(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011498
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】選択支援装置、選択支援方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B01D 15/00 20060101AFI20250117BHJP
G01N 30/00 20060101ALI20250117BHJP
G16C 10/00 20190101ALI20250117BHJP
G01N 1/10 20060101ALN20250117BHJP
【FI】
B01D15/00 Z
G01N30/00 Z
G16C10/00
G01N1/10 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113650
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100181618
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 良平
(72)【発明者】
【氏名】西原 泰孝
【テーマコード(参考)】
2G052
4D017
【Fターム(参考)】
2G052AD26
2G052ED07
2G052JA07
4D017BA04
4D017CA13
4D017CA14
4D017DA01
4D017EB10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】固相抽出法における固定相の効率的な選択を支援する。
【解決手段】選択支援装置10は、固相抽出法における固定相の選択を支援する。構造エネルギー計算部113は、中性分子と固定相分子との複合体の構造エネルギーである第1構造エネルギーと、イオン化分子と固定相分子との複合体の構造エネルギーである第2構造エネルギーとを、量子化学計算を用いて計算する。結合エネルギー計算部115は、第1構造エネルギーに基づいて中性分子と固定相分子との結合エネルギーである第1結合エネルギーを計算し、第2構造エネルギーに基づいてイオン化分子と固定相分子との結合エネルギーである第2結合エネルギーを計算する。出力部119は、結合エネルギー計算部115により計算された第1結合エネルギー及び第2結合エネルギーに基づいて推定された、吸着対象分子の吸着に適するpH領域を示す出力情報を出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固相抽出法における固定相の選択を支援する選択支援装置であって、
吸着対象分子である中性分子と、固定相分子と、の複合体の構造エネルギーである第1構造エネルギーと、
前記吸着対象分子がイオン化したイオン化分子と、前記固定相分子と、の複合体の構造エネルギーである第2構造エネルギーとを、量子化学計算を用いて計算する構造エネルギー計算部と、
前記構造エネルギー計算部により計算された前記第1構造エネルギーに基づいて、前記中性分子と前記固定相分子との結合エネルギーである第1結合エネルギーを計算し、前記構造エネルギー計算部により計算された前記第2構造エネルギーに基づいて、前記イオン化分子と前記固定相分子との結合エネルギーである第2結合エネルギーを計算する結合エネルギー計算部と、
前記結合エネルギー計算部により計算された前記第1結合エネルギー及び前記第2結合エネルギーに基づいて推定された、前記吸着対象分子の吸着に適するpH領域を示す出力情報を出力する出力部と、を備える、
選択支援装置。
【請求項2】
前記出力部は、
前記第1結合エネルギーが前記第2結合エネルギーよりも低い場合、前記pH領域が中性領域であることを示す前記出力情報を出力し、
前記第1結合エネルギーが前記第2結合エネルギーよりも高い場合、前記pH領域が酸性領域又はアルカリ性領域であることを示す前記出力情報を出力する、
請求項1に記載の選択支援装置。
【請求項3】
前記構造エネルギー計算部は、前記第1構造エネルギーと前記第2構造エネルギーとを計算する構造エネルギー計算処理を、複数の固定相分子のそれぞれに対して実行し、
前記結合エネルギー計算部は、前記第1結合エネルギーと前記第2結合エネルギーとを計算する結合エネルギー計算処理を、前記複数の固定相分子のそれぞれに対して実行し、
前記出力部は、前記結合エネルギー計算部により前記複数の固定相分子のそれぞれに対して計算された前記第1結合エネルギー及び前記第2結合エネルギーに基づいて推定された前記pH領域を示す前記出力情報を出力する、
請求項1又は2に記載の選択支援装置。
【請求項4】
前記複数の固定相分子のうちの第1の固定相分子は電気的に中性な分子であり、前記複数の固定相分子のうちの第2の固定相分子はイオン化した分子である、
請求項3に記載の選択支援装置。
【請求項5】
前記構造エネルギー計算部は、
前記中性分子の立体構造モデルと前記固定相分子の立体構造モデルとを組み合わせた前記複合体の立体構造モデルに対して構造最適化計算を実施することにより、前記第1構造エネルギーを計算し、
前記イオン化分子の立体構造モデルと前記固定相分子の立体構造モデルとを組み合わせた前記複合体の立体構造モデルに対して構造最適化計算を実施することにより、前記第2構造エネルギーを計算する、
請求項1又は2に記載の選択支援装置。
【請求項6】
固相抽出法における固定相の選択を支援する選択支援方法であって、
吸着対象分子である中性分子と、固定相分子と、の複合体の構造エネルギーである第1構造エネルギーと、
前記吸着対象分子がイオン化したイオン化分子と、前記固定相分子と、の複合体の構造エネルギーである第2構造エネルギーとを、量子化学計算を用いて計算し、
前記第1構造エネルギーに基づいて、前記中性分子と前記固定相分子との結合エネルギーである第1結合エネルギーを計算し、前記第2構造エネルギーに基づいて、前記イオン化分子と前記固定相分子との結合エネルギーである第2結合エネルギーを計算し、
前記第1結合エネルギー及び前記第2結合エネルギーに基づいて、前記吸着対象分子の吸着に適するpH領域を推定する、
選択支援方法。
【請求項7】
コンピュータを、
吸着対象分子である中性分子と、固定相分子と、の複合体の構造エネルギーである第1構造エネルギーと、
前記吸着対象分子がイオン化したイオン化分子と、前記固定相分子と、の複合体の構造エネルギーである第2構造エネルギーとを、量子化学計算を用いて計算する構造エネルギー計算部、
前記構造エネルギー計算部により計算された前記第1構造エネルギーに基づいて、前記中性分子と前記固定相分子との結合エネルギーである第1結合エネルギーを計算し、前記構造エネルギー計算部により計算された前記第2構造エネルギーに基づいて、前記イオン化分子と前記固定相分子との結合エネルギーである第2結合エネルギーを計算する結合エネルギー計算部、
前記結合エネルギー計算部により計算された前記第1結合エネルギー及び前記第2結合エネルギーに基づいて推定された、前記吸着対象分子の吸着に適するpH領域を示す出力情報を出力する出力部、として機能させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択支援装置、選択支援方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
溶液や懸濁液等の各種試料に含まれる特定の物質を分離する技術が知られている。例えば、特許文献1は、溶媒抽出法において、目的とする被抽出物を抽出するために最適な抽出剤を効率的に選択できる抽出剤の選択方法を開示している。
【0003】
溶液や懸濁液等の各種試料に含まれる特定の物質を分離する方法の1つとして、固相抽出法(SPE:Solid Phase Extraction)が知られている。固相抽出法は、化学分析の前処理として物質の分離又は濃縮に用いられる。固相抽出法では、移動相と呼ばれる溶液や懸濁液等に含まれる溶質が、固定相と呼ばれる固体の中を流れる間に、各物質間の親和性に応じた吸着の有無を利用して目的物質を抽出する。
【0004】
物質間の親和性に関連するメカニズムとして、(1)疎水性相互作用(逆相系)と、(2)極性相互作用(順相系)と、(3)イオン交換と、の3つのメカニズムが知られている。これらのうちのいずれかのメカニズムで、固相(固定相)に対する目的物質又は不純物の吸着が起こる。
【0005】
固相抽出法は、固相(固定相)に不純物を吸着させる通過型と、固相に目的物質を吸着させる保持型と、に分類される。通過型では、固相に不純物を吸着させた後、目的物質を含む流出液を以降の分析に使用する。逆に、保持型では、固相に目的物質を吸着させた後、別の移動相を流して目的物質を溶出し、これを以降の分析に用いる。よって、物質間の親和性を予測できれば、固相に対する目的物質又は不純物の吸着を促進することにつながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
固相抽出法において、目的物質を効率良く抽出するために、目的物質に対する適切な固定相を選択することが必要になる。吸着対象分子の吸着メカニズムがイオン交換となる場合、その抽出効率は、一般にpHに依存する。そのため、目的物質に対する適切な固定相を選択するための指標の1つとして、吸着対象分子の吸着に適するpH領域を推定することが重要となる。pH領域を実験的に探索するには、時間とコストがかかるため、吸着対象分子の吸着に適するpH領域を効率的に推定できるようにすることが求められている。
【0008】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、固相抽出法における固定相の効率的な選択を支援することが可能な選択支援装置等を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するため、本発明に係る選択支援装置は、
固相抽出法における固定相の選択を支援する選択支援装置であって、
吸着対象分子である中性分子と、固定相分子と、の複合体の構造エネルギーである第1構造エネルギーと、前記吸着対象分子がイオン化したイオン化分子と、前記固定相分子と、の複合体の構造エネルギーである第2構造エネルギーとを、量子化学計算を用いて計算する構造エネルギー計算部と、
前記構造エネルギー計算部により計算された前記第1構造エネルギーに基づいて、前記中性分子と前記固定相分子との結合エネルギーである第1結合エネルギーを計算し、前記構造エネルギー計算部により計算された前記第2構造エネルギーに基づいて、前記イオン化分子と前記固定相分子との結合エネルギーである第2結合エネルギーを計算する結合エネルギー計算部と、
前記結合エネルギー計算部により計算された前記第1結合エネルギー及び前記第2結合エネルギーに基づいて推定された、前記吸着対象分子の吸着に適するpH領域を示す出力情報を出力する出力部と、を備える。
【0010】
(2)上記(1)に記載の選択支援装置において、
前記出力部は、
前記第1結合エネルギーが前記第2結合エネルギーよりも低い場合、前記pH領域が中性領域であることを示す前記出力情報を出力し、
前記第1結合エネルギーが前記第2結合エネルギーよりも高い場合、前記pH領域が酸性領域又はアルカリ性領域であることを示す前記出力情報を出力しても良い。
【0011】
(3)上記(1)又は(2)に記載の選択支援装置において、
前記構造エネルギー計算部は、前記第1構造エネルギーと前記第2構造エネルギーとを計算する構造エネルギー計算処理を、複数の固定相分子のそれぞれに対して実行し、
前記結合エネルギー計算部は、前記第1結合エネルギーと前記第2結合エネルギーとを計算する結合エネルギー計算処理を、前記複数の固定相分子のそれぞれに対して実行し、
前記出力部は、前記結合エネルギー計算部により前記複数の固定相分子のそれぞれに対して計算された前記第1結合エネルギー及び前記第2結合エネルギーに基づいて推定された前記pH領域を示す前記出力情報を出力しても良い。
【0012】
(4)上記(3)に記載の選択支援装置において、
前記複数の固定相分子のうちの第1の固定相分子は電気的に中性な分子であり、前記複数の固定相分子のうちの第2の固定相分子はイオン化した分子であっても良い。
【0013】
(5)上記(1)から(4)のいずれかに記載の選択支援装置において、
前記構造エネルギー計算部は、
前記中性分子の立体構造モデルと前記固定相分子の立体構造モデルとを組み合わせた前記複合体の立体構造モデルに対して構造最適化計算を実施することにより、前記第1構造エネルギーを計算し、
前記イオン化分子の立体構造モデルと前記固定相分子の立体構造モデルとを組み合わせた前記複合体の立体構造モデルに対して構造最適化計算を実施することにより、前記第2構造エネルギーを計算しても良い。
【0014】
(6)上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係る選択支援方法は、
固相抽出法における固定相の選択を支援する選択支援方法であって、
吸着対象分子である中性分子と、固定相分子と、の複合体の構造エネルギーである第1構造エネルギーと、前記吸着対象分子がイオン化したイオン化分子と、前記固定相分子と、の複合体の構造エネルギーである第2構造エネルギーとを、量子化学計算を用いて計算し、
前記第1構造エネルギーに基づいて、前記中性分子と前記固定相分子との結合エネルギーである第1結合エネルギーを計算し、前記第2構造エネルギーに基づいて、前記イオン化分子と前記固定相分子との結合エネルギーである第2結合エネルギーを計算し、
前記第1結合エネルギー及び前記第2結合エネルギーに基づいて、前記吸着対象分子の吸着に適するpH領域を推定する。
【0015】
(7)上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
吸着対象分子である中性分子と、固定相分子と、の複合体の構造エネルギーである第1構造エネルギーと、前記吸着対象分子がイオン化したイオン化分子と、前記固定相分子と、の複合体の構造エネルギーである第2構造エネルギーとを、量子化学計算を用いて計算する構造エネルギー計算部、
前記構造エネルギー計算部により計算された前記第1構造エネルギーに基づいて、前記中性分子と前記固定相分子との結合エネルギーである第1結合エネルギーを計算し、前記構造エネルギー計算部により計算された前記第2構造エネルギーに基づいて、前記イオン化分子と前記固定相分子との結合エネルギーである第2結合エネルギーを計算する結合エネルギー計算部、
前記結合エネルギー計算部により計算された前記第1結合エネルギー及び前記第2結合エネルギーに基づいて推定された、前記吸着対象分子の吸着に適するpH領域を示す出力情報を出力する出力部、として機能させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、固相抽出法における固定相の効率的な選択を支援することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態1に係る選択支援装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態1に係る選択支援装置の入力画面の例を示す図である。
【
図3】(a)、(b)は、実施形態1に係る吸着対象分子の立体構造モデルの例を示す図である。(c)、(d)は、それぞれ、実施形態1に係る固定相分子の立体構造モデルの例を示す図である。
【
図4】(a)~(c)は、それぞれ、実施形態1に係る複合体の立体構造モデルの例を示す図である。
【
図5】実施形態1において、構造エネルギーと結合エネルギーと関係を示す図である。
【
図6】実施形態1において、結合エネルギーの計算例を示す図である。
【
図7】実施形態1に係る選択支援装置の出力画面の例を示す図である。
【
図8】実施形態1に係る選択支援装置により実行される選択支援処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】実施形態1に係る選択支援装置により実行される結合エネルギー計算処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】実施形態2に係る選択支援システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付す。
【0019】
(実施形態1)
図1に、実施形態1に係る選択支援装置10の構成を示す。選択支援装置10は、固相抽出法(SPE:Solid Phase Extraction)において、目的物質に対する適切な固定相の選択を支援する装置である。
【0020】
より具体的には、選択支援装置10は、吸着対象分子と固定相分子との結合エネルギーを量子化学計算により計算し、吸着対象分子の吸着に適したpH領域を推定してユーザに提示する。これにより、ユーザは、目的物質を抽出するのに適するpHの目安を得ることができるようになる。
【0021】
ここで、吸着対象分子は、固相抽出法において、固相(固定相)に吸着させる対象となる分子である。通過型の固相抽出法では、固定相に不純物を吸着させるため、吸着対象分子は、不純物を構成する分子に相当する。これに対して、保持型の固相抽出法では、固定相に目的物質を吸着させるため、吸着対象分子は、目的物質を構成する分子に相当する。固定相分子は、固定相を構成する分子である。固定相は、抽出剤、吸着剤、分離剤等とも呼ばれ、移動相に含まれる吸着対象分子を吸着して固定させるための、カラム内に充填される相である。
【0022】
選択支援装置10は、例えば、パーソナルコンピュータ、タブレット端末、クラウドサーバ等のような情報処理装置である。選択支援装置10は、制御部11と、記憶部12と、操作部13と、表示部14と、通信部15と、を備える。
【0023】
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)を備える。CPUは、マイクロプロセッサ等を備えており、様々な処理や演算を実行する中央演算処理部であって、プロセッサと呼ぶこともできる。制御部11において、CPUが、ROMに記憶されている制御プログラムを読み出して、RAMをワークメモリとして用いながら、選択支援装置10全体の動作を制御する。
【0024】
記憶部12は、フラッシュメモリ、ハードディスク等の不揮発性メモリを備えており、いわゆる二次記憶装置又は補助記憶装置としての役割を担う。記憶部12は、制御部11が各種処理を行うために使用するプログラム及びデータを記憶する。また、記憶部12は、制御部11が各種処理を行うことにより生成又は取得するデータを記憶する。
【0025】
操作部13は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパッド、タッチパネル等の入力装置を備えており、ユーザからの操作入力を受け付ける。
【0026】
表示部14は、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の表示装置を備えており、制御部11による制御のもとで様々な画像を表示する。
【0027】
通信部15は、選択支援装置10の外部の機器と通信するための通信インタフェースを備える。例えば、通信部15は、LAN(Local Area Network)、USB(Universal Serial Bus)等の周知の通信規格に則って、外部の機器と通信する。例えば、通信部15は、インターネット等の広域通信網である通信ネットワークNに接続し、通信ネットワークNを介して外部の機器と通信する。
【0028】
制御部11は、機能的に、入力受付部111と、構造エネルギー計算部113と、結合エネルギー計算部115と、推定部118と、出力部119と、を備える。制御部11において、CPUは、ROMに記憶されたプログラムをRAMに読み出して、そのプログラムを実行して制御することにより、これら各部として機能する。
【0029】
入力受付部111は、吸着対象分子及び固定相分子の入力を受け付ける。入力受付部111は、例えば
図2に示す入力画面を表示部14に表示する。ユーザは、操作部13を操作して、表示部14に表示された入力画面に対して、所望の吸着対象分子と、その吸着対象分子の吸着に適した固定相分子の候補となる固定相分子と、を入力する。
【0030】
図2では、吸着対象分子として「NH
2-C
6H
5(アニリン)」と「NH
3
+-C
6H
5(アニリニウムイオン)」を入力し、固定相分子として「SI(シラノール)」と「PRS(スルホニルプロピルシリカゲル)」を入力した例を示している。これら各分子の分子構造の概略を、以下に示す。
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
なお、吸着対象分子及び固定相分子としてユーザが選択可能な複数の分子の情報が、記憶部12に予め用意されており、ユーザは、予め用意された複数の分子のうちから、吸着対象分子及び固定相分子を選択しても良い。入力受付部111は、このようにしてユーザから入力された吸着対象分子及び固定相分子を受け付けて、計算対象とする吸着対象分子及び固定相分子の分子式を決定する。
【0036】
第1の吸着対象分子である「アニリン(NH2-C6H5)」は、電気的に中性な分子である。第2の吸着対象分子である「アニリニウムイオン(NH3
+-C6H5)」は、アニリンがイオン化した分子である。アニリンは「中性分子」の一例であり、アニリニウムイオンは「イオン化分子」の一例である。第1の固定相分子である「SI」は、電気的に中性な分子である。第2の固定相分子である「PRS」は、イオン化した分子である。アニリニウムイオン及びPRSは、酸性領域において主に存在するイオン分子である。
【0037】
図1に戻って、構造エネルギー計算部113は、複数の吸着対象分子(中性分子とイオン化分子)のそれぞれの構造エネルギーと、複数の固定相分子のそれぞれの構造エネルギーとを、量子化学計算を用いて計算する。量子化学計算は、シュレディンガー方程式等を原子又は分子に対して適用することで、計算によって原子又は分子の構造、性質等を解析する手法である。量子化学計算と類似の手法として、例えば、第一原理計算等が挙げられる。
【0038】
分子のエネルギーは、分子が有するエネルギーである。より詳細に量子力学の観点では、原子核の運動エネルギー、電子の運動エネルギー、原子核-電子間の相互作用エネルギー、電子-電子間の相互作用エネルギー、原子核-原子核間の相互作用エネルギーの和で表され、量子化学計算で算出可能である。原子核の運動エネルギー以外は分子の構造に関係するエネルギー(分子の構造エネルギー)であり、分子が分子内(近接分子が存在する場合は分子間)に有するエネルギーである。古典力学的かつ分子構造的に解釈すると、共有結合で結ばれた2原子間エネルギー(Bond項)、共有結合で結ばれた3原子間のエネルギー(Angle項)、共有結合で結ばれた4原子間のエネルギー(Dihedral-Angle項)、静電相互作用エネルギー(Coulomb項)、分子間相互作用エネルギー(van der Waals項)の和で表され、原子核の位置を変数とした原子・分子固有の係数をもつ初等関数の和(ポテンシャル関数)で近似される。分子の構造エネルギーは、分子が分子内、もしくは、分子間に構造的に有するエネルギーである。構造エネルギーは、このような分子内、もしくは、分子間に存在するエネルギーを総合的に表現するものであって、例えば、量子力学的には分子内の量子状態を表すシュレディンガー方程式を解くことにより、古典力学的にはポテンシャル関数を用いることにより計算することができる。前者は量子化学計算、後者は分子力学法(分子力学計算)、もしくは、分子動力学法(分子動力学計算)と呼ばれる。
【0039】
構造エネルギーを計算するために、構造エネルギー計算部113は、まず、複数の吸着対象分子及び複数の固定相分子のそれぞれの単一分子での立体構造モデルを作成する。ここで、分子の立体構造モデルは、その分子を構成する複数の原子の立体的な配置を表すモデルであって、その分子の構造エネルギーを計算するための計算系として用いられる。構造エネルギー計算部113は、複数の吸着対象分子及び複数の固定相分子のそれぞれの立体構造モデルとして、後述する構造最適化計算が実施される前における各原子の初期配置を表す初期構造モデルを作成する。
【0040】
図3(a)及び
図3(b)に、それぞれ吸着対象分子の例である「アニリン(NH
2-C
6H
5)」及び「アニリニウムイオン(NH
3
+-C
6H
5)」の立体構造モデルを示す。また、
図3(c)及び
図3(d)に、それぞれ、固定相分子の例である「SI」及び「PRS」の立体構造モデルを示す。これらの立体構造モデルにおいて、XYZ座標系で表される3次元の仮想空間において、分子を構成する複数の原子のそれぞれを球で表し、原子間の結合を線で表している。なお、
図3に示した立体構造モデルにおける各原子の大きさ、原子間の距離、及び、原子間の相対的な位置関係は、実際のものとは同じとは限らない。
【0041】
立体構造モデルを作成すると、構造エネルギー計算部113は、次に、構造最適化計算を実施する。第1に、構造エネルギー計算部113は、複数の吸着対象分子のそれぞれの立体構造モデルに対して構造最適化計算を実施することにより、複数の吸着対象分子のそれぞれの構造エネルギーを計算する。第2に、構造エネルギー計算部113は、複数の固定相分子のそれぞれの立体構造モデルに対して構造最適化計算を実施することにより、複数の固定相分子のそれぞれの構造エネルギーを計算する。
【0042】
ここで、構造最適化計算は、分子構造計算により化学的に安定な分子の配座を求めることを意味する。分子内に生じる分子の構造エネルギーの大きさは、分子を構成する複数の原子の位置関係により変化する。より詳細には、2つの原子の間の結合長、3つの原子の間の結合角、4つ以上の原子の間のねじれ具合等によって原子同士の距離が変化するため、それに伴い分子の構造エネルギーも変化する。構造最適化計算は、このような構造エネルギーがエネルギー曲面において勾配が0になる、すなわち極小になる位置関係を探索することに相当する。構造エネルギーが極小となる位置関係に各原子が配置された構造を最適化構造と呼ぶ。
【0043】
以下、構造最適化計算を具体的に説明する。構造エネルギー計算部113は、まず、初期構造モデルにおいて、分子を構成する各原子に働く力を計算し、その力の方向に各原子を少し動かす。すると、エネルギーが少し下がり、各原子に働く力も少し小さくなる。そして、更にその力の方向に各原子を動かすと、最適化構造を超えて逆向きの力が働くことも起こる。このような力の方向に各原子を動かすステップを繰り返すと、少しずつ力の大きさが小さくなっていき、最終的に全ての原子に働く力が0となる。この時の構造が最適化構造となる。構造エネルギー計算部113は、このような最適化構造におけるエネルギーを、構造エネルギーとして導出する。
【0044】
構造エネルギー計算部113は、構造最適化計算により構造エネルギーを計算する方法として、例えば、Hartree-Fock法、Meller-Plessetの摂動法、配置間相互作用法、結合クラスター法等の非経験的分子軌道法、MNDO、AM1、PM6等の半経験的分子軌道法、又は、密度汎関数法を用いることができる。また、構造エネルギー計算部113は、構造最適化計算により構造エネルギーを計算するためのソフトウェアとして、例えば、Gaussian、GAMESS、Molpro、VASP、WIEN2k、OpenMX等の既存のプログラム、又は、自作のプログラムを用いることができる。
【0045】
構造エネルギー計算部113は、このような立体構造モデルを作成する処理と、作成した立体構造モデルに対して構造最適化計算を実施する処理とを、入力受付部111により入力を受け付けた複数の吸着対象分子及び複数の固定相分子のそれぞれに対して実行する。これにより、構造エネルギー計算部113は、入力受付部111により入力を受け付けた複数の吸着対象分子及び複数の固定相分子のそれぞれに対して、最適化された構造エネルギーを計算する。
【0046】
複数の吸着対象分子及び複数の固定相分子のそれぞれの単一分子での構造エネルギーを計算すると、次に、構造エネルギー計算部113は、吸着対象分子と固定相分子との複合体の構造エネルギーを計算する。ここで、複合体は、2つ以上の分子が複合した系であって、吸着対象分子と固定相分子とが組み合わされた系である。複合体は、吸着対象分子と固定相分子との距離が互いに分子間相互作用を及ぼす程度にまで近づき、固定相分子が吸着対象分子を吸着することにより形成される。
【0047】
構造エネルギー計算部113は、1つの吸着対象分子と1つの固定相分子との複合体の構造エネルギーを計算する構造エネルギー計算処理を、入力受付部111により入力を受け付けた複数の吸着対象分子及び複数の固定相分子のうちから組み合わせ可能な、1つの吸着対象分子と1つの固定相分子の複数通りの組み合わせのそれぞれに対して実行する。これにより、構造エネルギー計算部113は、複数の吸着対象分子と複数の固定相分子とのうちから組み合わせ可能な複数の複合体のそれぞれの構造エネルギーを計算する。
【0048】
例えば、上記の例のように入力受付部111が2つの吸着対象分子(アニリン及びアニリニウムイオン)と2つの固定相分子(SI及びPRS)の入力を受け付けた場合、構造エネルギー計算部113は、2×2の4通りの組み合わせの複合体のそれぞれに対して、構造エネルギー計算処理を実行する。言い換えると、構造エネルギー計算部113は、中性分子(例えばアニリン)と固定相分子との複合体の構造エネルギーである第1構造エネルギーと、イオン化分子(例えばアニリニウムイオン)と固定相分子との複合体の構造エネルギーである第2構造エネルギーと、を計算する構造エネルギー計算処理を、複数の固定相分子(例えばSI及びPRS)のそれぞれに対して実行する。一般に、入力受付部111がM個の吸着対象分子とN個の固定相分子の入力を受け付けた場合、構造エネルギー計算部113は、M×N通りの組み合わせの複合体のそれぞれに対して、構造エネルギー計算処理を実行する。
【0049】
複合体の構造エネルギーを計算するために、構造エネルギー計算部113は、まず、複合体の立体構造モデルを作成する。ここで、複合体の立体構造モデルは、複合体を構成する複数の分子及び複数の原子の立体的な配置を表すモデルであって、複合体の構造エネルギーを計算するための計算系として用いられる。構造エネルギー計算部113は、複合体の立体構造モデルとして、後述する構造最適化計算が実施される前における各原子の初期配置を表す初期構造モデルを作成する。
【0050】
より詳細には、構造エネルギー計算部113は、1つの吸着対象分子(中性分子又はイオン化分子)の立体構造モデルと1つの固定相分子の立体構造モデルとを組み合わせることで、複合体の初期構造モデルを作成する。その際、構造エネルギー計算部113は、1つの吸着対象分子の立体構造モデルと1つの固定相分子の立体構造モデルとして、構造エネルギー計算部113により構造最適化計算が実施された後の立体構造モデルを用いる。
【0051】
図4(a)~(c)に、「アニリン」と「SI」との複合体の立体構造モデルを示す。ここで、複合体を構成する吸着対象分子と固定相分子とは、立体的に様々な位置関係で配置され得る。そのため、
図4(a)~(c)では、吸着対象分子と固定相分子とが互いに異なる相対的な位置関係で配置された3つの例を示している。なお、
図4(a)~(c)の配置は例示であって、実際の配置とは同じとは限らない。
【0052】
構造エネルギー計算部113は、「アニリン」と「SI」との複合体について、
図4(a)~(c)に示すような、吸着対象分子と固定相分子との相対的な位置関係が異なる複数通りの立体構造モデルを作成する。また、構造エネルギー計算部113は、「アニリン」と「PRS」との複合体、「アニリニウムイオン」と「SI」との複合体、及び、「アニリニウムイオン」と「PRS」との複合体についても同様に、吸着対象分子と固定相分子との相対的な位置関係が異なる複数通りの立体構造モデルを作成する。ここで、複数通りの数は、どのような数であっても良いが、以下では10通りである場合を例として説明する。このように、構造エネルギー計算部113は、複数の固定相分子のそれぞれに対して、吸着対象分子との相対的な位置関係が異なる複数通りの立体構造モデルを作成する。
【0053】
より詳細には、構造エネルギー計算部113は、構造エネルギー計算処理において、分子力学法に基づいて複合体の立体構造モデルにおける1つの吸着対象分子と1つの固定相分子との相対的な位置関係を決定する。分子力学法は、分子の立体配座の安定性及び立体配座間のエネルギー差を原子間に働く力によるポテンシャルエネルギーの総和によって計算する手法である。
【0054】
具体的に説明すると、構造エネルギー計算部113は、分子力学法を用いて、複合体を構成する2つの分子が化学的に安定する位置関係の複数の候補を、ある程度の精度で決定する。そして、構造エネルギー計算部113は、決定した複数の候補のそれぞれの位置関係で吸着対象分子と固定相分子とを配置することで、
図4(a)~(c)に示したような、1つの複合体に対して複数通りの立体構造モデルを作成する。このように吸着対象分子と固定相分子との位置関係を分子力学法によりある程度の精度で決定することで、2つの分子をランダムで配置するよりも、後述する構造最適化計算に要する時間を削減することができる。
【0055】
複合体の立体構造モデルを作成すると、構造エネルギー計算部113は、次に、構造最適化計算を実施する。構造エネルギー計算部113は、分子力学法に基づいて決定された位置関係で1つの吸着対象分子と1つの固定相分子とが配置された複合体の立体構造モデルに対して構造最適化計算を実施することにより、複合体の構造エネルギーを計算する。
【0056】
複合体に対して実施される構造最適化計算は、個々の吸着対象分子及び個々の固定相分子に対して実施したものと同様である。但し、単一分子に対して実施される構造最適化計算では、上述したように、1つの分子内に生じる構造エネルギーが極小となる位置関係を探索する。これに対して、複合体に対して実施される構造最適化計算では、個々の分子内に生じる構造エネルギーに加えて、複合体を構成する2つの分子間に生じる相互作用も考慮して、複合体全体の構造エネルギーが極小となる位置関係を探索する。
【0057】
具体的に説明すると、構造エネルギー計算部113は、まず、初期構造モデルにおいて、複合体を構成する2つの分子のそれぞれに対して、分子を構成する各原子に働く力を計算し、その力の方向に各原子を少し動かす。このような力の方向に各原子を動かすステップを繰り返して、最終的に複合体内の全ての原子に働く力が0となる構造が、複合体の最適化構造となる。構造エネルギー計算部113は、このような最適化構造におけるエネルギーを、複合体の構造エネルギーとして導出する。
【0058】
構造エネルギー計算部113は、このような立体構造モデルを作成する処理と、作成した立体構造モデルに対して構造最適化計算を実施する処理とを、1つの複合体の構造エネルギーを計算する構造エネルギー計算処理において実行する。構造エネルギー計算部113は、このような構造エネルギー計算処理を、入力受付部111が入力を受け付けた複数の吸着対象分子(中性分子とイオン化分子)と複数の固定相分子とから組み合わせ可能な複数の複合体のそれぞれに対して、且つ、吸着対象分子と固定相分子との相対的な位置関係が異なる複数通りの配置のそれぞれに対して実行する。これにより、構造エネルギー計算部113は、組み合わせ可能な複数の複合体のそれぞれに対して、且つ、複数通りの配置のそれぞれに対して、最適化された構造エネルギーを計算する。
【0059】
図1に戻って、結合エネルギー計算部115は、構造エネルギー計算部113により計算された複合体の構造エネルギーに基づいて、吸着対象分子と固定相分子との結合エネルギーを計算する。結合エネルギー計算部115は、このような結合エネルギー計算処理を、組み合わせ可能な複数の複合体のそれぞれに対して実行する。
【0060】
言い換えると、結合エネルギー計算部115は、構造エネルギー計算部113により計算された第1構造エネルギーに基づいて、中性分子と固定相分子との結合エネルギーである第1結合エネルギーを計算する。また、結合エネルギー計算部115は、構造エネルギー計算部113により計算された第2構造エネルギーに基づいて、イオン化分子と固定相分子との結合エネルギーである第2結合エネルギーを計算する。結合エネルギー計算部115は、このような第1結合エネルギーと第2結合エネルギーとを計算する結合エネルギー計算処理を、入力受付部111が入力を受け付けた複数の固定相分子(例えばSI及びPRS)のそれぞれに対して実行する。
【0061】
ここで、結合エネルギーは、吸着エネルギー、束縛エネルギー等とも呼ばれ、2つの分子の結合及び吸着の強さを示す値である。吸着対象分子と固定相分子との結合エネルギーは、吸着対象分子と固定相分子とがばらばらに存在するときと複合体を形成しているときとの構造エネルギーの差分に相当する。
【0062】
より具体的には、
図5に示すように、吸着対象分子と固定相分子との複合体の構造エネルギーE12は、その吸着対象分子の単一分子での構造エネルギーE1とその固定相分子の単一分子での構造エネルギーE2との和とは異なる場合がある。その差分は、吸着対象分子と固定相分子との結合エネルギーΔEに相当する。より具体的には、結合エネルギーΔEは、“ΔE=E12-(E1+E2)”の計算式により負の値として計算される。なお、
図5における上端がエネルギー0に相当し、構造エネルギーE1,E2,E12は、それぞれ負の値をとる。ΔEの値が負になる場合は、吸着対象分子は固定相分子に吸着された方が安定するが、ΔEの値が正になる場合は、2つの分子は吸着せずに互いに離れた単体の状態の方が安定する。
【0063】
結合エネルギーΔEの値が負でその絶対値が大きいほど、2つの分子の結合後のエネルギーが低い、すなわち結合後の状態が安定であることに相当する。そのため、結合エネルギーΔEの値が負でその絶対値が大きいほど、その2つの分子の結合が強く親和性が高い、言い換えると、吸着対象分子が固定相分子に吸着されやすいことを意味する。なお、結合エネルギーΔEは負の値として表されるため、結合エネルギーΔEの絶対値が大きいことは、結合エネルギーΔEが低いことに相当する。
【0064】
結合エネルギー計算部115は、1つの固定相分子と1つの吸着対象分子との複合体の構造エネルギーE12と、その1つの固定相分子の構造エネルギーE2とその1つの吸着対象分子の構造エネルギーE1との和と、の差分である結合エネルギーΔEを計算する。結合エネルギー計算部115は、このような結合エネルギー計算処理を、入力受付部111により入力を受け付けた複数の吸着対象分子と複数の固定相分子とのうちから組み合わせ可能な複数の複合体のそれぞれに対して、且つ、吸着対象分子と固定相分子との相対的な位置関係が異なる複数通りの配置のそれぞれに対して実行する。
【0065】
例えば、入力受付部111が2つの吸着対象分子(アニリン及びアニリニウムイオン)と2つの固定相分子(SI及びPRS)の入力を受け付け、且つ、構造エネルギー計算部113が各固定相分子に対して10通りの異なる配置で複合体の構造エネルギーを取得した場合、結合エネルギー計算部115は、40(=2×2×10)通りの結合エネルギーを計算する。これにより、結合エネルギー計算部115は、
図6に示すように、「アニリン」と「SI」、「アニリニウムイオン」と「SI」、「アニリン」と「PRS」、「アニリニウムイオン」と「PRS」という4通りの複合体のそれぞれに対して、複数通りの配置での結合エネルギーを計算する。なお、
図6に示す結合エネルギーの値は一例であって、実際のものとは同じとは限らない。
【0066】
更に、結合エネルギー計算部115は、複合体毎に、複数通りの結合エネルギーの代表値を計算する。これにより、結合エネルギー計算部115は、1つの複合体に対して結合エネルギーの値を1つ取得する。
【0067】
一例として、
図6に示すように、結合エネルギー計算部115は、結合エネルギーの代表値として、複合体毎に、複数通りの配置での結合エネルギーの平均値を計算する。吸着対象分子と固定相分子の配置jでの複合体の構造エネルギーをEjと表すと、10通りの配置j(j=1~10)での結合エネルギーの平均値ΔE’は、“ΔE’=1/10×Σ{Ej-(E1+E2)}”の計算式により計算される。なお、“Σ”は、10通りの配置j(j=1~10)での和を表す。結合エネルギー計算部115は、このような計算式により、結合エネルギーの代表値として平均値ΔE’を計算する。
【0068】
なお、代表値は、複数通りの配置での結合エネルギーに基づく値であれば、単純な平均値に限らない。例えば、代表値は、中央値であっても良いし、他の配置での値と大きく異なる値を除いた平均値であっても良い。
【0069】
図1に戻って、推定部118は、結合エネルギー計算部115により計算された第1結合エネルギー及び第2結合エネルギーに基づいて、吸着対象分子の吸着に適するpH領域を推定する。ここで、pH領域は、目的物質及び不純物を含む溶液や懸濁液等における水素イオン濃度の範囲を表す。
【0070】
例えば、吸着対象分子の一例であるアニリンは、pHが中性の領域では中性分子の状態であるが、pHが酸性の領域ではイオン化してアニリニウムイオンになる。中性分子であるアニリンとイオン化分子であるアニリニウムイオンとは、固定相分子に吸着される吸着メカニズムが異なるため、吸着効率が異なる。具体的には、アニリニウムイオンが固定相分子に吸着される主な吸着メカニズムはイオン交換となるのに対して、アニリンが固定相分子に吸着される主な吸着メカニズムはイオン交換以外となる。
【0071】
このようにpHによって吸着メカニズムが異なるため、吸着対象分子を効率的に吸着するためのpH領域は異なる。そこで、推定部118は、吸着対象分子が固定相分子に対して効率的に吸着されるのに適するpH領域を推定する。
【0072】
具体的に説明すると、推定部118は、結合エネルギー計算部115により計算された、中性分子と固定相分子との結合エネルギーである第1結合エネルギーと、イオン化分子と固定相分子との結合エネルギーである第2結合エネルギーと、を比較する。比較の結果、第1結合エネルギーが第2結合エネルギーよりも低い場合、中性分子の方がイオン化分子よりも固定相分子に対する親和性が高く、強く吸着することを意味する。この場合、推定部118は、吸着対象分子の吸着に適するpH領域が中性領域であると推定する。ここで、中性領域は、例えばpHが7程度のような、pHが中程度の領域に相当する。
【0073】
これに対して、第1結合エネルギーが第2結合エネルギーよりも高い場合、イオン化分子の方が中性分子よりも固定相分子に対する親和性が高く、強く吸着することを意味する。この場合、推定部118は、吸着対象分子の吸着に適するpH領域が酸性領域又はアルカリ性領域であると推定する。ここで、酸性領域は、例えばpHが3程度のような、pHが低い領域に相当する。また、アルカリ性領域は、例えばpHが9程度のような、pHが高い領域に相当する。なお、中性領域、酸性領域及びアルカリ性領域は、ユーザにとって目安となるものであれば良く、厳密なpHの範囲を示すものでなくて良い。
【0074】
図6に示した結合エネルギーの例では、固定相分子がSIである場合、中性分子であるアニリンとSIとの結合エネルギー(第1結合エネルギー)の方が、イオン化分子であるアニリニウムイオンとSIとの結合エネルギー(第2結合エネルギー)よりも高い。また、固定相分子がPRSである場合、中性分子であるアニリンとPRSとの結合エネルギー(第1結合エネルギー)の方が、イオン化分子であるアニリニウムイオンとPRSとの結合エネルギー(第2結合エネルギー)よりも高い。そのため、推定部118は、アニリンよりもアニリニウムイオンの方が、SI及びPRSに対して親和性が高く、強く吸着することが分かる。アニリニウムイオンは、アニリンが酸性のpH領域においてイオン化した状態である。そのため、推定部118は、吸着対象分子であるアニリン及びアニリニウムイオンの吸着に適するpH領域は酸性領域であると推定する。
【0075】
これとは逆に、アニリンとSIとの結合エネルギーの方がアニリニウムイオンとSIとの結合エネルギーよりも低く、且つ、アニリンとPRSとの結合エネルギーの方がアニリニウムイオンとPRSとの結合エネルギーよりも低い場合、推定部118は、吸着対象分子であるアニリン及びアニリニウムイオンの吸着に適するpH領域は中性領域であると推定する。
【0076】
なお、上記の吸着対象分子の例であるアニリンは、酸性領域でアニリニウムイオンにイオン化する分子であるため、推定部118は、吸着対象分子の吸着に適するpH領域が中性領域であるか酸性領域であるかを推定する。これに対して、吸着対象分子がアルカリ性領域でイオン化する分子である場合、推定部118は、吸着対象分子の吸着に適するpH領域が中性領域であるかアルカリ性領域であるかを推定する。PRSは酸性領域において主に存在するイオンであるのに対して、吸着対象分子がアルカリ性領域でイオン化する分子である場合、吸着対象分子に対応する固定相分子として、アルカリ性領域において主に存在するイオンを用いることが好適である。
【0077】
吸着対象分子の吸着に適するpH領域が中性領域であるかアルカリ性領域であるかを推定するための吸着対象分子として、例えば、「プロピオン酸」と「プロピオン酸イオン」とが挙げられる。プロピオン酸は、アルカリ性領域でプロピオン酸イオンにイオン化する分子である。また、これらの吸着対象分子に対応する固定相分子として、例えば、「アミノプロピルシリカゲル(NH2)」と「トリメチルアミノプロピルシリカゲル(SAX)」とが挙げられる。これら各分子の分子構造の概略を、以下に示す。入力受付部111が吸着対象分子及び固定相分子の入力としてこれら各分子を受け付けた場合、推定部118は、吸着対象分子の吸着に適するpH領域が中性領域であるかアルカリ性領域であるかを推定する。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
なお、
図6の例ではSIとPRSという2つの固定相分子を用いているため、2つの固定相分子を用いた計算結果の間で第1結合エネルギーと第2結合エネルギーとの大小関係が逆転する場合もあり得る。具体的には、アニリンとSIとの結合エネルギーの方がアニリニウムイオンとSIとの結合エネルギーよりも低く、且つ、アニリンとPRSとの結合エネルギーの方がアニリニウムイオンとPRSとの結合エネルギーよりも高い場合、又は、アニリンとSIとの結合エネルギーの方がアニリニウムイオンとSIとの結合エネルギーよりも高く、且つ、アニリンとPRSとの結合エネルギーの方がアニリニウムイオンとPRSとの結合エネルギーよりも低い場合、がそれに該当する。このような場合、推定部118は、予め定められたルールに従って、pH領域を推定する。ここで、予め定められたルールは、適宜設定することができる。
【0083】
例えば、推定部118は、複数の固定相分子に対応する複数通りの第1結合エネルギーの和と複数通りの第2結合エネルギーの和とを比較しても良い。この場合、推定部118は、第1結合エネルギーの和の方が第2結合エネルギーの和よりも低い場合、吸着対象分子の吸着に適するpH領域は中性領域であると推定し、第1結合エネルギーの和の方が第2結合エネルギーの和よりも高い場合、吸着対象分子の吸着に適するpH領域は酸性領域又はアルカリ性領域であると推定することができる。
【0084】
或いは、推定部118は、複数通りの第1結合エネルギーと複数通りの第2結合エネルギーとで、予め定められた閾値よりも低い数を比較しても良い。この場合、推定部118は、閾値よりも低い数として、第1結合エネルギーの数の方が第2結合エネルギーの数よりも多い場合、吸着対象分子の吸着に適するpH領域は中性領域であると推定し、第1結合エネルギーの数の方が第2結合エネルギーの数よりも少ない場合、吸着対象分子の吸着に適するpH領域は酸性領域又はアルカリ性領域であると推定することができる。
【0085】
出力部119は、推定部118により推定されたpH領域を示す出力情報を出力する。具体的に説明すると、出力部119は、吸着対象分子の吸着に適するpH領域が中性領域であるか、酸性領域であるか、それともアルカリ性領域であるかを示す出力情報を出力する。
【0086】
推定部118により推定されたpH領域が酸性領域である場合、出力部119は、例えば
図7に示すように、吸着対象分子の吸着に適するpH領域が酸性領域であって、その吸着メカニズムとしてイオン交換が支配的であることを示す出力情報を表示部14に表示する。これに対して、推定部118により推定されたpH領域が中性領域であると推定された場合、出力部119は、図示を省略するが、吸着対象分子の吸着に適するpH領域が中性領域であって、その吸着メカニズムとしてイオン交換以外が支配的であることを示す出力情報を表示部14に表示する。或いは、推定部118により推定されたpH領域がアルカリ性領域であると推定された場合、出力部119は、図示を省略するが、吸着対象分子の吸着に適するpH領域がアルカリ性領域であって、その吸着メカニズムとしてイオン交換が支配的であることを示す出力情報を表示部14に表示する。
【0087】
このように、出力部119は、入力受付部111により入力を受け付けた吸着対象分子の吸着に適するpH領域をユーザに提示する。ユーザは、このような出力画面を確認することにより、固相抽出法における固定相を選択する際の指標となるpH領域の目安を得ることができる。
【0088】
次に、
図8に示すフローチャートを参照して、選択支援装置10により実行される選択支援処理の流れを説明する。
図8に示す選択支援処理は、吸着対象分子の吸着に適したpH領域の情報を得ることを望むユーザが、操作部13を操作して選択支援装置10に選択支援処理の開始指示を入力すると、開始する。
図8に示す選択支援処理は、選択支援方法の一例である。
【0089】
選択支援処理を開始すると、制御部11は、入力受付部111として機能し、吸着対象分子及び固定相分子の入力を受け付ける(ステップS1)。制御部11は、例えば
図2に示した入力画面を表示部14に表示して、目的とする吸着対象分子である中性分子とイオン化分子と、候補となる複数の固定相分子と、の入力をユーザから受け付ける。
【0090】
吸着対象分子及び固定相分子の入力を受け付けると、制御部11は、構造エネルギー計算部113として機能し、入力を受け付けた複数の吸着対象分子及び複数の固定相分子のそれぞれの単一分子での構造エネルギーを計算する(ステップS2)。具体的に説明すると、制御部11は、
図3(a)~(d)に示したように、入力を受け付けた複数の吸着対象分子及び複数の固定相分子のそれぞれの立体構造モデルを作成する。そして、制御部11は、作成した立体構造モデルのそれぞれに対して構造最適化計算を実施し、最適化構造における構造エネルギーを計算する。
【0091】
構造エネルギーを計算すると、制御部11は、入力を受け付けた複数の固定相分子のそれぞれに対して、入力を受け付けた第1の吸着対象分子である中性分子との結合エネルギーを計算する(ステップS3)。ステップS3における結合エネルギー計算処理の詳細は、
図9を参照して説明する。
【0092】
図9に示す結合エネルギー計算処理を開始すると、制御部11は、入力を受け付けた複数の固定相分子のうちから1つを選択する(ステップS31)。そして、制御部11は、入力を受け付けた吸着対象分子と選択した固定相分子との配置を1つ設定する(ステップS32)。
【0093】
配置を設定すると、制御部11は、構造エネルギー計算部113として機能し、設定した配置における、入力を受け付けた中性分子と選択した固定相分子との複合体の構造エネルギーを計算する(ステップS33)。具体的に説明すると、制御部11は、設定した配置に中性分子と固定相分子とを設置した複合体の立体構造モデルを作成する。そして、制御部11は、作成した立体構造モデルに対して構造最適化計算を実施し、最適化構造における構造エネルギーを計算する。
【0094】
複合体の構造エネルギーを取得すると、制御部11は、結合エネルギー計算部115として機能し、結合エネルギーを計算する(ステップS34)。具体的に説明すると、制御部11は、ステップS2で計算した構造エネルギーのうちの、中性分子の単一分子での構造エネルギーと、ステップS31で選択した固定相分子の単一分子での構造エネルギーと、の和を計算する。そして、制御部11は、計算した和と、ステップS33で計算した複合体の構造エネルギーと、の差分を、その複合体の結合エネルギーとして計算する。
【0095】
結合エネルギーを計算すると、制御部11は、予め定められた数の異なる配置で結合エネルギーを計算したか否かを判定する(ステップS35)。予め定められた数の異なる配置で結合エネルギーを計算していない場合(ステップS35;NO)、制御部11は、処理をステップS32に戻す。この場合、制御部11は、ステップS32において中性分子と固定相分子との相対的な位置関係が異なる別の配置を1つ設定する。そして、制御部11は、設定した配置で中性分子と固定相分子とを設置した複合体の構造エネルギーを取得し、結合エネルギーを計算する。
【0096】
最終的に、予め定められた数の異なる配置で結合エネルギーを計算し終えると(ステップS35;YES)、予め定められた数の異なる配置で計算した結合エネルギーの平均値を計算する(ステップS36)。
【0097】
結合エネルギーの平均値を計算すると、制御部11は、未選択の固定相分子が有るか否かを判定する(ステップS37)。未選択の固定相分子が有る場合(ステップS37;YES)、制御部11は、処理をステップS31に戻す。この場合、制御部11は、ステップS31において、入力を受け付けた複数の固定相分子のうちの、未選択の固定相分子を1つ選択する。そして、制御部11は、入力を受け付けた吸着対象分子と選択した固定相分子との複合体に対してステップS32~S36の処理を実行し、予め定められた数の異なる配置で計算した結合エネルギーの平均値を計算する。
【0098】
最終的に、未選択の固定相分子が無くなると(ステップS37;NO)、制御部11は、
図9に示した結合エネルギー計算処理を終了する。
【0099】
図8に戻って、次に、制御部11は、入力を受け付けた複数の固定相分子のそれぞれに対して、入力を受け付けた第2の吸着対象分子であるイオン化分子との結合エネルギーを計算する(ステップS4)。ステップS4における結合エネルギー計算処理は、
図9を参照して説明したステップS3における結合エネルギー計算処理を、「中性分子」を「イオン化分子」に置き換えることで同様に説明することができる。
【0100】
図8に戻って、ステップS3,S4における結合エネルギー計算処理を終了すると、制御部11は、推定部118として機能し、ステップS3,S4で計算した結合エネルギーに基づいて、ステップS1で入力を受け付けた吸着対象分子の吸着に適するpH領域を推定する(ステップS5)。具体的に説明すると、制御部11は、ステップS3で計算した結合エネルギーとステップS4で計算した結合エネルギーとを比較することにより、吸着対象分子の吸着に適するpH領域が中性領域と酸性領域とアルカリ性領域とのいずれの領域であるかを推定する。
【0101】
pH領域を推定すると、制御部11は、出力部119として機能し、推定したpH領域を示す出力情報を出力する(ステップS6)。具体的に説明すると、制御部11は、例えば
図7に示した出力画面を表示部14に表示する。以上により、
図8に示した選択支援処理は終了する。
【0102】
以上説明したように、実施形態1に係る選択支援装置10は、中性分子と固定相分子との複合体の構造エネルギーである第1構造エネルギーと、イオン化分子と固定相分子との複合体の構造エネルギーである第2構造エネルギーと、を量子化学計算を用いて計算する。そして、実施形態1に係る選択支援装置10は、第1構造エネルギーに基づいて中性分子と固定相分子との結合エネルギーである第1結合エネルギーを計算し、第2構造エネルギーに基づいてイオン化分子と固定相分子との結合エネルギーである第2結合エネルギーを計算し、第1結合エネルギー及び第2結合エネルギーに基づいて吸着対象分子の吸着に適するpH領域を推定して出力する。
【0103】
このように、実施形態1に係る選択支援装置10は、量子化学計算を用いて結合エネルギーを計算して吸着対象分子を扱うのに適切なpH領域を推定する。そのため、ユーザは、pH領域を実験で探索する必要が無く、目的物質を抽出するのに適切なpH領域の目安を容易に知ることができる。その結果、ユーザは、目的物質に対して適切な固定相を効率的に選択することが可能になる。
【0104】
(実施形態2)
次に、実施形態2について説明する。実施形態1と同様の構成及び機能については、適宜説明を省略する。
【0105】
実施形態1では、構造エネルギー計算部113は、入力受付部111により入力を受け付けた複数の吸着対象分子(中性分子とイオン化分子)及び複数の固定相分子のそれぞれに対して、立体構造モデルを作成し、作成した立体構造モデルに対して構造最適化を実施することで、各分子の単一分子での構造エネルギーを取得した。しかしながら、公知の分子の構造最適化計算が実施された立体構造モデル及び構造エネルギーは、既に知られている場合がある。そこで、実施形態2では、構造エネルギー計算部113は、入力受付部111により入力を受け付けた中性分子、イオン化分子及び複数の固定相分子のそれぞれの立体構造モデル及び構造エネルギーを、選択支援装置10の外部から通信により取得する。
【0106】
図10に、実施形態2に係る選択支援システム1の全体構成を示す。選択支援システム1は、選択支援装置10と、データベース20と、を備える。データベース20は、吸着対象分子又は固定相分子となる可能性がある複数の分子のそれぞれについて、構造エネルギーと、構造最適化が実施された後の立体構造モデルと、のデータを格納している。データベース20は、通信ネットワークNを介して選択支援装置10と通信可能に接続されている。
【0107】
構造エネルギー計算部113は、入力受付部111が中性分子、イオン化分子及び複数の固定相分子の入力を受け付けると、通信部15によりデータベース20と通信する。これにより、構造エネルギー計算部113は、入力が受け付けられた中性分子、イオン化分子及び複数の固定相分子のそれぞれについて、構造最適化計算が実施された後の立体構造モデルと構造エネルギーとをデータベース20から取得する。
【0108】
構造エネルギー計算部113は、データベース20から取得した、中性分子、イオン化分子及び複数の固定相分子のそれぞれの立体構造モデルを用いて、複合体の立体構造モデルを作成する。また、結合エネルギー計算部115は、データベース20から取得した、中性分子、イオン化分子及び複数の固定相分子のそれぞれの構造エネルギーを用いて、結合エネルギーを計算する。その他の処理は実施形態1と同様である。
【0109】
以上説明したように、実施形態2に係る選択支援装置10は、中性分子、イオン化分子及び複数の固定相分子のそれぞれの立体構造モデル及び構造エネルギーを、選択支援装置10の外部から通信により取得する。このように、既知の分子の立体構造モデル及び構造エネルギーを外部から取得することで、選択支援装置10において実行される処理を簡略化することができる。
【0110】
なお、構造エネルギー計算部113は、入力が受け付けられた中性分子、イオン化分子及び複数の固定相分子の全ての立体構造モデル及び構造エネルギーをデータベース20から取得することに限らない。例えば、入力が受け付けられた中性分子、イオン化分子及び複数の固定相分子のうちの一部の分子の立体構造モデル及び構造エネルギーがデータベース20に存在しない場合、構造エネルギー計算部113は、その一部の分子の立体構造モデル及び構造エネルギーを、実施形態1と同様の手法で作成及び計算する。そして、構造エネルギー計算部113は、残りの分子の立体構造モデル及び構造エネルギーを、データベース20から取得しても良い。
【0111】
また、データベース20は、選択支援装置10の外部に設けられていることに限らず、選択支援装置10の内部に設けられていても良い。
【0112】
(変形例)
以上、実施形態を説明したが、各実施形態を組み合わせたり、各実施形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【0113】
例えば、上記実施形態で挙げた吸着対象分子及び固定相分子は一例であって、他の分子が吸着対象分子又は固定相分子であっても良い。
【0114】
上記実施形態では、複数の固定相分子はSI及びPRSの2つであったが、固定相分子の数は3つ以上であっても良い。具体的には、入力受付部111は、3つ以上の固定相分子の入力を受け付け、推定部118は、3つ以上の固定相分子のそれぞれに対して計算された第1結合エネルギー及び第2結合エネルギーに基づいて、吸着対象分子の吸着に適するpH領域を推定しても良い。
【0115】
また、固定相分子の数は、1つであっても良い。但し、1つのみの固定相分子と吸着対象分子との複合体の構造エネルギーに基づくだけでは、そこから推定されるpH領域が、その1つの固定相分子に特有の原因とする場合があるため、吸着対象分子に対して広く一般的に適するpH領域では無い可能性がある。これに対して、複数の固定相分子のそれぞれに対して計算された第1結合エネルギー及び第2結合エネルギーに基づいてpH領域を推定することで、1つの固定相分子に特有の原因による影響を抑制することができる。そのため、高い精度で吸着対象分子の吸着に適するpH領域を推定することができる。特に、複数の固定相分子が電気的に中性の分子(例えばSI)とイオン化された分子(例えばPRS)とをどちらも含むことで、中性領域と酸性領域又はアルカリ性領域とのそれぞれに対応させることができる。
【0116】
上記実施形態では、選択支援装置10は、操作部13及び表示部14を備えており、これらがユーザインタフェースとして機能した。しかしながら、選択支援装置10は、操作部13及び表示部14を備えていなくても良い。選択支援装置10と通信ネットワークNにより通信可能に接続された外部の装置が、操作部13及び表示部14に対応するユーザインタフェースを備えていても良い。この場合、入力受付部111は、通信部15及び通信ネットワークNを介して、外部の装置から吸着対象分子及び複数の固定相分子の入力を受け付ける。また、出力部119は、通信部15及び通信ネットワークNを介して、出力情報を外部の装置に出力する。
【0117】
上記実施形態では、出力部119は、
図7に示したように出力情報を表示部14に表示した。しかしながら、出力部119は、出力情報を表示することに限らず、例えば通信部15による通信により選択支援装置10の外部の装置に出力しても良い。或いは、出力部119は、出力情報をスピーカから音声で出力しても良い。
【0118】
上記実施形態では、選択支援装置10は、入力受付部111、構造エネルギー計算部113、結合エネルギー計算部115、推定部118、及び、出力部119を備えていた。しかしながら、これら各部の全てが1つの装置に設けられていることに限らない。これら各部の少なくともいずれかが、通信ネットワークNにより通信可能に接続された異なる装置に分散して設けられていても良い。例えば、制御部11の各部が複数の独立した装置に分散して設けられており、通信ネットワークNを介して必要なデータを送受信しながら、上記実施形態で説明した処理を実行しても良い。各部が複数の装置に分散して設けられている場合であっても、それら複数の装置を合わせて、選択支援装置10と呼ぶことができる。
【0119】
上記実施形態では、制御部11において、CPUがROM又は記憶部12に記憶されたプログラムを実行することによって、入力受付部111、構造エネルギー計算部113、結合エネルギー計算部115、推定部118、及び、出力部119のそれぞれとして機能した。しかしながら、制御部11は、専用のハードウェアであってもよい。専用のハードウェアとは、例えば単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、これらの組み合わせ等である。制御部11が専用のハードウェアである場合、各部の機能それぞれを個別のハードウェアで実現してもよいし、各部の機能をまとめて単一のハードウェアで実現してもよい。
【0120】
また、各部の機能のうち、一部を専用のハードウェアによって実現し、他の一部をソフトウェア又はファームウェアによって実現してもよい。このように、制御部11は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又は、これらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0121】
上述した選択支援装置10の動作を規定するプログラムを、パーソナルコンピュータ、クラウドサーバ等の既存のコンピュータに適用することで、当該コンピュータを、上述した選択支援装置10として機能させることも可能である。
【0122】
また、このようなプログラムの配布方法は任意であり、例えば、CD-ROM(Compact Disk ROM)、DVD(Digital Versatile Disk)、MO(Magneto Optical Disk)、メモリカード等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して配布してもよいし、インターネット等の通信ネットワークを介して配布してもよい。
【0123】
以上、本発明の好ましい実施形態等について説明したが、本発明は上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0124】
1 選択支援システム
10 選択支援装置
11 制御部
12 記憶部
13 操作部
14 表示部
15 通信部
20 データベース
111 入力受付部
113 構造エネルギー計算部
115 結合エネルギー計算部
118 推定部
119 出力部
N 通信ネットワーク