(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025102212
(43)【公開日】2025-07-08
(54)【発明の名称】単結晶膜の製造方法及び単結晶膜
(51)【国際特許分類】
C30B 29/16 20060101AFI20250701BHJP
C30B 25/14 20060101ALI20250701BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20250701BHJP
H01L 21/365 20060101ALI20250701BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B25/14
C23C16/40
H01L21/365
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023219535
(22)【出願日】2023-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江間 研太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 公平
(72)【発明者】
【氏名】村上 尚
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB01
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5F045AA03
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5F045AC15
5F045AF09
5F045DP04
5F045DQ08
5F045EF02
5F045EK06
(57)【要約】
【課題】THVPE法を用いたβ-Ga
2O
3からなる単結晶膜の製造方法であって、電気抵抗を増加させずに成膜速度を向上させることのできる技術を用いた単結晶膜の製造方法、及びその製造方法により成膜される単結晶膜を提供する。
【解決手段】Ga原料としてのGaCl
3ガス、O原料としてのO
2ガス、及びIn含有ガスを含む混合ガスに基板10を曝して、Inを含むβ-(Ga
xAl
1-x)
2O
3(0<x≦1)の単結晶膜12を基板10上に成長させる成膜工程を含み、前記β-(Ga
xAl
1-x)
2O
3(0<x≦1)においてx<1である場合には、前記混合ガスがAl原料としてのAlCl
3ガスをさらに含み、前記混合ガスにおけるGaの質量に対するInの質量の割合が0.1質量%以上、20質量%以下である、単結晶膜の製造方法を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ga原料としてのGaCl3ガス、O原料としてのO2ガス、及びIn含有ガスを含む混合ガスに基板を曝して、Inを含むβ-(GaxAl1-x)2O3(0<x≦1)の単結晶膜を前記基板上に成長させる成膜工程を含み、
前記β-(GaxAl1-x)2O3(0<x≦1)においてx<1である場合には、前記混合ガスがAl原料としてのAlCl3ガスをさらに含み、
前記混合ガスにおけるGaの質量に対するInの質量の割合が0.1質量%以上、20質量%以下である、
単結晶膜の製造方法。
【請求項2】
前記In含有ガスがInCl3ガスを含む、
請求項1に記載の単結晶膜の製造方法。
【請求項3】
塩化物ガスが触れる部品がFe、Cr、及びNiを含まない材料からなる気相成長装置を用いて実施される、
請求項1又は2に記載の単結晶膜の製造方法。
【請求項4】
前記混合ガスにおけるGaの質量に対するInの質量の割合が1質量%以上である、
請求項1又は2に記載の単結晶膜の製造方法。
【請求項5】
β-(GaxAl1-x)2O3(0<x≦1)のエピタキシャル単結晶膜であり、
Inの濃度が5×1018cm-3以上、1×1020cm-3未満であり、
Clの濃度が1×1014cm-3以上である、
単結晶膜。
【請求項6】
Feの濃度が6×1014cm-3以下であり、
Crの濃度が2×1014cm-3以下であり、
Niの濃度が2×1015cm-3以下である、
請求項5に記載の単結晶膜。
【請求項7】
Ga原料としてのGaCl3ガス、O原料としてのO2ガス、及びIn含有ガスを含む混合ガスを用いて基板上に成膜され、
前記β-(GaxAl1-x)2O3(0<x≦1)においてx<1である場合には、前記混合ガスがAl原料としてのAlCl3ガスをさらに含む、
請求項5又は6に記載の単結晶膜。
【請求項8】
β-(GaxAl1-x)2O3(0<x≦1)のエピタキシャル単結晶膜であり、
Ga原料としてのGaCl3ガス、O原料としてのO2ガス、及びIn含有ガスを含み、Gaの質量に対するInの質量の割合が0.1質量%以上、20質量%以下である混合ガスを用いて基板上に成膜され、
前記β-(GaxAl1-x)2O3(0<x≦1)においてx<1である場合には、前記混合ガスがAl原料としてのAlCl3ガスをさらに含む、
単結晶膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶膜の製造方法及び単結晶膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HVPE(Halide Vapor Phase Epitaxy)法によるβ-Ga2O3単結晶膜の製造方法が知られている(特許文献1を参照)。特許文献1に記載の方法においては、GaとClを反応させて生成するGaClガスとO2ガスをそれぞれβ-Ga2O3単結晶膜のGa原料とO原料に用いる。
【0003】
また、従来、THVPE(Tri-Halide Vapor Phase Epitaxy)法によるβ-Ga2O3単結晶膜の製造方法が知られている(非特許文献1を参照)。非特許文献1に記載の方法においては、固体のGaCl3をバブリング容器内で気化させて生成するGaCl3ガスとO2ガスをそれぞれβ-Ga2O3単結晶膜のGa原料とO原料に用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kyohei Nitta et, al., “Investigation of high speed β-Ga2O3 growth by solid-source trihalide vapor phase epitaxy”, Japanese Journal of Applied Physics 62, SF1021 (2023).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
HVPE法を用いる特許文献1に記載の方法によれば、原料であるGaClガスとO2ガスの反応が非常に激しいため、両者が気相中で容易に反応してGa2O3の粉体を生成し、それがβ-Ga2O3単結晶膜中に取り込まれて膜の結晶品質を著しく低下させる現象がしばしば発生する。そのため、原料の供給量を増やすことが難しく、成膜速度を上げにくいという問題がある。
【0007】
一方、THVPE法を用いる非特許文献1に記載の方法によれば、GaCl3ガスとO2ガスの反応がGaClガスとO2ガスの反応よりも穏やかであり、Ga2O3の粉体の生成が抑えられるため、成膜速度を上げられる可能性がある。
【0008】
しかしながら、GaCl3ガスを生成するための固体のGaCl3が非常に高い吸湿性を有るために、不可避的に水分を含んでおり、その固体のGaCl3に含まれる水分によって、装置に含まれるステンレス製のバブリング容器や配管が腐食される。その結果、ステンレスに含まれるFe、Cr、Niなどが原料ガスとともに輸送され、β-Ga2O3単結晶膜に大量に混入してしまう。Fe、Cr、NiはGa2O3中で補償アクセプタとなって電子濃度を低下させるため、β-Ga2O3単結晶膜の電気抵抗が高くなる。
【0009】
本発明の目的は、THVPE法を用いたβ-Ga2O3からなる単結晶膜の製造方法であって、電気抵抗を増加させずに成膜速度を向上させることのできる技術を用いた単結晶膜の製造方法、及びその製造方法により成膜される単結晶膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記の単結晶膜の製造方法、及び単結晶膜を提供する。
【0011】
[1]Ga原料としてのGaCl3ガス、O原料としてのO2ガス、及びIn含有ガスを含む混合ガスに基板を曝して、Inを含むβ-(GaxAl1-x)2O3(0<x≦1)の単結晶膜を前記基板上に成長させる成膜工程を含み、前記β-(GaxAl1-x)2O3(0<x≦1)においてx<1である場合には、前記混合ガスがAl原料としてのAlCl3ガスをさらに含み、前記混合ガスにおけるGaの質量に対するInの質量の割合が0.1質量%以上、20質量%以下である、単結晶膜の製造方法。
[2]前記In含有ガスがInCl3ガスを含む、上記[1]に記載の単結晶膜の製造方法。
[3]塩化物ガスが触れる部品がFe、Cr、及びNiを含まない材料からなる気相成長装置を用いて実施される、上記[1]又は[2]に記載の単結晶膜の製造方法。
[4]前記混合ガスにおけるGaの質量に対するInの質量の割合が1質量%以上である、上記[1]又は[2]に記載の単結晶膜の製造方法。
[5]β-(GaxAl1-x)2O3(0<x≦1)のエピタキシャル単結晶膜であり、Inの濃度が5×1018cm-3以上、1×1020cm-3未満であり、Clの濃度が1×1014cm-3以上である、単結晶膜。
[6]Feの濃度が6×1014cm-3以下であり、Crの濃度が2×1014cm-3以下であり、Niの濃度が2×1015cm-3以下である、上記[5]に記載の単結晶膜。
[7]Ga原料としてのGaCl3ガス、O原料としてのO2ガス、及びIn含有ガスを含む混合ガスを用いて基板上に成膜され、前記β-(GaxAl1-x)2O3(0<x≦1)においてx<1である場合には、前記混合ガスがAl原料としてのAlCl3ガスをさらに含む、上記[5]又は[6]に記載の単結晶膜。
[8]β-(GaxAl1-x)2O3(0<x≦1)のエピタキシャル単結晶膜であり、Ga原料としてのGaCl3ガス、O原料としてのO2ガス、及びIn含有ガスを含み、Gaの質量に対するInの質量の割合が0.1質量%以上、20質量%以下である混合ガスを用いて基板上に成膜され、前記β-(GaxAl1-x)2O3(0<x≦1)においてx<1である場合には、前記混合ガスがAl原料としてのAlCl3ガスをさらに含む、単結晶膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、THVPE法を用いたβ-Ga2O3からなる単結晶膜の製造方法であって、電気抵抗を増加させずに成膜速度を向上させることのできる技術を用いた単結晶膜の製造方法、及びその製造方法により成膜される単結晶膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る結晶積層構造体の垂直断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る気相成長装置の構成を概略的に示す垂直断面図である。
【
図3】
図3は、実証実験により求めた、β-Ga
2O
3からなる単結晶膜へのInの添加量と成膜速度との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した、Inを10質量%添加したβ-Ga
2O
3からなる単結晶膜中の不純物濃度及びGaの二次イオン強度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(結晶積層構造体の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る結晶積層構造体1の垂直断面図である。結晶積層構造体1は、基板10と、基板10の主面11上にエピタキシャル結晶成長により形成された単結晶膜12を有する。
【0015】
単結晶膜12は、β型の結晶構造を有するGa2O3、すなわちβ-Ga2O3の単結晶からなる膜である。単結晶膜12は、Si、Sn等のドーパントを含んでもよい。
【0016】
単結晶膜12は、THVPE法により成膜される。THVPE法は、HVPE法を発展させた結晶成長方法であり、Gaのハライド化合物であるGaClの代わりにGaのトリハライド化合物であるGaCl3を用いる点において、HVPE法と異なる。単結晶膜12は、Ga原料としてのGaCl3ガス、O原料としてのO2ガス、及びInCl3ガスなどのIn含有ガスを含む混合ガスに基板10を曝すことにより、基板10の主面11上に成長する。
【0017】
単結晶膜12の成膜においては、THVPE法による成膜速度を増加させるために、上記の混合ガスにおけるGaの質量に対するInの質量の割合が0.1質量%以上、20質量%以下に設定され、その結果、単結晶膜12は、5×1017cm-3以上、1×1020cm-3未満のInを含む。より好ましくは、上記の混合ガスにおけるGaの質量に対するInの質量の割合が1質量%以上、20質量%以下に設定され、その結果、単結晶膜12は、5×1018cm-3以上、1×1020cm-3未満のInを含む。InはGa2O3中で電気的に中性であり、ドーパントとして働かないため、単結晶膜12の電気抵抗にほとんど影響を及ぼさない。単結晶膜12へInの添加についての詳細は後述する。
【0018】
なお、一般的に、Ga2O3結晶のバンドギャップの低減を目的としてInを添加する場合があるが、この目的では1×1020cm-3未満のInを添加してもほとんど効果が得られないため、より高濃度のInが添加される。
【0019】
また、THVPE法ではClが含まれるGaCl3ガスを原料ガスとして用いるため、単結晶膜12は、1×1014cm-3以上の濃度のClを含む。
【0020】
また、後述するように、Ga2O3中で補償アクセプタとして働くFe、Cr、及びNiの単結晶膜12への混入が抑制されるため、単結晶膜12は、GaClガス、GaCl3ガス、InClガス、InCl3ガスなどの塩化物ガスが触れる部分がFe、Cr、Niを含まない材料からなる気相成長装置を用いて成膜されることが好ましい。塩化物は吸湿性が高く、装置を腐食させやすい。腐食した部分がFe、Cr、Niを含む場合、Fe、Cr、Niが流出して単結晶膜12に混入するおそれがある。なお、Fe、Cr、及びNiを含まないとは、意図的に含まないことを意味し、極微量のFe、Cr、Niのいずれか1つ又は複数が不可避的に含まれる場合も含む。その場合、例えば、単結晶膜12中のFeの濃度は6×1014cm-3以下、Crの濃度は2×1014cm-3以下、Niの濃度は2×1015cm-3以下に抑えられる。
【0021】
基板10は、サファイア基板、β-Ga2O3の単結晶からなるβ-Ga2O3基板などの、単結晶膜12のエピタキシャル成長の下地基板として用いることのできる基板である。基板10は、表面にバッファ層を有するものであってもよい。また、基板10は、ドーパントを含んでいてもよい。
【0022】
(気相成長装置の構造)
以下に、本実施の形態に係る単結晶膜12の成長に用いる気相成長装置の構造の一例について説明する。
【0023】
図2は、本発明の実施の形態に係る気相成長装置2の構成を概略的に示す垂直断面図である。気相成長装置2は、THVPE(Tri-Halide Vapor Phase Epitaxy)法用の気相成長装置であり、第1のガス導入ポート21、第2のガス導入ポート22、第3のガス導入ポート23、及び第4のガス導入ポート24を有する反応炉20と、反応炉20に収容されたGa原料ガス生成用の第1のチャンバー25及び第2のチャンバー26、並びに基板保持具27と、反応炉20の周囲に設置され、反応炉20内の所定の領域を加熱する第1の加熱手段29a及び第2の加熱手段29bを備える。第1のチャンバー25と第2のチャンバー26は連通している。
【0024】
気相成長装置2は、単結晶膜12のGa原料ガスであるGaCl3ガスを第1のチャンバー25における化学反応と第2のチャンバー26における化学反応によって生成する、二段階反応型のTHVPE法用の装置である。
【0025】
気相成長装置2においては、Ga2O3中で補償アクセプタとなるFe、Cr、Niの単結晶膜12への混入を抑えるため、前記塩化物ガスと接触するおそれのある部品はFe、Cr、Niを含まない材料からなることが好ましい。例えば、反応炉20、第1のチャンバー25、第2のチャンバー26、基板保持具27、及び第1のチャンバー25内に設置される原料容器28は、石英ガラスからなる。一方で、第1のガス導入ポート21、第2のガス導入ポート22、第3のガス導入ポート23を含む、反応炉20、第2のチャンバー26、第1のチャンバー25に接続された配管は、前記塩化物ガスと接触しないため、必ずしもFe、Cr、Niを含まない材料からなることが好ましいわけではない。
【0026】
第1のガス導入ポート21は、Cl2ガスをキャリアガスとしてのN2ガス、Arガスなどの不活性ガスとともに第1のチャンバー25内に流入させるために用いられる。
【0027】
第2のガス導入ポート22は、Cl2ガスをキャリアガスとしてのN2ガス、Arガスなどの不活性ガスとともに第2のチャンバー26内に流入させるために用いられる。
【0028】
第3のガス導入ポート23は、O2ガスをキャリアガスとしてのN2ガス、Arガスなどの不活性ガスとともに反応炉20内に流入させるために用いられる。
【0029】
第4のガス導入ポート24は、キャリアガスとしてのN2ガス、Arガスなどの不活性ガスを反応炉20内に流入させるために用いられる。また、単結晶膜12にSiなどのドーパントを添加する場合には、SiCl4などのドーパント原料ガスを第4のガス導入ポート24から反応炉20内に流入させる。
【0030】
基板保持具27は、例えば、板状の石英ガラスからなる部品である。原料容器28は、例えば、石英ガラスからなるボートであり、GaCl3ガスを生成するための金属Gaに加えて、金属Inが収容される。原料容器28は、第1のチャンバー内に設置される。
【0031】
第1の加熱手段29aと第2の加熱手段29bは、例えば、反応炉20内の第1のチャンバー25及び第2のチャンバー26が設置された領域(以下、Ga原料生成領域と呼ぶ)と基板10が保持された基板保持具27が設置された領域(以下、結晶成長領域と呼ぶ)をそれぞれ加熱することができる。第1の加熱手段29aと第2の加熱手段29bは、例えば、抵抗加熱式や輻射加熱式の加熱装置である。
【0032】
(単結晶膜の製造)
以下に、本実施の形態に係る単結晶膜12の製造方法の一例について説明する。
【0033】
まず、第1の加熱手段29aを用いて反応炉20のGa原料生成領域の雰囲気温度を所定の温度、例えば500~900℃に保った状態で、第1のガス導入ポート21から第1のチャンバー25内にキャリアガスを用いてCl2ガスを導入し、原料容器28内の金属GaとCl2ガスを反応させ、GaClガスを生成する。また、このとき、導入されたCl2ガスと金属Inが反応して、InClガスが生成される。
【0034】
なお、金属GaとCl2ガスの反応から、GaClガス以外の塩化ガリウム系ガスであるGaCl2ガス、GaCl3ガス、及び(GaCl3)2ガスも生成されるが、これらの塩化ガリウム系ガスのうちでGaClガスの分圧が圧倒的に高い。
【0035】
次に、第2のガス導入ポート22から第2のチャンバー26内にキャリアガスを用いてCl2ガスを導入し、第1のチャンバー25で生成されて第2のチャンバー26に送られたGaClガスと反応させて、GaCl3ガスを生成する。また、このとき、導入されたCl2ガスと第1のチャンバー25で生成されて第2のチャンバー26に送られたInClガスが反応して、InCl3ガスが生成される。
【0036】
次に、第2の加熱手段29bを用いて反応炉20の結晶成長領域の雰囲気温度を所定の温度、例えば800~1100℃に保った状態で、第3のガス導入ポート23から反応炉20内にキャリアガスを用いてO2ガスを導入し、導入したO2ガスと第2のチャンバー26で生成されたGaCl3ガス及びInCl3ガスとを結晶成長領域において混合させる。そして、その混合ガスに基板10を曝し、基板10の主面11上に単結晶膜12をエピタキシャル成長させる。以下、この工程を成膜工程と呼ぶ。
【0037】
成膜工程においては、例えば、GaCl3ガスの供給分圧は1.0×10―3~4.0×10-3atm、O2ガスの供給分圧のGaCl3ガスの供給分圧に対する比の値(VI/III比)は1~500に設定される。
【0038】
Si等のドーパントを単結晶膜12に添加する場合には、成膜工程において、添加元素の原料ガス(例えば、四塩化ケイ素(SiCl4)等の塩化物系ガス)を第4のガス導入ポート24から反応炉20の結晶成長領域に導入する。
【0039】
成膜工程において、単結晶膜12は、成長しながらInCl3ガスに含まれるInを取り込む。そして、Inが触媒として作用することにより、単結晶膜12の成膜速度が向上する。Inの単結晶膜12への添加量は、原料容器28内に配置する金属Inの量によって制御することができる。
【0040】
(In添加の効果)
本発明者らは、当初、装置の腐食に起因するFe、Cr、Niのβ-Ga2O3単結晶膜への混入という、固体GaCl3をGaCl3ガスの生成に用いる上記非特許文献1に記載のTHVPE法の問題点を解消するべく、GaCl3ガスが触れる原料容器や流路をFe、Cr、Niを含まない石英ガラスとポリテトラフルオロエチレンで形成したTHVPE装置を構築し、β-Ga2O3単結晶膜の成膜を試みた。
【0041】
すると、Fe、Cr、Niのβ-Ga2O3単結晶膜への混入は抑えられたものの、従来のTHVPE装置を用いた場合には10μm/h以上であったβ-Ga2O3単結晶膜の成膜速度が、0.1μm/h未満へと大きく減少し、原料供給量を幾ら増やしても気相中で粉体が生成されるのみで成膜速度の改善はみられなかった。
【0042】
この結果から、本発明者らは、従来のTHVPE装置を用いた場合に意図せずに混入していたFe、Cr、Niなどの金属不純物が何らかの触媒として機能し、β-Ga2O3単結晶膜の成膜速度を向上させていることに想到した。
【0043】
そこで、本発明者らは、Ga2O3中で電気的に中性であり、補償アクセプタとして働くことのない元素を触媒として用いることを試み、Inを用いることでβ-Ga2O3単結晶膜の成長測度が向上することを見出した。
【0044】
図3は、実証実験により求めた、β-Ga
2O
3からなる単結晶膜12へのInの添加量と成膜速度との関係を示すグラフである。この実験では、GaClガス、GaCl
3ガス、InClガス、InCl
3ガスなどの塩化物ガスが触れる部分がFe、Cr、Niを含まない材料からなる気相成長装置2を用いて、上記の方法により、β-Ga
2O
3からなる基板10上に単結晶膜12を成膜した。以下に示すInの添加量(質量%)は、単結晶膜12の成膜に用いられるGaCl
3ガス、O
2ガス、及びIn含有ガスを含む混合ガスにおける、Gaの質量に対するInの質量の割合である。
【0045】
最初に、Inを添加せずに単結晶膜12を成膜したところ、成膜速度は2.6μm/hであった。次に、Inを1質量%添加して単結晶膜12を成膜したところ、成膜速度は4.6μm/hに増加した。さらに、Inを10質量%添加して単結晶膜12を成膜したところ、成膜速度は5.7μm/hに増加した。これら3種の単結晶膜12(試料Aとする)の成膜条件は、Inの添加量以外は同一とした。
【0046】
次に、Inを10質量%添加し、さらにClガスとO2ガスの供給量を2倍に増やして単結晶膜12(試料Bとする)を成膜したところ、成膜速度は8.7μm/hに増加した。なお、上記の4種の単結晶膜12のいずれにも、粉体の取り込みなどの目立った不具合は見られなかった。
【0047】
図4は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した、Inを10質量%添加した単結晶膜12中の不純物濃度及びGaの二次イオン強度を表すグラフである。図中の「In:BGレベル」、「Fe:BGレベル」、「Cr:BGレベル」、「Ni:BGレベル」は、それぞれIn、Fe、Cr、Niのバックグラウンドレベル(検出限界)を示している。
【0048】
図4によれば、Inがおよそ5×10
19cm
-3の濃度で単結晶膜12に含まれている。また、単結晶膜12中で補償アクセプタとして働くFe、Cr、Niの濃度はそれぞれ6×10
14cm
-3以下、2×10
14cm
-3以下、2×10
15cm
-3以下であり、十分に混入が抑えられている。なお、深さ0μmの近傍で各不純物の濃度が高くなっているのは、表面吸着物の影響によるものである。
【0049】
単結晶膜12へのInの添加量は、少なすぎると、添加量の制御が困難になるため、0.1質量%以上であることが好ましい。この場合、Inがおよそ5×10
17cm
-3以上の濃度で単結晶膜12に含まれることが、
図4の測定結果から推測される。
【0050】
また、
図3の測定結果は、Inの添加量が少なくとも1質量%以上であれば、効果的に単結晶膜12の成膜速度が向上することを示している。このため、単結晶膜12へのInの添加量は1質量%以上であることがより好ましく、この場合、Inがおよそ5×10
18cm
-3以上の濃度で単結晶膜12に含まれることが、
図4の測定結果から推測される。
【0051】
また、単結晶膜12へのInの添加量は、多すぎると、結晶欠陥の発生のおそれが生じるほど単結晶膜12の格子定数の変化が大きくなるため、20質量%未満であることが好ましい。この場合、Inがおよそ1×10
20cm
-3未満の濃度で単結晶膜12に含まれることが、
図4の測定結果から推測される。
【0052】
(実施の形態の効果)
上記本発明の実施の形態によれば、THVPE法によるβ-Ga2O3からなる単結晶膜12の成膜において、Ga2O3中で中性であり、かつ触媒として働く微量のInを添加しつつ単結晶膜12を成長させることにより、電気抵抗を増加させずに成膜速度を向上させることができる。
【0053】
さらに、単結晶膜12のGa原料であるGaCl3ガスなどの塩化物ガスが触れる部品がFe、Cr、Niを含まない材料からなる気相成長装置2を用いることにより、電気抵抗を増加させるFe、Cr、Niの単結晶膜12への混入を抑えることができる。その結果、より電気抵抗の低い単結晶膜12を高い成膜速度で成膜することができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0055】
例えば、単結晶膜12を成膜するためのGaCl3ガスとInCl3ガスを、固体のGaCl3と固体のInCl3をバブリング容器内で気化させることにより生成してもよい。なお、この場合、GaCl3とInCl3の蒸気圧が大きく異なるため、GaCl3ガスとInCl3ガスを別のバブリング容器内でそれぞれ生成する必要がある。
【0056】
また、単結晶膜12として、Ga2O3だけでなく、Ga2O3のGaの一部をAlで置換した(GaxAl1-x)2O3(0<x<1)の単結晶膜を製造することもできる。すなわち、単結晶膜12として、(GaxAl1-x)2O3(0<x≦1)の単結晶膜を製造することができる。Gaの一部をAlで置換した(GaxAl1-x)2O3(0<x<1)の単結晶膜を製造する場合は、単結晶膜12の成膜に、GaCl3ガス、O2ガス、In含有ガスに加えてAlCl3ガスを用いる。なお、AlCl3ガスは、GaCl3ガスやInCl3ガスと異なり、一塩化物の生成を経ずに、例えばバブリング容器内での固体のAlCl3の気化により、一段階で生成される必要がある。これは、AlClが石英と激しく反応し、反応炉20内の石英ガラスからなる部分を浸食するためである。
【0057】
また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0058】
1…結晶積層構造体、 10…基板、 11…主面、 12…単結晶膜、 2…気相成長装置、 20…反応炉、 21…第1のガス導入ポート、 22…第2のガス導入ポート、 23…第3のガス導入ポート、 24…第4のガス導入ポート、 25…第1のチャンバー、 26…第2のチャンバー、 27…基板保持具、 28…原料容器、 29a…第1の加熱手段、 29b…第2の加熱手段