(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099412
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】転写型シート状接合材
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240718BHJP
B22F 1/054 20220101ALI20240718BHJP
B22F 9/00 20060101ALI20240718BHJP
B22F 1/0545 20220101ALI20240718BHJP
B22F 1/107 20220101ALI20240718BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F1/054
B22F9/00 B
B22F1/0545
B22F1/107
B22F7/08 C
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003344
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】三好 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 弘
(72)【発明者】
【氏名】高田 克則
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017AA08
4K017BA05
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K018BA02
4K018BB05
4K018BD04
4K018HA08
4K018JA36
4K018KA32
(57)【要約】
【課題】(I)ひび割れが十分に抑制され、(II)銅粒子の焼結が進行しない緩やかな転写条件下であっても優れた転写性が得られ、かつ、(III)250℃以下の低温接合であっても十分な接合強度を確保できる、転写型シート状接合材を提供する。
【解決手段】銅粒子と、還元剤と、樹脂及び任意で可塑剤を含む有機材料と、溶媒と、を含むペーストを樹脂基板上に塗布、乾燥してなり、-35℃以上25℃以下のガラス転移点を有することを特徴とする転写型シート状接合材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅粒子と、還元剤と、樹脂及び任意で可塑剤を含む有機材料と、溶媒と、を含むペーストを樹脂基板上に塗布、乾燥してなり、
-35℃以上25℃以下のガラス転移点を有することを特徴とする転写型シート状接合材。
【請求項2】
前記樹脂がアクリル樹脂からなる、請求項1に記載の転写型シート状接合材。
【請求項3】
前記樹脂の含有量が、銅粒子100質量部に対して1.0質量部以上5.0質量部以下である、請求項1又は2に記載の転写型シート状接合材。
【請求項4】
前記可塑剤が、ブチルフタリルブチルグリコレート、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、及びフタル酸ジイソデシルからなる群から選択される一種以上からなる、請求項1又は2に記載の転写型シート状接合。
【請求項5】
前記可塑剤の含有量が、前記樹脂100質量部に対して10質量部以上50質量部以下である、請求項1又は2に記載の転写型シート状接合材。
【請求項6】
前記還元剤がトリエタノールアミンからなる、請求項1又は2に記載の転写型シート状接合材。
【請求項7】
前記還元剤の含有量が、銅粒子100質量部に対して3質量部以上9質量部以下である、請求項1又は2に記載の転写型シート状接合材。
【請求項8】
前記銅粒子の平均粒子径が70nm以上300nm以下である、請求項1又は2に記載の転写型シート状接合。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転写型シート状接合材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品の接合材として、半田の材料が広く用いられていた。しかしながら、半田の材料は、耐熱性に乏しいという問題があった。そのため、例えば、150℃以上の高温での使用が見込まれるSiC素子を用いたパワーデバイスでは、接合材として半田の材料の使用が困難であった。
【0003】
そこで、焼結型接合材として、銀粒子を用いた接合材が提案されている。また、コストやイオンマイグレーションの観点で銅粒子が期待され、銅粒子を用いた転写型シート状接合材の開発が進められている。
【0004】
転写型シート状接合材は、銅粒子、還元剤、樹脂、及び溶媒を少なくとも含むペーストを、離型PETフィルム等の樹脂基板上に塗布し、乾燥させて形成される。転写型シート状接合材による2つの部材(第1部材及び第2部材)の接合は、以下のようにして行う。まず、所定の転写条件でシート状接合材を第1部材に転写した後、樹脂基板を剥離する。次いで、第1部材上に転写したシート状接合材を第2部材と接触させて、所定の接合条件でシート状接合材を介して第1部材と第2部材とを接合する。
【0005】
特許文献1には、キャッピング剤としてのトリエタノールアミンで表面がコーティングされた銅粒子(D10;100nm以上、D90;2000nm以下)と、活性剤としてのジカルボン酸と、分散剤と、結合剤としてのエポキシメタクリレートウレタンと、有機溶媒としてのテルピネオールと、を含むペーストをPETフィルム上に塗布し、乾燥させて得たシート状接合材が記載されている。特許文献1では、このシート状接合材を、転写温度200~225℃、加圧力5MPa、転写時間1~10秒の転写条件で、Auメッキされたシリコンダイに転写できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によると、特許文献1に記載のエポキシメタクリレートウレタンという樹脂は存在しないが、いずれにしても既存のシート状接合材においては、シート状接合材(ペースト乾燥膜)に含まれる樹脂成分に起因して、乾燥膜にひび割れが入ってしまうことが判明した。
【0008】
また、特許文献1では、転写温度が200℃以上であるため、転写時に銅が焼結して、銅粒子の表面活性が損なわれるため、その後の接合時における銅の焼結及び被接合材への原子拡散を損なう場合があり、焼結性や原子拡散(接合性)が不安定になりがちな課題がある。銅粒子の焼結が進行しない緩やかな転写条件下で転写を行うと、シート状接合材を被転写材の全面に転写できない、又は、樹脂基板上にペースト乾燥膜(転写型シート状接合材)の残渣が残ってしまうといった問題がある。
【0009】
また、特許文献1のシート状接合材では、接合温度250℃以下での低温接合が可能ではあるが、十分な接合強度を確保することが難しいとの課題もある。
【0010】
上記課題に鑑み、本発明は、(I)ひび割れが十分に抑制され、(II)銅粒子の焼結が進行しない緩やかな転写条件下であっても優れた転写性が得られ、かつ、(III)250℃以下の低温接合であっても十分な接合強度を確保できる、転写型シート状接合材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討したところ、銅粒子と、還元剤と、樹脂及び任意で可塑剤を含む有機材料と、溶媒と、を含むペーストを樹脂基板上に塗布、乾燥してなる転写型シート状接合材において、当該転写型シート状接合材のガラス転移点を最適化することにより、上記(I)~(III)の課題を解決することができるとの知見を得た。
【0012】
上記の知見に基づき完成された本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]銅粒子と、還元剤と、樹脂及び任意で可塑剤を含む有機材料と、溶媒と、を含むペーストを樹脂基板上に塗布、乾燥してなり、
-35℃以上25℃以下のガラス転移点を有することを特徴とする転写型シート状接合材。
【0013】
[2]前記樹脂がアクリル樹脂からなる、上記[1]に記載の転写型シート状接合材。
【0014】
[3]前記樹脂の含有量が、銅粒子100質量部に対して1.0質量部以上5.0質量部以下である、上記[1]又は[2]に記載の転写型シート状接合材。
【0015】
[4]前記可塑剤が、ブチルフタリルブチルグリコレート、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、及びフタル酸ジイソデシルからなる群から選択される一種以上からなる、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の転写型シート状接合。
【0016】
[5]前記可塑剤の含有量が、前記樹脂100質量部に対して10質量部以上50質量部以下である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の転写型シート状接合材。
【0017】
[6]前記還元剤がトリエタノールアミンからなる、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の転写型シート状接合材。
【0018】
[7]前記還元剤の含有量が、銅粒子100質量部に対して3質量部以上9質量部以下である、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の転写型シート状接合材。
【0019】
[8]前記銅粒子の平均粒子径が70nm以上300nm以下である、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の転写型シート状接合。
【発明の効果】
【0020】
本発明の転写型シート状接合材は、(I)ひび割れが十分に抑制され、(II)銅粒子の焼結が進行しない緩やかな転写条件下であっても優れた転写性が得られ、かつ、(III)250℃以下の低温接合であっても十分な接合強度を確保できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[転写型シート状接合材]
本発明の一実施形態による転写型シート状接合材は、銅粒子と、還元剤と、樹脂及び任意で可塑剤を含む有機材料と、溶媒と、を含むペーストを樹脂基板上に塗布、乾燥してなり、-35℃以上25℃以下のガラス転移点を有することを特徴とする。
【0022】
(銅粒子)
銅粒子は、銅を主成分とする。銅粒子は、銅粒子100質量%に対し銅元素を95質量%以上100質量%以下含むことが好ましく、97質量%以上含むことがさらに好ましい。銅元素を95質量%以上含むと、接合材の耐熱性が優れ、接合力がさらに優れる。
【0023】
銅粒子の平均粒子径は300nm以下であることが好ましい。銅粒子の平均粒子径が300nm以下であることにより、250℃以下の低温接合であっても十分に高い接合強度を確保できる。銅粒子の平均粒子径は150nm以下がより好ましい。また、銅粒子の平均粒子径は5nm以上が好ましい。銅粒子の平均粒子径が5nm以上であると、銅微粒子の入手が容易となる。銅粒子の平均粒子径は70nm以上であることがより好ましい。銅粒子の平均粒子径が70nm以上であることにより、250℃以下の低温接合であっても十分に高い接合強度を確保できる。
【0024】
銅粒子の形状(形態)は、特に限定されない。銅粒子の形状としては、球状(球体)、楕円状(楕円体)、板状等が挙げられ、これらの中でも、球状や楕円状が好ましく、球状がより好ましい。
【0025】
銅粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して倍率:10000倍で10視野観察し、10視野において以下の選定基準(1)~(5)によって選定された全ての銅粒子について、各銅粒子の粒子径を測定し、そのD50を求めることにより、特定することができる。なお、楕円など真円ではない粒子については、長径を粒子径とする。なお、銅粒子の粒度分布も、上記の測定対象とした全ての銅粒子の粒子径によって特定される。ここで、シート状接合材における銅粒子の平均粒子径及び粒度分布を求める際には、シートの最表面部を観察する。シート作製前の粉末状態では、粉末をカーボンテープの上にスパチュラでのせ、余分な粉末をエアダスターで除去し、テープ表面を観察する。
(1)粒子の一部が画像の視野の外にはみだしている粒子は測定しない。
(2)輪郭がはっきりしており、孤立して存在している粒子は測定する。
(3)平均的な粒子形状から外れている場合でも、独立しており、単独粒子として測定が可能な粒子は測定する。
(4)粒子同士に重なりがあるが、両者の境界が明瞭で、粒子全体の形状も判断可能な粒子は、それぞれの粒子を単独粒子として測定する。
(5)重なり合っている粒子で、境界がはっきりせず、粒子の全形も判らない粒子は、粒子の形状が判断できないものとして測定しない。
【0026】
銅粒子としては、保護剤、分散剤などを必要としないものを用いることが好ましい。このような銅粒子としては、特許第4304221号公報に記載された製造方法によって得られる金属超微粉が例示される。ただし、銅粒子はこの例示に限定されない。
【0027】
銅粒子は、表面に炭酸銅を含む被膜を有することが好ましい。銅粒子が表面に炭酸銅を含む被膜を有することで、銅粒子の焼結温度を、従来に比べて低く抑えながら接合力を高めることができる。炭酸銅を含む被膜は、亜酸化銅をさらに含んでもよい。
【0028】
銅粒子は、有機保護膜で被覆されていないものを用いることが好ましい。銅粒子が有機保護膜に被覆されている場合、有機保護膜を分解させないと銅粒子の焼結が進行しないため、有機保護膜の分解温度以上の接合温度を必要とし、250℃以下の低温接合ができない場合がある。また、有機保護膜の分解ガスが接合層にボイドを形成したり、接合層にクラックが発生し、信頼性を低下させるリスクとなる。
【0029】
銅粒子の比表面積に対する質量酸素濃度の割合は、空気中の酸素との反応性を低くして、再酸化の影響を低減する観点から、0.1質量%・g/m2以上であることが好ましく、0.2質量%・g/m2以上であることがより好ましい。他方で、銅粒子の比表面積に対する質量酸素濃度の割合は、接合時に酸化膜を除去しやすくして、接合力をより高める観点から、1.2質量%・g/m2以下であることが好ましく、0.5質量%・g/m2以下であることがより好ましい。
【0030】
銅粒子の比表面積に対する質量炭素濃度の割合は、ボイド、クラックの発生を抑制して、接合力をより高める観点から、0.3質量%・g/m2以下であることが好ましく、0.1質量%・g/m2以下であることがより好ましく、0.05質量%・g/m2以下であることがさらに好ましい。銅粒子の比表面積に対する質量炭素濃度の割合は、0.008質量%・g/m2以上であることが好ましい。
【0031】
銅粒子の比表面積に対する質量酸素濃度の割合は、それぞれ測定された比表面積と質量酸素濃度から算出できる。比表面積は、窒素ガスのBET吸着装置(例えば、株式会社マウンテック社製「MACSORB HM-1201」)を使用して測定できる。質量酸素濃度は、酸素窒素分析装置(例えば、LECO社製「TC600」)を使用して測定できる。
【0032】
銅粒子の比表面積に対する質量炭素濃度の割合は、それぞれ測定された比表面積と質量炭素濃度から算出できる。比表面積は、窒素ガスのBET吸着装置(例えば、株式会社マウンテック社製「MACSORB HM-1201」)を使用して測定できる。質量炭素濃度は、炭素硫黄分析装置(例えば、株式会社堀場製作所製「EMIA-920V」)を使用して測定できる。
【0033】
シート状接合材における「銅粒子の含有量」は、ペーストにおける銅粒子の含有量と同等であり、例えばシートを窒素雰囲気下で1000℃程度まで加熱し、加熱後の重量から把握することができる。
【0034】
(還元剤)
還元剤は、接合時に銅粒子の表面に不可避的に存在する酸化膜を還元する化合物である。接合時、還元剤により酸化膜が除去されることで銅粒子(純銅)同士が接触して焼結が進行し、拡散接合が進行する。
【0035】
本実施形態において、還元剤は、トリエタノールアミンからなるものとすることが好ましい。トリエタノールアミンは、酸化膜の除去効果が高く、また高沸点かつ低揮発性であるため、転写時にも抜けにくく、経時安定性が高いため、接合前の保管安定性に優れる。
【0036】
本実施形態において、還元剤の含有量は、銅粒子100質量部に対して3質量部以上9質量部以下であることが好ましい。還元剤の含有量が3質量部以上であれば、還元剤の量が十分であり、250℃以下の低温接合であっても銅粒子の焼結が十分となり、十分に高い接合強度を確保できる。また、還元剤の含有量が9質量部以下であれば、転写時及び接合時に還元剤の染み出しが生じにくく、被接合材と同一形状での転写及び接合が実現できる。また、分解ガス成分が増えることなく、接合層にボイドやクラックが入りにくい。
【0037】
なお、シート状接合材中における還元剤の含有量は、ペーストにおける還元剤の含有量と同等である。
【0038】
(有機材料)
本実施形態において、有機材料は樹脂及び任意で可塑剤を含む。
【0039】
<樹脂>
樹脂は、転写型接合シートを第1部材に転写させる際の接着材として機能する。また、銅粒子を分散させる分散剤としての機能もあるとなお良い。
【0040】
樹脂は、分解性の高いバインダーであるアクリル樹脂や脂肪族ポリカーボネートなどの樹脂であることが好ましい。特に、樹脂がアクリル樹脂からなることが好ましい。アクリル樹脂は、接着機能があるため、転写性に優れるからである。具体的には、ポリメタクリル酸アルキルエステル、ポリメタクリル酸アルキル、及びメタクリル酸エステル系共重合物から選択される一種以上を用いることができる。
【0041】
本実施形態において、樹脂の含有量は、銅粒子100質量部に対して1.0質量部以上5.0質量部以下であることが好ましい。樹脂の含有量が1.0質量部未満の場合、ペースト乾燥膜にひび割れが生じやすく、また、銅粒子の焼結が進行しない緩やかな転写条件下では優れた転写性が得られにくい。また、樹脂の含有量が5.0質量部を超えると、バインダー中の分解性成分や未分解物が接合層にボイドを形成し、被接合材との密着性が損なわれるため、250℃以下の低温接合では十分な接合強度を確保できない。
【0042】
なお、シート状接合材中における樹脂の含有量は、ペーストにおける樹脂の含有量と同等である。
【0043】
<可塑剤>
可塑剤は、シート状接合材のガラス転移点を下げ、シートに柔軟性を付与するとともに、銅粒子を含む塗布膜の乾燥収縮を抑える役割を果たす。
【0044】
可塑剤は、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジアリル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジノルマルヘキシル、フタル酸ビス(2エチルヘキシル)、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジノルマルオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジノニル、フタル酸ビスブチルベンジル、及びブチルフタリルブチルグリコレートから選択される一種以上を用いることができる。特に、可塑剤は、ブチルフタリルブチルグリコレート、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、及びフタル酸ジイソデシルからなる群から選択される一種以上からなることが好ましい。
【0045】
本実施形態において、可塑剤の含有量は、樹脂100質量部に対して10質量部以上50質量部以下であることが好ましい。可塑剤の含有量が10質量部未満の場合、可塑効果が発揮されにくいため、ペースト乾燥膜にひび割れが生じやすく、また、銅粒子の焼結が進行しない緩やかな転写条件下では優れた転写性が得られにくい。また、転写時に銅粒子が焼結する可能性があるため、250℃以下の低温接合では十分な接合強度を確保できない。また、可塑剤の含有量が50質量部を超えると、ペースト中の銅粒子、バインダー、及び還元剤の分散不良が生じやすいため、銅粒子の焼結が進行しない緩やかな転写条件下では優れた転写性が得られにくく、また、250℃以下の低温接合では十分な接合強度を確保できない。
【0046】
なお、シート状接合材中における可塑剤の含有量は、ペーストにおける可塑剤の含有量と同等である。
【0047】
<転写型シート状接合材のガラス転移点>
本実施形態の転写型シート状接合材は、-35℃以上25℃以下のガラス転移点を有することが重要である。転写型シート状接合材のガラス転移点を25℃以下とすることで、柔軟な転写型シート状接合材を得ることができ、(I)ひび割れが十分に抑制され、(II)銅粒子の焼結が進行しない緩やかな転写条件下であっても優れた転写性が得られ、かつ、(III)250℃以下の低温接合であっても十分な接合強度を確保できる。この観点から、転写型シート状接合材のガラス転移点は10℃以下であることが好ましい。他方で、転写型シート状接合材のガラス転移点が低すぎると、シート状接合材を樹脂基板から転写ができなくなる場合がある。よって、転写型シート状接合材のガラス転移点は-35℃以上とし、好ましくは-20℃以上とする。
【0048】
転写型シート状接合材のガラス転移点は、主に樹脂の種類と、可塑剤の種類及び含有量とによって、制御することができる。
【0049】
転写型シート状接合材のガラス転移点は、樹脂基板からペースト乾燥膜(転写型シート状接合材)を剥離し、得られた粉末を示差走査熱量測定に供することよって、特定することができる。例えば、島津製作所製の示差走査熱量計(DSC60)を用いて、ペースト乾燥粉末(70℃、60分乾燥品)を20mg装置に入れ、測定範囲-50℃から150℃(昇温速度:10℃/分)、窒素雰囲気下(流量50mL/分)の条件で測定して得られるDSCサーモグラフにおいて、ガラス転移によってベースラインが下にシフトした際の、元のベースラインとの変位の中点をガラス転移点として算出することができる。
【0050】
(溶媒)
溶媒は、200℃程度の沸点を持ち、揮発性の低いものが望ましい。ペースト塗布中に溶媒が蒸発して金属濃度が変わると、塗布膜の厚みムラが生じるからである。また、溶媒は、用いる樹脂を溶解できるものである必要がある。これらの観点から、例えば、テルピネオールなどのテルペン系溶媒を用いることができる。
【0051】
(シート状)
本実施形態の接合材は、シート状である。ここで、接合材の厚さは、特に限定されず、例えば10μm以上1mm未満とすることができる。
【0052】
また、接合材の形状(厚さ方向から平面視した際の形状)は、特に限定されるものではなく、被接合部材の接合面の形状等に応じて、適宜選択することができ、例えば、矩形や円形等が挙げられる。
【0053】
[転写型シート状接合材の製造方法]
本実施形態の転写型シート状接合材は、銅粒子と、還元剤と、樹脂及び任意で可塑剤を含む有機材料と、溶媒と、を含むペーストを樹脂基板上に塗布、乾燥することにより、作製することができる。
【0054】
ペーストの作製方法は特に限定されず、各成分を、自公転式ミキサー、乳鉢、ミル攪拌、スターラー攪拌等を用いる方法で混合することにより作製することができる。樹脂基板上へのペーストの塗布・乾燥方法も特に限定されず、例えば、アプリケーターを用いて樹脂基板上にペーストを塗布し、熱風オーブンにて塗布膜を乾燥させることで、ペースト乾燥膜を得ることができる。乾燥条件は、50~110℃(雰囲気温度)で乾燥時間10~90分とすることができる。
【0055】
樹脂基板は特に限定されず、例えば、離型PETフィルム、シリコンフィルム、フッ素樹脂フィルム等を挙げることができる。樹脂基板の厚さは、離型性を考慮して50~200μm程度とすることができる。
【0056】
転写型シート状接合材による2つの部材(第1部材及び第2部材)の接合は、以下の転写及び接合の2工程を経て行われる。
【0057】
(転写)
まず、シート状接合材を第1部材と接合させた後、樹脂基板を剥離する。すなわち、第1部材にシート状接合材を転写する。樹脂基板上に形成された転写型シート状接合材を第1部材に転写する際の条件は特に限定されないが、本実施形態では、転写温度150℃以下、加圧力10MPa以下、転写時間1分以下という、銅粒子の焼結が進行しない緩やかな転写条件下であっても優れた転写性が得られる。転写条件としては、転写温度は50~150℃、加圧力は1~10MPa、転写時間は10秒~1分の範囲内とすることができる。転写の際の雰囲気は、窒素(N2)等の不活性雰囲気とすることが好ましい。
【0058】
(接合)
次いで、第1部材上に転写したシート状接合材を第2部材と接触させて、所定の接合条件でシート状接合材を介して第1部材と第2部材とを接合する。接合条件は特に限定されないが、本実施形態では、250℃以下の低温接合であっても十分な接合強度を確保できる。接合条件としては、接合温度は200~250℃、加圧力は1~40MPa、転写時間は1~60分の範囲内とすることができる。接合の際の雰囲気は、窒素(N2)等の不活性雰囲気とすることが好ましい。
【実施例0059】
[転写型シート状接合材の製造]
(試験例No.1)
大陽日酸製銅粒子(粒子径110nm品;D10;39nm、D50;112nm、D90;310nm)40g、還元剤としてのトリエタノールアミン3.2g、アクリルバインダー(共栄社化学株式会社製、オリコックスKC-500)1.78g、及び溶媒としてのテルピネオール12.2gを、自公転式ミキサーにて混合し、ペーストを得た。なお、銅粒子の表層は亜酸化銅で被覆されており、銅粒子の比表面積に対する質量酸素濃度の割合は、0.25質量%・g/m2であり、質量炭素濃度の割合は、0.03質量%・g/m2である。
【0060】
次いで、作製したペーストを、厚さ100μmの離形PETフィルム上にアプリケーターを用いて、塗布膜200μmの厚さで塗布し、熱風オーブンにて70℃60分の条件で塗布膜を乾燥させてテルピネオールを除去し、ペースト乾燥膜(転写型シート状接合材)を得た。得られた転写型シート状接合材の配合と、既述の方法で測定した転写型シート状接合材のガラス転移点を表1に示す。
【0061】
(試験例No.2~26)
銅粒子の含有量は40gのまま固定し、銅粒子の種類、還元剤の種類及び含有量、アクリルバインダーの種類及び含有量、並びに、可塑剤の種類及び含有量を、表1に示すものに変更して、試験例No.1と同様にしてペーストを得た。なお、テルピネオールの含有量は、ペースト中の銅粒子の濃度が70質量%となるように設定した。次いで、試験例No.1と同様にして、ペースト乾燥膜(転写型シート状接合材)を得た。得られた転写型シート状接合材の配合と、既述の方法で測定した有機材料のガラス転移点を表1に示す。
【0062】
[ペースト乾燥膜のひび割れの評価]
各試験例において、ペースト乾燥膜(転写型シート状接合材)をマイクロスコープにて倍率20倍で10視野観察した。10視野全てでひび割れがない場合を「優」、1視野でもひび割れがある場合を「劣」として、表1の「ペースト乾燥膜耐ひび割れ性」の欄に示した。なお、乾燥膜にひび割れのある「劣」の場合には、ひび割れパターンやその程度を制御することができないため、接合後の接合サンプルのせん断強度にばらつきが生じることから、以降の転写及び接合の試験は実施しなかった。
【0063】
[転写性の評価]
各試験例において、転写型シート状接合材上にAuメッキが施されたSiC(4mm角、厚さ350μm)をマウントし、転写温度(雰囲気温度)150℃、加圧力10MPa、転写時間30秒、N2雰囲気下の転写条件で、SiCのAuメッキ面に転写型シート状接合材を転写させた。シート状接合材をSiCの全面に転写でき、かつ、離型PETフィルム上にペースト乾燥膜(転写型シート状接合材)の残渣がない場合を「優」、シート状接合材をSiCの全面に転写できない、又は、離型PETフィルム上にペースト乾燥膜(転写型シート状接合材)の残渣がある場合を「劣」として、表1の「転写性」の欄に示した。なお、転写性が「劣」の場合には、接合後の接合サンプルのせん断強度にばらつきが生じることから、以降の接合の試験は実施しなかった。
【0064】
[接合品せん断強度の評価]
各試験例において、SiC上に転写した転写型シート状接合材と、無酸素銅板C1020(20mm角、厚さ2mm)とを接触させて、加圧接合装置にて、接合温度(雰囲気温度)250℃、加圧力10MPa、接合時間5分、N2雰囲気下の接合条件にて、シート状接合材を介してSiCと無酸素銅板とを接合して、接合品を製造した。接合品のせん断強度は、ボンドテスター(デイジ社製、4000Plus)を用いて、ツール高さ100μm、ツール速度200μm/sにて測定し、表1に示した。50MPa以上のせん断強度が良好である。
【0065】
[接合後の接合層の染み出しの評価]
各試験例において、接合品におけるSiCの外周部をマイクロスコープ(ホーザン株式会社製、L-KIT504)にて20倍の倍率で観察し、SiCの外周部周辺での液状の染み出しの有無を確認し、表1に示した。
【0066】
【0067】
※1
110nm品(D10;39nm、D50;112nm、D90;310nm)
300nm品(D10;52nm、D50;298nm、D90;652nm)
70nm品(D10;24nm、D50; 72nm、D90;284nm)
100nm品(D10;34nm、D50;101nm、D90;308nm)
400nm品(D10;66nm、D50;403nm、D90;811nm)
50nm品(D10;15nm、D50; 51nm、D90;194nm)
※2:銅粒子100質量部に対する還元剤含有量(質量部)
※3:銅粒子100質量部に対するアクリルバインダー中のアクリル樹脂含有量(質量部)
※4:アクリル樹脂100質量部に対する可塑剤含有量(質量部)
【0068】
表1から明らかなように、転写型シート状接合材のガラス転移点が-35℃以上25℃以下の範囲外となる比較例では、乾燥膜にひび割れが観察されたのに対して、転写型シート状接合材のガラス転移点が-35℃以上25℃以下の範囲内となる発明例では、乾燥膜にひび割れが発生せず、銅粒子の焼結が進行しない緩やかな転写条件下であっても優れた転写性が得られ、かつ、250℃の低温接合であっても十分な接合強度を確保できた。特に、アクリルバインダーの含有量、還元剤の含有量、及び銅粒子の平均粒子径を最適化した一部の発明例においては、50MPa以上の高いせん断強度が得られた。
本発明の転写型シート状接合材は、電子部品を接合する用途で産業上利用可能である。具体的には、パワーデバイスと呼ばれる電子デバイス内のような、半田等の接合材の使用が困難な高温環境において、基盤、素子等の部品の接合用途が例示される。
前記可塑剤が、ブチルフタリルブチルグリコレート、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、及びフタル酸ジイソデシルからなる群から選択される一種以上からなる、請求項1又は2に記載の転写型シート状接合材。
[4]前記可塑剤が、ブチルフタリルブチルグリコレート、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、及びフタル酸ジイソデシルからなる群から選択される一種以上からなる、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の転写型シート状接合材。
前記可塑剤が、ブチルフタリルブチルグリコレート、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、及びフタル酸ジイソデシルからなる群から選択される一種以上からなる、請求項1又は2に記載の転写型シート状接合材。