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特開2025-12975ダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物、その硬化物、及び光半導体素子
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  • 特開-ダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物、その硬化物、及び光半導体素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025012975
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物、その硬化物、及び光半導体素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20250117BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20250117BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20250117BHJP
   C08G 59/24 20060101ALI20250117BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20250117BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20250117BHJP
   C08K 5/549 20060101ALI20250117BHJP
   C08K 5/541 20060101ALI20250117BHJP
   H10H 20/85 20250101ALI20250117BHJP
【FI】
H01L21/52 E
C08L83/05
C08L63/00 A
C08G59/24
C08G59/20
C08L83/07
C08K5/549
C08K5/541
H01L33/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116199
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】小林 之人
(72)【発明者】
【氏名】茂木 勝成
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
5F047
5F142
【Fターム(参考)】
4J002CD024
4J002CD113
4J002CP042
4J002CP043
4J002CP211
4J002GQ01
4J036AA05
4J036AJ01
4J036AJ09
4J036AK17
4J036JA07
5F047BA33
5F047BB11
5F047BB16
5F047CA08
5F142AA58
5F142BA32
5F142CA16
5F142CD02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高温時でのLED素子と基板との接着力に優れる硬化物、その硬化物を与えるダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物及び光半導体素子を提供する。
【解決手段】組成物は、アルケニル基を含まない置換若しくは非置換の炭素原子数1~12の1価の炭化水素基又は炭素原子数1~6のアルコキシ基及び置換又は非置換の炭素原子数1~12の2価の炭素水素基を含む所定の化合物と、付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であり、かつ、付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有する化合物と、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、ケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有さない有機ケイ素化合物と、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子及びケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有する有機ケイ素化合物並びにエポキシ化合物及び白金族金属系触媒と、を含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物であって、
(A)(a)下記一般式(1)で表されるケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個有する化合物と、(b)付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であり、かつ、付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有する化合物、
【化1】
(式中、Rは、それぞれ独立に、アルケニル基を含まない置換若しくは非置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基、又は炭素原子数1~6のアルコキシ基であり、Rは、置換又は非置換の炭素原子数1~12の2価炭化水素基を表す。)
(B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、ケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有さない有機ケイ素化合物、
(C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子、及びケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有する有機ケイ素化合物、
(D)下記一般式(2)で表されるエポキシ化合物、及び
【化2】
(式中、Rは、独立に水素原子又は炭素原子1~10のアルキル基であり、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、i、j、kは、0又は1であり、mは、0~5の整数であり、pは、1~5の整数である。)
(E)白金族金属系触媒
を含有するものであることを特徴とするダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が、下記一般式(3)で表される化合物であることを特徴とする請求項1に記載のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物。
【化3】
(式中、sは0~50の整数を表す。)
【請求項3】
前記(B)成分が、下記一般式(4)で表される有機ケイ素化合物であることを特徴とする請求項1に記載のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物。
【化4】
(式中、R10は下記式(5)で表される2価の基であり、tは0≦t≦10を満たす数である。)
【化5】
(式中、アスタリスク(*)は隣接するケイ素原子との結合を表す。)
【請求項4】
前記(C)成分が、下記一般式(6)で表される有機ケイ素化合物であることを特徴とする請求項1に記載のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物。
【化6】
(式中、R10は下記式(5)で表される2価の基であり、R11は、それぞれ独立に水素原子又はエポキシ含有基であり、R11のうち1つ以上は水素原子であり、かつ、R11のうち1つ以上はエポキシ含有基である。uは0≦u≦10を満たす数である。)
【化7】
(式中、アスタリスク(*)は隣接するケイ素原子との結合を表す。)
【請求項5】
前記(D)成分が、下記構造式(7)で表されるエポキシ化合物、下記構造式(8)で表されるエポキシ化合物、及び下記構造式(9)で表されるエポキシ化合物から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物。
【化8】
【化9】
【化10】
【請求項6】
硬化物であって、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物を硬化したものであることを特徴とする硬化物。
【請求項7】
光半導体素子であって、請求項6に記載の硬化物でダイボンディングされたものであることを特徴とする光半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物、その硬化物、及び光半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)素子のダイボンド材としてシリコーン樹脂および有機変性シリコーン樹脂が主に使用されている(特許文献1~3)。しかしながら近年、青色LED素子の登場およびLED素子の小型化により、従来のシリコーン系ダイボンド材ではワイヤーボンディングをする際、高温時におけるLED素子と基板との接着力が不足し、ボンディングの不具合が発生する問題がある。
【0003】
加えて、LEDのワイヤーボンディング工程は高温下で行われるため、ガラス転移点(Tg)が高く熱時強度が高いダイボンド材が求められているが、従来の有機変性シリコーン系ダイボンド材では室温~50℃の領域にTgが存在するため、十分なものでは無かった。そこで、ガラス転移点がより高く高温時を含むLED素子と基板との接着性に優れるダイボンド材が求められていた。
【0004】
特許文献4では、多官能のアルケニル基含有ポリシロキサンを配合することにより硬化物のTgを上昇させたダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物が提案されているが、LED素子の小型化に伴い、更なる接着強度と熱時ダイシェア強度の向上が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-342200号公報
【特許文献2】特開2011-086844号公報
【特許文献3】特開2015-140372号公報
【特許文献4】特開2020-136281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであって、高温時におけるLED素子と基板との接着力に優れる硬化物、その硬化物を与えることができるダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物、及び光半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、ダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物であって、
(A)(a)下記一般式(1)で表されるケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個有する化合物と、(b)付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であり、かつ、付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有する化合物、
【化1】
(式中、Rは、それぞれ独立に、アルケニル基を含まない置換若しくは非置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基、又は炭素原子数1~6のアルコキシ基であり、Rは、置換又は非置換の炭素原子数1~12の2価炭化水素基を表す。)
(B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、ケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有さない有機ケイ素化合物、
(C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子、及びケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有する有機ケイ素化合物、
(D)下記一般式(2)で表されるエポキシ化合物、及び
【化2】
(式中、Rは、独立に水素原子又は炭素原子1~10のアルキル基であり、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、i、j、kは、0又は1であり、mは、0~5の整数であり、pは、1~5の整数である。)
(E)白金族金属系触媒
を含有するものであるダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物を提供する。
【0008】
本発明のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物は、高温時において高強度であり、LED素子と基板との接着力に優れる硬化物を与えることができるものである。
【0009】
また、前記(A)成分が、下記一般式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【化3】
(式中、sは0~50の整数を表す。)
【0010】
(A)成分が上記特定の化合物であると、特に硬度および強度に優れる硬化物を与えることができる。
【0011】
また、前記(B)成分が、下記一般式(4)で表される有機ケイ素化合物であることが好ましい。
【化4】
(式中、R10は下記式(5)で表される2価の基であり、tは0≦t≦10を満たす数である。)
【化5】
(式中、アスタリスク(*)は隣接するケイ素原子との結合を表す。)
【0012】
(B)成分が上記特定の化合物であると、(A)成分との相溶性が高まり、透明性が向上するほか、ダイボンダーによってLED基板にダイボンド材を塗布した際に各成分の分離を抑制することができる。
【0013】
また、前記(C)成分が、下記一般式(6)で表される有機ケイ素化合物であることが好ましい。
【化6】
(式中、R10は下記式(5)で表される2価の基であり、R11は、それぞれ独立に水素原子又はエポキシ含有基であり、R11のうち1つ以上は水素原子であり、かつ、R11のうち1つ以上はエポキシ含有基である。uは0≦u≦10を満たす数である。)
【化7】
(式中、アスタリスク(*)は隣接するケイ素原子との結合を表す。)
【0014】
(C)成分が上記特定の化合物であると、(A)成分との相溶性が高まり、透明性が向上するほか、ダイボンダーによってLED基板にダイボンド材を塗布した際に各成分の分離を抑制することができる。
【0015】
また、前記(D)成分が、下記構造式(7)で表されるエポキシ化合物、下記構造式(8)で表されるエポキシ化合物、及び下記構造式(9)で表されるエポキシ化合物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【化8】
【化9】
【化10】
【0016】
(D)成分が上記特定の化合物であると、本発明の効果がより奏されやすくなる。
【0017】
また、本発明は、硬化物であって、上記に記載のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物を硬化したものである硬化物を提供する。
【0018】
本発明の硬化物は、高強度であり、高温時におけるLED素子と基板との接着力に優れるものである。
【0019】
さらに、本発明は、光半導体素子であって、上記に記載の硬化物でダイボンディングされたものである光半導体素子を提供する。
【0020】
本発明の光半導体素子は、樹脂の強度が高く、高温時における接着力に優れる硬化物によりLED素子と基板が接着されているものであるので、信頼性が高いものとなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物は、高硬度かつ高温時におけるLED素子と基板との接着力に優れる硬化物を与えることができる。従って、このような有機変性シリコーン樹脂組成物から得られる硬化物は、小型のLED素子等のダイボンディングに用いられるダイボンド材として特に有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施例、比較例で得られた組成物を用いて作製した接着試験用のテストピースの図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上述のように、高温時におけるLED素子と基板との接着力に優れる硬化物、その硬化物を与えることができるダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物、及び光半導体素子の開発が求められていた。
【0024】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、後述する(A)~(E)成分を含む有機変性シリコーン樹脂組成物が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0025】
即ち、本発明は、ダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物であって、
(A)(a)下記一般式(1)で表されるケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個有する化合物と、(b)付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であり、かつ、付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有する化合物、
【化11】
(式中、Rは、それぞれ独立に、アルケニル基を含まない置換若しくは非置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基、又は炭素原子数1~6のアルコキシ基であり、Rは、置換又は非置換の炭素原子数1~12の2価炭化水素基を表す。)
(B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、ケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有さない有機ケイ素化合物、
(C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子、及びケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有する有機ケイ素化合物、
(D)下記一般式(2)で表されるエポキシ化合物、及び
【化12】
(式中、Rは、独立に水素原子又は炭素原子1~10のアルキル基であり、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、i、j、kは、0又は1であり、mは、0~5の整数であり、pは、1~5の整数である。)
(E)白金族金属系触媒
を含有するものであるダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物である。
【0026】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
[ダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物]
本発明のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物は、下記(A)~(E)成分を含むものである。以下、各成分について詳細に説明する。
【0028】
<(A)成分>
本発明の有機変性シリコーン樹脂組成物における(A)成分は、(a)下記一般式(1)で表されるケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個有する化合物と、(b)付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であり、かつ、付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有する付加反応生成物である。
【化13】
(式中、Rは、それぞれ独立に、アルケニル基を含まない置換若しくは非置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基、又は炭素原子数1~6のアルコキシ基であり、Rは、置換又は非置換の炭素原子数1~12の2価炭化水素基を表す。)
【0029】
の炭素原子数1~12の1価炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素原子数1~12のアルキル基;フェニル基、ナフチル基等の炭素原子数6~12のアリール基;トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基等の炭素原子数7~12のアルキルアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素原子数7~12のアラルキル基などが挙げられる。
【0030】
また、炭素原子数1~6のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0031】
これらの中でも、Rとしては、炭素原子数1~8のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0032】
一方、Rの炭素原子数1~12の2価炭化水素基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基等の炭素原子数1~12の直鎖、分岐または環状のアルキレン基;フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基等の炭素原子数6~12のアリーレン基、フェニレンメチレン基、メチレンフェニレンメチレン基等の炭素原子数7~12のアラルキレン基などが挙げられる。
【0033】
これらの中でも、炭素原子数6~12のアリーレン基が好ましく、フェニレン基がより好ましい。
【0034】
(a)成分としては、一般式(1)中の全てのRがメチル基であり、Rがフェニレン基であるものが特に好ましい。このような(a)成分の具体例としては、例えば、1,4-ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、1,3-ビス(ジメチルシリル)ベンゼン等が挙げられる。
【0035】
なお、(a)成分は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0036】
また、(b)成分の付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素としては、(i)多環式炭化水素の骨格を形成している炭素原子のうち、隣接する2つの炭素原子間に付加反応性炭素-炭素二重結合が形成されているもの、(ii)多環式炭化水素の骨格を形成している炭素原子に結合した水素原子が、付加反応性炭素-炭素二重結合含有基によって置換されているもの、(iii)多環式炭化水素の骨格を形成している炭素原子のうち、隣接する2つの炭素原子間に付加反応性炭素-炭素二重結合が形成されており、かつ、多環式炭化水素の骨格を形成している炭素原子に結合した水素原子が付加反応性炭素-炭素二重結合含有基によって置換されているもの等を用いることができる。
【0037】
上記(b)成分の具体例としては、下記式で表される5-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン、6-ビニルビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン等が挙げられ、これらは混合物として用いることもできる(以下、これらを区別する必要がない場合は、「ビニルノルボルネン」と総称することがある)。
【化14】
【0038】
なお、上記ビニルノルボルネンのビニル基の置換位置は、シス配置(エキソ型)及びトランス配置(エンド型)のいずれであってもよく、また、これらの配置の相違によって化合物の反応性等に特段の差異がないことから、両配置の異性体の組み合わせであってもよい。
【0039】
(A)成分の付加反応生成物は、例えば、特開2005-133073号公報に記載の方法によって合成することができる。
【0040】
一例としては、(a)成分1モルに対し、(b)成分を1モル超10モル以下、好ましくは1モル超5モル以下の量で、ヒドロシリル化反応触媒の存在下で付加反応させることにより調製できる。
【0041】
この場合、ヒドロシリル化反応触媒としては、公知のものを使用することができ、その具体例としては、白金金属を担持したカーボン粉末、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応生成物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒;パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属系触媒などが挙げられる。また、付加反応条件、溶媒の使用等については、特に限定されず公知のとおりとすればよい。
【0042】
上記反応では、(A)成分の付加反応生成物の合成に際し、(a)上記一般式(1)で表される化合物に対して過剰モル量の(b)多環式炭化水素を反応させることから、(A)成分の付加反応生成物は、(b)多環式炭化水素に由来する付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有している。
【0043】
本発明では、前記(A)成分が、下記一般式(3)で表されるものが好ましい。このような多環式炭化水素及びフェニレン基を含有する付加反応生成物は、硬度及び強度に優れる硬化物を与えるため、特に好適に用いることができる。
【0044】
【化15】
(式中、sは0~50の整数を表すが、好ましくは0~30の整数、より好ましくは0~20の整数である。)
【0045】
(A)成分は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0046】
<(B)成分>
(B)成分は、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を2個以上有し、ケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有さない有機ケイ素化合物である。(B)成分は、(A)成分に含まれるアルケニル基とヒドロシリル化反応により架橋する架橋剤として作用する。
【0047】
(B)成分としては、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、ケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有さない有機ケイ素化合物であれば特に限定されず、オルガノハイドロジェンシラン類、オルガノハイドロジェンポリシロキサン等が挙げられるが、好ましくはオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造に特に制限はなく、例えば、直鎖状、環状、分岐鎖状のものを使用することができる。
【0048】
(B)成分中のケイ素に結合した有機基としては、付加反応性炭素-炭素二重結合を含まない置換又は非置換の一価炭化水素基が好ましい。このような置換又は非置換の一価炭化水素基としては、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、又は、これらの基の水素原子がハロゲン原子によって置換された基を挙げることができ、特に好ましくは、メチル基、エチル基又はフェニル基である。
【0049】
(B)成分は、ケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を1分子中に少なくとも2個有し、好ましくは2~200個、より好ましくは3~100個有する。(B)成分の有機ケイ素化合物が直鎖状構造又は分岐鎖状構造を有する場合、これらのSiH基は、分子鎖末端及び分子鎖非末端部分のどちらか一方にのみ位置していても、その両方に位置していてもよい。
【0050】
(B)成分の有機ケイ素化合物の1分子中のケイ素原子の数(重合度)は、好ましくは2~1,000、より好ましくは3~200、更により好ましくは4~100である。更に、(B)成分の有機ケイ素化合物は25℃で液状であることが好ましく、回転粘度計により測定された25℃における粘度は、好ましくは100~10,000mPa・s、より好ましくは100~3,000mPa・sである。
【0051】
(B)成分は、SiH基を含まないSiO1/2単位(M単位)、SiO2/2単位(D単位)、SiO3/2単位(T単位)及び/又はSiO4/2単位(Q単位)を含んでいてもよい。
【0052】
(B)成分の有機ケイ素化合物としては、例えば、下記平均組成式(10)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いることができる。
12 SiO(4-c-d)/2 (10)
(式中、R12は、アルケニル基を含まない置換又は非置換の一価炭化水素基であり、c及びdは、0.7≦c≦2.1、0.001≦d≦1.0、かつ0.8≦c+d≦3.0、好ましくは1.0≦c≦2.0、0.01≦d≦1.0、かつ1.5≦c+d≦2.5を満たす数である。)
【0053】
上記式(10)中、R12としては、上記(A)成分で挙げられたものと同様の一価炭化水素基が例示される。
【0054】
また、本発明では、前記(B)成分が、下記一般式(4)で表される、ケイ素原子に結合した水素原子を環状体として有し、かつ2価の有機基により接合された有機ケイ素化合物であることが好ましい。下記一般式(4)で表される化合物は、例えば、2,4,6,8-テトラメチルテトラシクロシロキサンとビニルノルボルネンとのヒドロシリル化反応によって得ることができる。
【化16】
(式中、R10は下記式(5)で表される2価の基であり、tは0≦t≦10を満たす数である。)
【化17】
(式中、アスタリスク(*)は隣接するケイ素原子との結合を表す。)
【0055】
このような化合物であれば、(A)成分との相溶性が高まり、透明性が向上するほか、ダイボンダーによってLED基板にダイボンド材を塗布した際に各成分の分離を抑制することができる。
【0056】
(B)成分は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0057】
(B)成分の配合量は、(A)成分中の付加反応性炭素-炭素二重結合1個に対して(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の数が、好ましくは0.4~4.0個、より好ましくは0.5~2.5個の範囲内となる量である。この範囲内であると、得られる硬化物に高い強度を付与することができる。
【0058】
<(C)成分>
(C)成分は、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子、及びケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有する有機ケイ素化合物である。エポキシ含有基としては、エポキシ基、グリシジル基、グリシジルオキシ基、3-グリシジルオキシプロピル基、3,4-エポキシシクロヘキシル基、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルオキシ基、オキセタニル基等が挙げられる。
【0059】
(C)成分はケイ素原子に結合した水素原子を有するため、(A)成分の付加反応性炭素-炭素二重結合とのヒドロシリル化反応が可能であり、かつ、ケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有することにより後述する(D)成分のエポキシ化合物とも反応するため、樹脂中に(D)成分を固定化し、これにより、高い接着強度とダイシェア強度を有する硬化物が得られる。一方、ケイ素原子に結合した水素原子を有しない場合、(A)成分との架橋反応が起こらないため(C)成分が樹脂内に取り込まれず、硬化物の接着強度とダイシェア強度が不十分となる。また、ケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有しない場合、(D)成分と反応しないため、硬化物の接着強度とダイシェア強度が不十分となる。
【0060】
(C)成分は、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を1個以上有することが好ましく、1分子中にケイ素原子に結合したエポキシ含有基を1個以上有することが好ましい。
【0061】
また、本発明では、前記(C)成分が、下記一般式(6)で表される有機ケイ素化合物であることが好ましい。下記一般式(6)で表される有機ケイ素化合物は、例えば、上記(B)成分で例示された上記一般式(4)で表される有機ケイ素化合物のケイ素原子に結合した水素原子の一部と、アリルグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン等のエポキシ含有基及びアルケニル基を有する化合物とをヒドロシリル化反応させることによって得られる。
【化18】
(式中、R10は上記式(5)で表される2価の基であり、R11は、それぞれ独立に水素原子又はエポキシ含有基であり、R11のうち1つ以上は水素原子であり、かつ、R11のうち1つ以上はエポキシ含有基である。uは0≦u≦10を満たす数である。)
【0062】
このような化合物であれば、(A)成分との相溶性が高まり、透明性が向上するほか、ダイボンダーによってLED基板にダイボンド材を塗布した際に各成分の分離を抑制することができる。
【0063】
(C)成分は一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0064】
(C)成分の配合量は、組成物中の付加反応性炭素-炭素二重結合1個に対して、(B)成分及び(C)成分中のケイ素原子結合水素原子の合計数が0.5~5.0個となる量が好ましく、より好ましくは0.7~3.0個の範囲内となる量である。かかる範囲を満たすと、得られる硬化物に高い強度を付与することができる。
【0065】
<(D)成分>
(D)成分は、下記一般式(2)で表されるエポキシ化合物であり、基材との接着性を向上させる成分である。(D)成分は、(C)成分中のエポキシ含有基と反応することにより(C)成分を介して樹脂に固定化され、これにより高い接着強度とダイシェア強度を有する硬化物を得ることができる。
【化19】
(式中、Rは、独立に水素原子又は炭素原子1~10のアルキル基であり、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、i、j、kは、0又は1であり、mは、0~5の整数であり、pは、1~5の整数である。)
【0066】
また、本発明では、前記(D)成分が、下記構造式(7)で表されるエポキシ化合物、下記構造式(8)で表されるエポキシ化合物、及び下記構造式(9)で表されるエポキシ化合物から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【化20】
【化21】
【化22】
【0067】
(D)成分は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0068】
(D)成分の配合量は、接着強度および相溶性の点から(A)~(C)成分の合計100質量部に対して好ましくは5~200質量部、より好ましくは10~100質量部である。
【0069】
<(E)成分>
(E)成分の白金族金属系触媒は、(A)成分中の付加反応性炭素-炭素二重結合と(B)成分および(C)成分のケイ素原子に結合した水素原子との付加反応を促進する成分であれば特に限定されず、その具体例としては、白金、パラジウム、ロジウム等の白金族金属;塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類、ビニルシロキサン又はアセチレン化合物との配位化合物等の白金系化合物;テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の白金族金属化合物が挙げられるが、好ましくは白金系化合物であり、特に好ましくは塩化白金酸とビニルシロキサンとの配位化合物である。
【0070】
(E)成分は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0071】
(E)成分の配合量は、触媒としての有効量でよいが、(A)成分、(B)成分、(C)成分の合計量に対して、白金族金属元素の質量換算で1~500ppmの範囲であることが好ましく、1~100ppmの範囲であることがより好ましい。かかる範囲を満たすと、付加反応の反応速度が適切なものとなり、高い強度を有する硬化物を得ることができる。
【0072】
本発明のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物は、(A)~(E)成分並びに必要に応じて(F)成分、(G)成分及びその他の成分を混合して調製することができる。
【0073】
<(F)成分>
本発明のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物には、硬化性を調整するために(F)成分として反応制御剤を添加しても良い。反応抑制剤としては、トリフェニルホスフィン等のリン含有化合物;トリブチルアミンやテトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の窒素含有化合物;硫黄含有化合物;アセチレン系化合物;ハイドロパーオキシ化合物;マレイン酸誘導体;1-エチニルシクロヘキサノール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、エチニルメチルデシルカルビノール、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン等の、上記(E)成分の白金族金属系触媒に対して硬化抑制効果を持つ公知の化合物が例示される。
【0074】
反応抑制剤による硬化抑制効果の度合いは、反応抑制剤の化学構造によって異なるため、反応抑制剤の配合量は、使用する反応抑制剤ごとに最適な量に調整することが望ましい。好ましくは、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計100質量部に対して0.001~5質量部である。配合量が0.001質量部以上であれば、室温での組成物の長期貯蔵安定性を十分に得ることができる。配合量が5質量部以下であれば、組成物の硬化が阻害されない。
【0075】
<(G)成分>
本発明のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物には、補強性を向上させるために、(G)成分として、例えば、微粉末シリカ、結晶性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン等の無機質充填剤、及びこれらの充填剤をオルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物により表面疎水化処理した充填剤;シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー等を配合してもよい。
【0076】
(G)成分としては、特にシリカ微粒子が好ましく、シリカ微粒子としては、例えば親水性のシリカ微粒子の表面に存在するシラノール基と表面改質剤を反応させることにより表面を疎水化したものを使用してもよい。表面改質剤としては、アルキルシラン類の化合物が挙げられ、具体例として、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、オクチルシラン、ジメチルシリコーンオイルなどが挙げられる。
【0077】
シリカ微粒子の好適な例としては、入手の容易性から、例えば煙霧状シリカ(フュームドシリカ)を挙げることができる。フュームドシリカは、HとOとの混合ガスを燃焼させた1,100~1,400℃の炎でSiClガスを酸化、加水分解させることにより作製される。フュームドシリカの一次粒子は、平均粒径が5~50nm程度の非晶質の二酸化ケイ素(SiO)を主成分とする球状の超微粒子であり、この一次粒子がそれぞれ凝集し、粒径が数百nmである二次粒子を形成する。フュームドシリカは、超微粒子であるとともに、急冷によって作製されるため、表面の構造が化学的に活性な状態となっている。
【0078】
具体的には、例えば日本アエロジル株式会社製「アエロジル」(登録商標)が挙げられ、親水性アエロジル(登録商標)の例としては、「90」、「130」、「150」、「200」、「300」、疎水性アエロジル(登録商標)の例としては、「R8200」、「R972」、「R972V」、「R972CF」、「R974」、「R202」、「R805」、「R812」、「R812S」、「RY200」、「RY200S」「RX200」が挙げられる。また、株式会社トクヤマ製の「レオロシール」(登録商標)としては「DM-10」、「DM-20」、「DM-30S」が挙げられる。
【0079】
(G)成分の配合量は、(A)、(B)、(C)及び(D)成分の合計100質量部に対して1~10質量部が好ましく、より好ましくは2~8質量部である。このような範囲であれば、チキソ性を有する適切な粘度の組成物となるため、ダイボンド材として用いた際に転写性が良好なものとなる。
【0080】
<その他の成分>
本発明のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物には、目的に応じて、酸化防止剤、接着性向上剤、酸・塩基発生剤などの成分を添加してもよい
【0081】
酸化防止剤としては、例えばヒンダードアミンやヒンダードフェノール系化合物が挙げられ、その構造に制限は無い。酸化防止剤の添加量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の合計量に対して100~10,000ppmの範囲とすることが好ましい。
【0082】
接着性向上剤としては、付加反応硬化型である本発明のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物に自己接着性を付与する観点から、接着性を付与する官能基を含有するシラン、シロキサン等の有機ケイ素化合物、非シリコーン系有機化合物等が用いられる。
【0083】
接着性を付与する官能基の具体例としては、ケイ素原子に結合したビニル基、アリル基等のアルケニル基又は水素原子;アクリロキシ基(例えば、γ-アクリロキシプロピル基等)、又はメタクリロキシ基(例えば、γ-メタクリロキシプロピル基等);アルコキシシリル基(例えば、エステル構造、ウレタン構造、エーテル構造を1~2個含有してもよいアルキレン基を介してケイ素原子に結合したトリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基等のアルコキシシリル基等)が挙げられる。
【0084】
接着性を付与する官能基を含有する有機ケイ素化合物としては、シランカップリング剤、アルコキシシリル基と有機官能性基を有するシロキサン、反応性有機基を有する有機化合物にアルコキシシリル基を導入した化合物等が例示される。
【0085】
また、非シリコーン系有機化合物としては、例えば、有機酸アリルエステル、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物等が挙げられる。
【0086】
本発明のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物は、エポキシ基の反応を促進するための酸又は塩基発生剤を添加してもよい。酸・塩基発生剤は熱又は光で活性化する添加剤であり、任意の量で添加することができる。
【0087】
酸・塩基発生剤としては、楠本化成株式会社製のK-PURE CXCシリーズ(オニウム塩タイプの熱酸発生剤)、サンアプロ株式会社製のU-CAT5002(熱塩基発生剤)やCPI-200K(光酸発生剤)等が挙げられる。
【0088】
[硬化物]
さらに、本発明では、硬化物であって、上記に記載のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物を硬化したものである硬化物を提供する。
【0089】
本発明のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物の硬化は、公知の条件で行えばよく、例えば、100~200℃において10分~5時間の条件で硬化させることが出来る。特に、組成物を硬化させて得られる硬化物のショアD硬度は60以上、とりわけ70以上であることが好ましく、前記ショアD硬度を60以上とするための硬化条件は、通常、本発明の組成物を150~200℃にて30分~5時間の条件で加熱し硬化させることにより得ることができる。
【0090】
本発明の上記ダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物の硬化物は、高温における接着性に優れたものであるため、特にLED素子等のダイボンディングに用いられるダイボンド材として有用である。
【0091】
[光半導体素子]
さらに、本発明では、光半導体素子であって、上記に記載の硬化物でダイボンディングされたものである光半導体素子を提供する。
【0092】
本発明の硬化物を用いて光半導体素子をダイボンディングする方法の一例としては、本発明の組成物をシリンジに充填し、ディスペンサを用いてパッケージ等の基体上に乾燥状態で5~100μmの厚さとなるように塗布した後、塗布した組成物上に光半導体素子(例えば、発光ダイオード)を配し、前記組成物を硬化させることにより、光半導体素子を基体上にダイボンディングする方法が挙げられる。またスキージ皿に組成物を載せ、スキージしながらスタンピングによる方法で基体上に乾燥状態で5~100μmの厚さとなるように塗布した後、塗布した組成物上に光半導体素子を配し、前記組成物を硬化させることにより、光半導体素子を基体上にダイボンディングする方法でも良い。組成物の硬化条件は、上述のとおりとすればよい。こうして信頼性の高い、本発明のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物の硬化物でダイボンディングされた光半導体素子とすることができる。
【実施例0093】
以下、実施例、比較例、合成例、及び比較合成例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0094】
[合成例1]
攪拌装置、冷却管、滴下ロートおよび温度計を備えた500mLの4つ口フラスコに、下記一般式(4)においてt=2で表される有機ケイ素化合物70.7g、トルエン75.6g、イソプロパノール24.3g及びアセトニトリル0.05gを加えて攪拌しているところに塩化白金酸のトルエン溶液(白金濃度:0.5質量%)0.037gを添加した。70℃まで加温した後、アリルグリシジルエーテル40.5gを滴下し、70℃で5時間反応させた。25℃まで冷却後、活性炭0.15gを加えて1時間攪拌し、濾過して1分子中にケイ素原子に結合した水素原子、及びケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有する有機ケイ素化合物(C-1)を得た。得られた目的物は5.1Pa・sの無色透明液体であり、下記一般式(6)において、u=2、R11の全数のうち75%が3-グリシジルオキシプロピル基、25%が水素原子で表される有機ケイ素化合物(SiH含有量0.00115モル/g)であった。
【化23】
(式中、R10は下記式(5)で表される2価の基であり、tは2である。)
【化24】
(式中、アスタリスク(*)は隣接するケイ素原子との結合を表す。)
【化25】
(式中、R10は上記式(5)で表される2価の基であり、R11は、上記の通りである。uは2である。)
【0095】
[合成例2]
合成例1において、アリルグリシジルエーテル40.5gを1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン(セロキサイド2000、(株)ダイセル製)37.2gへ変更した以外は合成例1と同じ方法にて有機ケイ素化合物(C-2)を合成した。得られた目的物は29Pa・sの無色透明液体であり、上記一般式(6)において、u=2、R11の全数のうち81%が2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、19%が水素原子で表される有機ケイ素化合物(SiH含有量0.00082モル/g)であった。
【0096】
[比較合成例1]
合成例1において、アリルグリシジルエーテル40.5gを、アリルグリシジルエーテル20.2gと1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン(セロキサイド2000、(株)ダイセル製)18.6gとの混合物へ変更した以外は合成例1と同じ方法にて有機ケイ素化合物(C-3)を合成した。得られた目的物は粘度13.4Pa・sの無色透明液体であり、上記一般式(6)において、u=2、R11の全数のうち50%が3-グリシジルオキシプロピル基、50%が2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基で表される有機ケイ素化合物(SiH含有量0モル/g)であった。
【0097】
[実施例1~4、比較例1~3]
表1に示す配合量で下記の各成分を混合し、ダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物を調製した。なお、(D-2)成分及び(D-3)成分は固体であるため、予め(D-1)成分と混合、溶解した後に使用した。表1における各成分の数値は質量部を表す。[Si-H]/[付加反応性炭素-炭素二重結合]の値は、(A)成分の付加反応性炭素-炭素二重結合1個に対する(B)成分中と(C)成分中のケイ素原子に結合した水素原子の個数の比を表す。
【0098】
(A)成分:下記一般式(3)においてs=1で表される化合物(付加反応性炭素-炭素二重結合:0.267mol/100g)
【化26】
(式中、sは1である。)
【0099】
(B)成分:下記一般式(4)においてt=2で表される有機ケイ素化合物(SiH含有量0.00756モル/g)
【化27】
(式中、R10は下記式(5)で表される2価の基であり、tは2である。)
【化28】
(式中、アスタリスク(*)は隣接するケイ素原子との結合を表す。)
【0100】
(C)成分
(C-1):合成例1で得られた有機ケイ素化合物
(C-2):合成例2で得られた有機ケイ素化合物
(C-3):比較合成例1で得られた有機ケイ素化合物
【0101】
(D)成分
(D-1):下記構造式(7)で表されるエポキシ化合物(THI-DE、ENEOS(株)製)
【化29】
(D-2):下記構造式(8)で表されるエポキシ化合物(DE-102、ENEOS(株)製)
【化30】
(D-3):下記構造式(9)で表されるエポキシ化合物(DE-103、ENEOS(株)製)
【化31】
【0102】
(E)成分:六塩化白金酸と1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサンとの反応生成物のトルエン溶液(白金濃度0.5質量%)
【0103】
(F)成分:1,6-ビス(t-ブチルペルオキシカルボニルオキシ)ヘキサン
(G)成分:フュームドシリカ(レオロシールDM-30S、(株)トクヤマ製)
【0104】
【表1】
【0105】
<測定方法>
実施例1~4、及び比較例1~3で得られたダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物からなる硬化物の物性を下記測定方法に従って測定した。得られた結果を表2に示す。
【0106】
[硬化物の硬さ]
組成物を型に流し込み、150℃で4時間加熱して硬化させた厚さ2mmの板状成型物の硬度をショアD硬度計によりJIS K 6253に準じて測定した。
【0107】
[接着強度]
図1に示すような接着試験用のテストピースを作製した。即ち、2枚のアルミニウム基板11、12(ケーディーエス社製、幅25mm×奥行50mm×厚み1mm)の端部が10mm重なるように、得られたダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物をテフロン(登録商標)製のスペーサーにより80μm厚で挟み込むようにして、150℃で4時間加熱することにより前記ダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物を硬化させ、ダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物の硬化物13により接着(接着面積25mm×5mm=125mm)された2枚のアルミニウム基板からなるテストピースを作製した。
【0108】
このテストピースのアルミニウム基板11、12のそれぞれの端部を反対方向(図1の矢印方向)に、引っ張り試験機(島津製作所製、オートグラフ)を用いて引張速度50mm/分で引っ張り、単位面積あたりの接着強度(MPa)を求めた。
【0109】
[ダイシェア強度]
ダイボンダー(ASM社製、AD-830)を用いて、SMD3020パッケージ(I-CHIUN PRECISION INDUSTRY Co.社製、ポリフタルアミド樹脂)の銀めっき電極部に各組成物をスタンピングにより転写し、その上に光半導体素子(SemiLED社製、素子サイズ10×10mil)を搭載して、200℃で1時間加熱した。硬化後、ボンドテスター(Dage社製、Series4000)を用いて、25℃及び150℃におけるダイシェア強度の測定を行った。
【0110】
【表2】
【0111】
上記の表2のように、本発明のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物を用いた実施例1~4では、何れも硬化物の硬度と25℃及び150℃におけるLED素子と基板のダイシェア強度に優れる硬化物を与える事が確認された。
【0112】
一方、本発明における(D)成分を含有しない比較例1では、接着強度及びダイシェア強度に劣り、さらに、本発明における(C)成分を含有しない比較例2、及び本発明における(C)成分を分子中にSi-H基を有しないものに変更した比較例3では、(D)成分が樹脂中に固定化されず、接着強度及びダイシェア強度が大きく劣るものとなった。
【0113】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]:ダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物であって、
(A)(a)下記一般式(1)で表されるケイ素原子に結合した水素原子を1分子中に2個有する化合物と、(b)付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有する多環式炭化水素との付加反応生成物であり、かつ、付加反応性炭素-炭素二重結合を1分子中に2個有する化合物、
【化32】
(式中、Rは、それぞれ独立に、アルケニル基を含まない置換若しくは非置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基、又は炭素原子数1~6のアルコキシ基であり、Rは、置換又は非置換の炭素原子数1~12の2価炭化水素基を表す。)
(B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有し、ケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有さない有機ケイ素化合物、
(C)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子、及びケイ素原子に結合したエポキシ含有基を有する有機ケイ素化合物、
(D)下記一般式(2)で表されるエポキシ化合物、及び
【化33】
(式中、Rは、独立に水素原子又は炭素原子1~10のアルキル基であり、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、R及びRは、独立に水素原子又は炭素数1~10のアルキル基であり、Rのうちの1つとRのうちの1つとが結合して-(CH-で表される基を形成していてもよく、i、j、kは、0又は1であり、mは、0~5の整数であり、pは、1~5の整数である。)
(E)白金族金属系触媒
を含有するものであることを特徴とするダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物。
[2]:前記(A)成分が、下記一般式(3)で表される化合物であることを特徴とする上記[1]のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物。
【化34】
(式中、sは0~50の整数を表す。)
[3]:前記(B)成分が、下記一般式(4)で表される有機ケイ素化合物であることを特徴とする上記[1]又は上記[2]のダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物。
【化35】
(式中、R10は下記式(5)で表される2価の基であり、tは0≦t≦10を満たす数である。)
【化36】
(式中、アスタリスク(*)は隣接するケイ素原子との結合を表す。)
[4]:前記(C)成分が、下記一般式(6)で表される有機ケイ素化合物であることを特徴とする上記[1]から上記[3]のいずれか1つのダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物。
【化37】
(式中、R10は下記式(5)で表される2価の基であり、R11は、それぞれ独立に水素原子又はエポキシ含有基であり、R11のうち1つ以上は水素原子であり、かつ、R11のうち1つ以上はエポキシ含有基である。uは0≦u≦10を満たす数である。)
【化38】
(式中、アスタリスク(*)は隣接するケイ素原子との結合を表す。)
[5]:前記(D)成分が、下記構造式(7)で表されるエポキシ化合物、下記構造式(8)で表されるエポキシ化合物、及び下記構造式(9)で表されるエポキシ化合物から選ばれる1種以上であることを特徴とする上記[1]から上記[4]のいずれか1つのダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物。
【化39】
【化40】
【化41】
[6]:硬化物であって、上記[1]から上記[5]のいずれか1つのダイボンディング用有機変性シリコーン樹脂組成物を硬化したものであることを特徴とする硬化物。
[7]:光半導体素子であって、上記[6]の硬化物でダイボンディングされたものであることを特徴とする光半導体素子。
【0114】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0115】
11…アルミニウム基板、 12…アルミニウム基板、 13…硬化物。
図1