(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011449
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】抗菌組成物、菌抑制方法、及び胃腸炎の治療又は予防方法
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20250117BHJP
A61K 35/742 20150101ALI20250117BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20250117BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20250117BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20250117BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20250117BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
A23L33/10
A61K35/742
A61P1/00
A61P31/04
A61P31/04 171
A23K10/16
C12N1/20 E
C12N1/20 A
C12N15/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113571
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】野田 悠太
(72)【発明者】
【氏名】前田 貴行
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
2B150AA05
2B150AA06
2B150AB10
2B150AC05
2B150BE04
2B150CA23
2B150CA24
2B150CA25
2B150CA26
2B150CE04
2B150CE05
2B150CE12
2B150CE30
4B018LB08
4B018MD85
4B018ME14
4B018MF13
4B018MF14
4B065AA01X
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4B065CA44
4B065CA49
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC64
4C087CA10
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZB35
4C087ZC61
(57)【要約】
【課題】ワイツマニア・コアギュランスの新たな機能及び用途を提供。
【解決手段】ワイツマニア・コアギュランス(Weizmannia coagulans)に属する細菌株の培養上清を含み、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)の増殖を抑制する活性を有する組成物を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイツマニア・コアギュランス(Weizmannia coagulans)に属する細菌株の培養上清を含み、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)の増殖を抑制する活性を有する組成物。
【請求項2】
前記細菌株が、acnB、acnA、acnC、acdD及びacnEの各遺伝子を含んでなる環状バクテリオシン関連遺伝子群を、5’側から3‘側にこの順で染色体上に有し、
acnA遺伝子の開始コドンと、acnC遺伝子の開始コドンとの間の距離が300 bps以内である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記細菌株が、SANK70258株、BC01株及びBC99株からなる群から選択されるいずれか1以上である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
さらに、クロストリジウム属(Clostridium)細菌及び/又はバチルス属(Bacillus)細菌の増殖を抑制する活性を有する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)及びクロストリジウム・ソルデリ(Clostridium sordellii)からなる群から選択されるいずれか1以上である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記バチルス属細菌が、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)又はバチルス・アンシラシス(Bacillus anthracis)である、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
食品、飲料、サプリメント、飼料又は医薬である、請求項1-6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
ヒトを除く動物の胃腸管におけるクロストリジオイデス・ディフィシルの増殖を抑制する方法であって、
ワイツマニア・コアギュランスに属する細菌株の培養上清を含み、クロストリジオイデス・ディフィシルの増殖を抑制する活性を有する組成物を前記動物に経口摂取させる手順を含む、
方法。
【請求項9】
ヒトを除く動物において、クロストリジオイデス・ディフィシルを含む病原性細菌によって引き起こされる胃腸炎を治療又は予防するための方法であって、
ワイツマニア・コアギュランスに属する細菌株の培養上清を含み、クロストリジオイデス・ディフィシルの増殖を抑制する活性を有する組成物の治療有効量を前記動物に経口投与する手順を含む、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗菌組成物、菌抑制方法、及び胃腸炎の治療又は予防方法に関する。より詳しくは、ワイツマニア・コアギュランス(Weizmannia coagulans)に属する細菌株の培養上清を含み、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)の増殖を抑制する抗菌組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイツマニア・コアギュランスSANK70258(シノニム:バチルス・コアギュランスSANK70258)は、1949年に緑麦芽から分離された、高い乳酸生成力を有する有胞子性乳酸菌である。ワイツマニア・コアギュランスSANK70258を配合した食品用製剤(商品名:ラクリス)が、1966年から50年以上にわたって販売されている。
【0003】
家畜及び家禽の細菌性下痢病は、増体率の減少と斃死を誘発する。細菌性下痢病を予防して生産性を高めるために、飼料に抗生物質を添加することが行われてきた。近年では、抗生物質に対する耐性菌の出現と畜産物内の残留抗生物質などの問題を考慮して、抗生物質使用の代替方法として、生菌剤(Probiotics)の使用が提案されている。
【0004】
特許文献1には、「病原性細菌によって引き起こされる胃腸感染の処置または予防のための治療組成物であって、該組成物は、脊椎動物の胃腸管への投与に適切な薬学的に受容可能なキャリア内に、治療有効濃度の乳酸産生細菌の1以上の種または株を含み、ここで、該乳酸産生細菌は、該病原性細菌のコロニー形成率、および該コロニー形成に起因する潜在的な生理学的に有害な効果の両方を減少する能力を保持する、組成物。」(請求項1参照)が開示されている。この組成物において、乳酸産生細菌はバチルス・コアギュランス等であってよく(請求項2参照)、病原性細菌はクロストリジウム・パーフリンゲンス等であってよいとされている。なお、当該組成物のクロストリジオイデス・ディフィシルに対する抗菌活性は明らかでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、ワイツマニア・コアギュランスの新たな機能及び用途を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題解決のため、本開示は、以下の[1]-[15]を提供する。
[1] ワイツマニア・コアギュランス(Weizmannia coagulans)に属する細菌株の培養上清を含み、クロストリジオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile)の増殖を抑制する活性を有する組成物。
[2] 前記細菌株が、acnB、acnA、acnC、acdD及びacnEの各遺伝子を含んでなる環状バクテリオシン関連遺伝子群を、5’側から3‘側にこの順で染色体上に有し、
acnA遺伝子の開始コドンと、acnC遺伝子の開始コドンとの間の距離が300 bps以内である、[1]の組成物。
[3] 前記細菌株が、SANK70258株、BC01株及びBC99株からなる群から選択されるいずれか1以上である、[1]又は[2]の組成物。
[4] さらに、クロストリジウム属(Clostridium)細菌及び/又はバチルス属(Bacillus)細菌の増殖を抑制する活性を有する、[1]-[3]のいずれかの組成物。
[5] 前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)及びクロストリジウム・ソルデリ(Clostridium sordellii)からなる群から選択されるいずれか1以上である、[4]の組成物。
[6] 前記バチルス属細菌が、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)又はバチルス・アンシラシス(Bacillus anthracis)である、[4]の組成物。
[7] 食品、飲料、サプリメント、飼料又は医薬である、[1]-[6]のいずれかの組成物。
【0008】
[8] ヒトを除く動物の胃腸管におけるクロストリジオイデス・ディフィシルの増殖を抑制する方法であって、
ワイツマニア・コアギュランスに属する細菌株の培養上清を含み、クロストリジオイデス・ディフィシルの増殖を抑制する活性を有する組成物を前記動物に経口摂取させる手順を含む、
方法。
[9] ヒトを除く動物において、クロストリジオイデス・ディフィシルを含む病原性細菌によって引き起こされる胃腸炎を治療又は予防するための方法であって、
ワイツマニア・コアギュランスに属する細菌株の培養上清を含み、クロストリジオイデス・ディフィシルの増殖を抑制する活性を有する組成物の治療有効量を前記動物に経口投与する手順を含む、
方法。
[10] 前記細菌株が、acnB、acnA、acnC、acdD及びacnEの各遺伝子を含んでなる環状バクテリオシン関連遺伝子群を、5’側から3‘側にこの順で染色体上に有し、
acnA遺伝子の開始コドンと、acnC遺伝子の開始コドンとの間の距離が300 bps以内である、[8]又は[9]の方法。
[11] 前記細菌株が、SANK70258株、BC01株及びBC99株からなる群から選択されるいずれか1以上である、[8]-[10]のいずれかの方法。
[12] 前記組成物が、さらに、クロストリジウム属(Clostridium)細菌及び/又はバチルス属(Bacillus)細菌の増殖を抑制する活性を有する、[8]-[11]のいずれかの方法。
[13] 前記クロストリジウム属細菌が、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・ラモーサム(Clostridium ramosum)、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)及びクロストリジウム・ソルデリ(Clostridium sordellii)からなる群から選択されるいずれか1以上である、[12]の方法。
[14] 前記バチルス属細菌が、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)又はバチルス・アンシラシス(Bacillus anthracis)である、[12]の方法。
[15] 前記組成物が、食品、飲料、サプリメント、飼料又は医薬である、[9]-[14]のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、ワイツマニア・コアギュランスの新たな機能及び用途が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】SANK70258株、BC01株、BC99株、MTCC5856株、GBI-30, 6086株、CP3425株及びNBRC12583株の培養上清(試験液)のクロストリジオイデス・ディフィシルに対する増殖抑制活性を評価した結果を示す。試験液は希釈せずにそのまま、あるいは2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、64倍又は128倍にリン酸バッファーで希釈して試験に供した。ポジティブコントロールには、バンコマイシンを用いた。
【
図2】SANK70258株、BC01株、BC99株、MTCC5856株、GBI-30, 6086株、CP3425株及びNBRC12583株の培養上清(試験液)のクロストリジウム・パーフリンゲンスに対する増殖抑制活性を評価した結果を示す。試験液は希釈せずにそのまま、あるいは2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、64倍又は128倍にリン酸バッファーで希釈して試験に供した。ポジティブコントロールには、バンコマイシンを用いた。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本開示の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本開示の範囲が狭く解釈されることはない。
【0012】
本開示に係る組成物は、ワイツマニア・コアギュランスに属する細菌株の培養上清を含み、クロストリジオイデス・ディフィシルの増殖を抑制する活性を有する。
「増殖を抑制する活性」(増殖抑制活性)には、細菌の増殖を停止させること、及び増殖の速度を低くすることに加えて、細菌を死滅させることも含まれ得るものとする。
増殖抑制活性は、所定の培養期間における菌体数の増減を指標として、従来公知の手法によって評価できる。例えばMIC法による抗菌試験(実施例1参照)やペーパーディスク法による抗菌試験が公知である。これらの評価方法において、本開示に係る組成物の存在下における所定期間の培養後の菌体数が、非存在下での菌体数の90%以下、80%以下、好ましくは70%以下、60%以下、より好ましくは50%以下、40%以下、さらに好ましくは30%、20%以下、特に好ましくは10%以下、5%以下に抑制される場合、本開示に係る組成物の増殖抑制活性が示される。
【0013】
ワイツマニア・コアギュランスに属する細菌株としては、例えばSANK70258株、BC01株、BC99株、MTCC5856株、GBI-30, 6086株、CP3425株、NBRC12583株、P-22株、lilac-01株、SIM-7 DSM14043株、C101株、GBI-1株、GBI-20株、及びGBI-40株等が挙げられる。また、本開示の効果を有する限りにおいて、これらの菌株由来の変異株も用いられ得る。
【0014】
ワイツマニア・コアギュランスに属する細菌株として、特に、acnB、acnA、acnC、acdD及びacnEの各遺伝子を含んでなる環状バクテリオシン関連遺伝子群を、5’側から3‘側にこの順で染色体上に有し、acnA遺伝子のコード領域中の開始コドンと、acnC遺伝子のコード領域中の開始コドンとの間の距離が300 bps以内である株が挙げられる。
環状バクテリオシンは、N末端とC末端がペプチド結合した環状構造を有するバクテリオシンである。acn gene clusterは、環状バクテリオシンの生成に関与する遺伝子群であり、acnA、acnB、acnC、acnD、acnE及びacnFの各遺伝子を含んでなる("Amylocyclicin, a Novel Circular Bacteriocin Produced by Bacillus amyloliquefaciens FZB42", Romy Scholz et al, Journal of Bacteriology, 2014, Vol. 196, No. 10, p. 1842-1852)。acnAは環状バクテリオシンの前駆体をコードし、acnCは環状バクテリオシンの成熟化等に機能しているとされる。また、acnD及びacnEは、ABC輸送体による膜輸送等に機能しているとされている。
本開示において、ワイツマニア・コアギュランスに属する細菌株のクロストリジオイデス・ディフィシル及びクロストリジウム・パーフリンゲンスに対する増殖抑制活性には、当該細胞株のゲノム上のacnAとacnCとの間の距離の近さが関連していることが示唆された。acnA遺伝子とacnC遺伝子の開始コドン間距離が300 bps以内、好ましくは270bps以内である株は、クロストリジオイデス・ディフィシル及びクロストリジウム・パーフリンゲンスに対してより高い増殖抑制活性を示し得る。
acnA遺伝子とacnC遺伝子の開始コドン間距離が300 bps以内である細菌株として、具体的には、SANK70258株、BC01株及びBC99株が挙げられる。
【0015】
ワイツマニア・コアギュランスに属する細菌株として、SANK70258株が供給の安定性、入手の容易性の点から好ましい。
【0016】
ワイツマニア・コアギュランスに属する細菌株の培養は従来公知の手法によって行うことができる。培養には、市販の細胞株を用いることができる(例えば、三菱ケミカル株式会社「ラクリス-S」、「ラクリス-15」、及び「飼料用ラクリス-10」、並びにKerry Inc.社、SABINSA社、アテリオバイオ、UNIQUEBIOTECH、アサヒバイオサイクル社等の製品があげられる)。また、細胞株の培養上清の調製も従来公知の手法によって行えばよい。
【0017】
本開示に係る組成物は、クロストリジオイデス・ディフィシルに加えて、クロストリジウム属(Clostridium)細菌、バチルス属(Bacillus)細菌、リステリア(Listeria)属、ビブリオ属に対しても増殖抑制活性を示し得る。
【0018】
クロストリジウム属細菌としては、クロストリジウム・パーフリンゲンス、クロストリジウム・ラモーサム、クロストリジウム・ボツリヌム、クロストリジウム・テタニ及びクロストリジウム・ソルデリ等が挙げられる。
バチルス属細菌としては、バチルス・セレウス及びバチルス・アンシラシス等が挙げられる。
リステリア属細菌としては、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)等が挙げられる。
ビブリオ属細菌としては、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)等が挙げられる。
【0019】
本開示に係る組成物は、ワイツマニア・コアギュランスに属する細菌株の培養上清(活性成分)を含んでいればよく、その具体的な形態は食品、飲料、サプリメント、飼料又は医薬であり得る。
「食品」には、健康食品、機能性食品、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等)、健康補助食品、栄養補助食品を含む。また、食品の形状は固形、液状又はペースト状等、適宜選択することができる。
「飲料」は、清涼飲料水、乳飲料、アルコール飲料を含む。
「サプリメント」は、どのような形状であってもよく、錠剤、顆粒剤、散剤、糖衣錠剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁剤、液剤、乳剤等であってよい。また、胃酸から保護し、腸において作用させるため、異なるpHに対する溶解性に差異のある腸溶剤としてもよい。
「飼料」は、活性成分と、生草や乾草、青刈飼料作物(青刈トウモロコシ等)、穀類(トウモロコシ、マイロ、大麦、エンバク、米、アワ、ヒエ、キビ、コーリャン等)、穀物副産物(米糠、ふすま類等)、根菜類、わら類、油粕類(落花生粕、綿実粕、ヒマワリ粕、菜種粕、胡麻粕、亜麻仁粕等)などと混合することにより得られる。
「医薬」は、活性成分を、薬理学的に許容し得る公知の担体や賦形剤、その他の添加剤により製剤化することにより得られる。
【0020】
本開示に係る組成物は、ヒトを除く動物の胃腸管におけるクロストリジオイデス・ディフィシルの増殖を抑制するため、あるいは、ヒトを除く動物において、クロストリジオイデス・ディフィシルを含む病原性細菌によって引き起こされる胃腸炎を治療又は予防するために好適に用いられ得る。
【0021】
本開示に係る組成物の治療有効量を、例えば飼料又は医薬として、動物に経口摂取させることにより、胃腸管におけるクロストリジオイデス・ディフィシル等の増殖を抑制し、クロストリジオイデス・ディフィシルを含む病原性細菌によって引き起こされる胃腸炎を治療又は予防することができる。
【0022】
胃腸炎は、特にクロストリジオイデス・ディフィシルによって引き起こされるものであることができる。クロストリジオイデス・ディフィシル胃腸炎は、軟便から血性の下痢や腹痛、発熱まで幅広い症状を呈する。本開示に係る組成物によるクロストリジオイデス・ディフィシル胃腸炎の治療は、これらの症状のいずれか1以上の緩和あるいは寛解を含み得る。
【0023】
対象となる動物は、ニワトリ、アヒル及びカモなどの鳥類、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、イヌ及びネコなどの哺乳類であってよく、特に限定されない。
治療有効量は、対象とする動物によって異なり得るものであり、従来の産業動物の飼育技術の範囲内で適宜調整、最適化され得る。
【0024】
本開示に係る組成物が、胃腸管におけるクロストリジオイデス・ディフィシル等の増殖抑制あるいは胃腸炎の治療又は予防に用いられる場合、本開示に係る組成物は抗生物質あるいは抗真菌剤を含むか、これらと組み合わせて用いられてもよい。
【実施例0025】
[実施例1:Weizmannia coagulans細胞外産物の調製]
W.coagulansに属する細菌株(SANK70258株、BC01株、BC99株、MTCC5856株、GBI-30, 6086株、CP3425株、NBRC12583株)の培養上清を試験液として調製した。
【0026】
各細胞株をBCP加プレート寒天培地に塗布し、標準的なインキュベーターを用いて、50℃で一晩培養した。
生理食塩水でプレートをかきとり、回収物を生理食塩水でOD600=10となるように希釈し、50 μLをBCP加プレート寒天培地に塗布し、50℃で7時間培養した。
再度、生理食塩水でかきとり、回収物を生理食塩水でOD600=1となるように希釈し、50 μLをBCP加プレート寒天培地に塗布し、50℃で16時間培養した。
1 mLのリン酸バッファー(100 mM NaH2PO4, 100mM Na2HPO4)でプレートをかきとり、回収物を12,000 gで10分間遠心分離し、上清を回収した。
上清をリン酸バッファーでOD600=50となるように希釈し、0.2 μmのフィルターを通して菌を除去し、試験液を得た。
【0027】
[実施例2:MIC法による抗菌試験]
実施例1で調整した試験液について、C.difficile及びC.perfringensに対する増殖抑制活性を評価した。
【0028】
C.difficile及びC.perfringensを、それぞれ標準的に用いられる液体培地に接種し、37℃で振盪培養を行い、対数増殖期に達したところで培養液を回収した。培養液をOD600=0.0001となるように希釈し、96穴マイクロプレートの各ウェルに100 μLずつ分注した液体培地に接種した。
実施例1で調製した試験液8 μLを各ウェルに添加し、35℃で24時間培養しながらC.difficile及びC.perfringensの増殖を吸光度に基づき評価した。試験液は希釈せずにそのまま、あるいは2倍、4倍、8倍、16倍、32倍、64倍又は128倍にリン酸バッファーで希釈して試験に供した。
増殖抑制活性の有無を判定するためのポジティブコントロールには、2倍段階希釈(0.00625~0.8 mg/mL)のバンコマイシン2 μLを用いた。
【0029】
結果を
図1,2に示す。
C.difficileに対して、バンコマイシンは32倍希釈(約0.5 μg/mL)まで完全な増殖抑制を示した(
図1参照)。SANK70258株、BC01株及びBC99株は、4倍希釈まであるいは8倍希釈まで増殖抑制活性がみられた。一方で、MTCC5856株は原液(希釈なし)でのみ増殖抑制活性を示し、GBI-30, 6086株、CP3425株及びNBRC12583株は全く増殖抑制活性を示さなかった。
C.perfringensに対しても、SANK70258株、BC01株及びBC99株は2倍希釈で増殖抑制活性を示したが、MTCC5856株、GBI-30, 6086株、CP3425株及びNBRC12583株は全く増殖抑制活性を示さなかった(
図2参照)。
これらの結果から、W.coagulansに属する細菌株のうち、SANK70258株、BC01株及びBC99株が、C.difficile及びC.perfringensに対して優位な抗菌活性を示すことが明らかとなった。
【0030】
[実施例3:W.coagulansのゲノム構造解析]
SANK70258株、BC01株、BC99株、MTCC5856株、GBI-30, 6086株、CP3425株及びNBRC12583株のゲノム中のacn gene clusterの構造解析を行った。
【0031】
実施例1の遠心分離操作での沈殿物からゲノムを抽出し、全ゲノムライブラリーを作製した後、ナノポアシーケンサーで配列を読み、de novoアセンブリーで全長のゲノム配列を取得した。acn gene clusterの構造を表1に示す。表中、各遺伝子についての「遺伝子間距離」は、当該遺伝子のコード領域中の開始コドンと、当該遺伝子の次の遺伝子(3’側に位置する遺伝子)のコード領域中の開始コドンとの間の距離(bp)を示す。
【0032】
【0033】
CP3425株及びNBRC12583株は、acn gene clusterの遺伝子を有さなかった。
C.difficile及びC.perfringensに対して有意な増殖抑制活性を示したSANK70258株、BC01株及びBC99株は、環状バクテリオシンの前駆体であるacnAとその成熟化を担うacnCとの間の距離が264塩基であった。一方、これの株に比して増殖抑制活性に劣るMTCC5856株及びGBI-30, 6086株は、acnAとacnCとの距離が21347塩基であった。
この結果から、SANK70258株、BC01株及びBC99株の有意な増殖抑制活性に、acnAとacnCとの間の距離の近さが関連していることが示唆された。当該距離が近いことにより、タンパク質への翻訳効率や翻訳産物の相互作用が、環状バクテリオシンの発現量の増加をもたらすように変化している可能性が考えられた。