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特開2025-123005咀嚼対象物評価方法及び咀嚼対象物評価システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025123005
(43)【公開日】2025-08-22
(54)【発明の名称】咀嚼対象物評価方法及び咀嚼対象物評価システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/02 20060101AFI20250815BHJP
   G01N 3/32 20060101ALI20250815BHJP
【FI】
G01N33/02
G01N3/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024018810
(22)【出願日】2024-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 元幹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 和子
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 真理子
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB04
2G061AB08
2G061BA04
2G061CA09
2G061CB02
2G061DA01
2G061EA01
2G061EB03
(57)【要約】
【課題】咀嚼中の匂いの変化を適正に評価することができる。
【解決手段】
擬似口内の上部治具及び下部治具で咀嚼対象物を圧縮し、前記咀嚼対象物に対して唾液を擬似した擬似唾液を投入する擬似咀嚼工程と、前記擬似咀嚼工程を実行しながら、前記咀嚼対象物の一部である回収液を前記擬似口内から排出する排出工程と、前記擬似咀嚼工程の前記圧縮における前記咀嚼対象物にかかる力学的特性と、匂いに関する値とを、時系列で測定する測定工程と、前記時系列で測定した測定値に応じて、前記咀嚼対象物の評価を行う評価工程と、を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
擬似口内の上部治具及び下部治具で咀嚼対象物を圧縮し、前記咀嚼対象物に対して唾液を擬似した擬似唾液を投入する擬似咀嚼工程と、
前記擬似咀嚼工程を実行しながら、前記咀嚼対象物の一部である回収液を前記擬似口内から排出する排出工程と、
前記擬似咀嚼工程の前記圧縮における前記咀嚼対象物にかかる力学的特性と、匂いに関する値とを、時系列で測定する測定工程と、
前記時系列で測定した測定値に応じて、前記咀嚼対象物の評価を行う評価工程と、
を有する咀嚼対象物評価方法。
【請求項2】
前記評価工程において、前記測定値を所定時間単位で分割した値の変化の特徴量を算出し、前記算出した特徴量を用いて前記評価を行う
請求項1記載の咀嚼対象物評価方法。
【請求項3】
前記下部治具は、前記回収液を排出口から吸引する吸引穴を有し、
前記吸引穴と前記排出口は、前記下部治具の内部の通路を介して接続される
請求項1記載の咀嚼対象物評価方法。
【請求項4】
前記測定工程において、前記匂いに関する値は、前記擬似口内の外部所定距離の揮発成分の成分量を測定する
請求項1記載の咀嚼対象物評価方法。
【請求項5】
前記測定工程において、前記匂いに関する値は、前記回収液から揮発した揮発成分の成分量を測定する
請求項1記載の咀嚼対象物評価方法。
【請求項6】
前記測定工程において、前記匂いに関する値は、密閉された前記擬似口内の内部の揮発成分の成分量を測定する
請求項1記載の咀嚼対象物評価方法。
【請求項7】
擬似口内の上部治具及び下部治具で咀嚼対象物を圧縮し、前記咀嚼対象物に対して唾液を擬似した擬似唾液を投入する擬似咀嚼工程と、
前記擬似咀嚼工程を実行しながら、前記咀嚼対象物の一部である回収液を前記擬似口内から排出する排出工程と、
前記擬似咀嚼工程の前記圧縮における前記咀嚼対象物にかかる力学的特性と、匂いに関する値とを、時系列で測定する測定工程と、を実行する擬似咀嚼装置と、
前記時系列で測定した測定値に応じて、前記咀嚼対象物の評価を行う評価工程を実行する咀嚼対象物評価装置と、
を有する咀嚼対象物評価システム。
【請求項8】
擬似口内で咀嚼対象物を圧縮し、前記咀嚼対象物に対して唾液を擬似した擬似唾液を投入する擬似咀嚼において、前記咀嚼対象物の一部である回収液を前記擬似口内から排出しつつ測定した匂いに関する値と、前記擬似咀嚼の前記圧縮における前記咀嚼対象物にかかる力学的特性とを取得する取得工程と、
前記取得したデータを時系列で分析する分析工程と、
前記分析工程における分析結果から、前記咀嚼対象物の評価を行う評価工程と、
を有する咀嚼対象物評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、咀嚼対象物評価方法及び咀嚼対象物評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、ヒトの嗜好性に合わせた食品の提供を一つの目的とし、食品の匂いの評価が注目されている。
【0003】
食品の匂いの評価方法としては、例えば、食品そのものの匂いに関する値を測定し、評価する方法がある。食品そのものの匂いとは、例えば、対象となる食品に含まれる匂いを発する成分や、食品から空気中に発する化学成分など、食品自体が持つ匂いを構成する成分の量を示す。この方法では、ヒトが咀嚼を行う前の食品の匂いを推定することができる。しかし、この方法では、咀嚼中の食品の匂いについては、推定できない場合がある。
【0004】
そこで、別の食品の評価方法として、例えば、擬似的に咀嚼後の食品の匂いに関する値を測定し、評価する方法がある。擬似的な咀嚼後の食品の匂いとは、例えば、対象の食品に対して擬似的な咀嚼動作(以下、擬似咀嚼と呼ぶ)を行った後の匂いを示す。擬似咀嚼とは、例えば、食品を押しつぶしたり、また食品をすりつぶしたりすることで、咀嚼動作による食塊形成を擬似したり、擬似唾液(唾液の成分や力学的特性を模した液体)を加えることで、咀嚼動作における唾液の添加を擬似したりする処理である。この方法では、ヒトが咀嚼することによる、食品の匂いを推定することができる。
【0005】
食品の匂いの評価に関する技術は、以下に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-183140号公報
【特許文献2】WO2022/250167号
【特許文献3】特開2009-162731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ヒトの咀嚼は、実際には、徐々に食品をかみ砕いたり、すりつぶしたりしながら、食塊を形成していく。また、ヒトの咀嚼は、徐々に唾液を添加しながら行われる。さらに、ヒトの咀嚼は、口に入れた食品の一部を、少しずつ飲み込みながら行われる場合もある。
【0008】
このように、咀嚼中における匂い及び匂いの変化について、適正に測定及び評価する方法については、開示されていない。
【0009】
そこで、一開示は、咀嚼中の匂いの変化を適正に評価することができる、咀嚼対象物評価方法及び咀嚼対象物評価システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一開示は、擬似口内の上部治具及び下部治具で咀嚼対象物を圧縮し、前記咀嚼対象物に対して唾液を擬似した擬似唾液を投入する擬似咀嚼工程と、前記擬似咀嚼工程を実行しながら、前記咀嚼対象物の一部である回収液を前記擬似口内から排出する排出工程と、前記擬似咀嚼工程の前記圧縮における前記咀嚼対象物にかかる力学的特性と、匂いに関する値とを、時系列で測定する測定工程と、前記時系列で測定した測定値に応じて、前記咀嚼対象物の評価を行う評価工程と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
一開示は、咀嚼中の匂いの変化を適正に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、咀嚼対象物評価システム10の構成例を示す図である。
図2図2は、咀嚼対象物評価装置100の構成例を表す図である。
図3図3は、擬似咀嚼装置200の構成例を表す図である。
図4図4は、擬似咀嚼装置200の模試図の例を示す図である。
図5図5は、測定処理S200の処理フローチャートの例を示す図である。
図6図6は、ある食品の匂いの変化の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態について説明する。
【0014】
<咀嚼対象物評価システム10の構成例>
図1は、咀嚼対象物評価システム10の構成例を示す図である。咀嚼対象物評価システム10は、咀嚼対象物評価装置100及び擬似咀嚼装置200を有する。咀嚼対象物評価システム10は、擬似咀嚼装置200で食品の擬似咀嚼を行い、及び擬似咀嚼における匂いや力学的特性値の測定を行い、測定結果から食品を評価するシステムである。咀嚼対象物とは、ヒトが口内に入れ、咀嚼する可能性があるものであり、例えば、食品や薬品などを含む。なお、以降の咀嚼対象物は、食品を例として説明する。
【0015】
擬似咀嚼装置200は、投入された食品に対して、擬似咀嚼を実行する。擬似咀嚼は、ヒトが食品を噛む動作(例えば破砕動作、食品を圧縮する動作、及びすりつぶす動作を含む)と、唾液を添加する動作を擬似する。擬似咀嚼装置200は、擬似咀嚼において、食品を砕いたり、食品をすりつぶしたり、食品に対して擬似唾液を投入したりする。また、擬似咀嚼装置200は、擬似咀嚼を継続しながら(擬似咀嚼の完了時も含む)、砕いたり、すりつぶしたりした、擬似唾液が添加された食品(以降、食塊と呼ぶ場合がある)の一部又は全部を排出する。
【0016】
擬似咀嚼装置200は、一部食塊(以降、回収液と呼ぶ場合がある)排出しながら、匂いに関する成分の測定を行う。また、擬似咀嚼装置200は、擬似咀嚼における、食品の力学的特性値を測定する。擬似咀嚼装置200は、これらの測定値を、咀嚼対象物評価装置100に送信(出力)する。
【0017】
咀嚼対象物評価装置100は、擬似咀嚼装置200から取得した測定値から、対象となる食品の評価を行う。咀嚼対象物評価装置100は、例えば、擬似咀嚼された食品の時間経過における匂いの変化と、力学的特性値との関連を分析し、対象食品の評価を行う。
【0018】
<咀嚼対象物評価装置100の構成例>
図2は、咀嚼対象物評価装置100の構成例を表す図である。咀嚼対象物評価装置100は、CPU(Central Processing Unit)110、ストレージ120、メモリ130、通信回路140、及びディスプレイ150を有する。
【0019】
ストレージ120は、プログラムやデータを記憶する、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、又はSSD(Solid State Drive)などの補助記憶装置である。ストレージ120は、測定プログラム121及び咀嚼対象物評価プログラム122を記憶する。
【0020】
メモリ130は、ストレージ120に記憶されているプログラムをロードする領域である。また、メモリ130は、プログラムがデータを記憶する領域としても使用されてもよい。
【0021】
通信回路140は、擬似咀嚼装置200と接続するインターフェースであって、有線又は無線である。咀嚼対象物評価装置100は、通信回路140を介して、擬似咀嚼装置200を制御したり、擬似咀嚼装置200の測定値を取得したりする。
【0022】
ディスプレイ150は、例えば、測定値、測定値の分析結果、又は食品の評価結果などを表示する画面であり、表示部である。ディスプレイ150は、例えば、一体型でもよいし、外部接続されるものであってもよい。
【0023】
CPU110は、ストレージ120に記憶されているプログラムを、メモリ130にロードし、ロードしたプログラムを実行し、各部を構築し、各処理を実現するプロセッサである。
【0024】
CPU110は、測定プログラム121を実行することで、測定部を構成し、測定処理を行う。測定処理は、食品を擬似咀嚼することによる、当該食品に関する値の変化を測定する処理である。測定対象は、物理的特性(力学的特徴など)及び化学的特性(匂い、揮発性物質の成分など)を含む。咀嚼対象物評価装置100は、測定処理において、擬似咀嚼装置200に対して、擬似咀嚼中の力学的特性値や匂いに関する値を測定させ、測定値を取得する。
【0025】
CPU110は、咀嚼対象物評価プログラム122を実行することで、評価部を構成し、咀嚼対象物評価処理を行う。咀嚼対象物評価処理は、取得した測定値に基づき、当該食品の変化を評価する処理である。咀嚼対象物評価装置100は、咀嚼対象物評価処理において、例えば、測定値から算出した特徴量、あるいは測定値そのものを分析し、当該食品の咀嚼による変化を評価する。
【0026】
<擬似咀嚼装置200の構成例>
図3は、擬似咀嚼装置200の構成例を表す図である。擬似咀嚼装置200は、上部治具201、下部治具202(以降、上部治具201及び下部治具202の少なくとも一方を、治具と呼ぶ場合がある)、擬似唾液注入部203、排出口204、及び壁205を有する。擬似咀嚼装置200は、壁205内の上部治具201と下部治具202の間に食品が投入された状態で、擬似咀嚼を行う。なお、擬似咀嚼装置200における、擬似咀嚼の開始及び停止、治具が食品にかける圧縮力、擬似唾液投入、及び回収液の排出などの制御は、例えば、咀嚼対象物評価装置100や試験者によって行われる。
【0027】
上部治具201と下部治具202は、例えば、下部治具202が押し上げられることで上部治具201に近づき(あるいは接し)、上部治具201と下部治具202の間にある食品を圧縮する(押しつぶす)。また、上部治具201と下部治具202は、例えば、治具の中心を軸として回転するように力をかけられることで、間にある食品をすりつぶしてもよい。また、下部治具202は、擬似咀嚼において、上部治具201に連動し(例えば反対方向に)、動いてもよい。すなわち、上部治具201は、擬似上歯であり、ヒトの上歯を擬似し、下部治具202は、擬似下歯であり、ヒトの下歯を擬似する。
【0028】
擬似唾液注入部203は、壁205の一部に開けられた穴であり、所定タイミングで擬似唾液を壁205の内部(下部治具202の上部)に投入する。擬似唾液は、例えば、擬似咀嚼開始時に、初回の投入が行われる。また、所定タイミングは、上部治具201及び下部治具202の動きに連動したタイミングであってもよい。
【0029】
壁205は、例えば、透明のアクリルやガラスなどで構成され、擬似咀嚼によって砕かれた食品や擬似唾液が外部に漏れないようにする。すなわち、擬似咀嚼装置200は、壁205を有することでヒトの口内を擬似し、例えば、壁205、上部治具201、及び下部治具202で囲まれた空間を、ヒトの口内空間(以降、擬似口内と呼ぶ場合がある)と擬似することができる。
【0030】
排出口204は、例えば、筒状のパイプなどで構成され、擬似咀嚼中の食品の一部(回収液)を排出する。排出は、例えば、所定タイミングごとに行われる。回収液は、例えば、排出口204に接続された延長パイプなどを介して、匂い検出器209-3に直接提供される。
【0031】
回収液取得部208は、下部治具202に開けられた吸引穴であり、回収液を回収する口である。
【0032】
<擬似咀嚼装置200における測定>
擬似咀嚼装置200は、擬似咀嚼において、匂いや力学的特性値を測定する。図4は、擬似咀嚼装置200の模試図の例を示す図である。
【0033】
擬似咀嚼装置200は、擬似咀嚼において、例えば、擬似唾液を少量ずつ投入しながら、上部治具201を動かすことで、ヒトが食品を歯でかみ砕く動作や食品を歯ですりつぶす動作などを擬似する。
【0034】
擬似咀嚼装置200は、擬似咀嚼において、少量の回収液(擬似咀嚼中の食品と擬似唾液の混合物を含む)を、回収液取得部208で取得し、回収液通路206を介して、排出口204から排出する。回収液通路206は、下部治具202の上面に開けられた回収液取得部208とつながっており、所定の力で排出口204の方向から吸引することで、概ね所定量の回収液を排出することができる。また、下部治具202に回収液取得部208が設けられることで、擬似咀嚼を止めずに回収液を排出することが可能となる。また、回収液取得部208から排出タイミング以外のタイミングで回収液が漏れ出ないようにするため、回収液取得部208は、例えば、開閉式であったり、十分に小さい大きさであったりしてもよい。また、回収液通路206に所定圧力をかけることで、回収液が漏れ出ることを防いでもよい。回収液には、一部食塊が含まれていてもよく、回収液取得部208は、例えば、食塊が通過できるように十分に大きな大きさであってもよい。排出された回収液は、例えば、匂い検出器209-3を用いて匂いに関する値(例えば、揮発性物質など)を測定され、バケツ等に廃棄される。
【0035】
擬似咀嚼装置200は、擬似咀嚼において、上部治具201や下部治具202に取り付けられた(内蔵された)測定器(図示しない)により、力学的特性値(圧力、力積、トルクなど)を測定する。擬似咀嚼装置200は、擬似咀嚼において、少量の回収液を排出し、壁205内の食品量を徐々に減少させることで、少しずつ飲み込むことによる口内の食品量が減っていく事象を再現する。擬似咀嚼装置200は、時系列で力積を測定することで、少しずつ食品が減っていく口内での力積に近い値を取得することができる。
【0036】
また、力学的特性値の測定及び匂いの測定を、一連の擬似咀嚼(咀嚼開始から終了まで)において時系列で複数回測定することで、咀嚼の進み度合いに応じた変化を取得することができ、適切な評価を行うことができる。
【0037】
なお、力積の測定は、例えば、実際に口内における、歯にかかる圧力や、舌触りなどを想定した値である。そのため、力学的特性値は、圧力以外に、例えば、食品(食塊)表面や断面の粗さなどの測定値を含んでもよい。
【0038】
擬似咀嚼装置200は、匂い検出器209-1~3(以降、匂い検出器209と呼ぶ場合がある)のうち、少なくとも1つ以上を有する。擬似咀嚼装置200がいずれの匂い検出器209を有するかは、例えば、匂いの測定値をどのような評価に使用するかに応じて決定される。
【0039】
匂い検出器209-1は、擬似口内に近接した、擬似口内の外部に設置される。匂い検出器209-1は、例えば、ヒトの咀嚼において、口内から漏れ出た食品の匂いの変化を評価するときに設置される。例えば、擬似咀嚼において、上部治具201を壁205より上部まで動かすことで、一部の匂いが擬似口内より口外に放出される。匂い検出器209-1は、この放出された匂いを測定する。ヒトが咀嚼中の感じる匂いは、例えば、口内から口外に放出され、鼻に到達した食品の匂いであるため、口内から放出された匂いに近似すると想定できる。
【0040】
匂い検出器209-2は、擬似口内の内部に設置される。設置される擬似口内の内部は、擬似咀嚼を阻害しない位置であればよい。匂い検出器209-2は、例えば、上部治具201や下部治具202の内部や、擬似咀嚼において上部治具201や下部治具202が接触しない位置に設置される。匂い検出器209-2は、例えば、ヒトの口内における、咀嚼中の食品の匂いの変化を評価するときに設置される。ヒトの咀嚼は、口を閉じて行われる場合があり、ある程度密封された口内には、咀嚼された食品の匂いが蓄積していることが想定される。なお、完全にあるいはほぼ密閉された口内を擬似するために、上部治具201を壁205より上部まで動かさないように(擬似口内から空気が漏れないように)してもよい。
【0041】
匂い検出器209-3は、排出口204付近に設置される。匂い検出器209-3は、回収液そのもの、又は/及び回収液が揮発した揮発性物質の匂いを測定する。匂い検出器209-3は、例えば、嚥下後の食品の匂い(戻り香)の変化を評価するときに設置される。
【0042】
3つの匂い検出器209のうち、匂い検出器209-2は、最も強い匂いを測定することができる。また、擬似口内がある程度密閉されている場合、擬似口内の匂いは、擬似咀嚼が進むにつれて、測定値が増加していると推定できる。一方、匂い検出器209-1は、擬似口内の食塊が少しずつ減っていくことから、漏れ出る匂いも減少していき、測定値が減少していくと想定できる。また、匂い検出器209-2は、擬似口内の食塊が減少していくことや、擬似唾液の添付量が増加することから、食塊の食品成分が薄くなっていき、測定値が減少していくと想定できる。
【0043】
<測定処理>
図5は、測定処理S200の処理フローチャートの例を示す図である。測定処理は、食品の匂いに関する値と力学的特性値の変化を測定する処理である。
【0044】
試験者は、対象物(食品)を擬似咀嚼装置200に投入する(S200-1)。そして、試験者又は咀嚼対象物評価装置100は、擬似咀嚼装置200に擬似咀嚼を開始させる。
【0045】
擬似咀嚼装置200は、擬似咀嚼において、擬似唾液を投入する(S200-2)。これにより、口内に添加される唾液を擬似する。
【0046】
擬似咀嚼装置200は、治具(上部治具201及び下部治具202の少なくとも一方)を、上下方向や回転方向に動かす(S200-3)。これにより、噛む動作を擬似する。
【0047】
擬似咀嚼装置200は、力学的特性値の測定を行う(S200-4)。力学的特性値は、例えば、圧力や力積、トルクであり、ヒトの噛む動作中にかかる力に近似すると推定できる。
【0048】
擬似咀嚼装置200は、回収液を排出する(S200-5)。回収液は、ヒトの咀嚼中(咀嚼開始時、終了時を含む)における食品を擬似する。
【0049】
擬似咀嚼装置200は、匂いを測定する(S200-6)。測定した匂いは、ヒトの咀嚼中の食品の匂いを推定できる。
【0050】
擬似咀嚼装置200は、終了条件を満たすまで(S200-7のNo)、一連の擬似咀嚼動作(処理S200-2~6)を繰り返す。終了条件は、例えば、所定時間の経過、口内(壁205内)の食品の量の低下(食品がなくなることも含む)、所定回数の噛む動作の実施など、事前に設定された値である。
【0051】
そして、擬似咀嚼装置200は、終了条件を満たすと(S200-7のYes)、処理を終了する。
【0052】
擬似咀嚼装置200は、一連の擬似咀嚼動作を繰り返すことで、食品が検出器に与える力の変化と食品の匂いの変化を測定することができる。咀嚼対象物評価装置100は、対象となる食品のヒトの口内での変化を評価することができる。
【0053】
なお、一連の擬似咀嚼動作における処理S200-2~6は、それぞれ1回以上であってもよいし、順番が前後してもよい。また、一連の擬似咀嚼動作における処理S200-2~6は、実施回数によって、一部処理が行われないときがあってもよい。
【0054】
<咀嚼対象物評価>
咀嚼対象物評価とは、例えば、咀嚼により変化する食品の物性に対する評価を示す。咀嚼対象物評価装置100は、例えば、匂いの残りやすさ、匂いの出現度、力学的特性値と匂いの関係などで、食品を評価する。
【0055】
評価の一例としては、咀嚼対象物評価装置100は、匂いが残りやすいほど、咀嚼開始から濃い匂いが出現するまでの時間が短いほど、食品の評価を高くする。また、咀嚼対象物評価装置100は、例えば、食感が軟らかくなりやすいほど(咀嚼開始から力積が所定値以下になるまでの時間が短いほど)、食品の評価を高くする。また、匂いの評価と食感の評価をスコア化し、合計値などを用いて総合的に評価してもよい。また、用途に応じて、食品の評価は変化してもよい。例えば、高齢者などに多くの咀嚼を促すことを目的として食品であれば、咀嚼開始から力積が所定値以下になるまでの時間が長いほど優れた食品と評価できる。
【0056】
咀嚼対象物評価装置100は、例えば、測定値を時間軸で分割し、平均値、分散などの基礎統計値、関数近似から得られる係数、フーリエ変換による周波数解析、時間などによる微分・積分などを用いて、測定値の変化に関する特徴量を抽出してもよい。特徴量は、例えば、特徴量同士の四則演算によって新たな特徴量として用いることもできる。咀嚼対象物評価装置100は、単一又は複数の特徴量を用いて、食品の評価(食品の物性変化の評価)を行う。
【0057】
図6は、ある食品の匂い成分の変化の例を示す図である。図6(A)の匂い成分は、アセトアルデヒドであり、図6(B)の匂い成分は、アセトインである。図6のグラフは、排出を行わなかった場合を点線、排出を行った場合を実線で示す。また、時間は、擬似咀嚼開始時を0秒とする。なお、図6における匂い成分は、匂い検出器209-1で測定されたものである。
【0058】
まず、排出の有無による匂い成分の差異について検討する。
【0059】
図6(A)では、約30秒後に排出有りと無しで同じ数値(約150ppb)となる。その後、排出無しの場合、上昇下降を繰り返しながら、約120秒後も約120ppbという高い値を維持する。一方、排出有りの場合、上昇下降を繰り返しながら、約120秒後には約45ppbという低い値に下降する傾向がみられる。図6(B)も同様の傾向がみられる。このように、擬似咀嚼において排出を行うことで、口内の食品が減少し、口内から漏れ出る匂い成分量も減少していくことを、擬似することができる。
【0060】
次に、排出有りの場合の、匂い成分の変化について検討(評価)する。
【0061】
図6(A)によると、アセトアルデヒドは、開始約25秒で高い値(約160ppb)となり、約50秒まで高い値を維持する。そして、約65秒では、低い値(約50ppb)となり、その後は低い値を維持する。
【0062】
一方、図6(B)によると、アセトインは、開始約25秒で高い値(約50ppb)となり、約35秒まで高い値を維持する。そして、約40秒から徐々に下降してゆき、120秒では約15ppbまで下降する。
【0063】
これにより、ある食品は、アセトアルデヒドのほうがアセトインよりも高い値を維持する時間が長いため、アセトアルデヒドの匂いが主体となる時間が長いと想定できる。また、ある食品は、アセトアルデヒドは急激に下降するが、アセトインは徐々に下降するため、アセトインの匂いのほうが長く残りやすいと想定できる。
【0064】
なお、上記評価は、アセトアルデヒドとアセトインの、匂いの強度の違いについては検討を行っていない。図6では、アセトアルデヒドの成分量のほうが、アセトインの成分量よりも、かなり大きい値となっている。しかし、実際にヒトが感じる匂いの強度は、単純な成分量だけではなく、他の匂い成分(揮発成分)による影響や、匂い成分の刺激度合いなどによって、感じ方が異なる。そのため、ここでの評価は、絶対量による差異は検討せず、変化度合いによる検討結果を評価とした。なお、各匂い成分の絶対量の差異による匂いの強度の差異が自明である場合、絶対量も評価に含めてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 :咀嚼対象物評価システム
100 :咀嚼対象物評価装置
110 :CPU
120 :ストレージ
121 :測定プログラム
122 :咀嚼対象物評価プログラム
130 :メモリ
140 :通信回路
150 :ディスプレイ
200 :擬似咀嚼装置
201 :上部治具
202 :下部治具
203 :擬似唾液注入部
204 :排出口
205 :壁
206 :回収液通路
208 :回収液取得部
209 :検出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6