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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010099
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】ジルコニア焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20250109BHJP
【FI】
C04B35/488
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024107443
(22)【出願日】2024-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2023111444
(32)【優先日】2023-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川村 謙太
(72)【発明者】
【氏名】永山 仁士
(57)【要約】
【課題】
焼結体表面と焼結体内部との間に硬度差を有し、焼結体表面は加工性が高く、焼結体内部は高硬度であるジルコニア焼結体、当該焼結体を得るための原料及び焼結体の製造方法の少なくともいずれかを提供する。
【解決手段】
安定化元素を、0%を超え2.0mol%未満含有するジルコニア焼結体であって、焼結体の焼肌における単斜晶率をFm,a、焼結体の中心部における単斜晶率をFm,pとしたとき、Fm,aが50%以上、かつ、Fm,a>Fm,pであるジルコニア焼結体。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化元素を、0%を超え2.0mol%未満含有するジルコニア焼結体であって、焼結体の焼肌における単斜晶率をFm,a、焼結体の中心部における単斜晶率をFm,pとしたとき、Fm,aが50%以上、かつ、Fm,a>Fm,pであるジルコニア焼結体。
【請求項2】
安定化元素を、0%を超え2.0mol%未満含有するジルコニア焼結体であって、焼結体中心部のXRDパターンにおいて、正方晶ジルコニアの(400)面に相当するピークトップの2θからの、正方晶ジルコニアの(004)面に相当するピークトップの2θの差2θ(400)t-(004)tが1.5°以上である、ジルコニア焼結体。
【請求項3】
前記安定化元素がイットリウム、カルシウム、マグネシウム及びランタノイドの群から選ばれる1種以上である請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項4】
酸化ゲルマニウムを含有する請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項5】
酸化ゲルマニウムの含有量が0%を超え8.0mol%未満である請求項3に記載のジルコニア焼結体。
【請求項6】
アルミナを含む請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項7】
研磨前後の高度向上率が3%以上である請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体。
【請求項8】
安定化元素を含有するジルコニア、及び、酸化ゲルマニウムを含み、該ジルコニアは単斜晶率が80%を超え、粉末中の安定化元素量をSmol%、酸化ゲルマニウム量をGmol%としたとき、G/Sが0.35以上である粉末を大気雰囲気、1100℃以上1500℃以下で、0.3時間以上20時間以下焼結する請求項1又は2に記載のジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項9】
安定化元素を含有するジルコニア、及び、酸化ゲルマニウムを含み、該ジルコニアは単斜晶率が80%を超え、粉末中の安定化元素量をSmol%、酸化ゲルマニウム量をGmol%としたとき、G/Sが0.35以上である粉末。
【請求項10】
請求項9に記載の粉末を使用するジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の焼結体を含む部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼結体の表面と内部で硬度差のある、ジルコニア焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニアをマトリックスとする焼結体は、高強度及び高靭性といった特徴を有することから、粉砕媒体、構造材料、装飾部品や生体関連部材など幅広い応用がなされている。特に、時計、携帯電子機器、自動車、家電等の装飾部品用途へ適用される焼結体は、高強度及び高靭性であることに加えて、耐傷性や耐摩耗性の観点から高硬度であることが望ましい。
【0003】
例えば、特許文献1では、Ce安定化ジルコニア粉末、Y安定化ジルコニア粉末、酸化亜鉛粉末及びアルミナ粉末を混合して焼結することで得られた、ジルコニア―アルミナ複合焼結体が報告されている。当該焼結体は高強度及び高靭性であることに加えて、ビッカース硬度が1601~1843と高硬度であることが記載されている。
【0004】
ところで、ジルコニア焼結体は使用に先立ち、焼肌面(焼結直後の焼結体表面;as―sintered―surface)の除去のために、研削加工や研磨加工などの加工処理に供されることがほとんどである。焼肌面は粗く、焼結体の破壊の起点となる凹凸等(以下、「破壊源」ともいう。)を多く有する。そのため、焼肌面が残存している焼結体は、荷重に対する強度が低い。したがって、焼結体の評価や各種用途への使用に先立ち、研削や研磨加工によって焼肌面を取り除く必要がある。しかしながら、焼結体が高硬度である場合には、被削性に乏しく、加工が難しい。そのため、被削性を向上させるために硬度を低下させた、加工性に優れる焼結体も報告されている。
【0005】
例えば、特許文献2ではNb、Y及びジルコニアを混合し、必要に応じTiOを添加して焼結することで得られた、易加工性焼結体が報告されている。当該焼結体はビッカース硬度が8.76~8.79GPaと高すぎず、切削加工用のダイアモンドドリルを用いた加工が可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-056746号公報
【特許文献2】特開2015-127294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
焼結体の硬度と加工性はトレードオフの関係にある。耐傷性や耐摩耗性などの観点から高硬度の焼結体が求められている一方、加工性の観点では低硬度の焼結体が求められている。
【0008】
本開示では、焼結体表面と焼結体内部との間に硬度差を有し、焼結体表面は低硬度で加工性が高く、焼結体内部は高硬度であるジルコニアの焼結体、並びに、当該焼結体を得るための原料及び当該焼結体の製造方法の少なくともいずれかを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は特許請求の範囲のとおりであり、また、本開示の要旨は以下のとおりである。
[1] 安定化元素を、0mol%を超え2.0mol%未満含有するジルコニア焼結体であって、焼結体の焼肌における単斜晶率をFm,a、焼結体の中心部における単斜晶率をFm,pとしたとき、Fm,aが50%以上、かつ、Fm,a>Fm,pであるジルコニア焼結体
[2] 安定化元素を、0mol%を超え2.0mol%未満含有するジルコニア焼結体であって、焼結体中心部のXRDパターンにおいて、正方晶ジルコニアの(400)面に相当するピークトップの2θからの、正方晶ジルコニアの(004)面に相当するピークトップの2θの差が1.5°以上である、ジルコニア焼結体。
[3] 前記安定化元素がイットリウム、カルシウム、マグネシウム及びランタノイドの群から選ばれる1種以上である[1]に記載のジルコニア焼結体。
[4] 酸化ゲルマニウムを含有する[1]又は[2]に記載のジルコニア焼結体。
[5] 酸化ゲルマニウムの含有量が0%を超え8.0mol%未満である[3]に記載のジルコニア焼結体。
[6] アルミナを含む[1]乃至[4]のいずれかに記載のジルコニア焼結体。
[7] 研磨前後の高度向上率が3%以上である[1]乃至[5]のいずれかに記載のジルコニア焼結体。
[8] 安定化元素を含有するジルコニア、及び、酸化ゲルマニウムを含み、該ジルコニアは単斜晶率が80%を超え、粉末中の安定化元素量をSmol%、酸化ゲルマニウム量をGmol%としたとき、G/Sが0.35以上である粉末を大気雰囲気、1100℃以上1500℃以下で、0.3時間以上20時間以下焼結する工程を有する、上記[1]乃至[8]のいずれかひとつに記載のジルコニア焼結体の製造方法。
[9] 安定化元素を含有するジルコニア、及び、酸化ゲルマニウムを含み、該ジルコニアは単斜晶率が80%を超え、粉末中の安定化元素量をSmol%、酸化ゲルマニウム量をGmol%としたとき、G/Sが0.35以上である粉末。
[10] 上記[9]に記載の粉末を使用するジルコニア焼結体の製造方法。
[11] [1]乃至[7]のいずれかに記載の焼結体を含む部材。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、焼結体表面と焼結体内部との間に硬度差を有し、焼結体表面は加工性が高く、焼結体内部は高硬度であるジルコニアの焼結体、並びに、当該焼結体を得るための原料及び焼結体の製造方法の少なくともいずれかを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ジルコニア焼結体の断面の模式図
図2】ビッカース硬度試験後のビッカース圧痕の模式図
図3】実施例6の焼肌及び中心部におけるXRDパターン
図4】ビッカース硬度測定後の実施例6の焼肌面、研磨面のビッカース圧痕の外観
図5】実施例6及び比較例6の焼結体の外観
図6】実施例12の焼肌及び中心部の断面SEM像(倍率:2000倍)
図7】実施例12及び比較例5の中心部におけるXRDパターン
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の焼結体について実施形態の一例を示して説明する。また、本明細書で開示した各構成及びパラメータは任意の組合せとすることができ、また、本明細書で開示した値の上限及び下限は任意の組合せとすることができる。本実施形態における各用語は以下の通りである。
【0013】
「焼肌面」とは焼結直後の焼結体表面のことである。すなわち、焼結後、加工及び処理を施していない焼結体の表面を意味する。このような焼結体の表面は粗く、表面粗さRaが0.04μmよりも大きく、表面粗さRaが0.04μmを超え0.1μm以下であることが挙げられる。
【0014】
「深さ方向」とは、焼結体表面におけるある点から垂直に焼結体内部側に向かう方向をいう。
【0015】
「焼肌」とは、焼結直後の焼結体において、焼結体表面(すなわち、焼肌面)から焼結体内部に向かって一定の深さを有し、結晶相の一部が正方晶相から単斜晶相に変化した部分であり、正方晶相と、相当量の単斜晶相とを含む部分である。本実施形態においては、焼結体の焼肌面から深さ方向に10μmの部分を焼肌とみなす。
【0016】
焼結体表面の破壊源(焼肌面)の除去のための焼肌の加工方法は任意であるが、平面研削盤を使用して深さ方向に10μm以上研削を行うことが好ましい。これにより、焼肌面、さらには焼肌の除去が可能である。例えば、深さ方向に50μm以上、0.1mm又は0.3mm以上研削することが挙げられ、また、深さ方向に0.5mm以下研削することが挙げられる。
【0017】
焼結体の「中心部」とは、焼結体表面(焼肌面)より10μmよりも深い部分をいう。焼結体表面(焼肌)より深さ方向に10μmまでの部分が焼肌である。深さ方向に10μmを超えた部分が中心部である。そのため、焼結体表面を深さ方向に10μmを超えて加工することで中心部を焼結体表面に露出させることができる。
【0018】
「研磨面(polished―surface)」は、平滑な焼結体表面のことであり、表面粗さRaを0.04μm以下の表面である。研磨方法としては、例えば、上述の方法で焼肌面を除去後、研磨布紙による研磨、平均粒径3μmのダイアモンドスラリーによる研磨、及び、0.03μmのコロイダルシリカによる研磨、の順に鏡面研磨処理をする方法が挙げられる。本実施形態における研磨面は、中心部の表面であることが好ましく、焼結体表面(焼肌面)を深さ方向に10μm以上取り除き、なおかつ、研磨後の焼結体の表面粗さRaが0.04μm以下の面であることが好ましい。
【0019】
図1は、上面が研磨された状態のジルコニア焼結体(100)の断面を示しており、中心部(13)及び焼肌(14)からなる。図1において、焼結体表面(11)は研磨後の焼結体表面である「研磨面」である。研磨面(11)は、焼結後表面を10μm以上、研磨等の加工することにより、焼結体表面に露出した中心部(13)の表面でもある。焼結体表面(12)は「焼肌面」であり、焼結後の焼結体表面であり、焼肌(14)の表面である。また、深さ方向(15)とは、図中の矢印で示すように、焼結体表面(11、12)の任意の点から垂直に焼結体の内部に向かう方向である。
【0020】
「単斜晶率」とは、ジルコニアの結晶相に占める単斜晶ジルコニアの割合である。単斜晶率は、X線回折(以下、XRDともいう)パターンを使用し、以下の式から求めることができる。焼結体の焼肌の単斜晶率Fm,a(%)を求める場合は焼肌面におけるXRDパターン、焼結体の中心部の単斜晶率Fm,p(%)を求める場合は中心部におけるXRDパターン、粉末の単斜晶率を求める場合は粉末におけるXRDパターンをそれぞれ使用する。
【0021】
={I(111)+I(11-1)}
/[I(111)+I(11-1)+It,c(111)]×100 (1)
式(1)において、Fは単斜晶率(%)、I(111)及びI(11-1)は、それぞれ、単斜晶の(111)面及び(11-1)面に相当するXRDピークの面積強度、It,c(111)は正方晶の(111)面に相当するXRDピークの面積強度と立方晶の(111)面に相当するXRDピークの面積強度の合計である。従って、単斜晶率は面積割合としての値として求まる。
【0022】
本実施形態において、焼結体及び粉末のX線回折パターンは、一般的な結晶性解析X線回折装置(例えば、装置名:UltimaIV、RIGAKU社製)により測定することができる。
【0023】
測定条件として、以下の条件が挙げられる。
【0024】
線源 :CuKα線(λ=1.5418Å)
管電圧 :45kV
管電流 :40mA
測定モード :連続スキャン
スキャンスピード:4°/分
ステップ幅 :0.02°
測定範囲 :2θ=26°以上33°以下
ゴニオメータ :半径185mm
上述のXRDパターン測定において、本実施形態におけるジルコニアの各結晶面に相当するXRDピークは、以下の2θにピークトップを有するピークとして測定される。
【0025】
単斜晶ジルコニアの(111)面に相当するXRDピーク:2θ=31±0.5°
単斜晶ジルコニアの(11-1)面に相当するXRDピーク:2θ=28±0.5°
正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアの(111)面に相当するXRDピークは重複して測定され、そのピークトップの2θは、2θ=30±0.5°である。
【0026】
上述のXRDパターン測定で得られたパターンは、統合粉末X線解析ソフトウェア“PDXL”を使用して解析を実施すればよい。
【0027】
「2θ(400)t-(004)t」とは、焼結体の中心部のXRDパターンにおける正方晶ジルコニアの(400)面に相当するピークトップの2θからの、正方晶ジルコニアの(004)面に相当するピークトップの2θの差である。
【0028】
本実施形態において、ジルコニア焼結体の正方晶(004)面及び(400)面に相当するピークを含むX線回折パターンは、一般的なX線回折装置(例えば、装置名:UltimaIV、RIGAKU社製)により測定することができる。
【0029】
測定条件として、以下の条件が挙げられる。
【0030】
線源 :CuKα線(λ=1.5418Å)
管電圧 :45kV
管電流 :40mA
測定モード :連続スキャン
スキャンスピード:2°/分
ステップ幅 :0.02°
測定範囲 :2θ=72°以上76°以下
ゴニオメータ :半径185mm
上述のXRDパターン測定において、本実施形態のジルコニア焼結体の中心部に含まれるジルコニアの各結晶面に相当するXRDピークは、以下の2θにピークトップを有するピークとして測定される。
【0031】
正方晶ジルコニアの(004)面に相当するXRDピーク:2θ=72.5±0.5°
正方晶ジルコニアの(400)面に相当するXRDピーク:2θ=74.5±0.5°
上述のXRDパターン測定で得られたパターンは、統合粉末X線解析ソフトウェア“PDXL”を使用して解析を実施すればよい。具体的には“PDXL”のプログラムを用いてバックグラウンドの除去及びCuKα2線(λ=1.5443Å)によるXRDピークの除去を行えばよい。
【0032】
図2にビッカース硬度試験後のビッカース圧痕の模式図を示す。ビッカース硬度は上述の条件での試験で得られたビッカース圧痕を使用し、下式より求めることができる。
【0033】
HV=0.1891×F/{(a+a)/2} (2)
式(2)において、HVはビッカース硬度、Fは測定荷重(N)、aおよびaはそれぞれ圧痕の対角線長さ(mm)である。
【0034】
(焼結体)
以下、本実施形態のジルコニア焼結体について説明する。
【0035】
本実施形態のジルコニア焼結体は、安定化元素を0mol%超2.0mol%未満含有するジルコニア焼結体であって、焼結体の焼肌における単斜晶率をFm,a、焼結体の中心部における単斜晶率をFm,pとしたとき、Fm,aが50%以上、かつ、Fm,a>Fm,pであるジルコニア焼結体、である。
【0036】
本実施形態のジルコニア焼結体は、単斜晶率Fm,aが50%以上である焼肌と、単斜晶率Fm,pが50%未満であり、焼肌面よりも10μm以上内側にある中心部と、を有する。本実施形態のジルコニア焼結体の焼肌は容易に加工が可能であり、切削器具の摩耗が低減できる。本実施形態のジルコニア焼結体は、焼結後(as-is)に表層の単斜晶率が50%以上となった焼肌、及び、焼肌よりも内側にあり、単斜晶率が50%未満である中心部を含む焼結体であるが、本実施形態はこれに限定されない。別の実施形態として、焼結以外の加工や処理によって表層のみの単斜晶率が50%以上となった焼結体についても本開示に含まれ、本実施形態のジルコニア焼結体と同様な効果を奏する。
【0037】
本実施形態のジルコニア焼結体の焼肌における単斜晶率(Fm,a)は50%以上であり、70%以上又は80%以上であることが好ましく、また、100%以下又は100%未満であることが挙げられ、50%以上100%以下、又は、80%以上100%以下であることが好ましい。本実施形態のジルコニア焼結体の中心部における単斜晶率Fm,pは、焼肌の単斜晶率より小さく、50%未満であり、30%未満又は10%未満であることが好ましい。焼結体の焼肌における単斜晶率Fm,aは、焼結体表面を、深さ方向に3μm研磨した面における、上述のXRDパターン測定によって測定される。なお、加工の前後で中心部のジルコニアの結晶相は変化しないものとする。
【0038】
単斜晶率Fm,pは0%以上又は1%以上であればよく、0%以上50%未満、又は、1%以上10%未満であることが好ましい。
【0039】
また、本実施形態のジルコニア焼結体の中心部は、XRDパターン測定において2θ(400)t-(004)tが1.5°以上であることが好ましい。これにより、中心部の硬度が向上しやすい。
【0040】
2θ(400)t-(004)tは、1.5°以上、1.6°以上、又は1.7°以上であることが好ましい。2θ(400)t-(004)tが1.7°以上であることで単斜晶率が少なくなりやすい。さらに、本実施形態のジルコニア焼結体においては、2θ(400)t-(004)tが1.73°以上、更には1.75°以上であると、水熱劣化耐性が高くなりやすい。2θ(400)t-(004)tは、3.0°以下、2.5°以下、2.2°以下又は2.0°以下であることが挙げられ、1.5°以上3.0°以下、1.6°以上2.5°以下、1.7°以上2.0°以下、又は、1.73°以上2.0°以下が好ましい。
【0041】
また、本実施形態のジルコニア焼結体の中心部は、正方晶(004)面及び(400)面に相当するピークの2θより算出された格子定数から算出される軸比c/aが、1.018以上であることが好ましい。これにより、中心部の硬度が向上しやすい。c/aは、1.018以上、又は、1.020以上であることが好ましく、1.025以下、1.023以下であることが挙げられる。
【0042】
本実施形態のジルコニア焼結体の構造は、焼結体の一方の表面から対向する表面に向かい焼肌面、焼肌、中心部、焼肌及び焼肌面の順で有する構造であることが挙げられる。また、焼肌面及び焼肌を除去され、中心部のみからなる構造であってもよい。
【0043】
本実施形態のジルコニア焼結体は、安定化元素を含有するジルコニアを含む焼結体であり、安定化元素を含有するジルコニアを主相とする焼結体、いわゆるジルコニア焼結体、である。
【0044】
安定化元素は、ジルコニアを安定化する機能を有する元素であればよく、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、セリウム(Ce)、ガドリニウム(Gd)及びイッテルビウム(Yb)の群より選ばれる1つ以上が好ましく、イットリウム及びガドリニウムの少なくともいずれかが好ましく、イットリウムがより好ましい。本実施形態における焼結体は該安定化元素を2種類以上含んでいてもよい。
【0045】
安定化元素の含有量(以下、「安定化元素量」ともいい、安定化元素がイットリウム等である場合、それぞれ「イットリウム量」ともいう。)は、ジルコニアが部分安定化される量であればよい。安定化元素量は、酸化物換算で0mol%超、0.25mol%以上又は0.5mol%以上であり、また、2.0mol%未満、1.8mol%以下又は1.5mol%以下であることが挙げられ、0mol%を超え2.0mol%未満、0mol%を超え1.8mol%以下、又は、0.5mol%以上1.5mol%以下が好ましい。本実施形態において、安定化元素量は、ジルコニア及び酸化物換算した安定化元素の合計に対する、酸化物換算した安定化元素の合計の割合(mol%)である。
【0046】
本実施形態のジルコニア焼結体は、酸化ゲルマニウムを含まなくてもよいが、酸化ゲルマニウムを含有していることが好ましい。酸化ゲルマニウム(GeO)はジルコニア中に固溶していなくてもよいし、少なくとも一部が固溶していてもよい。酸化ゲルマニウムの量は、酸化物換算で0mol%以上、0.5mol%以上又は1.0mol%以上であり、また、8.0mol%未満、7.5mol%未満又は5.0mol%未満であることが挙げられ、更に、0mol%以上8.0mol%未満、0mol%を超え7.5mol%未満、又は、0.5mol%以上5.0mol%未満が好ましい。本実施形態において、酸化ゲルマニウムの量は、ジルコニア、酸化物換算した安定化元素、及び、酸化ゲルマニウムの合計に対する、酸化ゲルマニウムの合計の割合(mol%)である。
【0047】
本実施形態のジルコニア焼結体は、アルミナ(Al)を含んでいてもよい。本実施形態のジルコニア焼結体は、アルミナを含まなくてもよいため、アルミナ含有量は0質量%以上である。アルミナを含む場合、アルミナ含有量は0質量%を超え30質量%未満が挙げられ、好ましくは0質量%を超え25質量%以下、より好ましくは0.005質量%以上20質量%以下である。また、アルミナ含有量は0質量%以上、0質量%超、0.005質量%以上、0.05質量%以上又は0.25質量%以上であり、なおかつ、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、1質量%以下、又は、0.5質量%以下であってもよい。本実施形態のジルコニア焼結体が透光性を得やすい点や加工性に優れうる観点で、アルミナを含まないことが好ましい。一方、比較的低温でも緻密な焼結体が得られやすい観点から、アルミナ含有量は0.01質量%以上が好ましい。また、本実施形態のジルコニア焼結体の機械的特性、例えば静的強度のような機械的特性が高くなりやすいことから、アルミナ含有量は30質量%以下であることが好ましい。本実施形態のジルコニア焼結体が酸化ゲルマニウム及びアルミナを含む場合、アルミナ含有量は、ジルコニア、酸化物換算した安定化元素、酸化ゲルマニウム及びAl換算したアルミニウムの合計量に対する、Al換算したアルミニウムの質量割合である。
【0048】
本実施形態のジルコニア焼結体は、顔料成分を含んでいてもよい。焼結体に含まれる顔料成分とは、焼結体を着色する機能を有する成分をいう。これにより、焼結体がジルコニア本来の色調とは異なる任意の色調を呈することができる。本実施形態のジルコニア焼結体に含まれる顔料成分は、ジルコニアを着色する機能を有する元素及びその化合物の少なくともいずれかであり、例えば、金属元素を含む化合物、更には遷移金属元素及びこれを含む化合物であることが好ましい。具体的な顔料成分として、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)及び亜鉛(Zn)の群から選ばれる1種以上の元素、並びにこれらを1種以上含む化合物であることがより好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び亜鉛の群から選ばれる元素を1種以上含む酸化物であることがさらに好ましい。顔料成分としては、例えば、ジルコニア粉末に顔料の粉末を混合したものを焼結することで、顔料粉末由来の着色元素またはその着色元素を含む化合物が、ジルコニア焼結体中に顔料成分として含まれうる。
【0049】
本実施形態のジルコニア焼結体における顔料成分の形態は任意であり、顔料成分は粒子(第2相粒子)して含まれていてもよく、ジルコニア中に固溶していてもよい。
【0050】
本実施形態のジルコニア焼結体の顔料成分の含有量は0質量%以上、0質量%を超え、0.001質量%以上、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.05質量%以上又は0.1質量%以上であることが好ましい。顔料成分の含有量は任意であるが、顔料成分の含有量は、例えば、5.0質量%以下、3.5質量%以下又は3.0質量%以下であることが挙げられ、0質量%以上5.0質量%以下、0質量%を超え5.0質量%以下、又は、0.1質量%以上3.0質量%以下が好ましい。顔料成分の含有量は、本実施形態のジルコニア焼結体の質量に対する、酸化物換算した顔料成分の合計質量の割合、として求めることができる。顔料成分の酸化物換算は、コバルトはCo、鉄はFe、マンガンはMnO、亜鉛はZnOであればよい。また、本実施形態のジルコニア焼結体が酸化ゲルマニウム、アルミナ及び顔料成分を含み、顔料成分が複合酸化物を形成している場合の顔料成分の含有量は、ジルコニア、酸化物換算した安定化元素、酸化ゲルマニウム、Al換算したアルミニウム及び複合酸化物換算した顔料成分の合計量に対する、複合酸化物換算した顔料成分の質量の割合、として求めることができる。
【0051】
本実施形態のジルコニア焼結体は、酸化ゲルマニウム、アルミナ及び顔料成分以外にも、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)、酸化ガリウム(Ga)、酸化ニオブ(Nb)及び酸化タンタル(Ta)の群から選ばれる1以上などの添加剤の少なくともいずれかを含んでいてもよい。このような添加剤を含むことで、所望の機械的特性を有する焼結体を得ることができる。
【0052】
本実施形態のジルコニア焼結体は、ハフニア(HfO)等の不可避不純物を含んでいてもよいが、安定化元素、ジルコニア、アルミナ、必要に応じて顔料成分、及び不可避不純物以外は含まないことが好ましい。本実施形態において、焼結体の各成分の含有量の算出は、ハフニア(HfO)をジルコニア(ZrO)とみなしてこれらの値を算出すればよい。
【0053】
例えば、本実施形態のジルコニア焼結体が、顔料成分として、それぞれ、ABO又はABで表される複合酸化物、酸化ゲルマニウム、アルミナ及びシリカを含み、なおかつ、安定化元素としてガドリニウム及びイットリウムを含むジルコニアの焼結体である場合、各成分の含有量は以下のように求めればよい。
【0054】
顔料成分量[質量%]={(ABO+AB)/(Gd+Y+ZrO
+GeO+Al+SiO+ABO+AB)}×100
アルミナ量[質量%]={Al/(Gd+Y+ZrO
+GeO+Al+SiO+ABO+AB)}×100
シリカ量[質量%]={SiO/(Gd+Y+ZrO
+GeO+Al+SiO+ABO+AB)}×100
酸化ゲルマニウム量[mol%]={GeO
(GeO+Gd+Y+ZrO)}×100
安定化元素量[mol%]={(Gd+Y)/
(Gd+Y+ZrO)}×100
ガドリニウム量[mol%]={(Gd)/
(Gd+Y+ZrO)}×100
イットリウム量[mol%]={(Y)/
(Gd+Y+ZrO)}×100
本実施形態のジルコニア焼結体は、密度が高いことが好ましく、相対密度として98%以上がより好ましく、99%以上100%以下であることが更に好ましい。
【0055】
本実施形態において、相対密度は真密度に対する実測密度の割合から求めることができる。また、実測密度はJIS R 1634 に規定される方法(いわゆるアルキメデス法)で求まる体積に対する、質量測定により求まる質量として求まる値である。
【0056】
本実施形態における焼結体の真密度ρth(g/cm)は、添加物や顔料成分を含まない場合、焼結体が含有する安定化元素の酸化物の含有量(mol%)をXとしたときに、下式より求めることができる。
【0057】
ρZr=[124.25(100-X)+MsX]/αβ[150.5(100+X)]
ここで、ρZrはジルコニアの真密度であり、αおよびβは下記の値である。
【0058】
α=0.5080+0.06980X/(100+X)
β=0.5195-0.06180X/(100+X)
Msは安定化元素の酸化物のモル質量(g/mol)である。例えば、安定化元素としてイットリウムを含む場合、Ms=225.81である。
【0059】
また、本実施例の焼結体が酸化ゲルマニウムや酸化アルミナを含む添加物、その他顔料成分などを含む場合、焼結体の真密度は、上述の方法で算出したジルコニア部分の真密度ρZr、及び、以下に示す添加物や顔料成分の真密度を使用して求めればよい。すなわち、焼結体中に含まれる各成分の質量割合を、それぞれの成分の真密度で除して足し合わせたものの逆数が、焼結体の真密度である。例えば、酸化ゲルマニウムをY質量%、酸化アルミナをZ質量%含む焼結体の場合、真密度ρthは以下のように求めればよい。
【0060】
ρth=100/[(Y/4.25)+(Z/3.987)+(100―Y―Z)/ρZr
添加物及び顔料成分の真密度は以下の値を使用すればよい。
【0061】
酸化ゲルマニウム(GeO):4.25 [g/cm
アルミナ(Al):3.987 [g/cm
なお、上述の式は添加物である酸化ゲルマニウムや酸化アルミナのジルコニア部分への固溶を加味していないため、真密度ρthが実測密度よりも小さくなり、相対密度が100%を超えることがある。その場合の相対密度は「100%」とする。
【0062】
本実施形態において、焼結体の焼肌面はビッカース硬度が低いことが好ましい。一方、焼結体の中心部はビッカース硬度が高いことが好ましい。ビッカース硬度は、JIS R1610:2003に準じたビッカース硬度試験により求められ、測定条件として、以下の条件が例示できる。
【0063】
試料厚み :1.5±0.5mm
測定荷重 :5kgf
本実施形態のジルコニア焼結体において、焼肌の硬度は低いほど好ましく、1400HV未満であることが例示でき、1300HV未満又は1200HV未満であることが好ましい。焼肌の硬度が低いほど、焼肌の研削加工による除去が容易となる。一方で、中心部の硬度は高いほど好ましく、1000HV以上、1050HV以上又は1100HV以上であることが好ましい。焼結体中心部の硬度が高いほど、各種用途での使用時に表面に傷がつきにくく、耐傷性が向上する。
【0064】
本実施形態のジルコニア焼結体は、焼肌よりも中心部のビッカース硬度が高いことが好ましい。これにより、焼肌の研削加工が容易である一方、耐傷性の高い焼結体を提供することが可能となる。本実施形態において、焼結体の焼肌の研磨前後の硬度上昇率(以下、単に「硬度上昇率」ともいう。)は、0%より大きいことが好ましく、3%以上、5%以上又は10%以上がより好ましい。また硬度上昇率は50%以下又は30%以下が挙げられ、0%を超え50%以下、3%以上50%以下、又は、10%以上50%以下が例示できる。硬度上昇率は、硬度向上率は焼結体の焼肌の硬度に対する中心部の硬度の比を表し、以下の式により求められる。
【0065】
硬度上昇率(%)=(中心部のビッカース硬度―焼肌のビッカース硬度)
/焼肌のビッカース硬度×100
本実施形態のジルコニア焼結体の形状は、例えば、球状、略球状、楕円状、円板状、円柱状、立方体状、直方体状、多面体状及び略多面体状の群から選ばれる1つ以上が挙げられる。更に、各種用途等、所期の目的を達成するための任意の形状であればよい。
【0066】
本実施形態のジルコニア焼結体は、従来の焼結体、特に構造材料、光学材料、歯科用材料等のジルコニア焼結体の用途に適用できるが、装飾品、時計や筐体などのアクセサリーのカバー用途、携帯電話などの携帯電子機器の外装部材など、高度な加工が要求される部材として使用することができる。
(加工後のジルコニア焼結体)
本実施形態のジルコニア焼結体は、任意の加工方法によって焼肌が除去されてよい。焼肌が除去されて中心部のみとなった加工後のジルコニア焼結体(以下、単に「加工後のジルコニア焼結体」ともいう。)は、硬度が高く耐傷性が高いため、上述した装飾品やカバー部材、外装部材などの用途に適応すると審美性が向上する。
【0067】
加工後のジルコニア焼結体は、表面粗さRaが0.04μm以下となっていることが好ましい。焼結体表面の破壊源が除去されているため、破壊に対する強度が向上する。
【0068】
本実施形態のジルコニア焼結体は、焼肌と中心部のいずれにおいても組成は同一とみなしてよい。すなわち、加工後のジルコニア焼結体の組成は、上述した加工前の本実施形態のジルコニア焼結体の組成と同一とみなしてよい。例えば加工後のジルコニア焼結体は、安定化元素としてイットリウムを0mol%を超え2.0mol%未満含有し、酸化ゲルマニウムを0mol%を超え8.0mol%以下含有し、顔料成分やアルミナ等の添加剤成分を含有していてもよい。
【0069】
加工後のジルコニア焼結体は、上述した中心部のみで構成される。すなわち、加工後のジルコニア焼結体は、上述したXRDパターン測定において2θ(400)t-(004)tが1.5°以上である。
【0070】
加工後のジルコニア焼結体は、正方晶(004)面及び(400)面に相当するピークの2θより算出された格子定数から算出される軸比c/aが、1.018以上であることが好ましい。
【0071】
そのほか、加工後のジルコニア焼結体の硬度やXRDパターン等、種々の特性や物性については、本実施形態のジルコニア焼結体の中心部のものと同一である。
(粉末)
本実施形態の粉末は、安定化元素を含有するジルコニア、及び、酸化ゲルマニウムを含み、該ジルコニアは単斜晶率が80%を超え、粉末中の安定化元素量をSmol%、酸化ゲルマニウム量をGmol%としたとき、G/Sが0.35以上である粉末、である。
【0072】
本実施形態の粉末に含まれるジルコニアは、安定化元素を含む。安定化元素としてはカルシウム、マグネシウム、スカンジウム、イットリウム、セリウム、ガドリニウム及びイッテルビウムの群から選ばれる1種以上があげられ、イットリウム及びガドリニウムの少なくともいずれかであることが好ましく、イットリウムであることがより好ましい。本実施形態の粉末に含まれるジルコニアは、該安定化元素を2種類以上含んでいてもよい。
【0073】
本実施形態の粉末の安定化元素量は、目的とする焼結体と同じ量であればよい。安定化元素量は酸化物換算で、0mol%超、0.25mol%以上又は0.5mol%以上であり、また、2mol%未満、1.8mol%以下又は1.5mol%以下であることが挙げられ、更に、0mol%を超え2mol%未満、0mol%を超え1.8mol%以下、又は、0.5mol%以上1.5mol%以下が好ましい。
【0074】
安定化元素はジルコニアに固溶していることが好ましく、本実施形態の粉末は、未固溶の安定化元素を含まないことが好ましい。
【0075】
本実施形態の粉末は、G/Sが0.35以上であり、0.5以上、1.0以上、1.5以上又は2.0以上であることが好ましい。G/Sは、10.0以下、8.0以下、5.0以下であることが挙げられ、0.35以上10.0以下、0.5以上8.0以下、又は、1.0以上5.0以下であることが好ましい。
【0076】
本実施形態の粉末は、アルミナ(Al)を含んでいてもよい。本実施形態の粉末は、アルミナを含まなくてもよいため、アルミナ含有量は0質量%以上である。アルミナを含む場合、アルミナ含有量は0質量%を超え30質量%未満が挙げられ、好ましくは0質量%を超え25質量%以下、より好ましくは0.005質量%以上20質量%以下である。また、アルミナ含有量は0質量%以上、0質量%超、0.005質量%以上、0.05質量%以上又は0.25質量%以上であり、なおかつ、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下であってもよい。得られるジルコニア焼結体が透光性を得やすい点や加工性に優れうる観点で、アルミナを含まないことが好ましい。一方、比較的低温でも緻密な焼結体が得られやすい観点から、アルミナ含有量は0.01質量%以上が好ましく、得られるジルコニア焼結体の機械的特性、例えば静的強度のような機械的特性、が高くなりやすいことから、アルミナ含有量は30質量%以下であることが好ましい。本実施形態の粉末が酸化ゲルマニウム及びアルミナを含む場合、アルミナ含有量は、ジルコニア、酸化物換算した安定化元素、酸化ゲルマニウム及びAl換算したアルミニウムの合計量に対する、Al換算したアルミニウムの質量割合である。
【0077】
本実施形態の粉末は、顔料を含んでいてもよい。これにより、得られる焼結体がジルコニア本来の色調とは異なる色調を呈する。本実施形態の粉末に含まれる顔料は、ジルコニアを着色する機能を有する元素及びその化合物の少なくともいずれかであり、例えば、金属元素を含む化合物、更には遷移金属元素を含む化合物であることが好ましい。具体的な顔料として、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛の群から選ばれる元素を1種以上含む化合物であることがより好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル及び亜鉛の群から選ばれる元素を1種以上含む酸化物であることがさらに好ましい。
【0078】
本実施形態の粉末は、顔料を含まなくてもよいため、顔料含有量は0質量%以上である。顔料を含む場合、0質量%を超え、0.001質量%以上、0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.1質量%以上であることが好ましく、5.0質量%以下又は3.5質量%以下であることが好ましい。顔料の含有量は、酸化物換算した本実施形態の粉末の質量に対する、酸化物換算した顔料の合計質量の割合、として求めることができる。また、顔料成分が複合酸化物を形成している場合の顔料成分の含有量は、本実施形態のジルコニア焼結体の質量に対する、複合酸化物換算した顔料成分の合計質量の割合、として求めることができる。
【0079】
本実施形態の粉末は、酸化ゲルマニウム、アルミナ及び顔料以外にも、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)、酸化ガリウム(Ga)、酸化ニオブ(Nb)及び酸化タンタル(Ta)の群から選ばれる1以上などの添加剤を含んでいてもよい。添加剤を含むことで、所望の機械的特性を有する焼結体を得ることができる。
【0080】
本実施形態の粉末は、ハフニア(HfO)等の不可避不純物を含んでいてもよい。しかしながら、安定化元素、ジルコニア、アルミナ、必要に応じて顔料、及び不可避不純物以外は含まないことが好ましい。本実施形態において、粉末中の各成分の含有量の算出は、ハフニア(HfO)をジルコニア(ZrO)とみなしてこれらの値を算出すればよい。
【0081】
例えば、本実施形態の粉末が、顔料として、それぞれ、ABO又はABで表される複合酸化物、酸化ゲルマニウム、アルミナ及びシリカを含み、なおかつ、安定化元素としてガドリニウム及びイットリウムを含むジルコニアの粉末である場合、各成分の含有量は以下のように求めればよい。
【0082】
顔料量[質量%]={(ABO+AB)/(Gd+Y+ZrO
+GeO+Al+SiO+ABO+AB)}×100
アルミナ量[質量%]={Al/(Gd+Y+ZrO
+GeO+Al+SiO+ABO+AB)}×100
シリカ量[質量%]={SiO/(Gd+Y+ZrO
+GeO+Al+SiO+ABO+AB)}×100
酸化ゲルマニウム量[mol%]={GeO
(GeO+Gd+Y+ZrO)}×100
安定化元素量[mol%]={(Gd+Y)/
(Gd+Y+ZrO)}×100
ガドリニウム量[mol%]={(Gd)/
(Gd+Y+ZrO)}×100
イットリウム量[mol%]={(Y)/
(Gd+Y+ZrO)}×100
本実施形態の粉末に含まれるジルコニアの単斜晶率は、80%を超え、85%以上又は90%以上であることが好ましい。単斜晶率は100%以下であり、ジルコニアが正方晶及び立方晶の少なくともいずれかを含む場合、単斜晶率は100%未満となる。また、正方晶率と立方晶率の合計は20%未満、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。正方晶率と立方晶率の合計は0%以上であればよく、正方晶及び立方晶は含まれていなくともよい。
【0083】
本実施形態の粉末のBET比表面積は、5m/g以上、10m/g以上又は15m/g以上であり、また、40m/g未満、35m/g以下又は30m/g以下であり、5m/g以上40m/g未満、10m/g以上35m/g以下、又は、15m/g以上30m/g以下であることが好ましい。BET比表面識が5m/g以上であることで、比較的低い焼結温度でも緻密な焼結体を得ることが可能であり、40m/g未満であることで粉末の噴流性が低くなる傾向にある。
【0084】
本実施形態の粉末は成形性が高いことが好ましい。具体的には、本実施形態の粉末を圧力50±5MPaで一軸加圧成形した後に、圧力196±5MPaで冷間静水圧プレス(以下、「CIP」ともいう。)で処理して成形体とした場合の該成形体の相対密度(以下、「成形体密度」ともいう。)が49%以上又は50%以上であり、また、56%以下又は54%以下であることが挙げられ、49%以上56%以下、又は、50%以上54%以下であることが好ましい。
【0085】
本実施形態の粉末は、仮焼体や焼結体の前駆体として使用することができ、装飾品、時計や筐体などのアクセサリーのカバー用途、携帯電話などの携帯電子機器の外装部材などの原料粉末に適している。
【0086】
本実施形態の粉末を仮焼体又は焼結体等とする場合、仮焼又は焼結に先立って成形によって成形体(圧粉体)としてもよい。成形、仮焼及び焼結は、いずれも公知の方法で行うことができる。
【0087】
本実施形態の粉末を成形体とする場合、成形は公知の方法、例えば、一軸プレス、冷間静水圧プレス、スリップキャスティング及び射出成形の群から選ばれる1種以上、によって行えばよい。
【0088】
形状安定性の改善のため、成形体は結合剤を含んでいてもよい。結合剤は、セラミックスの成形に使用される有機バインダーであればよく、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ワックス及び可塑剤の群から選ばれる1以上が挙げられる。結合剤の含有量として、成形体の体積に占める結合剤の割合が25体積%以上65体積%以下であることが例示できる。また、成形体100質量%中、結合剤が0質量%を超え10質量%であることが例示できる。
【0089】
成形体の形状は、焼結による収縮を考慮し、目的に応じた任意の形状であればよく、例えば、球状、略球状、楕円状、円板状、円柱状、立方体状、直方体状、多面体状及び略多面体状の群から選ばれる少なくともいずれかが挙げられる。
【0090】
仮焼は、粉末の焼結温度未満で熱処理すればよく、例えば、大気雰囲気、600℃以上1200℃未満で熱処理すればよい。焼結は、公知の方法、例えば加圧焼結、真空焼結及び常圧焼結の群から選ばれる1以上、が適用できる。簡便であり、工業的に適用しやすいため、焼結は常圧焼結であることが好ましく、大気雰囲気、1150℃以上1550℃以下、好ましくは1200℃以上1500℃以下の常圧焼結がより好ましい。
【0091】
(粉末および焼結体の製造方法)
以下、本実施形態のジルコニア焼結体の製造方法について説明する。
【0092】
本実施形態のジルコニア焼結体は、上述の性質を有する焼結体が得られればその製造方法は任意である。本実施形態のジルコニア焼結体の製造方法の一例として、安定化元素源と、ジルコニアとを含む粉末(以下、「原料組成物」ともいう。)を焼結する工程、を有する製造方法が例示できる。粉末は、どのような形態で上述の工程(以下、「焼結工程」ともいう。)に供されてもよく、例えば成形体(圧粉体)としてから焼結に供することが挙げられる。
【0093】
好ましい製造方法として、安定化元素を含有するジルコニア、及び、酸化ゲルマニウムを含み、該ジルコニアは単斜晶率が80%を超え、粉末中の安定化元素量をSmol%、酸化ゲルマニウム量をGmol%としたとき、G/Sが0.35以上である粉末を大気雰囲気、1100℃以上1500℃以下で、0.3時間以上20時間以下焼結する工程を有する、焼結体の製造方法、が挙げられる。
【0094】
安定化元素源は、安定化元素の酸化物及びその前駆体となる安定化元素を含む化合物の少なくともいずれかであればよく、安定化元素の酸化物の前駆体となる酸化物、水酸化物、オキシ塩化物、塩化物、酢酸塩、硝酸塩及び硫酸塩の群から選ばれる1種以上が例示でき、塩化物及び硝酸塩の少なくともいずれかであることが好ましい。(以下、安定化元素がイットリウム、ガドリニウムである場合の安定化元素源を、それぞれ、「イットリウム源」、「ガトリニウム源」ともいう。)。原料組成物における安定化元素源の含有量は、目的とする焼結体の安定化元素量と同等であればよい。
【0095】
イットリウム源は、イットリア(酸化イットリウム;Y)及びその前駆体となるイットリウム化合物の少なくともいずれかであればよく、塩化イットリウム、イットリア及び炭酸イットリウムの群から選ばれる1以上が挙げられ、塩化イットリウムが好ましい。
【0096】
ガドリニウム源は、ガドリニア(酸化ガドリニウム)及びその前駆体となるガドリニウム化合物の少なくともいずれかであればよく、塩化ガドリニウム、ガドリニア及び炭酸ガドリニウムの群から選ばれる1以上が挙げられ、塩化ガドリニウムが好ましい。
【0097】
原料組成物は、ゲルマニウム源を含んでいてもよい。ゲルマニウム源は、酸化ゲルマニウム及びその前駆体となる化合物の少なくともいずれかであればよく、酸化ゲルマニウムの前駆体となるゲルマニウムの水酸化物、塩化物、アルコキシド、硝酸塩及び硫酸塩の群から選ばれる1種以上が例示でき、酸化ゲルマニウム、その前駆体となるゲルマニウムの塩化物及びアルコキシド群から選ばれる1種以上であることが好ましい。原料組成物におけるゲルマニウム源の含有量は、目的とする焼結体のゲルマニウム含有量と同等であればよい。
【0098】
原料組成物は、アルミナ源を含んでいてもよい。アルミナ源は、アルミナ(Al)及びその前駆体となるアルミニウム(Al)を含む化合物の少なくともいずれかであり、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミナゾル及びアルミナの群から選ばれる1以上が挙げられ、アルミナであることが好ましい。原料組成物におけるアルミナ源の含有量は、目的とする焼結体のアルミナ含有量と同等であればよい。
【0099】
ジルコニアは、酸化ジルコニウム(ZrO)を使用してもよいし、安定化元素を含有する、安定化元素含有ジルコニアを使用してもよい。安定化元素含有ジルコニアとしては、例えば、イットリウム安定化ジルコニアなどが挙げられる。安定化元素含有ジルコニアを使用する場合、ジルコニアに安定化元素を含有させる方法は任意である。例えば、水和ジルコニアゾルと、目的とする安定化元素含有量と同等の安定化元素源とを混合し、乾燥、仮焼及び水洗することが挙げられる。
【0100】
更には、ジルコニアとして、酸化ゲルマニウム及び安定化元素を含有する酸化ゲルマニウム含有安定化ジルコニアを使用してもよい。酸化ゲルマニウム含有安定化ジルコニアとしては、例えば、酸化ゲルマニウム含有イットリウム安定化ジルコニアなどが挙げられる。酸化ゲルマニウム含有安定化ジルコニアを使用する場合、ジルコニアに酸化ゲルマニウムを含有させる方法は任意である。例えば、水和ジルコニアゾルと、安定化元素源と、ゲルマニウム源を混合し、乾燥、仮焼及び水洗する方法や、水和ジルコニアゾルと、安定化元素源を混合し、乾燥、仮焼したのち、ゲルマニウム源を混合して仮焼する方法が挙げられる。
【0101】
混合方法は任意であり、好ましくは乾式混合及び湿式混合の少なくともいずれか、より好ましくは湿式混合、更に好ましくはボールミルを使用した湿式混合である。
【0102】
本実施形態のジルコニア焼結体の製造方法において、原料組成物を成形して成形体(圧粉体)とする工程(以下、「成形工程」ともいう。)を含んでいてもよい。
【0103】
成形体の製造方法は任意であり、ジルコニア、安定化元素源、ゲルマニウム源、並びに、必要に応じてアルミナ源などの添加剤、を任意の方法で混合、成形することが挙げられる。
【0104】
形状安定性の改善のため、成形体は結合剤を含んでいてもよい。結合剤は、セラミックスの成形に使用される有機バインダーであればよく、例えば、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ワックス及び可塑剤の群から選ばれる1以上が挙げられる。結合剤の含有量として、成形体の体積に占める結合剤の割合が室温で25容量%以上65容量%以下であることが例示できる。また、成形体100質量%中、結合剤が0質量%を超え10質量%であることが例示できる。
【0105】
成形体の形状は、焼結による収縮を考慮し、目的に応じた任意の形状であればよく、例えば、球状、略球状、楕円状、円板状、円柱状、立方体状、直方体状、多面体状及び略多面体状の群から選ばれる少なくともいずれかが挙げられる。
【0106】
成形方法は、混合粉末を圧粉体としうる公知の成形方法を使用してよく、好ましくは一軸加圧成形、等方加圧成形、射出成形、押出成形、転動造粒、スリップキャスト及び鋳込み成形の群から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは一軸加圧成形及び等方加圧成形の少なくともいずれか、更に好ましくは冷間静水圧プレス処理及び一軸加圧成形(粉末プレス成形)の少なくいずれか、また更に好ましくは一軸加圧成形後に冷間静水圧プレス処理をすること、である。
【0107】
焼結に先立ち、成形体を仮焼して仮焼体を得る工程(以下、「仮焼工程」ともいう。)を有していてもよい。成形体を仮焼することにより、成形体から結合剤を除去することができる。
【0108】
仮焼工程の条件は本実施形態のジルコニア焼結体が得られれば任意であるが、大気雰囲気、400℃以上1100℃未満で熱処理することが例示できる。
【0109】
焼結工程は、成形体または仮焼体を焼結して焼結体を得る。焼結方法は焼結が進行する方法であれば任意であり、常圧焼結、加圧焼結、真空焼結等、公知の焼結方法が例示できる。好ましい焼結方法として常圧焼結が挙げられ、簡便であるため、焼結方法は常圧焼結のみであることが好ましい。これにより、本実施形態のジルコニア焼結体を、いわゆる常圧焼結体として得ることができる。常圧焼結とは、焼結時に成形体(又は仮焼体)に対して外的な力を加えず、単に加熱することによって焼結する方法である。なお、酸化ゲルマニウム含有安定化ジルコニアの粉末と、酸化ゲルマニウム含有安定化ジルコニアの仮焼体と、酸化ゲルマニウム含有安定化ジルコニアの焼結体の組成は同一とみなしてよい。
【0110】
常圧焼結の条件は、焼結温度として、1050℃以上1600℃以下、好ましくは1100℃以上1550℃以下、1100℃以上1500℃以下、又は、1150℃以上1500℃以下、が例示できる。焼結温度は、仮焼温度よりも高いことが好ましい。また、焼結雰囲気として、大気雰囲気及び酸素雰囲気の少なくともいずれかが挙げられ、大気雰囲気であることが好ましい。昇温速度は20℃/時間以上5000℃/時間以下が例示できる。また、焼結時間は焼結に供する被焼結物の量及び大きさ、並びに焼結炉の特徴に応じて適宜設定すればよいが、例えば、上述の焼結温度で、0.3時間以上20時間以下、0.5時間以上20時間以下、又は、0.5時間以上15時間以下、保持することが挙げられる。
【0111】
本実施形態のジルコニア焼結体の製造方法に使用するジルコニアの製造方法は任意である。ジルコニアの製造方法の一例として、主相が単斜晶ジルコニアである結晶性ジルコニアを含むジルコニアゾル、及び安定化元素源、を含む組成物を、600℃以上1250℃以下で熱処理して仮焼粉末とする工程、及び、該仮焼粉末を粉砕する工程、を含む製造方法、が挙げられる。
【0112】
以下に、その製造方法について具体的に説明するが、本実施形態におけるジルコニアの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0113】
主相が単斜晶ジルコニアである結晶性ジルコニアを含むジルコニアゾルの製造方法は任意であり、水熱合成法及び加水分解法の少なくともいずれかが例示できる。水熱合成法では、溶媒存在下でジルコニウム塩とアルカリ等とを混合して得られる共沈物を100~200℃で熱処理することでジルコニアゾルが得られる。また、加水分解法では、溶媒存在下でジルコニウム塩を加熱することで該ジルコニウム塩が加水分解してジルコニアゾルが得られる。このように、ジルコニアゾルは水熱合成法又は加水分解法で得られるジルコニアゾルであることが例示でき、加水分解法で得られるジルコニアゾルであることが好ましい。ジルコニアゾルの製造方法で使用される前駆体としてジルコニウム塩が挙げられる。
ジルコニウム塩は、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム及び硫酸ジルコニウムの群から選ばれる1種以上が例示でき、硝酸ジルコニウム及びオキシ塩化ジルコニウムの少なくともいずれかであることが好ましく、オキシ塩化ジルコニウムであることがより好ましい。
【0114】
主相が単斜晶ジルコニアであるジルコニアを含むジルコニアゾル、及び安定化元素源、を含む組成物(ジルコニア原料組成物)を、600℃以上1250℃以下で熱処理して仮焼粉末とする工程(以下、「粉末仮焼工程」ともいう。)により、ジルコニアの粉末の前駆体である仮焼粉末が得られる。
【0115】
粉末仮焼工程では、500℃以上1250℃以下、更には600℃以上1250℃以下で熱処理する。熱処理が600℃以上であることで、常圧焼結で緻密化しやすい粉末が得られる。一方、熱処理が1250℃以下であることで、粉砕によって分散しやすい粉末が得られやすくなる。熱処理の時間は熱処理温度、並びに、処理に供するジルコニア原料組成物の量及び熱処理炉の特性に応じ適宜変更すればよいが、例えば30分以上6時間以下が挙げられる。得られる仮焼粉末に対し、熱処理温度への昇温速度が与える影響はほとんどないが、該昇温速度として、例えば、50℃/時間以上1000℃/時間以下が挙げられる。
【0116】
熱処理の雰囲気は任意であり、酸化雰囲気、還元雰囲気、不活性雰囲気及び真空雰囲気の群から選ばれるいずれかが例示でき、酸化雰囲気であることが好ましく、大気雰囲気であることがより好ましい。
【0117】
粉末仮焼工程に供するジルコニア原料組成物は、上述のジルコニアゾル、及び安定化元素源を含んでいればよく、安定化元素源の全部又は一部がジルコニアゾルに固溶していてもよい。例えば、ジルコニウム塩と安定化元素源とを混合して加水分解すること、又は、ジルコニウム塩、安定化元素源及びアルカリ等とを混合して共沈物とすること、などの方法により、安定化元素源の少なくとも一部がジルコニアに固溶しやすくなる。
【0118】
粉砕工程では、仮焼粉末を粉砕処理する。安定化元素含有量が低いジルコニアは、焼結時に割れや欠けなどが発生しやすい。これに対し、仮焼粉末を粉砕処理することで焼結時の歩留まりが高くなりやすい。
【0119】
粉砕方法は任意であり、湿式粉砕及び乾式粉砕の少なくともいずれかであればよく、湿式粉砕であることが好ましく、pH>7.0(すなわち、塩基性の)の水系分散媒を用いた湿式粉砕であることが好ましく、pH>8.0の水系分散媒を用いた湿式粉砕であることがより好ましい。具体的な湿式粉砕として、ボールミル及び連続式媒体撹拌ミルの群から選ばれる1以上が例示でき、ボールミルであることが好ましい。pH>7.0(すなわち、塩基性の)の水系分散媒を用いた湿式粉砕であることで、焼結体の表面と内部に硬度の差が生じやすくなる。
【0120】
粉砕工程に供する粉末は、酸化ゲルマニウム及び任意にアルミナを含む仮焼粉末、又は、仮焼粉末並びにゲルマニウム源及び任意にアルミナ源を含む混合粉末であってもよい。ゲルマニウム源は上述のゲルマニウム源が例示でき、アルミナ源は、上述のアルミナ源が
例示できる。
【0121】
ボールミルによる粉砕条件として、例えば、仮焼粉末及び溶媒(例えば、水及びアルコールの少なくともいずれか、更には水)を混合して、スラリー質量に対する仮焼粉末の質量割合が30質量%以上60質量%以下であるスラリーとし、該スラリーを直径0.5mm以上15mm以下のジルコニアボールを粉砕媒体として、粉砕することが挙げられる。粉砕時間は、処理に供する仮焼粉末の量に応じ適宜調整すればよく、例えば、8時間以上100時間以下が挙げられる。
【0122】
湿式粉砕後、任意の方法で乾燥してジルコニア粉末が得られる。乾燥条件として、大気雰囲気、110℃~130℃が例示できる。
【0123】
粉末の操作性を向上させるため、粉末の製造方法において、粉末を顆粒化する工程(以下、「顆粒化工程」ともいう。)を含んでいてもよい。顆粒化は任意の方法であればよく、粉末と溶媒とを混合したスラリーを噴霧造粒すること、が挙げられる。該溶媒は水及びアルコールの少なくともいずれか、好ましくは水である。顆粒化された粉末(以下、「粉末顆粒」ともいう。)は、平均顆粒径が30μm以上80μm以下、更には50μm以上60μm以下であること、及び、嵩密度が1.00g/cm以上1.50g/cm以下、更には1.10g/cm以上1.45g/cm以下であることが挙げられる。
【実施例0124】
以下、本開示について実施例を示して説明する。しかしながら、本開示はこれらに限定されるものではない。
(単斜晶率及び2θ(400)t-(004)t
一般的なX線回折装置(装置名:UltimaIV、RIGAKU社製)を使用し、粉末及び焼結体試料のXRDパターンを得た。単斜晶率を算出する際のXRD測定の条件は以下の通りである。
【0125】
線源 :CuKα線(λ=1.5418Å)
管電圧 :45kV
管電流 :40mA
測定モード :連続スキャン
スキャンスピード:4°/分
ステップ幅 :0.02°
測定範囲 :2θ=26°以上33°以下
ゴニオメータ :半径185mm
式(1)より、得られた粉末のXRDパターンを使用し粉末の単斜晶率(%)を、得られた焼結体の焼肌のXRDパターンを使用し焼肌の単斜晶率Fm,a(%)を、得られた焼結体の中心部のXRDパターンを使用し中心部の単斜晶率Fm,p(%)をそれぞれ求めた。
【0126】
また、焼結体中心部の正方晶ジルコニアの(400)面に相当するピークトップの2θからの正方晶ジルコニア(004)面に相当するピークトップの2θの差を算出する際のXRD測定条件は以下の通りである。
【0127】
線源 :CuKα線(λ=1.5418Å)
管電圧 :45kV
管電流 :40mA
測定モード :連続スキャン
スキャンスピード:2°/分
ステップ幅 :0.02°
測定範囲 :2θ=72°以上76°以下
ゴニオメータ :半径185mm
上述のXRD測定で得られたパターンを、統合粉末X線解析ソフトウェア“PDXL”を使用してバックグラウンドの除去及びCuKα2線(λ=1.5443Å)によるXRDピークの除去を行い、正方晶ジルコニアの(004)面及び(400)面に相当するXRDピークのピークトップにおける2θ、並びにその差を求めた。
(ビッカース硬度)
焼結体の硬度は、JIS R1610:2003に準じたビッカース硬度試験で測定した。ビッカース硬度の測定条件は以下の通りである。
【0128】
試料厚み :1.5±0.5mm
測定荷重 :5kgf
実施例1
オキシ塩化ジルコニウム水溶液を加水分解反応して水和ジルコニアゾルを得た。イットリウム濃度が1.0mol%となるように、塩化イットリウム6水和物を、水和ジルコニアゾルに添加及び混合した。混合後、大気雰囲気で乾燥し、大気雰囲気、1000℃で2時間仮焼して、イットリウム安定化ジルコニア仮焼粉末を得た。得られたジルコニア仮焼粉末に酸化ゲルマニウム濃度が3.0mol%となるように酸化ゲルマニウムを添加後、純水を加えてスラリーとし、アンモニア水を添加しpH=9となるように調整した。調整したスラリーを、ジルコニア製ボールを粉砕媒体としたボールミルで、24時間、粉砕混合した。粉砕混合後のスラリーを大気雰囲気、110℃で乾燥後、篩分けにより凝集径180μmを超える粗大粒を取り除くことで、3.0mol%の酸化ゲルマニウム及び1.0mol%のイットリアを含有するジルコニアからなる本実施例の粉末を得た。
【0129】
実施例2
水和ジルコニアゾルに対し、イットリウム濃度が1.2mol%となるように、塩化イットリウム6水和物を添加したこと以外は実施例1と同様な方法で、3.0mol%の酸化ゲルマニウム及び1.2mol%のイットリアを含有するジルコニアからなる本実施例の粉末を得た。
【0130】
実施例3
ジルコニア仮焼粉末に対して、酸化ゲルマニウム濃度が4.0mol%となるように、酸化ゲルマニウムを添加したこと以外は実施例1と同様な方法で、4.0mol%の酸化ゲルマニウム及び1.0mol%のイットリアを含有するジルコニアからなる本実施例の粉末を得た。
【0131】
実施例4
アルミナ含有量が0.25質量%となるように、また酸化ゲルマニウム含有量が4.0mol%となるように、仮焼粉末とアルミナと酸化ゲルマニウムの混合粉末をボールミル処理したこと以外は実施例1と同様な方法で、0.25質量%のアルミナ、4.0mol%の酸化ゲルマニウム及び1.0mol%のイットリアを含有するジルコニアからなる本実施例の粉末を得た。
【0132】
実施例5
水和ジルコニアゾルに対し、イットリウム濃度が1.2mol%となるように、塩化イットリウム6水和物を添加したこと、アルミナ含有量が10質量%となるように、また酸化ゲルマニウム含有量が1.8mol%となるように、仮焼粉末とアルミナと酸化ゲルマニウムの混合粉末をボールミル処理したこと以外は実施例1と同様な方法で、10質量%のアルミナ、1.8mol%の酸化ゲルマニウム及び1.2mol%のイットリアを含有するジルコニアからなる本実施例の粉末を得た。
【0133】
比較例1
水和ジルコニアゾルに対し、イットリウム濃度が3.0mol%となるように、塩化イットリウム6水和物を添加したこと、ジルコニア仮焼粉末に対して酸化ゲルマニウムを添加しなかったこと以外は実施例1と同様な方法で、3.0mol%のイットリアを含有するジルコニアからなる本比較例の粉末を得た。
【0134】
比較例2
水和ジルコニアゾルに対し、イットリウム濃度が3.0mol%となるように、塩化イットリウム6水和物を添加したこと、ジルコニア仮焼粉末に対して酸化ゲルマニウム濃度が0.3mol%となるように酸化ゲルマニウムを添加したこと以外は実施例1と同様な方法で、0.3mol%の酸化ゲルマニウム及び3.0mol%のイットリアを含有するジルコニアからなる本比較例の粉末を得た。
【0135】
比較例3
水和ジルコニアゾルに対し、イットリウム濃度が1.2mol%となるように、塩化イットリウム6水和物を添加したこと、ジルコニア仮焼粉末に対して酸化ゲルマニウムを添加しなかったこと以外は実施例1と同様な方法で、1.2mol%のイットリアを含有するジルコニアからなる本比較例の粉末を得た。
【0136】
これらの実施例および比較例の粉末の評価結果を表1に示す。
【0137】
【表1】
【0138】
上表の安定化元素含有量及び添加剤の欄における「-」は、その安定化元素及び添加剤が含まれていないことを表す。
【0139】
実施例6
実施例1の粉末を圧力50MPaの一軸加圧成形、及び、圧力196MPaでの冷間静水圧プレス(CIP)処理により、円板状の成形体とした。
【0140】
その後、得られた成形体を以下の条件で焼結することで、酸化ゲルマニウム含有量が3.0mol%及び酸化イットリウム含有量が1.0mol%であるジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。焼結条件を以下に示す。
【0141】
焼結方法 : 常圧焼結
焼結雰囲気 : 大気雰囲気
焼結温度 : 1300℃
焼結時間 : 2時間
実施例7
得られた成形体を1350℃で焼結したこと以外は、実施例6と同様な方法で酸化ゲルマニウム含有量が3.0mol%及び酸化イットリウム含有量が1.0mol%であるジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。
【0142】
実施例8
得られた成形体を1400℃で焼結したこと以外は、実施例6と同様な方法で酸化ゲルマニウム含有量が3.0mol%及び酸化イットリウム含有量が1.0mol%であるジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。
【0143】
実施例9
実施例2に記載の粉末を使用したこと及び得られた成形体を1350℃で焼結したこと以外は、実施例6と同様な方法で酸化ゲルマニウム含有量が3.0mol%及び酸化イットリウム含有量が1.2mol%であるジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。
【0144】
実施例10
実施例2に記載の粉末を使用したこと及び得られた成形体を1400℃で焼結したこと以外は、実施例6と同様な方法で酸化ゲルマニウム含有量が3.0mol%及び酸化イットリウム含有量が1.2mol%であるジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。
【0145】
実施例11
実施例3に記載の粉末を使用したこと以外は、実施例6と同様な方法で酸化ゲルマニウム含有量が4.0mol%及び酸化イットリウム含有量が1.0mol%であるジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。
【0146】
実施例12
実施例3に記載の粉末を使用したこと及び得られた成形体を1350℃で焼結したこと以外は、実施例6と同様な方法で酸化ゲルマニウム含有量が4.0mol%及び酸化イットリウム含有量が1.0mol%であるジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。
【0147】
実施例13
実施例3に記載の粉末を使用したこと及び得られた成形体を1400℃で焼結したこと以外は、実施例6と同様な方法で酸化ゲルマニウム含有量が4.0mol%及び酸化イットリウム含有量が1.0mol%であるジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。
【0148】
実施例14
実施例4に記載の粉末を使用したこと以外は、実施例6と同様な方法でアルミナ含有量が0.25質量%、酸化ゲルマニウム含有量が4.0mol%及び酸化イットリウム含有量が1.0mol%であるジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。
【0149】
実施例15
実施例5に記載の粉末を使用したこと及び得られた成形体を1350℃で焼結したこと以外は、実施例6と同様な方法でアルミナ含有量が10質量%、酸化ゲルマニウム含有量が1.8mol%及び酸化イットリウム含有量が1.2mol%であるジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。
【0150】
比較例4
比較例1に記載の粉末を使用したこと及び得られた成形体を1550℃で焼結したこと以外は、実施例6と同様な方法で酸化イットリウム含有量が3.0mol%であるジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。
【0151】
比較例5
比較例2に記載の粉末を使用したこと及び得られた成形体を1400℃で焼結したこと以外は、実施例6と同様な方法で酸化ゲルマニウム含有量が0.3mol%及び酸化イットリウム含有量が3.0mol%であるジルコニアからなる本実施例の焼結体を得た。
【0152】
比較例6
比較例3に記載の粉末を使用したこと以外は、実施例6と同様な方法で焼結を実施した。
【0153】
これらの実施例及び比較例の焼結体の評価結果を表2に示す。なお、評価にあたり、焼結体(直径20mm×厚さ2mmの円板状)は、主面(直径20mmの面)の焼肌面のビッカース硬度を測定した。その後、平面研削盤を使用し、当該主面を深さ方向に0.3mm研削後、研磨布紙による研磨、平均粒径3μmのダイアモンドスラリーによる研磨、及び、0.03μmのコロイダルシリカによる研磨、の順に鏡面研磨処理を施し、得られた研磨面のビッカース硬度を測定した。
【0154】
【表2】
【0155】
上表において安定化元素含有量及び添加物の欄における「-」は、その安定化元素及び添加物が含まれていないことを表す。図3に実施例6における焼肌面、中心部のXRDパターンを示す。図3より、実施例6の焼結体は焼肌面、中心部でXRDパターンが大きく異なることが確認できる。図4に実施例6における焼肌面、中心部のビッカース硬度測定後のビッカース圧痕を示す。図4のビッカース圧痕における対角線長さを用い、式(3)より焼肌面および中心部ビッカース硬度を算出した。
【0156】
上表より、実施例6乃至実施例15の焼結体は、焼肌面における単斜晶率が80%を超えている一方、中心部における単斜晶率は10%未満であること、及び硬度上昇率が0より大きい、つまり焼肌面よりも中心部の方のビッカース硬度が高いことが確認できる。一方で、比較例1及び2の焼結体については焼肌面、中心部ともに単斜晶率が10%未満であり、中心部と焼肌のビッカース硬度はほぼ同等であり、焼肌のビッカース硬度の低下は確認されなかった。また実施例6および比較例6の焼結体外観を図5に示す。図5に示す通り、比較例6については焼結体全体にひび割れが生じていることが確認できる。このようなひび割れた焼結体は各種用途での使用が困難であるとともに、各種評価並びに研削及び研磨加工も困難であるため、比較例6については単斜晶率及び硬度は未測定である。図6は、実施例12の焼結体における断面SEM像である。画像上部の焼結体表面側に10μm程度の厚さの焼肌と、その下方に中心部が、それぞれ存在することが確認できる。焼肌部分には、切断時の縦傷及び、縦傷と中心部との間に、中心部とは組織が異なる部分が存在することが確認できる。図7は、実施例12及び比較例5の中心部における高角側のXRDパターンである。実施例12における2つのピークは、比較例5における2つのピークよりも、ピークトップの間隔が広いことが確認できる。
【0157】
以上より、本実施例の焼結体は本実施例の焼結体は、中心部と比較して焼肌の硬度が低いことが確認できた。硬度の低い焼肌は加工性に優れる一方、加工後の中心部は高い硬度を有することから耐摩耗性等の機械的特性に優れているといえる。
【0158】
【表3】
【0159】
測定例(水熱劣化試験)
実施例7、実施例12、実施例14及び実施例15のジルコニア焼結体の表面をそれぞれ研磨し、表面を研磨面とした。研磨後の焼結体をそれぞれ140℃の熱水中に24時間浸漬させ、浸漬前後で研磨面の単斜晶率を測定した。結果を下表に示す。
【0160】
【表4】
【0161】
上表より、熱水浸漬前の単斜晶率は、2θ(400)-(004)が1.70以上の焼結体が低く、一方、2θ(400)-(004)が1.70未満の焼結体では高いことが確認できる。さらに2θ(400)-(004)が1.73以上、更には1.76以上の焼結体は熱水浸漬後の単斜晶率も低く、特に水熱劣化耐性が高いことが確認できた。
【符号の説明】
【0162】
100 ジルコニア焼結体
11 焼結体表面(研磨面)
12 焼結体表面(焼肌面)
13 中心部
14 焼肌
15 深さ方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7