(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001216
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】球状表面処理シリカエアロゲル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/16 20060101AFI20241225BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20241225BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20241225BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20241225BHJP
B01J 20/286 20060101ALI20241225BHJP
B01J 20/281 20060101ALI20241225BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20241225BHJP
A61L 31/02 20060101ALI20241225BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20241225BHJP
C07K 14/00 20060101ALN20241225BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20241225BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20241225BHJP
【FI】
C01B33/16
B01J20/22 B
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01J20/286
B01J20/281 G
B01J20/281 X
A61K8/25
A61L31/02
A61L31/12
C07K14/00
C07K7/06
C07K7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100691
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】浜坂 剛
(72)【発明者】
【氏名】三宅 由花
(72)【発明者】
【氏名】下田 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】花澤 菜摘
【テーマコード(参考)】
4C081
4C083
4G066
4G072
4H045
【Fターム(参考)】
4C081BA02
4C081CE11
4C081CF131
4C081DA11
4C081DC03
4C081EA02
4C083AB171
4C083AB172
4C083BB23
4C083BB25
4C083BB26
4C083CC01
4C083FF01
4G066AA22C
4G066AB27B
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA23
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA28
4G066BA38
4G066CA45
4G066CA46
4G066DA07
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4G072AA28
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4G072DD03
4G072DD04
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH19
4G072PP03
4G072QQ07
4G072TT01
4G072TT05
4G072TT08
4G072TT09
4G072UU07
4G072UU11
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045EA60
(57)【要約】
【課題】 比表面積及び細孔容積が大きく、球状で、かつ配位性官能基としてアミノ酸誘導体を表面に有する多孔質シリカを提供すること。
【解決手段】 BET法による比表面積が300~1000m2/gであり、BJH法による細孔容積及び細孔半径のピークが各々1~8mL/g、1~30nmであり、コールターカウンター法により測定された粒度分布において体積基準累計50%径(D50)値が1~200μmであり、画像解析法により求めた平均円形度が0.8以上であって、かつ少なくとも1種のアミノ酸誘導体を表面に有する、球状表面処理シリカエアロゲルである。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET法による比表面積が300~1000m2/gであり、BJH法による細孔容積及び細孔半径のピークが各々1~8mL/g、1~30nmであり、コールターカウンター法により測定された粒度分布において体積基準累計50%径(D50)値が1~200μmであり、画像解析法により求めた平均円形度が0.8以上であって、かつ少なくとも1種のアミノ酸誘導体を表面に有する、球状表面処理シリカエアロゲル。
【請求項2】
(1)水性シリカゾルを調製する工程、
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程、
(3)前記シリカゾルをゲル化させて、前記W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程、
(4)前記ゲル化体中の水分を、有機溶媒に置換する工程、
(5)前記ゲル化体を、アミノ酸誘導体と結合能を有する官能基を持つ表面処理剤で処理する工程、
(6)前記置換した有機溶媒を除去する工程
(7)前記ゲル化体を、アミノ酸誘導体にて修飾する工程、及び、
(8)(7)の工程で使用した有機溶媒を除去する工程
を上記順に有する、請求項1に記載の球状表面処理シリカエアロゲルの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の球状表面処理シリカエアロゲルを含む金属吸着剤。
【請求項4】
請求項1に記載の球状表面処理シリカエアロゲルを含むカラム充填剤。
【請求項5】
請求項1に記載の球状表面処理シリカエアロゲルを含む生体適合材料。
【請求項6】
請求項1に記載の球状表面処理シリカエアロゲルを含む化粧品用添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸誘導体を表面に有する球状表面処理シリカエアロゲル、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質シリカは、シリカ表面に存在するシラノール基、又はシリカ表面に化学的な結合を介して導入した物質と、金属イオンや他の分子との親和性を利用することで、例えば、カラム充填剤、金属吸着剤、アミノ酸、ペプチド、タンパク質または核酸の固定化剤として使用されている。
【0003】
中でも、特定の金属イオンとの特異的な親和性を示す配位性官能基を表面に結合させた(固定化した)多孔質シリカは、特に金属吸着剤として、医薬用・電子材料用有機化合物の精製や希少金属の回収に広く用いられている。これらの用途に用いる際、多孔質シリカをカラムへと充填することが一般的である。
【0004】
配位性官能基として用いられる物質としてアミノ酸や複数のアミノ酸から構成されるペプチドが知られている。例えば、非特許文献1によれば、β-アラニンとヒスチジンから成るジペプチドであるカルノシンは種々の金属イオンと強固な結合を形成し、錯体を形成することが知られている。
【0005】
配位性官能基を多孔質シリカ表面に導入する手法は、まず多孔質シリカ表面に化学的な結合を介して反応性官能基を導入し、次に導入した反応性官能基と配位性官能基を有する分子とを共有結合により固定化するのが一般的である。例えば、特許文献1では、多孔質シリカ表面のシラノール基を、エポキシ基を有する表面処理剤と反応させてエポキシ基を導入し、次いでジアミンと反応させてアミノ基を導入し、さらにアミノ基と配位性官能基を有する分子とを共有結合により結合させている。
【0006】
金属吸着材として、配位性官能基を表面に導入した多孔質シリカを利用する際、金属吸着剤としての性能は、リガンドの種類や量のみならず、多孔質シリカの物性に大きく依存することが知られている。一般に、多孔質シリカの比表面積が大きいほど、回収対象金属イオンとの接触面積の増大により保持力が向上し、また多孔質シリカの細孔容積が大きいほど、通液時の背圧が低下する。さらに、均一な充填床を構築できることから、粒子は球状であることが好ましい。したがって、金属吸着剤に広く用いるためには、多孔質シリカとして、比表面積及び細孔容積が大きく、球状で、かつ金属との親和性を有する配位性官能基を表面に有する多孔質シリカを用いることが好ましい。配位性官能基としては、上述の通り、アミノ酸やペプチドがあげられる。しかしながら、現在存在する多孔質シリカは、これらの要件を十分に満たしていない。例えば特許文献1で用いられている多孔質シリカ(シリカゲル)の比表面積は74m2/gであり、比表面積が大きいとは言えない。
【0007】
比表面積及び細孔容積が大きく、かつ球状な多孔質シリカとして、球状シリカエアロゲルが知られている。特許文献2によれば、W/O型エマルションをゲル化体の分散液とし、次いで分散液をO相とW相の2層に分離させ、ゲル化体がW相に分散した分散液を得た後、金属酸化物(シリカ)表面のシラノール基を、シリル化剤と反応させて疎水化処理を施し、乾燥収縮を抑制することで、ゲル中の分散媒を超臨界条件により乾燥除去することなく、比表面積が400m2/g以上、細孔容積が2mL/g以上であり、かつ円形度が0.8以上の球状金属酸化物粉末が製造できる。
【0008】
また、特許文献3によれば、W/O型エマルションをゲル化体の分散液とし、次いでゲル化体中の水分を溶媒置換した後、球状シリカエアロゲル表面のシラノール基を、炭化水素基等の疎水基を有する表面処理剤と反応させて疎水化処理を施し、乾燥収縮を抑制することで、ゲル中の分散媒を超臨界条件により乾燥除去することなく、比表面積が400m2/g以上、細孔容積が3mL/g以上であり、かつ円形度が0.8以上の球状シリカエアロゲルが簡便に製造できる。疎水化処理された球状シリカエアロゲルは、比表面積及び細孔容積が大きい物性を利用して、断熱性付与剤や、化粧品用添加剤として用いられている。
【0009】
特許文献2又は3に記載の製造方法に倣えば、比表面積及び細孔容積が大きく、球状なシリカエアロゲルが金属吸着剤として簡便に製造できることが期待される。しかし、金属吸着剤として、医薬用・電子材料用化合物の精製や希少金属の回収に広く用いるためには、球状シリカエアロゲルの表面のシラノール基を足掛かりにして、金属イオンとの親和性を示す配位性官能基の導入が必要である。このため、表面のシラノール基を、疎水基を有する表面処理剤と反応させて疎水化処理を施す特許文献2及び3に記載の球状シリカエアロゲルを用いることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】日本国特開2011-001336号公報
【特許文献2】日本国特開2014-88307号公報
【特許文献3】国際公開第2012/057086号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】E. J. Baran, Metal Complexes of Carnosine, Biochemistry (Moscow), Vol. 95, No. 7, 2000, pp. 789-797.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述の通り、金属吸着剤として、金属イオンの保持力、通液時の背圧、均一な充填相の構築という観点で従来の多孔質シリカの性能を上回り、医薬用・電子材料用有機化合物の精製や希少金属の回収に広く用いることができる金属吸着剤を提供するためには、比表面積及び細孔容積が大きく、球状で、かつ配位性官能基を有する多孔質シリカの出現が望まれている。
【0013】
そこで本発明は、比表面積及び細孔容積が大きく、球状で、かつ配位性官能基としてアミノ酸誘導体を表面に有する多孔質シリカを提供することを目的とする。本発明において「アミノ酸誘導体」とは、アミノ酸、又は2個以上のアミノ酸がペプチド結合によって結ばれたペプチドのことを指す。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を重ねてきた。その結果、特許文献2又は3に記載の球状シリカエアロゲル製造法の、表面のシラノール基に疎水化処理を施す工程に代えて、反応性官能基を有する表面処理剤による表面処理を行い、続いてアミノ酸誘導体の導入を行うことで、乾燥収縮を抑えたまま、比表面積、細孔容積が大きく、球状で、かつアミノ酸誘導体を有する球状表面処理シリカエアロゲルが製造できることを見出した。
【0015】
すなわち本発明の一態様は、BET法による比表面積が300~1000m2/gであり、BJH法による細孔容積及び細孔半径のピークが各々1~8mL/g、1~30nmであり、コールターカウンター法により測定された粒度分布において体積基準累計50%径(D50)値が1~200μmであり、画像解析法により求めた平均円形度が0.8以上であって、かつ少なくとも1種のアミノ酸誘導体を表面に有する、球状表面処理シリカエアロゲルである。
【0016】
また、他の本発明の一態様は、
(1)水性シリカゾルを調製する工程、
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程、
(3)前記シリカゾルをゲル化させて、前記W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程、
(4)前記ゲル化体中の水分を、有機溶媒に置換する工程、
(5)前記ゲル化体を、アミノ酸誘導体と結合能を有する官能基を持つ表面処理剤で処理する工程、
(6)前記置換した有機溶媒を除去する工程
(7)前記ゲル化体を、アミノ酸誘導体にて修飾する工程、及び、
(8)(7)の工程で使用した有機溶媒を除去する工程
を上記順に有する、前記球状表面処理シリカエアロゲルの製造方法、である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様に係る球状表面処理シリカエアロゲルは、金属との親和性に富むアミノ酸誘導体を表面に有するため、医薬用・電子材料用有機化合物の精製に広く用いることができ、かつ比表面積及び細孔容積が大きく、球状であるため、保持力が良好で、通液時の背圧が低く、均一な充填床を構築可能なカラム充填剤として利用できる。
【0018】
また、本発明の一態様に係る球状表面処理シリカエアロゲルの製造方法によれば、アミノ酸誘導体と結合能を有する官能基を持つ表面処理剤による表面処理、続くアミノ酸誘導体の導入を行うことで乾燥収縮を抑えたまま、比表面積及び細孔容積が大きく、球状で、かつアミノ酸誘導体を有する球状表面処理シリカエアロゲルを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明がこれらの形態に限定されるものではない。また、特に断らない限り、数値範囲について「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
【0020】
一般的に球状シリカエアロゲルとは、湿潤シリカゲル中に含まれる溶媒を、固体ネットワークを保ったまま乾燥させ、空気に置換した多孔質シリカのうち、球形状のものであり、空隙率が70%以上である。本発明において、球状シリカエアロゲルのうち表面処理剤により表面処理が施されているものを球状表面処理シリカエアロゲルと称する。
【0021】
本発明において、「BET法による比表面積」とは、測定対象のサンプルを、1kPa以下の真空下において150℃の温度で1時間以上乾燥させ、その後、液体窒素温度における窒素の吸着側のみの吸着等温線を測定し、該吸着等温線をBET法により解析して求めた値を意味する。その際の解析に用いる圧力範囲は、相対圧0.1~0.25の範囲である。「BJH法による細孔容積」とは、上記同様に取得した吸着側の吸着等温線をBJH法(Barrett,E.P.;Joyner,L.G.;Halenda,P.P.,J.Am.Chem.Soc.1951,73,373.)により解析して得られる細孔半径1nm以上100nm以下の細孔に由来する細孔容積を意味する。「BJH法による細孔半径のピーク」とは、上記同様に取得した吸着側の吸着等温線をBJH法によって解析して得られる、細孔半径の対数による累積細孔容積の微分を縦軸にとり細孔半径を横軸にとってプロットした細孔分布曲線(体積分布曲線)が最大のピーク値をとる細孔半径の値を意味する。
【0022】
本発明の一態様に係る球状表面処理シリカエアロゲルは、BET法による比表面積が300~1000m2/gであり、好ましくは、300~900m2/gであり、特に好ましくは、300~800m2/gの範囲である。カラム充填剤として利用する際、比表面積が大きいほど、分離対象分子との接触面積の増大により保持力が向上する(Giaquinto,A.;Liu,Z.;Bach,A.;Kazakevich,Y.,Anal.Chem.2008,80,6358-6364.)。しかしながら、1000m2/gを超えて大きくなると、球状表面処理シリカエアロゲルの独立粒子(二次粒子)の多孔質構造(網目構造)を構成する一次粒子の粒子径が小さくなり、球状表面処理シリカエアロゲルの細孔構造を形成するのに十分なサイズに満たず、結果的に細孔がつぶれてしまうため、製造が困難となる。
【0023】
また、本発明の一態様に係る球状表面処理シリカエアロゲルは、BJH法による細孔容積が1~8mL/gであり、好ましくは1~6mL/gの範囲である。カラム充填剤として利用する際、細孔容積が大きい、すなわち空隙率が高いほど、Carman-Kozenyの式を用いて算出されるとおり、通液時の背圧が低下する。しかしながら、8mL/gを超えて大きくなると、二次粒子の強度が低下し、通液時にカラム内で粒子が潰れてしまうため、上記範囲内であることが好ましい。
【0024】
本発明の一態様に係る球状表面処理シリカエアロゲルは、比表面積と細孔容積とが上記の好適な範囲内の場合には、上記BJH法による細孔半径のピークが1~30nmであり、好ましくは5~20nmの範囲である。金属吸着剤として利用する際、細孔半径は、分離対象金属イオンのサイズによって最適な値が異なるため、比表面積、細孔容積との兼ね合いを考慮して、分離対象金属イオンごとに決定すればよい。
【0025】
また、本発明において、「コールターカウンター法により測定された粒度分布」における「体積基準累計50%径(D50)値」とは、測定対象のサンプル30mgをエタノール40mL中に分散させ、70W、10分間超音波破砕装置により破砕処理を施したのち、コールターカウンター法により測定し、得られた体積基準の累計50%径(D50)である。本発明の一態様に係る球状表面処理シリカエアロゲルは、D50値が1~200μmの範囲である。金属吸着剤として利用する際、粒子径が1μm~200μmの粒子が好適に使用される。粒子径が1μm未満であると、カラム充填型金属回収装置へ適用した場合、背圧の上昇が問題となり、また粒子径が200μmを超えて大きくなると、粒子内での拡散の移動距離が長くなり回収性能が低下するため、上記範囲内であることが好ましい。
【0026】
また、本発明において、「画像解析法により求めた平均円形度」とは、2000個以上の球状表面処理シリカエアロゲル粒子について走査電子顕微鏡(SEM)を用いて二次電子検出により倍率1000倍で観察したSEM像を画像解析して得られる円形度の相加平均値である。各球状表面処理シリカエアロゲル粒子について「円形度」とは、下記式(1)により求められる値である。
【0027】
C=4πS/L2 (1)
式(1)において、Cは円形度を表す。Sは当該球状表面処理シリカエアロゲル粒子が画像中に占める面積(投影面積)を表す。Lは画像中における当該球状表面処理シリカエアロゲル粒子の外周部の長さ(周囲長)を表す。二次粒子を1粒子として捉え、また凝集粒子を形成している粒子群は1粒子として計数する。
【0028】
本発明の一態様に係る球状表面処理シリカエアロゲルを構成する個々の独立粒子は、その平均円形度が0.8以上である。平均円形度が0.8より大きくなって1に近くなるほど、当該球状表面処理シリカエアロゲルを構成する個々の粒子は真球に近い形状となり、凝集粒子も少なくなり、均一な充填床を構築できる。
【0029】
本発明の一態様に係る球状表面処理シリカエアロゲルは、少なくとも1種のアミノ酸誘導体を表面に有する。
【0030】
本発明において、「アミノ酸誘導体」のうちアミノ酸は、1つの分子上にアミノ基とカルボキシ基の両方を持つ化合物である。アミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンを挙げることができる。ペプチドは、結合したアミノ酸の数に応じて、アミノ酸2分子が結合したジペプチド、アミノ酸3分子が結合したトリペプチド、アミノ酸4分子が結合したテトラペプチド、アミノ酸20分子程度までが結合したオリゴペプチド、さらに多くのアミノ酸が結合したポリペプチドなどと呼称される。ジペプチドとして、カルノシン、アンセリン、ホモアンセリン、キョートルフィン、バレニン、アスパルテーム、グロリン、バレチンなどが挙げられる。トリペプチドとして、アイゼニン、グルタチオン、ロイペプチン、メラノスタチン、オフタルミン酸、ノルオフタルミン酸などが挙げられる。テトラペプチドとして、タフトシン、エンドモルフィン、モルフィセプチン、テトラガストリンなどを挙げることができる。
【0031】
本発明において、「アミノ酸誘導体を表面に有する」とは、アミノ酸誘導体が、球状シリカエアロゲル表面に化学的な結合を介して導入された状態である。表面に導入されたアミノ酸誘導体の種類は1種類でも複数種類でもよく、また表面に導入されたアミノ酸誘導体の数も限定されない。また、球状シリカエアロゲルの最表面だけでなく、細孔内に導入されていてもよい。アミノ酸誘導体は、球状シリカエアロゲル上に導入されたアミノ基とアミノ酸誘導体のカルボキシ基、あるいは、球状シリカエアロゲル上に導入されたカルボキシ基とアミノ酸誘導体のアミノ基が脱水縮合により結合している。
【0032】
(製造方法)
本発明の一態様に係る球状表面処理シリカエアロゲルは、
(1)水性シリカゾルを調製する工程、
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程、
(3)前記シリカゾルをゲル化させて、前記W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程、
(4)前記ゲル化体中の水分を、有機溶媒に置換する工程、
(5)前記ゲル化体を、アミノ酸誘導体と結合能を有する官能基を持つ表面処理剤で処理する工程、及び、
(6)前記置換した有機溶媒を除去する工程
(7)前記ゲル化体を、アミノ酸誘導体にて修飾する工程、および
(8)(7)の工程で使用した有機溶媒を除去する工程
を上記順に行うことで製造することができる。このうち(1)~(3)の工程は、特許文献2、3などに記載の公知の方法に従って行い、ゲル化体の分散液を製造すればよい。
【0033】
(4)の工程は、(5)の工程において表面処理を円滑に進行させるために、ゲル化体中の水分を有機溶媒に置換する工程である。例えば、ゲル化体の分散液中のゲル化体と液体成分を吸引濾過機等により濾別し、ゲル化体を水で洗浄したのちに有機溶媒で洗浄することによってゲル化体中の水分を有機溶媒に置換すればよい。有機溶媒は、ゲル化体と(5)の工程で用いるアミノ酸誘導体と結合能を有する官能基を持つ表面処理剤とのいずれとも親和性を有するものが好ましく、またゲル化体と表面処理剤が化学的な結合を形成するのを妨げないものが好ましく、かつ導入するアミノ酸誘導体と結合能を有する官能基と化学反応を起こさないものが好ましい。この有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、エタノールを好適に用いることができる。
【0034】
(5)の工程は、アミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を球状シリカエアロゲル表面に導入するために、ゲル化体を、アミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を持つ表面処理剤で処理する工程である。表面処理は、(4)の工程において用いた有機溶媒にゲル化体を分散させて得た、有機溶媒とゲル化体との分散液に、アミノ酸誘導体と結合能を有する官能基を持つ表面処理剤を加え、一定時間攪拌することにより行うことができる。
【0035】
表面処理剤におけるアミノ酸誘導体との結合能を有する官能基とは、上記したアミノ基やカルボキシ基である。アミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を持つ表面処理剤は、式(2)で示される化合物を一例として挙げることができるが、本発明で使用する、アミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を持つ表面処理剤が式2で示される化合物に限定されるものではない。
【0036】
RnSiX(4-n) (2)
式2において、nは1~3の整数を表し、Rはアミノ酸誘導体との結合能を有する官能基または構造の一部にアミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を持つ置換基を表し、Xはヒドロキシ基を有する化合物との反応においてSi原子との結合が開裂して分子から脱離可能な基(脱離基)を表す。nが2以上のとき複数のRは同一でも異なっていてもよい。また、nが2以下のとき複数のXは同一でも異なっていてもよい。
【0037】
Rで示される構造の一部にアミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を持つ置換基は、炭化水素またはヘテロ原子を含む炭化水素から成る分子鎖の末端、内部、いずれかの位置に、アミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を1つまたは複数有する置換基である。分子鎖を構成する原子の個数は限定されず、また途中に分岐構造を有していてもよい。置換基に存在するアミノ酸誘導体との結合能を有する官能基はアミノ基でもカルボキシ基でも良い。
【0038】
Xで示される脱離基としては、塩素、臭素等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、-NH-SiR3で示される基、-OSiR3で示される基(Rは式(2)におけるRと同義である)等を例示できる。
【0039】
アミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を持つ表面処理剤を具体的に例示すると、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリエトキシシラン、2-(カルボメトキシ)エチルトリメトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、などが挙げられるが、上記に示される化合物に限定されるものではない。これらは市販のものが容易に入手可能であり、また、所望の物を、公知の手段により合成することも可能である。
【0040】
上記の表面処理の条件は、アミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を持つ表面処理剤の種類によるが、アミノプロピルトリメトキシシランを用いる場合には、処理温度を50℃とすると、3時間程度以上保持することで行うことができる。また、アミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を持つ表面処理剤の量は、ゲル化体の乾燥質量100質量部に対して1質量部以上200質量部以下の量が好適であるが、上記の範囲に限定されるものではない。表面処理は、1種類の表面処理剤を用いてもよく、複数の表面処理剤を用いてもよい。1種類の表面処理剤を用いる場合、その表面処理剤は、アミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を持つ表面処理剤である。一方、複数の表面処理剤を用いる場合、いずれもがアミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を持つ表面処理剤であってもよく、アミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を持たない表面処理剤を含んでもよい。
【0041】
複数の表面処理剤を用いた表面処理は、1種類目の表面処理剤を加えて一定時間処理を施したのちに、2種類目以降の表面処理剤を加えることで実施できる。反応溶媒は、(4)の工程と同様の操作により変更してもよく、また変更せずに直接表面処理剤を加えてもよい。
【0042】
複数の表面処理剤を用いた表面処理は、複数の種類のアミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を表面に導入する際、または乾燥収縮を防止する際に有効である。1種類の表面処理剤を用いた表面処理においても、乾燥収縮は抑制され、比表面積、細孔容積が大きく、球状で、かつアミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を持つ球状表面処理シリカエアロゲルを製造するのに効果的である。しかしながら、アミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を持つ表面処理剤が立体的に嵩高い場合、ゲル化体の表面に存在するシラノール基と表面処理剤が化学的な結合を形成する際に立体障害が生じ、一部のシラノール基が残存することがある。ゆえに、アミノ酸誘導体との結合能を有する官能基を持つ表面処理剤により表面処理を行って所望のアミノ酸誘導体と結合能を有する官能基を導入した後、疎水化剤による疎水化処理を施すことにより、残存シラノール基を炭化水素基等の疎水性官能基に変換して不活性化することで、乾燥収縮をより一層防ぐことができる。この残存シラノールの不活性化を目的とした疎水化処理は、一般に、エンドキャッピングと称される。エンドキャッピングは、疎水性官能基を有する疎水化剤を用いて行えばよい。
【0043】
エンドキャッピングに用いられる疎水化剤を具体的に例示すると、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、メチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、トリメチルシリルイミダゾール、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサン等のアルキルクロロシラン、アルキルメトキシシラン、アルキルシラザン、アルキルシロキサンなどが挙げられる。
【0044】
(6)の工程は、(5)の工程で用いた有機溶媒を除去する工程である。例えば、表面処理されたゲル化体と液体成分を吸引濾過機等により濾別し、有機溶媒で洗浄すればよい。有機溶媒は、表面処理剤を洗浄できるものが好ましく、かつ導入した反応性官能基と化学反応を起こさないものが好ましい。この有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、エタノールを好適に用いることができる。
【0045】
濾別により得られた、表面処理されたゲル化体は、(5)の工程で用いた有機溶媒が(7)の工程の反応を阻害する可能性があるため、乾燥機内で12時間以上乾燥して(5)の工程で用いた有機溶媒を除去することで、球状表面処理シリカエアロゲルとすることが好ましい。乾燥する際の温度は、溶媒の沸点以上で、表面処理の分解温度以下であることが好ましく、圧力は常圧(101.33kPa)ないし減圧下で行うことが好ましい。
【0046】
(7)の工程は、(6)の工程により得られた表面処理されたゲル化体又は球状表面処理シリカエアロゲル上へ、アミノ酸誘導体を導入し、アミノ酸誘導体を表面に有するゲル化体又は球状表面処理シリカエアロゲルとするために、表面処理されたゲル化体又は球状表面処理シリカエアロゲルとアミノ酸誘導体を反応させる工程である。本工程は、公知のペプチド合成と同様の方法、条件で行えばよい。以下、球状表面処理シリカエアロゲルを用いた例について説明するが、表面処理されたゲル化体を用いた場合も同様に行うことができる。有機溶媒に球状表面処理シリカエアロゲルを分散させて得た、有機溶媒と球状表面処理シリカエアロゲルとの分散液に、アミノ酸誘導体と縮合剤を加え、一定時間攪拌することにより行うことができる。
【0047】
ここで反応させるアミノ酸誘導体は、アミノ基あるいはカルボキシル基のいずれかを保護基によって保護されていても良い。保護基とは、所望の反応以外を抑制するために用いられるものであり、保護されていることが好ましい。例えば、球状表面処理シリカエアロゲル上にアミノ基が導入されている場合、アミノ酸誘導体上のカルボキシル基と選択的な反応を行うために、アミノ酸誘導体上のアミノ基を保護基によってマスクする。アミノ酸誘導体上のアミノ基の保護基として、tert―ブトキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、フタロイル基、ノシル基、アリルオキシカルボニル基が挙げられ、脱保護の容易さと、アミノ酸誘導体導入量の算出が容易に可能であることから、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基が好ましい。これらは市販のものが容易に入手可能であり、また、所望の物を、公知の手段により合成することも可能である。
【0048】
縮合剤は、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、 (1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスファート、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム-3-オキシドヘキサフルオロホスファートが挙げられる。これらは市販のものが容易に入手可能であり、また、所望の物を、公知の手段により合成することも可能である。
【0049】
必要に応じて添加剤を加えても良い。例えば反応を加速するための添加剤として、1-ヒドロキシベンゾトリアゾールあるいは3,4-ジヒドロ-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジンなどが挙げられる。これらは市販のものが容易に入手可能であり、また、所望の物を、公知の手段により合成することも可能である。
【0050】
また、必要に応じて塩基を加えても良い。塩基として、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチルアミノピリジンなど公知の塩基を制限なく使用することができる。これらは市販のものが容易に入手可能であり、また、所望の物を、公知の手段により合成することも可能である。
【0051】
有機溶媒は、球状表面処理シリカエアロゲルが分散され、縮合剤や添加剤が溶解することができれば、特に限定なく使用することができる。縮合剤や添加剤の溶解性、縮合反応の効率性の観点から、N,N-ジメチルホルムアミドが好ましい。
【0052】
上記の縮合反応の条件は、アミノ酸誘導体や縮合剤や添加剤の種類によるが、球状表面処理シリカエアロゲルとしてアミノ基を導入した球状シリカエアロゲル、アミノ酸誘導体としてアミノ基保護アラニン、縮合剤として1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム-3-オキシドヘキサフルオロホスファート、添加剤として1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、塩基としてジイソプロピルエチルアミン、溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを用いる場合には、処理温度を25℃とすると、30分程度以上攪拌することで行うことができる。また、使用するアミノ酸誘導体、縮合剤、添加剤、塩基の量は、シリカエアロゲル上に導入されたアミノ酸誘導体と結合能を有する官能基の量に応じて決定する。該官能基量1molに対して、アミノ酸誘導体、縮合剤、添加剤、塩基は1mol以上50mol以下の量が好適であるが、上記の範囲に限定されるものではない。
【0053】
(8)の工程は、(7)の工程で用いた有機溶媒を除去する工程である。例えば、アミノ酸誘導体を表面に有する球状表面処理シリカエアロゲルと液体成分を吸引濾過機等により濾別し、有機溶媒で洗浄すればよい。有機溶媒は、使用した縮合剤、添加剤及び塩基を洗浄できるものが好ましく、かつ使用した縮合剤、添加剤及び塩基と化学反応を起こさないものが好ましい。この有機溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。このうち、エタノールやN,N-ジメチルホルムアミドを好適に用いることができる。
【0054】
濾別により得られた、アミノ酸誘導体を表面へ修飾したゲル化体は、乾燥してもよい。例えば、乾燥機内で12時間以上乾燥することで、アミノ酸誘導体を表面へ修飾した球状表面処理シリカエアロゲルを得ることができる。乾燥する際の温度は、溶媒の沸点以上で、表面処理の分解温度以下であることが好ましく、圧力は常圧(101.33kPa)ないし減圧下で行うことが好ましい。
【0055】
本製造方法においては、上記(1)~(8)の工程を経ることにより、本発明の一態様に係る球状表面処理シリカエアロゲルを得ることができる。
【0056】
(製造方法に関する付記事項)
本製造方法において、本発明の球状表面処理シリカエアロゲルは、超臨界乾燥等公知の方法により製造された球状シリカエアロゲルに対して(5)~(8)の工程を実施することによっても得ることができる。球状シリカエアロゲルを、有機溶媒中に分散させ、(5)の工程で用いた表面処理剤で表面処理し、(6)の工程と同様に有機溶媒を除去し、(7)の工程で用いたアミノ酸誘導体や縮合剤等で処理し、(8)の工程と同様に有機溶媒を除去することで、上記(1)~(8)の工程により製造したアミノ酸誘導体を表面に有する球状表面処理シリカエアロゲルと同様の物性のアミノ酸誘導体を表面に有する球状表面処理シリカエアロゲルを得ることができる。超臨界乾燥法による処理の処理条件は特に限定されず、ゲル化体中の溶媒が超臨界二酸化炭素によって完全に置換され得る条件を適宜採用することができる。そのような処理条件は、例えば、40℃、9MPaにおいて処理時間6時間で、超臨界二酸化炭素を更新しながら5回繰り返し置換を行うものである。
【0057】
表面処理により導入したアミノ酸誘導体の量は、元素分析により測定した炭素含有量(C量)、窒素含有量(N量)、硫黄含有量(S量)より算出した値である。C量、N量、S量は、温度1150℃において酸素とヘリウムをフローしながら酸化処理し、発生した二酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物の量を定量することにより測定する。アミノ酸誘導体中に窒素、もしくは硫黄を含む場合は、元素量/(アミノ酸誘導体1分子中に含まれる元素の数)としてアミノ酸誘導体の量を算出する。
【0058】
また、導入したアミノ酸誘導体の種類は、赤外分光分析法(IR)や核磁気共鳴法(NMR)により同定することができる。たとえば、IRでは、アミノ酸がシリカエアロゲル表面へ修飾された場合に生じるアミド基や、その他の有機官能基を同定する。また、NMRでは、C核種の分析を行うことで、表面に導入されたアミノ酸誘導体を同定することができる。また、Si核種の分析を行うことで、シリカ中のSi原子周辺の結合情報を得ることができる。
【0059】
アミノ酸誘導体の導入量は、(5)の工程において用いる表面処理剤の量によって制御することが可能であり、0.1mmol/g以上であることが好ましい。ただし、金属吸着剤として利用する際、アミノ酸誘導体の量は分離対象金属イオンとの親和性の強弱を考慮して決定すればよく、上記の範囲に限定されるものではない。
【0060】
(用途)
本発明の一態様に係る球状表面処理シリカエアロゲルは、配位性官能基であるアミノ酸誘導体を表面に有するため、医薬用・電子材料用有機化合物の精製や希少金属の回収に広く用いることができる。また、カラムへ充填して用いる場合、比表面積および細孔容積が大きく、球状であるため、生体分子の保持力が良好で通液時の背圧が低く、さらに、均一な充填床を構築可能であるため、カラム充填金属吸着剤として好適に利用できる。
【0061】
また、配位性官能基を有する多孔質シリカゲルの用途であった、ペプチド、タンパク質または核酸といった生体分子の分離、分析、及び精製用のカラム充填剤としても利用できる。さらに、表面にアミノ酸誘導体を有するため、生体適合材料や、化粧品用添加剤としても利用できる。
【実施例0062】
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例を示す。ただし本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。なお、実施例及び比較例の評価は以下の方法で実施した。
【0063】
〔球状表面処理シリカエアロゲルの製造〕
<評価方法>
BET法による比表面積、BJH法による細孔容積、BJH法による細孔半径のピークの測定は、上述の定義に従って日本ベル株式会社製BELSORP-miniにより行った。
【0064】
体積基準累計50%径(D50)の測定は、上述の定義に従ってBECKMAN COULTER製Multisizer 3により行った。超音波破砕装置による破砕処理は、BRANSONIC製1510J-DTH(出力70W)を用いて行った。
【0065】
平均円形度の測定は、上述の定義に従って日立ハイテクノロジーズ製S-5500(加速電圧3.0V、二次電子検出)を用いて行った。
【0066】
アミノ酸誘導体導入量は、上述の定義に従って、C量、N量から算出した。C値およびN値の測定は、全自動元素分析装置(elementar製vario MICRO cube)を用いて、温度1150℃において酸素とヘリウムをフローしながら測定した。
【0067】
<実施例1>
(ゲル化体の製造((1)~(4)の工程))
硫酸(濃度9.2g/100mL)70gをスターラーで攪拌しながら、珪酸ソーダ(濃度SiO2 16.4g/100mL、Na2O 5.4g/100mL、SiO2モル/Na2Oモル=3.2)を、pH2.9になるまで徐々に添加して、pH2.9の水性シリカゾルを調製した((1)の工程)。このシリカゾルを140g分取し、130gのヘプタン、ソルビタンモノオレエートを1.5g添加し、ホモジナイザー(IKA製、T25BS1)を用いて5600rpm/分の条件で1.5分攪拌し、W/Oエマルションを形成した((2)の工程)。得られたエマルションを攪拌羽で攪拌しながら、70℃で1時間かけてゲル化した((3)の工程)。イソプロピルアルコール77gとイオン交換水60gとを加えて、攪拌羽で攪拌しながらO相とW相とを分離した。続けて、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液を4.8g添加した。70℃、1時間かけて、ゲル化体の熟成を行った。このスラリー溶液を濾過し、得られたケーキをイオン交換水、エタノールの順で洗浄することで、エタノールが浸透した状態のゲル化体を得た((4)の工程)。
【0068】
(表面処理((5)、(6)の工程))
ゲル化体をエタノール100g中に分散させ、攪拌羽で攪拌しながら、アミノプロピルトリメトキシシラン(9.8g、5.0mmol/g)を徐々に添加して、50℃で3時間攪拌した((5)の工程)。このスラリーを濾過し、得られたケーキをエタノールで洗浄したのち、真空圧力下、150℃で12時間以上加熱乾燥することで、アミノ基を有する球状表面処理シリカエアロゲルを得た((6)の工程)。
【0069】
(アミノ酸誘導体導入((7)、(8)の工程))
球状表面処理シリカエアロゲル(0.10g)、N-[(9H-フルオレン-9-イルメトキシ)カルボニル]-L-アラニン(0.14g)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-ベンゾトリアゾリウム-3-オキシドヘキサフルオロホスファート(0.17g)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(0.07g)、ジイソプロピルエチルアミン(0.15mL)をN,N-ジメチルホルムアミド(2mL)へ加え、25℃にて30分間攪拌した((7)の工程)。このスラリーを濾過し、ケーキを得た。このケーキへ20%ピぺリジン/N,N-ジメチルホルムアミド(2mL)を加え、25℃にて10分間攪拌した。このスラリーを濾過し、得られたケーキをN,N-ジメチルホルムアミド(2mL×2)により洗浄したのち、真空圧力下、50℃で12時間以上真空乾燥することで、アミノ酸誘導体としてアラニンを有する球状表面処理シリカエアロゲルを得た((8)の工程)。得られた球状表面処理シリカエアロゲルの物性評価の結果を表1に示す。
【0070】
<実施例2>
アミノ基を有する球状表面処理シリカエアロゲルの製造は、実施例1と同様の操作で実施した。アミノ酸誘導体導入の工程では、アミノ酸誘導体としてN,1―ビス[(9H―フルオレン-9―イルメトキシ)カルボニル]―L―ヒスチジルグリシンを用いた以外は製造例1と同様の操作で実施し、アミノ酸誘導体としてカルノシンを有する球状表面処理シリカエアロゲルを得た。得られた球状表面処理シリカエアロゲルの物性評価の結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
<金属吸着能評価>
実施例2で得た球状表面処理シリカエアロゲル及び比較例1として疎水化された市販の球状シリカエアロゲルの金属吸着能を評価した。金属塩を有機溶媒中へ溶解させ、該金属が1000ppmとなるように調製した。得られた溶液(5mL)にシリカ(50mg)を加え、5分間撹拌し、メンブランフィルター(0.45μm、PTFE製)を用いてろ過した。回収液の1mLを乾固し、希硝酸(1%、50mL)を加え、残渣を溶解し、誘導結合プラズマ発光分析装置(サーモフィッシャー製 iCAP 6500 DUO)にて測定した。試料液をメンブランフィルターへ通した溶液から得られた金属量を基準とし、シリカへの吸着量を求めた。
【0073】
金属塩として、酢酸銅(I)1水和物、酢酸パラジウム、酢酸ニッケルを使用し、溶媒としてアセトニトリルを使用した。比較例1としては、トクヤマ製多孔質球状シリカエアロゲル エアリカ MT-10(BET比表面積633m2/g、細孔容積4.02mL/g、細孔半径のピーク17.2nm、D50値10μm、平均円形度0.8以上、表面官能基メチル)を使用した。
【0074】
【0075】
本発明の実施例2で得たアミノ酸誘導体を表面に有する球状表面処理シリカエアロゲルは、3種の金属に対して高い吸着能を示した。比較例で用いたシリカは、3種すべての金属に対して高い吸着能を発揮しない。