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特開2025-12396紫外線波長変換素子、及び紫外線分光測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012396
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】紫外線波長変換素子、及び紫外線分光測定装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20250117BHJP
   G01J 3/42 20060101ALI20250117BHJP
   G01N 21/33 20060101ALI20250117BHJP
   C09K 11/67 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
G02B5/20
G01J3/42 Z
G01N21/33
C09K11/67
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115197
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(72)【発明者】
【氏名】大石 昌嗣
(72)【発明者】
【氏名】藤代 史
【テーマコード(参考)】
2G020
2G059
2H148
4H001
【Fターム(参考)】
2G020AA05
2G020CB43
2G020CC13
2G059AA02
2G059HH02
2G059HH03
2G059JJ06
2G059KK03
2G059MM01
2H148AA00
2H148AA07
2H148AA18
4H001CA02
4H001XA08
4H001XA38
4H001XA40
4H001XB21
4H001YA63
4H001YA90
(57)【要約】
【課題】新しい紫外線波長変換素子の形態により、波長分解能に優れた紫外線分光測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の紫外線波長変換素子は入力された紫外線を、異なる波長を持つ2つ以上の可視光に変換する。そして紫外線の波長は、変換された可視光の強度比情報から算出される。
また変換された波長の異なる可視光の強度比から、入力された紫外線の波長を得ることにより波長分解能に優れた紫外線分光測定装置を実現する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線の照射を受ける光入力部と、
前記光入力部で照射を受けた紫外線を可視光に変換する光変換部と、を備え、
前記可視光は、前記光変換部固有の少なくとも2つ以上の異なる波長を有し、
前記紫外線の波長は、変換された異なる波長を持つ可視光の強度比情報から算出される、紫外線波長変換素子。
【請求項2】
前記光変換部には、ジルコニウムと、アルカリ土類金属と、酸素と、を備えるペロブスカイト型酸化物に、希土類元素をドープしたものが含まれる、請求項1記載の紫外線波長変換素子。
【請求項3】
前記ペロブスカイト型酸化物は、その結晶構造が前記アルカリ土類金属の配置するサイトに対して反転対称性を持たない、請求項2記載の紫外線波長変換素子。
【請求項4】
前記希土類元素は、ユウロピウムである請求項2または3記載の紫外線波長変換素子。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の紫外線波長変換素子と、
前記紫外線波長変換素子から出力された可視光を波長ごとに分ける分光部と、
前記分光部によって分けられた可視光のうち第一の波長の強度を測定する第一光検出器と、
前記可視光のうち第二の波長の強度を測定する第二光検出器と、を備え、
前記第二光検出器の出力を前記第一光検出器の出力で除算し、その除算結果から、入力された紫外線の波長を算出する、紫外線分光測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長分解能に優れた紫外線波長変換素子、及び波長分解能に優れた紫外線分光測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紫外線は、波長が10~400nmの可視光より短くX線より長い電磁波である。紫外線はその波長の短さから可視光に比べ物質に対しての化学的な作用が著しいことが知られている。紫外線のうち近紫外線と呼ばれる波長200~380nmの領域は、人間の健康や環境への影響の観点から、より細かく分類されている。具体的には、波長320~400nmのUVAと呼ばれる領域では人体には日焼けを引き起こし、また産業的には樹脂硬化剤や塗料の硬化に利用されている。次に波長280~320nmのUVBと呼ばれる領域では、人体には皮膚細胞の活性化を引き起こし、炎症の原因となることがわかっている。さらに波長200~280nmのUVCと呼ばれる領域では強い殺菌作用を有するという特徴がある。
【0003】
近年、医学や生物学の発展により、UVCの領域、とくには265nm周辺の波長領域の紫外線は生物やウィルスの遺伝情報を保有するDNAと特異的に反応することがわかってきている。その結果、DNAの複製作用を失わせることにより強い殺菌効果、ウィルスに対する不活化効果が高いことが確認されている。また人体にも影響を及ぼす波長領域であることも併せて、より波長を正確に検出することが期待されている。
【0004】
しかし紫外線はその不可視性から光検出の技術は一般に可視光に比べ劣っている。そのため紫外線の検出方法の分野においては蛍光体材料などを用いて一旦可視光領域に変換してから検出する技術が多く検討され、また多くの特許が開示されている。
【0005】
その中でも希土類イオンをドープしたペロブスカイト型酸化物は、熱的及び化学的安定性を有する蛍光体材料として期待されている。その技術として例えば特許文献1では、カルシウム、ストロンチウム、チタンを含有するペロブスカイト型酸化物に、微量のプラセオジムイオンをドープし、それをさらにナノ粒子化することにより、波長200~400nmの紫外線を、波長600nm以上の可視光に変換する技術が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-34609号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術における紫外線の吸収波長は220~370nmと広い範囲にわたっている。そのため、例えば強い殺菌効果を持つUVC領域と、他の波長を区別することは現状では困難である。即ち、従来技術では紫外線波長領域において市場より期待されている波長分解能には十分ではない、といえる。
本発明は、新しい紫外線波長変換素子の形態により、波長分解能に優れた紫外線分光測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するために、以下の特徴を有している。本発明の実施形態である紫外線波長変換素子は、紫外線の照射を受ける光入力部と、前記光入力部で照射を受けた紫外線を可視光に変換する光変換部と、を備える。そして前記可視光は、前記光変換部固有の少なくとも2つ以上の異なる波長を有し、前記紫外線の波長は、変換された異なる波長を持つ可視光の強度比情報から算出される。
【0009】
また本発明の実施形態である紫外線分光測定装置は、前記紫外線波長変換素子と、前記紫外線波長変換素子から出力された可視光を波長ごとに分ける分光部と、前記分光部によって分けられた可視光のうち第一の波長の強度を測定する第一光検出器と、前記可視光のうち第二の波長の強度を測定する第二光検出器と、を備える。そして前記第二光検出器の出力を前記第一光検出器の出力で除算し、その除算結果から、入力された紫外線の波長が算出される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、紫外線の波長が、2つ以上の異なる波長を持つ可視光の強度比情報から算出されるという新しい機能を有する紫外線波長変換素子が実現される。また前記紫外線波長変換素子を使用することで、波長分解能に優れた紫外線分光測定装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の紫外線波長変換素子の構成を示す図
図2】本発明の紫外線分光測定装置の構成を示す図
図3】本発明の紫外線波長変換素子に使用される蛍光体材料の結晶格子の例を示す図
図4】本発明の紫外線波長変換素子に入力した紫外線の波長と、出力された可視光の波長スペクトルの例を示すグラフ
図5】本発明の紫外線測定装置を使用した際の、入力した紫外線波長と、出力された異なる2つの波長の可視光の強度比の例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の第一の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本発明の第一の実施形態における紫外線波長変換素子は、入射した紫外線の波長を、異なる波長を持つ2つ以上の可視光の強度比情報から算出されることを目的とする。
【0013】
図1に本実施の形態における波長変換素子の構成を示す。図示されるようにこの波長変換素子は、紫外線の照射を受ける光入力部11と、前記光入力部で照射を受けた紫外線31を可視光32に変換する光変換部12と、を備える。
上記構成において、紫外線31の波長は、異なる波長を持つ2つ以上の可視光(図1においては第一の波長を有する可視光32a、及び第二の波長を有する可視光32b)の強度比情報から算出される。
【0014】
上記機能を実現するための光変換部12を構成する材料としては蛍光体材料が挙げられる。当該蛍光体材料は、入力された紫外線31により励起され、一定時間後に再び基底状態に戻る際に可視光32を放出する。また、当該蛍光体材料においては、励起後に可視光32を放出して輻射緩和を起こす励起状態が複数存在する。さらに、当該蛍光体材料における特定の2つの励起状態を取る確率の比率が、励起を起こす紫外線31のエネルギーに依存するという特徴を持つ材料が使用される。
【0015】
このような材料の例として、発明者らが鋭意検討した結果、ジルコニウムと、アルカリ土類金属と、酸素と、から構成されるペロブスカイト型酸化物に、発光中心としてユウロピウムなどの希土類元素をドープした材料が、その機能を実現することを明らかにした。
【0016】
具体的には、前記蛍光体材料においては紫外線31による1光子の励起がバンド間励起と、発光中心である希土類元素の電荷移動状態励起が存在すると推定される。さらに、入力された紫外線31のエネルギーにより、前記励起状態が影響を受けると推定される。
【0017】
従って具体的には、入力された紫外線31が材料を構成する物質に吸収されて励起され、再び基底状態に戻る際に可視光32を放出する蛍光体材料であって、波長の異なる紫外線31によって励起されることで異なる可視光32を放出する材料が、本実施の形態を実現する材料として好適である。
以上が本発明の第一の実施形態の全体の説明であるが、次に各構成要件について例を挙げて詳細を述べる。
【0018】
光入力部11は、変換された可視光32の強度比から入力された紫外線31の波長を再現性良く得るため、入力する紫外線31の入射角、強度、波長を制限する。光変換部12で吸収される紫外線31の入射角が大きいと、有限の大きさを持つ光変換部12での紫外線31の吸収励起される確率は低下する。そのため、波長を再現良く得ることができないという課題が発生する。同様に光強度の再現性を担保するために、光変換部12の特定の面積から紫外線31が入力されるように、一定の面積のみに紫外線31が入力されるような形状を備えていることが好ましい。そのような具体的な形状としては、中が空洞になった円柱や四角柱、すなわち円パイプや角パイプなどを用いることができる。なお、上記目的のためにパイプを構成する材料は金属などの紫外線31を透過しない材料が好ましい。
【0019】
光変換部12から出力される可視光32は、その殆どが紫外線31を起源とするものであって初めて本実施の形態は機能する。従って、光変換部12には可視光32の波長に近いものが入力されないことが好ましい。よって、光入力部11は特定の可視光波長領域を遮断する、あるいは特定の紫外線波長領域を透過させる分光フィルターの機能を有することが好ましい。
【0020】
光変換部12は、入射した紫外線31の波長を、異なる波長を持つ2つ以上の可視光の強度比情報に変換する機能を持つ材料が含まれる。そのような材料として発明者らが見出した例はジルコニウムと、アルカリ土類金属と、酸素と、から構成されるペロブスカイト型酸化物に、発光中心として希土類元素をドープした材料である。
【0021】
ペロブスカイト構造とは、最密充填を基調とした構造である。この構造は密度が高く丈夫であるという特徴を持つ。図3にペロブスカイト構造の代表的な結晶格子を構成する元素の配置を示す。
ペロブスカイト構造をとる物質のうち代表的なものがチタン酸バリウムである。一般にチタン酸バリウムのようにRMOという三元系からなる遷移金属酸化物は、ペロブスカイト構造をとることが多い。原子の配置としては、単純立方格子の頂点に金属R41を、格子の中心に金属M42を、各面心の位置に酸素O43が配置されている。
【0022】
結晶格子の外枠である金属R41の配置は、上記のように結晶格子が最密充填を基調とすることから安定している。一方で、構造の内部に含まれている酸素O43と金属M42からなるMOは八面体を形成しており、金属R41と金属M42のイオン半径のバランスが、実現する結晶構造に大きな影響を与える。このイオン半径のバランスは一般に許容因子、またはトレランスファクターと呼ばれている。また許容因子の値によって、金属R41を頂点とする格子の外枠に対するMO八面体の向きは容易に歪み、より対称性の低い直方晶や正方晶に相転移する。この相転移により、ペロブスカイト構造をとる遷移金属酸化物は様々な特殊な物性を持つことが多い。特殊な物性の代表例が前述したチタン酸バリウムの強誘電性の発現である。この特殊性は他にも酸化物高温超電導体、太陽電池などにも利用されている。
【0023】
本発明の第一の実施形態において使用される蛍光材料は、上記金属R41としてアルカリ土類金属を、金属M42としてジルコニウムを用い、さらにはアルカリ土類金属の一部を微量の不純物元素として希土類元素で置換させている。この希土類元素が発光中心として機能するため蛍光体材料としての機能を持つ。
【0024】
アルカリ土類金属としては、一般にカルシウム、ストロンチウム、バリウムなどを用いることができる。発明者らの検討によれば、このうちカルシウム、またはストロンチウムを使ったものは紫外線31の波長を、異なる波長を持つ2つ以上の可視光の強度比に変換が可能であった。一方で、バリウムを使ったものは変換機能を持たなかった。
【0025】
アルカリ土類金属を金属R41として配置するペロブスカイト構造においての上記の違いは、その金属R41サイトの反転対称性の有無にある。即ち、金属R41としてカルシウム、またはストロンチウムを使ったものは金属M42(すなわちジルコニウム)サイトに対しては反転対称性を持つが、金属R41(すなわちカルシウムやストロンチウム)サイトに対しては反転対称性を持たない直方晶系構造をとることがわかった。一方で、金属R41としてバリウムを使ったものは金属M42(すなわちジルコニウム)サイトに対しても、金属R41(すなわちバリウム)サイトに対しても反転対称性を持つ立方晶系構造をとることがわかった。
【0026】
これら結晶構造の反転対称性の性質が、前述したペロブスカイト構造の内部に存在する八面体の独特の歪みに作用し、効果を生み出していると考えられる。従って、本発明の実施形態に使用する蛍光体材料においては、その結晶構造がアルカリ土類金属の配置するサイトに対して反転対称性を持たないことが必要な要件である。従って、アルカリ土類金属としてバリウムを使った場合においても、反転対称性を持たない結晶構造が実現できれば、本発明の効果は実現できる。
【0027】
発光中心を形成するために添加される希土類元素は、一般に知られているランタノイドと呼ばれる15元素のうち、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウムを用いることができる。これらの元素は、原子内の電子の軌道において、外殻軌道に先に電子が入り、後から電子が入っていく内殻の4f軌道を持っていることが特徴であり、発光中心として好適に機能する。その中でも、特にユウロピウムが好ましい。
【0028】
アルカリ土類金属に置換する希土類元素の量としては、ペロブスカイト構造が保持され、かつ発光中心として機能するのであれば特に制約はない。但し一般には濃度が高すぎると濃度消光と呼ばれる効率の低下が引き起こされる。濃度消光が発生する領域は希土類元素にも依るが、発明者らの検討結果では2mol%以下が特に好ましい。
【0029】
蛍光材料の合成方法としては、元素比率や結晶構造を実現できれば特に限定されるものではないが、その中でも元素比率の再現性が高い錯体重合法が特に好ましい。
【0030】
錯体重合法とは、一般には次のような手順を踏む材料合成法である。まずクエン酸などのオキシカルボン酸を過剰に含むグリコール類、一般にはエチレングリコールやプロピレングリコールなどの溶液中に金属塩を溶解させ、金属オキシカルボン酸錯体を形成させる。次にこの溶液系を120~150℃程度の温度で加熱し、オキシカルボン酸のカルボキシル基とグリコールのヒドロキシル基との間で脱エステル反応を進め、ポリエステル高分子ゲルを生成させる。この高分子ゲルを高温で熱分解させて金属酸化物粉体を生成させることができる。この手法の特徴は、プロセス中において金属イオンの分布がほぼ一定に保たれることである。上記特徴により本発明の実施形態において必要とする元素比率や結晶構造を高い再現性で実現できる。
【0031】
こうして作成した蛍光材料は粉末形状のため、光変換部12として機能させるためには特定の形状に固定する必要がある。固定する材料としては、可視光32、及び紫外線31に対して十分な透過性を持ち、かつその形状を保持する材料が好ましい。そのような材料の例としては、ガラスや樹脂材料が使用できる。但し、特に波長の短い紫外線31では透過率が低下する場合があり、注意が必要である。
【0032】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第二の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本発明の第二の実施形態における装置は、第一の実施形態による紫外線波長変換素子を含み、波長分解能に優れた紫外線分光測定装置を実現することを目的とする。
【0033】
図2に本実施の形態における紫外線分光測定装置の構成を示す。図示されるようにこの紫外線分光測定装置は、第一の実施形態による紫外線波長変換素子21と、紫外線波長変換素子21から出力された可視光32を波長ごとに分ける分光部22と、分光部22によって分けられた可視光32のうち、第一の波長を有する可視光32aの強度を測定する第一光検出器23aと、前記可視光のうち第二の波長を有する可視光32bの強度を測定する第二光検出器23bと、を備える。そして、前記第二光検出器23bの出力を第一光検出器23aの出力で除算し、その除算結果から、入力された紫外線31の波長を算出する。
【0034】
上記機能を実現するための紫外線波長変換素子21は、前記第一の実施の形態に記載した通りに実現することができる。
【0035】
第一光検出器23a及び第二光検出器23bは、紫外線波長変換素子21から出力された可視光32のうち第一の波長を有する可視光32aの強度、及び前記可視光32のうち第二の波長を有する可視光32bの光強度をそれぞれ検出する。これには例えばフォトダイオードなどの光電変換素子が、光強度を高感度に処理することができるという点において好適である。但し一般にフォトダイオードなど光検出器23の感度は波長により異なるため、光強度比を計算する場合にはそれぞれの感度の違いを補正する必要がある。
【0036】
分光部22は、紫外線波長変換素子21から出力された可視光32を、その異なる波長毎に光強度を測定できるように分割する。図2の例では分光部22としてプリズムを用い、第一の波長を有する可視光32aと第二の波長を有する可視光32bの屈折率の違いにより角度を変えて分離している。プリズムはガラスや樹脂等透明誘電体材料により作成されている。可視光32を分割するプリズムについては、材質や形状上の制約はないが、分割する波長の差を、異なる位置のセンサーに入手させるために必要な屈折率を持った材料を用いる必要がある。
【0037】
分光部22としてプリズムなど角度を変更する場合には、光検出器23として複数の画素を有し、異なる角度からの光強度を同時に検出するものもある。この場合、光検出器23は構成上簡素化できるが、画素のサイズによる制約や素子間の感度不均一性に注意する必要がある。
【0038】
本発明の第二の実施形態においては、前記第二光検出器23bの出力を第一光検出器23aの出力で除算し、その除算結果から、入力された紫外線31の波長が算出される。上記の除算結果で、紫外線31の波長が算出できるのは、前述したように紫外線波長変換素子21が備える光変換部12が、紫外線31の波長を、変換された異なる波長を持つ可視光32の強度比情報に変換する作用を有しているからである。
【0039】
除算結果と紫外線31の波長の関係は、光変換部12を構成する蛍光体材料に特有のものである。従って、その関係は紫外線分光測定装置を用いてその波長が未知の紫外線31を測定する前に、事前に測定を行っておく必要がある。
【0040】
また、長期間にわたって紫外線分光測定装置を使用する場合、光変換部12を構成する蛍光体材料が紫外線31によって一部劣化する可能性がある。またさらに、第一光検出器23a又は第二光検出器23bの検出感度が変化する場合がある。そのため、前記除算結果と紫外線31の波長の関係は、長期間使用中のうち必要な期間を設けて再度取得し、その計算式を補正することが好ましい。
【0041】
前記の第二の実施形態は、第一光検出器23a及び第二光検出器23bをそれぞれ1台ずつ備える形態について記載したが、多数の検出器を配置して測定対象物の二次元像を取得することも可能である。
【実施例0042】
以下、本発明の実施形態に係る紫外線波長変換素子、及び紫外線分光測定装置を用いた実施例について詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例0043】
以下、本発明の実施形態に係る素子の実施例として、図1の構成に基づいてセットアップを行った。
まず初めに、光変換部12に用いる蛍光体材料の作製を行った。ビーカーに、オキシ塩化ジルコニル八水和物(化学式ZrClO・8HO、富士フィルム和光純薬(株)製)、炭酸ストロンチウム(化学式SrCO、(株)レアメタリック製)、及び酸化ユウロピウム(III)(化学式Eu、富士フィルム和光純薬(株)製)を目的の重量モル比率になるように秤量して投入した。希硝酸を加えて溶解した後に、目的試料中の金属イオンの物質量の倍量のクエン酸を加え、これにエチレングリコールを投入、マグネティックスタラーにて500rpmで回転させながら、溶解させた。
【0044】
溶解させた後、150℃で加熱すると、水分が減少するとともに脱エステル反応が進行し高分子ゲルが生成され、粘性が上昇した。得られた高分子ゲルをさらに過熱し、余分な水分を蒸発させた。得られた高分子ゲル粉末を、電気炉に投入、大気中で700℃3時間焼成を行った。その後、焼成して得られた粉末をメノウ乳鉢で粉砕、同様に大気中で1000℃12時間、1200℃12時間の焼成とメノウ乳鉢での粉砕を交互に繰り返し、最終的にSrZrO:Euドープ粉末を得た。
【0045】
上記粉末の紫外線波長変換素子としての機能を確認するため、下記の手順により樹脂封入を行い素子化した。まず樹脂容器に二液型液状ゴム(一般電気、ポッティング用、品番KE-109E、信越化学工業(株)製)のA液、及びB液を1gずつ混合し、調製したSrZrO:Euドープ粉末を0.1g投入した。これを攪拌機で混合しながら4分間攪拌、その後真空脱泡したのちに、60℃5時間加熱して硬化させた。
【0046】
上記得られたSrZrO:Euドープ粉末を含む樹脂を光変換部12として用い、紫外線波長変換素子としての特性を評価した。入力する紫外線31の波長として250nmから350nmまで10nm刻みで紫外線波長変換素子に入力し、出力された可視光32の波長450nm以上750nm以下の領域の分光スペクトルを得たものを図4に示す。
【0047】
この結果より、入力する紫外線31の波長に寄らず、可視光32の波長は約595nm(以下32aと記載)及び約615nm(以下32bと記載)の二か所のみに限定されることがわかった。さらにその比率は入力する紫外線31の波長が短い、すなわちエネルギーが高いほど、32a、すなわちエネルギーが高い可視光の強度が高くなっていることがわかった。
【0048】
次に図2の構成に基づき、得られた異なる波長を持つ2つの可視光32a及び32bの光強度をそれぞれ第一光検出器23a及び第二光検出器23bにて測定、及び数値化を行った。さらに、その比率を(第二光検出器23bの出力)÷(第一光検出器23aの出力)にて計算し、入力した紫外線31の波長に対してプロットしたものを図5に示す。
【0049】
この結果、紫外線31の波長と、第一光検出器23aと第二光検出器23bの出力比は良い一致を示していることがわかった。従って、図2の構成によれば、波長分解能に優れた紫外線分光測定装置が実現できることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、新しい機能を有する紫外線波長変換素子、及び波長分解能に優れた紫外線分光測定装置に関するものである。
【符号の説明】
【0051】
11 光入力部
12 光変換部
21 紫外線波長変換素子
22 分光部
23a 第一光検出器
23b 第二光検出器
31 紫外線
32a 第一の波長を有する可視光
32b 第二の波長を有する可視光
41 金属R
42 金属M
43 酸素O
図1
図2
図3
図4
図5