(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025101831
(43)【公開日】2025-07-08
(54)【発明の名称】光モジュール
(51)【国際特許分類】
G02F 1/377 20060101AFI20250701BHJP
【FI】
G02F1/377
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218880
(22)【出願日】2023-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591230295
【氏名又は名称】NTTイノベーティブデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真志
(72)【発明者】
【氏名】圓佛 晃次
(72)【発明者】
【氏名】風間 拓志
(72)【発明者】
【氏名】梅木 毅伺
(72)【発明者】
【氏名】大庭 直樹
(72)【発明者】
【氏名】丸山 和宏
(72)【発明者】
【氏名】三橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】荒井 智美
(72)【発明者】
【氏名】内田 敏昭
(72)【発明者】
【氏名】西澤 寿樹
【テーマコード(参考)】
2K102
【Fターム(参考)】
2K102AA02
2K102AA06
2K102AA07
2K102AA08
2K102BA18
2K102BB02
2K102BC01
2K102BD01
2K102CA00
2K102DA04
2K102DA05
2K102DA10
2K102DA20
2K102DD05
2K102DD09
2K102EB23
2K102EB25
2K102EB30
(57)【要約】
【課題】固定部材やパッケージ底面等の反りに起因する光結合損失の増大を抑制することで、安定的に動作可能な光モジュールを提供する。
【解決手段】本発明による光モジュールは、光学素子を含む光デバイスを内封するパッケージがフランジを介して固定される光モジュールであって、フランジは、光学素子を導波する光信号の光軸方向と平行方向の両側面の各々に2つの接続部を備え、2つの接続部の各々の幅中心間の間隔は、光デバイスをパッケージの内部に固定するキャリア固定部の光軸方向と平行方向の長さの2倍より狭くなるようにとなるように構成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子を含む光デバイスを内封するパッケージがフランジを介して固定される光モジュールであって、
前記フランジは、前記光学素子を導波する光信号の光軸方向と平行方向の両側面の各々に2つの接続部を備え、
前記2つの接続部の各々の幅中心間の間隔は、前記光デバイスを前記パッケージの内部に固定するキャリア固定部の前記光軸方向と平行方向の長さの2倍より狭くなるように構成されている、
光モジュール。
【請求項2】
前記接続部がノッチであり、
前記パッケージが前記フランジを介して、機械締結により固定される、
請求項1に記載の光モジュール
【請求項3】
前記光学素子が非線形光学素子である、請求項1に記載の光モジュール。
【請求項4】
前記非線形光学素子の材料は、LiNbO3、LiTaO3、LiNb(x)Ta(1-x)O3(0≦x≦1)、または、それらにMg、Zn、Sc、Inの少なくとも一種を添加物として含有している材料から選ばれる、請求項3に記載の光モジュール。
【請求項5】
前記キャリア固定部は、ペルチェ素子であり、
前記ペルチェ素子は前記光学素子の温度を計測するサーミスタと接続される、
請求項1に記載の光モジュール。
【請求項6】
前記光学素子は導波路構造を有する、請求項1に記載の光モジュール。
【請求項7】
前記光デバイスは、空間光結合系デバイスである、請求項1に記載の光モジュール。
【請求項8】
前記接続部は、前記キャリア固定部の前記光軸方向と平行方向の長さの範囲内に配置される、請求項1に記載の光モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信における光信号波長変換、光変調、光計測、または光加工、医療、生物工学など、多岐の分野にわたり、紫外域-可視域-赤外域-テラヘルツ域にわたるコヒーレント光の発生と変調を実現するための光デバイス(非線形光学デバイスや電気光学デバイス)に関する開発が進められている。
【0003】
また、このような光デバイスに用いられる非線形光学媒質および電気光学媒質についても、同様に種々の研究開発が進められている。特に、ニオブ酸リチウム(LiNbO3:以下LNという)などの酸化物系化合物は、高い二次非線形光学定数・電気光学定数を有することから、光デバイス用の材料として多くの研究報告例があり、実用化に向けても有望な材料系として位置付けられている。
【0004】
LNの高い非線形性を発展させた光デバイスの一例として、周期的に分極反転されたニオブ酸リチウム(Periodically Poled Lithium Niobate:以下、PPLN)を用いた波長変換素子が挙げられる。PPLNを用いた波長変換素子は、二次非線形光学効果を利用した第二高調波発生(SHG)、差周波発生(DFG)、和周波発生(SFG)が可能であり、高い波長変換効率を有することから、これまでに多くの研究報告例が挙げられている。
【0005】
加えて、このような高い波長変換効率を有する波長変換素子を用いれば、励起光パワーから信号光へのエネルギーの移行により光パラメトリック増幅と呼ばれる、信号光の増幅器を構成することも可能である。さらに、波長変換効率は非線形媒質を伝搬する光のパワー密度に比例するため、導波路構造を形成し、狭い領域に光を閉じ込めることで高効率を得ることも可能である。このため、PPLNをはじめとする高い二次非線形光学定数を有する非線形媒質を用いた導波路構造を有する波長変換素子に関する研究開発が盛んに行われている。特に近年では、結晶のバルクの特性をそのまま利用できるという観点から、高光損傷耐性、長期信頼性、デバイス設計が容易等の特徴を有するリッジ型の光導波路構造を有する波長変換素子に関する研究報告例が多く見られる。
【0006】
このような高い変換効率を有する光デバイスを安定的に運用するためには、モジュール実装が不可欠である。既存のモジュール実装としては、例えば、光入力が2つ、光出力が2つあるモジュールが提案されている(例えば、非特許文献1)。これによれば、光パラメトリック利得は、20dB以上にも達することが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Takushi Kazama, Takeshi Umeki, Shimpei Shimizu, Takahiro Kashiwazaki, Koji Enbutsu, Ryoichi Kasahara, Yutaka Miyamoto, and Kei Watanabe, ‘Over-30-dB gain and 1-dB noise figure phase-sensitive amplification using a pump-combiner-integrated fiber I/O PPLN module,’ Optics Express, Vol. 29, Issue 18, pp. 28824-28834 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常、光モジュールはそれ単体で設置・運用することは少なく、筐体内に固定した形態で実装される。この固定に際し、固定部材等、当該光モジュールが固定される下地の平坦度が低い(例えば、反りがある)と、当該光モジュールの光学系の位置変位が生じ、それに伴って光結合損失が引き起こされ得る。
【0009】
図1は、従来技術による例示的な光モジュール100の構造を示す図であり、(a)は上面図を、(b)はIb-Ib断面線における断面図を、それぞれ示している。
図1に示される通り、光モジュール100は、キャリア101と、キャリア101の上に載置された光学素子102と、キャリア101上であって、光学素子102の光軸方向に対する入力側及び出力側の各々に載置された内部光学系103a、bと、これらの素子を内封するパッケージ104と、パッケージ104の光軸方向と直交方向の側面上であって、光学素子102を導波する信号光の入力側及び出力側の各々に設置された外部光学系105a、bと、外部光学系105a、bの各々に接続される光ファイバ106a、bと、キャリア101の底面とパッケージ104の内面とを接続するキャリア固定部107と、パッケージ104側面に接続されるフランジ108と、フランジ108の底部と接続される固定部材109と、を含む。
【0010】
更に、
図1に示される通り、光モジュール100のフランジ108は、光軸と平行方向の(
図1におけるy方向の)長さがパッケージ104の、光軸と平行方向の長さと同程度となるように構成されている。加えて、フランジ108は、両側面に光軸と平行方向に対して等間隔で配置された3つの(両側で計6つの)ノッチ110a-fを有する。一方、固定部材109には、当該ノッチ110a-fの各々と対応する位置にねじ穴(図示せず)が形成されている。そして、このねじ穴にねじが挿入されることによって、パッケージ104及び内封される素子(光学素子102、内部光学系103a、b等)と、固定部材109とが、フランジ108を介して機械締結されるように構成されている。
【0011】
このような構造を有する光モジュール100において、固定部材109が、厚さ方向(
図1におけるz方向)に反りを有する場合、パッケージ104及び内封される素子(光学素子102、内部光学系103a、b等)にも反りが生じ得る。このようなパッケージ104及び素子における反りの発生は、各素子間を導波する信号光の光結合損失の増加に繋がり、伝送効率の低下を引き起こし得る。
【0012】
図2は、従来技術の別の例による例示的な光モジュール200の構造を示す図であり、(a)は上面図を、(b)はIIb-IIb断面線における断面図を、それぞれ示している。光モジュール200は、上述の光モジュール100とは異なり、フランジ108を介した機械締結ではなく、パッケージ104の外側の底面が固定部材109に直接接合された形態を有する。
【0013】
このような構造を有する光モジュール200では、固定部材109の反りによって発生する曲げ応力は、主にキャリア固定部107に発生するため、キャリア101の変形(反り)量は、光モジュール100の場合に比べて、小さく抑えられる。しかしながら、光モジュール200では、パッケージ104の反り量とキャリア101の反り量に差が生じるため、内部光学系103aと外部光学系105aとの間、並びに、内部光学系103bと外部光学系105bとの間において、光軸のずれが生じ、結果的に光結像損失の増大が発生し得る。
【0014】
このように、光モジュールが固定される下地(固定部材等)の反りは、光結合損失の増大を引き起こす。特に、
図1、2に示されるような空間光結合系を有する光モジュールでは、当該光結合損失の増大は顕著になる。尚、上記の説明では、固定部材が反っている場合について述べたが、光モジュール200のような構造では、パッケージ104の底面が反りを有する場合も、同様の問題が生じ得る。また、光モジュールが固定部材ではなく、他の下地に固定されないような形態であっても、当該他の下地に反りが生じていれば、同様の問題が生じ得る。
【0015】
また、このような反りに起因した光結合損失の増大は、上述した波長変換素子のモジュールに限らず、例えば、光検出モジュールのような入力端子のみ、又は、レーザーモジュールのような出力端子のみを有する光モジュールの場合であっても同様に生じ得る。
【0016】
このような光モジュールにおける、反りに起因した光結合損失を抑制する既存の技術として、例えば、熱応力によるパッケージ変形に対する提案などが挙げられる。しかしながら、このような技術においては、パッケージの対角で固定した場合には、依然として固定部材の反りの影響を受け得るという問題がある。
【0017】
既存の技術の別の例として、パッケージの長辺に直交する方向に2つの固定点を並べる方法が挙げられる。しかしながら、この場合、当該固定点を支点とする振動モード周波数が低くなるため、機械的信頼性が低下するという別の問題が生じ得る。
【0018】
更に別の解決技術もいくつか報告されているが、それらの解決技術では、異種材料接合やノッチ加工が必要となることもしばしばある。このような場合、フランジ構造を製作るためのコストが増加してしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、上記のような課題に対して鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、光モジュールが固定される下地(固定部材やパッケージ底面等)の反りに起因する光結合損失の増大を抑制することで、安定的に動作可能な光モジュールを提供することにある。
【0020】
上記の様な目的を達成するため、本発明では、光学素子を含む光デバイスを内封するパッケージと、固定部材とが、フランジを介して機械締結される光モジュールであって、フランジは、光学素子を導波する光信号の光軸方向と平行方向の両側面の各々に2つのノッチを備え、2つのノッチの各々の幅中心間の間隔は、光デバイスをパッケージの内部に固定するキャリア固定部の光軸方向と平行方向の長さの2倍より狭くなるようにとなるように構成されている、光モジュールを提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、反りに起因する信号光の光結合損失が抑制され、高効率で安定的に動作することが可能な光モジュールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】従来技術による例示的な光モジュール100の構造を示す図であり、(a)は上面図を、(b)はIb-Ib断面線における断面図を、それぞれ示している。
【
図2】従来技術の別の例による例示的な光モジュール200の構造を示す図であり、(a)は上面図を、(b)はIIb-IIb断面線における断面図を、それぞれ示している。
【
図3】本発明の一実施形態による光モジュール300の構造を示す図であり、(a)は上面図を、(b)はIIIb-IIIb断面線における断面図を、(c)はxz平面に平行な面における側面図を、それぞれ示している。
【
図4】光モジュール300においてノッチ間隔w
fの変化に対する光結合損失の増加を、3次元応力光学シミュレーションにより評価した結果を示す図である。
【
図5】固定部材109の反りに起因する光結合損失の発生の挙動を一般化したモデル500を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照しながら本発明の種々の実施形態について詳細に説明する。同一又は類似の参照符号は同一又は類似の要素を示し重複する説明を省略する場合がある。材料及び数値は例示を目的としており本開示の技術的範囲の限定を意図していない。以下の説明は、一例であって本発明の一実施形態の要旨を逸脱しない限り、一部の構成を省略若しくは変形し、又は追加の構成とともに実施することができる。
【0024】
図3は、本発明の一実施形態による光モジュール300の構造を示す図であり、(a)は上面図を、(b)はIIIb-IIIb断面線における断面図を、(c)はxz平面に平行な面における側面図を、それぞれ示している。
図3に示される通り、光モジュール300は、従来技術による光モジュール100と同様に、パッケージ104と固定部材109がフランジ308を介して機械締結される空間光結合系の光デバイスを含む光モジュールであって、当該フランジ308は、光軸方向と平行方向の両側面の各々に2つのノッチ310a-b、310c-dを有し、当該ノッチ310a-b、310c-dの各々の幅中心間の間隔w
f(以下、簡略のため、ノッチ間隔w
fと称する)は、キャリア固定部107の光軸方向と平行方向の長さw
c(以下、簡略のため、キャリア固定部幅w
cと称する)の2倍より狭くなるように(後述するkが0.5以下)となるように構成されている。
【0025】
尚、
図3では、キャリア101は、キャリア固定部107の上に載置された形態として描写されているが、これは例示を意図しており、光モジュール300の構造を限定しているものではない。例えば、キャリア101は、キャリア固定部107の上ではなく、ペルチェ素子の上に載置されてもよい(換言すれば、キャリア固定部107はペルチェ素子に置き換わってもよい)。さらに、当該ペルチェ素子は、光学素子102の温度を計測するためのサーミスタと接続されてもよい。フランジ308は、パッケージ104から突起した構造であれば、別部材として成型してパッケージ104に溶接等で接合しても、パッケージ104もしくはパッケージ104の一部分と1体で成型しても、構わない。ノッチ310a-b、310c-dの形状は、図示したような切り欠き形状以外でも、ネジが挿入できる形状であれば、例えば穴形状でも構わない。
【0026】
このような構成を有する光モジュール300では、上述の通り、ノッチ間隔wfが、キャリア固定部幅wcの2倍より狭くなるように規定されている。このノッチ間隔wfは、光結合損失を効率的に抑制する観点から設定されたものであり、これが本発明による光モジュールの最大の特徴である。以下に、このノッチ間隔wfの設定根拠について、詳細な説明を述べる。
【0027】
図4は、光モジュール300においてノッチ間隔w
fの変化に対する光結合損失の増加を、3次元応力光学シミュレーションにより評価した結果を示す図である。なお、本シミュレーションでは、光モジュール300は、キャリア101がペルチェ素子上に載置された形態であるものとしている。また、光モジュール300では、パッケージ104の光軸方向と平行方向(
図3のy方向)の長さが66mm、キャリア101の光軸方向と平行方向の長さが50mm、ペルチェ素子の光軸方向と平行方向の長さが16mmであるものとしている。
【0028】
また、本シミュレーションでは、光学素子102は二次非線形光学素子であるものと仮定しており、その屈折率は、LNと同程度であることとしている。但し、これは例示を意図するものであり、光学素子102は必ずしも、二次非線形光学素子に限定されるものではない。さらに、本シミュレーションでは、光学素子102はリッジ型導波路構造を有するものと仮定しているが、光学素子102は必ずしも導波路構造である必要はない。加えて、本シミュレーションでは、パッケージ104に内封される光デバイスは空間光結合系デバイスであると仮定しているが、必ずしもこれに限定されることは無く、他の形態のデバイス(例えば、各素子が光ファイバで結合されたデバイス)であってもよい。
【0029】
このように模擬された光モジュール300に対し、本シミュレーションでは、固定部材109に曲率半径10mの反りを付与し、その状態で、種々のノッチ間隔w
fの長さに対する光結合損失の増加を算出した。その結果、
図4に示される通り、ノッチ間隔w
fが30mmとなる時に、光結像損失の増加が最も抑制されており、ノッチ間隔w
fがそれ以上に広がると、フランジ308の反りが大きくなることに伴って、光結合損失の増加が大きくなる傾向が認められた。このノッチ間隔w
f30mmという値は、ペルチェ素子のペルチェ素子の光軸方向と平行方向の長さ、即ちw
c(16mm)の約2倍に相当する。尚、キャリア101がキャリア固定部107の上に載置される場合は、当該光軸方向と平行方向の長さは、キャリア固定部107の光軸方向と平行方向の長さに相当する。
【0030】
この挙動を一般化すると、以下の様なモデルで説明される。
【0031】
図5は、固定部材109の反りに起因する光結合損失の発生の挙動を一般化したモデル500を示す図である。
図5に示される通り、モデル500は、
図3に示される光モジュール300の側断面に相当する2次元モデルであり、y方向(光軸方向と平行方向)の長さの中心線(
図5において一点鎖線で示される)を軸とした軸対象モデルとなっている。そして、このようなモデル500において、当該中心線とキャリア固定部107の長辺の端部における垂線とのなす角をθ
1、当該中心線とフランジのノッチ幅中心における垂線とのなす角をθ
2、当該中心線の垂線と外部光学系105a、bを通過する信号光の導波方向とのなす角をθ
3とすると、θ
1、θ
2、及びθ
3は、それぞれ(式1)、(式2)、及び(式3)で表される。
【0032】
【0033】
ここで、wcはキャリア固定部幅、wfはノッチ間隔、Rは固定部材109の曲率半径である。また、kは、θ2をθ3に換算するための係数である。
【0034】
尚、当該中心線の垂線は、反りが発生していない場合の光軸に相当する線、即ち、各素子(光学素子102、内部光学系103a、b、外部光学系105a、b)の各々を導波する信号光の光軸が全て一致した場合の線と見なすことができる。また、モデル500において、中心線の垂線と内部光学系103a、bを通過する信号光の導波方向とのなす角は、一義的にθ1と同じ値であると見なせる。これは、キャリア101およびその上に載置される光学素子102や内部光学系103a、bの反り量が、キャリア固定部107の反り量に律速するためである。
【0035】
ここで、パッケージ104の全体の反りは、反りの原因となる曲げ応力に比例するものと仮定する。すると、パッケージ104の内部と外部との光学系の角度ずれθ
dは、
図5に示される通り、θ
3とθ
1の差として与えられるため、(式4)で表される。
【0036】
【0037】
さらにここで、ガウスビーム近似の光結合率計算から、e-2幅がωである光ビームの光結合率ηを考える。すると、角度ずれがθdの場合における光結合率ηは、(式5)で表される。
【0038】
【0039】
ここで、λは波長である。
【0040】
そして、この(式5)において、光結合損失が最も小さくなるのは、(式6)が成り立つときである。
【0041】
【0042】
ここで、
図4の結果を考慮すると、kは0.5と定まる。これは、上述した通り、
図4においてノッチ間隔30mmは、ペルチェ素子(キャリア固定部107)の長辺の長さ(16mm)の約2倍に相当することに起因する。
【0043】
kが0.5以下である場合は、
図4におけるノッチ間隔w
fが30mm以下である場合に相当する。したがって、このように設定された光モジュール300では、光結合損失の増加が小さく抑制される。一方、kが0.5よりも大きい場合、逆に光モジュール300では、光結合損失の増加が顕著になり、伝送効率が低下することとなる。
【0044】
即ち、光モジュール300では、ノッチ間隔wfがキャリア固定部幅wcの2倍より狭く設計された場合、効率的に光結合損失を抑制できると言える。本発明による光モジュール300では、このような考え方に基づいてノッチ間隔wfが設計されている。これにより、固定部材109に反りが生じていた場合であっても、既存の技術よりもさらに効率的に光結合損失を抑制することが可能な光モジュールを提供することが可能となる。
【0045】
尚、上述のモデル500に関する説明では、ノッチ間隔wfの中心と、キャリア固定部幅wcの中心は一致する(上述の軸に相当する)ものとして述べられてきたが、(式1)から(式6)が成立する限り、両者の中心は必ずしも一致しなくともよい。ただし、フランジ308における2つのノッチ310a-b、c-dの各々の位置は、wcの外側の位置に配置されると、外部光学系の光軸ずれが大きくなり、結果として光結合損失が増加する。このため、フランジ308の両側面の各々に配置された2つのノッチ310a-b、c-dは、キャリア固定部107の光軸方向と平行方向の長さの範囲内に配置されることが好ましい。
【0046】
また、上述の説明では、光学素子102はLNと同等の屈折率を有するものとしていることを述べたが、これは、本発明による光モジュール300では、光学素子102は、LNと同等の屈折率を有する材料が適用されてよいことを意味する。したがって、本発明による光モジュール300では、光学素子102の材料は、例えば、LiNbO3、LiTaO3、LiNb(x)Ta(1-x)O3(0≦x≦1)、または、それらにMg、Zn、Sc、Inからなる群から選ばれた少なくとも一種を添加物として含有している材料であれば、同様の効果が奏される。また、光学素子102は、周期分極反転構造を有しても、屈折率自体は変化しないため、同様の効果が奏される。
【0047】
通常、空間光結合系の光モジュールでは、上述した反りに起因する光結合損失の減少は、パッケージの光軸方向と平行方向の長さが長いほど顕著に表れる。したがって、本発明による光モジュールは、とりわけ、パッケージの光軸方向と平行方向の長さにより性能が決まるものである場合に、より高い効果を奏する。例えば、本発明による光モジュールは、光学素子がPPLNやシリコンフォトニクスである場合に、より効果的に光結合損失を抑制することが可能となる。
【0048】
尚、上述の説明では、固定部材109がパッケージ104側に対して凸となるような反りが発生している場合を想定しているが、逆に固定部材109がパッケージ104側に対して凹となる場合も考えられる。そのような場合は、当該凸部に金属等の材料を充填し、凹部の空隙を埋めることによって、補償することが可能である。
【0049】
また、上述の説明では、光モジュール300は、固定部材109に固定される形態として説明されているが、これは例示を意図したものであり、光モジュール300は、固定部材109に固定されずともよい。例えば、光モジュール300は、フランジ308を介して、他の下地(例えば、基板等)に固定されてもよい。
【0050】
さらに、光モジュール300の固定方法は機械締結に限定されず、他の接合方法が適用されてもよい。例えば、フランジ308のノッチ310a-dに対応する位置を接続部とし、当該接続部において他の方法により接合されることにより、光モジュール300が固定されてもよい。当該他の方法は、例えば、スポット溶接、はんだ付、ロウ付等の融接、摩擦攪拌溶接や摩擦圧接等の圧接、拡散接合や焼結接合等であり得る。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上述べた通り、本発明による光モジュールは、固定部材等の下地の反りに起因する光結合損失を効率的に抑制することが可能であり、従来技術よりも安定な動作を提供することができる。このような光モジュールは、光通信等の分野、とりわけ、通信用増幅技術等への適用が見込まれる。
【符号の説明】
【0052】
100、200、300 光モジュール
101 キャリア
102 光学素子
103a-b 内部光学系
104 パッケージ
105a-b 外部光学系
106a-b 光ファイバ
107 キャリア固定部
108、308 フランジ
109 固定部材
110a-f、310a-d ノッチ
500 モデル