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特開2025-10100円筒状ボンド磁石、その製造方法およびその成形用金型
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010100
(43)【公開日】2025-01-20
(54)【発明の名称】円筒状ボンド磁石、その製造方法およびその成形用金型
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20250109BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20250109BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20250109BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20250109BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20250109BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20250109BHJP
   B22F 3/035 20060101ALI20250109BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20250109BHJP
   B22F 5/10 20060101ALI20250109BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20250109BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/059 160
H01F1/08 130
H01F7/02 E
H01F7/02 A
B22F1/00 Y
B22F3/00 C
B22F3/035 D
B22F3/02 R
B22F3/02 L
B22F5/10
C22C38/00 303D
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024107451
(22)【出願日】2024-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2023111253
(32)【優先日】2023-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】吉田 理恵
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 大地
(72)【発明者】
【氏名】山本 宗生
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K018AA27
4K018BA18
4K018BB04
4K018BC12
4K018BC28
4K018BC29
4K018BC32
4K018BC33
4K018CA04
4K018CA09
4K018FA06
4K018HA03
4K018KA46
5E040AA03
5E040BB04
5E040CA01
5E040HB06
5E040HB19
5E040NN06
5E040NN15
5E062CC02
5E062CD05
5E062CE07
5E062CF02
5E062CF05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】磁束密度の波形がサイン波形またはサイン波形に近い円筒状ボンド磁石、その製造方法およびその成形用金型を提供する。
【解決手段】円筒状ボンド磁石の製造方法は、非磁性部材を含む内側金型部1と外側金型部2、第1配向用磁石3及び第2配向用磁石4を有し、第1配向用磁石3及び第2配向用磁石4が、所定方向において内側金型部1及び外側金型部2を挟むように配置された金型を準備する工程と、第1配向用磁石3と第2配向用磁石4による磁場を印加しつつ内側金型部の外面と外側金型部の内面の間にボンド磁石用樹脂組成物を充填、成形し、円筒状ボンド磁石を得る成形工程と、を含み、所定方向における一断面視において、第1配向用磁石3と第2配向用磁石4の外側金型部2の内面で規定される円に接する磁場方向の直線距離は、同様に内側金型部1の外面で規定される円の中心を通る磁場方向の直線距離よりも短い。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)非磁性部材を含む内側金型部と、非磁性部材を含む外側金型部、第1配向用磁石、および第2配向用磁石を有する金型を準備する工程であって、
前記内側金型部は、所定方向における一断面視においてその形状が円となる外面を有し、
前記外側金型部は、前記内側金型部の外面と離れて位置した、前記所定方向における一断面視においてその形状が円となる内面を有し、
前記第1配向用磁石および前記第2配向用磁石は、前記所定方向において、前記内側金型部および前記外側金型部を挟むように配置された、金型を準備する工程と、
(2)前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石を用いて磁場を印加しつつ、前記内側金型部の外面と前記外側金型部の内面の間の領域にボンド磁石用樹脂組成物を充填し、成形することによって、円筒状ボンド磁石を得る成形工程と、
を含み、
前記所定方向における一断面視において、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記外側金型部の内面で規定される円に接する磁場印加方向の直線距離は、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記内側金型部の外面で規定される円の中心を通る磁場印加方向の直線距離よりも短い、円筒状ボンド磁石の製造方法。
【請求項2】
前記外側金型部は、前記所定方向における一断面視において、その形状が楕円である外面を有する請求項1に記載の円筒状ボンド磁石の製造方法。
【請求項3】
前記内側金型部の内側にさらに磁性部材を有する請求項1または2に記載の円筒状ボンド磁石の製造方法。
【請求項4】
前記第1配向用磁石および前記第2配向用磁石が電磁石である請求項1または2に記載の円筒状ボンド磁石の製造方法。
【請求項5】
異方性希土類磁性粉末および樹脂を含み、径方向に対して2極に配向しており、外周側の表面磁束密度の正弦波曲線に対する歪率が15%以下である円筒状ボンド磁石。
【請求項6】
前記樹脂が、熱可塑性樹脂である請求項5に記載の円筒状ボンド磁石。
【請求項7】
前記異方性希土類磁性粉末がSmFeN系磁性粉末である請求項5または6に記載の円筒状ボンド磁石。
【請求項8】
外周直径と内周直径との差が2mm以上10mm以下である請求項5または6に記載の円筒状ボンド磁石。
【請求項9】
外周直径が15mm以上50mm以下である請求項5または6に記載の円筒状ボンド磁石。
【請求項10】
非磁性部材を含む内側金型部、非磁性部材を含む外側金型部、第1配向用磁石、および第2配向用磁石を有する円筒状ボンド磁石の成形用金型であって、
前記内側金型部は、所定方向における一断面視においてその形状が円となる外面を有し、
前記外側金型部は、前記内側金型部の外面と離れて位置した、前記所定方向における一断面視においてその形状が円となる内面を有し、
前記第1配向用磁石および前記第2配向用磁石は、磁場配向時に前記所定方向に磁場が印加されるよう、前記内側金型部および前記外側金型部を挟むように配置されており、
前記所定方向における一断面視において、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記外側金型部の内面で規定される円の接点を通る磁場印加方向の直線距離は、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記内側金型部の外面で規定される円の中心を通る磁場印加方向の直線距離よりも短い、円筒状ボンド磁石の成形用金型。
【請求項11】
前記外側金型部は、前記所定方向における一断面視において、その形状が楕円である外面を有する請求項10に記載の円筒状ボンド磁石の成形用金型。
【請求項12】
前記内側金型部の内側にさらに磁性部材を有する請求項10または11に記載の円筒状ボンド磁石の成形用金型。
【請求項13】
前記第1配向用磁石および前記第2配向用磁石が電磁石である請求項10または11に記載の円筒状ボンド磁石の成形用金型。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、円筒状ボンド磁石、その製造方法およびその成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒状磁石において、磁極数が4極であり磁束密度がサイン波形となる円筒状磁石(特許文献1)や、磁極数が2極であり磁束密度が三角波に近い波形となる円筒状磁石(特許文献2)が知られていた。しかしながら、特に2極のサイン波形となる円筒状磁石を製造する場合、磁場配向時の磁場の波形と実際に得られる磁石の磁束密度の波形とが異なっている。このため、特許文献1および2の特許文献に記載の方法によっても、磁束密度がサイン波形に近い円筒状磁石を製造することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-212863号公報
【特許文献2】特開2019-123126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、磁束密度がサイン波形またはサイン波形に近い円筒状ボンド磁石、その製造方法およびその成形用金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様にかかる円筒状ボンド磁石の製造方法は、
(1)非磁性部材を含む内側金型部と、非磁性部材を含む外側金型部、第1配向用磁石、および第2配向用磁石を有する金型を準備する工程であって、
前記内側金型部は、所定方向における一断面視においてその形状が円となる外面を有し、
前記外側金型部は、前記内側金型部の外面と離れて位置した、前記所定方向における一断面視においてその形状が円となる内面を有し、
前記第1配向用磁石および前記第2配向用磁石は、前記所定方向において、前記内側金型部および前記外側金型部を挟むように配置された、金型を準備する工程と、
(2)前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石を用いて磁場を印加しつつ、前記内側金型部の外面と前記外側金型部の内面の間の領域にボンド磁石用樹脂組成物を充填し、成形することによって、円筒状ボンド磁石を得る成形工程と、
を含み、
前記所定方向における一断面視において、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記外側金型部の内面で規定される円に接する磁場印加方向の直線距離は、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記内側金型部の外面で規定される円の中心を通る磁場印加方向の直線距離よりも短いものである。
【0006】
本開示の一態様にかかる円筒状ボンド磁石は、異方性希土類磁性粉末および樹脂を含み、径方向に対して2極に配向しており、外周側の表面磁束密度の正弦波曲線に対する歪率が15%以下である円筒状ボンド磁石。
【0007】
本開示の一態様にかかる円筒状ボンド磁石の成形用金型は、
非磁性部材を含む内側金型部、非磁性部材を含む外側金型部、第1配向用磁石、および第2配向用磁石を有する円筒状ボンド磁石の成形用金型であって、
前記内側金型部は、所定方向における一断面視においてその形状が円となる外面を有し、
前記外側金型部は、前記内側金型部の外面と離れて位置した、前記所定方向における一断面視においてその形状が円となる内面を有し、
前記第1配向用磁石および前記第2配向用磁石は、磁場配向時に前記所定方向に磁場が印加されるよう、前記内側金型部および前記外側金型部を挟むように配置されており、
前記所定方向における一断面視において、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記外側金型部の内面で規定される円の接点を通る磁場印加方向の直線距離は、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記内側金型部の外面で規定される円の中心を通る磁場印加方向の直線距離よりも短いものである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の円筒状ボンド磁石の製造方法および円筒状ボンド磁石の成形用金型によれば、磁束密度の波形がサイン波形またはサイン波形に近い円筒状ボンド磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】実施例1で使用した円筒状ボンド磁石の成形用金型の断面図である。
図1B】実施例1で作製した円筒状ボンド磁石について、外周の表面磁束密度を角度に対してプロットした図である。
図1C】実施例1の円筒状ボンド磁石について、特定の領域ごとの磁化方向を示すイメージ図である。
図1D】実施例1で使用した円筒状ボンド磁石の成形用金型の成形品取出し時における型開き状態の断面図である。
図2A】実施例2において、配向磁場を角度に対してプロットした図である。
図2B】実施例2の円筒状ボンド磁石について、外周の表面磁束密度を角度に対してプロットした図である。
図3A】実施例3で使用した円筒状ボンド磁石の成形用金型の断面図である。
図3B】実施例3において、配向磁場を角度に対してプロットした図である。
図3C】実施例3の円筒状ボンド磁石について、外周の表面磁束密度を角度に対してプロットした図である。
図4A】実施例4で使用した円筒状ボンド磁石の成形用金型の断面図である。
図4B】実施例4において、配向磁場を角度に対してプロットした図である。
図4C】実施例4の円筒状ボンド磁石について、外周の表面磁束密度を角度に対してプロットした図である。
図4D】実施例4で使用した円筒状ボンド磁石の成形用金型の成形品取出し時における型開き状態の断面図である。
図5A】実施例5で使用した円筒状ボンド磁石の成形用金型の断面図である。
図5B】実施例5において、配向磁場を角度に対してプロットした図である。
図5C】実施例5の円筒状ボンド磁石について、外周の表面磁束密度を角度に対してプロットした図である。
図6A】実施例6で使用した円筒状ボンド磁石の成形用金型の断面図である。
図6B】実施例6において、配向磁場を角度に対してプロットした図である。
図6C】実施例6の円筒状ボンド磁石について、外周の表面磁束密度を角度に対してプロットした図である。
図7A】比較例1で使用した円筒状ボンド磁石の成形用金型の断面図である。
図7B】比較例1の円筒状ボンド磁石について、角度に対して外周の表面磁束密度をプロットした図である。
図7C】比較例1の円筒状ボンド磁石について、特定の領域ごとの磁化方向を示すイメージ図である。四角で囲った部分は、図7Bにおいて矢印で示した部位に該当する。
図8A】比較例2において、配向磁場を角度に対してプロットした図である。
図8B】比較例2の円筒状ボンド磁石について、角度に対して外周の表面磁束密度をプロットした図である。
図9A】比較例3で使用した円筒状ボンド磁石の成形用金型の断面図である。
図9B】比較例3において、配向磁場を角度に対してプロットした図である。
図9C】比較例3の円筒状ボンド磁石について、外周の表面磁束密度を角度に対してプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について詳述する。ただし、以下に示す実施形態は、本開示の技術思想を具体化するための一例であり、本開示を以下のものに限定するものではない。なお、本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0011】
<<円筒状ボンド磁石の成形用金型>>
本実施形態の円筒状ボンド磁石の成形用金型は、
非磁性部材を含む内側金型部、非磁性部材を含む外側金型部、第1配向用磁石、および第2配向用磁石を有する円筒状ボンド磁石の成形用金型であって、
前記内側金型部は、所定方向における一断面視においてその形状が円となる外面を有し、
前記外側金型部は、前記内側金型部の外面と離れて位置した、前記所定方向における一断面視においてその形状が円となる内面を有し、
前記第1配向用磁石および前記第2配向用磁石は、磁場配向時に前記所定方向に磁場が印加されるよう、前記内側金型部および前記外側金型部を挟むように配置されており、
前記所定方向における一断面視において、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記外側金型部の内面で規定される円の接点を通る磁場印加方向の直線距離は、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記内側金型部の外面で規定される円の中心を通る磁場印加方向の直線距離よりも短い。
【0012】
図1Aに、本実施形態の円筒状ボンド磁石の成形用金型の所定方向における断面図を示す。図3A図4A図5A図6Aには、他の態様の本実施形態の成形用金型の所定方向における断面図を示す。また、図7Aおよび図9Aには、比較例の円筒状ボンド磁石の成形用金型の所定方向における断面図を示す。いずれの金型も非磁性部材を含む内側金型部1と、非磁性部材を含む外側金型部2、第1配向用磁石3および第2配向用磁石4を有する。これらの金型は、いずれも外側金型部2は紙面上で上下方向に分離可能な2つの部位からなる成形用金型の具体例である。成形機の金型の開動作に連動して外側金型部2が分離しながら開き、成形品を取出すことができる。図1Aおよび図4Aの成形用金型の型開き時の断面図を、それぞれ図1Dおよび図4Dに示す。図中に、型開き方向を矢印で示す。外側金型部2は、図面では2つに分離しているが、3以上に分離可能であってもよく、分離可能でない一体的な部材であってもよい。
【0013】
種々の実験の結果から、ボンド磁石用樹脂組成物が溶融状態となった時の透磁率は、ボンド磁石の常温時の透磁率と比べて大きくなっていると推測される。すなわち、ボンド磁石用樹脂組成物が溶融状態となるボンド磁石成形時の高温では、配向磁場が円筒状ボンド磁石の中心を通りやすく、ボンド磁石の中心部と外周部で樹脂組成物に印加される配向磁場の大きさが異なると考えられる。特に2極の磁石では、多極の磁石と異なり、一方向の磁場を印加するため、サイン波形の磁界を付与するためにはボンド磁石用樹脂組成物の透磁率の変化を考慮する必要がある。本実施形態の金型では、第1配向用磁石と第2配向用磁石の、外側金型部の内面で規定される円に接する磁場印加方向の直線距離Xを、第1配向用磁石と第2配向用磁石の、内側金型部の外面で規定される円の中心を通る磁場印加方向の直線距離Yよりも短くすることにより、配向用磁石間の距離を磁石中心部よりも外側で短くする。その結果、成形時のボンド磁石用樹脂組成物に印加される配向磁場の大きさを均一または均一に近づけることができ、磁束密度の波形がサイン波形またはサイン波形に近い円筒状磁石を製造することができる。
【0014】
内側金型部1は非磁性部材を含み、金型中心部に位置する。非磁性部材を構成する非磁性材料としては、非磁性鋼が挙げられ、具体的にはSUS304やHPM75やKN20などが挙げられる。内側金型部1は非磁性部材のみから構成することができる。内側金型部1は、所定方向における一断面視においてその形状が円となる外面を有する。ここで、所定方向とは磁場配向方向である。内側金型部1の内部には、歪率の点で磁性部材5を有することが好ましい。内側金型部1の内部に磁性部材5を配置することで、外周側の表面磁束密度の正弦波曲線に対する歪率を低減することができる。磁性部材5は磁性鋼で構成される。磁性部材5を構成する磁性鋼としては、NAK80、SS400などが挙げられる。
【0015】
外側金型部2は非磁性部材を含み、前記内側金型部1の外面と離れて位置する。非磁性部材を構成する非磁性材料としては、内側金型部1で説明した通りである。内側金型部1は非磁性部材のみから構成することができる。前記外側金型部2は、前記所定方向における一断面視において、その形状が円となる内面を有する。内側金型部1の外周と外側金型部2の内周で形成された隙間がキャビティ6となり、ボンド磁石の製造に用いられる際には、該キャビティ6にボンド磁石用樹脂組成物を充填し、成形する。
【0016】
第1配向用磁石3および第2配向用磁石4は、前記所定方向において、前記内側金型部1および前記外側金型部2を挟むように配置される。これらの配向用磁石としては、電磁石、永久磁石などが挙げられる。配向用磁石は、磁場を変化させ、より大きな配向磁場で配向することができる点で電磁石が好ましい。ここで、第1配向用磁石3および第2配向用磁石4が内側金型部1および外側金型部2を挟むとは、配向用磁石が外側金型部2の全てを挟む必要はなく、少なくとも外側金型部2がキャビティを構成する部分を挟んでいればよい。第1配向用磁石3および第2配向用磁石4は、キャビティ6の全てを挟んでいる。第1配向用磁石3および第2配向用磁石4は、金型の開閉方向に垂直方向における外側金型部2がキャビティを構成する部分の一方の端から他方の端までを挟んでいる。図1A図3A図6Aに示す金型では、第1配向用磁石3および第2配向用磁石4は外側金型部2を全て挟んでいる。図4A図5Aに示す金型では、第1配向用磁石3および第2配向用磁石4は内側金型部1および外側金型部2の全ては挟んでいないが、外側金型部2のキャビティを構成する部分は全て挟んでいる。
【0017】
前記所定方向における一断面視において、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記外側金型部の内面で規定される円に接する磁場印加方向の直線距離Xは、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記内側金型部の外面で規定される円の中心を通る磁場印加方向の直線距離Yよりも短い。図1Aに、直線距離Xと直線距離Yを点線で示す。直線距離Xが直線距離Yよりも短いとは、金型中心部より外周部の方が、配向用磁石間距離が短くなることを意味する。直線距離Xと直線距離Yの比X/Yの上限は0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。下限は0.2以上であってもよい。直線距離Xと直線距離Yの比X/Yが上記の範囲内であることで、ボンド磁石成形時にキャビティ中心部においても配向されやすくなり、表面磁束密度の波形がサイン波形またはサイン波形に近いボンド磁石を得やすくなる傾向がある。
【0018】
なお、図7A図9Aに示す比較例の金型では、第1配向用磁石と第2配向用磁石の、外側金型部の内面で規定される円に接する磁場印加方向の直線距離Xは、第1配向用磁石と第2配向用磁石の、内側金型部の外面で規定される円の中心を通る磁場印加方向の直線距離Yと同じ長さになる。
【0019】
所定方向における一断面視において外側金型部2の外周の形状は長方形ではなく、たとえば真円や楕円が挙げられる。金型の製造のしやすさと、表面磁束密度の波形がサイン波形またはサイン波形に近いボンド磁石の製造しやすさの両立の点で、楕円が好ましい。また、楕円の短半径に対する長半径の比の下限は1.1以上が好ましく、1.3以上がより好ましい。上限は2以下であってもよい。短半径に対する長半径の比が2以下であると、十分な配向磁場が得られ、また、短半径に対する長半径の比が1.1以上であると、金型の製造のしやすさと、表面磁束密度の波形がサイン波形またはサイン波形に近いボンド磁石の製造しやすさがより両立しやすくなる。
【0020】
第1配向用磁石と第2配向用磁石の、外側金型部の外面で規定される円に接する磁場印加方向の直線距離Zは、ゼロであってもよいが、量産性とサイン波形の両立の点から、1mm以上であってよく、3mm以上が好ましい。また、直線距離Zは、直線距離Yの1%以上が好ましく、80%以下が好ましい。直線距離Zの上限は50%以下であってもよい。
【0021】
<<円筒状ボンド磁石の製造方法>>
本実施形態の円筒状ボンド磁石の製造方法は、
(1)非磁性部材を含む内側金型部と、非磁性部材を含む外側金型部、第1配向用磁石、および第2配向用磁石を有する金型を準備する工程であって、
前記内側金型部は、所定方向における一断面視においてその形状が円となる外面を有し、
前記外側金型部は、前記内側金型部の外面と離れて位置した、前記所定方向における一断面視においてその形状が円となる内面を有し、
前記第1配向用磁石および前記第2配向用磁石は、前記所定方向において、前記内側金型部および前記外側金型部を挟むように配置された、金型を準備する工程と、
(2)前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石を用いて磁場を印加しつつ、前記内側金型部の外面と前記外側金型部の内面の間の領域にボンド磁石用樹脂組成物を充填し、成形することによって、円筒状ボンド磁石を得る成形工程と、
を含み、
前記所定方向における一断面視において、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記外側金型部の内面で規定される円に接する磁場印加方向の直線距離は、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記内側金型部の外面で規定される円の中心を通る磁場印加方向の直線距離よりも短いことを特徴とする。
【0022】
金型を準備する工程(1)では、前述した本実施形態の円筒状ボンド磁石の成形用金型を準備する。円筒状ボンド磁石を得る成形工程(2)では、前記金型を用い、前記内側金型部の外面と前記外側金型部の内面の間の領域(キャビティ)にボンド磁石用樹脂組成物を充填し成形する。成形時に、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石を用いて磁場を印加しつつ、ボンド磁石用樹脂組成物を配向させる。成形方法としては射出成形が挙げられる。
【0023】
<ボンド磁石用樹脂組成物>
成形工程(2)で使用するボンド磁石用樹脂組成物は、樹脂と異方性希土類磁性粉末を含むことが好ましい。
【0024】
<異方性希土類磁性粉末>
異方性希土類磁性粉末の材料は特に限定されず、SmFeN系、NdFeB系、SmCo系の希土類磁性材料などが挙げられる。なかでも、耐熱性や、希少金属を含有しない点で、SmFeN系磁性粉末が好ましい。SmFeN系磁性粉末は、フェライト系と比較して磁力が強く、比較的少ない量でも高磁力を発生することができる。また、SmFeN系は、NdFeB系やSmCo系といった他の希土類系と比較して、粒径が小さく、母材樹脂へのフィラーとして適していることや、錆びにくいという特徴がある。SmFeN系磁性粉末としては、ThZn17型の結晶構造をもち、一般式がSmFe100-x-yで表される希土類金属Smと鉄Feと窒素Nからなる窒化物が挙げられる。ここで、xは、8.1原子%以上10原子%以下、yは13.5原子%以上13.9原子%以下、残部が主としてFeとされることが好ましい。たとえば、SmFe17が挙げられる。
【0025】
異方性希土類磁性粉末の平均粒径は、10μm以下が好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましい。10μm以下であれば、製品の表面に凹凸部や亀裂等が発生し難く、外観的に優れており、さらに、低コスト化を図ることができる。平均粒径が10μmよりも大きいと、製品の表面に凹凸部や亀裂等が発生して外観的に劣るおそれがある。一方で、平均粒径が1μmよりも小さいと、磁性粉末のコストが高くなるので、低コスト化の観点から好ましくない。異方性希土類磁性粉末の平均粒径は、レーザー散乱法によって得られる体積基準の粒度分布において、小粒径側からの体積積算値が50%となる粒径として測定される。また、体積基準による累積粒度分布における90%粒径D90の10%粒径D10に対する比D90/D10が4.5以下であることが好ましく、4以下がより好ましく、3.5以下が特に好ましい。粒度分布D90/D10が4.5以下であることで、肉厚の薄い形状の磁石を形成する際にも流動性が良くなることで、配向性が良く、配向率の高いボンド磁石が得られやすくなる。
【0026】
異方性希土類磁性粉末の充填率(ボンド磁石用樹脂組成物中の磁性粉末の含有量)は、50vol%以上65vol%以下が好ましく、50vol%以上60vol%以下がより好ましく、50vol%以上59vol%以下がさらに好ましく、51vol%以上56vol%以下が特に好ましい。65vol%以下とすることで、円筒状ボンド磁石で薄肉とした場合にも磁束密度の低下を抑制できる傾向があり、50vol%以上とすることで、ボンド磁石中の磁性粉末の割合を多くでき、磁束密度をより向上することができる。
【0027】
樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0028】
<SmFeN系の異方性希土類磁性粉末の製造方法>
SmFeN系の異方性希土類磁性粉末は、購入等により準備してもよいし、公知の方法で製造して準備してもよい。たとえば以下の方法によって製造することができる。
SmとFeなどの金属を含む溶液と沈殿剤を混合し、SmとFeなどの金属を含む沈殿物を得る工程(沈殿工程)、
前記沈殿物を焼成してSmとFeなどの金属を含む酸化物を得る工程(酸化工程)、
前記酸化物を、還元性ガス含有雰囲気下で熱処理して部分酸化物を得る工程(前処理工程)、
前記部分酸化物を還元する工程(還元工程)、および
還元工程で得られた合金粒子を窒化処理する工程(窒化工程)
また、SmFeN系の異方性希土類磁性粉末の製造方法については、例えば、特開平11-189811号公報、WO2022/107462等(これらは、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)の記載を参照することができる。
【0029】
前述した製造方法により作製した異方性希土類磁性粉末を、そのまま利用することもできるが、さらに以下の処理を行ってもよい。
異方性希土類磁性粉末、水、およびリン酸化合物を含むスラリーに対して無機酸を添加して、表面にリン酸塩が被覆された異方性希土類磁性粉末を得るリン酸処理工程
【0030】
[シリカ処理工程]
リン酸処理後の異方性希土類磁性粉末は、必要に応じてシリカ処理を行ってもよい。磁性粉末にシリカ薄膜を形成することにより、耐酸化性を向上できる。シリカ薄膜は、例えば、アルキルシリケート、リン酸塩被覆異方性希土類磁性粉末、およびアルカリ溶液を混合することにより形成できる。
【0031】
[シランカップリング処理工程]
シリカ処理後の磁性粉末を、さらにシランカップリング剤で処理してもよい。シリカ薄膜が形成された磁性粉末をシランカップリング処理することで、シリカ薄膜上にカップリング剤膜が形成され、磁性粉末の磁気特性が向上するとともに、樹脂との濡れ性、磁石の強度を改善することができる。シランカップリング剤は、樹脂の種類に合わせて選定すればよく、例えば、特開2020-109840号公報(これは、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)等に記載されたシランカップリング剤を適宜用いることができる。シランカップリング剤の添加量は、磁性粉末100質量部に対して、0.2質量部以上0.8質量部以下が好ましく、0.25質量部以上0.6質量部以下がより好ましい。0.2質量部未満ではシランカップリング剤の効果が小さく、0.8質量部を超えると、磁性粉末の凝集により、磁性粉末や磁石の磁気特性を低下させる傾向がある。
【0032】
リン酸処理工程後、酸化工程後、シリカ処理、或いはシランカップリング処理後の異方性希土類磁性粉末は、常法により、ろ過、脱水、乾燥を行うことができる。
【0033】
<<円筒状ボンド磁石>>
本実施形態の円筒状ボンド磁石は、異方性希土類磁性粉末および樹脂を含み、径方向に対して2極に配向しており、外周側の表面磁束密度の正弦波曲線に対する歪率が15%以下であることを特徴とする。本実施形態の円筒状ボンド磁石は、径方向において2極に分かれている。円筒状ボンド磁石の2極のうちの一方と他方はそれぞれ磁化方向が異なっている。
【0034】
本実施形態の円筒状ボンド磁石は、たとえば前述した本実施形態の円筒状ボンド磁石の製造方法によって製造することができる。異方性希土類磁性粉末および樹脂と、その配合量は、成形前後で大きく変化しないことから、ボンド磁石用樹脂組成物で説明した通りである。樹脂としては熱可塑性樹脂が好ましく、異方性希土類磁性粉末としてはSmFeN系磁性粉末が好ましい。円筒状ボンド磁石は、上述の製造方法によって得られたものを切削して使用してもよい。
【0035】
外周側の表面磁束密度の正弦波曲線に対する歪率は15%以下であるが、12%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましい。歪率は、波形のひずみの程度を表すものであり、マグネットアナライザーなどを用いて表面磁束密度を測定し、フーリエ変換によりその波形に含まれる全高調波成分(E2~En)を計算し、その実効値の総和と基本波(E1)の実効値との比として算出する。
【0036】
得られた円筒状ボンド磁石の外周直径は特に限定されないが、10mm以上300mm以下が好ましく、15mm以上50mm以下がより好ましい。内周直径も特に限定されないが、5mm以上290mm以下が好ましく、10mm以上45mm以下がより好ましい。外周直径と内周直径との差は1mm以上20mm以下が好ましく、2mm以上10mm以下がより好ましく、2mm以上6mm以下がさらに好ましい。
【0037】
得られた円筒状ボンド磁石の長さは特に限定されないが、1mm以上100mm以下が好ましく、5mm以上30mm以下がより好ましい。
【0038】
本明細書の開示内容は、以下の態様を含み得る。
(態様1)
(1)非磁性部材を含む内側金型部と、非磁性部材を含む外側金型部、第1配向用磁石、および第2配向用磁石を有する金型を準備する工程であって、
前記内側金型部は、所定方向における一断面視においてその形状が円となる外面を有し、
前記外側金型部は、前記内側金型部の外面と離れて位置した、前記所定方向における一断面視においてその形状が円となる内面を有し、
前記第1配向用磁石および前記第2配向用磁石は、前記所定方向において、前記内側金型部および前記外側金型部を挟むように配置された、金型を準備する工程と、
(2)前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石を用いて磁場を印加しつつ、前記内側金型部の外面と前記外側金型部の内面の間の領域にボンド磁石用樹脂組成物を充填し、成形することによって、円筒状ボンド磁石を得る成形工程と、
を含み、
前記所定方向における一断面視において、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記外側金型部の内面で規定される円に接する磁場印加方向の直線距離は、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記内側金型部の外面で規定される円の中心を通る磁場印加方向の直線距離よりも短い、円筒状ボンド磁石の製造方法。
(態様2)
前記外側金型部は、前記所定方向における一断面視において、その形状が楕円である外面を有する態様1に記載の円筒状ボンド磁石の製造方法。
(態様3)
前記内側金型部の内側にさらに磁性部材を有する態様1または2に記載の円筒状ボンド磁石の製造方法。
(態様4)
前記第1配向用磁石および前記第2配向用磁石が電磁石である態様1~3のいずれかに記載の円筒状ボンド磁石の製造方法。
(態様5)
異方性希土類磁性粉末および樹脂を含み、径方向に対して2極に配向しており、外周側の表面磁束密度の正弦波曲線に対する歪率が15%以下である円筒状ボンド磁石。
(態様6)
前記樹脂が、熱可塑性樹脂である態様5に記載の円筒状ボンド磁石。
(態様7)
前記異方性希土類磁性粉末がSmFeN系磁性粉末である態様5または6に記載の円筒状ボンド磁石。
(態様8)
外周直径と内周直径との差が2mm以上10mm以下である態様5~7のいずれかに記載の円筒状ボンド磁石。
(態様9)
外周直径が15mm以上50mm以下である請求項5~8のいずれかに記載の円筒状ボンド磁石。
(態様10)
非磁性部材を含む内側金型部、非磁性部材を含む外側金型部、第1配向用磁石、および第2配向用磁石を有する円筒状ボンド磁石の成形用金型であって、
前記内側金型部は、所定方向における一断面視においてその形状が円となる外面を有し、
前記外側金型部は、前記内側金型部の外面と離れて位置した、前記所定方向における一断面視においてその形状が円となる内面を有し、
前記第1配向用磁石および前記第2配向用磁石は、磁場配向時に前記所定方向に磁場が印加されるよう、前記内側金型部および前記外側金型部を挟むように配置されており、
前記所定方向における一断面視において、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記外側金型部の内面で規定される円の接点を通る磁場印加方向の直線距離は、前記第1配向用磁石と前記第2配向用磁石の、前記内側金型部の外面で規定される円の中心を通る磁場印加方向の直線距離よりも短い、円筒状ボンド磁石の成形用金型。
(態様11)
前記外側金型部は、前記所定方向における一断面視において、その形状が楕円である外面を有する態様10に記載の円筒状ボンド磁石の成形用金型。
(態様12)
前記内側金型部の内側にさらに磁性部材を有する態様10または11に記載の円筒状ボンド磁石の成形用金型。
(態様13)
前記第1配向用磁石および前記第2配向用磁石が電磁石である請求項10~12のいずれかに記載の円筒状ボンド磁石の成形用金型。
【実施例0039】
以下の実施例などにより、本開示を更に具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例などにより何ら限定されるものではない。
【0040】
実施例1
(1-1)ボンド磁石用組成物の製造
体積比で約6:4の割合のSmFeN系磁性粉末(平均粒径3μm)と12ナイロン樹脂粉末と、微量の滑剤とを、ミキサーで混合した後、混合粉を二軸混練機に投入し、210℃にて混練して混練物を得た。得られた混練物を冷却後、適当な大きさに切断しボンド磁石用組成物を得た。
【0041】
(1-2)成形用金型
図1Aに示される成形用金型を準備した。図1Aに示すように金型内には、中心に磁性部材5を有する内側金型部1と、外側金型部2、第1配向用磁石3、第2配向用磁石4が含まれる。第1配向用磁石3と第2配向用磁石4の距離Yは、31mmであり、第1配向用磁石3と第2配向用磁石4の、外側金型部2の内面で規定される円に接する磁場印加方向の直線距離Xは、23mmであり、距離Zは、10mmとなるものを用いた。また、内側金型部1は、HPM75製であり、内側に含まれる磁性部材5は、NAK80製のものを使用した。使用した金型部材の寸法などを表1に示す。
【0042】
(1-3)射出成形
上記金型を射出成形機に配置した。ボンド磁石用組成物を260℃のシリンダー内で溶融させ、60℃に調温した金型のキャビティ内に射出成形することで、外周直径29mm、内周直径23mm、高さ11mmの円筒状ボンド磁石を得た。
【0043】
実施例2
内側金型部1をSUS304製とし、磁性部材5をSS400製としたこと以外は実施例1と同じ条件を用いて実施例2の円筒状ボンド磁石のシミュレーションを行った。シミュレーションは、成形用金型を用いて成形する際の配向磁場と、それによって得られる円筒状ボンド磁石の表面磁束密度について行った。
【0044】
実施例3
磁性部材5を含まず、図3Aに記載の中実である内側金型を用いたこと以外は、実施例2と同じ条件で、実施例3の円筒状ボンド磁石のシミュレーションを行った。
【0045】
実施例4
図4Aに記載の外側金型部を用いたこと以外は、実施例2と同じ条件で、実施例4の円筒状ボンド磁石のシミュレーションを行った。
【0046】
実施例5
磁性部材5を含まず、図5Aに記載の中実である内側金型を用いたこと以外は、実施例4と同じ条件で、実施例5の円筒状ボンド磁石のシミュレーションを行った。
【0047】
実施例6
磁性部材5を含まず、図6Aに記載の中実である内側金型と、図6Aに記載の真円の外側金型部を用いたこと以外は、実施例2と同じ条件で、実施例6の円筒状ボンド磁石のシミュレーションを行った。
【0048】
比較例1
磁性部材5を含まず、図7Aに記載の中実である内側金型と、距離Xと距離Yが同じとなるような長方形の外側金型部を用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で円筒状ボンド磁石を製造した。
【0049】
比較例2
内側金型部1をSUS304製とし、磁性部材5をSS400製としたこと以外は実施例1と同じ条件を用いて比較例2の円筒状ボンド磁石のシミュレーションを行った。
【0050】
比較例3
図9Aに記載の磁性部材5を含む内側金型を用いたこと以外は、比較例2と同じ条件で、比較例3の円筒状ボンド磁石のシミュレーションを行った。
【0051】
<歪率の評価>
図1Bおよび図7Bに、実施例1および比較例1のマグネットアナライザーで測定した円筒状ボンド磁石の外周の表面磁束密度を示す。図2A図3B図4B図5B図6B図8Aおよび図9Bに実施例2~6および比較例2~3のキャビティ外周部の外側金型部2の表面の配向磁場のシミュレーション結果を示す。図2B図3C図4C図5C図6C図8Bおよび図9Cに、実施例2~6および比較例2~3の円筒状ボンド磁石の外周の表面磁束密度のシミュレーション結果を示す。図1Bおよび図2Bがほぼ同じであることから、実際に作製した実施例1の結果とシミュレーションの実施例2の結果はほぼ同じであるといってよい。図7Bおよび図8Bがほぼ同じであることから、実際に作製した比較例1の結果とシミュレーションの比較例2の結果はほぼ同じであるといってよい。
【0052】
図1Cは、実施例1の円筒状ボンド磁石について、特定の領域ごとの磁束の向きである磁化方向を示すイメージ図である。図7Cは、比較例1の円筒状ボンド磁石について、特定の領域ごとの磁化方向を示すイメージ図である。四角で囲った部分は、図7Bにおいて矢印で示した部位に該当する。比較例1の円筒状ボンド磁石は、四角で囲った部分の磁化方向が斜めになり、これにより図7Bに示す結果となったと考えられる。実施例1の円筒状ボンド磁石は、この点が改善されたことで、図1Bに示す結果が得られたと考えられる。
【0053】
また、正弦波曲線に対する円筒状ボンド磁石の外周の表面磁束密度の歪率を表1に示す。歪率は、波形のひずみの程度を表すもので、フーリエ変換によりその波形に含まれる全高調波成分(E2~En)を計算し、その実効値の総和と基本波(E1)の実効値との比として算出した。
【0054】
【表1】
表1より、実施例1~6の円筒状ボンド磁石の歪率は低くなった。一方、比較例1~3の円筒状ボンド磁石の歪率は高くなった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本開示のボンド磁石の製造方法によれば、磁束密度の波形がサイン波形またはサイン波形に近い円筒状磁石を作製することができ、該円筒状ボンド磁石は、小型モータなどの様々な用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1:内側金型部
2:外側金型部
3:第1配向用磁石
4:第2配向用磁石
5:磁性部材
6:キャビティ
X:第1配向用磁石と第2配向用磁石の、外側金型部の内面で規定される円に接する磁場印加方向の直線距離
Y:第1配向用磁石と第2配向用磁石の、内側金型部の外面で規定される円の中心を通る磁場印加方向の直線距離
Z:第1配向用磁石と第2配向用磁石の、外側金型部の外面で規定される円に接する磁場印加方向の直線距離


図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C