(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011480
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】水性インク組成物及びインクジェット用インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20250117BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20250117BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250117BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41J2/01 501
B41J2/14 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113621
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】合田 恵吾
(72)【発明者】
【氏名】鍋 卓哲
(72)【発明者】
【氏名】藤本 怜美
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056FC01
2C056HA20
2C057AF71
2C057AG05
2H186BA11
2H186DA12
2H186FB07
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB18
2H186FB21
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
2H186FB58
4J039BA21
4J039BC07
4J039BE01
4J039BE12
4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インクの吐出方向に向かって口径を小さくした段差部を備えたノズルを有するインクジェットヘッドにおいても、優れた吐出安定性と保存安定性を長期に亘り両立可能な水性インク組成物を提供すること。
【解決手段】インクの吐出方向に向かって口径を小さくした段差部を備えたノズルから吐出される水性インク組成物であって、顔料と、コロイダルシリカと、第1溶媒として、1,2-ヘキサンジオールを前記水性インク組成物の全量に対して0.5質量%超と、第2溶媒として、ハンセンの溶解度パラメーターの極性項が9以下でありかつ水素結合項が17以下のアルコールを前記水性インク組成物の全量に対して0.1質量%以上4.0質量%未満の範囲で含有する、水性インク組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクの吐出方向に向かって口径を小さくした段差部を備えたノズルから吐出される水性インク組成物であって、
顔料と、コロイダルシリカと、第1溶媒として、1,2-ヘキサンジオールを前記水性インク組成物の全量に対して0.5質量%超と、第2溶媒として、ハンセンの溶解度パラメーターの極性項が9以下でありかつ水素結合項が17以下のアルコールを前記水性インク組成物の全量に対して0.1質量%以上4.0質量%未満の範囲で含有する、水性インク組成物。
【請求項2】
さらに、バインダーを前記水性インク組成物の全量に対して0.5質量%以上含有する、請求項1に記載の水性インク組成物。
【請求項3】
前記顔料が、自己分散型顔料である、請求項1又は2に記載の水性インク組成物。
【請求項4】
さらに、HLB値が15以下である界面活性剤を含有する、請求項1又は2に記載の水性インク組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の水性インク組成物を含む、インクジェット用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インク組成物、及び該水性インク組成物を含むインクジェット用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて文字や画像を得る記録方式である。この方式は、使用する装置の騒音が小さく、操作性がよいという利点を有するのみならず、カラー化が容易である。そのため、近年、オフィスや家庭での出力機としてだけでなく、商業・産業用プリンターにおいてもインクジェット記録方式の適用拡大が進んでいる。
インクジェット記録方式用のインク(インクジェットインク)としては、溶剤インク、UVインク、水性インク等がある。中でも、環境面への対応等の点から水性インクの需要が高まっている(例えば特許文献1参照)。
一方、産業用プリンターに求められる、高速でかつ高画質な印刷を実現すべく、微小かつ高精細なインクジェットヘッドを容易に製造可能な、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)製造技術を適用したインクジェットヘッドの需要が拡大している。インクジェットヘッドには、吐出方式や被記録媒体等の種類に応じて、いくつかのタイプが存在する。そのため、インクジェット印刷インクとしては、使用するインク吐出ヘッドのタイプに適合した特性を備えたインクを選択し使用する必要がある。
特許文献2に開示される水系インクジェットインク組成物は、圧力室からノズルへ向けてインクが移動する部分から前記ノズルまでの間に段差を備えるインクジェットヘッドを用い、前記圧力室に充填したインクをノズルを介して吐出させて記録媒体へ付着させるインクジェット記録方法に好適とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011- 12226号公報
【特許文献2】特開2018-177899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に開示される、インクの吐出方向に向かって口径を小さくした段差部のあるノズルは、その構造上、段差部に気泡や比較的大きなサイズの顔料等の凝集物が堆積しやすい。そのため、吐出圧力がインク組成物に均等に伝わりにくくなり、インクの安定な吐出が困難となる問題を有する。特許文献2の水系インクジェットインク組成物は、分散剤樹脂により分散された顔料と、分散剤樹脂とのSP値の差が所定範囲である樹脂微粒子と、水と、特定の有機溶剤を所定量以下含み、含有される水の20質量%が蒸発した時の20℃における粘度上昇率が所定範囲内であることで、ノズルの目詰まり性が改善されることが示されるものの、インクの吐出安定性を維持し吐出ヨレ(印字ヨレ)の発生を抑制する観点からは、なお改善の余地がある。
【0005】
本発明の目的は、顔料の凝集が抑制されると共に気泡の発生を抑制でき、インクの吐出方向に向かって口径を小さくした段差部のあるノズルにおける段差部への堆積が少なく、インクジェット印刷法で印刷する際の吐出安定性に優れ、吐出ヨレ(印字ヨレ)の発生を抑制でき、また保存安定性に優れる水性インク組成物を提供することにある。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、コロイダルシリカと、複数の特定の溶媒を所定の範囲で含有する水性インク組成物により、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] インクの吐出方向に向かって口径を小さくした段差部を備えたノズルから吐出される水性インク組成物であって、
顔料と、コロイダルシリカと、第1溶媒として、1,2-ヘキサンジオールを前記水性インク組成物の全量に対して0.5質量%超と、第2溶媒として、ハンセンの溶解度パラメーターの極性項が9以下でありかつ水素結合項が17以下のアルコールを前記水性インク組成物の全量に対して0.1質量%以上4.0質量%未満の範囲で含有する、水性インク組成物。
[2] さらに、バインダーを前記水性インク組成物の全量に対して0.5質量%以上含有する、[1]に記載の水性インク組成物。
[3] 前記顔料が、自己分散型顔料である、[1]又は[2]に記載の水性インク組成物。
[4] さらに、HLB値が15以下である界面活性剤を含有する、[1]~[3]のいずれに記載の水性インク組成物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の水性インク組成物を含む、インクジェット用インク。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インクの吐出方向に向かって口径を小さくした段差部を備えたノズルを有するインクジェットヘッドにおいても、優れた吐出安定性と保存安定性を長期に亘り両立可能な水性インク組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】インクジェットヘッドの構造を模式的に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、インクの吐出方向に向かって口径を小さくした段差部を備えたノズルから吐出される水性インク組成物であって、顔料と、コロイダルシリカと、第1溶媒として、1,2-ヘキサンジオールを前記水性インク組成物の全量に対して0.5質量%超と、第2溶媒として、ハンセンの溶解度パラメーターの極性項が9以下でありかつ水素結合項が17以下のアルコールを前記水性インク組成物の全量に対して0.1質量%以上4.0質量%未満の範囲で含有する、水性インク組成物である。
本発明の水性インク組成物は、顔料の凝集が抑制されると共に気泡の発生を抑制できる。そのため、インクの吐出方向に向かって口径を小さくした段差部のあるノズルにおける段差部への堆積が少なく、インクジェット印刷法で印刷する際の吐出安定性及び保存安定性に優れ、これらを長期に亘り両立でき、吐出ヨレ(印字ヨレ)の発生を抑制できる。
以下、本発明の水性インク組成物の各構成成分について説明する。
【0010】
本発明の水性インク組成物では、顔料として、水性グラビアインク又は水性インクジェットインクにおいて通常用いられる有機顔料及び無機顔料を使用できる。顔料は、有機顔料及び無機顔料の一方又は両方を含んでいてよい。また、未酸性処理顔料、酸性処理顔料のいずれも使用できる。
無機顔料としては、例えば、酸化鉄や、コンタクト法、ファーネス法又はサーマル法等の方法で製造されたカーボンブラック等を使用できる。
有機顔料としては、例えばアゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等)、多環式顔料(フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料等)、レーキ顔料(塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用できる。
【0011】
ブラックインクに使用可能な顔料(ブラック顔料)としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6、7、8、10、26、27、28等が挙げられる。中でも、C.I.ピグメントブラック7が好ましい。
ブラック顔料の具体例としては、三菱化学株式会社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.960、No.980、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MA7、MA8、MA100等;コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等;キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等;デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180等が挙げられる。
【0012】
イエローインクに使用可能な顔料(イエロー顔料)の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。
【0013】
マゼンタインクに使用可能な顔料(マゼンタ顔料)の具体例としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、176、184、185、202、209、269、282等;C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0014】
シアンインクに使用可能な顔料(シアン顔料)の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、15:4、15:6、16、22、60、63、66等が挙げられる。中でも、C.I.ピグメントブルー15:3が好ましい。
【0015】
ホワイトインクに使用可能な顔料(ホワイト顔料)の具体例としては、アルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸塩、微粉ケイ酸、合成珪酸塩等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等が挙げられる。
【0016】
分散安定性に優れた水性インク組成物を得る観点から、顔料には、水及び水以外の溶媒成分中で安定して分散できる手段が講じられていることが好ましい。
【0017】
例えば、顔料の表面には、分散性付与基(親水性官能基及び/又はその塩)又は分散性付与基を有する活性種が、直接又はアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合(グラフト)されていてよい。このような自己分散型顔料は、例えば、真空プラズマ処理、次亜ハロゲン酸及び/又は次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、オゾンによる酸化処理等による方法や、水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法、p-アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシ基を結合させる方法等によって製造できる。
自己分散型顔料を用いる場合、後述する顔料分散樹脂が不要となることから、顔料分散樹脂に起因する発泡等を抑制でき、吐出安定性に優れた水性インク組成物が得られやすい。また、界面活性剤の使用量も少なくできる。さらに、顔料分散樹脂に起因する粘度上昇を抑制できるため顔料の含有量を高められ、印字濃度の高い印刷物を製造しやすくなる。
【0018】
自己分散型顔料として市販品を用いてもよい。工業的に製造され市販されている自己分散型顔料としては、例えばマイクロジェットCW-1、BONJET BLACK CW-1、BONJET BLACK CW-1S、BONJET BLACK CW-2、BONJET BLACK CW-3(以上商品名;オリヱント化学工業株式会社製)、CAB-O-JET200、CAB-O-JET300(以上商品名;キヤボット社製) 、SENSIJET Black SDP100、SENSIJET Black SDP1000、SENSIJET Black SDP2000(以上商品名:Sensient Technologies社製)等が挙げられる。
【0019】
顔料の安定的な分散手段として、顔料分散樹脂を顔料表面に吸着させ、立体障害または静電反発力により、顔料を水及び水以外の溶媒成分中に分散安定化させてもよい(樹脂分散顔料)。顔料分散樹脂は、後述するバインダーとは異なり、顔料の表面に吸着または前記顔料の表面の一部または全部を被覆した状態で存在する。顔料分散樹脂を使用する場合、顔料分散樹脂は本発明の水性インク組成物の固形分に相当する。
【0020】
顔料分散樹脂としては、例えばポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体などのスチレン-アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体の水性樹脂、及び前記水性樹脂の塩が挙げられる。
顔料分散樹脂としては市販品を使用でき、例えば味の素ファインテクノ社製の「アジスパー(登録商標)」PBシリーズ、ビックケミー社製の「DISPER(登録商標)BYK」シリーズ、BASF社製の「EFKA(登録商標)」シリーズ、日本ルーブリゾール社製の「SOLSPERSE(登録商標)」シリーズ、エボニック社製の「TEGO(登録商標)Dispers」シリーズ等が挙げられる。また、顔料分散樹脂として、WO2018/190139号においてポリマー(G)として例示された化合物を用いることもできる。これら顔料分散樹脂は、顔料分散後に架橋剤で架橋処理を施してもよい。
顔料分散樹脂を用いる場合、その量は、顔料に対して5~200質量%の範囲が好ましく、5~100質量%の範囲がより好ましく、20~60質量%の範囲がさらに好ましい。
【0021】
本発明の水性インク組成物における顔料の含有量は、充分な印字濃度を確保する観点から、水性インク組成物の全量に対して、2質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましい。顔料の含有量は、水性インク組成物の全量に対して、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。これらの観点から、顔料の含有量は、水性インク組成物の全量に対して、2~10質量%が好ましく、4~8質量%がより好ましい。
本発明の水性インク組成物においては、上記した自己分散型顔料、樹脂分散顔料のいずれも使用できる。中でも、自己分散型顔料を用いると、長期に亘る吐出安定性及び保存安定性の両立と、吐出ヨレ(印字ヨレ)発生の抑制という、本発明の効果をより奏することができる。
【0022】
本発明の水性インク組成物は、第1溶媒として1,2-ヘキサンジオールを、水性インク組成物の全量に対して0.5質量%超含有する。1,2-ヘキサンジオールの含有量は、水性インク組成物の全量に対して0.6~4.0質量%の範囲であるのが好ましく、0.8~2.5質量%の範囲がより好ましい。
【0023】
本発明の水性インク組成物は、第2溶媒として、ハンセンの溶解度パラメーター(HSP)の極性項(δP)が9以下であり、かつ水素結合項(δH)が17以下のアルコールを、水性インク組成物の全量に対して0.1質量%以上4.0質量%未満の範囲で含有する。第2溶媒の含有量は、水性インク組成物の全量に対して0.3~3.5質量%の範囲であるのがより好ましく、0.3~1.5質量%の範囲がさらに好ましい。
【0024】
本発明の水性インク組成物は、上記した特定の第1溶媒、及び特定の第2溶媒を上記範囲内で含有することで、顔料の凝集が抑制され、かつ顔料表面の濡れ性を高めて、顔料表面の気泡を減少することが可能となり、インク界面の形成が容易になると考えられる。そのため、インクの吐出方向に向かって口径を小さくした段差部のあるノズルの、段差部への顔料の凝集物や気泡の堆積が少なくなると考えられ、優れた吐出安定性を達成できたと推定される。
【0025】
ここで、ハンセン(Hansen)の溶解度パラメーターとは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメーター(SP値:δ)を、分散項δD、極性項δP、及び水素結合項δHの3成分に分割して3次元空間に表した、物質の極性を考慮したパラメーターであり、下記式の関係が成り立つ。
δ[(cal/cm3)0.5]=(δD
2+δP
2+δH
2)0.5
上記の分散項δD、極性項δP、及び水素結合項δHは、ハンセン及びその後の研究者によって多数求められており、例えばPolymer Handbook(4th edition)のVII-698~711に掲載されている。また、多くの溶媒や樹脂に関するHansenの溶解度パラメーターが調べられており、例えば、Industrial Solvents Handbook(Wesley L.Archer著)にこれらの溶解度パラメーターが記載されている。また、Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)のソフトウェアを用いて求めることもできる。
【0026】
第2溶媒のHSPの極性項は3以上9以下であるのが好ましく、4以上7以下であるのがより好ましい。また、第2溶媒のHSPの水素結合項は3以上16以下であるのが好ましく、4以上15以下であるのがさらに好ましい。第2溶媒のHSPの極性項及び水素結合項が共に前記した範囲を満足すると、第1溶媒との相互作用がより発揮されることで、本発明の水性インク組成物における顔料表面の濡れ性がより向上すると考えられ、分散安定性に優れ、また吐出安定性に優れる。
換言すれば、第1溶媒は気液界面の形成を容易にし、第2溶媒は顔料表面の濡れ性を向上させ、これらの第1溶媒と第2溶媒を組合わせることで、吐出を安定させる効果がより発揮される。
第2溶媒の大気圧下での沸点は、本発明の水性インク組成物の吐出安定性、及びインクジェットヘッドの吐出ノズルにおけるインクジェット用インクの乾燥を防止する観点から、150℃以上が好ましく、150℃~350℃の範囲がより好ましい。
第2溶媒の条件を満たすアルコールとしては、例えば3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(δP=6.3、δH=12.9、沸点174℃)、3-メトキシ-1-ブタノール(δP=5.4、δH=13.6、沸点158℃)等が挙げられる。
【0027】
本発明の水性インク組成物が含有する水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の、イオン性不純物等の不純物が極力除去された、純水又は超純水が好ましい。水は、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌されていてもよい。
水の含有量は、印刷後に被記録媒体の表面ですみやかに乾燥できる性質(乾燥性)及び吐出安定性の観点から、水性インク組成物の全量に対して30~90質量%の範囲であるのが好ましく、40~80質量%の範囲がより好ましい。
【0028】
本発明の水性インク組成物は、水、上記した第1溶媒及び第2溶媒以外の他の溶媒を含有してもよい。他の溶媒は、水、上記した第1溶媒及び第2溶媒と混和することが好ましい。他の溶媒は、本発明の水性インク組成物の粘度を調節する役割、インクジェット印刷法で印刷する際の吐出安定性を一層向上させる役割、インクジェットヘッドの吐出ノズルにおけるインクジェット用インクの乾燥を防止する役割、上記した乾燥性を調節する役割、等を有することができる。
【0029】
他の溶媒としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、グリセリン等が挙げられる。中でも、沸点が180~300℃の範囲の溶媒が好ましく、プロピレングリコール又はグリセリンがより好ましい。また、他の溶媒として、プロピレングリコール及びグリセリンを併用すると、水性インク組成物中での顔料の凝集や沈殿が起こりにくくなり、分散安定性を維持しつつ所望の粘度に調整でき、インクジェット印刷法で印刷する際の吐出安定性の向上、印刷後のインクの乾燥性の向上を図りやすい観点で好ましい。
他の溶媒の含有量は、水性インク組成物の全量に対して、0.1~35質量%の範囲が好ましく、15~35質量%の範囲がより好ましい。
【0030】
本発明の水性インク組成物はコロイダルシリカを含有する。コロイダルシリカは、平均粒子径が数100nm以下のケイ素を含む無機酸化物の微粒子からなるコロイドであり、コロイドシリカ、コロイド珪酸、シリカゾルとも称され、粒子分布が単分散であり安定性に優れる特性を有する。コロイダルシリカは、主成分として二酸化ケイ素(その水和物を含む)を含み、粒子の組成は不定でシロキサン結合(-Si-O-、-Si-O-Si-)を形成し、高分子化しているものもある。粒子表面は多孔性で、水中では一般的に負に帯電している。
コロイダルシリカは、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム等のアルミン酸塩を少量含んでいてもよい。また、コロイダルシリカは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等の無機塩類やテトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の有機塩類を含んでいてもよい。これらの無機塩類及び有機塩類は、例えばコロイドの安定化剤として作用する。
コロイダルシリカの分散媒には特に制限はなく、水、上記した他の溶媒又はこれらの混合物のいずれでもよい。
【0031】
コロイダルシリカの製造方法に特に制限はなく、四塩化ケイ素の熱分解によるアエロジル合成、水ガラスを原料とする製造方法、アルコキシドの加水分解による液相合成法(例えば、「繊維と工業」、Vol.60、No.7(2004)P376参照)等の、公知の製造方法により製造できる。
【0032】
コロイダルシリカに含まれる粒子の体積平均粒子径は、60~150nmの範囲であるのが好ましく、65~100nmの範囲がより好ましい。体積平均粒子径が前記した範囲内であると、水性インク組成物中の顔料同士の凝集を抑制し、分散安定性を高めて、吐出安定性を向上できる。また、インクジェットヘッドを構成する基材、保護膜、撥液膜等の各部材への水性インク組成物によるダメージ(侵食による形状変形等)を抑制できる。
コロイダルシリカの体積平均粒子径は、分散粒子の一般的な測定である動的光散乱法、レーザ回折法等により求められる。例えば動的光散乱法による場合、分散液であるコロイダルシリカを、レーザー散乱型粒径測定装置であるマイクロトラック社製のNanotrac Wave IIを用いて、ローディングインデックス値が1となるよう希釈倍率を調整し、測定時間180秒、繰返し測定回数3の測定条件により、コロイダルシリカの粒子の体積平均粒子径を測定できる。
コロイダルシリカの粒子形状は特に限定されず、球状、長尺の形状、針状、一次粒子が複数個連結した鎖状粒子、三次元網目構造を有する粒子等のいずれでもよい。本発明の水性インク組成物の吐出安定性をより向上できる観点からは、球状であることが好ましい。
【0033】
コロイダルシリカは、上記製造方法で製造されたものであっても、市販品であってもよい。市販品としては、日産化学工業社の「スノーテックス(登録商標)」シリーズ;Remet社の「Syton」シリーズ;Nalco Chem社の「Nalcoag-1060」、「Nalcoag-ID21~64」;扶桑化学工業製の「クォートロン(登録商標)」PLシリーズ;日揮触媒化成社製の「Cataloid(登録商標)」シリーズ;W.R.Grace社の「Ludox(登録商標)」シリーズ、ADEKA社の「アデライト」シリーズ等が挙げられる。
これらのコロイダルシリカは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
なお、市販のコロイダルシリカ分散液のpHは、コロイダルシリカの安定分散領域に調整されているものが多い。そのため、後述する本発明のインクジェット用インクのpHは、かかるコロイダルシリカの安定分散領域のpHを考慮して決定するのが好ましい。
【0034】
コロイダルシリカの含有量は、水性インク組成物の全量に対して、コロイダルシリカ中の固形分として0.1~5.0質量%の範囲であるのが好ましく、0.3~4.0質量%の範囲がより好ましい。コロイダルシリカの含有量が前記範囲内であると、水性インク組成物の吐出安定性が向上し、またノズルプレートやインク流路等のヘッド部材の侵食によるインクジェットヘッドの形状変形への影響を抑制できる。
【0035】
本発明の水性インク組成物は、さらにバインダーを含有していてもよく、バインダーを含有することが好ましい。
バインダーは、水性インク組成物中の顔料を被記録媒体に定着させることを目的に使用する。バインダーは、上述した顔料分散樹脂とは異なり、水性インク組成物中において顔料等の表面に吸着しておらず、顔料や顔料分散樹脂とは別に、水、上記した第1溶媒、第2溶媒及び他の溶媒中に分散して水性インク組成物中に存在する。
バインダーとしては、例えばポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、変性ポリオレフィン樹脂(酸変性ポリプロピレン等)、デキストラン、デキストリン、カラーギーナン(κ、ι、λ等)、寒天、プルラン、水溶性ポリビニルブチラール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
バインダーとして、例えば芳香族ビニル単量体由来の構造単位を有するガラス転移温度(Tg)が50~100℃のビニル重合体(A1)、又はTgが50℃~100℃のハロゲン化ビニル重合体(A2)である、ビニル重合体(A)を使用できる。
ビニル重合体(A1)としては、芳香族ビニル単量体由来の構造単位と、(メタ)アクリル単量体由来の構造単位を有する共重合体が挙げられる。芳香族ビニル単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン等が挙げられ、中でもスチレンが好ましい。(メタ)アクリル単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。ビニル重合体(A1)として、スチレン-アクリル樹脂が好ましい。
ビニル重合体(A1)の全量に対する、芳香族ビニル単量体由来の構造単位の含有量は、50~99質量%の範囲が好ましく、80~99質量%がより好ましい。また、ビニル重合体(A1)の全量に対する、(メタ)アクリル単量体由来の構造単位の含有量は、1~50質量%の範囲が好ましく、1~20質量%がより好ましい。
【0037】
ハロゲン化ビニル重合体(A2)としては、例えば塩化ビニルの(共)重合体、塩素化ポリオレフィン、塩化ゴムが挙げられ、塩化ビニル単量体由来の構造単位と(メタ)アクリル単量体由来の構造単位を有する塩化ビニル-アクリル重合体が好ましい。(メタ)アクリル単量体は上述したとおりである。
ハロゲン化ビニル重合体(A2)の全量に対する、塩化ビニル単量体由来の構造単位の含有量は、30~90質量%の範囲が好ましく、50~80質量%の範囲がより好ましい。また、ハロゲン化ビニル重合体(A2)の全量に対する、(メタ)アクリル単量体由来の構造単位の含有量は、10~70質量%の範囲が好ましく、20~50質量の範囲がより好ましい。
【0038】
ビニル重合体(A)は、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法等により製造できる。コアシェル構造を有するビニル重合体(A)がより好ましい。例えば、コア部に芳香族ビニル単量体由来の構造単位、又は塩化ビニル単量体由来の構造単位が局在化し、シェル部に(メタ)アクリル単量体由来の構造単位が局在化したコアシェル構造を有するビニル重合体が挙げられる。コアシェル構造を有するビニル重合体(A)は、例えば(メタ)アクリル単量体を含む単量体成分を重合してシェルを構成する重合体(x)を製造後、芳香族ビニル単量体等を反応容器に供給し前記重合体(x)の粒子内で重合させてコア部を形成して製造できる。
【0039】
ビニル重合体(A)として市販品を用いてもよい。例えば「JONCRYL PDX-7700」「JONCRYL PDX-7780」「JONCRYL 89-E」「JONCRYL 89J」(いずれも商品名(JONCRYLは登録商標である)、BASFジャパン社製);「ハイロスX BE7503」(星光PMC社製)、「ビニブラン745」「ビニブラン747」(日信化学工業社製)等が挙げられる。
【0040】
バインダーとしては、上記した中でも、スチレン-アクリル樹脂が、本発明の水性インク組成物の吐出安定性を向上でき、かつまた得られる印刷物の印字濃度や画像堅牢性を向上できる観点からより好ましい。
【0041】
バインダーの重量平均分子量(Mw)は、100000~1000000が好ましく、、300000~750000がより好ましい。なお、バインダーのMwは、ゲルパーミエ―ションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定した値である。詳細には、以下に記載する測定条件に従い、GPCに多角度光散乱検出器を接続したGPC-MALS法により求めた。
GPC本体:アジレント・テクノロジー社製「LC1100」シリーズ
カラム:昭和電工(株)製「SHODEX SB806MHQ」
溶離液:N/10硝酸ナトリウムを含むN/3リン酸緩衝液(pH3)
流速:1.0ml/分
検出器1:ワイアットテクノロジー社製、多角度光散乱検出器DAWN
検出器2:昭和電工(株)製、示差屈折率検出器RI-101
【0042】
バインダーの酸価は50mgKOH/g以下が好ましく、10~50mgKOH/gの範囲がより好ましく、10~30の範囲がさらに好ましい。
【0043】
バインダーの体積平均粒子径は100nm以下であるのが好ましく、40~60nmの範囲であるのがより好ましい。バインダーの体積平均粒子径が前記した範囲内であると、本発明の水性インク組成物の吐出安定性及び保存安定性を向上できる。
なお、バインダーの体積平均粒子径は、レーザー散乱型粒径測定装置であるマイクロトラック社製のNanotrac Wave IIを用いて、ローディングインデックス値が1となるよう希釈倍率を調整し、測定時間180秒、繰返し測定回数3の測定条件により測定できる。
【0044】
バインダーの含有量は、水性インク組成物の全量に対して0.5質量%以上であるのが好ましく、0.5~5.0質量%の範囲であるのがより好ましく、0.5~3.0質量%の範囲がさらに好ましい。バインダーの含有量が前記範囲であると、本発明の水性インク組成物の吐出安定性及び保存安定性が向上する。また、印刷物の画像堅牢性をより向上でき、印刷物に水を滴下した場合や水を含んだ布等でこすった場合も、水性インクが剥離せず耐水性に優れる傾向となる。
【0045】
本発明の水性インク組成物は界面活性剤をさらに含有していてもよい。界面活性剤を含有すると、インクジェットヘッドの吐出口から吐出された水性インク組成物が被印刷体に着弾後、表面で良好に濡れ広がりやすくなり、印刷不良の発生を防止しやすい。また、水性インク組成物の表面張力を低下させ、レベリング性を向上させやすい。
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられ、アニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤が好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩又はスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩又はスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸塩、リン酸塩又はアルキルリン酸塩等が挙げられる。
【0046】
ノニオン性界面活性剤としては、例えばグリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレンジオール系界面活性剤が挙げられる。
グリコール系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。
【0047】
シリコーン系界面活性剤としては、例えばポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えばビックケミー・ジャパン社製の「BYK(登録商標)」シリーズ、信越化学工業社製の「KF」シリーズ等が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、例えばパーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテル、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキシド等が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、例えばDIC社製の「メガファック(登録商標)」シリーズ、ネオス社製の「フタージェント(登録商標)」シリーズ、住友スリーエム社製の「ノベック(登録商標)」シリーズ;等が挙げられる。
【0048】
アセチレンジオール系界面活性剤は、分子中に炭素-炭素三重結合を有する界面活性剤であり、アセチレンジオール(同一分子内にアセチレン結合と2つの水酸基を有する)界面活性剤、アセチレンジオールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドが付加した界面活性剤が挙げられる。例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキシド付加物、2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。アセチレンジオール系界面活性剤の市販品としては、例えばエボニック社製又は日信化学工業社製の「サーフィノール(登録商標)」シリーズ、日信化学工業社製の「オルフィン(登録商標)」シリーズ;川研ファインケミカル社製の「アセチレノール(登録商標)」シリーズが挙げられる。
【0049】
上記した中でも、印刷不良の発生を防止しやすい観点から、本発明の水性インク組成物を構成する界面活性剤として、アセチレンジオール系界面活性剤がより好ましい。
また、本発明の水性インク組成物を構成する界面活性剤は、そのHLB値が15以下であるのが好ましく、10以下がより好ましい。界面活性剤のHLB値は、3以上が好ましく、3.5以上がより好ましい。界面活性剤のHLB値が前記した範囲内であると、顔料表面の濡れ性を高め、上述した第1溶媒及び第2溶媒の併用による効果をより発揮でき、分散安定性が向上して、本発明のインク組成物の吐出安定性及び保存安定性が一層向上する。本発明の水性インク組成物において、界面活性剤のHLB値は、3.5~10の範囲であるのがより好ましい。
ここで、界面活性剤の「HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値」は、Griffin法により、次の算出式(Griffin式)で定義される値である。
HLB値=20×[親水部の化学式量の総和]/分子量
界面活性剤を含有する場合、その含有量は、水性インク組成物の全量に対して、0.01~5質量%の範囲であるのが好ましく、0.1~2質量%の範囲がより好ましい。
界面活性剤は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0050】
本発明の水性インク組成物は、上述した成分以外に、必要に応じてpH調整剤、防腐剤、ポリオレフィンワックス、酸化防止剤、粘度調整剤、湿潤剤(乾燥抑止剤)、浸透剤、キレート化剤、可塑剤、紫外線吸収剤等のその他の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0051】
pH調整剤としては、例えばリン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
防腐剤としては、例えば安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2-ジベンジソチアゾリン-3-オン等が挙げられる。防腐剤として市販品を用いてもよく、例えば「ACTICIDE(登録商標)B20」(商品名、ソー・ジャパン社製)、「プロキセル(登録商標)GXL」(商品名、SCジョンソン社製)等が挙げられる。
ポリオレフィンワックスとしては、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン又はその誘導体から製造されるワックス又はコポリマーが挙げられ、例えばポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリブチレン系ワックス、これらの変性ワックス等が挙げられる。中でも、ポリエチレンワックスを酸化変性処理した、酸化ポリエチレンワックスが、印刷物の画像堅牢性を向上できる観点から好ましい。ポリオレフィンワックスとして市販品を用いてもよく、例えば「AQUACER(登録商標)」シリーズ(ビックケミー・ジャパン社製)等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。
その他の添加剤をさらに含有する場合、その量は水性インク組成物の全量に対して0.01~5質量%の範囲が好ましく、0.02~3質量%の範囲がより好ましい。
【0052】
本発明の水性インク組成物の調製方法には特に制限はなく、上述した成分を混合することで調製できる。上述した成分は、一括して混合してもよく、順次混合してもよい。例えば、バインダーは水又は他の溶媒に溶解又は分散させてから混合してよい。また、顔料は、顔料分散樹脂と共に水又は他の溶媒に分散させてから混合してもよい。混合に際しては、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等の分散機を使用できる。
【0053】
本発明はまた、本発明の水性インク組成物を含むインクジェット用インクである。
本発明の水性インク組成物を含むインクジェット用インクの25℃における粘度は、保存安定性や吐出安定性に優れ、かつ、インクジェット記録方式で使用した場合に、飛行曲がりによって発生する被記録媒体上の着弾位置のズレを軽減し、印刷物のスジ発生を抑制しやすい観点から、1mPa・s以上が好ましく、2mPa・s以上がより好ましい。かかる粘度は6mPa・s以下が好ましく、5mPa・s以下がより好ましい。
なお、インクジェット用インクの粘度は、例えば、E型粘度計に相当する円錐平板形(コーン・プレート形)回転粘度計を使用し、下記条件にて測定される値である。
測定装置:TVE-25形粘度計(東機産業社製、TVE-25L)
校正用標準液:JS20
測定温度:25℃
回転速度:10~100rpm
注入量:1200μL
【0054】
インクジェット用インクの25℃における表面張力は、20mN/m以上であるのが好ましく、25mN/m以上がより好ましい。かかる表面張力は、40mN/m以下であるのが好ましく、35mN/m以下がより好ましい。表面張力がこの範囲にあると、インクジェット記録方式で使用した場合に、吐出液滴の被記録媒体表面でのインクの濡れ性が良好となり、着弾後に充分な濡れ広がりを有する傾向となる。
【0055】
インクジェット用インクの25℃におけるpHは、インクの保存安定性及び吐出安定性を向上させ、被記録媒体に印刷した際の濡れ広がり、印字濃度、画像堅牢性を向上させる観点、またインクの塗布又は吐出装置を構成する部材(インク吐出口、インク流路等)の劣化を抑制する観点から、7.0~11.0であるのが好ましく、7.5~10.5であるのがより好ましい。
【0056】
本発明のインクジェット用インクを適用できるインクジェットヘッドについて、図を用いて説明する。
図1は、インクの吐出方向に向かって口径を小さくした段差部のあるノズルを有する、インクジェットヘッド2の構造を模式的に示す概略断面図である。なお、
図1では、便宜上、各部の寸法及びそれらの比率を誇張して示し、実際とは異なる場合がある。
図1において、矢印は、インクジェットヘッド2内におけるインクの移動方向を示す。インクジェットヘッド2は、圧力室21と、圧力室21に圧力を付与して、ノズル22からインク組成物を吐出させる圧電素子23とを備え、圧力室21において、ノズル22に連通する流出口24と対向する位置24r以外の場所に圧電素子23が配置されている。
圧力室21においてノズル22に連通する流出口24と対向する位置24rとは、ノズル22の直上を意味し、
図1において、仮に、ノズル口24aから図の上方に向けて線(
図1では破線で示す)を延長した場合に、延長線24b及び延長線24bで囲まれた中の領域を意味する。当該対向する位置24r以外の場所に圧電素子23が配置されているとは、この領域と対向する位置24rの少なくとも一部に、圧電素子23の少なくとも一部が位置しないことを意味する。
【0057】
圧力室21は、圧力室21へインクが供給される供給口25と、圧力室21の流出口24とを結ぶインク移動方向よりも延長方向において、インクが滞留する滞留部分26を有している。滞留部分26は、インクジェットヘッド2を量産する工程上形成される部分であり、滞留部分26のない圧力室21を備えたインクジェットヘッドを量産することは難しい。この滞留部分26ではインク組成物が澱みやすく、インク乾燥物(樹脂溶着物)も溜まりやすい。そして、気泡が集まって空間ができた時に、壁面にインク乾燥物が付着する。
【0058】
一方、ノズル22は、面方位(110)のシリコン単結晶からなるノズル形成板20に形成される。ノズル形成板20がシリコン結晶からなる場合、公知のエッチングプロセスによる高精度の加工によりノズル22を形成する場合が多い。そのため、シリコン結晶からなるノズル形成板20を用いると、パンチング等によってノズルを形成する場合よりも、ノズルをノズル密度300dpi以上の高密度に形成できる。なお、ノズル密度は、より好ましくは360dpi以上である。
その反面、エッチングによりノズルを形成すると、圧力室21からノズル口24aの間のインクが通過する流路に段差22aが形成されやすい。この段差22aは、シリコン層のエッチングにより形成されるため、段差22aを解消したノズル形成板20を形成することは難しい。段差22aは、圧力室21の流出口24からノズル口24aまでの間にあればよく、例えば、段差22aは、ノズル口24aから圧力室21に向かう方向の距離が20μm以上100μm以下の範囲内に形成される。つまり、
図1では、ノズル形成板20の厚み方向にノズル22の径が異なる箇所が形成されることで段差22aが形成されているが、段差22aは必ずしもノズル形成板20に形成されるとは限らず、圧力室21の内面に段差ができるように形成されてもよい。
このような段差22aを有するインクジェットヘッド2では、インクの初期充填やクリーニングの際に段差22aに気泡が付着して残ることがあり、気泡が記録中に段差22aから浮揚して圧力室21の上方に集まり、ここで気液界面が発生してインクが乾燥し、インクジェットヘッド2内、特に段差22aや滞留部分26にインク乾燥物(樹脂溶着物)が付着する。
本発明の水性インク組成物は保存安定性に優れるため、上記滞留部分26、及び段差22aを有している場合も、インクジェットヘッド2内のインク乾燥物の堆積を低減でき、また、吐出安定性に優れ、吐出ヨレ(印字ヨレ)の発生を抑制できる。
【0059】
以上、本発明の水性インク組成物及びインクジェット用インクについて説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明の水性インク組成物及びインクジェット用インクは、それぞれ、上述した実施形態の構成において、他の任意の構成を追加して有していてもよく、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてもよい。
【実施例0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例のみに限定されない。本実施例等で使用した化合物を以下に示す。
<溶媒>
〔第1溶媒〕
1,2HD:1,2-ヘキサンジオール
(δP=6.6、δH=17.1、沸点223℃)
〔第2溶媒〕
MMB:3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール
(δP=6.3、δH=12.9、沸点174℃)
3MB:3-メトキシ-1-ブタノール
(δP=5.4、δH=13.6、沸点158℃)
〔他の溶媒〕
1-Pr:1-プロパノール(δP=6.8、δH=17.4、沸点97℃)
Gly:グリセリン(δP=11.3、δH=27.2、沸点290℃)
PG:プロピレングリコール(δP=10.4、δH=21.3、沸点188℃)
【0061】
<コロイダルシリカ>
「Cataloid(登録商標)SI-80P」(体積平均粒子径80nm、40質量%分散液、日揮触媒社製)
<バインダー>
スチレン-アクリル樹脂(体積平均粒子径50nm、Mw500000、酸価20mgKOH/g、DIC社製)
<界面活性剤>
SF420:「サーフィノール420」(商品名、エボニック社製、HLB値=4)
SF465:「サーフィノール465」(商品名、エボニック社製、HLB値=10)
<pH調整剤>
TEA:トリエタノールアミン(日本触媒社製)
<防腐剤>
B20:「ACTICIDE B20」(商品名、ソー・ジャパン社製)
【0062】
<顔料分散体の調製>
<顔料分散体A(ブラック顔料)>
「SENSIJET Black SDP100」(製品名、Sensient Technologies社製、顔料濃度15質量%;自己分散型顔料)をそのまま用いた。
【0063】
<顔料分散体B(ブラック顔料)>
ブラック顔料として、三菱ケミカル株式会社製のカーボンブラック「#960」(商品名、C.I.ピグメントブラック7)を用意した。
このブラック顔料を150g、顔料分散樹脂(スチレン-アクリル酸共重合体)50g、プロピレングリコール75g、及び34質量%水酸化カリウム水溶液19.4gを、容量1Lのインテンシブミキサー(日本アイリッヒ株式会社製)に仕込み、ローター周速2.94m/s、パン周速1m/sで25分間混練した。続いて、前記インテンシブミキサーの容器内の混練物に、撹拌を継続しながらイオン交換水306gを徐々に加えた後、プロピレングリコール12g、及びイオン交換水137.5gをさらに加え混合して、顔料濃度20質量%の顔料分散体Bを調製した。
【0064】
<顔料分散体C(シアン顔料)>
シアン顔料として、DIC株式会社製の「FASTOGEN BLUE SBG-SD」(商品名、C.I.ピグメントブルー15:3)を用意した。ブラック顔料に代えて当該シアン顔料を用いたこと以外は、顔料分散体Bの調製と同様にして、顔料濃度20質量%の顔料分散体Cを調製した。
【0065】
1.水性インク組成物の調製
<実施例1~8、比較例1~5>
顔料分散体、第一溶媒、第二溶媒、他の溶媒、コロイダルシリカ、バインダー、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤及び蒸留水を、表1の配合割合となるように混合して撹拌し、水性インク組成物1~13を得た。
顔料分散体の含有量は、水性インク組成物の全量に対する顔料の濃度が6.0質量%に調整する上で必要な量を使用した。例えば、実施例1では、顔料分散体Aを40.0質量%使用することで、得られる水性インク組成物1の顔料濃度を6.0質量%とした。バインダーの含有量は、バインダーを構成する樹脂の含有量(固形分)が表1の値となるように調整した。コロイダルシリカの含有量は、コロイダルシリカそのものの含有量が表1の値となるように調整した。蒸留水は、水性インク組成物を構成する全成分の含有量合計が100質量%となるように加えた。
なお、上記含有量はいずれも水性インク組成物の全量基準である。
【0066】
2.水性インク組成物の評価
2-1.吐出ヨレ
各実施例及び比較例で得た水性インク組成物を用いて、インクジェットプリンター(エプソン社製、「PX-S270T」)、40℃、30%RHの雰囲気下で、写真用紙にベタパターンを100枚連続印刷して、最後にノズルチェックパターンを印刷した。印刷条件は画像解像度:600dpi×600dpi、印刷モードは印刷品質:標準、用紙としてビジネス普通紙を使用した。
得られたノズルチェックパターンを目視にて観察して印字ヨレの有無を確認し、以下の基準で吐出ヨレを評価した。
<評価基準>
○:印字ヨレが全くない
△:印字ヨレが全体の5%未満である
×:印字抜けがあるか、又は印字ヨレ箇所が全体の5%以上観察される
【0067】
2-2.保存安定性
各実施例及び比較例で得た水性インク組成物をプラスチックボトルに充填し、60℃の恒温槽で4週間静置して保管した。恒温槽に保管前の水性インク組成物の粘度(v0)及び4週間保管後の水性インク組成物の粘度(v1)をそれぞれ測定して変化率を算出し、水性インク組成物の保存安定性を以下の基準で評価した。なお、粘度の変化率は下式に従って算出した。
変化率(%)=100×(v1-v0)/v0
<評価基準>
○:変化率が±10%以内
△:変化率が±10%超~±20%以内
×:変化率が±20%超
【0068】
以上の結果を纏めて表1に示す。
【0069】
【0070】
上記の実施例のとおり、本発明の水性インク組成物は、優れた保存安定性と吐出安定性を両立できる。