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  • 特開-リチウムイオンの回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012110
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】リチウムイオンの回収方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20250117BHJP
【FI】
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114699
(22)【出願日】2023-07-12
(71)【出願人】
【識別番号】515177088
【氏名又は名称】株式会社JERA
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 亮一
(72)【発明者】
【氏名】森山 友広
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 拓司
(72)【発明者】
【氏名】伊達 安基
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031EE04
5H031HH06
5H031RR04
(57)【要約】
【課題】電解液が化学的に変性することがなく、電解液からリチウムを回収することができるリチウムイオンの回収方法を提供する。
【解決手段】半透膜を介して一対の電極が配置された容器の中に、リチウムイオンを含む有機電解液を収容し、前記一対の電極間に電位差を設けて、前記リチウムイオンを、前記容器における前記半透膜を介した一方の電極側の空間に移動させて、前記リチウムイオンを回収する、リチウムイオンの回収方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透膜を介して一対の電極が配置された容器の中に、リチウムイオンを含む有機電解液を収容し、前記一対の電極間に電位差を設けて、前記リチウムイオンを、前記容器における前記半透膜を介した一方の電極側の空間に移動させて、前記リチウムイオンを回収する、リチウムイオンの回収方法。
【請求項2】
前記有機電解液は、化学的に変性することがないよう、使用済み電池から回収されたものである、請求項1に記載のリチウムイオンの回収方法。
【請求項3】
前記半透膜は、有機電解液耐性を有する材質からなる、請求項1に記載のリチウムイオンの回収方法。
【請求項4】
前記電位差は、0V以上50V以下である、請求項1に記載のリチウムイオンの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化、軽量化、高容量化が期待される電池として、リチウムイオン電池等の非水電解液系の二次電池が提案され、実用に供されている。リチウムイオン電池は、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有する正極および負極と、非水系の電解液とから構成されている。
【0003】
リチウムイオン電池の負極材料の負極活物質としては、一般に炭素系材料またはリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有する、SiやSnといった金属材料、またはLi含有金属酸化物が用いられる。そのようなLi含有金属酸化物としては、例えば、チタン酸リチウム(LiTi12)が挙げられる。
【0004】
リチウムイオン電池の正極としては、正極材料およびバインダー等を含む正極材料合剤が用いられている。正極活物質としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等のリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するLi含有金属酸化物が用いられる。
【0005】
リチウムイオン電池の電解液には非水系溶媒が用いられる。非水系溶媒には、高電位で酸化還元する正極活物質や、低電位で酸化還元する負極活物質を適用することができる。これにより、高電圧を有するリチウムイオン電池を実現することができる。
【0006】
今後、リチウムイオン電池の需要は益々高くなり、リチウム(Li)の安定した供給方法や採取方法が求められている。リチウムの供給方法や採取方法の1つとしては、リチウムのリサイクル方法や、海水からのリチウムの採取方法が挙げられる。
【0007】
リチウムの回収方法としては、例えば、リチウムを含有する非アルカリ性の水溶液である原材料液からリチウムを含有するアルカリ性の水溶液である処理液を生成するPH変換工程と、PH変換工程後の処理液を原液として、回収液中にリチウムを回収する回収工程と、を有する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
リチウムの回収方法としては、例えば、アノード電極とカソード電極との間にリチウムイオン選択性を有するイオン液体を含浸させたリチウムイオン選択的透過膜で分画してアノード電極側にリチウム溶液セル、カソード電極側にリチウムイオン分離回収セルを形成し、リチウム溶液セルに溶液を供給し、電気透析法によってリチウムイオン選択的透過膜を透過してリチウムイオン分離回収セルに透析されるリチウムイオンを回収する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
リチウムの回収方法としては、例えば、リチウムイオン伝導性電解質膜で第1槽と第2槽とに仕切られた処理槽において、第1槽に収容した、LiとLiとをリチウムイオンの状態で含有する水溶液から、水溶液よりもLiの同位体比の高いリチウムイオンを含有する水溶液を第2槽で回収するリチウム同位体濃縮方法であって、リチウムイオン伝導性電解質膜の両面のそれぞれに接触させて設けられた多孔質構造の電極の第1槽側に、第2槽側に対して正の電圧を間欠的に印加する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2017-131863号公報
【特許文献2】特開2012-055881号公報
【特許文献3】特開2019-141808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
リチウムイオン電池の電解液からのリチウムの回収において、焙焼や溶融等、一般的なリサイクル工程では、電解液が熱等により分解され、電解液に含まれるリチウムは、一部または全てが回収困難な状態となっている。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、電解液が化学的に変性することがなく、電解液からリチウムを回収することができるリチウムイオンの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は以下の態様を有する。
[1]半透膜を介して一対の電極が配置された容器の中に、リチウムイオンを含む有機電解液を収容し、前記一対の電極間に電位差を設けて、前記リチウムイオンを、前記容器における前記半透膜を介した一方の電極側の空間に移動させて、前記リチウムイオンを回収する、リチウムイオンの回収方法。
[2]前記有機電解液は、化学的に変性することがないよう、使用済み電池から回収されたものである、[1]に記載のリチウムイオンの回収方法。
[3]前記半透膜は、有機電解液耐性を有する材質からなる、[1]に記載のリチウムイオンの回収方法。
[4]前記電位差は、0V以上50V以下である、[1]に記載のリチウムイオンの回収方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電解液が化学的に変性することがなく、電解液からリチウムを回収することができるリチウムイオンの回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るリチウムイオンの回収方法で用いられる電気透析装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のリチウムイオンの回収方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
[リチウムイオンの回収方法]
本発明の一実施形態に係るリチウムイオンの回収方法は、半透膜を介して一対の電極が配置された容器の中に、リチウムイオンを含む有機電解液を収容し、前記一対の電極間に電位差を設けて、前記リチウムイオンを、前記容器における前記半透膜を介した一方の電極側の空間に移動させて、前記リチウムイオンを回収する。
【0018】
本実施形態のリチウムイオンの回収方法では、例えば、図1に示すように、電気透析装置1を用いる。
電気透析装置1は、電気透析槽10と、半透膜20と、電極31,32と、を備える。
【0019】
電気透析槽10は、リチウムイオンを含む有機電解液を収容し、前記有機電解液の電気透析を行う容器である。電気透析槽10は、半透膜20を介して2つの空間に区切られている。電気透析槽10の一方の空間11に電極31(陽極)が配置され、電気透析槽10の他方の空間12に電極32(陰極)が配置されている。
【0020】
電気透析槽10としては、特に限定されないが、有機電解液に対する耐久性(有機電解液耐性)を有する材質からなるものが好ましい。有機溶媒耐性とは、有機電解液と接触しても劣化しない性質のことである。有機電解液耐性を有する材質としては、例えば、ガラス、セラミックス等が挙げられる。
【0021】
半透膜20としては、特に限定されないが、有機電解液耐性を有する材質からなるものが好ましい。
【0022】
電極31(陽極)および電極32(陰極)としては、特に限定されないが、例えば、白金、ニッケル、ステンレス、炭素等が挙げられる。
【0023】
有機電解液は、有機溶媒と、リチウムを含む電解質とを含有する。有機電解液は、リチウムイオンを含むものであれば特に限定されないが、リチウムイオンの回収率をより高めることができる点から、化学的に変性することがないよう、使用済み電池から回収されたものであることが好ましい。
【0024】
使用済み電池から有機電解液を、化学的に変性することがなく回収する方法は、特に限定されないが、例えば、電池のケースから有機電解液を吸引する方法、電池のケースを切断等により破壊して、有機電解液を取り出す方法等が挙げられる。
【0025】
有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等や、これらの混合液が挙げられる。
【0026】
電解質としては、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSA)等が挙げられる。
【0027】
本実施形態のリチウムイオンの回収方法では、電極31(陽極)と電極32(陰極)の間に電位差を設けて、有機電解液に含まれるリチウムイオンを、一方の空間11から他方の空間12に移動させる。
【0028】
電極31と電極32の電位差は、0V以上50V以下であることが好ましく、0V以上30V以下であることがより好ましく、0V以上10V以下であることがさらに好ましく、0V以上5V以下であることが特に好ましい。前記電位差が前記下限値以上であると、濃度差による自然拡散を超えて半透膜を介したリチウムイオンの移動が生じる。前記電位差が前記上限値以下であると、電極上での溶存化学種の酸化還元反応がリチウム回収の妨げにならない程度に抑制される。
【0029】
上記電位差を設ける時間は、特に限定されず、連続的あるいは断続的であってよく、処理する有機電解液の量や、有機電解液に含まれるリチウムイオンの量(濃度)に応じて、適宜、調整する。
【0030】
上記電位差を設ける際の有機電解液の温度は、特に限定されないが、例えば、10℃以上150℃以下であることが好ましく、40℃以上100℃以下であることがより好ましい。有機電解液の温度が前記下限値以上であると、有機電解液の流動性が高い状態が維持され、リチウムイオンが半透膜へ効率よく供給される。有機電解液の温度が前記上限値以下であると、有機電解液の化学的な分解によるフッ化水素等の生成が生じず、安定的な透析反応の継続が可能となる。
【0031】
上述のように電極31と電極32の電位差を設けることにより、他方の空間12内のリチウムイオン濃度が高くなる。すなわち、他方の空間12内の有機電解液において、リチウムイオンが濃縮される。
なお、空間12内におけるリチウムイオン濃度の増加が変化しないことが確認できたら、一方の空間11から他方の空間12へのリチウムの移動が完了したものと判断する。リチウムイオン濃度の増加の変化は、例えば、1時間あたりの平均した空間11内のリチウムイオン濃度が、初期と比較して1%以下となることを指標とする。
【0032】
有機電解液からリチウムイオンを回収する方法、言い換えれば、有機溶媒とリチウムイオンを分離する方法は、抽出剤溶液を用いた液液抽出による方法、担体を用いた固相抽出による方法、有機溶媒を加熱して除去してリチウム塩とする方法、これらを組み合わせた方法が考えられる。
【0033】
本実施形態のリチウムイオンの回収方法によれば、有機電解液を加熱したりする必要がないため、電解液が化学的に変性することがなく、電解液から高濃度にリチウムを回収することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 電気透析装置
10 電気透析槽
20 半透膜
31 電極(陽極)
32 電極(陰極)
図1