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特開2025-103919再生SiC基板の製造方法および積層構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025103919
(43)【公開日】2025-07-09
(54)【発明の名称】再生SiC基板の製造方法および積層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20250702BHJP
   H01L 21/302 20060101ALI20250702BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20250702BHJP
【FI】
H01L21/302 102
H01L21/302 201A
H01L21/302 101H
H01L21/304 645Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023221651
(22)【出願日】2023-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 大貴
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 弘幸
【テーマコード(参考)】
5F004
5F157
【Fターム(参考)】
5F004AA14
5F004AA15
5F004BA19
5F004BB18
5F004BB19
5F004CA04
5F004DA00
5F004DA04
5F004DA17
5F004DA20
5F004DA24
5F004DA25
5F004DA29
5F004DB19
5F004EA28
5F004EA34
5F004FA01
5F004FA08
5F157AA62
5F157BG06
5F157BG32
5F157CC11
(57)【要約】
【課題】III族窒化物の成長下地基板として用いられたSiC基板の新規な再生技術を提供する。
【解決手段】再生SiC基板の製造方法は、(a)主面上にIII族窒化物が付着したSiC基板を用意する工程と、(b)SiC基板に対してハロゲン含有ガスを供給し、主面上からIII族窒化物を除去する工程と、(c)III族窒化物が除去されたSiC基板に対して水素含有ガスを供給し、主面を改質する工程と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)主面上にIII族窒化物が付着したSiC基板を用意する工程と、
(b)前記SiC基板に対してハロゲン含有ガスを供給し、前記主面上から前記III族窒化物を除去する工程と、
(c)前記III族窒化物が除去された前記SiC基板に対して水素含有ガスを供給し、前記主面を改質する工程と、
を有する再生SiC基板の製造方法。
【請求項2】
前記(b)では、前記主面にSi欠損領域を形成し、
前記(c)では、前記主面から前記Si欠損領域を除去する
請求項1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【請求項3】
前記(b)を、前記主面の全域に前記Si欠損領域を形成することが可能な条件下で行う
請求項2に記載の再生SiC基板の製造方法。
【請求項4】
前記(c)を、前記主面の全域から前記Si欠損領域を除去することが可能な条件下で行う
請求項2に記載の再生SiC基板の製造方法。
【請求項5】
前記(c)を、前記(b)よりも高い温度条件下で行う
請求項4に記載の再生SiC基板の製造方法。
【請求項6】
前記(b)では、前記ハロゲン含有ガスとして、Fガス、Clガス、Brガス、Iガス、NFガス、ClFガス、HFガス、HClガス、HBrガス、および、HIからなる群より選択される少なくともいずれかのガスを用いる
請求項1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【請求項7】
前記(c)では、前記水素含有ガスとして、Hガス、NHガス、Nガス、Nガス、および、Nガスからなる群より選択される少なくともいずれかのガスを用いる
請求項1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【請求項8】
前記III族窒化物は、InAlGa(1-x-y)N(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)の組成式で表される物質を含む
請求項1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【請求項9】
前記(b)と前記(c)とを、同一の処理容器内で連続して行う
請求項1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【請求項10】
前記(b)および前記(c)と、前記処理容器内にハロゲン含有ガスを供給して前記処理容器内をクリーニングする工程とを、並行して、あるいは、連続して行う
請求項1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【請求項11】
前記(b)と前記(c)とを、交互に複数回行う
請求項1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【請求項12】
前記(b)を行う前に、前記SiC基板を還元雰囲気中でアニールする工程を有する
請求項1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【請求項13】
前記(b)と前記(c)とを、コールドウォール型の処理容器内で行う
請求項1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【請求項14】
前記(a)において用意される前記SiC基板の厚さと、前記(c)の後の前記SiC基板の厚さとの差が、±0.0003mm以内である、
請求項1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【請求項15】
前記(a)において、主面上にIII族窒化物が付着したSiC基板を複数枚用意し、
前記(b)において、前記複数枚のSiC基板に対して同時にハロゲン含有ガスを供給して、各SiC基板の主面上からIII族窒化物を除去し、
前記(c)において、III族窒化物が除去された各SiC基板に対して同時に水素含有ガスを供給し、各SiC基板の主面を改質する、
請求項1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【請求項16】
(a)主面上にIII族窒化物が付着したSiC基板を用意する工程と、
(b)前記SiC基板に対してハロゲン含有ガスを供給し、前記主面上から前記III族窒化物を除去する工程と、
(c)前記III族窒化物が除去された前記SiC基板に対して水素含有ガスを供給し、前記主面を改質する工程と、
(d)改質後の前記主面上に結晶を成長させる工程と、
を有する積層構造体の製造方法。
【請求項17】
前記(b)、前記(c)および前記(d)を、同一の処理容器内で連続して行う
請求項16に記載の積層構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生SiC基板の製造方法および積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウム(GaN)等のIII族窒化物は、発光素子、トランジスタ等の半導体素子を製造するための材料として用いられている。III族窒化物をエピタキシャル成長させるための成長下地基板として、サファイア基板、炭化シリコン(SiC)基板等が用いられている。
【0003】
各種の事情により、III族窒化物の成長に一旦用いられた成長下地基板を、再度III族窒化物の成長に用いることができるように、再生させたい場合がある(例えばサファイア基板の再生について、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-107169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一目的は、III族窒化物の成長下地基板として用いられたSiC基板の新規な再生技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
(a)主面上にIII族窒化物が付着したSiC基板を用意する工程と、
(b)前記SiC基板に対してハロゲン含有ガスを供給し、前記主面上から前記III族窒化物を除去する工程と、
(c)前記III族窒化物が除去された前記SiC基板に対して水素含有ガスを供給し、前記主面を改質する工程と、
を有する再生SiC基板の製造方法
が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
(a)主面上にIII族窒化物が付着したSiC基板を用意する工程と、
(b)前記SiC基板に対してハロゲン含有ガスを供給し、前記主面上から前記III族窒化物を除去する工程と、
(c)前記III族窒化物が除去された前記SiC基板に対して水素含有ガスを供給し、前記主面を改質する工程と、
(d)改質後の前記主面上に結晶を成長させる工程と、
を有する積層構造体の製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
III族窒化物の成長下地基板として用いられたSiC基板の新規な再生技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)は、主面11上にIII族窒化物が付着した(III族窒化物からなる層20が形成された)SiC基板10(積層構造体100)を用意する工程を示す概略図であり、図1(b)は、積層構造体100を処理装置200に搬入し、層20を除去する処理に先立つ前処理を行う工程を示す概略図である。
図2図2(a)は、SiC基板10に対してハロゲン含有ガスを供給し、SiC基板10の主面11上から層20を(III族窒化物を)除去する工程を示す概略図であり、図2(b)は、層20が(III族窒化物が)除去されたSiC基板10に対して水素含有ガスを供給し、主面11を改質する工程を示す概略図である。
図3図3は、SiC基板10の再生処理における温度およびガス供給のタイミングチャートである。
図4図4は、変形例によるSiC基板10の再生処理に係るサセプタ220を示す概略図である。
図5図5は、再生SiC基板10aの主面11上(SiC基板10の改質後の主面11上)に、III族窒化物で構成された新たな層20aを(結晶を)成長させる工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<一実施形態>
本発明の一実施形態による再生SiC基板の製造方法について説明する。本実施形態による再生SiC基板の製造方法は、主面上にIII族窒化物が付着したSiC基板を用意する工程と、SiC基板に対してハロゲン含有ガスを供給し、主面上からIII族窒化物を除去する工程と、III族窒化物が除去されたSiC基板に対して水素含有ガスを供給し、主面を改質する工程と、を有する。
【0011】
ここで、III族窒化物は、好ましくは、III族元素としてインジウム(In)、アルミニウム(Al)、または、ガリウム(Ga)を含み、InAlGa(1-x-y)N(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)の組成式で表されるものである。
【0012】
図1(a)~図2(b)は、SiC基板10の再生処理の流れを示す概略図である。図3は、SiC基板10の再生処理における温度およびガス供給のタイミングチャートである。図1(a)は、主面11上にIII族窒化物が付着した(III族窒化物からなる層20が形成された(堆積した))SiC基板10(積層構造体100)を用意する工程を示す概略図である。SiC基板10は、典型的には、SiC基板10と、SiC基板10の主面11上にエピタキシャル成長されたIII族窒化物で構成された層20と、を有する積層構造体100の態様で用意される。なお、本実施形態において、SiC基板10に係る「主面」という用語は、層20の結晶成長面(積層構造体100の最表面)ではなく、SiC基板10の上面(層20の成長下地である面)を意味する。
【0013】
層20は、典型的には、SiC基板10の主面11の全面上に形成されている。層20の構造は特に限定されず、単層構造であってもよく、複数層を含む積層構造であってもよく、半導体素子を構成するための凹凸を有していてもよい。層20は、例えば、GaN層を含んでよく、GaN層を含む態様において、SiC基板10とGaN層との間にバッファ層(例えばAlN層)を含んでよい。層20の厚さは、例えば100nm以上5000nm以下である。
【0014】
図1(b)は、積層構造体100を処理装置200に搬入し、層20を除去する処理に先立つ前処理を行う工程を示す概略図である。本実施形態では、SiC基板10上にIII族窒化物を成長させる処理を行うことができる成膜装置を、層20を(III族窒化物を)除去してSiC基板10を再生させる処理を行う処理装置200として用いる。例えば、有機金属気相成長(MOVPE)装置が用いられる。
【0015】
処理装置200としては、ホットウォール型およびコールドウォール型のいずれを用いてもよい。ただし、下記の再生処理における各種処理の処理温度を十分に高めて、本実施形態の効果をより高める観点から、コールドウォール型の処理装置200を用いることが好ましい。以下、コールドウォール型の処理装置200を例示する。
【0016】
処理装置200の処理容器210内に、サセプタ220が設けられている。サセプタ220に積層構造体100が載置される。サセプタ220は、ヒータ230を有し、ヒータ230が、積層構造体100を所定の処理温度に加熱する。ガス供給機構240が、各処理に用いられる処理ガス250を、処理容器210内に供給する。
【0017】
積層構造体100を処理容器210内に搬入した後、層20を除去する処理に先立つ前処理として、SiC基板10を還元雰囲気中でアニールする工程を行う。具体的には例えば、水素ガス(Hガス)雰囲気中で、昇温を行い、水素アニールを行う(図3の期間P1参照)。当該アニール処理において、処理温度は例えば900℃以上1300℃以下であり、処理時間は例えば10秒以上600秒以下である。
【0018】
当該アニール処理により、層20の(III族窒化物の)表面に形成されている酸化膜(自然酸化膜等)を除去することができ、その後に行うIII族窒化物の除去を、確実かつ効率的に進行させることが可能となる。
【0019】
図2(a)は、SiC基板10に対してハロゲン含有ガスを供給し、SiC基板10の主面11上から層20を(III族窒化物を)除去する工程を示す概略図である。具体的には例えば、ハロゲン含有ガスとして塩素ガス(Clガス)を用い、所定の処理条件で層20のドライエッチングを行う(図3の期間P2参照)。層20の除去処理において、処理温度は例えば800℃以上1100℃以下(好ましくは800℃以上1000℃以下)であり、処理時間は例えば120秒以上720秒以下である。雰囲気ガスとしては、例えば窒素ガス(Nガス)を用いる。
【0020】
層20の除去処理では、層20を全厚さ除去することで、SiC基板10の主面11の全面を露出させる。そして、層20を除去することで露出した主面11からシリコン(Si)を脱離させ、主面11に(好ましくは主面11の全域に)Si欠損領域12を形成する。露出した主面11を構成するSiCが、ハロゲン含有ガスと反応し、ハロゲン化シリコンガスが生成されることでSiが脱離して、Si欠損領域12が形成されると理解される。Si欠損領域12に残った炭素(C)は、グラフェン化していてもよい。
【0021】
層20の除去処理は、主面11の全域にSi欠損領域12を形成することが可能な条件下で行うことが好ましい。この条件には、例えば、処理温度、処理時間、等が含まれる。例えば、処理温度を、上述のように、800℃以上1100℃以上(好ましくは800℃以上1000℃以下)の温度とすることで、主面11の略全域(例えば90%以上の領域)に、Si欠損領域12を形成することが可能となる。
【0022】
III族窒化物の除去、および、Si欠損領域12の形成を好適に行う観点から、ハロゲン含有ガスとしては、Fガス、Clガス、Brガス、Iガス、NFガス、ClFガス、HFガス、HClガス、HBrガス、および、HIガスからなる群より選択される少なくともいずれかのガスを用いてよい。
【0023】
図2(b)は、層20が(III族窒化物が)除去されたSiC基板10に対して水素含有ガスを供給し、主面11を改質する工程を示す概略図である。具体的には例えば、水素含有ガスとしてアンモニアガス(NHガス)を用い、所定の処理条件で主面11の改質を行う(図3の期間P3参照)。主面11の改質処理において、処理温度は例えば900℃以上1200℃以下(好ましくは1100℃以上1200℃以下)であり、処理時間は例えば150秒以上600秒以下である。雰囲気ガスとしては、例えばNガスまたはHガスを用いる。主面11の改質処理における処理温度は、比較的高温であることが好ましく、層20の除去処理における処理温度よりも高くする。なお、雰囲気ガスとしてまずNガスを用い次にHガスを用いるように、雰囲気ガスを切り替えてもよい。Hガス雰囲気で処理を終了させることにより、主面11の改質を(主面11を構成するSiCの清浄化を)、より好ましく行うことができる。
【0024】
主面11の改質処理では、Si欠損領域12からC成分を脱離させ、主面11から(好ましくは主面11の全域から)Si欠損領域12を除去する。主面11上のSi欠損領域12に含まれるCが、水素含有ガスと反応し、炭化水素ガスが生成されることでCが脱離して、Si欠損領域12が除去されると理解される。
【0025】
主面11の改質処理は、主面11の全域からSi欠損領域12を除去することが可能な条件下で行うことが好ましい。この条件には、例えば、処理温度、処理時間、等が含まれる。例えば、主面11の改質処理における処理温度を、上述のように、層20の除去処理における処理温度よりも高い温度であって、900℃以上1200℃以上(好ましくは1100℃以上1200℃以下)の温度とすることで、主面11の略全域(例えば90%以上の領域)から、Si欠損領域12を除去することが可能となる。
【0026】
Si欠損領域12の除去を好適に行う観点から、水素含有ガスとしては、Hガス、NHガス、Nガス、Nガス、および、Nガスからなる群より選択される少なくともいずれかのガスを用いてよい。
【0027】
主面11を改質する処理により、Si欠損領域12を除去することで、SiCで構成された清浄な主面11を有する再生SiC基板10aが得られる。その後、SiC基板10を(再生SiC基板10aを)所定温度まで降温させる。本実施形態では、以上のようにして、SiC基板10の再生が、つまり、再生SiC基板10aの製造が行われる。
【0028】
層20を除去する処理(図2(a))と、主面11を改質する処理(図2(b))とは、同一の処理容器210内で連続して(途中でSiC基板10を処理容器210から搬出して大気暴露させることなく)行う。これにより、再生SiC基板10aの生産性を向上させることが可能となる。また、大気曝露等によるSiC基板10の汚染を回避することが可能となる。なお、前処理であるアニール処理(図1(b))と、層20を除去する処理(図2(a))とを、同一の処理容器210内で連続して行うことも好ましい。
【0029】
新品のSiC基板10上にIII族窒化物を成長させた後、本実施形態の方法により再生する試験を行った。新品のSiC基板10の厚さは0.4935mm(解析誤差±0.0003mm)であり、再生SiC基板10aの厚さは0.4936mm(解析誤差±0.0003mm)であった。本実施形態によって、再生前のSiC基板10の厚さと、再生後のSiC基板10(再生SiC基板10a)の厚さとの差を、(1つの目安として)±0.0003mm以内に抑制できること、つまり、再生SiC基板10aの厚さを、再生前のSiC基板10の厚さと実質的に同等に維持できることがわかった。
【0030】
本実施形態によるSiC基板10の再生方法では、このように、研磨等による従来の再生方法と比べて、再生処理に起因するSiC基板10の厚さ減少を抑制しつつ、SiC基板10の再生を行うことができる。なお、本実施形態では、SiC基板10の主面11上にSi欠損領域12を生成させて除去することを行っているが、Si欠損領域12の除去に伴うSiC基板10の厚さの変動は、SiC基板10の厚さ測定の解析誤差よりもはるかに小さい程度にとどまる。
【0031】
また、SiC基板10上にIII族窒化物(具体的には、高電子移動度トランジスタ構造の積層)を同条件で成長させては除去することを、新品のSiC基板10を出発として、本実施形態の方法により18回繰り返す(つまり18回の再生を行う)試験を行った。新品のSiC基板10上に成長させたAlGaNバリア層の膜厚、Al組成はそれぞれ21.3nm、0.277であり、GaNキャップ層の膜厚は3.4nmであった。18回分の再生での成長で得られた、AlGaNバリア層の膜厚、Al組成はそれぞれ21.1nm~21.6nmの範囲内の値、Al組成は0.271~0.276の範囲内の値であり、GaNキャップ層の膜厚は3.3nm~3.5nmの範囲内の値であった。このように、本実施形態の方法によれば、再生を繰り返してもIII族窒化物の成長をほぼ同様に行うことができ、一定の品質の再生SiC基板10aを繰り返し得ることができる。再生を繰り返しても、SiC基板10の厚さが実質的に変わらないので、SiC基板10上に成長させるIII族窒化物の成長条件を、研磨等による従来の再生方法で生じるようなSiC基板厚さの減少に応じて変化させる(調整する)必要がなく、一定の品質のIII族窒化物を繰り返し成長させることが容易となる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態による再生SiC基板の製造方法は、主面上にIII族窒化物が付着したSiC基板を用意する工程と、SiC基板に対してハロゲン含有ガスを供給し、主面上からIII族窒化物を除去する工程と、III族窒化物が除去されたSiC基板に対して水素含有ガスを供給し、主面を改質する工程と、を有する。
【0033】
主面上からIII族窒化物を除去する工程では、主面にSi欠損領域を形成し、主面を改質する工程では、主面からSi欠損領域を除去する。Si欠損領域は、好ましくは、主面の全域に形成し、主面の全域から除去する。
【0034】
SiC基板の再生を、研磨やウエットエッチングの手法ではなく、本実施形態のようにドライエッチングにより実施できることで、再生SiC基板を製造する際の生産性を高めることが可能となる。
【0035】
ただし、本願発明者の鋭意研究によれば、単にドライエッチングを行ってIII族窒化物を除去するだけでは、再生SiC基板上にエピタキシャル成長させる結晶の品質が低下する場合がある(例えば、結晶表面に出現する欠陥の数が多くなる)ことがわかった。ハロゲン含有ガスを用いてドライエッチングを行う際、III族窒化物が除去されることで露出したSiC基板の主面からSiが脱離し、これにより、グラフェン等を含む「Si欠損領域」が主面上に生成される場合がある。このSi欠損領域が、再生SiC基板の主面上にエピタキシャル成長される結晶の品質を低下させる要因となるものと考えられる。
【0036】
一方、本願発明者の鋭意研究によれば、Si欠損領域の形成および除去を経ることで得られる新たな主面(リフレッシュされた主面)の状態は、これを経ていない主面の状態、すなわち、基板製造時の加工工程でダメージを受けたSiC結晶を含むと考えられる元の主面の状態と比べて、結晶品質が向上し、エピタキシャル成長の下地面として好適であることがわかった。
【0037】
本願実施形態によれば、主面上からIII族窒化物を除去する工程では、SiC基板の主面上に意図的にSi欠損領域を形成し、その後の、主面を改質する工程では、主面からSi欠損領域を除去することで、高品質な再生SiC基板を得ることが可能となる。
【0038】
本実施形態による処理装置200は成膜装置でもあり、SiC基板10の再生処理に先立ち、III族窒化物の成長処理が行われていてもよい。図1(b)に示すように、当該成長処理に起因して、SiC基板10の再生処理を開始する時点で、処理容器210の内壁上に、III族窒化物を含有する堆積物260が付着していてもよい。なお、堆積物260は、処理容器210の内壁の全面にわたって付着していてよいが、ここでは図示を簡略化するため、堆積物260を1つの粒状に図示している。
【0039】
III族窒化物を含有する堆積物を除去するため、つまり、成膜装置の処理容器内をクリーニングするため、一般的に、処理容器内にハロゲン含有ガスを供給するクリーニング処理が行われる。図2(a)に示すように、本実施形態における、SiC基板10の主面11上から層20を(III族窒化物を)除去する処理は、処理容器210内にハロゲン含有ガスを供給するので、クリーニング処理としても機能し、処理容器210の内壁上に付着した堆積物260を除去する効果も有する。
【0040】
したがって、層20を除去する工程(、および、主面11を改質する工程)は、処理容器210内をクリーニングする工程と並行して行っている、ということができる。なお、層20を除去する処理の処理条件は、処理容器210内をクリーニングする処理の処理条件として最適なものでなくてもよい。クリーニング処理の効果をより確実とするために、層20を除去する工程(、および、主面11を改質する工程)と、(クリーニングに適した処理条件で、追加的に、層20の除去工程の前または後に、)処理容器210内をクリーニングする工程と、を連続して行ってもよい。
【0041】
層20を除去する工程(、および、主面11を改質する工程)と、処理容器210内をクリーニングする工程とを、並行して、あるいは、連続して行うことにより、これらの生産性をそれぞれ向上させることが可能となる。また、ハロゲン含有ガスや電力等を有効利用することができ、これらの処理コストを低減させることが可能となる。
【0042】
III族窒化物の成長を行うための成膜装置において、元来、処理容器内のクリーニングを、ハロゲン含有ガスを用いたドライエッチングにより実施している。このため、本実施形態による再生SiC基板の製造方法は、成膜装置を利用して行うことが容易であり、成膜装置を利用することで、SiC基板の再生処理を行うために他の処理装置を必要としなくて済む。また、成膜装置を利用して、本実施形態による再生SiC基板の製造方法を実施することで、成膜装置の処理容器内をクリーニングする効果も得られる。
【0043】
<変形例>
層20を除去する処理、および、主面11を改質する処理は、交互に複数回行ってもよい。具体的には例えば、図3の期間P2(層20を除去する処理)と期間P3(主面11を改質する処理)とを一組とした期間PLを、複数回繰り返してもよい。
【0044】
層20を除去する処理、および、主面11を改質する処理は、1回行うだけでも十分な効果が得られるものの、これらを繰り返すことにより、SiC基板10の主面11を清浄化する効果をより高めることができる。なお、このような繰り返しにより、処理容器210内をクリーニングする効果をより高めることもできる。
【0045】
<他の変形例>
上述の実施形態では、1枚のSiC基板10の再生処理を行う態様を例示したが、本変形例では、複数枚のSiC基板10の再生処理を同時に行う態様について説明する。SiC基板を用意する工程において、複数枚の、層20が堆積したSiC基板10が用意される。
【0046】
図4は、本変形例による、複数枚のSiC基板10が載置されるサセプタ220を示す概略図である。サセプタ220は、複数枚のSiC基板10を、公転および自転させるように保持する。各SiC基板10を公転および自転させながら、各SiC基板10に対して同時にハロゲン含有ガスを供給し、各SiC基板10の層20をエッチング除去し、そして、層20のエッチング除去後の各SiC基板10に対して同時に水素含有ガスを供給し、各SiC基板10の主面11を改質する。
【0047】
本変形例によれば、複数枚のSiC基板10の再生処理を効率的に行うことができる。また、複数枚のSiC基板10を公転および自転させながら、層20のエッチング除去および主面11の改質を行うことで、各SiC基板10間、および、各SiC基板10の面内における、エッチングの進行状況のばらつき、および、主面の改質の進行状況のばらつきを抑制することができる。
【0048】
<他の実施形態>
上述の実施形態による再生SiC基板の製造方法を応用した他の実施形態として、積層構造体の製造方法について説明する。本実施形態による積層構造体の製造方法は、上述の再生SiC基板の製造方法の諸工程に加え、SiC基板の改質後の主面(つまり、再生SiC基板の主面)上に結晶を成長させる工程を有する。再生されたSiC基板の主面上に成長させる結晶は、好ましくは、III族窒化物結晶である。
【0049】
図5は、再生SiC基板10aの主面11上(SiC基板10の改質後の主面11上)に、III族窒化物で構成された新たな層20aを(結晶を)成長させる工程を示す概略図である。ここでは、SiC基板10の再生処理を行う処理装置200として成膜装置を用い、さらに同じ処理装置200を用いて、層20aを成長させる態様を例示する。
【0050】
例えば、処理装置200はMOVPE装置であり、再生SiC基板10aの主面11上に、MOVPEにより層20aを成長させる。層20aを成長させる処理は、SiC基板10の再生処理(つまり、層20の除去処理、および、主面11の改質処理)と、同一の処理容器210内で連続して行われてよい。このようにして、再生SiC基板10aの主面11上に層20aが積層された積層構造体100aが製造される。
【0051】
再生SiC基板10aの主面11からSi欠損領域12が除去されており、当該主面11上への成長を行うことで、層20aの結晶品質を向上させることが可能となる。その結果、積層構造体100aを用いて製造される半導体デバイスの性能や信頼性を高めることが可能となる。
【0052】
層20aを成長させる処理を、SiC基板10の再生処理と同一の処理容器210内で連続して行う(つまり、再生処理に引き続いて行う)ことにより、再生SiC基板10aを用いて積層構造体100aを製造する際の生産性を向上させることが可能となる。また、再生SiC基板10aの大気曝露等による汚染を回避することができ、積層構造体100aを用いて製造される半導体デバイスの性能や信頼性を高めることが可能となる。
【0053】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0054】
(付記1)
(a)主面上にIII族窒化物が付着したSiC基板を用意する工程と、
(b)前記SiC基板に対してハロゲン含有ガスを供給し、前記主面上から前記III族窒化物を除去する工程と、
(c)前記III族窒化物が除去された前記SiC基板に対して水素含有ガスを供給し、前記主面を改質する工程と、
を有する再生SiC基板の製造方法。
【0055】
(付記2)
前記(b)では、前記主面にSi欠損領域を形成し、
前記(c)では、前記主面から前記Si欠損領域を除去する
付記1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【0056】
(付記3)
前記(b)を、前記主面の全域に前記Si欠損領域を形成することが可能な条件下で行う
付記2に記載の再生SiC基板の製造方法。
【0057】
(付記4)
前記(c)を、前記主面の全域から前記Si欠損領域を除去することが可能な条件下で行う
付記2に記載の再生SiC基板の製造方法。
【0058】
(付記5)
前記(c)を、前記(b)よりも高い温度条件下で行う
付記4に記載の再生SiC基板の製造方法。
【0059】
(付記6)
前記(b)では、前記ハロゲン含有ガスとして、Fガス、Clガス、Brガス、Iガス、NFガス、ClFガス、HFガス、HClガス、HBrガス、および、HIからなる群より選択される少なくともいずれかのガスを用いる
付記1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【0060】
(付記7)
前記(c)では、前記水素含有ガスとして、Hガス、NHガス、Nガス、Nガス、および、Nガスからなる群より選択される少なくともいずれかのガスを用いる
付記1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【0061】
(付記8)
前記III族窒化物は、InAlGa(1-x-y)N(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)の組成式で表される物質を含む
付記1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【0062】
(付記9)
前記(b)と前記(c)とを、同一の処理容器内で連続して行う
付記1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【0063】
(付記10)
前記(b)および前記(c)と、前記処理容器内にハロゲン含有ガスを供給して前記処理容器内をクリーニングする工程とを、並行して、あるいは、連続して行う
付記1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【0064】
(付記11)
前記(b)と前記(c)とを、交互に複数回行う
付記1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【0065】
(付記12)
前記(b)を行う前に、前記SiC基板を還元雰囲気中でアニールする工程を有する
付記1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【0066】
(付記13)
前記(b)と前記(c)とを、コールドウォール型の処理容器内で行う
付記1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【0067】
(付記14)
前記(a)において用意される前記SiC基板の厚さと、前記(c)の後の前記SiC基板の厚さとの差が、±0.0003mm以内である、
付記1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【0068】
(付記15)
前記(a)において、主面上にIII族窒化物が付着したSiC基板を複数枚用意し、
前記(b)において、前記複数枚のSiC基板に対して同時にハロゲン含有ガスを供給して、各SiC基板の主面上からIII族窒化物を除去し、
前記(c)において、III族窒化物が除去された各SiC基板に対して同時に水素含有ガスを供給し、各SiC基板の主面を改質する、
付記1に記載の再生SiC基板の製造方法。
【0069】
(付記16)
(a)主面上にIII族窒化物が付着したSiC基板を用意する工程と、
(b)前記SiC基板に対してハロゲン含有ガスを供給し、前記主面上から前記III族窒化物を除去する工程と、
(c)前記III族窒化物が除去された前記SiC基板に対して水素含有ガスを供給し、前記主面を改質する工程と、
(d)改質後の前記主面上に結晶を成長させる工程と、
を有する積層構造体の製造方法。
【0070】
(付記17)
前記(b)、前記(c)および前記(d)を、同一の処理容器内で連続して行う
付記16に記載の積層構造体の製造方法。
【符号の説明】
【0071】
10…SiC基板、10a…再生SiC基板、11…主面、12…Si欠損領域、20,20a…(III族窒化物からなる)層、100,100a…積層構造体、200…処理装置、210…処理容器、220…サセプタ、230…ヒータ、240…ガス供給機構、250…処理ガス、260…堆積物
図1
図2
図3
図4
図5