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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012932
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ニッケル硫化物原料の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20250117BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20250117BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20250117BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20250117BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/10
C22B3/22
C22B3/44 101A
C22B3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116135
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】服部 和樹
(72)【発明者】
【氏名】宮本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝輝
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA06
4K001DB04
4K001DB16
4K001DB23
(57)【要約】
【課題】鉄及び砒素を含むニッケル硫化物を原料とする湿式製錬プロセスにおいて、塩素浸出残渣への鉄及び砒素の分配を効果的に制御することを可能にする方法を提供する。
【解決手段】本発明は、鉄及び砒素を含むニッケル硫化物原料の処理方法であり、2価銅イオンを含む含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液とニッケル硫化物原料とを混合し、ニッケル硫化物原料中のニッケルを置換浸出することでセメンテーションスラリーを生成させ銅イオンが除去されたセメンテーション終液とセメンテーション残渣とを得るセメンテーション工程と、セメンテーション残渣の残渣スラリーに塩素ガスを吹込んで塩素浸出液と塩素浸出残渣とを得る塩素浸出工程と、を含み、セメンテーション工程では、セメンテーションスラリーの液相のpHを調整することによって、(セメンテーション終液中の砒素濃度)×(セメンテーション終液の流量)で算出される砒素アウトプット量を制御する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物として鉄及び砒素を含むニッケル硫化物原料の処理方法であって、
2価の銅イオンを含む含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液とニッケル硫化物原料とを混合し、該含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液中の銅イオンによって該ニッケル硫化物原料中のニッケルを置換浸出することで、銅イオンが除去された含鉄粗塩化ニッケル水溶液と硫化銅を含む沈澱物との混合物であるセメンテーションスラリーを生成させ、固液分離によってセメンテーション終液とセメンテーション残渣とに分離するセメンテーション工程と、
前記セメンテーション残渣をレパルプしてセメンテーション残渣スラリーとした後、該セメンテーション残渣スラリーに塩素ガスを吹き込んで該セメンテーション残渣中の重金属を浸出して塩素浸出スラリーを生成させ、固液分離によって塩素浸出液と塩素浸出残渣とに分離する塩素浸出工程と、を含み、
前記塩素浸出液を前記含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液として繰り返すことで構成される原料処理プロセスにおいて、
前記セメンテーション工程では、前記セメンテーションスラリーの液相のpHを調整することによって、前記セメンテーション終液に関する(セメンテーション終液中の砒素濃度)×(セメンテーション終液の流量)で算出される砒素アウトプット量を制御する、
ニッケル硫化物原料の処理方法。
【請求項2】
前記セメンテーション工程では、
前記ニッケル硫化物原料に関する(ニッケル硫化物原料の物量)×(ニッケル硫化物原料における砒素の含有割合)で算出される砒素インプット量に応じて、前記セメンテーションスラリーの液相のpHを調整することによって、前記砒素アウトプット量を制御する、
請求項1に記載のニッケル硫化物原料の処理方法。
【請求項3】
前記セメンテーション工程では、
前記砒素アウトプット量を減少させる場合には、前記セメンテーションスラリーの液相のpHを上昇させ、
前記砒素アウトプット量を増加させる場合には、前記セメンテーションスラリーの液相のpHを低下させる、
請求項2に記載のニッケル硫化物原料の処理方法。
【請求項4】
前記セメンテーション工程では、
前記砒素インプット量に応じて、前記砒素アウトプット量が所定の量となるように、
前記セメンテーション終液のpHと該セメンテーション終液中の砒素濃度との相関から、前記セメンテーションスラリーの液相のpHを調整する、
請求項2に記載のニッケル硫化物原料の処理方法。
【請求項5】
前記セメンテーション工程では、
前記砒素インプット量に応じて、該砒素インプット量と前記砒素アウトプット量とがほぼ等しい量となるように、
前記セメンテーション終液のpHと該セメンテーション終液中の砒素濃度との相関から、前記セメンテーションスラリーの液相のpHを調整する、
請求項4に記載のニッケル硫化物原料の処理方法。
【請求項6】
前記セメンテーション工程では、炭酸ニッケルを含む中和剤を添加することによって、前記セメンテーションスラリーの液相のpHを調整する、
請求項1乃至5のいずれかに記載のニッケル硫化物原料の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル、コバルト、銅及び硫黄を含むとともに、不純物として鉄及び砒素を含むニッケル硫化物を原料とする湿式製錬プロセスにおいて、塩素浸出残渣中への鉄及び砒素の分配を制御することを可能にするニッケル硫化物原料の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルの湿式製錬プロセス(以下、「MCLEプロセス」ともいう)では、原料であるニッケルマットやニッケル・コバルト混合硫化物(MS:ミックスドサルファイド)を塩素浸出し、得られた浸出液(塩素浸出液)から不純物を除去する浄液工程等を経て、電解工程にて電気ニッケルや電気コバルトの形態としてニッケルやコバルトを回収する。MCLEプロセスの技術については、例えば、特許文献1、特許文献2に開示されている。
【0003】
図1に示すように、塩素浸出を行う塩素浸出工程から得られた塩素浸出液は、セメンテーション工程との間に備えられた脱銅電解工程において余剰の銅が除去され、さらに、脱鉄工程において鉄や砒素等の不純物が除去された後、コバルト溶媒抽出工程に送られる。コバルト溶媒抽出工程では、溶媒抽出によりニッケルとコバルトとが分離し、粗塩化ニッケル溶液(NiCl)と粗塩化コバルト溶液(CoCl)とが得られる。粗塩化ニッケル溶液は、浄液工程においてさらに不純物が除去され高純度となってニッケル電解工程に送られる。そして、ニッケル電解工程では、電解採取により電気ニッケルが製造される。一方、粗塩化コバルト溶液についても、浄液工程においてさらに不純物が除去され高純度となってコバルト電解工程に送られ、コバルト電解工程にて電解採取により電気コバルトが製造される。
【0004】
一方、塩素浸出工程から塩素浸出液と分離して得られる塩素浸出残渣は、硫黄を主成分とするものであるが、一部原料の溶け残りとしてニッケル等の金属硫化物を含む。したがって、塩素浸出工程から得られた塩素浸出残渣については、昇温することで硫黄分を融解してウルトラフィルター(UTF)等の濾過フィルターで固液分離し硫黄を回収するとともに、固体分はニッケル等を含むため、再度、塩素浸出工程等に送られてニッケル等の有価金属の回収に供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-3104号公報
【特許文献2】特開2019-81920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
MCLEプロセスで処理するニッケル硫化物原料としては、様々な出所の原料を用いて処理されており、原料の処理構成によっては各種の不純物負荷が増加することもあり、除去すべき鉄や砒素の物量も増加することがある。鉄や砒素の不純物負荷が増加すると、塩素浸出工程から得られる塩素浸出残渣へのその鉄や砒素の分配量も増加し、これにより、塩素浸出残渣から硫黄を回収する際に濾過フィルターの濾過性(通液性)を悪化させることがあった。
【0007】
塩素浸出残渣への鉄及び砒素の分配を抑える方法としては、本件出願人から、塩素浸出工程において塩素浸出スラリーに塩酸を添加し、生成する塩素浸出液の塩酸濃度を調整することで、セメンテーション終液における鉄濃度と砒素濃度との比率(鉄/砒素)を調整する方法が提案されている。この方法によれば、塩素浸出液のpHをほぼ一定に保つことができ、鉄及び砒素の分配挙動を安定化させて、その結果、セメンテーション終液から鉄イオン及び砒素イオンを効率的に除去することが可能となる。
【0008】
しかしながら、上述した方法では、酸の資材コストの増加をもたらすとともに、浄液工程(脱鉄工程)での中和剤コストの増加をもたらし、すなわち電気ニッケルの製造コストを増加させるというデメリットが生じる問題があった。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、不純物として鉄及び砒素を含むニッケル硫化物を原料とする湿式製錬プロセスにおいて、資材コスト等を増加させることなく、塩素浸出工程から得られる塩素浸出残渣への鉄及び砒素の分配を効果的に制御することを可能にする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、2価の銅イオンを含む含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液から銅イオンを除去するセメンテーション工程と、セメンテーション残渣スラリーを塩素浸出することで塩素浸出液を得る塩素浸出工程と、を含み、得られる塩素浸出液を含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液として繰り返すことで構成される原料処理プロセスにおいて、セメンテーション工程で、セメンテーションスラリーの液相のpHを調整することによって、セメンテーション終液に関する(セメンテーション終液中の砒素濃度)×(セメンテーション終液の流量)で算出される砒素アウトプット量を制御するようにすることで、塩素浸出残渣への鉄及び砒素の分配を効果的に制御できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、不純物として鉄及び砒素を含むニッケル硫化物原料の処理方法であって、2価の銅イオンを含む含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液とニッケル硫化物原料とを混合し、該含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液中の銅イオンによって該ニッケル硫化物原料中のニッケルを置換浸出することで、銅イオンが除去された含鉄粗塩化ニッケル水溶液と硫化銅を含む沈澱物との混合物であるセメンテーションスラリーを生成させ、固液分離によってセメンテーション終液とセメンテーション残渣とに分離するセメンテーション工程と、前記セメンテーション残渣をレパルプしてセメンテーション残渣スラリーとした後、該セメンテーション残渣スラリーに塩素ガスを吹き込んで該セメンテーション残渣中の重金属を浸出して塩素浸出スラリーを生成させ、固液分離によって塩素浸出液と塩素浸出残渣とに分離する塩素浸出工程と、を含み、前記塩素浸出液を前記含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液として繰り返すことで構成される原料処理プロセスにおいて、前記セメンテーション工程では、前記セメンテーションスラリーの液相のpHを調整することによって、前記セメンテーション終液に関する(セメンテーション終液中の砒素濃度)×(セメンテーション終液の流量)で算出される砒素アウトプット量を制御する、ニッケル硫化物原料の処理方法である。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記セメンテーション工程では、前記ニッケル硫化物原料に関する(ニッケル硫化物原料の物量)×(ニッケル硫化物原料における砒素の含有割合)で算出される砒素インプット量に応じて、前記セメンテーションスラリーの液相のpHを調整することによって、前記砒素アウトプット量を制御する、ニッケル硫化物原料の処理方法である。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第2の発明において、前記セメンテーション工程では、前記砒素アウトプット量を減少させる場合には、前記セメンテーションスラリーの液相のpHを上昇させ、前記砒素アウトプット量を増加させる場合には、前記セメンテーションスラリーの液相のpHを低下させる、ニッケル硫化物原料の処理方法である。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第2の発明において、前記セメンテーション工程では、前記砒素インプット量に応じて、前記砒素アウトプット量が所定の量となるように、前記セメンテーション終液のpHと該セメンテーション終液中の砒素濃度との相関から、前記セメンテーションスラリーの液相のpHを調整する、ニッケル硫化物原料の処理方法である。
【0015】
(5)本発明の第5の発明は、第4の発明において、前記セメンテーション工程では、前記砒素インプット量に応じて、該砒素インプット量と前記砒素アウトプット量とがほぼ等しい量となるように、前記セメンテーション終液のpHと該セメンテーション終液中の砒素濃度との相関から、前記セメンテーションスラリーの液相のpHを調整する、ニッケル硫化物原料の処理方法である。
【0016】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記セメンテーション工程では、炭酸ニッケルを含む中和剤を添加することによって、前記セメンテーションスラリーの液相のpHを調整する、ニッケル硫化物原料の処理方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、資材コスト等を増加させることなく、塩素浸出工程から得られる塩素浸出残渣への鉄及び砒素の分配を効果的に制御することを可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ニッケルの湿式製錬プロセス(MCLEプロセス)の流れを概略的に示す工程図である。
図2】ニッケル硫化物原料の処理方法をMCLEプロセスにおける処理に適用したときの流れの一例を示す工程図である。
図3】セメンテーション残渣中の鉄含有量と砒素含有量との関係を示すグラフである。
図4】塩素浸出残渣の鉄含有量と砒素含有量との関係を示すグラフである。
図5】セメンテーション終液のpHとセメンテーション終液中の砒素濃度との関係を示すグラフである。
図6】セメンテーション終液のpH、ニッケル硫化物原料の砒素含有量(原料からの砒素負荷、すなわち砒素インプット量)、原料砒素負荷とセメンテーション終液からの砒素払い出し量のバランス、及び塩素浸出残渣中の砒素含有量の推移を示したグラフである。
図7】塩素浸出液のpHと塩素浸出液中の砒素濃度の最大値との関係を示すグラフである。
図8】セメンテーション残渣中の砒素含有量で層別した、塩素浸出液のpHと塩素浸出残渣中の砒素含有量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0020】
本実施の形態に係るニッケル硫化物原料の処理方法は、不純物として鉄及び砒素を含むニッケル硫化物原料の処理方法である。
【0021】
例えば、そのニッケル硫化物原料は、ニッケルの湿式製錬プロセス(MCLEプロセス)において原料として用いられる原料が挙げられる。したがって、詳しくは後述するように、セメンテーション工程と、塩素浸出工程と、を含むMCLEプロセスにおける処理に、当該処理方法を適用することができる。
【0022】
図2は、この処理方法をMCLEプロセスにおける処理に適用したときの流れの一例を示す工程図である。具体的に、本実施の形態に係るニッケル硫化物原料の処理方法は、2価の銅イオンを含む含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液とニッケル硫化物原料とを混合し、含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液中の銅イオンによってニッケル硫化物原料中のニッケルを置換浸出することで、水溶液中の銅イオンを除去するセメンテーション工程S1と、セメンテーション残渣をレパルプしてセメンテーション残渣スラリーとした後、セメンテーション残渣スラリーに塩素ガスを吹き込んで重金属を浸出させて塩素浸出液と塩素浸出残渣とを得る塩素浸出工程S2と、を含み、塩素浸出液を含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液として繰り返すことで構成される原料処理プロセスである。
【0023】
なお、図1図2は表記方法が異なるもののいずれも電気ニッケル製造プロセス(MCLEプロセス)のフロー図であり、図1の「脱鉄工程」、「コバルト溶媒抽出工程」、「浄液工程」の全てが、図2の「浄液工程S3」に含まれている。また、図1に表記された「脱銅電解工程」は図2では省略しており、図2に表記された<硫黄回収>は図1では省略している。
【0024】
この処理方法では、セメンテーション工程において、セメンテーションスラリーの液相のpHを調整することによって、セメンテーション終液に関する(セメンテーション終液中の砒素濃度)×(セメンテーション終液の流量)で算出される砒素アウトプット量を制御する、ことを特徴としている。
【0025】
そして、ニッケル硫化物原料に関する(ニッケル硫化物原料の物量)×(ニッケル硫化物原料における砒素の含有割合)で算出される砒素インプット量に応じて、上述の通り、セメンテーションスラリーの液相のpHを調整することによって、砒素アウトプット量を制御する。
【0026】
本実施の形態に係るニッケル硫化物原料の処理方法によれば、ニッケル硫化物原料に由来して鉄や砒素の不純物負荷が増加した場合でも、資材コスト等を増加させることなく、塩素浸出工程から得られる塩素浸出残渣への鉄及び砒素の分配を効果的に制御することが可能になる。これにより、塩素浸出残渣から硫黄を回収する際の操作において、ウルトラフィルター(UTF)等の濾過フィルターの通液性が低下することを防ぐことができる。
【0027】
<1.セメンテーション工程>
セメンテーション工程S1では、2価の銅イオンを含む含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液とニッケル硫化物原料とを混合し、含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液中の銅イオンを固定化し除去する。
【0028】
ニッケル硫化物原料は、鉄及び砒素を不純物として含有する。また、そのニッケル硫化物原料としては、ニッケル酸化鉱石を原料とする湿式製錬プロセスで製造されたニッケル及びコバルトを含有する混合硫化物(MS)や、ニッケルの乾式製錬法で製造されたニッケルマット等が挙げられる。
【0029】
より具体的には、セメンテーション工程S1では、不純物として鉄及び砒素を含むニッケル硫化物原料を、2価の銅イオンを含む含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液と混合し、その含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液中の銅イオンによってニッケル硫化物原料中のニッケルを置換浸出することで、含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液中の銅イオンを固定化し除去する。このようなセメンテーション反応により、銅イオンが除去された含鉄粗塩化ニッケル水溶液と、銅イオンが硫化物として固定化されて生成した硫化銅を含む沈澱物との混合物であるセメンテーションスラリーが生成する。
【0030】
なお、ニッケル硫化物原料と混合する、2価の銅イオンを含む含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液は、後述する塩素浸出工程S2での塩素浸出の処理を経て得られる塩素浸出液である。このように、この処理方法におけるプロセスは、塩素浸出液を含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液として繰り返すことで構成される原料処理プロセスである。
【0031】
セメンテーション工程S1では、生成したセメンテーションスラリーを固液分離することにより、セメンテーション終液(含鉄粗塩化ニッケル水溶液)と、セメンテーション残渣(硫化銅を含む沈澱物)とが得られる。なお、固液分離の方法としては、特に限定されず、例えば遠心分離機やフィルタープレス等の周知の方法によって行うことができ、セメンテーション残渣である硫化銅の沈澱物を効率的に分離できる。
【0032】
セメンテーション工程S1を経て得られたセメンテーション終液は、脱鉄工程を含む浄液工程S3に送られる。詳しくは後述するが、脱鉄工程では、セメンテーション終液(含鉄粗塩化ニッケル水溶液)に含まれる不純物である鉄を除去する。
【0033】
一方で、セメンテーション工程S1において固定化された硫化銅を含むセメンテーション残渣は、再び塩素浸出工程S2に送られ、塩素浸出処理に供される。
【0034】
ここで、本発明者らによる研究の結果、図3のグラフに示されるように、セメンテーション工程S1にて得られるセメンテーション残渣中の鉄品位と砒素品位と間には、正の相関があり、およそモル比率で鉄(Fe):砒素(As)=3:2であることが分かった。また、図4のグラフに示されるように、塩素浸出工程S2にて得られる塩素浸出残渣中の鉄品位と砒素品位と間には、正の相関があり、およそ重量比率で鉄(Fe):砒素(As)=0.8:1.1であることが分かった。鉄の原子量は55.8、砒素の原子量は74.9であることから、この重量比率をモル比率に換算すると0.014:0.015となり、おおよそ1:1である。したがって、酸化還元電位(ORP)の高い塩素浸出工程S2から生成する塩素浸出残渣では主としてFeAsOが生成するが、ORPの低いセメンテーション工程S1から生成するセメンテーション残渣では主としてFe(AsOが生成すると推定される。
【0035】
そして、図5に示す、セメンテーション終液のpHと、セメンテーション終液中の砒素濃度との関係を示すグラフから、セメンテーション工程S1での反応において液相のpHが低いほどセメンテーション終液中の砒素濃度が上昇することが分かった。
【0036】
通常、ニッケル硫化物原料からMCLEプロセス内にインプットされる砒素は、セメンテーション工程S1を経て得られたセメンテーション終液から、次工程の浄液工程S3(脱鉄工程)においてMCLEプロセス外へと除去される。ところが、ニッケル硫化物原料からの砒素負荷に対して、「(セメンテーション終液の流量)×(砒素の濃度)」で表されるセメンテーション工程からの砒素の払い出し量が少なくなると、砒素はセメンテーション残渣へと分配される。セメンテーション残渣へ砒素が分配されると、図2の工程図に示すように、砒素はそのセメンテーション残渣を介して塩素浸出工程S2に送られ、塩素浸出により浸出されて、セメンテーション工程S1に再度繰り返される。すなわち、セメンテーション工程S1と塩素浸出工程S2とでループが形成された浸出系へ砒素が徐々に濃縮していくことになる。
【0037】
そして、セメンテーション工程S1と塩素浸出工程S2の間を循環する砒素の量が増加し、「(塩素浸出液中の砒素濃度)×(塩素浸出液の流量)」で表される塩素浸出工程S2での砒素の浸出量を上回ることになると、砒素の塩素浸出残渣への分配が増加する。このようにして塩素浸出残渣への砒素の分配量が増加すると、塩素浸出残渣から硫黄を回収する際におけるウルトラフィルター(UTF)等の濾過フィルターの通液性が低下するという問題が生じる。
【0038】
そこで、本実施の形態に係るニッケル硫化物原料の処理方法では、セメンテーション工程S1において、セメンテーションスラリーの液相のpHを調整することによって、セメンテーション終液に関する(セメンテーション終液中の砒素濃度)×(セメンテーション終液の流量)で算出される“砒素アウトプット量”を制御することを特徴としている。
【0039】
さらに好ましくは、砒素インプット量に応じて、セメンテーションスラリーのpHを調整することによって、セメンテーション終液に関する(セメンテーション終液中の砒素濃度)×(セメンテーション終液の流量)で算出される砒素アウトプット量を制御する。
【0040】
ここで、“砒素インプット量”は、ニッケル硫化物原料に関して、「ニッケル硫化物原料の物量)×(ニッケル硫化物原料における砒素の含有割合)」で算出される量をいう。また、“砒素アウトプット量”は、上述したように、セメンテーション工程にて生成するセメンテーション終液に関して、「(セメンテーション終液中の砒素濃度)×(セメンテーション終液の流量)」で算出される量をいう。なお、この“砒素アウトプット量”は、セメンテーション終液からの砒素の払い出し量を意味する。
【0041】
上述したように、セメンテーション工程S1での反応において液相のpHが低いほどセメンテーション終液中の砒素濃度が大きくなる。このことから、例えば、セメンテーション工程S1では、砒素インプット量に応じて、砒素アウトプット量を減少させる場合には、セメンテーションスラリーの液相のpHを上昇させるように調整する。一方で、砒素アウトプット量を増加させる場合には、セメンテーションスラリーの液相のpHを低下させるように調整する。
【0042】
また、この処理方法によれば、その“砒素インプット量”に応じて、セメンテーション終液に含まれる“砒素アウトプット量”が所定の量となるように、セメンテーションスラリーの液相のpHを調整することができる。“砒素アウトプット量”が所定の量となるようにセメンテーションスラリーの液相のpHを調整するに際しては、例えば図5に示したような、セメンテーション終液のpHとそのセメンテーション終液中の砒素濃度との相関グラフ(テーブルデータ)に基づいて行うことができる。なお、図5のような相関グラフは、操業データを解析すること等によって作成することができる。
【0043】
例えば、“砒素インプット量”に応じて、その“砒素インプット量”に対して“砒素アウトプット量”がほぼ等しい量となるように、セメンテーションスラリーの液相のpHを調整する場合について説明する。この場合には、まず、「(ニッケル硫化物原料の物量)×(ニッケル硫化物原料における砒素の含有割合)」から“砒素インプット量”を算出する。次に、図5に示したような相関グラフから、算出した“砒素インプット量”とほぼ等しい量の“砒素アウトプット量”に相関するセメンテーション終液のpHを導出する。そして、導出したpHと整合するように、セメンテーション工程から得られたセメンテーションスラリーのpHを調整する。
【0044】
なお、“砒素インプット量”と“砒素アウトプット量”とが「ほぼ等しい」量とは、その量の差が±10%の範囲内であることをいう。
【0045】
このように、本実施の形態に係るニッケル硫化物原料の処理では、セメンテーション工程S1において、セメンテーションスラリーの液相のpHを調整することによって、セメンテーション終液に関する(セメンテーション終液中の砒素濃度)×(セメンテーション終液の流量)で算出される砒素アウトプット量を制御するようにすることで、セメンテーション終液に含まれる“砒素アウトプット量”を効率的に制御することができる。
【0046】
そして、例えば、“砒素インプット量”に応じて、その“砒素インプット量”と“砒素アウトプット量”とがほぼ等しくなるように、セメンテーションスラリーの液相のpHを調整することで、セメンテーション残渣中の砒素含有量の増加を抑え、低く維持することができ、その結果、塩素浸出残渣中の砒素含有量も低く維持することが可能となる。
【0047】
このように本実施の形態に係るニッケル硫化物原料の処理方法によれば、ニッケル硫化物原料に由来して鉄や砒素の不純物負荷が増加した場合でも、資材コスト等を増加させることなく、塩素浸出工程S2から得られる塩素浸出残渣への鉄及び砒素の分配を効果的に制御することを可能にすることができる。
【0048】
セメンテーションスラリーの液相のpHの調整は、特に限定されないが、炭酸ニッケル等の中和剤を添加することで行うことができる。炭酸ニッケル等の中和剤は、後述する浄液工程S3(脱鉄工程)での酸化中和反応において用いられる中和剤である。よって、その炭酸ニッケル等の中和剤の一部を、セメンテーション工程S1においても添加するようにすればよい。
【0049】
セメンテーション工程S1でのセメンテーション処理は、直列に連結された複数の反応槽(合計n段の反応槽)を備えたセメンテーション処理装置を用いて実行することができ、セメンテーションスラリーの液相のpH調整は、直列に連結された複数の反応槽の最終段目(第n段目)の反応槽において行うことができる。このように、最終段目の反応槽にて中和剤等を添加してpH調整を行うことで、セメンテーションスラリーの液相の最終的なpHを的確に調整することができる。
【0050】
なお、図4は、塩素浸出残渣中の鉄含有量と砒素含有量との関係を示すグラフである。図4のグラフに示すように、塩素浸出残渣への分配に関して鉄と砒素は正の相関性を有し、塩素浸出において鉄と砒素は同様の挙動を示す。セメンテーション工程における鉄の分配挙動についても、図5に示した砒素と同様に、液相のpHが低いほどセメンテーション終液中の鉄濃度が大きくなる。したがって、セメンテーション工程において、上述したように、“砒素インプット量”に応じてセメンテーションスラリーの液相のpHを調整するようにすることで、砒素だけではなく、鉄の塩素浸出残渣への分配も効率的にかつ効果的に制御することができる。
【0051】
<2.塩素浸出工程>
塩素浸出工程S2では、上述したセメンテーション工程S1を経て生成したセメンテーション残渣を水溶液でレパルプしてスラリー(セメンテーション残渣スラリー)とした後、そのセメンテーション残渣スラリーに塩素ガスを吹き込むことによって塩素浸出の処理を行う。このような塩素浸出処理により、セメンテーション残渣中のニッケルや銅等の重金属を水溶液中に浸出させる。
【0052】
塩素浸出工程S2では、塩素浸出処理を経て生成した塩素浸出スラリーを固液分離することにより、塩素浸出液と、塩素浸出残渣とが得られる。得られる塩素浸出液は、上述したように、水溶液中にニッケルや銅等の重金属を浸出させて得られた溶液である。また、塩素浸出液には、鉄も含まれている。したがって、その塩素浸出液は、含銅含鉄粗塩化ニッケル水溶液である。
【0053】
より具体的に、塩素浸出の処理について説明する。塩素浸出工程S2では、例えば、下記[1]~[3]式に示す反応が生じる。
Cl+2Cu → 2Cl+2Cu2+ ・・・[1]
NiS+2Cu2+ → Ni2++S+2Cu ・・・[2]
CuS+2Cu2+ → 4Cu+S ・・・[3]
【0054】
すなわち、塩素浸出工程S2では、セメンテーション残渣スラリーが送液されると、セメンテーション残渣に含まれる硫化ニッケル(NiS)及び硫化銅(CuS)等の金属成分が、塩素ガスにより酸化された「2価銅イオン」によって酸化浸出される。これにより、塩素浸出液である、銅イオンを含有する塩化ニッケル水溶液が生成する。なお、[1]式に示す通り、塩素浸出工程S2では、2価銅イオンを電子キャリヤーとした酸化浸出が行われていると推定される。また、[2]式のNiSはMSの主成分を、[3]式のCuSはセメンテーション残渣の主成分を表す。
【0055】
塩素浸出工程S2にて生成した塩素浸出液は、2価の銅イオンを含む含銅含鉄塩化ニッケル水溶液として繰り返し用いられ、上述したようにセメンテーション工程S1に送液され、ニッケル硫化物原料と混合されて、銅イオンの沈澱除去の処理が行われる。一方で、塩素浸出工程S2では、硫黄Sを主成分とした塩素浸出残渣が固相に残存する。
【0056】
ここで、上述したように、本実施の形態に係るニッケル硫化物原料の処理方法では、セメンテーション工程S1において、セメンテーションスラリーの液相のpHを調整することによって、セメンテーション終液に関する(セメンテーション終液中の砒素濃度)×(セメンテーション終液の流量)で算出される砒素アウトプット量を制御している。そして、ニッケル硫化物原料に関する(ニッケル硫化物原料の物量)×(ニッケル硫化物原料における砒素の含有割合)で算出される砒素インプット量に応じて、セメンテーションスラリーの液相のpHを調整することによって、砒素アウトプット量を制御している。
【0057】
このように、砒素アウトプット量を効果的に制御できることから、セメンテーション残渣への鉄及び砒素の移行を制御することができ、その結果として、塩素浸出工程S2から得られる塩素浸出残渣への鉄及び砒素の分配を制御することが可能となる。つまり、ニッケル硫化物原料に由来して鉄や砒素の不純物負荷が増加した場合でも、資材コスト等を増加させることなく、塩素浸出工程S2から得られる塩素浸出残渣への鉄及び砒素の分配を制御することを可能にすることができる。
【0058】
<3.脱鉄工程>
上述したように、セメンテーション工程S1を経て得られたセメンテーション終液は、脱鉄工程を含む浄液工程S3に送られる。セメンテーション終液は、セメンテーション工程S1において銅イオンが除去された含鉄粗塩化ニッケル水溶液であるが、不純物として鉄イオン及び砒素イオンを含む塩化ニッケル水溶液(含鉄砒素塩化ニッケル水溶液)である。
【0059】
具体的に、脱鉄工程では、セメンテーション終液を酸化中和することによって、そのセメンテーション終液中の鉄を中和澱物として沈澱させ、固液分離によって脱鉄終液と脱鉄澱物とを得る。酸化中和法は、鉄等の重金属が高次の酸化イオンになると、低いpH領域で水酸化物になりやすい性質を利用したものである。
【0060】
脱鉄工程では、下記[4]式の反応により不純物の鉄を除去する。
2Fe2++Cl+3NiCO+3HO→
2Fe(OH)+3Ni2++2Cl+3CO ・・・[4]
【0061】
[4]式に示すように、脱鉄工程では、セメンテーション終液である含鉄砒素塩化ニッケル水溶液から、除去対象となる鉄等の不純物元素の水酸化物沈澱を形成させ、不純物を除去した塩化ニッケル水溶液(脱鉄終液)を得る。
【0062】
一般に、酸化中和法に用いられる薬剤は、酸化剤としては、塩素ガスのほかに次亜塩素酸、酸素、空気等を用いることができる。また、中和剤としては、炭酸ニッケルのほかに苛性ソーダ等の水酸化物、アンモニア等を用いることができる。これらの薬剤はプロセス条件に適合した組み合わせで使用されるが、ニッケル硫化物原料を用いた湿式製錬プロセスにおいては、酸化剤として塩素ガス、中和剤として炭酸ニッケルを用いることが好ましい。例えば、塩素ガスは、プロセス内で発生する強酸化剤であって、利用し易いためである。また、中和剤として炭酸ニッケルを用いる理由は、プロセス全体のニッケル、ナトリウム、硫酸等のイオン濃度を制御できるとともに、酸化中和の際の反応性に優れるためである。
【0063】
なお、浄液工程S3として脱鉄工程について説明したが、浄液工程S3としては、セメンテーション終液の不純物組成に応じて、そのほかの不純物を除去する工程を組み合わせることができる。例えば、上述した酸化中和法による脱鉄工程のほか、溶媒抽出法による脱コバルト工程や、条件を変えた酸化中和法による脱鉛工程、イオン交換法による脱亜鉛工程等を組み合わせることができる。このような浄液工程S3を経て、高純度な塩化ニッケル水溶液を得ることができる。
【0064】
また、脱鉄工程を含む浄液工程S3を経て得られた高純度塩化ニッケル水溶液は、その後に電解工程S4に送られ、その高純度塩化ニッケル水溶液から電解採取法により電気ニッケルが製造される。
【実施例0065】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
[実施例]
ニッケル硫化物原料を用いたMCLEプロセスにおいて、セメンテーション工程から得られるセメンテーション終液のpH調整の有無の違いによる、塩素浸出残渣中への砒素分配量について調査した。
【0067】
図6は、セメンテーション終液のpH、ニッケル硫化物原料の砒素含有量(原料からの砒素負荷、砒素インプット量)、原料砒素負荷とセメンテーション終液からの砒素払い出し量のバランス、及び塩素浸出残渣中の砒素含有量の推移を示したグラフである。
【0068】
図6のグラフに示されるように、原料からの砒素負荷が増加した際に、セメンテーション終液のpH調整を行わない場合には、「(セメンテーション終液の砒素濃度)×(セメンテーション終液の流量)」で表される、セメンテーション終液からの砒素払い出し量(砒素アウトプット量)が、原料からの砒素インプット量よりも少なくなることが分かる。この場合、セメンテーション残渣へ砒素が分配され、塩素浸出工程への砒素の流入量が多くなり、その結果、塩素浸出残渣中の砒素含有量が上昇したと考えられる。
【0069】
ここで、図7は、塩素浸出液のpHと塩素浸出液中の砒素濃度の最大値との関係を示すグラフである。塩素浸出液のpHは、セメンテーション終液のpHよりも低いため、相対的に、塩素浸出液中の砒素濃度は高いが、pHが低下するほど濃度が上昇するのはセメンテーション終液と同様である。「(塩素浸出液中の砒素濃度)×(塩素浸出液の流量)」で表される塩素浸出液中の砒素の払い出し量以上に塩素浸出工程へ砒素が過剰に流入すると、塩素浸出残渣への砒素の分配量が多くなってしまう。このことから、塩素浸出液のpHを下げる対応が必要となることが分かる。ところが、塩素浸出液のpHを下げるとなると、pHがゼロ前後の強酸性領域であるため大量の酸が必要となり、また、セメンテーション工程においてpHが下がった塩素浸出液を中和するために大量の中和剤が必要になる。この点において、本実施の形態に係るニッケル硫化物原料の処理方法によれば、pHが3前後のセメンテーションスラリーの液相のpHを調整するようにしていることから、pH調整用の薬剤、基本的には中和剤の使用量は少なくて済む。
【0070】
図8は、セメンテーション残渣中の砒素含有量で層別した、塩素浸出液のpHと塩素浸出残渣中の砒素含有量との関係を示すグラフである。図8に示すように、セメンテーション残渣の砒素含有量が低下、すなわち塩素浸出工程への砒素負荷(砒素の流入量)が低下した期間では、塩酸浸出液の塩酸濃度を調整せずとも塩素浸出残渣へ鉄や砒素の分配が抑えられることが分かった。
【0071】
このように、ニッケル硫化物原料に関する砒素インプット量に応じて、生成するセメンテーションスラリーの液相のpHを調整し、セメンテーション終液に関する砒素アウトプット量を制御することで、塩素浸出工程において塩素浸出液のpH調整を行う必要なく、資材コストを削減しながら、効果的に塩素浸出残渣への鉄及び砒素の分配を制御できることが分かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8