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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010075
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 37/14 20060101AFI20250109BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20250109BHJP
   C08J 7/12 20060101ALI20250109BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
B32B37/14 Z
B32B15/08 A
C08J7/12 CFC
C08J7/00 306
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024106501
(22)【出願日】2024-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2023108963
(32)【優先日】2023-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物:KISTEC ANNUAL REPORT 2022 発行者:地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所 発行日:令和4年7月6日
(71)【出願人】
【識別番号】506128754
【氏名又は名称】京浜光膜工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】和泉 誠義
(72)【発明者】
【氏名】中村 圭汰
(72)【発明者】
【氏名】平原 英俊
(72)【発明者】
【氏名】桑 静
【テーマコード(参考)】
4F073
4F100
【Fターム(参考)】
4F073AA01
4F073BA22
4F073BB01
4F073CA01
4F073CA62
4F073EA01
4F073EA64
4F073EA77
4F100AB01C
4F100AB17
4F100AH01B
4F100AH03
4F100AH06
4F100AH06B
4F100AK01A
4F100AK53
4F100BA03
4F100BA07
4F100EH66
4F100EH66C
4F100EH71
4F100EH71C
4F100EJ12A
4F100EJ14A
4F100EJ52
4F100EJ52A
4F100EJ67
4F100EJ67B
4F100JK06
(57)【要約】
【課題】乾式めっきにおいて、基材表面の粗化を必要とせずに、樹脂基材と金属層との密着性に優れた積層体を製造することのできる方法を提供する。
【解決手段】 樹脂を含有する組成物からなる基材と、前記基材上に設けられる金属層とを備える積層体の製造方法であって、前記基材の表面にシランカップリング剤を処理する工程と、前記シランカップリング剤が処理された面に、乾式めっきにより前記金属層を形成する工程と、を備える積層体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含有する組成物からなる基材と、前記基材上に設けられる金属層とを備える積層体の製造方法であって、
前記基材の表面にシランカップリング剤を処理する工程と、
前記シランカップリング剤が処理された面に、乾式めっきにより前記金属層を形成する工程と、
を備える積層体の製造方法。
【請求項2】
前記乾式めっきがスパッタリング法である、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
プラズマ処理、酸処理および塩基処理からなる少なくとも1つにより、前記基材の表面を改質する工程を備え、
前記表面を改質した後、前記シランカップリング剤を処理する、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記シランカップリング剤が、芳香族6員環と、1または2のアルコキシシリル基と、1または2の樹脂反応性官能基とを分子内に有する、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記芳香族6員環がトリアジン環である、請求項4に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂含有組成物からなる基材と、基材上に設けられる金属層とを備える積層体の製造方法に関するものであり、特に、基材と金属層との密着性に優れた積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無機材料や高分子材料の成形品の基材表面に、立体的に導体配線を形成したMID(Molded Interconnect Device、三次元成形回路部品)への需要が高まっている。三次元成形回路部品の例として、電子機器の回路基板や、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂上に金属めっきが施された車両用の部材などがある。
【0003】
三次元成形回路部品は異なる材料が接合された複合材料であるため、異なる材料同士の密着性は重要な特性であり、密着性を向上させるための改良が試みられている。例えば、密着性を向上させるための方法として、基材表面を粗面化することで微細な凹凸を形成し、その上に導体配線を形成するものが提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、基材表面の凹凸は、信号の伝達ロスや発熱の原因となるため高周波特性の妨げとなり、また導体配線の微細なパターンを形成しにくくなるため高密度化が困難となる。
近年、MIDに対する高周波特性、高密度化がますます求められており、基材表面の平滑化と密着性との両立が望まれている。
【0004】
上記の問題に対して、例えば、基材の表面を粗化せずに密着性を高める技術として、0等のプラズマを基材に照射してその表面に官能基を導入することにより、基材表面を改質する技術が知られている。しかし、プラズマ処理においては導入される官能基が少ないことなどから、プラズマ処理のみでは密着性の向上に限界があった。
【0005】
また、基材の表面を粗化せずに他の材質との密着性を高める技術の他の例として、基材の表面に反応性を付与できる化合物(反応性付与化合物)を設ける方法が提案されている(例えば、特許文献2)。かかる反応性付与化合物は、加水分解してシラノール基を生じるアルコキシシリル基と、樹脂と反応可能なジアゾメチル基等の官能基とを有しており、かかる反応性付与化合物を樹脂に反応させると樹脂の表面にアルコキシシリル基(または加水分解して生じるシラノール基)が付与されることとなる。そして、かかるアルコキシシリル基(またはシラノール基)は、無電解めっきにおける触媒を担持することができるため、無電解めっき(さらには電解めっき)により形成された銅薄膜と樹脂との間の密着性を向上させることができることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-230524号公報
【特許文献2】特開2020-143007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高周波特性、高密度化が求められる三次元成形回路部品は、湿式めっき(無電解めっき、電解めっき)により、樹脂基材の表面に金属薄膜を成膜する方法が主流である。しかし、湿式めっきは、処理液や処理後廃水の管理において課題が大きい場合があった。また、電解めっきは膜厚の制御や複雑な形状の形成が困難という課題があり、電解めっきはこのような課題がない代わりに効果で処理に時間がかかるという課題があった。
これに対し、乾式めっきは、金属層の成膜制御が容易であるという利点を有するものの、基材(樹脂)と金属層との密着性に課題があり、基材表面の粗化を必要とせずに密着性を向上させる方法が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、乾式めっきにおいて、基材表面の粗化を必要とせずに、樹脂基材と金属層との密着性に優れた積層体を製造することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記問題を解決すべく研究を行った結果、無電解めっきにおいて触媒を担持するために用いられていたシランカップリング剤が、意外にも、乾式めっきで形成した金属層と樹脂基材との密着性を向上させることを見出し、本発明を完成させた。具体的には、本発明は以下のとおりである。
【0010】
〔1〕 樹脂を含有する組成物からなる基材と、前記基材上に設けられる金属層とを備える積層体の製造方法であって、
前記基材の表面にシランカップリング剤を処理する工程と、
前記シランカップリング剤が処理された面に、乾式めっきにより前記金属層を形成する工程と、
を備える積層体の製造方法。
〔2〕 前記乾式めっきが、スパッタリング法である、〔1〕に記載の積層体の製造方法。
〔3〕 プラズマ処理、酸処理および塩基処理からなる少なくとも1つにより、前記基材の表面を改質する工程を備え、
前記表面を改質した後、前記シランカップリング剤を処理する、〔1〕に記載の積層体の製造方法。
〔4〕 前記シランカップリング剤が、芳香族6員環と、1または2のアルコキシシリル基と、1または2の樹脂反応性官能基とを分子内に有する、〔1〕に記載の積層体の製造方法。
〔5〕 前記芳香族6員環がトリアジン環である、〔4〕に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、乾式めっきにおいて、基材表面の粗化を必要とせずに、樹脂基材と金属層との密着性に優れた積層体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法は、樹脂を含有する組成物からなる基材と、基材上に設けられる金属層とを備える積層体の製造方法であって:基材の表面にシランカップリング剤を処理する工程と;シランカップリング剤が処理された面に、乾式めっきにより金属層を形成する工程と;を備えるものである。
【0013】
(基材)
本実施形態で用いる基材は、樹脂を含有する組成物からなるものである。かかる樹脂としては、特に制限されないが、例えば:
エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂;
ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のエンジニアリングプラスチック;
非晶ポリアリレート(PAR)、ポリサルフォン(PSF)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、液晶ポリマー(LCP)等のスーパーエンジニアリングプラスチック;
などを好適に例示することができる。これらの樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
ここで、本明細書において「エンジニアリングプラスチック」とは、ASTM D648の規格で測定した荷重たわみ温度が100℃以上、ASTM D638の規格で測定した引張強度が49MPa以上、ASTM D790の規格で測定した曲げ弾性率が2.4GPa以上であるプラチックをいう。
また、本明細書において「スーパーエンジニアリングプラスチック」とは、連続使用温度が150℃以上であるエンジニアリングプラスチックをいう。ここで、連続使用温度とは、UL規格のUL746Bに規定される耐熱性の規格であり、40,000時間一定の温度の大気中に放置した場合、その物性値が初期値の50%劣化した温度をいう。
【0015】
樹脂含有組成物における樹脂の含有量は、例えば、50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、95質量%以上とすることができる。
【0016】
基材を構成する樹脂含有組成物は、前述した樹脂に加えて、充填材、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、可塑剤、難燃剤、可塑剤、離型剤、帯電防止剤及び着色剤などの他の成分を更に含有してもよい。
【0017】
また、基材の形状は特に限定されず、フィルム状、板状(樹脂基材)、立体成形物、またはこれらの多層構造体であってもよい。
【0018】
(表面改質工程)
本実施形態においては、基材の表面を親水性に改質する工程を備えてもよい。
基材に含まれる樹脂、なかでもスーパーエンジニアリングプラスチックは、親水性が低いものがある。この場合、基材の表面の親水性も低いものとなり、後述するシランカップリング剤の処理方法によっては、当該処理の効率が低くなってしまう場合がある。このような場合、基材の表面を親水性に改質する工程を備えることで、シランカップリング剤の処理効率を向上させることができる。
【0019】
基材の表面を改質する方法としては、Oプラズマ、大気プラズマ、Nプラズマ、Arプラズマ等を基材に照射するプラズマ処理;酸溶液に基材を浸漬する酸処理;塩基溶液に基材を浸漬する塩基処理;などを例示することができる。
これらの中でも、基材の表面の平滑性を損なわずに改質する観点から、Oプラズマ処理、大気プラズマ処理が好ましい。
【0020】
なお、Oプラズマ処理を行う場合の条件としては、例えば、5~40sccmにて0.5~30分間の処理とすることができる。
【0021】
(シランカップリング剤)
本実施形態で用いるシランカップリング剤は、アルコキシシリル基またはシラノール基と、樹脂反応性官能基と、を分子内に有する化合物である。典型的には、以下の一般式(1)で表される。
(RO)3-nSi-L-X・・(1)
式(1)中、RはC1~6アルキル基;RはH、C1~6アルキル基又はC1~6アルコキシC1~6アルキル基;Xは樹脂反応性官能基;Lは連結基;を表し、nは0、1または2である。
【0022】
なお、上記式(1)で表される化合物は、-SiR (OR3-nで表される官能基を分子内に複数有するものを包含する。また、上記式(1)で表される化合物は、樹脂反応性官能基を分子内に複数有するものを包含する。
【0023】
上記式(1)におけるアルコキシシリル基(上記式(1)中の-SiR (OR3-n;RがC1~6アルキル基又はC1~6アルコキシC1~6アルキル基)は、加水分解してシラノール基を生じる。
上記式(1)中、Rは、好ましくはメチル基であり;Rは、好ましくはメチル基、エチル基または2-メトキシエチル基であり;nは、好ましくは0である。
【0024】
樹脂反応性官能基は、樹脂と反応して共有結合を形成し得る官能基である。かかる官能基としては、例えば、アミノ基(-NH)、ビニル基(-CH=CH)、(メタ)アクリロキシ基(-OCOCH=CHまたは-OCOC(CH)=CH)、イソシアネート基(-N=C=O)、ジアゾメチル基(-CHN)、アジド基(-N)、メルカプト基(-SH)、ウレイド基(-NHCONH)、グリシドキシ基(-OCHCHOCH)、エポキシ基(-CHOCH)などを例示することができる。
なお、これらの樹脂反応性官能基は、塩を形成していてもよい。
【0025】
連結基は、アルコキシシリル基またはシラノール基と、樹脂反応性官能基と、を連結する任意の基である。
【0026】
上記シランカップリング剤の好ましい例として、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタ(アクリロキシ)プロピルトリエトキシシラン、3-メタ(アクリロキシ)プロピルメチルジエトキシシラン、3-メタ(アクリロキシ)プロピルトリメトキシシラン、3-メタ(アクリロキシ)プロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、等が挙げられる。
【0027】
上記シランカップリング剤の他の好ましい一例として、芳香族6員環と、1または2のアルコキシシリル基と、1または2の樹脂反応性官能基とを分子内に有するものを好適に挙げることができる。ここで、芳香族6員環は、上記式(1)における連結基Lに含まれるものである。
芳香族6員環は、具体的には:ベンゼン環;トリアジン環等の複素環;が挙げられ、トリアジン環であることが好ましく、1,3,5-トリアジン環であることが特に好ましい。
【0028】
また、かかるシランカップリング剤においては、1または2のアルコキシシリル基と、1または2の樹脂反応性官能基とが、互いに対向するように芳香族6員環に連結されていることが好ましい。ここで、「互いに対向するように芳香族6員環に連結されている」とは、アルコキシシリル基および樹脂反応性官能基が、下記の一般式(2)~(5)で表されるように芳香族6員環に連結されていることを意味する。
【0029】
一般式(2):1のアルコキシシリル基と1の樹脂反応性官能基とが互いに対向するように芳香族6員環に連結されている場合。
【化1】
【0030】
式(2)中、RはC1~6アルキル基又はC1~6アルコキシC1~6アルキル基;LおよびLはそれぞれ独立に、存在しないか、任意の連結基;を表し、R、Xおよびnは上記式(1)と同様である。なお、式(2)においては、芳香族6員環をベンゼン環で示しているが、前述したように芳香族6員環はトリアジン環等の複素環であってもよい。
【0031】
一般式(3):1のアルコキシシリル基と2の樹脂反応性官能基とが互いに対向するように芳香族6員環に連結されている場合。
【化2】
【0032】
一般式(4):2のアルコキシシリル基と1の樹脂反応性官能基とが互いに対向するように芳香族6員環に連結されている場合。
【化3】
【0033】
一般式(5):2のアルコキシシリル基と2の樹脂反応性官能基とが互いに対向するように芳香族6員環に連結されている場合。
【化4】
【0034】
式(3)~(5)中の定義は式(2)と同様である。
一般式(2)~(5)で表されるシランカップリング剤は、アルコキシシリル基と樹脂反応性官能基とが互いに対向するように芳香族6員環に連結されているため、樹脂反応性官能基が基材表面(の樹脂)と結合すると、アルコキシシリル基(または加水分解して生じたシラノール基)が、基材の表面に規則的に配置されやすく、また基材に対して垂直に近い形で配向されやすい。これにより、後述する乾式めっきにより金属層を形成したときに、高平滑な金属層を形成しやすくなる。
【0035】
シランカップリング剤は、より好ましくは、下記の一般式(6)または(7)で表される化合物である。
【0036】
【化5】
【0037】
【化6】
【0038】
式(6)および(7)中、Lは、-R(R)N-または-RS-であり、RがSiと結合し、NまたはSが1,3,5-トリアジン環と結合している。Rは、C1~12炭化水素基であり;Rは、H、C1~12の炭化水素基、または-R-SiR (OR3-nであり、Rは、C1~12炭化水素基である。
X’は、メルカプト基、アミノ基、2-アミノエチルアミノ基(-NH(CHNH)、アジド基またはジアゾメチル基であり、これらは塩を形成していてもよい。
、Rおよびnは上記式(2)と同様である。
【0039】
かかるシランカップリング剤の特に好ましい具体例としては、例えば、下記式(8)~(11)で表される化合物が挙げられる。なお、これらの化合物はいずれもいおう化学研究所社から市販されている。
【0040】
式(8):N,N’-ビス(2-アミノエチル)-6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン(aTESとも呼ぶ);
【化7】
【0041】
式(9):6-(3-トリエトキシシリルプロピルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールモノナトリウム塩(nTESとも呼ぶ);
【化8】
【0042】
式(10):6-(3-トリエトキシシリルプロピルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアジド(pTESとも呼ぶ);
【化9】
【0043】
式(11):2,4-ビス[(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ]-6-ジアゾメチル-1,3,5-トリアジン(PC1とも呼ぶ);
【化10】
【0044】
(シランカップリング剤処理工程)
本工程は、上記のシランカップリング剤を、基材の表面に処理する工程である。
シランカップリング剤を処理する方法は、特に限定されない。例えば、シランカップリング剤溶液を基材に接触させる方法が挙げられ、より具体的には、シランカップリング剤溶液に基材を浸漬してもよく、また、シランカップリング剤溶液を基材に塗布してもよい。なお、シランカップリング剤溶液は、シランカップリング剤を分散させた分散液を含むものであり、以下も同様である。
【0045】
シランカップリング剤溶液に用いられる溶媒(分散媒を含む)は、シランカップリング剤を均一に溶解または分散させるものであれば特に限定されないが、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類;塩化メチレンなどのハロゲン化物;ブタン、ヘキサンなどのオレフィン類;テトラヒドロフラン、ブチルエーテルなどのエーテル類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族類;ジメチルホルムアミド、メチルピロリドンなどのアミド類;など、を使用することができる。また、これらの各種溶媒を混合した混合溶媒であってもよい。
【0046】
シランカップリング剤溶液におけるシランカップリング剤の濃度は、例えば、0.01質量%~2質量%とすることができ、0.03~0.5質量%とすることがさらに好ましく、0.05~0.3質量%とすることが特に好ましい。上記範囲にあることにより、基材表面を十分に被覆することができ、さらに1分子で基材表面を被覆することができるため、被覆表面の粗化や凹凸化が起こりにくく、かつ十分な接合力を得やすくなる。
【0047】
なお、シランカップリング剤溶液には、シランカップリング剤以外にも、例えば、安定剤、重合防止剤、光劣化防止剤等の各種成分を含んでもよい。
【0048】
基材をシランカップリング剤溶液に浸漬する場合、浸漬時間は1秒以上とすることができ、30秒以上であることが好ましく、3分以上であることがより好ましい。浸漬時間の上限は特に限定されないが、例えば60分以下とすることができ、さらには10分以下とすることができる。
【0049】
また、シランカップリング剤溶液の温度は、例えば、10~60℃とすることができ、さらには15~40℃とすることができる。
【0050】
シランカップリング剤における樹脂反応性官能基が、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ウレイド基、グリシドキシ基、エポキシ基等である場合には、シランカップリング剤溶液を基材に接触させ、必要に応じて未反応のシランカップリング剤を洗浄除去した後、80~200℃にて1~10分間の加熱処理を行うことにより、上記官能基と樹脂との接合反応をさらに促進することもできる。
【0051】
また、シランカップリング剤における樹脂反応性官能基が、ジアゾメチル基、アジド基、ビニル基、(メタ)アクリル基等である場合には、シランカップリング剤溶液を基材に接触させた後、光を照射することにより、上記官能基と樹脂との接合反応を促進してもよい。光照射の後、さらに必要に応じて未反応のシランカップリング剤を洗浄除去してもよい。
【0052】
なお、以上で得られた、シランカップリング剤が処理された基材は、真空パック包装等により保存することができる。
【0053】
(金属層形成工程)
本工程は、基材におけるシランカップリング剤が処理された面に、乾式めっきにより金属層を形成する工程である。
【0054】
金属層を形成する方法は、乾式めっき法であれば特に限定されず、例えば、スパッタリング法、蒸着法、スプレーコーティング法等が挙げられる。
【0055】
ここで、スパッタリング法としては、例えば、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、反応性スパッタリング法等が挙げられる。
上記スパッタリングは、低真空(例えば、3~0.1Pa、さらには2~0.8Pa)にて行うことが好ましい。
【0056】
蒸着法としては、例えば、真空蒸着法、化学気相成長法(CVD法)等が挙げられる。真空蒸着法としては、例えば、分子線エピタキシー法(MBE法)、物理気相成長法(PVD法)等が挙げられ;CVD法としては、例えば、熱CVD法、触媒CVD法、光CVD法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、エピタキシャルCVD法、アトミックレイヤーCVD法、有機金属CVD法、クロライドCVD法等が挙げられる。
【0057】
以上の乾式めっき法は、1種のみを採用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、スパッタリング法が好ましく、表面粗さの影響を受けにくい密着性の高さ、異形形状への付きまわりの良さ、低応力等の観点から、上記低真空にてスパッタリングを行うことが特に好ましい。
【0058】
金属層を構成する金属は、例えば、Cu、Ag、Au、Pt、Ni、Cr等が挙げられ、これら2種以上の合金であってもよい。これらの中でも、Cu、Ni、Au、Cr等が好ましい。
【0059】
なお、シランカップリング剤が処理された基材が、水分やガス等を含み得る場合には、これらを除去する脱ガス処理を行った後、乾式めっきに付してもよい。かかる脱ガス処理は、例えば、低圧条件(例えば、2×10-2Pa以下)にて、40~120℃で5~120分間の加熱処理を基材に付すことにより、実施することができる。
また、シランカップリング剤を処理してから比較的長期間保存した後に乾式めっきに付す場合には、分子接合剤(特にシラノール基)を活性化するためプラズマ処理を行ってもよい。かかるプラズマ処理におけるプラズマとしては、O、N、Ar等を用いることができ、例えば、低圧条件(例えば、50Pa以下)にて200~900W、1~20秒、の処理とすることができる。
【0060】
以上述べた本実施形態の方法によれば、金属層の成膜制御が容易な乾式めっきにおいて、基材表面の粗化を必要とせずに基材(樹脂)と金属層との密着性に優れた積層体を製造することができる。
【0061】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0062】
例えば、金属層を厚化する場合は、上記乾式めっきにより金属層を形成した後、さらに電気めっき処理を行い、短時間で金属膜を成長させることも可能である。電気めっき処理を実施した後の金属膜の膜厚は、適宜選択することができ、例えば、1μm~50μmとすることができる。
【実施例0063】
以下、製造例、試験例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の試験例等に何ら限定されるものではない。
【0064】
[実施例1]
<製造例1>
(材料)
基材として、エポキシ樹脂からなる3cm×2.9cm×0.617cmの立体基材(日本合成加工社製,TM-261)を用いた。当該基材を、エタノール槽にて超音波洗浄を行い、十分に乾燥させた。
シランカップリング剤として、下記式(9)で表される6-(3-トリエトキシシリルプロピルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールモノナトリウム塩(nTES,いおう化学研究所社製)を用いた。nTESは、0.1質量%となるよう蒸留水に溶解させた。
【0065】
【化11】
【0066】
(シランカップリング剤処理)
上記基材を、Oプラズマ発生器(diener社製,PICO POWDER TREATMENT)に入れ、150W、20sccmにて3分間の0プラズマ処理を行った。続けて、プラズマ処理した樹脂基材を、25℃にて上記nTES溶液に1分間浸漬した。
【0067】
次に、nTES溶液から樹脂基材を取り出し、蒸留水およびエタノールで順次洗浄することにより未反応のnTESを除去し、その後乾燥させた。続けて、120℃10分間にて加熱処理を行い、nTES処理基材を得た。
なお、かかるnTES処理基材は、真空パック包装すること等により保存等が可能である。
【0068】
(スパッタリング)
上記nTES処理基材を、減圧条件下(8×10-4Pa以下)、100℃30分間にて加熱処理を行い、樹脂基材中に存在し得るガスや水分等を除去した。得られた基材を、スパッタリング装置(島津社製,UHSP-T2040H)の中に設置し、空気を排気して900Wで10秒間のOプラズマ処理を基材全面に対し行った。その後、スパッタリングターゲットをCuとし、Ar雰囲気下(1.3Pa)にてスパッタリング処理を行い、基材の表面にCu膜(厚さ:0.3μm)が形成された積層体を得た。
【0069】
(電解めっき)
上記積層体の剥離強度を測定するため、さらにCuによる電解めっきを行った。電解Cuめっき液は、CuSO/HSO水溶液(CuSO濃度は60g/L)を用いた。電解Cuめっき条件は、0.12A:600秒(面積の10%)→0.24A:600秒(面積の20%)→1.22A:2400秒(面積の100%)の3段階にて行うことにより、Cu膜の厚さを43μmに厚化した。
【0070】
電解Cuめっき処理の後、水及びエタノールでそれぞれ洗浄して十分に乾燥した後、80℃10分→150℃10分→200℃10分の加熱処理を行うことにより、剥離強度測定用の積層体(試料1)を得た。
【0071】
<製造例2>
シランカップリング剤処理において、基材のnTES溶液への浸漬時間を5分に変更した以外は製造例1と同様に実施し、剥離強度測定用の積層体(試料2)を得た。
【0072】
<製造例3>
プラズマ処理およびnTES溶液への浸漬を行わなかった以外は製造例1と同様に実施し、同様に実施し、剥離強度測定用の積層体(試料3)を得た。
【0073】
<試験例1>碁盤目試験
上記製造例で得られた積層体(試料1~3)の、Cu膜が形成されている表面に、カッターナイフにて1.0mm間隔で碁盤目状に切り込みを入れた。碁盤目が形成された箇所に、セロハンテープ(ニチバン社,製品名:セロテープ(登録商標))を貼付け、その後、セロハンテープを剥がすことで、金属層が基材から剥離するか否かを検証した。
結果を表1に示す。
【0074】
<試験例2>SAICAS測定
上記製造例で得られた積層体(試料1~3)の、Cu膜の剥離強度を、SAICAS(Surface And Interfacial Cutting Analysis System)法を用いて測定した。SAICAS法には、ダイプラ・ウィンテス社の装置であるSAICAS NN-05を用い、下記条件にて測定した。結果を表1に示す。
【0075】
=SAICAS条件=
ダイヤモンド切刃(切刃幅1mm、C.DIA)使用
ダイヤモンドブレード すくい角=10°逃げ角=20°ブレード幅=1mm
垂直速度=0.2μm/sec,水平速度=2μm/sec
剪断角=45°
【0076】
【表1】
【0077】
<結果>
表1に示すように、nTES溶液で処理した試料1および2は、nTES溶液を処理しなかった試料3と比較して、剥離強度が向上していることが確認された。
【0078】
[実施例2]
<製造例4>
(材料)
基材として、エポキシ樹脂からなる3cm×2.9cm×0.617cmの立体基材(日本合成加工社製,TM-261)を用いた。当該基材を、エタノール槽にて超音波洗浄を行い、十分に乾燥させた。
シランカップリング剤として、上記6-(3-トリエトキシシリルプロピルアミノ)-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオールモノナトリウム塩(nTES,いおう化学研究所社製)を用いた。nTESは、0.1質量%となるよう蒸留水に溶解させた。
【0079】
(シランカップリング剤処理)
上記基材を、Oプラズマ発生器(diener社製,PICO POWDER TREATMENT)に入れ、150W、20sccmにて3分間の0プラズマ処理を行った。続けて、プラズマ処理した樹脂基材を、25℃にて上記nTES溶液に1分間浸漬した。
【0080】
次に、nTES溶液から樹脂基材を取り出し、蒸留水およびエタノールで順次洗浄することにより未反応のnTESを除去し、その後乾燥させた。続けて、120℃10分間にて加熱処理を行い、nTES処理基材を得た。
なお、かかるnTES処理基材は、真空パック包装すること等により保存等が可能である。
【0081】
(スパッタリング)
上記nTES処理基材を、減圧条件下(8×10-4Pa以下)、100℃30分間にて加熱処理を行い、樹脂基材中に存在し得るガスや水分等を除去した。得られた基材を、スパッタリング装置(島津社製,UHSP-T2040H)の中に設置し、空気を排気して900Wで10秒間のOプラズマ処理を基材全面に対し行った。その後、スパッタリングターゲットをCuとし、Ar雰囲気下(1.3Pa)にてスパッタリング処理を行い、基材の表面にCu膜(厚さ:0.3μm)が形成された積層体を得た。
【0082】
(電解めっき)
上記積層体の剥離強度を測定するため、さらにCuによる電解めっきを行った。電解Cuめっき液は、CuSO/HSO水溶液(CuSO濃度は60g/L)を用いた。電解Cuめっき条件は、0.12A:600秒(面積の10%)→0.24A:600秒(面積の20%)→1.22A:2400秒(面積の100%)の3段階にて行うことにより、Cu膜の厚さを43μmに厚化した。
【0083】
電解Cuめっき処理の後、水及びエタノールでそれぞれ洗浄して十分に乾燥した後、80℃10分→150℃10分→200℃10分の加熱処理を行うことにより、剥離強度測定用の積層体(試料4)を得た。
【0084】
<製造例5>
シランカップリング剤処理において、nTES溶液を3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES,Aldrich chemistry社製)の0.1質量%水溶液に変更した以外は、製造例4と同様に実施し、剥離強度測定用の積層体(試料5)を得た。
【0085】
<製造例6>
シランカップリング剤処理において、nTES溶液を3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン(MPTES,東京化成社製)の0.1質量%水溶液に変更した以外は、製造例4と同様に実施し、剥離強度測定用の積層体(試料6)を得た。
【0086】
<製造例7>
シランカップリング剤処理において、nTES溶液を3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン(GPTES,信越化学工業社製)の0.1質量%水溶液に変更した以外は、製造例4と同様に実施し、剥離強度測定用の積層体(試料7)を得た。
【0087】
<製造例8>
シランカップリング剤処理において、nTES溶液を蒸留水に変更した以外は、製造例4と同様に実施し、剥離強度測定用の積層体(試料8)を得た。
【0088】
<試験例3>SAICAS測定
上記製造例のうち、製造例4~7で得られた積層体(試料4~7)について、Cu膜の剥離強度を、SAICAS(Surface And Interfacial Cutting Analysis System)法を用いて測定した。SAICAS法には、ダイプラ・ウィンテス社の装置であるSAICAS NN-05を用い、下記条件にて測定した。なお、各試料の測定においては、各製造例ごとに3つの試料を製造し、各試料について4か所ずつ測定し、平均値を測定結果とした。結果を表2に示す。
なお、製造例8で得られた積層体(試料8)については、Cu膜が基材樹脂に十分に接着せず、SAICAS法による測定ができなかったため、表2では0kN/m(測定不可)と表示した。
【0089】
=SAICAS条件=
ダイヤモンド切刃(切刃幅0.1mm、C.DIA)使用
ダイヤモンドブレード すくい角=10°逃げ角=20°ブレード幅=1mm
垂直速度=0.5nm/sec,水平速度=100nm/sec
剪断角=45°
【0090】
【表2】
【0091】
<結果>
表2に示すように、シランカップリング剤で処理することにより、剥離強度が有意に向上しており、その中でもnTES処理が最も優れていた。