(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025100191
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】触覚定量分析用の標準試料、その製造方法および触覚定量分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 19/02 20060101AFI20250626BHJP
G01N 3/00 20060101ALN20250626BHJP
【FI】
G01N19/02 A
G01N3/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217388
(22)【出願日】2023-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】中村 健二
(72)【発明者】
【氏名】鑓水 清隆
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB01
2G061BA20
2G061CA05
2G061CA18
2G061CB01
2G061DA01
2G061EA01
2G061EA10
2G061EB03
2G061EB07
2G061EC09
(57)【要約】
【課題】触覚を定量分析することができる、触覚定量分析用の標準試料、その製造方法および触覚定量分析方法を提供する。
【解決手段】本発明の触覚定量分析用の標準試料は、触覚を測定する装置を用いて、測定対象物の触覚を定量分析するための触覚定量分析用の標準試料である。前記触覚定量分析用標準試料が、基材と、バインダ樹脂組成物により形成された層と、を有する。前記バインダ樹脂組成物が、バインダ樹脂と、有機ビーズおよび無機ビーズからなる群から選択される少なくとも1種と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触覚を測定する装置を用いて、測定対象物の触覚を定量分析するための触覚定量分析用の標準試料であって、
前記触覚定量分析用の標準試料が、基材と、バインダ樹脂組成物により形成された層と、を有し、
前記バインダ樹脂組成物が、バインダ樹脂と、有機ビーズおよび無機ビーズからなる群から選択される少なくとも1種と、を含む、触覚定量分析用の標準試料。
【請求項2】
前記バインダ樹脂がアクリレート化合物からなる群から選択される少なく1種である、請求項1に記載の触覚定量分析用の標準試料。
【請求項3】
前記有機ビーズおよび無機ビーズからなる群から選択される少なくとも1種は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、及び二酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種からなる、請求項1に記載の触覚定量分析用の標準試料。
【請求項4】
前記有機ビーズおよび無機ビーズからなる群から選択される少なくとも1種は、ヤング率が0.1MPa~100GPaである、請求項1に記載の触覚定量分析用の標準試料。
【請求項5】
前記バインダ樹脂組成物を、前記基材への塗工、あるいはスプレー塗装により作成した請求項1に記載の触覚定量分析用の標準試料。
【請求項6】
前記触覚は、触覚の中で粗さと摩擦をセンシングの対象とした請求項1に記載の触覚定量分析用の標準試料。
【請求項7】
表面の算術平均粗さRa、あるいは算術平均高さSaが15um以下の請求項1に記載の触覚定量分析用の標準試料。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の触覚定量分析用の標準試料を製造する方法であって、
前記基材の少なくとも1面において、前記バインダ樹脂組成物を塗布する工程と、
前記基材に塗布したバインダ樹脂組成物を硬化する工程と、
を有する、触覚定量分析用の標準試料の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項の触覚定量分析用の標準試料を用いて触覚を定量分析する触覚定量分析方法。
【請求項10】
触覚を測定する手段と、触覚を校正する手段と、を備える触覚測定システムであって、
前記触覚を校正する手段は、請求項1~7のいずれか1項の触覚定量分析用の標準試料を用いて、測定した触覚の値を校正することを特徴とする触覚測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触覚定量分析用の標準試料、その製造方法および触覚定量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「触覚」が、視覚、聴覚、嗅覚、味覚からなる五感の中の最も基本的なものでありながら、代表的な感覚器官を持たなく、皮膚全体が感覚器官である。また、筋肉や関節などの皮膚とは異なる人体内部での感覚が存在する。それは、最も広い意味での「触覚」であり、「体性感覚(somatosensation)」という。通常、「触覚」は、皮膚感覚に限定する「狭義の触覚」を指す。すなわち、何かに触れたときの原初的な知覚感性で、これは対象物の硬さ、ミクロ粗さ、マクロ粗さ、摩擦、温冷感の五次元で表現できるといわれている(非特許文献1)。例えば、柔らかい、滑らか、冷たいなどの言葉で表現される。粗さをミクロ粗さとマクロ粗さに分けているが、マクロ粗さは剣山のように触れただけで粗さがわかるもの、ミクロ粗さは目の細かい紙やすりのようになぞってみないと粗さが感じられないものである。また、特許文献1では、感性語を階層的に解析する手法について述べているが、これらの原初的な知覚感性語を下層の階層に配置して、しっとり、ふわふわ、高級感などのヒトにとって高次の感性語を上層に配置して解析を行っている。
その「触覚」を測定する装置を開発し、触覚を測定する研究が行われている。例えば、センサーが触れた部分の変位と力を読み取る触覚センサーが報告されている。この触覚センサーは、主としてロボットに装着されるものである。そのロボットが医療や介護、物流用途に使われることが期待されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Shogo Okamoto et.al., Psychophysical Dimensions of Tactile Perception of Textures, IEEE Transactions on Haptics, 2013, vol.6, pages 81-93。
【非特許文献2】竹内 彰敏:触覚センサの医療分野への応用、溶接学会誌、2006年75巻4号、p.230-233。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、触覚センサーなどの触覚測定装置が、測定対象物の触覚を正確に読み取っているかを保証するには、標準試料を使って検定や校正が必要である。
【0006】
本発明者らの鋭意検討の結果、有機ビーズ/無機ビーズを含むバインダ樹脂組成物を用いることで、そのように標準試料を作成することができる。すわなち、本発明は、触覚を定量分析することができる、触覚定量分析用の標準試料、その製造方法および触覚定量分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態は、本実施形態者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。
[1] 触覚を測定する装置を用いて、測定対象物の触覚を定量分析するための触覚定量分析用の標準試料であって、
前記触覚定量分析用の標準試料が、基材と、バインダ樹脂組成物により形成された層と、を有し、
前記バインダ樹脂組成物が、バインダ樹脂と、有機ビーズおよび無機ビーズからなる群から選択される少なくとも1種と、を含む、触覚定量分析用の標準試料。
[2] 前記バインダ樹脂がアクリレート化合物からなる群から選択される少なく1種である、[1]に記載の触覚定量分析用の標準試料。
[3] 前記有機ビーズおよび無機ビーズからなる群から選択される少なくとも1種は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、及び二酸化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種からなる、[1]又は[2]に記載の触覚定量分析用の標準試料。
[4] 前記有機ビーズおよび無機ビーズからなる群から選択される少なくとも1種は、ヤング率が0.1MPa~100GPaである、[1]~[3]のいずれかに記載の触覚定量分析用の標準試料。
[5] 前記バインダ樹脂組成物を、前記基材への塗工、あるいはスプレー塗装により作成した[1]~[4]のいずれかに記載の触覚定量分析用の標準試料。
[6] 前記触覚は、触覚の中でミクロ粗さと摩擦をセンシングの対象とした[1]~[5]のいずれかに記載の触覚定量分析用の標準試料。
[7] 表面の算術平均粗さRa、あるいは算術平均高さSaが15um以下の[1]~[6]のいずれかに記載の触覚定量分析用の標準試料。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の触覚定量分析用の標準試料を製造する方法であって、
前記基材の少なくとも1面において、前記バインダ樹脂組成物を塗布する工程と、
前記基材に塗布したバインダ樹脂組成物を硬化する工程と、
を有する、触覚定量分析用の標準試料の製造方法。
[9] [1]~[7]のいずれかに記載の触覚定量分析用の標準試料を用いて触覚を定量分析する触覚定量分析方法。
[10]触覚を測定する手段と、触覚を校正する手段と、を備える触覚測定システムであって、
前記触覚を校正する手段は[1]~[7]のいずれかに記載の触覚定量分析用の標準試料を用いて、測定した触覚の値を校正することを特徴とする触覚測定システム。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態によれば、触覚を定量分析することができる、触覚定量分析用の標準試料、その製造方法および触覚定量分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の触覚定量分析用の標準試料の一例を示す断面模試図である。
【
図2】本実施形態の触覚定量分析用の標準試料の表面模試図と、摩擦、ミクロ粗さとの関係を示す図である。
【
図3】本実施形態の触覚定量分析用触覚センサーの一例を示す断面模試図である。
【
図4】実施例1において標準試料塗膜の摩擦係数と時間の関係を示す図である。
【
図5】実施例1~7において標準試料塗膜のRaと標準試料塗膜を触覚センサーで触れた際のStickSlipの関係を示す図である。
【
図6】実施例1~7において標準試料塗膜の手の動摩擦係数と触覚センサーで触れた際の動摩擦係数の関係を示す図である。
【
図7】実施例8~12において標準試料塗膜のRaと標準試料塗膜を触覚センサーで触れた際のStickSlipの関係を示す図である。
【
図8】実施例8~12において標準試料塗膜の手の動摩擦係数と触覚センサーで触れた際の動摩擦係数の関係を示す図である。
【
図9】本発明で用いる触感検出装置の側面からみた構成図の一例を示す概略図である。
【
図10】本発明で用いる触感検出装置の上面からみた構成図の一例を示す概略図である。
【
図11】本発明で用いる触感検出装置の上面からみた写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(触覚定量分析用の標準試料)
本発明の一実施形態の触覚定量分析用の標準試料(「本実施形態の触覚定量分析用の標準試料」、あるいは、単に「本実施形態の標準試料」をいうことがある。)は、触覚を測定する装置を用いて、測定対象物の触覚を定量分析するための触覚定量分析用の標準試料である。本実施形態の標準試料が、基材と、バインダ樹脂組成物により形成された層と、を有する。前記バインダ樹脂組成物が、バインダ樹脂と、有機ビーズおよび無機ビーズからなる群から選択される少なくとも1種と、を含む。
【0011】
本発明の「触覚」は、皮膚感覚に限定する「狭義の触覚」を指す。すなわち、何かに触れたときの原初的な知覚感性で、その対象物の硬さ、ミクロ粗さ、マクロ粗さ、摩擦、温冷感の五次元で表現できるものである。
本実施形態の触覚定量分析用の標準試料は、上記ミクロ粗さ、マクロ粗さ、摩擦、及び温冷感からなる五次元の触覚から少なくとも2種以上を分析する際の標準試料として使用されることが好ましい。一例として、例えば、後述の実施例では、粗さ(例えば、ミクロ粗さ)と摩擦とを分析する際の標準試料として使用されることができる。
すなわち、実施形態の触覚定量分析用の標準試料にかかる前記触覚は、触覚の中で粗さと摩擦をセンシングの対象としてもよい。前記粗さが、ミクロ粗さでもよい。
後述の実施例で示す具体例では、1つの標準試料に対して、所定の触覚センサーでミクロ粗さと摩擦を測定できる。そして、例えば、後のように、6個以上の標準試料を使用することで、その範囲内の測定対象の触覚を定量分析することができる。
本願出願時において、「触覚」の測定方法、単位などについて、まだ、日本国内標準、国際標準における規定がない。本実施形態において、一例として、ミクロ粗さと摩擦とを定量測定するための標準試料を説明した。しかし、本実施形態の触覚定量分析用の標準試料は、対応する触覚の測定方法、単位などに限定されない。また、ミクロ粗さと摩擦以外の他の評価項目(例えば、硬さ)も含む3次元以上で表現する「触覚」てもよい。
【0012】
本発明の「標準試料」は、通常の定量分析用の標準物質(reference material)としての標準(reference)試料である。ここでの定量分析は、通常の定量分析のように、例えば、検量線を作成し、分析装置で得られた電気信号から、触感の測定結果を得ることが挙げられる。
また、本実施形態の触覚定量分析用の標準試料は、触感を測定(評価)する機械学習モデルを作成するために、機械学習用データを得る目的の標準試料であってもよい。
【0013】
[基材]
本実施形態の触覚定量分析用の標準試料に構成する基材は、その材質、形状などに特に限定されない。測定対象物になるべく合わせることが好ましい。
例えば、
図1に示すように、測定対象物が平板状である場合、本実施形態の標準試料も平板状の基材の上に、バインダ樹脂組成物により形成された層を設置することが好ましい。その場合、測定しやすい観点から、例えば、基材の厚みが5μm以上であることが好ましく、バインダ樹脂の塗布のしやすさを考えると20μm以上が好ましい。基材の厚みの上限は特に無いが、塗布の制限を考えると1m以下の厚みが好ましい。
測定対象物が球状などの曲面を有する形状である場合、本実施形態の標準試料もこの基材の曲面に、バインダ樹脂組成物により形成された層を設置すればよい(図示なし)。例えばバインダ樹脂をスプレー塗装することにより設置できる。標準試料として、なるべく、測定対象物と同じ態様である場合、定量測定の結果がより正確になるためである。
【0014】
[バインダ樹脂組成物により形成された層]
本実施形態の触覚定量分析用の標準試料は、バインダ樹脂組成物を用いて形成された表面層を有する。すなわち、本実施形態の標準試料はバインダ樹脂組成物が塗工乾燥された積層体を有することが好ましい。
【0015】
[積層フィルムおよび形成方法]
本実施形態の標準試料に構成する積層フィルムは、バインダ樹脂組成物を用いて、基材上、あるいは物品の表面上に該バインダ樹脂組成物をコーティングすることにより表面層(積層フィルムともいう)である。
バインダ樹脂組成物の塗布方法としては、例えば、バーコーター塗工、ロールコーター塗工、スプレー塗工、グラビア塗工、リバースグラビア塗工、オフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷法等が挙げられ、いずれの方法を用いてもよい。
バインダ樹脂組成物の塗布量としては、基材にダイレクトで塗工する塗料の場合、固形分で5~20g/m2、好ましくは、8~15g/m2の塗工条件で使用するとよい。また、フィルム用のオーバープリントニスとして使用する場合には、3~12g/m2、好ましくは、5~10g/m2の塗工条件で使用するとよい。
【0016】
本実施形態にかかるバインダ樹脂組成物は、紫外線硬化型ニス組成物である場合、紫外線等のエネルギー線の照射によって硬化を進行させることができる。
紫外線等のエネルギー線の照射エネルギーとしては、紫外線硬化性の点から、0.1~10J/cm2の範囲であることが好ましく、0.2~5J/cm2の範囲がより好ましく、0.25~3J/cm2の範囲が更に好ましい。
紫外線等のエネルギー線の照度としては、接着性及び硬化性の点から、0.001~2W/cm2の範囲であることが好ましく、0.01~1.5W/cm2の範囲がより好ましく、0.05~1W/cm2の範囲が更に好ましい。
紫外線の発生源としては、例えば、キセノンランプ、キセノン-水銀ランプ、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、LED等の公知のランプを用いることができる。なお、紫外線の照射エネルギー及び照度は、UVチェッカー;UV Power PucK(II)(Electronic Instrumentation and Technology社製)を用いて320~390nmの波長域において測定した値を基準とする。
【0017】
本実施形態にかかるバインダ樹脂組成物は、熱硬化型ニス組成物である場合、加熱で硬化を進行させることができる。
この際の加熱条件としては100℃~160℃の温度にて60秒~300秒の保持時間で処理することが好ましく、120℃~160℃の温度にて120秒~300秒の保持時間で処理することが更に好ましい。
【0018】
<バインダ樹脂組成物>
本実施形態の触覚定量分析用の標準試料に構成する表面層(積層フィルム)を形成するために用いる前記バインダ樹脂組成物は、バインダ樹脂と、有機ビーズおよび無機ビーズからなる群から選択される少なくとも1種と、を含む。バインダ樹脂と、有機ビーズおよび無機ビーズからなる群から選択される少なくとも1種と、を含む分散液であることが好ましい。
【0019】
「硬化型ニス組成物」
本実施形態の触覚定量分析用の標準試料に構成する表面層(積層フィルム)を形成するために用いる前記硬化型ニス組成物は、特に制限されないが、アクリレート化合物(A)、エポキシ樹脂(B)、有機ビーズ及び/又は無機ビーズを含むフィラー(C)、ポリエチレンワックス(D)、及びシリコーン(E)を含有することが好ましい。
【0020】
本発明に使用するアクリレート化合物は、その構造中にアクリロイル基を有する化合物であればよく、単官能であっても2官能以上のものであっても良い。これらアクリレート化合物としては、例えばビスフェノールA型ジアクリレート化合物、ビスフェノールF型ジアクリレート化合物、ビスフェノールB型ジアクリレート化合物、グリシジルエーテル型ジアクリレート化合物、メチロール型アクリレート化合物、イソシアヌル酸型ジアクリレート化合物、シクロデカン型ジアクリレート化合物、イソシアネート基とヒドロキシル基を反応させたウレタンアクリレート化合物などが挙げられ、好ましくはビスフェノールA型ジアクリレート化合物、イソシアヌル酸型ジアクリレート化合物、ウレタン(メタ)アクリレート化合物であり、更に好ましくはウレタン(メタ)アクリレートである。これらのアクリレート化合物は1種を単独で用いても2種以上を組み合わせても良い。
【0021】
<ウレタン(メタ)アクリレート(A1)>
ウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、塗膜に柔軟性を付与し、フィラーの特性を維持するための成分として有効である。ウレタン(メタ)アクリレート(A1)としては、例えば、ポリオール(a1)、ポリイソシアネート(a2)、及び水酸基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリル化合物(a3)を反応させて得られるものを用いることができる。
【0022】
なお、本発明において、「ウレタン(メタ)アクリレート」とは、ウレタンアクリレート及び/又はウレタンメタクリレートを示し、「(メタ)アクリル化合物」とは、メタクリル化合物及び/又はアクリル化合物を示し、「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレート及び/又はアクリレートを示し、「(メタ)アクリロイル基」とは、メタクリロイル基及び/又はアクリロイル基を示し、「(メタ)アクリル酸」とは、メタクリル酸及び/又はアクリル酸を示す。
【0023】
ポリオール(a1)としては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等を用いることができる。これらのポリオールは単独で用いても2種以上を併用してもよい。ポリオール(a1)は、被着体である基材の種類に応じて適宜決定されるが、基材として需要が高まっているポリカーボネート基材が使用される場合には、ポリカーボネートポリオールを用いることが密着性の点から好ましい。
【0024】
ポリイソシアネート(a2)としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ジイソシアナートメチルシクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ポリイソシアネートなどを用いることができる。これらのポリイソシアネートは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、密着性を一層向上できる点から、脂環式ポリイソシアネートを用いることが好ましく、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート及びジイソシアナートメチルシクロヘキサンからなる群より選ばれる1種以上のポリイソシアネートを用いることがより好ましい。
【0025】
イソシアネート基又は水酸基を有する(メタ)アクリル化合物(a3)は、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)中に(メタ)アクリロイル基を導入する目的で用いるものである。
【0026】
また、(メタ)アクリル化合物(a3)として用いることができるイソシアネート基を有する(メタ)アクリル化合物としては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート、1,1-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、原料入手の容易性の点から、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートを用いることが好ましく、硬化性の点から、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネートを用いることがより好ましい。
【0027】
(メタ)アクリル化合物(a3)として用いることができる水酸基を有する(メタ)アクリル化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミド等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等の水酸基を有する多官能(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレートなどを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのなかでも、原料入手の容易性、硬化性及び密着性の点から、水酸基を有するアクリル酸(メタ)アルキルエステルを用いることが好ましく、2-ヒドロキシエチルアクリレート及び/又は4-ヒドロキシブチルアクリレートを用いることがより好ましい。
【0028】
(メタ)アクリル化合物(a3)としてイソシアネート基を有する(メタ)アクリル化合物を用いる場合のウレタン(メタ)アクリレート(A1)の製造方法としては、例えば、無溶剤下で、ポリオール(a1)とポリイソシアネート(a2)とを仕込み、反応させることによって水酸基を有するウレタンプレポリマーを得、次いで、イソシアネート基を有する(メタ)アクリル化合物(a3)を供給し、混合、反応させることによって製造する方法等が挙げられる。上記反応は、例えば20~120℃の条件下で30分~24時間行うことが好ましい。
【0029】
(メタ)アクリル化合物(a3)として水酸基を有する(メタ)アクリル化合物を用いる場合のウレタン(メタ)アクリレート(A1)の製造方法としては、例えば、無溶剤下で、ポリオール(a1)と(メタ)アクリル化合物(a3)とを反応系中に仕込んだ後に、ポリイソシアネート(a2)を供給し、混合、反応させることによって製造する方法;無溶剤下で、ポリオール(a1)とポリイソシアネート(a2)とを反応させることによってイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得、次いで、水酸基を有する(メタ)アクリル化合物(a3)を供給し、混合、反応させることによって製造する方法等が挙げられる。上記反応は、例えば20~120℃の条件下で30分~24時間行うことが好ましい。
【0030】
ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を製造する際には、必要に応じて重合禁止剤、ウレタン化触媒等を用いてもよい。
【0031】
重合禁止剤としては、例えば、3,5-ビスターシャリーブチル-4-ヒドロキシトルエン、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル(メトキノン)、パラターシャリーブチルカテコールメトキシフェノール、2,6-ジターシャリーブチルクレゾール、フェノチアジン、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジフェニルアミン、ジニトロベンゼン等を用いることができる。これらの重合禁止剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0032】
ウレタン化触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N-メチルモルホリン等の含窒素化合物;酢酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、オクチル酸錫等の金属塩;ジブチルチンラウレート、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等の有機金属化合物などを用いることができる。これらのウレタン化触媒は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0033】
また、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を製造する際には、最後に、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)に残存するイソシアネート基を失活させることを目的として、メタノール等のアルコールを添加してもよい。
【0034】
ウレタン(メタ)アクリレート(A1)の重量平均分子量としては、柔軟性及び硬化収縮抑制の点から、500~50,000の範囲であることが好ましく、3,000~40,000の範囲であることより好ましい。なお、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した値を示す。
【0035】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC-8220GPC」)カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
「TSKgelG5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgelG4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgelG3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgelG2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成する。
【0036】
〔標準ポリスチレン〕
東ソー株式会社製「TSKgel標準ポリスチレンA-500」
東ソー株式会社製「TSKgel標準ポリスチレンA-1000」
東ソー株式会社製「TSKgel標準ポリスチレンA-2500」
東ソー株式会社製「TSKgel標準ポリスチレンA-5000」
東ソー株式会社製「TSKgel標準ポリスチレンF-1」
東ソー株式会社製「TSKgel標準ポリスチレンF-2」
東ソー株式会社製「TSKgel標準ポリスチレンF-4」
東ソー株式会社製「TSKgel標準ポリスチレンF-10」
東ソー株式会社製「TSKgel標準ポリスチレンF-20」
東ソー株式会社製「TSKgel標準ポリスチレンF-40」
東ソー株式会社製「TSKgel標準ポリスチレンF-80」
東ソー株式会社製「TSKgel標準ポリスチレンF-128」
東ソー株式会社製「TSKgel標準ポリスチレンF-288」
東ソー株式会社製「TSKgel標準ポリスチレンF-550」
【0037】
ウレタン(メタ)アクリレート(A1)としては、架橋密度を低下させ、硬化収縮を一層抑制できる点から、(メタ)アクリロイル基を2個有する、いわゆる2官能ウレタン(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0038】
ウレタン(メタ)アクリレート(A1)のガラス転移点は、30~60℃の範囲であることが塗膜の手触り感の観点から好ましい。
【0039】
<エポキシ樹脂(B)>
エポキシ樹脂(B)としては、一般的に市販されているエピ-ビス型、ノボラック型、β-メチルエピクロ型、環状オキシラン型、グリシジルエーテル型、グリシジルエステル型、ポリグリコールエーテル型、グリコールエーテル型、エポキシ化脂肪酸エステル型、多価カルボン酸エステル型、アミノグリシジル型、レゾルシン型等の各種エポキシ樹脂が挙げられる。この中でも塗膜の傷付き性が良好なことから、エピ-ビス型のエポキシ樹脂が好適に使用される。
【0040】
エポキシ樹脂(B)の市販品としては、ビスフェノールA(BPA)タイプのものは、エピコート(EPIKOAT)1001、エピコート(EPIKOAT)1004、EP ICLON N-865、EPICLON N-870等が挙げられる。
また変性ノボラック型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂(C-1)の例として、DIC(株)社製のEPICLON N-730、EPICL ON N-740、EPICLON N-770等のフェノールノボラック型エポキシ樹脂、EPICLON N-660、EPICLON N-665、EPICLON N-670、EPICLON N-673、EPICLON N-680、EPICLON N-690、EPICLON N-695、旭化成エポキシ(株)社のAER ECN-1273、同社製AER ECN-1299等のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
更にビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂であれば、特に衛生面や食品用途で、未反応ビスフェノールAが溶出しないことから好ましい。なお、ビスフェノールAを含まないエポキシ樹脂とは、ビスフェノールA骨格由来の構造を含まないエポキシ樹脂を意味する。
【0041】
エポキシ樹脂(B)としては、架橋を促進させ、傷付き性を維持する観点から、2官能エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0042】
<ビーズ(C)>
フィラー(C)としては、無機ビーズであっても、有機ビーズであってもよい。これらは、いずれか1種を用いてもよいし、2種以上を組合わせて用いることもできる。前記フィラー(C)は、ヤング率が0.1MPa~100GPaであることが好ましい。
フィラー(C)の平均粒子径は、特に限定はないが、例えば、100μm以下が好ましく、例えば、0.1~70μmの範囲が好ましく、1~50μmの範囲がより好ましい。粒子径が小さくなると、フィラーが塗膜に埋もれ、良好な手触り感が得られず、粒子径が大きくなると、耐摩擦性不良、製品安定性(沈降)、塗工ムラなどが問題となるからである。
【0043】
<<有機ビーズ>>
有機ビーズとしては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ナイロン樹脂、ポリプロピレン樹脂、又は尿素系樹脂から選択される有機フィラーまたは樹脂ビーズが挙げられる。
中でも、ウレタン樹脂ビーズとシリカ(二酸化ケイ素)が、手触り感の観点から好ましい。
【0044】
<<無機ビーズ>>
無機ビーズとしては、例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、クレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム、合成ケイ酸塩、及びケイ酸微粉末から選択される無機ビーズが挙げられる。
【0045】
<ポリエチレンワックス(D)>
本発明の硬化型ニス組成物は、ポリエチレンワックスを含有する。
塗膜の滑性、傷付き性、手触り感の観点からは、ポリエチレンワックスが好適に使用される。
ポリエチレンワックスの平均粒子径は、例えば、2~8μmの範囲であることが好ましい。ポリエチレンワックスの平均粒子径が2μm以上であれば、塗膜表面に浮上するポリエチレンワックスの面積が少なくなり、十分な傷つき性・滑性を得ることができないという問題を防止することができる。一方、ポリエチレンワックスの平均粒子径が8μm以下であれば、塗膜面の凹凸が際立ち、外観不良を引き起こす恐れがあるという問題を防止することができる。
【0046】
<シリコーン(E)>
本発明の硬化型ニス組成物は、シリコーン(ポリシロキサン)を含有する。
シリコーンとしては、例えばメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロゲンポリシロキサン、メチルシクロポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、テトラデカメチルヘキサシロキサン、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシエチレン)シロキサン・メチル(ポリオキシプロピレン)シロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシエチレン)シロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシプロピレン)シロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチルセチルオキシシロキサン共重合体、ジメチルシロキサン・メチルステアロキシシロキサン共重合体等の各種シリコーン油を挙げることができる。中でも、メチルハイドロゲンポリシロキサンやメチルポリシロキサンが好ましい。
【0047】
<その他の成分>
本発明の硬化型ニス組成物は、紫外線硬化型ニス組成物である場合、紫外線で硬化させるために光重合開始剤を添加させる必要がある。また、本発明では、光重合抑制剤を含有させることも重要である。
【0048】
本発明に使用できる光重合開始剤としては、例えば、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジル、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾインエチルエーテル、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等の分子開裂型や、ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、イソフタルフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルスルフィド、2,4-ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン等の水素引き抜き型の光重合開始剤等が挙げられ、これらは単独で使用しても二種類以上を併用してもよい。
【0049】
光重合抑制剤は、塗料を貯蔵・保管している際や塗工作業の際に塗液中での重合反応を進ませない目的で添加させる。この成分としては、例えば、ヒドロキノン(HQ)、メチルヒドロキノン(MEHQ)、3,5ジブチル4-ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール等を適量、配合することができる。
【0050】
本実施形態にかかるバインダ樹脂組成物は、無溶剤であっても塗工に適した低粘度を示すものであるが、必要に応じて有機溶剤を添加してもよく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキソラン等の環状エーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、トルエン、キシレン等の芳香族類、カルビトール、セロソルブ、メタノール、トルエン、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類が挙げられ、これらは単独で使用しても二種類以上を併用してもよい。
また、本実施形態にかかるバインダ樹脂組成物は、その他必要に応じて、レベリング剤、チクソ性付与剤、上記以外のワックス、乾燥材、増粘剤、垂れ止め剤、可塑剤、分散剤、沈降防止剤、消泡剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、無機顔料、有機顔料、体質顔料等の各種の添加剤を含有していてもよい。
【0051】
本実施形態にかかるバインダ樹脂組成物は、上述した各成分を適宜所望の割合で混合する。混合割合は、特に制限はないが、例えば、バインダ樹脂組成物に対して、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、50~90質量部含有することが好ましく、70~85質量部含有することがより好ましい。また、バインダ樹脂組成物に対して、エポキシ樹脂(B)は、1~10質量部含有することが好ましく、5~7質量部含有することがより好ましい。また、バインダ樹脂組成物に対して、樹脂ビーズ及び/又は無機ビーズを含むフィラー(C)は、5~30質量部含有することが好ましく、9~12質量部含有することがより好ましい。また、硬化型ニス組成物に対して、ポリエチレンワックス(D)は、0.2~2質量部含有することが好ましく、0.4~1質量部含有することがより好ましい。また、硬化型ニス組成物に対して、シリコーン(E)は、0.1~1質量部含有することが好ましく、0.1~0.5質量部含有することがより好ましい。
さらに、本実施形態にかかるバインダ樹脂組成物が、紫外線硬化型ニス組成物である場合、紫外線硬化型ニス組成物は、光重合開始剤及び光重合抑制剤を含有してもよい。紫外線硬化型ニス組成物に対して、光重合開始剤は、1~5質量部含有することが好ましく、1.5~3.5質量部含有することがより好ましい。また、紫外線硬化型ニス組成物に対して、光重合抑制剤は、0.1~1質量部含有することが好ましく、0.1~0.5質量部含有することがより好ましい。
【0052】
本実施形態にかかるバインダ樹脂組成物の各成分の混合割合の好ましい実施態様として、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)50~90質量部、エポキシ樹脂(B)1~10質量部、及び樹脂ビーズ及び/又は無機ビーズを含むフィラー(C)5~30質量部の割合で混合する紫外線硬化型ニス組成物が挙げられる。
また、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)50~90質量部、エポキシ樹脂(B)1~10質量部、樹脂ビーズ及び/又は無機ビーズを含むフィラー(C)5~30質量部、ポリエチレンワックス(D)0.2~2質量部、及びシリコーン(E)0.1~1質量部の割合で混合するバインダ樹脂組成物が挙げられる。
さらに、前記紫外線硬化型ニス組成物が光重合開始剤及び光重合抑制剤を含有している場合、紫外線硬化型ニス組成物の各成分の混合割合の好ましい実施態様として、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)50~90質量部、エポキシ樹脂(B)1~10質量部、樹脂ビーズ及び/又は無機ビーズを含むフィラー(C)5~30質量部、光重合開始剤 1~5質量部、及び光重合抑制剤0.1~1質量部の割合で混合する紫外線硬化型ニス組成物が挙げられる。
また、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)50~90質量部、エポキシ樹脂(B)1~10質量部、樹脂ビーズ及び/又は無機ビーズを含むフィラー(C)5~30質量部、ポリエチレンワックス(D)0.2~2質量部、シリコーン(E)0.1~1質量部、光重合開始剤1~5質量部、及び光重合抑制剤0.1~1質量部の割合で混合する紫外線硬化型ニス組成物が挙げられる。
【0053】
[触覚測定装置(触覚センサー)]
本実施形態の触覚定量分析用の標準試料を用いて校正する、触覚を測定する装置(触覚測定装置ということがある)は、測定対象物の触覚を測定(評価)することができれば、特に限定されない。本実施形態に係る触覚測定装置は、触覚センサーであってもよい。
触覚センサーとしては、例えば、後述の実施例で使用した
図3で示す触覚センサーが挙げられる。3軸力覚センサーをステンレス棒の先に取り付け、センサー部分を人工皮革サプラーレあるいはシリコンゴムシートでくるんでステンレス棒に結束バンドで固定する。
3軸力覚センサーはxyz三方向の力を検出することができる。したがって、
図3で示す触覚センサーで本実施形態の標準試料に触れて、粗さと摩擦の指標を得ることができる。この一例の触覚センサーにより、本発明の標準試料の妥当性を検証することができる。
上記の
図3で示す触覚センサーは本発明の検証するために準備した一例である。実際には、上記説明した硬さ、ミクロ粗さ、マクロ粗さ、摩擦、温冷感の五次元の中、少なくとも2次元以上で表現する触覚を測定(評価)できる触覚測定装置(触覚センサー)であれば、本発明の標準試料を使用することができる。
【0054】
[触覚定量分析用の標準試料の特性]
本実施形態の触覚定量分析用の標準試料は、後述の実施例で製造した触覚定量分析用の標準試料のように、ミクロ粗さおよび摩擦からなる二次元で表現した触感を一例として、説明する。本実施形態の触覚定量分析用の標準試料は、上記説明した五次元である、硬さ、ミクロ粗さ、マクロ粗さ、摩擦、温冷感から、少なくとも二次元で表現する触覚であればよく、ミクロ粗さおよび摩擦からなる二次元に限定されない。
本実施形態において、摩擦係数を得る方法は選ばない。摩擦係数を測定する方法は、例えば、トリニティラボ社の多機能型静動摩擦測定器TL201Ttのように従来からある市販の摩擦測定器を用いJIS-K-7125に準拠した摩擦評価が使用できる。標準試料に触れる治具はヒトが感じる摩擦性と相関が高いものが好ましい、例えばトリニティラボ社の指モデル型の触覚接触子が挙げられる。また、本願実施例で製造した標準試料のように、PETフィルム上の塗膜であるならば、テック技販製の触覚フォースプレートのように直接ヒトの手でふれて摩擦を測る方法でもよい。
本実施形態の触覚定量分析用の標準試料は、その動摩擦係数が、3.0以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましい。1.0以下であることが更に好ましい。また、0.1以上であってもよく、0.3以上であってもよい。より具体的には、測定速度50mm/sにおける動摩擦係数であることが好ましい。また、上記動摩擦係数は、下記説明する手の動摩擦係数である場合、その摩擦係数が、2.0以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。1.0以下であることが更に好ましい。また、0.1以上であってもよく、0.2以上であってもよい。より具体的には、測定速度50mm/sにおける動摩擦係数であることが好ましい。
【0055】
また、ミクロ粗さとは、以下のように、算術平均粗Raあるいは算術平均高さSaで評価することができる。本実施形態の触覚定量分析用の標準試料は、その算術平均粗Raあるいは算術平均高さSaが15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。0.1μm以上であってもよい。RaあるいはSaが大きくなりすぎると、触れただけで粗さを感じることができるマクロ粗さの領域となる。
【0056】
<手で触れた際の動摩擦係数(手の動摩擦係数)>
本実施形態では、動摩擦係数は、摩擦子を有する装置を用いて計測するのではなく、ヒトの手で触れて直接計測することにより求める。これにより、人間の指の動きによる触感などを考慮して測定試料から受ける触感を数値化して評価することができるため、よりヒトの触感との相関がよい摩擦データを得ることができる。
【0057】
<<手の動摩擦係数の測定装置(触感検出装置)>>
動摩擦係数の測定方法で用いる測定装置(触感検出装置)としては、測定試料を載置するプレートと、該プレートに掛かる荷重を検出する複数の荷重検出センサーと、該荷重検出センサーを用いて、指が測定試料に接触した際におけるXYZ方向の荷重を検出する荷重算出手段と、複数の荷重検出センサーに掛かる荷重から測定試料に掛かる荷重位置の移動速度を算出する移動状態算出手段とを有する測定装置を用いることができ、例えば、特開2019-144213等に記載の測定装置を用いることができる。
測定装置のより好ましい実施態様として、
図9~
図11で示すような触感検出装置1が挙げられる。
触感検出装置1は、測定試料4の触感を数値化して評価できるようにしたものであって、
図9や
図10に示すように、測定試料4を載置するための平面状のプレート2と、そのプレート2の四隅近傍に設けられた荷重検出センサー3とを備えて構成される。そして、特徴的に、そのプレート2に載置・固定された測定試料4を指で押圧させながらなぞるように移動させる際に、そのプレート2の鉛直方向下向きの荷重とプレート2の平面方向に沿った荷重を検出し、また、四隅近傍に設けられた荷重検出センサー3から指の押圧部分であるCOP(圧中心点:center of pressure)を求める。そして、そのCOPの移動時間から指の移動速度などを検出し、その、鉛直下方向の荷重やプレート 2の平面方向の荷重や移動速度などから、動摩擦係数などを算出して触感を数値化する。
なお、
図9及び
図10中、符号41はプレート2に測定試料4を固定する固定具を示す。また、
図9及び
図10で示される触感検出装置の上面からみると、
図11で示す写真のようになる。
【0058】
<<手の動摩擦係数の測定方法>>
ヒトの手で触れる計測である以上、測定結果のブレが生じる可能性がある。このため、幅広い年代と性別の複数人の実験者が触れた結果を平均化することが好ましい。実験者の数に上限はないが、5人以上の実験者のデータを平均化することが好ましい。また、印加する垂直荷重、触れる速度、どの指でなぞるかなどの触れ方も統一したほうが好ましく、たとえば速度50mm/s、垂直荷重200gで手のひらでなぞるといった事前教示を行なったうで、本計測の前に材料に触れる練習を十分行うことが望ましい。
【0059】
材料を手に触れた際の座標、あるいは触れた変位から、単位時間を除して触れる際の速度が得られる。また、触れた際の水平荷重を垂直荷重で除して触れる際の摩擦係数が得られる。事前教示を行ったとしても、ヒトの手で触れる以上様々の速度と垂直荷重における摩擦の値が得られる。そのため、特定の速度と垂直荷重における摩擦係数に着目することが好ましく、たとえば速度50mm/s、垂直荷重200gにおける摩擦係数の値を全被験者で集約して平均化した値を求めることが好ましい。
【0060】
<ミクロ粗さの測定>
本実施形態の触覚定量分析用の標準試料の表面(塗工面)の粗さを測る方法は特に限定されなく、広い領域を測定する方法が好ましい。その観点から、接触式粗さ計を使用する方法が好ましい。また、基材が平板ではなく、そのため、塗工面が曲面の場合は輪郭測定器が使用できる。レーザー顕微鏡や白色干渉顕微鏡を使用する場合はJIS B0601及びJIS B0633に準拠して測定長さを確保できる像を撮影する測定方法で使用してもよい。
【0061】
(触覚定量分析用の標準試料の製造方法)
本発明の一実施形態の触覚定量分析用の標準試料の製造方法(本実施形態の標準試料の製造方法ということがある)は、以下の2つの工程を含む。
工程1:測定対象物に合わせて、前記基材を選択し、前記基材の少なくとも1面において、前記バインダ樹脂組成物を塗布する工程。
工程2:前記基材に塗布したバインダ樹脂組成物を硬化する工程。
上記測定対象物が平板状のものである場合、前記基材としては、例えば、ガラス基板、シリコン基板、樹脂基板等が挙げられる。前記樹脂基板としでは、例えばPETフィルム、ポリイミドフィルム、アクリル板などが挙げられる。
上記本実施形態に係るバインダ樹脂組成物が紫外線硬化型ニス組成物である場合、前記紫外線硬化型ニス組成物を用いて、例えば、厚さ20~200μmのPETフィルムに乾燥塗膜量が4~6g/m
2になるようにバーコーターにて塗布し、70~120℃/5秒間乾燥加熱して可塑溶剤を揮発させた後、フュージョンUVシステムズ社製UV照射装置にて積算光量300mJ/cm
2にて硬化させ、本実施形態の触覚定量分析用の標準試料を製造することができる。
本実施形態の標準試料の製造方法で得た触覚定量分析用の標準試料は有機/無機フィラーと硬化性樹脂からなるバインダーニスの塗工/塗装物からなる(
図1)。これを様々な基材に塗ることができる。上記ではバーコーターによる塗布ではなくスプレー塗装でも構わない。基材がPETフィルムのような平板状の基材であってもよく、三次元形状をもった基材でもかまわない。また、上記本実施形態に係るバインダ樹脂組成物が熱硬化型ニス組成物である場合、前記熱硬化性樹脂を硬化する方法は熱硬化でもよい。
【0062】
本実施形態の標準試料の製造方法で、粗さと摩擦の鍵を握るのは有機ビーズ及び/又は無機ビーズからなるフィラーである。フィラーのサイズが大きく、量が多いと粗さが高くなる。また、有機ビーズとして柔らかいものを使用すると摩擦が高くなる影響がある。一方、塗工・印刷・塗装を行いやすい観点から、サイズが大きすぎるフィラー(例えば、50μm以上)や大量のフィラー(例えば、50wt%以上)を入れない方が好ましい。したがって、表現できるミクロ粗さはRaやSaとして15μm以下となることが好ましい。
【0063】
また、上記本実施形態に係るバインダ樹脂組成物が紫外線硬化型ニス組成物である場合、光重合開始剤と光重合抑制剤の比率をコントロールして、硬化膜の硬さを変えることができる。すなわち、開始剤が多すぎると重合度が低くなり硬化膜は柔らかくなる。また、抑制剤が多すぎると硬化が十分に進行しない可能性もある。硬化膜が柔らかいと動摩擦係数が高くなる傾向にある。一方、粗さは変わらない。
かかる方法で、粗さと摩擦の水準を変えた塗工物を複数作成することができる(
図2)標準試料は粗さで最低3水準、摩擦で最低3水準あれば触覚センサーの校正が可能であるため、好ましい。もちろん数が多いほど校正精度は高くなるため、より好ましい。
【0064】
(触覚定量分析用の標準試料のセット)
本発明の一実施形態の触覚定量分析用の標準試料セットは、上記触覚定量分析用の標準試料を6個以上含み、9個以上含むことが好ましい。上限としては、特に制限がなく、通常の定量分析では、例えば、100個以下であってもよい。また、機械学習データを作成用の標準試料の場合、500個以下でもよい。
上記説明した硬さ、ミクロ粗さ、マクロ粗さ、摩擦、温冷感の五次元の中、例えば、後述の実施例のように、2次元で表現する触覚を測定(評価)できる触覚測定装置(触覚センサー)を使用する場合、本実施形態の標準試料のセットは、6個以上を含む。例えば、第一次元で2水準以上、第二次元で3水準以上、合計6個の標準試料があれば、触覚センサーの校正が可能である。上記6個の標準試料は、例えば、以下である。
【0065】
(第一次元水準A1,第二次元水準B1)、(第一次元水準A1,第二次元水準B2)、(第一次元水準A1,第二次元水準B3)
(第一次元水準A2,第二次元水準B1)(第一次元水準A2,第二次元水準B2)(第一次元水準A2,第二次元水準B3)
【0066】
好ましく、第一次元で3水準以上、第二次元で3水準以上で、合計9個の標準試料があれば、触覚センサーの校正が可能である。例えば、第一次元で3水準以上、第二次元で3水準以上、合計9個の標準試料があれば、触覚センサーの校正が可能である。上記9個の標準試料は、例えば、以下である。
(第一次元水準A1,第二次元水準B1)、(第一次元水準A1,第二次元水準B2)、(第一次元水準A1,第二次元水準B3)
(第一次元水準A2,第二次元水準B1)(第一次元水準A2,第二次元水準B2)(第一次元水準A2,第二次元水準B3)
(第一次元水準A3,第二次元水準B1)(第一次元水準A3,第二次元水準B2)(第一次元水準A3,第二次元水準B3)
【0067】
本実施形態の触覚定量分析用の標準試料セットに含まれている標準試料の個数は、触覚測定装置(触覚センサー)で測定する触感の次元数に合わせて調整することが好ましい。例えば、触感の次元数がn次元の場合、標準試料セットの個数は、3xn以上であることが好ましく、5xnであることがより好ましい。3のn乗(3n)以上であることが更に好ましい。すなわち、一次元毎、少なくとも3つの水準を含む標準試料を有することが、校正精度は高くなる。
【0068】
後述の実施例では、上記に説明したように、第一次元の粗さと第二次元の摩擦で表現する触感を測定する触感センサーを使用した。その触感センサーに対応する、本実施形態の触覚定量分析用の標準試料セットの具体例は、第一次元の粗さで3水準、第二次元の摩擦で3水準、合計3の2乗(3
2)=9個の標準試料を有する(
図2)。二次元で表現する触感を測定する触覚センサーの校正が可能である。
【0069】
(触覚定量分析方法)
本発明の一実施形態の触覚定量分析方法(本実施形態の触覚定量分析方法)は、触覚定量分析用の標準試料を用いて、触覚を定量分析する方法である。少なくとも、以下の工程を含む。
工程I:前記測定対象物に合わせて、前記基材を選択し、前記基材に前記バインダ樹脂組成物により形成された層を形成して、触覚定量分析用の標準試料を製造する工程。
工程II:上記得られた触覚定量分析用の標準試料を用いて、定量分析をする工程。
前記バインダ樹脂組成物が少なくとも3種以上を用いて、それぞれの触覚定量分析用の標準試料を製造することを特徴とする触覚を定量分析する方法。
【0070】
(触覚測定システム)
本発明の一実施形態の触覚測定システム(本実施形態の触覚測定システム)は、触覚を測定する手段と、触覚を校正する手段とを備える。前記触覚を校正する手段は、上記本実施形態の触覚定量分析用の標準試料を用いて、測定した触覚の値を校正する。
本実施形態の触覚測定システムにおける前記触覚を校正する手段は、2次元以上の触覚要素を測定できる手段であることが好ましい。2次元以上の触覚要素とは、例えば、硬さ、ミクロ粗さ、マクロ粗さ、摩擦、温冷感の五次元の中、任意の2次元の組み合わせの意味である。
前記触覚を測定する手段は、公知の種々の触覚測定装置などが挙げられる。この触覚装置としては、例えば、表面粗さを測定する手段および摩擦係数を測定する手段等を備える触覚測定装置等が挙げられる。表面粗さを測定する手段としては、例えば、特表2013-528794に記載した表面粗さ測定装置で示す表面粗さ測定手段が挙げられる。摩擦を測定する手段としては、例えば、カトーテック社のKES-SE摩擦感テスターが挙げられる。粗さと摩擦を測定する手段としては、例えば、カトーテック社のKES-SESRU粗さ/摩擦感テスターが挙げられる。
ここで、2次元以上の触覚要素を測定できる手段は、例えば、2次元以上の触覚要素を測定できる1つの装置であってもよく、あるいは、それぞれの触覚要素を単独に測定できる複数装置を備えるシステムであってもよい。
【実施例0071】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。また、以下の実施例の組成物における「%」は「質量%」を意味する。
【0072】
(触覚定量分析用の標準試料を製造する用原料)
・ウレタンアクリレート(A):DIC株式会社製ルクシディア(Tg:50℃)
・2官能エポキシ樹脂(B):DIC株式会社製エピクロン
・フィラー(C)
・ウレタン樹脂ビーズ:根上工業社製、アートパール、粒子径:6μm、15μm、36μm
・アクリル樹脂ビーズ:根上工業社製、アートパール、粒子径:6μm、15μm、32μm
・ナイロン樹脂ビーズ:アルケマ社製、オルガゾール、粒子径:6μm、40μm
・ポリエチレンワックス:クラリアント社、セリダスト、粒子径:8μm
・シリコーン:信越化学工業社製、KFシリーズ
・光ラジカル重合開始剤:株式会社ADEKA製、アデカアークルズ
・光重合抑制剤 :東京化成工業社製、光重合抑制剤
【0073】
(手の動摩擦係数の測定)
株式会社テック技販社の触覚フォースプレートTF-2020-GVSの装置を用いて、ヒトが手で触れて計測した際の動摩擦係数を求めた。20~50代の男性女性8名が標準試料を自らの手で撫でた際の垂直荷重200g速度50mm/sにおける動摩擦係数を取得し、それを8名の被験者で平均化したものを用いた。
【0074】
(粗さの測定)
接触式粗さ計(東京精密製 SURFCOM NEX)を使用してJIS B0601及びJIS B0633に準拠して測定した。標準試料の乾燥塗面の算術平均粗さRaを得た。
【0075】
(触覚センサー)
「触覚センサーA:人工皮革使用」
実施例で使用した触覚センサーとして
図3のものを作成した。テック技販製の3軸力覚センサーUSL06-H5を直径30mm高さ70mmのステンレス棒(390g)の先に取り付け、センサー部分を人工皮革サプラーレ(出光テクノファン製)でくるんでステンレス棒に結束バンドで固定した。
【0076】
「触覚センサーB:シリコンゴム使用」
シリコンゴムシート(十川ゴム)でくるんでステンレス棒に結束バンドで固定した以外は、触覚センサーAと同様に触覚センサーBを製造した。
【0077】
上記触覚センサーA又は触覚センサーBを用いて、実施例と比較例で作成した本実施形態の標準試料を測定した。3軸力覚センサーはxyz三方向の力を検出することができる。したがって、本触覚センサーで本実施形態の標準試料に触れて、粗さと摩擦の指標を得ることができる。これにより、本発明の標準試料の妥当性を検証することができる。
【0078】
(実施例1-7)
「触覚定量分析用の標準試料の製造」
実施例1-7は、表1の原料を配合後、分散撹拌機にて3000rpmの回転数で3分間撹拌してニス組成物を作成した。
【0079】
【0080】
上記ニス組成物を東洋紡社製厚さ50μmのPETフィルムE-5102に乾燥塗膜量が4~6g/m2になるようにバーコーターにて塗布し、100℃/5秒間乾燥加熱して可塑溶剤を揮発させた後、フュージョンUVシステムズ社製UV照射装置にて積算光量300mJ/cm2にて硬化させ、実施例1-7の標準試料を得た。
各実施例の標準試料を、上記記載した評価方法で、粗さRaおよび手の動摩擦係数を測定し、表2に示す。
【0081】
【表2】
*触感センサーA:人工皮革を使用した。
触感センサーB:シリコンゴムを使用した。
【0082】
当実施例で得た触覚定量分析用の標準試料は有機/無機フィラーと硬化性樹脂からなるバインダーニスの塗工/塗装物からなる(
図1)。これを様々な基材に塗ることができる。上記ではバーコーターによる塗布ではなくスプレー塗装でも構わない。基材をPETとしたが成形物や三次元形状をもったものでもかまわない。また、硬化性樹脂を硬化する方法はUV硬化だけでなく熱硬化でもよい。
【0083】
「触覚センサーをつかった標準試料の評価」
実施例1-7の標準試料の塗膜に上記作製した触覚センサーAを設置し、これを10mm/sの速度で動かして時間に対するxyz三方向の力Fx,Fy,Fzを得た。FxとFyから水平方向の力を(Fx
2+Fy
2)
1/2で算出し、これをFzで割ると摩擦係数となる。
実施例1における時間と摩擦係数のグラフを
図4に示す。摩擦の指標である動摩擦係数、粗さの指標としてStick-Slipを得た。Stick-Slipは試料に触れているときのガタガタ感を表すものであり、Raなどの粗さパラメータと高い相関を示す。
図4を例に取ると1000-4000msの摩擦係数の平均の値を動摩擦係数として得て、1.68であった。また、1000-4000msの摩擦係数の標準偏差の値をStick-Slipとして得て、0.030であった。実施例1-7の結果については表2に示す。
「Stick-Slip」については、例えば、以下の非特許文献Aで詳細な説明が記載されている。
【0084】
[非特許文献A]江川麻里子ら、皮膚表面摩擦特性と感触評価、J Soc. Cosmet. Chem. Jpn. 2003, Vol. 37, Pages 187-194
【0085】
Stick-Slipは静止摩擦力が作用する固着状態と動摩擦力が作用するすべり状態が接着面に交番的に現れる現状で、ビビり感ともいわれる。上記文献ではKESシステムで評価したStick-Slip(摩擦係数の平均偏差(MMD))を用いてしっとりなどの触感に関する感性語の分別を行っている。
【0086】
粗さRaと摩擦の鍵を握るのはフィラーである。フィラーのサイズが大きく、量が多いと粗さが高くなる。また、樹脂やフィラーとして柔らかいものを使用すると摩擦が高くなる影響がある。製法の限界として、塗工・印刷・塗装によるもののため、サイズが大きすぎるフィラー(約100μm以上)や大量のフィラー(約50wt%)を入れることはできない。したがって、表現できるミクロ粗さはRaやSaとして15μm以下となる。
光重合開始剤と光重合抑制剤の比率をコントロールして、硬化膜の硬さを変えることができる。すなわち、開始剤が多すぎると重合度が低くなり硬化膜は柔らかくなる。また、抑制剤が多すぎると硬化が十分に進行しない可能性もある。硬化膜が柔らかいと動摩擦係数が高くなる傾向にある。一方、粗さは変わらない。
かかる方法で、粗さと摩擦の水準を変えた塗工物を複数作成することができる(
図2)。標準試料は粗さで最低3水準、摩擦で最低3水準あれば触覚センサーの校正が可能である。もちろん数が多いほど校正精度は高くなる。
【0087】
「触覚センサーをつかった標準試料の評価」
実施例1-7の標準試料塗膜のRaを、当該標準試料塗膜を人工皮革の触覚センサーAでなぞった際のStickSlipで対数プロットした結果を
図5に示す。
また、実施例1-7の標準試料塗膜の手の動摩擦係数を、当該標準試料塗膜を人工皮革の触覚センサーAでなぞった際の動摩擦係数で対数プロットした結果を
図6に示す。
実施例1-7の標準試料塗膜は
図5と
図6の直線上にのっており、実材料の粗さと摩擦の物性値と触覚センサーによる粗さと摩擦の物性値において単純な関係性を把握でき、人工皮革を用いた触覚センサーの標準試料として利用できることがわかる。
【0088】
(実施例8-12)
「触覚定量分析用の標準試料の製造」
実施例8-12は、表1の原料を配合後、分散撹拌機にて3000rpmの回転数で3分間撹拌してニス組成物を作成した。
【0089】
上記の製造した触覚定量分析用の標準試料に対して、触覚センサーBを用いた以外は、実施例1と同様な方法で、実施例8-12で得られた標準試料の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0090】
「触覚センサーをつかった標準試料の評価」
実施例8-12の標準試料塗膜のRaを、当該標準試料塗膜をシリコンゴムの触覚センサーBでなぞった際のStickSlipで対数プロットした結果を
図7に示す。
また、実施例8-12の標準試料塗膜の手の動摩擦係数を、当該標準試料塗膜をシリコンゴムの触覚センサーBでなぞった際の動摩擦係数で対数プロットした結果を
図8に示す。
実施例8-12の標準試料塗膜は
図7と
図8の直線上にのっており、実材料の粗さと摩擦の物性値と触覚センサーによる粗さと摩擦の物性値において単純な関係性を把握でき、シリコンゴムを用いた触覚センサーの標準試料として利用できることがわかる。
このように、どのような素材の触覚センサーであっても、本発明で作成する標準試料を組み合わせれば触覚センサーの粗さと摩擦の検定や校正が可能となる。
【0091】
「校正データを使った触覚センサーによる未知試料の評価」
未知試料として以下を使用し、上記で校正した触覚センサーAと触覚センサーBを用いてなぞり、動摩擦係数とStickSlipを得た(表3)。
【0092】
【表3】
光沢紙:市販のもの
紙やすり:トラスコ中山製 耐水ペーパー#2000
ピーチフィール: DIC製 ピーチフィールニスを光沢紙に塗工
【0093】
また、上記未知試料のRaと手でなぞった際の動摩擦係数を実施例と同じ手法にて得た。
【0094】
上記未知試料の触覚センサーAでなぞった際のStickSlipをRaに対してプロットした結果を
図5に、触覚センサーAでなぞった際の動摩擦係数を手の動摩擦係数に対してプロットした結果を
図6に示す。上記未知試料の触覚センサーBでなぞった際のStickSlipをRaに対してプロットした結果を
図7に、触覚センサーBでなぞった際の動摩擦係数を手の動摩擦係数に対してプロットした結果を
図8に示す。
未知試料のデータは標準試料の検量線上にのっており、本発明で作成した標準試料で校正すればどのような触覚センサーでも未知試料のミクロ粗さと摩擦を評価することができる。
【0095】
(考察)
図5-8に示す通り、本発明の標準試料群と定量分析法を用いることでどのような素材の触覚センサーでも粗さと摩擦の校正が可能であり、かつ未知試料を当該触覚センサーでなぞった際にも粗さと摩擦の評価が可能である。本実施では、硬軟、ミクロ粗さ、マクロ粗さ、摩擦、温冷の知覚触覚の5次元の中でミクロ粗さと摩擦の2次元を対象としたが、他の次元のもの、あるいは3次元などの多次元でも利用可能である。
本実施形態の触覚定量分析用の標準試料および触覚の定量分析は触覚センサーの校正に使われる。触覚センサーは触れた部分の力や変位を読み取って硬軟、粗さ、摩擦に変換したり、温冷感の評価が可能であり、主としてロボットに装着される。このロボットは医療や介護、物量用途への応用展開がある。本発明により、触覚センサー向けの標準試料が安価で大量に生産でき、かつ摩擦とミクロ粗さのように知覚触覚の多軸評価が一度に可能となる。