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特開2025-13029物性予測装置、学習済みモデル、物性予測方法、及びプログラム
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  • 特開-物性予測装置、学習済みモデル、物性予測方法、及びプログラム 図1
  • 特開-物性予測装置、学習済みモデル、物性予測方法、及びプログラム 図2
  • 特開-物性予測装置、学習済みモデル、物性予測方法、及びプログラム 図3
  • 特開-物性予測装置、学習済みモデル、物性予測方法、及びプログラム 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025013029
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】物性予測装置、学習済みモデル、物性予測方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16C 60/00 20190101AFI20250117BHJP
   G16C 20/30 20190101ALI20250117BHJP
   G16C 20/70 20190101ALI20250117BHJP
【FI】
G16C60/00
G16C20/30
G16C20/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023116291
(22)【出願日】2023-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 蔵
(57)【要約】
【課題】フッ素樹脂層付積層体の物性の予測精度を高めること。
【解決手段】予測対象のフッ素樹脂層付積層体である予測対象積層体の生成の条件に関する情報である基礎情報を取得する基礎情報取得部と、学習対象のフッ素樹脂層付積層体である学習対象積層体の基礎情報と、前記学習対象積層体の物性を示す情報である物性情報との関係が学習された学習済みモデルに基づいて、予測対象のフッ素樹脂層付積層体である予測対象積層体の基礎情報から前記予測対象積層体の物性情報を予測する予測部と、を備える物性予測装置。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測対象のフッ素樹脂層付積層体である予測対象積層体の生成の条件に関する情報である基礎情報を取得する基礎情報取得部と、
学習対象のフッ素樹脂層付積層体である学習対象積層体の基礎情報と、前記学習対象積層体の物性を示す情報である物性情報との関係が学習された学習済みモデルに基づいて、予測対象のフッ素樹脂層付積層体である予測対象積層体の基礎情報から前記予測対象積層体の物性情報を予測する予測部と、
を備える物性予測装置。
【請求項2】
前記基礎情報は、前記フッ素樹脂層付積層体の生成に用いられる分散液に関する情報である分散液情報と、前記フッ素樹脂層付積層体の生成に用いられる基材に関する情報である基材情報と、を含む、
請求項1に記載の物性予測装置。
【請求項3】
前記分散液情報は、前記分散液に含まれるフッ素ポリマーに関する情報を含む、
請求項2に記載の物性予測装置。
【請求項4】
前記分散液に含まれるフッ素ポリマーは、テトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項2に記載の物性予測装置。
【請求項5】
前記物性情報は、前記予測対象積層体の誘電特性、剥離強度、表面粗度、色度、引張強伸度、CTE、熱膨張率のいずれか一つを含む、請求項1に記載の物性予測装置。
【請求項6】
前記学習済みモデルは、回帰分析、クラス分類、または、回帰分析またはクラス分類を複数組み合わせたアンサンブル学習に基づいて学習された学習済みモデルである、
請求項1に記載の物性予測装置。
【請求項7】
前記学習済みモデルは、ガウス過程回帰に基づいて学習された学習済みモデルである、 請求項1に記載の物性予測装置。
【請求項8】
フッ素樹脂層付積層体である学習対象積層体の基礎情報と、前記学習対象積層体の物性を示す情報である物性情報との関係が学習された、
学習済みモデル。
【請求項9】
予測対象のフッ素樹脂層付積層体である予測対象積層体の生成の条件に関する情報である基礎情報を取得し、
学習対象のフッ素樹脂層付積層体である学習対象積層体の基礎情報と、前記学習対象積層体の物性を示す情報である物性情報との関係が学習された学習済みモデルに基づいて、予測対象のフッ素樹脂層付積層体である予測対象積層体の基礎情報から前記予測対象積層体の物性情報を予測する、
物性予測方法。
【請求項10】
コンピュータに、
予測対象のフッ素樹脂層付積層体である予測対象積層体の生成の条件に関する情報である基礎情報を取得させ、
学習対象のフッ素樹脂層付積層体である学習対象積層体の基礎情報と、前記学習対象積層体の物性を示す情報である物性情報との関係が学習された学習済みモデルに基づいて、予測対象のフッ素樹脂層付積層体である予測対象積層体の基礎情報から前記予測対象積層体の物性情報を予測させる、
ためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物性予測装置、学習済みモデル、物性予測方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ポリマー分散液を基材にコーティングすることで得られるフッ素樹脂層付積層体の効率的探索のために機械学習を用いた物性予測が行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-79265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フッ素樹脂層付積層体の物性の予測精度が高くないことがあった。そのため、フッ素樹脂層付積層体の物性の予測精度を高めることが求められている。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、フッ素樹脂層付積層体の物性の予測精度を高めることができる物性予測装置、学習済みモデル、物性予測方法、及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の構成を備える。
[1]予測対象のフッ素樹脂層付積層体である予測対象積層体の生成の条件に関する情報である基礎情報を取得する基礎情報取得部と、学習対象のフッ素樹脂層付積層体である学習対象積層体の基礎情報と、前記学習対象積層体の物性を示す情報である物性情報との関係が学習された学習済みモデルに基づいて、予測対象のフッ素樹脂層付積層体である予測対象積層体の基礎情報から前記予測対象積層体の物性情報を予測する予測部と、を備える物性予測装置。
【0007】
[2]前記基礎情報は、前記フッ素樹脂層付積層体の生成に用いられる分散液に関する情報である分散液情報と、前記フッ素樹脂層付積層体の生成に用いられる基材に関する情報である基材情報と、を含む、[1]に記載の物性予測装置。
【0008】
[3]前記分散液情報は、前記分散液に含まれるフッ素ポリマーに関する情報を含む、[2]に記載の物性予測装置。
【0009】
[4]前記分散液に含まれるフッ素ポリマーは、テトラフルオロエチレン系ポリマーである、[2]に記載の物性予測装置。
【0010】
[5]前記物性情報は、前記予測対象積層体の誘電特性、剥離強度、表面粗度、色度、引張強伸度、CTE、熱膨張率のいずれか一つを含む、[1]に記載の物性予測装置。
[6]前記学習済みモデルは、回帰分析、クラス分類、または、回帰分析またはクラス分類を複数組み合わせたアンサンブル学習に基づいて学習された学習済みモデルである、[1]に記載の物性予測装置。
【0011】
[7]前記学習済みモデルは、ガウス過程回帰に基づいて学習された学習済みモデルである、[1]に記載の物性予測装置。
【0012】
[8]フッ素樹脂層付積層体である学習対象積層体の基礎情報と、前記学習対象積層体の物性を示す情報である物性情報との関係が学習された、学習済みモデル。
【0013】
[9]予測対象のフッ素樹脂層付積層体である予測対象積層体の生成の条件に関する情報である基礎情報を取得し、学習対象のフッ素樹脂層付積層体である学習対象積層体の基礎情報と、前記学習対象積層体の物性を示す情報である物性情報との関係が学習された学習済みモデルに基づいて、予測対象のフッ素樹脂層付積層体である予測対象積層体の基礎情報から前記予測対象積層体の物性情報を予測する、物性予測方法。
【0014】
[10]コンピュータに、予測対象のフッ素樹脂層付積層体である予測対象積層体の生成の条件に関する情報である基礎情報を取得させ、学習対象のフッ素樹脂層付積層体である学習対象積層体の基礎情報と、前記学習対象積層体の物性を示す情報である物性情報との関係が学習された学習済みモデルに基づいて、予測対象のフッ素樹脂層付積層体である予測対象積層体の基礎情報から前記予測対象積層体の物性情報を予測させる、ためのプログラム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フッ素樹脂層付積層体の物性の予測精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る物性予測システムの構成の一例を示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る物性予測装置の機能構成の一例を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る学習処理の一例を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る予測処理の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。図1は、本実施形態に係る物性予測システム1の構成の一例を示す図である。物性予測システム1は、物性予測装置2と、入力装置3と、表示装置4と、データサーバ5とを備える。
【0018】
物性予測装置2は、フッ素ポリマー分散液を基材にコーティングすることで得られるフッ素樹脂層付積層体について、当該フッ素樹脂層付積層体の生成に用いられる分散液に関する情報(以下「分散液情報」という。)と基材に関する情報(以下「基材情報」という。)とを説明変数として用いて、機械学習に基づいてフッ素樹脂層付積層体の物性を予測する。物性予測装置2は、一例として、パーソナルコンピュータ(Personal Computer:PC)等の情報処理装置である。
【0019】
入力装置3は、物性予測装置2に各種のデータを入力する。入力装置3は、例えば、キーボード、マウス、またはタッチパネルなどである。
【0020】
表示装置4は、物性予測装置2が処理に用いる各種のデータ、及び物性予測装置2による予測結果を表示する。表示装置4は、例えば、ディスプレイである。
【0021】
データサーバ5は、物性予測装置2が情報処理に用いる各種のデータを記憶する。データサーバ5は、物性予測装置2に当該各種のデータを供給する。各種のデータには、基礎物性情報データA1が含まれる。
【0022】
基礎物性情報データA1は、フッ素樹脂層付積層体の生成の条件に関する情報(以下「基礎情報」という。)と、基礎情報が示す条件の元で生成されたフッ素樹脂層付積層体の物性情報とが組にされたデータである。基礎情報は、例えば分散液情報及び基材情報を含む。
【0023】
分散液情報は、分散液に用いられるフッ素ポリマーに関する情報、使用される分散剤に関する情報、使用される分散媒に関する情報、等の情報の一部又は全てを含む。分散液に用いられるフッ素ポリマーに関する情報として、フッ素ポリマーの種別、フッ素ポリマーの粒径が含まれてもよい。フッ素ポリマーの種別の具体例として、テトラフルオロエチレン系ポリマーがある。テトラフルオロエチレン系ポリマーの種別の具体例として、PTFE(Poly Tetra Fluoro Etylene)、PFA(Perfluoroalkoxy alkane)、FEP(Fluorinated Ethylene Propylene)、ETFE(Ethylene Tetra Fluoro Ethylene)、などがある。
【0024】
より具体的には、国際公開第2022/050253号や国際公開第2019/230569号に記載されたテトラフルオロエチレン系ポリマー、特開2022-140517号公報に記載された含フッ素重合体、さらに具体的には国際公開第2021/039735号、国際公開第2016/017801号に記載されたPFAが挙げられる。フッ素ポリマーの好適な態様は、前記文献と同様である。フッ素ポリマーとしてはPFAが好ましく、酸素含有極性基を有することが好ましい。中でもカルボニル基含有基が好ましい。ただしPTFE等他のフッ素ポリマーでも適宜使用可能である。
【0025】
前記フッ素ポリマーに関する情報として、粒子径、形状、融点、熱分解温度、含水率などがある。分散剤に関する情報として、分散剤成分、曇点、熱分解温度、表面張力、主鎖構造、側鎖構造、溶解度パラメータなどがある。分散媒に関する情報として、分散媒の種別を示す情報がある。分散媒の種別の具体例として、例えば水、有機溶媒がある。分散媒の種別を示す情報として、有機溶媒の種別を示す情報が用いられてもよい。分散媒としては、国際公開第2022/050253号に記載された液状分散媒が挙げられる。
【0026】
その他、フッ素ポリマー、分散剤、分散媒以外の成分を含む場合は、フッ素ポリマー以外の有機成分、無機フィラーの情報が用いられていてもよい。前記の有機成分の代表例としてはアクリル系ポリマー、芳香族系ポリマー、脂環式ポリマー、緩衝材などがあり、前記の有機成分の情報として有機成分を構成する組成種、組成比、粒径、融点、溶解度、ガラス転移温度、熱分解温度などが用いられても良い。前記の無機成分の代表例としてはシリカ、窒化ホウ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、チタン酸バリウム、窒化ケイ素などがあり、前記の無機成分の情報として粒径、形状、表面処理成分などが用いられても良い。フッ素ポリマー以外の有機成分、無機フィラーとしては、国際公開第2022/050253号に記載された他の樹脂や無機フィラーが挙げられる。また、無機フィラーとしては、特開2022-140517号公報に記載された無機質フィラーも挙げられる。
【0027】
分散液の具体例としては、国際公開第2016/017801号に記載された各実施例に記載された分散液が挙げられるがこれらに限られない。
【0028】
基材情報は、基材の種別に関する情報、基材の特性に関する情報、等の情報の一部又は全部を含む。基材の種別として、例えば耐熱樹脂、金属箔がある。耐熱樹脂の具体例として、ポリイミド、液晶ポリエステル、PTFE、PEEK(Poly Ether Ether Ketone)、PPS(Poly Phenylene Sulfide)がある。ポリイミド基材としては国際公開2021/039735号に記載された芳香族ポリイミドが挙げられる。金属箔の具体例として、銅箔、銅合金箔、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、SUS箔、チタン箔、チタン合金箔、ニッケル箔、ニッケル合金箔などがある。金属箔としては、国際公開2019/230569号に記載されたものが挙げられ、中でも銅箔が好ましい。基材の特性を示す情報の具体例として、基材の表面粗さ、基材の弾性率、基材のCTE(Coefficient of Thermal Expansion:線膨張係数)、膜厚、収縮率、ガラス転移温度、硬化度、伸度、粘弾性特性、絶縁破壊強度、表面処理成分、吸水率などがある。
【0029】
基礎情報は、分散液の調合に関する情報を含んでもよい。調合に関する情報は、例えば攪拌に用いられる装置および付帯部品に関する情報、攪拌温度、攪拌時間、攪拌速度、分散媒温度、攪拌位置、濾過径、濾過フィルター種などを含んでもよい。攪拌に用いられる装置の具体例として、ディスパー、ビーズミル、プラネタリミキサー、自転公転式ミキサーなどがある。基礎情報は、重合に関する情報を含んでもよい。重合に関する情報の具体例として、分散液が懸濁なのか乳化なのかを示す情報がある。
【0030】
基礎情報は、分散液を用いて基材をコーティングする際の条件に関する情報を含んでもよい。このような情報の具体例として、基材に対し分散液を塗工する際の条件に関する情報として濾過フィルター種、濾過フィルター径、給液速度、塗工ギャップ、コータ種など、塗工された基材を乾燥させる際の条件に関する情報として塗工搬送速度、乾燥温度、給気条件、排気条件、炉長など、塗工された基材を焼成する際の条件に関する情報として焼成搬送速度、炉長、張力、焼成温度、雰囲気などがある。
【0031】
物性情報は、フッ素樹脂層付積層体の誘電特性、剥離強度、表面粗度、色度、引張強伸度、CTE、熱膨張率のいずれか一つ又は全部を含んでもよい。
【0032】
物性予測装置2とデータサーバ5とは、通信を行う。当該通信は、無線通信、または有線通信のいずれであってもよい。データサーバ5は、一例として、データベースである。
【0033】
[物性予測装置2の機能構成]
図2は、本実施形態に係る物性予測装置2の機能構成の一例を示す図である。物性予測装置2は、制御部20と、記憶部21とを含む。
【0034】
制御部20は、例えばCPU(Central Processing Unit)などを備えており、種々の演算や情報の授受を行う。制御部20は、基礎物性情報データ取得部200と、教師データ生成部201と、学習部202と、基礎情報取得部203と、予測部204と、出力部205とを備える。これらの機能部はそれぞれ、例えばCPUがROM(Read Only Memory)から読み込んだプログラムをRAM(Random Access Memory)に展開して、当該プログラムに従って処理を実行することにより実現される。当該ROM、当該RAMは、記憶部21に含まれる。
【0035】
基礎物性情報データ取得部200は、基礎物性情報データA1を取得する。本実施形態では、基礎物性情報データ取得部200は、データサーバ5から基礎物性情報データA1を取得する。
【0036】
教師データ生成部201は、基礎物性情報データA1から教師データB1を生成する。教師データ生成部201は、基礎物性情報データに含まれる情報に対していわゆる前処理を行うことによって、学習部202で用いられる教師データを生成する。教師データ生成部201は、例えば数値で表される基礎情報や物性情報に対して、対数変換やスケーリング等の処理を行ってもよい。教師データ生成部201がどのような情報に対してどのような前処理を行うかは予め定められていることが望ましい。ここで、本実施形態では、基礎物性情報データA1の数は、一例として、数千程度である。本実施形態において、数千程度とは、千以上万以下のいずれかの数である。なお、基礎物性情報データA1の数は、数千程度以下であってもよいし、数千程度以上であってもよい。
【0037】
教師データB1は、学習対象積層体についての基礎情報と、当該学習対象積層体についての物性情報とを含む。教師データB1では、当該基礎情報と当該物性情報とが対応づけられている。学習対象積層体とは、学習対象のフッ素樹脂層付積層体である。基礎情報(フッ素樹脂層付積層体の生成の条件に関する情報)は、機械学習における説明変数に相当する。物性情報は、機械学習における目的変数に相当する。
【0038】
ここで、学習対象のフッ素樹脂層付積層体は、フッ素ポリマー分散液を基材に対してコーティングすることで得られる。そのため、フッ素樹脂層付積層体に用いられる分散液及び基材に関する情報は、フッ素樹脂層付積層体の物性に対して少なからず影響を及ぼす。そのため、フッ素ポリマー分散液に関する情報(分散液情報)及び基材に関する情報(基材情報)は、フッ素樹脂層付積層体の物性情報に対して相関を有している。
【0039】
より具体的には以下の通りである。分散液情報のうち分散液に用いられるフッ素ポリマーに関する情報は積層体の物性情報に相関がある。その理由は、利用されるフッ素ポリマーが積層体の一部として作用するため、フッ素ポリマーの状態や特性が積層体の物性に影響を及ぼすためである。分散液情報のうち分散剤に関する情報は積層体の物性情報に相関がある。その理由は、利用される分散剤は、フッ素ポリマーがどのような状態で分散するかに影響を及ぼすためである。十分に分散していない状態の分散液が用いられると、積層体の物性に悪影響を及ぼす可能性がある。分散液情報のうち、分散媒に関する情報は積層体の物性情報に相関がある。その理由は、利用される分散媒は、フッ素ポリマーがどのような状態で分散するかに影響を及ぼすためである。十分に分散していない状態の分散液が用いられると、積層体の物性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0040】
基材情報のうち基材の種別に関する情報は積層体の物性情報に相関がある。その理由は、利用される基材が積層体の一部として作用するため、特に基材の種別が積層体の物性に影響を及ぼすためである。基材情報のうち基材の特性に関する情報は積層体の物性情報に相関がある。その理由は、利用される基材が積層体の一部として作用するため、特にその特性(例えば表面の特性等)が積層体の物性に影響を及ぼすためである。
【0041】
学習部202は、教師データB1を用いて機械学習を行うことによって学習済みモデルC1を生成する。ここで学習部202は、教師データB1に含まれる学習対象積層体についての基礎情報を説明変数として用いて、当該学習対象積層体についての物性情報は目的変数として用いて機械学習を行う。学習部202は、生成した学習済みモデルC1を記憶部21に記憶させる。学習済みモデルC1は、学習対象積層体について、基礎情報と、物性情報との関係が学習されたモデルである。学習対象積層体とは、学習対象のフッ素樹脂層付積層体である。
【0042】
学習部202が行う機械学習は、例えば、回帰分析、クラス分類、または、アンサンブル学習である。当該アンサンブル学習は、例えば、回帰分析またはクラス分類を複数組み合わせたアンサンブル学習である。それらの場合、学習済みモデルC1は、回帰分析、クラス分類、または、回帰分析またはクラス分類を複数組み合わせたアンサンブル学習に基づいて学習された学習済みモデルである。
【0043】
また、別の一例として、学習部202が行う機械学習は、ガウス過程回帰に基づく機械学習であってもよい。その場合、学習済みモデルC1は、ガウス過程回帰に基づいて学習された学習済みモデルである。
【0044】
なお、学習部202が行う機械学習は、深層学習などのニューラルネットワークを用いた機械学習など他の種類の機械学習であってもよい。ただし、深層学習では、回帰分析、クラス分類、回帰分析またはクラス分類を複数組み合わせたアンサンブル学習、またはガウス過程回帰に基づく機械学習などの機械学習に比べて多くの数の教師データを必要とするため、本実施形態のように数千程度の教師データB1に対しては、上述した機械学習が用いられることが好ましい。
【0045】
基礎情報取得部203は、予測対象積層体について基礎情報D1を取得する。予測対象積層体とは、物性の予測対象のフッ素樹脂層付積層体である。本実施形態では、基礎情報取得部203は、入力装置3から基礎情報D1を取得する。ここで入力装置3から基礎情報D1を取得するとは、ユーザによって入力装置3から入力される基礎情報D1を取得することや、所定の情報処理装置や記録媒体から基礎情報を示すデータを取得することをいう。
【0046】
予測部204は、取得された基礎情報に対し、教師データ生成部201が行う前処理と同様の前処理を実行する。予測部204は、学習済みモデルC1に基づいて、前処理が実行された基礎情報データD1から予測対象積層体について物性情報F1を予測する。ここで予測部204が予測する物性情報F1の種類と、学習部202が機械学習に用いる教師データB1に含まれる物性情報の種類とは同じである。
【0047】
出力部205は、予測部204によって予測された物性情報F1を出力する。出力部205は、例えば、表示装置4に当該物性情報を表示させる。出力部205は、データサーバ5などの外部サーバ、または記憶部21に当該物性情報を記憶させてもよい。
【0048】
記憶部21は、各種の情報を記憶する。記憶部21は、例えば、学習済みモデルC1を記憶する。なお、記憶部21は、基礎物性情報データ取得部200によって取得された基礎物性情報データA1、教師データ生成部201によって生成された教師データB1、基礎情報取得部203によって取得された基礎情報D1、及び予測部204によって前処理が実施された基礎情報D1をそれぞれ記憶する。記憶部21は、磁気ハードディスク装置、または半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。
【0049】
物性予測装置2が行う処理には、学習処理と、予測処理とが含まれる。ここで図3、及び図4を参照し、学習処理と、予測処理とについてそれぞれ説明する。
【0050】
[学習処理]
図3は、本実施形態に係る学習処理の一例を示す図である。学習処理は、学習済みモデルC1を生成するための処理であり、制御部20によって実行される。学習処理は、例えば、予測処理よりも前の時期に実行される。なお、予測処理が行われた予測対象積層体についての前処理済の基礎情報データD1と、物性情報F1とを組みにしたデータを新たな教師データとして用いて学習処理が行われてもよい。換言すれば、学習済みモデルC1は、物性情報F1の予測結果に基づいて更新されてもよい。
【0051】
ステップS10:基礎物性情報データ取得部200は、基礎物性情報データA1を取得する。
【0052】
ステップS20:教師データ生成部201は、基礎物性情報データ取得部200によって取得された基礎物性情報データA1から教師データB1を生成する。
【0053】
ステップS30:学習部202は、教師データ生成部201によって生成された教師データB1を用いて機械学習を行う。
【0054】
ステップS40:学習部202は、機械学習の結果、学習済みモデルC1を生成する。学習部202は、生成した学習済みモデルC1を記憶部21に記憶させる。
以上で、制御部20は、学習処理を終了する。
【0055】
[予測処理]
図4は、本実施形態に係る予測処理の一例を示す図である。予測処理は、予測対象積層体について物性情報F1を予測するための処理であり、制御部20によって実行される。
【0056】
ステップS110:基礎情報取得部203は、予測対象積層体について基礎情報D1を取得する。
【0057】
ステップS120:予測部204は、基礎情報取得部203によって取得された基礎情報D1に対して所定の前処理を実行する。
【0058】
ステップS130:予測部204は、学習済みモデルC1に基づいて、前処理が実行された基礎情報データD1から予測対象積層体について物性情報F1を予測する。学習済みモデルC1は、前処理が実行された基礎情報データD1が入力されると、物性情報F1を出力する。予測部204は、学習済みモデルC1に前処理が実行された基礎情報データD1を入力して物性情報F1を出力させることによって、物性情報F1を予測する。
【0059】
ステップS150:出力部205は、予測部204によって予測された物性情報F1を出力する。
以上で、制御部20は、予測処理を終了する。
【0060】
なお、本実施形態では、学習処理を行うための機能部が物性予測装置2に備えられる場合の一例について説明したが、これに限られない。学習処理を行うための機能部とは、基礎物性情報データ取得部200、教師データ生成部201、及び学習部202である。学習処理を行うための機能部は、物性予測装置2の構成から省略されてもよい。その場合、学習済みモデルC1は、物性予測装置2とは別体の情報処理装置である学習モデル生成装置によって予め生成される。当該学習モデル生成装置は、例えば、PC、またはサーバなどである。物性予測装置2は、予め生成された学習済みモデルC1を当該学習モデル生成装置から取得して、予測処理において用いる。
【0061】
また、本実施形態では、基礎物性情報データA1がデータサーバ5に記憶される場合の一例について説明したが、これに限られない。基礎物性情報データA1は、物性予測装置2に備えられる記憶部21に記憶されてもよい。その場合、物性予測システム1の構成からデータサーバ5は省略されてもよい。
【0062】
また、本実施形態では、物性予測装置2がPCである場合の一例について説明したが、これに限られない。物性予測装置2は、1以上のサーバから構成されてもよい。当該1以上のサーバは、クラウドサーバとしてインターネット上に構築されてもよい。物性予測装置2は、1以上のサーバから構成される場合、制御部20が備える各機能部、及び記憶部21は、当該1以上のサーバに分散されて備えられる。
【0063】
以上に説明したように、本実施形態に係る物性予測装置2は、予測部204を備える。
予測部204は、学習対象の積層体である学習対象積層体について、基礎情報と、当該積層体の物性を示す情報である物性情報との関係が学習された学習済みモデルC1に基づいて、基礎情報取得部203によって取得された基礎情報D1から予測対象積層体について物性情報F1を予測する。
この構成により、本実施形態に係る物性予測装置2は、フッ素樹脂層付積層体について、基礎情報D1から物性情報F1を学習済みモデルC1に基づいて予測できるため、フッ素樹脂層付積層体の物性の予測精度を高めることができる。
【0064】
また、本実施形態に係る物性予測装置2では、学習済みモデルC1は、回帰分析、クラス分類、または、回帰分析またはクラス分類を複数組み合わせたアンサンブル学習に基づいて学習された学習済みモデルであってもよい。
この構成により、本実施形態に係る物性予測装置2では、回帰分析、クラス分類、または、回帰分析またはクラス分類を複数組み合わせたアンサンブル学習では、深層学習などに比べて少ないデータ数しか必要としないため、深層学習などに比べて少ないデータ数で学習を行ってもフッ素樹脂層付積層体の物性の予測精度を高めることができる。
【0065】
また、本実施形態に係る物性予測装置2では、学習済みモデルC1は、ガウス過程回帰に基づいて学習された学習済みモデルであってもよい。
この構成により、本実施形態に係る物性予測装置2では、ガウス過程回帰では深層学習などに比べて少ないデータ数しか必要としないため、深層学習などに比べて少ないデータ数で学習を行ってもフッ素樹脂層付積層体の物性の予測精度を高めることができる。
【0066】
また、本実施形態に係る物性予測装置2では、物性情報には、誘電特性、剥離強度、表面粗度、色度、引張強伸度、CTE、熱膨張率のいずれか1以上が含まれてもよい。
この構成により、本実施形態に係る物性予測装置2では、フッ素樹脂層付積層体について、誘電特性、剥離強度、表面粗度、色度、引張強伸度、CTE、熱膨張率のいずれか1以上を学習済みモデルC1に基づいて予測できるため、誘電特性、剥離強度、表面粗度、色度、引張強伸度、CTE、熱膨張率のいずれか1以上の予測精度を高めることができる。
【0067】
なお、上述した実施形態における物性予測装置2の一部、例えば、基礎物性情報データ取得部200、教師データ生成部201、学習部202、基礎情報取得部203、予測部204、及び出力部205をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、物性予測装置2に内蔵されたコンピュータシステムであって、オペレーティングシステム(Operating system:OS)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
また、上述した実施形態における物性予測装置2の一部、または全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。物性予測装置2の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【0068】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等が可能である。
【符号の説明】
【0069】
2…物性予測装置、204…予測部、C1…学習済みモデル、F1…物性情報
図1
図2
図3
図4