(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010007
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】異常血管新生の治療剤または予防剤、および、その利用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20250109BHJP
A61K 31/444 20060101ALI20250109BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20250109BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250109BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20250109BHJP
A61P 27/10 20060101ALI20250109BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20250109BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/444
A61P27/02
A61P35/00
A61P27/06
A61P27/10
A61P9/00
A61P9/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024104185
(22)【出願日】2024-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2023106383
(32)【優先日】2023-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】沖 昌也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼村 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】稲谷 大
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝禎
(72)【発明者】
【氏名】山下 泰信
(72)【発明者】
【氏名】秋山 敏毅
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】高田 悠里
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084MA55
4C084MA58
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA361
4C084ZA391
4C084ZB261
4C084ZC202
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA55
4C086MA58
4C086NA14
4C086ZA33
4C086ZA36
4C086ZA39
4C086ZB26
4C086ZC20
(57)【要約】
【課題】新たな異常血管新生の治療剤または予防剤、および、その利用を提供する。
【解決手段】リシンデメチラーゼ3A阻害剤を有効成分として含有する、異常血管新生の治療剤または予防剤を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リシンデメチラーゼ3A阻害剤を有効成分として含有する、異常血管新生の治療剤または予防剤。
【請求項2】
上記リシンデメチラーゼ3A阻害剤は、下記化学式1にて示される化合物、その誘導体、または、その塩である、請求項1に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤;
【化1】
〔化学式1中、Rは水素または任意の有機基である〕。
【請求項3】
上記Rは、水素、アルキル基、アリール基、複素環基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アルキニル基、フルオロアルキニル基、アルコキシル基、フルオロアルコキシル基、アセチル基、カルボキシアルキル基、または、アルキルアミド基である、請求項1に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤。
【請求項4】
上記異常血管新生は、虚血領域の形成、および/または、異常血管の形成である、請求項1に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤。
【請求項5】
上記異常血管新生は、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫、病的近視、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、または、血管新生緑内障、に伴う異常血管新生である、請求項1~4の何れか1項に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤。
【請求項6】
異常血管新生の治療剤または予防剤を製造するための、リシンデメチラーゼ3A阻害剤の使用。
【請求項7】
下記化学式1にて示される化合物、その誘導体、または、その塩;
【化2】
〔化学式1中、Rは水素または任意の有機基である〕。
【請求項8】
上記Rは、水素、アルキル基、アリール基、複素環基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アルキニル基、フルオロアルキニル基、アルコキシル基、フルオロアルコキシル基、アセチル基、カルボキシアルキル基、または、アルキルアミド基である、請求項7に記載の化合物、その誘導体、または、その塩。
【請求項9】
リシンデメチラーゼ3Aタンパク質と異常血管新生の治療剤または予防剤の候補物質とを接触させる、接触工程と、
上記接触工程の後で、上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の活性を測定する測定工程と、
上記測定工程にて測定された上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の活性と、対照活性とを比較することによって、上記候補物質が異常血管新生の治療剤または予防剤であるか否かを判定する判定工程と、を有する、異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項10】
上記測定工程は、
上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質と、上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の基質ペプチドが結合している、励起性または発光性のドナービーズと、を接触させて、上記基質ペプチドを反応生成物へ変換する変換工程と、
上記反応生成物が結合しているドナービーズと、上記反応生成物に対して結合性を有する物質が結合している、発光性または励起性のアクセプタービーズと、を接触させて、上記ドナービーズと上記アクセプタービーズとを接近させる接近工程と、
上記ドナービーズおよび上記アクセプタービーズの一方は励起性であり他方は発光性であり、上記ドナービーズと上記アクセプタービーズとの接近によって、上記ドナービーズまたは上記アクセプタービーズから生じる光を、検出する検出工程と、を有する、請求項9に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項11】
上記判定工程の後に、上記候補物質を異常血管新生モデル動物に投与する投与工程を有する、請求項9に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項12】
上記異常血管新生モデル動物は、OIRモデルマウス、RVO(Retinal Vein Occlusion)モデルマウス、または、RVOモデルウサギである、請求項11に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常血管新生の治療剤または予防剤、および、その利用に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生は、生体内において、生理的状況下および病的状況下の両方において生じ得る。生理的状況下では、例えば、胎児期の組織(例えば、網膜)において正常血管新生が生じ、これによって正常な組織が形成される。一方、病的状況下では、例えば、疾患(例えば、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫、病的近視、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、および、血管新生緑内障)の患部において異常血管新生が生じ、これによって疾患が発症または悪化する。
【0003】
異常血管新生としては、例えば、虚血領域の形成(換言すれば、血管が形成されない領域の形成)、および、異常血管の形成(換言すれば、無秩序に走行する血管の形成)を挙げることができる。
【0004】
虚血領域の形成と、異常血管の形成とは、単独で発生する場合もあれば、組み合わさって発生する場合もある。例えば、加齢黄斑変性、および、病的近視などにおいては、異常血管の形成が単独で発生する。一方、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、および、血管新生緑内障などにおいては、まず虚血領域が形成され、その後に異常血管が形成される。
【0005】
異常血管新生の治療剤として、現在、抗VEGF薬が用いられている(例えば、非特許文献1および2参照)。非特許文献1および2には、アフリベルセプト、ベバシズマブ、ラニビズマブ、および、ファリシマブを糖尿病黄斑浮腫の治療に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】N Eng J Med., 2015 March 26; 372(13): 1193-1203, "Aflibercept, Bevacizumab, or Ranibizumab for Diabetic Macular Edema"
【非特許文献2】Charles C Wykoff et al., Lancet., 2022 Feb 19; 399(10326): 741-755, "Efficacy, durability, and safety of intravitreal faricimab with extended dosing up to every 16 weeks in patients with diabetic macular oedema(YOSEMITE and RHINE): two randomised, double-masked, phase 3 trials"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来技術は、異常血管新生の治療効果が十分ではないという問題点を有している。
【0008】
例えば、上述のような従来技術は、(i)異常血管新生を一時的に減少させる効果しかないため、頻回投与が必要になる懸念がある、(ii)正常血管新生、および、異常血管新生の両方に影響を与えるため、副作用の懸念がある、(iii)抗VEGF薬は血管新生を抑制するものであるため、虚血領域の形成に対する十分な治療効果が得られない懸念がある、などの点において改善の余地がある。
【0009】
本発明の一態様は、新たな異常血管新生の治療剤または予防剤、および、その利用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、以下である:
〔1〕リシンデメチラーゼ3A阻害剤を有効成分として含有する、異常血管新生の治療剤または予防剤。
【0011】
〔2〕上記リシンデメチラーゼ3A阻害剤は、下記化学式1にて示される化合物、その誘導体、または、その塩である、〔1〕に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤;
【0012】
【0013】
〔化学式1中、Rは水素または任意の有機基である〕。
【0014】
〔3〕上記Rは、水素、アルキル基、アリール基、複素環基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アルキニル基、フルオロアルキニル基、アルコキシル基、フルオロアルコキシル基、アセチル基、カルボキシアルキル基、または、アルキルアミド基である、〔1〕に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤。
【0015】
〔4〕上記異常血管新生は、虚血領域の形成、および/または、異常血管の形成である、〔1〕に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤。
【0016】
〔5〕上記異常血管新生は、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫、病的近視、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、または、血管新生緑内障、に伴う異常血管新生である、〔1〕~〔4〕の何れかに記載の異常血管新生の治療剤または予防剤。
【0017】
〔6〕異常血管新生の治療剤または予防剤を製造するための、リシンデメチラーゼ3A阻害剤の使用。
【0018】
〔7〕下記化学式1にて示される化合物、その誘導体、または、その塩;
【0019】
【0020】
〔化学式1中、Rは水素または任意の有機基である〕。
【0021】
〔8〕上記Rは、水素、アルキル基、アリール基、複素環基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アルキニル基、フルオロアルキニル基、アルコキシル基、フルオロアルコキシル基、アセチル基、カルボキシアルキル基、または、アルキルアミド基である、〔7〕に記載の化合物、その誘導体、または、その塩。
【0022】
〔9〕リシンデメチラーゼ3Aタンパク質と異常血管新生の治療剤または予防剤の候補物質とを接触させる、接触工程と、
上記接触工程の後で、上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の活性を測定する測定工程と、
上記測定工程にて測定された上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の活性と、対照活性とを比較することによって、上記候補物質が異常血管新生の治療剤または予防剤であるか否かを判定する判定工程と、を有する、異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【0023】
〔10〕上記測定工程は、
上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質と、上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の基質ペプチドが結合している、励起性または発光性のドナービーズと、を接触させて、上記基質ペプチドを反応生成物へ変換する変換工程と、
上記反応生成物が結合しているドナービーズと、上記反応生成物に対して結合性を有する物質が結合している、発光性または励起性のアクセプタービーズと、を接触させて、上記ドナービーズと上記アクセプタービーズとを接近させる接近工程と、
上記ドナービーズおよび上記アクセプタービーズの一方は励起性であり他方は発光性であり、上記ドナービーズと上記アクセプタービーズとの接近によって、上記ドナービーズまたは上記アクセプタービーズから生じる光、を検出する検出工程と、を有する、〔10〕に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【0024】
〔11〕上記判定工程の後に、上記候補物質を異常血管新生モデル動物に投与する投与工程を有する、〔9〕に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【0025】
〔12〕上記異常血管新生モデル動物は、OIRモデルマウス、RVO(Retinal Vein Occlusion)モデルマウス、または、RVOモデルウサギである、〔11〕に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様によれば、新たな異常血管新生の治療剤または予防剤、および、その利用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】101は、本発明の実施例に係るTAB047のリシンデメチラーゼ3Aに対する阻害活性を示すグラフであり、102は、本発明の実施例に係るTAB050のリシンデメチラーゼ3Aに対する阻害活性を示すグラフである。
【
図2】201は、本発明の実施例に係るTAB047の異常血管新生の治療効果および予防効果を示す像であり、202は、本発明の実施例に係るTAB047の異常血管新生の治療効果および予防効果を示すグラフである。
【
図3】301は、本発明の実施例に係るTAB050の異常血管新生の治療効果および予防効果を示す像であり、302および303は、本発明の実施例に係るTAB050の異常血管新生の治療効果および予防効果を示すグラフである。
【
図4】401は、本発明の実施例に係るTAB047の代謝安定性試験の結果を示すグラフであり、402は、本発明の実施例に係るTAB047の塩酸塩の代謝安定性試験の結果を示すグラフである。
【
図5】501は、本発明の実施例に係るTAB050の代謝安定性試験の結果を示すグラフであり、502は、本発明の実施例に係るTAB050の塩酸塩の代謝安定性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0029】
本発明は、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「すべての人に健康と福祉を」等の達成にも貢献することができる。
【0030】
〔1.本発明の技術思想〕
生体内では、生理的状況下では正常血管新生が生じ、病的状況下では異常血管新生が生じる。正常な生体を形成するためには、正常血管新生を生じさせつつ、異常血管新生を抑制する必要がある。
【0031】
本発明者は、異常血管新生を生じさせる病的状況を、正常血管新生を生じさせる生理的状況へ戻すことができる物質こそが、新たな異常血管新生の治療剤または予防剤として有用であるとの独自の仮説の下、研究を進めた。
【0032】
具体的に、本発明者は、エピジェネティックな発現制御を受ける遺伝子の発現を制御するタンパク質を標的とする物質が、異常血管新生を生じさせる病的状況を、正常血管新生を生じさせる生理的状況へ戻すことができる物質であるとの独自の仮説の下、新たな異常血管新生の治療剤および予防剤の候補物質をスクリーニングした。
【0033】
エピジェネティックな発現制御を受ける遺伝子の発現を制御するタンパク質としては、現在までに数多くのタンパク質が知られている。本発明者は、これらのタンパク質の中でも特にリシンデメチラーゼ3Aの活性を阻害する物質が、新たな異常血管新生の治療剤および予防剤として有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0034】
〔2.異常血管新生の治療剤または予防剤〕
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、リシンデメチラーゼ3A阻害剤を有効成分として含有する。
【0035】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、(i)異常血管新生を根本的に治療または予防する効果を有するため、頻回投与の懸念がない、(ii)正常な血管新生に影響を与えないため、副作用の懸念がない、(iii)抗VEGF薬のような血管新生を抑制するものではないため、虚血領域の形成に対する十分な治療効果を有する、という利点を有する。
【0036】
リシンデメチラーゼ3Aは、ヒストンに含まれる特定のリジン残基のメチル基を脱メチル化する酵素である。当該脱メチル化によって、DNAとヒストンとによって形成されているクロマチン構造が部分的に緩み、ヒストンが脱メチル化された部位近傍の遺伝子が発現し易くなる。リシンデメチラーゼ3A阻害剤は、上述の過程を阻害することにより、特定の遺伝子の発現を抑制する効果を生じる。したがって、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、エピジェネティックな発現制御を受ける遺伝子の発現に作用していると考えられる。
【0037】
本明細書において「治療剤」とは、治療効果をもたらす薬剤を意図する。上記治療効果とは、以下に例示される効果を意図するが、これらに限定されるものではない。
【0038】
(1)治療剤を投与しなかった場合と比較して、異常血管新生の重症度を低減する。
【0039】
(2)治療剤を投与しなかった場合と比較して、異常血管新生の重症度の増加、または進行を防止する。
【0040】
(3)治療剤を投与しなかった場合と比較して、異常血管新生の重症度の増加速度、または進行速度を低減する。
【0041】
本明細書において「予防剤」とは、予防効果をもたらす薬剤を意図する。上記予防効果とは、以下に例示される効果を意図するが、これらに限定されるものではない。
【0042】
(1)予防剤を投与しなかった場合と比較して、異常血管新生の発生を防止する、またはリスクを低減する。
【0043】
(2)予防剤を投与しなかった場合と比較して、異常血管新生の再発を防止する、またはリスクを低減する。
【0044】
(3)予防剤を投与しなかった場合と比較して、異常血管新生の兆候が生じることを防止する、またはリスクを低減する。
【0045】
なお、上記異常血管新生は、全身的なものであってもよいし、局所的なものであってもよい。
【0046】
上記リシンデメチラーゼ3A阻害剤は、核酸(例えば、DNA、RNA、または、アンチセンスRNA)、タンパク質(例えば、抗体)、高分子化合物、または、低分子化合物であり得る。
【0047】
上記リシンデメチラーゼ3A阻害剤は、下記化学式1にて示される化合物、その誘導体、または、その塩であることが好ましい。当該構成であれば、異常血管新生を効果的に治療または予防することができる。
【0048】
【0049】
〔化学式1中、Rは水素または任意の有機基である〕。
【0050】
上記Rは、水素、アルキル基、アリール基、複素環基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アルキニル基、フルオロアルキニル基、アルコキシル基、フルオロアルコキシル基、アセチル基、カルボキシアルキル基、または、アルキルアミド基であることが好ましい。当該構成であれば、異常血管新生を効果的に治療または予防することができる。
【0051】
上記Rが水素以外である場合、当該Rは、例えば、炭素原子を1~50個、1~40個、1~30個、1~20個、1~15個、1~10個、1~5個、または、1~3個有するものであり得る。
【0052】
上記Rが炭素以外の原子を含有する場合、当該原子は、例えば、N、O、S、B、Si、P、F、Cl、Br、および/または、Iであり得る。なお、上記Rに含有されるこれらの原子の数は、限定されず、例えば、合計1~10個、合計1~5個、または、1~3個であり得る。
【0053】
上記Rがアルキル基である場合、当該アルキル基は、直鎖状のアルキル基であってもよいし、分岐状のアルキル基であってもよい。例えば、当該アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、または、シクロペンチル基であり得る。
【0054】
後述する実施例から明らかなように、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、Rを適宜選択することによって、膜透過性(換言すれば、生体吸収性)、および、代謝安定性を所望の性質に調節することができる。
【0055】
膜透過性(換言すれば、生体吸収性)が高い治療剤または予防剤は、高い治療効果を有するという利点を有する。一方、代謝安定性が高い治療剤または予防剤は、薬理効果が持続するという利点を有する。
【0056】
例えば、脂溶性の官能基をRとして選択すれば、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤の膜透過性(換言すれば、生体吸収性)を高めることができる。このようなRとしては、例えば、水素以外の官能基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、および、シクロペンチル基)を挙げることができる。
【0057】
上記誘導体および塩は、リシンデメチラーゼ3Aに対する阻害活性を有するものであればよく、その構造は限定されない。特定の物質がリシンデメチラーゼ3Aに対する阻害活性を有するか否かは、公知の方法にしたがって判断することができる。例えば、特定の物質とリシンデメチラーゼ3Aとを混合した後、当該リシンデメチラーゼ3Aによってヒストンに含まれる特定のリジン残基のメチル基が脱メチル化されるか否かを調べればよい。当該試験において、リシンデメチラーゼ3Aによって、ヒストンに含まれる特定のリジン残基のメチル基が脱メチル化されていなければ、当該特定の物質はリシンデメチラーゼ3Aに対する阻害活性を有するものであると判断することができる。
【0058】
本明細書において、「誘導体」とは、特定の化合物に対して、当該化合物の分子内の一部が、他の官能基または他の原子と置換されることにより生じる化合物群を意図する。
【0059】
上記他の官能基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アリル基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルフォニルオキシ基、アルキルスルフォニルオキシ基、ニトロ基などが挙げられる。上記他の原子の例としては、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0060】
本明細書において、「塩」とは、医薬品として被験体に投与することが生理学的に許容されうる塩であればよく、限定されない。上記塩の例としては、アルカリ金属塩(カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)、アンモニウム塩、有機塩基塩(トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩など)、有機酸塩(酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、蟻酸塩、トルエンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩など)、無機酸塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、燐酸塩など)などが挙げられる。
【0061】
上記異常血管新生の種類は、限定されない。上記異常血管新生は、虚血領域の形成(換言すれば、血管が形成されない領域の形成)、および/または、異常血管の形成(換言すれば、無秩序に走行する血管の形成)であり得る。上記異常血管新生は、虚血領域の形成を含む異常血管新生であってもよいし、異常血管の形成を含む異常血管新生であってもよいし、虚血領域の形成および異常血管の形成の両方を含む異常血管新生であってもよい。
【0062】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、従来の抗VEGF薬とは全く異なる作用機序を用いる薬であって、血管新生を抑制しない。それ故に、後述する実施例にも示すように、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、異常血管の形成のみならず、虚血領域の形成をも、治療および予防することができる。
【0063】
上記異常血管新生が発生する疾患は、限定されない。上記異常血管新生は、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫、病的近視、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、または、血管新生緑内障、に伴う異常血管新生であり得る。上記異常血管新生は、虚血領域の形成を伴う、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、または、血管新生緑内障に伴う異常血管新生であり得る。上記異常血管新生は、異常血管の形成を伴い、かつ、虚血領域の形成を伴わない、加齢黄斑変性、または、病的近視に伴う異常血管新生であり得る。
【0064】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、上述した疾患に伴う異常血管新生を治療または予防することができる。更に、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、上述した疾患に起因する、血管透過性の亢進、および、虚血を治療または予防することができる。
【0065】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、任意の投与経路によって被験体に投与され得る。上記投与経路の例としては、非経口投与(例えば、点眼投与、結膜能内投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与、腹腔内投与)、経口投与、経皮投与、経粘膜投与、経静脈投与が挙げられる。したがって、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤の剤型は、点眼剤、内服薬、外用薬、注射剤、吸入剤、点眼剤などであり得る。
【0066】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤に含有される有効成分の量は、特に限定されず、例えば、治療剤および予防剤を100質量%とした場合に、0.00001質量%~100質量%であってもよく、0.0001質量%~100質量%であってもよく、0.001質量%~100質量%であってもよく、0.01質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~95質量%であってもよく、0.1質量%~90質量%であってもよく、0.1質量%~80質量%であってもよく、0.1質量%~70質量%であってもよく、0.1質量%~60質量%であってもよく、0.1質量%~50質量%であってもよく、0.1質量%~40質量%であってもよく、0.1質量%~30質量%であってもよく、0.1質量%~20質量%であってもよく、0.1質量%~10質量%であってもよい。
【0067】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤が液体状である場合、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤に含有される有効成分の量は、特に限定されず、例えば、1μM~100mMであってもよく、10μM~100mMであってもよく、100μm~100mMであってもよく、1mM~100mMであってもよく、1mM~10mMであってもよい。
【0068】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、上述した有効成分以外の成分を含有していてもよい。
【0069】
上記有効成分以外の成分は、特に限定されず、例えば、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、高分子量重合体、賦形剤、溶媒、抗菌剤などであり得る。
【0070】
上記緩衝剤としては、例えば、リン酸またはリン酸塩、ホウ酸またはホウ酸塩、クエン酸またはクエン酸塩、酢酸または酢酸塩、炭酸または炭酸塩、酒石酸または酒石酸塩、ε-アミノカプロン酸、トロメタモールが挙げられる。上記リン酸塩としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムが挙げられる。上記ホウ酸塩としては、例えば、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムが挙げられる。上記クエン酸塩としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウムが挙げられる。上記酢酸塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが挙げられる。上記炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。上記酒石酸塩としては、例えば、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウムが挙げられる。
【0071】
上記pH調整剤としては、例えば、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
【0072】
上記等張化剤としては、例えば、イオン性等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム)、非イオン性等張化剤(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール)が挙げられる。
【0073】
上記防腐剤としては、例えば、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム臭化物、ベンゼトニウム塩化物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノールが挙げられる。
【0074】
上記抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、トコフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0075】
上記高分子量重合体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、アテロコラーゲンが挙げられる。
【0076】
上記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、デンプン、結晶セルロースが挙げられる。
【0077】
上記溶媒としては、例えば、水、生理的食塩水、アルコールが挙げられる。
【0078】
上記抗菌剤としては、例えば、β-ラクタム系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、リンコマイシン系、クロラムフェニコール系、マクロライド系、ケトライド系、ポリペプチド系、グリコペプチド系の抗生物質;ピリドンカルボン酸(キノロン)系、ニューキノロン系、オキサゾリジノン系、サルファ剤系の合成抗菌薬が挙げられる。
【0079】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤に含有される有効成分以外の成分の量は、特に限定されず、例えば、治療剤および予防剤を100質量%とした場合に、0質量%~99.99999質量%であってもよく、0質量%~99.9999質量%であってもよく、0質量%~99.999質量%であってもよく、0質量%~99.99質量%であってもよく、0質量%~99.9質量%であってもよく、5質量%~99.9質量%であってもよく、10質量%~99.9質量%であってもよく、20質量%~99.9質量%であってもよく、30質量%~99.9質量%であってもよく、40質量%~99.9質量%であってもよく、50質量%~99.9質量%であってもよく、60質量%~99.9質量%であってもよく、70質量%~99.9質量%であってもよく、80質量%~99.9質量%であってもよく、90質量%~99.9質量%であってもよい。
【0080】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤の投与間隔は、限定されず、例えば、12時間に1回、1日間に1回、2日間に1回、3日間に1回、4日間に1回、5日間に1回、投与され得る。本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤の投与期間は、限定されず、例えば、3日間、5日間、7日間、10日間、15日間、または、30日間であり得る。本発明の一実施形態に係る治療剤または予防剤は、異常血管新生を根本的に治療または予防できるので、過度の頻回投与を必要としない。
【0081】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤の投与対象は、限定されず、例えば、ヒト、および、非ヒト動物(例えば、家畜、愛玩動物、および、実験動物)を挙げることができる。非ヒト動物としては、例えば、サル、チンパンジー、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、および、ラットを挙げることができる。
【0082】
〔3.リシンデメチラーゼ3A阻害剤の使用〕
上述した〔2.異常血管新生の治療剤または予防剤〕などで説明した事項に関しては、以下ではその説明を省略する。
【0083】
本発明の一実施形態に係る使用は、異常血管新生の治療剤または予防剤を製造するための、リシンデメチラーゼ3A阻害剤の使用である。
【0084】
上記リシンデメチラーゼ3A阻害剤は、下記化学式1にて示される化合物、その誘導体、または、その塩であることが好ましい。
【0085】
【0086】
〔化学式1中、Rは水素または任意の有機基である〕。
【0087】
上記Rは、水素、アルキル基、アリール基、複素環基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アルキニル基、フルオロアルキニル基、アルコキシル基、フルオロアルコキシル基、アセチル基、カルボキシアルキル基、または、アルキルアミド基であることが好ましい。
【0088】
上記異常血管新生の種類は、限定されない。上記異常血管新生は、虚血領域の形成(換言すれば、血管が形成されない領域の形成)、および/または、異常血管の形成(換言すれば、無秩序に走行する血管の形成)であり得る。上記異常血管新生は、虚血領域の形成を含む異常血管新生であってもよいし、異常血管の形成を含む異常血管新生であってもよいし、虚血領域の形成および異常血管の形成の両方を含む異常血管新生であってもよい。
【0089】
上記異常血管新生が発生する疾患は、限定されない。上記異常血管新生は、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫、病的近視、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、または、血管新生緑内障、に伴う異常血管新生であり得る。上記異常血管新生は、虚血領域の形成を伴う、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、または、血管新生緑内障に伴う異常血管新生であり得る。上記異常血管新生は、異常血管の形成を伴い、かつ、虚血領域の形成を伴わない、加齢黄斑変性、または、病的近視に伴う異常血管新生であり得る。
【0090】
上記異常血管新生の治療剤または予防剤を製造する方法は、限定されず、当該分野において一般的に用いられている方法を用いればよい。例えば、上述した有効成分と、必要に応じて上述した有効成分以外の成分とを混合することによって、上記異常血管新生の治療剤または予防剤を製造すればよい。
【0091】
〔4.化合物、その誘導体、または、その塩〕
上述した〔2.異常血管新生の治療剤または予防剤〕などで説明した事項に関しては、以下ではその説明を省略する。
【0092】
本発明の一実施形態に係る化合物、その誘導体、または、その塩は、下記化学式1にて示される化合物、その誘導体、または、その塩である;
【0093】
【0094】
〔化学式1中、Rは水素または任意の有機基である〕。
【0095】
本発明の一実施形態に係る化合物、その誘導体、または、その塩は、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤の有効成分として利用することができる。
【0096】
上記Rは、水素、アルキル基、アリール基、複素環基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アルキニル基、フルオロアルキニル基、アルコキシル基、フルオロアルコキシル基、アセチル基、カルボキシアルキル基、または、アルキルアミド基であることが好ましい。
【0097】
上記R、誘導体、および、塩などについては、上述した〔2.異常血管新生の治療剤または予防剤〕にて説明したので、ここでは、その説明を省略する。
【0098】
本発明の一実施形態に係る化合物、その誘導体、または、その塩は、公知の合成方法にしたがって合成することができる。以下に、その一例を示す。
【0099】
【0100】
(i)上記合成スキームによれば、Rがメチル基である場合の本発明の一実施形態に係る化合物を合成することができる。(ii)Rがメチル基である場合の本発明の一実施形態に係る化合物を脱メチル化することによって、Rが水素である場合の本発明の一実施形態に係る化合物を合成することができる。(iii)上記合成スキームにおいて、化合物Bの代わりに化合物Aを反応2に供すれば、Rが水素である場合の本発明の一実施形態に係る化合物を合成することができる。(iv)反応1において、「MeOH」を別の物質(例えば、別のアルコール)に置き換えれば、様々なRを有する本発明の一実施形態に係る化合物を合成することができる。(v)化合物Bの「OMe」が置換された市販の化合物を反応2に供すれば、様々なRを有する本発明の一実施形態に係る化合物を合成することができる。後述する実施例にも示すように、本発明の一実施形態に係る化合物は、クリックケミストリー(click chemistry)によって合成することができる。
【0101】
〔5.異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法〕
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法は、リシンデメチラーゼ3Aタンパク質と異常血管新生の治療剤または予防剤の候補物質とを接触させる、接触工程と、上記接触工程の後で、上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の活性を測定する測定工程と、上記測定工程にて測定された上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の活性と、対照活性とを比較することによって、上記候補物質が異常血管新生の治療剤または予防剤であるか否かを判定する判定工程と、を有する。
【0102】
上記異常血管新生の治療剤または予防剤の候補物質としては、限定されず、例えば、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。上記異常血管新生の治療剤または予防剤の候補物質としては、核酸(例えば、DNA、RNA、または、アンチセンスRNA)、タンパク質(例えば、抗体)、高分子化合物、または、低分子化合物であってもよい。
【0103】
上記接触工程では、リシンデメチラーゼ3Aタンパク質と、異常血管新生の治療剤または予防剤の候補物質とを接触させる。
【0104】
上記接触工程の具体的な構成は、限定されない。上記接触工程では、例えば、(A)リシンデメチラーゼ3Aタンパク質と、候補物質とを、試験管内の所望の反応用溶液中に加え、当該反応溶液中で、リシンデメチラーゼ3Aタンパク質と候補物質とを接触させてもよいし、(B)リシンデメチラーゼ3Aタンパク質を発現している細胞を培養している培養液に候補物質を加え、当該細胞中で、リシンデメチラーゼ3Aタンパク質と候補物質とを接触させてもよい。
【0105】
上記接触工程の後で、上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の活性を測定する測定工程が行われる。
【0106】
上記測定工程の具体的な構成は、限定されない。上記測定工程では、例えば、(C)上述した(A)の工程の後、上記反応溶液中にリシンデメチラーゼ3Aタンパク質の基質(例えば、メチル化されたポリペプチド、または、メチル化されたヒストン)を加え、当該基質が脱メチル化されるか否かを測定してもよいし、(D)上記(B)の工程の後、上記細胞中のメチル化されたヒストンが脱メチル化されるか否かを測定してもよい。
【0107】
上記測定工程では、AlphaScreen(登録商標) Assayによって、上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の活性を測定してもよい。当該構成によれば、感度高く、かつ、容易に、リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の活性を測定することができるとともに、感度高く、かつ、容易に、上記候補物質が異常血管新生の治療剤または予防剤であるか否かを判定することができる。
【0108】
AlphaScreen Assayは、市販のキット(例えば、パーキンエルマー社製のAlphaLISA(登録商標)、AlphaScreen(登録商標))を利用して行うことができる。
【0109】
上記測定工程は、上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質と、上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の基質ペプチドが結合している、励起性または発光性のドナービーズと、を接触させて、上記基質ペプチドを反応生成物へ変換する変換工程と、上記反応生成物が結合しているドナービーズと、上記反応生成物に対して結合性を有する物質が結合している、発光性または励起性のアクセプタービーズと、を接触させて、上記ドナービーズと上記アクセプタービーズとを接近させる接近工程と、上記ドナービーズおよび上記アクセプタービーズの一方は励起性であり他方は発光性であり、上記ドナービーズと上記アクセプタービーズとの接近によって、上記ドナービーズまたは上記アクセプタービーズから生じる光、を検出する検出工程と、を有してもよい。
【0110】
上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の基質ペプチドは、限定されず、例えば、(i)リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の基質となるタンパク質の全長ポリペプチド、(ii)リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の基質となるタンパク質の部分ポリペプチド、または、(iii)人工的に作製したポリペプチド、(iv)(i)~(iii)を含む人工的に作製した基質、または、(v)(i)~(iv)の任意の組み合わせ、であり得る。
【0111】
上記ドナービーズは、励起性のもの、または、発光性のものであり得る。
【0112】
上記ドナービーズが励起性のものである場合、当該ドナービーズは、例えば、特定の波長の光(例えば、520~620nm)を吸収して、アクセプタービーズに存在する特定の酵素(例えば、発光性の酵素)を励起するものであり得る。
【0113】
上記ドナービーズが発光性のものである場合、当該ドナービーズは、例えば、特定の波長の光(例えば、520~620nm)を吸収したアクセプタービーズによって励起される酵素(例えば、発光性の酵素)を含むものであり得る。
【0114】
上記基質ペプチドと、上記ドナービーズとは、結合している。当該結合の様式は、限定されず、例えば、一方にビオチンを結合させ、他方にストレプトアビジンと結合させ、ビオチンとストレプトアビジンとの相互作用によって、上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の基質ペプチドと、上記ドナービーズとを結合させてもよい。
【0115】
上記変換工程では、上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質と上記ドナービーズとが接触することによって、ドナービーズに結合している状態の基質ペプチドが、ドナービーズに結合している状態の反応生成物へと変換されることになる。
【0116】
上記反応生成物に対して結合性を有する物質は、限定されず、例えば、抗体であり得る。上記抗体は、ポリクローナル抗体、または、モノクローナル抗体であり得る。これらとしては、例えば、市販のものを用いることができる。
【0117】
上記反応生成物に対して結合性を有する物質と、上記アクセプタービーズとは、結合している。当該結合の様式は、限定されず、例えば、アクセプタービーズにプロテインA、または、プロテインGを結合させ、これらと抗体との相互作用によって、上記反応生成物に対して結合性を有する物質と、上記アクセプタービーズとを結合させてもよい。
【0118】
上記アクセプタービーズは、発光性のもの、または、励起性のものであり得る。
【0119】
上記アクセプタービーズが発光性のものである場合、当該アクセプタービーズは、例えば、特定の波長の光(例えば、520~620nm)を吸収したドナービーズによって励起される酵素(例えば、発光性の酵素)を含むものであり得る。
【0120】
上記アクセプタービーズが励起性のものである場合、当該アクセプタービーズは、例えば、特定の波長の光(例えば、520~620nm)を吸収して、ドナービーズに存在する特定の酵素(例えば、発光性の酵素)を励起するものであり得る。
【0121】
上記接近工程では、上記反応生成物が結合しているドナービーズと、上記反応生成物に対して結合性を有する物質が結合しているアクセプタービーズとを接触させることによって、上記反応生成物と、上記反応生成物に対して結合性を有する物質とが結合する。その結果、上記ドナービーズと上記アクセプタービーズとが接近することになる。
【0122】
上記ドナービーズおよび上記アクセプタービーズは、一方は励起性のものであり、他方は発光性のものである。この場合、上記ドナービーズと上記アクセプタービーズとが接近すると、励起性のビーズによって発光性のビーズが活性化され、発光性のビーズから光(例えば、蛍光)が生じることになる。
【0123】
上記検出工程では、上記ドナービーズまたは上記アクセプタービーズから生じる光を検出することになる。このとき、検出される光が強いことは、多くの反応生成物が生じていること、つまり、リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の活性が高いことを示す。一方、このとき、検出される光が弱いことは、少ない反応生成物が生じていること、つまり、リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の活性が低いことを示す。
【0124】
上記判定工程では、上記測定工程にて測定された上記リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の活性と、対照活性とを比較することによって、上記候補物質が異常血管新生の治療剤または予防剤であるか否かを判定する。
【0125】
上記対照活性としては、例えば、リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の公知の活性阻害剤と接触させた後のリシンデメチラーゼ3Aタンパク質が示す脱メチル化活性、および/または、リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の公知の活性阻害剤と接触させていないリシンデメチラーゼ3Aタンパク質が示す脱メチル化活性を用いることができる。
【0126】
上記測定工程にて測定されたリシンデメチラーゼ3Aタンパク質の活性(脱メチル化活性)の値を「A」とし、リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の公知の活性阻害剤(例えば、2,4-ピリジンジカルボン酸)と接触させた後のリシンデメチラーゼ3Aタンパク質が示す脱メチル化活性の値を「B」とし、リシンデメチラーゼ3Aタンパク質の公知の活性阻害剤と接触させていないリシンデメチラーゼ3Aタンパク質が示す脱メチル化活性の値を「C」とする。
【0127】
Aの値とBの値とが略同じであれば、上記接触工程に用いた候補物質は、異常血管新生の治療剤または予防剤であると判定することができる。より具体的に、「A/B」の値が、0.8~1.2、0.9~1.1、または、略1.0であれば、上記接触工程に用いた候補物質は、異常血管新生の治療剤または予防剤であると判定することができる。
【0128】
Aの値とCの値とが略同じであれば、上記接触工程に用いた候補物質は、異常血管新生の治療剤または予防剤ではないと判定することができる。より具体的に、「A/C」の値が、0.8~1.2、0.9~1.1、または、略1.0であれば、上記接触工程に用いた候補物質は、異常血管新生の治療剤または予防剤ではないと判定することができる。
【0129】
上記判定工程の後に、上記候補物質を異常血管新生モデル動物に投与する投与工程を有することが好ましい。当該構成であれば、より正確に異常血管新生の治療剤または予防剤をスクリーニングすることができる。
【0130】
上記異常血管新生モデル動物は、限定されず、例えば、OIRモデルマウス、RVO(Retinal Vein Occlusion)モデルマウス、または、RVOモデルウサギを挙げることができる。
【0131】
上記OIRモデルマウスとしては、例えば、「Kip M Connor et al., "Quantification of oxygen-induced retinopathy in the mouse: a model of vessel loss, vessel regrowth and pathological angiogenesis" Nat Protoc., 2009, 4(11), 1565-1573」および「Andreas Stabl et al., "The Mouse Retina as an Angiogenesis Model" Investigative Ophthalmology and Visual Science, June 2010, Vol.51, No.6, 2813-2826」に記載のマウスを用いることができる。
【0132】
上記RVOモデルマウスとしては、例えば、「Shinichiro Fuma et al., "A pharmacological approach in newly established retinal vein occlusion model" Scientific Reports, 2017 Mar 2, 7:43509」に記載のマウスを用いることができる。
【0133】
上記RVOモデルウサギとしては、例えば、「Takuma Neo et al., "Gene expression profile analysis of the rabbit retinal vein occlusion model" PLOS ONE, 2020 July 31, 15(7), e0236928」に記載のマウスを用いることができる。
【実施例0134】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0135】
<1.リシンデメチラーゼ3A阻害剤のスクリーニング>
クリックケミストリー(click chemistry)にしたがって、銅触媒の存在下にて、様々なアジド化合物と、様々なアルキン化合物とを反応させて、様々なアジド-アルキン連結体を合成した(上述した〔合成スキーム〕も参照のこと)。
【0136】
以下に、クリックケミストリーに使用した化合物の合成例を記載する。
【0137】
Ethyl 2-(phenylamino)nicotinate
Ethyl 2-chloronicotinate(1.48g、8.00mmol)を含むエチレングリコール(16mL)溶液にaniline(750mg、8.06mmol)を加えた後、当該混合物を120℃にて3時間加熱した。反応終了後、当該混合物を室温にまで冷却した後に水(15mL)を加え、当該混合物を酢酸エチルにて抽出した。得られた有機相を、brineにて洗浄した後、Na2SO4にて乾燥させた。当該有機相から溶媒を留去した後、得られた残渣をカラムクロマトグラフィ(hexane/AcOEt=9/1)にて精製し、1.90gの白色固体を得た。収率は98%であった。当該白色固体の分析データを以下に示す。
【0138】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ; ppm) 10.2 (1H, s), 8.37 (1H, dd, J = 4.6 and 2.0 Hz), 8.25 (1H, dd, J = 7.6 and 2.0 Hz), 7.70 (2H, d, J = 8.0 Hz), 7.34 (2H, dd, J = 8.0, 7.2 Hz), 7.05 (1H, t, J = 7.2 Hz), 6.71 (1H, dd, J = 7.6, 4.6 Hz), 4.39 (2H, q, J = 7.1 Hz), 1.42 (3H, t, J = 7.1 Hz);
13C NMR (100 MHz, CDCl3, δ; ppm) 167.5, 156.2, 153.1, 140.1, 139.7, 128.8, 122.8, 120.9, 113.2, 107.2, 61.2, 14.3。
【0139】
(2-(Phenylamino)pyridin-3-yl)methanol
LiAlH4(265mg、6.99mmol)を含むTHF(20mL)溶液を0℃にまで冷却した後、当該THF溶液に、ethyl 2-(phenylamino)nicotinate(1.70g、7.00mmol)を含むTHF(15mL)溶液をゆっくりと滴下した。当該混合物を室温にまで昇温し、2時間撹拌した。2時間の反応終了後、当該混合物を0℃にまで冷却した後、当該混合物に、水(0.2mL)、15% NaOH水溶液(0.2mL)、および、水(0.6mL)を順次加えた後、30分間撹拌して反応を停止した。反応懸濁液をセライトにて濾過し、濾液を濃縮した後に、得られた残渣をカラムクロマトグラフィ(hexane/AcOEt=6/4から5:5へ変化)にて精製し、1.36gの淡黄色油状生成物を得た。収率は97%であった。当該淡黄色油状生成物の分析データを以下に示す。
【0140】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ; ppm) 8.18 (1H, d, J = 5.2 Hz), 7.69 (1H, brs), 7.55 (2H, d, J = 3.6 Hz), 7.35-7.29 (3H, m), 6.99 (1H, t, J = 7.2 Hz), 6.70 (1H, dd, J = 7.6, 5.2 Hz), 4.68 (2H, s), 1.87 (1H, brs);
13C NMR (100 MHz, CDCl3, δ; ppm) 155.0, 147.5, 140.6, 136.6, 128.9, 121.9, 120.0, 119.5, 114.4, 64.0。
【0141】
3-(Azidomethyl)-N-phenylpyridin-2-amine
(2-(phenylamino)pyridin-3-yl)methanol(1.00g、5.00mmol)を含むCH2Cl2(20mL)溶液にSOCl2(0.550mL、7.58mmol)をゆっくりと加えた後、当該混合物を室温で3時間撹拌した。反応終了後、当該混合物を濃縮して1.21gの淡黄色固体を得た。得られた淡黄色固体を、そのまま次の反応に用いた。
【0142】
粗生成物(1.21g)を含むDMF溶液(20mL)にNaN3(651mg、10.0mmol)を加えた後、当該混合物を90℃にて3時間加熱した。反応終了後、当該混合物を室温にまで冷却して水(15mL)を加え、当該混合物を酢酸エチルにて抽出した。得られた有機相を、brineにて洗浄した後、Na2SO4にて乾燥させた。当該有機相から溶媒を留去した後、得られた残渣をカラムクロマトグラフィ(hexane/AcOEt=19/1から10/1へ変化)にて精製し、889mgの黄色固体を得た。2つの工程を経て、収率は79%であった。当該黄色固体の分析データを以下に示す。
【0143】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ; ppm) 8.25 (1H, d, J = 5.2 Hz), 7.53 (1H, d, J = 8.0 Hz), 7.45 (2H, d, J = 7.6 Hz), 7.33 (2H, dd, J = 8.0, 7.2 Hz, 2H), 7.03 (1H, t, J = 7.2 Hz), 6.78 (1H, brs), 6.78 (1H, dd, J = 7.6, 5.2 Hz), 4.34 (2H, s);
13C NMR (100 MHz, CDCl3, δ; ppm) 154.2, 148.3, 140.2, 138.1, 128.9, 122.4, 119.9, 115.6, 114.9, 52.8;
HRMS (ESI) m/z: [M+H]+ Calcd for C12H12N5226.1087; Found 226.1086。
【0144】
Methyl 6-bromonicotinate
6-Bromonicotinic acid(2.02g、10.0mmol)とDMF(40μL、0.514mmol)とを含むトルエン(20mL)溶液にSOCl2(1.10mL、15.2mmol)をゆっくりと加えた後、当該混合物を40℃にて2時間加熱した。反応終了後、当該混合物を濃縮して2.35gの淡黄色固体を得た。得られた淡黄色固体を、そのまま次の反応に用いた。
【0145】
粗生成物(2.35g)を含むMeOH(20mL)溶液にEt3N(2.75mL、19.8mmol)を加えた後、当該混合物を40℃にて2時間加熱した。反応終了後、当該混合物を室温にまで冷却して水(15mL)を加え、当該混合物を酢酸エチルにて抽出した。得られた有機相を、brineにて洗浄した後、Na2SO4にて乾燥させた。当該有機相から溶媒を留去した後、得られた残渣をカラムクロマトグラフィ(hexane/AcOEt=19/1から10/1へ変化)にて精製し、2.08gの白色固体を得た。2つの工程を経て、収率は94%であった。当該白色固体の分析データを以下に示す。
【0146】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ; ppm) 9.00 (1H, d, J = 1.6 Hz), 8.25 (1H, dd, J = 8.4, 1.6 Hz), 7.42 (1H, d, J = 8.4 Hz), 3.96 (3H, s);
13C NMR (100 MHz, CDCl3) 164.9, 155.7, 151.2, 139.6, 125.0, 124.2, 52.6。
【0147】
Methyl 6-((trimethylsilyl)ethynyl)nicotinate
Methyl 6-romonicotinate(1.08g、5.00mmol)とPdCl2(PPh3)2(176mg、0.251mmol)とCuI(48.0mg、0.252mmol)とEt3N(1.40mL、10.1mmol)を含むMeCN(20mL)溶液に、trimethylsilylacetylene(1.05mL、7.59mmol)をアルゴン雰囲気下にて加えた。当該混合物をアルゴン雰囲気下、50℃にて12時間加熱した。反応終了後、当該混合物から溶媒を留去して得られた残渣にジエチルエーテルを加え、ろ過によって、当該ジエチルエーテル溶液から固体を除去した。得られたろ液を濃縮した後、得られた残渣をカラムクロマトグラフィ(hexane/AcOEt=50/1から20/1へ変化)にて精製し、1.08gの淡黄色固体を得た。収率は92%であった。当該淡黄色固体の分析データを以下に示す。
【0148】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ; ppm) 9.15 (1H, d, J = 1.6 Hz), 8.24 (1H, dd, J = 8.2, 2.4 Hz), 7.52 (1H, dd, J = 8.2, 1.6 Hz), 3.95 (3H, s), 0.28 (9H, s);
13C NMR (100 MHz, CDCl3) 165.3, 151.0, 146.6, 137.1, 126.7, 124.8, 103.0, 98.5, 52.5, -0.42。
【0149】
Methyl 6-ethynylnicotinate
Methyl 6-((trimethylsilyl)ethynyl)nicotinate(467mg、2.00mmol)を含むCH2Cl2/MeOH(10mL/5.0mL)溶液にK2CO3(554mg、4.01mmol)を加えた後、当該混合物を室温にて5時間撹拌した。反応終了後、当該混合物に水(10mL)を加え、当該混合物をCH2Cl2にて抽出し、得られた有機相を、brineにて洗浄した後、Na2SO4にて乾燥させた。当該有機相から溶媒を留去した後、得られた残渣をカラムクロマトグラフィ(hexane/AcOEt=10/1)にて精製し、297mgの白色固体を得た。収率は92%であった。当該白色固体の分析データを以下に示す。
【0150】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ; ppm) 9.17 (1H, d, J = 1.6 Hz), 8.27 (1H, dd, J = 7.6, 1.6 Hz), 7.55 (1H, dd, J = 8.0, 1.2 Hz), 3.96 (3H, s), 3.31 (1H, s);
13C NMR (100 MHz, CDCl3) 165.1, 151.0, 145.8, 137.3, 127.0, 125.3, 82.2, 80.0, 52.6。
【0151】
Methyl 6-(1-((2-(phenylamino)pyridin-3-yl)methyl)-1H-1,2,3-triazol-4-yl)nicotinate(TAB-047)
アジド(112.4mg、0.500mmol)とアルキン(84.9mg、0.527mmol)を含むTHF/H2O(5.0mL/5.0mL)溶液に、CuSO4・5H2O(13.1mg、0.0525mmol)およびsodium L-ascorbate(30.4mg、0.154mmol)を加えた後、当該混合物を室温にて12時間撹拌した。反応終了後、当該混合物を酢酸エチルにて抽出し、得られた有機相を、brineにて洗浄した後、Na2SO4にて乾燥させた。当該有機相から溶媒を留去した後、得られた残渣をカラムクロマトグラフィ(hexane/AcOEt=2/1から0/1へ変化)にて精製し、168mgの白色固体を得た。収率は87%であった。当該白色固体の分析データを以下に示す。
【0152】
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ; ppm) 9.15 (1H, d, J = 2.0 Hz), 8.38 (1H, dd, J = 8.4, 2.0 Hz), 8.78 (3H, m), 7.60-7.58 (2H, m), 7.54 (2H, d, J = 7.2 Hz), 7.32 (2H, dd, J = 7.4, 7.2 Hz), 7.02 (1H, t, J = 7.4 Hz), 6.81 (1H, dd, J = 7.2, 5.2 Hz), 5.57 (2H, s), 3.96 (3H, s);
13C NMR (100 MHz, CDCl3, δ; ppm) 165.5, 154.4, 153.1, 150.9, 149.3, 148.5, 140.2, 138.8, 138.1, 128.9, 125.1, 123.3, 122.6, 120.1, 119.6, 115.1, 114.9, 52.4, 51.8;
HRMS (ESI) m/z: [M+H]+ calcd for C21H19N6O2387.1564; found 387.1561。
【0153】
6-(1-((2-(phenylamino)pyridin-3-yl)methyl)-1H-1,2,3-triazol-4-yl)nicotinic acid (TAB-050)
TAB-047(116.2mg、0.301mmol)を含むTHF/H2O(5.0mL/5.0mL)溶液にLiOH・H2O(16.6mg、0.396mmol)を加えた後、当該混合物を室温にて10時間撹拌した。反応終了後、当該混合物に2M塩酸を加えてpH=3にした後、当該混合物を酢酸エチルにて抽出し、得られた有機相を、brineにて洗浄した後、Na2SO4にて乾燥させた。当該有機相から溶媒を留去して、80.4mgの白色固体を得た。収率は72%であった。当該白色固体の分析データを以下に示す。
【0154】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6, δ; ppm) 9.06 (1H, d, J = 1.2 Hz), 8.81 (1H, s), 8.36-8.33 (2H, m), 8.16-8.12 (2H, m), 7.59 (2H, d, J = 7.2 Hz), 7.38 (2H, dd, J = 7.2, 1.6 Hz), 7.27 (2H, dd, J = 7.6, 7.2 Hz), 6.92 (1H, t, J = 7.6 Hz), 6.82 (1H, dd, J = 7.6, 4.7 Hz), 5.83 (2H, s);
13C NMR (100 MHz, DMSO-d6, δ; ppm) 165.9, 153.1, 153.0, 150.6, 147.3, 146.6, 141.1, 138.2, 137.8, 128.3, 125.4, 124.7, 121.3, 119.9, 119.1, 116.8, 115.1, 49.3;
HRMS (ESI) m/z: [M+H]+ calcd for C20H17N6O2373.1408; found 373.1404。
【0155】
以上のようにして作製したアジド-アルキン連結体を、リシンデメチラーゼ3A阻害剤のスクリーニングのためのライブラリーとして利用した。なお、当該ライブラリーには、以下の2つの化合物が含まれていた。
【0156】
【0157】
合成したアジド-アルキン連結体を、精製することなく、AlphaScreen Assayに供し、当該アジド-アルキン連結体のリシンデメチラーゼ3Aに対する阻害活性を評価した。なお、当該AlphaScreen Assayでは、リシンデメチラーゼ3Aに対する阻害活性を評価するために、BPSバイオサイエンス社製のリコンビナント酵素、および、パーキンエルマー社製のアクセプタービーズおよびドナービーズを用いた。以下に、当該AlphaScreen Assayの概略を説明する。
【0158】
まず、白色不透明なOptiPlateTM-384のウェルに、100μMのサンプル(アジド-アルキン連結体)を含むアッセイバッファー溶液(3%DMSO)2.5μLを添加し、コントロールまたはブランクとした。
【0159】
次いで、試験プレートの各ウェルに、5.0μLの酵素溶液(リシンデメチラーゼ3Aタンパク質を含むアッセイバッファー)を加え(ブランクについては、酵素溶液の代わりに5.0μLのアッセイバッファーを加えた)、更に2.5μLの混合物(基質ペプチド/2-OG(50μM)/Fe(5μM)/Asc(100μM))を加えた。酵素の最終濃度を0.2nMとし、基質ペプチドの最終濃度を60nMとした。試験プレートを、穏やかに振とう(250rpm)しながら、室温にて2時間、インキュベートした。
【0160】
次いで、抗体を結合させたアクセプタービーズ入りのエピジェネティックバッファー5.0μL(100μg/mL)を各ウェルに加えた。試験プレートを、穏やかに振とう(250rpm)しながら、室温にて1時間、インキュベートした。
【0161】
次いで、ドナービーズ入りのエピジェネティックバッファー10μL(50μg/mL)を各ウェルに加えた。試験プレートを、遮光条件下にて、室温にて30分間、インキュベートした。
【0162】
各ウェルにて生じるAlphaシグナルを、EnsightTM multilabel reader(PerkinElmer Ltd.)を用いて、励起波長615nm、および、発光波長655nmの条件下にて測定した。
【0163】
サンプル(アジド-アルキン連結体)を含むウェルのAlphaシグナルの読み取り値から、酵素活性値Aを算出した。コントロールウェルのAlphaシグナルの読み取り値から、酵素活性値Bを算出した。酵素活性値Bを100%としたときの、酵素活性値Aの割合を算出した。
【0164】
図1の101および102に、アジド-アルキン連結体のリシンデメチラーゼ3Aに対する阻害活性の評価結果を示す。なお、
図1の101および102において、「CTRL」は、阻害活性を有する化合物が存在しないときのリシンデメチラーゼ3Aの酵素活性を示す。
図1の101および102から明らかなように、TAB047、および、TAB050は、共に、リシンデメチラーゼ3Aに対する阻害活性を有することが明らかになった。
【0165】
<2.TAB047およびTAB050の硝子体内投与>
異常血管新生を発症させたOIRモデルマウス(「Kip M Connor et al., "Quantification of oxygen-induced retinopathy in the mouse: a model of vessel loss, vessel regrowth and pathological angiogenesis" Nat Protoc., 2009, 4(11), 1565-1573」および「Andreas Stabl et al., "The Mouse Retina as an Angiogenesis Model" Investigative Ophthalmology and Visual Science, June 2010, Vol.51, No.6, 2813-2826」を参照)に対して、TAB047の塩酸塩、または、TAB050の塩酸塩を硝子体内投与し、異常血管新生に対する効果を確認した。
【0166】
生後7日齢(P7)のマウスを、生後12日齢(P12)になるまで、5日間、75体積%の酸素条件下にて飼育した。その後、上記生後12日齢(P12)のマウスを、大気条件下にて飼育した。飼育条件を高酸素濃度から低酸素濃度へ切り替えることによって、網膜に、異常血管新生(虚血領域の形成(換言すれば、血管が形成されない領域の形成)、および、異常血管の形成(換言すれば、無秩序に走行する血管の形成))を誘導した。
【0167】
上述したマウスに対して、生後12日齢(P12)の時点で1回、TAB047の塩酸塩(濃度:1mM)、または、TAB050の塩酸塩(濃度:1mM、または、10mM)を右目の硝子体内へ投与した。対照試験として、同じマウスに対して、生後12日齢(P12)の時点で1回、PBSを左目の硝子体内へ投与した。
【0168】
生後17日齢になった時点で、上記マウスから網膜を採取し、当該網膜上の異常血管新生を、顕微鏡にて観察した。観察された像に基づいて、網膜全体の面積、虚血領域の面積、および、異常血管領域の面積を算出した。
【0169】
図2の201および202に、TAB047の塩酸塩の試験結果を示す。
【0170】
図2の201に網膜の像を示す。当該像から明らかなように、対照試験のマウスでは、網膜上の広い範囲に、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察された。一方、TAB047の塩酸塩を投与したマウスでは、網膜上の狭い範囲にしか、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察されなかった。
【0171】
図2の202に、網膜全体の面積に対する異常血管領域の面積の割合、および、網膜全体の面積に対する虚血領域の面積の割合のグラフを示す。当該グラフから明らかなように、対照試験のマウスでは、網膜上の広い範囲に、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察された。一方、TAB047の塩酸塩を投与したマウスでは、網膜上の狭い範囲にしか、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察されなかった。
【0172】
図3の301~303に、TAB050の塩酸塩の試験結果を示す。
【0173】
図3の301に網膜の像を示す。当該像から明らかなように、対照試験のマウスでは、網膜上の広い範囲に、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察された。一方、TAB050の塩酸塩を投与したマウスでは、網膜上の狭い範囲にしか、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察されなかった。なお、TAB050の塩酸塩の効果は、濃度依存的であった。
【0174】
図3の302および303に、網膜全体の面積に対する異常血管領域の面積の割合、および、網膜全体の面積に対する虚血領域の面積の割合のグラフを示す。当該グラフから明らかなように、対照試験のマウスでは、網膜上の広い範囲に、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察された。一方、TAB050の塩酸塩を投与したマウスでは、網膜上の狭い範囲にしか、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察されなかった。なお、TAB050の塩酸塩の効果は、濃度依存的であった。
【0175】
<3.TAB047およびTAB050の代謝安定性試験>
TAB047、TAB047の塩酸塩、TAB050、および、TAB050の塩酸塩の代謝安定性を、文献「ACS Med. Chem. Lett. 2022 Aug 22; 13(10) 1582-1590」に記載の方法にしたがって試験した。
【0176】
各々500μMのTAB047、TAB047の塩酸塩、TAB050、および、TAB050の塩酸塩を、37℃にて0~60分間、肝ミクロソーム(liver microsome, Sekisui Xeno Tech, LLC, Kansas City, KS, USA, final concentration 0.2 mg protein/mL)、補酵素グループ(coenzyme group, 1.3mM NADPH, 3.3mM G-6-P: Sigma, Marlborough, MA,USA, 3.3mM MgCl2: Wako, Osaka, Japan)、および、0.45U/mL G6PDH(Oriental Yeast, Tokyo, Japan)と混合した。なお、肝ミクロソームとしては、ヒト肝ミクロソーム、および、マウス肝ミクロソームの2種類を用いた。
【0177】
混合してから0分間、10分間、および、60分間の時点で、混合物をサンプリングした。各混合物に対してアセトニトリルを加えた後、各混合物を撹拌し、その後、各混合物を3500rpmにて20分間遠心分離した。
【0178】
遠心分離後の上清を採取した後、当該上清をLC-MS/MSに供し、当該上清中に存在するTAB047、TAB047の塩酸塩、TAB050、および、TAB050の塩酸塩の各々の量を測定した。
【0179】
混合してから0分間の時点の上清中に存在するTAB047、TAB047の塩酸塩、TAB050、および、TAB050の塩酸塩の各々の量(100%)に対する、混合してから10分間および60分間の時点の上清中に存在するTAB047、TAB047の塩酸塩、TAB050、および、TAB050の塩酸塩の各々の量の割合を算出した。
【0180】
図4の401に、TAB047の試験結果を示す。
図4の401中、白丸はTAB047の割合を示し、黒丸はTAB050の割合を示す。
図4の401から明らかなように、TAB047は時間の経過に伴って代謝されて量が少なくなり、TAB050は時間の経過に伴って量が多くなった。このことは、TAB047が代謝されてTAB050に変換されたことを示している。
【0181】
図4の402に、TAB047の塩酸塩の試験結果を示す。
図4の402中、白丸はTAB047の塩酸塩の割合を示し、黒丸はTAB050の塩酸塩の割合を示す。
図4の402から明らかなように、TAB047の塩酸塩は時間の経過に伴って代謝されて量が少なくなり、TAB050の塩酸塩は時間の経過に伴って量が多くなった。このことは、TAB047の塩酸塩が代謝されてTAB050の塩酸塩に変換されたことを示している。
【0182】
図5の501に、TAB050の試験結果を示す。
図5の501中、黒丸はTAB050の割合を示す。
図5の501から明らかなように、TAB050は時間の経過に伴って量が変化しなかった。このことは、TAB050は、生体内で安定であることを示している。
【0183】
図5の502に、TAB050の塩酸塩の試験結果を示す。
図5の502中、黒丸はTAB050の塩酸塩の割合を示す。
図5の502から明らかなように、TAB050の塩酸塩は時間の経過に伴って量が変化しなかった。このことは、TAB050の塩酸塩は、生体内で安定であることを示している。
【0184】
<4.TAB047およびTAB050の膜透過性試験>
平行人工膜透過性試験(PAMPA:Parallel Artificial Membrane Permeation Assay)にしたがって、TAB047の塩酸塩、および、TAB050の塩酸塩の膜透過性(換言すれば、生体吸収性)を試験した。
【0185】
当該平行人工膜透過性試験には、CORNING社製のFalcon GenetestプレコートPAMPAプレートシステムを用いた。具体的な試験方法は、当該システムに添付のプロトコールにしたがった。簡単に、人工膜としては、表面積が0.3cm2であるリン脂質の構造化層にてあらかじめコーティングされたフィルターを用いた。TAB047の塩酸塩、および、TAB050の塩酸塩の初濃度は、100μMに設定した。
【0186】
試験結果を、下記の表に示す。下記の表から明らかなように、TAB047の塩酸塩の膜透過性は高かった。一方、TAB050の塩酸塩の膜透過性は、TAB047の塩酸塩の膜透過性と比べると低く、TAB047の塩酸塩の膜透過性の略1/17であった。このことは、TAB047の塩酸塩は、TAB050の塩酸塩と比較して、生体内に吸収され易いことを示している。
【0187】