(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012555
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】回転機械の運転音を評価する運転音評価方法および運転音評価装置
(51)【国際特許分類】
G01H 3/00 20060101AFI20250117BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20250117BHJP
G01H 3/08 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
G01H3/00 A
G01M99/00 A
G01H3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023115462
(22)【出願日】2023-07-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】和久井 康平
(72)【発明者】
【氏名】松田 道昭
(72)【発明者】
【氏名】戸井 武司
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA15
2G064AA01
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB15
2G064AB22
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC41
2G064CC42
2G064CC43
2G064DD02
(57)【要約】
【課題】回転機械の運転音を適正に評価することができる技術を提供する。
【解決手段】運転音評価方法は、高速変調音評価指標と突出音評価指標を少なくとも用いて総合音質評価指標を算定する。高速変調音評価指標の算定は、運転音に対してエンベロープ解析を行って運転音の変調周波数成分の強さを決定し、変調周波数成分の強さにラフネスの重み係数を乗算することを含む。突出音評価指標の算定は、運転音の1/Nオクターブバンドスペクトル内の複数の1/Nオクターブ成分について突出レベルの複数のスコアをそれぞれ算出し、複数のスコアから突出音評価指標を決定することを含む。
【選択図】
図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の運転音を評価する運転音評価方法であって、
高速変調音評価指標と突出音評価指標を少なくとも用いて総合音質評価指標を算定し、
前記高速変調音評価指標の算定は、前記運転音に対してエンベロープ解析を行って前記運転音の変調周波数成分の強さを決定し、前記変調周波数成分の強さにラフネスの重み係数を乗算することを含み、
前記突出音評価指標の算定は、
前記運転音に対して1/Nオクターブバンド分析を行い、1/Nオクターブごとの周波数と音圧レベルとの関係を示す1/Nオクターブバンドスペクトルを生成し、
前記1/Nオクターブバンドスペクトル内に枠を設定し、
前記枠に含まれる複数の1/Nオクターブ成分の複数の音圧レベルのエネルギー和に基づいて基準レベルを算出し、
前記複数の音圧レベルのそれぞれから前記基準レベルを減算することで、複数の突出レベルを前記枠について算出し、
前記枠の設定と、前記基準レベルの算出と、前記複数の突出レベルの算出を、前記枠を1/Nオクターブずつシフトしながら行うことで、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内の複数の枠のそれぞれについて複数の突出レベルを決定し、
前記複数の枠のそれぞれについて決定された前記複数の突出レベルに基づいて、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内の複数の1/Nオクターブ成分について複数のスコアをそれぞれ算出し、
前記複数のスコアから前記突出音評価指標を決定することを含み、
Nは1よりも大きい数である、方法。
【請求項2】
前記高速変調音評価指標と前記突出音評価指標を少なくとも用いて前記総合音質評価指標を算定することは、前記高速変調音評価指標と、前記突出音評価指標と、前記運転音のシャープネスを少なくとも用いて前記総合音質評価指標を算定することである、請求項1に記載の運転音評価方法。
【請求項3】
前記高速変調音評価指標と前記突出音評価指標を少なくとも用いて前記総合音質評価指標を算定することは、前記高速変調音評価指標と、前記突出音評価指標と、前記運転音の変動強度を少なくとも用いて前記総合音質評価指標を算定することである、請求項1に記載の運転音評価方法。
【請求項4】
前記枠は、1/1オクターブバンドの枠である、請求項1に記載の運転音評価方法。
【請求項5】
前記基準レベルは、前記複数の音圧レベルの前記エネルギー和から所定値を引いた値である、請求項1に記載の運転音評価方法。
【請求項6】
前記1/Nオクターブバンドスペクトル内の複数の1/Nオクターブ成分について前記複数のスコアをそれぞれ算出することは、
前記複数の枠のそれぞれについて決定された前記複数の突出レベルを、1/Nオクターブごとに複数のグループに分類し、
各グループ内の複数の突出レベルに対して統計処理を実行することで、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内の前記複数の1/Nオクターブ成分について前記複数のスコアをそれぞれ算出することである、請求項1に記載の運転音評価方法。
【請求項7】
前記枠は、臨界帯域幅を有する枠であり、前記臨界帯域幅は、前記枠が設定される周波数に従って変化する、請求項1に記載の運転音評価方法。
【請求項8】
前記総合音質評価指標が下限値を下回ったとき、または上限値を上回ったときに、警報信号を生成することをさらに含む、請求項1に記載の運転音評価方法。
【請求項9】
回転機械の運転音を評価するための運転音評価装置であって、
前記回転機械の運転音を取得するマイクロフォンと、
高速変調音評価指標と突出音評価指標を少なくとも用いて総合音質評価指標を算定する指標計算装置を備え、
前記指標計算装置は、前記運転音に対してエンベロープ解析を行って前記運転音の変調周波数成分の強さを決定し、前記変調周波数成分の強さにラフネスの重み係数を乗算することで前記高速変調音評価指標を算定するように構成され、
前記指標計算装置は、
前記運転音に対して1/Nオクターブバンド分析を行い、1/Nオクターブごとの周波数と音圧レベルとの関係を示す1/Nオクターブバンドスペクトルを生成し、
前記1/Nオクターブバンドスペクトル内に枠を設定し、
前記枠に含まれる複数の1/Nオクターブ成分の複数の音圧レベルのエネルギー和に基づいて基準レベルを算出し、
前記複数の音圧レベルのそれぞれから前記基準レベルを減算することで、複数の突出レベルを前記枠について算出し、
前記枠の設定と、前記基準レベルの算出と、前記複数の突出レベルの算出を、前記枠を1/Nオクターブずつシフトしながら行うことで、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内の複数の枠のそれぞれについて複数の突出レベルを決定し、
前記複数の枠のそれぞれについて決定された前記複数の突出レベルに基づいて、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内の複数の1/Nオクターブ成分について複数のスコアをそれぞれ算出し、
前記複数のスコアから前記突出音評価指標を決定するように構成されており、
Nは1よりも大きい数である、運転音評価装置。
【請求項10】
前記指標計算装置は、前記高速変調音評価指標と、前記突出音評価指標と、前記運転音のシャープネスを少なくとも用いて前記総合音質評価指標を算定するように構成されている、請求項9に記載の運転音評価装置。
【請求項11】
前記指標計算装置は、前記高速変調音評価指標と、前記突出音評価指標と、前記運転音の変動強度を少なくとも用いて前記総合音質評価指標を算定するように構成されている、請求項9に記載の運転音評価装置。
【請求項12】
前記枠は、1/1オクターブバンドの枠である、請求項9に記載の運転音評価装置。
【請求項13】
前記指標計算装置は、前記複数の音圧レベルの前記エネルギー和から所定値を引くことで前記基準レベルを算出するように構成されている、請求項9に記載の運転音評価装置。
【請求項14】
前記指標計算装置は、
前記複数の枠のそれぞれについて決定された前記複数の突出レベルを、1/Nオクターブごとに複数のグループに分類し、
各グループ内の複数の突出レベルに対して統計処理を実行することで、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内の前記複数の1/Nオクターブ成分について前記複数のスコアをそれぞれ算出するように構成されている、請求項9に記載の運転音評価装置。
【請求項15】
前記枠は、臨界帯域幅を有する枠であり、前記臨界帯域幅は、前記枠が設定される周波数に従って変化する、請求項9に記載の運転音評価装置。
【請求項16】
前記指標計算装置は、前記総合音質評価指標が下限値を下回ったとき、または上限値を上回ったときに、警報信号を生成するように構成されている、請求項9に記載の運転音評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ、送風機、圧縮機、タービン、電動機などの回転機械の運転音を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ポンプ、送風機、圧縮機、タービン、電動機などの回転機械の運転音は、騒音値dB(A)で表されることが一般的である。しかしながら、低騒音を実現した回転機械においても、うるさい、気になる、耳障り等の騒音(異音)を指摘されることがある。
【0003】
聞き心地を評価するための音質評価指標(例えば、ラウドネス、シャープネス、ラフネス、トナリティ、変動強度等)は、既に実用化されている。しかしながら、これらの音質評価指標では、回転機械の異音を評価することが難しい現象も存在する。例えば、回転機械の甲高い音(シャープネス)、うなり音(変動強度)は、音質評価指標で評価することが可能である。これに対し、回転機械の突出音(卓越音)、高速変調音(ジジジ、ビビビなど)は、上記音質評価指標では評価することが難しい。
【0004】
ポンプ等の回転機械の異常、故障を音で診断する技術も既に実用化されており、例えば、狭帯域分析(FFT法)やオクターブバンド分析が用いられる。しかしながら、既存の技術は、OA(Overall)やPOA(Partial Overall)での故障診断であり、上記回転機械の異音の特徴を直接的に表現できる音質評価指標を用いた故障診断は実用化されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、回転機械の運転音を適正に評価することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、回転機械の運転音を評価する運転音評価方法であって、高速変調音評価指標と突出音評価指標を少なくとも用いて総合音質評価指標を算定し、前記高速変調音評価指標の算定は、前記運転音に対してエンベロープ解析を行って前記運転音の変調周波数成分の強さを決定し、前記変調周波数成分の強さにラフネスの重み係数を乗算することを含み、前記突出音評価指標の算定は、前記運転音に対して1/Nオクターブバンド分析を行い、1/Nオクターブごとの周波数と音圧レベルとの関係を示す1/Nオクターブバンドスペクトルを生成し、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内に枠を設定し、前記枠に含まれる複数の1/Nオクターブ成分の複数の音圧レベルのエネルギー和に基づいて基準レベルを算出し、前記複数の音圧レベルのそれぞれから前記基準レベルを減算することで、複数の突出レベルを前記枠について算出し、前記枠の設定と、前記基準レベルの算出と、前記複数の突出レベルの算出を、前記枠を1/Nオクターブずつシフトしながら行うことで、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内の複数の枠のそれぞれについて複数の突出レベルを決定し、前記複数の枠のそれぞれについて決定された前記複数の突出レベルに基づいて、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内の複数の1/Nオクターブ成分について複数のスコアをそれぞれ算出し、前記複数のスコアから前記突出音評価指標を決定することを含み、Nは1よりも大きい数である、方法が提供される。
【0008】
一態様では、前記高速変調音評価指標と前記突出音評価指標を少なくとも用いて前記総合音質評価指標を算定することは、前記高速変調音評価指標と、前記突出音評価指標と、前記運転音のシャープネスを少なくとも用いて前記総合音質評価指標を算定することである。
一態様では、前記高速変調音評価指標と前記突出音評価指標を少なくとも用いて前記総合音質評価指標を算定することは、前記高速変調音評価指標と、前記突出音評価指標と、前記運転音の変動強度を少なくとも用いて前記総合音質評価指標を算定することである。
一態様では、前記枠は、1/1オクターブバンドの枠である。
一態様では、前記基準レベルは、前記複数の音圧レベルの前記エネルギー和から所定値を引いた値である。
一態様では、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内の複数の1/Nオクターブ成分について前記複数のスコアをそれぞれ算出することは、前記複数の枠のそれぞれについて決定された前記複数の突出レベルを、1/Nオクターブごとに複数のグループに分類し、各グループ内の複数の突出レベルに対して統計処理を実行することで、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内の前記複数の1/Nオクターブ成分について前記複数のスコアをそれぞれ算出することである。
一態様では、前記枠は、臨界帯域幅を有する枠であり、前記臨界帯域幅は、前記枠が設定される周波数に従って変化する。
一態様では、前記方法は、前記総合音質評価指標が下限値を下回ったとき、または上限値を上回ったときに、警報信号を生成することをさらに含む。
【0009】
一態様では、回転機械の運転音を評価するための運転音評価装置であって、前記回転機械の運転音を取得するマイクロフォンと、高速変調音評価指標と突出音評価指標を少なくとも用いて総合音質評価指標を算定する指標計算装置を備え、前記指標計算装置は、前記運転音に対してエンベロープ解析を行って前記運転音の変調周波数成分の強さを決定し、前記変調周波数成分の強さにラフネスの重み係数を乗算することで前記高速変調音評価指標を算定するように構成され、前記指標計算装置は、前記運転音に対して1/Nオクターブバンド分析を行い、1/Nオクターブごとの周波数と音圧レベルとの関係を示す1/Nオクターブバンドスペクトルを生成し、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内に枠を設定し、前記枠に含まれる複数の1/Nオクターブ成分の複数の音圧レベルのエネルギー和に基づいて基準レベルを算出し、前記複数の音圧レベルのそれぞれから前記基準レベルを減算することで、複数の突出レベルを前記枠について算出し、前記枠の設定と、前記基準レベルの算出と、前記複数の突出レベルの算出を、前記枠を1/Nオクターブずつシフトしながら行うことで、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内の複数の枠のそれぞれについて複数の突出レベルを決定し、前記複数の枠のそれぞれについて決定された前記複数の突出レベルに基づいて、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内の複数の1/Nオクターブ成分について複数のスコアをそれぞれ算出し、前記複数のスコアから前記突出音評価指標を決定するように構成されており、Nは1よりも大きい数である、運転音評価装置が提供される。
【0010】
一態様では、前記指標計算装置は、前記高速変調音評価指標と、前記突出音評価指標と、前記運転音のシャープネスを少なくとも用いて前記総合音質評価指標を算定するように構成されている。
一態様では、前記指標計算装置は、前記高速変調音評価指標と、前記突出音評価指標と、前記運転音の変動強度を少なくとも用いて前記総合音質評価指標を算定するように構成されている。
一態様では、前記枠は、1/1オクターブバンドの枠である。
一態様では、前記指標計算装置は、前記複数の音圧レベルの前記エネルギー和から所定値を引くことで前記基準レベルを算出するように構成されている。
一態様では、前記指標計算装置は、前記複数の枠のそれぞれについて決定された前記複数の突出レベルを、1/Nオクターブごとに複数のグループに分類し、各グループ内の複数の突出レベルに対して統計処理を実行することで、前記1/Nオクターブバンドスペクトル内の前記複数の1/Nオクターブ成分について前記複数のスコアをそれぞれ算出するように構成されている。
一態様では、前記枠は、臨界帯域幅を有する枠であり、前記臨界帯域幅は、前記枠が設定される周波数に従って変化する。
一態様では、前記指標計算装置は、前記総合音質評価指標が下限値を下回ったとき、または上限値を上回ったときに、警報信号を生成するように構成されている。
【発明の効果】
【0011】
従来の音質評価指標では評価できなかった回転機械の突出音(卓越音)、高速変調音などの異音を、総合音質評価指標を用いて適正に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】回転機械の運転音を評価する運転音評価装置の一実施形態を示す模式図である。
【
図2】マイクロフォンによって取得された運転音の一例を示すグラフである。
【
図3】
図2に示す運転音に対してエンベロープ解析を行って得られた包絡線の波形を示すグラフである。
【
図4】
図3に示す包絡線の波形に対してフーリエ変換処理を適用して得られたパワースペクトルである。
【
図5】ラフネスの重み係数と変調周波数との関係の一例を示すグラフである。
【
図6】突出音評価指標を算出する一実施形態を示すフローチャートである。
【
図7】生成された1/24オクターブバンドスペクトルを模式的に示す図である。
【
図8】生成された1/24オクターブバンドスペクトルの一部を拡大して模式的に示す図である。
【
図9】
図7の1/24オクターブバンドスペクトルに設定された1番目の枠を模式的に示す図である。
【
図10】1/24オクターブバンドスペクトルのうち1番目の枠を拡大して模式的に示す図である。
【
図11】各枠に含まれる1/24オクターブ成分の突出レベルを模式的に示す図である。
【
図12】
図7の1/24オクターブバンドスペクトルに設定された2番目の枠を模式的に示す図である。
【
図13】1/24オクターブバンドスペクトルのうち2番目の枠を拡大して模式的に示す図である。
【
図14】1/24オクターブ成分における突出レベルを説明する図である。
【
図15】1/24オクターブ成分における突出レベルを説明する図である。
【
図16】
図7に示す1/24オクターブバンドスペクトルとともに、スコアSを合わせて模式的に示した図である。
【
図17】周波数fと臨界帯域幅Δfとの関係を示す図である。
【
図18】近似式による周波数fと臨界帯域幅Δfとの関係を示す図である。
【
図19】平均嗜好度と総合音質評価指標との関係の一例を示すグラフである。
【
図20】平均嗜好度と総合音質評価指標との関係の他の例を示すグラフである。
【
図21】平均嗜好度と総合音質評価指標との関係のさらに他の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、回転機械の運転音を評価する運転音評価方法および運転音評価装置の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、回転機械の運転音を評価する運転音評価装置の一実施形態を示す模式図である。運転音評価装置は、回転機械100の運転音を取得するマイクロフォン1と、回転機械100の運転音から総合音質評価指標を算定する指標計算装置5を備えている。マイクロフォン1は、指標計算装置5に電気的に接続されており、マイクロフォン1によって取得された回転機械100の運転音は、指標計算装置5に送られる。回転機械100は、回転体を有する機械であり、回転機械100の例として、ポンプ、送風機、圧縮機、タービン、電動機が挙げられる。
【0014】
指標計算装置5は、プログラムが格納された記憶装置5aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する処理装置5bを備えている。指標計算装置5は、少なくとも1台のコンピュータから構成される。指標計算装置5は、エッジコンピュータとクラウドサーバとの組み合わせなどの、複数のコンピュータから構成されてもよい。記憶装置5aは、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。処理装置5bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、指標計算装置5の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0015】
指標計算装置5は、高速変調音評価指標と突出音評価指標を用いて総合音質評価指標を算定するように構成されている。高速変調音評価指標は、高速変調音(ジジジ、ビビビなど)を評価することができる指標である。突出音評価指標は、突出音(卓越音)を評価することができる指標である。総合音質評価指標は、回転機械100の運転音を正しく評価する(すなわち、運転音に異音が含まれているか否かを判定する)ための指標である。
【0016】
指標計算装置5は、次のようにして高速変調音評価指標を算定するように構成されている。すなわち、指標計算装置5は、マイクロフォン1から取得した運転音に対してエンベロープ解析を行って運転音の変調周波数成分の強さを決定する。さらに、指標計算装置5は、運転音の変調周波数成分の強さにラフネスの重み係数を乗算する。
【0017】
図2は、マイクロフォン1によって取得された運転音の一例を示すグラフであり、
図3は、
図2に示す運転音に対してエンベロープ解析を行って得られた包絡線の波形を示すグラフであり、
図4は、
図3に示す包絡線の波形に対してフーリエ変換処理を適用して得られたパワースペクトルである。
図2および
図3のグラフにおいて、縦軸は音圧レベル[dB]を表し、横軸は時間を表している。
図4のグラフにおいて、縦軸は変調周波数成分の強さを表し、横軸は変調周波数を表している。
【0018】
図2乃至
図4から分かるように、指標計算装置5は、
図2に示す運転音の波形に対してエンベロープ解析を行って
図3に示す包絡線の波形を生成し、包絡線の波形に対してフーリエ変換処理(具体的には高速フーリエ変換処理)を実行して
図4に示すパワースペクトルを生成する。そして、指標計算装置5は、パワースペクトルのピークの大きさである、運転音の変調周波数成分の強さT1と、パワースペクトルのピークの周波数である、運転音の変調周波数U1を決定する。
【0019】
音のラフネスは、変調周波数が70Hzのときに最大となる音質指標である。
図5は、ラフネスの重み係数と変調周波数との関係を示すグラフである。
図5に示すように、ラフネスの重み係数は、変調周波数が70Hzのときに最大となる。これは、人間は、変調周波数70Hzの音を聞いたときに、音のざらつきを最も感じるためである。
【0020】
指標計算装置5は、
図5に示すラフネスの重み係数と変調周波数との関係を示す相関データを記憶装置5a内に予め格納している。相関データは、多項式関数、またはデータテーブルであってもよい。指標計算装置5は、運転音の変調周波数U1に対応するラフネスの重み係数を
図5に示す相関データから決定し、運転音の変調周波数成分の強さT1に、決定されたラフネスの重み係数を乗算することで、高速変調音評価指標を算定する。
【0021】
次に、突出音評価指標について説明する。
図6は、突出音評価指標を算出する一実施形態を示すフローチャートである。以下に説明する実施形態では、1/Nオクターブバンド分析の一例として、1/24オクターブバンド分析が使用される。Nは、1よりも大きい数である。以下に説明する「1/24」は「1/N」の一例であり、Nの例としては、3、12、24などの自然数が挙げられる。
【0022】
まず、評価対象となる回転機械(例えば、ポンプや送風機)100の運転音を、
図6に示すマイクロフォン1で取得する(ステップS1)。これにより、周波数ごとの音圧レベルが取得される。
【0023】
次に、指標計算装置5は、取得された運転音に対して1/24オクターブバンド分析を行い、1/24オクターブバンドスペクトルを生成する(ステップS2)。
【0024】
図7は、生成された1/24オクターブバンドスペクトルを模式的に示す図である。
図8は、生成された1/24オクターブバンドスペクトルの一部を拡大して模式的に示す図である。
図8に示すように、1/24オクターブバンドスペクトルは、1/24オクターブごとの周波数f1,f2,f3・・・における音圧レベルP1,P2,P3・・・を示している。
【0025】
図6に戻り、生成された1/24オクターブバンドスペクトルにi番目の1/1オクターブバンドの枠(以下、単に「枠」ということがある。)を設定する(ステップS3A)。1番目の枠は、その下端(最低周波数)が所望の周波数(例えば、取得された運転音の最低周波数)を含むように設定する。
【0026】
図9は、
図7の1/24オクターブバンドスペクトルに設定された1番目の枠を模式的に示す図である。
図10は、1/24オクターブバンドスペクトルのうち1番目の枠を拡大して模式的に示す図である。
【0027】
1/24オクターブバンドスペクトルに1/1オクターブバンドの幅を持つ枠を設定するため、枠には24個の1/24オクターブ成分が含まれる。以下、この1番目の枠に含まれる24個の1/24オクターブ成分に対応する周波数を低周波数側から順に周波数f1~f24とする。
【0028】
図6に戻り、指標計算装置5は、設定された1番目の枠についての基準レベルを算出する(ステップS3B)。基準レベルは、枠に含まれる複数の1/24オクターブ成分の複数の音圧レベルに基づいて算出される。以下の説明では、周波数fk(k=1~24)に対応する1/24オクターブ成分の音圧レベルをPkと表し、i番目の枠についての基準レベルをAiと表す。
【0029】
仮に音圧レベルP1~P24が同一であるとすると、1/1オクターブの音圧レベルと比べて、各1/24オクターブ成分の音圧レベル(エネルギー)は1/24になる(-13.8dB相当)。そのため、一例として、1番目の枠についての基準レベルA1は、以下の式(1)で算出することができる。
基準レベルA1=10×log(Σ10Pk/10)-10×log24
=10×log(Σ10Pk/10)-13.8 ・・・(1)
【0030】
すなわち、指標計算装置5は、枠に含まれる1/24オクターブ成分f1~f24の音圧レベルP1~P24のエネルギー和10×logΣ10Pk/10から所定値(13.8)を引くことで基準レベルA1を決定する。
【0031】
次に、指標計算装置5は、1番目の枠に含まれる24個の1/24オクターブ成分について突出レベルをそれぞれ算出する(ステップS3C)。以下の説明では、i番目の枠における周波数fkに対応する1/24オクターブ成分の突出レベルを、Qk_iと表す。
【0032】
一例として、指標計算装置5は、1番目の枠における周波数fk(k=1~24)に対応する1/24オクターブ成分の突出レベルQk_1を、以下の式(2)で算出する。
Qk_1=Pk-基準レベルA1 ・・・(2)
【0033】
すなわち、設定された枠に含まれる各1/24オクターブ成分の突出レベルは、各1/24オクターブ成分の音圧レベルから基準レベルを引いた値である。
【0034】
以上により、設定された1番目の枠についての処理は終了する。
図11は、1番目の枠における周波数f1~f24にそれぞれ対応する1/24オクターブ成分の突出レベルQ1_1~Q24_1を模式的に示している。
【0035】
ある周波数fkに対応する1/24オクターブ成分の音圧レベルが高い場合、1番目の枠内に、音圧レベルの高い他の1/24オクターブ成分があれば、突出レベルQk_1は相対的には低くなる。これは基準レベルA1が高くなるためである。このように、ピーク周波数fkの周辺に音圧レベルが高い他の周波数がある場合、周波数fkの音があまり目立って聞こえないことを反映した突出レベルQk_1が得られる。
【0036】
一方、周波数fkに対応する1/24オクターブ成分の音圧レベルが高い場合であっても、1番目の枠内に、音圧レベルの高い他の1/24オクターブ成分がなければ、突出レベルQk_1は相対的に高くなる。これは基準レベルA1が低くなるためである。このように、ピーク周波数fkの周辺に音圧レベルが高い他の周波数がない場合、周波数fkの音がより目立って聞こえることを反映した突出レベルQk_1が得られる。
【0037】
本実施形態では、基準レベルA1は、枠内に含まれる複数の1/24オクターブ成分の複数の音圧レベルによって定まる。したがって、突出レベルQk_1は、周辺帯域の音圧レベルの影響を取り込んだものとなり、聴覚マスキング効果を反映したものとなる。
【0038】
次に、指標計算装置5は、1番目の枠を1/24オクターブだけシフトし、1/24オクターブバンドスペクトルに次の2番目の枠を設定する(ステップS3DのYES,S3A)。
【0039】
図12は、
図7の1/24オクターブバンドスペクトルに設定された2番目の枠を模式的に示す図である。
図13は、1/24オクターブバンドスペクトルのうち2番目の枠を拡大して模式的に示す図である。
図10と
図13を対比すると、1/24オクターブだけ枠をシフトしたため、1番目の枠に含まれていた周波数f1に対応する1/24オクターブ成分は2番目の枠には含まれず、1番目の枠に含まれていなかった周波数f25に対応する1/24オクターブ成分が2番目の枠に含まれる。
【0040】
そして、指標計算装置5は、2番目の枠についての基準レベルA2を算出する(ステップS3B)。基準レベルA2は、1番目の枠についての基準レベルA1と同様、以下の式(3)で算出できる。
基準レベルA2=10×log(Σ10Pk/10)-10×log24
=10×log(Σ10Pk/10)-13.8 ・・・(3)
【0041】
算出式自体は1番目の枠における基準レベルA1と同じである。しかし、基準レベルは、枠に含まれる複数の1/24オクターブ成分の複数の音圧レベルに依存して変動し得る。具体的には、枠に含まれる複数の1/24オクターブ成分の複数の音圧レベルが全体的に高いほど、基準レベルは高くなる。
【0042】
次に、指標計算装置5は、2番目の枠に含まれる24個の1/24オクターブ成分について複数の突出レベルをそれぞれ算出する(ステップS3C)。2番目の枠において、周波数fk(k=2~25)に対応する1/24オクターブ成分の突出レベルQk_2は、以下の式(4)で算出することができる。
Qk_2=Pk-基準レベルA2 ・・・(4)
【0043】
以上により、設定された2番目の枠についての処理は終了する。
図11に、周波数f2~f25のそれぞれに対応する1/24オクターブ成分の突出レベルQ2_2~Q25_2を模式的に示している。
【0044】
指標計算装置5は、上記ステップS3A~S3Dの処理を、枠を1/24オクターブずつシフトしながら、設定された枠の上端(最高周波数)が所望の周波数(例えば、取得された運転音の最高周波数)に達するまで行うことで、1/24オクターブバンドスペクトル内の複数の枠のそれぞれについて複数の突出レベルを決定する。
【0045】
以上により、各1/24オクターブ成分における突出レベルが枠ごとに算出される。基準レベルが枠ごとに算出されるため、ある枠における1/24オクターブ成分における突出レベルは、別の枠における1/24オクターブ成分における突出レベルとは異なり得る。このことを
図14および
図15を用いて説明する。
【0046】
例えば、
図14に示すように、あるm番目の枠は周波数fxを含んでいる。そして、このm番目の枠においてピークの周波数はfxであり、m番目の枠内には音圧レベルの高い周波数はないので、基準レベルAmは小さな値となる。そのため、当該周波数fxに対応する1/24オクターブ成分の突出レベルQx_mは相対的に大きな値となる。このように、ピーク周波数fxの周辺に音圧レベルが高い他の周波数がないため、この周波数fxの音がより目立って聞こえることを示す突出レベルQx_mが得られる。
【0047】
一方、
図15に示すように、ある別のn番目の枠も周波数fxを含んでいる。しかし、このn番目の枠ではfxを含む複数の周波数で音圧レベルが高い複数のピークが存在するので、基準レベルAnは大きな値となる。そのため、当該周波数fxに対応する1/24オクターブ成分の突出レベルQx_nは相対的に小さな値となる。
【0048】
このように、本実施形態では、指標計算装置5は、枠に含まれる(すなわち周辺帯域の)他の周波数の音圧レベルを反映した突出レベルを算出する。
【0049】
図6に戻り、指標計算装置5は、全ての枠について突出レベルを算出した後、1/1オクターブバンドの枠のそれぞれで算出された、複数の1/24オクターブ成分の複数の突出レベルに基づいて、1/24オクターブバンドスペクトル内の複数の1/24オクターブ成分の複数のスコアをそれぞれ算出する(ステップS4)。より具体的には、指標計算装置5は、
図11に示すように、複数の枠のそれぞれについて決定された複数の突出レベルを、1/24オクターブごとに複数のグループG(点線で示す)に分類する。指標計算装置5は、各グループG内の複数の突出レベルに対して統計処理を実行することで、1/24オクターブバンドスペクトル内の複数の1/24オクターブ成分について複数のスコアをそれぞれ算出する。統計処理の例としては、総和、算術平均、エネルギー平均が挙げられる。以下の説明では、周波数fkのスコアをskと表す。
【0050】
例えば、
図11に示すように、周波数f24のグループGに対応する1/24オクターブ成分は1~24番目の枠に含まれており、突出レベルQ24_1~Q24_24が算出されている。よって、周波数f24のグループGに対応する1/24オクターブ成分のスコアS24は、突出レベルQ24_1~Q24_24を統計処理(例えば、総和、算術平均、またはエネルギー平均)することで得られる。このようにして得られるスコアは周辺帯域の音圧レベルを反映した音の卓越度を示している。
【0051】
そして、指標計算装置5は、必要に応じてスコアをグラフ化する(ステップS5)。
図16は、
図7に示す1/24オクターブバンドスペクトルとともに、スコアSを模式的に示した図である。このグラフは、1/24オクターブバンドスペクトル内の複数の1/24オクターブ成分にそれぞれ対応する複数のスコアを表している。これらのスコアにより、例えばオペレータが不快音の原因となり得る周波数を容易に特定できる。具体例として、スコアが大きい周波数を不快音の原因となる周波数とすることができる。
【0052】
指標計算装置5は、1/24オクターブバンドスペクトル内の複数の1/24オクターブ成分にそれぞれ対応する複数のスコアから、突出音評価指標を決定する(ステップS6)。例えば、指標計算装置5は、複数のスコアの総和または平均である突出音評価指標を算出する。他の例では、指標計算装置5は、複数のスコアの最大値である突出音評価指標を決定する。
【0053】
以上述べたように、本実施形態では、1/24オクターブバンドスペクトルに対して1/1オクターブバンドの幅を持つ枠を設定し、枠ごとに基準レベルを算出する。そして、この基準値に基づいて各1/24オクターブ成分の突出レベルを算出する。そのため、周辺帯域の音圧レベルを反映した(すなわち聴覚マスキング効果を反映した)、各1/24オクターブ成分のスコアを算出できる。このスコアに基づいて、不快音の原因となり得る周波数を容易に特定できる。
【0054】
次に、突出音評価指標を算出する他の実施形態について説明する。特に説明しない本実施形態の詳細は、
図6乃至
図16を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0055】
本実施形態では、
図6のステップS3Aにおいて、1/1オクターブバンド枠を設定するのに代えて、臨界帯域幅Δfに基づく枠を設定する。臨界帯域幅Δfは聴覚マスキングの周波数範囲に相当するものである。周波数fと臨界帯域幅Δfとの関係は、例えば
図17に示すように予め定められており、周波数fが大きいほど臨界帯域幅Δfは非線形に大きくなる。そのため、i<i’とすると、i番目に設定される枠より、i’番目に設定される枠の方が、臨界帯域幅が広い。周波数fと臨界帯域幅Δfとの関係は、指標計算装置5の記憶装置5a内に予め格納されている。
【0056】
例えば、
図10では1番目の枠が周波数f1に対して設定されている。例示として、i番目の枠が周波数50Hzに対して設定されるとすると、
図17を参照して、その枠の臨界帯域幅は100Hzとなる。一方、i’番目の枠が周波数1,000Hzに対して設定されるとすると、
図17を参照して、その枠の臨界帯域幅は160Hzとなる。
【0057】
ただし、
図17において、周波数fと臨界帯域幅Δfとの関係は離散的に定められている。そのため、設定される周波数によっては臨界帯域幅Δfが予め定められていない場合がある。例えば、周波数900Hzに対応する臨界帯域幅Δfは
図17に定められていない。
【0058】
そのため、周波数fと臨界帯域幅Δfとの関係を示す近似式(例えば多項式)を用意しておいてもよい。そして、指標計算装置5は、設定される周波数fに応じた臨界帯域幅Δfを算出して枠を設定してもよい。周波数fと臨界帯域幅Δfとの関係を示す近似式は、指標計算装置5の記憶装置5a内に予め格納される。
【0059】
近似式は、例えば以下に示す3次式であってよい。この近似式に基づく周波数fと臨界帯域幅Δfとの関係を
図18に示す。
Δf=a×f
3+b×f
2+c×f+d
a=-0.0000000003
b=0.0000173187
c=0.0831250103
d=76.1402217580
【0060】
先に説明した実施形態では、1/1オクターブバンドの枠を設定するため、枠には24個の1/24オクターブ成分が含まれる。これに対し、本実施形態では、周波数が高いほど大きくなる臨界帯域幅Δfに基づく枠を設定するため、枠に含まれる1/24オクターブ成分の数は一定ではなく、周波数が高いほど多くなる。
【0061】
その場合であっても、
図6のステップS3Bにおける基準レベルAiは、先に説明した実施形態と同様に算出できる。具体的には、i番目の枠に含まれる1/24オクターブ成分の数をMiとすると、基準レベルAiは以下の式で表される。
基準レベルAi=10×log(Σ10
Pk/10)-10×log(Mi)
【0062】
図6のステップS3Cでは、指標計算装置5は、枠に含まれるMi個の1/24オクターブ成分のそれぞれについて、突出レベルを算出する。その他の処理は先に説明した実施形態と同様でよい。
【0063】
このように、本実施形態では臨界帯域幅を有する枠を設定するため、より精度よく不快音の原因となり得る周波数を容易に特定できる。さらに、聴覚マスキングの周波数範囲に相当する臨界帯域幅に基づく枠を設定するため、精度が向上する。
【0064】
次に、今まで説明した高速変調音評価指標と突出音評価指標を用いて総合音質評価指標を算定する一実施形態について説明する。高速変調音評価指標は、上述したように、エンベロープ解析結果にラフネスの重み係数を乗算することで得られる指標であり、回転機械で騒音問題になり得る高速変調音の粗さを評価できる指標である。突出音評価指標は、回転機械の運転音に含まれる突出音(卓越音)を評価できる指標である。
【0065】
指標計算装置5は、高速変調音評価指標および突出音評価指標を変数として含む以下の計算式(5)を用いて総合音質評価指標を算定するように構成されている。
総合音質評価指標=E1×h+E2×p+C (5)
ここで、hは高速変調音評価指標を表し、pは突出音評価指標を表し、E1およびE2は予め定められた係数を表し、Cは予め定められた定数を表す。計算式(5)は、指標計算装置5の記憶装置5a内に予め格納されている。
【0066】
指標計算装置5は、回転機械の運転音の官能評価結果である平均嗜好度と、その運転音について算出された高速変調音評価指標および突出音評価指標に対して、重回帰分析を行うことで係数E1,E2および定数Cを決定する。平均嗜好度は目的変数であり、高速変調音評価指標および突出音評価指標は説明変数である。回転機械の運転音の平均嗜好度は、回転機械の運転音に対して官能試験を予め実施することで得られる。平均嗜好度は、指標計算装置5の記憶装置5a内に予め格納されている。
【0067】
図19は、平均嗜好度と、計算式(5)によって算定された総合音質評価指標との関係の一例を示すグラフである。グラフの縦軸は平均嗜好度を表し、グラフの横軸は総合音質評価指標を表している。決定係数R
2は、計算式(5)によって算定された総合音質評価指標が平均嗜好度にどれだけ近いかを示す指標である。決定係数R
2が1に近いほど、総合音質評価指標は平均嗜好度に近いことを示している。
【0068】
一実施形態では、指標計算装置5は、高速変調音評価指標、突出音評価指標、および回転機械の運転音のシャープネスを変数として含む以下の計算式(6)を用いて総合音質評価指標を算定するように構成されてもよい。
総合音質評価指標=E1×h+E2×p+E3×s+C (6)
ここで、hは高速変調音評価指標を表し、pは突出音評価指標を表し、sは回転機械の運転音のシャープネスを表し、E1,E2,E3は予め定められた係数を表し、Cは予め定められた定数を表す。計算式(6)は、指標計算装置5の記憶装置5a内に予め格納される。
【0069】
一般に、音のシャープネスは、音の甲高さを表す音質指標である。回転機械の運転音のシャープネスは、公知の技術に従って算出されるので、シャープネスの算出についての詳細な説明は省略する。
【0070】
指標計算装置5は、回転機械の運転音の官能評価結果である平均嗜好度と、その運転音について算出された高速変調音評価指標、突出音評価指標、および運転音のシャープネスに対して、重回帰分析を行うことで係数E1,E2,E3および定数Cを決定する。平均嗜好度は目的変数であり、高速変調音評価指標、突出音評価指標、および運転音のシャープネスは説明変数である。
【0071】
図20は、平均嗜好度と、計算式(6)によって算定された総合音質評価指標との関係の一例を示すグラフである。グラフの縦軸は平均嗜好度を表し、グラフの横軸は総合音質評価指標を表している。
図19と
図20との対比から分かるように、計算式(6)を用いたときに得られる決定係数R
2は、計算式(5)を用いたときに得られる決定係数R
2よりも1に近い。したがって、計算式(6)によって算定される総合音質評価指標は、回転機械の運転音の官能評価結果である平均嗜好度により近似している。
【0072】
一実施形態では、指標計算装置5は、高速変調音評価指標、突出音評価指標、回転機械の運転音のシャープネス、および回転機械の運転音の変動強度を変数として含む以下の計算式(7)を用いて総合音質評価指標を算定するように構成されてもよい。
総合音質評価指標=E1×h+E2×p+E3×s+E4×v+C (7)
ここで、hは高速変調音評価指標を表し、pは突出音評価指標を表し、sは回転機械の運転音のシャープネスを表し、vは回転機械の運転音の変動強度を表し、E1,E2,E3,E4は予め定められた係数を表し、Cは予め定められた定数を表す。計算式(7)は、指標計算装置5の記憶装置5a内に予め格納される。
【0073】
一般に、音の変動強度は、音のふらつきを表す音質指標であり、変調周波数が4Hzのときに最大となる。回転機械の運転音の変動強度は、公知の技術に従って算出されるので、変動強度の算出についての詳細な説明は省略する。
【0074】
指標計算装置5は、回転機械の運転音の官能評価結果である平均嗜好度と、その運転音について算出された高速変調音評価指標、突出音評価指標、運転音のシャープネス、および運転音の変動強度に対して、重回帰分析を行うことで係数E1,E2,E3,E4および定数Cを決定する。平均嗜好度は目的変数であり、高速変調音評価指標、突出音評価指標、運転音のシャープネス、および運転音の変動強度は説明変数である。
【0075】
図21は、平均嗜好度と、計算式(7)によって算定された総合音質評価指標との関係の一例を示すグラフである。グラフの縦軸は平均嗜好度を表し、グラフの横軸は総合音質評価指標を表している。
図20と
図21との対比から分かるように、計算式(7)を用いたときに得られる決定係数R
2は、計算式(6)を用いたときに得られる決定係数R
2よりも1に近い。したがって、計算式(7)によって算定される総合音質評価指標は、回転機械の運転音の官能評価結果である平均嗜好度により近似している。
【0076】
一実施形態では、指標計算装置5は、高速変調音評価指標、突出音評価指標、および回転機械の運転音の変動強度を変数として含む以下の計算式(8)を用いて総合音質評価指標を算定するように構成されてもよい。
総合音質評価指標=E1×h+E2×p+E4×v+C (8)
ここで、hは高速変調音評価指標を表し、pは突出音評価指標を表し、vは回転機械の運転音の変動強度を表し、E1,E2,E4は予め定められた係数を表し、Cは予め定められた定数を表す。計算式(8)は、指標計算装置5の記憶装置5a内に予め格納される。
【0077】
指標計算装置5は、回転機械の運転音の官能評価結果である平均嗜好度と、その運転音について算出された高速変調音評価指標、突出音評価指標、および運転音の変動強度に対して、重回帰分析を行うことで係数E1,E2,E4および定数Cを決定する。平均嗜好度は目的変数であり、高速変調音評価指標、突出音評価指標、および運転音の変動強度は説明変数である。
【0078】
図示しないが、計算式(5)~(7)と同様に、計算式(8)によって算定される総合音質評価指標は、回転機械の運転音の官能評価結果である平均嗜好度に近似する。
【0079】
一実施形態では、指標計算装置5は、計算式(5)~(8)のいずれか1つによって算出された総合音質評価指標が下限値を下回ったときに、警報信号を生成するように構成されている。総合音質評価指標が大きく低下したとき、回転機械に何らかの異常が発生している可能性がある。警報信号の例は特に限定されないが、例えば、回転機械に異常が発生していることを知らせる表示を表示装置に表示させるための電気的な信号が挙げられる。
【0080】
回転機械の種類、あるいは異常の種類によっては、回転機械に異常が発生すると、総合音質評価指標が大きく上昇することがありうる。したがって、一実施形態では、指標計算装置5は、計算式(5)~(8)のいずれか1つによって算出された総合音質評価指標が上限値を上回ったときに、警報信号を生成するように構成されてもよい。さらに、一実施形態では、指標計算装置5は、計算式(5)~(8)のいずれか1つによって算出された総合音質評価指標を下限値および上限値のそれぞれと比較し、総合音質評価指標が下限値を下回ったとき、または総合音質評価指標が上限値を上回ったときに、警報信号を生成するように構成されてもよい。
【0081】
指標計算装置5は、OA(Overall)やPOA(Partial Overall)に寄与していない比較的高周波に起因する異常現象や、OAやPOAには現れない変調音を伴う異常現象を直接的に捉えることができる総合音質評価指標を算定できる。したがって、指標計算装置5は、総合音質評価指標に基づいて、回転機械の異常を適正に判断することができる。
【0082】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0083】
1 マイクロフォン
5 指標計算装置
100 回転機械