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特開2025-103921III族窒化物積層体およびIII族窒化物積層体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025103921
(43)【公開日】2025-07-09
(54)【発明の名称】III族窒化物積層体およびIII族窒化物積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20250702BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20250702BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20250702BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20250702BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B25/18
H01L21/20
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023221653
(22)【出願日】2023-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 大貴
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 弘幸
【テーマコード(参考)】
4G077
5F045
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB04
4G077BE11
4G077DB06
4G077EA02
4G077ED04
4G077ED06
4G077EF03
4G077HA06
4G077TK01
4G077TK10
5F045AA05
5F045AB14
5F045AB17
5F045AB18
5F045AC08
5F045AC12
5F045AC15
5F045AF02
5F045BB12
5F045CA07
5F045DA53
5F045HA06
5F152LL03
5F152LL05
5F152LM09
5F152LN21
5F152MM05
5F152NN05
5F152NN27
5F152NP09
5F152NQ09
(57)【要約】
【課題】III族窒化物積層体において結晶品質を向上させる。
【解決手段】SiC基板と、基板上に設けられ、III族窒化物結晶をエピタキシャル成長させて形成される積層構造物と、を備え、積層構造物は、積層構造物の表面中心における、フォトルミネッセンスのバンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度が1.30以下であり、積層構造物の表面の外縁から5mmの幅を除いた内部領域において、中心線に沿って任意に選択され、中心と中心から離間する2以上の箇所を含む3箇所以上での相対黄色強度について、最大値をXmax、最小値をXmin、その平均をXavgとしたとき、相対黄色強度の変動率(Xmax-Xmin)/Xavgが20%以下である、III族窒化物積層体である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板と、
基板上に設けられ、III族窒化物結晶をエピタキシャル成長させて形成される積層構造物と、
を備え、
前記積層構造物は、
前記積層構造物の表面中心における、フォトルミネッセンスのバンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度が1.30以下であり、 前記積層構造物の表面の外縁から5mmの幅を除いた内部領域において、中心線に沿って任意に選択され、中心と前記中心から離間する2以上の箇所を含む3箇所以上での前記相対黄色強度について、最大値をXmax、最小値をXmin、その平均をXavgとしたとき、相対黄色強度の変動率(Xmax-Xmin)/Xavgが20%以下である、
III族窒化物積層体。
【請求項2】
前記表面中心における前記相対黄色強度が1.25以下であり、
前記相対黄色強度の変動率が15%以下である、
請求項1に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項3】
前記表面中心における前記相対黄色強度が1.20以下であり、
前記相対黄色強度の変動率が10%以下である、
請求項1に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項4】
前記積層構造物は、
前記SiC基板上に設けられる核生成層と、
前記核生成層上に設けられ、InAlGaN(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)の組成式で表されるチャネル層と、を備え、
前記積層構造物の表面が前記チャネル層である、
請求項1又は請求項2に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項5】
前記積層構造物は、
前記SiC基板上に設けられる核生成層と、
前記核生成層上に設けられ、InAlGaN(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)の組成式で表されるチャネル層と、
前記チャネル層上に設けられ、窒化ガリウムよりも広いバンドギャップを有するIII族窒化物を含む機能層と、を備え、
前記積層構造物の表面が前記機能層である、
請求項1又は請求項2に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項6】
直径が4インチ以上である、
請求項1又は請求項2に記載のIII族窒化物積層体。
【請求項7】
(a)SiC基板を用意する工程と、
(b)前記SiC基板に対してハロゲン含有ガスを供給し、前記SiC基板の主面からSiを脱離させ、前記主面の表層にSi欠損領域を形成する工程と、
(c)前記Si欠損領域が形成されたSiC基板に水素含有ガスを供給して前記Si欠損領域を除去し、前記主面の表面処理を行う工程と、
(d)処理後の前記主面上にIII族窒化物結晶を成長させる工程と、
を有するIII族窒化物積層体の製造方法。
【請求項8】
前記(c)を、前記SiC基板の主面の全域から前記Si欠損領域を除去するような条件で行う、
請求項7に記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【請求項9】
前記(b)を、前記SiC基板の主面の全域にわたって前記Si欠損領域を形成するような条件で行う、
請求項8に記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物積層体およびIII族窒化物積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III族窒化物系の高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)は、携帯電話の基地局用のパワーアンプとして広く用いられている(例えば特許文献1)。III族窒化物系のHEMTでは、従来用いられてきたSi系デバイスと比較して、1素子あたりに投入できる電力を大幅に増加させることができる。これにより、基地局を小型化することができ、設置コストを大幅に低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-286741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
HEMT等の半導体素子はIII族窒化物積層体から作製される。半導体素子のデバイス特性を向上させる観点から、III族窒化物結晶の品質を高めることが求められている。
【0005】
本発明は、III族窒化物積層体において結晶品質を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、
SiC基板と、
基板上に設けられ、III族窒化物結晶をエピタキシャル成長させて形成される積層構造物と、
を備え、
前記積層構造物は、
前記積層構造物の表面中心における、フォトルミネッセンスのバンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度が1.30以下であり、 前記積層構造物の表面の外縁から5mmの幅を除いた内部領域において、中心線に沿って任意に選択され、中心と前記中心から離間する2以上の箇所を含む3箇所以上での前記相対黄色強度について、最大値をXmax、最小値をXmin、その平均をXavgとしたとき、相対黄色強度の変動率(Xmax-Xmin)/Xavgが20%以下である、
III族窒化物積層体が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
(a)SiC基板を用意する工程と、
(b)前記SiC基板に対してハロゲン含有ガスを供給し、前記SiC基板の主面からSiを脱離させ、前記主面の表層にSi欠損領域を形成する工程と、
(c)前記Si欠損領域が形成されたSiC基板に水素含有ガスを供給して前記Si欠損領域を除去し、前記主面の表面処理を行う工程と、
(d)処理後の前記主面上にIII族窒化物結晶を成長させる工程と、
を有するIII族窒化物積層体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、III族窒化物積層体において結晶品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るIII族窒化物積層体を示す概略断面図である。
図2図2は、本発明の第1実施形態に係るIII族窒化物積層体の製造方法および半導体素子の製造方法を示すフローチャートである。
図3A図3Aは、SiC基板の主面の一部に変質層を形成した場合を示す概略図である。
図3B図3Bは、図3Aにおいて変質層を除去した場合を示す概略図である。
図4A図4Aは、SiC基板の主面の全域にわたって変質層を形成した場合を示す概略図である。
図4B図4Bは、図4Aにおいて変質層を除去した場合を示す概略図である。
図5図5は、III族窒化物結晶で取得されるフォトルミネッセンス発光スペクトルの概略図である。
図6図6は、相対黄色強度の変動率を算出する場合を説明するための概略図である。
図7図7は、サンプル1の積層構造物のフォトルミネッセンス発光スペクトルである。
図8図8は、サンプル4の積層構造物のフォトルミネッセンス発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<一実施形態>
次に、本発明の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0011】
(1)III族窒化物積層体
図1を用い、本実施形態に係るIII族窒化物積層体について説明する。図1は、本実施形態に係るIII族窒化物積層体を示す概略断面図である。
【0012】
なお、以下では、ウルツ鉱構造を有するIII族窒化物半導体などの結晶において、<0001>軸を「c軸」といい、(0001)面を「c面」という。
【0013】
図1に示すように、III族窒化物積層体1(以下、「積層体1」ともいう)は、例えば、SiC基板10と、III族窒化物結晶をエピタキシャル成長させて形成される積層構造物20と、を備えて構成される。積層構造物20は、InAlGaN(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物結晶を結晶成長させて形成される。本実施形態では、積層構造物20が、核生成層30、チャネル層40、機能層としてバリア層50およびキャップ層60と、を備える場合を例として説明する。
【0014】
(SiC基板)
SiC基板10は、積層構造物20をエピタキシャル成長させるための下地基板である。後述するように、SiC基板10は、主面11に表面処理が施され、積層構造物20を、結晶品質が高く、かつ黄色発光が少なく形成できるように構成される。主面11は、少なくともその一部が表面処理され、好ましくはその全部が表面処理されている。SiC基板10を構成するSiCとして、例えば、ポリタイプ4Hまたはポリタイプ6Hの半絶縁性SiCが用いられる。ここで「半絶縁性」とは、例えば、比抵抗が10Ωcm以上である状態をいう。SiC基板10の、積層構造物20を成長させる下地となる表面は、例えば(0001)面(c面のシリコン面)である。
【0015】
SiC基板10は、例えば、半導体素子を製造する際の生産性を向上させるために大面積を有していることが好ましい。具体的には、SiC基板10の直径は、例えば、2インチ(50mm)以上であり、好ましくは4インチ(100mm)以上であり、より好ましくは6インチ(150mm)以上である。
【0016】
SiC基板10の厚さは、特に限定されるものではないが、SiC基板10の直径に依存する。具体的には、直径2インチのSiC基板10の厚さは、例えば、300μm以上500μm以下(典型的には430μm)であり、直径4インチのSiC基板10の厚さは、例えば、400μm以上1000μm以下(典型的には500μm)であり、直径6インチのSiC基板10の厚さは、例えば、400μm以上1500μm以下(典型的には500μm)である。
【0017】
(核生成層)
核生成層30は、SiC基板10上に設けられている。核生成層30は、後述のチャネル層40を成長させるための結晶核を生成する核生成層として機能する。核生成層30は、SiC基板10の表面処理が施された主面11上にIII族窒化物結晶をエピタキシャル成長させることにより形成されている。例えば核生成層30はAlNで構成される。核生成層30の厚さは特に限定されないが、例えば1nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0018】
(チャネル層)
チャネル層40は、核生成層30上に設けられている。チャネル層40は、例えばHEMTなどの半導体素子の動作時に電子が走行するチャネル層として機能する。チャネル層40は、例えば、核生成層30の主面上にIII族窒化物結晶をエピタキシャル成長させることにより形成されている。チャネル層40は、InAlGa(1-x-y)N(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物で構成され、例えばGaNで構成される。チャネル層40の主面に対して最も近い低指数の結晶面は、例えば、c面((0001)面、Ga面)である。チャネル層40の厚さは、特に限定されないが、例えば、3nm以上1μm未満であることが好ましい。チャネル層40の厚さは、半導体素子に要求される特性に応じて適宜変更することができ、例えばリーク電流を低減する場合であれば厚く、RF応答速度を向上させる場合であれば薄くするとよい。なお、チャネル層40は、核生成層30上に直接設けてもよいが、例えば、核生成層30上に公知のバッファ層を設け、バッファ層を介して核生成層30上に設けてもよい。
【0019】
(バリア層)
バリア層50は、チャネル層40上に設けられている。バリア層50は、チャネル層40内に2次元電子ガス(2DEG)を生成させるとともに、2DEGをチャネル層40内に空間的に閉じ込めるバリア層として機能する。バリア層50は、例えば、チャネル層40の主面上にIII族窒化物結晶をヘテロエピタキシャル成長させることにより形成されている。例えばバリア層50は、チャネル層40を構成するIII族窒化物結晶よりも電子親和力の小さいIII族窒化物、例えばアルミニウム(Al)およびガリウム(Ga)を含むAlGaNで構成されている。バリア層50の厚さは、例えば、1nm以上80nm以下であることが好ましい。
【0020】
(キャップ層)
キャップ層60は、バリア層50上に設けられている。キャップ層60は、例えばHEMTなどの半導体素子のデバイス特性(閾値電圧の制御性等)を向上させるために、バリア層50とその上に設けられる電極とに間に介在する。キャップ層60は、必要に応じて形成され、省略されてもよい。
【0021】
(相対黄色強度)
積層構造物20を構成するIII族窒化物結晶では、下地となるSiC基板10の表面状態により欠陥が生じたり、不純物が混入したりすることで、結晶品質が大きく変動することがある。本実施形態では、積層構造物20は、表面処理されたSiC基板10上に形成されているので、欠陥の発生や不純物の混入が抑制され、高い結晶品質を有する。一般に、III族窒化物結晶の結晶品質が高くなるほど、バンドギャップに対応する波長を有するバンド端発光が発光しやすくなる。一方、欠陥や不純物に起因して結晶品質が低くなると、バンド端発光よりも長く、黄色の波長を有する光(黄色発光)が発光しやすくなる。つまり、結晶品質に応じて、黄色発光の強度が高くなる。この点、積層構造物20は、黄色発光の強度が低く、具体的には、その表面中心において、相対黄色強度が1.30以下となるように構成される。
【0022】
ここで、相対黄色強度について説明する。
【0023】
相対黄色強度は、積層構造物20にフォトルミネッセンス(PL)マッピング測定を行い、取得されるPL発光スペクトルから算出することができる。PLマッピング測定では、積層構造物20の表面に画定された測定位置に対して、光源からレーザ光を照射する。照射するレーザ光の照射径が、測定領域の広さに対応する。レーザ光の照射により、測定位置からPL光が放出される。このPL光を検出器にて検出する。これにより、図5に示すような、測定位置に対応するPL発光スペクトルを取得することができる。図5は、III族窒化物結晶で取得されるフォトルミネッセンス発光スペクトルの概略図である。なお、レーザ光の照射径としては例えば1mmであるとよい。このような照射径であれば、測定領域での平均的な結晶品質を評価することができる。
【0024】
PL発光スペクトルは、図5に示すように、波長と強度との相関を示すものであり、横軸が波長[nm]であり、縦軸が任意単位で表した強度である。PL発光スペクトルは、バンド端発光のピークPNBEと、黄色発光のピークPYLとを有する。黄色発光のピークPYLは、積層構造物20の結晶性の低さに起因する深い準位に対応するピークとなる。
【0025】
バンド端発光のピークPNBEにおけるピーク波長λNBEは、III族窒化物結晶の組成によって変動し得るが、例えばGaNの場合、ピーク波長λNBEは365nmであり、これに対応するエネルギーは3.4eVである。黄色発光のピークPYLにおけるピーク波長λYLは、III族窒化物結晶の組成、成長条件等によって変動し得るが、500nm以上650nm以下の範囲内の波長といえ、例えばGaNの場合、ピーク波長λYLは564nmであり、これに対応するエネルギーは2.2eVである。
【0026】
バンド端発光のピークPNBEと黄色発光のピークPYLは、それぞれ所定の発光強度を有する。黄色発光は、積層構造物20を構成するIII族窒化物結晶の品質に応じて変化し、品質が高くなるほど、黄色発光の発光強度が低くなる傾向がある。つまり、品質が高くなるほど、バンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度が低くなる。
【0027】
このように、積層構造物20は、高い結晶品質を有し、その試料中心において、フォトルミネッセンスの相対黄色強度が1.30以下となるように構成される。相対黄色強度は、1.25以下であることが好ましく、1.20以下であることがさらに好ましい。なお、積層構造物20の表面中心とは、積層構造物20の最上層の表面の中心を示す。本実施形態では、積層構造物20の最上層がキャップ層60であるため、キャップ層60の表面中心における相対黄色強度が1.30以下となる。
【0028】
また、積層構造物20は、その層中で結晶品質が高く、かつ均一となるように構成される。つまり、積層構造物20では、結晶品質が局所的に突出して低くなる箇所の発生が抑制されている。具体的には、積層構造物20は、その表面の外縁から5mmの幅を除いた内部領域において、表面の中心線に沿って選択され、中心と中心から離間する任意の2以上の箇所を含む3箇所以上での相対黄色強度について、最大値をXmax、最小値をXmin、その平均をXavgとしたとき、相対黄色強度の変動率(Xmax-Xmin)/Xavgが20%以下となることが好ましい。この変動率は、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。なお、積層構造物20の表面においては、外縁領域での成長が不安定であり、結晶品質が低くなる傾向があるため、相対黄色強度は、後述の実施例に示すように、外縁領域を除いた内部領域を測定するとよい。外縁領域の幅は特に限定されないが、例えば5mmとするとよい。
【0029】
相対黄色強度の変動率は、例えば図6に示すように求めることができる。図6は、相対黄色強度の変動率を算出する場合を説明するための概略図であり、積層構造物20を上面視した図である。図6では、積層構造物20の表面21において、中心線(図中の破線)に沿って、中心21A、中心21Aから所定の距離をおいて離間する箇所21Bおよび箇所21Cの3箇所が選択される。一般的に、相対黄色強度は、積層構造物20の中心ほど低く、外縁に向かうほど高くなる傾向がある。そのため、本実施形態では、中心を含む3箇所以上を選択する。そして、それぞれの箇所での相対黄色強度を求め、これらの数値からXmax、XminおよびXavgを算出し、相対黄色強度の変動率を算出することができる。なお、変動率の算出に際しては、中心を含む3箇所を少なくとも選択すればよく、4箇所以上を選択してもよい。
【0030】
このように、相対黄色強度の変動率が20%以下となるように構成される積層構造物20によれば、その表面21の面内で相対黄色強度の変動が小さく、結晶品質が層中で均一に高くなる。
【0031】
(2)III族窒化物積層体の製造方法および半導体素子の製造方法
次に、図2を用い、本実施形態に係るIII族窒化物積層体の製造方法および半導体素子の製造方法について説明する。図2は、本実施形態に係るIII族窒化物積層体の製造方法および半導体素子の製造方法を示すフローチャートである。
【0032】
本実施形態に係る半導体素子の製造方法は、例えば、SiC基板準備工程S10と、搬入工程S20と、洗浄脱脂工程S30と、水素アニール工程S40と、変質層形成工程S50と、変質層除去工程S60と、核生成層形成工程S70と、チャネル層形成工程S80と、バリア層形成工程S90と、キャップ層形成工程S100と、搬出工程S110とを有する。
【0033】
(S10:SiC基板準備工程)
まず、SiC基板10を準備する。SiC基板10としては、表面にSiCが露出し、その表面にSiC以外の成分が実質的に積層されていない基板を用いることができる。SiC基板10としては、例えば、ポリタイプ4Hもしくは6Hの半絶縁性SiC基板を用いることができる。
【0034】
(S20:洗浄脱脂工程)
続いて、SiC基板10を例えば公知の洗浄や脱脂処理を行うとよい。洗浄や脱脂としては、酸やアルカリ水溶液、有機溶媒、界面活性剤、そして純水等を用いることができる。
【0035】
(S30:搬入工程)
続いて、洗浄および脱脂処理を行ったSiC基板10を公知の成膜装置の処理容器内に搬入する。本実施形態では、後述する水素アニール工程S40~変質層除去工程S60を含む表面処理を、核生成層形成工程S70~キャップ層形成工程S100などの結晶成長を行う成膜装置にて連続して行う。
【0036】
成膜装置は、処理容器と、ガス供給機構と、サセプタと、ヒータとを備えて構成される。サセプタは、処理容器内に配置され、SiC基板10を載置可能であって、ヒータによりSiC基板10を加熱できるように構成される。ガス供給機構は、処理容器内に所定の処理ガスを供給するように構成される。成膜装置としては、ホットウォール型およびコールドウォール型のいずれを用いてもよい。後述の表面処理の処理温度を十分に高め、より確実に表面処理を行う観点から、コールドウォール型の処理装置が好ましい。
【0037】
成膜装置としては、例えば有機金気相成長(MOVPE:Metalorganic Vapor Phase Epitaxy)法により成長を行うMOVPE装置や、ハイドライド気相成長(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)法により成長を行うHVPE装置などを用いることができる。以下では、MOVPE装置を用いて行う場合を例として説明する。
【0038】
(S40:水素アニール工程)
続いて、処理容器内のサセプタに載置したSiC基板10を還元雰囲気中でアニール処理する。SiC基板10を、例えば水素ガス(Hガス)雰囲気中で昇温し、水素アニール処理を行う。水素アニール処理によれば、SiC基板10の表面に形成されている酸化膜(自然酸化膜等)を除去することができ、後述の変質層形成工程S50や変質層除去工程S60による表面処理をより確実に行うことができる。水素アニール処理において、処理温度は例えば950℃以上1300℃以下であり、処理時間は例えば10秒以上600秒以下とするとよい。
【0039】
(S50:変質層形成工程)
次に、III族窒化物結晶を成長させる前にSiC基板10の主面11に変質層としてSi欠損領域を形成する。具体的には、サセプタに載置したSiC基板10をヒータにより所定温度に加熱するとともに、ガス供給機構により処理ガスとして、ハロゲン含有ガスを供給する。この供給により、主面11からシリコン(Si)を脱離させ、主面11にSi欠損領域を形成することができる。Si欠損領域は、主面11を構成するSiCがハロゲン含有ガスとの反応によりハロゲン化シリコンガスを生成し、Siが脱離することで形成されると推測される。Si欠損領域に残存する炭素(C)はグラフェン化していてもよい。
【0040】
Si欠損領域は、SiC基板10における主面11の表層部分に該当する領域である。その厚さは、少なくとも1原子層であればよく、特に限定されない。
【0041】
変質層形成工程S50では、SiC基板10の主面11の全域にわたってSi欠損領域を形成するような条件で処理を行うことが好ましい。例えば、図3Aに示すように、SiC基板10の主面11の一部にSi欠損領域12を形成する場合、図3Bに示すように、後述の変質層除去工程S60で主面11の一部のみを表面改質することになる。この一部が改質された主面11上に結晶成長を行う場合、改質されていない箇所上に形成される結晶の品質が低くなることがある。これに対して、例えば図4Aに示すように、主面11の全域にわたってSi欠損領域12を形成する場合、図4Bに示すように、変質層除去工程S60にて主面11を全域にわたって改質させることが可能となる。この結果、積層構造物20の層中で、結晶品質を均一に向上させることができる。
【0042】
変質層形成工程S50の処理条件としては、例えば処理温度(SiC基板10の加熱温度)や処理時間などがある。Si欠損領域を主面11の全域にわたって形成し、表面欠陥の面内分布のばらつきを抑制する観点からは、処理温度としては、850℃以上1150℃以下とすることが好ましく、900℃以上1050℃以下とすることがより好ましい。処理時間としては、例えば、120秒以上720秒以下とすることが好ましい。また、Si欠損領域を主面11の全域にわたって形成する観点からは、上記処理温度をSiC基板10の全面にわたって均一となるように制御することが好ましい。
【0043】
また、変質層形成工程S50において、ハロゲン含有ガスは、反応性を調整するため、例えば窒素ガス(N)などの不活性ガスと混合して供給するとよい。処理容器において、供給されたハロゲン含有ガスはキャリアガス等と混合され、所定の濃度に希釈されることになる。ハロゲン含有ガスの濃度とは、反応容器内の雰囲気中に占めるハロゲン含有ガスのモル比率を示す。この濃度は特に限定されないが、SiC基板10の主面11を全域にわたってSi脱離させつつも、厚さ方向で過度に脱離させないようにする観点からは、0.1%以上2%未満とすることが好ましく、0.1%以上1.5%以下とすることがより好ましい。
【0044】
ハロゲン含有ガスとしては、Fガス、Clガス、Brガス、Iガス、NFガス、ClFガス、HFガス、HClガス、HBrガス、および、HIガスからなる群より選択される少なくともいずれかのガスを用いることが好ましい。これらのガスによれば、SiCからSiを脱離させ、Si欠損領域をより確実に形成することができる。なお、Si脱離処理の雰囲気ガスとしては、例えば、窒素ガス(Nガス)を用いるとよい。
【0045】
(S60:変質層除去工程)
続いて、同一のMOVPE装置の処理容器内で、SiC基板10の主面11から変質層としてのSi欠損領域を除去する。ここでは、処理容器内が変質層形成工程S50によりハロゲン含有ガス雰囲気となっているので、例えばNガスで処理容器内を置換した後、SiC基板10を加熱しつつ、ガス供給機構により処理容器内に処理ガスとして水素含有ガスを供給する。この供給により、主面11の表面に形成されたSi欠損領域を除去する。Si欠損領域の除去は、Si欠損領域に含まれるC成分が水素含有ガスとの反応により炭化水素ガスを生成し、Cが脱離することで行われると推測される。Si欠損領域は表面欠陥を生じさせる要因となりうるため、Si欠損領域を除去することで、積層構造物20の結晶品質を均一に向上させることができる。なお、処理容器内のガスの置換は、例えばハロゲン含有ガスの供給を停止し、処理容器内を昇温しつつ圧力を一時的に高めた後、再度圧力を下げるとよい。
【0046】
変質層除去工程S60では、主面11の全域からSi欠損領域を除去するような条件で処理を行うことが好ましい。これにより、主面11の全域にわたってSi欠損領域を除去し、Si欠損領域による結晶品質の低下を抑制することができる。この結果、積層構造物20の相対黄色強度とその変動率を低く抑制することができる。
【0047】
変質層除去工程S60の処理条件としては、例えば処理温度(SiC基板10の加熱温度)や処理時間などがある。主面11の全域からSi欠損領域を除去する観点からは、処理温度としては、1050℃以上1250℃以下とすることが好ましく、1100℃以上1200℃以下とすることがより好ましい。処理時間としては、例えば150秒以上600秒以下とすることが好ましい。また、Si欠損領域を主面11の全域にわたって除去する観点からは、上記処理温度をSiC基板10の全面にわたって均一となるように制御することが好ましい。
【0048】
また、Si欠損領域除去の処理温度としては、Si欠損領域をより確実に除去する観点からは、Si欠損領域除去処理の処理温度を、上述したSi脱離処理の処理温度よりも高くすることが好ましい。これにより、Cの脱離を促進し、Si欠損領域をより確実に除去することができる。変質層形成工程S50で処理温度を比較的低くすることにより、SiC基板10の表面において過度なSiの脱離を抑制する一方、変質層除去工程S60での処理温度を比較的高くすることにより、変質層形成工程S50で形成されたSi欠損領域をより確実に除去することができる。
【0049】
Si欠損領域の除去を好適に行う観点から、水素含有ガスとしては、Hガス、NHガス、Nガス、Nガス、および、Nガスからなる群より選択される少なくともいずれかのガスを用いることが好ましい。なお、Si欠損領域除去処理の雰囲気ガスとしては、例えばNガスまたはHガスを用いるとよい。
【0050】
(S70:核生成層形成工程)
次に、変質層除去工程S60に連続して処理容器内でSiC基板10の主面11上にIII族窒化物結晶を結晶成長させる。ここでは、例えばAlNの単結晶をヘテロエピタキシャル成長させ、核生成層30を形成する。SiC基板10は表面処理によりその主面11が表面改質されているので、結晶品質の高い核生成層30を形成することができる。
【0051】
核生成層30を例えばAlNで形成する場合、III族(Al)原料ガスとしては、例えばトリメチルアルミニウム(TMA)ガスを用いる。N原料ガスとしては、例えば、NHガスを用いる。これらの原料ガスを、水素(H)ガス、窒素(N)ガス、またはこれらの混合ガスを用いたキャリアガスと混合して供給してもよい。
【0052】
核生成層30を形成するための結晶成長条件としては、例えば成長温度、V/III比および成長圧力などがあるが、これらは従来公知の数値に設定するとよい。なお、ここでいう「V/III比」とは、III族(Al)原料ガスの供給量(分圧)に対するV族(N)原料ガスの供給量(分圧)の比である。
【0053】
(S80:チャネル層形成工程)
次に、同一のMOVPE装置の処理容器内で核生成層30の上面にIII族窒化物結晶を結晶成長させる。ここでは、例えばGaNの単結晶をヘテロエピタキシャル成長させ、チャネル層40を形成する。
【0054】
チャネル層40を例えばGaNで形成する場合、III族(Ga)原料ガスとして、例えば、トリメチルガリウム(Ga(CH、TMG)ガスを用いる。N原料ガスとしては、例えば、NHガスを用いる。これらの原料ガスを、水素(H)ガス、窒素(N)ガス、またはこれらの混合ガスを用いたキャリアガスと混合して供給してもよい。
【0055】
チャネル層40を形成するための結晶成長条件としては、例えば成長温度、V/III比および成長圧力などがあるが、これらは従来公知の数値に設定するとよい。
【0056】
(S90:バリア層形成工程)
次に、同一のMOVPE装置の処理容器内で、チャネル層40の上面に、チャネル層40を構成するGaNよりも電子親和力の小さいIII族窒化物の単結晶をヘテロエピタキシャル成長させ、バリア層50を形成する。
【0057】
バリア層50を、例えばAlN、AlGaN、InAlN、またはAlInGaNの単結晶で形成する場合、Al原料ガスとしては、例えば、トリメチルアルミニウム(Al(CH、TMA)ガスを用いる。In原料ガスとしては、例えば、トリメチルインジウム(In(CH、TMI)ガスを用いる。他のガスについては、チャネル層形成工程S80と同様のガスを用いる。
【0058】
(S100:キャップ層形成工程)
次に、同一のMOVPE装置の処理容器内で、バリア層50の上面上に、III族窒化物の単結晶として例えばGaNをヘテロエピタキシャル成長させ、キャップ層60を形成する。
【0059】
(S110:搬出工程)
続いて、処理容器内から積層体1を搬出する。以上により、本実施形態の積層体1が得られる。
【0060】
(3)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0061】
(a)SiC基板10では、結晶成長の前に洗浄や脱脂、水素アニール処理を行ったとしても、積層構造物20を形成したときに、その結晶品質を安定して高くできないことがある。本発明者等の検討によると、この課題は、GaN基板等では生じにくく、SiC基板10に特有のものであることが見出された。この点、本実施形態では、SiC基板10の主面11上にIII族窒化物結晶を成長させる前に予め、SiC基板10に対して変質層としてSi欠損領域の形成とその除去を行っている。変質層形成工程S50では、ハロゲン含有ガスを供給することで、SiC基板10の主面11からSiを脱離させ、主面11にSi欠損領域を形成する。また、変質層除去工程S60では、水素含有ガスを供給することで、Si欠損領域を除去する。これにより、主面11を原子層レベルで改質させることができる。この表面改質された主面11に結晶成長を行うことで、積層構造物20の結晶品質を高くするとともに、結晶品質が局所的に低くなる箇所の発生を抑制することができる。
【0062】
(b)積層体1の積層構造物20は、上記(a)に示す表面処理が施された主面11にIII族窒化物結晶を成長させて形成されることで、その表面中心において、相対黄色強度が1.30以下となる。また、その表面の中心を含む3箇所以上を選択したときに、それらの相対黄色強度の変動率が20%以下となる。このような積層体1によれば、黄色発光が抑制されるような高い結晶品質を有するので、半導体素子を作製したときに、高いデバイス特性を実現することができる。また、その層中で結晶品質が均一に高く、局所的に結晶品質が低くなる箇所の発生が抑制されているので、半導体素子の歩留まりを向上させることができる。
【0063】
(c)変質層除去工程S60を、主面11の全域から変質層としてSi欠損領域を除去するような条件で行うことが好ましい。これにより、結晶品質を低下させうるSi欠損領域を除去し、相対黄色強度やその変動率をより低減することができる。具体的には、積層構造物20の表面中心における相対黄色強度を1.25以下、その変動率を15%以下とすることができる。
【0064】
(d)上記(c)による効果をより確実に実現する観点からは、変質層除去工程S60での処理温度を1050℃以上1250℃以下とすることが好ましい。また、処理時間を150秒以上600秒以下とすることが好ましい。
【0065】
(e)また、上記(c)の処理とともに、変質層形成工程S50を、SiC基板10の主面11の全域にわたってSi欠損領域を形成するような条件で行うことが好ましい。これにより、主面11の全域を改質することが可能となる。そのため、積層構造物20の表面において結晶品質をより高く、結晶品質が局所的に低くなる箇所の発生をより確実に低減することができる。具体的には、積層構造物20の表面中心における相対黄色強度を1.20以下、その変動率を10%以下とすることができる。
【0066】
(f)上記(e)による効果をより確実に実現する観点からは、変質層形成工程S50での処理温度を850℃以上1150℃以下とすることが好ましい。また、処理時間を150秒以上600秒以下とすることが好ましい。
【0067】
(g)変質層除去工程S60での処理温度を変質層形成工程S50よりも高くすることが好ましい。これにより、変質層としてのSi欠損領域を過度に形成することを抑制しつつ、変質層除去工程S60でのC脱離の活性を高めてSi欠損領域をより確実に除去することができる。
【0068】
(h)変質層形成工程S50や変質層除去工程S60を含む表面処理と積層構造物20の結晶成長とを同一の成膜装置で連続して行うことが好ましい。これにより、積層体1を製造する際の生産性を向上させることができる。また、SiC基板10の大気暴露による汚染を回避することができ、結晶品質をより向上させることができる。この結果、積層体1を用いて製造される半導体デバイスのデバイス特性や信頼性を向上させることができる。
【0069】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0070】
上述の実施形態では、積層体1が、核生成層30、チャネル層40、バリア層50およびキャップ層60で構成される積層構造物20を備える場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、積層構造物20は核生成層30およびチャネル層40を積層させて構成されてもよい。また例えば、積層構造物20は核生成層30、チャネル層40およびバリア層50を積層させて構成されてもよい。また例えば、積層構造物20は、チャネル層40とバリア層50との間に、AlN層を介在するように構成されてもよい。また例えば、積層構造物20は、チャネル層40内にInGaN層やAlGaNを介在するように構成されてもよい。いずれの場合においても、積層構造物20の結晶品質が高くなるので、その最上面を構成する層において、相対黄色強度やその変動率が上記所定値を満たす。
【0071】
上述の実施形態では、核生成層30およびチャネル層40の成長をMOVPE法により行う場合について説明したが、いずれか一方もしくは両方の成長を例えばハイドライド気相成長(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)法により行ってもよい。
【0072】
上述の実施形態では、半導体素子としてHEMTの場合を説明したが、本発明はこれに限定されない。上述の積層体1から縦型のパワー半導体を作製することも可能である。
【0073】
また、Si脱離処理およびSi欠損領域除去処理は、交互に複数回行っても良い。これらの処理は1回だけ行う場合でも所望の効果を得られるものの、これらを繰り返すことにより、SiC基板10の主面11をより確実に表面処理することができ、結晶品質をより確実に向上させることができる。
【実施例0074】
次に、本開示に係る実施例を説明する。これらの実施例は本開示の一例であって、本開示はこれらの実施例により限定されない。
【0075】
本実施例では、III族窒化物積層体を作製し、その表面における欠陥密度を評価した。以下、具体的に説明する。
【0076】
(1)III族窒化物積層体の作製
本実施例では、以下に示すように、準備したSiC基板上にIII族窒化物結晶を成長させ、積層体を作製した。
【0077】
本実施例では、まず、SiC基板を準備した。続いて、SiC基板に対して洗浄および脱脂を行った。脱脂を行ったSiC基板をMOVPE装置の処理容器に導入した。続いて、水素アニール工程にて、処理容器内をHガス雰囲気としてSiC基板を加熱した。続いて、変質層形成工程にて、処理容器内をNガス雰囲気として、SiC基板を所定の処理温度で加熱するとともに、塩素含有ガスとしてClガスを供給した。このときClガスの供給量は、処理容器内における雰囲気中のClガスの濃度が1.1%となるように調整した。これにより、SiC基板の主面からSi脱離させ、その表面に変質層としてSi欠損領域を形成した。変質層形成工程後、処理容器内を不活性ガスで置換した。続いて、変質層除去工程にて、処理容器内をNガス雰囲気として、SiC基板を所定の処理温度で加熱するとともに、水素含有ガスとしてNHガスを供給した。これにより、SiC基板の主面からCを脱離させ、Si欠損領域を除去した。続いて、同一の処理容器内にて、SiC基板の主面上に以下の成長条件で核生成層、チャネル層、バリア層およびキャップ層からなる積層構造物を結晶成長させて、積層体を作製した。本実施例では、変質層形成工程および変質層除去工程の処理温度および処理時間を下記表1に示すように適宜変更し、サンプル1~3の積層体を作製した。また、サンプル4の積層体は、変質層形成工程および変質層除去工程を行わない以外は、サンプル1~3と同様の操作に作製した。
【0078】
【表1】
【0079】
なお、SiC基板、水素アニール処理の処理条件、積層構造物の各層の成長条件は以下のとおりである。
【0080】
(SiC基板)
材質:SiC(半絶縁性)
直径:6インチ
厚さ:500μm
下地面に対して最も近い低指数の結晶面:c面(下地面のパターン加工なし)
ポリタイプ:6H
【0081】
(水素アニール工程での処理条件)
処理温度:950℃~1300℃
処理時間:10秒~600秒
ガス雰囲気:Hガス
【0082】
(核生成層の成長条件)
材質:AlN
成長方法:MOVPE法
成長温度:1200℃~1290℃
設計膜厚:10nm~13nm
V/III比:5000~25000
成長圧力:0.059気圧(atm)~0.098気圧
【0083】
(チャネル層の成長条件)
材質:GaN
成長方法:MOVPE法
成長温度:1100℃~1200℃
V/III比:1000~3000
成長圧力:0.098気圧(atm)~0.197気圧
設計膜厚:400nm
【0084】
(バリア層の成長条件)
材質:AlGaN
成長方法:MOVPE法
成長温度:1100℃~1200℃
成長圧力:0.098気圧(atm)~0.197気圧
設計膜厚:20nm
【0085】
(キャップ層)
材質:GaN
成長方法:MOVPE法
設計膜厚:2nm
【0086】
(2)評価
作製したサンプル1~4について、積層構造物の表面における相対黄色強度とその変動率を評価した。ここでは、フォトルミネッセンス(PL)測定装置(株式会社堀場製作所製の「Photoluminor-D」)を用いて、相対黄色強度およびその変動率を測定した。具体的には、まず、積層体の表面において、その中心線にそって、中心(箇所A)、箇所Aから外縁側に向かって60mm離間した箇所(箇所B)、箇所Aから箇所Bとは反対側に向かって60mm離間した箇所(箇所C)の3箇所を測定位置として選択した。次に、PL測定装置を用いて、各測定位置にレーザ光を照射し、PL発光スペクトルを取得した。各サンプルのPL発光スペクトルを図7および図8に示す。図7および図8では、サンプル1およびサンプル4の3箇所で測定された発光スペクトルがそれぞれ示される。各図中、(0,0)が中心である箇所A、(0,60)が箇所B、(0,-60)が箇所CでのPL発光スペクトルを示す。そして、発光スペクトルから、各サンプルについて、測定位置での相対黄色強度と、相対黄色強度の変動率とを算出した。
【0087】
なお、PL測定においては、He-Cdレーザを用いて、レーザ波長を325nm、レーザ出力を25~30mW、レーザ光の照射径を1mmとした。
【0088】
(3)評価結果
上述した評価による結果を表1にまとめる。
【0089】
表1に示すように、サンプル1~3では、結晶成長の前に予め変質層の形成(Si脱離によるSi欠損領域の形成)および変質層の除去(C脱離によるSi欠損領域の除去)を行うことで、積層構造物の表面中心(箇所A)での相対黄色強度と、複数箇所(箇所A~箇所C)での相対黄色強度から算出される変動率とを低くできることが確認された。一方、サンプル4では、洗浄、脱脂および水素アニール処理を行ったものの、変質層の形成と除去を行わずに結晶成長を行ったため、相対黄色強度やその変動率がサンプル1~3と比較して高くなることが確認された。つまり、サンプル1~3では、積層構造物の結晶品質を高くでき、また、結晶品質が局所的に低くなる箇所の発生を抑制できることが確認された。
【0090】
また、サンプル2では、サンプル3と比較して相対黄色強度およびその変動率をより低減できることが確認された。これは、変質層除去工程における処理温度を1120℃として、サンプル3の1050℃よりも高く設定することで、変質層の除去をより促進できたためと推測される。つまり、サンプル2では、サンプル3と比較して、SiC基板の主面に形成された変質層をより確実に除去し、その残存を抑制できたためと推測される。この結果、積層構造物の結晶品質をより高く、かつより均一に形成できることが確認された。
【0091】
さらに、サンプル1では、サンプル2と比較して、相対黄色強度およびその変動率をより低減できることが確認された。これは、変質層形成工程の処理温度を970℃として、サンプル2の890℃よりも高く設定することで、SiC基板の主面の全域にわたって変質層を形成するとともに、形成した変質層をすべて除去できたためと推測される。つまり、サンプル1では、サンプル2と比較して、SiC基板の主面を全域にわたってより確実に表面処理できたためと推測される。この結果、積層構造物の結晶品質をより高く、かつより均一に形成できることが確認された。
【0092】
以上のように、SiC基板の主面を表面処理により改質することで、その主面上に積層構造物を結晶成長させたときに、積層構造物の結晶品質を高め、また、結晶品質が局所的に低くなる箇所の発生を抑制できることが確認された。
【0093】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0094】
(付記1)
SiC基板と、
基板上に設けられ、III族窒化物結晶をエピタキシャル成長させて形成される積層構造物と、
を備え、
前記積層構造物は、
前記積層構造物の表面中心における、フォトルミネッセンスのバンド端発光強度に対する黄色発光強度の比である相対黄色強度が1.30以下であり、 前記積層構造物の表面の外縁から5mmの幅を除いた内部領域において、中心線に沿って任意に選択され、中心と前記中心から離間する2以上の箇所を含む3箇所以上での前記相対黄色強度について、最大値をXmax、最小値をXmin、その平均をXavgとしたとき、相対黄色強度の変動率(Xmax-Xmin)/Xavgが20%以下である、
III族窒化物積層体。
【0095】
(付記2)
前記表面中心における前記相対黄色強度が1.25以下であり、
前記相対黄色強度の変動率が15%以下である、
付記1に記載のIII族窒化物積層体。
【0096】
(付記3)
前記表面中心における前記相対黄色強度が1.20以下であり、
前記相対黄色強度の変動率が10%以下である、
付記1に記載のIII族窒化物積層体。
【0097】
(付記4)
前記積層構造物は、
前記SiC基板上に設けられる核生成層と、
前記核生成層上に設けられ、InAlGaN(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)の組成式で表されるチャネル層と、を備え、
前記積層構造物の表面が前記チャネル層である、
付記1~3のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0098】
(付記5)
前記積層構造物は、
前記SiC基板上に設けられる核生成層と、
前記核生成層上に設けられ、InAlGaN(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)の組成式で表されるチャネル層と、
前記チャネル層上に設けられ、窒化ガリウムよりも広いバンドギャップを有するIII族窒化物を含む機能層と、を備え、
前記積層構造物の表面が前記機能層である、
付記1~3のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0099】
(付記6)
直径が4インチ以上である、
付記1~5のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体。
【0100】
(付記7)
(a)SiC基板を用意する工程と、
(b)前記SiC基板に対してハロゲン含有ガスを供給し、前記SiC基板の主面からSiを脱離させ、前記主面の表層にSi欠損領域を形成する工程と、
(c)前記Si欠損領域が形成されたSiC基板に水素含有ガスを供給して前記Si欠損領域を除去し、前記主面の表面処理を行う工程と、
(d)処理後の前記主面上にIII族窒化物結晶を成長させる工程と、
を有するIII族窒化物積層体の製造方法。
【0101】
(付記8)
前記(c)を、前記SiC基板の主面の全域から前記Si欠損領域を除去するような条件で行う、
付記7に記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0102】
(付記9)
前記(b)を、前記SiC基板の主面の全域にわたって前記Si欠損領域を形成するような条件で行う、
付記7又は8に記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0103】
(付記10)
前記(c)を前記(b)よりも高い温度で行う、
付記7~9のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0104】
(付記11)
前記(b)を温度850℃~1150℃で行う、
付記7~10のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0105】
(付記12)
前記(b)、前記(c)および前記(d)を、同一の処理容器内で連続して行う、
付記7~11のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0106】
(付記13)
前記(b)と前記(c)とを、交互に複数回行う、
付記7~12のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0107】
(付記14)
前記(b)を行う前に、前記SiC基板を還元雰囲気中でアニールする工程を有する、
付記7~13のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【0108】
(付記15)
前記(d)では、前記III族窒化物結晶として、InAlGaN(0≦x≦1,0≦y≦1,x+y≦1)の組成式で表される物質を成長させる、
付記7~14のいずれか1つに記載のIII族窒化物積層体の製造方法。
【符号の説明】
【0109】
1 III族窒化物積層体(積層体)
10 SiC基板
20 積層構造物
30 核生成層
40 チャネル層
50 バリア層
60 キャップ層
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8