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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025103224
(43)【公開日】2025-07-09
(54)【発明の名称】メタクリル酸製造用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/00 20060101AFI20250702BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20250702BHJP
   B01J 27/199 20060101ALI20250702BHJP
   C07C 51/235 20060101ALI20250702BHJP
   C07C 57/055 20060101ALI20250702BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250702BHJP
【FI】
B01J37/00 D
B01J37/08
B01J27/199 Z
C07C51/235
C07C57/055 A
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023220447
(22)【出願日】2023-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 和晃
(72)【発明者】
【氏名】須安 範明
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169BB07A
4G169BB07B
4G169BC06A
4G169BC06B
4G169BC25A
4G169BC26A
4G169BC26B
4G169BC27A
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC32A
4G169BC42A
4G169BC43A
4G169BC54A
4G169BC54B
4G169BC59A
4G169BC59B
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BD03A
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169CB17
4G169CB74
4G169DA06
4G169EA02Y
4G169EB14Y
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169FA01
4G169FB06
4G169FB09
4G169FB30
4G169FB31
4G169FB65
4G169FB78
4G169FC07
4G169FC08
4H006AA02
4H006AC46
4H006BA04
4H006BA05
4H006BA08
4H006BA12
4H006BA13
4H006BA14
4H006BA18
4H006BA30
4H006BA31
4H006BA35
4H006BA81
4H006BS10
4H039CA65
4H039CC10
(57)【要約】
【課題】製造効率をより向上させることができ、製造コストをより低減することができるメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【解決手段】下記工程を含む、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
工程(1)少なくともモリブデン、リン、銅、バナジウム、セシウムを含む第1のヘテロポリ酸化合物粒子を含有する第1のスラリーを調製する工程
工程(2)第1のスラリーについて湿式粉砕処理を行うことにより、レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、メジアン径が0.50~8.0μmであり、かつ粒子径が10μm以下であるヘテロポリ酸化合物粒子の割合が65%以上である第2のヘテロポリ酸化合物粒子を含有する第2のスラリーを調製する工程
工程(3)第2のスラリーを乾燥処理して得た第2のヘテロポリ酸化合物粒子を含む乾燥体を混練し、押出成形して成形体を得る工程
工程(4)成形体を焼成して、メタクリル酸製造用触媒を得る工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)~(4)を含む、ヘテロポリ酸化合物粒子を含有するメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
[工程(1)]少なくともモリブデン、リン、銅、バナジウム、セシウムを含む第1のヘテロポリ酸化合物粒子を含有する第1のスラリーを調製する工程
[工程(2)]前記第1のスラリーについて湿式粉砕処理を行うことにより、レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、メジアン径(D50)が0.50~8.0μmであり、かつ粒子径が10μm以下であるヘテロポリ酸化合物粒子の割合が65%以上である第2のヘテロポリ酸化合物粒子を含有する第2のスラリーを調製する工程
[工程(3)]前記第2のスラリーを乾燥処理して得た前記第2のヘテロポリ酸化合物粒子を含む乾燥体を混練し、押出成形して成形体を得る工程
[工程(4)]前記成形体を焼成して、メタクリル酸製造用触媒を得る工程
【請求項2】
レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、前記第2のスラリーが含有する前記第2のヘテロポリ酸化合物粒子の10%粒子径(D10)が0.30μm以上1.8μm以下である、請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、前記第2のスラリーが含有する前記第2のヘテロポリ酸化合物粒子の90%粒子径(D90)が2.0μm以上17μm以下である、請求項1または2に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記湿式粉砕処理が、0℃以上80℃以下の温度で行われる、請求項1または2に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記工程(4)が、前記成形体を酸化性ガス雰囲気下にて360℃~410℃で焼成し、次いで、非酸化性ガス雰囲気下にて420℃~500℃で焼成する工程である、請求項1または2に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項6】
前記第1のヘテロポリ酸化合物粒子および前記第2のヘテロポリ酸化合物粒子に含まれるヘテロポリ酸化合物が、下記式(I):

MoCuCs (I)

(式(I)中、Pはリン原子を表し、Moはモリブデン原子を表し、Cuは銅原子を表し、Vはバナジウム原子を表し、Csはセシウム原子を表し、Oは酸素原子を表し、
Yは、ヒ素原子、アンチモン原子、ホウ素原子、銀原子、ビスマス原子、鉄原子、コバルト原子、ランタン原子およびセリウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を表し、
a~fは、bを12とした場合に、1.2≦a≦1.8、0.01≦c≦0.4、0.4≦d≦0.6、1.2≦e≦1.8、0.4≦f≦0.6という条件を満たす値を表し、xは各原子の酸化状態により定まる値を表し、fはYが2種以上の原子である場合には該2種以上の原子の合計比率を表す。)
で表されるヘテロポリ酸の部分中和塩である、請求項1または2に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法により製造されたメタクリル酸製造用触媒に、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタンおよびイソ酪酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を接触させることにより、気相接触酸化反応に供してメタクリル酸を得る工程を含む、メタクリル酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸製造用触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メタクロレインなどの気相接触酸化反応によりメタクリル酸を製造する際に用いる触媒としては、リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸ならびにその塩が有効であることが知られている。このような触媒は、通常、触媒の原料を含む水性混合物を乾燥した後、焼成することにより製造されている(特許文献1参照。)。
【0003】
具体的には、特許文献1には、より高い反応活性、選択性、触媒強度と長い触媒寿命を合わせもつ触媒を提供することを目的として、触媒前駆体であるドーソン型のヘテロポリ酸塩の調製工程を改良したメタクリル酸製造用触媒の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-185354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に代表される従来のメタクリル酸製造用触媒の製造方法によれば、所定の工程に起因してメタクリル酸製造用触媒の製造効率が低下してしまう場合があった。
【0006】
よって、製造効率をより向上させることができ、ひいては製造コストをより低減することができるメタクリル酸製造用触媒の製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、メタクリル酸製造用触媒の製造方法において所定の工程を実施することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記〔1〕~〔7〕を提供する。
〔1〕 下記工程(1)~(4)を含む、ヘテロポリ酸化合物粒子を含有するメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
[工程(1)]少なくともモリブデン、リン、銅、バナジウム、セシウムを含む第1のヘテロポリ酸化合物粒子を含有する第1のスラリーを調製する工程
[工程(2)]前記第1のスラリーについて湿式粉砕処理を行うことにより、レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、メジアン径(D50)が0.50~8.0μmであり、かつ粒子径が10μm以下であるヘテロポリ酸化合物粒子の割合が65%以上である第2のヘテロポリ酸化合物粒子を含有する第2のスラリーを調製する工程
[工程(3)]前記第2のスラリーを乾燥処理して得た前記第2のヘテロポリ酸化合物粒子を含む乾燥体を混練し、押出成形して成形体を得る工程
[工程(4)]前記成形体を焼成して、メタクリル酸製造用触媒を得る工程
〔2〕 レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、前記第2のスラリーが含有する前記第2のヘテロポリ酸化合物粒子の10%粒子径(D10)が0.30μm以上1.8μm以下である、〔1〕に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
〔3〕 レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、前記第2のスラリーが含有する前記第2のヘテロポリ酸化合物粒子の90%粒子径(D90)が2.0μm以上17μm以下である、〔1〕または〔2〕に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
〔4〕 前記湿式粉砕処理が、0℃以上80℃以下の温度で行われる、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
〔5〕 前記工程(4)が、前記成形体を酸化性ガス雰囲気下にて360℃~410℃で焼成し、次いで、非酸化性ガス雰囲気下にて420℃~500℃で焼成する工程である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
〔6〕 前記第1のヘテロポリ酸化合物粒子および前記第2のヘテロポリ酸化合物粒子に含まれるヘテロポリ酸化合物が、下記式(I):

MoCuCs (I)

(式(I)中、Pはリン原子を表し、Moはモリブデン原子を表し、Cuは銅原子を表し、Vはバナジウム原子を表し、Csはセシウム原子を表し、Oは酸素原子を表し、
Yは、ヒ素原子、アンチモン原子、ホウ素原子、銀原子、ビスマス原子、鉄原子、コバルト原子、ランタン原子およびセリウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を表し、
a~fは、bを12とした場合に、1.2≦a≦1.8、0.01≦c≦0.4、0.4≦d≦0.6、1.2≦e≦1.8、0.4≦f≦0.6という条件を満たす値を表し、xは各原子の酸化状態により定まる値を表し、fはYが2種以上の原子である場合には該2種以上の原子の合計比率を表す。)
で表されるヘテロポリ酸の部分中和塩である、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
〔7〕 〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法により製造されたメタクリル酸製造用触媒に、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタンおよびイソ酪酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を接触させることにより、気相接触酸化反応に供してメタクリル酸を得る工程を含む、メタクリル酸の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、メタクリル酸製造用触媒の製造効率をより向上させることができ、さらには製造コストをより低減することができるメタクリル酸製造用触媒の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明にかかる実施形態について具体的に説明する。本発明は、以下に示される具体的な実施形態に限定されない。
【0011】
1.メタクリル酸製造用触媒の製造方法
本実施形態にかかるメタクリル酸製造用触媒の製造方法(以下、単に「製造方法」という場合がある。)は、
下記工程(1)~(4)を含む、ヘテロポリ酸化合物粒子を含有するメタクリル酸製造用触媒の製造方法である。
[工程(1)]少なくともモリブデン、リン、銅、バナジウム、セシウムを含む第1のヘテロポリ酸化合物粒子を含有する第1のスラリーを調製する工程
[工程(2)]前記第1のスラリーについて湿式粉砕処理を行うことにより、レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、メジアン径(D50)が0.50~8.0μmであり、かつ粒子径が10μm以下であるヘテロポリ酸化合物粒子の割合が65%以上である第2のヘテロポリ酸化合物粒子を含有する第2のスラリーを調製する工程
[工程(3)]前記第2のスラリーを乾燥させて得た固体状の前記第2のヘテロポリ酸化合物粒子を含む成形体を、押出成形することにより形成する工程
[工程(4)]前記成形体を焼成して、メタクリル酸製造用触媒を得る工程
【0012】
以下、本実施形態のメタクリル酸製造用触媒の製造方法にかかる上記工程(1)~(4)について具体的に説明する。
【0013】
(1)[工程(1)](少なくともモリブデン、リン、銅、バナジウム、セシウムを含む第1のヘテロポリ酸化合物粒子を含有する第1のスラリーを調製する工程)
工程(1)は、第1のヘテロポリ酸化合物粒子を含有する第1のスラリーを調製する工程である。
【0014】
本実施形態にかかる製造方法の工程(1)において調製される第1のスラリーは、少なくともモリブデン、リン、銅、バナジウム、セシウムを含む第1のヘテロポリ酸化合物粒子を含有している。
【0015】
工程(1)においては、まず、メタクリル酸製造用触媒が含有するヘテロポリ酸化合物粒子に含まれうる元素を含有する化合物、すなわち原料化合物の混合物が用意される。
【0016】
原料化合物の例としては、少なくともモリブデン、リン、銅、バナジウム、セシウム及び許容される他の元素(詳細については後述する。)を含むオキソ酸、オキソ酸塩、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、およびハロゲン化物が挙げられる。
【0017】
本実施形態において、元素としてモリブデンを含有する化合物としては、例えば、モリブデン酸、モリブデン酸塩(七モリブデン酸六アンモニウム4水和物)、酸化モリブデン、および塩化モリブデンが挙げられる。元素としてリンを含有する化合物としては、例えば、リン酸(オルトリン酸)、リン酸塩が挙げられる。元素として銅を含有する化合物としては、例えば、酸化第一銅、酸化第二銅、過酸化銅、硝酸銅、塩基性炭酸銅、水酸化銅およびハロゲン化銅が挙げられる。元素としてバナジウムを含有する化合物としては、例えば、バナジン酸、バナジン酸塩(メタバナジン酸アンモニウム)、酸化バナジウム、および塩化バナジウムが挙げられる。元素としてセシウムを含有する化合物としては、例えば、酸化セシウム、過酸化セシウム、超酸化セシウム、硝酸セシウム、炭酸セシウム、水酸化セシウム、およびハロゲン化セシウムが挙げられる。
【0018】
本実施形態において、「他の元素」を含有する化合物としては、例えば、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、オキソ酸、オキソ酸塩、およびハロゲン化物が挙げられる。
【0019】
本実施形態において「ハロゲン化物」という場合には、腐食性の観点から、塩化物、臭化物、ヨウ化物であることが好ましく、より具体的には、塩化セシウム、臭化セシウムおよびヨウ化セシウムであることが好ましい。
【0020】
工程(1)においては、上記の原料化合物の混合物を用いて、メタクリル酸製造用触媒を製造するための第1のスラリーが調製される。
【0021】
具体的には、原料化合物を水(例、イオン交換水)と混合して溶解させた水溶液とするか、または原料化合物を混合、懸濁させた液を混合物として調製し、さらに従来公知の任意好適な温度および時間にて熟成させることにより、少なくともモリブデン、リン、銅、バナジウム、セシウムを含む第1のヘテロポリ酸化合物粒子を含有する第1のスラリーを得る。
【0022】
工程(1)における熟成温度は特に限定されない。工程(1)における熟成温度は、通常30℃以上200℃未満であり、好ましくは100℃以上140℃未満である。
【0023】
工程(1)において、第1のスラリーを得るための混合物である水溶液、混合液、懸濁液を調製するにあたり、アンモニア、アンモニウム塩をさらに添加して、アンモニア、アンモニウム塩を含む水溶液、混合液、懸濁液とすることが好ましい。
【0024】
また、工程(1)において、第1のスラリーを得るための混合物である水溶液、混合液、懸濁液を調製するにあたり、アンモニア、アンモニウム塩を添加する代わりに、少なくともモリブデン、リン、銅、バナジウム、セシウムを含む原料化合物のうちの少なくとも1種として、アンモニウム化合物を用いてもよい。このようにアンモニウム化合物を用いれば、例えば、非ケギン型ヘテロポリ酸塩を含む第1のヘテロポリ酸化合物粒子を含有する第1のスラリーを得ることができる。
【0025】
ここで、工程(1)により得ることができる第1のヘテロポリ酸化合物粒子は、レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、メジアン径(D50)が、5μm以上200μm以下であることが好ましく、8μm以上150μm以下であることがより好ましい。
【0026】
工程(1)により得ることができる第1のヘテロポリ酸化合物粒子の粒子径については、レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、第1のスラリーが含有する第1のヘテロポリ酸化合物粒子の10%粒子径(D10)は、1.6μm以上50μm以下であることが好ましく、2.0μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0027】
工程(1)により得ることができる第1のヘテロポリ酸化合物粒子の粒子径については、レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、第1のスラリーが含有する第1のヘテロポリ酸化合物粒子の90%粒子径(D90)は、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上300μm以下であることがより好ましい。
【0028】
(2)[工程(2)](第1のスラリーについて湿式粉砕処理を行うことにより、レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、メジアン径(D50)が0.50~8.0μmであり、かつ粒子径が10μm以下であるヘテロポリ酸化合物粒子の割合が65%以上である第2のヘテロポリ酸化合物粒子を含有する第2のスラリーを調製する工程)
工程(2)においては、工程(1)により調製された第1のスラリーに対して湿式粉砕処理を行う。
【0029】
具体的には、湿式粉砕処理により、第1のスラリーに含まれる第1のヘテロポリ酸化合物粒子を、レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、メジアン径(D50)が0.50~8.0μmであり、かつ粒子径が10μm以下であるヘテロポリ酸化合物粒子の割合が65%以上である第2のヘテロポリ酸化合物粒子を含む第2のスラリーを得る。
【0030】
ここで、湿式粉砕処理としては、解砕処理、分散処理を含む従来公知の任意好適な処理とすることができる。湿式粉砕処理としては、具体的には例えば、ホモミキサー(例、ULTRA-DISPERSER LK-41)、ボールミル、ビーズミル、およびダイノーミルを用いて実施することができる。
【0031】
湿式粉砕処理の条件は、例えばホモミキサーを用いる場合には、第2のスラリーに含まれる第2のヘテロポリ酸化合物粒子の粒径をより小さくして押出性を向上させる観点から、具体的には、処理時間を30秒以上とすることが好ましい。粉砕処理後に第2のスラリーに含まれる第2のヘテロポリ酸化合物粒子の粒子径(メジアン径、10%粒子径および90%粒子径)をより小さくして好ましい粒径の範囲に調整するために、処理時間を延長してもよく、さらには実施回数を増やしてもよい。溶媒成分の揮発を防止する観点、および、スラリーの凍結を避ける観点からスラリーの温度は0℃以上80℃以下とすることが好ましく、0℃以上40℃以下とすることがより好ましい。
【0032】
本実施形態において、工程(2)にかかる湿式粉砕処理は、選択された機器の耐久性の観点、および、スラリーの凍結を避ける観点から0℃以上80℃以下の温度で行うことが好ましく、機器の損耗を抑制する観点から0℃以上50℃以下の温度で行うことがより好ましく、機器の材質の制約の観点から0℃以上40℃以下の温度で行うことがさらに好ましい。また、所定の粒径の第2のヘテロポリ酸化合物粒子を含む第2のスラリーを得るために湿式粉砕処理にかかる処理時間は適宜調整することができる。具体的には例えば、湿式粉砕処理後のヘテロポリ酸化合物粒子の粒子径(メジアン径、10%粒子径および90%粒子径)を好ましい粒子径の範囲に調整するために、湿式粉砕処理にかかる時間を延長してもよく、さらには実施回数を増やしてもよい。具体的には、ダイノーミルを用いて湿式粉砕処理を実施する場合には、第1のスラリーの供給速度をより遅くすることにより湿式粉砕処理にかかる処理時間を延長することができ、湿式粉砕処理後のスラリーについて再度粉砕処理を実施することにより処理回数を増加させることができる。また、第1のスラリーを予め水や溶剤で希釈した後に湿式粉砕処理を実施してもよい。
【0033】
本実施形態において、「第2のヘテロポリ酸化合物粒子の粒子径(メジアン径(D50)、10%粒子径(D10)、90%粒子径(D90))」、さらには「粒子径が10μm以下であるヘテロポリ酸化合物粒子の割合」は、常法に従うレーザー回折散乱法により測定することができる。第2のヘテロポリ酸化合物粒子の粒子径の測定、すなわちレーザー回折式粒度分布測定は、従来公知の任意好適な測定装置を用いる従来公知の任意好適な条件にて実施し、体積基準で換算して得られた値を用いることができる。粒子径(所定の粒子径を有する粒子の割合)を測定することができる機器としては、具体的には例えば、日機装社製「マイクロトラック」、堀場製作所社製「LA」、シーラス社製「CILAS」、マルバーン社製「マスターサイザー」、ベックマン・コールター社製「LS」が挙げられる。
【0034】
本実施形態において、湿式粉砕処理により得ることができる第2のヘテロポリ酸化合物粒子は、レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、メジアン径(D50)が、押出性を向上させる観点から、0.50~8.0μmであることが好ましく、0.50~7.2μmであることがより好ましく、1.3~7.2μmであることがさらに好ましく、かつ粒子径が10μm以下であるヘテロポリ酸化合物粒子の割合が65%以上であることが好ましく、70%~100%であることがより好ましい。
【0035】
湿式粉砕処理により得ることができる第2のヘテロポリ酸化合物粒子の粒子径において、レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、第2のスラリーが含有する第2のヘテロポリ酸化合物粒子の10%粒子径(D10)は、押出性をより向上させる観点から、0.30μm以上1.8μm以下であることが好ましく、0.6μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。
【0036】
湿式粉砕処理により得ることができる第2のヘテロポリ酸化合物粒子の粒子径において、レーザー回折式粒度分布測定を行って体積基準で換算したときに、第2のスラリーが含有する第2のヘテロポリ酸化合物粒子の90%粒子径(D90)は、押出性をより向上させる観点から、2.0μm以上17μm以下であることが好ましく、2.6μm以上15.2μm以下であることがより好ましい。
【0037】
湿式粉砕処理の条件は、例えばホモミキサーを用いる場合には、選択された機器の性能にも鑑みて、具体的には、0℃以上80℃以下の温度とすることが好ましく、0℃以上65℃以下の温度とすることがより好ましく、好適な処理時間、処理回数を考慮して行うことが好ましい。粒子径(メジアン径、10%粒子径および90%粒子径)を上記の範囲に調整し、かつ粒子径が10μm以下であるヘテロポリ酸化合物粒子の割合を65%以上とするにあたっては、例えば、30秒以上、600秒以下の処理時間にて実施することが好ましいが、処理後の粒子径が大きすぎる場合には、粒子径を既に説明した好適な範囲内に調整するために処理回数の増加をさせることを目的として再度、湿式粉砕処理を実施することが好ましい。再度の湿式粉砕処理を実施後に、再度、粒子径を測定することにより好ましい粒子径の範囲内にあるかを確認し、好ましい範囲内にない場合には処理時間の延長や処理回数の増加を決定することがより好ましい。
【0038】
第2のスラリーの粘度などの性状は、後述の工程に適用できることを条件として特に限定されず、例えば、より効率的に調製する観点から、従来公知の任意好適な性状とすることができる。第2のスラリーの性状は、具体的には例えば、既に説明した液状体の含有量を調整したり、さらには溶媒を追加して希釈することにより調節することができる。
【0039】
ここで、工程(1)および工程(2)により製造されうる、本実施形態の第1のヘテロポリ酸化合物粒子および第2のヘテロポリ酸化合物粒子に含まれうるヘテロポリ酸化合物について説明する。
【0040】
(ヘテロポリ酸化合物)
本実施形態のメタクリル酸製造用触媒は、少なくともリンおよびモリブデンを含みうるヘテロポリ酸化合物を含む。本実施形態において、ヘテロポリ酸化合物は、遊離のヘテロポリ酸を含んでいてもよいし、ヘテロポリ酸の塩を含んでいてもよい。
【0041】
本実施形態のメタクリル酸製造用触媒は、ヘテロポリ酸化合物として、ヘテロポリ酸の塩のうちのヘテロポリ酸の酸性塩(部分中和塩)を含むことが好ましく、ケギン型ヘテロポリ酸の酸性塩を含むことがより好ましい。
【0042】
ヘテロポリ酸化合物は、少なくともリンおよびモリブデンを含み、触媒活性が阻害されないことを条件として、さらに他の元素を含んでいてもよい。他の元素としては、バナジウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、タリウム、銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタン、およびセリウムが挙げられる。すなわち、本実施形態のヘテロポリ酸化合物は、例えば下記の元素を含むことが好ましい。
リン;
モリブデン;
銅;
バナジウム;
セシウムおよびタリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素;ならびに
ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタンおよびセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素
【0043】
本実施形態において、ヘテロポリ酸化合物粒子、すなわち第1のヘテロポリ酸化合物粒子および第2のヘテロポリ酸化合物粒子に含まれうるヘテロポリ酸化合物は、下記式(I)で表されるヘテロポリ酸の部分中和塩であることが好ましい。

MoCuCs (I)
【0044】
式(I)中、Pはリン原子を表し、Moはモリブデン原子を表し、Cuは銅原子を表し、Vはバナジウム原子を表し、Csはセシウム原子を表し、Oは酸素原子を表し、
Yは、ヒ素原子、アンチモン原子、ホウ素原子、銀原子、ビスマス原子、鉄原子、コバルト原子、ランタン原子およびセリウム原子からなる群から選ばれる少なくとも1種の原子を表し、
a~fは、bを12とした場合に、1.2≦a≦1.8、0.01≦c≦0.4、0.4≦d≦0.6、1.2≦e≦1.8、0.4≦f≦0.6という条件を満たす値を表し、xは各原子の酸化状態により定まる値を表し、fはYが2種以上の原子である場合には、該2種以上の原子の合計比率を表す。
【0045】
本実施形態において、式(I)で表されるヘテロポリ酸としては、触媒性能を向上させる観点から、Yがヒ素原子、またはアンチモン原子であり、aが1.4~1.6であり、cが0.05~0.35であり、dが0.45~0.55であり、eが1.2~1.6であることが好ましい。
【0046】
本実施形態において、式(I)で表されるヘテロポリ酸の部分中和塩は、より具体的には、Yがアンチモン原子であって、fが0.45~0.55であることがより好ましい。
【0047】
(3)[工程(3)](第2のスラリーを乾燥処理して得た第2のヘテロポリ酸化合物粒子を含む乾燥体を混練し、押出成形して成形体を得る工程)
(i)乾燥処理
工程(3)においては、まず工程(2)により得られた第2のスラリーを乾燥処理する。工程(3)にかかる乾燥処理は、従来公知の任意好適な乾燥方法により実施することができる。乾燥方法としては、例えば、蒸発乾固法、スプレードライヤーを用いる噴霧乾燥法、ロータリーキルンによるドラム回転式乾燥法、フラッシュジェットドライヤーによる連続瞬間気流乾燥法、真空ドラムドライヤーによる真空乾燥法、およびろ過乾燥装置を用いる方法が挙げられる。
【0048】
本実施形態において、工程(3)にかかる乾燥処理は、従来公知の任意好適なスプレードライヤーを用いる噴霧乾燥法により行うことが好ましい。乾燥条件については、水性スラリー(E)中の水分含量が十分に低減されるよう適宜設定すればよく、特に制限されない。工程(3)にかかる乾燥処理時の温度は300℃未満とすることが好ましい。
【0049】
(ii)混練処理および押出成形処理
次いで、乾燥処理により得られた乾燥体を混練する混練処理を行い、混練処理により得られた混練体を用いて押出成形処理を行うことによりメタクリル酸製造用触媒の前駆体を形成する。また、このような押出成形処理においては、必要に応じて、乾燥体に水、成形助剤、気孔剤等を加えてもよい。このような成形助剤としては、例えば、セラミックファイバーやグラスファイバー、生体溶解性ファイバーなどの繊維、メチルセルロースのほか、硝酸アンモニウムが挙げられる。セラミックファイバーは、生体溶解性ファイバーであることが好ましい。特に硝酸アンモニウムは、成形助剤としての機能を有するほか、気孔剤としての機能も有することが好ましい。
【0050】
具体的には、まず、上記のとおりの乾燥処理により得られた乾燥体(粉末状のメタクリル酸製造用触媒の前駆体)に、必要に応じて、例えばセラミックスファイバー、生体溶解性ファイバーなどの繊維を成形助剤として添加し、さらに水、硝酸アンモニウムなどを加えて混練する混練処理によりペースト状の混合物である混練体とする。成形助剤の量は特に限定されない。成形助剤であるセラミックファイバーやグラスファイバー、生体溶解性ファイバーなどの繊維の量は、乾燥体100質量部に対して通常、1質量部以上10質量部以下であり、好ましくは2質量部以上8質量部以下である。硝酸アンモニウムの量は乾燥体100質量部に対して通常、5質量部以上30質量部以下であり、好ましくは7質量部以上25質量部以下であり、より好ましくは9質量部以上20質量部以下である。水の量は乾燥体100質量部に対して通常、4質量部以上20質量部以下であり、好ましくは5質量部以上15質量部以下であり、より好ましくは6質量部以上12質量部以下である。
【0051】
次いで、混練処理により得られた混練体を押出成形処理する。具体的には、押出成形することにより、混練体を完成品であるメタクリル酸製造用触媒の使用態様に応じた所望の形状(例えば、円柱状、球状、リング状など)のペレット状の成形体として成形する。
【0052】
上記のとおり押出成形処理することにより得られた成形体に対しては、後述の焼成処理を施す前に、調温調湿処理を施すことが好ましい。このような調温調湿処理の方法は特に限定されない。
【0053】
調温調湿処理としては、例えば、40~100℃の温度条件で、相対湿度10~60%の雰囲気下に、得られた成形体を0.5~10時間程度曝露する方法を採用することが好ましい。このような調温調湿処理は、例えば、調温、調湿された槽内にて行ってもよいし、調温、調湿されたガスを成形体に吹き付けることにより行ってもよく、その具体的な処理方法は特に制限されない。また、このような調温調湿処理を行う際のガスとしては、通常、空気が用いられるが窒素ガスなどの不活性ガスを用いてもよい。
【0054】
混練処理は、従来公知の任意好適な装置を用いて、成分、性状を考慮して選択された従来公知の任意好適な条件で行うことができる。
【0055】
混練処理および押出成形処理は、従来公知の任意好適な混練装置および押出成形装置により実施することができる。用いられうる押出装置の例としては、従来公知の任意好適なバンバリーミキサー、ニーダーが挙げられる。用いられ得る押出成形装置の例としては、従来公知の任意好適なプランジャー押出機、単軸押出機、二軸同方向回転押出機、二軸異方向回転押出機が挙げられる。
【0056】
押出成形処理において用いることができる押出装置の構成は、上記のとおり得られた混練体を、円柱状に押出成形することができることを条件として、特に限定されないが、例えば、円柱状の貫通孔を有する押出ダイスを備えた装置を用いることにより円柱状に押出成形を実施することができる。押出成形処理における押出速度は特に限定されない。押出成形処理の実施にあたっては、押出速度を一定として実施することが好ましい。
【0057】
本実施形態のメタクリル酸製造用触媒の製造方法においては、既に説明した「湿式粉砕処理」によりヘテロポリ酸化合物粒子の粒径を既に説明した所定範囲に調節することにより、押出成形処理の効率を向上させることができる。
【0058】
ここで、「押出成形処理の効率」は、例えば、混練体を押出装置に導入し、押出成形処理により押出装置から押し出されてくる成形体の押出速度が0.0051m/sである場合(第1の押出速度)における圧力である第1の押出圧力と、成形体の押出速度が0.0308m/sである場合(第2の押出速度)における圧力である第2の押出圧力との圧力差(第2の押出圧力-第1の押出圧力)により評価することができる。
【0059】
押出圧力の測定は、円柱状の貫通孔を有する押出ダイスおよび従来公知の任意好適な圧力センサを備えた押出装置を用いて、一定速度で押出を実施しつつ圧力センサにより圧力を測定することにより実施することができる。以下具体例を説明する。しかしながら、押出圧力の測定方法は後述する具体例に限定されない。
【0060】
押出圧力の測定は、例えば、内径5.4mm、長さ10mmの円柱状の貫通孔を有する押出ダイスおよび圧力センサを備えた、内径40mmの円柱状の金型に、既に説明した混練処理を施した混練体を投入し、第1の押出圧力および第2の押出圧力を測定することにより圧力差を求めることができる。
【0061】
圧力センサは混練体にかかる圧力を測定することができれば特に限定されない。圧力センサとしては、具体的には例えば、共和電業製の小型圧力センサ「PGM-E」を使用することができる。
【0062】
押出圧力を測定するにあたり、一定速度で押出を実施するための方法は特に限定されない。このような押出は、例えば、既に説明した押出用金型およびテンシロン万能材料試験機を組み合わせて使用し、テンシロン万能材料試験機のクロスヘッドスピードを一定にして混練体を押し出すことにより、一定速度での押出を実施することができる。
【0063】
圧力差(第2の押出圧力-第1の押出圧力)は、小さいほどより安定的に押出成形を行うことができるといえるため、この圧力差が小さいほど押出成形処理の効率、ひいてはメタクリル酸製造用触媒の製造効率を向上させることができると評価できる。
【0064】
本実施形態においては、押出成形処理の効率を向上させ、メタクリル酸製造用触媒の製造効率を向上させる観点から、圧力差(第2の押出圧力-第1の押出圧力)は、1.6MPa以下であることが好ましく、1.3MPa以下であることがより好ましい。
【0065】
(iii)前焼成処理
含有される硝酸アンモニウムを除去し、ヘテロポリ酸化合物の構造を変化させる観点から、後述する焼成に先立ち、前焼成として、酸化性ガス又は非酸化性ガスの雰囲気下に180~300℃程度の温度で保持する処理(前焼成処理)を施すことが好ましい。
【0066】
前焼成処理は、既に説明した混練処理および押出成形処理により得られたメタクリル酸製造用触媒の前駆体である成形体を、従来公知の任意好適な構成を有する焼成装置が備える焼成炉にて焼成する処理とすることができる。
【0067】
(4)[工程(4)]成形体を焼成して、メタクリル酸製造用触媒を得る工程
本実施形態の製造方法における焼成処理は、成形体を焼成する工程である。焼成の方法としては、特に制限されず、この分野で通常用いられる方法を適宜採用することができる。なお、このような焼成工程は、例えば、酸素ガス等の酸化性ガスの雰囲気下で行ってもよいし、窒素ガス等の非酸化性ガスの雰囲気下で行ってもよく、焼成温度は300℃以上とすることが好ましい。また、このような焼成工程に先立って、既に説明した前焼成工程を施す場合、既に説明した前焼成工程で採用した温度よりも高い温度で焼成工程を施すことが好ましい。
【0068】
工程(4)においては、触媒活性をより高くする観点から、酸化性ガスまたは非酸化性ガスの雰囲気下で多段階の焼成処理を施す方法を採用することが好ましく、酸化性ガス雰囲気下にて360℃~410℃で焼成する第1焼成処理、非酸化性ガス雰囲気下にて420℃~500℃で焼成する第2焼成処理、および、冷却処理を含むことがより好ましい。以下、具体的に説明する。焼成処理は後述する具体例に限定されない。
【0069】
(第1焼成処理)
第1焼成処理に供されるガス(混合ガス)は、酸化性ガス(外気(空気)、酸素ガスなど)、非酸化性ガス(不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガスなど)、還元性ガス(二酸化炭素、水素、アンモニアなど)を含みうる。また、酸化性ガスには、必要に応じて水分を存在させてもよい。この場合、含まれうる水分の濃度は通常10容量%以下である。混合ガスは、これらの中でも、窒素ガス、空気、アルゴンガス、ヘリウムガスおよび二酸化炭素ガスを含むことが好ましく、窒素ガスおよび空気を含むことがより好ましい。
【0070】
第1焼成処理における温度は、360℃~410℃とすることが好ましく、380℃~410℃とすることがより好ましい。第1焼成処理における温度をこのような温度とすれば、製造されるメタクリル酸製造用触媒の触媒活性および触媒寿命を効果的に向上させることができる。
【0071】
第1焼成処理における焼成時間は、好ましくは1~20時間であり、より好ましくは1~5時間である。第1焼成処理を1~20時間行えば、処理対象の成形体の組成に拘わらず十分に焼成を行うことができる。
【0072】
(第2焼成処理)
第2焼成処理は、第1焼成処理で得られた焼成物を、前焼成処理が行われた焼成炉にてさらに焼成する処理とすることが好ましい。また、第1焼成処理で得られた焼成物について、第1焼成処理が行われた焼成炉とは異なる焼成炉にて第2焼成処理を行ってもよい。
【0073】
第2焼成処理にて用いられうるガス(混合ガス)としては、例えば、非酸化性ガス(不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガスなど)、還元性ガス(二酸化炭素ガス、水素ガス、アンモニアガスなど)が挙げられる。これらの非酸化性ガスの中でも、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスおよび二酸化炭素ガスを用いることが好ましく、窒素ガスを用いることがより好ましい。非酸化性ガスは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、第2焼成処理で用いられる非酸化性ガスとしては、水分を可能な限り含まない乾燥状態の非酸化性ガスを用いることが好ましい。
【0074】
第2焼成処理は、温度を420℃~500℃として行うことが好ましく、430℃~440℃として行うことがより好ましい。
【0075】
第2焼成処理における焼成時間は、好ましくは1~20時間であり、より好ましくは1~5時間である。
【0076】
(冷却処理)
冷却処理は、第2焼成処理で得られた焼成物を所定の温度にまで冷却するための任意の工程である。具体的には、第2焼成処理で得られた焼成物を、例えば、既に説明した非酸化性ガス雰囲気下にて、温度を好ましくは280℃以下、より好ましくは90℃以下として冷却すればよい。
【0077】
冷却処理で用いられうる非酸化性ガスは、既に説明した非酸化性ガス(不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス)、還元性ガス(二酸化炭素ガス、水素ガス、アンモニアガス))などが挙げられる。これらの非酸化性ガスの中でも、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスおよび二酸化炭素が好ましく、窒素ガスがより好ましい。冷却工程で用いられる非酸化性ガスは、作業性を向上させる観点から、第2焼成処理で用いた非酸化性ガスと同一のガスを用いること、すなわち第2焼成処理で用いた非酸化性ガスをそのまま用いることが好ましい。非酸化性ガスは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、冷却処理にて用いられる非酸化性ガスは、水分を可能な限り含まない乾燥状態の非酸化性ガスを用いることが好ましい。
【0078】
冷却処理は、触媒活性および触媒寿命を効果的に向上させる観点から、温度を280℃以下として行なうことが好ましく、90℃以下として行なうことがより好ましい。
【0079】
以上の工程(処理)を含む本実施形態にかかる「メタクリル酸製造用触媒の製造方法」によれば、湿式粉砕処理によりヘテロポリ酸化合物粒子の粒径(メジアン径、さらには10%粒子径、90%粒子径)を既に説明した所定範囲に調節し、粒子径が10μm以下であるヘテロポリ酸化合物粒子の割合を所定範囲に調節するので、押出成形処理における押出圧力をより低減することができ、押出成形処理の効率をより向上させることができる。結果として、メタクリル酸製造用触媒の製造効率をより向上させることができ、メタクリル酸製造用触媒の製造コストをより低減することができる。
【0080】
2.メタクリル酸の製造
本実施形態の既に説明した製造方法により製造することができるメタクリル酸製造用触媒は、所定の条件にて、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタンおよびイソ酪酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物(原料化合物)を接触させることにより、気相接触酸化反応に供してメタクリル酸を得る、「メタクリル酸の製造方法」に好適に適用することができる。
【0081】
より具体的には、本実施形態の製造方法により得ることができるメタクリル酸製造用触媒は、特に好ましくはC4直酸法により行われるメタクリル酸の製造方法における2段目の反応、すなわちメタクロレインをメタクリル酸に転化する反応における触媒活性を有する触媒として用いることが特に好ましい。
【0082】
ここで、メタクリル酸の製造は、固定床多管式反応器に本実施形態のメタクリル酸製造用触媒を充填し、この反応器に原料化合物と、混合ガスとを供給する従来公知の任意好適な製造方法により行うことができる。また、固定床の代わりに、流動床や移動床の態様の反応器も採用されうる。
【0083】
メタクロレインを原料化合物として用いる場合には、反応は、好ましくは下記の条件にて行うことができる。なお、空間速度は、反応器内を通過する1時間当たりの原料(原料化合物および混合ガス)供給量(L/h)を、反応器内のメタクリル酸製造用触媒の容量(L)で除算することにより求めることができる。
条件:
原料中のメタクロレインの濃度:1~10体積%
原料中の水蒸気の濃度:1~30体積%
メタクロレインと酸素とのモル比:1/1~1/5(メタクロレイン/酸素)
空間速度:500~5000h-1(標準状態基準)
反応温度:250~350℃
反応圧力:0.1~0.3MPa
【0084】
イソブタンを原料化合物として用いる場合には、反応は、好ましくは下記の条件にて行うことができる。
条件:
原料中のイソブタンの濃度:1~85体積%
原料中の水蒸気の濃度:3~30体積%
イソブタンと酸素とのモル比:1/0.05~1/4(イソブタン/酸素)
空間速度:400~5000h-1(標準状態基準)
反応温度:250~400℃
反応圧力:0.1~1MPa
【0085】
なお、イソブチルアルデヒドおよびイソ酪酸を原料化合物として用いる場合には、メタクロレインを原料化合物として用いる場合と、同様の条件として実施することができる。また、上記の原料化合物はいずれも、精製された高純度品である必要はない。原料化合物としては、例えば、メタクロレインの場合には、イソブチレン、tert-ブチルアルコールの気相接触酸化反応によって得られたメタクロレインを未精製のまま用いてもよい。
【0086】
本実施形態のメタクリル酸製造用触媒の製造方法により製造されたメタクリル酸製造用触媒にかかる評価、具体的には原料化合物として例えばメタクロレインを用いる場合のメタクロレイン転化率(%)、メタクリル酸選択率(%)およびメタクリル酸収率(%)は、下記式に基づいて算出することができる。
式:
メタクロレイン転化率(%)=〔反応したメタクロレインのモル数÷供給したメタクロレインのモル数〕×100
メタクリル酸選択率(%)=〔生成したメタクリル酸のモル数÷反応したメタクロレインのモル数〕×100
メタクリル酸収率(%)=〔メタクロレイン転化率(%)×メタクリル酸選択率(%)〕÷100
【実施例0087】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。本発明は、以下に説明する実施例に限定されない。
【0088】
調製例1
〔水性スラリーEの調製〕
イオン交換水224gに、67.5質量%硝酸39.20g、75質量%オルトリン酸27.43g、および、硝酸セシウム〔CsNO3〕38.19gを溶解させて、水性混合物Aを得た。
【0089】
40℃に昇温したイオン交換水330gに、七モリブデン酸六アンモニウム4水和物〔(NHMo24・4HO〕297gを溶解させた後、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕8.19gを懸濁させて水性混合物Bを得た。
【0090】
ウォーターバスを使用して、水性混合物Aおよび水性混合物Bそれぞれの温度を40℃に維持した状態で、水性混合物Aを水性混合物Bに、撹拌しつつ滴下した後、120℃で5時間、密閉容器中で撹拌することにより、水性スラリーCを得た。水性スラリーCに含まれるモリブデンに対するリンのモル比(リン/モリブデン)、バナジウムのモル比(バナジウム/モリブデン)、および、セシウムのモル比(セシウム/モリブデン)はそれぞれ、1.5/12、0.5/12、および、1.4/12である。
【0091】
三酸化アンチモン〔Sb23〕10.2g、および、硝酸銅3水和物〔Cu(NO32・3H2O〕の30.6質量%水溶液33.59gを100gのイオン交換水に懸濁させて水性混合物Dを調製した。
【0092】
得られた水性混合物Dを120℃に昇温し、120℃に維持して攪拌しつつ、密閉容器中の水性スラリーCに添加し、120℃にてさらに5時間撹拌することにより、ヘテロポリ酸化合物を含む第1のヘテロポリ酸化合物粒子aを含む第1のスラリーである水性スラリーEを得た。水性スラリーC中の第1のヘテロポリ酸化合物粒子aに含まれるモリブデンに対するリンのモル比(リン/モリブデン)、バナジウムのモル比(バナジウム/モリブデン)、セシウムのモル比(セシウム/モリブデン)、銅のモル比(銅/モリブデン)、および、アンチモンのモル比(アンチモン/モリブデン)はそれぞれ、1.5/12、0.5/12、1.4/12、0.3/12、および、0.5/12である。
【0093】
得られた水性スラリーEについて、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置〔堀場エステック社製LA-920〕を使用して、水性スラリーEに含まれる第1のヘテロポリ酸化合物粒子aの粒度分布を測定したところ、メジアン径(50%粒子径:D50)は10.2μmであり、粒子径が10μm以下であるヘテロポリ酸化合物粒子の割合は49%であり、10%粒子径(D10)の値は2.6μmであり、90%粒子径(D90)の値は29.9μmであった。
【0094】
実施例1
〔水性スラリーF1の調製〕
第1のヘテロポリ酸化合物粒子aを含む水性スラリーEを、ホモミキサー(ULTRA-DISPERSER LK-41)を用いて30℃にて1分間、湿式粉砕処理を行うことにより、第2のヘテロポリ酸化合物粒子bを含む第2のスラリーである水性スラリーF1を得た。得られた水性スラリーF1に含まれる第2のヘテロポリ酸化合物粒子bのメジアン径は4.8μmであり、粒子径が10μm以下であるヘテロポリ酸化合物粒子の割合は90%であり、D10の値は1.0μmであり、D90の値は10.1μmであった。
【0095】
〔ヘテロポリ酸化合物粒子(1)の調製〕
得られた水性スラリーF1を大気中で135℃に加熱し、水分を蒸発させて乾燥させることによりヘテロポリ酸化合物粒子(1)を得た。
【0096】
〔混練体の調製〕
ヘテロポリ酸化合物粒子(1)100質量部に対し、イソライト工業社製セラミックファイバーRCF-400SLを4質量部、硝酸アンモニウム15.1質量部およびイオン交換水9.7質量部を加えて混練することにより、混練体を調製した。
【0097】
〔押出圧力の測定〕
調製された混練体を内径5.4mm、長さ10mmの円柱状の貫通孔を有する押出ダイスおよび圧力センサ(共和電産 PGM-100KE)を備えた、内径40mmの円柱状の金型に入れて、テンシロン万能材料試験機を用いて一定速度で押し出しつつ押出圧力を測定した。ここで、押出ダイスから押し出されてくる成形体の押出速度が0.0051m/sである場合(第1の押出速度)の第1の押出圧力は1.9MPaであり、成形体の押出速度が0.0308m/sである場合(第2の押出速度)の第2の押出圧力は2.8MPaであり、これらの圧力差(第2の押出圧力-第1の押出圧力)は0.9MPaであった。結果を下記表1に示す。
【0098】
製造例1
〔成形体の形成(押出成形)〕
上記実施例1により得られたヘテロポリ酸化合物粒子(1)を含む混練体を内径5.4mm、長さ10mmの円柱状の貫通孔を有する押出ダイスを備えた、内径40mmの円柱状の金型に得られた混練体を入れて、成形体の押出速度が0.0051m/sとなるように押し出すことにより、円柱状の成形体を得た。
【0099】
〔メタクリル酸製造用触媒の製造〕
得られた成形体を、温度90℃、相対湿度30%にて3時間乾燥させる調温調湿処理を行った後、空気気流中にて220℃で22時間保持し、続いて250℃で1時間保持する前焼成処理を行い、次いで空気気流中にて390℃で4時間保持する第1焼成処理を行い、続いて窒素気流中にて435℃で4時間保持する第2焼成処理を行うことにより、ヘテロポリ酸化合物粒子(1)を含むペレット状のメタクリル酸製造用触媒を得た。
【0100】
〔メタクリル酸製造用触媒の活性試験〕
得られたメタクリル酸製造用触媒4.5gを内径16mmのガラス製マイクロリアクターに充填し、炉温(マイクロリアクターを加熱するための炉の温度)を355℃まで昇温した。次いで、メタクロレイン、空気、スチームおよび窒素ガスを混合して調製した原料ガス(組成:メタクロレイン4容量%、分子状酸素12容量%、水蒸気17容量%、窒素67容量%)を空間速度670h-1でマイクロリアクターに供給して1時間反応を行い、メタクリル酸製造用触媒を強制劣化させることにより劣化触媒を得た。次いで、炉温を280℃にして、得られた劣化触媒に、既に説明した組成の原料ガスを、さらに空間速度670h-1で供給して反応させた。炉温280℃での反応開始から1時間経過後に導出された反応ガス(反応後のガス)をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにより分析して、下記式に基づき、メタクロレイン転化率(%)、メタクリル酸選択率(%)およびメタクリル酸収率(%)を求めた。結果として、メタクロレイン転化率は76.4%であり、メタクリル酸選択率は78.7%であり、メタクリル酸収率は60.1%であった。
【0101】
メタクロレイン転化率(%)=〔反応したメタクロレインのモル数÷供給したメタクロレインのモル数〕×100
メタクリル酸選択率(%)=〔生成したメタクリル酸のモル数÷反応したメタクロレインのモル数〕×100
メタクリル酸収率(%)=〔メタクロレイン転化率(%)×メタクリル酸選択率(%)〕÷100
【0102】
実施例2
〔水性スラリーF2の調製〕
既に説明した調製例1にかかる水性スラリーF1と水性スラリーEとを3:1(体積比)の割合で混合して水性スラリーF2を得た。水性スラリーF2に含まれるヘテロポリ酸化合物粒子のメジアン径は6.0μmであり、粒子径10μm以下のヘテロポリ酸化合物粒子の割合は80%であり、D10の値は1.2μmであり、D90の値は12.8μmであった。
【0103】
〔ヘテロポリ酸化合物粒子(2)の調製〕
得られた水性スラリーF2を大気中で135℃に加熱して水分を蒸発させて乾燥させることにより、ヘテロポリ酸化合物粒子(2)を得た。
【0104】
〔混練体の調製〕
既に説明した実施例1にかかるヘテロポリ酸化合物粒子(1)に代えて、ヘテロポリ酸化合物粒子(2)を使用したこと以外は、実施例1の〔混練体の調製〕と同様にして、混練体を調製した。
【0105】
〔押出圧力の測定〕
得られた混練体を用いて、既に説明した実施例1の〔押出圧力の測定〕と同様にして押出圧力を測定した。ここで、押出装置から押し出されてくる成形体の押出速度が0.0051m/sの場合(第1の押出速度)の第1の押出圧力は1.4MPaであり、成形体の押出速度が0.0308m/sの場合(第2の押出速度)の第2の押出圧力は2.5MPaであり、これらの圧力差(第2の押出圧力-第1の押出圧力)は1.1MPaであった。
【0106】
実施例3
〔水性スラリーF3の調製〕
既に説明した調製例1にかかる水性スラリーF1と水性スラリーEとを1:1の割合で混合して水性スラリーF3を得た。水性スラリーF3に含まれるヘテロポリ酸化合物粒子のメジアン径は7.2μmであり、粒子径10μm以下のヘテロポリ酸化合物粒子の割合は70%であり、D10の値は1.5μmであり、D90の値は15.2μmであった。
【0107】
〔ヘテロポリ酸化合物粒子(3)の調製〕
得られた水性スラリーF3を大気中で135℃に加熱して水分を蒸発させて乾燥させることにより、ヘテロポリ酸化合物粒子(3)を得た。
【0108】
〔混練体の調製〕
既に説明した調製例1にかかるヘテロポリ酸化合物粒子(1)に代えて、ヘテロポリ酸化合物粒子(3)を使用したこと以外は、実施例1の〔混練体の調製〕と同様にして、混練体を調製した。
【0109】
〔押出圧力の測定〕
得られた混練体を用いて、既に説明した実施例1の〔押出圧力の測定〕と同様にして押出圧力を測定した。ここで、押出装置から押し出されてくる成形体の押出速度が0.0051m/sの場合(第1の押出速度)の第1の押出圧力は2.0MPaであり、成形体の押出速度が0.0308m/sの場合(第2の押出速度)の第2の押出圧力は3.4MPaであり、これらの圧力差(第2の押出圧力-第1の押出圧力)は1.4MPaであった。
【0110】
実施例4
〔水性スラリーF4の調製〕
既に説明した調製例1にかかる水性スラリーEを直径15mmのアルミナ製ボール2700gとともにアルミナ製容器に入れ、回転式ボールミルを用いて53回転/分の速度で連続的に回転させることにより16時間粉砕を行うことにより水性スラリーF4を得た。水性スラリーF4に含まれるヘテロポリ酸化合物粒子のメジアン径は1.3μmであり、粒子径10μm以下のヘテロポリ酸化合物粒子の割合は100%であり、D10の値は0.6μmであり、D90の値は2.6μmであった。
【0111】
〔ヘテロポリ酸化合物粒子(4)の調製〕
得られた水性スラリーF4を大気中で135℃に加熱して水分を蒸発させて乾燥させることにより、ヘテロポリ酸化合物粒子(4)を得た。
【0112】
〔混練体の調製〕
既に説明した調製例1にかかるヘテロポリ酸化合物粒子(1)に代えて、ヘテロポリ酸化合物粒子(4)を使用したこと以外は、実施例1の〔混練体の調製〕と同様にして、混練体を調製した。
【0113】
〔押出圧力の測定〕
得られた混練体を用いて、既に説明した実施例1の〔押出圧力の測定〕と同様にして押出圧力を測定した。ここで、押出装置から押し出されてくる成形体の押出速度が0.0051m/sの場合(第1の押出速度)の第1の押出圧力は2.0MPaであり、成形体の押出速度が0.0308m/sの場合(第2の押出速度)の第2の押出圧力が3.0MPaであり、これらの圧力差(第2の押出圧力-第1の押出圧力)は1.0MPaであった。結果を下記表1に示す。
【0114】
比較例1
〔ヘテロポリ酸化合物粒子(5)の調製〕
既に説明した調製例1にかかる水性スラリーEを大気中で135℃に加熱して水分を蒸発させて乾燥させることにより、ヘテロポリ酸化合物粒子(5)を得た。
【0115】
〔混練体の調製〕
既に説明した調製例1にかかるヘテロポリ酸化合物粒子(1)に代えて、ヘテロポリ酸化合物粒子(5)を使用したこと以外は、実施例1の〔混練体の調製〕と同様にして、混練体を調製した。
【0116】
〔押出圧力の測定〕
得られた混練体を用いて、既に説明した実施例1の〔押出圧力の測定〕と同様にして押出圧力を測定した。ここで、押出装置から押し出されてくる成形体の押出速度が0.0051m/sの場合(第1の押出速度)の第1の押出圧力は2.7MPaであり、成形体の押出速度が0.0308m/sの場合(第2の押出速度)の第2の押出圧力は5.5MPaであり、これらの圧力差(第2の押出圧力-第1の押出圧力)は2.8MPaであった。結果を下記表1に示す。
【0117】
比較例2
〔水性スラリーF5の調製〕
既に説明した調製例1にかかる水性スラリーF1と水性スラリーEとを1:3の割合で混合して水性スラリーF5を得た。水性スラリーF5に含まれるヘテロポリ酸化合物粒子のメジアン径は8.7μmであり、粒子径10μm以下のヘテロポリ酸化合物粒子の割合は59%であり、D10の値は1.9μm、D90の値は19.9μmであった。
【0118】
〔ヘテロポリ酸化合物粒子(6)の調製〕
得られた水性スラリーF5を大気中で135℃に加熱して水分を蒸発させて乾燥させることにより、ヘテロポリ酸化合物粒子(6)を得た。
【0119】
〔混練体の調製〕
既に説明した調製例1にかかるヘテロポリ酸化合物(1)に代えて、ヘテロポリ酸化合物粒子(6)を使用した以外は、実施例1の〔混練体の調製〕と同様にして、混練体を調製した。
【0120】
〔押出圧力の測定〕
得られた混練体を用いて、実施例1の〔押出圧力の測定〕と同様にして押出圧力を測定した。ここで、押出装置から押し出されてくる成形体の押出速度が0.0051m/sの場合(第1の押出速度)の第1の押出圧力は1.7MPaであり、成形体の押出速度が0.0308m/sの場合(第2の押出速度)の第2の押出圧力は3.5MPaであり、これらの圧力差(MPa)は1.8MPaであった。結果を下記表1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
湿式粉砕処理によりヘテロポリ酸化合物粒子の粒径(メジアン径、10%粒子径、90%粒子径)を湿式粉砕処理により所定範囲に調節し、粒子径が10μm以下の粒子の割合を65%以上とした実施例1~4によれば、比較例1および2と比較して、第1の押出圧力と第2の押出圧力との圧力差を1.4以下、具体的には0.9~1.4の範囲に顕著に低減できていた。