(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099955
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】電力ケーブル終端接続部
(51)【国際特許分類】
H02G 15/06 20060101AFI20240719BHJP
H02G 1/14 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
H02G15/06
H02G1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003607
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角 陽介
(72)【発明者】
【氏名】深作 泉
【テーマコード(参考)】
5G355
5G375
【Fターム(参考)】
5G355AA03
5G355BA08
5G355BA11
5G355BA17
5G375AA02
5G375BA21
5G375CA02
5G375CA13
5G375CA14
5G375CB06
5G375CB07
5G375CB38
5G375DA36
5G375DB04
5G375DB35
(57)【要約】
【課題】水密性を高めながらも、導電線が挿通されたブッシングが嵌合する嵌合穴の内面とブッシングの外周面との間に隙間が形成されてしまうことを抑制可能な電力ケーブル終端接続部を提供する。
【解決手段】電力ケーブル11の終端部が接続対象の導体線12に電気的に接続された電力ケーブル終端接続部1は、導体線12が挿通されたブッシング2と、電力ケーブル11の終端部を保持する電力ケーブル保持部4Aとブッシング2を保持するブッシング保持部4Bとを一体に有する保持部材4と、を備える。ブッシング保持部4Bは、ブッシング2が嵌合する嵌合穴400が端面40aに開口して形成された筒状であり、ブッシング保持部4Bの開口側端部401の内周面400bを含む嵌合穴の内面400aがブッシング2に弾接しており、ブッシング保持部4Aの開口側端部401が高弾性化されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力ケーブルの終端部が接続対象の導体線に電気的に接続された電力ケーブル終端接続部であって、
前記導体線が挿通されたブッシングと、
前記電力ケーブルの前記終端部を保持する電力ケーブル保持部と前記ブッシングを保持するブッシング保持部とを一体に有する保持部材と、を備え、
前記ブッシング保持部は、前記ブッシングが嵌合する嵌合穴が端面に開口して形成された筒状であり、
前記ブッシング保持部の開口側端部の内周面を含む前記嵌合穴の内面が前記ブッシングに弾接しており、
前記ブッシング保持部の前記開口側端部が高弾性化されている、
電力ケーブル終端接続部。
【請求項2】
前記ブッシングは、前記電力ケーブルとの接続部側ほど外径が小さくなる円錐形状部、及び前記円錐形状部の最大外径よりも外径が大きい円筒形状部を有し、
前記ブッシング保持部は、前記円筒形状部の外周側にあたる前記開口側端部の少なくとも一部が高弾性化されている、
請求項1に記載の電力ケーブル終端接続部。
【請求項3】
前記ブッシング保持部は、前記ブッシングの前記円錐形状部及び前記円筒形状部を囲むように成形されたゴム成形体と、前記ゴム成形体に埋め込まれた高弾性体とを有し、
前記高弾性体の弾性率が前記ゴム成形体の弾性率よりも高く、
前記高弾性体によって前記ブッシング保持部の前記開口側端部が高弾性化されている、
請求項2に記載の電力ケーブル終端接続部。
【請求項4】
前記高弾性体が前記開口側端部の全周にわたって環状に形成されている、
請求項3に記載の電力ケーブル終端接続部。
【請求項5】
前記ブッシング保持部は、前記開口側端部の少なくとも一部のゴム材料の弾性率が他の部分のゴム材料の弾性率よりも高い、
請求項1又は2に記載の電力ケーブル終端接続部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄道車両に用いられる電力ケーブル終端接続部に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両は、例えば特許文献1に記載されているように、パンタグラフから25kV又は20kVの高圧電力が供給され、この高圧電力が回路遮断器を経て主変圧器に送られ、主変圧器によって所定の電圧値にまで電圧が下げられた後、主変換装置で周波数が変換されて主電動機に出力される。回路遮断器と主変圧器とは、電力ケーブルによって接続される。本出願人は、この電力ケーブルの終端接続部として、特許文献2に記載のものを提案している。
【0003】
特許文献2に記載の電力ケーブル終端接続部では、ケーブル保持体の内部で電力ケーブルの中心導体が圧縮端子を介して機器側導体に接続されている。機器側導体は、テーパ形状を有するブッシングに挿通されている。ケーブル保持体は、ポリマー系材料から形成された絶縁体と、導電性付与剤によって導電性が付与されたポリマー系材料から形成された半導電体とを有している。半導電体は、電界の集中を緩和する機能を有している。
【0004】
ケーブル保持体は、電力ケーブルの終端部を保持する保持筒部と、保持筒部に対して垂直な方向に延在してブッシングを保持する接続筒部とを一体に有しており、全体としてT字型に形成されている。接続筒部には、ブッシングが嵌合する嵌合穴が接続筒部の端面に開口して形成されている。接続筒部は、ブッシングが嵌合することにより拡径する弾性を有しており、嵌合穴の内面がブッシングの外周面に隙間なく密着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-19208号公報
【特許文献2】特許7040662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように構成された電力ケーブル終端接続部は、ブッシングの外周面と嵌合穴の内面との間の僅かな隙間からケーブル保持体の内部に水分が浸入することがないよう、高い水密性が確保されていることが望ましい。水密性を高めるためには、特に嵌合穴の開口端部における締め代を大きくすることが考えられるが、この締め代を大きくし過ぎると、開口端部以外の部分においてブッシングの外周面と嵌合穴の内面との間に隙間ができてしまい、この隙間で放電が発生するおそれがある。このような放電は、ケーブル保持体やブッシングを損傷させてしまう要因となる。
【0007】
そこで、本発明は、水密性を高めながらも、ブッシングが嵌合する嵌合穴の内面とブッシングの外周面との間に隙間が形成されてしまうことを抑制可能な電力ケーブル終端接続部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、電力ケーブルの終端部が接続対象の導体線に電気的に接続された電力ケーブル終端接続部であって、前記導体線が挿通されたブッシングと、前記電力ケーブルの前記終端部を保持する電力ケーブル保持部と前記ブッシングを保持するブッシング保持部とを一体に有する保持部材と、を備え、前記ブッシング保持部は、前記ブッシングが嵌合する嵌合穴が端面に開口して形成された筒状であり、前記ブッシング保持部の開口側端部の内周面を含む前記嵌合穴の内面が前記ブッシングに弾接しており、前記ブッシング保持部の前記開口側端部が高弾性化されている、電力ケーブル終端接続部を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る電力ケーブル終端接続部によれば、水密性を高めながらも、ブッシングが嵌合する嵌合穴の内面とブッシングの外周面との間に隙間が形成されてしまうことを抑制可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施の形態に係る電力ケーブル終端接続部の断面図である。
【
図2】(a)は、保持筒部の軸方向に対して垂直な方向から見た第3の半導電体の側面図である。(b)は、保持筒部の軸方向に沿って見た第3の半導電体の側面図である。
【
図3】(a)は、ブッシング保持部の部分断面図である。(b)は、ブッシングの外観図である。
【
図5】(a)~(c)は、高弾性体の軸方向の長さを3通りに変更した構成例を示す断面図である。
【
図6】円錐形状部の一部及び円筒形状部を含むブッシングの部分断面図である。
【
図7】横軸を基準点からの延面距離とし、縦軸にブッシングの締め付け力を示すグラフである。
【
図8】第2の実施の形態に係る電力ケーブル終端接続部の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態に係る電力ケーブル終端接続部について、
図1乃至
図7を参照して説明する。
図1は、電力ケーブル終端接続部1の断面図である。電力ケーブル終端接続部1は、例えば鉄道車両の床下に設けられ、回路遮断器と主変圧器との間の電力ケーブル11の終端部を接続対象の導体線12に電気的に接続する。電力ケーブル11は、鉄道車両の主電動機を駆動するための高圧電力を伝送する。
【0012】
電力ケーブル11は、複数の素線110を撚り合わせてなる中心導体111と、中心導体111を被覆する絶縁層112と、絶縁層112の外周を囲むように配置された複数のシールドワイヤ113と、複数のシールドワイヤ113の外周を覆うシース114とを有している。電力ケーブル11は、電力ケーブル終端接続部1に接続される終端部が段剥ぎされている。具体的には、シース114が除去されて複数のシールドワイヤ113及び絶縁層112が露出し、さらに絶縁層112が除去されて中心導体111が露出している。
【0013】
絶縁層112から露出した中心導体111には、圧縮端子10が取り付けられている。圧縮端子10は、中心導体111を圧縮するように加締められた円筒状の加締め部101と、加締め部101と一体に設けられた平板状の接続部102とを有している。加締め部101には、中心導体111を収容する収容穴101aが形成されている。接続部102には、貫通孔102aが形成されている。
【0014】
電力ケーブル終端接続部1は、導体線12が挿通されたブッシング2と、ブッシング2との間に圧縮端子10を挟む位置に配置された絶縁栓3と、電力ケーブル11、ブッシング2、及び絶縁栓3を保持する保持部材4と、絶縁栓3を保護する保護キャップ5と、圧縮端子10と導体線12とを接続するための雄ねじ61、ナット62、及びワッシャ63と、保持部材4に固定された金属製の管状部材7と、管状部材7の内部に水が浸入することを防止する防水処理部8とを備えている。ブッシング2には、その中心部に挿通孔200が形成されており、この挿通孔200に導体線12が挿通されている。
【0015】
導体線12には、ブッシング2に挿通された部分の長手方向の端面12aに開口する雌ねじ120が形成されており、雌ねじ120に雄ねじ61の一方の端部が螺合している。雄ねじ61は、圧縮端子10の接続部102に形成された貫通孔102aに挿通されて絶縁栓3側に突出している。ナット62は、絶縁栓3側に突出した雄ねじ61に螺合しており、ナット62と圧縮端子10の接続部102との間にワッシャ63が介在して配置されている。ナット62は、ワッシャ63を介して圧縮端子10の接続部102を導体線12の端面12aに押し付けている。
【0016】
ブッシング2は、エポキシ樹脂等の硬質な絶縁体からなる。ブッシング2は、部分円錐形の円錐形状部21と、円錐形状部21の最大外径よりも外径が大きい円筒形状部22とを一体に有する段付き形状である。円錐形状部21は、円筒形状部22側の基端部211の外径が最も大きく、圧縮端子10側の先端部212ほど外径が小さくなっている。円筒形状部22は、円筒形状部22よりもさらに大径のベース20の端面20aから導体線12に沿って突出している。円錐形状部21は、平坦な先端面212aを先端部212に有している。円錐形状部22の先端面212aは、ブッシング2における電力ケーブル11と導体線12との接続部側の端面であり、圧縮端子10の接続部102と対向している。
【0017】
絶縁栓3は、モールド成形された絶縁体部31と、絶縁体部31の一方の端部に設けられた高圧電極32と、絶縁体部31の他方の端部に設けられた検電電極33とを備える。高圧電極32には、ナット62の形状に対応した座ぐり穴32a、及び雄ねじ61が螺合する雌ねじ320が形成されている。検電電極33には、ソケットレンチ等の工具の先端部が嵌合する工具嵌合穴33aが形成されている。絶縁体部31は、高圧電極32及び検電電極33と一体にモールド成形されている。
【0018】
保護キャップ5は、半導電性のゴム材からなり、円盤状の底壁51と円筒状の側壁52とを一体に有する有底円筒状に形成されている。底壁51は、絶縁栓3を覆っている。側壁52の内周面52aには、保持部材4への固定のための環状の凸部521が形成されている。
【0019】
管状部材7は、電力ケーブル11の中心導体111及び絶縁層112を挿通させると共に、複数のシールドワイヤ113及びシース114の長手方向の一部を収容している。管状部材7は、例えば黄銅やアルミニウム合金等の高い導電性を有する金属からなる。複数のシールドワイヤ113は、管状部材7の内側でシース114から導出されてシース114の外周に折り返され、シース114の外周面114aと管状部材7の内周面7aとの間から管状部材7の外部に導出されている。
【0020】
管状部材7の外部に導出された複数のシールドワイヤ113は、複数の接続端子71及びボルト72によって管状部材7に電気的に接続されている。また、管状部材7は、ボルト73によって第1のアース線91が接続され、電気的に接地されている。第1のアース線91は、芯線が絶縁体によって被覆された絶縁電線からなるアース線本体911と、アース線本体911の先端部に取り付けられたアース端子912とを有し、アース端子912がボルト73によって管状部材7に固定されている。
【0021】
防水処理部8は、防水テープ81を管状部材7及びシース114の外周に何重にも巻き付け、さらに防水テープ81を熱収縮チューブ82で覆って形成されている。
【0022】
保持部材4は、電力ケーブル11の終端部を保持する電力ケーブル保持部4Aと、ブッシング2を保持するブッシング保持部4Bと、絶縁栓3を保持する絶縁栓保持部4Cとを一体に有し、全体としてT字状に形成されている。電力ケーブル保持部4Aは、電力ケーブル11の長手方向に延在する筒状であり、その中心部に電力ケーブル11の中心導体111及び絶縁層112が差し込まれる差込穴410が直線状に形成されている。ブッシング保持部4Bは、ブッシング2の円錐形状部21及び円筒形状部22を囲む円筒状に成形されている。
【0023】
ブッシング保持部4B及び絶縁栓保持部4Cは、電力ケーブル保持部4Aの延在方向に対して垂直な方向に延在し、導体線12の軸方向に沿って並んでいる。ブッシング保持部4Bと絶縁栓保持部4Cとの間には、圧縮端子10の接続部102が配置されている。ブッシング保持部4Bには、ブッシング2が嵌合する嵌合穴400が、ベース20側の端面40aに開口して形成されている。この端面40aは、嵌合穴400の開口端面に相当する。ブッシング保持部4Bは、導体線12の軸方向へのブッシング2との相対移動が、絶縁栓3における高圧電極32の雌ねじ320が雄ねじ61に螺合することにより規制されている。
【0024】
電力ケーブル終端接続部1の組み立て時には、ブッシング2がブッシング保持部4Bの端面40a側から嵌合穴400に挿入され、嵌合穴400の内面400aがブッシング2に弾接する。ここで、「弾接する」とは、ブッシング2が挿入されることにより嵌合穴400の内径が拡大するようにブッシング保持部4Bが弾性変形し、ブッシング保持部4Bの復元力によって嵌合穴400の内面400aがブッシング2の外周面に隙間なく弾性的に面接触することをいう。
【0025】
また、保持部材4は、ポリマー系材料から形成された絶縁体40と、導電性付与剤を分散させることによって導電性が付与されたポリマー系材料から形成された第1乃至第3の半導電体41~43とを有している。絶縁体40は、保持筒部4A、ブッシング保持部4B、及び絶縁栓保持部4Cにわたって設けられ、第1乃至第3の半導電体41~43と一体に形成されている。第1乃至第3の半導電体41~43は、電力ケーブル1の周囲の電界を緩和する。また、第3の半導電体43は、圧縮端子10や導体線12、ならびに雄ねじ61、ナット62、及びワッシャ63の周囲の電界が外部に漏洩することを抑制する遮蔽機能を有している。
【0026】
絶縁体40及び第1乃至第3の半導電体41~43は、ブッシング2よりも弾性率が低い軟質な材料からなる。ここで、弾性率とは、単位断面積当りの引張り応力と応力方向に生じる伸びとの比によって表される引張弾性率であり、この値が大きいほど材料に伸びが生じにくい。絶縁体40及び第1乃至第3の半導電体41~43のポリマー系材料としては、例えばシリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等を用いることができる。すなわち、本実施の形態では、絶縁体40及び第1乃至第3の半導電体41~43がゴム成形体である。第1乃至第3の半導電体41~43の導電性付与剤としては、例えばカーボンブラック等の導電性の微粉末を用いることができる。
【0027】
絶縁体40は、絶縁体40を成形するための金型内に予め成形された第1乃至第3の半導電体41~43を配置した状態で、この金型のキャビティに溶融したポリマー材を射出することにより形成される。第1乃至第3の半導電体41~43は、このポリマー材の熱により表面の一部が溶融し、絶縁体40と一体化する。
【0028】
第1の半導電体41は、保持筒部4Aの端部からブッシング保持部4B及び絶縁栓保持部4Cにかけて、圧縮端子10を電力ケーブル11の絶縁層112の一部と共に囲っている。第2の半導電体42は、第1の半導電体41と電力ケーブル11の長手方向に並び、第1の半導電体41よりも管状部材7側に配置されている。第2の半導電体42の中心部には、電力ケーブル11の中心導体111及び絶縁層112が挿通されている。
【0029】
図2(a)は、保持筒部4Aの軸方向に対して垂直な方向から見た第3の半導電体43の側面図であり、
図2(b)は、保持筒部4Aの軸方向に沿って見た第3の半導電体43の側面図である。
図2(a)及び(b)では、第3の半導電体43と共に第2のアース線92を示している。
【0030】
第3の半導電体43は、ブッシング保持部4B及び絶縁栓保持部4Cにおける絶縁体40の外周を覆う円筒部431と、圧縮端子10の加締め部101の外周側にあたる絶縁体40の外周を覆う管状部432と、管状部432の外周面432aから突出して形成された一対の突片部433,434とを一体に有している。円筒部431には、保護キャップ5の側壁52の凸部521が係合する環状の凹部430が形成されている。円筒部431の外周面431aは、凹部430が形成された部分を除き、側面視において導体線12と平行な直線状である。
【0031】
一対の突片部433,434は、絶縁体40を成形するための金型に第3の半導電体43を固定するために用いられる。一対の突片部433,434には、それぞれ貫通孔433a,434aが形成されている。また、一対の突片部433,434のうち一方の突片部433には、第2のアース線92が接続され、第3の半導電体43が電気的に接地されている。
【0032】
第2のアース線92は、芯線が絶縁体によって被覆された絶縁電線からなるアース線本体921と、アース線本体921の先端部に取り付けられたアース端子922とを有している。アース端子922は、ボルト64及びナット65によって一方の突片部433に取り付けられている。一方の突片部433の貫通孔433aには、ボルト64のねじ部641が挿通されている。
【0033】
図3(a)は、ブッシング保持部4Bの部分断面図である。
図3(b)は、ブッシング2の外観図である。
図4は、
図1のA-A線における断面図である。
図3(a)では、嵌合穴400にブッシング2が挿入される前の嵌合穴400の内面400aを実線で示し、ブッシング2が挿入されたときの嵌合穴400の内面400aを二点鎖線で示している。この実線と二点鎖線との間が嵌合穴400の内面400aの締め代である。円筒形状部22の外周部の締め代は、円錐形状部21の外周部の締め代よりも小さく形成されていることが望ましい。円筒形状部22の外周部の締め代を円錐形状部21の外周部の締め代よりも小さくすることにより、ブッシング2の外周面と嵌合穴400の内面400aとの間に隙間が発生しにくくなり、この隙間で放電が発生することを抑制できる。
【0034】
図3(b)に示すように、ブッシング2の円錐形状部21の外周面21aと円筒形状部22の外周面22aとの間には、圧縮端子10側を指向する平坦な円環状の段差面22bが形成されている。これらの外周面21a,22a及び段差面22bは、ブッシング2の外面である。円錐形状部21の外周面21aと段差面22bとの間、段差面22bと円筒形状部22の外周面22aとの間、及び円筒形状部22の外周面22aとベース20の端面20aとの間には、それぞれ面取り部R
1,R
2,R
3が形成されている。
【0035】
嵌合穴400の内面400aは、ブッシング2の円筒形状部22の外周面22aに弾接する開口側内周面400bと、円錐形状部21の外周面21aに弾接する奥側内周面400cと、段差面22bに弾接する環状弾接面400dとを有している。嵌合穴400の内面400aは、絶縁体40によって形成され、ブッシング2の外周にあたる絶縁体40の外周側が第3の半導電体43の円筒部431に囲われている。
【0036】
以下、ブッシング保持部4Bにおけるブッシング2の円筒形状部22の外周側にあたる部分を開口側端部401といい、開口側端部401よりも嵌合穴400の奥側でブッシング2の円錐形状部21の外周側にあたる部分を奥側胴部402という。開口側端部401は、ブッシング2の円錐形状部21と円筒形状部22との外径の差に応じて、奥側胴部402よりも薄肉に形成されている。
図4では、開口側端部401における電力ケーブル終端接続部1の断面を示している。
【0037】
開口側内周面400bは、開口側端部401の内周面である。奥側内周面400cは、奥側胴部402の内周面である。つまり、
図1に示すように電力ケーブル終端接続部1が組み立てられた状態では、ブッシング保持部4Bの開口側端部401の内周面(開口側内周面400b)及び奥側胴部402の内周面(奥側内周面400c)を含む嵌合穴400の内面400aが、ブッシング2の外面(外周面21a,22a及び段差面22b)に弾接している。
【0038】
電力ケーブル終端接続部1は、嵌合穴400の内面400aとブッシング2との間から電力ケーブル11と導体線12との接続部側に水分が浸入することがないよう、高い水密性が確保されていることが望ましい。また、嵌合穴400の内面400aとブッシング2との間に隙間があると、この隙間で放電が発生するおそれがあるので、嵌合穴400の内面400aがブッシング2に隙間なく接していることが望ましい。
【0039】
一方、ブッシング保持部4Bは、開口側端部401の厚みが奥側胴部402の厚みよりも薄いので、特に開口側端部401において締め代を確保しにくく、ブッシング2を締め付ける締め付け力(ブッシング2の外面に作用する面圧)も確保しにくい。そこで、本実施の形態では、ブッシング保持部4Bの開口側端部401が奥側胴部402よりも高弾性化されている。ここで、高弾性とは、具体的には内径が拡径しにくいことをいい、高弾性化は高剛性化と換言することもできる。つまり、開口側端部401を所定量拡径させるためには、奥側胴部402を同量拡径させる場合よりも大きな力が必要となる。
【0040】
本実施の形態では、ブッシング保持部4Bが高弾性体44を有しており、この高弾性体44によって開口側端部401が高弾性化されている。高弾性体44は、
図4に示すように、開口側端部401の全周にわたって環状に形成されている。また、高弾性体44は、ブッシング保持部4Bにおける第3の半導電体43の円筒部431に埋め込まれている。本実施の形態では、高弾性体44が無端帯状である。
【0041】
なお、高弾性体44は、開口側端部401における絶縁体40に埋め込まれていてもよく、開口側端部401における絶縁体40と第3の半導電体43の円筒部431との間に埋め込まれていてもよい。また、高弾性体44は、必ずしも一体の環状に形成されていなくてもよく、例えば円弧状に分割された複数の分割片を開口側端部401の周方向に並べて全体として環状となるように配置されていてもよい。またさらに、高弾性体44は、無端帯状に限らず、例えば線材がコイル状に巻かれた構成であってもよい。
【0042】
高弾性体44は、その弾性率が絶縁体40や第3の半導電体43の弾性率よりも高い材料からなる。ここで、高弾性体44の弾性率は、引張弾性率であり、JISK7113等に準拠する引張試験における引張応力と引張ひずみとの関係から求められる。本実施の形態では、高弾性体44が円筒状のプラスチック製である。高弾性体44の弾性率は、例えば10MPa以上100MPa以下である。一方、絶縁体40及び第3の半導電体43の弾性率は、例えば1.3MPaである。この場合、高弾性体44の弾性率は、絶縁体40及び第3の半導電体43の弾性率の7.7倍以上77倍以下となる。なお、高弾性体44を導電性プラスチックにより形成し、アース線を高弾性体44に接続して電気的に接地してもよい。
【0043】
本実施の形態では、高弾性体44の軸方向の一方の端面44aが第3の半導電体43における円筒部431の端面431aに露出している。この構成により、第3の半導電体43を射出成形する際、この射出成形に用いる金型に高弾性体44を保持しやすくなる。高弾性体44の端面44aは、その後に行われる絶縁体40の成形時において絶縁体40に覆われ、高弾性体44の全体がブッシング保持部4Bに覆われる。
【0044】
開口側端部401の高弾性化により、開口側端部401における締め代が奥側胴部402における締め代よりも少なくても、開口側内周面400bを奥側内周面400cと同程度の締め付け力でブッシング2に押し付けることができ、高い水密性が確保されている。また、開口側端部401における締め代が奥側胴部402における締め代より少ないことにより、嵌合穴400にブッシング2を嵌合させたときの開口側端部401の変形量が小さく、奥側内周面400cと円錐形状部21の外周面21aとの間における隙間の発生を抑制することができる。
【0045】
つまり、嵌合穴400にブッシング2を嵌合させたときに開口側端部401が大きく拡径すると、これに連れて奥側胴部402が拡径してしまい、特に円錐形状部21の基端部211における外周面21aと奥側内周面400cとの間に隙間ができやすくなるが、本実施の形態では、開口側端部401が高弾性化されていることにより、このような隙間の発生を抑制することができる。
【0046】
高弾性体44の軸方向の他方の端面44bは、嵌合穴40の軸方向において環状弾接面400dと同位置もしくは奥側胴部402に位置していることが望ましい。これにより、開口側端部401の高弾性化による効果を十分に発揮することができる。
【0047】
次に、
図5乃至7を参照し、高弾性体44の軸方向の長さ及び弾性率を変えて、ブッシング保持部4Bがブッシング2を締め付ける締め付け力(ブッシング保持部4Bに発生する応力)を、パターン1~5及び高弾性体44を有しないパターン6の6通りについて評価した結果を説明する。
【0048】
図5(a)は、高弾性体44の軸方向の長さがL
1であり、高弾性体44の端面44bが嵌合穴40の軸方向において環状弾接面400dと同位置にある構成例を示す断面図である。
図5(b)は、高弾性体44の軸方向の長さL
2がL
1の1.5倍であり、高弾性体44の端面44bを含む軸方向の一部が奥側胴部402に配置された構成例を示す断面図である。
図5(c)は、高弾性体44の軸方向の長さL
3がL
1の3倍であり、高弾性体44の端面44bを含む軸方向の一部が
図5(b)の構成例のさらに奥側に配置された構成例を示す断面図である。長さL
1は、一例として10mmである。また、
図5(a)~(c)に示す高弾性体44の径方向の厚さは、一例として0.5mmである。
【0049】
表1に、パターン1~6のそれぞれについて、高弾性体44の軸方向の長さと弾性率を示す。
【表1】
【0050】
図6は、円錐形状部21の一部及び円筒形状部22を含むブッシング2の部分断面図である。
図6に示す点P
0は、ベース20の端面20aと面取り部R
3との境界点である。点P
1は、面取り部R
3と円筒形状部22の外周面22との境界点である。点P
2は、円筒形状部22の外周面22と面取り部R
2との境界点である。点P
3は、面取り部R
2と段差面22bとの境界点である。点P
4は、段差面22bと面取り部R
1との境界点である。点P
5は、面取り部R
1と円錐形状部21の外周面21aの境界点である。
【0051】
点P0は、ベース20からのブッシング2の円筒形状部22の立設の起点となる基準点である。点P0から点P1までの延面距離、点P0から点P2までの延面距離、点P0から点P5までの延面距離は、一例として、それぞれ5mm、10mm、21mmである。なお、ブッシング2の軸方向における円筒形状部22の長さL4は、一例として11mmである。
【0052】
図7は、横軸を点P
0からの延面距離とし、縦軸にブッシング2の締め付け力を示すグラフである。縦軸は、ブッシング2を締め付ける方向の力を-(マイナス)で示している。高い水密性を確保しつつ、嵌合穴400の内面400aとブッシング2との間における隙間の発生を抑制するためには、円筒形状部22の外周面22aに作用する締め付け力と円錐形状部21の外周面21aに作用する締め付け力との差が大きすぎないことが望ましい。より具体的には、点P
5において円錐形状部21の外周面21aに作用する締め付け力をF
1とし、点P
2において円筒形状部22の外周面22aに作用する締め付け力をF
2としたとき、F
2/F
1の値が0.5以上1.2以下であることが望ましい。
【0053】
高弾性体44の弾性率は、10MPa以上100MPa以下であるとよい。高弾性体44の弾性率が10MPa未満であると、円筒形状部22の外周面22aに作用する締め付け力が十分ではなく、高弾性体44の弾性率が1000MPaを超えると、締め付け力が大きすぎて嵌合穴400にブッシング2を挿入しにくくなるためである。また、高弾性体44の弾性率を10MPa以上100MPa以下とすることにより、
図7に示すようにF
2/F
1の値が0.5以上1.2以下となり、高い水密性を確保することができる。
【0054】
なお、高弾性体44の軸方向の長さがL1よりも短く、嵌合穴400の軸方向における高弾性体44の端面44bの位置が円筒形状部22の外周面22aとブッシング2の径方向に並ぶ位置であってもよい。この場合でも、高弾性体44によって高弾性化された開口側端部401の一部において高い水密性を確保することができる。つまり、ブッシング保持部4Bは、円筒形状部22の外周側にあたる開口側端部401の少なくとも一部が高弾性化されていればよい。
【0055】
高弾性体44の軸方向の長さは、ブッシング2の軸方向における円筒形状部22の長さの0.8倍以上1.5倍以下であるとよい。円筒形状部22の長さに対する高弾性体44の軸方向の長さが短すぎると水密性を高める効果が必ずしも十分ではなく、高弾性体44の軸方向の長さが円筒形状部22の長さに対して長すぎると、円筒形状部22以外の部分への影響が大きくなるためである。
【0056】
[第2の実施の形態]
次に、
図8を参照し、第2の実施の形態に係る電力ケーブル終端接続部について説明する。第1の実施の形態では、ブッシング保持部4Bに埋め込まれた高弾性体44によって開口側端部401が高弾性化された場合について説明したが、第2の実施の形態では、弾性率が異なるゴム材料を用いることにより開口側端部401を高弾性化する。
【0057】
図8は、第2の実施の形態に係る電力ケーブル終端接続部の一部を示す断面図である。この構成例では、開口側端部401における第3の半導電体43の円筒部431及び弾性体40に、奥側胴部402のゴム材料よりも弾性率(引張弾性率)が高い高弾性率のゴム材料を用いている。
図8では、第3の半導電体43の円筒部431において高弾性率のゴム材料が用いられた高弾性部43A、及び絶縁体40において高弾性率のゴム材料が用いられた高弾性部40Aをグレーの網掛けで示している。高弾性部40A,43Aを構成するゴム材料の引張弾性率と、奥側胴部402の絶縁体40を構成するゴム材料の引張弾性率との比は、1よりも大きい。第2の実施の形態に係る電力ケーブル終端接続部のその他の構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0058】
このような高弾性部43Aを有する第3の半導電体43は、例えば第3の半導電体43を成形するための金型内に高弾性部43Aとなるポリマー材を注入した後に、第3の半導電体43の他の部分となるポリマー材を注入することにより成形することができる。高弾性部40Aを有する絶縁体40の成形方法についても同様である。なお、第3の半導電体43が高弾性部43Aを有していれば、絶縁体40が高弾性部40Aを有していなくてもよい。また、絶縁体40が高弾性部40Aを有していれば、第3の半導電体43が高弾性部43Aを有していなくてもよい。
【0059】
このように、第2の実施の形態では、ブッシング保持部4Bの開口側端部401の少なくとも一部のゴム材料の弾性率(引張弾性率)が他の部分のゴム材料の弾性率(引張弾性率)よりも高いことにより、開口側端部401が高弾性化されている。これにより、第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。なお、高弾性部40A,43Aとしては、ゴム材料を構成する樹脂組成物のベース樹脂に添加剤を添加するなどして引張弾性率を高めたゴム材料を用いることができる。
【0060】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した第1及び第2の実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0061】
[1]電力ケーブル(11)の終端部が接続対象の導体線(12)に電気的に接続された電力ケーブル終端接続部(1)であって、前記導体線(12)が挿通されたブッシング(2)と、前記電力ケーブル(11)の前記終端部を保持する電力ケーブル保持部(4A)と前記ブッシングを保持するブッシング保持部(4B)とを一体に有する保持部材(4)と、を備え、前記ブッシング保持部(4B)は、前記ブッシング(2)が嵌合する嵌合穴(400)が端面(40a)に開口して形成された筒状であり、前記ブッシング保持部(4B)の開口側端部(401)の内周面(400b)を含む前記嵌合穴(400)の内面(400a)が前記ブッシング(2)に弾接しており、前記ブッシング保持部(4B)の前記開口側端部(401)が高弾性化されている、電力ケーブル終端接続部(1)。
【0062】
[2]前記ブッシング(2)は、前記電力ケーブル(11)との接続部側ほど外径が小さくなる円錐形状部(21)、及び前記円錐形状部(21)の最大外径よりも外径が大きい円筒形状部(22)を有し、前記ブッシング保持部(4B)は、前記円筒形状部(22)の外周側にあたる前記開口側端部(401)の少なくとも一部が高弾性化されている、上記[1]に記載の電力ケーブル終端接続部(1)。
【0063】
[3]前記ブッシング保持部(4B)は、前記ブッシング(2)の前記円錐形状部(21)及び前記円筒形状部(22)を囲むように成形されたゴム成形体(第3の半導電体43及び絶縁体40)と、前記ゴム成形体(43,40)に埋め込まれた高弾性体(44)とを有し、前記高弾性体(44)の弾性率が前記ゴム成形体(43,40)の弾性率よりも高く、前記高弾性体(44)によって前記ブッシング保持部(4B)の前記開口側端部(401)が高弾性化されている、上記[2]に記載の電力ケーブル終端接続部(1)。
【0064】
[4]前記高弾性体(44)が前記開口側端部(401)の全周にわたって環状に形成されている、上記[3]に記載の電力ケーブル終端接続部(1)。
【0065】
[5]前記ブッシング保持部(4B)は、前記開口側端部(401)の少なくとも一部のゴム材料の弾性率が他の部分のゴム材料の弾性率よりも高い、上記[1]又は[2]に記載の電力ケーブル終端接続部(1)。
【0066】
以上、本発明の第1及び第2の実施の形態を説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0067】
1…電力ケーブル終端接続部 11…電力ケーブル
12…導体線 2…ブッシング
21…円錐形状部 22…円筒形状部
4…保持部材 40…絶縁体(ゴム成形体)
400…嵌合穴 400a…端面
400a…内面 400b…内周面
401…開口側端部 43…第3の半導電体(ゴム成形体)
44…高弾性体 4A…電力ケーブル保持部
4B…ブッシング保持部