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  • 特開-カルボン酸化合物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101029
(43)【公開日】2025-07-07
(54)【発明の名称】カルボン酸化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/145 20060101AFI20250630BHJP
   C07C 61/08 20060101ALI20250630BHJP
【FI】
C07C51/145
C07C61/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023217573
(22)【出願日】2023-12-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術開発」のうち「(2)ーa.連続抽出技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】福山 高英
(72)【発明者】
【氏名】柳 日馨
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC46
4H006BB21
4H006BD81
4H006BE40
4H006BJ20
4H006BS20
(57)【要約】
【課題】液相中の原料有機化合物と、気相中のCOガスとを反応させ、原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換することより、カルボン酸化合物を製造する方法において、効率的にカルボン酸化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】液相中の原料有機化合物と、気相中のCOガスとを反応させ、前記原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換することより、カルボン酸化合物を製造する方法であって、
前記液相は、互いに接触する有機相と水相とから形成されており、
前記有機相には、前記原料有機化合物が含まれ、
前記水相には、前記原料有機化合物のC-H結合を開裂させてラジカルを発生させるラジカル開始剤が含まれ、
前記液相と前記気相とが交互に並んだ状態で反応管内を一方側から他方側に移動させながら、前記反応を進行させる、カルボン酸化合物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相中の原料有機化合物と、気相中のCOガスとを反応させ、前記原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換することより、カルボン酸化合物を製造する方法であって、
前記液相は、互いに接触する有機相と水相とから形成されており、
前記有機相には、前記原料有機化合物が含まれ、
前記水相には、前記原料有機化合物のC-H結合を開裂させてラジカルを発生させるラジカル開始剤が含まれ、
前記液相と前記気相とが交互に並んだ状態で反応管内を一方側から他方側に移動させながら、前記反応を進行させる、カルボン酸化合物の製造方法。
【請求項2】
前記反応管の円形断面の面積が、3mm2以下である、請求項1に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
【請求項3】
前記反応管の長さが、5m以上である、請求項1又は2に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
【請求項4】
前記反応管内で前記液相と前記気相とが交互に並んだ状態において、1つの前記液相の体積が5mm3以下であり、1つの気相の体積が5mm3以下である、請求項1又は2に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
【請求項5】
前記液相において、1つの前記有機相の体積が1mm3以上であり、1つの水相の体積が4mm3以上である、請求項4に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
【請求項6】
前記液相と前記気相とが交互に並んだ状態で前記反応管内を一方側から他方側に移動させる際の流速が、10mm/秒以上である、請求項1又は2に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
【請求項7】
前記反応を進行させる反応温度が、120℃以下である、請求項1又は2に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
【請求項8】
前記反応を進行させる反応圧力が、1MPa以下である、請求項1又は2に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
【請求項9】
前記ラジカル開始剤が、ペルオキソ二硫酸塩、過酸化ベンゾイル、ジ-t-ブチルペルオキシド、t―ブチルヒドロペルオキシド、及び過酸化水素からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
【請求項10】
液相中の原料有機化合物と、気相中のCOガスとを反応させ、前記原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換する方法であって、
前記液相は、互いに接触する有機相と水相とから形成されており、
前記有機相には、前記原料有機化合物が含まれ、
前記水相には、前記原料有機化合物のC-H結合を開裂させてラジカルを発生させるラジカル開始剤が含まれ、
前記液相と前記気相とが交互に並んだ状態で反応管内を一方側から他方側に移動させながら、前記反応を進行させる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルボン酸化合物(カルボキシ基を有する化合物)は、医薬品、農薬、樹脂など、極めて広範な分野で利用されている。
【0003】
カルボン酸化合物の合成は、多段的に行われることが一般的である。一方、カルボン酸化合物の効率的な合成法として、一酸化炭素(COガス)を用い、原料有機化合物を直接酸化的カルボニル化反応させる方法も知られている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、原料有機化合物であるメタン等と、COガスとを、ペルオキソ二硫酸塩の存在下に反応させて、カルボン酸化合物を製造する方法が開示されている。
【0005】
また、原料有機化合物と、気相中のCOガスとを、パラジウム触媒、ニッケル触媒、銅触媒などの触媒の存在下に反応させて、カルボン酸化合物を製造する方法も知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1992, 892.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の通り、原料有機化合物とCOガスとを反応させて、カルボン酸化合物を製造する方法については、様々な方法が知られている。しかしながら、これらのカルボン酸化合物の製造においては、バッチ式の反応系が採用されている。
【0008】
例えば、非特許文献1に開示された方法では、バッチ式の反応系において、総圧力70気圧、反応時間10時間という条件でカルボン酸化合物が製造されており、高い圧力と長い反応時間を要するだけでなく、収率は50%程度にとどまっている。
【0009】
本発明は、液相中の原料有機化合物と、気相中のCOガスとを反応させ、原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換することより、カルボン酸化合物を製造する方法において、効率的にカルボン酸化合物を製造する方法を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、液相中の原料有機化合物と、気相中のCOガスとを反応させ、原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、液相中の原料有機化合物と、気相中のCOガスとを反応させ、原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換することより、カルボン酸化合物を製造する方法において、液相を、互いに接触する有機相と水相とから形成し、有機相には、原料有機化合物を含ませ、水相には、原料有機化合物のC-H結合を開裂させてラジカルを発生させるラジカル開始剤を含ませ、さらに、液相と気相とが交互に並んだ状態で反応管内を一方側から他方側に移動させながら、前記の反応を進行させることで、効率的にカルボン酸化合物を製造できることを見出した。
【0011】
本発明は、このような知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 液相中の原料有機化合物と、気相中のCOガスとを反応させ、前記原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換することより、カルボン酸化合物を製造する方法であって、
前記液相は、互いに接触する有機相と水相とから形成されており、
前記有機相には、前記原料有機化合物が含まれ、
前記水相には、前記原料有機化合物のC-H結合を開裂させてラジカルを発生させるラジカル開始剤が含まれ、
前記液相と前記気相とが交互に並んだ状態で反応管内を一方側から他方側に移動させながら、前記反応を進行させる、カルボン酸化合物の製造方法。
項2. 前記反応管の円形断面の面積が、3mm2以下である、項1に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
項3. 前記反応管の長さが、5m以上である、項1又は2に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
項4. 前記反応管内で前記液相と前記気相とが交互に並んだ状態において、1つの前記液相の体積が5mm3以下であり、1つの気相の体積が5mm3以下である、項1~3のいずれか1項に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
項5. 前記液相において、1つの前記有機相の体積が1mm3以上であり、1つの水相の体積が4mm3以上である、項4に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
項6. 前記液相と前記気相とが交互に並んだ状態で前記反応管内を一方側から他方側に移動させる際の流速が、10mm/秒以上である、項1~5のいずれか1項に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
項7. 前記反応を進行させる反応温度が、120℃以下である、項1~6のいずれか1項に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
項8. 前記反応を進行させる反応圧力が、1MPa以下である、項1~7のいずれか1項に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
項9. 前記ラジカル開始剤が、ペルオキソ二硫酸塩、過酸化ベンゾイル、ジ-t-ブチルペルオキシド、t―ブチルヒドロペルオキシド、及び過酸化水素からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1~8のいずれか1項に記載のカルボン酸化合物の製造方法。
項10. 液相中の原料有機化合物と、気相中のCOガスとを反応させ、前記原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換する方法であって、
前記液相は、互いに接触する有機相と水相とから形成されており、
前記有機相には、前記原料有機化合物が含まれ、
前記水相には、前記原料有機化合物のC-H結合を開裂させてラジカルを発生させるラジカル開始剤が含まれ、
前記液相と前記気相とが交互に並んだ状態で反応管内を一方側から他方側に移動させながら、前記反応を進行させる、方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液相中の原料有機化合物と、気相中のCOガスとを反応させ、原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換することより、カルボン酸化合物を製造する方法において、効率的にカルボン酸化合物を製造する方法を提供することができる。また、本発明によれば、液相中の原料有機化合物と、気相中のCOガスとを反応させ、原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換する方法を提供することもできる。
【0014】
本発明のカルボン酸化合物の製造方法は、例えば、従来のバッチ反応と比較して、反応効率が高いため、より低温・低圧環境での反応が可能であり、収率も高めることができる。さらに、本発明のカルボン酸化合物の製造方法は、従来のバッチ反応とは異なり、カルボン酸化合物を連続的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1のカルボン酸化合物の製造方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のカルボン酸化合物の製造方法は、液相中の原料有機化合物と、気相中のCOガスとを反応させ、原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換することより、カルボン酸化合物を製造する方法である。本発明の製造方法において、液相は、互いに接触する有機相と水相とから形成されており、有機相には、原料有機化合物が含まれ、水相には、原料有機化合物のC-H結合を開裂させてラジカルを発生させるラジカル開始剤が含まれている。さらに、本発明の製造方法では、液相と気相とを、これらが交互に並んだ状態で反応管内を一方側から他方側に移動させながら、反応を進行させる。本発明のカルボン酸化合物の製造方法は、このような特徴を備えることにより、効率的にカルボン酸化合物を製造することができる。
【0017】
以下、本発明のカルボン酸化合物の製造方法について、詳述する。なお、本明細書において、「~」で示される数値範囲は「以上」、「以下」を意味する。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、別個に記載された、上限値と上限値、上限値と下限値、又は下限値と下限値を組み合わせて、それぞれ、数値範囲としてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0018】
また、本発明において、「カルボン酸化合物」とは、分子内に少なくとも1つのカルボキシ基を有する有機化合物であり、原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換することより製造される有機化合物である。
【0019】
本発明では、液相中の原料有機化合物と、気相中のCOガスとを反応させる。液相は、互いに接触する有機相と水相とから形成されている。そして、液相と気相とが交互に並んだ状態で反応管内を一方側から他方側に移動させながら、反応を進行させる。
【0020】
本発明において、有機相には、原料有機化合物が含まれる。原料有機化合物は、COガスと反応し、原料有機化合物のC-H結合がC-OOH結合に変換される反応が進行する有機化合物であれば、特に制限されず、脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物のいずれであってもよい。このような原料有機化合物としては、例えば、公知のものを利用できる。
【0021】
また、原料有機化合物の分子量についても、前記の反応が進行できれば、特に制限はない。原料有機化合物は、例えば、低分子化合物(例えば分子量が1000未満)に限定されず、高分子化合物であってもよいし、オリゴマーであってもよい。
【0022】
本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、原料有機化合物の分子量の目安としては、好ましくは16以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは70以上であり、また、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、さらに好ましくは120以下であり、好ましい範囲としては、16~300、16~200、16~120、50~300、50~200、50~120、70~300、70~200、70~120などが挙げられる。また、原料有機化合物の炭素数の目安としては、好ましくは1以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5以上であり、また、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは8以下であり、好ましい範囲としては、1~20、1~10、1~8、4~20、4~10、4~8、5~20、5~10、5~8などが挙げられる。
【0023】
前記の通り、有機相と水相とからなる液相中(有機相中)の原料有機化合物と、気相中のCOガスとを反応させ、原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換する反応については、様々な反応が公知であり、本発明においても、公知の反応に適用される原料有機化合物を使用することができる。すなわち、原料有機化合物とCOガスとを反応させてカルボン酸化合物を合成する反応を、本発明の製造方法に適用することができる。有機相に含まれる原料有機化合物は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってよい。
【0024】
本発明の反応を効率的に進行させる観点から、原料有機化合物のC-H結合は、アルキル基などの脂肪族炭化水素基のC-H結合であることが好ましい。また、本発明の反応を効率的に進行させる観点から、原料有機化合物のC-H結合の炭素原子は、SP3混成軌道を有する炭素原子であることが好ましい。
【0025】
また、原料有機化合物が脂肪族化合物である場合、原料有機化合物のC-H結合は、アルキル基のC-H結合であることが好ましい。原料有機化合物が脂環式化合物である場合、原料有機化合物のC-H結合は、シクロアルカンのC-H結合であることが好ましい。原料有機化合物が芳香族化合物である場合、原料有機化合物のC-H結合は、アルキル基又はシクロアルカンのC-H結合であることが好ましい。
【0026】
有機相には、原料有機化合物に加えて、原料有機化合物を溶解するための有機溶媒等が含まれていてもよい。また、有機相は、原料有機化合物のみで構成されていてもよい。有機溶媒としては、原料有機化合物の種類等に応じて適宜選択すればよく、原料有機化合物を溶解し、かつ、本発明の反応を阻害しないものを選択する。有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、アセトン、ベンゼン、四塩化炭素、ペルフルオロアルカンなどが挙げられる。有機溶媒を使用する場合、有機溶媒は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってよい。
【0027】
本発明において、有機相と接触する水相には、水と共に、原料有機化合物のC-H結合を開裂させてラジカルを発生させるラジカル開始剤が含まれる。このようなラジカル開始剤としては、特に制限されず、公知のものを選択することができる。ラジカル開始剤の具体例としては、ペルオキソ二硫酸塩(例えば、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸カリウムなど)、過酸化ベンゾイル、ジ-t-ブチルペルオキシド、t―ブチルヒドロペルオキシド、過酸化水素などが挙げられる。水相に含まれるラジカル開始剤は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってよい。
【0028】
例えば、ペルオキソ二硫酸塩などのラジカル開始剤は、原料有機化合物に対して、化学量論量以上が使用される。具体例として、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの存在下に、シクロヘキサンとCOガスとを反応させて、シクロヘキサンカルボン酸が生成する反応は、以下のスキームで表すことができる。
【0029】
【化1】
【0030】
本発明の反応においては、触媒を使用することもできる。例えば前記のペルオキソ二硫酸塩と触媒とは、併用することもできる。例えば、以下の論文には、様々な触媒(銅触媒など)利用をして、有機相と水相とからなる液相中の原料有機化合物(有機相中)と、気相中のCOガスとを反応させ、原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換する反応が記載されている。例えば、これらの論文等に記載された公知の反応を、本発明の製造方法に適用することも可能である。
【0031】
Kirillova, M. V. et. al. Adv. Synth. Catal. 2009, 351, 2936 - 2948.
Kirillova, M. V. et. al. Org. Biomol. Chem., 2019, 17, 7706-7714.
Nesterova, O. V. et. al. CrystEngComm, 2014, 16, 775-783.
Costa, Ines F. M, et. al. Inorg. Chem. 2021, 60, 14491-14503
Fernandes, A. T, et. al. Dalton Trans. 2018, 47, 16674-16683
Fernandes, A. T. et. al. J. Mol, Catal. A. Chem. 2017, 426, 357-367.
Alexander, M. K. et. al. J. Mol, Catal. A. Chem. 2011, 350, 26-34.
Zaltariov, M. et. al. Eur. J. Inorg. Chem. 2014, 29, 4946-4956.
Almakola, E. et. al. Inorg. Chem. 2018, 57, 10656-10666.
Trusan, I. K. et. al. Mol. Catal. 2021, 503, 111401.
Kirillova, V. M. et. al. Pure Appl. Chem. 2017, 89, 61-73.
Kirillov, M. A. et. al. Dalton. Trans. 2011, 40, 6378-6381.
Kirillov, M. A. et. al. Dalton. Trans. 2013, 42, 16578-16587.
Demadis, D. K. et. al. RSC. Adv. 2017, 7, 17788-17799.
Kirillova, V. M. et. al. Inorg. Chem. 2012, 51, 5224-5234.
Pakrieva, E, et. al. Catal. Today, 2020, 357, 39-45.
【0032】
水相には、水とは異なる溶媒が含まれていてもよい。水相に含まれる有機溶媒は、水と溶解する極性溶媒であることが好ましく、例えば、アセトニトリル、アセトンなどの非プロトン性極性溶媒が好ましい。水相に水とは異なる溶媒が含まれる場合、水相に含まれる当該溶媒は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってよい。
【0033】
また、気相中のCOガス濃度については、本発明の効果が奏されることを限度として、特に制限されず、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上であり、気相はCOガスのみで構成されている(すなわちCOガス濃度は100%)であることも好ましい。
【0034】
気相中にCOガス以外のガスが含まれる場合、当該ガスとしては、例えば、アルゴン、窒素などの不活性ガスが挙げられる。気相中にCOガス以外のガスが含まれる場合、気相中に含まれるこれらのガスは、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってよい。
【0035】
前記の通り、有機相と水相とからなる液相中の原料有機化合物(有機相中)と、気相中のCOガスとを反応させ、原料有機化合物のC-H結合をC-OOH結合に変換する反応については、様々な反応が公知である。しかしながら、これらの反応に適用されているバッチ反応では、有機相、水相、気相の接触界面が小さく、反応スケールを大きくするほど反応効率が低下する。
【0036】
これに対して、本発明では、液相と気相とが交互に並んだ状態で反応管内を一方側から他方側に移動させながら、前記反応を進行させる。このように、本発明のカルボン酸化合物の製造方法においては、有機相、水相及び気相を、それぞれ小さな単位に分割して反応させることができるため、全体としての接触界面(有機相と水相及び気相との接触界面)が大きく、反応効率を高めることができる。したがって、本発明のカルボン酸化合物の製造方法は、例えば、従来のバッチ式の反応と比較して、反応効率が高く、より低温・定圧環境での反応が可能であり、収率も高めることができる。さらに、本発明のカルボン酸化合物の製造方法は、従来のバッチ式の反応とは異なり、カルボン酸化合物を連続的に製造することもできる。
【0037】
本発明において、反応管内で、有機相が気相及び水相と接触していればよく、反応管内でのこれらの相の並び順は、進行方向に向かって、気相/有機相/水相の順であっても良いし、気相/水相/有機相の順(すなわち水相/有機相/気相の順)であっても良い。
【0038】
本発明のカルボン酸化合物の製造方法において、反応管内の1つ有機相と、これに接触する1つの気相及び1つの水相とを、反応全体を構成する1つのユニット(構成単位)と考えることができる(図1の模式図を参照)。反応管の一方向から、1つのユニットを構成する有機相、水相及び気相を順次供給し、これを繰り返して、多数のユニットを連続的に反応管内を進行させながら、各ユニット内でカルボン酸化合物の合成反応が進行することで、連続的にカルボン酸化合物が製造される。
【0039】
本発明の製造方法によって、原料有機化合物に導入されるカルボキシ基の数は特に制限されず、例えば1個であってもよいし、2個以上であってもよく、目的に応じて設定できる。また、原料有機化合物に導入されるカルボキシ基の位置についても、原料化合物の種類等に応じて設計することができる。後述の通り、本発明においては、生成したカルボン酸化合物は、単離、精製に供してもよい。このため、カルボキシ基の数、位置などが異なる複数種類のカルボン酸化合物が製造された場合に、必要に応じて単離、精製に供することで、目的のカルボン酸化合物を取得することもできる。
【0040】
本発明の製造方法において、反応管の円形断面の面積については、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されず、好ましくは約3mm2以下、より好ましくは約2mm2以下であり、また、好ましくは約0.5mm2以上、より好ましくは約1mm2以上であり、好ましい範囲としては、0.5~3mm2、0.5~2mm2、1~3mm2、1~2mm2などが挙げられる。
【0041】
また、反応管の長さについても、前記のユニットが反応管内を進行してカルボン酸化合物が製造する程度の長さを確保すればよく、好ましくは約5m以上、より好ましくは約10m以上であり、また、好ましくは約50m以下、より好ましくは約20m以下であり、好ましい範囲としては、5~50m、5~20m、10~50m、10~20mなどが挙げられる。
【0042】
また、本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、反応管内で液相と気相とが交互に並んだ状態において、1つの液相の体積については、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されず、好ましくは約10mm3以下、より好ましくは約4mm3以下であり、また、好ましくは約0.1mm3以上、より好ましくは約1mm3以上であり、好ましい範囲としては、0.1~10mm3、0.1~4mm3、1~10mm3、1~4mm3などが挙げられる。
【0043】
また、本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、反応管内で液相と気相とが交互に並んだ状態において、1つの気相の体積については、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されず、好ましくは約10mm3以下、より好ましくは約5mm3以下であり、また、好ましくは約1mm3以上、より好ましくは約3mm3以上であり、好ましい範囲としては、1~10mm3、1~5mm3、3~10mm3、3~5mm3などが挙げられる。
【0044】
また、本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、反応管内の液相において、1つの有機相の体積は、好ましくは約0.5mm3以上、より好ましくは約1mm3以上であり、また、好ましくは約5mm3以下、より好ましくは約3mm3以下であり、好ましい範囲としては、0.5~5mm3、0.5~3mm3、1~5mm3、1~3mm3などが挙げられる。
【0045】
また、本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、反応管内の液相において、1つの水相の体積は、好ましくは約2mm3以上、より好ましくは約4mm3以上であり、また、好ましくは約10mm3以下、より好ましくは約6mm3以下であり、好ましい範囲としては、2~10mm3、2~6mm3、4~10mm3、4~6mm3などが挙げられる。
【0046】
また、本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、液相と気相とが交互に並んだ状態で反応管内を一方側から他方側に移動させる際の流速としては、好ましくは約10mm/秒以上、より好ましくは約11mm/秒以上、さらに好ましくは約12mm/秒以上、好ましくは約13mm/秒以上であり、また、好ましくは約30mm/秒以下、より好ましくは約20mm/秒以下であり、好ましい範囲としては、10~30mm/秒、10~20mm/秒、11~30mm/秒、11~20mm/秒、12~30mm/秒、12~20mm/秒、13~30mm/秒、13~20mm/秒などが挙げられる。
【0047】
また、本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、反応管内において反応を進行させる反応温度としては、好ましくは約120℃以下、より好ましくは約110℃以下であり、また、好ましくは約80℃以上、より好ましくは約90℃以上であり、好ましい範囲としては、80~120℃、80~110℃、90~120℃、90~110℃などが挙げられる。
【0048】
また、本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、反応管内において反応を進行させる反応圧力としては、好ましくは約1MPa以下、より好ましくは約0.7MPa以下であり、また、好ましくは約0.1MPa以上、より好ましくは約0.5MPa以上であり、好ましい範囲としては、0.1~1MPa、0.1~0.7MPa、0.5~1MPa、0.5~0.7MPaなどが挙げられる。
【0049】
なお、反応管の材質などについては、特に制限されず、例えば、HPLCのカラムに使用されるステンレス、樹脂などが例示される。また、有機相、水相、及びガスの反応管への供給法などは、それぞれ、特に制限されず、ポンプ、レギュレータなどを利用して定量的に反応管内に液体・気体を供給する公知の方法を採用すればよい。
【0050】
生成したカルボン酸化合物は、単離、精製に供してもよい。カルボン酸の単離、精製法については、公知の方法を採用することができる。
【実施例0051】
以下の実施例において本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0052】
(実施例1)
シクロヘキサン25mLを入れた50mLナスフラスコと、ヘ゜ルオキソ二硫酸アンモニウム1gを水15.8mLとアセトニトリル22.1mLへ溶解した溶液を加えた50mLナスフラスコを用意した。その後、図1の模式図に示すように、それそ゛れの溶液を2台のHPLCホ゜ンフ゜て゛送液(シクロヘキサン:0.2mL/min,ペルオキソ二硫酸アンモニウム:0.8mL/min)し、内径500μmのT字ミキサーで混合した。また一酸化炭素をマスフローコントローラーを用いて送気(4.2mL/min基準状態)し、内径250μmのT字ミキサーで混合した。生成した気・液・液の連続ドロップレットを内径1.6mm、長さ10mのPTFE製チューフ゛内で110℃、滞留時間12.8分間の条件で反応させた。リアクター出口に接続した背圧弁(0.7MPa)により内圧を制御した。反応化合物を30分間回収し、飽和NaHCO3水溶液て゛クエンチし、反応混合物を塩酸を用いて酸性にした後、酢酸エチルて゛抽出した。合わせた有機相を飽和食塩水て゛洗浄し、無水MgSO4て゛乾燥した。溶媒を減圧留去し、NMRにより収率を算出したところ90%収率でシクロヘキサンカルボン酸が得られた。
【0053】
(比較例1)
ステンレス製の50mLオートクレーブに、攪拌子、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(114.1mg,0.5mmol)およびシクロヘキサン(840mg,10mmol)、CH3CN(2.3mL)および水(0.5mL)を加えた。オートクレーブを密閉し、一酸化炭素で3回置換を行い、80気圧のCOで加圧した後、オイルバスで110度に加熱し、0.5時間攪拌した。得られた反応混合物を飽和NaHCO3水溶液でクエンチし、塩酸で酸性にした後酢酸エチルで抽出した。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水MgSO4で乾燥した。濾液を減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製したところ54%収率でシクロヘキサンカルボン酸が得られた(図1のバッチ 54%)。
図1