(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025010766
(43)【公開日】2025-01-23
(54)【発明の名称】防藻剤及び防藻方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20250116BHJP
C01G 23/04 20060101ALI20250116BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20250116BHJP
B01J 23/72 20060101ALI20250116BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20250116BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20250116BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20250116BHJP
A61L 9/00 20060101ALI20250116BHJP
A61L 9/01 20060101ALI20250116BHJP
A61L 9/20 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
B01J35/02 J ZAB
C01G23/04 B
B01J37/02 301M
B01J23/72 M
B01J23/72 A
C09D5/14
C09D7/61
C09D201/00
A61L9/00 C
A61L9/01 B
A61L9/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023112955
(22)【出願日】2023-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古舘 学
(72)【発明者】
【氏名】井上 友博
(72)【発明者】
【氏名】樋上 幹哉
【テーマコード(参考)】
4C180
4G047
4G169
4J038
【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
【課題】従来よりも高い防藻性を発揮することができ透明性が高く、例えば、建築外装材に適用した場合に、意匠性を損なわない、防藻剤及び該防藻剤を用いた防藻方法の提供。
【解決手段】
銅が固溶された酸化チタン粒子を含み、さらに銅が固溶されていない酸化チタン粒子を含んでもよい防藻剤;
水性分散媒中に、銅が固溶された酸化チタン粒子が分散し、更に銅が固溶されていない酸化チタン粒子が分散されていてもよい防藻剤;
前記防藻剤を部材の表面に塗布する工程及び部材表面を乾燥する工程を有する、部材表面の防藻方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅が固溶された酸化チタン粒子を含む防藻剤。
【請求項2】
更に、銅が固溶されていない酸化チタン粒子を含む請求項1に記載の防藻剤。
【請求項3】
水性分散媒中に、銅が固溶された酸化チタン粒子が分散している防藻剤。
【請求項4】
更に、銅が固溶されていない酸化チタン粒子が水性分散媒中に分散している請求項3に記載の防藻剤。
【請求項5】
銅が固溶された酸化チタン粒子の分散粒子径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径で5~50nm、90%累積分布径で5~150nmである、請求項3に記載の防藻剤。
【請求項6】
酸化チタン粒子に固溶された銅の量が、チタンとのモル比(Ti/Cu)で2~200である、請求項3に記載の防藻剤。
【請求項7】
請求項3~6のいずれか1項に記載の防藻剤を部材の表面に塗布する工程、及び
部材表面を乾燥する工程
を有する、部材表面の防藻方法。
【請求項8】
部材表面を乾燥する工程の後に、更に紫外線を照射する工程を有する、請求項7に記載の部材表面の防藻方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防藻剤及び防藻方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者が衛生的な生活環境を求める傾向が強くなっており、防汚・抗菌・抗カビ・抗ウイルス・防臭などの清潔さを保つ加工が施された生活用品への関心が高まっている。
【0003】
光触媒材料は、太陽光や人工照明などの光が照射された際に起こる光触媒反応と光誘起超親水化現象によって、抗菌・抗カビ・抗ウイルス・防臭・防汚など、基材表面の清浄化に対して広く効果が得られることから注目を集めている。
光触媒反応とは、酸化チタンを代表とする光触媒が光を吸収することによって生じた励起電子及び正孔が起こす反応のことをいう。光触媒反応により酸化チタン表面に生成した励起電子及び正孔は、酸化チタン表面に吸着している酸素や水と酸化還元反応を起こして活性種を生じる。有機物からなる微生物、ウイルス、臭い、汚れなどはこの活性種によって分解されるため、上述のような基材表面の清浄化の効果を得ることができると考えられている。
【0004】
光触媒反応により生じる活性種は、基本的に有機物であれば種類を問わず作用するために、広く様々な種類の微生物、ウイルス、臭い、汚れなどに対して効果が得られること、経時劣化がほとんどないことなどが光触媒の強みと言える。
【0005】
光触媒の光誘起超親水化現象とは、酸化チタンを代表とする光触媒が光を吸収することによってその表面の水なじみがよくなる現象をいう。超親水化現象により表面に付着した汚れが水で洗い流しやすくなるので、光触媒反応では分解できない無機物からなる汚れも簡単な水洗いで除去することが可能となる。この現象を利用すれば、例えば外装材の表面に付着した汚れを雨天時の雨水で洗い流すことが可能になり、特段のメンテナンス無しにきれいな状態を長期間維持できるようになる。このような光触媒を表面に有する外装材はセルフクリーニング建材として、広く実用化されている。
【0006】
タイル、コンクリート、レンガなどの建築外装材上に藻類が発生し、環境によっては大量に繁殖して美観を損ねる要因になっている。藻類の生育に必要な環境要因は水、光、熱、空気であるが、有機栄養物が存在すると飛躍的に成長が促進される。藻類は葉緑素を持った微生物であり、自ら光合成によって有機栄養物を合成することもできる。外装材上の藻類の繁殖を抑制するためにさまざまな防藻材料が検討されており、光触媒も、光触媒反応による有機物分解性能を活かした藻類や有機系栄養物の分解による繁殖の抑制効果や、光誘起超親水化現象を活かしたセルフクリーニング効果に期待されて、防藻性建材への応用が検討されている。
【0007】
しかし、例えば、建築物の北側の外壁や、日射を遮蔽する建築物、樹木、植え込みなどがすぐ隣にある外壁のように、太陽光が十分に当たらないような場所では、光触媒の機能が十分に発揮できないために藻類の繁殖速度に追い付かず、防藻性能が得られないことがある。
【0008】
そこで、光触媒と防藻剤を併用することで太陽光が十分に当たらないような場所での防藻性能を補完することが検討されている。
【0009】
例えば、特許文献1では、銅、銀、金、白金、亜鉛などの抗菌性金属化合物と、酸化チタンなどの光触媒活性無機化合物と、二酸化ケイ素などの光触媒不活性無機化合物とを含む光触媒組成物から得られる塗膜が、防藻性の優れた長期持続性を有することを開示している。
【0010】
特許文献2では、酸化チタンなどの光触媒粒子と、2価の銅イオン化合物を含む銅化合物粒子と、光触媒活性を有さない無機粒子と、バインダーとを含む光触媒層を有する光触媒材が、高い抗微生物性を有し、特に防藻性を長期間に亘り発揮することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2018-144003号公報
【特許文献2】特開2018-095797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1の光触媒組成物では、下地塗膜の損傷抑制のために、光触媒反応により発生する過酸化水素やヒドロキシルラジカルなどの活性種量を抑制した光触媒を使用していることから、得られる塗膜の光触媒機能が低い、使用している光触媒や抗菌性化合物の粒子径が大きく、その分散性が悪いために塗膜の透明性が低いという課題がある。
また、特許文献2の光触媒材に含有される光触媒粒子は、粒子径が大きいことから塗膜の透明性が低いという課題があった。
また、これら防藻機能が強化された光触媒であってもその性能は未だ十分とは言えず、改善の余地が残されている。
従って、本発明は、従来よりも高い防藻性を発揮することができ透明性が高く、例えば、建築外装材に適用した場合に、意匠性を損なわない、酸化チタンを含む防藻剤及び該防藻剤を用いた防藻方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記目的を達成するため、酸化チタンの選択とその組み合わせや量比、酸化チタンと種々の材料との組み合わせやその量比、組み合わせ方法などを詳細に検討した結果、銅が固溶された酸化チタンが、特に紫外線(波長10~400nm)を含む光を照射されたときに従来よりも飛躍的に高い防藻性を示すことを見出し、本発明をなすに至った。
この高い防藻性は、銅単独や酸化チタン粒子単独、銅が酸化チタン粒子外に存在するような、銅と酸化チタン粒子の単純混合品や銅担持酸化チタン粒子ではこのような効果は見られず、酸化チタン粒子の結晶内部に銅が存在する、銅を固溶させた酸化チタン粒子固有の特性であることがわかった。
【0014】
従って、本発明は、下記に示す防藻剤等を提供するものである。
〔1〕
銅が固溶された酸化チタン粒子を含む防藻剤。
〔2〕
更に、銅が固溶されていない酸化チタン粒子を含む〔1〕に記載の防藻剤。
〔3〕
水性分散媒中に、銅が固溶された酸化チタン粒子が分散している防藻剤。
〔4〕
更に、銅が固溶されていない酸化チタン粒子が水性分散媒中に分散されている〔3〕に記載の防藻剤。
〔5〕
銅が固溶された酸化チタン粒子の分散粒子径が、レーザー光を用いた動的散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径で5~50nm、90%累積分布径で5~150nmである、〔3〕又は〔4〕に記載の防藻剤。
〔6〕
酸化チタン粒子に固溶された銅の量が、チタンとのモル比(Ti/Cu)で2~200である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の防藻剤。
〔7〕
〔3〕~〔6〕のいずれか1項に記載の防藻剤を部材の表面に塗布する工程、及び
部材表面を乾燥する工程
を有する、部材表面の防藻方法。
〔8〕
部材表面を乾燥する工程の後に、更に紫外線を照射する工程を有する、〔7〕に記載の部材表面の防藻方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の防藻剤は従来よりも高い防藻性、特に紫外線(波長10~400nm)を含む光を照射されたときに高い防藻性を示し、透明性の高い光触媒膜を簡便に作製することができる。したがって、本発明の防藻剤は、意匠性を損なうことなく様々な種類の外装材などの部材表面に防藻性を付与するのに有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の防藻剤について詳細に説明する。
【0017】
<銅が固溶された酸化チタン>
本発明の防藻剤は、銅が固溶された酸化チタン粒子を含む。
【0018】
酸化チタン粒子の結晶相としては、通常、ルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の3つが知られているが、銅が固溶された酸化チタン粒子の結晶相は、主としてアナターゼ型であることが好ましい。なお、ここでいう「主として」とは、酸化チタン粒子全体のうち、当該結晶相の酸化チタン粒子を50質量%以上含有することを意味し、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0019】
本明細書において、固溶体とは、ある一つの結晶相の格子点にある原子が別の原子と置換するか、格子間隙に別の原子が入り込んだ相、即ち、ある結晶相に他の物質が溶け込んだとみなされる混合相を有するものをいい、結晶相としては均一相であるものをいう。格子点にある溶媒原子が溶質原子と置換したものを置換型固溶体、格子間隙に溶質原子が入ったものを侵入型固溶体というが、本明細書では、このいずれをも指すものとする。
【0020】
防藻剤に含まれる銅が固溶された酸化チタン粒子は、銅と固溶体を形成しているものである。固溶体としては、置換型であっても侵入型であってもよい。酸化チタンの置換型固溶体は、酸化チタン結晶のチタンサイトが各種金属原子に置換されて形成されるものであり、酸化チタンの侵入型固溶体は、酸化チタン結晶の格子間隙に各種金属原子が入って形成されるものである。酸化チタンに各種金属原子が固溶されると、X線回折などにより結晶相を測定した際、酸化チタンの結晶相のピークのみが観測され、添加した各種金属原子由来の化合物のピークは観測されない。
【0021】
元々ある酸化チタン粒子に銅化合物を加えて得られるような、表面に銅化合物が担持された酸化チタン粒子や、銅化合物と酸化チタン粒子の混合物ではなく、酸化チタン粒子が形成される前の段階のチタン化合物に銅を添加した後で酸化チタン粒子を形成させることにより得られる、銅が固溶された酸化チタン粒子であることが高い防藻性の発現につながる。
【0022】
酸化チタン粒子に固溶させる銅成分は、銅の単体又は銅化合物から誘導されるものであればよく、例えば、銅の金属単体(Cu)、酸化物(CuO、Cu2O)、水酸化物、塩化物(CuCl、CuCl2)、ヨウ化物(CuI)、臭化物(CuBr、CuBr2)、硝酸塩(Cu(NO3)2)、硫酸塩(CuSO4)、炭酸塩(CuCO3)、酢酸塩(Cu(CH3COO)2)、ピロリン酸塩(Cu2P2O7)、錯化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用したものでもよい。その中でも塩化物(CuCl、CuCl2)、硝酸塩(Cu(NO3)2)、硫酸塩(CuSO4)を使用することが好ましい。
【0023】
酸化チタン粒子に固溶される銅成分の量は、チタンとのモル比(Ti/Cu)で2~200が好ましく、より好ましくは2.5~100、更に好ましくは5~50である。これは、モル比が2未満の場合、酸化チタンの含有割合が低下し防藻性が十分発揮されないためであり、200超過の場合、銅の含有割合が低下し防藻性が不十分となることがあるためである。
【0024】
銅が固溶された酸化チタン粒子は、銅に加えて更にスズが固溶されていてもよい。酸化チタンにスズが固溶されるとルチル型酸化チタンを得ることができる。
【0025】
銅が固溶された酸化チタン粒子は、銅に加えて更に亜鉛が固溶されていてもよい。銅に加えて亜鉛が固溶されると、更に高い防藻性を得られることがある。
【0026】
酸化チタン結晶に異種金属を固溶する方法は特に限定されるものではないが、気相法(CVD法、PVD法など)、液相法(水熱法、ゾル・ゲル法など)、固相法(高温焼成法など)などを挙げることができる。
【0027】
銅が固溶された酸化チタン粒子にスズを固溶させる場合、スズ成分はスズの単体又はスズ化合物から誘導されるものであればよく、例えば、スズの金属単体(Sn)、酸化物(SnO、SnO2)、水酸化物、塩化物(SnCl2、SnCl4)、硝酸塩(Sn(NO3)2)、硫酸塩(SnSO4)、塩化物以外のハロゲン(Br、I)化物、オキソ酸塩(Na2SnO3、K2SnO3)、錯化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用したものでもよい。その中でも酸化物(SnO、SnO2)、塩化物(SnCl2、SnCl4)、硫酸塩(SnSO4)、オキソ酸塩(Na2SnO3、K2SnO3)を使用することが好ましい。
【0028】
銅が固溶された酸化チタン粒子に更にスズを固溶させる場合のスズ成分の量は、チタンとのモル比(Ti/Sn)で1~1,000が好ましく、より好ましくは5~500、更に好ましくは5~100である。これは、モル比が1未満の場合、酸化チタンの含有割合が低下し防藻性が十分発揮されないためであり、1,000超過の場合、ルチル型酸化チタンへの転化が不十分となることがあるためである。
【0029】
酸化チタン粒子に亜鉛を固溶させる場合、亜鉛成分は亜鉛単体又は亜鉛化合物から誘導されるものであればよく、例えば、亜鉛の金属単体(Zn)、酸化物(ZnO)、水酸化物、塩化物(ZnCl2)、硝酸塩(Zn(NO3)2)、硫酸塩(ZnSO4)、塩化物以外のハロゲン(Br、I)化物、酢酸亜鉛(Zn(CH3COO)2)、錯化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用したものでもよい。その中でも酸化物(ZnO)、塩化物(ZnCl2)、硫酸塩(ZnSO4)を使用することが好ましい。
【0030】
酸化チタン粒子に更に亜鉛を固溶させる場合の亜鉛成分の量は、チタンとのモル比(Ti/Zn)で2~200が好ましく、より好ましくは2.5~100、更に好ましくは5~50である。これは、モル比が2未満の場合、酸化チタンの含有割合が低下し防藻性が十分発揮されないためであり、200超過の場合、亜鉛の含有割合が低下し防藻性が不十分となることがあるためである。
【0031】
銅が固溶された酸化チタン粒子は、1種で用いてもよいし、銅の固溶割合が異なる酸化チタン粒子や銅に加えてスズ及び亜鉛等の他の金属成分を固溶した酸化チタン粒子の2種以上を組み合わせて使用してもよい。異なる防藻性を持つ2種以上を組み合わせた場合、防藻性が高まる効果が得られることがある。
【0032】
<銅が固溶されていない酸化チタン粒子>
銅が固溶された酸化チタン粒子は、銅が固溶されていることで防藻性が向上するが、その他の有機物の分解活性は低下することがある。実環境中には多種多様な汚れが存在するため、本発明の防藻剤は、防藻性に優れた銅が固溶された酸化チタン粒子と、有機物の分解活性に優れた銅が固溶されていない酸化チタン粒子を組み合わせて使用することがより好ましい。組み合わせ方によっては銅が固溶されている酸化チタン粒子及び銅が固溶されていない酸化チタン粒子それぞれ単独の酸化チタン粒子よりも防藻性や有機物の分解活性が高まる効果が得られることがある。
【0033】
銅が固溶されていない酸化チタン粒子としては特に限定されず、光触媒として使用される酸化チタン粒子を用いることができる。
【0034】
銅が固溶されていない酸化チタン粒子の結晶相としては、主としてアナターゼ型又はルチル型であることが好ましい。なお、ここでいう「主として」とは、酸化チタン粒子全体のうち、当該結晶相の酸化チタン粒子を50質量%以上含有することを意味し、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0035】
銅が固溶されていない酸化チタン粒子として、アナターゼ型酸化チタン粒子を選択した場合は特に防藻性が、ルチル型酸化チタン粒子を選択した場合は有機物の分解活性が特に高まる傾向がある。
【0036】
銅が固溶されていない酸化チタン粒子は、その光触媒活性を高めるために、スズが固溶されたものや、白金、金、パラジウム、鉄、銅、ニッケルなどの金属化合物を担持させたものを利用することもできる。
【0037】
銅が固溶されていない酸化チタン粒子にスズを固溶させる場合、スズ成分はスズの単体又はスズ化合物から誘導されるものであればよく、例えば、スズの金属単体(Sn)、酸化物(SnO、SnO2)、水酸化物、塩化物(SnCl2、SnCl4)、硝酸塩(Sn(NO3)2)、硫酸塩(SnSO4)、塩化物以外のハロゲン(Br、I)化物、オキソ酸塩(Na2SnO3、K2SnO3)、錯化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種類以上を組み合わせて使用したものでもよい。その中でも酸化物(SnO、SnO2)、塩化物(SnCl2、SnCl4)、硫酸塩(SnSO4)、オキソ酸塩(Na2SnO3、K2SnO3)を使用することが好ましい。
【0038】
銅が固溶されていない酸化チタン粒子にスズを固溶させる場合のスズ成分の量は、チタンとのモル比(Ti/Sn)で1~1,000が好ましく、より好ましくは5~500、更に好ましくは5~100である。これは、モル比が1未満の場合、酸化チタンの含有割合が低下し防藻性が十分発揮されないためであり、1,000超過の場合、ルチル型酸化チタンへの転化が不十分となることがあるためである。
【0039】
銅が固溶されている酸化チタン粒子と銅が固溶されていない酸化チタン粒子の質量比[銅が固溶された酸化チタン粒子/銅が固溶されていない酸化チタン粒子]としては、99~0.1、より好ましくは9~0.2、更に好ましくは4~0.4の範囲で混合して使用することが好ましい。これは、上記質量比が99超過の場合、有機物の分解活性が不十分となるために好ましくなく、0.1未満の場合、防藻性が不十分となることがあるためである。
【0040】
銅が固溶されていない酸化チタン粒子は、1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
<銅が固溶された酸化チタン粒子分散液>
本発明の防藻剤は、水性分散媒中に、銅が固溶された酸化チタン粒子が分散されているもの(酸化チタン粒子分散液)であってもよい。
【0042】
水性分散媒としては、水を用いることが好ましいが、水と任意の割合で混合される親水性有機溶媒と水との混合溶媒を用いてもよい。水としては、例えば、ろ過水、脱イオン水、蒸留水、純水等の精製水が好ましい。また、親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、エチレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール-n-プロピルエーテル等のグリコールエーテル類が好ましい。混合溶媒を用いる場合には、混合溶媒中の親水性有機溶媒の割合が0質量%より多く、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0043】
酸化チタン粒子分散液中の銅が固溶された酸化チタン粒子は、レーザー光を用いた動的光散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(以下、D50と表記することがある)が、5~50nmであることが好ましく、より好ましくは5~40nm、更に好ましくは5~30nmである。D50が、5nm未満の場合、光触媒活性が不十分になることがあり、50nm超過の場合、分散液及び該分散液から得られる光触媒膜が不透明となることがあるためである。
【0044】
また、酸化チタン粒子分散液中の銅が固溶された酸化チタン粒子は、レーザー光を用いた動的光散乱法により測定される体積基準の90%累積分布径(以下、D90と表記することがある)が、5~150nmであることが好ましく、より好ましくは5~80nmである。D90が、5nm未満の場合、光触媒活性が不十分になることがあり、150nm超過の場合、分散液及び該分散液から得られる光触媒薄膜が不透明となることがあるためである。
【0045】
本発明において、酸化チタン粒子分散液中の銅が固溶された酸化チタン粒子はD50及びD90が上述した範囲にある粒子であることが、高い光触媒活性を有し、かつ透明性の高い分散液及び該分散液から得られる光触媒膜が得られるため、好ましい。
【0046】
なお、上記酸化チタン粒子分散液中の酸化チタン粒子のD50及びD90を測定する装置としては、例えば、ELSZ-2000ZS(大塚電子(株)製)、NANOTRACK WAVE II(マイクロトラック・ベル(株)製)、nanoPartica SZ-100V2(堀場製作所(株)製)等を使用することができる。
【0047】
酸化チタン粒子分散液中の銅が固溶された酸化チタン粒子の濃度は、所要の厚さの光触媒薄膜の作製し易さの点で、0.01~20質量%が好ましく、特に0.1~10質量%が好ましい。
【0048】
酸化チタン粒子分散液の濃度は、酸化チタン粒子分散液の一部をサンプリングし、105℃で1時間加熱して溶媒を揮発させた後の不揮発分(酸化チタン粒子)の質量とサンプリングした酸化チタン粒子分散液の質量から、次式に従い算出することができる。
酸化チタン粒子分散液の濃度(%)=〔不揮発分質量(g)/酸化チタン粒子分散液質量(g)〕×100
【0049】
本発明の防藻剤の一態様である酸化チタン粒子分散液は、さらに、前記の銅が固溶されていない酸化チタン粒子を含有してもよい。
銅が固溶されていない酸化チタン粒子としては特に限定されず、前記の通り、光触媒として使用される酸化チタン粒子を用いることができる。
銅が固溶されていない酸化チタン粒子は、その光触媒活性を高めるために、スズが固溶されたものや、白金、金、パラジウム、鉄、銅、ニッケルなどの金属化合物を担持させたものを利用することもできる。
【0050】
酸化チタン粒子分散液中の銅が固溶されている酸化チタン粒子と銅が固溶されていない酸化チタン粒子の質量比[銅が固溶された酸化チタン粒子/銅が固溶されていない酸化チタン粒子]としては、99~0.1、より好ましくは9~0.2、更に好ましくは4~0.4の範囲で混合して使用することが好ましい。これは、上記質量比が99超過の場合、有機物の分解活性が不十分となるために好ましくなく、0.1未満の場合、防藻性が不十分となることがあるためである。
【0051】
酸化チタン粒子分散液中の銅が固溶されていない酸化チタン粒子は、レーザー光を用いた動的光散乱法により測定される体積基準の50%累積分布径(以下、D50と表記することがある)が、5~50nmであることが好ましく、より好ましくは5~40nm、更に好ましくは5~30nmである。D50が、5nm未満の場合、光触媒活性が不十分になることがあり、50nm超過の場合、分散液及び該分散液から得られる光触媒膜が不透明となることがあるためである。
【0052】
また、酸化チタン粒子分散液中の銅が固溶されていない酸化チタン粒子は、レーザー光を用いた動的光散乱法により測定される体積基準の90%累積分布径(以下、D90と表記することがある)が、5~150nmであることが好ましく、より好ましくは5~80nmである。D90が、5nm未満の場合、光触媒活性が不十分になることがあり、150nm超過の場合、分散液及び該分散液から得られる光触媒薄膜が不透明となることがあるためである。
【0053】
酸化チタン粒子分散液中の銅が固溶されていない酸化チタン粒子はD50及びD90が上述した範囲にある粒子であることが、高い光触媒活性を有し、かつ透明性の高い分散液及び該分散液から得られる光触媒膜が得られるため、好ましい。
【0054】
また、酸化チタン粒子分散液は、銅が固溶されている酸化チタン粒子及び銅が固溶されていない酸化チタン粒子の混合分散液である場合、酸化チタン粒子混合物としてのD50も5~50nmであることが好ましく、5~40nmであることがより好ましく、5~30nmであることが更に好ましく、D90も5~150nmであることが好ましく、5~80nmであることがより好ましい。
【0055】
なお、上記酸化チタン粒子分散液中の銅が固溶されていない酸化チタン粒子、銅が固溶されている酸化チタン粒子及び銅が固溶されていない酸化チタン粒子混合物のD50及びD90を測定する装置としては、上述の通りである。
【0056】
酸化チタン粒子分散液中の銅が固溶されていない酸化チタン粒子の濃度は、所要の厚さの光触媒膜の作製し易さの点で、0.01~20質量%が好ましく、特に0.1~10質量%が好ましい。
また、酸化チタン粒子分散液中の銅が固溶されている酸化チタン粒子及び銅が固溶されていない酸化チタン粒子の合計濃度もまた、所要の厚さの光触媒膜の作製し易さの点で、0.01~20質量%が好ましく、特に0.1~10質量%が好ましい。
なお、酸化チタン粒子分散液中の銅が固溶されていない酸化チタン粒子の濃度、銅が固溶されている酸化チタン粒子及び銅が固溶されていない酸化チタン粒子の合計濃度の測定方法としては、上記銅が固溶されている酸化チタン粒子の濃度の測定方法と同様である。
【0057】
酸化チタン粒子分散液において、銅が固溶された酸化チタン粒子は、1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、酸化チタン粒子分散液が銅が固溶されていない酸化チタン粒子を含有する場合は、銅が固溶されていない酸化チタン粒子も、1種で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
更に、本発明の防藻剤の一態様である酸化チタン粒子分散液には、後述する各種部材表面に該分散液を塗布し易くすると共に該粒子を接着し易いようにする目的でバインダーを添加してもよい。バインダーとしては、例えば、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム等を含む金属化合物系バインダーやフッ素系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等を含む有機樹脂系バインダー等が挙げられる。
【0059】
バインダーと酸化チタン粒子の質量比[酸化チタン粒子/バインダー]としては、99~0.01、より好ましくは9~0.1、更に好ましくは2.5~0.4の範囲で添加して使用することが好ましい。ここで、前記質量比の「酸化チタン粒子」とは、酸化チタン粒子分散液が、銅が固溶された酸化チタン粒子のみを含有する場合は「銅が固溶された酸化チタン粒子」の質量に基づき、銅が固溶されていない酸化チタン粒子も含有する場合は「銅が固溶された酸化チタン粒子及び銅が固溶されていない酸化チタン粒子」の合計質量に基づくものである。これは、上記質量比が99超過の場合、各種部材表面への酸化チタン粒子の接着が不十分となり、0.01未満の場合、光触媒活性が不十分となることがあるためである。
【0060】
中でも、光触媒活性及び透明性の高い優れた光触媒膜を得るためには、特にケイ素化合物系バインダーを質量比(酸化チタン/ケイ素化合物系バインダー)99~0.01、より好ましくは9~0.1、更に好ましくは2.5~0.4の範囲で添加して使用することが好ましい。ここで、ケイ素化合物系バインダーとは、固体状又は液体状のケイ素化合物を水性分散媒中に含んでなるケイ素化合物の、コロイド分散液、溶液、又はエマルジョンであって、具体的には、コロイダルシリカ(好ましい粒径1~150nm);シリケート等のケイ酸塩類溶液;シラン、シロキサン加水分解物エマルジョン;シリコーン樹脂エマルジョン;シリコーン-アクリル樹脂共重合体、シリコーン-ウレタン樹脂共重合体等のシリコーン樹脂と他の樹脂との共重合体のエマルジョン等を挙げることができる。
【0061】
<銅が固溶された酸化チタン粒子分散液の製造方法>
銅が固溶された酸化チタン粒子分散液の製造方法は、水性分散媒中に、銅が固溶されている酸化チタン粒子が分散された状態で得られるものであり、以下の工程(1)~(2)を有するものである。
【0062】
(1)原料チタン化合物、銅化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒から、銅含有ペルオキソチタン酸溶液を製造する工程
(2)上記(1)の工程で製造した銅含有ペルオキソチタン酸溶液を、圧力制御の下、80~250℃で加熱し、銅が固溶された酸化チタン粒子分散液を得る工程
【0063】
銅が固溶された酸化チタン粒子分散液が、銅が固溶されていない酸化チタン粒子を含有する場合、さらに、以下の工程(3)~(5)を有する。
【0064】
(3)原料チタン化合物、塩基性物質、過酸化水素及び水性分散媒から、ペルオキソチタン酸溶液を製造する工程
(4)上記(3)の工程で製造したペルオキソチタン酸溶液を、圧力制御の下、80~250℃で加熱し、酸化チタン粒子分散液を得る工程
(5)(2)と(4)の工程で得られた銅が固溶された酸化チタン粒子分散液と銅が固溶されない酸化チタン粒子分散液とを混合する工程
【0065】
工程(1)~(2)は、銅が固溶されている酸化チタン粒子分散液を製造するものであり、工程(3)~(4)は、銅が固溶されている酸化チタン粒子分散液を製造するものであり、工程(5)は、工程(2)で得られた銅が固溶されている酸化チタン粒子分散液と工程(4)で得られた銅を含有しない酸化チタン粒子分散液とを混合して、最終的に銅を固溶した酸化チタン粒子分散液と銅を固溶しない酸化チタン粒子分散液を製造するものである。
以下、各工程についての詳細を述べる。
【0066】
・工程(1):
工程(1)では、原料チタン化合物、銅化合物、塩基性物質及び過酸化水素を水性分散媒中で反応させることにより、銅含有ペルオキソチタン酸溶液を製造する。
スズや亜鉛を固溶させる場合は、原料チタン化合物及び塩基性物質に対して、スズ化合物や亜鉛化合物を添加すればよい。
【0067】
反応方法としては、下記i)~iii)の方法のいずれでもよい。
i)水性分散媒中の原料チタン化合物及び塩基性物質に対して、銅化合物を添加して溶解させてから、銅含有水酸化チタンとし、含有する金属イオン以外の不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加して銅含有ペルオキソチタン酸とする方法
ii)水性分散媒中の原料チタン化合物に塩基性物質を添加して水酸化チタンとし、含有する金属イオン以外の不純物イオンを除去した後に銅化合物を添加し、次いで過酸化水素を添加することで銅含有ペルオキソチタン酸とする方法
iii)水性分散媒中の原料チタン化合物に塩基性物質を添加して水酸化チタンとし、含有する金属イオン以外の不純物イオンを除去し、過酸化水素を添加してペルオキソチタン酸とした後に銅化合物を添加して、銅含有ペルオキソチタン酸とする方法
【0068】
なお、i)の方法の前段において、「水性分散媒中の原料チタン化合物及び塩基性物質」を、「原料チタン化合物を分散させた水性分散媒」と「塩基性物質を分散させた水性分散媒」のように2液の水性分散媒に分けて、銅化合物の当該2液への溶解性に従って、それぞれの化合物を当該2液のいずれか一方又は両方へ溶解させた後に、両者を混合してもよい。
【0069】
このように銅を含有するペルオキソチタン酸を得たのち、後述の工程(2)の水熱反応に供することにより、酸化チタンに銅を固溶した酸化チタン粒子を得ることができる。
【0070】
ここで、原料チタン化合物としては、例えば、チタンの塩化物、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸塩、これらの水溶液にアルカリを添加して加水分解することにより析出させた水酸化チタン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。その中でも、チタンの塩化物(TiCl3、TiCl4)を使用することが好ましい。
【0071】
銅化合物、及び水性分散媒としては、それぞれ前述のものが、前述の配合となるように使用される。なお、原料チタン化合物と水性分散媒とから形成される原料チタン化合物水溶液の濃度は、60質量%以下、特に30質量%以下であることが好ましい。濃度の下限は適宜選定されるが、通常1質量%以上であることが好ましい。
【0072】
塩基性物質は、原料チタン化合物を水酸化チタンにするためのもので、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、アルカノールアミン、アルキルアミン等のアミン化合物が挙げられ、その中でも特にアンモニアを使用することが好ましく、原料チタン化合物水溶液のpHを7以上、特にpH7~10になるような量で添加して使用される。なお、塩基性物質は、上記水性分散媒と共に適当な濃度の水溶液にして使用してもよい。
【0073】
過酸化水素は、上記原料チタン化合物又は水酸化チタンをペルオキソチタン、つまりTi-O-O-Ti結合を含む酸化チタン化合物に変換させるためのものであり、通常、過酸化水素水の形態で使用される。過酸化水素の添加量は、チタンの物質量、又はチタン、銅の合計物質量の1.5~20倍モルとすることが好ましい。また、過酸化水素を添加して原料チタン化合物又は水酸化チタンをペルオキソチタン酸にする反応において、反応温度は5~80℃とすることが好ましく、反応時間は30分~24時間とすることが好ましい。
【0074】
こうして得られる銅を含有するペルオキソチタン酸溶液は、pH調整等のため、アルカリ性物質又は酸性物質を含んでいてもよい。ここでいう、アルカリ性物質としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アルキルアミン等が挙げられ、酸性物質としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、炭酸、リン酸等の無機酸及び蟻酸、クエン酸、蓚酸、乳酸、グリコール酸等の有機酸が挙げられる。この場合、得られたペルオキソチタン酸溶液のpHは、1~9、特に4~7であることが取り扱いの安全性の点で好ましい。
【0075】
・工程(2):
工程(2)では、上記工程(1)で得られた銅含有ペルオキソチタン酸溶液を、圧力制御の下、80~250℃、好ましくは100~250℃の温度において0.01~24時間水熱反応に供する。反応温度は、反応効率と反応の制御性の観点から80~250℃が適切であり、その結果、銅含有ペルオキソチタン酸は、銅が固溶された酸化チタン粒子に変換されていく。なお、ここで圧力制御の下とは、反応温度が分散媒の沸点を超える場合には、反応温度が維持できるように、適宜加圧を行い、反応温度を維持することをいい、分散媒の沸点以下の温度とする場合に大気圧で制御する場合を含む。ここで用いる圧力は、通常0.12~4.5MPa程度、好ましくは0.15~4.5MPa程度、より好ましくは0.20~4.5MPa程度である。反応時間は、1分~24時間であることが好ましい。この工程(2)により、銅が固溶された酸化チタン粒子分散液が得られる。
この工程(2)で得られる銅が固溶された酸化チタン粒子分散液のpHは、7~14であることが好ましく、9~14であることがより好ましい。この工程(2)で得られる銅が固溶された酸化チタン粒子分散液は前述のpHとなるように、pH調整等のため、アルカリ性物質又は酸性物質を含んでいてもよく、アルカリ性物質、酸性物質及びpH調整の方法は、前述の工程(1)で得られる銅含有ペルオキソチタン酸溶液と同様である。
【0076】
ここで得られる酸化チタン粒子の粒子径(D50及びD90)は、既に述べた通りの範囲のものが好ましく、反応条件を調整することで粒子径を制御することが可能であり、例えば、反応時間や昇温時間を短くすることによって粒子径を小さくすることができる。
【0077】
・工程(3):
工程(3)では、上記工程(1)~(2)とは別に、銅を固溶しない酸化チタン粒子分散液を製造する。銅化合物を使用しないこと以外は工程(1)と同様にして、ペルオキソチタン酸溶液を得ることができる。
スズを固溶させる場合は原料チタン化合物にスズ化合物を添加すればよい。
【0078】
・工程(4):
工程(4)では、上記工程(3)で得られたペルオキソチタン酸溶液を、工程(2)と同様に圧力制御の下、水熱反応に供することで、酸化チタン粒子分散液を得ることができる。
【0079】
・工程(5):
工程(5)では、工程(2)で得られた銅が固溶された酸化チタン粒子分散液と工程(4)で得られた銅が固溶されていない酸化チタン粒子分散液とを混合する。混合方法は特に限定されず、攪拌機で撹拌する方法でも、超音波分散機で分散させる方法でもよい。混合時の温度は20~100℃、好ましくは20~80℃、より好ましくは20~40℃であり、時間は1分~3時間であることが好ましい。混合比については、銅を固溶させた酸化チタン粒子と銅を固溶させない酸化チタン粒子の質量比が、既に述べた通りの質量比になるように混合すればよい。
酸化チタン粒子分散液中の酸化チタン粒子のレーザー光を用いた動的光散乱法により測定されるD50及びD90は、上述の通りである。また、これを測定する装置も、上述の通りである。
【0080】
こうして調製された酸化チタン粒子分散液中の酸化チタン粒子の濃度(銅が固溶された酸化チタン粒子及び銅が固溶されていない酸化チタン粒子の各濃度並びに銅が固溶された酸化チタン粒子及び銅が固溶されていない酸化チタン粒子の合計濃度)は、それぞれ上述した通り、所要の厚さの光触媒膜の作製し易さの点で、0.01~20質量%が好ましく、特に0.1~10質量%が好ましい。濃度調整については、濃度が所望の濃度より高い場合には、水性溶媒を添加して希釈することで濃度を下げることができ、所望の濃度より低い場合には、水性溶媒を揮発もしくはろ別することで濃度を上げることができる。
【0081】
ここで、酸化チタン粒子分散液の濃度の測定方法は、酸化チタン粒子分散液の一部をサンプリングし、105℃で3時間加熱して溶媒を揮発させた後の不揮発分(酸化チタン粒子)の質量とサンプリングした酸化チタン粒子分散液の質量から、次式に従い算出することができる。
酸化チタン粒子分散液の濃度(%)=〔不揮発分質量(g)/酸化チタン粒子分散液質量(g)〕×100
【0082】
また、上述した膜形成性を高めるバインダーを添加する場合には、上述したバインダーの溶液(水性バインダー溶液)を、混合した後に所望の濃度となるよう、上述のように濃度調整を行った酸化チタン粒子分散液に対して添加することが好ましい。
【0083】
<防藻方法及び防藻剤を表面に有する部材>
本発明の防藻剤(特に酸化チタン粒子分散液)は、各種部材の表面に光触媒膜を形成させるために使用することができる。
すなわち、本発明の防藻剤は、各種部材の表面を防藻する方法に好適に使用できる。本発明の防藻方法は、
本発明の防藻剤(特に水性分散媒を含む酸化チタン粒子分散液)を部材の表面に塗布する工程、及び
防藻剤を塗布した部材表面を乾燥する工程
を有し、好ましくは、部材表面を乾燥する工程の後に、更に紫外線を照射する工程を有する。
ここで、各種部材は、特に制限されないが、部材の材料としては、例えば、有機材料、無機材料が挙げられる。これらは、それぞれの目的、用途に応じた様々な形状を有することができる。
【0084】
有機材料としては、例えば、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂、ポリアセタール、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルイミド(PEEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂等の合成樹脂材料、天然ゴム等の天然材料、又は上記合成樹脂材料と天然材料との半合成材料が挙げられる。これらは、フィルム、シート、繊維材料、繊維製品、その他の成型品、積層体等の所要の形状、構成に製品化されていてもよい。
【0085】
無機材料としては、例えば、非金属無機材料、金属無機材料が包含される。非金属無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック、石材等が挙げられる。これらは、タイル、硝子、ミラー、壁、意匠材等の様々な形に製品化されていてもよい。金属無機材料としては、例えば、鋳鉄、鋼材、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、亜鉛ダイキャスト等が挙げられる。これらは、上記金属無機材料のメッキが施されていてもよいし、上記有機材料が塗布されていてもよいし、上記有機材料又は非金属無機材料の表面に施すメッキであってもよい。
【0086】
本発明の防藻剤(特に酸化チタン粒子分散液)は、特に、防藻性が要求される環境下で用いられている、ガラス、金属等の無機物質、及び樹脂等の有機物質からなる種々の部材に施与して光触媒膜を作製するのに有用であり、種々の部材上に透明な防藻性の高い光触媒膜を作製するのに有用である。
【0087】
各種部材表面への光触媒膜の形成方法としては、酸化チタン粒子分散液を、例えば、上記部材表面に、スプレーコート、ディップコート等の公知の塗布方法により塗布した後、常温乾燥、遠赤外線乾燥、IH乾燥、熱風乾燥等の公知の乾燥方法により乾燥させればよく、光触媒膜の厚さも種々選定され得るが、通常、10nm~10μmの範囲が好ましい。
【0088】
これにより、上述した防藻性を有する酸化チタン粒子の被膜(光触媒膜)が部材表面に形成される。この場合、上記分散液に上述した量でバインダーが含まれている場合は、酸化チタン粒子とバインダーとを含む被膜が部材表面に形成される。
【0089】
このようにして形成される光触媒膜は、透明であり、特に紫外領域の光(波長10~400nm)において良好な防藻・光触媒作用が得られるものであり、該光触媒膜が形成された各種部材は、銅が固溶された酸化チタンの防藻・光触媒作用により、該部材表面の防藻、防カビ、セルフクリーニング等の効果を発揮することができるものである。
紫外線(波長10~400nm)を含む光としては、太陽光や蛍光灯、白熱電球、LED、キセノンランプ、高圧水銀灯、低圧水銀灯、メタルハライドランプなどを挙げることができる。
【実施例0090】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
本発明における各種の評価は次のようにして行った。
【0091】
(1)液中の酸化チタン粒子の50%及び90%累積分布径(D50及びD90)
液中の酸化チタン粒子のD50及びD90は、レーザー光を用いた動的光散乱法により測定される体積基準の50%及び90%累積分布径として算出した。具体的には、光触媒コーティング液を粒度分布測定装置(ELSZ-2000ZS、大塚電子(株)製)を用いて測定した。
【0092】
(2)酸化チタン粒子の結晶相の同定
酸化チタン粒子の結晶相は粉末X線回折法により評価した。具体的には、得られた酸化チタン粒子の分散液を105℃、3時間乾燥させて回収した酸化チタン粒子粉末の粉末X線回折(D2 PHASER、ブルカー・エイエックスエス(株))を測定することで同定した。
【0093】
(3)光触媒の防藻性試験
光触媒の防藻性能は、日本工業規格JIS R 1712:2022「ファインセラミクス-光触媒材料の防藻性試験」に準拠した試験方法で評価した。実施例又は比較例で調製した各種酸化チタン粒子分散液を、50mm角のガラス基材に光触媒膜が厚み100nmになるように塗布し、80℃に設定したオーブンで1時間乾燥させて、評価用サンプルを得た。この評価用サンプルを用いて、酸化チタン粒子の防藻活性を上述のJIS規格試験により評価した。光源にはブラックライト蛍光灯(FL20S・BLB、TOSHIBA製)を使用し、紫外光強度0.25mW/cm2で12時間照射を行い、Rs(光触媒防藻活性値)及びΔR(光照射による光触媒防藻活性値)をそれぞれ算出した。
試験結果については次の基準で評価した。
・非常に良好(◎と表示)・・Rsが50%以上
・良好(○と表示)・・・Rsが30%以上50%未満
・不良(×と表示)・・・Rsが30%未満
【0094】
(4)光触媒のアセトアルデヒドガス分解性能試験
光触媒の有機物の分解性能は、アセトアルデヒドガスの分解反応により評価した。
実施例又は比較例で調製した各酸化チタン粒子分散液を、A4サイズ(210mm×297mm)のPETフィルムの一面に酸化チタン粒子の乾燥質量が約20mgになるように#7のワイヤーバーコーターによって塗り広げてサンプルを作製し、80℃に設定したオーブンで1時間乾燥させて、評価用サンプルを得た。この評価用サンプルを用いて、酸化チタン粒子の光触媒活性を、アセトアルデヒドガスの分解反応により評価した。評価はバッチ式ガス分解性能評価法により行った。
具体的には、容積5Lの石英ガラス窓付きステンレス製セル内に評価用サンプルを設置したのち、該セルを湿度50%に調湿した初期濃度のアセトアルデヒドガスで満たし、該セル上部に設置した光源で光を照射した。酸化チタンの光触媒作用によりアセトアルデヒドガスが分解すると、該セル中のアセトアルデヒドガス濃度が低下する。そこで、その濃度変化を測定することで光触媒活性の強さを確認できる。アセトアルデヒドガス濃度は光音響マルチガスモニタ(商品名“INNOVA1412”、LumaSense社製)を用いて、光照射開始からアセトアルデヒドガス濃度が1ppm以下になるまでの時間を測定して光触媒活性を評価した。時間が短いほど光触媒活性が高く、時間が長いほど光触媒活性が低いことを示す。光源にはブラックライト蛍光灯(FL20S・BLB、TOSHIBA製)を使用し、紫外光強度0.25mW/cm2で照射を行った。
試験結果については次の基準で評価した。
・非常に良好(◎と表示)・・5時間以内で1ppm以下まで低下
・良好(○と表示)・・・5時間超過10時間以内で1ppmまで低下
・不良(×と表示)・・・1ppm低下まで10時間超過、或いは24時間経過しても1ppmまで低下しない
【0095】
(5)光触媒膜の透明性評価
(4)でPETフィルム上に作製した光触媒膜の透明性をHAZEにより評価した。HAZEは、ヘーズメーター(NDH-5000、日本電色工業(株)製)によって測定した。
試験結果については次の基準で評価した。
・良好(○と表示)・・・表面に光触媒膜を有するPETフィルムとブランクPETフィルムのHAZE値の差が0.3以下
・不良(×と表示)・・・表面に光触媒膜を有するPETフィルムとブランクPETフィルムのHAZE値の差が0.3超過
【0096】
(6)実施例/比較例サンプルの調製
[実施例1]
<銅が固溶された酸化チタン粒子の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に、Ti/Cu(モル比)が5となるよう塩化銅(II)を添加・溶解し、これを純水で10倍に希釈した後、10質量%のアンモニア水を徐々に添加して中和、加水分解することにより、銅を含有する水酸化チタンの沈殿物を得た。このときのpHは8であった。得られた沈殿物を、純水の添加とデカンテーションを繰り返して脱イオン処理した。この脱イオン処理後の、銅を含有する水酸化チタン沈殿物に、H2O2/(Ti+Cu)(モル比)が15となるように35質量%過酸化水素水を添加し、その後70℃で60分間撹拌して十分に反応させ、緑透明の銅含有ペルオキソチタン酸溶液(a)を得た。
容積500mLのオートクレーブに、銅含有ペルオキソチタン酸溶液(a)400mLを仕込み、これを130℃の条件下、90分間水熱処理し、その後、純水を添加して濃度調整を行うことにより、銅が固溶された酸化チタン粒子の分散液(A)(銅固溶酸化チタン濃度1.0質量%)を得た。酸化チタン粒子の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはアナターゼ型酸化チタンのもののみであり、銅が酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0097】
[実施例2]
<銅が固溶された酸化チタン粒子の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に、Ti/Cu(モル比)が25となるよう塩化銅(II)を添加したこと以外は実施例1と同様にして、銅が固溶された酸化チタン粒子の分散液(B)(銅固溶酸化チタン濃度1.0質量%)を得た。酸化チタン粒子の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはアナターゼ型酸化チタンのもののみであり、銅が酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0098】
[調製例3]
<銅とスズが固溶された酸化チタン粒子の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に、Ti/Cu(モル比)が25となるよう塩化銅(II)を、Ti/Sn(モル比)が10となるように塩化スズ(IV)を添加したこと以外は調製例1と同様にして、銅及びスズが固溶された酸化チタン粒子の分散液(C)(銅及びスズ固溶酸化チタン濃度1.0質量%)を得た。酸化チタン粒子の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはルチル型酸化チタンのもののみであり、銅及びスズが酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0099】
[調製例4]
<銅と亜鉛が固溶された酸化チタン粒子の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に、Ti/Cu(モル比)が25となるよう塩化銅(II)を、Ti/Zn(モル比)が40となるように塩化亜鉛(II)を添加したこと以外は調製例1と同様にして、銅及び亜鉛が固溶された酸化チタン粒子の分散液(D)(銅及び亜鉛固溶酸化チタン濃度1.0質量%)を得た。酸化チタン粒子の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはアナターゼ型酸化チタンのもののみであり、銅及び亜鉛が酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0100】
[調製例5]
<銅が固溶された酸化チタン粒子の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に、Ti/Cu(モル比)が60となるよう塩化銅(II)を添加したこと以外は調製例1と同様にして、銅が固溶された酸化チタン粒子の分散液(E)(銅固溶酸化チタン濃度1.0質量%)を得た。酸化チタン粒子の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはアナターゼ型酸化チタンのもののみであり、銅が酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0101】
[調製例6]
<酸化チタン粒子の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に、塩化銅(II)を添加しなかったこと以外は調製例1と同様にして、銅が固溶されていない酸化チタン粒子の分散液(F)(酸化チタン濃度1.0質量%)を得た。酸化チタン粒子の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはアナターゼ型酸化チタンのものであった。
【0102】
[調製例7]
<スズが固溶された酸化チタン粒子の調製>
36質量%の塩化チタン(IV)水溶液に、塩化銅(II)を添加しなかったこと以外は調製例3と同様にして、スズが固溶されていない酸化チタン粒子の分散液(G)(スズ固溶酸化チタン濃度1.0質量%)を得た。酸化チタン粒子の粉末X線回折測定を行ったところ、観測されるピークはルチル型酸化チタンのもののみであり、スズが酸化チタンに固溶されていることが分かった。
【0103】
[調製例8]
<2価銅化合物が担持された酸化チタン粒子の調製>
酸化チタン粒子の分散液(F)に塩化銅(II)をTi/Cu(モル比)が25になるように添加して、銅(II)担持酸化チタン粒子の分散液(H)(銅(II)担持酸化チタン濃度1.0質量%)を得た。
【0104】
[調製例9]
<銅が固溶された酸化チタン粒子と銅が固溶されていない酸化チタン粒子の混合物の調製>
銅が固溶された酸化チタン粒子分散液(A)と、銅が固溶されていない酸化チタン粒子分散液(F)とを1:1(質量比)で混合して、銅が固溶された酸化チタン粒子と固溶されていない酸化チタン粒子の混合物(I))(2種類の酸化チタン合計濃度1.0質量%)を得た。
【0105】
[調製例10]
<銅が固溶された酸化チタン粒子と銅が固溶されておらずスズが固溶されている酸化チタン粒子の混合物の調製>
銅が固溶された酸化チタン粒子(A)と、スズが固溶された酸化チタン粒子(G)とを1:1(質量比)で混合して、銅が固溶された酸化チタン粒子と銅が固溶されていない酸化チタン粒子の混合物(J)(2種類の酸化チタン合計濃度1.0質量%)を得た。
【0106】
[調製例11]
<酸化銅(II)の調製>
CuO粉末(富士フィルム和光純薬(株)製)を純水に1質量%になるように添加して撹拌機で分散させた。
【0107】
[調製例12]
<酸化チタン粒子と酸化銅(II)の混合物の調製>
酸化チタン粒子の分散液(F)にCuO粉末(富士フィルム和光純薬(株)製)をTi/Cu(モル比)が25になるように添加して、酸化チタン粒子と酸化銅(II)の混合物(酸化チタン濃度1.0質量%)を得た。
【0108】
表1に、各調製例で調製した酸化チタン粒子のモル比、分散粒子径(D50及びD90)、酸化チタン粒子の結晶相をまとめて示す。
【0109】
【表1】
(*1)Ti/Cu(モル比)が25となる量の銅(II)を担持
(*2)酸化チタン粒子分散液(A):酸化チタン粒子分散液(F)=1:1(質量比)
(*3)酸化チタン粒子分散液(A):酸化チタン粒子分散液(G)=1:1(質量比)
(*4)Ti/Cu(モル比)が25となる量の酸化銅(II)を添加
【0110】
[実施例1]
銅を固溶した酸化チタン粒子の分散液(A)を用いて各種評価を行った。以下、本発明の酸化チタン粒子の評価について表2にまとめる。
【0111】
[実施例2]
銅を固溶した酸化チタン粒子の分散液(B)を用いて各種評価を行った。
【0112】
[実施例3]
銅、スズを固溶した酸化チタン粒子の分散液(C)を用いて各種評価を行った。
【0113】
[実施例4]
銅、亜鉛を固溶した酸化チタン粒子の分散液(D)を用いて各種評価を行った。
【0114】
[実施例5]
銅を固溶した酸化チタン粒子の分散液(E)を用いて各種評価を行った。
【0115】
[実施例6]
銅を固溶した酸化チタン粒子と銅を固溶しない酸化チタン粒子の分散液の混合物(I)を用いて各種評価を行った。
【0116】
[実施例7]
銅を固溶した酸化チタン粒子と銅を固溶しない酸化チタン粒子の分散液の混合物(J)を用いて各種評価を行った。
【0117】
[実施例8]
銅を固溶した酸化チタン粒子の分散液(A)にケイ素化合物系(シリカ系)のバインダー(コロイダルシリカ、商品名:スノーテックスST-NS、日産化学工業(株)製)を、酸化チタン粒子/バインダー(重量比)が1.5となるように添加し、25℃で10分間、撹拌機で混合することで、バインダーを含有する銅を固溶した酸化チタン粒子の分散液を得た。この液を用いて各種評価を行った。
【0118】
[比較例1]
銅を固溶しない酸化チタン粒子の分散液(F)を用いて各種評価を行った。
【0119】
[比較例2]
銅を固溶しない酸化チタン粒子の分散液(G)を用いて各種評価を行った。
【0120】
[比較例3]
銅を担持した酸化チタン粒子の分散液(H)を用いて各種評価を行った。
【0121】
[比較例4]
調製例11で調製した酸化銅の分散液を用いて各種評価を行った。
【0122】
[比較例5]
調製例12で調製した酸化チタン粒子分散液(F)とCuO粉末の混合物を用いて各種評価を行った。
【0123】
【0124】
実施例と比較例1、2の結果から、銅を固溶した酸化チタン粒子は高い防藻性を示すことが分かった。
実施例2と比較例3、4、5の結果から、銅が酸化チタン粒子に固溶されていることが高い防藻性を示すのに必要であることが分かった。