(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010680
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法、及び樹脂部品付き車両用窓ガラス
(51)【国際特許分類】
B05D 3/00 20060101AFI20250116BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20250116BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20250116BHJP
B60J 1/00 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
B05D3/00 D
B05D7/24 301P
B05D3/02 E
B60J1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112799
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】上田 俊司
(72)【発明者】
【氏名】浦田 量一
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075BB26Z
4D075BB37Z
4D075BB38Z
4D075BB91Z
4D075BB95Z
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB13
4D075DC13
4D075EA27
4D075EA41
4D075EB33
4D075EB43
(57)【要約】
【課題】樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法において、部品の仮止めをより簡便にできる技術を提供する。
【解決手段】樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法であって、樹脂部品を車両用窓ガラスに接着剤を介して配置する配置工程、並びに赤外線を前記樹脂部品の非接着面に向けて局所的に照射して前記接着剤の局所部分を硬化させる第1硬化工程、を含む。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂部品を車両用窓ガラスに接着剤を介して配置する配置工程、並びに
赤外線を前記樹脂部品の非接着面に向けて局所的に照射して前記接着剤の局所部分を硬化させる第1硬化工程、を含む、樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項2】
さらに、前記接着剤のうち前記局所部分以外の部分である主部分を硬化させる第2硬化工程を含み、
前記第1硬化工程における接着剤単位量当たりの硬化時間が、前記第2硬化工程における接着剤単位量当たりの硬化時間より長い、請求項1に記載の樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記赤外線の照射径が2mm以上10mmm以下である、請求項1又は2に記載の樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記赤外線が近赤外線である、請求項3に記載の樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記第1硬化工程で硬化される前記局所部分の量が、前記接着剤の全体量の0.5%以上20%以下である、請求項1又は2に記載の樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記照射によって前記樹脂部品に変性が生じる、請求項1又は2に記載の樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂部品に、厚み方向に材料の一部又は全部が除去された部分である厚み方向材料除去部が形成されており、
前記赤外線を前記厚み方向材料除去部に向けて照射することによって、前記変性が生じる、請求項6に記載の樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記樹脂部品が、車載機器の取付け用部品である、請求項1又は2に記載の樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法。
【請求項9】
樹脂部品が接着剤を介して車両用窓ガラスに固定されてなる、部品付き車両用窓ガラスであって、
前記接着剤が、局所部分と、前記局所部分以外の主部分とを有し、
前記局所部分を介した前記樹脂部品と前記車両用窓ガラスとの単位面積当たりの接着強度が、前記主部分を介した前記樹脂部品と前記車両用窓ガラスとの単位面積当たりの接着強度より小さく、
前記樹脂部品に、赤外線の照射による変性が局所的に生じており、
前記変性した部分が前記局所部分に対向している、樹脂部品付き車両用窓ガラス。
【請求項10】
平面視で、前記局所部分の円相当直径が2mm以上10mm以下である、請求項9に記載の樹脂部品付き車両用窓ガラス。
【請求項11】
前記樹脂部品に、厚み方向に材料の一部又は全部が除去された部分である厚み方向材料除去部が形成されており、
前記変性した部分が、前記厚み方向材料除去部及び/又はその周辺部と重なる、請求項10に記載の樹脂部品付き車両用窓ガラス。
【請求項12】
前記樹脂部品が、車載機器の取付け用部品である、請求項9又は10に記載の樹脂部品付き車両用窓ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法、及び樹脂部品付き車両用窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用窓ガラスに、ミラーベース、ブラケット等の部品が接着剤により接着されてなる構成が知られている。このような部品付き車両用窓ガラスの製造においては、部品の接着面に接着剤を塗布して車両用窓ガラスに取り付けた後、接着剤を硬化させて部品を車両用窓ガラスに接着する。
【0003】
上記接着のために通常用いられる接着剤は、硬化するまでに時間を要するものが多い。そのため、部品が車両用窓ガラスに取り付けられた後、振動等の負荷が掛かった場合でも部品と車両用窓ガラスとの相対位置がずれないように、多くの場合、部品の仮止めが行われている。仮止めの手段としては、両面テープがよく知られているが、本来の接着剤とは別種の、硬化時間の短い接着剤を用いることも検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の両面テープ又は別種の接着剤は、元々使用されている接着剤とは別途、追加で用いられる材料である。また、このような両面テープ又は別種の接着剤は、別の手法で被着又は塗布する必要があるため、元々使用されている接着剤の塗布工程とは別に、両面テープ又は別種の接着剤を塗布、または貼り付ける時間及び手間がかかってしまう。そのため、材料点数及び時間・手間を低減した、より簡便な仮止め技術が求められている。
【0006】
上記の点に鑑みて、本発明の一態様は、樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法において、部品の仮止めをより簡便にできる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様による樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法は、樹脂部品を車両用窓ガラスに接着剤を介して配置する配置工程、並びに赤外線を前記樹脂部品の非接着面に向けて局所的に照射して前記接着剤の局所部分を硬化させる第1硬化工程、を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、樹脂部品付き車両用窓ガラスの製造方法において、より簡便に部品の仮止めを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態により製造される部品付き車両用窓ガラスの例を示す図である。
【
図3】一実施形態による製造方法の一例のフロー図である。
【
図4】一実施形態による部品付き車両用窓ガラスの製造例の一工程を示す図である。
【
図5】一実施形態による部品付き車両用窓ガラスの製造例の一工程を示す図である。
【
図7】一実施形態による部品付き車両用窓ガラスの製造例の一工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面において同一の又は対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。
【0011】
図1に、一実施形態によって製造される部品付き車両用窓ガラス1の一例を、車内面側から見た図である。また、
図2に、
図1のI-I線断面の部分拡大図を示す。
図1及び
図2に示すように、部品30が車両用窓ガラス10の主面に接着されており、その接着には接着剤20が利用されている。
図1及び
図2に示す例では、部品30は樹脂製のブラケットであり、当該樹脂製のブラケットが、車両用窓ガラス10の車内面の上方、左右方向の中央付近に接着されている(
図1)。なお、部品30は金属製のブラケットでもよい。また、
図1の車両用窓ガラス10はフロントガラスであるが、本形態における車両用窓ガラスは、リアガラス、サイドガラス、ルーフガラス等であってもよい。
【0012】
図1及び
図2に示すように、車両用窓ガラス10には、周縁部に遮蔽層50が形成されている。遮蔽層50は黒セラ層とも呼ばれる。遮蔽層50の構成は特に限定されないが、黒色、灰色、濃茶色有色のセラミックスペースト(ガラスペースト)が塗布され焼成されてなる層であると好ましい。遮蔽層50は、車両において車両用窓ガラス10を車体に装着して保持するためのシーラント等を紫外線などから保護する働きを有する。なお、遮蔽層50は有機インクや無機インクを塗布して形成された層でもよい。
図1及び
図2の例では、部品30は接着剤20を介して、車両用窓ガラス10の遮蔽層50に直接接着されている。
【0013】
本形態において用いられる車両用窓ガラス10には、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス等のガラス板が用いられていてよい。ガラス板の成形法は特に限定されないが、例えばフロート法により成形されたガラスが好ましい。ガラス板は未強化であってよいし、風冷強化又は化学強化処理が施された強化ガラスであってもよい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形し、徐冷したものである。強化ガラスは、未強化ガラスの表面に圧縮応力層を形成したものである。強化ガラスが風冷強化ガラスである場合は、に加熱したガラス板を軟化点付近の温度から急冷し、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることで、ガラス表面を強化してもよい。一方、強化ガラスが化学強化ガラスである場合は、イオン交換法等によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることでガラス表面を強化してもよい。また、車両用窓ガラスは透明であることが好ましいが、透明性を損なわない程度に着色されたガラスであってもよい。ガラスの形状は、特に矩形状に限定されるものではなく、種々の形状に加工されていてよい。また、車両用窓ガラスに用いられるガラス板は曲げ成形され、湾曲していてもよい。曲げ成形としては、重力成形、又はプレス成形等が用いられる。本形態による車両用窓ガラス10が自動車用である場合、自動車の前後方向及び上下方向に湾曲した複曲ガラスであってよいし、前後方向又は上下方向にのみ湾曲された単曲ガラスであってもよい。窓ガラスの曲率半径は、200mm以上300,000mm以下であってよい。
【0014】
車両用窓ガラス10は、単板のガラスであってもよいし、合わせガラスであってもよい(
図2)。合わせガラスは、複数のガラス板11、12を、中間膜15を介して貼り合わせてなるガラスである。合わせガラスに用いられる複数のガラス板も上述のガラスが用いられる。
【0015】
合わせガラスにおいて、複数のガラス板11、12の間に配置される中間膜15(
図2)の材料は特に限定されないが、熱可塑性樹脂であると好ましい。中間膜の材料の具体例としては、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、アイオノマー樹脂等の従来から用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。また、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物も好適に使用できる。これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。上記の熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
【0016】
中間膜15は、可塑剤を含有していない樹脂、例えばエチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂等であってもよい。上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn-ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(PVB)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適な材料として挙げられる。なお、上記の樹脂は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0017】
合わせガラスの場合、車両用窓ガラス全体の厚み(中間膜も含めた厚み)は、2.3mm以上8.0mm以下であってよい。また、合わせガラスを構成する複数のガラス板のそれぞれの厚みは、0.5mm以上3.5mm以下であってよい。複数のガラス板の厚みは互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、なお、車内側のガラス板の厚みを0.5mm以上2.3mm以下としてもよい。
【0018】
樹脂部品30は、車両用窓ガラス10の主面のいずれかの場所に取り付けられる部品であれば、特に限定はされない。部品30は、インナーミラー取付け用のミラーベース、センサ、カメラ等を取り付けるためのブラケット、モール、プロテクタ、ピン、クリップ、ホルダ、ヒンジ等であってよい。
【0019】
樹脂部品30は、部品全体が樹脂から形成された部品、例えば樹脂成形体であってもよいし、樹脂以外の材料からなる成形体の表面の一部又は全部を樹脂で被覆したものであってもよい。本明細書において、樹脂部品30は、少なくとも表面に樹脂を含むものであればよい。
【0020】
樹脂部品30に用いられる材料樹脂は、硬化性樹脂であっても熱可塑性樹脂であってもよい。樹脂の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリカーボネート(PC)、ナイロン6、ナイロン6,6等のポリアミド(PA)、テレフタル酸やイソフタル酸をベースとした高耐熱ポリアミド(PA6T、PA6I、PA6T/6I等)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、ポリアセタール(POM)、ポリ塩化ビニル(PVC)、エポキシ(EP)等が挙げられる。なお、樹脂部品30が、樹脂以外の材料からなる成形体の表面を樹脂で被覆した部品である場合、成形体の材料は金属、例えば、アルミニウム、亜鉛、鉄、ステンレス等であってよい。その場合、金属の材料は、1種の金属元素からなる単体金属であってもよいし合金であってもよい。
【0021】
本形態で接着剤20は、窓ガラス10と部品30との接着のために使用可能な接着剤であれば特に限定されず、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系、変成シリコーン系、メラミン系、フェノール系、アクリル系等であってよい。また、一液型であってもよいし、二液型であってもよい。接着剤は、熱によって硬化が促進される接着剤(熱硬化型接着剤)、すなわち、熱トリガー型(熱カチオン、熱ラジカル等の加熱により硬化が促進されるもの)であること、若しくは熱硬化性ポリマーを主成分として含むことが好ましい。熱硬化型接着剤の場合、製造者によって硬化のタイミングのコントロールが可能となるので、好ましい。なお、熱硬化型接着剤は、加熱硬化式(通常の使用形態で加熱を要するとされているもの)であってもよいし、常温硬化式(通常の使用形態で放置により硬化反応させ、加熱不要とされているもの)であってもよいが、本形態による方法では、常温硬化式の接着剤を好適に使用できる。接着剤の具体例としては、二液変性シリコーン接着剤(変成シリコーン/エポキシ接着剤)、二液ウレタン接着剤、一液熱硬化ウレタン接着剤、第二世代アクリル系接着剤(SGA)等が挙げられる。
【0022】
図3に、一実施形態による部品付き車両用窓ガラス1の製造方法のフロー図を示す。
図3に示すように、本形態による製造方法は、車両用窓ガラスに接着剤を介して樹脂部品を配置する配置工程(S11)と、赤外線を部品の非接着面に向けて局所的に照射して接着剤の局所部分を硬化させる第1硬化工程(S12)とをこの順で含む。本形態による製造方法は、さらに、第1硬化工程(S12)の後、局所部分以外の部分である主部分を硬化させる第2硬化工程(S13)を含んでいてよい。なお、本明細書では、第1硬化工程(S12)を仮止め工程、第2硬化工程(S13)を本固定工程と呼ぶ場合がある。
【0023】
本実施形態では、部品30の車両用窓ガラス10への仮止めを、接着剤の局所部分を硬化させることによって行っている。別言すると、仮止めのために、元々使用されている本固定用の接着剤の一部が利用される。そのため、両面テープ、別種の接着剤といった追加材料を、わざわざ仮止め工程のために準備する必要はない。すなわち、仮止めのための材料点数の増加がない。さらに、例えば両面テープを用いる従来の仮止めは手作業により行われていて、製造ライン上で自動化することは不可能若しくは困難であったが、本形態によれば、手間のかかる手作業工程は必要なくなる。また、従来の別種の接着剤を使用する仮止めであっても、本固定の接着剤の硬化方法とは別形式の硬化方法が必要となり得るが、本形態では、そのような別形式の硬化方法も不要である。よって、仮止めのために材料点数を増やすことなく製造中の手間も増やすことなく、すなわち簡便な工程で、仮止めを行うことができる。
【0024】
次に、
図3と共に
図4~
図7も参照して、本形態による製造方法の各工程について、より詳細に説明する。
図4は配置工程(S11)を、
図5及び
図6は第1硬化工程(S12)を、
図7は第2硬化工程(S13)を示す図でる。なお、
図6は、
図5のII-II線断面を模式的に示す図である。
【0025】
配置工程(S11)では、樹脂部品30を、車両用窓ガラス10に接着剤20を介して配置する。配置工程(S11)に際しては、部品30の接着面31を確認し、必要に応じて接着面31を清浄化する。部品30の接着面31は、車両用窓ガラス10の主面に対向させ、当該主面に沿わせる面であり、平坦であるか又は車両用窓ガラス10の対向面のカーブに合わせた湾曲を有する面であってよい。続いて、例えば
図4に示すように、車両用窓ガラス10の主面に、部品30の接着面31に対応する接着面対応領域31aの所定の箇所に、接着剤20を塗布する。接着剤20の塗布は、接着剤の種類に応じた従来公知の手段で行うことができる。
【0026】
接着剤20は、接着面対応領域31aの全体にわたって塗布してもよいし、一部に塗布してもよい。また、
図4に示すように、接着剤20は、非連続に複数箇所に塗布されてもよい。複数箇所に塗布する場合には、線状又は点状で塗布されてもよい。
図4には、平面視でそれぞれほぼ一定の幅を有する直線状の接着剤20が複数例示されているが、接着剤20の塗布の形式(塗布範囲、連続か非連続か、塗布面積、塗布箇所及びその数)等は、部品30の構成、すなわち部品30のサイズ、形状、材料種、機能(ブラケットであれば保持対象は何か等)によって決められる。但し、接着剤20は、仮止め箇所を形成したい場所には、すなわち後続の第1硬化工程(S12)において赤外線を照射する部分、すなわち接着剤の局所部分を形成したい場所には、塗布しておくものとする。
【0027】
接着剤20を塗布した後、部品30の接着面31を、車両用窓ガラス10における接着面対応領域31aに適合するように対向させて、部品30を車両用窓ガラス10の主面に配置する。なお、配置工程(S11)においては、部品30の接着面31に接着剤20を塗布した後に、車両用窓ガラス10の主面の所望の位置に、接着剤20付きの部品30を接触させてもよい。また、部品30に、貫通孔35(後述)が設けられている場合には、接着剤20は貫通孔35と重なるように塗布することが好ましい。
【0028】
上記配置工程(S11)の後、第1硬化工程(S12)に進む。第1硬化工程(S12)では、
図5に示すように部品30の非接着面32に向けて赤外線を局所的に照射する。本明細書において、赤外線を「局所的に照射する」とは、赤外線が局所的な領域に照射され且つそれ以外の領域には照射されないようにすることを指す。赤外線を局所的に照射することで、接着剤20の所定部分のみが昇温する、或いは接着剤20の所定部分がそれ以外の部分よりも速い速度で昇温する。よって、第1硬化工程(S12)が終了した段階で、接着剤20の所定部分、及びそれ以外の部分の温度をそれぞれ測定した場合、所定部分の温度が主部分の温度より高くなっている。このような赤外線の局所的な照射には、局所に、熱エネルギー及び/又は光エネルギーを集中させることのできる手段、すなわち、指向性が高い(集光性若しくは集熱性が高い)照射手段を用いることが好ましい。
【0029】
図5には、第1硬化工程(S12)のための照射手段として、赤外線照射部81と電源・制御部85とを備えた照射手段80が示されている。
図5に示すように、照射手段80の赤外線照射部81から照射された赤外線は、部品30全体の平面視面積の局所に、すなわち部品30全体の平面視面積の対してごく一部に照射されている。例えば、平面視で、赤外線が照射される領域の円相当直径は2mm以上10mm以下であってよい。すなわち、照射領域が円形であれば、その照射領域は上記範囲の直径を有していてよいし、照射領域が円形以外の形状を有するのであれば、照射領域は、上記範囲の直径を有する円と同じ面積を有していてよい。なお、照射手段80を複数準備して、赤外線の局所的照射を複数の箇所で同時に行ってもよいが、上記範囲の円相当直径は一か所の照射領域の値である。
【0030】
照射手段80により照射される赤外線は、熱線及び/又は光線であってよく、接着剤20の硬化させるものであれば限定されないが、近赤外線から短波長赤外線(波長780nm以上2500nm以下)が好ましい。よって、照射手段80は、ハロゲンランプヒータ、例えばハロゲンポイントヒータ、レーザ等であってよい。これらの照射手段は、非接触であり且つ指向性が高いので好ましい。照射手段80としてハロゲンポイントヒータ、レーザ等を用いる場合、上述の円相当直径(2mm以上10mm以下)の範囲の集光径(照射径)を有する。
【0031】
また、
図5に示すように、照射手段80は、部品30の非接着面32の側に配置され、赤外線を非接着面32に向けて照射する。非接着面32は、部品の30の接着面31とは反対側の面であり、接着剤20が塗布されない側の面である。赤外線の照射角度は、非接着面32に対する垂直方向であってもよいし、垂直方向から45°以上135°以下の角度をなした方向とすることもできる。但し、非接着面32に対し垂直方向に照射した方が効率良く接着剤20の局所部分を加熱して硬化させることができる。
【0032】
赤外線を非接着面32に向けて照射する場合、赤外線は部品30の非接着面32に直接照射できるし、例えば、部品30に貫通孔35が設けられている場合等には、部品30に直接照射されないこともある。貫通孔35は、
図4及び
図5に示すように、部品30の厚み方向に貫通した孔である。部品30に貫通孔35が設けられている場合には、
図5及び
図6に示すように、赤外線照射部81からの赤外線を、貫通孔35を通して、接着剤20の表面に直接照射できる。すなわち、接着剤20が部品30の貫通孔35で露出した領域に赤外線を照射できる。なお、この場合でも、赤外線が接着剤20の表面と共に、貫通孔35の周辺の樹脂にも直接照射されてもよい。
【0033】
第1硬化工程(S12)における赤外線の照射は、接着剤20の局所部分を急速に硬化させる、短時間で大きなエネルギーを付与するものであるので、赤外線が直接照射された樹脂部分、又は赤外線の照射領域の近傍の樹脂は、通常の方法で視認可能な変性が生じ得る。よって、上述のように、部品30に予め貫通孔35(
図4~
図6)を設けておくことで、赤外線が直接的に照射される樹脂の部分を低減でき若しくはなくし、樹脂部品30において変性される部分を低減できる。また、赤外線が貫通孔35を通ることで、赤外線を接着剤20に直接照射でき(
図6)、第1硬化工程(S12)での接着剤20の局所的な硬化を効率良く行うことができる。なお、本明細書では、赤外線の照射による樹脂部品30の変性には、物理的な変形(気泡形成、表面粗さの変化、表面における凹部又は凸部の形成)及び/又は化学的組成の変化(焦げ、酸化、分解、変色等)が含まれる。
【0034】
貫通孔35のサイズは、第1硬化工程(S12)にて硬化したい局所部分(仮止め部)の大きさ、樹脂部品30の樹脂材料の種類、部品30の用途・機能等に応じて決めることができるが、貫通孔35は、例えば、平面視で直径が好ましくは2mm以上10mm以下、より好ましくは4mm以上8mm以下の円形の孔、或いは当該円と同等の平面視面積を有するサイズを有する孔であってよい。貫通孔35が上記範囲の大きさであることで、赤外線を十分に貫通させて樹脂部品30が変性される部分を低減できると共に効率良く接着剤20を硬化でき、且つ部品30自体の堅牢性も確保される。
【0035】
赤外線が直接的に照射される樹脂の部分を低減し、樹脂部品30の変性を低減するという観点からは、部品30に形成されるのは、必ずしも貫通孔35でなくともよく、周囲と比較して厚み方向に樹脂材料が除去された部分(厚み方向材料除去部)であってよい。例えば、貫通孔35に代えて、部品30の周縁を面方向に切り欠いてなる切欠き(すなわち、平面視で部品30の周縁を凹ませてなる凹み)、又は部品30の厚みをその周囲より薄くした肉薄部を、部品30に設けておくこともできる。但し、赤外線を接着剤20に直接照射できることから、貫通孔35又は切欠きを部品30に設けておくことが好ましい。また、部品30の仮止めは、周縁から距離を置いた位置で形成された方が、部品30を車両用窓ガラス10に繋ぎとめておく作用が高いことから、厚み方向材料除去部は、切欠きよりは貫通孔35又は肉薄部であると好ましい。
【0036】
なお、部品30自体に別の目的で、貫通孔、切欠き、肉薄部等の厚み方向材料除去部が元々形成されているのであれば、赤外線の照射の際に、そのような元々形成されている部分を利用してもよい。
【0037】
上述のように、部品30が厚み方向材料除去部を有する場合、上述の配置工程(S11)で部品30を接着剤20を介して車両用窓ガラス10に配置する際、部品30における厚み方向材料除去部の少なくとも一部が、接着剤20に重なるように位置調整することが好ましく、厚み方向材料除去部の全体が、接着剤20に重なるように、すなわち平面視で接着剤20の塗布領域に含まれるように位置調整することがより好ましい。例えば、
図4に示す例では、貫通孔35が配置される予定の位置に、接着剤20が塗布されている。これにより、配置工程(S11)が終了した段階では、部品30を非接着面32から見た時、貫通孔35を通して接着剤20が視認できる状態になっている。
【0038】
そして、第1硬化工程(S12)では、赤外線を、部品30における厚み方向材料除去部に向けて、好ましくは厚み方向材料除去部の中心に向けて照射する。例えば、貫通孔35が形成されている部品30を用い且つ第1硬化工程(S12)の硬化手段としてハロゲンスポットヒータを使用した場合には、貫通孔35の平面視の中心(貫通孔35が円形でない場合には図心)と、ハロゲンスポットヒータの焦点円の中心とが一致するように(
図6)、照射を行うとが好ましい。
【0039】
なお、一実施形態では、上述のような厚み方向材料除去部が何ら形成されていない部品30を用いてもよい。すなわち、部品30には何ら加工を施さずに、赤外線の照射を行ってもよい。その場合、赤外線がが樹脂部品30に直接照射されるので、樹脂部品30の照射された箇所が変性し得る。
【0040】
このように、第1硬化工程(S12)においては、赤外線の局所的な照射により接着剤20のごく一部を昇温させて、先行して硬化させる。このように硬化された局所部分は、部品30と車両用窓ガラス10との仮止め部となる。仮止め部によって、後続の工程で、例えば製造ライン上で振動が発生した場合でも、部品30と車両用窓ガラス10との位置ズレ等を防止できる。第1硬化工程(S12)が終了した段階では、接着剤20の所定部分の硬度が、所定部分以外の部分(主部分)の硬度より大きくなっている。
【0041】
第1硬化工程(S12)において硬化される局所部分は、1箇所でなくても、離隔した複数の箇所であってもよい。接着剤20において複数の局所部分を硬化させたい場合には、赤外線の照射を複数箇所に対して行えばよい。局所部分の大きさ、数、位置は、部品30の形状、大きさ、接着面31の面積、形状、接着剤20の塗布量等によって適宜決定できる。また、接着剤の局所部分の面積(局所部分が複数形成される場合にはその面積の合計)は、配置工程(S11)にて塗布された接着剤の全面積の好ましくは0.5%以上20%以下、好ましくは3%以上15%以下であってよい。接着剤の局所部分の量を上位範囲とすることで、第1硬化工程(S12)をできるだけ迅速に行うことができると共に、後述の第2硬化工程(S13)において硬化される接着剤の量を十分確保でき、部品30と車両用窓ガラス10との十分な接着強度を得ることができる。
【0042】
第1硬化工程(S12)では、接着剤20の1つの局所部分を硬化するための赤外線照射の出力は、好ましくは20W以上100W以下であってよい。照射手段80が近赤外線若しくは短波長赤外線ヒータである場合には、ヒータの開口から照射面までの距離(若しくは焦点距離)は6mm以上12mm以下であってよい。また、第1硬化工程(S12)において、接着剤における1つの局所部分を硬化するための時間(硬化時間)は、好ましくは70秒以下、より好ましくは60秒以下であってよい。また、硬化時間は、30秒以上であってよい。第1硬化工程(S12)の赤外線照射の条件は、車両用窓ガラス10が合わせガラスであった場合、合わせガラス内の中間膜15が変性(発泡、変色、変形等)しない条件とする。よって、第1硬化工程(S12)において、合わせガラスの中間膜15の温度を測定したとしても、その温度は、100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下、さらに好ましくは30℃以下に留める。
【0043】
なお、本明細書において、接着剤の硬化とは、接着剤が固まって平衡又はほぼ平衡の状態となることを指す。そして、赤外線の照射に際して接着剤の温度を測定し、その温度が目標の温度、すなわち、硬化狙い温度(硬化狙い値)に達しゲル化するまでの時間を硬化完了の目安にできる。ここで、硬化狙い温度は、使用される接着剤ごとに決定できる。例えば、複数の温度に対する所定の接着剤のゲル化時間を測定し、接着剤20にダメージが出ない温度範囲内で最も高い温度であるゲル化温度を硬化狙い温度とすることができる。なお、ゲル化時間は、JIS K 6910:2007におけるゲル化時間A法に準拠した方法で測定できる。接着剤の硬化狙い温度は、常温(15~25℃)より高い温度であり、例えば40℃以上100℃以下となり得る。
【0044】
第1硬化工程(S12)の後は、第2硬化工程(S13)に進む。第2硬化工程(S13)は、第1硬化工程(S12)で硬化させた接着剤20の局所部分以外の部分である主部分を硬化させる。これにより、接着剤20全体が硬化に至り、部品30全体が車両用窓ガラス10に接着剤20を介して接着されるので、部品付き車両用窓ガラス1(
図1)を得ることができる。
【0045】
第2硬化工程(S13)の具体的な手法は、特に限定されない。例えば、接着剤の主部分が硬化するまで放置する等の公知の方法を用いてもよい。放置により接着剤の主部分の硬化を行う場合、放置環境、具体的には温度及び/又は湿度は適宜調整できる。
【0046】
また、第2硬化工程(S13)においても、接着剤20の主部分を昇温させることによって硬化を促進することもできる。第2硬化工程(S13)における接着剤20の主部分の硬化のためには、例えば、近赤外線から短波長赤外線の照射、例えばハロゲンランプヒータ(ハロゲンワイドヒータ、ハロゲンポイントヒータ、ハロゲンラインヒータ等)、レーザ、誘導加熱、オーブン、熱風等も利用してもよい。よって、第1硬化工程(S12)及び第2硬化工程(S13)にてハロゲンヒータを用いて、両工程で照射条件を変更することもできる。これにより、第1硬化工程(S12)及び第2硬化工程(S13)を通して1つの装置を設置しておけばよく、2つの工程ためにそれぞれ装置を準備する必要はないので、製造設備が簡素化され且つ製造上の手間も低減される。
【0047】
第2硬化工程(S13)においていずれの手段を用いた場合でも、第1硬化工程(S12)にかかる硬化時間は、第2硬化工程(S13)にかかる硬化時間よりも短い。第2硬化工程(S13)にかかる硬化時間(T2)に対する、第1硬化工程(S12)かかる硬化時間(T1)の比の値(T1/T2)は、0.2以上0.8以下であってよい。但し、第1硬化工程(S12)における接着剤単位量当たりの硬化時間は、第2硬化工程(S13)における接着剤単位量当たりの硬化時間より長く、第1硬化工程では、接着剤を短時間で効率的に加熱硬化させている。なお、接着剤の単位量とは、接着剤の単位質量又は単位体積を指す。
【0048】
第2硬化工程(S13)を接着剤20の主部分の硬化を、赤外線の照射により行う場合、例えば、車両用窓ガラス10の主面(部品30に対する対向面)に熱吸収層を設けておき、その熱吸収層又はその近傍を、局所的に加熱し、その熱を接着剤20に伝えることにより、接着剤20の主部分を昇温させてもよい。これにより、車両用窓ガラス10として合わせガラスを使用した場合であっても、第2硬化工程(S13)において合わせガラス内に配置された中間膜が変性することを防止できる。熱吸収層は、熱を吸収し、吸収した熱を伝達する、或いは外部から供給されるエネルギー(例えば熱線などの光エネルギー)を吸収し、吸収したエネルギーを熱に変換して熱を得ることのできる材料からなる層であればよい。例えば、上述の車両用窓ガラス10の周縁部に形成された遮蔽層50(
図1)は、熱吸収層であるので、第2硬化工程(S13)で、遮蔽層50に熱線及び/又は光線を照射して、接着剤20の主部分(残りの部分)を硬化できる。
図7に示すように、照射手段80aの赤外線照射手段81aを遮蔽層50の上方に配置して、遮蔽層50に直接赤外線を照射することができる。その場合、第2硬化工程(S13)における赤外線照射部81aの出力は、40W以上80W以下であってよい。また、ヒータの開口から熱吸収層(遮蔽層50)の表面までの距離(若しくは焦点距離)は10mm以上30mm以下であってよい。
【0049】
第1硬化工程(S12、仮止め)及び第2硬化工程(S13、本固定)の両方を、赤外線の照射により行う場合、第1硬化工程(S12)における接着剤の単位量当たり昇温速度が、第2硬化工程(S13)における接着剤の単位量当たり昇温速度より高い条件で行う。
【0050】
なお、車両用窓ガラス10が合わせガラスの場合、第2硬化工程(S13)においても、合わせガラスに含まれる中間膜に変性(発泡、変色、変形等)が生じないように行う。例えば、本形態における加熱は、中間膜の温度が100℃以下、好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下、さらに好ましくは30℃以下であるように行う。
【0051】
本発明の一実施形態は、上述した製造方法によって製造される樹脂部品付き車両用窓ガラス(
図1)であってよい。具体的には、樹脂部品を車両用窓ガラスに接着剤を介して配置する配置工程、並びに赤外線を前記樹脂部品の非接着面に向けて局所的に照射して前記接着剤の局所部分を硬化させる第1硬化工程、を含む方法によって製造された、樹脂部品付き車両用窓ガラスである。
【0052】
また、一実施形態は、樹脂部品が接着剤を介して車両用窓ガラスに固定されてなる、部品付き車両用窓ガラスであって、前記接着剤が、局所部分と、前記局所部分以外の主部分とを有し、前記局所部分を介した前記樹脂部品と前記車両用窓ガラスとの単位面積当たりの接着強度が、前記主部分を介した前記樹脂部品と前記車両用窓ガラスとの単位面積当たりの接着強度より小さいものであってよい。例えば、上記主部分での接着強度(S2)に対する上記局所部分での接着強度(S1)の比の値(S1/S2)が、0.05以上0.3以下であってよい。そして、前記樹脂部品には、赤外線の照射による変性が局所的に生じており、前記変性した部分が前記局所部分に対向している。当該変性は、上述した物理的な変性若しくは化学的な変性又はその両方であってよい。
【0053】
上記接着剤の局所部分の円相当直径は、2mm以上10mm以下である。また、局所部分の平面視の面積(局所部分が複数箇所に形成されている場合には面積の合計)は、使用されている接着剤の全面積の好ましくは0.5%以上20%以下、好ましくは3%以上15%以下であってよい。
【0054】
そして、一形態では、接着剤が、局所部分と、局所部分以外の主部分とを有し、局所部分の硬度が、主部分の硬度より小さい。また、接着剤の局所部分の密度が、主部分の密度より小さい。さらに、樹脂部品付き車両用窓ガラスにおける接着剤内に含まれる気泡を観察した場合、局所部分に含まれる単位体積当たりの気泡の体積の合計は、主部分における単位体積当たりの気泡の体積の合計よりも大きい。なお、主部分は、気泡が含まれないか、ほとんど含まれない状態となっていてよい。
【0055】
上述の樹脂部品付き車両用窓ガラスにおいては、樹脂部品と車両用窓ガラスとの間に介在する接着剤が1種類であってよい。また、当該樹脂部品付き車両用窓ガラスは、例えば仮止め用に利用した両面テープを含んでいてもよいが、両面テープを含まない、両面テープレス構造であると好ましい。
【0056】
また、樹脂部品30に、厚み方向に材料の一部又は全部が除去された部分である厚み方向材料除去部(貫通孔、切欠き、又は肉薄部)が形成されていてよい。そして、上述の樹脂部品30が変性した部分が、厚み方向材料除去部及び/又はその周辺部と重なっていてよい。例えば、樹脂部品30に貫通孔35(
図5等)又は切欠きが形成されている場合には、貫通孔35又は切欠きの周縁に変性が視認され得る。樹脂部品30に肉薄部が形成されている場合には、その肉薄部の一部又は全体、及び場合によりその周辺が変性されている。
【実施例0057】
以下、実験例に基づき本発明の実施形態についてさらに詳説する。本実施例では、様々な条件で、部品を接着剤を介してガラスの主面に接着し、部品付き自動車用窓ガラスを作製し、評価した。例1~例6は実施例であり、例7~例11が比較例である。
【0058】
各例の評価は以下のようにして行った:
<工程適用性評価>
(仮止めまでの時間)
仮止めまでにかかる時間を評価した。接着剤の局所加熱によって仮止めを行った場合には、接着剤の局所部分が硬化狙い温度となりゲル化するまでの時間を記録した。評価基準は以下の通りとした:
〇:70秒以下
×:70秒超
なお、硬化狙い温度は、硬化工程において加熱される接着剤が達すべき所望の温度である。本実施例では、硬化狙い温度を求めるために、使用される接着剤ごとに、複数の温度に対するゲル化時間を測定して、接着剤や被着体にダメージが出ない温度範囲で、最も高い温度となるゲル化温度を硬化狙い値とした。なお、ゲル化時間の測定は、JIS K 6910:2007におけるゲル化時間A法に準拠した方法で測定した。
【0059】
(仮止めのための追加材料)
仮止めのために必要となった材料を、以下のように評価した:
〇:追加の材料は不要であった
×:追加の材料が必要であった
表1には、追加材料の点数もかっこ内に記載した。
【0060】
(自動化困難作業の時間)
自動化困難な作業が必要であったか、について評価した。そのような作業が不要の場合は「不要」、必要の場合には「必要」とした。例えば、例7で使用されている両面テープは現段階の技術では手作業で行う必要があり、自動化による貼り付け作業はほぼ不可能と言えるため、「必要」と評価した。
【0061】
(接着剤厚みの制御の可否)
ブラケット付き合わせガラスにおける接着剤の厚み(ブラケットを合わせガラスとの間隔)を制御できるか否かを評価した。表1には、作製工程中に制御若しくは調整できる場合を「可能」、できない場合には「不可」とした。
【0062】
<品質評価>
(ガラス温度上昇)
部品付き合わせガラスの作製開始から終了まで、すなわち配置工程、仮止め工程、及び本固定工程を通して継続的に、ガラス板の温度を、ブラケット貼り付けの位置付近の黒セラ表面全体を測定し、温度上昇最大値(℃)を求めた。温度上昇最大値Δtmaxは、仮固定(第1硬化)前のガラス板の温度をt0、ガラス板の最高温度をt1として、t1-t0であった。評価基準は以下の通りとした:
〇:最大温度上昇値が30℃以上であった。
×:最大温度上昇値が30℃超であった。
【0063】
(仮止め直後の強度)
得られた部品付きを合わせガラスについて、仮止め(第1硬化)後5秒以内に、せん断強度を測定した。せん断強度測定は、引張試験機(イマダ製、ZTS-500N)をブラケットの開口付近に引っ掛け、50mm/分で引っ張り、破断が生じた時に示された強度値とした。評価基準は以下の通りとした:
〇:破断時の強度値が30N以上であった。
×:破断時の強度値が30N未満であった。
【0064】
(例1)
=配置ステップ=
板厚2mmの2枚のガラス板を、ポリビニルブチラール中間膜(0.73mm)を介して貼り合わせてなる合わせガラスサンプル(100mm×100mm)を準備した。当該合わせガラスのサンプルの一方の主面には、セラミックスペーストが焼成されてなる遮蔽層を形成した。一方、ポリブチレンテレフタレート(PBT)製のセンサ用ブラケット(全長70mm、幅50mm、接着面の面積約2000mm
2、センサ取り付け用の略円形開口のある6角形形状、
図4に示すブラケットと同様の形状)を準備した。ブラケットには、直径6mmの貫通孔が1つ形成されていた(
図4)。
【0065】
続いて、上記合わせガラスサンプルの主面の遮蔽層が形成されている範囲内に、配置されるブラケットの接着面に対応する接着面対応領域を設定した。合わせガラスサンプルにおける当該接着面対応領域内に3箇所に分けて、計3.6gの二液変成シリコーン/エポキシ接着剤(コニシ社製「MOS400」)を、
図5に示す場所と同様の場所に塗布した。そして、上記ブラケットの接着面を、合わせガラスサンプル上に設定した接着面対応領域に対応するように配置した。このようにブラケットを合わせガラス上に配置した後、ブラケット側から見た場合、ブラケットの貫通孔が接着剤に重なる(ブラケットの貫通孔を通して接着剤が視認される)ことが確認できた。なお、ブラケットと合わせガラスサンプルとの間の間隔(挟まれた接着剤の厚み)は、約1mmとなるよう調整した。
【0066】
=仮止め(第1硬化)=
貫通孔が設けられている位置の上方から、短波長赤外線ヒータ(ハロゲンポイントヒータ、有限会社フィンテック製「HSH―18」)を用いて光線を照射した。具体的には、当該ヒータを、その焦点が貫通孔の中心と平面視で一致するよう且つ当該ヒータの開口から接着剤表面までの距離が約9mmとなる(焦点距離が約9mmとなる)位置に固定して、出力70Wで照射した。照射されている接着剤部分(局所部分)の温度が、各例での使用接着剤の硬化狙い温度となりゲル化するまでの時間、照射を続けた。
【0067】
=本固定(第2硬化)=
ミラー長84mmのハロゲンラインヒータ(近赤外ヒータ、フィンテック社製「LHW-30」)を備えた装置を、合わせガラスガラスの遮蔽層に対向させ、焦点がブラケットから合わせガラスの面方向に約5mm離れて位置するように、且つヒータの開口から遮蔽層表面までの距離が約5mmとなるように(焦点距離が約5mmとなるように)配置し、出力300Wで赤外線を照射した。仮止め工程にて硬化された局所部分以外の部分(主部分)の温度が、使用接着剤の硬化狙い温度となりゲル化するまでの時間、照射を続けた。
【0068】
(例2)
ブラケットをポリアミド(PA)製に替えたこと以外は例1と同様にして(ブラケットのサイズ、形状も例1と同様)、ブラケット付き合わせガラスを得た。
【0069】
(例3)
ブラケットをポリカーボネート(PC)製に替えたこと以外は例1と同様にして(ブラケットのサイズ、形状も例1と同様)、ブラケット付き合わせガラスを得た。
【0070】
(例4)
主として鉄製ではあるが、表面にカチオン電着塗装によってエポキシ樹脂の被膜が形成されたセンサブラケット(全長74mm、幅さ3.8mm、接着面の面積320mm2)を使用して、例1と同様にして、ブラケット付き合わせガラスを得た。なお、配置工程では、計0.6gの二液変成シリコーン/エポキシ接着剤(コニシ社製「MOS400」)を、合わせガラスサンプル上の接着面対応領域内に3箇所に分けて塗布し、ブラケットと合わせガラスサンプルとの間の間隔(挟まれた接着剤の厚み)が1.2mmになるように調整した。また、本例で使用されたセンサブラケットにも、直径6mmの貫通孔が形成されており、ブラケットを配置する際には、貫通孔が接着剤に重なるようにし、仮止め(第1硬化)におけるヒータによる光線照射も、その焦点が貫通孔の中心と平面視で一致するようにして、例1と同様の条件で行った。
【0071】
(例5)
接着剤全体を、二液ウレタン接着剤(シーカハマタイト社製「WS222/B1」)に替えたこと以外は、例1と同様にしてブラケット付き合わせガラスを得た。
【0072】
(例6)
接着剤全体を一液熱硬化ウレタン接着剤(サンスター社製「Penguin Cement #8800」)に替え、さらに接着剤を塗布する前にガラスの接着面にプライマー(サンスター社製「SC―241」)を塗布したこと以外は、例1と同様にしてブラケット付き合わせガラスを得た。
【0073】
(例7)
塗布された接着剤の局所部分を硬化させることによって仮止めするのではなく、仮止め手法として両面テープを用いた。具体的には、合わせガラスの主面に設定された接着面対応領域内に、例1と同様に二液変成シリコーン/エポキシ接着剤(コニシ社製「MOS400」)を塗布した後、接着面対応領域内の接着剤の塗布位置と重ならない位置に両面テープを貼り、ブラケットの接着面が接着面対応領域に対応するようブラケットを配置した。それ以外の点は、例1と同様にしてブラケット付き合わせガラスを得た。ブラケットと合わせガラスサンプルとの間の間隔は、両面テープの厚さ(1.2mm)に等しかった。
【0074】
(例8)
塗布された接着剤の局所部分を硬化させることによって仮止めするのではなく、仮止め手法として瞬間接着剤を用いた。具体的には、合わせガラスの主面に設定された接着面対応領域内に二液変成シリコーン/エポキシ接着剤(コニシ社製「MOS400」)を塗布した後、接着面対応領域内の接着剤と重ならないように瞬間接着剤(セメダイン社製「アロンアルファーEXTRA」を塗布、ブラケットの接着面が接着面対応領域に対応するようブラケットを配置した。それ以外の点は、例1と同様にしてブラケット付き合わせガラスを得た。ブラケットと合わせガラスサンプルとの間の間隔をあけると瞬間接着剤が硬化しない為、隙間なく作製した。
【0075】
(例9)
ブラケットを、接着剤を介して合わせガラスサンプルに配置した後、室温(温度23±3℃)及び湿度50~70%の環境中に168時間放置した。すなわち、仮止め(第1硬化)を行わず、室温放置による本固定(第2硬化)を行った。
【0076】
(例10)
例1で使用されていた短波長赤外線ヒータの代わりにオーブン(ESPEC社製「PV-222」)により仮止め(第1硬化)を試みたが、局所部分の硬化ができず、接着剤の全体が硬化狙い温度に達した。結果として、仮止め(第1硬化)なしで、オーブンによる本固定(第2硬化)のみが行われた。
【0077】
(例11)
仮止め(第1硬化)で使用されていた短波長赤外線ヒータの代わりに熱風ヒータ(フィンテック社製「SAHD-15S」)を用いて仮止め(第1硬化)を試みたが、局所部分の硬化ができずに、接着剤の全体が硬化狙い温度(後述)に達した。結果として、仮止め(第1硬化)なしで、熱風ヒータによる本固定(第2硬化)のみが行われた。
【0078】
【0079】
表1に示すように、接着剤の局所部分を硬化することにより仮止めを行った例1~例7では、仮止めのために追加の材料を用いる必要はなく、作業の手間も少なく、仮止めができることが分かった。
【0080】
以上、本発明を実施形態及び実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施形態及び実施例によって限定されるものではない。また、上記実施形態は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、様々な変更、修正、置換、付加、削除、及び組合せ等が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に属する。
なお、一実施形態では、上述のような厚み方向材料除去部が何ら形成されていない部品30を用いてもよい。すなわち、部品30には何ら加工を施さずに、赤外線の照射を行ってもよい。その場合、赤外線が樹脂部品30に直接照射されるので、樹脂部品30の照射された箇所が変性し得る。