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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025100770
(43)【公開日】2025-07-03
(54)【発明の名称】熱伝導シートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20250626BHJP
【FI】
C08J5/18
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025068425
(22)【出願日】2025-04-17
(62)【分割の表示】P 2020058963の分割
【原出願日】2020-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】村上 康之
(57)【要約】
【課題】使用時に千切れ難い熱伝導シートを提供する。
【解決手段】本発明の熱伝導シートは、樹脂と、粒子状充填材とを含み、厚み方向の熱伝導率が12W/m・K以上である熱伝導シートであって、前記樹脂が架橋樹脂を含有し、前記熱伝導シートの主面のシート強度の測定において、シート強度が最も高くなる主面内方向Xに対して垂直な主面内方向Yのシート強度が1.0N/mm以上であり、前記熱伝導シートを厚み方向に貫通し、孔径が48μm以上500μm以下である微小孔の数が前記熱伝導シートの平面視面積1cm当たり200個以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、粒子状充填材とを含み、厚み方向の熱伝導率が12W/m・K以上である熱伝導シートであって、
前記樹脂が架橋樹脂を含有し、
前記熱伝導シートの主面のシート強度の測定において、シート強度が最も高くなる主面内方向Xに対して垂直な主面内方向Yのシート強度が1.0N/mm以上であり、
前記熱伝導シートを厚み方向に貫通し、孔径が48μm以上500μm以下である微小孔の数が前記熱伝導シートの平面視面積1cm当たり200個以下である、熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体(IGBTモジュールなど)や集積回路(IC)チップ等の電子部品は、高性能化に伴って発熱量が増大している。その結果、電子部品を用いた電子機器では、電子部品の温度上昇による機能障害対策を講じる必要が生じている。
【0003】
電子部品の温度上昇による機能障害対策としては、一般に、電子部品等の発熱体に対し、金属製のヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体を取り付けることによって、放熱を促進させる方法が採られている。そして、放熱体を使用する際には、発熱体から放熱体へと熱を効率的に伝えるために、熱伝導性が高いシート状の部材(熱伝導シート)を介し、この熱伝導シートに対して所定の圧力をかけることで発熱体と放熱体とを密着させている。
【0004】
熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率を高める観点から、例えば、樹脂と粒子状充填材とを含む組成物を加圧成形し、得られたシート状の成形体を、厚み方向に複数枚積層して、或いは、折畳または捲回して、積層体を形成した後、当該積層体をスライスすることにより製造することができる。
このように積層体をスライスして製造される熱伝導シートにおいては、シート強度を十分に高く確保することが求められる。
そして、積層体をスライスして製造される熱伝導シートにおいては、熱伝導シートの主面について熱伝導率を測定した場合に熱伝導率が最も高くなる主面内方向X(積層体の積層方向対して垂直な方向)のシート強度を向上させることは比較的容易であるが、上記主面内方向Xに対して垂直な主面内方向Y(積層体の積層方向と一致する方向)のシート強度を向上させることは難しい。
【0005】
特許文献1には、積層体を所定の角度でスライスすることにより得られる熱伝導シートが開示されている。ここで、積層体を所定の角度でスライスすることにより、主面内方向Xのシート強度と主面内方向Yのシート強度とを均一化している。
また、特許文献2には、バインダ成分と異方性黒鉛粉とを含有し、異方性黒鉛粉が厚み方向に配向した基材シートの一方の表面上に金属蒸着膜を設けた伝熱シートが開示されている。ここで、金属蒸着膜を設けることで、熱伝導シートのシート強度を向上させている。
また、特許文献3には、積層体を積層方向に加圧しながら架橋反応させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6156337号公報
【特許文献2】特許第5678596号公報
【特許文献3】特許第5423455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に挟み込んで加熱した状態で使用した際、加圧と減圧とのサイクルが繰り返されることにより、熱伝導シートのうち強い圧力が加わっている部分から千切れが生じ、発熱体と放熱体との間からはみ出すことがある。電子機器内において、はみ出した熱伝導シートは短絡の原因となり得るため、熱伝導シートは使用時に千切れ難いことが求められる。
【0008】
しかしながら、上記従来技術の熱伝導シートは、使用時における千切れ難さの点において改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は、使用時に千切れ難い熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、架橋樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材とを含み、厚み方向の熱伝導率が所定値以上である熱伝導シートにおいて、シート強度が最も高くなる主面内方向Xに対して垂直な主面内方向Yのシート強度を所定値以上とし、且つ、所定の微小孔の数を所定値以下とすれば、熱伝導シートが使用時に千切れ難くなることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートは、樹脂と、粒子状充填材とを含み、厚み方向の熱伝導率が12W/m・K以上である熱伝導シートであって、前記樹脂が架橋樹脂を含有し、前記熱伝導シートの主面のシート強度の測定において、シート強度が最も高くなる主面内方向Xに対して垂直な主面内方向Yのシート強度が1.0N/mm以上であり、前記熱伝導シートを厚み方向に貫通し、孔径が48μm以上500μm以下である微小孔の数が前記熱伝導シートの平面視面積1cm当たり200個以下であることを特徴とする。このように、架橋樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材とを含み、厚み方向の熱伝導率が所定値以上であり、主面のシート強度の測定において、シート強度が最も高くなる主面内方向Xに対して垂直な主面内方向Yのシート強度が所定値以上であり、且つ、所定の微小孔の数が所定値以下である熱伝導シートは、使用時に千切れ難い。
なお、本発明において、「熱伝導率」、「シート強度」、および「熱伝導シートを厚み方向に貫通し、孔径が48μm以上500μm以下である微小孔の数」は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0012】
ここで、本発明の熱伝導シートは、前記架橋樹脂が常温常圧下で固体であり、前記樹脂が常温常圧下で液体の樹脂を更に含有することが好ましい。常温常圧下で固体である架橋樹脂と、常温常圧下で液体の樹脂とを併用することにより、熱伝導シートの柔軟性を高めることができる。
【0013】
また、本発明の熱伝導シートは、前記樹脂および前記粒子状充填材の合計体積に占める前記粒子状充填材の体積の割合が30体積%以上であることが好ましい。樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が30体積%以上であれば、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めると共に、熱伝導シートの熱伝導性を高めることができる。
【0014】
さらに、本発明の熱伝導シートは、表面粗さSaが2.4μm以下であることが好ましい。表面粗さSaが上記所定値以下であれば、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
なお、本発明において、熱伝導シートの表面粗さSaは、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の熱伝導シートの製造方法は、架橋性樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材と、架橋剤とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得るプレ熱伝導シート成形工程と、前記プレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、前記積層体を積層方向に加圧しながら加熱して、架橋反応を行う架橋反応工程と、前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、熱伝導シートを得るスライス工程と、を含み、下記(1)~(3)の少なくともいずれか1つを満たすことを特徴とする。
(1)前記樹脂中の前記架橋性樹脂の含有割合が70質量%以下である。
(2)前記樹脂および前記粒子状充填材の合計体積に占める前記粒子状充填材の体積の割合が30体積%以上である。
(3)前記架橋反応工程における加熱温度が150℃以下である。
本発明の熱伝導シートの製造方法によれば、使用時に千切れ難い熱伝導シートを製造することができる。
【0016】
ここで、本発明の熱伝導シートの製造方法は、前記架橋反応工程において前記積層体を積層方向に加圧する圧力が0.01MPa以上であることが好ましい。架橋反応工程において積層体を積層方向に加圧する圧力が上記所定値以上であれば、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
【0017】
また、本発明の熱伝導シートの製造方法は、前記架橋剤がジベンゾイルパーオキサイドを含むことが好ましい。架橋剤がジベンゾイルパーオキサイドを含めば、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、使用時に千切れ難い熱伝導シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明の熱伝導シートは、熱伝導性を有するため、発熱体と放熱体との間に挟み込んで使用することができる。即ち、本発明の熱伝導シートは、放熱部材として、ヒートシンク、放熱板、放熱フィン等の放熱体と共に放熱装置を構成することができる。
そして、本発明の熱伝導シートは、特に限定されないが、後述する本発明の熱伝導シートの製造方法を用いて効率良く製造することができる。
【0020】
(熱伝導シート)
本発明の熱伝導シートは、樹脂と粒子状充填材とを含む。また、本発明の熱伝導シートは、任意で、樹脂および粒子状充填材以外の成分を更に含んでいてもよい。また、本発明の熱伝導シートは、厚み方向の熱伝導率が12W/m・K以上である。そして、本発明の熱伝導シートは、樹脂が架橋樹脂を含有し、熱伝導シートの主面のシート強度の測定において、シート強度が最も高くなる主面内方向Xに対して垂直な主面内方向Yのシート強度が1.0N/mm以上であり、熱伝導シートを厚み方向に貫通し、孔径が48μm以上500μm以下である微小孔の数が熱伝導シートの平面視面積1cm当たり200個以下であることを特徴とする。
本発明の熱伝導シートは、架橋樹脂を含有する樹脂を含み、所定の主面内方向Yのシート強度が所定値以上であり、且つ、所定の微小孔の数が平面視面積1cm当たり所定値以下であるため、使用時においても千切れ難い。例えば、本発明の熱伝導シートは、発熱体と放熱体との間に挟み込まれて加熱された状態で、加圧と減圧とのサイクルが繰り返された場合であっても、千切れが発生し難い。したがって、本発明の熱伝導シートは耐久性に優れている。
【0021】
<樹脂>
本発明の熱伝導シートが樹脂を含有することにより、熱伝導シートを介して発熱体と放熱体とを良好に密着させることができる。なお、本明細書において、ゴムおよびエラストマーは、「樹脂」に含まれるものとする。
本発明の熱伝導シートが含みうる樹脂は、マトリックス樹脂を構成し、また、粒子状充填材を結着する結着材としても機能する。
そして、本発明の熱伝導シートに含まれる樹脂は、架橋樹脂を含有し、任意で、架橋樹脂以外の樹脂(その他の樹脂)を含有する。
【0022】
<<架橋樹脂>>
本発明の熱伝導シートに含まれる樹脂は、架橋樹脂を含有する。架橋樹脂は、架橋剤によって架橋された樹脂である。そして、本発明の熱伝導シートは、樹脂として架橋樹脂を含むことにより、シート強度を十分に高く確保することができるため、使用時に千切れ難くなる。
【0023】
ここで、架橋樹脂は、通常、常温常圧下で固体である。なお、本明細書において、「常温」とは、23℃を指し、「常圧」とは、1atm(絶対圧)を指す。
【0024】
そして、架橋樹脂は、架橋性樹脂と架橋剤とを架橋反応させることにより形成される。なお、架橋反応においては、反応開始剤を用いることができる。そして、架橋反応としては、特に限定されないが、例えば、反応開始剤としての有機過酸化物の存在下で反応を行うパーオキサイド架橋反応を用いることができる。
【0025】
〔架橋性樹脂〕
架橋性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、パーオキサイド架橋反応により架橋剤と反応し得る架橋性樹脂を用いることができる。
そして、架橋性樹脂としては、架橋剤および反応開始剤の種類(即ち、架橋反応の種類)にもよるが、例えば、常温常圧下で固体の樹脂を用いることができる。
【0026】
-常温常圧下で固体の樹脂-
常温常圧下で固体の樹脂としては、例えば、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0027】
--常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂--
常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ(アクリル酸2-エチルヘキシル)、アクリル酸とアクリル酸2-エチルヘキシルとの共重合体、ポリメタクリル酸またはそのエステル、ポリアクリル酸またはそのエステルなどのアクリル樹脂;シリコーン樹脂;フッ素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;エチレン-プロピレン共重合体;ポリメチルペンテン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、熱伝導シートの難燃性、耐熱性、耐油性、および耐薬品性などを向上させる観点からは、常温常圧下で固体の熱可塑性樹脂としては、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂であることが好ましい。
【0028】
=常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂=
常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂は、常温常圧下で固体状の熱可塑性フッ素樹脂であれば、特に制限されない。常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン-プロピレン系フッ素樹脂、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系フッ素樹脂等、フッ素含有モノマーを重合して得られるエラストマーなどが挙げられる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン-クロロフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソール共重合体、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエステル変性物、ポリテトラフルオロエチレンのエポキシ変性物およびポリテトラフルオロエチレンのシラン変性物、などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、加工性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ビニリデンフルオライド-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレンのアクリル変性物、が好ましい。
【0029】
また、市販されている、常温常圧下で固体の熱可塑性フッ素樹脂(フルオロエラストマー(フッ素ゴム))としては、例えば、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G-912、G-700シリーズ、ダイエルG-550シリーズ/G-600シリーズ、ダイエルG-310;ALKEMA社製のKYNAR(登録商標)シリーズ、KYNAR FLEX(登録商標)シリーズ;スリーエム社製のダイニオンFC2211、FPO3600ULV;などが挙げられる。
【0030】
〔架橋剤〕
架橋剤としては、上述した架橋性樹脂と架橋反応し得るものであれば、特に限定されず、例えば、トリアリルイソシアヌレート(例えば、三菱ケミカル株式会社製のTAIC(登録商標))等のイソシアヌレート類;トリアリルシアヌレート等のシアヌレート類;N,N’-m-フェニレンジマレイミド等のマレイミド類;ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルセバケート、トリアリルホスフェート等の多価酸のアリルエステル;ジエチレングリコールビスアリルカーボネート;エチレングリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパンのトリアリルエーテル、ペンタエリトリットの部分的アリルエーテル等のアリルエーテル類;アリル化ノボラック、アリル化レゾール樹脂等のアリル変性樹脂;トリメチロールプロパントリメタクリレートやトリメチロールプロパントリアクリレート等の、3~5官能のメタクリレート化合物やアクリレート化合物;などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
上述した中でも、架橋剤としては、トリアリルイソシアヌレートを用いることが好ましい。トリアリルイソシアヌレートを使用すれば、より容易に反応させることで、熱伝導シートのシート強度を向上させることができるからである。
【0031】
なお、架橋反応における架橋剤の使用量は、架橋性樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であることが更に好ましく、2.0質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましく、0.8質量部以下であることが更に好ましい。架橋剤の使用量が上記下限以上であれば、形成される架橋樹脂が架橋剤により十分に架橋されるため、熱伝導シートのシート強度を向上させて、使用時の千切れ難さを更に高めることができる。一方、架橋剤の使用量が上記上限以下であれば、形成される架橋樹脂が架橋剤により過度に架橋されることを抑制し、熱伝導シートの柔軟性を良好に維持することができる。
【0032】
〔反応開始剤〕
架橋性樹脂と架橋剤との架橋反応に使用し得る反応開始剤としては、特に限定されず、例えば、ジベンゾイルパーオキサイド(例えば、日本油脂株式会社製のナイパーE)、t-ブチルパーオキシアセテート、2,2-ジ-(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(例えば、日本油脂株式会社製のパーヘキサ25B-40(登録商標))、ジ-t-ブチルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキセン-3、t-ブチルヒドロパーオキシド、t-ブチルパーオキシイソブチレート、ラウロイルパーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、p-メンタンハイドロパーオキサイド等のラジカル反応開始剤として機能する有機過酸化物、などが挙げられる。これらは、1種単独で、あるいは2種以上を任意の比率で併用してもよい。
例えば、架橋反応に反応開始剤を使用することにより、ラジカルが発生して、架橋反応をスムーズに開始させることができる。
上述した中でも、反応開始剤としては、ジベンゾイルパーオキサイドを用いることが好ましい。ジベンゾイルパーオキサイドを使用すれば、低い温度(例えば150℃以下)で良好に架橋反応を行うことができるため、ガスの発生量が減少し、熱伝導シートに形成される微小孔の数を低減できるため、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
【0033】
なお、架橋反応における反応開始剤の使用量は、架橋性樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、0.3質量部以上であることが更に好ましく、2.0質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましく、0.8質量部以下であることが更に好ましい。反応開始剤の使用量が上記下限以上であれば、形成される架橋樹脂が架橋剤により十分に架橋されるため、熱伝導シートのシート強度を向上させて、使用時の千切れ難さを更に高めることができる。一方、反応開始剤の使用量が上記上限以下であれば、架橋反応におけるガスの発生量を少なくすることで、熱伝導シートに形成される微小孔の数を低減できるため、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
【0034】
また、架橋反応における架橋剤の使用量と反応開始剤の使用量との質量比(架橋剤/反応開始剤)は、1/3以上3/1以下とすることができる。
【0035】
〔架橋樹脂の形成方法〕
架橋樹脂は、上述した架橋性樹脂と、架橋剤と、必要に応じて使用される反応開始剤とを、加熱して架橋反応を行うことで、形成することができる。なお、架橋反応の際の加熱温度および加熱時間等の条件については、「熱伝導シートの製造方法」の項において後述する。
【0036】
〔架橋樹脂の含有割合〕
熱伝導シートに含まれる樹脂中の架橋樹脂の割合は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、70質量%超であることが一層好ましく、85質量%以上であることがより一層好ましく、100質量%であることが特に好ましい。樹脂中の架橋樹脂の割合が30質量%以上であれば、熱伝導シートのシート強度を向上させて、使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
また、熱伝導シートに含まれる樹脂中の架橋樹脂の割合は、70質量%以下とすることもでき、60質量%以下とすることもできる。
なお、熱伝導シートに含まれる架橋樹脂の量は、通常、熱伝導シートの製造の際に使用した架橋性樹脂の量と一致する。したがって、熱伝導シートに含まれる樹脂中の架橋樹脂の割合は、通常、熱伝導シートの製造に使用した樹脂(架橋性樹脂と、架橋性樹脂以外の樹脂とを含む樹脂)中の架橋性樹脂の割合と一致するものとする。
【0037】
<<その他の樹脂>>
本発明の熱伝導シートに含まれる樹脂は、上述した架橋樹脂以外の樹脂(以下、「その他の樹脂」と称することがある。)を含んでいてもよい。
ここで、その他の樹脂は、架橋されていない樹脂(非架橋樹脂)である。
また、その他の樹脂としては、上述した架橋剤と架橋反応しない樹脂(「非架橋性樹脂」とも称する。)を用いることができる。例えば、その他の樹脂としては、架橋剤とパーオキサイド架橋反応しない樹脂を用いることができる。
そして、その他の樹脂としては、常温常圧下で液体の樹脂を用いることが好ましい。常温常圧下で通常固体である架橋樹脂に加えて、常温常圧下で液体の樹脂を用いることにより、熱伝導シートの柔軟性を高めることができる。
【0038】
〔常温常圧下で液体の樹脂〕
常温常圧下で液体の樹脂は、熱伝導シートに柔軟性を付与し得る成分である。
常温常圧下で液体の樹脂としては、例えば、常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂などを用いることができる。
【0039】
-常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂-
熱伝導シートが常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂を含むことにより、熱伝導シートの柔軟性を良好にすることができ、例えば、熱伝導シートと、該熱伝導シートを接着させる被着体(発熱体、放熱体)との間の密着性を高めて、熱伝導シートにより高い熱伝導性を発揮させることができる。
【0040】
常温常圧下で液体の熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
これらの中でも、熱伝導シートの難燃性、耐熱性、耐油性、および耐薬品性を向上させることに加え、比較的低い圧力下でも、界面密着性を高め、界面熱抵抗を低下させて、熱伝導シートの熱伝導性(すなわち、放熱特性)を向上させることができる点で、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂が好ましい。
【0041】
常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂は、常温常圧下で液体状の熱可塑性フッ素樹脂であれば、特に制限されない。常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロペンテン-テトラフルオロエチレン3元共重合体、パーフルオロプロペンオキサイド重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン-フッ化ビニリデン共重合体、などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の比率で併用してもよい。
また、市販されている、常温常圧下で液状の熱可塑性フッ素樹脂としては、例えば、デュポン株式会社製のバイトン(登録商標)LM、ダイキン工業株式会社製のダイエル(登録商標)G-101、スリーエム株式会社製のダイニオンFC2210、信越化学工業株式会社製のSIFELシリーズ、などが挙げられる。
【0042】
なお、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂の粘度は、特に制限されないが、混練性、流動性、架橋反応性が良好で、成形性にも優れるという点から、温度80℃における粘度(粘度係数)が、500cP以上30,000cP以下であることが好ましく、550cP以上25,000cP以下であることがより好ましい。
【0043】
〔その他の樹脂の含有割合〕
熱伝導シートに含まれる樹脂中のその他の樹脂(非架橋樹脂)の割合は、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましく、0質量%であることが特に好ましい。樹脂中のその他の樹脂の割合が上記所定値以下であれば、熱伝導シート中の架橋樹脂の含有量を高めることにより、シート強度を向上させて、使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
また、熱伝導シートに含まれる樹脂中のその他の樹脂の割合は、30質量%以上とすることもでき、40質量%以上とすることもできる。
なお、熱伝導シートに含まれる樹脂中のその他の樹脂の割合は、通常、熱伝導シートの製造に使用した樹脂(架橋性樹脂と、架橋性樹脂以外の樹脂とを含む樹脂)中の架橋性樹脂以外の樹脂(非架橋性樹脂)の割合と一致するものとする。
【0044】
<粒子状充填材>
粒子状充填材としては、特に限定されることはなく、例えば、アルミナ粒子、酸化亜鉛粒子、窒化ホウ素粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化ケイ素粒子、炭化ケイ素粒子、酸化マグネシウム粒子および粒子状炭素材料などを用いることができる。
なお、これらの粒子状充填材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の比率で混合して用いてもよい。
【0045】
そして、製造される熱伝導シートの熱伝導性を高める観点から、粒子状充填材としては粒子状炭素材料を用いることが好ましい。
【0046】
<<粒子状炭素材料>>
粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、負極活物質、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック;などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
上述した中でも、粒子状炭素材料としては、膨張化黒鉛を用いることが好ましい。膨張化黒鉛を用いることで、熱伝導シートの熱伝導性を更に高めることができる。ここで、膨張化黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛などの黒鉛を硫酸などで化学処理して得た膨張性黒鉛を、熱処理して膨張させた後、微細化することにより得ることができる。そして、膨張化黒鉛としては、例えば、伊藤黒鉛工業社製のEC1500、EC1000、EC500、EC300、EC100、EC50(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0048】
<<粒子状充填材の性状>>
粒子状充填材の体積平均粒子径は、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることが更に好ましく、180μm以下であることが好ましく、160μm以下であることがより好ましく、140μm以下であることが更に好ましい。粒子状充填材の体積平均粒子径が上記下限以上であれば、熱伝導シート中で粒子状充填材の伝熱パスが良好に形成可能であるためと推察されるが、熱伝導シートの熱伝導性を高めることができる。一方、粒子状充填材の体積平均粒子径が上記上限以下であれば、熱伝導シートの厚み精度を十分に高く確保することができる。また、粒子状充填材の体積平均粒子径が上記所定の範囲内であれば、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
なお、本発明において「体積平均粒子径」は、JIS Z8825に準拠して測定することができ、レーザー回折法で測定された粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を表す。
【0049】
また、粒子状充填材は、アスペクト比(長径/短径)が、1超10以下であることが好ましく、1超5以下であることがより好ましい。粒子状充填材のアスペクト比が1超10以下であれば、熱伝導シート中で粒子状充填材が厚み方向に良好に配向し易くなるためと推察されるが、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導性を高めることができる。
なお、本発明において、「アスペクト比」は、粒子状充填材をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の粒子状充填材について、最大径(長径)と、最大径に直交する方向の粒子径(短径)とを測定し、長径と短径の比(長径/短径)の平均値を算出することにより求めることができる。なお、上記において、例えば粒子状充填材が鱗片形状である場合、「長径」は当該鱗片形状が有する主面の長軸の方向の長さを指し、「短径」は当該主面の長軸に直交する方向の長さを指すものとする。
【0050】
<<粒子状充填材の含有量>>
そして、熱伝導シート中の粒子状充填材の含有量は、樹脂100質量部に対して、20質量部以上であることが好ましく、30質量部以上であることがより好ましく、40質量部以上であることが更に好ましく、50質量部以上であることが一層好ましく、55質量部以上であることが特に好ましく、200質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることがより好ましく、100質量部以下であることが更に好ましく、80質量部以下であることが一層好ましい。熱伝導シート中の粒子状充填材の含有量が上記下限以上であれば、後述する熱伝導シートの製造方法における架橋反応工程の際に、発生したガスが粒子状充填材の表面または内部を通じて効率良く排出されるため、熱伝導シートの表面の微小孔の数を低減することにより、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。また、熱伝導シート中の粒子状充填材の含有量が上記下限値以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性を高めることができる。一方、熱伝導シート中の粒子状充填材の含有量が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を十分に維持することができ、結果として熱抵抗を低減することができる。また、熱伝導シート中の粒子状充填材の含有量が上記上限以下であれば、熱伝導シート中の樹脂の割合が高まり、粒子状充填材同士が樹脂によって良好に結着されるため、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
【0051】
<<粒子状充填材の体積の割合>>
熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合は、30体積%以上であることが好ましく、70体積%以下であることが好ましく、60体積%以下であることがより好ましく、50体積%以下であることが更に好ましく、40体積%以下であることが特に好ましい。熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が上記下限以上であれば、後述する熱伝導シートの製造方法における架橋反応工程の際に、発生したガスが粒子状充填材の表面または内部を通じて効率良く排出されるため、熱伝導シートの表面の微小孔の数を低減することにより、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。また、熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が上記下限以上であれば、熱伝導シートの熱伝導性を高めることができる。一方、熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が上記上限以下であれば、熱伝導シートの柔軟性を十分に維持することができ、結果として熱抵抗を低減することができる。また、熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が上記上限以下であれば、熱伝導シート中の樹脂の割合が高まり、粒子状充填材同士が樹脂によって良好に結着されるため、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
また、熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合は35体積%以上であってもよいし、40体積%以上であってもよい。
なお、上記「熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積」のうち、樹脂に含まれる架橋樹脂の体積は、通常、熱伝導シートの製造に使用した架橋性樹脂の体積と一致する。したがって、上記「熱伝導シートにおける樹脂および粒子状充填材の合計体積」は、通常、熱伝導シートの製造に使用した樹脂(架橋性樹脂と、架橋性樹脂以外の樹脂とを含む樹脂)と、粒子状充填材との合計体積と一致する。
【0052】
<その他の成分>
本発明の熱伝導シートは、任意で、上述した樹脂および粒子状充填材以外の成分(以下、「その他の成分」と称することがある。)を更に含んでいてもよい。そして、その他の成分としては、熱伝導シートの製造に使用され得る成分であれば、特に制限されることなく、例えば、繊維状炭素材料;赤りん系難燃剤、りん酸エステル系難燃剤等の難燃剤;脂肪酸エステル系可塑剤等の可塑剤;ウレタンアクリレート等の靭性改良剤;酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の吸湿剤;シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸無水物などの接着力向上剤;ノニオン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の濡れ性向上剤;無機イオン交換体等のイオントラップ剤;などが挙げられる。
【0053】
<<分散剤>>
また、本発明の熱伝導シートは、その他の成分として、分散剤を更に含んでいてもよい。分散剤を使用することにより、熱伝導シート中において粒子状充填材等を良好に分散させることができる。また、分散剤を使用することにより、シート内の粒子状充填材を均一に分散させることで熱伝導シートの柔軟性を高めることができるため、後述する熱伝導シートの製造方法の架橋反応工程の際に発生するガスが外部へと効率良く排出されるため、熱伝導シートに形成される微小孔の数を低減することができる。
なお、分散剤は、上述した樹脂とは異なる成分である。
【0054】
ここで、分散剤としては、本発明の所望の効果が得られる限り、特に限定されないが、熱伝導シート中において粒子状充填材等を更に良好に分散させると共に、熱伝導シートに形成される微小孔の数を更に低減する観点から、重合体を用いることが好ましく、アミン価を有する重合体(例えば、塩基性基含有重合体など)を用いることがより好ましい。
【0055】
そして、熱伝導シート中において粒子状充填材等を更に良好に分散させると共に、熱伝導シートに形成される微小孔の数を更に低減する観点から、分散剤はアミン価を有することが好ましい。
分散剤のアミン価は、5mgKOH/g以上であることが好ましく、10mgKOH/g以上であることがより好ましく、50mgKOH/g以下であることが好ましく、20mgKOH/g以下であることがより好ましい。分散剤のアミン価が上記所定の範囲内であれば、熱伝導シート中において粒子状充填材等を一層良好に分散させると共に、熱伝導シートに形成される微小孔の数を一層低減することができる。
なお、本発明において、分散剤のアミン価は、水酸化カリウム(KOH)による滴定によって測定することができる。
【0056】
また、熱伝導シート中において粒子状充填材等を更に良好に分散させると共に、熱伝導シートに形成される微小孔の数を更に低減する観点から、分散剤は酸価を有することが好ましい。
分散剤の酸価は、3mgKOH/g以上であることが好ましく、5mgKOH/g以上であることがより好ましく、80mgKOH/g以下であることが好ましく、50mgKOH/g以下であることがより好ましい。分散剤の酸価が上記所定の範囲内であれば、製造される熱伝導シートの使用時の千切れ難さを一層高めることができる。
なお、本発明において、分散剤の酸価は、水酸化カリウム(KOH)による滴定によって測定することができる。
【0057】
なお、分散剤としては、市販品を用いることもでき、例えば、「アジスパー821B」(味の素ファインテクノ社製)、「BYK-2013」(ビックケミー製)等を好適に用いることができる。
【0058】
〔分散剤の含有量〕
なお、熱伝導シート中の分散剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、例えば、0質量部以上10質量部以下とすることができる。
また、熱伝導シート中の分散剤の含有量は、粒子状充填材100質量部に対して、例えば、0質量部以上10質量部以下とすることができる。
【0059】
〔分散剤と粒子状充填材との質量比〕
また、熱伝導シート中における分散剤と粒子状充填材との質量比(分散剤/粒子状充填材)は、例えば、0/100以上とすることができ、1/100以上とすることができ、1/5以下とすることができる。
【0060】
<熱伝導シートの構造>
本発明の熱伝導シートは、上述した粒子状充填材が熱伝導シートの厚み方向に配向してなる構造を有することが好ましい。熱伝導シートにおいて、粒子状充填材が熱伝導シートの厚み方向に配向していれば、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導性を高めることができる。
ここで、「熱伝導シートの厚み方向に配向」とは、熱伝導シートの任意の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)により観察した場合に、熱伝導シート中の粒子状充填材のうち半数以上において、長軸がシートの厚み方向に対して0~40度に配向している状態をいう(厚み方向に対して平行を0度とする)。
【0061】
<熱伝導率>
熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率は、12W/m・K以上であることが必要であり、13W/m・K以上であることが好ましく、15W/m・K以上であることがより好ましい。熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が12W/m・K未満である場合、熱伝導シートは厚み方向において十分な熱伝導性を発揮することができない。一方、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率が12W/m・K以上であると、熱伝導シートは厚み方向において十分な熱伝導性を発揮することができる。
また、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率の値の上限は、特に限定されないが、例えば、45W/m・K以下である。
なお、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率は、熱伝導シートに含まれる材料および成分(樹脂、粒子状充填材、分散剤等)の種類および割合、並びに、熱伝導シートの製造方法および製造条件などにより調整することができる。
【0062】
<シート強度>
そして、熱伝導シートの主面のシート強度の測定において、シート強度が最も高くなる主面内方向Xに対して垂直な主面内方向Yのシート強度は、1.0N/mm以上であることが必要であり、1.3N/mm以上であることが好ましく、1.5N/mm以上であることがより好ましく、1.8N/mm以上であることが更に好ましく、3.0N/mm以下であることが好ましく、2.5N/mm以下であることがより好ましい。熱伝導シートの主面内方向Yのシート強度が1.0N/mm未満である場合、熱伝導シートは、強度が不十分であるため、使用時に千切れ易くなる。一方、熱伝導シートの主面内方向Yのシート強度が1.0N/mm以上であると、熱伝導シートは、十分な強度を有するため、使用時に千切れ難くなる。また、熱伝導シートの主面内方向Yのシート強度が上記上限以下であれば、熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に挟み込んで加圧した際に程良く潰れるため、熱伝導シートの熱伝導性を向上させることができる。
【0063】
<アスカーC硬度>
熱伝導シートのアスカーC硬度は、70℃において、50以上であることが好ましく、55以上であることがより好ましく、60以上であることが更に好ましく、100以下であることが好ましく、90以下であることがより好ましく、80以下であることが更に好ましい。熱伝導シートのアスカーC硬度が上記下限以上であれば、熱伝導シートのシート強度が高まるため、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。一方、熱伝導シートのアスカーC硬度が上記上限以下であれば、熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に挟み込んで加圧した際に程良く潰れるため、熱伝導シートの熱伝導性を向上させることができる。
なお、本発明において、熱伝導シートのアスカーC硬度は、本明細書の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0064】
<微小孔>
本発明の熱伝導シートの表面には微小孔(「ピンホール」とも称する)が少ない。なお、熱伝導シートの表面の微小孔は、例えば、熱伝導シートの製造時に行う樹脂の架橋反応で発生したガスによって形成される。そして、熱伝導シートの表面に形成された微小孔は、熱伝導シートの使用時に千切れが生じる原因になり得る。これに対して、本発明の熱伝導シートは、表面に形成された微小孔の数が少ないため、使用時に千切れ難い。
【0065】
具体的には、熱伝導シートを厚み方向に貫通し、孔径が48μm以上500μm以下である微小孔の数が、熱伝導シートの平面視面積1cm当たりで、200個以下であることが必要であり、150個以下であることが好ましく、120個以下であることがより好ましく、100個以下であることが更に好ましく、80個以下であることが一層好ましい。熱伝導シートにおける上記微小孔の数が200個を超えると、熱伝導シートは使用時に千切れ易くなる。一方、熱伝導シートにおける上記微小孔の数が200個以下であれば、熱伝導シートを使用時に十分に千切れ難くすることができる。
また、上記微小孔の数は、特に限定されないが、通常、10個以上である。
なお、熱伝導シートにおける上記微小孔の数は、例えば、熱伝導シートの製造方法において使用する樹脂に占める架橋性樹脂の割合、樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合、並びに、架橋反応工程の条件(加熱温度および加熱時間など)により調整することができる。
【0066】
<表面粗さSa>
また、熱伝導シートの表面粗さSaは、2.4μm以下であることが好ましく、2.2μm以下であることがより好ましく、2.0μm以下であることが更に好ましい。熱伝導シートの表面粗さSaが上記所定値以下であれば、熱伝導シートの表面の微小孔の数が少ないため、熱伝導シートを使用時に更に千切れ難くすることができる。
また、熱伝導シートの表面粗さSaは、特に限定されないが、1.5μm以上であることが好ましい。
ここで、熱伝導シートの厚み方向の少なくとも一方の面の表面粗さSaが上記所定の範囲内であることが好ましく、厚み方向の両方の面の表面粗さSaが上記所定の範囲内であることがより好ましい。
【0067】
<熱伝導シートの厚み>
本発明の熱伝導シートの厚みは、特に限定されないが、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更に好ましく、50μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましく、70μm以上であることがより好ましい。熱伝導シートの厚みが上記上限以下であれば、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導性を高めることができる。一方、熱伝導シートの厚みが上記下限以上であれば、熱伝導シートが過度に薄膜化しないため、熱伝導シートの使用時の千切れ難さ、難燃性、強度、およびハンドリング性を十分に高く確保することができる。
【0068】
(熱伝導シートの製造方法)
本発明の熱伝導シートの製造方法は、(A)架橋性樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材と、架橋剤とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得るプレ熱伝導シート成形工程と、(B)プレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、(C)積層体を積層方向に加圧しながら加熱して、架橋反応を行う架橋反応工程と、(D)積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、熱伝導シートを得るスライス工程と、を含む。なお、本発明の熱伝導シートは、任意で、上記(A)~(D)以外の工程を更に含んでいてもよい。
【0069】
そして、本発明の熱伝導シートの製造方法は、下記(1)~(3)の少なくともいずれか1つを満たすことが必要である。
(1)樹脂中の架橋性樹脂の含有割合が70質量%以下である。
(2)樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が30体積%以上である。
(3)架橋反応工程における加熱温度が150℃以下である。
【0070】
ここで、本発明の熱伝導シートの製造方法は、(1)樹脂中の架橋性樹脂の含有割合が70質量%以下であると、架橋反応工程において発生するガスの量を少なくすることで、製造される熱伝導シートに形成される微小孔(ピンホール)の数を低減できるため、熱伝導シートを使用時に千切れ難くすることができる。
【0071】
また、本発明の熱伝導シートの製造方法は、(2)樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が30体積%以上であると、架橋反応工程において発生するガスが、粒子状充填材の表面または内部を通じて効率良く排出されることで、製造される熱伝導シートに形成される微小孔(ピンホール)の数を低減できるため、熱伝導シートを使用時に千切れ難くすることができる。
【0072】
さらに、本発明の熱伝導シートの製造方法は、(3)架橋反応工程における加熱温度が150℃以下であると、架橋反応工程において発生するガスの量を少なくすることで、製造される熱伝導シートに形成される微小孔(ピンホール)の数を低減できるため、熱伝導シートを使用時に千切れ難くすることができる。
【0073】
したがって、本発明の熱伝導シートの製造方法は、上記(1)~(3)の少なくともいずれか1つを満たすことにより、使用時に千切れ難い熱伝導シートを製造することができる。
【0074】
なお、本発明の熱伝導シートの製造方法は、上記(1)~(3)のうちいずれか1つのみを満たしてもよいし、上記(1)~(3)のうちいずれか2つのみを満たしてもよいし、上記(1)~(3)の全てを満たしてもよい。
そして、製造される熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高める観点から、少なくとも(3)を満たしていることが好ましく、(1)を満たさず、(2)および(3)のみを満たしていることが特に好ましい。
【0075】
ここで、製造される熱伝導シートの使用時の千切れ難さを高める観点から、(1)を満たさず、(2)および(3)のみを満たしていることが特に好ましい理由は、下記の通りである。
まず、(1)を満たさない場合、(1)を満たす場合と比較して、発生する微小孔の数は若干増えるものの、(2)および(3)を満たすため、製造される熱伝導シートに形成される微小孔の数を十分に低減することができる。さらに、(1)を満たさない(即ち、樹脂中の架橋性樹脂の含有割合が70質量%を超える)ことから、製造される熱伝導シートに含まれる樹脂中の架橋樹脂の含有割合が高くなるため、熱伝導シートのシート強度が向上する。このように、製造される熱伝導シートの微小孔の数を低減すると共に、熱伝導シートのシート強度を向上させることができるため、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを特に高めることができる。
【0076】
なお、本発明の熱伝導シートの製造方法によれば、上述した本発明の熱伝導シートを効率良く製造することができる。
【0077】
<(A)プレ熱伝導シート成形工程>
プレ熱伝導シート成形工程では、架橋性樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材と、架橋剤とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、プレ熱伝導シートを得る。
【0078】
<<組成物>>
上記組成物は、架橋性樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材と、架橋剤とを含む。なお、上記組成物は、反応開始剤を更に含んでいてもよい。さらに、上記組成物は、上述した樹脂、粒子状充填材、架橋剤、反応開始剤以外の成分(その他の成分)を更に含んでいてもよい。
【0079】
〔樹脂〕
ここで、組成物に含まれる樹脂は、架橋性樹脂を含有し、任意で、架橋性樹脂以外の樹脂(非架橋性樹脂)を含有する。架橋性樹脂としては、例えば、「熱伝導シート」の項で上述した架橋樹脂の形成に使用し得る架橋性樹脂を用いることができる。また、架橋性樹脂以外の樹脂(非架橋性樹脂)としては、例えば、「熱伝導シート」の項で上述した樹脂に含まれ得る架橋樹脂以外の樹脂(その他の樹脂)を用いることができる。
【0080】
そして、本発明の熱伝導シートの製造方法が上記(1)を満たす場合、組成物に含まれる樹脂中の架橋性樹脂の含有割合は、70質量%以下であることが必要であり、60質量%以下であることが好ましく、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましい。樹脂中の架橋性樹脂の含有割合が70質量%以下であると、架橋反応工程において発生するガスの量を少なくすることで、製造される熱伝導シートに形成される微小孔(ピンホール)の数を低減できるため、熱伝導シートを使用時に千切れ難くすることができる。一方、樹脂中の架橋性樹脂の含有割合が30質量%以上であれば、製造される熱伝導シートのシート強度を向上させて、使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
【0081】
ただし、本発明の熱伝導シートの製造方法が(1)を満たさず、(2)および(3)を満たす場合、組成物に含まれる樹脂中の架橋性樹脂の含有割合は、70質量%超であり、85質量%以上であることが好ましく、100質量%であることが特に好ましい。樹脂中の架橋性樹脂の含有割合が70質量%超であれば、製造される熱伝導シートのシート強度を向上させて、使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
【0082】
〔粒子状充填材〕
また、粒子状充填材としては、例えば、「熱伝導シート」の項で上述した粒子状充填材を用いることができる。
【0083】
ここで、組成物中の樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合は、30体積%以上であることが必要または好ましく、70体積%以下であることが好ましく、60体積%以下であることがより好ましく、50体積%以下であることが更に好ましく、40体積%以下であることが特に好ましい。組成物中の樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が30体積%以上であると、後述する架橋反応工程の際に、発生したガスが粒子状充填材の表面または内部を通じて効率良く排出されるため、製造される熱伝導シートの表面の微小孔の数を低減することにより、熱伝導シートを使用時に千切れ難くすることができる。また、組成物中の樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が30体積%以上であると、製造される熱伝導シートの熱伝導性を高めることができる。一方、組成物中の樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が上記上限以下であれば、製造される熱伝導シートの柔軟性を十分に維持することができ、結果として熱抵抗を低減することができる。また、組成物中の樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合が上記上限以下であれば、製造される熱伝導シート中の樹脂の割合が高まり、粒子状充填材同士が樹脂によって良好に結着されるため、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
また、組成物中の樹脂および粒子状充填材の合計体積に占める粒子状充填材の体積の割合は35体積%以上であってもよいし、40体積%以上であってもよい。
【0084】
なお、組成物中の樹脂100質量部に対する粒子状充填材の含有量は、「熱伝導シート」の項で上述した熱伝導シート中の樹脂100質量部に対する粒子状充填材の含有量の好ましい範囲と同じ範囲内で設定することができる。
【0085】
〔架橋剤〕
架橋剤としては、「熱伝導シート」の項で上述した架橋樹脂の形成に使用し得る架橋剤を用いることができる。
【0086】
なお、組成物中の架橋性樹脂100質量部に対する架橋剤の含有量は、「熱伝導シート」の項で上述した架橋性樹脂100質量部に対する架橋剤の使用量の好ましい範囲と同じ範囲内で設定することができる。
【0087】
〔反応開始剤〕
反応開始剤としては、「熱伝導シート」の項で上述した架橋樹脂を形成するための架橋反応に使用し得る反応開始剤を用いることができる。
【0088】
なお、組成物中の架橋性樹脂100質量部に対する反応開始剤の含有量は、「熱伝導シート」の項で上述した架橋反応における架橋性樹脂100質量部に対する反応開始剤の使用量の好ましい範囲と同じ範囲内で設定することができる。
また、組成物中の架橋剤と反応開始剤との質量比(架橋剤/反応開始剤)は、例えば、「熱伝導シート」の項で上述した架橋反応における架橋剤の使用量と反応開始剤の使用量との質量比(架橋剤/反応開始剤)の範囲と同じ範囲で設定することができる。
【0089】
〔その他の成分〕
組成物中に含まれ得るその他の成分としては、「熱伝導シート」の項で上述した熱伝導シートに含まれ得る分散剤等のその他の成分を用いることができる。
ここで、組成物中の樹脂100質量部に対する分散剤の含有量の範囲は、例えば、「熱伝導シート」の項で上述した熱伝導シート中の樹脂100質量部に対する分散剤の含有量の範囲と同じ範囲内で設定することができる。
また、組成物中の分散剤と粒子状充填材との質量比(分散剤/粒子状充填材)は、例えば、「熱伝導シート」の項で上述した熱伝導シート中の分散剤と粒子状充填材との質量比(分散剤/粒子状充填材)の好ましい範囲と同じ範囲内で設定することができる。
【0090】
〔組成物の調製〕
組成物は、特に限定されることはなく、上述した成分を混合することにより調製することができる。
なお、上述した成分の混合は、特に制限されることなく、ニーダー;ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー、ハイスピードミキサー等のミキサー;二軸混練機;ロール;などの既知の混合装置を用いて行うことができる。また、混合は、酢酸エチル等の溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒に予め樹脂を溶解または分散させて樹脂溶液として、粒子状充填材および架橋剤、並びに任意で添加される反応開始剤およびその他の成分と混合してもよい。そして、混合時間は、例えば、5分以上60分以下とすることができる。また、混合温度は、例えば、5℃以上150℃以下とすることができる。
【0091】
<<組成物の成形>>
そして、上述のようにして調製した組成物は、任意に脱泡および解砕した後に、加圧してシート状に成形することができる。このように組成物を加圧成形したシート状のものを、プレ熱伝導シートとすることができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば、真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0092】
ここで、組成物は、圧力が負荷される成形方法であれば、特に制限されることなく、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。中でも、組成物は、圧延成形(一次加工)によりシート状に成形することが好ましく、保護フィルムに挟んだ状態でロール間を通過させてシート状に成形することがより好ましい。なお、保護フィルムとしては、特に制限されることなく、サンドブラスト処理を施したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等を用いることができる。また、ロール温度は5℃以上150℃以下、ロール間隙は50μm以上2500μm以下、ロール線圧は1kg/cm以上3000kg/cm以下、ロール速度は0.1m/分以上20m/分以下とすることができる。
【0093】
<<プレ熱伝導シート>>
そして、組成物を加圧してシート状に成形してなるプレ熱伝導シートでは、粒子状充填材が主として面内方向に配向し、特にプレ熱伝導シートの面内方向の熱伝導性が向上すると推察される。
【0094】
<(B)積層体形成工程>
積層体形成工程では、プレ熱伝導シート成形工程で得られたプレ熱伝導シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、プレ熱伝導シートを折畳または捲回して、樹脂および粒子状充填材を含む熱伝導シートが厚み方向に複数形成された積層体を得る。ここで、プレ熱伝導シートの折畳による積層体の形成は、特に制限されることなく、折畳機を用いてプレ熱伝導シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、プレ熱伝導シートの捲回による積層体の形成は、特に制限されることなく、プレ熱伝導シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りにプレ熱伝導シートを捲き回すことにより行うことができる。また、プレ熱伝導シートの積層による積層体の形成は、特に制限されることなく、積層装置を用いて行うことができる。例えば、シート積層装置(日機装社製、製品名「ハイスタッカー」)を用いれば、層間に空気が入り込むことを抑えることができるため、良好な積層体を効率的に得ることができる。
【0095】
なお、積層工程では、得られた積層体を、後述の架橋反応工程の加熱温度よりも低い温度で加熱しながら、積層方向に加圧(二次加圧)することが好ましい。後述の架橋反応工程の加熱温度よりも低い温度で加熱しながら積層体を積層方向に加圧する二次加圧を行った上で、後述する架橋反応工程を行うことにより、積層されたプレ熱伝導シート相互間の融着を促進した状態で架橋反応を行えるため、積層体における各層の界面間の架橋強度を向上させることができる。
【0096】
ここで、積層体を積層方向に加圧する際の圧力は、0.01MPa以上とすることができ、0.03MPa以上であることが好ましく、0.05MPa以上であることがより好ましく、0.50MPa以下とすることができ、0.30MPa以下であることが好ましく、0.10MPa以下であることがより好ましい。
【0097】
また、積層体の加熱温度は、後述の架橋反応工程の加熱温度よりも低い温度であれば、特に限定されないが、90℃未満とすることができ、85℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、30℃以上とすることができ、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。
さらに、積層体の加熱時間は、例えば、30秒間以上5分間以下とすることができる。
【0098】
なお、プレ熱伝導シートを積層、折畳または捲回して得られる積層体では、粒子状充填材が積層方向に略直交する方向に配向していると推察される。
【0099】
<(C)架橋反応工程>
架橋反応工程では、積層体を積層方向に加圧しながら加熱して、架橋反応を行う。これにより、架橋性樹脂と架橋体とが架橋反応して架橋樹脂が形成されるため、製造される熱伝導シートのシート強度が向上し、熱伝導シートを使用時に千切れ難くすることができる。
【0100】
ここで、架橋反応において積層体を積層方向に加圧する際の圧力は、0.01MPa以上であることが好ましく、0.02MPa以上であることがより好ましく、0.03MPa以上であることが更に好ましく、0.5MPa以下であることが好ましく、0.1MPa以下であることがより好ましく、0.05MPa以下であることが更に好ましい。積層体を積層方向に加圧する際の圧力が上記下限以上であれば、製造される熱伝導シートの主面内方向Yのシート強度を向上させることにより、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを更に高めることができる。一方、積層体を積層方向に加圧する際の圧力が上記上限以下であれば、積層体が過度に潰れることを抑制することができる。
【0101】
また、加圧の方法としては、積層体の積層方向の上下2面のみ、または、積層体の積層方向の上下2面を少なくとも含む積層体の4面を加圧することなどが挙げられるが、架橋反応時に発生するガスを逃がす観点から、積層体の積層方向の上下2面のみを加圧することが好ましい。
【0102】
そして、架橋反応工程における加熱温度は、150℃以下であることが必要または好ましく、140℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることが更に好ましく、110℃以下であることが一層好ましく、90℃以上であることが好ましく、92℃以上であることがより好ましく、95℃以上であることが更に好ましい。架橋反応工程における加熱温度が150℃以下であると、架橋反応工程において発生するガスの量を少なくすることで、製造される熱伝導シートに形成される微小孔(ピンホール)の数を低減できるため、熱伝導シートを使用時に千切れ難くすることができる。一方、架橋反応工程における加熱温度が90℃以上であれば、架橋反応を良好に行うことで、製造される熱伝導シートのシート強度を向上させて、使用時の千切れ難さを更に高めることができる。
【0103】
また、架橋反応工程における加熱時間は、1時間以上であることが好ましく、3時間以上であることがより好ましく、5時間以上であることが更に好ましく、24時間以下であることが好ましく、12時間以下であることがより好ましく、8時間以下であることが更に好ましい。架橋反応工程における加熱時間が上記下限以上であれば、架橋反応を良好に行うことで、製造される熱伝導シートのシート強度を向上させて、使用時の千切れ難さを更に高めることができる。一方、架橋反応工程における加熱時間が上記上限以下であれば、架橋反応が過度に進行することを抑制し、熱伝導シートの柔軟性を良好に維持することができる。
【0104】
<(D)スライス工程>
スライス工程では、架橋反応工程において架橋反応した積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、積層体のスライス片よりなる熱伝導シートを得る。ここで、積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、熱伝導シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。また、積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されることなく、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナやスライサー)を用いることができる。
【0105】
なお、熱伝導シートの熱伝導性を高める観点からは、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
【0106】
そして、このようにして得られた熱伝導シートでは、厚み方向に粒子状充填材が良好に配向しており、厚み方向の熱伝導性に優れている。
【0107】
また、本発明の熱伝導シートの製造方法により製造された熱伝導シートは積層体のスライス片よりなるシートであるため、当該熱伝導シートの主面のシート強度を測定した場合、シート強度が最も高くなる主面内方向Xは、通常、積層体の積層方向に対して垂直な方向と一致する。よって、当該主面内方向Xに対して垂直な主面内方向Yは、通常、積層体の積層方向と一致する。
さらに、本発明の熱伝導シートの製造方法により製造された熱伝導シートは積層体のスライス片よりなるシートであるため、当該熱伝導シートの主面の熱伝導率を測定した場合、熱伝導率が最も高くなる主面内方向X´は、通常、積層体の積層方向に対して垂直な方向と一致する。よって、当該主面内方向X´に対して垂直な主面内方向Y´は、通常、積層体の積層方向と一致する。
したがって、熱伝導シートの主面のシート強度を測定した場合、シート強度が最も高くなる主面内方向Xは、通常、熱伝導シートの主面の熱伝導率を測定した場合に熱伝導率が最も高くなる主面内方向X´と一致する。そして、シート強度が最も高くなる主面内方向Xに対して垂直な主面内方向Yは、通常、熱伝導率が最も高くなる主面内方向X´に対して垂直な主面内方向Y´と一致する。
【実施例0108】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0109】
各実施例および各比較例において、(i)熱伝導シートのアスカーC硬度、(ii)熱伝導シートのシート強度、(iii)熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率、(iv)熱伝導シートの表面粗さSa、(v)熱伝導シートの微小孔の個数、(vi)熱伝導シートの使用時の千切れ難さ、の測定または評価を、それぞれ以下の方法により行った。
【0110】
<(i)熱伝導シートのアスカーC硬度>
各実施例および比較例で製造した熱伝導シートを、スライス工程後に室温(25℃)にて10日間放置したものを試験体とした。この熱伝導シートを縦25mm×横50mmに切り取り、9mmの高さまで積層したブロックを試験体とした。
具体的には、日本ゴム協会規格(SRIS)のアスカーC法に準拠し、硬度計(高分子計器社製、商品名「ASKER CL-150LJ」を使用して、試験体をホットプレートで温度70℃に温めながら測定を行った。
そして、指針が95~98となるようにダンパー高さを調整し、試験体とダンパーとが衝突してから20秒後の硬度を5回測定して、その平均値を試験体のアスカーC硬度とした。
【0111】
<(ii)熱伝導シートのシート強度>
各実施例および比較例で製造した熱伝導シートをX方向に20mm、Y方向に50mmのサイズで打ち抜いたものを試験片とした。得られた試験片について、小型卓上試験機(日本電産シンポ社製、「FGS-500TV」、デジタルフォースゲージとしてFGP-50を使用)を用いて、引張速度を20mm/分として、試験片をY方向に引っ張る引張試験を行った。なお、チャック間距離は30mmとした。引張試験時における最大強度(N)を試験体の断面積(幅20mm×厚み0.1mm=2mm)で除して、熱伝導シートのY方向のシート強度(N/mm)を算出した。
なお、上記において、「X方向」とは、「熱伝導シートの主面についてシート強度を測定した場合にシート強度が最も高くなる主面内方向」を意味する。そして、各実施例および比較例で製造した熱伝導シートは積層体のスライス片からなるため、上述と同様の方法で熱伝導シートの主面についてシート強度を測定したところ、「X方向」は積層体の積層方向に対して垂直な方向と一致していた。
また、「Y方向」とは、「X方向に対して垂直な主面内方向(積層体の積層方向と一致する方向)」を意味する。
【0112】
<(iii)熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率>
各実施例および比較例で製造した熱伝導シートについて、厚み方向の熱拡散率α(m/s)、定圧比熱Cp(J/g・K)および比重ρ(g/m)を以下の方法で測定した。
[熱拡散率α(m/s)]
熱物性測定装置(株式会社ベテル製、製品名「サーモウェーブアナライザTA35」)を使用して、厚み方向の熱拡散率を測定した。
[定圧比熱Cp(J/g・K)]
示差走査熱量計(Rigaku製、製品名「DSC8230」)を使用し、10℃/分の昇温条件下における比熱を測定した。
[比重ρ(g/m)]
自動比重計(東洋精機社製、商品名「DENSIMETER-H」)を用いて比重(密度)(g/m)を測定した。
そして、得られた測定値を用いて下記式(I):
λ=α×Cp×ρ・・・(I)
に代入し、熱伝導シートの厚み方向の熱伝導率λ(W/m・K)を求めた。
【0113】
<(iv)熱伝導シートの表面粗さSa>
各実施例および比較例で製造した熱伝導シートの表面粗さSaは、三次元形状測定機(株式会社キーエンス製、製品名「ワンショット3D測定マクロスコープ」)を用いて測定した。
具体的には、熱伝導シートの評価対象の表面から抽出した5点の解析範囲(1cm×1cm)について、三次元形状を測定した。なお、5点抽出する際に各解析範囲は1cm以上離れていることが望ましいが、熱伝導シートのサイズが小さい場合は、解析範囲の一部 が重なっていても構わない。また、熱伝導シートのサイズが小さく、1cm×1cmの解析範囲を確保できない場合には、解析範囲を0.3cm×0.3cmまで小さくしてもよい。
さらに、三次元形状の測定結果に対してソフトウェアでフィルター処理(2.5mm)を行い、うねり成分を取り除くことにより、表面粗さSa(μm)を自動計算し、5点の解析範囲の平均値を熱伝導シートの表面粗さSaとした。
【0114】
<(v)熱伝導シートの微小孔の個数>
各実施例および比較例で製造した熱伝導シートの微小孔の個数は、外観検査装置(長野オートメーション株式会社製、製品名「00-6724 外観検査装置」)を用いて測定した。具体的には、台座に設置した熱伝導シートの背面から、LEDライトで照らし、シート全体をカメラで撮影した。得られた画像を画像処理により二値化し、白色部を特定した。これらの白色部のうち、最大径および最小径の双方が48μm以上500μm以下であるものを微小孔とし、その個数を測定した。得られた熱伝導シート全体の微小孔の数と、熱伝導シートの平面視面積から、熱伝導シートの平面視面積1cm当たりの微小孔の数を算出した。
【0115】
<(vi)熱伝導シートの使用時の千切れ難さ>
各実施例および比較例で製造した熱伝導シートを10mm×10mmにサイジングし、120℃に熱した第1金属板(発熱体)の上に設置した。
熱伝導シートの上に、12mm×12mmにサイジングした平滑な第2金属板(放熱体)を、熱伝導シートと中心が重なるように乗せ、上から250Nの圧力を10秒かけて10秒除荷することを1サイクルとし、これを50サイクル繰り返すサイクル試験を実施した。
上記サイクル試験終了後の熱伝導シートを真上から観察した時の第2金属板からの熱伝導シートのはみ出し具合から、熱伝導シートの使用時の千切れ難さを下記の基準で評価した。なお、熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に挟んで加熱した状態で、加圧・減圧のサイクルを繰り返すと、千切れ易い熱伝導シートにおいては、特に強い圧力が加わっている部分から千切れが発生し、発熱体および放熱体の間からはみ出す現象が起こる。したがって、熱伝導シートのはみ出している部分が小さいほど、熱伝導シートは使用時に千切れ難いことを示し、熱伝導シートのはみ出しが全く無ければ、熱伝導シートは使用時に特に千切れ難いことを示す。
A:熱伝導シートのはみ出しが全く無い。
B:少なくとも1辺が0mm超2mm未満の辺をもつ熱伝導シートがはみ出している。
C:少なくとも1辺が2mm以上6mm未満の辺をもつ熱伝導シートがはみ出している。
【0116】
(実施例1)
<組成物の調製>
常温常圧下で固体のフルオロエラストマー(フッ素ゴム)(スリーエムジャパン社製、商品名「Dyneon(登録商標)FPO3600ULV」、ムーニー粘度:3.5ML1+4、100℃)100部(56体積部)と、粒子状充填材としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC300」、体積平均粒子径:50μm)60部(27体積部)とを、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、装置温度を60℃に下げた後、反応開始剤としてのジベンゾイルパーオキサイド(日油社製、商品名「ナイパーE」)0.5部と、架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート(日本化成社製、商品名「TAIC M60」)0.5部とを混合し、材料温度60℃を維持した状態で10分間混錬した。次に、上述で得られた混合物を粉砕機(三庄インダストリー社製、製品名「ハンマークラッシャーHN34S」)に投入し、60秒間粉砕することにより、樹脂、粒子状充填材、架橋剤、および反応開始剤を含有する組成物を得た。
【0117】
<プレ熱伝導シート成形工程>
次いで、得られた組成物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙550μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形(一次加圧)し、厚み0.5mmのプレ熱伝導シートを得た。
【0118】
<積層体形成工程>
続いて、得られたプレ熱伝導シートを縦50mm×横50mm×厚み1.0mmに裁断し、プレ熱伝導シートの厚み方向に55枚積層し、更に、温度80℃、圧力0.1MPaで1分間、積層方向にプレス(二次加圧)することにより、高さ49mmの積層体を得た。この二次加圧により積層体の層間をより密着させた。
【0119】
<架橋反応工程>
続いて、得られた積層体を万力で上下から0.03MPaの圧力をかけた状態で、100℃雰囲気下で6時間加熱することで架橋反応(加硫)を行った。
なお、発生したガス等が抜けやすいように、積層体の側面に関しては特に力をかけなかった。
【0120】
<スライス工程>
その後、スライスに必要な長さを残して、得られた積層体の上面の全体を金属板で押さえ、積層方向に(即ち、上から)0.1MPaの圧力をかけて、積層体を固定した。なお、積層体の側面、背面の固定は行わなかった。このとき、積層体の温度は25℃であった。
次いで、サーボプレス機(放電精密加工研究所製)のプレス部分に、切断刃(両刃、刃角2θ:20°、刃部の最大厚み:3.5mm、材質:超鋼、ロックウェル硬度:91.5、刃面のシリコン加工:なし、全長:200mm)を取り付け、スライス速度200mm/秒、スライス幅100μmの条件で積層体の積層方向(換言すれば、積層されたプレ熱伝導シートの主面の法線に一致する方向に)にスライスして、縦150mm×横60mm×厚み0.10mmの熱伝導シートを得た。
そして、得られた熱伝導シートについて、上述の方法に従って、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0121】
(実施例2)
実施例1の組成物の調製において、樹脂と粒子状充填材とを混合する際に、塩基性基含有重合体(製品名「アジスパーPB821」、味の素ファインテクノ社製、アミン価:10mgKOH/g、酸価:17mgKOH/g)6部を更に添加したこと以外は、実施例1と同様にして、「組成物の調製」、「プレ熱伝導シート成形工程」、「積層体形成工程」、「架橋反応工程」および「スライス工程」を行った。
そして、得られた熱伝導シートについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0122】
(実施例3)
実施例2の組成物の調製において、樹脂と粒子状充填材とを混合する際に、常温常圧下で固体のフルオロエラストマー(スリーエムジャパン社製、商品名「Dyneon(登録商標)FPO3600ULV」)の添加量を100部(56体積部)から50部(28体積部)に減らすと共に、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG-101」)50部(28体積部)を更に添加したこと以外は、実施例2と同様にして、「組成物の調製」、「プレ熱伝導シート成形工程」、「積層体形成工程」、「架橋反応工程」および「スライス工程」を行った。
そして、得られた熱伝導シートについて、実施例2と同様の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0123】
(実施例4)
「組成物の調製」を下記の通りに行ったこと以外は、実施例1と同様にして、「組成物の調製」、「プレ熱伝導シート成形工程」、「積層体形成工程」、「架橋反応工程」および「スライス工程」を行った。
そして、得られた熱伝導シートについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
<組成物の調製>
常温常圧下で固体のフルオロエラストマー(フッ素ゴム)(スリーエムジャパン社製、商品名「Dyneon(登録商標)FPO3600ULV」、ムーニー粘度:3.5ML1+4、100℃)50部(28体積部)と、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、製品名「ダイエルG-101」)50部(28体積部)と、粒子状充填材としての膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC300」、体積平均粒子径:50μm)90部(40体積部)と、塩基性基含有重合体(製品名「アジスパーPB821」、味の素ファインテクノ製、アミン価:10mgKOH/g、酸価:17mgKOH/g)9部とを、加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。次に、装置温度を60℃に下げた後、反応開始剤としてのジベンゾイルパーオキサイド(日油株式会社製、商品名「ナイパーE」)0.25部と、架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレート(日本化成株式会社製、商品名「TAIC M60」)0.25部とを混合し、材料温度60℃を維持した状態で10分間混錬した。次に、上述で得られた混合物を粉砕機(三庄インダストリー社製、製品名「ハンマークラッシャーHN34S」)に投入し、60秒間粉砕することにより、樹脂、粒子状充填材、架橋剤、および反応開始剤を含有する組成物を得た。
【0124】
(実施例5)
実施例4の組成物の調製において、反応開始剤としてのジベンゾイルパーオキサイドの添加量を0.25部から0.50部に変更し、架橋剤としてのトリアリルイソシアヌレートの添加量を0.25部から0.50部に変更すると共に、実施例4の架橋反応工程において、加熱温度を100℃から150℃に変更し、加熱時間を6時間から1時間に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、「組成物の調製」、「プレ熱伝導シート成形工程」、「積層体形成工程」、「架橋反応工程」および「スライス工程」を行った。
そして、得られた熱伝導シートについて、実施例4と同様の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0125】
(実施例6)
実施例1の組成物の調製において、樹脂と粒子状充填材とを混合する際に、常温常圧下で固体のフルオロエラストマー(スリーエムジャパン社製、商品名「Dyneon(登録商標)FPO3600ULV」)の添加量を100部(56体積部)から50部(28体積部)に減らすと共に、常温常圧下で液体の熱可塑性フッ素樹脂(ダイキン工業株式会社製、商品名「ダイエルG-101」)50部(28体積部)を更に添加し、また、実施例1の架橋反応工程において、加熱温度を100℃から180℃に変更し、加熱時間を6時間から1時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、「組成物の調製」、「プレ熱伝導シート成形工程」、「積層体形成工程」、「架橋反応工程」および「スライス工程」を行った。
そして、得られた熱伝導シートについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0126】
(比較例1)
実施例1の組成物の調製において、粒子状充填材として、体積平均粒子径が50μmである膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC300」)60部(27体積部)に代えて、体積平均粒子径が190μmである膨張化黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製、商品名「EC100」)50部(22体積部)を使用し、反応開始剤として、ジベンゾイルパーオキサイド(日油社製、商品名「ナイパーE」)0.5部に代えて、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日油株式会社製、商品名「パーヘキサ25B-40」)0.25部を使用し、また、実施例1の架橋反応工程において、加熱温度を100℃から180℃に変更し、加熱時間を6時間から1時間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、「組成物の調製」、「プレ熱伝導シート成形工程」、「積層体形成工程」、「架橋反応工程」および「スライス工程」を行った。
そして、得られた熱伝導シートについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0127】
【表1】
【0128】
表1より、架橋樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材とを含み、厚み方向の熱伝導率が所定値以上であり、主面のシート強度の測定において、シート強度が最も高くなる主面内方向Xに対して垂直な主面内方向Yのシート強度が所定値以上であり、且つ、所定の微小孔の数が所定値以下である実施例1~6の熱伝導シートは、使用時に千切れ難いことが分かる。
一方、架橋樹脂を含有する樹脂と、粒子状充填材とを含み、厚み方向の熱伝導率が所定値以上であり、所定の主面内方向Yのシート強度が所定値以上であるものの、所定の微小孔の数が所定値を超える比較例1の熱伝導シートは、使用時に千切れ易いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明によれば、使用時に千切れ難い熱伝導シートを提供することができる。
【手続補正書】
【提出日】2025-05-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、粒子状充填材とを含み、厚み方向の熱伝導率が12W/m・K以上である熱伝導シート(但し、樹脂と、粒子状炭素材料と、繊維状炭素材料とを含む熱伝導シートを除く)であって、
前記熱伝導シートは、架橋性樹脂と、粒子状充填材と、架橋剤とを含む組成物を加圧してシート状に成形してなるプレ熱伝導シートを、厚み方向に複数枚積層して、或いは、折畳または捲回して得た積層体を架橋し、積層方向に対して45°以下の角度でスライスしてなり、
前記樹脂が架橋樹脂を含有し、
前記熱伝導シートの主面のシート強度の測定において、シート強度が最も高くなる主面内方向Xに対して垂直な主面内方向Yのシート強度が1.0N/mm以上であり、
前記シート強度は、前記熱伝導シートを主面内方向Xに20mm、主面内方向Yに50mmのサイズで打ち抜いたものを試験片とし、引張速度を20mm/分として、試験片を主面内方向Yに引っ張る引張試験時における最大強度を試験片の断面積で除した値であり、
前記熱伝導シートを厚み方向に貫通し、孔径が48μm以上500μm以下である微小孔の数が前記熱伝導シートの平面視面積1cm当たり200個以下である、熱伝導シート。
【請求項2】
前記樹脂および前記粒子状充填材の合計体積に占める前記粒子状充填材の体積の割合が30体積%以上である、請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
表面粗さSaが2.4μm以下である、請求項1または2に記載の熱伝導シート。