレーム部140なども備えている。
【0012】
ノズル板110は、薄膜状であり、液体を吐出する複数のノズル2と、ノズル2の周囲に配置される環状のアクチュエータである電気機械変換素子としての圧電素子5とを有している。圧力室基板100は、複数のノズル2に各々連通する複数の圧力室(個別液室、加圧液室ともいう。)4を有している。各圧力室4の一面にノズル2(振動膜103)があり、当該一面と対向する側に、圧力室の開口部4a及びダンパ部130が配置される。共通液室基板120は、複数の圧力室4に連通する共通液室3を有している。液体吐出ヘッド1の両端には、外部の電源等の電気部品と接続するための電気接続パッド55が設けられている。
【0013】
図3は、
図1中の符号Xで示す破線で囲った部分の拡大断面図である。
圧力室基板100は、SOI(Silicon on Insulator)基板であり、振動膜103が成膜される側に駆動回路101および配線部102を有している。駆動回路101は、トランジスタや抵抗などを含む回路である。配線部102は、第一電極51に駆動波形を印加するための配線部と、第二電極53に駆動波形を印加するための配線部と有している。また、配線部102は、振動膜103に開けられた第三コンタクト7cを介して電気接続パッド55に電気的に接続されている。
【0014】
ノズル板110は、複数のノズル2が形成され、圧電素子5を覆うノズル形成部(膜)111を有しており、このノズル形成部111のノズル面には、撥液膜112が形成されている。液体の吐出を続けた場合、吐出と同時に発生したミストがノズル面に付着する。このミストがノズル面に多量に付着すると、ノズル2から吐出した液体が、ノズル面に付着した液体の影響を受けて、所望の着弾位置からずれてしまうおそれがある。ノズル面に撥液膜112を形成することで、ノズル面への液体の付着を抑制することができ、ノズル2から吐出した液体が、ノズル面に付着した液体の影響を受けるのを抑制することができる。
【0015】
ノズル板110の圧電素子5は、第一電極51(下部電極ともいう。)と、圧電膜52と、第二電極53(上部電極ともいう。)とを有している。圧電素子5は第一絶縁膜8aに覆われている。第一絶縁膜8aは、第一電極51への電気的な接続を行うための孔状の第四コンタクト7dと、第二電極53への電気的な接続を行うための孔状の第五コンタクト7eとが形成されている。
【0016】
また、第一絶縁膜8aには、圧電素子5の第一電極51と圧力室基板100の配線部102とを電気的に連結する第一引出し配線9aと、圧電素子5の第二電極53と圧力室基板100の配線部102とを電気的に連結する第二引出し配線9bとが形成されている。
【0017】
第一引出し配線9aは、第四コンタクト7dを介して第一電極51に電極的に接続され、第一コンタクト7aを介して配線部102に電極的に接続されている。第二引出し配線9bは、第五コンタクト7eを介して第二電極53に電極的に接続され、第二コンタクト7bを介して配線部102に電極的に接続されている。第一引出し配線9aおよび第二引出し配線9bは、第二絶縁膜8bに覆われている。本実施形態では、第二絶縁膜8bは、圧電素子5も覆っており、樹脂からなるノズル形成部111に侵入した湿気が圧電素子5へ侵入するのを防止して圧電素子5を保護する機能を有している。
【0018】
なお、第一電極51及び第二電極53にそれぞれ引き出し配線部を設けて、振動膜に開けられたコンタクトを介して配線部102に直接、電極的に接続してもよい。また、第二絶縁膜8b上にノズル形成部111との密着性を確保するための密着改善膜を形成してもよい。
【0019】
液体吐出ヘッド1内に満たされた液体は、ノズル2に入り込み、ノズル内でメニスカスを形成する。圧電素子5の各電極51,53に所定の駆動波形(電圧)を印加することで、圧電膜52が振動し、振動膜103が
図3中上下方向に振動する。振動膜103が振動することで圧力室内の液体に圧力変化が生じ、ノズル2から液体が吐出される。
【0020】
また、本実施形態の液体吐出ヘッド1は、ノズル2の内周面、圧力室4の内周面および共通液室3の底面に、液体吐出ヘッド1が吐出する液体に対して親液性有し、液体の浸食を防ぐ表面層としての保護膜11が形成されている。本実施形態では、液体吐出ヘッド1が吐出する液体は、アルカリ性であり、圧力室4を形成する圧力室基板100および振動膜103はシリコン単結晶およびシリコン酸化物からなる。これらの材料は、アルカリ性の液体に対して脆弱性を持ち、アルカリ性溶液に溶出し浸食される。これを防ぐために、液体の浸食を防ぐ耐液性の保護膜11を形成することで、圧力室基板100および振動膜103を液体から保護することができる。
【0021】
また、圧力室4およびノズル2はドライエッチングにて形成される。ドライエッチングのガスにフッ素が含まれることで、エッチング後の圧力室4の内壁面およびノズル2の内周面にはフッ素を含む表皮膜が形成され、圧力室4の内壁面およびノズル内周面が撥液性を持ってしまう。圧力室4の内周面が撥液性を有すると、液体の充填時に液体が、圧力室4の内周面に濡れ広がっていかないため、圧力室4が液体で良好に満たされず、圧力室4の角部などに気泡が生じてしまう場合がある。
【0022】
本実施形態では、圧力室4の内周面やノズル2の内周面に親液性を有する保護膜11を形成するので、圧力室4およびノズル2の内周面に対する液体の濡れ性を向上させることができる。保護膜11は、保護膜11が成膜される圧力室4やノズル2の成膜面(保護膜11の下層面)よりも液体に対する親液性があればよい。液体の溶剤が水性の場合は、親水性の高い保護膜とし、液体の溶剤が油性の場合は、親油性の高い保護膜とすることで親液性の高い保護膜11を形成することができる。
【0023】
このように、圧力室4に充填される液体に対して親液性を有する保護膜11をノズル2および圧力室4の内周面に形成することで、液体の充填時に液体が、圧力室4およびノズル2の内周面に濡れ広がやすくなる。その結果、液体の充填性を向上でき、液体の充填の際に加圧や吸引を行わずとも、良好に圧力室4およびノズル2に液体を充填することができる。よって、液体の充填時に振動膜103にクラックが発生するのを抑制することができる。
【0024】
本実施形態の液体の溶剤は水性であるため、圧力室4およびノズル2の内周面に対し、少なくともフッ素を含まない保護膜11を形成することで、ドライエッチングにより形成されたフッ素を含む表皮膜に比べ親液性を向上することができる。上記に加え、さらに、この膜は様々な液体と直接接するため、耐液性をもつ材料、例えば不働態を形成する金属の酸化物であることが望ましい。さらに親液性を向上する方法として、前記不働態を形成する金属酸化物に二酸化ケイ素(SiO2)を分子レベルで混ぜたものを用いることもできる。保護膜11のSiO2はその表面のOが置換され親水性を有するOH基を持つ。これにより、保護膜11にさらに親水性を付与することができる。上記金属酸化物の金属としては、酸化数への対応性が高いタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)などが挙げられる。特にSiO2と似た価数を持つZrやHf、あるいはその前後の価数を持つTaなどが特に望ましい。
【0025】
また、例えば、保護膜11を、耐液性の膜と親液性の膜の2層構造としてもよい。この場合は、ノズル2および圧力室4の内周面に耐液性の膜を形成した後に、耐液性の膜上に親液性の膜を形成する。
【0026】
なお、本実施形態では、共通液室3の底面を構成する圧力室基板100の振動膜103の成膜面とは反対側の面にも親液性の保護膜11を形成しているが、この面の保護膜11は耐液性のみを有するものであってもよい。しかし、共通液室3の底面に保護膜11を形成する工程を、ノズル内周面や圧力室の壁面に親液性の保護膜を形成する工程とは別に設ける必要があり、製造工数が増えるおそれがある。また、共通液室3の底面に保護膜11を形成することで、共通液室3の底面に液体が濡れ広がりやすくなるため、液体の充填性も向上する。そのため、共通液室3の底面を構成する圧力室基板100の振動膜103の成膜面とは反対側の面にも親液性の保護膜11を形成するのが好ましい。
【0027】
振動膜103の材質としては、SiO2やSiN、金属酸化物や樹脂など少なくとも絶縁性を持つ材質であれば良い。しかし、変位を大きくするためにはヤング率が低い材料が望ましく、かつ圧力室基板100との線膨張係数の差を考えるとその差が比較的小さいSiO2(二酸化ケイ素)が、振動膜103の材質として最も望ましい。
【0028】
第一電極層151と第二電極層153は電気抵抗が小さく反応性の低い金属が望ましく、Ir、Moなどの金属が望ましい。圧電層152を構成する圧電材料としては、本実施形態のように、密度向上のために圧力室基板100に駆動回路101と配線部102を内蔵する場合は、それらを破壊しないために、その成膜温度が450℃以下である圧電材料が望ましい。成膜温度が450℃以下である圧電材料としては、AlNやAlNよりも圧電定数の高いScAlNが挙げられる。
【0029】
また、圧電材料としてScAlNを用いることで、次の利点も得ることができる。すなわち、圧電膜52の結晶配向を揃えることで圧電特性を向上することができるが、その配向制御のために振動膜103と第一電極51の間に配向制御層を設ける必要がある。圧電膜52の圧電材料がScAlNのときは、配向制御層としてもScAlNを用いることで、Moからなる第一電極51の格子定数をScAlNに近づけることができる。その結果、圧電膜52の結晶配向が揃い、圧電特性の向上が可能となる。
【0030】
図4は、本実施形態における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図である。
図5は、本実施形態における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す正面図であり、A-A'断面の断面図である。
図6は、本実施形態における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す側面図であり、B-B'断面の断面図である。
【0031】
本実施形態の液体吐出ヘッド1は、
図5及び
図6に示すように、ノズル板110、圧力室基板100、共通液室基板120、ダンパ部130、フレーム部140の順で配置され、構成されている。
【0032】
圧力室基板100は、複数の圧力室4が配列されている領域を圧力室アレイ40としている。圧力室アレイ40の上面(共通液室3側の面)には、各圧力室4の開口部4aが開口しており、共通液室基板120に形成されている共通液室3が各圧力室4の開口部4aに面するように配置される。本実施形態では、一例として、圧力室4の寸法(開口部4aの直径)は220[μm]であり、圧力室4を区画している隔壁の幅は30[μm]としており、その結果、隣接する2つの圧力室4における開口部4aの中心間距離L2(
図6参照)は250[μm]となっている。
【0033】
共通液室基板120の上面(圧力室基板100とは反対側の面)にはダンパ部130が設けられている。共通液室3は、ダンパ部130に形成されている供給連通路32を介して、フレーム部140に形成されている供給液体貯留室31に連通されている。なお、本実施形態の供給連通路32は、
図4に示すように、区画壁130aによって複数(図示の例では3つ)に分岐されている。この区画壁130aは、主に補強材として機能し、ダンパ部130の機械的強度を確保するためのものであり、また、液体を共通液室3の全域へムラなく供給するため(偏りなく各圧力室4へ液体を供給するため)のものである。したがって、ダンパ部130の機械的強度を確保でき、偏りなく液体を供給できるのであれば、区画壁130a(補強材)を設けず、供給連通路32を単一の通路で構成してもよい。
【0034】
液体吐出ヘッド1には、外部の液体貯留部に貯留される液体がフレーム部140の液体供給口33を介して供給される。この液体供給口33から供給された液体は、供給液体貯留室31から供給連通路32を通って共通液室3へ供給され、共通液室3から各圧力室4の開口部4aを介して各圧力室4へ供給される。
【0035】
本実施形態において、ダンパ部130は、
図5及び
図6に示すように、ダンパ部材としてのダンパフィルム61と、ダンパフィルム61を保持するダンパフィルム保持部材62と、ダンパフィルム61の変位又は振動を確保するための空気室63とから構成されている。空気室63は大気開放孔64を介して外気に開放されている。
【0036】
ダンパフィルム61は、柔軟性の高い材料で構成され、共通液室3を介して各圧力室4の開口部4a(すなわち、圧力室アレイ40の上面)と対向する位置に配置される。すなわち、ダンパフィルム61は、共通液室3の一壁部(上壁面)を構成するものである。このような構成により、ダンパ部130は、ダンパフィルム61が共通液室3内の液体に伝搬するクロストーク圧力に応じて変形し、共通液室3内に生じるクロストーク圧力による圧力変動を低減することができ、後述するクロストーク(流体クロストーク)の抑制効果を発揮する。
【0037】
ノズル板110の圧電素子5により振動膜103を振動させて圧力室4内の液体が加圧されると、その圧力はノズル2から液体を吐出させる力となるが、その一部は圧力室4の開口部4aから共通液室3へ逃げてクロストーク圧力となる。共通液室3へ逃げたクロストーク圧力は、共通液室3内の液体を伝搬して周囲の他の圧力室4へと回り込み、他の圧力室4内の液体の圧力に変動を生じさせ、当該他の圧力室4内の液体をノズル2から吐出する際に影響を及ぼす。
【0038】
ここで、本実施形態においては、ダンパフィルム61と各圧力室4の開口部4aとの間に共通液室3が介在する構成であるため、共通液室3内の液体の流れを確保するためには、各圧力室4の開口部4aからダンパフィルム61を離して配置する必要がある。すなわち、複数の圧力室4の各開口部4aとダンパフィルム61との距離、すなわち、圧力室アレイ40の上面とダンパフィルム61との距離L1(
図6参照)を、共通液室3内の液体の流れを確保するのに十分な大きさとすることが必要である。
【0039】
このとき、従来のように共通液室3を十分に広く確保しようとして、圧力室アレイ40の上面とダンパフィルム61との距離L1を大きくし過ぎると、ダンパフィルム61で吸収されるクロストーク圧力が小さくなり、クロストーク抑制効果が小さくなる。そのため、クロストークが発生するおそれがある。特に、本実施形態では、いわゆるノズル振動方式を採用するため、単位面積当たりのノズル数(圧力室数)の多い液体吐出ヘッドを実現できるが、このような液体吐出ヘッドでは圧力室4間の距離が近いため、クロストークが発生しやすい。
【0040】
そこで、本実施形態においては、複数の圧力室4の各開口部4aとダンパフィルム61との間の最小距離L1が、隣接する2つの圧力室4の開口部4aの中心間距離L2以下となるように、構成している。この構成であれば、各圧力室4の開口部4aからの圧力波(クロストーク圧力)の大部分が、共通液室3内の液体を通じて、隣接する他の圧力室4の開口部4aに回り込む前に、当該圧力波はダンパフィルム61に到達することができる。これにより、各圧力室4から他の圧力室4の開口部4aに到達する圧力波(クロストーク圧力)が当該他の圧力室4内における液体の圧力変動に与える影響を小さく抑えることができ、十分なクロストーク抑制効果を発揮できるものと考えられる。
【0041】
ただし、複数の圧力室4の各開口部4aとダンパフィルム61との間の最小距離L1が小さ過ぎると、共通液室3を流れる液体の流体抵抗(粘性抵抗など)が高くなり過ぎて、各圧力室4への液体供給が不十分になるという不具合が生じ得る。特に、粘度の高い液体を用いる場合や、高周波数で液体吐出を行う場合には、この不具合が顕著になる。また、最小距離L1が小さ過ぎると、ノズル2のクリーニングを行う目的でノズル2側から吸引手段により液体を吸い出す処理を行う際に、ダンパフィルム61の変形により共通液室3が狭くなり過ぎてしまう。その結果、液体の流れが阻害されて十分なクリーニング効果が得られなくなったり、ダンパフィルム61が圧力室基板100に接触してダメージを受けたりするなどの不具合も生じ得る。
【0042】
このような不具合を考慮すると、本実施液体における複数の圧力室4の各開口部4aとダンパフィルム61との間の最小距離L1は、10[μm]以上であるのが好ましく、50[μm]以上であるのが更に好ましい。
【0043】
また、ダンパフィルム61は、剛性が低く(柔軟性が高く)、耐久性があり、吐出する液体に対する接液性のある材料であることが好ましい。具体的には、ダンパフィルム61としては、PI(ポリイミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)といった樹脂製フィルムや、ステンレスやニッケルといった金属製フィルムが好適である。ただし、ダンパフィルム61が薄すぎると、ピンホールが生じやすいという不具合が発生する。そのため、ダンパフィルム61の厚みは、おおよそ1[μm]以上50[μm]以下の範囲内であるのが好ましい。
【0044】
また、ダンパフィルム61として樹脂製フィルムを用いる場合には、透湿防止膜を有することが好ましい。共通液室3内の液体の成分がダンパフィルム61を介して空気室63へ侵入して、大気開放孔64から外気に漏れ出すことを抑制するためである。透湿防止膜は、例えば、スパッタリング等により金属や金属酸化物を樹脂膜に成膜することで設けることができる。
【0045】
図7は、本実施形態におけるダンパ部130によるクロストーク抑制効果をシミュレーションした結果を示すグラフである。
このグラフには、ダンパ部130が設けられていない(ダンパ無し)の例と、ダンパ部130が設けられている(ダンパ有り)の例とについて、同時駆動ノズル数(隣接ノズルの数)を変えたときの液体吐出速度の変化率をシミュレーションしたものである。なお、液体吐出速度の変化率は、1つのノズルのみで液体を吐出したときの液体吐出速度を100%としたときの変化率である。
【0046】
なお、このシミュレーションでは、ダンパ部130として、ダンパフィルム61が10[μm]厚のステンレス製フィルムのものを用い、圧力室アレイ40の上面とダンパフィルム61との間の最小距離L1を100[μm]とした。
【0047】
図7のグラフからわかるように、ダンパ無しの場合には、同時駆動ノズル数を増やしていくと、例えば同時駆動ノズル数が40個のときの液体吐出速度は、同時駆動ノズル数が1個のときの液体吐出速度に対して50%以上も変化している。これに対し、ダンパ有りの場合には、例えば同時駆動ノズル数が40個のときの液体吐出速度でも、同時駆動ノズル数が1個のときの液体吐出速度に対し、変化率は5%以下である。このように、ダンパ部130を設けることにより、クロストーク抑制効果が発揮される。
【0048】
図8は、複数の圧力室4の各開口部4aとダンパフィルム61との間の最小距離L1を変化させたときの液体吐出速度の変化率をシミュレーションした結果を示すグラフである。
なお、このシミュレーションでは、同時駆動ノズル数を10個とした。また、このシミュレーションにおける液体吐出速度の変化率は、複数の圧力室4の各開口部4aとダンパフィルム61との間の最小距離L1が100[μm]であるときの液体吐出速度を100%としたときの変化率である。
【0049】
図8のグラフからわかるように、複数の圧力室4の各開口部4aとダンパフィルム61との間の最小距離L1が250[μm]以下の場合、液体吐出速度の変化率が5%以内(許容範囲内)に抑えられている。一方で、当該最小距離L1が500[μm]の場合には、液体吐出速度の変化率が20%となっている。
【0050】
ここで、
図7のグラフ(最小距離L1が100[μm]の場合)における同時駆動ノズル数が10個である場合と、
図8のグラフ(同時駆動ノズル数が10個である場合)における最小距離L1が500[μm]の場合とを比較する。この比較によれば、
図8のグラフの最小距離L1が500[μm]の場合の液体吐出速度変化率は、ダンパ部130を設けているにも関わらず、ダンパ部130を設けていない場合(
図7におけるダンパ無しの場合)とほぼ同じである。すなわち、
図8のグラフの最小距離L1が500[μm]の場合では、ダンパ部130によるクロストーク抑制効果が得られていないことがわかる。
【0051】
一方で、
図8のグラフから、複数の圧力室4の各開口部4aとダンパフィルム61との間の最小距離L1が250[μm]以下であれば、当該最小距離L1が100[μm]である場合と実質的に同程度(液体吐出速度変化率が5%以下)である。そのため、
図7のグラフのダンパ有りの場合(当該最小距離L1が100[μm]である場合)と同様、同時駆動ノズル数が増えても液体吐出速度の変化が抑えられ、十分なクロストーク抑制効果が発揮される。
【0052】
そして、この250[μm]という距離は、隣接する2つの圧力室4における開口部4aの中心間距離L2に一致する距離である。このことは、L1≦L2であることにより、液体を吐出する際に各圧力室4の開口部4aから共通液室3へ逃げるクロストーク圧力(圧力波)の大部分が、共通液室3内の液体を通じて、隣接する他の圧力室4の開口部4aに回り込む前に、当該圧力波はダンパフィルム61に到達して吸収された結果であると考えることができる。言い換えると、L1>L2であると、クロストーク圧力(圧力波)のダンパフィルム61による吸収されずに隣接する他の圧力室4の開口部4aに回り込んで到達してしまう成分が多くなり、当該他の圧力室4内における液体の圧力変動に与える影響を無視できなくなり、十分なクロストーク抑制効果が得られないものと考えられる。
【0053】
以上より、本実施形態によれば、複数の圧力室4の各開口部4aとダンパフィルム61との間の最小距離L1が、隣接する2つの圧力室4の開口部4aの中心間距離L2以下となるように、構成されているので、十分なクロストーク抑制効果が得られる。
【0054】
〔変形例1〕
次に、本実施形態における液体吐出ヘッド1の一変形例(以下、本変形例を「変形例1」という。)について説明する。
本変形例1の液体吐出ヘッド1は、上述した実施形態の液体吐出ヘッド1に対し、ダンパ部130に形成される供給連通路32の位置を変更したものである。
【0055】
図9は、本変形例1における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図である。
図10は、本変形例1における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す側面図であり、B-B'断面の断面図である。
【0056】
上述した実施形態の液体吐出ヘッド1では、共通液室基板120の共通液室3とフレーム部140の供給液体貯留室31とを連通させる供給連通路32が、圧力室アレイ40の短手方向外方(圧力室アレイ40の長辺40a側外方)に形成されている。すなわち、上述した実施形態の液体吐出ヘッド1では、共通液室3に液体を供給する供給連通路32が、複数の圧力室4からなる圧力室アレイ40の短手方向外方で、共通液室3に連通している。
【0057】
これに対し、本変形例1の液体吐出ヘッド1では、供給連通路32が圧力室アレイ40の長手方向外方(圧力室アレイ40の短辺40b側外方)に形成されている。すなわち、本変形例1の液体吐出ヘッド1では、共通液室3に液体を供給する供給連通路32が、複数の圧力室4からなる圧力室アレイ40の長手方向外方で、共通液室3に連通している。
【0058】
本変形例1によれば、供給連通路32が圧力室アレイ40の長手方向外方(圧力室アレイ40の短辺40b側外方)に形成されているため、圧力室アレイ40の短手方向外方には供給連通路32を形成するためのスペースを設ける必要がない。したがって、圧力室アレイ40の短手方向における液体吐出ヘッドの小型化を実現することができる。特に、複数の液体吐出ヘッドが圧力室アレイ40の短手方向に並べて配置されるヘッドユニットを用いる場合、圧力室アレイ40の短手方向における液体吐出ヘッドの小型化によるヘッドユニットの小型化のメリットが大きい。
【0059】
ただし、本実施形態も本変形例1も、クロストーク抑制効果を十分に得るために複数の圧力室4の各開口部4aとダンパフィルム61との間の最小距離L1を小さくしているので、共通液室3内における液体の流体抵抗(粘性抵抗など)が高くなりやすい。そのため、液体が共通液室3内を流れる距離が長いと(例えば数[mm]を超えると)、流体抵抗が高くなり過ぎて、供給連通路32から遠い圧力室4では、液体供給が不足して、安定した液体の吐出が困難になるという不具合が生じ得る。特に、インク粘度が高い場合や駆動周波数が高い場合には、この不具合は顕著である。
【0060】
本変形例1では、供給連通路32が圧力室アレイ40の長手方向外方に形成されているので、供給連通路32から遠い圧力室4まで共通液室3内を液体が流れる距離は、供給連通路32が圧力室アレイ40の短手方向外方に形成されている上述の実施形態の場合よりも長くなる。したがって、上述した不具合の点では上述の実施形態の方が有利である。特に、圧力室アレイ40の長辺40aと短辺40bとの比率が大きい構成であるほど、上述の実施形態の方が有利である。
【0061】
もちろん、使用する液体の粘度が低い場合や駆動周波数が低い場合など、条件によっては、本変形例1の構成であっても上述した不具合が生じず、本変形例1の構成を採用することができる。
【0062】
〔変形例2〕
次に、本実施形態における液体吐出ヘッド1の他の変形例(以下、本変形例を「変形例2」という。)について説明する。
本変形例2の液体吐出ヘッド1は、各圧力室4の開口部4aに流体抵抗部4bを設けた点で、上述した実施形態の液体吐出ヘッド1とは異なっている。
【0063】
図11は、本変形例2における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す平面図であり、D-D'断面の断面図である。
図12は、本変形例2における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す側面図であり、B-B'断面の断面図である。
【0064】
本変形例2では圧力室基板100と共通液室基板120との間に流体抵抗基板150が挿入されている。流体抵抗基板150には、
図11及び
図12に示すように、圧力室4の断面積(ノズル面に平行な断面の面積)よりも開口部4aの開口面積(ノズル面に平行な開口面積)が狭くなるようにする流体抵抗部4bが設けられている。この流体抵抗部4bが設けられることで、各圧力室4から共通液室3へ移動する液体の流体抵抗を高められる。
【0065】
流体抵抗基板150は、各圧力室4のそれぞれに対応する位置に、圧力室4の断面積(ノズル面に平行な断面の面積)よりも狭い複数の開口が形成されたものであれればよい。流体抵抗基板150の基板としては、例えば金属やシリコン、セラミックス、樹脂を用いることができる。流体抵抗部4b(流体抵抗基板150に形成される開口)は、ウェットエッチングやドライエッチング、電鋳、切削、レーザー加工等で形成することができる。
【0066】
このような流体抵抗部4bを設けることで、各圧力室4内で発生するクロストーク圧力を各圧力室4内になるべく閉じ込め、各圧力室4から開口部4aを通じて共通液室3へ漏れ出るクロストーク圧力を低減することができる。
【0067】
本変形例2によれば、流体抵抗部4bが設けられていない上述した実施形態と比べて、クロストーク抑制効果がより高い液体吐出ヘッド1を実現することができる。特に、本変形例2によれば、流体抵抗部4bが設けることでクロストーク抑制効果の余裕度が高まるので、L1≦L2という条件の範囲内においてL1をなるべく大きくし、共通液室3を流れる液体の流体抵抗を小さくすることが可能となる。すなわち、本変形例2によれば、上述した実施形態の液体吐出ヘッド1と同程度のクロストーク抑制効果を得ようとする場合でも、L1をより大きくして共通液室3を流れる液体の流体抵抗を小さくでき、圧力室4への液体供給不足による吐出性能の不安定という不具合が生じにくい。
【0068】
〔変形例3〕
次に、本実施形態における液体吐出ヘッド1の更に他の変形例(以下、本変形例を「変形例3」という。)について説明する。
本変形例3は、複数の液体吐出ヘッド1を圧力室アレイ40の短手方向に並べて配置されるヘッドユニット10の例である。なお、ヘッドユニット10を構成する個々の液体吐出ヘッド1は上述した実施形態のものと同じものである。
【0069】
図13は、本変形例3におけるヘッドユニット10を構成する4つの液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図である。
図14は、本変形例3におけるヘッドユニット10を構成する4つの液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す側面図であり、A-A'断面の断面図である。
【0070】
本変形例3のヘッドユニット10は、上述した実施形態の液体吐出ヘッド1を圧力室アレイ40の短手方向に4つ並べて一体化された構成である。このようなヘッドユニット10は、例えば、4種類(イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K))の異なるインクを用いて画像形成を行う画像形成装置(液体を吐出する装置)の記録ヘッド(インクジェットヘッド)として用いることができる。本変形例3のように4つの液体吐出ヘッド1を一体化していることで、コンパクトな記録ヘッドが得られるほか、記録ヘッドや画像形成装置の組み立て工数の削減を図ることができる。
【0071】
〔変形例4〕
次に、本実施形態における液体吐出ヘッド1の更に他の変形例(以下、本変形例を「変形例4」という。)について説明する。
本変形例4の液体吐出ヘッド1は、共通液室3に液体を供給する供給流路(供給液体貯留室31、供給連通路32、液体供給口33等)のほか、共通液室3から液体を排出する排出流路を備える点で、上述した実施形態の液体吐出ヘッド1とは異なっている。
【0072】
図15は、本変形例4における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図である。
図16は、本変形例4における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す正面図であり、E-E'断面の断面図である。
図17は、本変形例4における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す側面図であり、F-F'断面の断面図である。
【0073】
本変形例4においても、外部のインク貯留部からフレーム部140の液体供給口33を介して供給される液体が、供給液体貯留室31及び供給連通路32を通って共通液室3へ供給される。ただし、本変形例4において、共通液室3は、ダンパ部130に形成されている排出連通路34を介して、フレーム部140に形成されている排出液体貯留室35に連通されている。これにより、共通液室3内の液体は、排出連通路34から排出液体貯留室35を通り、液体排出口36から外部のポンプ等を経由して、外部のインク貯留部に戻される。すなわち、本変形例4は、液体循環方式の液体吐出ヘッド1である。
【0074】
本変形例4によれば、共通液室3内の液体を循環させることが可能となる。これにより、共通液室3などの液体吐出ヘッド1内の流路中に存在する気泡を排除したり、沈降しやすい成分をもつ液体を用いる場合に共通液室3などの液体吐出ヘッド1内の流路内に液体の成分が沈降することを抑制したりすることができる。
【0075】
特に、本変形例4では、供給連通路32と排出連通路34が、圧力室アレイ40をはさんで、圧力室アレイ40の短手方向外方(圧力室アレイ40の長辺40a側外方)に、それぞれ形成されている。そのため、圧力室アレイ40に面して共通液室3内を液体が流れる距離(供給連通路32から排出連通路34へ液体が流れるときの最長距離)が、最小限になる構成となっている。そのため、本変形例4は、複数の圧力室4の各開口部4aとダンパフィルム61との間の最小距離L1が小さいために共通液室3内における液体の流体抵抗(粘性抵抗など)が高いところ、共通液室3内を液体が流れる距離を最小限にすることで、共通液室3内における液体の流体抵抗を低く抑えることができる。
【0076】
〔変形例5〕
次に、本実施形態における液体吐出ヘッド1の更に他の変形例(以下、本変形例を「変形例5」という。)について説明する。
本変形例5は、上述した変形例4の液体吐出ヘッド1を圧力室アレイ40の短手方向に複数並べて配置したヘッドユニット10の例である。
【0077】
図18は、本変形例5におけるヘッドユニット10を構成する4つの液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図である。
図19は、本変形例5におけるヘッドユニット10を構成する4つの液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す側面図であり、E-E'断面の断面図である。
【0078】
本変形例5のヘッドユニット10は、上述した変形例4の液体吐出ヘッド1(液体循環方式の液体吐出ヘッド)を圧力室アレイ40の短手方向に4つ並べて一体化された構成である。このようなヘッドユニット10は、上述した変形例3のヘッドユニット10と同様、例えば、4種類(イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、黒(K))の異なるインクを用いて画像形成を行う画像形成装置(液体を吐出する装置)の記録ヘッド(インクジェットヘッド)として用いることができる。本変形例5のように4つの液体吐出ヘッド1を一体化していることで、コンパクトな記録ヘッドが得られるほか、記録ヘッドや画像形成装置の組み立て工数の削減を図ることができる。
【0079】
〔変形例6〕
次に、本実施形態における液体吐出ヘッド1の更に他の変形例(以下、本変形例を「変形例6」という。)について説明する。
本変形例6の液体吐出ヘッド1は、上述した変形例4と同様、共通液室3に液体を供給する供給流路(供給液体貯留室31、供給連通路32、液体供給口33等)のほか、共通液室3から液体を排出する排出流路を備える液体循環方式である点で、上述した実施形態の液体吐出ヘッド1とは異なっている。ただし、本変形例6の液体吐出ヘッド1は、上述した変形例4の液体吐出ヘッド1に対し、ダンパ部130に形成される排出連通路34の位置を変更したものである。
【0080】
図20は、本変形例6における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図である。
図21は、本変形例6における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す正面図であり、G-G'断面の断面図である。
【0081】
上述した変形例4の液体吐出ヘッド1では、供給連通路32と排出連通路34の両方とも、圧力室アレイ40の短手方向外方(圧力室アレイ40の長辺40a側外方)に形成されている。そのため、圧力室アレイ40の短手方向外方に、供給連通路32と排出連通路34の両方を形成するためのスペースを設ける必要があり、圧力室アレイ40の短手方向に液体吐出ヘッドが大型化しやすい。特に、
図18及び
図19に示した変形例5のヘッドユニット10のように、複数の液体吐出ヘッド1が圧力室アレイ40の短手方向に並べて配置される場合、圧力室アレイ40の短手方向におけるヘッドユニット10の大型化が顕著になる。
【0082】
また、圧力室アレイ40の短手方向外方に供給連通路32と排出連通路34の両方を形成するためのスペースを設ける関係で、圧力室基板100が圧力室アレイ40の短手方向に大型化する。この場合、圧力室基板100の面積が大きくなる。MEMSプロセスを使って製造する圧力室基板100にとっては、基板面積の大型化はコストアップに直結する。
【0083】
これに対し、本変形例6の液体吐出ヘッド1では、供給連通路32については圧力室アレイ40の短手方向外方に形成されるが、排出連通路34については圧力室アレイ40の長手方向外方(圧力室アレイ40の短辺40b側外方)に形成される。これによれば、圧力室アレイ40の短手方向外方において排出連通路34を形成するためのスペースを省略できる分、上述した変形例4の液体吐出ヘッド1よりも、圧力室アレイ40の短手方向に液体吐出ヘッドを小型化できる。この小型化の効果は、特に、
図22に示すヘッドユニット10のように、本変形例6の液体吐出ヘッド1が圧力室アレイ40の短手方向に複数並べて配置される場合において有効である。
【0084】
また、本変形例6の液体吐出ヘッド1では、排出連通路34を圧力室アレイ40の長手方向外方に形成することで、排出連通路34を圧力室アレイ40の短手方向外方に形成する変形例4の液体吐出ヘッド1よりも、排出連通路34を形成するのに必要となる基板面積は少なくて済む。したがって、上述した変形例4の液体吐出ヘッド1よりも、圧力室基板100の基板面積を少なくでき、コストアップを軽減することができる。
【0085】
なお、本変形例6の液体吐出ヘッド1では、排出連通路34が圧力室アレイ40の長手方向外方に形成されているため、供給連通路32と排出連通路34の両方が圧力室アレイ40の短手方向外方に形成されている変形例4の液体吐出ヘッド1よりも、圧力室アレイ40に面して共通液室3内を液体が流れる距離(供給連通路32から排出連通路34へ液体が流れるときの最長距離)が長いものとなる。そのため、共通液室3内の液体を循環させながら液体吐出を行うと、液体供給が不足する圧力室4が発生して、安定した液体の吐出が困難になるという不具合が生じ得る。特に、インク粘度が高い場合や駆動周波数が高い場合には、この不具合は顕著である。
【0086】
そのような不具合が生じ得る場合には、液体吐出ヘッド1への液体の初期充填時や、液体吐出ヘッド1のメンテナンス時のみ、排出流路(排出連通路34、排出液体貯留室35、液体排出口36等)を使って液体を共通液室3から排出し、気泡の排出などを行ってもよい。この場合、液体吐出を行う稼働時には共通液室3内の液体を循環させないため、液体供給が不足する圧力室4が発生しにくく、安定した液体の吐出が比較的容易になる。
【0087】
なお、本変形例6は、供給流路と排出流路とを入れ替えた構成であってもよい。すなわち、供給連通路32については圧力室アレイ40の長手方向外方に形成し、排出連通路34については圧力室アレイ40の短手方向外方に形成した構成であってもよい。
【0088】
〔変形例7〕
次に、本実施形態における液体吐出ヘッド1の更に他の変形例(以下、本変形例を「変形例7」という。)について説明する。
本変形例7の液体吐出ヘッド1は、上述した変形例4や変形例6と同様、共通液室3に液体を供給する供給流路(供給液体貯留室31、供給連通路32、液体供給口33等)のほか、共通液室3から液体を排出する排出流路(排出連通路34、排出液体貯留室35、液体排出口36等)を備える液体循環方式である点で、上述した実施形態の液体吐出ヘッド1とは異なっている。ただし、本変形例7の液体吐出ヘッド1は、上述した変形例4や変形例6の液体吐出ヘッド1とは、ダンパ部130に形成される供給連通路32及び排出連通路34の位置が異なっている。
【0089】
図23は、本変形例7における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す平面図であり、C-C'断面の断面図である。
図24は、本変形例7における液体吐出ヘッド1の内部構造を模式的に示す正面図であり、H-H'断面の断面図である。
【0090】
本変形例7の液体吐出ヘッド1では、供給連通路32及び排出連通路34の両方が圧力室アレイ40の長手方向外方(圧力室アレイ40の短辺40b側外方)に形成されている。これによれば、圧力室アレイ40の短手方向外方において供給連通路32を形成するためのスペースも、排出連通路34を形成するためのスペースも省略できる分、上述した変形例4や変形例6の液体吐出ヘッド1よりも、圧力室アレイ40の短手方向に液体吐出ヘッドを小型化できる。この小型化の効果は、特に、
図25に示すヘッドユニット10のように、本変形例7の液体吐出ヘッド1が圧力室アレイ40の短手方向に複数並べて配置される場合において有効である。
【0091】
また、本変形例7の液体吐出ヘッド1では、供給連通路32及び排出連通路34の両方とも圧力室アレイ40の長手方向外方に形成されているため、変形例4の液体吐出ヘッド1よりも、更には変形例6の液体吐出ヘッド1よりも、圧力室基板100の基板面積を少なくでき、コストアップを更に軽減することができる。また、本変形例7の液体吐出ヘッド1では、供給流路や排出流路の構成を単純化しやすい点でのメリットもある。
【0092】
なお、本変形例7の液体吐出ヘッド1では、供給連通路32及び排出連通路34の両方とも圧力室アレイ40の長手方向外方に形成されているため、変形例4の液体吐出ヘッド1よりも、圧力室アレイ40に面して共通液室3内を液体が流れる距離(供給連通路32から排出連通路34へ液体が流れるときの最長距離)が長いものとなる。そのため、液体供給が不足する圧力室4が発生して、安定した液体の吐出が困難になるという不具合が生じ得る。特に、インク粘度が高い場合や駆動周波数が高い場合には、この不具合は顕著である。
【0093】
ただし、本変形例7の液体吐出ヘッド1は、供給連通路32及び排出連通路34の両方とも圧力室アレイ40の長手方向外方に形成されているため、圧力室基板100の基板面積を少なくでき、コストアップを更に軽減することができる。使用する液体の粘度が低い場合や駆動周波数が低い場合など、条件によっては、本変形例7の構成であっても上述した不具合が生じず、本変形例7の構成を採用することができる。なお、排出連通路34 を第二の供給連通路として用い、供給連通路32と排出連通路34の両方から液体の供給を行う構成としてもよい。
【0094】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置の一例について、
図26及び
図27を参照して説明する。
図26は、本実施形態における液体を吐出する装置としての画像形成装置であるインクジェット記録装置である印刷装置の概略説明図である。
図27は、本実施形態の印刷装置のヘッドユニットの一例の平面説明図である。
【0095】
この液体を吐出する装置である印刷装置500は、連続体510を搬入する搬入手段501と、搬入手段501から搬入された連続体510を印刷手段505に案内搬送する案内搬送手段503とを備えている。また、印刷装置500は、連続体510に対して液体を吐出して画像を形成する印刷を行う印刷手段505と、連続体510を乾燥する乾燥手段507と、連続体510を搬出する搬出手段509なども備えている。
【0096】
連続体510は搬入手段501の元巻きローラ511から送り出され、搬入手段501、案内搬送手段503、乾燥手段507、搬出手段509の各ローラによって案内、搬送されて、搬出手段509の巻取りローラ591にて巻き取られる。この連続体510は、印刷手段505において、搬送ガイド部材559上をヘッドユニット550に対向して搬送され、ヘッドユニット550から吐出される液体によって画像が印刷される。
【0097】
本実施形態の印刷装置500では、ヘッドユニット550に、上述した本実施形態に係る2つのヘッドモジュール100A,100Bを共通ベース部材552に備えている。
【0098】
そして、ヘッドモジュール100A,100Bの搬送方向と直交する方向における液体吐出ヘッド1の並び方向をヘッド配列方向とするとき、ヘッドモジュール100Aのヘッド列1A1,1A2で同じ色の液体を吐出する。同様に、ヘッドモジュール100Aのヘッド列1B1、1B2を組とし、ヘッドモジュール100Bのヘッド列1C1、1C2を組とし、ヘッド列1D1、1D2を組として、それぞれ所要の色の液体を吐出する。
【0099】
次に、本発明に係る液体を吐出する装置としての印刷装置の他の例について、
図28及び
図29を参照して説明する。
図28は、本例の印刷装置の要部平面説明図である。
図29は、本例の印刷装置の要部側面説明図である。
【0100】
本例の印刷装置500は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
【0101】
このキャリッジ403には、本発明に係る液体吐出ヘッド1及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ヘッド1は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド1は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。液体吐出ヘッド1は、液体循環装置と接続されて、所要の色の液体が循環供給される。
【0102】
この印刷装置500は、用紙410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。搬送ベルト412は用紙410を吸着して液体吐出ヘッド1に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
【0103】
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド1の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド1のノズル面をキャッピングするキャップ部材421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。また、主走査移動機構493、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
【0104】
このように構成した印刷装置500においては、用紙410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によって用紙410が副走査方向に搬送される。そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド1を駆動することにより、停止している用紙410に液体を吐出して画像を形成する。
【0105】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの他の例について、
図30を参照して説明する。
図30は、本例の液体吐出ユニットの要部平面説明図である。
【0106】
この液体吐出ユニット440は、前記液体を吐出する装置を構成している部材のうち、側板491A、491B及び背板491Cで構成される筐体部分と、主走査移動機構493と、キャリッジ403と、液体吐出ヘッド1で構成されている。
【0107】
なお、この液体吐出ユニット440の例えば側板491Bに、前述した維持回復機構420を更に取り付けた液体吐出ユニットを構成することもできる。
【0108】
次に、本発明に係る液体吐出ユニットの更に他の例について、
図31を参照して説明する。
図31は、本例の液体吐出ユニットの正面説明図である。
【0109】
この液体吐出ユニット440は、流路部品444が取付けられた液体吐出ヘッド1と、流路部品444に接続されたチューブ456で構成されている。
【0110】
なお、流路部品444はカバー442の内部に配置されている。流路部品444に代えてヘッドタンク441を含むこともできる。また、流路部品444の上部には液体吐出ヘッド1と電気的接続を行うコネクタ443が設けられている。
【0111】
本願において、吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどである。これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0112】
「液体吐出ユニット」は、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体が含まれる。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構、液体循環装置の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
【0113】
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
【0114】
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
【0115】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
【0116】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
【0117】
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
【0118】
また、液体吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。このチューブを介して、液体貯留源の液体が液体吐出ヘッドに供給される。
【0119】
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものとする。
【0120】
なお、ここでは、「液体吐出ユニット」について、液体吐出ヘッドとの組み合わせで説明しているが、「液体吐出ユニット」には上述した液体吐出ヘッドを含むヘッドモジュールやヘッドユニットと上述したような機能部品、機構が一体化したものも含まれる。
【0121】
「液体を吐出する装置」には、液体吐出ヘッド、液体吐出ユニット、ヘッドモジュール、ヘッドユニットなどを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて液体を吐出させる装置が含まれる。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0122】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0123】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0124】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0125】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0126】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0127】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0128】
また、「液体を吐出する装置」としては、他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置がる。また、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などもある。
【0129】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【0130】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
[第1態様]
第1態様は、液体を吐出する複数のノズル2と、前記複数のノズルにそれぞれ連通する複数の圧力室4と、前記複数の圧力室の各ノズル連通壁(例えばノズル板110)にそれぞれ設けられ、各圧力室内の液体を加圧する複数のアクチュエータ(例えば圧電素子5)と、前記複数の圧力室に連通する共通液室3とを備える液体吐出ヘッド1であって、前記複数の圧力室の前記共通液室側の各開口部と対向する位置にダンパ部材(例えばダンパフィルム61)が設けられ、前記開口部と前記ダンパ部材との最小距離L1が、隣接する2つの圧力室における前記開口部の中心間距離L2以下であることを特徴とするものである。
従来の液体吐出ヘッドのように、共通液室から各圧力室までの流路の壁部を形成するようにダンパ部材を配置する構成では、ダンパ部材の配置スペースを確保する必要があるので、隣り合う圧力室間の距離を短くすることが困難となる。そのため、ノズル間距離を短くすることができず、単位面積当たりのノズル数を増やすことができない。
本態様において、共通液室は複数の圧力室の各開口部に面して連通するように配置され、かつ、ダンパ部材は共通液室を介して複数の圧力室の各開口部と対向するように配置される。これによれば、共通液室から各圧力室までの流路の壁部を形成するようにダンパ部材を配置する必要がなくなるので、隣り合う圧力室間の距離を従来よりも短くすることが可能となり、ノズル間距離を短くして単位面積当たりのノズル数を増やすことができる。
ところが、この構成においては、ダンパ部材と複数の圧力室の各開口部との間に介在する共通液室の高さ(ダンパ部材と複数の圧力室の各開口部との間の距離)の設定によっては、各圧力室内で生じるアクチュエータ駆動による液体の圧力波が他の圧力室に伝搬するクロストークが発生することが確認された。
そこで、本態様においては、複数の圧力室の各開口部とダンパ部材との間の最小距離が、隣接する2つの圧力室の開口部の中心間距離以下となるように、構成されている。この構成であれば、各圧力室の開口部からの圧力波の大部分が共通液室内の液体を通じて隣接する他の圧力室の開口部に回り込む前に、当該圧力波はダンパ部材に到達することができる。これにより、各圧力室から他の圧力室の開口部に到達する圧力波が当該他の圧力室内における液体の圧力変動に与える影響を小さく抑えることができ、クロストークを抑制することができる。
【0131】
[第2態様]
第2態様は、第1態様において、前記最小距離L1は250[μm]以下であることを特徴とするものである。
これによれば、単位面積当たりのノズル数を増やし、クロストークを抑制することが可能になる。
【0132】
[第3態様]
第3態様は、第1又は第2態様において、前記最小距離L1は10[μm]以上であることを特徴とするものである。
これによれば、共通液室内の液体の流れを確保して、液体供給が不足する圧力室の発生を抑制し、安定した液体の吐出を実現しやすい。
【0133】
[第4態様]
第4態様は、第1乃至第3態様のいずれかにおいて、前記共通液室に液体を供給する供給流路(例えば、供給液体貯留室31、供給連通路32、液体供給口33)を備え、前記供給流路は、前記複数の圧力室からなる圧力室アレイ40の短手方向外方で、前記共通液室に連通していることを特徴とするものである。
これによれば、各圧力室の開口部とダンパ部材との最小距離L1を小さくすることにより共通液室3内における液体の流体抵抗が高くなるとしても、供給流路から供給される液体が共通液室を通じて各圧力室へ流れる距離を短くして、共通液室3内における液体の流体抵抗が高くなることを抑えることができる。よって、液体供給が不足する圧力室の発生を抑制し、安定した液体の吐出を実現することができる。
【0134】
[第5態様]
第5態様は、第1乃至第4態様のいずれかにおいて、前記共通液室に液体を供給する供給流路(例えば、供給液体貯留室31、供給連通路32、液体供給口33)と、前記共通液室から液体を排出する排出流路(例えば、排出連通路34、排出液体貯留室35、液体排出口36)とを備えることを特徴とするものである。
これによれば、共通液室内の液体を循環させることが可能となるので、共通液室などの液体吐出ヘッド内の流路中に存在する気泡を排除したり、沈降しやすい成分をもつ液体を用いる場合に共通液室などの液体吐出ヘッド内の流路内に液体の成分が沈降することを抑制したりすることができる。
【0135】
[第6態様]
第6態様は、第5態様において、前記供給流路は、前記複数の圧力室からなる圧力室アレイ40の短手方向外方で前記共通液室に連通し、前記排出流路は、前記圧力室アレイの長手方向外方で前記共通液室に連通していることを特徴とするものである。
これによれば、供給流路及び排出流路の両方を圧力室アレイの短手方向外方で共通液室に連通させる構成よりも当該短手方向における小型化が実現できる。供給流路及び排出流路の両方を圧力室アレイの長手方向外方で共通液室に連通させる構成よりも、共通液室内を液体が流れる距離が長いものとなり、共通液室3内における液体の流体抵抗が高くなり、共通液室内の循環が難しくなる場合があるものの、排出流路は液体の初期充填やメンテナンス時の液体の排出経路としては利用できるので、気泡を排出しやすく、安定した液体の吐出が比較的容易になる。
【0136】
[第7態様]
第7態様は、第5態様において、前記供給流路は、前記複数の圧力室からなる圧力室アレイの短手方向外方で前記共通液室に連通し、前記排出流路は、前記圧力室アレイの短手方向外方で、前記共通液室に連通していることを特徴とするものである。
これによれば、供給流路を圧力室アレイの短手方向外方、排出流路を圧力室アレイの長手方向外方で共通液室に連通させる構成よりも、共通液室から排出される液体が排出流路まで流れる距離を短くなり、共通液室3内における液体の流体抵抗を低く抑え、液体供給が不足する圧力室の発生を抑制し、安定した液体の吐出を実現することができるとともに、共通液室3内の液体を循環させることが可能となる。これにより、共通液室3などの液体吐出ヘッド1内の流路中に存在する気泡を排除したり、沈降しやすい成分をもつ液体を用いる場合に共通液室3などの液体吐出ヘッド1内の流路内に液体の成分が沈降することを抑制したりすることができる。
【0137】
[第8態様]
第8態様は、第1乃至第7態様のいずれかにおいて、前記開口部には流体抵抗部4bが設けられていることを特徴とするものである。
これによれば、流体抵抗部により、各圧力室内で発生するクロストーク圧力を各圧力室内になるべく閉じ込め、各圧力室から開口部を通じて共通液室へ漏れ出るクロストーク圧力を低減することができる。特に、本態様によれば、流体抵抗部が設けることでクロストーク抑制効果の余裕度が高まるので、前記開口部4aと前記ダンパ部材との最小距離L1をなるべく大きくして、共通液室を流れる液体の流体抵抗を小さくすることが可能となる。すなわち、本態様によれば、このような流体抵抗部が設けられていない液体吐出ヘッドと同程度のクロストーク抑制効果を得ようとする場合でも、前記開口部4aと前記ダンパ部材との最小距離L1をより大きくして共通液室を流れる液体の流体抵抗を小さくでき、圧力室への液体供給不足による吐出性能の不安定という不具合が生じにくい。
【0138】
[第9態様]
第9態様は、液体を吐出する装置であって、第1乃至第8態様のいずれかの液体吐出ヘッドを備えることを特徴とするものである。
これによれば、単位面積当たりのノズル数を増やし、クロストークを抑制することが可能な液体を吐出する装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0139】
1 :液体吐出ヘッド
2 :ノズル
3 :共通液室
4 :圧力室
4a :開口部
4b :流体抵抗部
5 :圧電素子
10 :ヘッドユニット
31 :供給液体貯留室
32 :供給連通路
33 :液体供給口
34 :排出連通路
35 :排出液体貯留室
36 :液体排出口
40 :圧力室アレイ
40a :長辺
40b :短辺
51 :第一電極
52 :圧電膜
53 :第二電極
61 :ダンパフィルム
62 :ダンパフィルム保持部材
63 :空気室
64 :大気開放孔
100 :圧力室基板
101 :駆動回路
102 :配線部
103 :振動膜
110 :ノズル板
111 :ノズル形成部
112 :撥液膜
120 :共通液室基板
130 :ダンパ部
130a :区画壁
140 :フレーム部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0140】