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特開2025-10669超音波洗浄装置、基板洗浄方法、およびEUVL用マスクブランクの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010669
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】超音波洗浄装置、基板洗浄方法、およびEUVL用マスクブランクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20250116BHJP
   B08B 3/12 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
H01L21/304 648G
H01L21/304 643A
H01L21/304 643D
B08B3/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112771
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】宮本 尚明
(72)【発明者】
【氏名】中島 誠人
【テーマコード(参考)】
3B201
5F157
【Fターム(参考)】
3B201AA02
3B201AA46
3B201AB03
3B201BB22
3B201BB83
3B201BB93
3B201BB95
3B201BB96
5F157AA02
5F157CE07
5F157CE23
5F157CE83
5F157CF42
5F157CF44
5F157DB02
5F157DB37
(57)【要約】
【課題】洗浄ヘッドと基板の間隔、または基板に作用する音圧の代わりになるパラメータを測定する、技術を提供する。
【解決手段】超音波洗浄装置は、基板を水平に保持する保持部と、前記保持部で保持している前記基板の上面に液膜を形成するノズルと、前記液膜に接触する振動面と前記振動面を振動させる超音波振動子とを含む洗浄ヘッドと、前記超音波振動子に配線を介して電気的に接続される超音波発振器と、前記配線において、前記超音波発振器から前記超音波振動子に向かう入射電力と、前記超音波振動子から前記超音波発振器に戻る反射電力との少なくとも1つを測定する測定部と、有する。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を水平に保持する保持部と、
前記保持部で保持している前記基板の上面に液膜を形成するノズルと、
前記液膜に接触する振動面と前記振動面を振動させる超音波振動子とを含む洗浄ヘッドと、
前記超音波振動子に配線を介して電気的に接続される超音波発振器と、
前記配線において、前記超音波発振器から前記超音波振動子に向かう入射電力と、前記超音波振動子から前記超音波発振器に戻る反射電力との少なくとも1つを測定する測定部と、
を有する、超音波洗浄装置。
【請求項2】
前記入射電力と前記反射電力との少なくとも1つの測定結果に基づき、前記超音波発振器のインピーダンスと前記超音波振動子のインピーダンスとのずれを表す指標値を算出する算出部を有する、請求項1に記載の超音波洗浄装置。
【請求項3】
前記指標値は、定在波比、反射係数、および反射減衰量の少なくとも1つを含む、請求項2に記載の超音波洗浄装置。
【請求項4】
前記保持部を回転させる回転部と、
前記保持部の回転中心線と直交する水平方向に前記洗浄ヘッドを移動させる第1移動部と、
前記保持部または前記洗浄ヘッドを鉛直方向に移動させることで、前記洗浄ヘッドと前記基板との間隔を調整する第2移動部と、
前記超音波発振器と前記回転部と前記第1移動部と前記第2移動部とを制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、前記入射電力と前記反射電力との少なくとも1つの測定結果に基づき、前記洗浄ヘッドと前記基板との間隔、前記水平方向における前記洗浄ヘッドの移動速度、前記基板の回転速度、前記入射電力の振幅、及び前記入射電力の周波数のうちの少なくとも1つを制御する、請求項1~3のいずれか1項に記載の超音波洗浄装置。
【請求項5】
基板を保持部で水平に保持することと、前記保持部で保持している前記基板の上面に液膜を形成することと、前記液膜に洗浄ヘッドの振動面を接触させることと、前記振動面を超音波振動子によって振動させることと、を有する、基板洗浄方法であって、
前記超音波振動子と超音波発振器とを電気的に接続する配線において、前記超音波発振器から前記超音波振動子に向かう入射電力と、前記超音波振動子から前記超音波発振器に戻る反射電力との少なくとも1つを測定することを有する、基板洗浄方法。
【請求項6】
前記入射電力と前記反射電力との少なくとも1つの測定結果に基づき、前記超音波発振器のインピーダンスと前記超音波振動子のインピーダンスとのずれを表す指標値を算出することを有する、請求項5に記載の基板洗浄方法。
【請求項7】
前記指標値は、定在波比、反射係数、および反射減衰量の少なくとも1つを含む、請求項6に記載の基板洗浄方法。
【請求項8】
前記基板とは別に用意した第2基板を前記保持部で保持した状態で、前記第2基板の上面の複数点のそれぞれで、前記入射電力と前記反射電力との少なくとも1つを測定することと、
前記基板を前記保持部で保持した状態で、前記基板を回転させると共に前記基板の回転中心線と直交する水平方向に前記洗浄ヘッドを移動させる際に、前記入射電力と前記反射電力との少なくとも1つの測定結果に基づき、前記洗浄ヘッドと前記基板との間隔、前記水平方向における前記洗浄ヘッドの移動速度、前記基板の回転速度、前記入射電力の振幅、及び前記入射電力の周波数のうちの少なくとも1つを制御することと、
を有する、請求項5~7のいずれか1項に記載の基板洗浄方法。
【請求項9】
前記基板を前記保持部で保持した状態で、前記基板の上面の複数点のそれぞれで、前記入射電力と前記反射電力との少なくとも1つを測定することと、
前記基板を前記保持部で保持した状態で、前記基板を回転させると共に前記基板の回転中心線と直交する水平方向に前記洗浄ヘッドを移動させる際に、前記入射電力と前記反射電力との少なくとも1つの測定結果に基づき、前記洗浄ヘッドと前記基板との間隔、前記水平方向における前記洗浄ヘッドの移動速度、前記基板の回転速度、前記入射電力、及び前記入射電力の周波数のうちの少なくとも1つを制御することと、
を有する、請求項5~7のいずれか1項に記載の基板洗浄方法。
【請求項10】
請求項5~7のいずれか1項に記載の基板洗浄方法で、ガラス基板または前記ガラス基板の上に形成された機能膜を洗浄することを有する、EUVL用マスクブランクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波洗浄装置、基板洗浄方法、およびEUVL用マスクブランクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化に伴い、極端紫外線(Extreme Ultra-Violet:EUV)を用いた露光技術であるEUVリソグラフィー(EUVL)が開発されている。EUVとは、軟X線および真空紫外線を含み、具体的には波長が0.2nm~100nm程度の光のことである。現時点では、13.5nm程度の波長のEUVが主に検討されている。
【0003】
EUVLでは、反射型マスクが用いられる。反射型マスクは、ガラス基板などの基板と、EUVを反射する多層反射膜と、EUVを吸収する吸収膜と、をこの順で有する。吸収膜には、開口パターンが形成される。EUVLでは、吸収膜の開口パターンを半導体基板などの対象基板に転写する。転写することは、縮小して転写することを含む。
【0004】
EUVL用マスクブランクの製造工程の途中で、ガラス基板またはガラス基板の上に形成された機能膜を洗浄することがある。その洗浄方法の一つとして、超音波洗浄が行われることがある。
【0005】
特許文献1に記載の洗浄方法は、回転する基板の上面に対し、予め超音波を印可した洗浄液をノズルから噴射することを有する。特許文献2に記載の洗浄方法は、回転する基板の上面と洗浄ヘッドの下面との間に洗浄液を供給し、この洗浄液に対して洗浄ヘッドの下面から超音波を付与することで、基板の上面を洗浄する。
【0006】
特許文献2の洗浄方法は、基板上面を洗浄する際に、基板を回転させながら基板の回転中心線と直交する方向に洗浄ヘッドを移動させる。洗浄ヘッドは、基板上面の中心の真上の位置と、基板上面の周縁の真上の位置との間で水平方向に移動させられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-158664号公報
【特許文献2】特開2001-087725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
洗浄ヘッドと基板の間隔が変動すると、基板に作用する音圧が変動する。そこで、音圧の変動を抑制すべく、洗浄ヘッドと基板の間隔、または基板に作用する音圧を測定することが考えられる。但し、洗浄ヘッドと基板の間隔、または基板に作用する音圧を測定することが困難な場合がある。例えば、洗浄ヘッドと基板の間に洗浄液が充填されている状態で、洗浄ヘッドと基板の間隔を測定することは困難である。また、基板の中央に作用する音圧を測定することは容易であるが、基板の周縁に作用する音圧を測定することは困難である。
【0009】
本開示の一態様は、洗浄ヘッドと基板の間隔、または基板に作用する音圧の代わりになるパラメータを測定する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に係る超音波洗浄装置は、基板を水平に保持する保持部と、前記保持部で保持している前記基板の上面に液膜を形成するノズルと、前記液膜に接触する振動面と前記振動面を振動させる超音波振動子とを含む洗浄ヘッドと、前記超音波振動子に配線を介して電気的に接続される超音波発振器と、前記配線において、前記超音波発振器から前記超音波振動子に向かう入射電力と、前記超音波振動子から前記超音波発振器に戻る反射電力との少なくとも1つを測定する測定部と、有する。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、洗浄ヘッドと基板の間隔、または基板に作用する音圧の代わりになるパラメータとして、超音波発振器から超音波振動子に向かう入射電力と、超音波振動子から超音波発振器に戻る反射電力の少なくとも1つを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、一実施形態に係る超音波洗浄装置を示す側面図である。
図2図2は、洗浄ヘッドの内部構造の一例を示す断面図である。
図3図3は、洗浄ヘッドの内部構造の別の一例を示す断面図である。
図4図4は、洗浄ヘッドの移動軌跡の一例を示す平面図である。
図5図5は、超音波振動子の出力と、基板に作用する音圧の関係の一例を示す図である。
図6図6は、洗浄ヘッドと基板の間に形成される定在波の一例を示す断面図である。
図7図7は、洗浄ヘッドと基板の間隔と、基板に作用する音圧の関係の一例を示す図である。
図8図8は、洗浄ヘッドと基板の間隔を測定する点の一例を示す平面図である。
図9図9は、洗浄ヘッドの旋回中心線の傾きの一例を示す図である。
図10図10は、洗浄ヘッドの旋回中心線の傾きによる、洗浄ヘッドと基板の間隔のばらつきの一例を示す図である。
図11図11は、基板上面の法線の傾きの一例を示す図である。
図12図12は、基板上面の法線の傾きによる、洗浄ヘッドと基板の間隔のばらつきの一例を示す図である。
図13図13は、洗浄ヘッドの旋回中心線の傾きと基板上面の法線の傾きとによる、洗浄ヘッドと基板の間隔のばらつきの一例を示す図である。
図14図14は、超音波発振器と超音波振動子と測定部の一例を示す図である。
図15図15は、洗浄ヘッドと基板の間隔と、基板に作用する音圧と、反射電力との関係の一例を示す図である。
図16図16は、図15に示す音圧と反射電力の相関関係の一例を示す図である。
図17図17は、ギャップ制御の有無による周波数スペクトルの違いの一例を示す図である。
図18図18は、ギャップ制御の有無による欠陥の数の違いの一例を示す図である。
図19図19は、一実施形態に係るEUVL用マスクブランクの製造方法を示すフローチャートである。
図20図20は、基板の一例を示す断面図である。
図21図21は、図20の基板の平面図である。
図22図22は、EUVL用マスクブランクの一例を示す断面図である。
図23図23は、EUVL用マスクの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0014】
図1図4を参照して、一実施形態に係る超音波洗浄装置1について説明する。超音波洗浄装置1は、基板Wの上に形成された液膜Fに対して超音波振動を付与することで、基板Wを洗浄する。基板Wに付着したパーティクルを除去できる。超音波洗浄装置1は、保持部10と、ノズル20と、洗浄ヘッド30と、回転部40と、第1移動部50と、第2移動部60と、制御部90と、を備える。
【0015】
保持部10は、基板Wを水平に保持する。上方から見たときに、基板Wは、矩形であるが(図4参照)、円形であってもよい。基板Wは、ガラス基板、シリコンウエハ又は化合物半導体ウエハを含む。基板Wは、ガラス基板などの上に形成される機能膜を含んでもよい。機能膜は、例えば光反射膜、光吸収膜、導電膜、または絶縁膜などである。
【0016】
保持部10は、例えば図1に示すように、基板Wの周縁に沿って間隔をおいて配置される複数本のピン11を含む。複数本のピン11は、基板Wの周縁を保持する。基板Wは、複数本のピン11の上に載置される。基板Wの下には空間が存在するので、後述するように基板Wの下面にセンサを取り付けることも可能である。なお、保持部10は、基板Wを吸着してもよい。
【0017】
ノズル20は、保持部10で保持している基板Wの上面Waに洗浄液を供給することで液膜Fを形成する。基板Wの上面Waを、基板上面Waとも記載する。ノズル20は、例えば、基板上面Waの中心付近に洗浄液を供給する。基板Wは回転しており、基板W上の洗浄液は遠心力によって基板Wの中心から周縁に向けて濡れ広がる。その結果、基板上面Waの全体に液膜Fが形成される。ノズル20は、図1に示すように洗浄ヘッド30の外部に設けられてもよいし、図示しないが洗浄ヘッド30の内部に設けられてもよい。
【0018】
ノズル20は、供給ライン21を介して洗浄液の供給源22と接続されている。供給ライン21の途中には、バルブ23が設けられている。バルブ23は、供給ライン21の流路を開閉する。バルブ23が供給ライン21の流路を開放すると、洗浄液が供給源22からノズル20に供給され、ノズル20が洗浄液を吐出する。バルブ23が供給ライン21の流路を閉塞すると、ノズル20が洗浄液の吐出を停止する。
【0019】
洗浄液は、例えば、純水(例えば脱イオン水)、純水とX(塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸からなる群から選択される少なくとも1つの成分)の混合物、純水とY(アンモニア、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエタノールアミン、コリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムからなる群から選択される少なくとも1つの成分)の混合物、純水とZ(過酸化水素、過塩素酸イオン、過ヨウ素酸イオンからなる群から選択される少なくとも1つの成分)の混合物、純水とXとZの混合物、または純水とYとZの混合物である。
【0020】
洗浄液は、Hガス、COガス、Nガス、Oガス、Oガス、及びArガスからなる群から選択される少なくとも1つのガスを溶存してもよい。ガスの溶存量を制御することで、キャビテーションの発生効率を向上でき、パーティクルの除去効率を向上できる。洗浄液に溶存するガスは、好ましくはHガス、COガスまたはNガスであり、より好ましくはCOガスである。
【0021】
洗浄ヘッド30は、図2に示すように、液膜Fに接触する振動面31aと、振動面31aを振動させる超音波振動子32とを含む。洗浄ヘッド30は、振動板31を含む。振動板31は、液膜Fに接触する下向きの振動面31aと、超音波振動子32が取り付けられる上向きの取付面31bと、を有する。
【0022】
振動面31aは、基板上面Waに対して平行に設置される。振動面31aの大きさは、例えば基板上面Waの大きさよりも小さい。振動面31aの形状は、例えば円形である。なお、ノズル20が洗浄ヘッド30の内部に設けられる場合、ノズル20の吐出口が振動面31aに形成される。
【0023】
取付面31bは、図2に示すように振動面31aに対して平行に設置されてもよいし、図3に示すように振動面31aに対して斜めに設置されてもよい。図3において、θは、振動面31aの法線と、取付面31bの法線とのなす角である。取付面31bの法線方向が、超音波振動子32の振動方向である。
【0024】
超音波振動子32は、振動面31aを振動させることで液膜Fに超音波振動を付与し、基板Wに音圧を付与する。これにより、基板上面Waに付着したパーティクルを剥離できる。超音波振動子32の出力は、制御部90によって制御する。洗浄ヘッド30と基板Wの間隔Gが一定の場合、超音波振動子32の出力PWが大きくなるほど、基板Wに作用する音圧SPが大きくなる(図5参照)。本明細書において、音圧SPとは、瞬時値のことではなく、実効値のことである。
【0025】
超音波振動子32の出力PWと、基板Wに作用する音圧SPとの関係(例えば図5に示す関係)は、制御部90の記憶部92に予め記憶されている。なお、洗浄ヘッド30と基板Wの間隔Gと、基板Wに作用する音圧SPとの関係(例えば図7に示す関係)も、制御部90の記憶部92に予め記憶されている。間隔Gと音圧SPの関係については、後述する。
【0026】
図1に示すように、回転部40は、保持部10と共に基板Wを回転させる。保持部10の回転中心線10Rは、鉛直に設置される。保持部10は、その回転中心線10Rが基板Wの中心を通るように基板Wを保持する。回転部40は、サーボモータ41を含む。サーボモータ41の回転駆動力は、図示しないプーリとベルト、またはギヤを介して保持部10に伝達されてもよい。サーボモータ41は、保持部10の回転位置に関する情報を制御部90に送信する。保持部10の回転位置は、回転角で表される。
【0027】
第1移動部50は、保持部10の回転中心線10Rと直交する水平方向に洗浄ヘッド30を移動させる。洗浄ヘッド30は、例えば、基板Wの中心の真上の位置と、基板Wの周縁の真上の位置との間で移動させられる。第1移動部50は、サーボモータ51を含む。サーボモータ51は、洗浄ヘッド30の水平方向位置に関する情報を制御部90に送信する。
【0028】
第1移動部50は、例えば旋回軸52を回転させることで、保持部10の回転中心線10Rと直交する水平方向に洗浄ヘッド30を移動させる。旋回軸52は旋回アーム53の一端に固定されており、洗浄ヘッド30は旋回アーム53の他端に固定されている。洗浄ヘッド30の旋回中心線30Rは、鉛直に設置される。
【0029】
なお、図示しないが、第1移動部50は、水平なガイドレールに沿って、保持部10の回転中心線10Rと直交する水平方向に洗浄ヘッド30を移動させてもよい。
【0030】
第2移動部60は、洗浄ヘッド30を鉛直方向に移動させる。例えば、第2移動部60は、旋回軸52を鉛直方向に移動させることで、洗浄ヘッド30を鉛直方向に移動させる。第2移動部60は、サーボモータ61を含む。第2移動部60は、サーボモータ61の回転運動を直線運動に変換するボールねじを含んでもよい。サーボモータ61は、洗浄ヘッド30の鉛直方向位置に関する情報を制御部90に送信する。
【0031】
なお、図示しないが、第2移動部60は、洗浄ヘッド30を鉛直方向に移動させる代わりに、保持部10を鉛直方向に移動させてもよい。いずれにしろ、洗浄ヘッド30と基板Wの間隔Gを変更できる。
【0032】
制御部90は、バルブ23と超音波振動子32と回転部40と第1移動部50と第2移動部60とを制御する。制御部90は、例えばコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)等の演算部91と、メモリ等の記憶部92とを備える。記憶部92には、超音波洗浄装置1において実行される各種の処理を制御するプログラムが格納される。制御部90は、記憶部92に記憶されたプログラムを演算部91に実行させることにより、超音波洗浄装置1の動作を制御する。
【0033】
次に、超音波洗浄装置1の動作、つまり基板洗浄方法について説明する。まず、図示しない搬送ロボットが、超音波洗浄装置1の内部に進入し、搬送ロボットが保持している基板Wを保持部10に渡す。保持部10が基板Wを水平に保持した後、搬送ロボットが超音波洗浄装置1から退出する。このようにして基板Wの搬入が行われる。
【0034】
次に、回転部40が保持部10と共に基板Wを回転させると共に、ノズル20が基板Wの中心付近に洗浄液を供給する。基板W上の洗浄液は遠心力によって基板Wの中心から周縁に向けて濡れ広がる。その結果、基板上面Waの全体に液膜Fが形成される。洗浄液の供給量は、例えば0.1L/min~5.0L/min、好ましくは0.8L/min~1.6L/minである。
【0035】
次に、洗浄ヘッド30の振動面31aが液膜Fに接触するように、第1移動部50が洗浄ヘッド30の水平方向位置を調整すると共に、第2移動部60が洗浄ヘッド30の鉛直方向位置を調整する。洗浄ヘッド30と基板Wの間には、所望の間隔Gが形成される。その間隔Gは、例えば0.1mm~5.0mm、好ましくは1.0mm~4.0mmである。
【0036】
次に、超音波振動子32が洗浄ヘッド30の振動面31aを振動させることで液膜Fに超音波振動を付与し、基板上面Waに音圧を付与する。
【0037】
次に、第1移動部50が洗浄ヘッド30を保持部10の回転中心線10Rと直交する水平方向に移動させる。洗浄ヘッド30は、基板Wの中心の真上の位置と、基板Wの周縁の真上の位置との間を往復移動させられる。基板Wは回転しており、基板上面Waの全体が洗浄される。
【0038】
次に、第2移動部60が洗浄ヘッド30を上昇させた後、第1移動部50が洗浄ヘッド30の水平方向位置を待機位置まで移動させる。上方から見たときに、待機位置は、基板Wの周縁よりも外側の位置である。また、超音波振動子32が振動面31aの振動を停止し、ノズル20が洗浄液の供給を停止する。
【0039】
次に、ノズル20が洗浄液の供給を停止した状態で、回転部40が保持部10と共に基板Wを回転させることで、基板W上の洗浄液が遠心力によって基板Wの周縁から振り切られる。基板Wから液膜Fが除去され、基板Wが乾燥させられる。
【0040】
次に、図示しない搬送ロボットが超音波洗浄装置1の内部に進入し、保持部10から基板Wを受け取る。搬送ロボットが基板Wを保持した後、搬送ロボットが超音波洗浄装置1から退出する。このようにして基板Wの搬出が行われる。
【0041】
次に、図6図7を参照して、洗浄ヘッド30と基板Wの間隔Gと、基板Wに作用する音圧SPとの関係について説明する。図6に示すように、洗浄ヘッド30と基板Wの間には、振動面31aから発せられる超音波と、基板上面Waにて反射される超音波とが重ね合わせられ、定在波が形成される。図6において、Aは定在波のn番目(n:1以上の整数)の腹の位置に相当し、Bは定在波のn番目の節の位置に相当する。なお、超音波の反射は、自由端反射である。
【0042】
超音波振動子32の出力PWが一定の場合、図7に示すように、基板Wに作用する音圧SPは、間隔Gに応じて変動する。基板上面Waが定在波の腹の位置に位置するとき、音圧SPが極大になる。基板上面Waが定在波の節の位置に位置するとき、音圧SPが極小になる。間隔Gが大きくなるほど、音圧SPの極大値が小さくなる。音圧SPは、例えば図6に示す音圧センサ70で計測する。音圧センサ70は、基板Wの下面に取り付けられる。
【0043】
定在波の腹の位置では、基板上面Waに作用する音圧SPが高く、キャビテーションが発生しやすく、パーティクルの除去効率が良い。間隔Gが下記式(1)を満たす場合、基板上面Waが定在波の腹の位置、またはその近傍の位置になる。従って、間隔Gが下記式(1)を満たす場合、パーティクルの除去効率が良い。
【0044】
【数1】
上記式(1)中、Gは洗浄ヘッド30と基板Wの間隔、nは1以上の整数、λは洗浄ヘッド30から液膜Fに付与される超音波の液膜中での波長、mは5以上の整数、Θは液膜Fにおける超音波の速度をvとし振動板31における超音波の速度をv1とした場合に下記式(2)を満たす値である。nは、好ましくは1以上13以下である。mは、好ましくは5以上8以下であり、より好ましくは6以上8以下であり、更に好ましくは7以上8以下であり、特に好ましくは8である。
【0045】
【数2】
上記式(2)中、θは振動板31の振動面31aの法線と振動板31の取付面31bの法線とのなす角である。なお、θは0°であってもよい。θが0°である場合、間隔Gがλ/2の整数倍であれば、つまり「G=nλ/2」の式が成立すれば、基板上面Waが定在波の腹の位置になる。θが0°である場合、図7に示すように隣り合う2つの極大値の間隔はλ/2である。
【0046】
ところで、超音波洗浄装置1は、基板上面Waを洗浄する際に、つまり、基板上面Waに液膜Fを形成すると共に液膜Fに超音波振動を付与する際に、保持部10と共に基板Wを回転させながら保持部10の回転中心線10Rと直交する方向に洗浄ヘッド30を移動させる。洗浄ヘッド30は、基板上面Waの中心の真上の位置と、基板上面Waの周縁の真上の位置との間で水平方向に移動させられる。洗浄ヘッド30の水平方向位置と基板Wの回転位置とに応じて、洗浄ヘッド30と基板Wの間隔Gが変動すると、図7から明らかなように基板Wに作用する音圧SPが変動する。
【0047】
図8を参照して、洗浄ヘッド30と基板Wの間隔Gを測定する点P1~P16の一例について説明する。各点P1~P16は、基板上面Waに設定される。各点P1~P16における間隔Gは、各点P1~P16の真上に振動面31aの中心が到達したときの、各点P1~P16と振動面31aの中心との間隔である。複数点P1~P8が第1円C1の上に等間隔で設定され、別の複数点P9~P16が第2円C2の上に等間隔で設定される。第1円C1と第2円C2とは同心円であり、その中心は基板上面Waの中心と一致する。第2円C2は、第1円C1の外側に設定される。
【0048】
次に、図9図10を参照して、洗浄ヘッド30の旋回中心線30Rの傾きによる、洗浄ヘッド30と基板Wの間隔Gのばらつきの一例について説明する。図9に示すように、回転中心線10Rに対して旋回中心線30Rが傾いている場合、間隔Gは洗浄ヘッド30の水平方向位置に応じて変動する。なお、図9において、基板上面Waの法線Nは、回転中心線10Rと一致している。
【0049】
この場合、図10に示すように、間隔Gは、保持部10の回転位置には依存しない。第1円C1上の各点P1~P8での間隔Gは同じ間隔G1になる。また、第2円C2上の各点P9~P16での間隔Gも同じ間隔G2になる。但し、間隔G1と間隔G2とは異なる。間隔G1と間隔G2とは、どちらが大きくてもよい。
【0050】
間隔G1、G2の差ΔG(ΔG=G2-G1)の絶対値は、保持部10の回転中心線10Rに対する洗浄ヘッド30の旋回中心線30Rの傾斜角α(α>0)に応じて変動する。傾斜角αが大きいほど、差ΔGの絶対値が大きくなる。従って、差ΔGの絶対値から、傾斜角αの大きさが分かる。また、差ΔGの正負から、旋回中心線30Rの傾斜方向が分かる。
【0051】
次に、図11図12を参照して、基板上面Waの法線Nの傾きによる、洗浄ヘッド30と基板Wの間隔Gのばらつきの一例について説明する。図11に示すように、回転中心線10Rに対して法線Nが傾いている場合、間隔Gは保持部10の回転位置に応じて変動する。保持部10の回転位置は、回転角で表される。なお、図11において、旋回中心線30Rは、回転中心線10Rに対して平行である。
【0052】
この場合、図12に示すように、第1円C1上の各点P1~P8での間隔Gの変動は第1正弦曲線S1で表され、第2円C2上の各点P9~P16での間隔Gの変動は第2正弦曲線S2で表される。第2正弦曲線S2の振動中心線に相当する間隔G2と、第1正弦曲線S1の振動中心線に相当する間隔G1とは、一致する。第2正弦曲線S2の振幅A2は、第1正弦曲線S1の振幅A1よりも大きい。図12において、RPは、第1正弦曲線S1と第2正弦曲線S2の最大値に相当する回転位置である。
【0053】
振幅A1、A2の差ΔA(ΔA=A2-A1>0)は、保持部10の回転中心線10Rに対する基板上面Waの法線Nの傾斜角β(β>0)に応じて変動する。傾斜角βが大きいほど、差ΔAが大きくなる。従って、差ΔAから、傾斜角βの大きさが分かる。また、回転位置RPから、法線Nの傾斜方向が分かる。
【0054】
次に、図13を参照して、洗浄ヘッド30の旋回中心線30Rの傾きと、基板上面Waの法線Nの傾きとによる、洗浄ヘッド30と基板Wの間隔Gのばらつきの一例について説明する。回転中心線10Rに対して法線Nが傾いており、且つ回転中心線10Rに対して旋回中心線30Rが傾いている場合、間隔Gは洗浄ヘッド30の水平方向位置と保持部10の回転位置の両方に応じて変動する。
【0055】
この場合、図13に示すように、第1円C1上の各点P1~P8での間隔Gの変動は第1正弦曲線S1で表され、第2円C2上の各点P9~P16での間隔Gの変動は第2正弦曲線S2で表される。第2正弦曲線S2の振動中心線に相当する間隔G2と、第1正弦曲線S1の振動中心線に相当する間隔G1とは、異なる。間隔G1と間隔G2とは、どちらが大きくてもよい。一方、第2正弦曲線S2の振幅A2は、第1正弦曲線S1の振幅A1よりも大きい。図12において、RPは、第1正弦曲線S1と第2正弦曲線S2の最大値に相当する回転位置である。
【0056】
間隔G1、G2の差ΔG(ΔG=G2-G1)の絶対値は、傾斜角α(α>0)に応じて変動する。傾斜角αが大きいほど、差ΔGの絶対値が大きくなる。従って、差ΔGの絶対値から、傾斜角αの大きさが分かる。また、差ΔGの正負から、旋回中心線30Rの傾斜方向が分かる。また、振幅A1、A2の差ΔA(ΔA=A2-A1>0)は、傾斜角β(β>0)に応じて変動する。傾斜角βが大きいほど、差ΔAが大きくなる。従って、差ΔAから、傾斜角βの大きさが分かる。また、回転位置RPから、法線Nの傾斜方向が分かる。
【0057】
傾斜角α、βを完全にゼロにすることは、現実的ではない。それゆえ、洗浄ヘッド30の水平方向位置と基板Wの回転位置とに応じて、洗浄ヘッド30と基板Wの間隔Gが変動することがある。間隔Gが変動すると、音圧SPが変動する。そこで、制御部90は、音圧SPを許容範囲に収めるべく、例えば間隔Gを許容範囲内に収める。間隔Gを許容範囲内に収めることは、洗浄ヘッド30と基板Wの少なくとも1つの鉛直方向位置を補正することを含む。
【0058】
制御部90は、例えば、基板Wを洗浄する前に、基板Wとは別に用意した第2基板を保持部10で保持した状態で、第2基板の上面の複数点P1~P16のそれぞれで洗浄ヘッド30と第2基板との間隔Gを測定することが考えられる。また、洗浄ヘッド30と第2基板との間隔Gを測定する代わりに、第2基板に作用する音圧を測定することも考えられる。前記測定した結果は、制御部90の記憶部92に記憶しておく。前記測定した結果に基づき、洗浄ヘッド30と基板Wの少なくとも1つの鉛直方向位置を補正することで、間隔Gを一定に制御することができる。
【0059】
上記の通り、基板Wを洗浄する前に、基板Wとは別の第2基板を用いて、間隔Gまたは音圧SPを測定することが考えられる。但し、間隔Gまたは音圧SPを測定することが困難な場合がある。例えば、洗浄ヘッド30と基板Wの間に洗浄液が充填されている状態で、間隔Gを測定することは困難である。また、基板Wの中央に作用する音圧SPを測定することは容易であるが、基板Wの周縁に作用する音圧SPを測定することは困難である。
【0060】
そこで、本発明者は、間隔Gまたは音圧SPの代わりになるパラメータを検討し、図14に示すように超音波振動子32から超音波発振器80に戻る反射電力を測定すれば、音圧SPを制御可能であることを見出した。超音波発振器80は電力を出力する電源であり、超音波振動子32は電力を消費する負荷である。電源側のインピーダンスと負荷側のインピーダンスがずれていると、電力が負荷で消費されずに電源に戻される。従って、反射電力が大きいほど、音圧SPが低下すると推定される。
【0061】
なお、超音波振動子32で反射した電力は超音波発振器80に戻り、一部は再び反射し超音波振動子32側へ投入される。そのため定常状態では、入射電力、すなわち超音波発振器80から超音波振動子32へ進む方向の電力にも、反射電力の寄与がある。したがって、入射電力を測定することによっても、反射電力の情報を得ることが可能である。
【0062】
音圧SPの制御精度を向上すべく、電源側のインピーダンスと負荷側のインピーダンスのずれを表す指標値を算出することが好ましい。指標値は、定在波比(SWR: Standing Wave Ratio)、反射係数(Reflection Coefficient)、および反射減衰量(Return Loss)の少なくとも1つを含むことが好ましい。定在波比、反射係数、および反射減衰量は、一般的な計算式で算出する。
【0063】
次に、図14を参照して、超音波発振器80と超音波振動子32と測定部82の一例について説明する。超音波洗浄装置1は、超音波発振器80と超音波振動子32を電気的に接続する配線81において入射電力と反射電力の少なくとも1つを測定する測定部82を備える。入射電力は、超音波発振器80から超音波振動子32に向かう進行波である。反射電力は、超音波振動子32から超音波発振器に戻る反射波である。
【0064】
配線81の途中には、例えば方向性結合器83が設けられる。方向性結合器83は、入射電力と反射電力を別々に取り出す。測定部82は、入射電力を測定する第1測定部82Aと、反射電力を測定する第2測定部82Bとの少なくとも1つを有する。第1測定部82Aと第2測定部82Bは、それぞれ、例えばパワーセンサを含む。
【0065】
超音波洗浄装置1は、算出部84を備えてもよい。算出部84は、超音波発振器80のインピーダンスと超音波振動子32のインピーダンスのずれを表す指標値を算出する。指標値は、定在波比、反射係数、および反射減衰量の少なくとも1つを含むことが好ましい。算出部84は、算出した指標値を制御部90に送信する。なお、算出部84は、制御部90の一部であってもよい。
【0066】
次に、図15及び図16を参照して、洗浄ヘッド30と基板Wの間隔Gと、基板Wに作用する音圧SPと、反射電力との相関関係の一例について説明する。図15及び図16に示すデータは、基板上面Waの中心の真上に洗浄ヘッド30の振動面31aの中心を配置した状態で、入射電力の振幅と入射電力の周波数を一定に維持しながら、間隔Gを変えることで測定した。図15から、間隔Gに応じて音圧SPが変動することが分かる。また、図15及び図16から、音圧SPと反射電力には相関関係があり、反射電力が小さいほど音圧SPが大きいことが分かる。
【0067】
制御部90は、例えば、基板Wを洗浄する前に、基板Wとは別に用意した第2基板を保持部10で保持し、且つ第2基板の上面の複数点P1~P16のそれぞれの真上に洗浄ヘッド30の振動面31aの中心を配置した状態で、反射電力を測定する。反射電力は、間隔Gと相関関係を有する。それゆえ、反射電力を測定すれば、傾斜角αの大きさと、旋回中心線30Rの傾斜方向と、傾斜角βの大きさと、法線Nの傾斜方向とを求めることが可能である。
【0068】
制御部90は、反射電力を測定した結果を記憶部92に記憶しておく。記憶する情報は、各点P1~P16で測定した反射電力そのものでもよいし、各点P1~P16で測定した反射電力から算出される、傾斜角αの大きさと、旋回中心線30Rの傾斜方向と、傾斜角βの大きさと、法線Nの傾斜方向とでもよい。
【0069】
制御部90は、基板Wを洗浄する際に、基板Wを洗浄する前に反射電力を測定した結果に基づき間隔Gを制御する。例えば、制御部90は、間隔Gが式(1)を満たすように、洗浄ヘッド30の鉛直方向位置を制御する。これにより、基板上面Waの全体において音圧SPを高く維持でき、基板上面Waの全体を均等に洗浄できる。
【0070】
図17及び図18を参照して、ギャップ制御の有無による違いの一例について説明する。図17及び図18において、ギャップ制御は、基板Wを洗浄する前に反射電力を測定した結果に基づき洗浄ヘッド30の鉛直方向位置を補正することで、間隔Gを一定に制御することである。図17に、反射電力を高速フーリエ変換することで得られた周波数スペクトルを示す。また、図18に、欠陥の円相当直径で分類した欠陥の数を示す。
【0071】
ギャップ制御なしの場合、基板Wが1回転するたびに、図12及び図13に示すように間隔Gが変動するので、図17に示すように基板Wの回転速度に相当する周波数において振幅のピークが認められた。一方、ギャップ制御ありの場合、図17に示すように基板Wの回転速度に相当する周波数において振幅のピークは認められなかった。また、ギャップ制御ありの場合、ギャップ制御なしの場合に比べて、基板上面Waの全体において音圧SPを高く維持できるので、図18に示すように欠陥の数が少なかった。
【0072】
なお、制御部90は、基板Wとは別に用意した第2基板を保持部10で保持し、且つ第2基板の上面の複数点P1~P16のそれぞれの真上に洗浄ヘッド30の振動面31aの中心を配置した状態で、入射電力と反射電力の少なくとも1つを測定すればよい。また、制御部90は、前記測定した結果として前記指標値を使用してもよい。
【0073】
なお、制御部90は、基板Wを洗浄する際に、本実施形態では(a)洗浄ヘッド30と基板Wの間隔Gを制御するが、その他のパラメータを制御してもよい。その他のパラメータとして、
(b)保持部10の回転中心線10Rと直交する水平方向における洗浄ヘッド30の移動速度、
(c)基板Wの回転速度、
(d)超音波発振器から超音波振動子32に向かう入射電力の振幅、
(e)入射電力の周波数、
を挙げることができる。制御部90は、上記(a)~(e)のうちの少なくとも1つを制御すればよい。
【0074】
制御部90は、上記(a)、(d)及び(e)のうちの少なくとも1つを制御すれば、複数点P1~P16のそれぞれで音圧SPを許容範囲に収めることができる。また、制御部90は、上記(b)及び(c)のうち少なくとも1つを制御すれば、複数点P1~P16のそれぞれで音圧SPの時間積分値を許容範囲に収めることができる。音圧SPが許容範囲に収まらなくても、音圧SPの時間積分値が許容範囲に収まれば、基板上面Waの全体を均等に洗浄することができる。
【0075】
なお、制御部90は、本実施形態では、基板Wを洗浄する前に、基板Wとは別に用意した第2基板を保持部10で保持し、且つ第2基板の上面の複数点P1~P16のそれぞれの真上に洗浄ヘッド30の振動面31aの中心を配置した状態で入射電力と反射電力の少なくとも1つを測定し、測定した結果を記憶部92に記憶しておくが、本開示の技術はこれに限定されない。
【0076】
例えば、制御部90は、基板Wを保持部10で保持し、且つ基板上面Waの複数点P1~P16のそれぞれの真上に洗浄ヘッド30の振動面31aの中心を配置した状態で入射電力と反射電力の少なくとも1つを測定し、測定した結果を記憶しておいてもよい。反射電力を測定する際に、洗浄ヘッド30と基板Wの間には洗浄液が充填される。
【0077】
具体的には、制御部90は、洗浄ヘッド30の振動面31aから液膜Fに超音波振動を付与しながら、基板Wを回転させると共に水平方向に洗浄ヘッド30を移動させる際に、下記(S201)と(S202)を交互に繰り返し実施してもよい。(S201)基板上面Waの所望の点で入射電力と反射電力の少なくとも1つを測定する。(S202)前記測定した結果に基づき、上記(a)~(e)から選ばれる少なくとも1つを制御する。
【0078】
ところで、超音波洗浄装置1は、保持部10に保持される基板Wを取り替えながら、基板Wを洗浄することを繰り返し実施する。基板Wが取り替えられると、基板Wの板厚が変わることがあり、基板Wと洗浄ヘッド30との間隔Gが変わることがある。間隔Gが変わると、音圧SPが変わる。
【0079】
そこで、制御部90は、基板Wの板厚を測定してもよい。基板Wの板厚は、基板Wを保持部10で保持する前に測定してもよいし、基板Wを保持部10に保持した状態で測定してもよい。基板Wの板厚は、一般的な厚さ計を用いて測定する。厚さ計は、接触式でも、非接触式でもよい。厚さ計は、測定した結果を、制御部90に送信してもよい。基板Wの板厚を測定した結果は、制御部90の記憶部92に記憶しておく。
【0080】
制御部90は、基板Wを洗浄する際に、基板Wの板厚に基づき、上記(a)~(e)から選ばれる少なくとも1つを制御する。これにより、基板Wに作用する音圧SPの時間積分値を許容範囲に収めることができ、基板間での洗浄ムラを抑制できる。
【0081】
次に、図19を参照して、図22に示すEUVL用マスクブランク200の製造方法について説明する。EUVL用マスクブランク200の製造方法は、ステップS101~S107を有する。例えば図20及び図21に示す基板210が予め準備される。基板210がガラス基板である場合、ステップS101~S104はガラス基板の製造方法に含まれる。
【0082】
基板210は、第1主面211と、第1主面211とは反対向きの第2主面212とを含む。第1主面211は、矩形状である。本明細書において、矩形状とは、角に面取加工を施した形状を含む。また、矩形は、正方形を含む。第2主面212は、第1主面211とは反対向きである。第2主面212も、第1主面211と同様に、矩形状である。
【0083】
また、基板210は、4つの端面213と、4つの第1面取面214と、4つの第2面取面215とを含む。端面213は、第1主面211及び第2主面212に対して垂直である。第1面取面214は、第1主面211と端面213の境界に形成される。第2面取面215は、第2主面212と端面213の境界に形成される。第1面取面214及び第2面取面215は、本実施形態では、いわゆるC面取面であるが、R面取面であってもよい。
【0084】
基板210は、例えばガラス基板である。基板210のガラスは、TiOを含有する石英ガラスが好ましい。石英ガラスは、一般的なソーダライムガラスに比べて、線膨張係数が小さく、温度変化による寸法変化が小さい。石英ガラスは、SiOを80質量%~95質量%、TiOを4質量%~17質量%含んでよい。TiO含有量が4質量%~17質量%であると、室温付近での線膨張係数が略ゼロであり、室温付近での寸法変化がほとんど生じない。石英ガラスは、SiOおよびTiO以外の第三成分又は不純物を含んでもよい。
【0085】
平面視にて基板210のサイズは、例えば縦152mm、横152mmである。縦寸法及び横寸法は、152mm以上であってもよい。
【0086】
基板210は、第1主面211に中央領域211Aと周縁領域211Bとを有する。中央領域211Aは、その中央領域211Aを取り囲む矩形枠状の周縁領域211Bを除く、正方形の領域であり、ステップS101~S104によって所望の平坦度に加工される領域であり、品質保証領域である。品質保証領域は、例えば縦142mm、横142mmのサイズを有する。中央領域211Aの4つの辺は、4つの端面213に平行である。中央領域211Aの中心は、第1主面211の中心に一致する。
【0087】
なお、図示しないが、基板210の第2主面212も、第1主面211と同様に、中央領域と、周縁領域とを有する。第2主面212の中央領域は、第1主面211の中央領域と同様に、正方形の領域であって、図19のステップS101~S104によって所望の平坦度に加工される領域であり、品質保証領域である。品質保証領域は、例えば縦142mm、横142mmのサイズを有する。
【0088】
ステップS101は、基板210の第1主面211及び第2主面212を研磨することを含む。第1主面211及び第2主面212は、本実施形態では不図示の両面研磨機で同時に研磨されるが、不図示の片面研磨機で順番に研磨されてもよい。ステップS101では、研磨パッドと基板210の間に研磨スラリーを供給しながら、基板210を研磨する。
【0089】
研磨パッドとしては、例えばウレタン系研磨パッド、不織布系研磨パッド、又はスウェード系研磨パッドなどが用いられる。研磨スラリーは、研磨剤と分散媒とを含む。研磨剤は、例えば酸化セリウム粒子である。分散媒は、例えば水又は有機溶剤である。第1主面211及び第2主面212は、異なる材質又は粒度の研磨剤で、複数回研磨されてもよい。
【0090】
なお、ステップS101で用いられる研磨剤は、酸化セリウム粒子には限定されず、例えば、酸化シリコン粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化チタン粒子、ダイヤモンド粒子、又は炭化珪素粒子などであってもよい。
【0091】
ステップS102は、基板210の第1主面211及び第2主面212の表面形状を測定することを含む。表面形状の測定には、例えば、表面が傷付かないように、レーザー干渉式などの非接触式の測定機が用いられる。測定機は、第1主面211の中央領域211A、及び第2主面212の中央領域の表面形状を測定する。
【0092】
ステップS103は、ステップS102の測定結果を参照し、平坦度を向上すべく、基板210の第1主面211及び第2主面212を局所加工することを含む。第1主面211と第2主面212は、順番に局所加工される。その順番は、どちらが先でもよく、特に限定されない。
【0093】
局所加工には、例えば、GCIB(Gas Cluster Ion Beam)法、PCVM(Plasma Chemical Vaporization Machining)法、磁性流体による研磨法、及び回転研磨工具による研磨から選ばれる少なくとも1つが用いられる。
【0094】
ステップS104は、基板210の第1主面211及び第2主面212の仕上げ研磨を行うことを含む。第1主面211及び第2主面212は、本実施形態では不図示の両面研磨機で同時に研磨されるが、不図示の片面研磨機で順番に研磨されてもよい。ステップS104では、研磨パッドと基板210の間に研磨スラリーを供給しながら、基板210を研磨する。研磨スラリーは、研磨剤を含む。研磨剤は、例えばコロイダルシリカ粒子である。
【0095】
ステップS105は、基板210の第2主面212の中央領域に、図22に示す導電膜240を形成することを含む。導電膜240は、EUVL用マスクを露光装置の静電チャックに吸着するのに用いられる。導電膜240は、例えば窒化クロム(CrN)などで形成される。導電膜240の成膜方法としては、例えばスパッタリング法が用いられる。
【0096】
ステップS106は、基板210の第1主面211の中央領域211Aに、図22に示す多層反射膜220を形成することを含む。多層反射膜220は、EUVを反射する。多層反射膜220は、例えば高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層したものである。高屈折率層は例えばシリコン(Si)で形成され、低屈折率層は例えばモリブデン(Mo)で形成される。多層反射膜220の成膜方法としては、例えばイオンビームスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法などのスパッタリング法が用いられる。
【0097】
ステップS107は、ステップS106で形成された多層反射膜220の上に、図22に示す吸収膜230を形成することを含む。吸収膜230は、EUVを吸収する。吸収膜230は、位相シフト膜であってもよく、EUVの位相をシフトさせてもよい。吸収膜230は、例えばタンタル(Ta)、クロム(Cr)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)から選ばれる少なくとも1つの元素を含む単金属、合金、窒化物、酸化物、酸窒化物などで形成される。吸収膜230の成膜方法としては、例えばスパッタリング法が用いられる。
【0098】
なお、ステップS106~S107は、本実施形態ではステップS105の後に実施されるが、ステップS105の前に実施されてもよい。
【0099】
上記ステップS101~S107により、図22に示すEUVL用マスクブランク200が得られる。EUVL用マスクブランク200は、導電膜240と、基板210と、多層反射膜220と、吸収膜230とをこの順番で有する。なお、EUVL用マスクブランク200は、導電膜240と、基板210と、多層反射膜220と、吸収膜230とに加えて、別の膜を含んでもよい。
【0100】
例えば、EUVL用マスクブランク200は、更に、低反射膜を含んでもよい。低反射膜は、吸収膜230上に形成される。その後、低反射膜と吸収膜230の両方に、開口パターン231が形成される。低反射膜は、開口パターン231の検査に用いられ、検査光に対して吸収膜230よりも低反射特性を有する。低反射膜は、例えばTaONまたはTaOなどで形成される。低反射膜の成膜方法としては、例えばスパッタリング法が用いられる。
【0101】
また、EUVL用マスクブランク200は、更に、保護膜を含んでもよい。保護膜は、多層反射膜220と吸収膜230との間に形成される。保護膜は、吸収膜230に開口パターン231を形成すべく吸収膜230をエッチングする際に、多層反射膜220がエッチングされないように、多層反射膜220を保護する。保護膜は、例えばRu、Si、Rh、またはTiOなどで形成される。保護膜の成膜方法としては、例えばスパッタリング法が用いられる。
【0102】
図23に示すように、EUVL用マスク201は、EUVL用マスクブランク200の吸収膜230に開口パターン231を形成することで得られる。開口パターン231の形成には、フォトリソグラフィ法およびエッチング法が用いられる。従って、開口パターン231の形成に用いられるレジスト膜が、EUVL用マスクブランク200に含まれてもよい。
【0103】
ところで、EUVL用マスクブランク200の製造工程の途中で、基板210または基板210の上に形成された各種の機能膜を洗浄することがある。酸またはアルカリによる化学反応を利用する洗浄、物理作用を利用する洗浄、またはこれらの組み合せの洗浄などが行われる。物理作用を利用する洗浄は、超音波洗浄、スクラブ洗浄、または二流体洗浄などである。二流体洗浄は、洗浄液とガスを混合しながら噴射する。
【0104】
超音波洗浄は、例えば図1に示す超音波洗浄装置1を用いて行われる。超音波洗浄は、好ましくは、ステップS104とS105の間、ステップS105とS106の間、ステップS106とS107の間、ステップS107の後のうちの少なくとも1つで実施される。また、超音波洗浄は、図示しないが、低反射膜、ハードマスク膜または保護膜の前後で実施されてもよい。
【0105】
以上、本開示に係る超音波洗浄装置、基板洗浄方法、およびEUVL用マスクブランクの製造方法について説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、及び組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0106】
1 超音波洗浄装置
10 保持部
30 洗浄ヘッド
31a 振動面
32 超音波振動子
80 超音波発振器
81 配線
82 測定部
W 基板
F 液膜
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