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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011743
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】液体中微粒子分析システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/1429 20240101AFI20250117BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20250117BHJP
   G01N 15/1434 20240101ALI20250117BHJP
【FI】
G01N15/14 B
G01N21/64 B
G01N15/14 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114027
(22)【出願日】2023-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】319006047
【氏名又は名称】シャープセミコンダクターイノベーション株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大紀
(72)【発明者】
【氏名】金 秀▲弦▼
(72)【発明者】
【氏名】満仲 健
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 邦彦
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA05
2G043EA01
2G043FA03
2G043KA09
2G043LA02
2G043MA01
(57)【要約】
【課題】特許文献1に記載の液体中微粒子分析システムと比較して、蛍光の検出精度を向上させることである。
【解決手段】液体中微粒子分析システム(1)は、集積回路チップ(13)と、微粒子が流れる流路(10)と、該流路(10)にパルス状の励起光を照射する光源(半導体レーザー17)と、単一光子アバランシェダイオード(14A)の状態を、受光可能状態と待機状態との何れかに制御する制御部(15)と、を備え、制御部(15)は、光源(半導体レーザー17)の照射タイミングから単一光子アバランシェダイオード(14A)の状態を前記受光可能状態にするまでの遅延時間を、第1の遅延時間と第2の遅延時間とから選択し、当該受光可能状態において、単一光子アバランシェダイオード(14A)におけるアバランシェ電流に応じてパルス状の光子を検出し、前記第1の遅延時間を用いた光子の検出回数を第1の検出回数と、前記第2の遅延時間を用いた光子の検出回数を第2の検出回数と、を繰り返し求めることにより、前記微粒子に付随した蛍光物質の検出を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一光子アバランシェダイオードを含む集積回路チップと、
該集積回路チップの前記単一光子アバランシェダイオードの側に形成された、微粒子が流れる流路と、
該流路にパルス状の励起光を照射する光源と、
前記単一光子アバランシェダイオードの状態を、受光可能状態と待機状態との何れかに制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記光源が前記励起光を照射する照射タイミングから、前記単一光子アバランシェダイオードの状態を前記受光可能状態にするまでの遅延時間を、第1の遅延時間と、該第1の遅延時間よりも長い第2の遅延時間と、から選択し、
前記照射タイミングから前記遅延時間が経過したのち、前記単一光子アバランシェダイオードの状態を所定の受光期間に亘って前記受光可能状態にし、
当該受光可能状態において、単一光子アバランシェダイオードにおけるアバランシェ電流に応じてパルス状の光子を検出し、
前記第1の遅延時間を用いた前記光子の検出を一定回数繰り返し、その繰り返しの中における前記光子の検出回数を第1の検出回数とし、
前記第2の遅延時間を用いた前記光子の検出を前記一定回数繰り返し、その繰り返しの中における前記光子の検出回数を第2の検出回数とし、
前記第1の検出回数と前記第2の検出回数とを繰り返し求めることにより、前記微粒子に付随した蛍光物質の検出を行う、
ことを特徴とする液体中微粒子分析システム。
【請求項2】
前記光源は、互いに異なる複数の波長の励起光をそれぞれ互いに異なる前記照射タイミングで照射し、
前記制御部は、前記第1の検出回数及び前記第2の検出回数の各々を、前記励起光ごとに繰り返し求めることにより、前記検出を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体中微粒子分析システム。
【請求項3】
前記制御部は、
前記流路に微粒子が流れていない状態における、前記第1の検出回数の時間平均値である第1の平均値と、前記第2の検出回数の時間平均値である第2の平均値と、を算出し、
前記第1の検出回数を、前記第1の平均値で正規化した値を第1の正規化検出回数とし、
前記第2の検出回数を、前記第2の平均値で正規化した値を第2の正規化検出回数とし、
前記第1の正規化検出回数と前記第2の正規化検出回数との比に応じて前記検出を行う、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の液体中微粒子分析システム。
【請求項4】
前記第1の正規化検出回数及び前記第2の正規化検出回数の少なくとも何れかの変化であって、前記微粒子による散乱及び屈折の少なくとも何れかに起因する変化に応じて、前記微粒子を検出する、
ことを特徴とする請求項3に記載の液体中微粒子分析システム。
【請求項5】
前記制御部は、
前記流路に微粒子が流れていない状態において、前記遅延時間を掃引し、掃引した各遅延時間を用いた前記光子の検出を一定回数繰り返し、その繰り返しの中における前記光子の検出回数をバックグラウンド検出回数として、当該バックグラウンド検出回数の遅延時間依存性を取得し、
前記蛍光物質における蛍光寿命から計算される指数関数的減衰量の遅延時間依存性に対する前記バックグラウンド検出回数の前記遅延時間依存性の比が最大になる最適遅延時間を求め、
前記第1の遅延時間及び前記第2の遅延時間の何れかとして前記最適遅延時間を用いる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の液体中微粒子分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中の微粒子を光学的に分析するための液体中微粒子分析システム及び液
体中微粒子分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生物学および医学などにおける研究および臨床検査などで用いられる検査手法の1つとして、蛍光を用いた検査手法が挙げられる。蛍光とは、励起光(例えば紫外光または可視光)を吸収して基底状態から励起状態になった後、中間励起状態に落ちた分子またはイオンが、基底状態に戻るときに放出する、励起光より長い波長の光である。生体または非生体試料についての蛍光を用いた検査手法は、細胞構成成分の染色、遺伝子発現、および動的成分の局在移動の観察など、幅広い分野に応用されて成果を挙げている。
【0003】
一般に多く用いられている蛍光検査手法は、励起光を対象物に照射し、放出される蛍光のみを検知するものである。対象物から放出される蛍光と対象物により反射される励起光とを分離する方法の1つとして、蛍光と励起光とで波長が異なることを利用して、光学的なフィルタにより両者を分離する方法がある。
【0004】
一方、蛍光と励起光とを分離する別の方法として、蛍光寿命を利用する方法がある。蛍光寿命とは、対象物が励起状態から基底状態に戻るまでの平均時間である。蛍光寿命は、多くの種類の分子でサブナノ秒~数ナノ秒程度であり、分子の種類によって異なる。蛍光寿命を利用することで、励起光の消光後に放出される蛍光を検知することができる。
【0005】
特許文献1には、蛍光寿命を用いて蛍光を検知する装置の例として、図1図2に示す構成が記載されている。特許文献1に記載されている装置は、励起光の消光後に単一光子アバランシェダイオード(SPAD,single photon avalanche diode)を光子検出可能状態にして、SPADが蛍光光子を受けた際に流れるアバランシェ電流によるパルスをカウントするように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6860890号(2021年3月31日登録)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の液体中微粒子分析システムでは、流路を流れる微粒子が単一光子アバランシェダイオードの近傍に存在する場合に、当該微粒子により励起光が散乱あるいは屈折して、SPADに入射する場合がある。この場合、単一光子アバランシェダイオードに入射する光子の量は、流路を流れる微粒子が単一光子アバランシェダイオードの近傍に存在しない場合と比較して増加する。その結果、蛍光寿命を用いて蛍光を検知する液体中微粒子分析システムにおいては、SPADの検出結果に応じて励起光と蛍光とを分離することが難しい場合がある。
【0008】
本願発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、特許文献1に記載の液体中微粒子分析システムと比較して、蛍光の検出精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る液体中微粒子分析システムは、単一光子アバランシェダイオードを含む集積回路チップと、該集積回路チップの前記単一光子アバランシェダイオードの側に形成された、微粒子が流れる流路と、該流路にパルス状の励起光を照射する光源と、前記単一光子アバランシェダイオードの状態を、受光可能状態と待機状態との何れかに制御する制御部と、を備えている。
【0010】
本液体中微粒子分析システムにおいて、前記制御部は、前記光源が前記励起光を照射する照射タイミングから、前記単一光子アバランシェダイオードの状態を前記受光可能状態にするまでの遅延時間を、第1の遅延時間と、該第1の遅延時間よりも長い第2の遅延時間と、から選択し、前記照射タイミングから前記遅延時間が経過したのち、前記単一光子アバランシェダイオードの状態を所定の受光期間に亘って前記受光可能状態にし、当該受光可能状態において、単一光子アバランシェダイオードにおけるアバランシェ電流のパルスとして光子を検出し、前記第1の遅延時間を用いた前記光子の検出を一定回数繰り返し、その繰り返しの中における前記光子の検出回数を第1の検出回数とし、前記第2の遅延時間を用いた前記光子の検出を前記一定回数繰り返し、その繰り返しの中における前記光子の検出回数を第2の検出回数とし、前記第1の検出回数と前記第2の検出回数とを繰り返し求めることにより、前記微粒子に付随した蛍光物質の検出を行う、構成が採用されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様に係る蛍光検査システムによれば、特許文献1に記載の液体中微粒子分析システムと比較して、蛍光の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る液体中微粒子分析システムの概略構成を示す模式図である。
図2図1に図示する液体中微粒子分析システムが備えている集積回路チップの概略構成を示す模式図である。
図3図1に図示する液体中微粒子分析システムが備えている光源の照射動作と、図1に図示する液体中微粒子分析システムが備えている制御部が実施する第1遅延測定及び第2遅延測定とのタイミングを示すタイミングチャートである。
図4】第1遅延測定の出力、第1遅延測定のバックグラウンド時間平均、第2遅延測定の出力、第2遅延測定のバックグラウンド時間平均、正規化された第1遅延測定の出力及び第2遅延測定の出力、並びに、正規化された第1遅延測定の出力の正規化された第2遅延測定の出力に対する比を示すグラフである。
図5】本発明の一実施形態に係る液体中微粒子分析システムが備えている光源の照射動作と、本液体中微粒子分析システムが備えている制御部が実施する第1遅延測定、第2遅延測定、第3遅延測定、及び第4遅延測定とのタイミングを示すタイミングチャートである。
図6】本発明の実施形態2に係る液体中微粒子分析システムにおけるSPADの応答時間分布であって、流路に微粒子が流れていない状態におけるSPADの応答時間分布と、流路に蛍光物質が付随する微粒子が流れている状態におけるSPADの応答時間分布と、を示すグラフである。
図7】本発明の一実施形態に係る液体中微粒子分析システムにおけるSPADの応答時間分布であって、流路に微粒子が流れていない状態におけるSPADの応答時間分布と、微粒子に付随された蛍光物質の蛍光寿命と同じ時定数の指数関数的減衰曲線と、を示すグラフである。
図8】光源の照射タイミングと、遅延時間として0nsec、1nsec、及び2nsecの各々を用いた場合におけるSPADの受光可能状態と、を示すタイミングチャートである。
図9】流路を流れる微粒子により散乱された光子がSPADにより検出される様子を示す液体中微粒子分析システムの模式図である。
図10】本発明の一実施形態に係る液体中微粒子分析システム及び従来の液体中微粒子分析システムにおけるSPADの応答時間分布であって、(1)流路に微粒子が流れていない状態におけるSPADの応答時間分布と、(2)流路に蛍光物質が付随していない微粒子が流れている状態におけるSPADの応答時間分布と、(3)流路に蛍光物質が付随している微粒子が流れている状態におけるSPADの応答時間分布と、を示すグラフである。
図11】従来の液体中微粒子分析システムが備えている光源の照射動作を示すタイミングチャートである。
図12】従来の液体中微粒子分析システムにおけるSPADの出力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1について、詳細に説明する。
【0014】
<液体中微粒子分析システム1の構成>
図1は、本発明の実施形態1に係る液体中微粒子分析システム1の概略構成を示す模式図であり、液体中微粒子分析システム1を側面視した場合を示す模式図である。図2は、集積回路チップ13の概略構成を示す模式図であり、集積回路チップ13を上面視した場合を示す模式図である。
【0015】
図1に示すように、液体中微粒子分析システム1は、制御部15と、集積回路チップ13と、光源制御回路16と、を備えている。制御部15は、液体中微粒子分析システム1の各部を統括的に制御する機能を備えている演算装置である。制御部15は、例えば1つ以上のプロセッサ(例えばCPUなど)が、1つ以上のメモリ(例えばRAMやROMなど)に記憶されているプログラムを実行することで液体中微粒子分析システム1の各構成要素を制御する。
【0016】
集積回路チップ13は、流路10と、光子測定部14と、を備えている。集積回路チップ13は、液体を流す流体回路部である流路10と、電子回路部である光子測定部14とが、CMOS等のシリコンを用いた半導体集積回路に内蔵されている構成であってもよい。例えば、集積回路チップ13は、所謂MEMS技術を用いて流路10と、光子測定部14とが、一体に形成されている構成とすることができる。流路10は、集積回路チップ13の一対の主面のうち、後述する単一光子アバランシェダイオード(SPAD,single photon avalanche diode)の側の主面に(図1においてはSPADの上側の主面に)設けられている。
【0017】
また、集積回路チップ13は、流路10と、光子測定部14とが重畳され一体化されている構成であってもよい。例えば、集積回路チップ13は、ガラス基板およびシリコン樹脂等の光透過性部材に形成された微小流路である流路10が、光子測定部14が内蔵されたシリコン集積回路上に載置されている構成とすることができる。
【0018】
集積回路チップ13は、半導体レーザー17に対向する表面側に流路10を備え、流路10の下層に光子測定部14が設けられている。流路10には、注入孔11と、排出孔12と、が設けられている。流路10は、注入孔11から排出孔12に向かって流れる微粒子を含む液体の流路として用いられる。
【0019】
光子測定部14は、単一光子アバランシェダイオード(SPAD)14Aと、光子計数回路14Bと、を有している。光子計数回路14Bは、制御部15から供給される制御信号に応じて、SPAD14Aを制御し、SPAD14Aの出力信号を処理する。
【0020】
光子計数回路14Bは、SPAD14Aに光子が入射することにより発生した電気パルスの数を計測する機能を有している。
【0021】
光源制御回路16は、制御部15から供給される制御信号に応じて、半導体レーザー17の発光駆動を制御して、半導体レーザー17から励起光パルス18を照射対象に照射する照射動作を行う。なお、図1では、制御部15、および光源制御回路16は、集積回路チップ13とは別体である例を示しているが、制御部15、および光源制御回路16は、集積回路チップ13の中に形成されている構成であってもよい。
【0022】
液体中微粒子分析システム1では、流路10内に液体を流すとともに、光源制御回路16により半導体レーザー17をパルス発光させ、励起光を照射する。半導体レーザー17の照射範囲では、半導体レーザー17からの励起光パルス18の照射により、流路10内の液体中の蛍光分子FMが励起する。光子測定部14は、蛍光分子FMが励起したことにより発生した蛍光光子を検知する光子検知動作を行う。
【0023】
光源制御回路16による半導体レーザー17の照射動作と、光子測定部14の光子測定動作とは、制御部15によって同期的に制御される。図8は、制御部15の制御に基づく励起光パルス18の照射動作と、光子測定部14の光子測定動作と、の制御のタイミングの例を示すタイミングチャートである。励起光パルス18は、パルス発振レーザーの照射トリガー30の立ち上がりエッジにおいて発光し、SPAD受光可能期間35の期間にSPADに入射した光子によりアバランシェ電流によるパルスを発生可能になる。
【0024】
<液体中微粒子分析システム1による液体中微粒子分析方法>
図8のパルス発振レーザーとSPAD14Aの同期制御ダイアグラムには、パルス発振レーザーの照射トリガー30の立ち上がりエッジから、SPAD受光可能期間35の開始までの遅延時間の異なるSPAD制御タイミング32,33,34が示されている。実施例1における制御部15は、このように遅延時間を変更することができる。図3は実施例1における測定の方法を示す図である。単位測定シーケンス100は、制御部15によりパルス発振レーザーの照射トリガー30の立ち上がりエッジから、SPAD受光可能期間35の開始までの遅延を図10における第1遅延時間72に設定して65536回のパルス発振レーザーの照射を繰り返し、その間のSPADの出力パルスをカウントする第1遅延測定101と、第2遅延時間73に設定してSPADの65536回のパルス発振レーザーの照射を繰り返してSPADの出力パルスをカウントする第2遅延測定102とで構成される。なお、図10については、従来の液体中微粒子分析システムの課題の項において後述する。
【0025】
図4の出力111は、単位測定シーケンス100を繰り返すことで得られる第1遅延測定の出力の時系列プロットであり、第1遅延測定101の繰り返しの中における光子の検出回数(第1の検出回数)を表す。図4の出力113は、第2遅延測定の時系列プロットであり、第2遅延測定102の繰り返しの中における光子の検出回数(第2の検出回数)を表す。115は、第1遅延測定の出力を第1遅延測定のバックグラウンド時間平均112で正規化した値(第1の正規化検出回数)と、第2遅延測定の出力を第2遅延測定のバックグラウンド時間平均114で正規化した値(第2の正規化検出回数)の時系列プロットである。116は、同一単位測定シーケンス内の正規化された第1遅延測定値の正規化された第2遅延測定値に対する比(第1の正規化検出回数と第2の正規化検出回数との比)の時系列プロットである。この測定において観測対象の蛍光の蛍光寿命が0.2nsecより長いと、SPADの時間応答の分布は、図10のようになっているため、第1遅延時間72での測定と第2遅延時間73での測定を比較すると、蛍光が加わった時の応答71の直接入射光のみの時の応答61に対する比は、第1遅延時間72におけるより第2遅延時間73においてのほうが大きくなる。また、散乱または屈折により入射光が増加した時の応答62の直接入射光のみの時の応答61に対する比は、第1遅延時間72においても第2遅延時間73においても同じである。したがって、図4においては、蛍光により信号が変化する区間117においては、116の同一単位測定シーケンス内の正規化された第1遅延測定値の正規化された第2遅延測定値に対する比が1より大きくなる変化が現れ、散乱または屈折により信号が変化する区間118においては、116の同一単位測定シーケンス内の正規化された第1遅延測定値の正規化された第2遅延測定値に対する比は1からほぼ変化しない。よって、116の時系列プロットを観測することで、観測対象である蛍光分子FMを伴った粒子の通過を検知することができる。また、出力111あるいは113の変化を検知した時に、116の時系列プロットが変化しない場合、粒子の通過により、散乱または屈折により入射光量の変化が起きたことを検知することができる。
【0026】
〔実施形態2〕
第2の実施形態について図5を用いて説明する。本実施例における液体中微粒子分析システムは、波長の異なる二つのレーザー、第1レーザーと第2レーザーを備えている。図5の単位測定シーケンスは、第1レーザー発光期間121と第2レーザー発光期間122とで構成されている。さらに、第1レーザー発光期間121は、制御部15によりパルス発振レーザー1の照射トリガー30の立ち上がりエッジから、SPAD受光可能期間35の開始までの遅延を第1遅延時間に設定して65536回のパルス発振レーザーの照射を繰り返し、その間のSPADの出力パルスをカウントする第1遅延測定101と、第2遅延時間に設定して65536回のパルス発振レーザーの照射を繰り返してSPADの出力パルスをカウントする第2遅延測定102とで構成され、第2レーザー発光期間は、制御部15によりパルス発振レーザー2の照射トリガーの立ち上がりエッジから、SPAD受光可能期間の開始までの遅延を第3遅延時間に設定して65536回のパルス発振レーザーの照射を繰り返しその間のSPADの出力パルスをカウントする第3遅延測定123と、第4遅延時間に設定して65536回のパルス発振レーザーの照射を繰り返してSPADの出力パルスをカウントする第4遅延測定124とで構成される。測定対象の蛍光分子FMとして、第1レーザーで励起され、第2レーザーでは励起されない第1の蛍光分子と、第1レーザーでは励起されず、第2レーザーで励起される第2の蛍光分子を用いる。
【0027】
同一単位測定シーケンス内の正規化された第1遅延測定値の正規化された第2遅延測定値に対する比の変化を観測することで、第1の蛍光分子を伴った微粒子の通過を検知することができる。また、同一単位測定シーケンス内の正規化された第3遅延測定値の正規化された第4遅延測定値に対する比の変化を観測することで、第2の蛍光分子を伴った微粒子の通過を検知することができる。
【0028】
〔実施形態3〕
第3の実施形態について図6及び図7を用いて説明する。実施形態1の液体中微粒子分析システムにおける直接入射光のみの時のSPADの応答時間分布131は、遅延時間を掃引して測定することにより測定することができる。131は、流路に微粒子が流れていない状態において、遅延時間を掃引し、掃引した各遅延時間を用いた光子の検出を一定回数繰り返し、その繰り返しの中における前記光子の検出回数(バックグラウンド検出回数)の遅延時間依存性である。測定対象とする蛍光分子FMを伴った微粒子の通過により、蛍光が加わった時の応答は、図6の141のようになると想定される。実施形態1における測定で、蛍光が加わった時の応答を高感度に検出するためには、141と131の比が大きくなる遅延時間での測定が望ましい。ここで、遅延時間0での蛍光による出力パルス増加量をA、蛍光寿命をτ、遅延時間をt、直接入射光のみの時の応答をBG(t)と記すと、蛍光が加わった時の応答141は、数式1であらわされる。したがって、バックグラウンドである131との比は、数式2のように計算される。数式2の値を最大化するためには、遅延時間を掃引して得られた応答時間分布131と蛍光寿命τを時定数とする指数的減衰関数(図7の151)との比(数式3)が最大になる最適遅延時間(図7の152)を使えばよいことがわかる。数式3の分子は蛍光寿命がわかれば計算可能であり、分母は遅延時間を掃引した測定から算出可能であるので、数式3は評価することができ、最適遅延時間152の導出が実施時に可能である。
【数1】
【数2】
【数3】
〔従来の液体中微粒子分析システムの課題〕
生物学および医学などにおける研究および臨床検査などで用いられる検査手法の1つとして、蛍光を用いた検査手法が挙げられる。蛍光とは、励起光(例えば紫外光または可視光)を吸収して基底状態から励起状態になった後、中間励起状態に落ちた分子またはイオンが、基底状態に戻るときに放出する、励起光より長い波長の光である。生体または非生体試料についての蛍光を用いた検査手法は、細胞構成成分の染色、遺伝子発現、および動的成分の局在移動の観察など、幅広い分野に応用されて成果を挙げている。
【0029】
一般に多く用いられている蛍光検査手法は、励起光を対象物に照射し、放出される蛍光のみを検知するものである。対象物から放出される蛍光と対象物により反射される励起光とを分離する方法の1つとして、蛍光と励起光とで波長が異なることを利用して、光学的なフィルタにより両者を分離する方法がある。
【0030】
一方、蛍光と励起光とを分離する別の方法として、蛍光寿命を利用する方法がある。蛍光寿命とは、対象物が励起状態から基底状態に戻るまでの平均時間である。蛍光寿命は、多くの種類の分子でサブナノ秒~数ナノ秒程度であり、分子の種類によって異なる。蛍光寿命を利用することで、励起光の消光後に放出される蛍光を検知することができる。
【0031】
特許文献1には、蛍光寿命を用いて蛍光を検知する装置の例として、液体中微粒子分析システムが記載されている。特許文献1の液体中微粒子分析システムは、図1及び図2に示す液体中微粒子分析システム1と似た構造を有する。特許文献1の液体中微粒子分析システムは、液体中微粒子分析システム1と同様に、励起光の消光後にSPADを光子検出可能状態にして、SPADが蛍光光子を受けた際に流れるアバランシェ電流によるパルスをカウントするように構成されている。
【0032】
一方、M. Ghioni, A. Gulinatti, I. Rech, F. Zappa and S. Cova, "Progress in Silicon Single-Photon Avalanche Diodes," in IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, vol. 13, no. 4, pp. 852-862, 2007に記載されているように、SPADは光子が空乏層に入射してからアバランシェ現象が起きるまでの時間の確率分布に、いくつかの時定数による減衰特性の分布が含まれることが知られている。すなわち、光子入射とほぼ同時にアバランシェを起こす場合のほかに、光子の入射から遅れてアバランシェ電流が発生することがある。
【0033】
ここで、SPADに光子が入射してからアバランシェ電流が発生するまでの応答特性の例を図8図10を用いて説明する。図8は、半値幅が数10psec程度のパルス発振レーザーのSPADへの周期的照射タイミング31とSPADの動作とを同期して制御する関係の例を示すダイアグラムである。図8のSPAD受光可能期間35とは、SPADの逆バイアスをブレークダウン電圧以上に上げて、SPADが光子の入射をトリガーとしてアバランシェ電流を発生できる状態にしている期間である。遅延0nsecでのSPAD制御タイミング32は、パルス発振レーザーの照射と同時にSPADの受光可能期間が開始する制御を示している。また、遅延1nsecでのSPAD制御タイミング33は、パルス発振レーザーの照射から1nsec遅れてSPADの受光可能期間が開始する制御を示している。さらに、遅延2nsecでのSPAD制御タイミング34は、パルス発振レーザーの照射から2nsec遅れてSPADの受光可能期間が開始する制御を示している。各遅延時間での測定は、各受光開始期間内にアバランシェ電流によるパルスが発生したか否かを検出し、その測定を一定回数繰り返して、パルス発生回数を積算することで行われる。
【0034】
図10は、図8に示すような制御により、パルス発振レーザーの照射からSPADの受光開始までの遅延時間を0nsecから5nsecまで0.02nsecずつ変更して、各遅延時間での測定を216=65536回繰り返し、積算されたパルス発生数を指数関数の組み合わせで近似してグラフにプロットした一例である。図10のグラフの縦軸は、対数目盛で表示されている。各遅延時間における測定回数が65536回であるため、パルスカウントの最大値は65536で飽和している。
【0035】
図10における飽和領域41は、パルス発振されたレーザー光の光子の入射からほぼ即時にアバランシェ電流によるパルスが発生している状態で、各遅延時間での測定繰り返し回数が65536回であるため、また、繰り返された全測定でパルスがカウントされるため、パルスカウントは65536で飽和している。遅延時間0.1nsecから1.5nsecの間には、時定数0.2nsecで減衰する高速テール42の領域、遅延時間1.3nsec以降には、時定数20nsecで減衰する低速テール43の領域が存在する。高速テール42、低速テール43におけるパルスカウントの指数関数的減少は、SPADに入射した光子により生成した電荷キャリアが拡散により空乏層の端に到達しアバランシェを引き起こすまでの時間が統計的に揺らぐためと考えられる。また、高速テール42と低速テール43の二つの減衰特性の存在は、光子が吸収された位置の違いによると考えられている。図10は、実験に用いたSPADのデータを模式的に示した一例であり、実際には指数的に減少する成分の様々な組み合わせで近似される応答を示すことが知られている。
【0036】
以上に説明したSPADにおける応答時間分布の特性に鑑みると、特許文献1に示された蛍光寿命を用いて蛍光を検知する方法は、高速テールあるいは低速テールの領域でSPADのアバランシェ電流によるパルスをカウントし、蛍光がないときのカウント数(バックグラウンド)からカウント数が増加することをで、蛍光の検知とみなしていると理解できる。
【0037】
特許文献1の液体中微粒子分析システム(図9において符号50を付す)の集積回路チップ57においては、SPAD56の受光面以外の領域には、光を透過させない配線メタル54,55が設けられている。このように構成された集積回路チップ57においては、図9のように液中を矢印51の向きに流れる微粒子52により励起光53が散乱あるいは屈折して、SPAD56に入射する励起光量が、微粒子52がSPAD56近傍に存在しないときに比べ増加することがある。そのような状況のSPAD56の応答特性は、図10の応答62に示すように、直接入射光のみの時の応答特性に比べて、励起光の入射量の増加に比例して増加し、入射光増加時の応答62に示すような特性となる。一方、蛍光分子を伴った微粒子52がSPAD上を通過する場合、励起光により蛍光分子が励起され蛍光がSPADに入射するような状態でのSPAD56の応答特性は、図10の蛍光が加わった時の応答71のようになる。ここで、蛍光分子の蛍光寿命は2nsec程度と仮定している。特許文献1の液体中微粒子分析システムにおいて、蛍光分子を伴わない細胞X1が応答62のような状態と同じようにSPAD56近傍を通過し、その後、蛍光分子を伴った細胞X2が応答71の応答特性が想定されるSPAD56近傍を通過した場合、図11に示すような、パルス発振レーザーの繰り返し照射により、パルス発振から例えば図10の第1遅延時間72の遅延において、65536回ずつの光子測定を行い、SPADの出力パルスをカウントすると、図12のようなパルスカウント90の時系列グラフが得られることになる。
【0038】
図12に示すように、この状況では、励起光増加による信号変化92と、蛍光による信号変化91とが順次観測されるが、これらの信号変化が蛍光に基づくものなのか否かの判定は、この観測データからだけでは困難であるという課題がある。
【0039】
〔まとめ〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【0040】
〔付記事項〕
本発明の第1の態様に係る液体中微粒子分析システムは、単一光子アバランシェダイオードを含む集積回路チップと、該集積回路チップの前記単一光子アバランシェダイオードの側に形成された、微粒子が流れる流路と、該流路にパルス状の励起光を照射する光源と、前記単一光子アバランシェダイオードの状態を、受光可能状態と待機状態との何れかに制御する制御部と、を備えている。
【0041】
本液体中微粒子分析システムにおいて、前記制御部は、前記光源が前記励起光を照射する照射タイミングから、前記単一光子アバランシェダイオードの状態を前記受光可能状態にするまでの遅延時間を、第1の遅延時間と、該第1の遅延時間よりも長い第2の遅延時間と、から選択し、前記照射タイミングから前記遅延時間が経過したのち、前記単一光子アバランシェダイオードの状態を所定の受光期間に亘って前記受光可能状態にし、当該受光可能状態において、単一光子アバランシェダイオードにおけるアバランシェ電流に応じてパルス状の光子を検出し、前記第1の遅延時間を用いた前記光子の検出を一定回数繰り返し、その繰り返しの中における前記光子の検出回数を第1の検出回数とし、前記第2の遅延時間を用いた前記光子の検出を前記一定回数繰り返し、その繰り返しの中における前記光子の検出回数を第2の検出回数とし、前記第1の検出回数と前記第2の検出回数とを繰り返し求めることにより、前記微粒子に付随した蛍光物質の検出を行う、構成が採用されている。
【0042】
図3に示すように、第1遅延測定101においては、図10の第1遅延時間72における測定を65532回繰り返し、SPADの出力パルスをカウントし、第2遅延測定102においては、図10の第2遅延時間73における測定を65532回繰り返し、SPADの出力パルスをカウントする。この第1遅延測定と第2遅延測定を単位測定シーケンス100として繰り返すことで、図4の第1遅延測定の出力111、第2遅延測測定の出力113が得られる。第1遅延測定の出力111を第1遅延測定のバックグラウンド時間平均112で正規化し、第2遅延測定の出力113を第2遅延測定のバックグラウンド時間平均114で正規化すると、バックグラウンド時間平均による正規化グラフ115が得られる。さらに、同一単位測定シーケンス内の正規化された第1遅延測定値の、正規化された第2遅延測定値に対する比をプロットすると116のグラフが得られる。
【0043】
116のグラフにおいては、蛍光による出力変化のみが現れ、励起光の入射量が変化に対しては変化が見られない。したがって、116の時系列データに基づいて、蛍光の検知を行うことが可能である。すなわち、上記の構成によれば、特許文献1に記載の液体中微粒子分析システムと比較して、蛍光の検出精度を向上させることができる。
【0044】
また、この結果は以下のように説明できる。励起光の入射量変化も、蛍光光子の入射もないときの、第1遅延、第2遅延で観測されるSPAD出力は、図6の高速テール131の応答に基づくもので、0.2nsecの時定数の指数関数的減衰特性を有している。ここで、励起光の散乱または屈折によりSPADへの入射量が増加すると、その増加割合に比例して、高速テールの領域の出力も増加する。そのため、第1遅延測定の正規化値の変化率と第2遅延での正規化値の変化率とは同じであり、116に示した、同一単位測定シーケンス内のそれら二つの値の比はほぼ1になり、変化が起こらない。一方、蛍光寿命が高速テールの減衰時定数より長い蛍光の蛍光光子が入射している場合のSPADの応答特性は、図10の応答71で示されるもので、応答61または応答62の出力に、蛍光寿命(ここでは2nsecと仮定している)を時定数とする指数関数的減衰量を加えたものとなる。応答61または応答62の高速テール領域の減衰は、蛍光の減衰より時定数が短く急激であるため、第1遅延時間72の遅延での応答71(蛍光が加わった時の応答)の値のバックグラウンド(応答61)に対する比より、第2遅延時間73の遅延での応答71の値のバックグラウンド(応答61)に対する比が大きくなり、116のような変化が起こる。
【0045】
本発明の第2の態様に係る液体中微粒子分析システムにおいては、上述した第1の態様に係る液体中微粒子分析システムの構成に加えて、前記光源は、互いに異なる複数の波長の励起光をそれぞれ互いに異なる前記照射タイミングで照射し、前記制御部は、前記第1の検出回数及び前記第2の検出回数の各々を、前記励起光ごとに繰り返し求めることにより、前記検出を行う、構成が採用されている。
【0046】
上記の構成によれば、互いに異なる複数の波長の励起光を用いて微粒子に付随した蛍光物質の検出を行うことができる。したがって、微粒子に付随する蛍光物質と、該蛍光物質において蛍光を生じさせる励起光の波長と、を適宜選択することによって、各蛍光物質の蛍光を、他の蛍光物質の蛍光とは分離した状態で検知することができる。より具体的に説明すると、吸収スペクトルが互いに重なりをもたない複数の蛍光物質を選択し、選択した蛍光物質のそれぞれに対し、その吸収スペクトルに含まれる波長の励起光を用いることで、複数の蛍光物質の判別が可能になる。
【0047】
本発明の第3の態様に係る液体中微粒子分析システムにおいては、上述した第1の態様又は第2の態様に係る液体中微粒子分析システムの構成に加えて、前記制御部は、前記流路に微粒子が流れていない状態における、前記第1の検出回数の時間平均値である第1の平均値と、前記第2の検出回数の時間平均値である第2の平均値と、を算出し、前記第1の検出回数を、前記第1の平均値で正規化した値を第1の正規化検出回数とし、前記第2の検出回数を、前記第2の平均値で正規化した値を第2の正規化検出回数とし、前記第1の正規化検出回数と前記第2の正規化検出回数との比に応じて前記検出を行う、構成が採用されている。
【0048】
単一光子アバランシェダイオードが検出する光子のうち、前記蛍光物質の蛍光に起因する光子は、遅延時間の変化に対して敏感に反応する傾向がある。一方、単一光子アバランシェダイオードが検出する光子のうち、微粒子による散乱及び屈折に起因する光子は、遅延時間の変化に対して鈍感に反応する傾向がある。したがって、上記の構成によれば、第1の正規化検出回数と第2の正規化検出回数との比に応じて光子の検出を行うため、遅延時間の変化に対して敏感に反応しやすい蛍光に起因する光子を確実に検出することができる。
【0049】
本発明の第4の態様に係る液体中微粒子分析システムにおいては、上述した第3の態様に係る液体中微粒子分析システムの構成に加えて、前記第1の正規化検出回数及び前記第2の正規化検出回数の少なくとも何れかの変化であって、前記微粒子による散乱及び屈折の少なくとも何れかに起因する変化に応じて、前記微粒子を検出する、構成が採用されている。
【0050】
上記の構成によれば、微粒子による散乱及び屈折の少なくとも何れかに起因する光子を検出することができるので、単一光子アバランシェダイオードの近傍に位置する流路のなかを微粒子が通過したことを検出することができる。したがって、微粒子に付随した蛍光物質が蛍光を発していることを確実に検出することができる。
【0051】
本発明の第5の態様に係る液体中微粒子分析システムにおいては、上述した第1の態様~第4の態様の何れか一態様に係る液体中微粒子分析システムの構成に加えて、前記制御部は、前記流路に微粒子が流れていない状態において、前記遅延時間を掃引し、掃引した各遅延時間を用いた前記光子の検出を一定回数繰り返し、その繰り返しの中における前記光子の検出回数をバックグラウンド検出回数として、当該バックグラウンド検出回数の遅延時間依存性を取得し、前記蛍光物質における蛍光寿命から計算される指数関数的減衰量の遅延時間依存性に対する前記バックグラウンド検出回数の前記遅延時間依存性の比が最大になる最適遅延時間を求め、前記第1の遅延時間及び前記第2の遅延時間の何れかとして前記最適遅延時間を用いる、構成が採用されている。
【0052】
上記の構成によれば、第1の遅延時間及び第2の遅延時間の何れかとして、微粒子に付随した既知である蛍光物質の蛍光寿命から計算された最適遅延時間を用いることができるので、特許文献1に記載の液体中微粒子分析システムと比較して、蛍光の検出精度を更に向上させることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 液体中微粒子分析システム
10 流路
11 注入孔
12 排出孔
13 集積回路チップ
14A 単一光子アバランシェダイオード(SPAD)
14B 光子計測回路
15 制御部
16 光源制御回路
17 半導体レーザー(光源)
18 励起光パルス(励起光)
FM 蛍光分子
X1 蛍光分子を伴わない細胞
X2 蛍光分子を伴った細胞
X3 次に観測する予定の細胞
72 第1遅延時間
73 第2遅延時間
111 第1の検出回数
113 第2の検出回数
115 第1の正規化検出回数及び第2の正規化検出回数
116 第1の正規化検出回数と第2の正規化検出回数との比
131 バックグラウンド検出回数
151 蛍光物質における蛍光寿命から計算される指数関数的減衰量
152 最適遅延時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12