(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012511
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】識別装置及びそれを有するロボット
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20250117BHJP
B25J 13/08 20060101ALI20250117BHJP
B25J 19/02 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
G01L5/00 101Z
B25J13/08 Z
B25J19/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115390
(22)【出願日】2023-07-13
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(CREST)「非線形写像演算とリザバー計算、及びノイズ駆動」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願 令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(ACT-X)「化学ダイナミクスを計算資源とした低消費電力マテリアルリザバーの開拓」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓文
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 雄生
(72)【発明者】
【氏名】君塚 紘喜
(72)【発明者】
【氏名】アズハリ サマン
(72)【発明者】
【氏名】カラチャリ アハメト
【テーマコード(参考)】
2F051
3C707
【Fターム(参考)】
2F051AA10
2F051AB07
3C707BS10
3C707ES03
3C707KS07
3C707KS08
3C707KS34
3C707KS37
3C707KX08
3C707LV06
3C707LW12
(57)【要約】
【課題】対象物に接することによってその対象物を識別可能な識別装置及びそれを有するロボットを提供する。
【解決手段】対象物を識別する識別装置10であって、対象物から力を与えられて弾性変形し電気抵抗特性が変化する電気伝導体11、11aと、電気伝導体11、11aに電圧を印加する入力電極12、12aと、電圧が印加された状態の電気伝導体11、11aの異なる箇所からそれぞれ電気信号を取り出す複数の出力電極13、13aと、各出力電極13、13aにより取り出された電気信号を入力値として、機械学習により、電気伝導体12、12aに力を与えている対象物の識別処理を行う識別処理部14とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を識別する識別装置であって、
前記対象物から力を与えられて弾性変形し電気抵抗特性が変化する電気伝導体と、
前記電気伝導体に電圧を印加する入力電極と、
電圧が印加された状態の前記電気伝導体の異なる箇所からそれぞれ電気信号を取り出す複数の出力電極と、
前記各出力電極により取り出された前記電気信号を入力値として、機械学習により、前記電気伝導体に力を与えている前記対象物の識別処理を行う識別処理部とを備えることを特徴とする識別装置。
【請求項2】
請求項1記載の識別装置において、前記電気伝導体は複数あって、該複数の電気伝導体で前記対象物を挟むことを特徴とする識別装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の識別装置において、前記電気伝導体が一側に取り付けられたベース体を備え、前記入力電極及び前記複数の出力電極は前記ベース体の他側から突出していることを特徴とする識別装置。
【請求項4】
請求項3記載の識別装置において、前記ベース体の一側に、前記入力電極に電気的に接続された入力端子部及び前記複数の出力電極に電気的にそれぞれ接続された複数の出力端子部が設けられ、前記電気伝導体は、前記ベース体の一側にシランカップリング剤により接着されて、前記入力端子部及び前記複数の出力端子部に接していることを特徴とする識別装置。
【請求項5】
請求項1又は2記載の識別装置において、前記電気伝導体は板状であって、厚みが0.1mm以上3mm以下であることを特徴とする識別装置。
【請求項6】
対象物を把持する把持部及び前記把持部の回転又は移動を制御する制御手段を有するロボットであって、
前記把持部に、把持している前記対象物を識別する識別装置全体又は一部を設け、
前記識別装置は、
前記対象物から力を与えられて弾性変形し電気抵抗特性が変化する電気伝導体と、
前記電気伝導体に電圧を印加する入力電極と、
電圧が印加された状態の前記電気伝導体の異なる箇所からそれぞれ電気信号を取り出す複数の出力電極と、
前記各出力電極により取り出された前記電気信号を入力値として、機械学習により、前記電気伝導体に力を与えている前記対象物の識別処理を行う識別処理部とを備え、
前記制御手段は、前記識別装置による前記対象物の識別結果に基づいて前記把持部の動作を制御することを特徴とするロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物を識別する識別装置及びそれを有するロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
物の種類等に応じてその物に異なる処理を行ったりその物を把持する力を調整したりする現場では、物を識別する識別装置がしばしば使用される。従来の識別装置には、対象物に貼付されたバーコードを読み取って物を識別するものや(特許文献1参照)、対象物をカメラで撮像した画像を基に識別を行うものがあった(特許文献2参照)。バーコードを利用する場合、バーコードを事前に対象物に付すことが求められるが、カメラで撮像した画像を利用する場合、特定のものを事前に対象物に付す必要がないというメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-010150号公報
【特許文献2】特開2019-133516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カメラで撮像した画像を基に対象物を識別し、対象物を把持した後、識別結果に応じて異なる場所に対象物を移動させたり、把持する力の大きさを変えたりする場合、対象物を把持する装置とは別にカメラを設ける必要があった。この点、対象物に接することでその対象物を識別する機構があれば、対象物を把持する装置が対象物の識別も兼ねることができ有効である。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、対象物に接することによってその対象物を識別可能な識別装置及びその識別装置を有するロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う第1の発明に係る識別装置は、対象物を識別する識別装置であって、前記対象物から力を与えられて弾性変形し電気抵抗特性が変化する電気伝導体と、前記電気伝導体に電圧を印加する入力電極と、電圧が印加された状態の前記電気伝導体の異なる箇所からそれぞれ電気信号を取り出す複数の出力電極と、前記各出力電極により取り出された前記電気信号を入力値として、機械学習により、前記電気伝導体に力を与えている前記対象物の識別処理を行う識別処理部とを備える。
【0006】
前記目的に沿う第2の発明に係るロボットは、対象物を把持する把持部及び前記把持部の回転又は移動を制御する制御手段を有するロボットであって、前記把持部に、把持している前記対象物を識別する識別装置全体又は一部を設け、前記識別装置は、前記対象物から力を与えられて弾性変形し電気抵抗特性が変化する電気伝導体と、前記電気伝導体に電圧を印加する入力電極と、電圧が印加された状態の前記電気伝導体の異なる箇所からそれぞれ電気信号を取り出す複数の出力電極と、前記各出力電極により取り出された前記電気信号を入力値として、機械学習により、前記電気伝導体に力を与えている前記対象物の識別処理を行う識別処理部とを備え、前記制御手段は、前記識別装置による前記対象物の識別結果に基づいて前記把持部の動作を制御する。
【発明の効果】
【0007】
第1の発明に係る識別装置は、対象物から力を与えられて弾性変形し電気抵抗特性が変化する電気伝導体と、電気伝導体に電圧を印加する入力電極と、電圧が印加された状態の電気伝導体の異なる箇所からそれぞれ電気信号を取り出す複数の出力電極と、各出力電極により取り出された電気信号を入力値として、機械学習により、電気伝導体に力を与えている対象物の識別処理を行う識別処理部とを備えるので、対象物に接することによってその対象物を識別可能である。
また、第2の発明に係るロボットは、第1の発明に係る識別装置を有するので、識別装置が対象物に接することによってその対象物を識別可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る識別装置を具備するロボットの説明図である。
【
図2】電気伝導体のベース体への取り付けを示す説明図である。
【
図3】入力端子部及び出力端子部の配置を示す説明図である。
【
図4】(A)、(B)はそれぞれ、出力電極の電圧の計測結果を示す説明図である。
【
図5】(A)、(B)はそれぞれ、出力電極の電圧の計測結果を示す説明図である。
【
図6】(A)、(B)はそれぞれ、対象サンプルの判定結果を示す説明図である。
【
図7】(A)、(B)はそれぞれ、対象サンプルの判定結果を示す説明図である。
【
図8】対象サンプルの判定の正確性を数値で表した結果を示す説明図である。
【
図9】(A)、(B)はそれぞれ、出力電極の電圧の計測結果を示す説明図である。
【
図10】(A)、(B)はそれぞれ、出力電極の電圧の計測結果を示す説明図である。
【
図11】(A)、(B)はそれぞれ、対象サンプルの判定結果を示す説明図である。
【
図12】(A)、(B)はそれぞれ、対象サンプルの判定結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1~
図3に示すように、本発明の一実施の形態に係る識別装置10は、対象物(図示を省略する)を識別する装置であって、対象物から力を与えられて弾性変形する電気伝導体11、11aと、電気伝導体11に電圧を印可する入力電極12と、電気伝導体11aに電圧を印可する入力電極12aと、電気伝導体11の異なる箇所からそれぞれ電気信号を取り出す複数の出力電極13と、電気伝導体11aの異なる箇所からそれぞれ電気信号を取り出す複数の出力電極13aと、各出力電極13及び各出力電極13aにより取り出された電気信号を入力値として、機械学習により、電気伝導体11、11aに力を与えている対象物の識別処理を行う識別処理部14を備えている。以下、詳細に説明する。
【0010】
本実施の形態において、識別装置10は、
図1に示すように、ロボット15に具備されている。ロボット15は、2つ(複数の一例)の電気伝導体11、11a、電気伝導体11、11aがそれぞれ固定されたベース体16、16a及び図示しないモータを作動させてベース体16、16aを電気伝導体11、11aと共にそれぞれ移動させて、電気伝導体11、11a間の距離を変える制御手段17を有している。
【0011】
電気伝導体11、11a及びベース体16、16aは、それぞれ板状であり、電気伝導体11は、
図1、
図2に示すように、ベース体16の一側の面(一側の一例)に取り付けられ、電気伝導体11aもベース体16aの一側の面(一側の一例)に取り付けられている。電気伝導体11、11a及びベース体16、16aは、
図1に示すように、ベース体16、電気伝導体11、11a及びベース体16aの順に配されている。即ち、電気伝導体11、11aが電気伝導体11、11aの間に配された対象物を挟める配置としている。よって、本実施の形態では、電気伝導体11、11aが複数あって、複数の電気伝導体11、11aで対象物を挟むこととなる。
【0012】
本実施の形態では、電気伝導体11及びベース体16が、
図2、
図3に示すように、いずれも矩形の板状である。電気伝導体11はベース体16より小さく、電気伝導体11の中心とベース体16の中心とが一致する位置で電気伝導体11がベース体16に取り付けられている。本実施の形態では、電気伝導体11a、ベース体16a、入力電極12a及び出力電極13aが電気伝導体11、ベース体16、入力電極12及び出力電極13とそれぞれ同様の設計である。そのため、以下、電気伝導体11、ベース体16、入力電極12及び出力電極13について説明し、電気伝導体11a、ベース体16a、入力電極12a及び出力電極13aについての詳細な説明を省略する。
【0013】
電気伝導体11は、
図2に示すように、それぞれ導電性を有する複数(多数)の導電片18及び複数の導電片18の全てを支持する矩形の板状の弾性部19を有し、導電片18は相互に接触することによって、電気的に接続されている。電気伝導体11は、力を与えられて弾性変形する形状であればよく、力を与えられる方向に一定以上の厚みを有する必要がある。電気伝導体11の厚みが0.1mm未満であると、弾性変形量が小さくなり、結果として、対象物を安定的に識別できない場合がある。また、実験的検証の結果、電気伝導体11の厚みが3mmを超えると、対象物の識別力が低下することが確認された。従って、電気伝導体11の厚みは0.1mm以上3mm以下が好適である。
【0014】
個々の導電片18の形状は特に限定されず、例えば、筒状、線状である。
本実施の形態では、導電片18として、カーボンナノチューブを採用しているが、これに限定されない。例えば、カーボンナノチューブ以外の有機性ナノワイヤ、Ag、Au、Ni、Cu、Pd、Pt、Rh、Ir、Ru、Os、Fe、Co、Snからなる群より選択された1種類以上の元素によって構成される金属性ナノワイヤ、IrO2、In2O3、SnO2、ITOからなる群より選択された1種類以上の酸化物によって構成された酸化物ナノワイヤ、重合性ポリマーワイヤ、並びに、DNA等の絶縁性ナノワイヤ表面を導電性材料で覆った複合体ワイヤを導電片18として採用可能である。
【0015】
弾性部19は、電気伝導体11が弾性変形していない状態で、各導電片18が所定の分布(本実施の形態では、略均一な分布)となるように、各導電片18を支持している。電気伝導体11に力が与えられた際、主に弾性部19の弾性変形により電気伝導体11全体が弾性変形する。各導電片18は、弾性部19(電気伝導体11)の弾性変形により移動し(弾性部19の弾性変形の程度によっては移動しない導電片18も当然ながら存在する)、電気伝導体11に力を与えていた状態が解除され電気伝導体11が弾性変形前の形状に戻ることによって、各導電片18の分布(位置)も実質的に元に戻る。
【0016】
本実施の形態では、弾性部19がポリジメチルシロキサンであるが、これに限定されない。弾性部19は弾性変形可能で絶縁性を有するものであればよく、例えば、ヒドロゲルを弾性部19に採用してもよい。
導電片18がカーボンナノチューブで、弾性部19がポリジメチルシロキサンの場合、電気伝導体11は、例えば、以下に示す第1~第3のステップにより製造可能である。
【0017】
第1のステップ:砂糖(水溶性の物質であれば砂糖でなくてもよい)及びカーボンナノチューブが入った容器に水を投入して得られる溶液を型(例えば、トレイ)に入れてオーブン等で乾燥し、型に応じた形状(例えば、板状)の中間体を得る。
第2のステップ:中間体を液状のポリジメチルシロキサンに浸漬した後、真空引きし、冷蔵庫等により冷却し、その後、オーブン等により乾燥処理を行う。
第3のステップ:乾燥処理まで終えた中間体を水に浸漬して中間体に含有されている砂糖を溶解して取り除いた後、中間体を乾燥することによって、電気伝導体11を製造する。
【0018】
従って、電気伝導体11には、内側に多数の空洞が形成され、表面に多数の穴が形成されている。これらの空洞及び穴は、
図2の拡大図で図示化を省略している。
なお、カーボンナノチューブ及びポリジメチルシロキサンを主とする物体をシート状に広く形成し、そのシート状の物体を任意の形状に切断して電気伝導体11を製造してもよい。
【0019】
また、一側の面に電気伝導体11が取り付けられたベース体16には、
図2、
図3に示すように、1つの入力電極12及び複数の出力電極13が取り付けられている。一つの入力電極12及び複数の出力電極13はそれぞれ、針状であり、ベース体16の他側の面(他側の一例であり、本実施の形態では電気伝導体11が取り付けられた面の反対側の面)から突出している。ベース体16の一側の面(一側)には、1つの入力電極12に電気的に接続された1つの入力端子部20及び複数の出力電極13にそれぞれ電気的に接続された複数の出力端子部21が設けられている。なお、本実施の形態では、入力電極12と入力端子部20の電気的な接続及び出力電極13と出力端子部21の電気的な接続がベース体15に設けられた導線を介してなされている。
【0020】
1つの入力端子部20及び複数の出力端子部21は、それぞれ半球状であり、ベース体16の一側の面から突出している。本実施の形態では、
図3に示すように、ベース体16の中央に入力端子部20が設けられ、入力端子部20の周囲に複数の出力端子部21が設けられている。電気伝導体11はベース体16の一側の面にシランカップリング剤により接着されて、1つの入力端子部20及び各出力端子部21の全てに接している。本実施の形態では、1つの入力端子部20及び複数の出力端子部21の分布が均一となるように、1つの入力端子部20及び複数の出力端子部21が等間隔で配置されている。なお、当該分布が均一でなくてもよいことは言うまでもない。
【0021】
入力端子部20及び複数の出力端子部21を、半円球状とすることによって、入力端子部20及び複数の出力端子部21を電気伝導体11に接触或いは押圧させることで、入力端子部20及び複数の出力端子部21をピン状として電気伝導体11に差し込む場合に比較して、特性劣化を防止できる。即ち、電気伝導体11の長期間の圧縮と緩和動作の繰り返しにより、ピンと電気伝導体11の接触性が変化し、特性のばらつきが大きくなるが、入力端子部20及び複数の出力端子部21は半円球状として電気導電体11と接触させることにより、電気伝導体11の長期間の圧縮と緩和動作の繰り返しが発生しても、特性劣化を軽減することができる。また、ベース体16と、電気伝導体11をシランカップリング剤にて、接合することで、入力端子部20及び複数の出力端子部21と電気伝導体11のある程度の電気導電性は保ちつつ、しかもシランカップリング剤は、硬化しても柔軟性をある程度、確保できるので、特性の変化を抑止することができる。ベース体16と、電気伝導体11を瞬間接着剤などで接合した場合、瞬間接着剤は、硬化するとかなりの硬度を持つことになるので、電気伝導体11の変形が部分的に変化して、これも、特性の劣化につながる恐れがある。
【0022】
一側の面において、1つの入力端子部20及び複数の出力端子部21が配列され電気伝導体11が接着された領域を所定領域として、他側の面には、その所定領域の裏側の領域を挟むように、1つの入力電極12及び複数の出力電極13の電極が2列に並んだ電極群と、別の複数の出力電極13が2列に並んだ電極群とが配されている。なお、詳細の説明は省略するが、ベース体16の一側の面にグランド用の端子部も設けられ、ベース体16の他側の面にグランド用の針状の電極も設けられている。
【0023】
制御手段17は、
図1に示すように、識別処理部14と共に筐体22に収容され、外部から印可される電圧を入力電極12に印可できるように設計されている。制御手段17から入力電極12に印可された電圧は入力端子部20を介して電気伝導体11に印可される。複数の出力電極13は、印可された電気伝導体11の出力端子部21に接触している箇所(複数の異なる箇所)から出力端子部21及び導線を介して電気信号(直流、交流又はパルス状の電圧信号や直流、交流又はパルス状の電流信号を意味する)をそれぞれ取り出す。各出力電極13が電気伝導体11から得た電気信号は別の導線を介して識別処理部14に送られる。
【0024】
電気伝導体11は、電気伝導体11に力が与えられることにより、力を与えられている部分を中心に弾性変形し、導電片18の相互の電気接続状態が変化し、これによって電気伝導体11の電気抵抗特性が変化する。ここで、各導電片18の相互の電気接続状態が変化するとは、非接触であった2つの導電片18が接触するようになったり、接触していた2つの導電片18が非接触になったり、接触していた2つの導電片18の接触位置、接触数及び接触面積等が変わったりすることを意味する。
【0025】
電気伝導体11の電気抵抗特性は電気伝導体11の弾性変形により変化することから、電圧が印加されている電気伝導体11から各出力電極13に取り出される電気信号の大きさも、電気伝導体11の弾性変形に応じて変化する。これらは電気伝導体11aについても同様であることから、電気伝導体11、11aで対象物を挟むことにより電気伝導体11、11aが弾性変形すると、その電気伝導体11、11aの弾性変形に伴って、各出力電極13に取り出される電気信号の大きさ及び各出力電極13aに取り出される電気信号の大きさが変わることとなる。
【0026】
本実施の形態では、電気伝導体11、11aが直接対象物に接触して対象物を挟むことを前提としているが、電気伝導体11の対象物に近い側の面及び電気伝導体11aの対象物に近い側の面にそれぞれ所定の物体(例えば、弾性シートやフイルム)を取り付け、電気伝導体11、11aがその物体を介して対象物を挟むようにしてもよい。この場合、電気伝導体11、11aは対象物に直接触れない。
【0027】
識別処理部14は、各出力電極13aから与えられるアナログの電気信号及び各出力電極13aから与えられるアナログの電気信号をデジタル値に変換するAD変換部31(
図13参照)を介して取得する。識別処理部14は、取得したデジタル値を基に機械学習により、電気伝導体11、11aが挟んでいる対象物を識別する機械学習機能を有している。なお、識別処理部14は、マイクロコンピュータ等によって構成できる。
【0028】
識別処理部14に搭載する機械学習システムは、特に限定されず、線形回帰やサポートベクターマシン等を利用できる。本実施の形態では、識別処理部14が、識別処理部14に与えられる複数の電気信号から、最終的に電気伝導体11、11aが挟んでいる対象物の情報(例えば、対象物の種類、大きさ、形状、重さ及び硬度等)を検出(識別)する。制御手段17は、識別処理部14の検出結果を基に、対象物を挟む力の大きさ並びに対象物を挟んだ電気伝導体11、11aの向き及び移動方向等を決定し、その決定に従ってロボット15が有するモータ等に所定の指令信号を送信する。
【実施例0029】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
実験では、
図2、
図3に示されているような実験モデル、即ち、7個の半球状の端子が等ピッチで直線的に並べられた列を平行に7つ設けた合計49個の端子が一側の面に形成され、他側の面に50本の針状の電極が設けられた長方形の板状のベース体と、ベース体の一側の面の中央にシランカップリング剤で接着されて49個の端子の全てに接触した正方形の板状の電気伝導体とをそれぞれ2組ずつ有する実験モデルを2個用意した。一方の実験モデルは2つの電気伝導体の厚みがいずれも0.3cmであり、他方の実験モデルは2つの電気伝導体の厚みがいずれも0.5cmであった。
【0030】
各実験モデルは、ベース体の長手方向一側に等ピッチで直線状に配された13本の電極の列が2列(合計26本の電極)設けられ、ベース体の長手方向他側に等ピッチで直線状に配された12本の電極の列が2列(合計24本の電極)設けられていた。49個の端子は、4隅の4個の端子がグランドの端子であり、中央の1個の端子が入力端子部であり、残りの44個の端子が出力端子部であった。
【0031】
26本の電極の群の電極は1本を入力電極とし、他の1本をグランドの電極とし、26本の電極の群の残りの24本の電極及び24本の電極の群の24本の電極を合わした48本の電極のうち16本を出力電極とした(残りの32本の電極は未使用であった)。各出力電極の電圧は電気信号として機械学習システムのソフトウェアが搭載されたコンピュータに入力されるようにシステム設計した。機械学習システムとして線形回帰を、導電片としてカーボンナノチューブを、弾性部としてポリジメチルシロキサンをそれぞれ採用した。
【0032】
実験では、2個の電気伝導体を対向するように配置させ、各入力電極に5Vの電圧を印可した状態で、モータの作動により2個の電気伝導体間の距離が短くなるように2個の電気伝導体をそれぞれベース体等と共に移動させて、2個の電気伝導体で直接対象サンプルを挟み、各出力電極の電圧を計測した。更に、計測した各出力電極の電圧を基に2個の電気伝導体で挟んでいる対象サンプルが何かを機械学習システムに判定させた。
【0033】
各対象サンプルについて出力電極の電圧を100回計測し、100個の電圧の計測値のうち80個を訓練データとして、残りの20個を検証データ(対象サンプル判定用のデータ)として用いた。対象サンプルとして、1)高さが5.2cm、横幅が5.5cmの樹脂製のりんごのおもちゃ、2)直径が5cmの樹脂製のボール(球体)、3)一辺が2.2cmの樹脂製の立方体ブロック、4)高さが15.5cm、横幅が11.5cmのはりねずみのぬいぐるみの4つを用意した。
【0034】
電気伝導体の厚みが0.3cmの実験モデル(以下、「0.3cmの実験モデル」とも言う)について、りんごのおもちゃ、ボール、立方体ブロック及びぬいぐるみを挟ませた際の各出力電極の電圧の計測結果をそれぞれ
図4(A)、(B)、
図5(A)、(B)に示す。0.3cmの実験モデルによる対象サンプルの判定結果(どの対象サンプルを挟んでいるかの判定結果)をそれぞれ
図6(A)、(B)、
図7(A)、(B)に示し、同実験モデルの対象サンプルの判定の正確性を数値で表した結果を
図8に示す。
【0035】
電気伝導体の厚みが0.5cmの実験モデル(以下、「0.5cmの実験モデル」とも言う)について、りんごのおもちゃ、ボール、立方体ブロック及びぬいぐるみを挟ませた際の各出力電極の電圧の計測結果をそれぞれ
図9(A)、(B)、
図10(A)、(B)に示し、0.5cmの実験モデルによる対象サンプルの判定結果をそれぞれ
図11(A)、(B)、
図12(A)、(B)に示す。
【0036】
図4(A)、(B)~
図7(A)、(B)及び
図9(A)、(B)~
図12(A)、(B)に記載されている「Toy apple」等は、実際に電気伝導体で挟んでいる対象サンプルを表す。「Toy apple」はりんごのおもちゃを、「Ball」はボールを、「Rigid block」は立方体ブロックを、「Plush toy」はぬいぐるみをそれぞれ意味する。
【0037】
図6(A)、(B)、
図7(A)、(B)、
図11(A)、(B)及び
図12(A)、(B)には、4つの対象サンプルそれぞれに対応するグラフ線が記載されている。各グラフ線は、電気伝導体で挟まれた対象サンプルが、グラフ線に対応する対象サンプルである可能性を表す値(以下、「Likelihood値」と言う)を連続したものであり、Likelihood値が大きいほど、電気伝導体で挟まれた対象サンプルがその対象サンプルである可能性が高いと判定したこととなる。
【0038】
実験では、まず、訓練データを用いて、電気伝導体が挟んでいる対象サンプルに対応するLikelihood値が1となり、その他3つの対象サンプルに対応するLikelihood値が0となるように、機械学習システムを学習させ、その後、検証データを用いて4つの対象サンプルにそれぞれ対応するLikelihood値がどのようになったかが
図6(A)、(B)、
図7(A)、(B)、
図11(A)、(B)及び
図12(A)、(B)に示されている。
【0039】
図6(A)、(B)、
図7(A)、(B)、
図11(A)、(B)及び
図12(A)、(B)に示す結果から、0.3cmの実験モデルが0.5cmの実験モデルに比べて対象サンプルを正確に判定できたことが分かる。
【0040】
図8に示された数値は、
図6(A)、(B)、
図7(A)、(B)に示された各グラフ線のLikelihood値の平均値を表す。例えば、りんごのおもちゃが挟まれた際のりんごのおもちゃ、ボール、立方体ブロック及びぬいぐるみそれぞれに対応するLikelihood値の平均値はそれぞれ、0.69、0.05、0.1、0.17であった。
図8に示す結果より、0.3cmの実験モデルが全ての対象サンプルについて安定的に正しい判定を行ったことが確認できた。
【0041】
また、上述したロボット15では、
図1に示すように、対象物を把持する把持部が、識別装置10が有する電気伝導体11、11a、入力電極12、12a、出力電極13、13a、ベース体16、16a、入力端子部20及び出力端子部21を有している。即ち、把持部に識別装置10の一部が設けられているが、把持部に識別装置全体(識別処理部を含めた全体)が設けられるようにすることもできる。
【0042】
ここで、ロボット15は、先端に把持部が取り付けられたアーム24の複数のロボット軸25それぞれを基準とした各部の回転運動によって、把持部が回転や移動(電気伝導体11、11aによる対象物の把持を含む)を行う。本実施の形態では、制御手段17が、識別装置10による対象物の識別結果に基づいて把持部の動作を制御する。
複数のロボット軸25は、
図13に示す複数のモータ26にそれぞれ対応し、制御手段17はモータ駆動手段27を介して各モータ26の回転出力や回転方向を制御する。
【0043】
本実施の形態では、各モータ26としてサーボモータ等の電動機を用いているが、ソレノイドや電動機及びソレノイドを具備するものを用いてもよい。
また、ロボット15には、制御手段17からの指令により入力電極12、12aに電流を流すDA変換部28、及び、液晶ディスプレや有機ELディスプレ等の表示手段とタッチパネル等の入力手段を複合した表示入力部29が設けられている。
【0044】
本実施の形態では、表示手段及び入力手段を一つのデバイスで担うようにしているが、それぞれを個別のデバイスで構成してもよい。例えば、入力手段はダイヤルやボタン形式にしてもよい。
更に、制御手段17に、有線通信や無線通信にて外部の機器とデータ通信を行う通信手段30を接続してもよい。
【0045】
以下にロボット15の動作の一例を説明する。
表示入力部29或いは通信手段30から、ロボット15の動作指令が入力されると、制御手段17は、モータ駆動手段27に信号を出して、所定のモータ26を駆動させ、把持部を、所定の位置にある対象物を掴むことが可能な位置に移動させる。次に、制御手段17はDA変換部28に信号を出力し、入力電極12、12aに電圧を供給するとともに、モータ駆動手段28に信号を出し、電気伝導体11、11aをベース体16、16aと共に互いに近づけるように所定のモータ26を駆動させ、電気伝導体11、11a間で物体を把持するようにする。
【0046】
電気伝導体11、11a間で物体を把持することにより、出力電極13、13aから信号が出力され、当該信号はAD変換部31でデジタル信号に変換される。識別処理部14はそのデジタル信号を基に把持されている対象物が何かを識別する。識別処理部14には例えば学習済みモデルが予め記憶されている。制御手段17は、識別処理部14から与えられる識別した対象物の種類に相当する信号を基にして、把持部の把持力や向きや回転速度等のデータを制御手段17に設けられたメモリ等から読み出す。
【0047】
そして、制御手段17は、読み出したデータに応じて、モータ駆動手段27に信号を出力し、モータ駆動手段27は各モータ26を所定の出力、所定の回転方向で駆動させる。制御手段17は、対象物の種類を表示入力部29に表示させても良い。把持部で把持している対象物の種類等を判定することで、対象物の種類に応じた搬送条件を決定することができるので、対象物を傷付けず、しかも対象物が落下することを極めて高確率で防止できる。
【0048】
例えば、把持する対象物がボールであった場合、ボールを把持しているとき、ベース体16、16aが水平になるように、各モータ26を制御することで、ボールにかかる重力の方向がベース体16、16aに対して垂直となり、ボールがベース体16、16aから滑り落ちることはほとんどなくなる。また、本実施の形態のロボット15は、暗闇等、カメラでの画像認識ができない場所でも、対象物の特定が可能となるので、汎用性が向上すると思われる。
【0049】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、識別装置をロボット以外のもの(例えば、物を挟んで固定する設備)に具備させることや、識別装置を単独で使用することができる。
また、電気伝導体は、矩形状(正方形状を含む)の板状である必要はなく、例えば、円形状、三角形状、5角形以上の多角形状の板状でもあってもよいし、板状である必要はなく、例えば、球体状の電気伝導体や、柱状の電気伝導体も採用可能である。
【0050】
そして、電気伝導体は1つであっても、3つ以上であってもよく、電気伝導体が1つの場合、電気伝導体に対象物を押し付けることで対象物の識別がなされる。電気伝導体が3つの場合、3つの電気伝導体を対象物に接触させた状態で電気伝導体を把持するように設計することができる。
更に、1つの電気伝導体に複数の入力電極を電気的に接続することや、1つの電気伝導体に1つの出力電極を電気的に接続することも可能である。但し、対象物を安定的に識別する観点では、1つの電気伝導体に電気的に接続する出力電極は複数であるのが好ましい。
10:識別装置、11、11a:電気伝導体、12、12a:入力電極、13、13a:出力電極、14:識別処理部、15:ロボット、16、16a:ベース体、17:制御手段、18:導電片、19:弾性部、20:入力端子部、21:出力端子部、22:筐体、24:アーム、25:ロボット軸、26:モータ、27:モータ駆動手段、28:DA変換部、29:表示入力部、30:通信手段、31:AD変換部