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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025105905
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】点眼型洗眼用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4168 20060101AFI20250703BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20250703BHJP
   A61K 31/4402 20060101ALI20250703BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20250703BHJP
【FI】
A61K31/4168
A61P27/02
A61K31/4402
A61K31/355
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025075790
(22)【出願日】2025-04-30
(62)【分割の表示】P 2020213412の分割
【原出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 貴史
(57)【要約】
【課題】防腐性に優れた点眼型洗眼用組成物等を提供することを目的とする。
【解決手段】アラントインを0.005~0.03w/v%で含有し、第4級アンモニウム塩系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール及びソルビン酸類から選択される防腐剤を含有しない、点眼型洗眼用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラントインを0.005~0.03w/v%で含有し、第4級アンモニウム塩系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール及びソルビン酸類から選択される防腐剤を含有しない、点眼型洗眼用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
点眼型洗眼用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、洗眼用カップ(アイカップ)を用いた洗眼方法や点眼による洗眼方法が知られている。洗眼用カップを用いた洗眼方法の一例として、洗眼用カップに洗眼液を適量(例えば5mL程)注ぎ、次いで、該カップを片側の眼周辺に押し当てて該カップ内の洗眼液と眼とを接触させ、数回まばたきを行うことにより洗眼する方法が知られている。また、点眼による洗眼方法の一例として、洗眼液を眼に直接点眼して洗眼する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
洗眼用カップを用いた洗眼方法と比較して、点眼による洗眼方法は、洗眼用カップが不要であるため携帯性に優れている、外出先でも使用しやすいといった利点がある。このように点眼による洗眼方法は使い勝手が良いが、直接点眼されるものであり、外出先で使用する場面も多いことから、洗眼液が微生物汚染に曝されるリスクも高い。このような汚染リスクを低減するために、塩化ベンザルコニウム等の防腐剤を洗眼液に配合することが知られている。しかし、角膜への影響やコンタクトレンズへの吸着等の点から、このような防腐剤の配合は好ましくない傾向がある。このため、塩化ベンザルコニウム等の防腐剤を配合しなくても、防腐性に優れた点眼型洗眼用組成物が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-210265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本開示は、防腐性に優れた点眼型洗眼用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題に鑑み鋭意検討を行ったところ、点眼型洗眼用組成物において特定量のアラントインを配合させた場合に、防腐剤を配合していないにもかかわらず、点眼型洗眼用組成物において所望の防腐性を付与できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて更に検討を重ねることにより完成されたものである。すなわち、本開示は、次に掲げる発明を包含する。
項1.アラントインを0.005~0.03w/v%で含有し、第4級アンモニウム塩系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール及びソルビン酸類から選択される防腐剤を含有しない、点眼型洗眼用組成物。
項2.更に、クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、項1に記載の点眼型洗眼用組成物。
項3.更に、トコフェロール酢酸エステルを含有する、項1または2に記載の点眼型洗眼用組成物。
【発明の効果】
【0007】
第4級アンモニウム塩系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール及びソルビン酸類から選択される防腐剤を含有しない点眼型洗眼用組成物に、アラントインを0.005~0.03w/v%となるように配合することにより、該洗眼用組成物に防腐作用を付与することができる。このようにして防腐作用が付与された、アラントインを
0.005~0.03w/v%で含有し、該防腐剤を含有しない、点眼型洗眼用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示に包含される実施形態について更に詳細に説明する。
【0009】
本開示に包含される点眼型洗眼用組成物は、アラントインを0.005~0.03w/v%で含有し、第4級アンモニウム塩系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール及びソルビン酸類から選択される防腐剤を含有しない。
【0010】
アラントインは、化学式Cで表される公知の化合物である。該点眼型洗眼用組成物中、アラントインの含有量は0.005~0.03w/v%である。この限りにおいて制限されないが、該組成物の防腐性を向上させる観点から、該組成物中、アラントインの含有量は好ましくは0.006~0.03w/v%、より好ましくは0.01~0.03w/v%、更に好ましくは0.015~0.03w/v%が例示される。
【0011】
該組成物は、第4級アンモニウム塩系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール及びソルビン酸類から選択される防腐剤を含有しない。該防腐剤は、点眼、洗眼分野で従来公知の防腐剤である。第4級アンモニウム系防腐剤として、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物等が例示される。パラオキシ安息香酸エステル類として、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル、パラオキシ安息香酸エステルの塩(ナトリウム塩等のアルカリ金属塩等)等が例示される。ソルビン酸類として、ソルビン酸、ソルビン酸の塩(ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属等)等が例示される。
【0012】
該組成物は、更に、クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種を含有してもよい。クロルフェニラミンやその塩は抗ヒスタミン剤として知られており、クロルフェニラミンの塩は制限されないが、該塩として、マレイン酸クロルフェニラミン等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。クロルフェニラミン及びその塩を含有する場合、その含有量は制限されないが、該組成物の防腐性を向上させる観点から、該組成物中、クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種の合計量で、好ましくは0.0002~0.005w/v%、より好ましくは0.0003~0.004w/v%、更に好ましくは0.0005~0.003w/v%、特に好ましくは0.001~0.003w/v%が
例示される。また、クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される1種の含有量は、本開示の効果が得られる限り制限されないが、該組成物中、アラントインの含有量1質量部あたり、好ましくは0.03~1.5質量部、より好ましくは0.08~1.5質量部、更に好ましくは0.1~1質量部が例示される。
【0013】
該組成物は、更にトコフェロール酢酸エステルを含有してもよい。トコフェロール酢酸エステルには、α、γまたはδ-トコフェロールと酢酸のエステルが含まれる。トコフェ
ロール酢酸エステルとして、好ましくはα-トコフェロールと酢酸のエステル等が例示さ
れ、dl-α-トコフェロール酢酸エステル、d-α-トコフェロール酢酸エステル(天然型ビタミンE)等が例示され、好ましくはdl-α-トコフェロール酢酸エステル等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。トコフェロール酢酸エステルを含有する場合、その含有量は制限されないが、該組成物の防腐性を向上させる観点から、該組成物中、好ましくは0.001~0.007w/v%、より好ましくは0.0015~0.006w/v%、更に好ましくは0.002~0.005w/v%が例示される。また、トコフェロール酢酸エステルの含有量は、本開
示の効果が得られる限り制限されないが、該組成物中、アラントインの含有量1質量部あたり、好ましくは0.01~1.5質量部、より好ましくは0.05~1質量部、更に好ましくは0.08~1質量部が例示される。
【0014】
本開示の点眼型洗眼用組成物は、点眼や洗眼における使用に許容可能な任意の他の成分を更に含有してもよい。該他の成分として、本開示を制限するものではないが、緩衝剤、安定剤、等張化剤、溶剤、pH調整剤、増粘剤、薬効成分、清涼化剤等が例示される。該他の成分は、本開示の効果を妨げないことを限度として、目的等に応じて適宜選択すればよく、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよく、その配合量も適宜決定すればよい。
【0015】
該他の成分の一例として緩衝剤を挙げると、緩衝剤としてホウ酸、ホウ砂等が例示される。緩衝剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、該組成物がホウ酸を含有する場合、ホウ酸の含有量は、本開示の効果を妨げない限り制限されず、該組成物中、好ましくは0.1~2.5w/v%が例示され、より好ましくは0.2~1.5w/v%が例示される。該組成物がホウ砂を含有する場合も該含有量は適宜決定すればよい。また、該組成物は、例えば、ホウ酸、ホウ砂の両方を含有してもよく、これらの一方のみを含有してもよい。また、該組成物は、ホウ酸やホウ砂以外の緩衝剤を含有してもよく、含有しなくてもよい。
【0016】
該他の成分の一例として安定剤を挙げると、安定剤としてポリソルベート(ポリソルベート80、ポリソルベート60、ポリソルベート20等)、エデト酸ナトリウム(水和物を含む)等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。該組成物が安定剤を含有する場合、安定剤の含有量は、本開示の効果を妨げない限り制限されず、該組成物中、好ましくは0.001~0.5w/v%が例示され、より好ましくは0.01~0.2w/v%が例示される。該組成物が安定剤を含有する場合、例えばポリソルベート及びエデト酸ナトリウムから選択されるいずれか1種のみ、または2種のみを含有してもよく、これらを含有せず洗眼用組成物をしてもよい。
【0017】
該他の成分の一例として薬効成分を挙げると、薬効成分として、アミノ酸類、抗炎症剤(消炎剤)、角膜表層保護剤、抗ヒスタミン剤等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
本開示を制限するものではないが、例えばアミノ酸類として、グルタミン酸及びその塩(グルタミン酸ナトリウム等)等のアミノ酸及びその塩;タウリンなどのアミノ酸類似物等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本開示の組成物は、アミノ酸及び/またはその塩を配合しないで調製することができる。ここでいうアミノ酸とは、アミノ基とカルボキシ基の両方の官能基を持つ蛋白質の構成ユニットとなりえるアミノ酸を意味し、例えばL-アスパラギン酸等が含まれる。また、本開示の洗眼用組成物は、アミノ酸類似物を配合しないで調製することもできる。
【0019】
本開示を制限するものではないが、例えば抗炎症剤として、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛、イプシロン-アミノカプロン酸、グリチルリチン酸及びその塩(グリチルリチン酸二カリウム等)等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本開示を制限するものではないが、本開示の組成物は好ましくは硫酸亜鉛及び/または乳酸亜鉛を含有しない。
【0020】
本開示を制限するものではないが、例えば角膜表層保護剤として、コンドロイチン硫酸及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩等が例示され、塩として好ましくはナトリウム塩等
のアルカリ金属塩等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、本開示の組成物がコンドロイチン硫酸及び/またはその塩を配合する場合、該組成物はヒアルロン酸及びその塩を配合せず調製することもできる。また、本開示を制限するものではないが、コンドロイチン硫酸やその塩の分子量として、好ましくは重量平均分子量が0.5万~4.5万程度、より好ましくは1.5万~3万程度が例示される。後述の実施例で使用した重量平均分子量はゲルろ過クロマトグラフィーにより測定される。
【0021】
本開示の組成物が薬効成分を含有する場合、本開示の効果を妨げない限り、薬効成分の含有量は制限されず、該組成物中、薬効成分の含有量は好ましくは0.01~1w/v%、より好ましくは0.025~0.5w/v%、更により好ましくは0.1~0.3w/v%が例示される。なお、前述のアラントイン、クロルフェニラミンやその塩は薬効成分としても公知であるが、これらの成分は、本開示では薬効成分の説明には包含されず、従って、薬効成分の該含有量にアラントイン、クロルフェニラミン及びその塩の含有量は含まれない。
【0022】
本開示の点眼型洗眼用組成物が清涼化剤を含有する場合、清涼化剤としてメントール、カンフル、ボルネオール等が例示される。清涼化剤においてd体、l体、dl体が存在する場合、その別は問わない。清涼化剤は1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。清涼化剤の含有量は、本開示の効果を妨げない限り制限されず、該組成物中、好ましくは0.0001~0.05w/v%、より好ましくは0.002~0.01w/v%が例示される。
【0023】
本開示の点眼型洗眼用組成物は、アラントイン、必要に応じてクロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、トコフェロール酢酸エステル、他の成分を混合することにより製造することができる。ここで、アラントインは組成物中0.005~0.03w/v%となるように混合される。また、該組成物は、第4級アンモニウム塩系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール及びソルビン酸類から選択される防腐剤を含有しない。
【0024】
このことから、本開示の点眼型洗眼用組成物の一実施態様として、(1)アラントイン0.005~0.03w/v%を含有し、必要に応じて(2)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、必要に応じて(3)トコフェロール酢酸エステル、必要に応じて(4)緩衝剤、安定剤、等張化剤、溶剤、pH調整剤、増粘剤、薬効成分及び清涼化剤からなる群より選択される少なくとも1種を含有し、(5)第4級アンモニウム塩系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール及びソルビン酸類から選択される防腐剤を含有しない組成物が例示される。また、該一実施態様として、前記成分(1)、ならびに、前記成分(2)~(4)からなる群より選択される少なくとも1種からなる組成物が例示される。また、後述の実施例に示すように、該一実施態様として、点眼、洗眼分野において一般的に防腐剤として使用されている成分を含有しない組成物が例示される。
【0025】
本開示の点眼型洗眼用組成物のpHは、点眼剤や洗眼剤として使用可能な範囲であれば制限されないが、室温(24℃)でpH5~8、該組成物の防腐性を向上させる観点から、好ましくはpH5.5~7、より好ましくはpH5.5~6.5、更に好ましくはpH5.5~6、特に好ましくはpH5.5~5.8、特により好ましくはpH5.5~5.7が例示される。pHは、卓上型pHメーターF-52(株式会社堀場製作所製)で測定される。本開示の組成物の形態は制限されず、通常、室温で液状である。
【0026】
本開示の点眼型洗眼用組成物は、後述の通り、通常、点眼容器に収容され、点眼される
。このことから、該組成物の粘度や浸透圧(浸透圧比)はこのようにして使用できる限り制限されない。
【0027】
本開示の点眼型洗眼用組成物は、コンタクトレンズを装着した状態で使用してもよく、装着していない状態で使用してもよい。コンタクトレンズは、ハードコンタクトレンズ、ソフトコンタクトレンズの別を問わない。
【0028】
本開示の点眼型洗眼用組成物は、点眼により使用できる限り制限されないが、使い勝手が良い等の観点から、該組成物は、通常、点眼容器に収容して使用される。
【0029】
点眼容器としては、該組成物を収容して点眼できる限り制限されず、例えば、従来公知の点眼剤や点眼型洗眼剤等に使用されている点眼容器(例えば、容器本体、中栓(ノズル)、キャップを含む)が例示される。点眼容器は、容器本体、中栓(ノズル)及びキャップのそれぞれが独立しているタイプ、容器本体、中栓(ノズル)及びキャップの少なくとも2つが一体型となっているタイプ、中栓(ノズル)に穴が設けられているタイプ、中栓(ノズル)に穴が無く、使用時にキャップを巻き締めることによって中栓(ノズル)に穴を開けて使用するタイプ等のいずれであってもよい。
【0030】
点眼容器の容量は制限されないが、使い勝手が良い等の観点から、容量は8~20mLが例示され、好ましくは10~15mL、より好ましくは12~14mLが例示される。容量は、マルチドーズ型、ユニットドーズ型の別を考慮して適宜決定すればよい。
【0031】
本開示の点眼型洗眼用組成物は、1眼あたり、1回に3~8滴点眼することにより使用される。この限りにおいて制限されないが、該組成物は、1眼あたり、1回に、好ましくは4~8滴、より効率良く洗眼する観点から、より好ましくは4~6滴が点眼される。1滴あたりの滴下量も制限されないが、1滴あたり、30~50μLが例示され、好ましくは35~40μL、より好ましくは35~37μLが例示される。また、該組成物の1日あたりの使用回数も特に制限されず、例えば、1眼あたり、1日1~12回、2~8回、3~6回等のいずれであってもよい。このようにして、本開示の点眼型洗眼用組成物によれば眼を洗浄することができる。
【0032】
このように、本開示の点眼型洗眼用組成物においては第4級アンモニウム塩系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール及びソルビン酸類から選択される防腐剤を配合していないにもかかわらず、アラントインを0.005~0.03w/v%となるように配合することにより、点眼型洗眼用組成物に防腐作用を付与することができる。また、該組成物が前述の薬効成分等を更に含有している場合は、該薬効成分等に基づく有用作用も提供することができる。
【実施例0033】
以下、例を示して本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されない。
【0034】
試験例1
1.点眼型洗眼用組成物の調製及び防腐作用評価
次の表1に示す配合割合に従い各成分を混合し、各組成物を調製した(実施例1~8、比較例1~2及び参考例)。得られた組成物10mLを一般的な点眼型洗眼剤用容器(容量13mL、ポリエチレンテレフタレート樹脂製、マルチドーズ型、伸晃化学株式会社製)に注ぎ入れた。次いで、カンジダ菌(Candida albicans)を滅菌した生理食塩水で懸濁した液(菌液)を各容器に1×10cfu/mLとなるように接種し、30℃、暗所で21日間保存した。保存後、カンジダ菌を接種した各組成物0.1mLを容器から取り出し、これを市販のGPLP寒天培地(GPLP寒天培地「ダイゴ」、富士フイルム和光純
薬株式会社製)にコンラージ棒で塗布し、30℃で48時間培養後、コロニー数を目視でカウントし、カウントした値に100を乗じた値を、保存から21日後の各組成物の菌数とした。接種時の菌数を100%として、21日間保存後の各組成物における菌数の割合(生存率)を算出した。算出した値から次の基準に従って点眼型洗眼用組成物の防腐力を評価した。
[評価基準]
◎:生存率が接種量の0.05%以下に減少
○:生存率が接種量の0.1%以下に減少
△:生存率が接種量の3%以下に減少
×:前記△の基準を満たさない
【0035】
また、調製直後の各組成物のpHを測定した。pHは、室温(24℃)で、卓上型pHメーターF-52(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。
【0036】
2.結果
結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
代表的な防腐剤である塩化ベンザルコニウムを添加した参考例は、本試験例におけるポジティブコントロールを意味し、表1に示す通り、その評価結果は◎であり、防腐力に優れていた。なお、参考例において保存後の該組成物中のカンジダ菌生存率は0.001%であった。一方、塩化ベンザルコニウムを添加しない以外は参考例と同様にして調製した比較例1や、塩化ベンザルコニウムを添加せず、代わりにマレイン酸クロルフェニラミンを添加して同様に調製した比較例2では、評価結果が×であり、所望の防腐力は得られなかった。
【0039】
これに対して、塩化ベンザルコニウムに代えて、アラントインを0.006w/v%で含有させた実施例1では評価結果が○であり、所望の防腐力が得られた。実施例1において生存率は0.100%であり、すなわち、生存率が接種量の0.1%以下に減少した。また、実施例1においてアラントインの含有量を増加させた実施例2では評価結果が◎であり、より高い防腐力が得られた。また、アラントインと共にマレイン酸クロルフェニラミンを併用した実施例3~6でも評価結果は◎であり、高い防腐力が得られた。実施例3の組成物においてpHを下げた実施例4~6では更に防腐性が向上した。実施例2~6における生存率はそれぞれ0.050%、0.010%、0.008%、0.005%、0.004%であった。更に、アラントイン、マレイン酸クロルフェニラミン及びdl-α-トコフェロール酢酸エステルを併用した実施例7~8の評価結果は◎であり、実施例7~8における生存率はそれぞれ0.001%、0%であり、顕著に防腐性が向上した。このことから、防腐剤を含有していない洗眼用組成物に、アラントインを配合することにより、また、アラントインとマレイン酸クロルフェニラミンとを配合することにより、更にアラントインとマレイン酸クロルフェニラミンとdl-α-トコフェロール酢酸エステルとを配合することにより、洗眼用組成物に所望の防腐作用を付与ないし高められることが確認された。
【0040】
試験例2
1.点眼型洗眼用組成物の調製及び防腐作用評価
次の表2に示す配合割合に従い各成分を混合し、各組成物を調製した(実施例9及び10、比較例3)。表中、コンドロイチン硫酸ナトリウムは、局外規コンドロイチン硫酸ナトリウム(生化学工業株式会社製、重量平均分子量20000)を使用した。調製直後の各組成物のpHを試験例1と同様にして測定した。
【0041】
得られた各組成物10mLを、滅菌フィルターに通したのち、滅菌した一般的な点眼型洗眼剤用容器(試験例1と同じ)にそれぞれ入れた。パネラー10名に、各組成物を点眼容器から1回片眼4滴を両眼に1日3回、5日間滴下してもらい、容器内に残存した各組成物について一般細菌数試験を行った。
【0042】
一般細菌数試験は次の手順に従い行った。容器内に残存した組成物1mLを回収した。10本分から回収した各組成物1mLを全て混合し10mLの混合液を得た。得られた混合液から1mLを回収し、これを滅菌水で10倍希釈し、全量を標準寒天培地(標準寒天培地(顆粒)「ニッスイ」、日水製薬株式会社製)に塗布し、35℃で48時間培養した
。培養後、コロニー数を目視でカウントし、カウントした数に10を乗じた値を一般細菌数(cfu/mL)とした(検出限界値10cfu/mL)。
【0043】
2.結果
結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
表2に示す通り、アラントインを含有していない比較例3の一般細菌数は100cfu/mLであった。これに対して、アラントイン、マレイン酸クロルフェニラミン及びdl-α-トコフェロール酢酸エステルを添加した実施例9及び10では、一般細菌数を不検出(検出限界未満)に抑制できた。点眼型の洗浄剤では、まつげの接触頻度が高いなど容器内の組成物に細菌が混入しやすいことが考えられるが、このように、細菌に汚染されやすい点眼型洗眼剤において、実施例9及び10では細菌数の増加を抑制できた。また、実施例9及び10の組成物においてアラントインのみを含有しないように変更した組成物においても同様にして評価したところ、一般細菌数を不検出に抑制できなかった。このことからも、防腐剤を含有していない点眼型洗眼用組成物にアラントイン、マレイン酸クロルフェニラミン、dl-α-トコフェロール酢酸エステルを配合することにより、点眼型洗眼用組成物に所望の防腐作用を付与ないし高められることが確認された。
【0046】
処方例
表3に本発明の点眼型洗眼用組成物の処方例を示す。表3に示す処方例も試験例1及び2と同様にして防腐力を評価したところ、処方例1~8の各組成物においてアラントインを含有しない場合と比較して、処方例1~8のいずれの組成物においても防腐性に優れていることが確認された。
【0047】
【表3】