(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012286
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20250117BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250117BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115020
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】栴檀 祐暉
(72)【発明者】
【氏名】金田 治輝
(72)【発明者】
【氏名】川添 拓哉
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA13
(57)【要約】
【課題】コバルトの含有量を抑制しつつ、リチウムイオン二次電池に用いた際に、優れた放電容量を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【解決手段】
一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
一般式:LiaNi1-xFexMyO2+α(a、x、y、αは、0.95≦a≦1.5、0.01≦x≦0.2、0≦y<0.1、及び、-0.1≦α≦0.2を満たす数であり、Mは、W、Mo、V、Ti、Sn、Mn、Nb、Zr、Ta、B、及び、Siの中から選択される1種以上の元素を含む)で表され、
リチウム金属複合酸化物を含み、
前記リチウム金属複合酸化物が、α-NaFeO2型結晶構造を有しており、
余剰リチウム含有量が、0.1質量%以上1質量%以下である、リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
一般式:LiaNi1-xFexMyO2+α(a、x、y、αは、0.95≦a≦1.5、0.01≦x≦0.2、0≦y<0.1、及び、-0.1≦α≦0.2を満たす数であり、Mは、W、Mo、V、Ti、Sn、Mn、Nb、Zr、Ta、B、及び、Siの中から選択される1種以上の元素を含む)で表され、
リチウム金属複合酸化物を含み、
前記リチウム金属複合酸化物が、α-NaFeO2型結晶構造を有しており、
余剰リチウム含有量が、0.1質量%以上1質量%以下である、リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム金属複合酸化物は、a軸の格子定数が2.87Å以上である、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム金属複合酸化物は、c軸の格子定数が14.2Å以上である、請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム金属複合酸化物は、X線回折パターンにおいて、(003)面のピークの半価幅が0.1°以下である、請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、スマートフォン、モバイルPCなどの電子機器をはじめ、高出力化・大容量化が必要な電動工具、電気自動車などの電源を担う電池として、広く用いられている。リチウムイオン二次電池は、将来的には、次世代ロボット、ドローンなどへの搭載のほか、スマートグリッド、スマートコミュニティー構築のためのキーデバイスとしても期待され、現在も、更なる高性能化・低コスト化のための改良・改善が試みられている。
【0003】
リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質として、ニッケル、マンガン、及び、コバルトを特定の比率で含有するリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(以下、「NMC」とも記載する)からなる正極活物質が知られている。また、リチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質として、ニッケル、コバルト、及び、アルミニウムを特定の比率で含有する、リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(以下、「NCA」とも記載する)からなる正極活物質も知られている。上記正極活物質は、熱安定性に優れ、高容量で、サイクル特性も良好で、かつ、低抵抗で高出力が得られる材料として、特に注目を集めている。その中でも、従来広く用いられていた正極活物質として、例えば、特許文献1~特許文献3などで開示されている、NMC111、NMC532、NMC622、及び、NMC811が挙げられる。なお、NMCの後の数字は各元素の物質量比での含有割合を意味し、NMC111は、ニッケル、マンガン、コバルトを1:1:1の割合で含有することを意味する。
【0004】
一方で、これらNMC、NCAなどのリチウム金属複合酸化物には、レアメタルの中でも、特に高価なコバルトが多く含まれており、リチウムイオン二次電池のコストを上昇させる大きな要因となっている。また、資源量の観点からも、コバルト資源の約20%が、電池分野に用いられている現状からすると、このまま、希少なコバルトを多く含むリチウム金属複合酸化物を、継続して生産したならば、今後のリチウムイオン二次電池の需要拡大に対応することは、極めて困難であると考えられている。
【0005】
従って、コバルトの比率を抑えると共に、優れた電池特性を保ちながら、より一層の低コスト化が実現された、リチウム金属複合酸化物を開発することは、リチウムイオン二次電池における、今後の更なる発展のための重要な鍵となる。
【0006】
例えば、特許文献4には、リチウム金属又はリチウムを吸蔵放出可能な材料からなる負極と、リチウムを吸蔵放出可能なリチウム含有金属酸化物からなる正極とを備えたリチウム二次電池であって、前記リチウム含有金属酸化物は、組成式LixMn1-y-zNiyFezO2で表され、1≦x≦1.3、0.05≦y<0.9、0.05≦z<0.9、及び、0.1≦y+z≦0.9であることを特徴とする、リチウム二次電池が開示されている。特許文献4によれば、正極活物質に安価で資源の豊富な材料であるマンガンを用いながら結晶構造の安定性に優れ、サイクル寿命特性、保存特性などの電池特性に優れたリチウム二次電池を提供することができるとされている。
【0007】
特許文献5には、組成式Li1+x(Ti1-y-zFeyNiz)1-xO2(但し、0≦x≦0.33、0<y≦0.95、0<z≦0.5、0<y+z<1)で表され、立方晶岩塩型構造を有する、リチウムフェライト系複合酸化物が開示されている。特許文献5によれば、安価な原料を使用して、既存のリチウムコバルト酸化物系正極材料と同等の作動電圧領域(約4V)において安定に充放電させることができる新規なリチウムフェライト系複合酸化物材料を得ることができるとされている。
【0008】
特許文献6には、マンガン化合物、鉄化合物およびニッケル化合物を含む混合水溶液を、0℃以下の液温下で、アルカリ性として沈澱物を形成し、得られた沈澱生成物をリチウム化合物と共に焼成することを特徴とする、組成式Li1+x(Mn1-m-nFenNim)1-xO2(但し、0<x<1/3、0.01≦m≦0.50、0.05≦n≦0.75、0.06≦m+n<1)で表される、リチウムフェライト系複合酸化物の製造方法が開示されている。特許文献6によれば、水熱合成という煩雑な操作を行うことなく、簡便な製造方法によって、所定の組成式で表されるリチウムフェライト系複合酸化物を得ることができるとされている。
【0009】
特許文献7には、式(A):Lix(Mn1-y-zNiyFez)O2(ここで、xは、0.9以上1.3以下の範囲の値であり、yは、0.46以上0.5未満の範囲の値であり、zは、0以上0.1未満の範囲の値である。)で表わされることを特徴とする、リチウム複合金属酸化物が開示されている。特許文献7によれば、従来のリチウム二次電池に比し、サイクル特性の観点、特に60℃などのような高温作動時のサイクル特性において、より優れた非水電解質二次電池を与えることができるとされている。
【0010】
特許文献8には、式(A):Lix(Mn1-(y+z)NiyFez)O2(ここで、xは、0.9以上1.3以下であり、yは、0.5を超え0.7以下であり、zは、0を超え0.1以下である。)で表わされるリチウム複合金属酸化物が開示されている。特許文献8によれば、従来のリチウム二次電池に比し、放電容量がより高い非水電解質二次電池が与えられるとされている。
【0011】
特許文献9には、非水溶媒に溶解するポリマーによって、正極活物質の表面が全面被覆されていることを特徴とする、非水電解質二次電池用正極材料が開示されている。特許文献9によれば、正極活物質の表面を全面的に被覆した非水溶媒に溶解するポリマーにより、正極活物質の非水電解質への直接的な接触が抑制されて正極活物質(特に活性点)と電解質との過剰な化学反応を防止するので、ニッケル分の多い正極活物質を正極板に使用しても、充電時における正極板の熱的安定性を向上させることができるとされている。
【0012】
特許文献10には、組成式:Li1+x(Mn1-m-nFemNin)1-xO2(式中、x、m及びnの範囲は、0≦x≦1/3、0≦m≦0.6、0≦n≦0.3である)で表される、単斜晶層状岩塩型構造を有する複合酸化物であって、(1)Mn、Fe及びNiの三成分のモル比が、Mn、Fe及びNiを各頂点とするモル比三角組成図において、点A(Mn:Fe:Ni=60:40:0)、点B(Mn:Fe:Ni=40:60:0)、点C(Mn:Fe:Ni=70:0:30)、及び点D(Mn:Fe:Ni=80:0:20)、の4点を頂点とする四角形の範囲内にあり、(2)Mn、Fe及びNiの平均酸化数が3.4~3.6であることを特徴とするリチウムマンガン系複合酸化物が開示されている。特許文献10によれば、鉄及びニッケルを含むリチウムマンガン系複合酸化物において、マンガン、鉄及びニッケルからなる遷移金属元素の平均酸化数が3.4~3.6に制御された新規な複合酸化物を得ることができるとされている。
【0013】
特許文献11には、多結晶Co-Ni-Mn三元系正極材が開示されている。特許文献11によれば、優れた電気化学性能とより高い体積エネルギー密度を有し、安全性が高く、材料のコストが低いとされている。
【0014】
特許文献12には、LixNi1-y-zCoyMzO2(但し、0.96≦x≦1.03、0.05<y≦0.20、0<z≦0.10、MはV、Cr、Fe、Mnからなる群より選ばれた少なくとも1種類以上の金属元素)で表されるリチウム金属複合酸化物粉末からなる非水系電解質二次電池用正極活物質が開示されている。特許文献12によれば、高容量かつサイクル特性に優れ、電池極板製造時のペースト調整においてゲル化することなく容易に極板の製造を可能とし、近年の携帯電子機器等の小型二次電池に対する高容量化の要求を満足するとともに、ハイブリッド自動車用、電気自動車用あるいは定置型蓄電池用の大型二次電池に用いられる電源として求められるサイクル特性をも確保することが可能な非水系電解質二次電池を提供できるとされている。
【0015】
特許文献13には、組成式Li1+x-w(FeyNizMn1-y-z)1-xO2-δ(0<x<1/3、0≦w<0.8、0<y<1、0<z<0.5、y+z<1、0≦δ<0.5)で表された、リチウム鉄マンガン系複合酸化物を含むリチウムマンガン系複合酸化物であって、前記リチウムマンガン系複合酸化物を正極活物質として使用した、リチウムイオン電池の少なくとも充電状態において、少なくとも一部の鉄が5価であることを特徴とする、リチウムマンガン系複合酸化物が開示されている。特許文献13によれば、高容量化を実現できるリチウムマンガン系複合酸化物、並びにそれを用いた正極及びリチウムイオン二次電池を提供することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2010-192424号公報
【特許文献2】特開2015-018803号公報
【特許文献3】特開2022-063416号公報
【特許文献4】特開2000-195516号公報
【特許文献5】特開2003-306332号公報
【特許文献6】特開2006-036621号公報
【特許文献7】特開2010-222234号公報
【特許文献8】特開2011-093783号公報
【特許文献9】特開2013-012410号公報
【特許文献10】特開2013-212959号公報
【特許文献11】特表2013-501317号公報
【特許文献12】特開2015-056368号公報
【特許文献13】国際公開第2018/143273号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、従来報告されているコバルトの含有量を抑制した正極活物質では、リチウムイオン二次電池に適用した場合の放電容量を十分に高めることが出来ず、さらなる性能向上が求められていた。
【0018】
そこで、本発明の一側面では、コバルトの含有量を抑制しつつ、リチウムイオン二次電池に用いた際に、優れた放電容量を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様によれば、
一次粒子が凝集した二次粒子を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
一般式:LiaNi1-xFexMyO2+α(a、x、y、αは、0.95≦a≦1.5、0.01≦x≦0.2、0≦y<0.1、及び、-0.1≦α≦0.2を満たす数であり、Mは、W、Mo、V、Ti、Sn、Mn、Nb、Zr、Ta、B、及び、Siの中から選択される1種以上の元素を含む)で表され、
リチウム金属複合酸化物を含み、
前記リチウム金属複合酸化物が、α-NaFeO2型結晶構造を有しており、
余剰リチウム含有量が、0.1質量%以上1質量%以下である、リチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、コバルトの含有量を抑制しつつ、リチウムイオン二次電池に用いた際に、優れた放電容量を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る、電池特性の評価に用いた、コイン型電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形、及び置換を加えることが出来る。
【0023】
以下に、本発明に係る、リチウムイオン二次電池用正極活物質について、詳細に説明する。以下の説明において、「A~B」との記載は、「A以上B以下」を意味する。
1.リチウムイオン二次電池用正極活物質
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)は、一次粒子が凝集した二次粒子を含む。
【0024】
本実施形態の正極活物質は、一般式:LiaNi1-xFexMyO2+αで表すことができる。上記一般式中のa、x、y、αは、0.95≦a≦1.5、0.01≦x≦0.2、0≦y<0.1、及び、-0.1≦α≦0.2を満たす数であることが好ましい。また、一般式中の元素であるMは、W、Mo、V、Ti、Sn、Mn、Nb、Zr、Ta、B、及び、Siの中から選択される1種以上の元素を含むことができる。
【0025】
本実施形態の正極活物質は、リチウム金属複合酸化物を含むことができる。そして、リチウム金属複合酸化物は、α-NaFeO2型結晶構造を有することができる。
【0026】
本実施形態の正極活物質は、余剰リチウム含有量を0.1質量%~1質量%とすることができる。
(1)粒子形態・粒子内部構造
本実施形態の正極活物質は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子を含むことができる。本実施形態の正極活物質は、二次粒子から構成することもできるが、部分的に、二次粒子として凝集しない状態の一次粒子を含んでいてもよい。
【0027】
上記二次粒子を構成する一次粒子、及び、単独で存在する一次粒子の形状については、特に限定は無く、球状、板状、針状、直方体状、楕円状、及び、菱面体状など、様々な形状を取り得る。また、複数の一次粒子の凝集形態についても、特に限定は無く、ランダムな方向に凝集する形態のほか、中心部からほぼ均等かつ放射状に凝集し、略球体形状や楕円体形状の二次粒子を形成する形態など、様々な形態を取り得る。
【0028】
上記の二次粒子の形態を有する本実施形態の正極活物質の粒子は、内部が中実構造になっており、中空構造や多孔構造の二次粒子は、殆ど含んでいないことが好ましい。
【0029】
本明細書において中実構造とは、二次粒子の断面において、中身が詰まった状態であり、大きな空隙部が無い構造のことを言う。この様に、内部に大きな空隙部が無い中実構造を有する粒子は、高い強度を持つため、正極活物質として用いた場合に、嵩密度が過度に低下させず、正極活物質と電解質との接触面積を十分に確保することが出来る。
【0030】
本実施形態の正極活物質は、リチウム金属複合酸化物を含み、余剰リチウム等の不可避不純物を除いて、リチウム金属複合酸化物から構成することもできる。このため、上記正極活物質の一次粒子や、二次粒子は、リチウム金属複合酸化物の一次粒子、二次粒子であることが好ましい。
【0031】
リチウム金属複合酸化物は、α-NaFeO2型結晶構造(六方晶層状岩塩型結晶構造、空間群R-3m)を有することができる。
(2)組成
本実施形態の正極活物質は、組成が、一般式:LiaNi1-xFexMyO2+αで表される様に、制御されることが好ましい。
【0032】
上記一般式において、a、x、y、αは、0.95≦a≦1.5、0.01≦x≦0.2、0≦y<0.1、及び、-0.1≦α≦0.2を満たす数であることが好ましい。
【0033】
上記の一般式において、ニッケル(Ni)の含有量を示す1-xは、0.8~0.99であることが好ましい。ニッケルの含有量である1-xを0.8以上にすることで、正極活物質として用いた場合に、リチウムイオン二次電池の高電位化・高容量化を図ることが出来る。また、ニッケルの含有量である1-xを0.99以下とすることで、鉄(Fe)の物質量比を高め、添加効果を十分に得ることが出来る。
【0034】
鉄(Fe)の含有量を示すxは、0.01~0.2であることが好ましく、0.01~0.15であることがより好ましく、0.01~0.1であることが特に好ましい。特に資源量が豊富で安価な鉄を用いた材料は、正極活物質として用いた場合に、リチウムイオン二次電池の電池容量を十分に確保しながら、コストを低減させることが出来る。
【0035】
鉄の含有量であるxを0.01以上とすることで、上記のコストを低減させる効果を十分に発揮できる。また、鉄の含有量であるxを0.2以下とすることで、充放電時において、鉄の酸化還元反応(Redox反応)に起因する、不可逆的な結晶構造変化を抑制し、電池容量を高めることができる。
【0036】
次に、任意で添加される元素であるMの含有量を示すyは、0以上0.1未満であることが好ましい。Mを添加することで、正極活物質が鉄を含むことで起こる、不可逆的な結晶構造変化を特に抑制できる。また、Mの含有量を上記範囲とすることで、優れた電池容量を保つことが容易となる。Mの種類によっては、正極活物質中の酸化還元反応に貢献する金属元素が減少することになるが、Mの含有量を示すyを0.1未満とすることで、酸化還元反応に貢献する金属元素の減少を抑制し、電池容量を高められる。さらには、コスト低減の効果を高められる。
【0037】
上記一般式中のMは、例えばタングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、マンガン(Mn)、ニオブ(Nb)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、ホウ素(B)、及び、ケイ素(Si)の中から選択される1種以上であることが好ましい。Mは、+4価以上の価数を安定して取り得る元素であることがより好ましく、チタン、スズから選択された1種以上であることが特に好ましい。
(3)余剰リチウムの含有量
本実施形態の正極活物質は、余剰リチウムを含むことができ、余剰リチウムの含有量(含有割合)は、1質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以下であることがより好ましく、0.6質量%以下であることがさらに好ましい。
【0038】
なお、余剰リチウムとは、製造工程で不可避的に混入する水酸化リチウムや、炭酸リチウムに由来するリチウムを意味する。余剰リチウムの含有量は中和滴定法(R.B.Warder法による逐次滴定)により求められ、正極活物質に対する含有割合で表される。
【0039】
余剰リチウムの含有量を1質量%以下とすることで、正極活物質について優れた耐候性を付与でき、リチウムイオン二次電池に組み込んだ際に、電池容量を十分に保つことが出来る。
【0040】
本実施形態の正極活物質は、余剰リチウムの含有量が、0.1質量%以上であることが好ましく、0.11質量%以上であることがより好ましく、0.12質量%以上であることがさらに好ましい。
【0041】
余剰リチウムの含有量を0.1質量%以上とすることで、正極活物質における、インターカレーション・ディインターカレーションに必要なリチウムまでが、溶出などによって損失することを防げる。また、本実施形態の正極活物質をリチウムイオン二次電池に組み込んだ際に、電池容量を十分に保つことが出来る。
(4)格子定数(a軸、c軸)
本実施形態の正極活物質が含有するリチウム金属複合酸化物のa軸の格子定数は、2.87Å以上であることが好ましく、2.88Å以上であることがより好ましく、2.88Å~2.9Åであることがさらに好ましい。
【0042】
リチウム金属複合酸化物のa軸の格子定数を上記範囲とすることで、結晶格子の歪が大きくなり過ぎることを抑制し、電池容量を十分に保つことが出来る。
【0043】
また、リチウム金属複合酸化物のc軸の格子定数は、14.2Å以上であることが好ましく、14.21Å以上であることがより好ましく、14.21Å~14.25Åであることが特に好ましい。
【0044】
リチウム金属複合酸化物の格子定数を上記範囲とすることで、結晶格子の歪が大きくなり過ぎることを抑制し、電池容量を十分に保つことが出来る。
(5)(003)面のピークの半価幅
本実施形態の正極活物質が含有するリチウム金属複合酸化物は、X線回折パターンにおいて、(003)面のピークの半価幅は、0.1°以下であることが好ましく、0.09°以下であることがより好ましく、0.08°以下であることがさらに好ましい。
【0045】
(003)面のピークの半価幅は、0.01°以上であることが好ましい。
【0046】
結晶子径は、一次粒子の大きさに影響する指標であり、結晶子径を制御することで、一次粒子の大きさを適度なものとし、二次粒子の緻密度を高め、高い粒子密度を有する正極活物質を得ることが出来る。そして、X線回折パターンにおける、(003)面のピークの半価幅から、シェラーの式等により、結晶子径を求めることができ、半価幅が小さくなるほど結晶子径が大きくなり、半価幅が大きくなるほど結晶子径が小さくなる関係にある。
【0047】
このため、半価幅を0.1°以下とすることで、結晶子径を十分に大きくでき、一次粒子についても十分に大きなサイズとすることができる。このため、二次粒子を構成する一次粒子間での空隙を抑制し、粒子密度を高めることができる。
(6)D50粒径
本実施形態の正極活物質が含有する粒子のD50粒径は、3μm~25μmであることが好ましく、4μm~23μmであることがより好ましく、5μm~20μmであることが特に好ましい。
【0048】
本実施形態の正極活物質が含有する粒子のD50粒径を上記範囲内とすることで、この正極活物質をリチウムイオン二次電池に組み込んだ際に、正極の容積当りの電池容量を大きくすることが出来ると共に、サイクル特性を高められる。
【0049】
具体的には、D50粒径を25μm以下にすることで、正極活物質の比表面積を高め、二次電池の電解質との界面の面積を高めることができる。このため、正極抵抗を抑制し、電池の出力特性を高められる。
【0050】
また、D50粒径を3μm以上とすることで、正極を作製した際に、粒子の充填密度を高め、正極の容積当りの電池容量を向上させることができる。
【0051】
D50粒径は、正極活物質の原料となる金属複合水酸化物を晶析により製造する際の核生成の時間のほか、各金属成分を含有する原料溶液の供給量やpHにより、制御することが出来る。
【0052】
具体的には例えば、得られる正極活物質の粒子のD50粒径が25μmを超える場合は、原料溶液(金属化合物)の供給量を増やして、核生成の時間を長くしてもよく、pHを高めに制御してもよい。上記制御を行うことで、粒子の種となる、核の生成量が増加するので、得られる金属複合水酸化物や、正極活物質の粒径を小さくすることが出来る。
【0053】
また、得られる正極活物質の粒子のD50粒径が3μm未満の場合は、原料溶液の供給量を減らして、核生成の時間を短くしてもよく、pHを低めに制御してもよい。上記制御を行うことで、粒子の種となる、核の生成量が減少するため、得られる金属複合水酸化物や、正極活物質の粒径を大きくすることが出来る。
【0054】
本明細書において、D50粒径とは、レーザー回折・散乱法を用いて測定した体積基準の粒度分布から得られる体積基準の50%積算径を意味する。
2.リチウムイオン二次電池用正極活物質に関する評価方法
(1)試料の分析方法
(1-1)粒子構造
走査型電子顕微鏡(SEM)により、正極活物質の二次粒子の粒子構造を確認することが出来る。
【0055】
また、観察の際、クロスセクションポリッシャ装置(CP)であるIB-19530CP(日本電子株式会社製)により、正極活物質を加工した粒子の断面試料を用いることも出来る。そして、ショットキー電界放出型の走査型電子顕微鏡(SEM)であるJSM-7001F(日本電子株式会社製)により、断面を観察することが出来る。
(1-2)組成
正極活物質の組成は、酸分解-ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法により評価することが出来る。
【0056】
分析では、マルチ型ICP発光分光分析装置であるICPE-9000(株式会社島津製作所製)を用いることが出来る。
【0057】
得られた結果から、正極活物質に含まれているリチウムの原子数(Li)と、ニッケル、及び、鉄の原子数の合計量(Me)との比の値(Li/Me)を求めることも出来る。
(1-3)余剰リチウムの含有量
中和滴定法(R.B.Warder法による逐次滴定)により、余剰リチウムの含有量を求めることが出来る。なお、余剰リチウムは、水酸化リチウム由来のリチウム、及び、炭酸リチウム由来のリチウムを意味する。
【0058】
サンプリングした試料である正極活物質の粒子の表面部に存在する、余剰リチウムとしての水酸化リチウム、炭酸リチウムは、水に溶解して、それぞれ水酸化物イオン(OH-)、炭酸イオン(CO3
2-)の形態で、リチウムイオン(Li+)から電離する。故に、電離した、これらの陰イオンを、無機酸などで滴定することにより、水酸化リチウム由来のリチウム、炭酸リチウム由来のリチウムを合せた量を定量することが出来る。また、それぞれ分別して定量することも出来る。
【0059】
上記の滴定において、第1終点(pH:約8.3)は、水酸化リチウムの全量と、炭酸リチウムの半量が反応した時のpH変化であり、第2終点(pH:約3.8)は、炭酸リチウムの残る半量が反応したときのpH変化である。
【0060】
また、分析では、自動滴定装置であるCOM-1750(平沼産業株式会社製)を用い、pH複合電極による終点(電位差)判定を行うことが出来る。
【0061】
余剰リチウムの含有量は、まずサンプリングした正極活物質を水に添加し、得られた溶液について、上記滴定を行うことで、水酸化リチウム由来のリチウム量、及び、炭酸リチウム由来のリチウム量の合計を算出する。次いで、算出したリチウム量の質量の合計の、サンプリングした正極活物質の質量に対する割合を求め、余剰リチウムの含有量とすることが出来る。
(1-4)格子定数(a軸、c軸)、(003)面のピークの半価幅
X線回折法(XRD法)により、格子定数(a軸、c軸)、(003)面のピークの半価幅を評価することが出来る。
【0062】
X線回折パターンの測定には、X線回折装置(XRD)であるX'PertPRO(スペクトリス株式会社製)を用い、線源としてはCuKα線を用いることが出来る。そして、測定したX線回折パターンについて、一般的に広く用いられているRIETAN-FP、JADE PRO(Materials Data社製)などの解析プログラムを用い、リートベルト解析を行うことより、格子定数を求めることが出来る。なお、以下の実施例、比較例では、JADE PROを用いた。また、測定したX線回折パターンから、(003)面のピークの半価幅を求めることが出来る。
(1-5)D50粒径
正極活物質の粒子のD50粒径は、レーザー回折・散乱法を用いて測定した体積基準分布により、D50粒径を求めることが出来る。
【0063】
粒度分布の測定では、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置であるマイクロトラックMT3300EXII(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いることが出来る。そして、得られた体積基準の粒度分布から、体積基準の50%積算径をD50粒径にできる。
(2)電池の測定方法
(2-1)評価用電池(コイン型電池CBA)の作製
下記の操作により、
図1に示す評価用電池を作製することが出来る。
【0064】
正極活物質を52.5mg、アセチレンブラックを15mg、及び、ポリテトラフルオロエチレンを7.5mg、それぞれ秤量したものを混合し、100MPaの圧力で、直径11mm、厚さ100μmにプレス成形する。次いで、成形体を、真空乾燥機中、かつ、120℃で12時間乾燥して、正極PEを作製する。
【0065】
作製した正極PEを用いて、2032型コイン型電池CBAを、露点が-80℃に管理された、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で作製する。負極NEには、直径17mm、厚さ1mmの金属リチウムを用いる。電解液には、1モルのLiClO4を支持電解質(支持塩)とするエチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いる。セパレーターSEには、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いる。
【0066】
図1に示すように、正極PE、セパレーターSE、及び、負極NEを順に積層した電極体を作製し、電極体に上記電解液を含浸させた。そして、電極体を正極缶PC、負極缶NCを有するケースCA内に密閉した。
【0067】
正極PEは正極缶PCと接するように、また負極NEは負極缶NCとウェーブワッシャーWWを介して接するように配置した。
【0068】
ケースCAは、ガスケットGAを備えており、このガスケットGAによって、正極缶PCと負極缶NCとの間が非接触の状態、すなわち電気的に絶縁状態を維持するように相対的な移動を規制し、固定されている。また、ガスケットGAは、正極缶PCと負極缶NCとの隙間を密封して、ケースCA内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
(2-2)初期放電容量
初期放電容量は、下記の方法により、評価することが出来る。
【0069】
図1に示す評価用電池(コイン型電池CBA)を作製してから24時間程度放置する。そして、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2とし、カットオフ電圧4.3Vまで充電して初期充電容量を求める。次いで、1時間の休止を経て、カットオフ電圧2.5Vまで放電した際の容量として、初期放電容量を評価することが出来る。
【0070】
測定では、マルチチャンネル電圧/電流発生器であるR6741A(株式会社アドバンテスト製)を用いることが出来る。
【実施例0071】
以下、実施例、比較例を用いて、本発明を具体的に説明する。また、下記の実施例、比較例では、特に断りがない限り、富士フィルム和光純薬株式会社製の試薬類を用いた。更に、本発明は、下記の実施例、比較例により、何ら制限されるものではない。
[実施例1]
(1)金属複合水酸化物(前駆体)の製造
(晶析工程)
まず、60L反応槽に水を14L入れ、撹拌しながら槽内温度を40℃に設定し、槽内に窒素ガスを導入して、槽内の気相部を酸素濃度0.1容量%の非酸化性雰囲気に制御した。なお、晶析工程の間、反応溶液の温度は40℃に保持し、反応槽内の雰囲気も上記非酸化性雰囲気に保持した。
【0072】
次に、槽内の水中にアルカリ溶液(25質量%水酸化ナトリウム水溶液)と、アンモニウムイオン供給体(25質量%アンモニア水)を適量加えて反応溶液を作製した。この際、pH(液温25℃基準、以下同様)が12.8となる様に、かつ、アンモニウムイオン濃度が10g/Lとなる様に反応溶液を作製した。
【0073】
一方、硫酸ニッケル六水和物、硫酸第一鉄七水和物を、ニッケル、鉄の原子%がNi:Fe=95:5となる様に秤量し、かつ、ニッケル、鉄の濃度が合計2mol/Lとなる様に水と硫酸とを用いて、原料溶液を作製した。
【0074】
そして、原料溶液を槽内の反応溶液に100mL/分の供給速度で加え、それと共に、アルカリ溶液やアンモニウムイオン供給体も反応溶液に一定速度で加えた。反応溶液のpHを12.8(核生成工程pH)に、アンモニウムイオン濃度を10g/Lに、それぞれ保持した状態のまま、晶析を1分間実施することで、核生成を行った(核生成工程)。
【0075】
一旦、原料溶液、アルカリ溶液、及び、アンモニウムイオン供給体の供給を停止後、反応溶液のpHが11.6(粒子成長工程pH)になるまで硫酸を添加した。反応溶液のpHが11.6に到達してから、原料溶液、アルカリ溶液、及び、アンモニウムイオン供給体の供給を再開した。そして、反応溶液のpHを11.6に、アンモニウムイオン濃度を10g/Lに、それぞれ保持した状態のまま、晶析を4時間継続し、粒子成長を行った(粒子成長工程)。粒子成長工程を実施することで、中実構造のニッケル鉄複合水酸化物(金属複合水酸化物)である、Ni0.95Fe0.05(OH)2を含むスラリーを得た。
【0076】
得られた金属複合水酸化物(洗浄前)を含むスラリーをフィルタープレスに投入し、加圧濾過することにより、金属複合水酸化物ケーキを回収した。
(洗浄工程)
晶析工程で得られた金属複合水酸化物ケーキを反応槽に戻し、槽内にアルカリ洗浄液(5質量%水酸化ナトリウム水溶液)を満たして30分間撹拌することで、アルカリ洗浄した後、再度フィルタープレスによる加圧濾過を行い、アルカリ洗浄ケーキを回収した。
【0077】
次いで、アルカリ洗浄ケーキを反応槽に戻し、槽内に水を満たして30分間撹拌することで、水洗浄した後、再々度フィルタープレスによる加圧濾過を行い、水洗浄ケーキ(洗浄ケーキ)を回収した。
(乾燥工程)
洗浄工程で回収した水洗浄ケーキを、電気加熱式乾燥機を用いて、150℃で、かつ、5時間乾燥することにより、金属複合水酸化物(前駆体)を得た。
(2)リチウム金属複合酸化物(正極活物質)の製造
(混合工程)
得られた金属複合水酸化物(前駆体)と、リチウム化合物である水酸化リチウムとを、秤量し、十分に混合してリチウム混合物を得た。この際、目的とする正極活物質に含まれる、リチウムの原子数(Li)と、ニッケル、及び、鉄の原子数(Me)と、の比である、「比の値(Li/Me)」が1.03となる様に、各原料を混合した。
(焼成工程)
リチウム混合物を、電気炉を用いて、酸素(酸素濃度:100容量%)気流中、450℃で、かつ、2時間加熱することにより、仮焼を行なった後、酸素(酸素濃度:100容量%)気流中、720℃で、かつ、5時間加熱することにより、焼成を行った。焼成工程後に、中実構造のリチウムニッケル鉄複合酸化物を含む正極活物質を得た。正極活物質の組成は、Li1.02Ni0.95Fe0.05O2であった。
【0078】
得られた正極活物質について、粒子構造、余剰リチウムの含有量、格子定数(a軸、c軸)、(003)面ピークの半価幅、D50粒径の評価を行った。また、得られた正極活物質を用いて
図1に示したコイン型電池CBAを作製し、初期放電容量の評価を行った。評価結果を表1に示す。表1において、余剰リチウムの含有量は「余剰Li」の欄に、(003)面のピークの半価幅は「(003)面ピーク半価幅」の欄にそれぞれ示している。
【0079】
評価の条件は「2.リチウムイオン二次電池用正極活物質に関する評価方法」で説明した方法と同じであるため、説明を省略する。
【0080】
正極活物質の粒子構造の評価の結果、得られた正極活物質は、一次粒子が凝集した二次粒子を含んでいることを確認できた。また、得られた正極活物質のX線回折パターンからリチウム金属複合酸化物を含み、リチウム金属複合酸化物は、α-NaFeO2型結晶構造(六方晶層状岩塩型結晶構造、空間群R-3m)を有することが確認できた。粒子構造、およびリチウム金属複合酸化物の結晶構造についての評価結果は、以下の他の実施例でも同じになっていることを確認できた。
[実施例2]
リチウム金属複合酸化物を製造する際、混合工程において、金属複合水酸化物、水酸化リチウムに加えて、Mを供給する化合物としてチタン化合物である酸化チタン(IV)を添加、混合した。混合工程においては、目的とする正極活物質に含まれる、リチウムの原子数(Li)と、ニッケル、及び、鉄の原子数(Me)と、の比である、「比の値(Li/Me)」が1.02となる様に、各原料を秤量、混合した。また、この際、ニッケル、鉄、及び、チタンの組成比(原子%)が95:5:0.25となる様に秤量、混合してリチウム混合物を得た。
【0081】
以上の点以外は、実施例1と同じ手順で正極活物質の製造を行い、最終的に、中実構造のリチウムニッケル鉄複合酸化物を含む正極活物質を得た。正極活物質の組成は、Li1.02Ni0.95Fe0.05Ti0.0025O2であった。評価結果を表1に示す。
[実施例3]
リチウム金属複合酸化物を製造する際、混合工程において、金属複合水酸化物、水酸化リチウムに加えて、Mを供給する化合物としてチタン化合物である酸化チタン(IV)を添加、混合した。混合工程においては、目的とする正極活物質に含まれる、リチウムの原子数(Li)と、ニッケル、及び、鉄の原子数(Me)と、の比である、「比の値(Li/Me)」が1.03となる様に、各原料を秤量、混合した。また、この際、ニッケル、鉄、及び、チタンの組成比(原子%)が95:5:0.5となる様に秤量、混合してリチウム混合物を得た。
【0082】
以上の点以外は、実施例1と同じ手順で正極活物質の製造を行い、最終的に、中実構造のリチウムニッケル鉄複合酸化物を含む正極活物質を得た。正極活物質の組成は、Li1.02Ni0.95Fe0.05Ti0.005O2であった。評価結果を表1に示す。
[実施例4]
リチウム金属複合酸化物を製造する際、混合工程において、金属複合水酸化物、水酸化リチウムに加えて、Mを供給する化合物としてチタン化合物である酸化チタン(IV)を添加、混合した。混合工程においては、目的とする正極活物質に含まれる、リチウムの原子数(Li)と、ニッケル、及び、鉄の原子数(Me)と、の比である、「比の値(Li/Me)」が1.03となる様に、各原料を秤量、混合した。また、この際、ニッケル、鉄、及び、チタンの組成比(原子%)が95:5:1となる様に秤量、混合してリチウム混合物を得た。
【0083】
以上の点以外は、実施例1と同じ手順で正極活物質の製造を行い、最終的に、中実構造のリチウムニッケル鉄複合酸化物を含む正極活物質を得た。正極活物質の組成は、Li1.02Ni0.95Fe0.05Ti0.01O2であった。評価結果を表1に示す。
[実施例5]
リチウム金属複合酸化物を製造する際、混合工程において、金属複合水酸化物、水酸化リチウムに加えて、Mを供給する化合物としてスズ化合物である酸化スズ(IV)を添加、混合した。混合工程においては、目的とする正極活物質に含まれる、リチウムの原子数(Li)と、ニッケル、及び、鉄の原子数(Me)と、の比である、「比の値(Li/Me)」が1.03となる様に、各原料を秤量、混合した。また、この際、ニッケル、鉄、及び、スズの組成比(原子%)が95:5:0.25となる様に秤量、混合してリチウム混合物を得た。
【0084】
以上の点以外は、実施例1と同じ手順で正極活物質の製造を行い、最終的に、中実構造のリチウムニッケル鉄複合酸化物を含む正極活物質を得た。正極活物質の組成は、Li1.02Ni0.95Fe0.05Sn0.0025O2であった。評価結果を表1に示す。
[実施例6]
リチウム金属複合酸化物を製造する際、混合工程において、金属複合水酸化物、水酸化リチウムに加えて、Mを供給する化合物としてスズ化合物である酸化スズ(IV)を添加、混合した。混合工程においては、目的とする正極活物質に含まれる、リチウムの原子数(Li)と、ニッケル、及び、鉄の原子数(Me)と、の比である、「比の値(Li/Me)」が1.03となる様に、各原料を秤量、混合した。また、この際、ニッケル、鉄、及び、スズの組成比(原子%)が95:5:0.5となる様に秤量、混合してリチウム混合物を得た。
【0085】
以上の点以外は、実施例1と同じ手順で正極活物質の製造を行い、最終的に、中実構造のリチウムニッケル鉄複合酸化物を含む正極活物質を得た。正極活物質の組成は、Li1.02Ni0.95Fe0.05Sn0.005O2であった。評価結果を表1に示す。
[実施例7]
リチウム金属複合酸化物を製造する際、混合工程において、金属複合水酸化物、水酸化リチウムに加えて、Mを供給する化合物としてスズ化合物である酸化スズ(IV)を添加、混合した。混合工程においては、目的とする正極活物質に含まれる、リチウムの原子数(Li)と、ニッケル、及び、鉄の原子数(Me)と、の比である、「比の値(Li/Me)」が1.03となる様に、各原料を秤量、混合した。また、この際、ニッケル、鉄、及び、スズの組成比(原子%)が95:5:1となる様に秤量、混合してリチウム混合物を得た。
【0086】
以上の点以外は、実施例1と同じ手順で正極活物質の製造を行い、最終的に、中実構造のリチウムニッケル鉄複合酸化物を含む正極活物質を得た。正極活物質の組成は、Li1.02Ni0.95Fe0.05Sn0.01O2であった。評価結果を表1に示す。
[実施例8]
金属複合水酸化物を、電気炉を用いて、大気(酸素濃度:21容量%)気流中、450℃で、かつ、2時間加熱することにより、仮焼を行なった。次いで、大気(酸素濃度:21容量%)気流中、600℃で、かつ、5時間加熱することにより、酸化焙焼を行い、中実構造のニッケル鉄複合酸化物(金属複合酸化物)である、Ni0.95Fe0.05Oを得た(酸化焙焼工程)。
【0087】
そして、混合工程において、金属複合水酸化物(前駆体)の代わりに、酸化焙焼工程で得られた金属複合酸化物(中間物)を用いた。
【0088】
以上の点以外は、実施例1と同じ手順で正極活物質の製造を行い、最終的に、中実構造のリチウムニッケル鉄複合酸化物を含む正極活物質を得た。正極活物質の組成は、Li1.02Ni0.95Fe0.05O2であった。評価結果を表1に示す。
[比較例1~比較例4]
従来技術で製造されたリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を含む正極活物質を用いた。リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物としては、NMC111を比較例1に、NMC532を比較例2に、NMC622を比較例3に、NMC811を比較例4に用いた。
【0089】
なお、比較例1~比較例4で用いた各NMCを含む正極活物質の評価結果は、表1に示す通りであった。
【0090】
【表1】
[総評]
実施例1~実施例8の正極活物質は、リチウムイオン二次電池に用いた際に、従来技術である比較例1~比較例4の正極活物質に比べて、初期放電容量の向上効果が確認された。
【0091】
すなわち、本開示の一態様に係る正極活物質によれば、リチウムイオン二次電池に用いた際に、従来広く用いられてきた正極活物質である、NMC111、NMC532、NMC622、及び、NMC811と、同等以上の放電容量を発揮出来ることを確認できた。
【0092】
また、本開示の一態様に係る正極活物質によれば、従来広く用いられていた正極活物質であるNMC111等よりもコバルトの含有割合も低減でき、コストを低減できている。
【0093】
以上のように、本開示の一態様に係る正極活物質は、コストアップの一因となっている、コバルトの比率を減らし、その代わりに、資源量が豊富で安価な鉄を、結晶構造変化が抑制された条件で用いた結果、電池特性についても向上できることを確認できた。
【0094】
そして、上述のように資源量が豊富で安価な鉄を用いることで、比較例として示した従来技術と比較して、正極活物質のコストの問題を大幅に改善することが出来た。
【0095】
本発明の技術範囲は、上記の一実施形態などで説明した態様に、制限されるものではない。上記の一実施形態などで説明した要件の一つ以上は、省略されることが有り得る。なお、上記の一実施形態などで説明した要件は、適宜、組み合わせることが出来る。更に、法令で許容される限り、本明細書で引用した、全ての文献の内容を援用し、本文の記載の一部とするものである。