(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025013137
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ガラス組成物、ガラスペースト、封着パッケージ、および被覆層付き基板
(51)【国際特許分類】
C03C 3/091 20060101AFI20250117BHJP
C03C 3/089 20060101ALI20250117BHJP
C03C 8/16 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C03C3/091
C03C3/089
C03C8/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037220
(22)【出願日】2024-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2023114421
(32)【優先日】2023-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】川浪 壮平
(72)【発明者】
【氏名】菱沼 章弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 日向子
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA09
4G062BB01
4G062DA06
4G062DA07
4G062DB01
4G062DB02
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4G062MM07
4G062MM10
4G062NN29
4G062NN32
4G062NN34
(57)【要約】
【課題】鉛を実質的に含有しなくても、850℃以下の焼結温度で被覆性やシール性が十分であり、耐酸性および耐アルカリ性に優れたガラスが得られ、かつ熱膨張係数が特定範囲内にある、ガラス組成物を提供すること。
【解決手段】Pbを実質的に含有せず、酸化物基準の質量%表示で、SiO2を66~75%、B2O3を5~11.5%、Li2Oを0.5~10%、Na2Oを0~10%、K2Oを0~10%、BaOを3.1~10%、Al2O3を0~4%、含有する、ガラス組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pbを実質的に含有せず、
酸化物基準の質量%表示で、
SiO2を66~75%、
B2O3を5~11.5%、
Li2Oを0.5~10%、
Na2Oを0~10%、
K2Oを0~10%、
BaOを3.1~10%、
Al2O3を0~4%、
含有する、ガラス組成物。
【請求項2】
Pbを実質的に含有せず、
酸化物基準の質量%表示で、
SiO2を67~74%、
B2O3を6~11.5%、
Li2Oを0.5~5%、
Na2Oを3~8%、
K2Oを3~8%、
BaOを3.2~8%、
Al2O3を1.5~4%、
含有する、ガラス組成物。
【請求項3】
Pbを実質的に含有せず、
酸化物基準の質量%表示で、
SiO2を67~72%、
B2O3を8~11.5%、
Li2Oを0.5~2%、
Na2Oを5~8%、
K2Oを3~6.5%、
BaOを3.3~7%、
Al2O3を2~4%、
含有する、ガラス組成物。
【請求項4】
BaO、Li2O、Na2O、K2O、Al2O3、およびSiO2の酸化物基準の質量%表示での含有量について、
(4BaO+3Li2O+2Na2O+K2O)/(Al2O3+SiO2)が0.41~0.70である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項5】
BaO、Li2O、Na2O、K2O、Al2O3、およびSiO2の酸化物基準の質量%表示での含有量について、
(4BaO+3Li2O+2Na2O+K2O)/(Al2O3+SiO2)が0.42~0.68である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項6】
BaO、Li2O、Na2O、K2O、Al2O3、およびSiO2の酸化物基準の質量%表示での含有量について、
(4BaO+3Li2O+2Na2O+K2O)/(Al2O3+SiO2)が0.45~0.64である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス組成物を含むガラスペースト。
【請求項8】
対向する第1の基板および第2の基板と、
前記第1の基板と第2の基板とを接着する封着層とを備える封着パッケージであって、
前記封着層が、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス組成物を含む封着パッケージ。
【請求項9】
基板と、
前記基板の少なくとも一方の主面を被覆する被覆層とを備える被覆層付き基板であって、
前記被覆層が、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス組成物を含む被覆層付き基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物、ガラスペースト、封着パッケージ、および被覆層付き基板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、医療、建設用などの様々な分野に使われている圧力センサーの素子として、アルミナ等のセラミックス基板が使用されている。ここで、素子上に形成された回路を被覆する材料や、部材同士を接着または封着する材料として、ガラスが使用されることが知られている。
【0003】
このような被覆用または接着・封着用ガラスには、従来、ガラスの安定性や生産性を高める観点から、鉛が配合されていた。たとえば特許文献1には、酸化物基準でPbOを70~80質量%含むシーリングガラス材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、環境負荷を低減する観点から、近年は鉛を含まないガラス材料が求められている。
【0006】
一方、被覆用または接着・封着用のガラス材料としては、適用する素子の耐熱性を考慮したガラス焼結温度、具体的には850℃以下でも、被覆性やシール性が担保できることが求められる。
また、素子の使用環境において信頼性を担保するために、得られるガラスの耐酸性や耐アルカリ性が十分であることが求められる。
さらに、素子の過酷な温度サイクル条件での使用を想定して、素子の基板の熱膨張性とガラスの熱膨張性とが近いことが求められる。両者の熱膨張性がかけ離れると、ガラスにクラックが入り素子の信頼性を損なうおそれがある。
【0007】
以上より、本発明は、鉛を実質的に含有しなくても、850℃以下の焼結温度でも被覆性やシール性が十分であり、耐酸性および耐アルカリ性に優れたガラスが得られ、かつ熱膨張係数が特定範囲内にある、ガラス組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、当該ガラス組成物を含有するガラスペースト、当該ガラス組成物を含有する封着層を有する封着パッケージ、当該ガラス組成物を含有する被覆層を有する被覆層付き基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ガラス組成が特定の範囲であるガラス組成物により上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
本発明は以下の構成のガラス組成物に関する。
Pbを実質的に含有せず、
酸化物基準の質量%表示で、
SiO2を66~75%、
B2O3を5~11.5%、
Li2Oを0.5~10%、
Na2Oを0~10%、
K2Oを0~10%、
BaOを3.1~10%、
Al2O3を0~4%、
含有する、ガラス組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガラス組成物によれば、鉛を実質的に含有しなくても、850℃以下の焼結温度で被覆性やシール性が十分であり、耐酸性および耐アルカリ性に優れ、熱膨張係数が特定範囲内にあるガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、封着パッケージの一実施形態を示す断面図である。
【
図2】
図2は、被覆層付き基板の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本明細書において、特に断りのない限り、ガラス組成物の各成分の含有量における「%」の表示は、酸化物基準、すなわち酸化物換算の質量%表示である。
本明細書において、数値範囲を表す「~」は、上下限を含む意味で使用される。
【0013】
<ガラス組成物>
本実施形態のガラス組成物は、Pb(鉛)を実質的に含有せず、酸化物基準の質量%表示で、SiO2を66~75%、B2O3を5~11.5%、Li2Oを0.5~10%、Na2Oを0~10%、K2Oを0~10%、BaOを3.1~10%、Al2O3を0~4%、含有する。
【0014】
従来のガラス組成物は、結晶化、相分離、未溶融といった現象を抑制し安定的にガラスを生産するために鉛(PbO)を含んでいた。
一方本実施形態のガラス組成物は、環境負荷低減の観点から、Pb(鉛)を実質的に含有しない。ここで実質的に含有しないとは、不可避的な不純物以外には含有しないという意味、即ち、意図的には添加されていないという意味である。したがって、本実施形態のガラス組成物は、不可避不純物としてのPbを微量含有し得る。本実施形態のガラス組成物におけるPbOの含有量は1000質量ppm以下が好ましく、500質量ppm以下がより好ましい。
本実施形態のガラス組成物によれば、特定のガラス組成を有することで鉛を含まずともガラスを安定的に生産できる。
【0015】
SiO2はガラス骨格を形成する成分である。
SiO2はガラスの結晶化を促進するが、多すぎると相分離や未溶融の発生が懸念され、また結晶の成長によりガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎることが懸念される。かかる観点から、ガラス組成物におけるSiO2含有量は75%以下、好ましくは74%以下、より好ましくは72%以下である。
また、SiO2が少ないほどガラスの焼結性が向上するが、ガラスの耐酸性や耐アルカリ性が低下したり、電極との反応性が高くなることが懸念される。かかる観点から、ガラス組成物におけるSiO2含有量は66%以上、好ましくは67%以上である。
【0016】
B2O3はガラス骨格を形成し、ガラス化範囲を広げる成分である。またSiO2と比べると骨格が弱く、ガラスの軟化点を低下させる成分である。
B2O3は多いほどガラスの焼結性が向上するが、ガラスの耐酸性や耐アルカリ性が低下したり、電極との反応性が高くなることが懸念される。かかる観点から、ガラス組成物におけるB2O3含有量は11.5%以下、好ましくは10.0%以下である。
また、B2O3が少ないほどガラスの結晶化を促進するが、少なすぎると相分離や未溶融の発生が懸念され、また結晶の成長によりガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎることが懸念される。かかる観点から、ガラス組成物におけるB2O3含有量は5%以上、好ましくは6%以上、より好ましくは8%以上である。
【0017】
Li2Oはガラス骨格を切断し、ガラスの軟化点を低下させる成分である。
また、アルカリ金属の中でも最もアルミナとの密着性に優れるため、ガラス組成物を適用する基板がアルミナ基板である場合、特に密着性を高めることができる。
Li2Oは多いほどガラスの焼結性が向上するが、ガラスの耐酸性や耐アルカリ性が低下したり、電極との反応性が高くなることが懸念される。また多すぎると相分離や未溶融の発生が懸念され、結晶の成長によりガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎることが懸念される。かかる観点から、ガラス組成物におけるLi2O含有量は10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは2%以下である。
また、アルミナとの密着性を高める観点から、ガラス組成物におけるLi2O含有量は0.5%以上、好ましくは1.0%以上である。
【0018】
Na2OおよびK2Oは、ガラス骨格を切断し、ガラスの軟化点を低下させる成分である。
またアルミナとの密着性に優れるため、ガラス組成物を適用する基板がアルミナ基板である場合、特に密着性を高めることができる。
Na2OおよびK2Oは多いほどガラスの焼結性が向上するが、ガラスの耐酸性や耐アルカリ性が低下したり、電極との反応性が高くなることが懸念される。また多すぎると相分離や未溶融の発生が懸念され、結晶の成長によりガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎることが懸念される。かかる観点から、ガラス組成物におけるNa2O含有量は10%以下、好ましくは8%以下である。ガラス組成物におけるK2O含有量は10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは6.5%以下である。
また、アルミナとの密着性を高める観点から、ガラス組成物におけるNa2O含有量は好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上であり、またK2O含有量は好ましくは3%以上である。
【0019】
BaOはガラスを安定化させ、比較的ガラスの軟化点を低下させる成分である。
BaOは多いほどガラスの焼結性が向上するが、ガラスの耐酸性や耐アルカリ性が低下したり、電極との反応性が高くなることが懸念される。また多すぎると相分離や未溶融の発生が懸念され、結晶の成長によりガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎることが懸念される。かかる観点から、ガラス組成物におけるBaO含有量は10%以下、好ましくは8%以下、より好ましくは7%以下である。
また、アルミナとの密着性、熱膨張係数の低下抑制、ガラスの安定性の観点から、ガラス組成物におけるBaO含有量は3.1%以上、好ましくは3.2%以上、より好ましくは3.3%以上である。
【0020】
Al2O3はガラス骨格を形成する成分である。
Al2O3は多すぎると相分離や未溶融の発生が懸念されるため、ガラス組成物におけるAl2O3含有量は4%以下、好ましくは3.5%以下である。
Al2O3は少ないほどガラスの焼結性が向上するが、少なすぎるとガラスの耐酸性や耐アルカリ性が低下したり、電極との反応性が高くなることが懸念される。かかる観点から、ガラス組成物におけるAl2O3含有量は好ましくは1.5%以上、より好ましくは2%以上である。
【0021】
上記の成分のうち、BaO、Li2O、Na2O、K2O、Al2O3、およびSiO2はガラス形成への寄与率が異なる。よって、本発明の課題である、焼結性、耐酸性、耐アルカリ性、基板材料のセラミックス(好ましくはアルミナ)との熱膨張係数の近似性、生産性に優れたガラスを得るために、上記成分の含有量のバランスを考慮した下記比率が特定範囲であることが好ましい。すなわち(4BaO+3Li2O+2Na2O+K2O)/(Al2O3+SiO2)が好ましくは0.41~0.70、より好ましくは0.42~0.68、特に好ましくは0.45~0.64である。かかる関係式ではガラス骨格を強固に形成する成分であるAl2O3とSiO2の含有量の和を分母としている。またガラスの軟化点を低下させる成分である、BaO、Li2O、Na2O、K2Oを分子とし、なかでもガラスの軟化点を低下させかつガラスを安定させやすいBaOは寄与率が大きいため係数が最も高く設定され、多すぎると相分離や未溶融を発生させ、結晶化を促進するがガラスの軟化点を低下させる成分であり寄与率が大きいLi2Oが次に高く設定されている。
【0022】
本実施形態に係るガラス組成物は、上記以外の成分を任意に含んでもよい。
CaO、SrOはガラスを安定化させる成分ではあるが、BaOを含有させるほうが好ましい。
CaO、SrOは多いほどガラスの焼結性が向上するが、ガラスの耐酸性や耐アルカリ性が低下したり、電極との反応性が高くなることが懸念される。また多すぎると相分離や未溶融の発生が懸念され、結晶の成長によりガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎることが懸念される。かかる観点から、ガラス組成物におけるCaO含有量およびSrO含有量は、それぞれ好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下であり、実質的に含まないことが特に好ましい。
【0023】
ZnOはガラスの軟化点を低下させる成分である。
ZnOは多いほどガラスの焼結性が向上するが、ガラスの耐酸性や耐アルカリ性が低下したり、電極との反応性が高くなることが懸念される。かかる観点から、ガラス組成物におけるZnO含有量は、好ましくは10%以下、より好ましくは0.5%以下であり、実質的に含まないことが特に好ましい。
【0024】
MgOは含有してもよいが、多すぎると結晶が析出しやすくなる。よってガラス組成物におけるMgO含有量は、好ましくは10%以下、より好ましくは0.5%以下であり、実質的に含まないことが特に好ましい。
【0025】
また本実施形態のガラス組成物は、ガラスを安定化させるために、Y2O3、La2O3、Ta2O5、SnO2、TiO2、Nb2O5、P2O5、CeO2、V2O5等をあわせて好ましくは10%以下、より好ましくは1%以下含有してもよい。
【0026】
本実施形態のガラス組成物は、他にも例えば、ガラスの軟化点を低下させるために、Cs2O、Rb2O等をあわせて好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下含有してもよい。
【0027】
Bi2O3は、軟化点を低下させる成分であるため、本実施形態のガラス組成物はBi2O3を含有してもよいが、実質的に含有しないことが特に好ましい。
Bi2O3の含有量は0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましい。
【0028】
本実施形態のガラス組成物は、F、Clといったハロゲンを実質的に含有しないことが好ましい。ハロゲンの含有量は合計で0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましい。
【0029】
本実施形態のガラス組成物は、ガラス転移点(以下、「Tg」で示す。)が、好ましくは510~570℃であり、より好ましくは515~565℃であり、特に好ましくは520~560℃である。Tgがかかる範囲であれば、焼結性が良好であり、また、ガラス組成物と電極との反応性を抑制でき好ましい。なお、ガラス組成物のTgは示差熱分析装置を用いて測定できる。
【0030】
本実施形態のガラス組成物は、ガラス軟化点(以下、「Ts」で示す。)が、好ましくは670~750℃であり、より好ましくは680~740℃であり、特に好ましくは685~720℃である。Tsがかかる範囲であれば、焼結性が良好であり、また、ガラス組成物と電極との反応性を抑制でき好ましい。なお、ガラス組成物のTsは示差熱分析装置を用いて測定できる。
【0031】
本実施形態のガラス組成物は、熱膨張係数が好ましくは62×10-7~78×10-7/℃、より好ましくは64×10-7~76×10-7/℃、特に好ましくは66×10-7~74×10-7/℃である。熱膨張係数がかかる範囲であれば、ガラス組成物が適用される素子の基板との熱膨張係数が近似し、基板の反りや、ガラスにおけるクラックの発生を抑制できる。熱膨張係数が近似しやすい観点から、素子の基板としてセラミックス基板を用いる場合が好ましく、アルミナ基板(熱膨張係数:66×10-7~74×10-7/℃)である場合が特に好ましい。ガラス組成物の熱膨張係数は、ガラス組成物の焼結体を焼結温度800℃で作製し、熱膨張計を用いて測定できる。また、ガラス組成物の熱膨張係数は、50~350℃における平均熱膨張係数を意味する。
【0032】
本実施形態のガラス組成物の製造方法は、特に限定されない。例えば、以下に示す方法で製造できる。
【0033】
まず、原料混合物を準備する。原料は、通常の酸化物系のガラスの製造に用いる原料であれば特に限定されず、酸化物や炭酸塩等を用いることができる。得られるガラス組成物の組成が上記の範囲となるように原料の種類および割合を適宜調整して原料混合物とする。
【0034】
次に、原料混合物を公知の方法で加熱して溶融物を得る。加熱溶融する温度(溶融温度)は、1450~1600℃が好ましく、1500℃以上がより好ましく、また、1570℃以下がより好ましい。加熱溶融する時間は、30~90分が好ましい。
【0035】
その後、溶融物を冷却し固化することにより、本実施形態のガラス組成物を得ることができる。冷却方法は特に限定されない。ロールアウトマシンやプレスマシンを使用してもよく、また、冷却液体への滴下等により急冷する方法をとることもできる。得られるガラス組成物は完全に非晶質であること、すなわち結晶化度が0%であることが好ましい。ただし、本発明の効果を損なわない範囲であれば、結晶化した部分を含んでいてもよい。
【0036】
こうして得られる本実施形態のガラス組成物は、いかなる形態であってもよい。例えば、ブロック状、板状、薄い板状(フレーク状)、粉末状等であってもよい。
【0037】
本実施形態のガラス組成物を被覆材料や封着材料として用いる場合には、ガラス組成物はガラス粉末であることが好ましい。なお、ガラス組成物の上記特性の評価をする際の形態についても、被覆材料や封着材料としての性能をみる観点から、ガラス粉末が好ましい。
【0038】
<ガラス粉末>
本実施形態のガラス粉末は、本実施形態のガラス組成物からなるガラス粉末である。なお、本実施形態のガラス組成物からなるガラス粉末とは、ガラス粉末の平均組成が本実施形態のガラス組成物の組成と同様であることを意味する。すなわち、本実施形態のガラス粉末は、本実施形態のガラス組成物と同様の組成である1種の組成のガラス粉末からなってもよく、また、組成の異なる複数種のガラス粉末を、平均組成が本実施形態のガラス組成物と同じ組成となるように混合したガラス粉末であってもよい。なお、以下便宜的にガラス粉末の内、組成の異なる複数種のガラス粉末からなるガラス粉末のことを「ガラス粉末混合物」という。
【0039】
本実施形態のガラス粉末の粒度は、用途に応じて適宜選択できる。
本実施形態のガラス粉末の用途が封着材料の場合、ガラス粉末の粒度は0.1~100μmが好ましい。
本実施形態のガラス粉末の用途が被覆材料の場合、ガラス粉末の粒度は0.1~10μmが好ましい。
また、本実施形態のガラス粉末の粒度が大きいと、ペースト化して塗布や乾燥した際に、沈降分離しやすく、更に、得られる封着層の厚みが増加するという問題もある。したがって、本実施形態のガラス粉末をペースト化して使用する場合は、ガラス粉末の粒度は用途が封着材料の場合は0.1~5.0μmの範囲にするのが好ましく、より好ましくは0.1~2.0μmである。また用途が被覆材料の場合はガラス粉末の粒度は0.1~3.0μmの範囲にするのが好ましく、より好ましくは0.1~2.0μmである。
【0040】
なお、本明細書においては、「粒度」は、累積粒度分布における体積基準の50%粒径(D50)を意味し、具体的には、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した粒径分布の累積粒度曲線において、その積算量が体積基準で50%を占めるときの粒径を意味する。
【0041】
また、ガラス粉末の最大粒子径(Dmax)は、ガラス組成物の用途が封着材料の場合は、封着層と被封着面との密着の観点から、封着層の厚みよりも小さいことが好ましい。具体的には1~30μmが好ましい。
ガラス組成物の用途が被覆材料の場合は、被覆層の平滑性の観点から、ガラス粉末の最大粒子径(Dmax)は被覆層の厚みと同程度であることが好ましい。具体的には1~8μmが好ましい。
【0042】
ガラス粉末は、例えば、ガラス組成物を粉砕して得られる。よって、ガラス粉末の粒度は、粉砕の条件により調整できる。粉砕の方法としては、回転ボールミル、振動ボールミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、媒体撹拌ミル(ビーズミル)、ジョークラッシャー、ロールクラッシャーなどが挙げられる。
【0043】
特に5.0μm以下といった細かい粒度にする場合は、湿式粉砕を用いるのがよい。湿式粉砕は水もしくはアルコールのような溶媒中でアルミナやジルコニアからなるメディアもしくはビーズミルを用いて粉砕するものである。
【0044】
ガラス粉末の粒度を調整するために、ガラス組成物の粉砕に加えて、必要に応じて篩等を用いて、分級を行ってもよい。
【0045】
なお、ガラス粉末混合物を構成する組成の異なるガラス粉末のそれぞれの組成は特に限定されず、平均組成が先述の本実施形態のガラス組成物と同様になるように適切な種類のガラス粉末を混合して本実施形態のガラス粉末混合物とすることができる。ガラス粉末混合物は、2種の組成の異なるガラス粉末からなってもよく、3種以上の組成の異なるガラス粉末からなってもよい。
また、ガラス粉末混合物を含むガラスペーストを製造する際には、ガラス粉末を混合してガラス粉末混合物としてからペースト化してもよいし、組成の異なるガラス粉末を含む複数種のペーストを混合してもよい。
【0046】
ガラス粉末は、例えば、被覆層の熱膨張係数や耐磨耗性等を調整するために、セラミックスフィラーを含有してもよい。セラミックスフィラーとしては、ジルコニア、ムライト、シリカ、コーディエライト、チタニア、酸化スズ等が挙げられ、これらを一種又は二種以上を含有してもよい。ガラス粉末におけるセラミックスフィラーの含有量は好ましくは30体積%以下である。
【0047】
<ガラスペースト>
上記の本実施形態のガラス粉末を封着材料または被覆材料として用いる場合は、ガラス粉末をそのままの形態で用いてもよいが、作業性を高める観点からは、ペースト化して用いることが好ましい。
本実施形態のガラスペーストは、本実施形態のガラス粉末と、有機ビヒクルと、を含有することが好ましい。
【0048】
有機ビヒクルとしては、例えば、溶剤にバインダ成分である樹脂を溶解したものが用いられる。
具体的には、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、オキシエチルセルロース、ベンジルセルロース、プロピルセルロース、ニトロセルロース等の樹脂を、ターピネオール、テキサノール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の溶剤に溶解したものを有機ビヒクルとして使用することができる。
また、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロオキシエチル(メタ)アクリレート等のアクリル系樹脂を、メチルエチルケトン、ターピネオール、テキサノール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の溶剤に溶解したものを有機ビヒクルとして使用することができる。なお、本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味する。
また、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート等のポリアルキレンカーボネートを、アセチルクエン酸トリエチル、プロピレングリコールジアセテート、コハク酸ジエチル、エチルカルビトールアセテート、トリアセチン、テキサノール、アジピン酸ジメチル、安息香酸エチル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルとトリエチレングリコールジメチルエーテルの混合物等の溶剤に溶解したものを有機ビヒクルとして使用することができる。
【0049】
有機ビヒクルにおける樹脂と溶剤の割合は、特に制限されないが、有機ビヒクルの粘度がガラスペーストの粘度を調整できる粘度となるように選択される。有機ビヒクルにおける樹脂と溶剤の割合は、具体的には、樹脂:溶剤で示す質量比が、3:97~30:70程度が好ましい。
【0050】
ガラスペーストにおけるガラス粉末と有機ビヒクルの割合は、求められるガラスペーストの粘度に応じて適宜調整される。具体的には、ガラス粉末:有機ビヒクルで示す質量比が、65:35~90:10程度が好ましい。ガラスペーストには、ガラス粉末と有機ビヒクル以外に必要に応じて、かつ、本発明の目的に反しない限度において公知の添加剤を配合することができる。
【0051】
ガラスペーストの調整は、攪拌翼を備えた回転式の混合機、ロールミル、ボールミル等を用いた公知の方法により行われる。
【0052】
<封着パッケージ>
本実施形態のガラス組成物が適用される封着パッケージについて説明する。
図1に示すように、本実施形態の封着パッケージ10は、対向する第1の基板11および第2の基板12と、第1の基板11と第2の基板12とを接着する封着層15とを備える。封着層15は、本実施形態のガラス組成物を含む。
【0053】
第1の基板11は、例えば、電子素子部13が主として設けられる素子基板である。第2の基板12は、例えば、封止に主として用いられる封止基板である。第1の基板11には、電子素子部13が設けられる。第1の基板11と第2の基板12とは互いに対向するように配置され、これらの間に枠状に配置された封着層15により接着されている。
【0054】
第1の基板11、第2の基板12には、熱膨張係数が60×10-7~90×10-7/℃程度のアルミナ質の基板が好ましく用いられる。本実施形態のガラス組成物を含む封着層との密着性が特に良好である観点から、アルミナ基板が好ましい。ここで、アルミナとはアルミナを主成分とするセラミックス材料のことを指し、ガラス質の焼結助剤やスピネルといった副結晶層、黒色顔料等を含有するものも含まれる。
【0055】
電子素子部13は、封着パッケージの用途に応じた素子を有し、例えば、金属抵抗素子、セラミック抵抗素子、ピエゾ抵抗素子を有する。
【0056】
本実施形態の封着パッケージの製造方法について説明する。
封着材料には上述した本実施形態のガラスペーストを用いる。ガラスペーストは、第2の基板12に枠状に塗布された後、乾燥されて塗布層となる。塗布方法として、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、ディスペンス法等が挙げられる。乾燥は、溶剤を除去するために実施され、通常は120℃以上の温度で10分以上行われる。塗布層に溶剤が残留すると、その後の仮焼成でバインダ成分が十分に除去されないおそれがある。
【0057】
塗布層には仮焼成が行われて仮焼成層とされる。仮焼成は、ガラス組成物のガラス転移点以下の温度に加熱してバインダ成分を除去した後、封着材料に含まれるガラス組成物の軟化点以上の温度に加熱することにより行われる。仮焼成温度は好ましくは750~850℃であり、より好ましくは750~800℃である。
次いで、仮焼成層が設けられた第2の基板と、電子素子部が設けられた第1の基板とを、仮焼成層と電子素子部とが対向するように配置して積層する。
その後、仮焼成層を焼成することで、封着層を形成する。仮焼成層の焼成は、たとえば、仮焼成層が設けられた第2の基板と電子素子部が設けられた第1の基板との積層体を電気炉等の焼成炉内に配置して全体を加熱することで実施する方法等が挙げられる。焼成温度は好ましくは750~850℃であり、より好ましくは750~800℃である。
本実施形態のガラス組成物によれば、仮焼成温度および焼成温度が好ましくは850℃以下、より好ましくは800℃以下の低温でも、密着性に優れた封着層を形成できるため、素子の劣化を抑制できる。
このようにして、第1の基板と第2の基板との間に封着層によって電子素子部が気密封止された封着パッケージが製造される。
【0058】
<被覆層付き基板>
本実施形態のガラス組成物が適用される被覆層付き基板について説明する。
図2に示すように、本実施形態の被覆層付き基板20は、基板21と、基板21の少なくとも一方の主面を被覆する被覆層22とを備える。被覆層22は、本実施形態のガラス組成物を含む。
基板21は、例えば、電極23が主として設けられる素子基板である。基板21の一方の主面には、電極23が設けられ、さらに電極23を被覆するように被覆層22が形成されている。
【0059】
基板21には、上述した本実施形態の封着パッケージにおける基板と同様に、熱膨張係数が60×10-7~90×10-7/℃程度のアルミナ質の基板が好ましく用いられる。本実施形態のガラス組成物を含む被覆層との密着性が特に良好である観点から、アルミナ基板が好ましい。
【0060】
電極23には、例えばAu等の金属が用いられる。
【0061】
本実施形態の被覆層付き基板の製造方法について説明する。
被覆材料には上述した本実施形態のガラスペーストを用いる。ガラスペーストは、基板21の被覆対象(電極23)に塗布された後、乾燥されて塗布層となる。塗布方法として、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、ディスペンス法等が挙げられる。乾燥は、溶剤を除去するために実施され、通常は120℃以上の温度で10分以上行われる。塗布層に溶剤が残留すると、その後の仮焼成でバインダ成分が十分に除去されないおそれがある。
【0062】
塗布層には仮焼成が行われて仮焼成層とされる。仮焼成は、ガラス組成物のガラス転移点以下の温度に加熱してバインダ成分を除去した後、被覆材料に含まれるガラス組成物の軟化点以上の温度に加熱することにより行われる。仮焼成温度は好ましくは750~850℃であり、より好ましくは750~800℃である。
その後、仮焼成層を焼成することで、被覆層を形成する。仮焼成層の焼成は、たとえば、仮焼成層が設けられた基板を電気炉等の焼成炉内に配置して全体を加熱することで実施する方法等が挙げられる。焼成温度は好ましくは750~850℃であり、より好ましくは750~800℃である。
本実施形態のガラス組成物によれば、仮焼成温度および焼成温度が好ましくは850℃以下、より好ましくは800℃以下の低温でも、密着性に優れた被覆層を形成できるため、電極の劣化を抑制できる。
このようにして、被覆層付き基板が製造される。
【0063】
以上より、本明細書は下記のガラス組成物等を開示する。
〔1〕Pbを実質的に含有せず、
酸化物基準の質量%表示で、
SiO2を66~75%、
B2O3を5~11.5%、
Li2Oを0.5~10%、
Na2Oを0~10%、
K2Oを0~10%、
BaOを3.1~10%、
Al2O3を0~4%、
含有する、ガラス組成物。
〔2〕Pbを実質的に含有せず、
酸化物基準の質量%表示で、
SiO2を67~74%、
B2O3を6~11.5%、
Li2Oを0.5~5%、
Na2Oを3~8%、
K2Oを3~8%、
BaOを3.2~8%、
Al2O3を1.5~4%、
含有する、ガラス組成物。
〔3〕Pbを実質的に含有せず、
酸化物基準の質量%表示で、
SiO2を67~72%、
B2O3を8~11.5%、
Li2Oを0.5~2%、
Na2Oを5~8%、
K2Oを3~6.5%、
BaOを3.3~7%、
Al2O3を2~4%、
含有する、ガラス組成物。
〔4〕BaO、Li2O、Na2O、K2O、Al2O3、およびSiO2の酸化物基準の質量%表示での含有量について、
(4BaO+3Li2O+2Na2O+K2O)/(Al2O3+SiO2)が0.41~0.70である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のガラス組成物。
〔5〕BaO、Li2O、Na2O、K2O、Al2O3、およびSiO2の酸化物基準の質量%表示での含有量について、
(4BaO+3Li2O+2Na2O+K2O)/(Al2O3+SiO2)が0.42~0.68である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のガラス組成物。
〔6〕BaO、Li2O、Na2O、K2O、Al2O3、およびSiO2の酸化物基準の質量%表示での含有量について、
(4BaO+3Li2O+2Na2O+K2O)/(Al2O3+SiO2)が0.45~0.64である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のガラス組成物。
〔7〕〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のガラス組成物を含むガラスペースト。
〔8〕対向する第1の基板および第2の基板と、
前記第1の基板と第2の基板とを接着する封着層とを備える封着パッケージであって、
前記封着層が、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のガラス組成物を含む封着パッケージ。
〔9〕基板と、
前記基板の少なくとも一方の主面を被覆する被覆層とを備える被覆層付き基板であって、
前記被覆層が、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のガラス組成物を含む被覆層付き基板。
【実施例0064】
以下、本発明について実施例を参照してさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0065】
<ガラス組成物(ガラス粉末)の製造>
まず表1に示すガラス組成になるようにガラス原料を調合して、均一に混合した。
次いで、混合したガラス原料を白金ルツボに入れて1530℃で2時間溶融した後、フィルム状に成形した。
続いて、得られたフィルム状のガラスをボールミルにて粉砕した後、封着用のガラス粉末と被覆用のガラス粉末を以下の条件でそれぞれ製造した。
封着用のガラス粉末としては、平均粒径D50が6.0μm以下、最大粒径Dmaxが40μm以下の各例のガラス組成物(ガラス粉末)を得た。
被覆用のガラス粉末としては、平均粒径D50が2μm以下、最大粒径Dmaxが6μm以下の各例のガラス組成物(ガラス粉末)を得た。
なお表1に示すガラス組成は、酸化物基準の質量%表示である。
【0066】
<ペースト化>
各例のガラス組成物と、ビヒクルを混合し、3本ロールミルにて混練して、ガラスペーストを得た。ビヒクルとしては、エチルセルロースを8質量%、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタジオールモノイソブチレートを72質量%、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを5質量%、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテルを15質量%含む組成物を用いた。
【0067】
<ガラス転移点(Tg)及び軟化点(Ts)の測定>
得られた各例のガラス粉末について、マクロ型示差熱分析計(DTA)によりガラス転移点(Tg)及び軟化点(Ts)を測定した。
結果を表1に示す。
なお、軟化点(Ts)は、マクロ型示差熱分析計(DTA)で測定した第四の変曲点の温度である。
【0068】
<密着性の評価>
得られた各例の封着用ガラスペーストを、アルミナ基板の一方の主面上に#165のスクリーンにてスクリーン印刷法で塗布し、120℃で30分間乾燥し、800~850℃のいずれかの温度で10分間仮焼成し、仮焼成層を得た。
上記の方法で仮焼成層付きアルミナ基板を2枚準備した。仮焼成層が対向するように2枚を貼り合わせて、下記の基準に基づき焼成することで封着層を形成し、密着性を評価した。なお、赤色の浸透液を2枚のアルミナ基板の間に浸透させて、封着エリアで色が変化していないことを確認できた場合に接着したと判断した。
A:焼成温度800℃以上825℃未満で製造し接着したもの
B:焼成温度825℃以上850℃未満で製造し接着したもの
C:いずれの焼成温度域でも接着しなかったもの
【0069】
<表面粗さの評価>
得られた各例のガラスペーストを、アルミナ基板の一方の主面上に#400のスクリーンにてスクリーン印刷法で塗布し、120℃で30分間乾燥し、800~850℃のいずれかの温度で10分間焼成し、被覆層を得た。
得られた被覆層の表面の最大高さRaを東京精密社製サーフコム1400Dで測定し、下記の基準に基づき表面粗さを評価した。
A:Raが0.15μm以下
B:Raが0.15μm超0.3μm以下
C:Raが0.3μm超
【0070】
<熱膨張係数の測定>
得られた各例のガラス粉末を加圧形成し、800℃で焼成し焼結体を得た。
焼結体を直径5mm、長さ20mmに加工して、熱膨張計(RIGAKU社製、Thermoplus2システムTMA8310)で50~350℃における熱膨張曲線(横軸:温度、縦軸:焼成体長さ)を昇温速度10℃/分の条件で測定し、平均線熱膨張係数α(単位:10-7/℃)を算出した。得られた結果を表中に示した。
【0071】
<耐酸性の評価>
得られた各例のガラス粉末を加圧形成し、800℃で焼成し焼結体を得た。
焼結体を直径5mm、長さ20mmに加工して、HCl(10%)水溶液に常温で1週間浸漬させて、下記の基準に基づき耐酸性を評価した。
A:重量減が0.2質量%未満
B:重量減が0.2質量%以上0.5質量%未満
【0072】
<耐アルカリ性の評価>
得られた各例のガラス粉末を加圧形成し、800℃で焼成し焼結体を得た。
焼結体を直径5mm、長さ20mmに加工して、NaOH(10%)水溶液に常温で1週間浸漬させて、下記の基準に基づき耐アルカリ性を評価した。
A:重量減が0.2質量%未満
B:重量減が0.2質量%以上0.5質量%未満
【0073】
<生産性の評価>
ガラスを作製する際に、分相や未融が見られたものをC(不合格)とした。なお、表中における分相とは相分離を意味し、未融とは未溶融を意味する。
【0074】
評価結果を下記表1に示す。
例1~13が実施例であり、例14~18が比較例である。
【0075】
【0076】
上記結果より、例1~13のガラス組成物は、鉛を実質的に含まずとも、850℃以下の焼結温度でも封着層としての密着性に優れ、また、ガラスの生産性も良好であった。また、熱膨張係数が62×10-7~78×10-7/℃の範囲内でありアルミナ基板の熱膨張係数との近似性に優れることが示された。さらに、十分な耐酸性および耐アルカリ性が示された。
一方、本発明の実施形態に係るガラス組成を満たさない例14~18のガラス組成物は、相分離や未溶融が発生し、ガラスの生産自体が困難であった。
本発明の実施形態に係るガラス組成物は、鉛を実質的に含有しなくても、電極や素子の被覆用ガラスまたは封着用ガラスに要求される諸特性を満足する。特に、焼結性、耐酸性、耐アルカリ性に優れ、さらに熱膨張係数の適合性の点でアルミナセラミックスの被覆用または封着用として好適である。