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特開2025-11459水性分散液、強化透明基材及び強化透明部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011459
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】水性分散液、強化透明基材及び強化透明部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/32 20060101AFI20250117BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20250117BHJP
   C09D 127/18 20060101ALI20250117BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20250117BHJP
【FI】
C03C17/32 A
C08L27/18
C09D127/18
C09D7/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113585
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】結城 創太
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
【テーマコード(参考)】
4G059
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4G059AA04
4G059AC16
4G059AC19
4G059AC30
4G059FA11
4G059FA29
4G059FB05
4J002BD151
4J002BG042
4J002CP032
4J002FD202
4J002GH01
4J002HA06
4J038CD121
4J038CG002
4J038DL032
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA10
4J038KA12
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA01
4J038NA03
4J038NA14
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】耐久性、耐熱性、耐衝撃性、透明性及び低黄変性に優れる塗膜を形成できる、水性分散液の提供。
【解決手段】溶融温度が280℃~320℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、ラメラ長が7.0~8.5mmであるポリマー系レベリング剤とを含む、水性分散液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融温度が280℃~320℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、ラメラ長が7.0~8.5mmであるポリマー系レベリング剤とを含む、水性分散液。
【請求項2】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、カルボニル基含有基を有する、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項3】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の平均粒子径が、1μm以上である、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項4】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の含有量が30質量%以上である、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項5】
前記ポリマー系レベリング剤の動的表面張力が、60~80mN/mである、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項6】
前記ポリマー系レベリング剤の静的表面張力が、30~50mN/mである、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項7】
前記ポリマー系レベリング剤のHLBが、7.6~12である、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項8】
前記ポリマー系レベリング剤が、アクリル系ポリマー又はシリコーン系ポリマーである、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項9】
粘度が、1000mPa・s以下である、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項10】
透明基材のコーティング用である、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項11】
前記透明基材がガラス基材である、請求項10に記載の水性分散液。
【請求項12】
前記透明基材がバイアル、アンプル、ボトル又はカートリッジからなる群より選択されるガラス容器である、請求項10に記載の水性分散液。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載の水性分散液によりコーティングされた、強化透明基材。
【請求項14】
前記強化透明基材が、医薬品の収容用のガラス容器である、請求項13に記載の強化透明基材。
【請求項15】
溶融温度が280℃~320℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、ラメラ長が7.0~8.5mmであるポリマー系レベリング剤とを含む水性分散液を、透明基材の外側表面に付与し、加熱して、前記透明基材の前記外側表面に、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層を形成する、強化透明基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子を含む水性分散液、及び該水性分散液より形成される強化透明部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス容器は、耐薬品性、気密性、透明性等に優れるため医薬品の収容容器として有用であり、アンプルやバイアルとして広く利用されている。
ガラスは、衝撃により割れやすく、ガラス容器は、内容物の充填に際する搬送や接触によって破損しやすいため、ガラス容器の外側表面にポリマー層を設け、ガラス容器の耐衝撃性を向上させる手法が採られている。しかし、ガラスとポリマー層とを強固に密着させるのは容易ではない。また近年、ガラス容器には高度な衛生管理が求められる場合が増えており、例えば、医薬品を収容するために用いられるガラス容器には、長時間の高温暴露や紫外線照射による滅菌処理が施されることが多い。
一方、テトラフルオロエチレン系ポリマーの特性を有する層を形成する材料として、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と液状分散媒とを含む分散液が知られている。特許文献1には、特定のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子を含む液状組成物を、ガラス容器の外側表面に付与し、加熱して、前記ガラス容器の外側表面にポリマー層を設ける、ガラス製強化容器の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2022/149552号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法で得られるガラス製強化容器は、耐衝撃性、耐熱性及び耐UV性に優れる。一方、近年、医薬品を収容するために用いられるガラス容器において、その用途によってはさらなる透明性の向上や黄味の低減が求められている。
本発明者らは、特定のテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、特定のポリマー系レベリング剤とを含有する水性分散液は、テトラフルオロエチレン系ポリマーに基づく物性を発現しつつ、透明性及び低黄変性に優れる塗膜を形成できることを知見した。そして、かかる水性分散液をガラス基材等の透明基材のコーティング用として用いると、透明性及び低黄変性に優れる強化透明基材を製造でき、医薬品の収容用のガラス容器に好適に使用できることを見出し、本発明に至った。
本発明の目的は、耐久性、耐熱性、耐衝撃性、透明性及び低黄変性に優れる塗膜を形成できる、水性分散液の提供である。本発明の他の目的は、かかる水性分散液でコーティングされた強化透明基材、及び強化透明部材の製造方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記の態様を有する。
〔1〕 溶融温度が280℃~320℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、ラメラ長が7.0~8.5mmであるポリマー系レベリング剤とを含む、水性分散液。
〔2〕 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、カルボニル基含有基を有する、〔1〕の水性分散液。
〔3〕 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の平均粒子径が、1μm以上である、〔1〕又は〔2〕の水性分散液。
〔4〕 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子の含有量が30質量%以上である、〔1〕~〔3〕のいずれかの水性分散液。
〔5〕 前記ポリマー系レベリング剤の動的表面張力が、60~80mN/mである、〔1〕~〔4〕のいずれかの水性分散液。
〔6〕 前記ポリマー系レベリング剤の静的表面張力が、30~50mN/mである、〔1〕~〔5〕のいずれかの水性分散液。
〔7〕 前記ポリマー系レベリング剤のHLBが、7.6~12である、〔1〕~〔6〕のいずれかの水性分散液。
〔8〕 前記ポリマー系レベリング剤が、アクリル系ポリマー又はシリコーン系ポリマーである、〔1〕~〔7〕のいずれかの水性分散液。
〔9〕 粘度が、1000mPa・s以下である、〔1〕~〔8〕のいずれかの水性分散液。
〔10〕 透明基材のコーティング用である、〔1〕~〔9〕のいずれかの水性分散液。
〔11〕 前記透明基材がガラス基材である、〔10〕の水性分散液。
〔12〕 前記透明基材がバイアル、アンプル、ボトル又はカートリッジからなる群より選択されるガラス容器である、〔10〕又は〔11〕の水性分散液。
〔13〕 〔10〕~〔12〕のいずれかの水性分散液によりコーティングされた、強化透明基材。
〔14〕 前記強化透明基材が、医薬品の収容用のガラス容器である、〔13〕の強化透明基材。
〔15〕 溶融温度が280℃~320℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と、ラメラ長が7.0~8.5mmであるポリマー系レベリング剤とを含む水性分散液を、透明基材の外側表面に付与し、加熱して、前記透明基材の前記外側表面に、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層を形成する、強化透明基材の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐久性、耐熱性、耐衝撃性、透明性及び低黄変性に優れる塗膜を形成できる、水性分散液が提供される。本発明の水性分散液はガラス基材等の透明基材のコーティング用途に好適に使用でき、例えば高温暴露や紫外線照射を伴う処理にも供し得る、透明性及び低黄変性に優れるバイアル、アンプル、ボトル又はカートリッジ等のガラス製強化容器を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる、粒子又はフィラーの体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子又はフィラーの集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
粒子又はフィラーのD50は、粒子又はフィラーを水中に分散させ、レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(堀場製作所社製、LA-920測定器)を用いたレーザー回折・散乱法により分析して求められる。
「溶融温度」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移温度(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「粘度」は、B型粘度計を用いて、25℃で回転数が30rpmの条件下で水性分散液を測定して求められる。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「チキソ比」とは、回転数が30rpmの条件で測定される水性分散液の粘度を、回転数が60rpmの条件で測定される水性分散液の粘度で除して算出される値である。それぞれの粘度の測定は、3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
ポリマーにおける「単位」とは、モノマーの重合により形成された前記モノマーに基づく原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。
【0008】
本発明の水性分散液(以下、「本分散液」とも記す。)は、溶融温度が280℃~320℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)の粒子(以下、「F粒子」とも記す。)と、ラメラ長が7.0~8.5mmであるポリマー系レベリング剤とを含む。
本分散液からは、Fポリマーに基づく耐久性、耐熱性、耐衝撃性、接着性に優れ、かつ透明性及び耐黄変性に優れる塗膜を形成できる。
【0009】
耐久性、耐熱性、耐衝撃性の付与を目的に、ガラス等の無機材料である透明基材の表面にFポリマーを含むポリマー層を形成する場合、かかるポリマー層を透明基材に強固に接着させるために、F粒子を含む分散液の塗工を繰り返したりその焼成工程における条件を厳しくする必要がある。その際、かかるポリマー層の透明性が低下したり、黄味が増しやすく、透明基材が立体的でいわゆる肩部を有する基材であると、肩部の曲率部分でこの傾向がより顕著となりやすい。
本分散液において、特定のラメラ長を有するレベリング剤は、F粒子の本分散液中での分散安定性を向上させると共に、本分散液を塗工して形成される塗工層におけるF粒子の緻密なパッキングの形成を促し、それを焼成して塗膜(コーティング膜)を得る際の応力を緩和していると推測される。その結果、Fポリマーの緻密な溶融焼成がしやすくなり、また透明基材との接着性が向上して、透明性及び耐黄変性に優れる塗膜を得られると推測される。かかる効果は、本分散液が後述する特定のF粒子を含む場合に、より顕著となる。
【0010】
本組成物において、Fポリマーは、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位(以下、「TFE単位」とも記す。)を含む、溶融温度が280℃~320℃であるポリマーである。
Fポリマーは、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
Fポリマーのガラス転移温度は、60℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。
Fポリマーのガラス転移温度は、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
Fポリマーのフッ素含有量は、70質量%以上が好ましく、72~76質量%がより好ましい。
Fポリマーの表面張力は、16~26mN/mが好ましい。なお、Fポリマーの表面張力は、Fポリマーで作製された平板上に、JIS K 6768に規定されているぬれ張力試験用混合液(和光純薬社製)の液滴を載置して測定できる。
【0011】
Fポリマーとしては、TFE単位とエチレンに基づく単位とを含むポリマー(ETFE)、TFE単位とプロピレンに基づく単位とを含むポリマー、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むポリマー(PFA)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(FEP)が挙げられる。Fポリマーは、PFA又はFEPが好ましく、PFAがさらに好ましい。これらのポリマーは、さらに他のコモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。
PAVEは、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF及びCF=CFOCFCFCF(以下、「PPVE」とも記す。)が好ましく、PPVEがより好ましい。
【0012】
Fポリマーの少なくとも1種は、酸素含有極性基を有するのが好ましく、水酸基含有基又はカルボニル基含有基を有するのがより好ましく、カルボニル基含有基を有するのがさらに好ましい。この場合、本分散液を透明基材のコーティング用として使用する際の、形成される塗膜(コーティング膜)の耐久性、耐熱性、耐衝撃性、接着性に優れやすい。
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CFCHOH及び-C(CFOHがより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)、ホルミル基、ハロゲノホルミル基、ウレタン基(-NHC(O)O-)、カルバモイル基(-C(O)-NH)、ウレイド基(-NH-C(O)-NH)、オキサモイル基(-NH-C(O)-C(O)-NH)及びカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
Fポリマーが酸素含有極性基を有する場合、Fポリマーにおける酸素含有極性基の数は、主鎖の炭素数1×10個あたり、50~5000個が好ましく、100~3000個がより好ましい。なお、Fポリマーにおける酸素含有極性基の数は、ポリマーの組成又は国際公開第2020/145133号に記載の方法によって定量できる。
【0013】
酸素含有極性基は、Fポリマー中のモノマーに基づく単位に含まれていてもよく、Fポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよく、前者が好ましい。後者の態様としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として酸素含有極性基を有するFポリマー、Fポリマーをプラズマ処理や電離線処理して得られるFポリマーが挙げられる。
【0014】
熱溶融性のFポリマーとしては、TFE単位及びPAVE単位を含み全単位に対してPAVE単位を2.0~5.0モル%含む、酸素含有極性基を有さないポリマー(1)か、又は、TFE単位及びPAVE単位を含む、酸素含有極性基を有するポリマー(2)が好ましい。かかるFポリマーを使用すれば、比較的小さい半径を有する球晶が形成されやすい。このため、本分散液を透明基材のコーティング用として使用する際の、透明基材との接着性がより向上しやすい。
【0015】
ポリマー(1)は、TFE単位及びPAVE単位のみからなり、全単位に対してPAVE単位を2.5モル%超5.0モル%以下含有するのがより好ましい。なお、ポリマー(1)が酸素含有極性基を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×10個あたりに対して、ポリマーが有する酸素含有極性基の数が50個未満であることを意味する。上記酸素含有極性基の数の下限は1個である。
ポリマー(1)は、ポリマー鎖の末端基として酸素含有極性基を生じない、重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造してもよく、酸素含有極性基を有するFポリマー(重合開始剤に由来する酸素含有極性基をポリマー主鎖の末端基に有するFポリマー等)をフッ素化処理して製造してもよい。フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0016】
ポリマー(2)は、TFE単位及びPAVE単位を含む、カルボニル基含有基を有する熱溶融性のFポリマーであるのが好ましく、TFE単位、PAVE単位及びカルボニル基含有基を有するモノマーに基づく単位を含み、全単位に対して、これらの単位をこの順に、90~99モル%、0.99~9.97モル%、0.01~3モル%含むポリマーであるのがさらに好ましい。かかるFポリマーの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
カルボニル基含有基を有するモノマーは、無水イタコン酸、無水シトラコン酸及び5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましく、NAHがより好ましい。
【0017】
本分散液において、Fポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粒子と、酸素含有極性基を有する、熱溶融性のFポリマーの粒子との混合物であってもよい。
この場合、本分散液を透明基材のコーティング用として使用する際の取扱い性や、本分散液から形成される塗膜(コーティング膜)の耐久性、耐熱性、耐衝撃性、接着性に優れる観点から、PTFEの粒子と、酸素含有極性基を有する、熱溶融性のFポリマーの粒子との混合物における、PTFEの粒子の含有量が、50~90質量%であるのが好ましい。
【0018】
F粒子は、平均粒子径(D50)が0.1μm以上であるのが好ましく、1μm以上であるのがより好ましい。F粒子のD50は、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。この場合、本分散液が分散性と加工性に優れやすく、本分散液を透明基材のコーティング用として使用する際の取扱い性や、本分散液から形成される塗膜(コーティング膜)の耐久性、耐熱性、耐衝撃性、接着性に優れやすい。
F粒子は、Fポリマーを含む粒子であり、Fポリマーからなるのが好ましい。
F粒子は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
2種以上のF粒子を用いる場合、F粒子が、PTFEの粒子と、酸素含有極性基を有する、熱溶融性のFポリマーの粒子との混合物からなるのが好ましい。また、本分散液から形成される塗膜(コーティング膜)の耐久性、耐熱性、耐衝撃性、接着性に優れる観点から、PTFEの粒子と、酸素含有極性基を有する、熱溶融性のFポリマーの粒子との混合物における、PTFEの粒子の含有量が、50~90質量%であるのが好ましい。
【0019】
本分散液が含有するポリマー系レベリング剤は、そのラメラ長が7.0~8.5mmであり、7.5~8.0mmであるのがより好ましい。ここでラメラ長とは、表面張力に関係し、液体膜がどれだけ伸びるかを示す指標である。ラメラ長は、JIS K2241:2017の6.3.2の規定に準じたリング法によるデュヌイ表面張力計を用いて測定できる。具体的には、ポリマー系レベリング剤を50質量%含有する溶液を測定対象とし、測定対象の溶液に対して平行に吊り上げた白金環(リング)を溶液中にいったん沈め、次に、リングを鉛直方向に徐々に引き上げていく。このとき、リングと液面との間に形成された液体膜により、リングを引き下げる力が働く。この力は、最大値(すなわち、表面張力)を示した後に、引き上げ量の増加に伴い徐々に減少し、最終的に液体膜が破壊された時点でゼロとなる。ここで、リングを引き下げる力が最大値を示してから液体膜が破壊されるまでのリングの移動距離を、ラメラ長と定義する。
なお、リングの「引き上げ」や「引下げ」は、測定対象の溶液に対する相対的な移動を表すものであり、例えばリングを固定し、測定対象の溶液を載せたステージを移動させてラメラ長の測定を行ってもよい。
なお、ポリマー系レベリング剤を50質量%含有する溶液は、例えばジプロピレングリコールモノメチルエーテル等の、ポリマー系レベリング剤が良好に溶解する溶媒を用いて調製できる。
【0020】
ポリマー系レベリング剤の動的表面張力は、60~80mN/mであるのが好ましく、63~77mN/mであるのがより好ましい。本明細書において動的表面張力は、最大泡圧力法による周波数10Hzでの表面張力値をいう。動的表面張力は、例えばSITA測定装置(英弘精機株式会社 SITA t60)を用いて測定できる。
ポリマー系レベリング剤の静的表面張力は、30~50mN/mであるのが好ましく、33~47mN/mであるのがより好ましい。静的表面張力は、例えば表面張力測定機(英弘精機株式会社 DCAT 21)を用いて測定できる。
ポリマー系レベリング剤のHLBは、7.6~12であるのが好ましい。
ポリマー系レベリング剤の動的表面張力、静的表面張力、HLBが上記した範囲内であると、上述した本発明の想定作用機構がより発揮され、本発明の効果を奏しやすい観点から好ましい。
【0021】
本分散液が含有するポリマー系レベリング剤は、水に不溶性のポリマー主鎖を有し、その側鎖に水溶性の基を有し、全体として水溶性を示す構造を有することが好ましい。換言すれば、本分散液が含有するポリマー系レベリング剤は、上述した想定作用機構に加え、分子構造中に親水性部位と疎水性部位を有することで本分散液の表面張力を調整し、透明基材との濡れ性を高めることでも、本分散液から形成される塗膜の接着性を向上できる。
ポリマー系レベリング剤はアニオン性、カチオン性、非イオン性のいずれであってもよい。
ポリマー系レベリング剤としては、例えばアクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ビニル系ポリマー、フッ素系ポリマーが挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、ポリマー系レベリング剤が、アクリル系ポリマー又はシリコーン系ポリマーであるのが好ましく、本分散液において表面張力を低下させ、透明基材への濡れ性を改良して、本分散液から形成される塗膜(コーティング膜)の接着性を向上できる観点から、アンモニウムイオン等のカチオン性基を有するアクリル系ポリマーであるのがより好ましい。
なお、本明細書中において「アクリル系ポリマー」とは、(メタ)アクリル系モノマーをその主たる構成単位として含有する(メタ)アクリル系ポリマーを意味する。
【0022】
(メタ)アクリル系モノマーとしては、水酸基、カルボキシ基、シリル基又はイソシアナート基のうちの1種以上を有する(メタ)アクリル系モノマー、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
具体的には、例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEMA)、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、((メタ)アクリロイルオキシ)酢酸、(メタ)アクリル酸2-カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸3-カルボキシプロピル、コハク酸1-[2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル]、フタル酸1-(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)、ヘキサヒドロフタル酸水素2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、N-モノアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、N,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、2-アジリジニルエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」はアクリル、メタアクリル及びそれらの双方を総称する用語であり、「(メタ)アクリレート」はアクリレート、メタアクリレート及びそれらの双方を総称する用語である。
アクリル系ポリマーは、上記した(メタ)アクリル系モノマーに加え、他の重合性単量体とのコポリマーであってもよい。他の重合性単量体としては、ビニルエステル、ビニルエーテル、ビニル芳香族化合物、(メタ)アクリロニトリル;メチロールアミド基、シリル基、オキサゾリン基、アミド基、カルボニル基を含有する重合性単量体等が挙げられる。他の重合性単量体とのコポリマーである場合、アクリル系ポリマーにおける他の重合性単量体に由来する構成単位の割合は、10~90モル%であることが好ましい。
【0023】
シリコーン系ポリマーとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサンのポリエーテル変性体、アクリル変性体、ポリエステル変性体等の変性シリコーン系ポリマーが挙げられる。
【0024】
ポリマー系レベリング剤の具体例としては、ポリ(2-ヒドロキシ-3-メタクロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド)、ポリ(メタクリル酸ジメチルアミノエチル)、ポリ(メタクリロイルオキシプロピルスルホン酸);アルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸アルキルアクリルアミド又はアクリロニトリルとの共重合体;アクリル酸重合物のアルカリ金属、アミン、アンモニアとの塩;無水マレイン酸とアクリル酸との共重合物、イタコン酸とアクリル酸との共重合物、及びこれらのアルカリ金属、アミン、アンモニアとの塩;が挙げられる。
【0025】
ポリマー系レベリング剤の含有量は、本分散液におけるF粒子の含有量に対して、0.1~1質量%であることが好ましい。かかる範囲であると、本分散液の流動性、分散安定性を良好とでき、かつ本分散液より形成される被膜(コーティング膜)の透明性や耐黄変性を向上できる。
【0026】
ポリマー系レベリング剤は市販品を用いてもよく、例えばビックケミー・ジャパン社製のBYKシリーズ、EVONIK社製のTegoシリーズ、共栄社化学社製のグラノールシリーズ、ポリフローシリーズ、楠本化成社製のディスパロンシリーズ等が挙げられる。
具体的には、ビックケミー・ジャパン社製の商品名「BYK-381」(ポリアクリル酸コポリマーであるアクリルレベリング添加剤のイオン性溶液;ラメラ長7.55mm、動的表面張力71.3mN/m、静的表面張力38.8mN/m)、「BYK-346」(ラメラ長7.40mm、動的表面張力51.5mN/m、静的表面張力21.6mN/m)、「BYK-347」(シリコーン系ポリマー;ラメラ長7.46mm、動的表面張力68.7mN/m、静的表面張力21.9mN/m)等が挙げられる。
【0027】
本分散液は、本発明の効果を妨げない範囲で、Fポリマーとは異なる他の樹脂をさらに含んでいてもよい。かかる他の樹脂は、本分散液に非中空状の粒子として含まれていてもよく、本分散液に溶解又は分散して含まれていてもよい。
他の樹脂としては、例えば液晶性の芳香族ポリエステル等のポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂が挙げられる。
本分散液が他の樹脂をさらに含む場合、F粒子に対する含有量は、1~25質量%が好ましい。
【0028】
本分散液は、本発明の効果を妨げない範囲で、無機フィラーをさらに含有していてもよい。無機フィラーの形状は、球状、針状、繊維状、板状、鱗片状、層状等の種々の形状であってよい。
無機フィラーとしては、例えば石英粉、シリカ、ウォラストナイト、タルク、窒化ケイ素、炭化ケイ素、雲母等のケイ素化合物;窒化ホウ素、窒化アルミニウム等の窒素化合物;酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化バナジウム、酸化銅、酸化鉄、酸化銀等の金属酸化物;炭素繊維;グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等の炭素同素体;銀、銅等の金属;が挙げられる。
無機フィラーのD50は、0.1~50μmが好ましい。
無機フィラーの表面は、シランカップリング剤で表面処理されていてもよい。
無機フィラーは、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
本分散液は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに溶媒を含有していてもよい。溶媒としては、大気圧下、25℃にて液体である化合物であり、沸点が50~240℃である、水と混和する化合物が好ましい。溶媒は、アミド、ケトン及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。溶媒は1種類を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
アミドとしては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロパンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンが挙げられる。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn-ペンチルケトン、メチルイソペンチルケトン、2-へプタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンが挙げられる。
エステルとしては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンが挙げられる。
【0030】
本分散液は、本発明の効果を損なわない範囲で、アミン、アンモニア、クエン酸等のpH調整剤、又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、エチレンジアミン四酢酸、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等のpH緩衝剤をさらに含有していてもよい。
【0031】
本分散液は、上述したポリマー系レベリング剤とは相違する界面活性剤をさらに含んでいてもよい。界面活性剤としてはノニオン性界面活性剤が好ましい。ノニオン性界面活性剤としては、グリコール系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤又はフッ素系界面活性剤が挙げられる。
【0032】
本分散液は、さらに、チキソ性付与剤、粘度調節剤、消泡剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、難燃剤等の添加剤を含有してもよい。
【0033】
本分散液におけるF粒子の含有量は、25質量%以上であるのが好ましく、30質量%以上であるのがより好ましい。F粒子の含有量は、75質量%以下であるのが好ましく、60質量%以下であるのがより好ましい。
本分散液の粘度は、1000mPa・s以下が好ましく、500mPa・s以下がより好ましい。本分散液の粘度は、10mPa・s以上が好ましく、20mPa・s以上がより好ましい。この場合、本分散液を透明基材のコーティング用として使用する際の取扱い性に優れると共に、それから形成される塗膜において、Fポリマーの物性が高度に発現しやすい。
本分散液のチキソ比は、1.0~3.0が好ましい。
【0034】
本分散液の固形分濃度は、20体積%以上が好ましく、40体積%以上がより好ましい。固形分濃度は、80体積%以下が好ましく、70体積%以下がより好ましい。なお、固形分とは本分散液から形成される塗膜において固形分を形成する物質の総量を意味する。具体的には、F粒子や、ポリマー系レベリング剤は固形分であり、本分散液が他の樹脂や無機フィラーを含む場合には、他の樹脂や無機フィラーも固形分であり、これらの成分の総体積濃度が本分散液における固形分濃度となる。
【0035】
本分散液は、F粒子と、上述したポリマー系レベリング剤と、水と、必要に応じて他の樹脂、他の無機フィラー、界面活性剤、添加剤等を混合することで得られる。混合の順には特に制限はなく、また混合の方法も一括混合でも複数回に分割して混合してもよい。
本分散液を得るための混合の装置としては、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサーおよびプラネタリーミキサー等のブレードを備えた撹拌装置、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミルおよびアジテーターミル等のメディアを備えた粉砕装置、マイクロフルイダイザー、ナノマイザー、アルティマイザー、超音波ホモジナイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー、薄膜旋回型高速ミキサー、自転公転撹拌機およびV型ミキサー等の他の機構を備えた分散装置が挙げられる。
【0036】
本分散液は、透明基材のコーティング用として好適に使用できる。換言すれば、本分散液は透明基材のコーティング剤でもある。
透明基材は、ガラス基材であるのが好ましく、ガラス容器であるのがより好ましい。中でも、医薬品を収容して保管する容器として好適に使用できる。かかる容器としては、バイアル、アンプル、ボトル、カートリッジ、シリンジ(外筒及びプランジャ)、ビーカー、シャーレ等が挙げられ、バイアル、アンプル、ボトル又はカートリッジからなる群より選択されるガラス容器であるのがより好ましい。
医薬品用であるガラス容器は、加水分解耐性に基づいて、米国薬局方、ヨーロッパ薬局方及び日本薬局方等の規制機関に記載されている医薬品用ガラスに係る基準を満たすガラスから形成するのが好ましい。
【0037】
ガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、アルカリアルミノケイ酸ガラス又はホウケイ酸ガラスが好ましく、アルカリアルミノケイ酸ガラス又はホウケイ酸ガラスがより好ましい。これらのガラスは線膨張率が低く、熱衝撃に強く、耐薬品性も優れるため好ましい。また、ガラスは、25×10-7~80×10-7/℃の線熱膨張係数を有するのが好ましい。
アルカリアルミノケイ酸ガラスは、一般に、NaO及び/又はKOとSiOとAlとを含有し、任意成分として少なくとも1種のアルカリ土類金属酸化物と少なくとも1種のアルカリ金属酸化物とを含有する。アルカリアルミノケイ酸ガラスは、ホウ素及びホウ素含有化合物を含有しないのが好ましい。
アルカリアルミノケイ酸ガラスは、SnO、ZrO、ZnO、TiO及びAsからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物を微量含有していてもよい。これらの成分は、清透剤及び/又は化学的耐久性向上剤として添加される。
ホウケイ酸ガラスの具体例としては、Corning(登録商標)Pyrex(登録商標)7740、7800及びWheaton 180、200、400、Schott Duran、Schott Fiolax、KIMAX(登録商標)N-51A、Gerrescheimer GX-51 Flint等が挙げられる。
ソーダ石灰ガラスの具体例としては、Wheaton 800、900が挙げられる。なお、ソーダ石灰ガラスとして、硫酸アンモニウム処理ソーダ石灰ガラスを使用してもよい。
【0038】
ガラス容器は、F層の形成に先立って、イオン交換強化、加熱強化、火炎研磨等の方法で強化して、機械的耐久性を向上させてもよい。例えばガラス容器のイオン交換強化として、ガラス容器を、100%のKNO溶融塩浴中に、450℃で8時間程度浸漬する態様が挙げられ、この場合のガラスは「イオン交換ガラス」とも称される。
なお、ガラス容器は、イオン交換可能なガラスとイオン交換不可なガラスとを含むガラス組成物からも形成でき、Schott Type 1Bアルミノケイ酸ガラスのようなType 1Bガラス組成物から形成してもよい。
また、ガラス容器の外側表面には、SnO、ZrO、ZnO、TiO、As等を含む被膜が形成されていてもよい。
ガラス容器の圧縮応力は、300MPa以上が好ましく、350MPa以上がより好ましい。ガラス容器の圧縮応力は、900MPa以下が好ましい。
ガラス容器の厚さ(肉厚)は、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。ガラス容器の厚さは、2mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。
【0039】
本発明は、本分散液を、透明基材の外側表面に付与し、加熱して、前記透明基材の前記外側表面に、Fポリマーを含むポリマー層(以下、「F層」とも記す。)を形成する、強化透明基材の製造方法(以下、「本法」とも記す。)を包含する。かかる強化透明基材はF層を有するため、比較的厚さが小さい、医薬品の収容用のガラス容器である強化透明基材であっても、耐久性、耐熱性、耐衝撃性、透明性及び低黄変性に優れる。
【0040】
本法においては、本分散液を、透明基材の外側表面に直接付与するのが好ましい。換言すれば、本法においては、本分散液を、透明基材の外側表面に付与し、加熱して、透明基材の外側表面にF層を直接形成するのが好ましい。この場合、上述した理由から、得られる強化透明基材の耐久性、耐熱性、耐衝撃性、透明性及び低黄変性が一層向上しやすい。
【0041】
透明基材としては上述したガラス基材が好ましく、バイアル、アンプル、ボトル又はカートリッジからなる群より選択されるガラス容器を好適に使用できる。
本分散液を透明基材の外側表面に付与する方法としては、ディップコーティング法、スプレー法(スプレーガンを使用したスプレー法)、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法等が挙げられる。中でも、透明基材の外側表面にF層をより簡便に形成し得る観点から、ディップコーティング法が好ましい。
【0042】
透明基材の外側表面に付与された本分散液を、加熱により水及び場合により含有する他の溶媒を予備的な加熱により除去(乾燥)して乾燥被膜を得る。水及び場合により含有する他の溶媒を除去する際は、空気や、窒素等の不活性ガスにより風乾してもよい。
次に、前記乾燥被膜を有する透明基材を加熱し、Fポリマーを焼成する。加熱は、Fポリマーの溶融温度以上の温度域にて行うのが好ましく、具体的には340~400℃で、0.1~30分間行うのが好ましい。
加熱装置としては、オーブン、通風乾燥炉が挙げられる。加熱装置における熱源は、熱風、熱板等の接触式の熱源であってもよく、赤外線等の非接触式の熱源であってもよい。
加熱は、大気圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。また、加熱における雰囲気は、空気雰囲気、不活性ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等)雰囲気のいずれであってもよい。
以上のようにして、透明基材の外側表面にF層を形成する。
【0043】
F層は、透明基材の外側表面へ、本分散液の付与及び乾燥の工程を1回のみ行って形成してもよく、2回以上行って形成してもよい。例えば、本分散液を透明基材の外側表面に付与し、乾燥して乾燥被膜を得、この乾燥被膜上にさらに本分散液を付与及び乾燥して厚膜の乾燥被膜を得、次いで加熱により乾燥被膜(Fポリマー)を焼成して、F層を形成してもよい。
【0044】
本発明はまた、本分散液によりコーティングされた、強化透明基材を包含する。かかる強化透明基材は、例えば本法により好適に製造できる。
強化透明基材は、好適には医薬品の収容用のガラス容器である。かかるガラス容器を、200℃以上かつFポリマーの溶融温度以下の温度の雰囲気、例えば250~300℃で0.5~12時間暴露するか、又は240~290nmの紫外線に積算照射量1~200mJ/cmの範囲で暴露して、滅菌処理されたガラス容器を得、次いで本容器内に医薬品を充填し、密封して、本容器に医薬品が収容された医薬品収容体を得ることができる。
収容される医薬品としては、疾病の診断、治療、処置又は予防に使用可能な化学物質自体、かかる化学物質を少なくとも1種含む組成物等が挙げられる。医薬品の形態は、液体、固体、ゲル、懸濁液、エマルション、粉末等のいずれの形態であってもよい。
【0045】
以上、本分散液、強化透明基材及び強化透明基材の製造方法について説明したが、本発明は、前述した実施形態の構成に限定されない。例えば、本分散液、強化透明基材及び強化透明基材の製造方法は、上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の構成と置換されていてもよい。
【実施例0046】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[Fポリマー]
F粒子1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、カルボニル基含有基を主鎖炭素数1×10個あたり1000個有するテトラフルオロエチレン系ポリマー(溶融温度:300℃)の粒子(D50:2.1μm)
[ポリマー系レベリング剤]
剤1:BYK-381(BYK社製、アクリル系ポリマーであるポリマー系レベリング剤、ラメラ長7.55mm、動的表面張力71.3mN/m、静的表面張力38.8mN/m)
なお、ラメラ長は、ポリマー系レベリング剤を50質量%含有するジプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液を用いて、上述した方法で測定した値である。
[ガラス容器]
ガラス容器1:ホウケイ酸ガラスからなるバイアル(厚さ:2mm)
【0047】
2.水性分散液の製造例
[例1]
ポットに、F粒子1と、剤1と水とを投入し、ジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットを転がし、F粒子1(40質量部)、剤1(2質量部)及び水(58質量部)を含む水性分散液1(粘度:30mPa・s、pH:8~9)を製造した。
[例2]
剤1を添加しなかった以外は例1と同様の操作を行い、F粒子1(40質量部)及び水(60質量部)を含む水性分散液2(粘度:20mPa・s、pH:9)を製造した。
【0048】
3.ガラス製強化容器の製造例
[例3]
ガラス容器1を水性分散液1に浸漬するディップコーティング法により、その外側表面に液状被膜を形成した。次いで、この液状被膜が形成されたガラス容器1を、120℃にて5分間、乾燥炉に通し、加熱により乾燥させて、乾燥被膜を得た。その後、窒素オーブン中で、乾燥被膜を380℃にて3分間、加熱した。これにより、ガラス容器1と、その外側表面にF粒子1の溶融焼成物を含むF層(厚さ:25μm)とを有するガラス製強化容器1を得た。
[例4]
水性分散液1に代えて水性分散液2を使用した以外は例3と同様の操作により、ガラス製強化容器2を得た。
【0049】
ガラス製強化容器1~2のF層に、短冊状の切れ目を入れ、短冊の長さ方向の一端から、引張り試験機を用いて、引張り速度50mm/分で90°剥離させた際の、最大荷重を剥離強度(N/cm)とした結果、いずれのガラス製強化容器の剥離強度も8N/cm以上であった。
また、ガラス製強化容器1~2をオーブン中で、260℃にて1時間加熱した。加熱後のガラス製強化容器1の容器側面部の波長255~355nmの光線透過率は90%以上であり、ガラス製強化容器1の容器上端の肩部分の黄変度は、ガラス製強化容器2のそれに比較して、著しく低下していた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の水性分散液は、耐久性、耐熱性、耐衝撃性、透明性及び低黄変性に優れる塗膜を形成できる。したがって、本発明の水性分散液はガラス基材等の透明基材のコーティング用途として有用であり、例えば耐衝撃性を備え、高温暴露や紫外線照射を伴う処理にも供し得る、透明性及び低黄変性に優れるバイアル、アンプル、ボトル又はカートリッジ等のガラス製強化容器を製造できる。