(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099445
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】画像解析装置、画像解析方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240718BHJP
H04N 23/95 20230101ALI20240718BHJP
H04N 13/232 20180101ALI20240718BHJP
H04N 13/128 20180101ALI20240718BHJP
G06T 7/55 20170101ALI20240718BHJP
【FI】
G06T7/00 300D
G06T7/00 630
H04N23/95
H04N13/232
H04N13/128
G06T7/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003395
(22)【出願日】2023-01-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業、「共通基盤」領域、探索研究「革新的な知や製品を創出する共通基盤システム・装置の実現」、研究開発課題名「生体内三次元動態のオペランド解析技術の開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 裕吉
(72)【発明者】
【氏名】杉 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】今村 隆輝
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 真里枝
(72)【発明者】
【氏名】臼杵 深
【テーマコード(参考)】
5C061
5C122
5L096
【Fターム(参考)】
5C061AB08
5C122DA03
5C122DA13
5C122DA30
5C122EA65
5C122EA68
5C122FA04
5C122FA06
5C122FA14
5C122FH01
5C122FH10
5C122FH11
5C122FH12
5C122FH15
5C122FH18
5C122HA13
5C122HA35
5C122HA88
5C122HB01
5C122HB05
5C122HB06
5C122HB10
5L096CA06
5L096EA03
5L096EA43
5L096FA09
5L096FA52
5L096FA60
5L096FA66
5L096GA34
5L096GA51
5L096HA05
5L096JA09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】複数の要素画像(EI)群が連続する動画像データの目的物の三次元空間位置を追跡する。
【解決手段】光学システム100において、画像解析装置30は、最初のEI群から目的物の深度位置にリフォーカスした画像を再構成する画像再構成部31、テンプレートのEIを選定するテンプレート選定部32、EI群中の各輝点の代表点とその位置変化を求める輝点代表点特定部33及び輝点追跡部34、各EIにおいてテンプレート中の各輝点の代表点と対応する輝点の代表点にテンプレート中の各輝点の代表点と同じラベルを付ける輝点ラベリング部35及び再構成画像中の目的物の三次元空間の座標を目的物の初期座標に設定し、2番目以降のEI群において同じラベルが付いた輝点の代表点の位置変化に基づいて該ラベルにより識別される目的物ののXY座標を更新し、隣り合うEI間でのそれら代表点の間隔に基づいてZ座標を更新する三次元座標更新部36を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いにずれた複数の視点から同一被写体を撮像した複数の要素画像が配列された要素画像群が時間的に連続する動画像データを解析して画像中の目的物の三次元空間位置を追跡する画像解析装置であって、
最初の要素画像群から目的物の深度位置にリフォーカスした画像を再構成する画像再構成部と、
最初の要素画像群から輝点を最も多く含む要素画像をテンプレートとして選定するテンプレート選定部と、
2番目以降の要素画像群中の各輝点の代表点を求める輝点代表点特定部と、
2番目以降の要素画像群中の各輝点の代表点の位置変化を求める輝点追跡部と、
最初の要素画像群において再構成画像中の目的物に対応する画素の集まりからなる各輝点の代表点に目的物を識別するラベルを付け、2番目以降の要素画像群中の各要素画像においてテンプレート中の各輝点の代表点と対応する輝点の代表点にテンプレート中の各輝点の代表点と同じラベルを付ける輝点ラベリング部と、
再構成画像中の目的物の三次元空間の座標を求めて当該座標をラベルで識別される目的物の初期座標に設定し、2番目以降の要素画像群において同じラベルが付いた輝点の代表点の位置変化に基づいて該ラベルにより識別される目的物のXY座標を更新するとともに、隣り合う要素画像間でのそれら代表点の間隔に基づいて該目的物のZ座標を更新する三次元座標更新部と、
を備えた画像解析装置。
【請求項2】
前記画像再構成部が、最初の要素画像群中の各要素画像を深度位置に応じたずらし量でずらして重ね合わせて複数の深度位置にリフォーカスした画像を再構成し、それら再構成した画像を深度位置に応じてリサイズしてZ方向にスタックして目的物の三次元像を再構成するものであり、
前記輝点ラベリング部が、三次元像の各ボクセルのXY座標に各深度位置の画像のリサイズ比率を乗じて最初の要素画像群の画素座標に変換し、当該変換した画素座標の画素および該深度位置にリフォーカスした画像を再構成する際に当該画素に重ね合わされる画素の集まりからなる各輝点の代表点に目的物を識別するラベルを付けるものである
ことを特徴とする請求項1に記載の画像解析装置。
【請求項3】
前記テンプレート選定部が、複数の輝点を含む要素画像のうち輝点どうしの分離度合いが最も大きい要素画像をテンプレートとして選定する
ことを特徴とする請求項1に記載の画像解析装置。
【請求項4】
前記テンプレート選定部が、2番目以降の要素画像群からテンプレートを選定してテンプレートを更新する
ことを特徴とする請求項1に記載の画像解析装置。
【請求項5】
前記輝点ラベリング部が、2番目以降の要素画像群中の各要素画像において最近傍探索によりテンプレート中の各輝点の代表点と対応する輝点の代表点を見つける
ことを特徴とする請求項1に記載の画像解析装置。
【請求項6】
前記輝点ラベリング部が、2番目以降の要素画像群において所定数以上の輝点を含む要素画像をラベリング対象とする
ことを特徴とする請求項1に記載の画像解析装置。
【請求項7】
前記輝点代表点特定部が、要素画像群を二値化処理し、二値化された各輝点の重心を求め、当該重心をその輝点の代表点とする
ことを特徴とする請求項1に記載の画像解析装置。
【請求項8】
前記輝点追跡部が、時間的に前後する要素画像群間で最近傍探索により各輝点の代表点の移動先を見つけ、各輝点の代表点の移動前後の位置関係から各輝点の代表点の位置変化を求める
ことを特徴とする請求項1に記載の画像解析装置。
【請求項9】
互いにずれた複数の視点から同一被写体を撮像した複数の要素画像が配列された要素画像群が時間的に連続する動画像データを解析して画像中の目的物の三次元空間位置を追跡する画像解析方法であって、
最初の要素画像群から目的物の深度位置にリフォーカスした画像を再構成するステップと、
最初の要素画像群において再構成画像中の目的物に対応する画素の集まりからなる各輝点の代表点に目的物を識別するラベルを付けるステップと、
再構成画像中の目的物の三次元空間の座標を求めて当該座標をラベルで識別される目的物の初期座標に設定するステップと、
最初の要素画像群から輝点を最も多く含む要素画像をテンプレートとして選定するステップと、
2番目以降の要素画像群中の各輝点の代表点を求めるステップと、
2番目以降の要素画像群中の各輝点の代表点の位置変化を求めるステップと、
2番目以降の要素画像群の各要素画像においてテンプレート中の各輝点の代表点と対応する輝点の代表点にテンプレート中の各輝点の代表点と同じラベルを付けるステップと、
2番目以降の要素画像群において同じラベルが付いた輝点の代表点の位置変化に基づいて該ラベルにより識別される目的物のXY座標を更新するとともに、隣り合う要素画像間でのそれら代表点の間隔に基づいて該目的物のZ座標を更新するステップと、
を備えた画像解析方法。
【請求項10】
コンピューターに、互いにずれた複数の視点から同一被写体を撮像した複数の要素画像が配列された要素画像群が時間的に連続する動画像データを解析して画像中の目的物の三次元空間位置を追跡させるプログラムであって、
最初の要素画像群から目的物の深度位置にリフォーカスした画像を再構成する画像再構成手段、
最初の要素画像群から輝点を最も多く含む要素画像をテンプレートとして選定するテンプレート選定手段、
2番目以降の要素画像群中の各輝点の代表点を求める輝点代表点特定手段、
2番目以降の要素画像群中の各輝点の代表点の位置変化を求める輝点追跡手段、
最初の要素画像群において再構成画像中の目的物に対応する画素の集まりからなる各輝点の代表点に目的物を識別するラベルを付け、2番目以降の要素画像群中の各要素画像においてテンプレート中の各輝点の代表点と対応する輝点の代表点にテンプレート中の各輝点の代表点と同じラベルを付ける輝点ラベリング手段、および
再構成画像中の目的物の三次元空間の座標を求めて当該座標をラベルで識別される目的物の初期座標に設定し、2番目以降の要素画像群において同じラベルが付いた輝点の代表点の位置変化に基づいて該ラベルにより識別される目的物のXY座標を更新するとともに、隣り合う要素画像間でのそれら代表点の間隔に基づいて該目的物のZ座標を更新する三次元座標更新手段、
としてコンピューターを機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像解析装置、画像解析方法およびプログラムに関し、特に、光線空間(ライトフィールド)を記録したライトフィールド画像から得られる要素画像群の連続データから画像中の目的物の三次元空間位置を追跡するのに好適な画像解析技術に関する。
【背景技術】
【0002】
生体分子や細胞内挙動を繊細かつダイナミックに観察するには高速かつ大規模な三次元イメージングが必要となる。一般的に、そのような三次元画像は、コンフォーカル顕微鏡(共焦点顕微鏡)を使って試料に対する合焦位置を深度方向(Z方向)に所定ピッチで連続的に変えて、各合焦位置における試料の像を撮像することで生成される(例えば、特許文献1、2を参照)。また、三次元イメージングを可能にする顕微鏡としてスピニングディスク共焦点顕微鏡がある。スピニングディスク共焦点法は、多数のピンホールが並ぶ回転ディスクにレーザー光を照射することで、複数の平行な光を作り、それらで試料を高速スキャンして共焦点画像を形成するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-044016号公報
【特許文献2】特開2014-157158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
共焦点顕微鏡による三次元イメージングは、深度方向にスキャンが必要なため計測に時間がかかり、高速事象を観察するには不向きである。例えば、30fpsで三次元空間をZ方向に30スキャンして撮像する場合、三次元空間全体の撮像速度は30fps/30=1vpsとなり、三次元空間を撮るのに1秒要する。神経活動はミリ秒オーダーの現象であるため、生体分子や細胞内挙動の観察用途では共焦点顕微鏡による三次元イメージングはスピード面で不十分である。
【0005】
また、三次元イメージングの単位体積あたりのデータサイズが非常に大きいため、そのような体積画像が時間的に連続した動画像データとなるとデータサイズが数テラバイト規模になることがある。そのような大規模データは、伝送速度が早い有線通信を使っても伝送に非常に時間がかかり、それよりも伝送速度が遅い無線通信では事実上伝送できなくなるおそれがある。
【0006】
三次元イメージングの別の選択肢としてライトフィールド顕微鏡(LFM:Light Field Microscopy)がある。ライトフィールドとは三次元空間における光線の集合を表す。LFMは、多数のマイクロレンズが二次元配列されたマイクロレンズアレイを中間像面に配置し、対物レンズの開口絞り上の光線の通過位置とイメージセンサ上での光線の取得位置を得ることでライトフィールドを記録できるようにしたものである。LFMにより記録されたライトフィールド画像から、小口径レンズに相当するサブアパーチャ画像が取得できる。サブアパーチャ画像は視点をずらして被写体を部分的に撮像したものであり、それぞれがピンホール効果により深い被写界深度を持つと同時に他のサブアパーチャ画像との間で視差を有する。したがって、サブアパーチャ画像をずらして重ね合わせることで任意の深度位置にリフォーカスした画像を再構成(reconstruction)することができる。
【0007】
このように、LFMは、深度方向にスキャンすることなくシングルショットで三次元像を高速に撮像することができるため、高速事象を観察するのに向いている。また、データサイズの点でも、ライトフィールド画像自体は二次元画像であるからデータサイズは小さく、それらが時間的に連続した動画像データもデータサイズは小さい。
【0008】
そこで、本発明は、ライトフィールド画像のように視差情報を含む二次元画像が時間的に連続する動画像データを解析して画像中の目的物の三次元空間位置を追跡することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面に従うと、互いにずれた複数の視点から同一被写体を撮像した複数の要素画像が配列された要素画像群が時間的に連続する動画像データを解析して画像中の目的物の三次元空間位置を追跡する画像解析装置であって、最初の要素画像群から目的物の深度位置にリフォーカスした画像を再構成する画像再構成部と、最初の要素画像群から輝点を最も多く含む要素画像をテンプレートとして選定するテンプレート選定部と、2番目以降の要素画像群中の各輝点の代表点を求める輝点代表点特定部と、2番目以降の要素画像群中の各輝点の代表点の位置変化を求める輝点追跡部と、最初の要素画像群において再構成画像中の目的物に対応する画素の集まりからなる各輝点の代表点に目的物を識別するラベルを付け、2番目以降の要素画像群中の各要素画像においてテンプレート中の各輝点の代表点と対応する輝点の代表点にテンプレート中の各輝点の代表点と同じラベルを付ける輝点ラベリング部と、再構成画像中の目的物の三次元空間の座標を求めて当該座標をラベルで識別される目的物の初期座標に設定し、2番目以降の要素画像群において同じラベルが付いた輝点の代表点の位置変化に基づいて該ラベルにより識別される目的物のXY座標を更新するとともに、隣り合う要素画像間でのそれら代表点の間隔に基づいて該目的物のZ座標を更新する三次元座標更新部と、を備えた画像解析装置が提供される。
【0010】
本発明の別の局面に従うと、互いにずれた複数の視点から同一被写体を撮像した複数の要素画像が配列された要素画像群が時間的に連続する動画像データを解析して画像中の目的物の三次元空間位置を追跡する画像解析方法であって、最初の要素画像群から目的物の深度位置にリフォーカスした画像を再構成するステップと、最初の要素画像群において再構成画像中の目的物に対応する画素の集まりからなる各輝点の代表点に目的物を識別するラベルを付けるステップと、再構成画像中の目的物の三次元空間の座標を求めて当該座標をラベルで識別される目的物の初期座標に設定するステップと、最初の要素画像群から輝点を最も多く含む要素画像をテンプレートとして選定するステップと、2番目以降の要素画像群中の各輝点の代表点を求めるステップと、2番目以降の要素画像群中の各輝点の代表点の位置変化を求めるステップと、2番目以降の要素画像群の各要素画像においてテンプレート中の各輝点の代表点と対応する輝点の代表点にテンプレート中の各輝点の代表点と同じラベルを付けるステップと、2番目以降の要素画像群において同じラベルが付いた輝点の代表点の位置変化に基づいて該ラベルにより識別される目的物のXY座標を更新するとともに、隣り合う要素画像間でのそれら代表点の間隔に基づいて該目的物のZ座標を更新するステップと、を備えた画像解析方法が提供される。
【0011】
本発明のさらに別の局面に従うと、コンピューターに、互いにずれた複数の視点から同一被写体を撮像した複数の要素画像が配列された要素画像群が時間的に連続する動画像データを解析して画像中の目的物の三次元空間位置を追跡させるプログラムであって、最初の要素画像群から目的物の深度位置にリフォーカスした画像を再構成する三次元像再構成手段、最初の要素画像群から輝点を最も多く含む要素画像をテンプレートとして選定するテンプレート選定手段、2番目以降の要素画像群中の各輝点の代表点を求める輝点代表点特定手段、2番目以降の要素画像群中の各輝点の代表点の位置変化を求める輝点追跡手段、最初の要素画像群において再構成画像中の目的物に対応する画素の集まりからなる各輝点の代表点に目的物を識別するラベルを付け、2番目以降の要素画像群中の各要素画像においてテンプレート中の各輝点の代表点と対応する輝点の代表点にテンプレート中の各輝点の代表点と同じラベルを付ける輝点ラベリング手段、および再構成画像中の目的物の三次元空間の座標を求めて当該座標をラベルで識別される目的物の初期座標に設定し、2番目以降の要素画像群において同じラベルが付いた輝点の代表点の位置変化に基づいて該ラベルにより識別される目的物のXY座標を更新するとともに、隣り合う要素画像間でのそれら代表点の間隔に基づいて該目的物のZ座標を更新する三次元座標更新手段、としてコンピューターを機能させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、要素画像群の連続データといった高フレームレートの動画像データから画像中の目的物の三次元空間位置を追跡することができるため、例えば、生体分子や細胞内挙動といった高速事象を観測することができる。また、二次元画像である要素画像群が連続する動画像データは、共焦点顕微鏡による体積画像データの連続データに比べてデータサイズが圧倒的に小さくて済むため、保存のためにストレージ容量を圧迫せず、また、無線通信などによる伝送が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る画像解析装置を含む光学システムの概略図である。
【
図2】一例に係る(a)多視点画像データ、(b)要素画像群、(c)再構成画像を示す図である。
【
図3】一例に係る光学系の各パラメータの幾何学関係を模式的に示す図である。
【
図4】PQアレイと要素画像の重ね合わせの関係を説明する図である。
【
図5A】本発明の一実施形態に係る画像解析方法のフローチャート前半である。
【
図5B】本発明の一実施形態に係る画像解析方法のフローチャート後半である。
【
図6】最初の要素画像群から目的物を三次元再構成して輝点ラベリング、目的物の初期座標設定およびテンプレート選定を行う例を説明する図である。
【
図7】要素画像群中の各輝点の代表点の特定を説明する図である。
【
図8】要素画像群中の各輝点の代表点の追跡を説明する図である。
【
図9】要素画像群における輝点ラベリングを説明する図である。
【
図10】一つの要素画像中に輝点が複数ある場合のテンプレート選定および2番目以降の要素画像群における輝点ラベリングを説明する図である。
【
図11】要素画像群における隣り合う要素画像間での輝点の代表点の間隔を説明する図である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る画像解析装置による目的物追跡の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。また、図面に描かれた各部材の寸法、細部の詳細形状などは実際のものとは異なることがある。
【0015】
≪実施形態≫
図1は、本発明の一実施形態に係る画像解析装置を含む光学システムの概略図である。光学システム100は、光学系10と、記憶装置20と、画像解析装置30とを備えている。記憶装置20はクラウド上に配置されていてもよい。また、画像解析装置30の構成要素のすべてまたは一部もまたクラウド上に配置されていてもよい。
【0016】
光学系10は、メインレンズ1、マイクロレンズアレイ2、イメージセンサ3を備えている。メインレンズ1は対物レンズと結像レンズを含む場合があるが、ここでは便宜上、それらを含んだものをメインレンズ1として表す。マイクロレンズアレイ2は、複数のマイクロレンズ(レンズレット)2aを二次元的に配列して構成され、メインレンズ1とイメージセンサ3の間に配置される。イメージセンサ3は、入力された光を光電変換して電気信号を出力する図略の複数の受光素子を二次元的に配列して構成されたCCDセンサやCMOSセンサなどである。各受光素子から出力された電気信号は図略のA/D変換器によりデジタルデータに変換され、光学系10から多視点画像データとしてのライトフィールド画像が出力される。
【0017】
記憶装置20は、RAM、ROM、SSD、HDDなどの記憶デバイスの集合体である。RAMは、主として画像解析装置30が画像解析を行う際のワーキングメモリとして使用される。ROM、SSD、およびHDDは、主として画像解析装置30を動作させるためのコンピュータープログラムや、画像解析装置30の解析対象である動画像データ、後述する画像解析において生成および使用される再構成画像、PQアレイ、三次元像、ラベルテーブルなどを一時的または長期に亘って保存する。
【0018】
画像解析装置30は、記憶装置20に保存されている動画像データを解析して画像中の目的物の三次元空間位置を追跡するものである。具体的には、画像解析装置30は、画像再構成部31と、テンプレート選定部32と、輝点代表点特定部33と、輝点追跡部34と、輝点ラベリング部35と、三次元座標更新部36とを備えている。これら各構成要素は、ASICやFPGAなどのハードウェア、あるいは、記憶装置20に記憶されているコンピュータープログラムをCPUやGPUなどの図略のプロセッサで実行するソフトウェアとして実現することができる。ハードウェアとソフトウェアを適宜組み合わせて実現することもできる。画像解析装置30は、画像解析を実行中に、記憶装置20を構成する各種記憶デバイスに適宜アクセスしてデータの書き込みおよび読み出しを行う。
【0019】
画像解析装置30の解析対象である動画像データは、互いにずれた複数の視点から同一被写体を撮像した複数の要素画像が配列された要素画像群をフレーム画像としてそのようなフレーム画像が時間的に連続する画像データである。このような要素画像群からはそれに含まれる各要素画像の視差を利用して任意の深度位置にリフォーカスした画像を再構成することができる。動画像データは、例えば、光学系10から連続的に出力される多視点画像データ(ライトフィールド画像)から生成することができる。
【0020】
図2は、一例に係る多視点画像データと要素画像と再構成画像とを示す図である。(a)多視点画像データは、「/5」の文字が記されたシートを光学系10の焦点面からずれた位置に置いて撮像したものである。多視点画像データは、光学系10のマイクロレンズアレイ2の各マイクロレンズ2aにより撮像された多数のマイクロレンズ像MIが正方格子状に配列されたマイクロレンズ像群である。各マイクロレンズ像MIの形状は、破線で示したように、各マイクロレンズ2aの円形形状を反映した略円形となっている。このように、多視点画像データは、互いにずれた複数の視点から同一被写体を撮像した複数のサブ画像(
図2の例ではマイクロレンズ像MI)が集まったものである。
【0021】
マイクロレンズ像MIの境界付近は光線量が少ないため暗くなっており、また、マイクロレンズ2aの端の部分を経由した光線を捉えていることで歪みが大きいため、マイクロレンズ像MIの中央部分が使用される。すなわち、略円形の各マイクロレンズ像MIから、例えば、当該円に内接する正方領域が要素画像EIとして切り出され、それら要素画像EIを正方格子状に配列したものが(b)要素画像群である。
【0022】
上述したように、「/5」の文字が記されたシートが光学系10の焦点面からずれた位置にあるため、(a)多視点画像データにおいて各マイクロレンズ2aにより視点をずらして「/5」の文字を部分的に撮像したマイクロレンズ像、すなわち、視差を有するマイクロレンズ像が記録されている。例えば、「5」の文字の左上角部分に着目すると、被写体の当該部分から射出された光線は隣り合うマイクロレンズ像間で間隔Δをもって記録されている。(b)要素画像群に示すように、マイクロレンズ像間での間隔Δは要素画像間ではΔEIとなる。ここで、マイクロレンズ2aのピッチをMLP、要素画像の1辺の長さをEILとすると、ΔEIは次式(1)で表される。
ΔEI=Δ-(MLP-EIL) …(1)
【0023】
要素画像群において隣り合う要素画像どうしを、視差に応じたずらし量でずらして重ね合わせることで(c)再構成画像が得られる。
図2の例では、隣り合う要素画像をΔ
EIずつずらして重ね合わせることで、「/5」の文字が記されたシートの位置にリフォーカスされた(c)再構成画像が得られる。このように、ずらし量を適宜変えて要素画像を重ね合わせることで、取得画像から逆方向の光線追跡に基づいて任意の深度位置にリフォーカスした画像を再構成することができる。
【0024】
ここで、リフォーカス対象の目的物について、メインレンズ1中の対物レンズの物体側焦点面NOP(Native Object Plane)からのずれである深度をd
objとすると、隣り合うマイクロレンズ像間で同一点起源の光線の間隔Δと当該点の深度d
objとの関係を光学系10の各パラメータを用いて表すことができる。
図3は、一例に係る光学系10の各パラメータの幾何学関係を模式的に示す図である。図中のOは深度d
objの位置にある目的物、Aはメインレンズ1による目的物Oの結像点、BおよびCは隣り合うマイクロレンズ2aの中心、B’およびC’はBおよびCを経由してイメージセンサ3に捉えられた目的物Oからの光線の位置である。図中の三角形ABCと三角形AB’C’とに着目したとき、三角形の相似関係より、
BC:B’C’=CA:C’A
である。これをパラメータで示すと、
MLP:Δ=(a+d
objM
2):(a+d
objM
2-b)
となる。これをΔについて解くと次式(2)が得られる。
Δ=MLP(1-b/(d
objM
2-a)) …(2)
ただし、MLP:マイクロレンズ2aのピッチ、M:メインレンズ1の対物レンズの倍率、a:メインレンズ1の結像レンズの像側焦点面T-NIP(Native Image Plane)からマイクロレンズ2aの中心までの距離、b:マイクロレンズ2aの中心からイメージセンサ3までの距離、である。
【0025】
なお、深度方向(Z方向)に垂直な面内で互いに垂直な2方向(X方向、Y方向)に対して異方性は存在しないため、X方向およびY方向にそれぞれ同一のΔを適用することができる。
【0026】
式(1)(2)からdobjとΔEIの関係が特定される。したがって、任意の深度位置(深度dobj)にリフォーカスした画像を再構成するには、要素画像どうしを式(1)(2)で特定されるずらし量ΔEIでずらして重ね合わせればよい。要素画像どうしの重ね合わせは下述のPQアレイを参照することで容易に行うことができる。
【0027】
図4は、PQアレイと要素画像の重ね合わせの関係を説明する図である。重なり合った画素を網掛け表示し、左列は要素画像が重なり合った状態を、右列は要素画像の重なりを展開した状態を示している。便宜のため、要素画像群が縦横2つ計4つの要素画像D、E、F、Gからなり、各要素画像のサイズは縦横5画素分とする。要素画像の配置関係は、要素画像Dの右に要素画像Eが、要素画像Dの下に要素画像Fが、要素画像Eの下すなわち要素画像Fの右に要素画像Gが配置されている。要素画像群における各画素を参照するために行および列に1から始まる通し番号を振る。例えば、要素画像Dに属する画素は第1行から第5行、かつ、第1列から第5列の範囲で参照され、要素画像Gに属する画素は第6行から第10行、かつ、第6列から第10列の範囲で参照される。以下で画素[m,n]は要素画像群において第m行、第n列に位置する画素を指す。
【0028】
図中のZはdobjを表す深度パラメータである。便宜上、dobjと要素画像のずらし量ΔEIを同じZ値で表す。すなわち、Z=nのとき、dobj=nであり、要素画像のずらし量ΔEIがn画素分であることを表す。
【0029】
Z=0のとき、すなわち、深度dobj=0では要素画像どうしを重ね合わせることなく、要素画像群がそのまま再構成画像となる。
【0030】
Z=1のとき、すなわち、深度dobj=1にリフォーカスした画像を再構成するには、隣り合う要素画像どうしを1画素分ずらして重ね合わせる。要素画像群におけるどの画素どうしを重ね合わせるかは、画素の重ね合わせ方を示したPQアレイを参照することで容易に判別することができる。PQアレイは、要素画像群における画素の行番号または列番号を要素画像単位で折り返して表したものであり、図中に示したように、例えば、Z=1に対応するPQアレイは次のように表される。
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10
当該PQアレイは、第5行(第5列)の画素と第6行(第6列)の画素とが重なり合うことを意味する。このようなPQアレイをあらかじめZ値ごとに用意して記憶装置20に保存しておくことで、Z値に応じたPQアレイを参照して画素の重ね合わせを実行することができる。
【0031】
Z=2のとき、すなわち、深度dobj=2にリフォーカスした画像を再構成するには、隣り合う要素画像どうしを2画素分ずらして重ね合わせる。図中に示したように、例えば、Z=2に対応するPQアレイは次のように表される。
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10
当該PQアレイは、第4、5行(第4、5列)の画素と第6、7行(第6、7列)の画素とがそれぞれ重なり合うことを意味する。
【0032】
なお、列方向および行方向に3以上の要素画像が重なり合う場合があるが、その場合のPQアレイは3行以上で構成されることなる。また、上記例のように要素画像の行列が同じ画素数で構成されている場合には、要素画像の行方向の重ね合わせおよび列方向の重ね合わせに共通のPQアレイを使用することができるが、要素画像の行列の画素数が互いに異なる場合には、行方向のPQアレイおよび列方向のPQアレイを用意する必要がある。
【0033】
次に、画像解析装置30による画像解析について説明する。
図5Aは、本発明の一実施形態に係る画像解析方法のフローチャート前半であり、最初(時刻t=1に相当)の要素画像群に対する画像解析手順を示す。
図5Bは、本発明の一実施形態に係る画像解析方法のフローチャート後半であり、2番目以降(時刻t=2以降に相当)の要素画像群に対する画像解析手順を示す。各ステップは、画像解析装置30の上記構成要素により実行される。
【0034】
記憶装置20から画像解析装置30に動画像データ中の最初の要素画像群が読み出されると、画像再構成部31が、要素画像群から目的物の深度位置にリフォーカスした画像を再構成する(S1)。再構成画像が生成されると、輝点ラベリング部35が、再構成画像中の目的物に対応する画素の集まりからなる各輝点の代表点に目的物を識別するラベルを付ける(S2)。ここで言う輝点とは、一定の輝度あるいは画素値を有する1以上の画素の集まり、すなわち、一定の明るさを持つ点あるいは小画像領域のことを指す。ラベル付けが終わると、三次元座標更新部36が、再構成画像中の目的物の三次元空間の座標を求めて当該座標をラベルにより識別される目的物の初期座標に設定する(S3)。また、これらステップS1ないしS3と並行または非同期に、テンプレート選定部32が、要素画像群から輝点を最も多く含む要素画像をテンプレートとして選定する(S4)。
【0035】
図6は、最初の要素画像群から目的物を三次元再構成して輝点ラベリング、目的物の初期座標設定およびテンプレート選定を行う例を説明する図である。例えば、画像再構成部31は、記憶装置20に保存されたPQアレイを適宜参照しながら、要素画像群中の要素画像を深度位置に応じたずらし量でずらして重ね合わせて複数の深度位置にリフォーカスした画像を再構成する。深度d
objが大きくなるにつれ、要素画像のずらし量Δ
EIが大きくなり、その分、再構成された画像のサイズは小さくなる。画像再構成部31は、そのような深度位置に応じてサイズが異なる再構成された画像を深度位置に応じてリサイズしてZ方向(深度方向)にスタックして目的物の三次元像を再構成する。なお、要素画像群から任意の深度位置にリフォーカスした画像を再構成する方法として、本願発明者らの出願(特願2022-202566)に開示したオプティカルセクショニング技術を用いることで高分解能の画像を再構成することができる。
【0036】
要素画像群において三次元像に対応する画素を特定するために、例えば、輝点ラベリング部35は、三次元像の各ボクセルのXY座標に各深度位置の画像のリサイズ比率を乗じて最初の要素画像群の画素座標に変換する。例えば、三次元像におけるあるZ座標の画像のサイズをm、その画像のリサイズ前のサイズをnとすると、そのZ座標の各ボクセルのXY座標にリサイズ比率n/mを乗じることで、最初の要素画像群において対応する画素座標に変換することができる。ただし、この変換された画素座標に重なり合った他の画素の座標まではわからないため、輝点ラベリング部35は、PQアレイを参照して、その深度位置にリフォーカスした画像を再構成する際に、当該変換した画素座標の画素に重ね合わされる他の画素の座標を特定し、当該変換した画素座標の画素および該深度位置にリフォーカスした画像を再構成する際に当該画素に重ね合わされる画素の集まりからなる各輝点の代表点に目的物を識別するラベルを付ける。例えば、輝点を構成する各画素を二値化してその重心を求め、当該重心をその輝点の代表点とすることができる。同じ三次元像に対応する輝点の代表点には同じラベルが付けられる。
【0037】
ラベルと各輝点の代表点との対応関係はテーブル化され、記憶装置20にラベルテーブルとして記憶される。また、ラベルには目的物の三次元座標が紐づけられる。具体的には、三次元座標更新部36が、三次元像の各ボクセル座標を求めるとともに、三次元空間の座標として例えば三次元像の重心を求めて、当該重心をラベルにより識別される目的物の初期座標に設定する。
【0038】
上記の画像再構成、輝点ラベリング、目的物の初期座標設定と並行または非同期に、テンプレート選定部32は、輝点を最も多く含む要素画像をテンプレートとして選定する。便宜のため、
図6の例では目的物を一つとしているため、各要素画像中の輝点の数は1個である。このようにテンプレートの候補となる要素画像が複数ある場合には、要素画像群において原点に最も近い位置、すなわち、もっとも左上にある要素画像をテンプレートとして選定することができる。テンプレートは、2番目の要素画像群の輝点ラベリング処理で参照される。以上で最初の要素画像群を対象とする解析処理が終了する。
【0039】
図5Bへ戻り、記憶装置20から画像解析装置30に動画像データ中の次の要素画像群が読み出されると、輝点代表点特定部33が、要素画像群中の各輝点の代表点を求める(S5)。
図7は、要素画像群中の各輝点の代表点の特定を説明する図である。要素画像群はグレイスケールの画像であることから、輝点代表点特定部33は、必要に応じて平均化フィルターで要素画像群を平滑化した上で要素画像群を二値化処理する。そして、輝点代表点特定部33は、二値化された各輝点の重心を求め、当該重心をその輝点の代表点とする。以後、各輝点の代表点についてラベリングおよび追跡が行われる。
【0040】
二値化の閾値は適当な固定値でもよいし、要素画像群の特性に応じて決めてもよい。後者の場合、まず、視野の範囲と目的物の大きさからおおよその目的物が写る画素数の割合を算出する。例えば、視野が422.4μm×422.4μm、目的物が直径4μmの円形の場合、視野中(要素画像群中)で目的物が写る画素が占める割合はおよそ0.0070%である。次に、要素画像群中の各画素の画素値とその頻度パーセンテージを求め、目的物が写る画素数の割合に達するまで降順に頻度を累積していき、最後に足された頻度に対応する画素値を閾値とする。例えば、上記例では画素値の頻度上位から累積していき、累積値が99.993%を超えたときの画素値を閾値とする。このような閾値の決め方は、顕微鏡画像のようにコントラストが高く、背景と目的物とが明確に分かれており、視野全体で目的物が占める割合が非常に小さい場合に有効である。目的物が事前に観察可能である場合には、事前に背景と目的物の画素値を適当な画像解析ソフトで求め、その値を閾値としてもよい。また、一般的な自動二値化の手法である大津の二値化は、背景と目的物とが明確に別れており、視野全体で目的物が占める割合が非常に少ない場合には適用が困難であるが、目的物によっては適用可能である。
【0041】
図5Bへ戻り、要素画像中の各輝点の代表点が決まると、輝点追跡部34が、要素画像群中の各輝点の代表点の位置変化を求める(S6)。
図8は、要素画像群中の各輝点の代表点の追跡を説明する図である。便宜のため、
図8では、時間的に前後する2つの要素画像群を重ね合わせて示している。輝点追跡部34は、時間的に前後する要素画像群間で最近傍探索により各輝点の代表点の移動先を見つける。目的物の移動速度に対して動画像データのフレームレートが十分に高ければ、
図8に示したように、時間的に前後する要素画像群間で各輝点の代表点の座標のずれはごく微小であり、最近傍探索により各輝点の代表点の移動先を求めることができる。例えば、拡大図に示したように、5つの輝点の代表点P1ないしP5について、時間的に前後する要素画像群間での最近傍探索によりそれら代表点の移動先が見つかる。各輝点の代表点の移動先が見つかると、輝点追跡部34は、各輝点の代表点の移動前後の位置関係から各輝点の代表点の位置変化を求める。例えば、輝点の代表点P1について、時刻t-1のXY座標はP1
tー1=(xP1
tー1,yP1
t-1)であり、時刻tのXY座標はP1
t=(xP1
t,yP1
t)であるとすると、P1の位置変化はP1
t-P1
tー1で表される。なお、拡大図において、P1の下、P3の右にある代表点は時刻tで初めて出現したため時刻t-1から時刻tにかけて追跡できない。この代表点が時刻t以降も出現するようであればその位置が追跡されることとなる。
【0042】
図5Bへ戻り、各輝点の代表点の追跡と並行して、輝点ラベリング部35が、要素画像群の各要素画像においてテンプレート中の各輝点の代表点と対応する輝点の代表点にテンプレート中の各輝点の代表点と同じラベルを付ける(S7)。
図9は、要素画像群における輝点ラベリングを説明する図である。左図はk番目の要素画像群を、中央図はテンプレートを用いた輝点の代表点を最近傍探索中のk+1番目の要素画像群を、右図はラベリング処理されたk+1番目の要素画像群をそれぞれ示す。便宜のため、各要素画像において輝点の代表点は一つとし、左図のk番目の要素画像群において各輝点の代表点に同じラベルが付けられているとする。このとき、中央図に示すように、輝点ラベリング部35は、最近傍探索により、k+1番目の要素画像群中の各要素画像においてテンプレート中の各輝点の代表点P0と対応する輝点の代表点を見つける。便宜のため、中央図の要素画像群ではk+1番目の要素画像群中の各要素画像にテンプレートを重ね合わせて示している。この例では各要素画像に輝点の代表点が一つしかないためそれら各代表点がテンプレート中の輝点の代表点と対応する代表点として見つかる。各要素画像において対応する輝点の代表点を見つけると、輝点ラベリング部35は、見つけた代表点にテンプレート中の対応する輝点の代表点P0と同じラベルを付ける。その結果、図右に示すように、k+1番目の要素画像群における各輝点の代表点にラベルが付けられる。このようにして、新たな要素画像群中の各輝点の代表点にラベルが付けられる。
【0043】
目的物が複数ある場合には要素画像中にそれら目的物由来の輝点が複数含まれることがある。そのような場合、輝点ラベリング部35は、所定数以上の輝点を含む要素画像をラベリング対象としてもよい。例えば、テンプレート中の輝点の数をNとすると、N-1以上の輝点を含む要素画像をラベリング対象とする。これにより、ラベリング対象の要素画像の数が減るためラベリング処理に係る負荷を軽減することができる。
図10は、一つの要素画像中に輝点が複数ある場合のテンプレート選定および2番目以降の要素画像群における輝点ラベリングを説明する図である。左図は最初の要素画像群を、中央図はm番目の要素画像群を、右図はn(n>m)番目の要素画像群をそれぞれ示す。テンプレート選定部32は、最初の要素画像群から輝点を最も多く含む要素画像をテンプレートとして選定する。この例では輝点を4つ含む要素画像がテンプレートとして選定されるが、そのような要素画像が複数存在する。このような場合、テンプレート選定部32は、輝点どうしの分離度合いが最も大きい要素画像をテンプレートとして選定する。分離度合いをSEPで表すとすると、SEPは例えば次式で定義することができる。
SEP=X
max-X
min+Y
max-Y
min
ただし、X
maxはテンプレート候補の要素画像に含まれる複数の輝点の代表点のXY座標のうち最大X座標、X
minは最小X座標、Y
maxは最大Y座標、Y
minは最小Y座標である。
【0044】
上述したようにマイクロレンズ像から要素画像を切り出す際にマイクロレンズ像の一部の領域がカットされるが、目的物が移動すると、カットされる領域に含まれていた輝点が要素画像内に移動して時間経過とともに要素画像中の輝点の数が増える、あるいはその逆に減ることがある。例えば、
図10において拡大表示した要素画像に着目すると、当該要素画像中の輝点の数は最初の要素画像群では1であり(左図)、m番目の要素画像群では2に増え(中央図)、n番目の要素画像群では4に増えている(右図)。m番目の要素画像群で当該要素画像中の輝点の数が2に増えるがN-1以上という条件を満たしていないため、当該要素画像はラベリング対象とはならない。その後のn番目の要素画像群において当該要素画像中の輝点の数が4に増えるとN-1以上という条件を満たすため、当該要素画像はラベリング対象となる。ラベリング対象となった要素画像については、輝点ラベリング部35により、テンプレート中の各輝点の代表点と対応する輝点の代表点にテンプレート中の各輝点の代表点と同じラベルが付けられる。
【0045】
図5Bへ戻り、各輝点の代表点の追跡およびラベル付けが終わると、三次元座標更新部36が、同じラベルが付いた輝点の代表点の位置変化に基づいて該ラベルにより識別される目的物のXY座標を更新するとともに、隣り合う要素画像間でのそれら代表点の間隔に基づいて該目的物のZ座標を更新する(S8)。例えば、目的物の時刻tのXY座標は、時刻t-1のXY座標に、同じラベルが付いた輝点の代表点の時刻t-1から時刻tにかけての位置変化の平均を加算することで求めることができる。これを数式で表すと次のようになる。
(x
t,y
t)=(x
t-1,y
t-1)+〈P
t-P
t-1〉
ただし、(x
t,y
t)は時刻tにおける目的物のXY座標、(x
t-1,y
t-1)は時刻t-1における目的物のXY座標、P
tは時刻tにおける同じラベルが付いた輝点の代表点のXY座標、P
t-1は時刻t-1における同じラベルが付いた輝点の代表点のXY座標、演算子〈〉はXYの各座標の平均値を表す。
【0046】
目的物の時刻tのZ座標は、時刻tの要素画像群において同じラベルが付いた輝点の代表点について、隣り合う要素画像間でのそれら輝点の代表点の間隔に基づいてダイレクトに求めることができる。
図11は、要素画像群における隣り合う要素画像間での輝点の代表点の間隔を説明する図である。例えば、拡大図に示したように、要素画像群において5つの輝点の代表点P1ないしP5の座標があらかじめわかっているため、隣り合う要素画像間でのそれら輝点の代表点の間隔Δ
EI1、Δ
EI2、Δ
EI3、Δ
EI4は容易に求まる。時刻tのときの同じラベルがついた輝点の代表点について隣り合う要素画像間でのそれら輝点の代表点の間隔Δ
EI1、Δ
EI2、Δ
EI3、Δ
EI4、…、Δ
EInの平均を
 ̄Δ
EItで表すとすると、式(1)(2)から、そのラベルにより識別される目的物の時刻tのZ座標は次式で表される。
z
t=d
obj=((
 ̄Δ
EIt-EI
L)a-MLP*b)/(
 ̄Δ
EIt-EI
L)M
2
【0047】
図12は、Z方向の追従性能を示すグラフである。Z方向の追従性能の確認は、半径2μmの蛍光粒子をXYZ電動ステージでZ方向に0μmから40μmまで1μmずつ動かしたときの様子を光学系10で撮影し、その動画像データを画像解析装置30で解析することで行った。(a)は目的物(蛍光粒子)を載せた電動ステージへの入力を示し、(b)は画像解析装置30による目的物(蛍光粒子)の位置追跡結果を示す。(b)においてZ=0(NOP)に近いところで位置追跡ができていないのは、光学系10の特性上、その部分ではリフォーカスが困難であるとの理由による。それ以外のリフォーカス可能な深度位置については目的物のZ方向への移動をよく追跡できていると言える。
【0048】
≪効果≫
【0049】
本実施形態に係る画像解析装置30は、最初(時刻t=1)の要素画像群から目的物を三次元再構成してその初期座標を求めるものの、それ以降(時刻t=2以降)は要素画像群から目的物を三次元再構成することなく二次元画像の要素画像群の解析のみで目的物の三次元空間位置を追跡する。
図13は、画像解析装置30による目的物追跡の様子を示す図である。例えば、最初の要素画像群から目的物である粒子Aの初期座標(x,y,z)=(553,362,44)を求めた後は、粒子Aを三次元再構成することなく、二次元画像の要素画像群を解析して粒子Aの三次元空間位置を追跡する。
【0050】
このように、本実施形態に係る画像解析装置30によると、要素画像群の連続データといった高フレームレートの動画像データから画像中の目的物の三次元空間位置を追跡することができるため、例えば、生体分子や細胞内挙動といった高速事象を観測することができる。一例として、100fpsの動画像データを解析して目的物の三次元空間位置を追跡することができる。
【0051】
また、二次元画像である要素画像群が連続する動画像データは、共焦点顕微鏡による体積画像データの連続データに比べてデータサイズが圧倒的に小さくて済むため、保存のためにストレージ容量を圧迫せず、また、無線通信などによる伝送が可能となる。一例として、上記の100fpsの動画像データのデータサイズが1.27MBなのに対して、各要素画像群から三次元再構成した体積画像の全データサイズは1.53GBにもなる。すなわち、本実施形態に係る画像解析装置30は、時間的に連続する体積画像を必要とせず二次元画像である要素画像群の連続データから目的物の三次元空間位置を追跡することができるため、保存および伝送に係るデータサイズをおよそ1/1000に低減することができる。
【0052】
≪変形例≫
図6で説明したような目的物の三次元像を再構成してその三次元像から目的物の初期座標を求めるのではなく、最初の要素画像群から再構成した画像から目的物の三次元空間の座標を直接求めるようにしてもよい。再構成画像のZ座標はあらかじめわかっているから、あとは再構成画像中の目的物の重心座標、すなわち、XY座標を求めることで、目的物の三次元空間における初期座標を決定することができる。
【0053】
テンプレート選定部32が、テンプレートは最初の要素画像群からだけでなく、2番目以降の要素画像群からも適宜テンプレートを選定してテンプレートを更新してもよい。特に、目的物が複数あり、それらがそれぞれ回転したり方向転換したりする場合には、2番目以降の要素画像群においてテンプレートを選定し直すようにすることが好ましい。
【0054】
上記説明は、要素画像群において要素画像が正方格子状に配列されていることを前提としているが、マイクロレンズがハニカム状に配列されたマイクロレンズアレイを使用すると要素画像がハニカム状に配列されることがある。そのような場合でも、上述した要素画像群中の輝点の代表点の特定、輝点ラベリング、テンプレート選定、輝点追跡、および三次元座標更新が適用可能である。
【0055】
多視点画像データはライトフィールド画像に限定されず、互いにずれた複数の視点から同一被写体を撮像した複数のサブ画像が集まったものであればよい。例えば、多数のカメラを並べたマルチカメラで撮像されたものであってもよい。また、マルチカメラにおける各カメラで撮像された画像が一つの画像データとしてまとめられている必要はなく、各カメラで撮像された画像が個別のファイルで保存されていてもよい。その場合、それら画像ファイルのセットが多視点画像データということになる。そのような多視点画像データから、画像解析装置30の解析対象となる同画像データが生成可能である。
【0056】
以上のように、本発明における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る画像解析装置は、要素画像群の連続データといった高フレームレートの動画像データから画像中の目的物の三次元空間位置を追跡することができるため、生体分子や細胞内挙動などの高速事象の観察に有用である。
【符号の説明】
【0058】
30 画像解析装置
31 画像再構成部
32 テンプレート選定部
33 輝点代表点特定部
34 輝点追跡部
35 輝点ラベリング部
36 三次元座標更新部